(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6268637
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】水中構造体、底質改善方法、並びにアマモ場造成方法
(51)【国際特許分類】
E02B 1/00 20060101AFI20180122BHJP
A01G 33/00 20060101ALI20180122BHJP
【FI】
E02B1/00 Z
A01G33/00
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-6697(P2014-6697)
(22)【出願日】2014年1月17日
(65)【公開番号】特開2015-135005(P2015-135005A)
(43)【公開日】2015年7月27日
【審査請求日】2016年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129300
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】越川 義功
(72)【発明者】
【氏名】新保 裕美
(72)【発明者】
【氏名】田中 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】日比野 忠史
(72)【発明者】
【氏名】河内 友一
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 一郎
(72)【発明者】
【氏名】中本 健二
(72)【発明者】
【氏名】南條 英夫
【審査官】
亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−213189(JP,A)
【文献】
特開2003−111530(JP,A)
【文献】
特開2007−029933(JP,A)
【文献】
特開2012−223733(JP,A)
【文献】
特開平08−238036(JP,A)
【文献】
特開平08−056511(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/054991(WO,A1)
【文献】
道路土工−擁壁工指針,日本,社団法人 日本道路協会,2007年 4月27日,第20頁の表1−5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 1/00
A01G 33/00−33/02
A01C 1/00−1/08
A01K 61/00
E02B 3/04−3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底に形成される水中構造体であって、
裏面を前記水底に略面接触させる平板状の可撓性部材による枠体によって略矩形に囲繞された開口部と、前記枠体の表面から立設する多数の細長の棒状部と、を備える構成単位を略格子状に整列させた構成であり、
成型された固形物が一又は複数の前記開口部内に均されているとともに、前記多数の棒状部材により、前記開口部内からの前記固形物の流出が抑制される水中構造体。
【請求項2】
前記構成単位を、波向きに対して略平行の方向に2以上、略垂直の方向に3以上、計6以上整列させた請求項1記載の水中構造体。
【請求項3】
前記枠体の開口幅が200〜1,000mmであり、前記棒状部の長さが100〜500mmである請求項1又は請求項2記載の水中構造体。
【請求項4】
前記固形物の比重が1.5〜2.5である請求項1〜3のいずれか一項記載の水中構造体。
【請求項5】
前記固形物が石炭灰造粒物である請求項1〜4のいずれか一項記載の水中構造体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項記載の水中構造体を水底に設置する工程と、
前記固形物として底質改善材料を前記開口部内に投入する工程と、を含む底質改善方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項記載の水中構造体を水底に設置する工程と、
前記固形物として、アマモ場造成用基材を前記開口部に敷き均す工程と、を含むアマモ場造成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然の又は人工的な固形物の所定水域からの流出を抑制するための水中構造体、前記水中構造体を用いた底質改善方法及びアマモ場造成方法などに関連する。
【背景技術】
【0002】
近年、主に沿岸域などにおいて、その水域に堆積する土砂量が流出する土砂量よりも少なくなった結果、海岸が浸食され、汀線が後退する現象が多くみられ、問題となっている。それに対し、波浪などによる土砂の流出を防ぐために、例えば、水域に消波ブロックを設置するなどの措置が広く採用されている。
【0003】
また、近年、水深の比較的浅い水域における水質環境の悪化と、それに伴うその周辺環境の悪化が問題となっている。例えば、生活排水など、多くの富栄養物が特定の水域に大量に流入すると、プランクトンなどが増殖し、それらの死骸などが水底に堆積する。それらの堆積した有機物などは、好気性微生物などにより分解されるが、その際、多くの酸素が消費されるため、底質が貧酸素化する。底質が貧酸素化すると、その水域に生息する生物が死滅する。また、嫌気性微生物などが硫化水素などの臭気成分を発生させるため、水底が腐敗化して水質環境を悪化させるだけでなく、悪臭などにより、周辺環境をも悪化させる。それに対し、例えば、その水域を砂・底質改善材料などで覆ったり、底質改善材料などをその水域に投入してマウンドを形成したりすることにより、底質改善を図る措置などが採られている。
【0004】
さらに、近年、単に、海岸浸食、水域及びその周辺における環境悪化などを抑制するだけでなく、水深の比較的浅い水域における環境を修復し、それによる動植物の生育・稚魚育成と生物多様性の確保を推進し、さらには漁場の回復などを図ることが求められている。それに対し、例えば、アマモ場の造成が試みられている。アマモは、海中に生える種子植物で、従来、沿岸砂泥地に自生し、「アマモ場」と呼ばれる大群落を形成する。アマモ場は幼稚魚・小形動物の生育場所ともなっている。しかし、沿岸域の埋立て・護岸工事、水質汚濁などにより、アマモ場は減少している。そこで、例えば、アマモ造成用基材を特定の水域に敷き均し、その水域でアマモを生育させてアマモ場を造成・回復し、環境の修復と生物多様性の確保を目指す試みが進められている。
【0005】
上記事項を含め、海岸浸食防止、護岸、水質環境・底質の改善、悪臭発生の防止、水域の周辺環境の改善、環境修復、アマモ場造成、動植物の生育、稚魚育成、生物多様性の確保、漁場の回復など、様々な目的で、砂礫、底質改善材料、アマモ造成用基材など、天然の又は人工的な固形物を水底に投入したり、敷き均したりなどすることがある。その際、それらの目的を達成するために、多くの場合、それらの天然の又は人工的な固形物を、所定の水域内に長期間保持する必要がある。
【0006】
固形物などを所定水域内に長期間保持させる手段として、例えば、籠内に固形物などを収納して水底に設置する方法(特許文献1など参照)、袋体内に固形物などを収容して水底に設置する方法(特許文献2など参照)などが開示されている。また、特許文献3には、人工海草を基体ネットに取り付けた上で、種子マット上にその基体ネットを敷き、水底に固定する海草育成手段が記載されている。
【特許文献1】特開2011−252330号公報
【特許文献2】特開2012−117280号公報
【特許文献3】特開2002−119161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の通り、天然の又は人工的な固形物を水底に投入などする場合、それらの固形物を所定水域に長期間保持させる必要がある。しかし、固形物を所定水域に保持させるための従来の手段の場合、複雑な又は堅牢な構成を採用することが多く、設置作業が煩雑であり、設置コストが高い場合も多い。
【0008】
また、水質環境などを考慮した場合、固形物を保持するための手段を所定水域に設置することにより固形物の周囲の水の流通が阻害されると、貧酸素化などの環境の悪化が却って起こりやすくなる。従って、固形物を保持するための手段を設置した後も、固形物の周囲では水の流通が維持されていることが好ましい。しかし、固形物を保持するための手段を複雑な又は堅牢な構成にすると、それにより水の流通などが却って阻害され、固形物の周囲の水が停滞しやすい。
【0009】
そこで、本発明は、所定の水底に固形物を投入する場合などにおいて、簡易かつ低コストで設置可能であり、かつ固形物の周囲の水の流通を維持しつつ、その固形物を長期間その水域内に保持することが可能な固形物保持手段を提供することなどを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、水底に形成される水中構造体であって、裏面を前記水底に略面接触させる枠体によって略矩形に囲繞された開口部と、前記枠体の表面から立設する多数の細長の棒状部と、を備える構成単位を略格子状に整列させた構成であり、天然の又は人工的な固形物が一又は複数の前記開口部内に均されているとともに、前記多数の棒状部材により、前記開口部内からの前記固形物の流出が抑制される水中構造体を提供する。
【0011】
この水中構造体では、例えば、波向きに対して略平行の方向及び略垂直の方向に構成単位をそれぞれ整列させ、全体として、略格子状に形成される。各構成単位は、枠体と、その枠体によって囲繞される開口部により形成され、枠体の表面には多数の細長の棒状部が立設されている。
【0012】
例えば、海岸浸食防止、護岸などの目的で所定の水底にこの水中構造体を設置した場合、この水中構造体の各開口部内には、その水域に元々堆積していた砂礫などの天然の固形物が均されている。また、海岸浸食防止、護岸、水質環境・底質の改善、悪臭発生の防止、水域の周辺環境の改善、環境修復、アマモ場造成、動植物の生育、稚魚育成、生物多様性の確保、漁場の回復など、様々な目的で、砂礫、底質改善材料、アマモ造成用基材など、天然の又は人工的な固形物を投入したり、敷き均したりなどすることにより、開口部内に、それらの固形物が均された状態を人為的に作出することもできる。
【0013】
この水中構造体では、略格子状の骨組み部分である枠体の表面に多数の細長の棒状部が立設されているため、例えば、それらの固形物が波浪などの外力により捲きあげられたり移動したりした場合でも、それらの固形物は開口部内からの脱出を棒状部に妨害される。従って、開口部内からのそれらの固形物の流出を有効に抑制でき、それらの固形物を長期間所定水域内に保持することができる。例えば、砂礫などよりも比重の低い、比重1.5〜2.5の固形物の場合も、この構成により、開口部内からの流出を有効に抑制できる。
【0014】
本発明者らが独自に得た知見により、水底に微細な凹凸の地形変化が生じると、その微細な変化が引き金となり、岸側に移動していき、全体に波及し、大きな浸食に変化していくことが分かった。それに対し、本発明では、固形物の移動・脱出が棒状部に妨害されるため、開口部内における微細な凹凸の変化の発生及びその全体への波及を抑制できる。これにより、開口部内で大きな地形変化が生じることを防止できるため、固形物を長期間開口部内に保持することができる。
【0015】
また、各棒状部は隙間を有する状態で立設されているため、開口部内の固形物の周囲への水の流通は維持される。従って、この水中構造体を設置した後も、その水中構造体内における貧酸素化、水底の腐敗化などの環境の悪化などを抑止できる。
【0016】
一般的に、水中に構造物が形成されると、その壁面付近で鉛直方向の渦が発生し、その壁面の土台部分をえぐるため、その構造物自体の水底への固定状態を不安定化させる。それに対し、本発明では、各棒状部が隙間を有する状態で立設されており、水がその隙間を流通するため、渦の発生などを抑制できる。これにより、水中構造体の土台部分における地形変化が少なく、固定状態を安定的に維持できるため、長期間の設置が可能である。
【0017】
この水中構造体は、上記の通り略格子状に形成され、一定の領域にわたって設置される。これにより、例えば、設置区域内の一部の水底において地形変動が発生した場合であっても、その他の領域では水底面が安定しており、固形物の流出が抑制されているため、大きな浸食に拡大しない。従って、水底における砂面変動の発生を長期的に抑制でき、水底の地形を長期間安定に維持することができる。
【0018】
また、本発明者らが独自に得た知見では、本発明に係る水中構造体を水底に設置すると、全体の外周近傍に、固形物が堆積し、隆起が形成される一方、さらにその周りの領域では大きく窪み、周辺領域から水中構造体に向けて傾斜が形成される。これにより、水中構造体の周辺及びその内域において、水底全体の地形を長期間安定化できるとともに、水中構造体の土台部分及びアンカーなどの固定手段がえぐられて露出することを防止でき、固定状態を安定的に維持できる。水中構造体の内域における固形物も長期間その開口部内に保持される。
【0019】
この水中構造体は、運搬可能な形態であり、水底への設置・固定も比較的容易である。また、各部材も比較的安価に製造できる。従って、簡易かつ低コストでの施工が可能である。
【0020】
例えば、この水中構造体を水底に設置した後、固形物として底質改善材料を水中構造体の開口部内に投入することにより、簡易かつ低コストに、底質改善材料を所定水域に供給することができ、かつ長期間底質改善材料を水域内に保持することが可能である。従って、有効な底質改善が可能である。
【0021】
また、例えば、この水中構造体を水底に設置した後、固形物として、アマモ場造成用基材を開口部に敷き均すことにより、長期間アマモ場造成用基材を水域内に保持することが可能である。この水中構造体では、各棒状部間に隙間が形成されているため、アマモが成長した際に、その隙間に伸長していくことができ、生育が阻害されない。従って、本発明に係る水中構造体は、アマモの定着・生育に必要な場を長期間保持し、かつアマモの成長を阻害しない点で、アマモ場の群体形成に適している。
【0022】
その他、本発明は、海岸浸食防止、護岸、水質環境・底質の改善、悪臭発生の防止、水域の周辺環境の改善、環境修復、アマモ場造成、動植物の生育、稚魚育成、生物多様性の確保、漁場の回復など、様々な目的で、砂礫を含む天然の又は人工的な固形物を水底に均す全ての場合に適用可能である。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、簡易かつ低コストで、砂礫を含む天然の又は人工的な固形物を所定の水域内に長期間保持させることが可能であり、また、設置後も、その固形物の周囲の水の流通を維持することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
<本発明に係る水中構造体について>
本発明は、水底に形成される水中構造体であって、裏面を前記水底に略面接触させる枠体によって略矩形に囲繞された開口部と、前記枠体の表面から立設する多数の細長の棒状部と、を備える構成単位を略格子状に整列させた構成であり、天然の又は人工的な固形物が一又は複数の前記開口部内に均されているとともに、前記多数の棒状部材により、前記開口部内からの前記固形物の流出が抑制される水中構造体をすべて包含する。以下、
図1及び
図2を用いて説明する。なお、本発明はこれらの実施形態のみに狭く限定されない。
【0025】
図1は、本発明に係る水中構造体を水底に設置した場合の例を示す平面模式図である。
図2は、本発明に係る水中構造体の部分外観斜視模式図であり、水中構造体のうちの一つの構成単位を中心とした部分図である。
【0026】
図1の水中構造体Aは、沿岸域S近傍の水底Wに、2つの構成単位B、Bによって形成されたユニットを縦横に整列させることにより形成されており、波向きX1に対して略平行の方向に3つ、略垂直の方向に8つ、計24の構成単位Bが形成されている。
【0027】
図2の水中構造体Aにおける構成単位Bは、裏面11を水底Wに略面接触させる枠体1によって略矩形に囲繞された開口部2と、枠体1の表面12から立設する多数の細長の棒状部3と、を備えている。
【0028】
水中構造体Aは、構成単位Bを略格子状に整列させた構成であり、全体として、水底Wに形成される。水中構造体Aは、全体として略格子状に形成されていればよく、例えば、全ての構成単位Bが連続して一つの部材として形成されたもの、複数の構成単位Bが連続してユニットを形成し、複数のユニットを整列させることにより形成されたもの、独立した各構成単位Bを整列させることにより形成されたもの、などをすべて包含する。
【0029】
この水中構造体Aは、例えば、前記構成単位Bを、波向きX1に対して略平行の方向に2以上、略垂直の方向に3以上、計6以上整列させた構成、より好適には、波向きX1に対して略平行の方向に3以上、略垂直の方向に3以上、計9以上整列させた構成にしてもよい。上限は、設置面積などにより変動するものであり、特に限定されないが、波向きX1に対して略平行の方向及び略垂直の方向にそれぞれ100以下が好適である。
【0030】
波向きX1に対して略平行の方向及び略垂直の方向に構成単位Bを略格子状に整列させることにより、一定の領域にわたって水中構造体Aを設置することになる。これにより、例えば、設置区域内の一部の水底において地形変動が発生した場合であっても、その他の領域では水底面が安定しており、固形物の流出が抑制されているため、大きな浸食に拡大しない。従って、水底における砂面変動の発生を長期的に抑制でき、水底の地形を長期間安定に維持することができる。
【0031】
また、水中構造体Aの外周に位置する構成単位B1〜B2〜B3〜B4では、波浪などの外力が直接負荷されるため(符号X2、X3)、その領域の各構成単位B1〜B2〜B3〜B4内では多少の地形変動が生じる恐れがあるが、その外力は内域に位置する構成単位B5〜B6、B7〜B8までは充分には到達せず(符号X4、X5)、構成単位B5〜B6、B7〜B8では、地形変動がほとんど生じない。従って、水中構造体Aを複数の構成単位Bを整列させて形成することにより、内域に位置する各構成単位B5〜B6、B7〜B8内では、より確実に、水底の地形を長期間安定に維持することができる。
【0032】
水中構造体Aの設置場所は、水深の比較的浅い水域であればよく、目的などに応じて適宜定めることができ、特に限定されない。例えば、沿岸域などの海、湖沼、河川などにおいて、設置可能である。
【0033】
水中構造体Aの設置・固定手段については、公知の方法を広く採用でき、特に限定されない。例えば、アンカー・ピン部材などの打付けにより行ってもよいし、水中構造体Aを土嚢などに係止し、水底に沈めて固定してもよい。また、例えば、枠体1にアスファルトマットなどを採用し、その表面11に棒状部3を形成し、その水中構造体Aを水底に整列させて沈め、固定してもよい。
【0034】
枠体1は、水中構造体Aの基盤となる部材で、略格子状に形成された際の骨組み部分である。枠内には開口部2が形成される。枠体1の裏面11は水底Wに略面接触させる部位であり、表面12からは棒状部3が多数立設する。
【0035】
枠体1は、例えば、全ての構成単位Bが連続して一つの部材として形成される場合は略格子状に形成され、複数の構成単位Bが連続してユニットが形成される場合は、開口部2が構成単位Bの数だけ形成された略矩形の平板として形成され、一つの構成単位Bが独立した部材として形成される場合は、一つの開口部2が形成された略矩形の平板として形成される。なお、枠体1を形成する各桟部13は、一つの構成単位Bの構成要素となる場合と、隣接する二つの構成単位B、Bの共通の構成要素となる場合がある。
【0036】
枠体1の材質は、公知の平板状のものを広く採用でき、特に限定されないが、例えば、アスファルトマットなど、平板状の可撓性部材を好適に用いることができる。枠体1の材質に、アスファルトマットなど、平板状の可撓性部材を採用することにより、例えば、波浪などにより水底Wの一部が浸食され、水中構造体Aの設置区域やその周辺に地形変化が発生した場合であっても、枠体1がその地形変化に応じて撓むことにより、枠体1と水底Wとが略密着した状態を維持でき、枠体1と水底Wとの間に隙間が形成されることを最小限に抑えることができる。これにより、水底Wにおける地形変化の全体への波及を有効に抑制でき、開口部2内に均された固形物を長期間確実に保持することができる。なお、多くの場合、長期間水中に設置しても劣化しない材質の方がより好ましい。
【0037】
枠体1を形成する各桟部13の幅は、開口部2の大きさ、立設させる棒状部3の数・密度などを考慮して設計する。枠体1の幅が大きいと水底Wを覆う部分が大きくなり、小さいと棒状部3を適当な間隔で多数立設させるのが難しくなる。例えば、15mm〜150mm程度が好適である。
【0038】
開口部2は、水中構造体Aを水中に設置した際に水底Wが露出している部分であり、枠体1によって略矩形に囲繞された部分である。
【0039】
水中構造体Aを水底Wに設置した際には、天然の又は人工的な固形物が少なくとも一又は複数の開口部2内に均されている。即ち、例えば、海岸浸食防止、護岸などの目的で所定の水底Wに水中構造体Aを設置した場合、水中構造体Aの各開口部2内には、その水域Wに元々堆積していた砂礫などの天然の固形物が均されている。また、例えば、海岸浸食防止、護岸、水質環境・底質の改善、悪臭発生の防止、水域の周辺環境の改善、環境修復、アマモ場造成、動植物の生育、生物多様性の確保、漁場の回復などの目的で所定の水底Wに水中構造体Aを設置した場合、砂礫、底質改善材料、アマモ造成用基材など、天然の又は人工的な固形物が投入されたり、敷き均されたりしている。
【0040】
開口部2では、水底Wが露出しているため、波浪などの外力により、天然の又は人工的な固形物が捲きあげられたり移動したりするが、本発明構成により、水底Wの地形変動は、ほとんど発生せず、若しくは発生しても水中構造体Aの外周に位置する構成単位B1〜B2〜B3〜B4に限定され、内域に位置する構成単位B5〜B6ではほとんど発生しない。
【0041】
開口部2の寸法、即ち、枠体1の開口幅d1は、目的・用途などにより適宜設定することができ、特に限定されない。例えば、枠体1の開口幅が大きすぎると波浪などの外力による水底Wの地形変動が生じやすくなり、小さすぎると作業効率が低下し、また、水底Wの露出する面積が小さくなり当初の目的を達成できない。例えば、枠体1の開口幅d1は、200〜1,000mmが好適である。
【0042】
棒状部3は、細長で、棒状又は針状に形成された部位である。枠体1の表面12から多数立設され、略櫛状に形成される。棒状部3が形成されていることにより、開口部2内からの固形物の流出を有効に抑制できる。
【0043】
棒状部3は、所定の間隔で形成され、各棒状部3間には、所定の隙間が形成される。棒状部3の間に隙間が形成されていることにより、水中構造体A内、及び、開口部2内に存在している固形物周辺への水の流通が維持されるため、水中構造体A内における貧酸素化、水底の腐敗化などを抑止でき、生物の生育を促進できる。また、水中構造体Aの外周における渦の発生などを抑制できるため、水中構造体Aの外周に位置する枠体1の近傍部分における地形変化を少なくできる。その他、例えば、本発明をアマモ場造成に適用する場合は、アマモが成長する際に、その隙間に伸長していくことができるため、アマモの生育が阻害されない。
【0044】
各棒状部3間の間隔は、特に限定されない。例えば、砂などよりも粒径の大きい固形物を開口部2内に存在させる場合は、その固形物の中央粒径と略同一(例えば、中央粒径±10mm)に設定することにより、その固形物の棒状部3間の隙間からの流失を抑制できる。但し、棒状部3間の間隔が狭すぎると、水の流通が阻害され、またアマモの生育にも不利となるため、目的・用途などを考慮し、適宜設定する。
【0045】
棒状部3の配列についても特に限定されないが、例えば、長手方向に一列に配置するよりも、複数列配置し、隣接する列と互い違いになるように配置する方が、水の流通を維持しながら固形物の流失を有効に抑制できるため、より好適である。
【0046】
棒状部3の形状については、細長に形成されていればよく、特に限定されない。例えば、略円筒形状、略立方体形状、略錐形状、略針状、略多角形状のものなどを適宜採用できる。
【0047】
棒状部3の長さd2についても、適宜設定でき、特に限定されない。例えば、棒状部3の長さd2が100〜500mmであるものを好適に用いることができる。
【0048】
開口部2内に均されている固形物は、水中構造体Aを設置する水域に元々堆積していた砂礫などの天然の固形物、その水域に投入又は敷き均す砂礫、底質改善材料、アマモ造成用基材などを含む天然の又は人工的な固形物など、水底に均された固形物を広く包含し、特に限定されない。例えば、砂状、粒状、ペレット状、略球状、所定形状に成型したものなどを広く包含する。
【0049】
本発明は、砂礫など、比較的比重の高いものだけでなく、固形物の比重が1.5〜2.5の範囲であるものについても適用可能である。この範囲の比重の固形物が開口部2内に存在している場合、これらの固形物は波浪などの外力により捲き上げられる場合があるが、棒状部3によりこれらの固形物の脱出は阻止される。
【0050】
石炭灰造粒物は、底質改善機能を有し、アマモ場造成用基材にも適している。従って、固形物が石炭灰造粒物であることは本発明に好適である。
【0051】
石炭灰造粒物は、例えば、石炭灰約90%、セメント約10%、ベントナイトなどの粘土分約3%を加え、連続式ミキサーで加水混合することにより、直径約10mm程度の大きさに造粒したものである。
【0052】
石炭灰造粒物は、窒素・リンの吸着能力に優れ、水質・底質の浄化特性を有することが知られており、水砂代替材として、石炭灰造粒物で覆砂やマウンド形成を行うことにより、底質を改善できることが知られている。そこで、本発明に係る水中構造体Aを水底に設置するとともに、その開口部2内に固形物として石炭灰造粒物を敷き均すことにより、石炭灰造粒物を所定水域に長期間保持させることができ、かつ石炭灰造粒物の周辺の水の流通も維持できるため、有効に底質改善を図ることができる。
【0053】
また、上記の通り、石炭灰造粒物は、アマモ場造成用基材にも適している。例えば、本発明に係る水中構造体Aを水底に設置するとともに、その開口部2内に固形物として石炭灰造粒物を敷き均し、そこにアマモを播種・植え付けし、生育させる。水中構造体Aを水底に設置することにより、石炭灰造粒物を所定水域に長期間保持させることができ、かつ石炭灰造粒物の周辺の水の流通も維持できるため、アマモを定着・成長させることができる。また、この水中構造体Aでは、棒状部3の間に隙間が形成されているため、アマモの生育が阻害されない。その他、アマモは窒素・リンを吸収する性質を有しているため、アマモ場を造成することにより、その水域の水質を浄化できる。
【0054】
<本発明に係る底質改善方法について>
本発明は、上記の水中構造体を水底に設置する工程と、前記固形物として底質改善材料を前記開口部内に投入する工程と、を含む底質改善方法をすべて包含する。
【0055】
上記の通り、本発明に係る水中構造体は、固形物を所定水域に長期間保持させることができ、かつ水中構造体の開口部内に存在する固形物の周囲の水の流通も維持できる性能を有する。そこで、例えば、水中構造体を水底に設置し、固形物として底質改善材料を水中構造体の開口部内に投入することにより、有効に底質改善を図ることができる。
【0056】
底質改善材料には、公知のものを広く採用でき、特に限定されない。例えば、上記の石炭灰造粒物を適用してもよい。
【0057】
<本発明に係るアマモ場造成方法について>
本発明は、上記の水中構造体を水底に設置する工程と、前記固形物として、アマモ場造成用基材を前記開口部に敷き均す工程と、を含むアマモ場造成方法をすべて包含する。
【0058】
上記の通り、本発明に係る水中構造体は、固形物を所定水域に長期間保持させることができ、かつ水中構造体の開口部内に存在する固形物の周囲の水の流通も維持できる性能を有する。そこで、例えば、水中構造体を水底に設置し、固形物としてアマモ場造成用基材を水中構造体の開口部内に敷き均し、そこにアマモを植え付けることにより、アマモ場の造成を図ることができる。
【0059】
アマモ場造成用基材には、公知のものを広く採用でき、特に限定されない。例えば、上記の石炭灰造粒物を適用してもよい。
【実施例1】
【0060】
実施例1では、幾何縮尺1/10の水理模型実験を行った。
【0061】
二次元水路(幅0.2m、長さ8.0m、高さ0.3m)の水底に、固形物を敷き詰めた。固形材には、石炭灰を材料として造粒したものを粒度調整した後用いた。固形物の中央粒径は1.1mm、空隙が多く、みかけ比重は約1.8であった。
【0062】
浸食防止用部材として、プレート上に直径0.5mm、高さ15mmの棒状部を縦横2mm間隔で長手方向5列に隣の列とは互い違いになるように立設した。
【0063】
二次元水路内に、この浸食防止用部材2枚を波方向に対して垂直に設置した。両者の間隔は79mmになるようにした。
【0064】
造波時間47分、波周期1.90秒、波高20mmの条件で波を当て、プレートを設置した水域及びその周辺における浸食深(mm)を測定した。
【0065】
浸食防止用部材を波向き方向に対して垂直に79mm間隔で設置した結果、両浸食防止用部材の近傍で2mmの堆積が認められ、両浸食防止用部材に挟まれた領域では、浸食は認められなかった。また、両部材の周辺における渦の形成は観察されなかった。
【0066】
幾何縮尺1/10の実験であるため、この結果は、多数の棒状部が立設された部材を約800mm間隔で水底に設置することにより、その間に挟まれた領域における水底の浸食を防止できることを示す。
【0067】
本発明は、枠体によって略矩形に囲繞された開口部と、枠体の表面から立設する多数の細長の棒状部とを備える構成であり、枠体の開口幅は200〜1,000mmである。従って、本実施例の結果は、本発明に係る構成により、開口部内での地形変化による水底の浸食を有効に防止できることを示唆する。
【実施例2】
【0068】
実施例2では、現地での適用試験を行った。
【0069】
表面に多数の細長の棒状部が立設した略矩形の枠体を試作した。枠体の寸法は600mm×600mm、棒状部の長さは150mm、であった。棒状部は長手方向に三列に、隣接する列が互い違いになるように配置され、同じ列の隣の棒状部との間隔は30mm、近接する棒状部との間隔は約8〜16mmであった。
【0070】
沿岸域の一部を、土嚢で1,200mm×1,200mmの大きさに仕切り、その中に、約300mm高に石炭灰造粒物(中心粒径11mm、比重2.2)を敷き均した。そのうちの半分の領域に、枠体を波向き方向に2つ並べて設置し、約150mmの深さまでアンカーを打ちこみ、固定した。残りの半分の領域は、枠体を設置しない対照領域とした。そして、試験領域が自然の波浪にさらされた状態で、約5ヵ月間、浸食状況の計測を行った。
【0071】
その結果、棒状部が立設された枠体を設置した領域では、設置した当初と比較して、浸食は少なかったのに対し、枠体を設置しなかった側では、石炭灰造粒物が大幅に浸食されていた。
【0072】
また、棒状部が立設された枠体を設置した領域のうち、岸側に設置された枠体内の方が、沖側に設置された枠体内よりも浸食が少なく、約5カ月を経過した後でも、枠体内の石炭灰造粒物はほとんど減らずに保持されていた。
【0073】
この結果は、本発明に係る水中構造体を用いることにより、その中に敷き均した固形物を長期間その水域内に保持することが可能であること、及び、その水中構造体の構成単位を二以上整列させることにより、特に内域側の水底の地形変化をより抑制できることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0074】
例えば、海岸浸食防止、護岸などの目的で、沿岸域に消波ブロックなどを設置する場合、設置工事が大掛かりであり、コストも多大である。それに対し、本発明に係る水中構造体を水底に設置する場合は、簡易かつ低コストに施工することが可能であり、また、水底の砂礫をその水域内に長期間保持することができるため、土砂の流出を有効に防ぐことが可能である。
【0075】
例えば、天然の又は人工的な固形物を水底に投入などする際において、それらの固形物を所定水域に長期間保持するために、蛇籠・袋体などにそれらの固形物を詰めて水底に設置する場合、固形物周辺の水流を充分に確保できないため、水質環境が悪化しやすく、生物の生育・繁殖が阻害される。また、それらの収容体の壁面に水流が衝突して渦を形成するため、土台部分の砂礫が浸食されやすく、水底の地形変化を惹起しやすい。それに対し、本発明では、各棒状部が隙間を有する状態で立設されているため、水の流通は維持される。従って、この水中構造体を設置した後も、水質環境の悪化などを抑止でき、また、水中構造体Aの外周における渦の発生などを抑制できる。
【0076】
例えば、マット状の基材に固形物などを取り付けて、水底に設置する場合、水底が基剤で被覆されるため、水底の砂面などへの水中溶存酸素の取り込みが円滑に行われず、貧酸素化、水底の腐敗化などの水質環境の悪化を惹起しやすいため、アマモなどの生物の生育が阻害される場合がある。それに対し、本発明では、略格子状に形成されることにより水底面が露出しており、また、各棒状部が隙間を有する状態で立設されていることにより水の流通も維持されている。従って、本発明により、アマモなどの生物の生育に良好な水底環境を創出できる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【
図1】本発明に係る水中構造体を水底に設置した場合の例を示す平面模式図。
【
図2】本発明に係る水中構造体の部分外観斜視模式図。
【符号の説明】
【0078】
1 枠体
2 開口部
3 棒状部
A 水中構造体
B 構成単位
S 沿岸域
W 水底