特許第6268421号(P6268421)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6268421
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】製パン方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/10 20060101AFI20180122BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20180122BHJP
【FI】
   A21D2/10
   A21D13/00
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-119087(P2013-119087)
(22)【出願日】2013年6月5日
(65)【公開番号】特開2014-233283(P2014-233283A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2016年3月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】日本製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】宮村 和憲
(72)【発明者】
【氏名】加藤 武弘
【審査官】 濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−116867(JP,A)
【文献】 特開昭61−285953(JP,A)
【文献】 特開昭55−061772(JP,A)
【文献】 米国特許第05194276(US,A)
【文献】 特開昭62−048345(JP,A)
【文献】 特開昭62−044141(JP,A)
【文献】 特公昭46−027696(JP,B1)
【文献】 特開平07−135919(JP,A)
【文献】 特開2004−159519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/10
A21D 13/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
FSTA(STN)
WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1〜1000ppmの濃度のエチレンガス環境下、1〜14日間保存した小麦粉を原料として使用することを特徴とするパン生地の製造方法。
【請求項2】
請求項記載の方法により製造されたパン生地をさらに焼成することを含む製パン方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエチレンガス処理小麦粉を使用した製パン方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、製パンにおいて生地性の改良や得られるパンの食感を改良するために様々な試みが行われてきた。例えば生地の伸展性を出し、食感を柔らかくするためには乳化剤などの添加物を使用する方法が提案されている(特許文献1)。しかしながら近年の健康志向により、極力添加物を使用しない方法が望まれている。
エチレンは植物ホルモンの一種として知られており、一般的には植物の生長を阻害し、花芽形成を抑制する。例えば、ジャガイモの場合、エチレンにより萌芽が抑制される性質がある。この性質を利用し、ジャガイモの発芽抑制方法が提案されている(特許文献2)。
また、エチレンは果実の「色づき」「軟化」といった成熟にも関与しており、この性質を利用して柑橘類のカロテノイド色素の増強方法が提案されている(特許文献3)。
しかしながら、小麦粉の品質改良方法として、小麦粉をエチレンで処理する方法は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-125236
【特許文献2】特開2011-072261
【特許文献3】特開2011-213381
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明者等は、エチレンガスで処理した小麦粉を使用することにより、生地の伸展性を出し、生地のべたつきを減少させ、食感を柔らかく、しっとりとしたものとし、さらに老化耐性を有するパン類を製造することができることを見出し、本発明を完成するにいたった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明は以下の通りである。
(1)0.1〜1000ppmの濃度のエチレンガス環境下、1〜14日間保存した小麦粉を含むパン生地。
(2)前記(1)のパン生地から製造されるパン類。
(3)0.1〜1000ppmの濃度のエチレンガス環境下、1〜14日間保存した小麦粉を原料として使用することを特徴とするパン生地の製造方法。
(4)前記(3)の方法により製造されたパン生地をさらに焼成することを含む製パン方法。
【発明の効果】
【0006】
エチレンガスで処理した小麦粉を使用することにより、生地の伸展性を出し、生地のべたつきを減少させることができ、その結果、本発明の製パン方法により得られたパン類の食感を柔らかく、しっとりとしたものとすることができる。さらに得られたパン類は老化耐性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の製パン方法において、使用する小麦粉は特に限定なく使用でき、例えば強力粉、中力粉、薄力粉、全粒粉、デュラム粉等が使用できる。
【0008】
本発明において、小麦粉は0.1〜1000ppmの濃度のエチレンガス環境下で保存する。好ましくは、小麦粉は10〜100ppmの濃度のエチレンガス環境下で保存する。エチレンガス濃度が0.1ppm未満の場合、本発明の効果は得られない。またエチレンガス濃度が1000ppmを越える場合、生地に弾力がなく、弱くなりすぎて不適である。また食感はねちゃつきがあり、口溶けが良くないため不適である。
【0009】
本発明において、小麦粉は上記エチレンガス環境下で1日〜14日間保存する。好ましくは、小麦粉は上記エチレンガス環境下で3日〜7日間保存する。保存期間が1日未満の場合、本発明の効果は得られない。またエチレンガス濃度が14日を超える場合、生地性に弾力がなく、弱くなりすぎ、また食感はねちゃつき口溶けが良くないため不適である。
【0010】
本発明において、小麦粉のその他の保存条件として、保存温度は通常の小麦粉の保存温度であれば特に限定なく設定できるが、低温では効果が少なく3℃以上で保存することが好ましい。より好ましくは3〜35℃、さらに好ましくは15〜25℃で保存する。
【0011】
本発明において、小麦粉の保存方法としては、小麦粉を所定のエチレン環境下において保存することができる方法であれば特に限定されない。例えば密閉された容器又は装置に小麦粉を入れ、容器又は装置内が所定の濃度になるようにエチレンガスを注入することにより行う。
【0012】
密閉容器又は装置としては、エチレンガス濃度を一定期間、一定の範囲に保つことが出来れば特に限定されず、例えばアルミ蒸着袋や鉄、ステンレス等の金属性容器又は装置が挙げられる。また容器の大きさは限定されず、粉タンク、粉サイロなどの既存の小麦粉の保管施設を使用することもできる。
【0013】
本発明において、保存時に小麦粉は容器又は装置内に静置のままでよい。また容器又は装置内において通常の小麦粉の保存形態であるクラフト紙(25kg)で保存してもよい。但し粉タンク、粉サイロに保存するなど大量の小麦粉がある場合は、十分にエチレンガスに触れさせるため攪拌することが望ましい。
【0014】
本発明において、エチレンガスは、工業的に入手できるものに限られず、天然由来のものでも良い。例えばリンゴ、ナシなどエチレンガスを発生する果物を小麦粉と共に保存しても良い。
【0015】
本発明のパン生地及びパン類は、本発明の条件のエチレンガス環境下で保存した小麦粉を用いる以外は、常法のパン生地の製造方法及び製パン方法により得ることができる。例えば直捏法や中種法が挙げられる。
【0016】
直捏法は、全材料を最初から混ぜて生地を製造する方法である。例えば全材料を配合、混捏し、生地をつくり、該生地を発酵した後、適当な大きさに分割し、室温でベンチタイムをとり、成形、ホイロを行なった後、焼成する。
【0017】
中種法は、材料を2段階に分けて混ぜ、生地を製造する方法である。例えば小麦粉の一部にイーストと水を加えて中種生地をつくり1次発酵を行ない、残りの材料と混捏し、生地をつくる。その後室温でフロアタイムをとり、適当な大きさに分割した後、室温でベンチタイムをとり、成形、ホイロを行なった後、焼成する。
【0018】
本発明のパン類の製造においては、さらにライ麦粉、コーンフラワー、大麦粉、米粉などの穀粉類;イースト、イーストフード;タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉など及びこれらにα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理等を行った加工澱粉類;ブドウ糖、果糖、乳糖、砂糖、イソマルトースなどの糖類;卵黄、卵白、全卵その他の卵に由来する成分である卵成分;粉乳、脱脂粉乳、大豆粉乳等の乳成分;ショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油等の油脂類;乳化剤;食塩等の無機塩類;保存料;ビタミン;カルシウム等の強化剤等の通常パン製造に用いる副原料を使用することができる。
【0019】
本発明のパン類としては、食パン、ロールパン、菓子パン、ドーナツ、調理パン等が挙げられる。食パンとしては白食パン、フランスパン、バラエティーブレッド、イングリッシュマフィン等が挙げられ、ロールパンとしては、テーブルロール、バターロール、コッペパン、スィートロール、バンズ等が挙げられ、菓子パンとしては、アンパン、ジャムパン、クリームパン、カレーパン等のフィリング類をパンに詰めたもの、メロンパン、レーズンパン、デニッシュペストリー、クロワッサン、ブリオッシュ等が挙げられ、調理パンとしては、ハンバーガー、ホットドック、ピザ等が挙げられる。
【実施例】
【0020】
以下本発明を具体的に説明する為に実施例を示すが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
試験例1 [小麦粉のエチレン環境下での保存]
アルミ蒸着パック(容量6L)に小麦粉2kgを直接入れ、容器内が所定の濃度になるようにエチレンガスを注入し、20℃の室温に保存した。
所定の保存期間後、ガスを抜き製パン試験を実施した。
【0021】
試験例2 [製パン試験]
試験例1で得たエチレン処理小麦粉を用いて、食パンを製造した。詳細には、下記の中種法の製パン試験を行った。
(1)中種配合として、パン用強力小麦粉70質量部、イースト2.2質量部、イーストフード0.1質量部、に水40質量部を加え、SKミキサー使用し、低速2分、中速2分間ミキシングして生地を得た。捏上温度は24℃であった。
(2)得られた生地を27℃、湿度75%で4時間一次発酵した。
(3)上記生地に本捏配合として、パン用強力小麦粉30質量部、食塩2質量部、砂糖5質量部、脱脂粉乳2質量部に水25質量部を加え、低速2分、中速3分、中高速1分ミキシングし、さらに油5質量部を入れ低速1分、中速3分、中高速8分ミキシングした。
(4)27℃、湿度75%で20分フロアタイムをとり、次に220g×4に分割し、ベンチタイム20分とった。
(5)分割した生地4つを食パン型の2斤型にいれ、38℃、湿度80%で型の75%までホイロをとった後200℃、35分間焼成し食パンを得た。
【0022】
得られた各食パンについて、表1に示す評価基準により生地性及び食感を10名のパネラーで評価した。生地性については未処理の小麦粉を使用した場合と比較した。また、食感については得られた各食パンの製造後翌日と3日後に未処理の小麦粉を使用した場合の食感と比較した。得られた結果を下記の表2に示す。さらに試験例1におけるエチレン処理の温度を0、3又は20℃と変化させ、エチレン濃度10ppmで7日間保存したのち製パン試験を実施した結果を表3に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
【表3】
【0026】
実施例1〜12は、生地性、食感ともに未処理の小麦粉を使用した場合と比べ優れていた。
これに対し、エチレン濃度が0.1ppm未満である比較例1〜3及び保存日数が1日未満である比較例4、6及び7は生地性及び食感の何れも未処理の小麦粉を使用した場合と大差がなく不適であった。またエチレン濃度が1000ppmを越える比較例9〜12及び保存日数が14日を越える比較例5及び8では生地性が弾力なく、弱くなりすぎ不適であり、さらに食感についても、ねちゃつきが出て口溶けが悪く不適であった。
【0027】
また保存温度を変化させたところ、生地性、食感ともに3℃以上の場合がより改善効果があることが明らかとなった。