特許第6267960号(P6267960)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6267960
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】経頭蓋磁気刺激システム
(51)【国際特許分類】
   A61N 2/02 20060101AFI20180115BHJP
【FI】
   A61N2/02 Z
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-540815(P2013-540815)
(86)(22)【出願日】2012年10月24日
(86)【国際出願番号】JP2012077524
(87)【国際公開番号】WO2013062022
(87)【国際公開日】20130502
【審査請求日】2015年10月14日
(31)【優先権主張番号】特願2011-232883(P2011-232883)
(32)【優先日】2011年10月24日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503369495
【氏名又は名称】帝人ファーマ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 洋一
(72)【発明者】
【氏名】東城 賢司
(72)【発明者】
【氏名】朝比奈 厚
【審査官】 白川 敬寛
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/123147(WO,A1)
【文献】 独国特許出願公開第10242542(DE,A1)
【文献】 特表2011−513033(JP,A)
【文献】 特表2010−503439(JP,A)
【文献】 特表2007−526027(JP,A)
【文献】 特開2003−180649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 2/00− 2/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者頭部の特定部位に磁気刺激を加えるための磁場を発生させる磁場発生手段を有する経頭蓋磁気刺激システムにおいて、
前記磁場発生手段は、動磁場を発生する磁気コイルと、前記磁気コイルを保持するホルダを有し、
前記ホルダに取り付けられ、患者の耳のあらかじめ決められた部位を身体上の基準点として患者自身または介助者が認識するための認識手段を備えており、
前記認識手段は、前記ホルダの近傍に設けられた少なくとも1つの撮像装置を含んでおり、
前記基準点に対して前記撮像装置の光軸を一致させることにより、前記コイルを前記磁気刺激の効果が得られる最適な位置および姿勢に設置するようにしたことを特徴とする経頭蓋磁気刺激システム。
【請求項2】
前記あらかじめ決められた部位は耳珠である、請求項1に記載の経頭蓋磁気刺激システム。
【請求項3】
前記撮像装置の近傍に、指向性を有する光線を出射する光学装置をさらに配置し、
前記基準点に対して前記撮像装置の光軸と前記光学装置の光軸との交点を一致させることにより、前記コイルを前記磁気刺激の効果が得られる最適な位置および姿勢に保持する請求項1又は2に記載の経頭蓋磁気刺激システム。
【請求項4】
患者頭部の特定部位に磁気刺激を加えるための磁場を発生させる磁場発生手段を有する経頭蓋磁気刺激システムにおいて、
前記磁場発生手段は、動磁場を発生する磁気コイルと、前記磁気コイルを保持するホルダを有し、
前記経頭蓋磁気刺激システムは撮像装置を備えており、
前記撮像装置は、前記撮像装置の視準マークを患者の耳の基準点に一致させた状態で、前記磁気刺激の効果が得られる最適な位置および姿勢に前記磁気コイルが設置されるように、前記ホルダに取り付けられることを特徴とする経頭蓋磁気刺激システム。
【請求項5】
患者頭部の特定部位に磁気刺激を加えるための磁場を発生させる磁場発生手段を有する経頭蓋磁気刺激システムにおいて、
前記磁場発生手段は、動磁場を発生する磁気コイルと、前記磁気コイルを保持するホルダを有し、
前記経頭蓋磁気刺激システムは、撮像装置と、指向性の光線を出射する光学装置を備えており、
前記光学装置は、前記光学装置から出射された光線が患者の耳の基準点に照射された状態で、前記磁気刺激の効果が得られる最適な位置および姿勢に前記磁気コイルが設置されるように、前記ホルダに取り付けられており、
前記撮像装置は、前記基準点及び前記基準点に照射された前記光線の照射輝点を撮像するように、前記ホルダに取り付けられることを特徴とする経頭蓋磁気刺激システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者頭部の特定部位に磁気刺激を加えるための経頭蓋磁気刺激システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薬物治療が必ずしも有効でない数多くの神経疾患患者に対する治療法として、経頭蓋磁気刺激療法への関心が高まっている。この経頭蓋磁気刺激療法は、患者の頭皮表面に配置した磁場発生源により脳の特定部位(例えば、脳内神経)に磁気刺激を加えることにより、治療及び/又は症状の緩和を図ることができる比較的新しい治療法である。
【0003】
開頭手術が必要で患者の抵抗感が非常に強い留置電極を用いる従来の電気刺激法とは異なり、非侵襲的で患者への負担が少なくて済む治療法として普及が期待されている。
【0004】
経頭蓋磁気刺激療法の具体的な手法として、特許文献1には、患者の頭皮表面に設置したコイルに電流を流し、局所的に微小なパルス磁場を生じさせ、電磁誘導の原理を利用して頭蓋内に渦電流を起こすことにより、コイル直下の脳内神経に刺激を与えることが開示されている。
【0005】
特許文献1においては、上述の方法で施した経頭蓋磁気刺激治療により難治性の神経障害性疼痛が有効に軽減され、更に、より正確な局所刺激がより高い疼痛軽減効果を実現することが確認されている。但し、最適刺激部位は個々の患者によって微妙に異なることも明らかにされている。
【0006】
したがって、経頭蓋磁気刺激療法において、より高い効果を得るためには、個々の患者毎に、患者頭部の最適刺激部位を如何にして特定するか、すなわち患者頭部に対する刺激用コイルの正確な位置決めを如何にして行うかが重要である。なお、刺激用コイルの位置が同じでも、その方位(姿勢)によって得られる効果に差が生じることも知られている。
【0007】
刺激用コイルの位置決めを行う技術として、特許文献2、3には、例えば、赤外線を用いた光学式トラッキングシステムを利用して患者頭部に対する刺激用コイルの位置決めを行う構成が開示されている。これらの技術は、既に一部に市販され臨床応用されている。特許文献4には、多関節ロボットを用いて患者頭部に対する刺激用コイルの位置決めを行う装置が開示されている。
【0008】
一方、特許文献1においては、上述の経頭蓋磁気刺激治療を行うと、疼痛軽減効果は数時間程度持続するが、数日間或いはそれ以上持続するまでには至らないことが明らかにされている。したがって、あまり時間間隔を空けずに、できれば毎日、上述の療法を継続的に行うことが疼痛軽減の観点からは望ましい。このため、患者に過度の身体的、時間的等の様々な負担を強いることなく継続的な治療を行えるようにするには、在宅、或いは近所のかかりつけの医院等での治療を可能とすることが理想的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2007/123147号
【特許文献2】特開2003−180649号公報
【特許文献3】特開2004−000636号公報
【特許文献4】特開2006−320425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1〜特許文献4に開示されているコイル位置決め用の装置やシステム等を含む経頭蓋磁気刺激装置は何れも、熟練した専門医師等による検査や研究用に、比較的大規模な病院や研究機関で用いることを前提としているので、取り扱い及び操作が複雑で、使用するには熟練を要し、また、かなり大掛かりで高価なものとなる。このため、患者或いはその家族、又は必ずしも専門ではない近所のかかりつけの医師などが操作して治療にあたることは一般に難しく、また、患者個人の自宅や比較的小規模な医院や診療所等では、コスト負担が過大であるばかりでなく、設置スペースを確保することも一般に困難である。
【0011】
したがって、経頭蓋磁気刺激治療を受ける患者は、やはり、治療の度に大掛かりな磁気刺激装置が設置され熟練した専門医師等が居る大規模な病院まで通うか、若しくは入院せざるを得ず、継続反復して治療を受けるためには、様々な面で大きな負担が強いられるのが実情であった。
【0012】
したがって、本発明は、熟練を要することなく、簡単な取り扱いや操作で患者が自宅や近所のかかりつけの医療機関等で日常的に継続反復して経頭蓋磁気刺激療法を行えることができ、且つ、より小型で安価な経頭蓋磁気刺激システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の経頭蓋磁気刺激システムは、患者頭部の特定部位に磁気刺激を加えるための磁場を発生させる磁場発生手段を有する経頭蓋磁気刺激システムにおいて、前記磁場発生手段は、動磁場を発生する磁気コイルと、前記磁気コイルを保持するホルダを有し、前記ホルダに取り付けられ、患者の耳のあらかじめ決められた部位を身体上の基準点として患者自身または介助者が認識するための認識手段を備えており、前記認識手段は、前記ホルダの近傍に設けられた少なくとも1つの撮像装置を含んでおり、前記基準点に対して前記撮像装置の光軸を一致させることにより、前記コイルを前記磁気刺激の効果が得られる最適な位置および姿勢に設置するようにしたものである。
【0014】
この構成によると、患者の耳の特定部位を基準点として予め決定したマーキングに対して磁場発生手段を容易に位置決めできる。したがって、経頭蓋磁気刺激装置の使用者(ユーザ)は、従来のように特別な熟練を要することもなく、磁場発生手段の位置決めを行うことができる。
【0015】
前記あらかじめ決められた部位は耳珠であることが好ましい。
【0017】
指向性を有する光線を出射する光学装置を前記ホルダに取り付け、前記予め決められた部位に対して前記撮像装置の光軸と前記光学装置の光軸との交点を一致させることが好ましい。この形態によれば、磁気刺激の効果が得られる最適な位置及び姿勢に前記コイルを保持できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、熟練を要することなく、簡単な取り扱いや操作で患者が自宅や近所のかかりつけの医療機関等で日常的に継続反復して経頭蓋磁気刺激療法を行えることができ、且つ、より小型で安価な経頭蓋磁気刺激システムを提供できる。このような経頭蓋磁気刺激装置は、被験者或いはその家族、または、必ずしも専門ではない近所のかかりつけの医師または補助者等でも、比較的容易に操作して使用できる。また、従来のような大掛かりで高価な装置を用いる必要がないので、コスト負担が小さくて済み、しかも患者個人の自宅や比較的小規模な医院や診療所等でも設置スペースの確保が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る経頭蓋磁気刺激システムの全体構成を示した概略説明図である。
図2】患者の耳の耳珠をマーキングに利用する説明図である。
図3】実施の形態1に係る経頭蓋磁気刺激システムを示す斜視図である。
図4】実施の形態2に係る経頭蓋磁気刺激システムを示す斜視図である。
図5】実施の形態2の経頭蓋磁気刺激システムによる位置決めを説明する図である。
図6】実施の形態3に係る経頭蓋磁気刺激システムを示す斜視図である。
図7】実施の形態3に係る経頭蓋磁気刺激システムの認識部を説明する図である。
図8】実施の形態3に係る経頭蓋磁気刺激システムの認識部を説明する斜視図である。
図9】実施の形態4に係る経頭蓋磁気刺激システムの全体構成を示した概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態に係る経頭蓋磁気刺激システムについて、添付図面に従って説明する。以下の実施の形態では、主として脳神経外科、神経科等の医療分野で用いるのに好適な経頭蓋磁気刺激システムを説明するが、本発明は例えば、うつ病を有する患者を治療する心療内科、精神科等の医療分野にも同様に適用できる。
【0022】
なお、以下の説明では、方向や位置を表す用語(例えば、「上面」や「下面」等)を便宜上用いるが、これらは発明の理解を容易にするためであり、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が限定されるものではない。また、以下の説明は、本発明の一形態の例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0023】
本明細書において、「刺激用コイルの姿勢」とは、刺激用コイルの方向及び角度を意味し、「刺激用コイルの方向」とは、患者の頭皮表面に対するコイルの向きのことであり、「刺激用コイルの角度」とは、患者の頭皮表面の法線とコイルの磁場方向とがなす角度を意味する。
【0024】
図1に示すように、経頭蓋磁気刺激システム1(以下、単に「磁気刺激システム1」と称する。)は、大略、刺激用コイル2(磁場発生手段)、ケーブル4を介して電気的に刺激用コイル2と接続された磁気刺激制御装置6を備えてなり、治療用の椅子8に着座した患者Mの頭皮表面に配置した刺激用コイル2により脳内神経に所定強度の磁気刺激を加えることにより、治療及び/又は症状の緩和を図るものである。
【0025】
図示するように、コイル2を有するコイルホルダ10は、ホルダ固定具11(姿勢保持手段)の先端部に固定されている。ホルダ固定具11は、柱11aとベース11bからなり、柱11aの一部(ホルダ固定具11の先端部近傍)が金属製のフレキシブルチューブ11cで形成されている。したがって、コイル2は、コイルホルダ10を患者Mの頭皮表面の所定位置に移動するだけで、最適コイル位置に固定できる。なお、患者Mの頭皮表面に刺激用コイル2を位置決めする方法は後に詳細に説明する。
【0026】
刺激用コイル2は、患者Mの少なくとも脳の特定部位に磁気刺激を加えるための動磁場を発生するものである。刺激用コイル2としては、種々のタイプの公知の磁気コイルを使用できる。本実施の形態の刺激用コイル2は、例えば、図3に示すように、2つの渦巻き形コイルを同一平面上で数字の「8」の字型に並べた、所謂8の字型渦巻きコイルである。この形態のコイルは2つのコイルに同方向(例えば、矢印で示す方向)に電流を流すことで、これらのコイルが重なった部分の直下で最大の誘導電流密度を得ることができる。この形態の刺激用コイル(磁気コイル)2は、その姿勢の特定を含めて固定がやや難しいが、限局した刺激をもたらすのに好適である。
【0027】
図1図3も参照。)に示すように、刺激用コイル2は、長円状のコイルホルダ10に組み込まれている。具体的に、刺激用コイル2は、非磁性材料の合成樹脂製のコイルホルダ10の成形時に該コイルホルダ10と共に一体成形される。好ましくは、図示しないコイルホルダ10の下面(つまり患者Mの頭皮表面20と対向する面)は、患者Mの頭部形状に応じた凹状曲面に形成されている。これにより、コイルホルダ10を患者Mの頭部表面20に沿ってスムーズに移動させることができる。なお、コイルホルダ10の平面形状は長円型や小判型を含む楕円状、又は卵型であってもよい。
【0028】
磁気刺激制御装置6は、刺激用コイル2への電流パルスの供給を制御するものである。磁気刺激制御装置6としては、従来公知の種々の形態を用いることができる。磁気刺激制御装置6のオン/オフ(ON/OFF)操作は操作者によって行われる。また、磁気刺激の強度やサイクルを決定付ける電流パルスの強度やパルス波形の設定等も、操作者によって行うことができる。
【0029】
患者の頭皮表面上に配置したコイルから直下の脳内神経に正確に局所刺激を与えることにより、より高い疼痛軽減効果が得られることは[背景技術]で述べたとおりである。このため、医療機関では、患者の初期診療時に専用の位置決め装置(例えば、上述したコイルホルダ10と同一のコイルホルダを含む。)を用いて、患者の神経障害性疼痛が最も軽減できるコイル2の最適コイル位置及び姿勢を決定している。そして、次回の治療から最適コイル位置及び姿勢が再現できるように、患者の身体の一部であって、動きの少ない特定部位を基準点(マーキング)として利用される。
【0030】
このマーキングが形成される位置は、コイルホルダ10を位置決めした状態でマーキングを直接的又は間接的に視認できるように、上記最適コイル位置から離れた位置であることが好ましい。また、マーキングの数は一つ以上であればよく、位置決めの正確さを考慮すると、複数設定することが好ましい。
【0031】
このマーキングとしては、例えば、図2に示すように患者Mの耳22の耳珠24が最も好適に利用できるが、耳垂(耳たぶ)の他、耳垂の上方の対耳珠も利用できる。
【0032】
患者の耳珠を利用したマーキングを好適に検出し、該マーキングに対して容易に位置決めが可能な磁気刺激システム1の形態を以下に説明する。
【0033】
実施の形態1.
図3は、患者Mの耳珠24に対して位置決め可能に構成されたコイルホルダ10aを示す図である。図示するように、コイルホルダ10aの長軸(2つのコイルの中心を結ぶ線に平行な方向)側の両端縁部には、金属棒からなる一対のアーム部材126a,126bが取り付けられている。アーム部材126a,126bは、コイルホルダ10aの両端部から外方に伸び、そこから直線的に複数回折り曲げられて略コの字状に形成されている。アーム部材126a(126b)の先端部147a(147b)には、超小型のカメラ150a(150b)がその光軸をコイルホルダ10cの上面及び下面に対してほぼ水平に向けて取り付けられている。なお、上述のように、医療機関において患者の初期診療時にコイルホルダ10aと同一のコイルホルダを用いて患者に対する最適コイル位置が決定され、その最適コイル位置にコイルを設置したときの耳珠24と対向する位置にカメラ150a(150b)が配置される。カメラ150a(150b)は、通信ケーブル149を介してディスプレイ52に接続されており、カメラ150a(150b)から出力された映像信号に基づいて、カメラ150a(150b)で撮影された画像がディスプレイ52に表示されるように構成されている。
【0034】
本実施の形態の磁気刺激システム1aを使用する場合、カメラ150a(150b)の視準マーク(図示せず)耳珠24一致するように、患者自身または介助者がディスプレイ52の表示を確認しながら位置合わせ行なう。そして、カメラ150a(150b)の視準マークに耳珠24が一致した状態で、コイルホルダ10aは最適コイル位置に設置される。このように、本実施の形態によれば、耳珠24とカメラ150a(150b)の視差を利用して、患者Mに対する最適コイル位置までの距離を患者自身または介助者がディスプレイ52で表示を確認しながらコイルホルダ10aを位置合わせするので、コイルホルダ10aを精度良く位置決めできる。また、マーキングとして、患者Mの身体に模様を付したり物を取り付ける必要がないので、患者Mへの負担が少ない。なお、実施の形態1において、視準マークは例えば、十字線のほか、例えば、円形又は四角形の模様であってもよい。視準マークが十字線の場合は、水平線と垂直線の交点がカメラ150a(150b)の光軸に一致させる。視準マークが円形又は四角形の場合は、中心をカメラ150a(150b)の光軸に一致させればよい。これらの点は、以下に説明する他の形態でも同様である。
【0035】
実施の形態2.
図4は実施の形態2の磁気刺激システム1bを示す。実施の形態2において、コイルホルダ10aの長軸(2つのコイルの中心を結ぶ線に平行な方向)側の両端縁部には、金属棒からなる一対のアーム部材126a,126bが取り付けられている。アーム部材126a,126bは、コイルホルダ10aの両端部から外方に伸び、そこから直線的に複数回折り曲げられて略コの字状に形成されている。アーム部材126a(126b)の先端部147a(147b)には、超小型のカメラ150a(150b)がその光軸をコイルホルダ10bの上面及び下面に対してほぼ水平に向けて取り付けられている。コの字状のアーム部材126a(126b)の鉛直部分には、光学装置の一例であるレーザポインタ160a(160b)がその光軸をコイルホルダ10bの上面及び下面に対して所定角度傾斜させて固定部材130により固定されている。
【0036】
実施の形態1と同様に、カメラ150a(150b)は、通信ケーブル149を介してディスプレイ52に接続されており、カメラ150a(150b)から出力された映像信号に基づいて、カメラ150a(150b)で撮影された画像がディスプレイ52に表示されるように構成されている。
【0037】
磁気刺激システム1bを使用する際、コイルホルダ10bを適正コイル位置の近傍に設置した状態で、耳珠24にレーザポインタ160a(160b)の照射輝点161が一致するように、カメラ150a(150b)の映像を患者自身または介助者がディスプレイ52の表示を見ながら、コイルホルダ10bを位置合わせする。例えば、図5(a)、及び図5(b)に示すように、コイルホルダ10bが適正コイル位置から離間または近接した状態の場合、レーザポインタ160a(160b)の照射輝点161が耳珠24から下側または上側にずれている。この状態から、カメラ150a(150b)の映像を患者自身または介助者がディスプレイ52の表示を見ながら、レーザポインタ160a(160b)の照射輝点161と耳珠24が一致する位置(図5(c)参照。)まで、コイルホルダ10bを患者Mの頭部表面20に接近または頭部表面20から離間させる。そして、レーザポインタ160a(160b)の照射輝点161と耳珠24が一致した状態で、コイルホルダ10bは最適コイル位置に設置される。このように、実施の形態2によれば、カメラ150a(150b)及びレーザポインタ160a(160b)と、耳珠24との視差を利用して、患者自身または介助者がディスプレイ52の表示を見ながらコイルホルダ10bを精度良く位置合わせできる。
【0038】
なお、本実施の形態では、光学装置の一例としてレーザポインタ160a(160b)を用いているが、指向性を有する光線を出射するものであればよい。例えば、LED(Light Emitting Diode)ポインタ以外に、拡散光を出射する光源の前方に集光レンズを配置することにより指向性のある光を出射できる光学装置も利用可能である。
【0039】
実施の形態3.
実施の形態3の磁気刺激システム1cを図6に示す。この磁気刺激システム1cは、患者Mの頭部表面20(例えば、図2参照。)の外形に似せた内面形状を有するヘルメット64を有する。ヘルメット64は、非磁性の合成樹脂材料で形成することが好ましい。ヘルメット64には、刺激用コイル(図示せず)を有するコイルホルダ10cが組み付けられている。ヘルメット64に対するコイルホルダ10cの位置は、患者Mがヘルメット64を装着した状態でコイルホルダ10cが当該患者に対する最適コイル位置またはその近傍位置を取るように、決められている。
【0040】
磁気刺激システム1cはヘルメット64を囲む水平フレーム65を有する。水平フレーム65は、ヘルメット64の前後左右に配置されたフレーム部分651,652,653,654を有する。実施の形態では、前後のフレーム部分651、652が固定部材641,642を介してヘルメット64に固定されている。前後のフレーム部分651、652と同様に、またはこれら前後のフレーム部分651、652に加えて、左右のフレーム部分653,654をヘルメット64に固定してもよい。
【0041】
左右のフレーム部分653,654はそれぞれ、マーキング認識手段の認識部90を支持している。マーキング認識部90は、図8に示す箱形のハウジング160を有し、該ハウジング160に、例えば患者Mの耳珠24を視覚化するためのカメラ143と、カメラ143とマーキングとの距離を適正に設定するためにカメラの光軸と斜めに交差する光線を出射する光源のレーザポインタ150を収容している。このように構成されたハウジング160は、カメラ143とレーザポインタ150を露出させた開口を患者に向けた状態で、調節機構66に支持されている。
【0042】
調節機構66は固定部材67を介して水平フレーム65に固定されている。図示する実施例において、調節機構66は、前後の鉛直フレーム部分660a,660bと上下の水平フレーム部分660c,660dからなる四角形の枠体660を有する。鉛直フレーム部分660a,660b及び水平フレーム部分660c,660dには、垂直方向及び前後方向に伸びるガイドスロット661,662、663,664が形成されている。ガイドスロット661,662、663,664には、スライドブロック665,681、666,683がガイドスロット661,662、663,664に沿って移動できるように嵌め込まれている。図7は、調節機構66の部分拡大図を示し、そこに示されているように、スライドブロック665は本体部680aと嵌め込み部680bを有する。図7(b)に示すように、本体部680aはガイドスロットの横幅よりも大きく、嵌め込み部680bはガイドスロットの横幅とほぼ等しくしてあり、嵌め込み部680bをガイドスロット661に嵌め込んだ状態で、スライドブロック665がガイドスロット661の長手方向に移動できるようにしてある。対向する右側の鉛直フレーム部分660bに対応するスライドブロック681も同様に、本体部681aと嵌め込み部681bを有し、嵌め込み部681bはガイドスロット662の横幅とほぼ等しくしてあり、嵌め込み部681bをガイドスロット662に嵌め込んだ状態で、スライドブロック681がガイドスロット662の長手方向に移動できるようにしてある。詳細な説明は省略するが、上下フレーム部分660c,660dに対応するスライドブロック682,683も同様の構成を有し、それぞれの嵌め込み部を対応するガイドスロットに嵌め込んだ状態で、スライドブロックがガイドスロットの長手方向に移動できるようにしてある。
【0043】
前後スライドブロック665,681の中央には、両ブロック665,681が対向する方向に貫通孔6650,6810が形成されており、そこに円柱状のねじ軸684が回転可能に挿通されている。ねじ軸684の一端(例えば、前部のスライドブロック665から突出した部分)にはつまみ667が固定されており、ねじ軸684の他端(例えば、後部のスライドブロック681から突出した部分)の外周には環状溝6840が形成されて、そこにCリング6841が嵌め込まれている。上下フレーム部分660c,660dに対応するスライドブロック682,683も同様の構成を有し、ねじ軸685の一端(例えば、上部のスライドブロックから突出した部分)にはつまみが固定されており、ねじ軸685他端(例えば、下部のスライドブロックから突出した部分)の外周には環状溝が形成されて、そこにCリングが嵌め込まれている。これにより、前後一対のスライドブロック665,681及び上下の一対のスライドブロック666,683は対応するガイドスロットにガイドされながら上下及び前後に移動できるようになっている。
【0044】
各シャフト684,685は、その中央部分が認識部90のハウジング160を貫通している。また、各シャフト684,685の少なくとも中央部分には外ねじ684a,685aが形成されている。一方、シャフト684,685が貫通するハウジング160の4つの壁1600,1601,1602,1603のそれぞれには、内ねじを有するねじ部材690a,690b,691a,691bが固定されている。そして、水平方向に向けられたシャフト684の外ねじ684aがハウジング160の前壁1600と後壁1601に設けたねじ部材690a,690bの内ねじに螺合し、鉛直方向に向けられたシャフト685の外ねじ685aがハウジング160の上壁1602と下壁1603に設けた内ねじ691a,691bに螺合している。
【0045】
このような構成を備えた磁気刺激システム1cによれば、前後方向に伸びるシャフト684のつまみ667を回転すれば認識部90を前後に移動し、また、上下方向に伸びるシャフト685のつまみ668を回転して認識部90を上下に移動することで、認識部90のカメラ143とレーザポインタ150を上下と前後に移動できる。したがって、この磁気刺激システム1cを使用するにあたっては、先ずヘルメット64を装着した患者Mに対してコイルホルダ10cを移動して患者M及びヘルメット64に対する最適コイル位置を決定する。最適コイル位置が決定すると、コイルホルダ10cをヘルメット64に固定する。次に、この状態でダイヤル667,668を操作して認識部90を移動し、レーザポインタ150の光軸を患者Mに設けたターゲット、例えば患者Mの耳珠24にレーザポインタ150の照射輝点161が一致するように、カメラ143の映像を患者自身または介助者がディスプレイ(図示せず)の表示を見ながら位置合わせを行なう。
【0046】
このようにして、最適コイル位置に対応するカメラ143とレーザポインタ150の位置が決定されると、後にヘルメット64を装着したときにレーザポインタ150の光軸をターゲットに合わせるだけで、コイルホルダ10cを簡単に最適コイル位置に設定できる。なお、図7(a)に示すように、つまみ667の周囲に目盛6670を設けるとともに、つまみ667近傍のスライドブロック665に基準点6671を設けておくことで、最適コイル位置に対応したつまみ位置を正確に再現できる。本実施の形態では、患者Mの頭部の患者Mの頭部の前後方向と上下方向に認識部90を移動させているが、これに限らず、患者Mの頭部の前後方向に関して認識部90を回転させ、上下方向に関して当該認識部90を回転させるものであってもよい。また、カメラ143とレーザポインタ150の位置を個別に調節する機構を有していてもよい。
【0047】
実施の形態1〜3で説明した磁気刺激システムは、介助者又は患者M自身がコイルホルダ10を患者Mの頭部表面に沿って移動してコイルホルダを位置決めするものであるが、この位置決め作業は以下に説明する移動装置を具備した磁気刺激システムにより自動化できる。
【0048】
実施の形態4.
図9は、移動装置付き磁気刺激システム1dを示し、そこには、刺激用コイル(図示せず)を有するコイルホルダ10dを、患者Mの頭部表面20に似せた所定球面に沿って移動させる機構を含む移動装置60(移動機構)が組み込まれている。また、コイルホルダ10dは、患者Mの頭部表面20に対して所望の姿勢で保持できる支持部材62に支持されている。移動装置60は、患者Mの頭部の一部を覆うように該患者Mの頭部の上方に配置される。図において、符号70は患者Mを仰向けに寝かせるための治療用の椅子であり、この椅子70には、移動装置60を操作するための操作盤80(制御手段)がケーブル85を介して移動装置60と電気的に接続されている。以上の構成に加えて、図示していないが、コイルホルダ10dの下面には、患者Mの頭部表面20に施されたマーキングを自動的に検出するための画像センサ(認識手段)が設けてある。
【0049】
このような構成を備えた磁気刺激システム1dによれば、患者Mの頭部表面に沿ってコイルホルダ10dを移動させることによって画像センサでマーキングを自動的に認識して、コイルホルダ10dのコイル2を最適コイル位置に位置決めできる。
【0050】
このように、実施の形態1〜実施の形態4に係る磁気刺激システムによれば、患者Mの耳22の耳珠24(マーキング)に対してコイルホルダを位置決めすることによって刺激コイルを最適コイル位置に位置させることができる。したがって、磁気刺激システムの使用者(患者M、介助者)は、特別な熟練を要することもなく、容易にコイルホルダ及びコイルの位置決めを行うことができる。
【符号の説明】
【0051】
1 経頭蓋磁気刺激システム
2 刺激用コイル
4 ケーブル
6 磁気刺激制御装置
8,70 椅子
10 コイルホルダ
22 (患者の)耳
24(患者の)耳珠
50 変換装置
52 モニタ
60 移動装置
カメラ 150a,150b
レーザポインタ 160a,160b
M 患者
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9