(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
<発明者の得た知見>
III族窒化物半導体系の半導体装置として、例えば、高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor)が知られている。HEMTは、例えば、窒化ガリウム(GaN)からなる電子走行層と、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)からなる電子供給層と、を有する。HEMTでは、電子供給層の分極作用によって、電子走行層内のヘテロ接合界面付近に高濃度の2次元電子ガスが誘起される。2次元電子ガスは、散乱要因となる導電性不純物が添加されない電子走行層に誘起されることから、高い電子移動度を示す。これにより、HEMTを大電力で高速に駆動させることが可能となる。
【0013】
しかしながら、発明者の鋭意検討により、HEMTを大電力で駆動し続けたときに、ドレイン電流が経時的に徐々に低下してしまう場合があることが分かった。さらに、発明者は、電子供給層の表面物性がドレイン電流の経時的低下などの長期的信頼性に影響していることを見出した。本発明は、本発明者が見出した上記知見に基づくものである。
【0014】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0015】
(1)窒化物半導体積層物
まず、
図1を用い、本実施形態に係る窒化物半導体積層物について説明する。
図1は、本実施形態に係る窒化物半導体積層物を示す断面図である。本実施形態の窒化物半導体積層物10は、例えば、HEMTを製造する際の前駆体として構成され、基板100と、電子走行層(バッファ層、チャネル層)140と、電子供給層(バリア層)160と、を有している。
【0016】
(基板)
基板100は、電子走行層140および電子供給層160をエピタキシャル成長させる下地基板として構成され、本実施形態では、例えば、炭化シリコン(SiC)基板として構成されている。具体的には、基板100として、例えば、ポリタイプ4H又はポリタイプ6Hの半絶縁性SiC基板が用いられる。なお、基板100の表面は、(0001)面(c面)とする。また、4H、6Hの数字はc軸方向の繰返し周期を示し、Hは六方晶を示している。
【0017】
また、基板100は、例えば、半絶縁性を有している。なお、ここでいう「半絶縁性」とは、例えば、比抵抗が10
5Ω・cm以上である状態をいう。これにより、電子走行層140から基板100への自由電子の拡散を抑制し、リーク電流を抑制することができる。
【0018】
なお、基板100の上には、例えば、核生成層(不図示)が設けられている。例えば、核生成層のうちの基板100側に位置する領域が主に基板100と電子走行層140との格子定数差を緩衝する緩衝層として機能するとともに、核生成層のうちの電子走行層140側に位置する領域が主に電子走行層140を結晶成長させる結晶核を形成するよう構成されている。核生成層は、III族窒化物半導体からなり、本実施形態では、例えば、窒化アルミニウム(AlN)を主成分として構成されている。
【0019】
(電子走行層)
電子走行層140は、基板100上に設けられ、例えば、電子走行層140のうちの核生成層の側に位置する領域が主に核生成層と電子供給層160との格子定数差を緩衝する緩衝層として機能するように構成され、電子走行層140のうちの電子供給層160側に位置する領域が後述する半導体装置20を駆動させたときに電子を走行させるよう構成されている。電子走行層140は、III族窒化物半導体からなり、本実施形態では、例えば、GaNを主成分として構成されている。また、電子走行層140の表面(上面)は、III族原子極性面(+c面)となっている。
【0020】
電子走行層140の厚さは、例えば、500nm以上2500nm以下とする。電子走行層140の厚さが500nm未満であると、電子走行層140の品質が低下し、その電子移動度が低下する可能性がある。これに対し、電子走行層140の厚さを500nm以上とすることで、電子走行層140の品質を向上させ、その電子移動度を所定値以上とすることができる。一方で、電子走行層140の厚さが2500nm超であっても、電子走行層140の品質があまり向上せず、成長コストのみが増加してしまう。これに対し、電子走行層140の厚さを2500nm以下とすることにより、電子走行層140の良好な品質を確保しつつ、成長コストの増加を抑制することができる。
【0021】
(電子供給層)
電子供給層160は、電子走行層140上に設けられ、電子走行層140内に2次元電子ガスを生成させるとともに、電子走行層140内に2次元電子ガスを空間的に閉じ込めるよう構成されている。具体的には、電子供給層160は、電子走行層140を構成するIII族窒化物半導体よりも広いバンドギャップと、電子走行層140の格子定数よりも小さい格子定数とを有するIII族窒化物半導体からなり、本実施形態では、例えば、AlGaNを主成分として構成されている。また、電子供給層160の表面(上面)は、III族原子極性面(+c面)となっている。このような構成により、電子供給層160には、自発分極とピエゾ分極とが生じる。そして、その分極作用により、電子走行層140内のヘテロ接合界面付近に高濃度の2次元電子ガスが誘起されることとなる。
【0022】
ここで、本発明者は、電子供給層160の表面(上面)における表面力が、半導体装置20の長期的信頼性に大きく影響することを見出した。ここでいう「表面力」とは、互いに接近または接触する2つの物体間に働く引力または斥力のことを意味し、静電気力、イオン間相互作用、水素結合、ファンデルワールス力、およびメニスカス力などのうちの少なくともいずれか一つを起源としている。被測定物となる膜の表面力は、例えば、所定の測定子を用いて、該測定子と膜との間に作用する力(本実施形態では主に引力)を測定することで求められる。なお、表面力の測定方法については、詳細を後述する。
【0023】
ここで、所定膜の表面力は、サンプル種や測定環境が異なる場合に誤差を生じうる。このため、リファレンスとしてプラチナ(Pt)の表面力を所定膜の表面力と同じ条件で測定し、所定膜の表面力をPtの表面力に対する相対的関係として規定することで、サンプル種や測定環境が異なる場合であっても所定膜の表面力を精度よく比較することができる。なお、ここでいうPtの表面力とは、詳細には、シリコン(Si)基板上に形成されたPt膜の表面力のことである。
【0024】
本実施形態では、例えば、クロム(Cr)により被覆されたガラス球(ガラス球材質BK7、直径1mm、表面粗さRa2nm、Rz11nm)からなる測定子(プローブ)を用いて真空中で測定したときの、該測定子と電子供給層160の表面とを引き寄せる引力として働く電子供給層160の表面力Aは、同じ条件で測定したときのPtの表面力Bよりも強い。なお、ここでの「引力として働く表面力」とは、実測ではマイナスの値として検出される。このため、「電子供給層160の表面力AがPtの表面力Bよりも強い」とは、電子供給層160の表面力の実測値がPtの表面力の実測値よりも小さい(マイナス側に大きい)ことを意味し、「電子供給層160の表面力Aの絶対値がPtの表面力の絶対値よりも大きい」と言い換えることができる。
【0025】
また、上記条件で測定したときの、電子供給層160の表面力AとPtの表面力Bとの差の絶対値|A−B|は、例えば、30μN以上とする。表面力の差の絶対値|A−B|が30μN未満であると、後述するHEMTとしての半導体装置20において、ドレイン電流が経時的に低下する可能性がある。これに対し、表面力の差の絶対値|A−B|を30μN以上とすることにより、ドレイン電流の経時的な低下を抑制することができる。また、表面力の差の絶対値|A−B|は、例えば、45μN以上とすることがより好ましい。これにより、ドレイン電流の経時的な低下をより確実に抑制することができる。なお、電子供給層160の表面力Aが強ければ強いほど(実測値として小さければ小さいほど)、ドレイン電流の経時的な低下が抑制されることが分かっている。このため、表面力の差の絶対値|A−B|の上限値については特に限定されるものではないが、所定の表面力を得ることが可能な製造条件によっては製造装置に負荷がかかり、結果的に製造装置のメンテナンスコストが上昇してしまう可能性がある。したがって、例えば、表面力の差の絶対値|A−B|は、120μN以下とすることが好ましい。
【0026】
なお、「電子供給層160の表面力AとPtの表面力Bとの差の絶対値|A−B|を30μN以上とし、好ましくは45μN以上とする」とは、「電子供給層160の表面力AをPtの表面力Bを基準として−30μN以下とし、好ましくは−45μN以下とする」、または「電子供給層160の引力としての表面力AをPtの引力としての表面力Bを基準として30μN以上強くし、好ましくは45μN以上強くする」と言い換えることができる。
【0027】
電子供給層160の厚さは、例えば、5nm以上50nm以下とする。電子供給層160の厚さが5nm未満であると、ゲートリークが大きくなり、半導体装置20の信頼性が低下する可能性がある。これに対し、電子供給層160の厚さを5nm以上とすることにより、ゲートリークを抑制し、半導体装置20の信頼性を確保することができる。一方で、電子供給層160の厚さが50nm超であると、閾値電圧が大きくなり、スイッチング特性が悪くなる可能性がある。これに対し、電子供給層160の厚さを50nm以下とすることにより、閾値電圧を所定値以下とし、スイッチング特性を向上させることができる。なお、上記傾向を考慮して、電子供給層160の厚さは、例えば、15nm以上30nm以下とすることが好ましい。
【0028】
(2)半導体装置
次に、
図2を用い、本実施形態の半導体装置について説明する。
図2は、本実施形態に係る半導体装置を示す断面図である。
【0029】
図2に示すように、本実施形態の半導体装置20は、例えば、上記した窒化物半導体積層物10を用いて製造されるものであり、HEMTとして構成されている。具体的には、半導体装置20は、例えば、基板100と、電子走行層140と、電子供給層160と、ゲート電極210と、ソース電極220と、ドレイン電極230と、保護膜300と、を有している。
【0030】
(電極)
ゲート電極210は、電子供給層160上に設けられている。ゲート電極210は、例えば、ニッケル(Ni)と金(Au)との複層構造(Ni/Au)からなっている。なお、本命最初においてX/Yの複層構造と記載した場合、X、Yの順で積層したことを示している。
【0031】
ソース電極220は、電子供給層160上に設けられ、ゲート電極210から所定距離離れた位置に配置されている。ソース電極220は、例えば、チタン(Ti)とアルミニウム(Al)との複層構造からなっている。
【0032】
ドレイン電極230は、電子供給層160上に設けられ、ゲート電極210を挟んでソース電極220と反対側にゲート電極210から所定距離離れた位置に配置されている。ドレイン電極230は、ソース電極220と同様に、例えば、TiとAlとの複層構造からなっている。なお、ソース電極220およびドレイン電極230では、Ti/Alの複層構造上にNi/Auの複層構造が積層されていてもよい。
【0033】
(保護膜)
保護膜300は、電子供給層160等の表面を保護し、電子供給層160等の劣化を抑制するよう構成されている。具体的には、保護膜300は、少なくとも、ゲート電極210およびソース電極220の間と、ゲート電極210およびドレイン電極230の間と、ソース電極220またはドレイン電極230の外側とにおける電子供給層160の表面を覆うように設けられている。保護膜300は、例えば、窒化シリコン(SiN)からなっている。
【0034】
なお、電子走行層140内に、平面視でソース電極220、ゲート電極210およびドレイン電極230を含むデバイス領域の周囲を囲むように、窒素(N)イオンがイオン注入されていてもよい。これにより、デバイス領域の外側の二次元電子ガスを不活性化して、隣接するデバイス領域間の絶縁性を確保することができる。
【0035】
また、電子走行層140および電子供給層160内に、平面視でソース電極220およびドレイン電極230のそれぞれに重なる領域に、シリコン(Si)イオンがイオン注入されていてもよい。これにより、ソース電極220およびドレイン電極230のそれぞれのコンタクト抵抗を低減することができる。なお、この場合、Siイオンは、例えば、電子供給層160の表面から深さ50nm程度にピークが位置するようなプロファイルを有していることが好ましい。
【0036】
上述のように、電子供給層160の表面力Aが所定の特性を満たしていることにより、半導体装置20を駆動したときにドレイン電流の経時的な低下を抑制することができる。具体的には、(保護膜300が設けられていない半導体装置20において)温度を200℃とし、ソース電極220とドレイン電極230との間の電圧V
dsを50Vとし、ゲート電極210とソース電極220との間の電圧V
gsを−2Vとした条件下で半導体装置20を駆動させたときの、初期のドレイン電流I
ds0に対する1000時間後のドレイン電流I
dsの比率I
ds/I
ds0を0.70以上とし、好ましくは、0.90以上とすることができる。
【0037】
(3)窒化物半導体積層物の製造方法および半導体装置の製造方法
次に、
図3を用い、本実施形態の窒化物半導体積層物の製造方法および半導体装置の製造方法について説明する。
図3は、本実施形態に係る半導体装置の製造方法を示すフローチャートである。なお、ステップをSと略している。
【0038】
まず、例えば、有機金属気相成長(MOVPE:Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)装置を用い、以下の手順により、窒化物半導体積層物10を形成する。
【0039】
(S110:電子走行層形成工程)
まず、基板100として、例えば、ポリタイプ4Hの半絶縁性SiC基板を用意する。そして、MOVPE装置の処理室内に、基板100を搬入する。そして、処理室内に水素(H
2)ガス(または、H
2ガスおよび窒素(N
2)ガスの混合ガス)を供給し、基板100の温度を核生成層の所定の成長温度(例えば1150℃以上1250℃以下)まで上昇させる。基板100の温度が所定の成長温度となったら、例えば、III族原料ガスとしてトリメチルアルミニウム(TMA)ガスと、V族原料ガスとしてアンモニア(NH
3)ガスとを、基板100に対して供給する。これにより、基板100上にAlNからなる核生成層を成長させる。所定の厚さの核生成層の成長が完了したら、TMAガスの供給を停止する。なお、このとき、NH
3ガスの供給を継続する。
【0040】
次に、基板100の温度を電子走行層140の所定の成長温度(例えば1000℃以上1100℃以下)に調整する。そして、基板100の温度が所定の成長温度となったら、NH
3ガスの供給を継続した状態で、例えば、III族原料ガスとしてトリメチルガリウム(TMG)ガスを供給する。これにより、核生成層上に単結晶のGaNからなる電子走行層140をエピタキシャル成長させる。所定の厚さの電子走行層140の成長が完了したら、TMGガスの供給を停止する。なお、このとき、NH
3ガスの供給を継続する。
【0041】
(S120:電子供給層形成工程)
次に、例えば、基板100の温度を電子供給層160の所定の成長温度(例えば1000℃以上1100℃以下)とする。そして、基板100の温度が所定の成長温度となったら、NH
3ガスの供給を継続した状態で、例えば、III族原料ガスとしてTMGガスおよびTMAガスを供給する。これにより、電子走行層140上に単結晶のAlGaNからなる電子供給層160をエピタキシャル成長させる。所定の厚さの電子走行層140の成長が完了したら、TMGガスおよびTMAガスの供給を停止し、基板100の温度を電子供給層160の成長温度から低下させる。なお、このとき、通常は、H
2ガスを停止し、N
2ガスを供給するとともに、NH
3ガスの供給を継続する(電子走行層140および電子供給層160の成長中にH
2ガスとともにN
2ガスが供給されていた場合は、H
2ガスを停止し、N
2ガスおよびNH
3ガスの供給を継続する)。そして、窒化物半導体積層物10の温度が500℃以下となったら、NH
3ガスの供給を停止し、MOVPE装置の処理室内の雰囲気をN
2ガスのみへ置換して大気圧に復帰させる。
【0042】
このとき、本実施形態では、Crにより被覆された直径1mmのガラス球からなる測定子を用いて真空中で測定したときの、該測定子と電子供給層160の表面とを引き寄せる引力として働く電子供給層160の表面力Aが同じ条件で測定したときのPtの表面力Bよりも強く、それらの差の絶対値|A−B|が30μN以上となるような、電子供給層160を形成する。発明者の鋭意検討により、基板100の温度を電子供給層160の成長温度から低下させるときの冷却条件等を調整することで、電子供給層160の表面力Aが上記所定の特性を満たすような電子供給層160を形成することができることが分かっている。
【0043】
具体的には、基板100の温度を電子供給層160の成長温度から低下させるときの冷却速度を、例えば、1.0℃/s以上とする。冷却速度が1.0℃/s未満であると、電子供給層160において充分な表面力が得られない可能性がある。これに対し、冷却速度を1.0℃/s以上とすることにより、電子供給層160の表面力を向上させることができる。また、冷却速度を1.5℃/s以上とすることがより好ましい。これにより、電子供給層160の表面力をより確実に向上させることができる。なお、使用したMOVPE装置の構成にも依存するが、基板100を加熱するヒータの電源をOFFした際の自然冷却速は、例えば、およそ3℃/sとなる。後述するように電子供給層160の表面に対して冷却ガスとしてH
2ガス又はHeガスを供給する場合、ヒータの電源をOFFした際の自然冷却速度は、例えば、およそ4℃/sとなる。
【0044】
また、基板100の温度を電子供給層160の成長温度から低下させるときに、電子供給層160の表面に対して冷却ガスとしてH
2ガス又はヘリウム(He)ガスを供給してもよい。つまり、本実施形態では、N
2ガスおよびNH
3ガスに加えてH
2ガス又はHeガスを供給してもよい。H
2ガスの比熱(約14000J/(kg・K))や、Heガスの比熱(約5000J/(kg・K))は、N
2ガスの比熱(約1000J/(kg・K))やNH
3ガスの比熱(約2000J/(kg・K))よりも大きい。したがって、比熱の大きいH
2ガス又はHeガスを電子供給層160の表面に対して供給することで、電子供給層160の表面の冷却効率を向上させることができる。これにより、上記のように基板100の温度を電子供給層160の成長温度から低下させるときの冷却速度を所定値以上とした場合と同様に、電子供給層160の表面力を向上させることができる。
【0045】
その後、窒化物半導体積層物10が搬出可能な温度にまで低下したら、窒化物半導体積層物10を処理室内から搬出する。
【0046】
以上により、
図1に示す本実施形態の窒化物半導体積層物10が製造される。
【0047】
(S130:検査工程)
次に、電子供給層160の表面力に基づいて窒化物半導体積層物10を検査する検査工程S130を行う。本実施形態の検査工程S130は、例えば、表面力測定工程S132と、選別工程S134と、を有している。
【0048】
(S132:表面力測定工程)
まず、リファレンスとしてのPtの表面力と、上記のように製造された窒化物半導体積層物10の電子供給層160の表面力と、を測定する。表面力の測定には、例えば、エリオニクス社製の表面力測定装置(ESF−5000)を好適に用いることができる。
【0049】
ここで、
図4は、表面力測定装置を示す概略構成図である。
図4に示すように、表面力測定装置400は、例えば、真空チャンバ410と、真空ポンプ420と、固定フレーム430と、ステージ440と、測定子450と、支持棒452と、ばね機構460と、電磁力発生器470と、変位計480と、を有している。真空チャンバ410は、固定フレーム430等の各部材を収容しており、その内部の雰囲気を真空ポンプ420によって真空に排気可能に構成されている。固定フレーム430は、真空チャンバ410内に収容された各部材を固定し支持するよう構成されている。ステージ440は、固定フレーム430の底部に設けられ、その上に被測定物(例えば窒化物半導体積層物10)が載置されるようになっている。また、ステージ440は、被測定物を水平方向および鉛直方向に移動させる粗動ステージ(不図示)と、被測定物の鉛直方向の微細な位置決めを行う微動ステージ(不図示)と、を有している。測定子450は、表面力を測定するプローブとして機能するよう構成されている。支持棒452は、ステージ440の鉛直上側に測定子450を支持している。ばね機構460は、支持棒452と固定フレーム430の上部との間に介在し、支持棒452を弾性的に保持しつつ、支持棒452に鉛直方向のみの移動を許容するよう構成されている。電磁力発生器470は、電磁力により支持棒452に鉛直方向の荷重を加えるよう構成されている。変位計480は、支持棒452の鉛直方向の変位、すなわち測定子450の鉛直方向の変位を検出するよう構成されている。変位計480としては、非接触式(例えば光学式)の変位センサが好適に用いられる。
【0050】
被測定物と測定子450との間に作用する表面力(本実施形態では引力)は、被測定物に接触している状態の測定子450を被測定物から引き離すために必要な力を測定することで決定される。具体的には、以下のような手順で測定が行われる。
【0051】
図5は、表面力測定工程を示す図である。
図5において、横軸は時間であり、縦軸は測定子450の(鉛直方向の)変位である。
まず、ステージ440上に被測定物を載置し、真空チャンバ410内の雰囲気を真空に排気する。真空チャンバ410内が所定の圧力に到達したら、ステージ440を鉛直上方向に徐々に移動させ、被測定物を測定子450に近づける(t0→t1)。そして、被測定物が測定子450に近づくにつれて、被測定物と測定子450との間に表面力が作用する。これにより、測定子450は、被測定物の表面力によって被測定物に引き寄せられ、ばね機構460の弾性力に逆らって下降し、被測定物に接触する(t1→t2)。ここで、ばね機構460の弾性力が測定子450に作用した状態で、測定子450を被測定物から離して表面力を測定すると、誤差を生じる可能性があるため、ステージ440を上昇させ、測定子450を初期位置に戻し、ばね機構460に生じた弾性力をゼロにする(t2→t3)。そして、ばね機構460が静止状態となるまで所定時間待機する(t3→t4)。そして、電磁力発生器470による電磁力により、支持棒452を鉛直上方向に徐々に移動させることで、測定子450を被測定物から引き離す力を印加する(t4→t5)。そして、測定子450を被測定物から引き離す力が被測定物の表面力を超えたとき、測定子450は被測定物から離れる(t5)。このとき、測定子450が被測定物から離れた時点を、変位計480によって検知する。そして、測定子450が被測定物から離れた瞬間に電磁力発生器470に流れている電流値を取得し、該電流値に基づいて被測定物の表面力を決定する。
【0052】
本実施形態では、上記の表面力測定装置400において、予め、Crにより被覆されたガラス球(ガラス球材質BK7、直径1mm、表面粗さRa2nm、Rz11nm)からなる測定子450を用いて、Ptと測定子450とを引き寄せる引力として働くPtの表面力Bを真空中で測定しておく。そして、同じ条件で、上記のように製造された窒化物半導体積層物10の電子供給層160の表面と測定子450とを引き寄せる引力として働く電子供給層160の表面力Aを測定する。
【0053】
(S134:選別工程)
次に、表面力測定工程S132で測定された電子供給層160の表面力に基づいて、窒化物半導体積層物10を選別する。具体的には、電子供給層160の表面力AがPtの表面力Bよりも強く、それらの差の絶対値|A−B|が30μN以上であるとする第1選別条件を満たさない窒化物半導体積層物10を不良品として排除し、一方で、該第1選別条件を満たす窒化物半導体積層物10を良品として選別する。これにより、半導体装置20を駆動したときのドレイン電流が経時的に低下してしまうような窒化物半導体積層物10を排除するとともに、ドレイン電流の経時的な低下を抑制可能な窒化物半導体積層物10を半導体装置20の製造前に非破壊で選別することができる。
【0054】
また、電子供給層160の表面力AがPtの表面力Bよりも強く、それらの差の絶対値|A−B|が45μN以上であるとする第2選別条件を満たす窒化物半導体積層物10を最良品として選別してもよい。これにより、ドレイン電流の経時的な低下をより確実に抑制可能な窒化物半導体積層物10を選別することができる。
【0055】
(S140:素子分離工程)
次に、上記の良品または最良品として選別された窒化物半導体積層物10上にレジスト膜を形成し、平面視でソース電極220、ゲート電極210およびドレイン電極230が形成されることとなるデバイス領域の周囲を囲む領域が開口となるようにレジスト膜をパターニングする。そして、該レジスト膜をマスクとして用い、電子走行層140内に平面視でデバイス領域の周囲を囲む領域にNイオンをイオン注入する。これにより、デバイス領域の外側の二次元電子ガスを不活性化して、隣接するデバイス領域間の絶縁性を確保することができる。
【0056】
(S150:コンタクト抵抗低減工程)
次に、窒化物半導体積層物10上にレジスト膜を形成し、平面視でソース電極220およびドレイン電極230が形成されることとなる領域が開口となるようにレジスト膜をパターニングする。そして、該レジスト膜をマスクとして用い、電子走行層140および電子供給層160内に平面視でソース電極220およびドレイン電極230のそれぞれが形成されることとなる領域にSiイオンをイオン注入する。そして、例えばプラズマ化学気相成長(P−CVD)法により、窒化物半導体積層物10上にキャップ層としてSiN膜を形成する。これにより、窒化物半導体積層物10を構成するIII族窒化物半導体からの窒素抜けを抑制することができる。そして、SiN膜で覆われた窒化物半導体積層物10を、N
2雰囲気中において所定の温度で所定時間アニール処理する(例えば、1200℃1分間)。これにより、電子走行層140および電子供給層160内に注入されたSiイオンを活性化し、後工程で形成されるソース電極220およびドレイン電極230のそれぞれのコンタクト抵抗を低減することができる。そして、所定の溶媒(例えばバッファードフッ酸)により、窒化物半導体積層物10上のSiN膜を除去する。
【0057】
(S160:電極形成工程)
次に、電子供給層160上にレジスト膜を形成し、平面視でソース電極220およびドレイン電極230が形成されることとなる領域が開口となるようにレジスト膜をパターニングする。そして、例えば、電子ビーム蒸着法により、電子供給層160およびレジスト膜を覆うようにTi/Alの複層構造(またはTi/Al/Ni/Auの複層構造)を形成する。そして、所定の溶媒を用い、リフトオフによりレジスト膜を除去することで、上記所定領域にソース電極220およびドレイン電極230を形成する。そして、窒化物半導体積層物10を、N
2雰囲気中において所定の温度で所定時間アニール処理する(例えば、650℃3分間)。これにより、ソース電極220およびドレイン電極230のそれぞれを電子供給層160に対してオーミック接合させることができる。
【0058】
次に、電子供給層160、ソース電極220およびドレイン電極230を覆うようにレジスト膜を形成し、平面視でゲート電極210が形成されることとなる領域が開口となるようにレジスト膜をパターニングする。そして、例えば電子ビーム蒸着法により、電子供給層160およびレジスト膜を覆うようにNi/Auの複層構造を形成する。そして、所定の溶媒を用い、リフトオフによりレジスト膜を除去することで、上記所定領域にゲート電極210を形成する。そして、窒化物半導体積層物10を、N
2雰囲気中において所定の温度で所定時間アニール処理する(例えば、450℃10分間)。
【0059】
(S170:保護膜形成工程)
次に、例えば、P−CVD法により、電子供給層160および各電極を覆うように、SiNからなる保護膜300を形成する。そして、各電極の上面の一部のみが露出するように、保護膜300をパターニングする。これにより、ゲート電極210およびソース電極220の間と、ゲート電極210およびドレイン電極230の間と、ソース電極220またはドレイン電極230の外側とにおける電子供給層160の表面を覆うように保護膜300が形成される。
【0060】
以上により、
図2に示す本実施形態の半導体装置20が製造される。
【0061】
(4)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
【0062】
(a)本実施形態では、Crにより被覆された直径1mmのガラス球からなる測定子を用いて測定したときの、該測定子と電子供給層160の表面とを引き寄せる引力として働く電子供給層160の表面力Aを、同じ条件で測定したときのPtの表面力Bよりも強くし、それらの差の絶対値|A−B|を30μN以上としている。これにより、半導体装置20を駆動したときのドレイン電流の経時的な低下を抑制することが可能となり、半導体装置20の長期的な信頼性を向上させることが可能となる。これは、例えば、以下のような作用効果によるものと考えられる。電子供給層160の表面力Aが所定の特性を満たしていることにより、電子供給層160の表面付近における負電荷の経時的な蓄積を抑制することができ、実効的なゲート長(チャネル長)の増加を抑制することができる。また、電子供給層160の表面付近における負電荷の経時的な蓄積を抑制することで、電子供給層160の表面付近のバンド傾斜やポテンシャル上昇を抑制することができ、電子走行層140内の二次元電子ガスの濃度を所定濃度に維持することができる。これらの結果、半導体装置20を駆動したときのドレイン電流の経時的な低下を抑制することが可能となると考えられる。
【0063】
なお、非特許文献2には、電子供給層160の表面付近における負電荷の蓄積によって、電子走行層140内の二次元電子ガスの濃度が低下し、その結果、ドレイン電流が低下することが記載されている。したがって、本実施形態において、電子供給層160の表面付近における負電荷の経時的な蓄積を抑制することによる上記の作用効果は、非特許文献2に記載されている内容と矛盾しないと考えられる。
【0064】
(b)電子供給層160の表面力Aが上記した所定の特性を満たすことで、電子供給層160上に形成される保護膜300の密着性を向上させることができ、窒化物半導体積層物10のうちの特に電子走行層140および電子供給層160の経時的な劣化を抑制することができる。その結果、半導体装置20を駆動したときのドレイン電流の経時的な低下を抑制することが可能となる。
【0065】
なお、非特許文献3には、電気伝導率の低い(すなわち、絶縁性の高い)窒化膜で覆われたHEMTでは、ドレイン電流の低下を抑制することができることが記載されている。したがって、保護膜300の密着性が保護膜300の実質的な絶縁性に相関があると考えれば、本実施形態において、電子供給層160上に形成される保護膜300の密着性を向上させることによる上記の作用効果は、非特許文献3に記載されている内容と矛盾しないと考えられる。
【0066】
(c)電子供給層形成工程S120では、電子供給層160の表面力Aが上記した所定の特性を満たすような電子供給層160を形成する。これにより、半導体装置20を駆動したときのドレイン電流の経時的な低下を抑制可能な窒化物半導体積層物10を安定的に製造することができる。
【0067】
(d)電子供給層形成工程S120では、基板100の温度を電子供給層160の成長温度から低下させるときの冷却速度を1.0℃/s以上とする。これにより、電子供給層160の表面力Aが上記した所定の特性を満たすような電子供給層160を形成することが可能となる。これは、上記冷却速度を所定値超とすることで、例えば、電子供給層160の表面状態(ダングリングボンドや表面電荷等)が影響を受けるためと考えられる。
【0068】
(e)基板100の温度を電子供給層160の成長温度から低下させるときに、電子供給層160の表面に対して冷却ガスとしてH
2ガス又はHeガスを供給してもよい。比熱の大きいH
2ガス又はHeガスを電子供給層160の表面に対して供給することで、電子供給層160の表面の冷却効率を向上させることができる。これにより、上記のように基板100の温度を電子供給層160の成長温度から低下させるときの冷却速度を所定値超とした場合と同様に、電子供給層160の表面力Aが上記した所定の特性を満たすような電子供給層160を形成することが可能となる。
【0069】
(f)窒化物半導体積層物10を検査する検査工程S130として、所定の測定子450を用い、該測定子450と電子供給層160の表面との間に作用する電子供給層160の表面力Aを測定する表面力測定工程S132と、電子供給層160の表面力Aに基づいて窒化物半導体積層物10を選別する選別工程S134と、を行う。これにより、半導体装置20を駆動したときのドレイン電流が経時的に低下してしまうような窒化物半導体積層物10を排除するとともに、ドレイン電流の経時的な低下を抑制可能な窒化物半導体積層物10を半導体装置20の製造前に非破壊で選別することができる。このように、半導体装置20の長期的信頼性を窒化物半導体積層物10の製造段階で予測して、窒化物半導体積層物10の品質を管理することが可能となる。
【0070】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。しかしながら、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0071】
上述の実施形態では、基板100がSiC基板として構成されている場合について説明したが、基板100は、GaN基板(GaN自立基板)、サファイア基板、またはダイヤモンド基板として構成されていてもよい。
【0072】
上述の実施形態では、基板100が半絶縁性を有している場合について説明したが、基板は導電性を有していてもよい。この場合、窒化物半導体積層物は、以下の変形例のような構成を有していることが好ましい。
ここで、
図8は、本実施形態の変形例に係る窒化物半導体積層物を示す断面図である。
図8に示す窒化物半導体積層物12では、基板102は、導電性を有している。基板102は、例えば、n型のGaN自立基板として構成されている。基板102の上には、半絶縁層122が設けられている。半絶縁層122の比抵抗は、例えば、10
5Ω・cm以上である。半絶縁層122は、例えば、半絶縁性を有するIII族窒化物半導体を主成分として構成され、鉄(Fe)等の遷移金属を含んでいる。これにより、半絶縁層122において、上記した所定の比抵抗を実現することができる。半絶縁層122の上には、上述の実施形態と同様の電子走行層140および電子供給層160が順に設けられている。
変形例によれば、基板102が導電性を有していても、基板102と電子走行層140との間に半絶縁層122を設けることで、電子走行層140から基板102への自由電子の拡散を抑制し、リーク電流を抑制することができる。
【0073】
上述の実施形態では、核生成層がAlNからなっている場合について説明したが、核生成層は、AlN以外のIII族窒化物半導体からなっていてもよく、例えば、GaN、AlGaN、InN、InGaN、AlInGaN等のIII族窒化物半導体、すなわち、Al
xIn
yGa
1−x−yN(0≦x+y≦1)の組成式で表されるIII族窒化物半導体からなっていてもよい。
【0074】
上述の実施形態では、電子走行層140がGaNからなっている場合について説明したが、電子走行層140は、GaN以外のIII族窒化物半導体からなっていてもよく、例えば、AlGaN、InN、InGaN、AlInGaN等のIII族窒化物半導体、すなわち、Al
xIn
yGa
1−x−yN(0≦x+y≦1)の組成式で表されるIII族窒化物半導体からなっていてもよい。
【0075】
上述の実施形態では、電子供給層160がAlGaNからなっている場合について説明したが、電子供給層160は、電子走行層140を構成するIII族窒化物半導体よりも広いバンドギャップと、電子走行層140の格子定数よりも小さい格子定数とを有していれば、AlGaN以外のIII族窒化物半導体からなっていてもよい。具体的には、電子供給層160は、例えば、AlInGaN等のIII族窒化物半導体、すなわち、Al
xIn
yGa
1−x−yN(0<x+y≦1)の組成式で表されるIII族窒化物半導体からなっていてもよい。
【0076】
上述の実施形態では、MOVPE装置を用いて窒化物半導体積層物10を製造する場合について説明したが、ハイドライド気相成長装置(HVPE装置)を用いて窒化物半導体積層物10を製造してもよい。
【0077】
上述の実施形態では、電子供給層形成工程S120において、基板100の温度を電子供給層160の成長温度から低下させるときの冷却条件等を調整することで、電子供給層160の表面力Aが上記した所定の特性を満たすような電子供給層160を形成する場合について説明したが、以下のように、電子供給層160を形成した後に、電子供給層160の表面力Aが上記した所定の特性を満たすように電子供給層160の表面を改質してもよい。
【0078】
具体的には、例えば、電子供給層形成工程S120の後に、電子供給層160の表面に対して所定のプラズマ処理を施してもよい。プラズマ処理の方法としては、例えば、誘導結合型プラズマ反応性イオンエッチング(ICP−RIE)法が挙げられる。ICP−RIE法を用いた場合では、例えば、アンテナ電力100W、バイアス電力5W、アルゴン(Ar)流量20sccm、0.8Pa、1分間とした条件下で行うことができる。これにより、電子供給層160の表面力Aが上記した所定の特性を満たすように電子供給層160の表面を改質することができる。
【0079】
また、例えば、電子供給層形成工程S120の後に、電子供給層160の表面に対してUVオゾン処理を施してもよい。この場合、例えば、30分間行うことができる。この場合であっても、電子供給層160の表面力Aが上記した所定の特性を満たすように電子供給層160の表面を改質することができる。
【0080】
また、例えば、電子供給層形成工程S120の後に、電子供給層160の表面に対して水素イオン(H
+)のイオン注入を施してもよい。この場合、例えば、加速電圧1MeV、ドーズ量10
13ion/cm
2とした条件下で行うことができる。この条件により、電子供給層160の最表面のみに水素イオンが注入されることとなる。この場合であっても、電子供給層160の表面力Aが上記した所定の特性を満たすように電子供給層160の表面を改質することができる。
【0081】
上述の実施形態では、III族窒化物半導体により構成される窒化物半導体積層物10に対して、表面力測定工程S132と、選別工程S134と、を有する検査工程S130を実施する場合について説明したが、HEMTの構成を有する半導体積層物であれば、III族窒化物半導体以外の半導体(例えばガリウム砒素(GaAs)等)により構成される半導体積層物であっても、上記検査工程を実施することができる。つまり、III族窒化物半導体以外の半導体により構成される半導体積層物であっても、半導体装置の長期的信頼性を半導体積層物の製造段階で予測して半導体積層物の品質を管理することができる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明の効果を裏付ける各種実験結果について説明する。
【0083】
(1)半導体装置の製造
以下のように、比較例1〜2、実施例1〜2の半導体装置を製造した。
【0084】
比較例1では、基板として、ポリタイプ4Hの半絶縁性SiC基板を用いた。まず、基板100上に、厚さ200nmのAlNからなる核生成層を形成した。そして、核生成層上に、厚さ1200nmのGaNからなる電子走行層を形成した。そして、電子走行層上に、厚さ20nmのAl
0.24Ga
0.76Nからなる電子供給層を形成した。このとき、電子供給層の成長温度を1050℃とした。また、基板の温度を電子供給層の成長温度から低下させるときの冷却速度を0.9℃/sとした。また、基板の温度を電子供給層の成長温度から低下させるときに、電子供給層の表面に対してNH
3ガスのみを供給した。そして、電子供給層上に、Ti/Al/Ni/Au(20/50/20/200nm)の複層構造からなるソース電極およびドレイン電極を形成した。また、電子供給層上に、Ni/Au(20/200nm)の複層構造からなるゲート電極を形成した。なお、ゲート長を2μm、ゲート幅を100μm、ソース電極−ゲート電極間距離を2.5μm、ゲート電極−ドレイン電極間距離を7.5μmとした。なお、後述するドレイン電流の経時的変化を加速させるため、電子供給層上に保護膜を形成しなかった。
【0085】
比較例2では、電子供給層の成長温度を1000℃とした点を除いて比較例1と同様に半導体装置を製造した。
【0086】
実施例1では、電子供給層形成工程における冷却速度を比較例1の約2倍とした(具体的には冷却速度を2.2℃/sとした)点を除いて比較例1と同様に半導体装置を製造した。
【0087】
実施例2では、電子供給層形成工程において基板の温度を電子供給層の成長温度から低下させるときにNH
3ガスに加えH
2ガスを供給した点を除いて比較例1と同様に半導体装置を製造した。
【0088】
(2)評価
(表面力測定)
比較例1〜2、実施例1〜2のそれぞれの電子供給層形成工程後に、エリオニクス社製の表面力測定装置(ESF−5000)を用いて、比較例1〜2、実施例1〜2のそれぞれにおける電子供給層の表面力Aを測定した。具体的には、比較例1〜2、実施例1〜2のそれぞれにおいて、Crにより被覆されたガラス球(ガラス球材質BK7、直径1mm、表面粗さRa2nm、Rz11nm)からなる測定子を用いて、電子供給層の表面と測定子とを引き寄せる引力として働く電子供給層の表面力Aを真空中で測定した。なお、同じ条件で、予めPtの表面力Bを測定しておき、比較例1〜2、実施例1〜2のそれぞれにおける電子供給層の表面力AとPtの表面力Bとの差の絶対値|A−B|を求めた。
【0089】
(駆動試験)
温度を200℃とし、ソース電極とドレイン電極との間の電圧V
dsを50Vとし、ゲート電極とソース電極との間の電圧V
gsを−2Vとした条件下で、比較例1〜2、実施例1〜2のぞれぞれの半導体装置を駆動させ、ドレイン電流I
dsの経時的な変化を測定した。そして、比較例1〜2、実施例1〜2のぞれぞれの半導体装置において、初期のドレイン電流I
ds0に対する所定時間経過後のドレイン電流I
dsの比率I
ds/I
ds0を比較した。
【0090】
(3)結果
図6(a)は、表面力測定結果を示す図である。
図6(a)では、比較例1〜2、実施例1〜2のそれぞれにおける電子供給層の表面力Aの実測値を示している。なお、電子供給層の表面力Aの実測値は、上述したように引力であるため、マイナスの値となっている。そのため、表面力Aの値が小さいほど、表面力Aが強いことを示している。また、
図6(a)中の破線は、Ptの表面力Bを示している。
図6(a)に示すように、比較例1〜2、実施例1〜2のそれぞれにおける電子供給層の表面力Aは、Ptの表面力Bよりも強かった(小さかった)。実施例1〜2のそれぞれにおける電子供給層の表面力Aは、比較例1〜2のそれぞれにおける電子供給層の表面力Aよりも強かった(小さかった)。このことから、実施例1〜2のように電子供給層形成工程において基板の温度を電子供給層の成長温度から低下させるときの冷却条件を調整することで、電子供給層の表面力Aを向上させることができることを確認した。
【0091】
図6(b)は、、半導体装置の駆動試験の結果を示す図である。
図6(b)において、横軸は時間であり、縦軸は初期のドレイン電流I
ds0に対する所定時間経過後のドレイン電流I
dsの比率I
ds/I
ds0である。
図6(b)に示すように、比較例1〜2のそれぞれの半導体装置では、ドレイン電流I
dsが経時的に大きく低下していた。これに対して、実施例1〜2のそれぞれの半導体装置では、ドレイン電流I
dsの経時的な低下が抑制されることを確認した。これは、実施例1〜2では、電子供給層の表面力Aを向上させることにより、電子供給層の表面付近における負電荷の経時的な蓄積を抑制することができ、電子走行層内の二次元電子ガスの濃度を所定濃度に維持することができたためと考えられる。
【0092】
ここで、比較例1〜2、実施例1〜2のそれぞれにおける、電子供給層の表面力AとPtの表面力Bとの差の絶対値|A−B|と、初期のドレイン電流I
ds0に対する1000時間経過後のドレイン電流I
dsの比率(以下、単に「ドレイン電流比率」ともいう)I
ds/I
ds0と、を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
また、
図7は、表面力の差の絶対値に対するドレイン電流比率を示す図である(表1をプロットした図である)。
図7に示すように、電子供給層の表面力AとPtの表面力Bとの差の絶対値|A−B|が大きくなるにつれて(電子供給層の表面力Aが強くなるにつれて)、ドレイン電流比率I
ds/I
ds0が単調増加することを確認した。また、表面力の差の絶対値|A−B|を30μN以上とすることにより、ドレイン電流比率I
ds/I
ds0を0.70以上とすることができることを確認した。
【0095】
また、表面力の差の絶対値|A−B|が45μN未満である領域では、表面力の差の絶対値|A−B|に対するドレイン電流比率I
ds/I
ds0の傾きが大きく、一方で、表面力の差の絶対値|A−B|が45μN以上である領域では、ドレイン電流比率I
ds/I
ds0の傾きがなだらかとなり、ドレイン電流比率I
ds/I
ds0が1に近い値を維持することを確認した。つまり、表面力の差の絶対値|A−B|を45μN以上とすることにより、ドレイン電流比率I
ds/I
ds0を顕著に向上させることができることを確認した。具体的には、表面力の差の絶対値|A−B|を45μN以上とすることにより、ドレイン電流比率I
ds/I
ds0を0.90以上とすることができることを確認した。
【0096】
以上のように、実施例1〜2によれば、半導体装置の長期的な信頼性を向上させることができることを確認した。
【0097】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0098】
(付記1)
基板と、
前記基板上に設けられ、III族窒化物半導体からなる電子走行層と、
前記電子走行層上に設けられ、III族窒化物半導体からなる電子供給層と、
を有し、
Crにより被覆された直径1mmのガラス球からなる測定子を用いて測定したときの、該測定子と前記電子供給層の表面とを引き寄せる引力として働く前記電子供給層の表面力Aは、同じ条件で測定したときのPtの表面力Bよりも強く、それらの差の絶対値|A−B|が30μN以上である窒化物半導体積層物。
【0099】
(付記2)
前記電子供給層の表面力と前記Ptの表面力との差の絶対値|A−B|は、45μN以上である付記1に記載の窒化物半導体積層物。
【0100】
(付記3)
基板上にIII族窒化物半導体からなる電子走行層を形成する工程と、
前記電子走行層上にIII族窒化物半導体からなる電子供給層を形成する工程と、
を有し、
前記電子供給層を形成する工程では、
Crにより被覆された直径1mmのガラス球からなる測定子を用いて測定したときの、該測定子と前記電子供給層の表面とを引き寄せる引力として働く前記電子供給層の表面力Aが同じ条件で測定したときのPtの表面力Bよりも強く、それらの差の絶対値|A−B|が30μN以上となるような、前記電子供給層を形成する窒化物半導体積層物の製造方法。
【0101】
(付記4)
前記電子供給層を形成する工程では、
前記基板の温度を前記電子供給層の成長温度から低下させるときの冷却速度を1.0℃/s以上とする付記3に記載の窒化物半導体積層物の製造方法。
【0102】
(付記5)
前記電子供給層を形成する工程では、
前記冷却速度を1.5℃/s以上とする付記4に記載の窒化物半導体積層物の製造方法。
【0103】
(付記6)
前記電子供給層を形成する工程では、
前記基板の温度を前記電子供給層の成長温度から低下させるときに、前記電子供給層の表面に対して水素ガス又はヘリウムガスを供給する付記3〜5のいずれかに記載の窒化物半導体積層物の製造方法。
【0104】
(付記7)
基板上にIII族窒化物半導体からなる電子走行層を形成する工程と、
前記電子走行層上にIII族窒化物半導体からなる電子供給層を形成する工程と、
前記電子供給層の表面を改質する工程と、
を有し、
前記電子供給層の表面を改質する工程では、
Crにより被覆された直径1mmのガラス球からなる測定子を用いて測定したときの、該測定子と前記電子供給層の表面とを引き寄せる引力として働く前記電子供給層の表面力Aが同じ条件で測定したときのPtの表面力Bよりも強く、それらの差の絶対値|A−B|が30μN以上となるように、前記電子供給層の表面を改質する窒化物半導体積層物の製造方法。
【0105】
(付記8)
前記電子供給層の表面を改質する工程では、
前記電子供給層の表面に対して所定のプラズマ処理、UVオゾン処理、または水素イオンのイオン注入を施す付記7に記載の窒化物半導体積層物の製造方法。
【0106】
(付記9)
基板上にIII族窒化物半導体からなる電子走行層を形成する工程と、
前記電子走行層上にIII族窒化物半導体からなる電子供給層を形成する工程と、
を有し、
前記電子供給層を形成する工程では、
前記基板の温度を前記電子供給層の成長温度から低下させるときの冷却速度を1.0℃/s以上とする窒化物半導体積層物の製造方法。
【0107】
(付記10)
基板上にIII族窒化物半導体からなる電子走行層を形成する工程と、
前記電子走行層上にIII族窒化物半導体からなる電子供給層を形成する工程と、
を有し、
前記電子供給層を形成する工程では、
前記基板の温度を前記電子供給層の成長温度から低下させるときに、前記電子供給層の表面に対して水素ガス又はヘリウムガスを供給する窒化物半導体積層物の製造方法。
【0108】
(付記11)
基板上にIII族窒化物半導体からなる電子走行層を形成する工程と、
前記電子走行層上にIII族窒化物半導体からなる電子供給層を形成する工程と、
前記電子供給層の表面を改質する工程と、
を有し、
前記電子供給層の表面を改質する工程では、
前記電子供給層の表面に対して所定のプラズマ処理、UVオゾン処理、または水素イオンのイオン注入を施す窒化物半導体積層物の製造方法。
【0109】
(付記12)
基板上に電子走行層および電子供給層を順に形成することで、前記電子走行層および前記電子供給層を有する半導体積層物を形成する工程と、
所定の測定子を用い、該測定子と前記電子供給層の表面との間に作用する前記電子供給層の表面力を測定する工程と、
前記電子供給層の表面力に基づいて前記半導体積層物を選別する工程と、
を有する半導体積層物の製造方法。
【0110】
(付記13)
前記半導体積層物を形成する工程では、
前記電子走行層および前記電子供給層をそれぞれIII族窒化物半導体により構成し、
前記電子供給層の表面力を測定する工程では、
前記測定子としてCrにより被覆された直径1mmのガラス球を用い、前記測定子と前記電子供給層の表面とを引き寄せる引力として働く前記電子供給層の表面力Aを測定し、
前記半導体積層物を選別する工程では、
前記電子供給層の表面力Aが同じ条件で測定したときのPtの表面力Bよりも強く、それらの差の絶対値|A−B|が30μN以上である前記半導体積層物を選別する付記12に記載の半導体積層物の製造方法。
【0111】
(付記14)
基板上に電子走行層および電子供給層が順に設けられる半導体積層物を検査する半導体積層物の検査方法であって、
所定の測定子を用い、該測定子と前記電子供給層の表面との間に作用する前記電子供給層の表面力を測定する工程と、
前記電子供給層の表面力に基づいて、前記半導体積層物を選別する工程と、
を有する半導体積層物の検査方法。
【0112】
(付記15)
基板と、
前記基板上に設けられ、III族窒化物半導体からなる電子走行層と、
前記電子走行層上に設けられ、III族窒化物半導体からなる電子供給層と、
前記電子供給層上に設けられるゲート電極、ソース電極およびドレイン電極と、
を有し
温度を200℃とし、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の電圧を50Vとし、前記ゲート電極と前記ソース電極との間の電圧を−2Vとした条件下で駆動させたときの、初期のドレイン電流に対する1000時間後のドレイン電流の比率は、0.70以上である半導体装置。
【0113】
(付記16)
Crにより被覆された直径1mmのガラス球からなる測定子を用いて測定したときの、該測定子と前記電子供給層の表面とを引き寄せる引力として働く前記電子供給層の表面力Aは、同じ条件で測定したときのPtの表面力Bよりも強く、それらの差の絶対値|A−B|が30μN以上である付記15に記載の半導体装置。
【0114】
(付記17)
前記ドレイン電流の比率は、0.90以上である付記15に記載の半導体装置。
【0115】
(付記18)
Crにより被覆された直径1mmのガラス球からなる測定子を用いて測定したときの、該測定子と前記電子供給層の表面とを引き寄せる引力として働く前記電子供給層の表面力Aは、同じ条件で測定したときのPtの表面力Bよりも強く、それらの差の絶対値|A−B|が45μN以上である付記17に記載の半導体装置。