(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用多孔膜組成物、リチウムイオン二次電池用保護層付きセパレータ、リチウムイオン二次電池用保護層付き電極、リチウムイオン二次電池、およびリチウムイオン二次電池用保護層付きセパレータの製造方法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明のリチウムイオン二次電池用多孔膜組成物は、リチウムイオン二次電池のセパレータ上もしくは電極上に設けられる保護層として使用されうる多孔膜の形成に用いられる。
そして、本発明のリチウムイオン二次電池用保護層付きセパレータ及び保護層付き電極は、それぞれ、本発明のリチウムイオン二次電池用多孔膜組成物から形成される多孔膜を保護層として備えるものである。
更に、本発明のリチウムイオン二次電池は、その電池部材のいずれかに、本発明の多孔膜組成物から形成される多孔膜を保護層として備えるものである。
【0017】
(リチウムイオン二次電池用多孔膜組成物)
本発明のリチウムイオン二次電池用多孔膜組成物は、非導電性粒子及び非導電性有機繊維を含む組成物である。そして、非導電性有機繊維の平均繊維径は、0.01μm以上1.0μm以下である必要がある。また、非導電性有機繊維の平均繊維径は、0.01μm以上0.5μm以下である必要があり、更に、非導電性有機繊維の繊維径の変動係数は、0.1以上1.0以下である必要がある。なお、本発明のリチウムイオン二次電池用多孔膜組成物は、上記特定の非導電性粒子及び非導電性有機繊維を含有しており、多孔膜の形成が可能であれば、各成分を水などの溶媒中に溶解または分散させてなるスラリー組成物の形態であってもよいし、溶媒を実質的に含有しない組成物の形態であってもよい。
【0018】
そして、本発明の多孔膜組成物を用いて形成される多孔膜は、強度および電解液の拡散性に優れている。そのため、該多孔膜を用いたリチウムイオン二次電池では、電気的特性や機械的特性、特に、高温サイクル特性、レート特性、ピール強度、耐熱性などが向上する。
【0019】
なお、本発明の多孔膜組成物を用いて電極やセパレータ上に形成される多孔膜が優れた強度および電解液の拡散性を有する理由は、明らかではないが、非導電性有機繊維が非導電性粒子と接触し絡み合うことにより、いわゆるブリッジング効果が発揮されるためであると推察される。具体的には、非導電性粒子の体積平均粒子径D50と、非導電性有機繊維の平均繊維径及び繊維径の変動係数とを特定範囲に調節すると、非導電性有機繊維を非導電性粒子間の間隙に進入させ易くすることができ、結果的に、非導電性有機繊維が非導電性粒子と絡み合い易くなる。これにより、多孔膜の強度を向上させることができると共に、非導電性有機繊維が多孔膜中に延在することで多孔性が向上し、多孔膜の電解液拡散性を向上させることができる。もちろん、多孔膜中において非導電性有機繊維同士が相互に絡みあっていても良い。
加えて、本発明の多孔膜組成物を用いて形成した多孔膜は、上述のようにして多孔性が向上するため、水等の溶媒が蒸発しやすく製造時の乾燥効率に優れているという利点も有する。
【0020】
<非導電性有機繊維>
非導電性有機繊維は、非導電性を有し、多孔膜組成物において分散媒として任意で使用される溶媒や、リチウムイオン二次電池の電解液に溶解せず、それらの中においても、その形状が維持される繊維である。また非導電性有機繊維は、電気化学的にも安定であるためリチウムイオン二次電池の使用中も、多孔膜中で安定に存在する。なお、本発明において、「繊維」とは、走査型電子顕微鏡で測定したアスペクト比が10以上のものを指す。
【0021】
ここで、具体的な非導電性有機繊維としては、セルロース、キチン、キトサンなどの多糖類から構成される繊維及びそれらの繊維に脱アセチル化などの化学的処理を施した繊維や、ポリエステル繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ポリアラミド繊維、ポリアミドイミド繊維、ポリイミド繊維などの合成高分子から構成される繊維などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも多孔膜の強度を確保する観点から、非導電性有機繊維としては、多糖類から構成される繊維及びそれらの繊維に脱アセチル化などの化学的処理を施した繊維が好ましく、多糖類から構成される繊維がより好ましく、セルロース繊維、キチン繊維がさらに好ましい。
【0022】
そして、非導電性有機繊維は、平均繊維径が、0.01μm以上0.5μm以下である必要があり、0.02μm以上であることが好ましく、0.2μm以下であることが好ましく、0.1μm以下であることがより好ましく、0.06μm以下であることが特に好ましい。非導電性有機繊維の平均繊維径をこのような範囲内とすることで、後述する非導電性粒子間の間隙に非導電性有機繊維を進入させ易く、且つ、相互に絡み易くして多孔膜の強度を高めることができるとともに、多孔膜の電解液拡散性を良好にして、かかる多孔膜を用いたリチウムイオン二次電池の電気的特性を向上させることができる。特に、非導電性有機繊維の平均繊維径を上記範囲内とすることで、電極やセパレータ等の基材上に多孔膜組成物を塗布して得た多孔膜のピール強度を向上させることができる。また、非導電性有機繊維の平均繊維径を上記上限値以下とすることで、多孔膜中で非導電性有機繊維が相互に絡みやすくなって多孔膜の強度が上がり、結果的に多孔膜を有するセパレータの耐熱性を良好にすることができる。一方、非導電性有機繊維の平均繊維径を上記下限値以上とすることで、多孔膜中において相互に絡み合う非導電性有機繊維間に隙間を確保し(即ち、多孔性を確保し)、吸水性を低下させて多孔膜中に保持される水分量を低減することができる。その結果、リチウムイオン二次電池中に水分が混入することによるガスの発生や電池性能の低下を抑制することができる。
なお、本発明において、「平均繊維径」は、走査型電子顕微鏡を用いて測定した、任意に選択した100個の繊維の短径の平均値として求めることができる。
【0023】
さらに、本発明における非導電性有機繊維の繊維径の変動係数は、0.1以上である必要があり、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上であり、且つ、1以下である必要があり、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.8以下である。非導電性有機繊維の繊維径の変動係数が上記範囲内となるようにすることで、非導電性有機繊維間に非導電性粒子や比較的小径の非導電性有機繊維を進入させ易くして、多孔膜の充填性(パッキング性)を向上させることができる。これにより多孔膜の強度を高めることができ、多孔膜の耐熱性や、ピール強度を向上させることができる。
ここで、「繊維径の変動係数」とは、非導電性有機繊維の繊維径のばらつきを表す指標である。ここで、繊維径の変動係数は、上述のようにして測定した繊維径から繊維径分布(個数基準)の標本標準偏差(SD
total)及び平均繊維径(Ave
total)を求めることにより、式:変動係数=[(SD
total)/(Ave
total)]を用いて算出することができる。
【0024】
ここで、非導電性有機繊維の平均繊維長は、好ましくは1μm以上であり、好ましくは600μm以下、より好ましくは400μm以下、特に好ましくは200μm以下である。非導電性有機繊維の平均繊維長をかかる範囲内とすることで、多孔膜の強度を十分に向上させることができる。非導電性有機繊維の平均繊維長を1μm以上とすることで、多孔膜の強度を向上させ、また、耐熱性を向上させることができる。また、非導電性有機繊維の平均繊維長を600μm以下とすることで、多孔膜組成物を均一に塗工し易くできる。なお、本発明において、「平均繊維長」は、走査型電子顕微鏡を用いて測定した、任意に選択した100個の繊維の長径の平均値として求めることができる。
【0025】
なお、多孔膜組成物がスラリー組成物である場合、上述した非導電性有機繊維は、スラリー組成物に適度な粘度を付与する作用を発揮する。そのため、多孔膜スラリー組成物では、溶媒中の各成分の分布の不均一化を抑制し、セパレータ上や電極上に形成した多孔膜全体に相互に絡みあった非導電性有機繊維が分散するようにして、多孔膜の強度を高めることができる。このようなスラリー組成物に適度な粘度を付与する観点からは、非導電性有機繊維はヒドロキシル基を有することが好ましい。
【0026】
<非導電性粒子>
非導電性粒子は、非導電性を有し、多孔膜組成物において分散媒として任意で使用される溶媒や、リチウムイオン二次電池の電解液に溶解せず、それらの中においても、その形状が維持される粒子である。そして非導電性粒子は、電気化学的にも安定であるためリチウムイオン二次電池の使用環境下で、多孔膜中に安定に存在する。上述したように、多孔膜組成物が非導電性粒子を含むことで、多孔膜の形成時に非導電性有機繊維が非導電性粒子を巻き込みながら相互に絡み合うので、多孔膜中で非導電性有機繊維同士が相互に絡みあって形成された構造が適度に目詰めされる。その結果、リチウムデンドライトが多孔膜を貫通するのを防止し、電極の短絡を十分に抑制することができる。
ここで、非導電性粒子としては、例えば各種の無機粒子や有機粒子を使用することができる。なお、本発明において、「粒子」とは、走査型電子顕微鏡で測定したアスペクト比が1以上10未満のものを指す。
【0027】
有機粒子としては、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリジビニルベンゼン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体架橋物、そして、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ベンゾグアナミン−ホルムアルデヒド縮合物などの各種架橋高分子粒子や、ポリスルフォン、ポリアクリロニトリル、ポリアラミド、ポリアセタール、熱可塑性ポリイミドなどの耐熱性高分子粒子などを挙げることができる。
【0028】
無機粒子としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化チタン、BaTio
2、ZrO、アルミナ−シリ力複合酸化物等の酸化物粒子、窒化アルミニウム、窒化硼素等の窒化物粒子、シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶粒子、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の難溶性イオン結晶粒子、タルク、モンモリロナイトなどの粘土微粒子などを挙げることができる。
【0029】
これらの中でも、多孔膜の耐熱性及び強度の観点からは、非導電性粒子として酸化アルミニウム及びポリマー粒子を使用することが好ましい。
【0030】
非導電性粒子の体積平均粒子径D50は、0.1μm以上である必要があり、より好ましくは0.2μm以上であり、さらに好ましくは0.3μm以上であり、1μm以下である必要があり、好ましくは0.8μm以下、より好ましくは0.6μm以下である。非導電性粒子の体積平均粒子径D50を上記範囲内とすると、非導電性有機繊維を非導電性粒子間の間隙に進入させ易くするとともに、非導電性有機繊維同士が相互に絡みあって形成された構造が、粒径の小さい非導電性粒子によって過度に目詰めされることを回避することができる。換言すれば、非導電性粒子の体積平均粒子径D50をかような数値範囲内とすることで、非導電性有機繊維が適量の非導電性粒子を巻き込みながら相互に絡み合うようにし、強度と多孔性とを確保することができる。これにより、本発明の多孔膜組成物を用いてセパレータ上又は電極上に形成した多孔膜の強度及び電解液拡散性を向上させことができ、結果的に、かかる多孔膜を有するリチウムイオン二次電池の電気的特性を向上させることができる。
なお、非導電性粒子や後述する結着剤として用いる重合体の「体積平均粒子径D50」は、レーザー回折法で測定された粒度分布(体積基準)において小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径を表す。
【0031】
非導電性粒子のアスペクト比(長径/短径)は、通常1以上であり、通常5以下、好ましくは3以下、より好ましくは2以下である。非導電性粒子のアスペクト比が5以下であることで、多孔膜組成物中での分散性に優れ、短絡抑制など、非導電性粒子としての効果を十分に発揮することができる。なお、非導電性粒子のアスペクト比は、走査型電子顕微鏡を用いて測定した、任意に選択した100個の非導電性粒子のアスペクト比の平均値として求めることができる。
【0032】
本発明の多孔膜組成物中における非導電性粒子と非導電性有機繊維との含有量の比(非導電性粒子:非導電性有機繊維)は、質量比で、40:60〜99.9:0.1であることが好ましい。特に、非導電性粒子が無機微粒子である場合は、上記含有量の比が70:30〜99.9:0.1であることが好ましく、80:20〜99.5:0.5であることがより好ましい。一方、非導電性粒子が有機微粒子である場合は、上記含有量の比が40:60〜99.7:0.3であることが好ましく、55:45〜98.4:1.4であることがより好ましい。多孔膜組成物中における非導電性有機繊維と非導電性粒子の含有量の比を上記範囲内とすることで、非導電性有機繊維が非導電性粒子を巻き込みながら適度に絡み合うので、強度と多孔性とを高いレベルで両立させることができる。その結果、本発明の多孔膜組成物を用いてセパレータ上又は電極上に形成した多孔膜の強度及び電解液拡散性を向上させて、結果的にかかる多孔膜を用いたリチウムイオン二次電池の電気的特性を向上させることができる。また、多孔膜形成時に多孔膜中に保持される水分量を低減することができる。
なお、非導電性粒子として、有機微粒子と無機微粒子の混合物を用いることも勿論可能である。
【0033】
<結着剤>
本発明の多孔膜組成物は、結着剤を含有することが好ましい。結着剤は、得られる多孔膜の強度を確保すると共に、多孔膜に含まれる成分が多孔膜から脱離しないように一層保持する。また、多孔膜組成物をセパレータや電極のような基材上に塗布し、基材上に多孔膜を形成する場合には、多孔膜と塗布基材との密着性を向上する。
なお、以下、本明細書において「単量体単位を含む」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の構造単位が含まれている」ことを意味する。
【0034】
そして、上述した結着剤としては、フッ素系重合体、ジエン系重合体、アクリル系重合体、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン系重合体等の重合体を用いることができる。中でも、結着剤としては、アクリル系重合体が特に好ましい。
なお、これらの重合体は、多孔膜組成物が各成分を水中に溶解または分散させてなる多孔膜スラリー組成物である場合には、組成物中で粒子状の重合体として存在する。
【0035】
アクリル系重合体とは、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む重合体である。本明細書において、(メタ)アクリルとは、アクリル及び/又はメタクリルを意味する。また、アクリル系重合体は、水に不溶であり、水中では粒子状重合体として存在する。ここで、水に不溶とは、25℃において、該重合体0.5gを100gの水に加えた際に、不溶分が90質量%以上となることをいう。
以下、アクリル系重合体を製造するために必須である(メタ)アクリル酸エステル単量体、そしてアクリル系重合体の製造に使用し得る、(メタ)アクリロニトリル単量体、(メタ)アクリル酸単量体、(メタ)アクリルアミド単量体、スルホン酸基含有単量体、架橋性単量体について説明する。なお、結着剤として用いる重合体が(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含むことで(即ち重合体がアクリル系重合体であることで)、結着力を高めつつ、重合体の柔軟性が低下して多孔膜が脆くなるのを抑制することができる。
【0036】
アクリル系重合体の製造に使用可能な(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレー卜、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレートなどが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、アクリル酸アルキルエステルが好ましく、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレー卜、及び2−エチルヘキシルアクリレートがより好ましく、n−ブチルアクリレートが特に好ましい。
【0037】
アクリル系重合体における、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、特に好ましくは70質量%以上であり、好ましくは98質量%以下、より好ましくは95質量%以下、特に好ましくは94質量%以下である。アクリル系重合体における(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合が50質量%以上であることで、多孔膜の柔軟性が良好となり、クラックが入る虞がない。一方、アクリル系重合体における(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合が98質量%以下であることで、アクリル系重合体の結着剤としての強度が確保され、結着力を確保することができる。
【0038】
また、アクリル系重合体の製造に使用し得る(メタ)アクリロニトリル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられ;(メタ)アクリル酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられ;(メタ)アクリルアミド単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等が挙げられ;スルホン酸基含有単量体としては、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0039】
さらに、アクリル系重合体の製造に使用し得る架橋性単量体としては、例えば、当該単量体に2個以上の重合反応性基を有する多官能単量体が挙げられる。このような多官能単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン等のジビニル化合物;エチレンジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、アリルメタクリレート等のジ(メタ)アクリル酸エステル化合物;トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等のトリ(メタ)アクリル酸エステル化合物;アリルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基を含有するエチレン性不飽和単量体;などが挙げられる。
【0040】
なお、アクリル系重合体の重合方法は、特に限定されず、例えば溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。重合方法としては、例えばイオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの方法も用いることができる。なお、高分子量体が得やすいこと、並びに、重合物がそのまま水に分散した状態で得られるので再分散化の処理が不要であり、そのままスラリー組成物の製造に供することができることなど、製造効率の観点からは、乳化重合法が特に好ましい。なお、乳化重合は、常法に従い行うことができる。
【0041】
そして、重合に使用される乳化剤、分散剤、重合開始剤、重合助剤、連鎖移動剤などは、一般に用いられるものを使用することができ、その使用量も、一般に使用される量とする。また重合に際しては、シード粒子を採用してシード重合を行ってもよい。また、重合条件も、重合方法および重合開始剤の種類などにより任意に選択することができる。
【0042】
なお、結着剤として、共役ジエン系重合体、公知のジエン系重合体、フッ素系重合体、ポリウレタン系重合体を使用することも勿論可能である。ここで、共役ジエン系重合体とは、共役ジエン単量体単位を含む重合体であり、それらの水素添加物も含まれる。なお、共役ジエン系重合体における、共役ジエン単量体単位の含有割合は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、特に好ましくは60質量%以上である。
共役ジエン系重合体の具体例としては、ポリブタジエンやポリイソプレンなどの脂肪族共役ジエン重合体;スチレン・ブタジエン共重合体(SBR)などの芳香族ビニル・脂肪族共役ジエン共重合体;アクリロニトリル・ブタジエン共重合体(NBR)などのシアン化ビニル・共役ジエン共重合体;水素化SBR、水素化NBR等が挙げられる。そしてこれらの中でも、芳香族ビニル・脂肪族共役ジエン共重合体が好ましい。
【0043】
[多孔膜組成物中の結着剤の性状]
結着剤として用いる重合体のガラス転移温度(T
g)は、好ましくは−60℃以上、より好ましくは−50℃以上であり、好ましくは80℃以下、より好ましくは30℃以下である。結着剤として用いる重合体のガラス転移温度が−50℃以上であることで、本発明の多孔膜組成物に溶媒を加えてスラリー組成物とした場合、スラリー組成物中の配合成分が凝集して沈降するのを防ぎ、スラリー組成物の安定性を確保することができる。また、重合体のガラス転移温度が80℃以下であることで、本発明の多孔膜組成物に溶媒を加えてスラリー組成物とした場合、スラリー組成物を基材に塗布する際の作業性を良好とすることができる。ガラス転移温度は、使用する単量体の種類および量を変更することにより調整することができ、例えば、スチレン、アクリロニトリルなどの単量体を使用するとガラス転移温度を高めることができ、ブチルアクリレート、ブタジエンなどの単量体を使用するとガラス転移温度を低下させることができる。
なお、本発明において、結着剤として用いる重合体の「ガラス転移温度」は、本明細書の実施例に記載の測定方法を用いて測定することができる。
【0044】
結着剤は、多孔膜組成物が分散媒として溶媒を含むスラリー組成物である場合、該溶媒に溶解するものであってもよいが、得られる多孔膜に良好な多孔性を発現させる観点から、結着剤は、上述のアクリル系重合体や共役ジエン系重合体のように、スラリー組成物中で溶媒に溶解せず、粒子形状を有する粒子状重合体であることが好ましい。
そして、結着剤として用いる粒子状重合体の体積平均粒子径D50は、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上であり、さらに好ましくは0.15μm以上であり、1.0μm以下、より好ましくは0.8μm以下、さらに好ましくは0.5μm以下である。粒子状重合体の体積平均粒子径D50を上記範囲内とすることで、非導電性有機繊維間に結着剤も巻き込ませ、非導電性有機繊維と絡み合わせることができるため、結着性の向上に有利である。
【0045】
[多孔膜組成物中の結着剤の含有量]
本発明の多孔膜組成物において、結着剤として用いる重合体の含有量は、非導電性粒子及び非導電性有機繊維の合計含有量を100質量部とした場合に、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上であり、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは8質量部以下である。結着剤として用いる重合体の含有量を上記範囲内とすることで、結着剤として必要十分な結着性を発揮することができる。結着剤として用いる重合体の含有量が上記範囲を超えると、結着剤が多孔膜の孔に目詰まりして多孔性を損なう虞があり、その結果、ガーレー値が高くなり、電解液の拡散性が損なわれる(液抵抗が増加する)虞がある。一方、結着剤として用いる重合体の含有量が上記範囲を下まわると、結着剤と被結着物との結着点数が減少して、ピール強度が低下する虞がある。
【0046】
<その他の成分>
[溶媒]
本発明のリチウムイオン二次電池用多孔膜組成物は、上記の非導電性粒子、非導電性有機繊維、および結着剤の他に、それらの分散媒としての溶媒を含んでもよい。溶媒としては、水、そしてアセトン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、シクロヘキサン、キシレン、シクロヘキサノン等の有機溶媒が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも水が好ましい。即ち、多孔膜組成物が溶媒を含む多孔膜スラリー組成物である場合、水系の多孔膜スラリー組成物であることが好ましい。
【0047】
[粘度調整剤]
さらに、本発明のリチウムイオン二次電池用多孔膜組成物は、粘度調整剤として、水溶性の多糖類を含有することが好ましい。水溶性の多糖類としては、例えば、天然系高分子、セルロース系半合成系高分子などが挙げられる。なお、粘度調整剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。粘度調整剤を含むことにより、本発明の二次電池用多孔膜組成物がスラリー組成物の形態である場合に、その粘度を所望の範囲にして、非導電性粒子及び非導電性有機繊維の分散性を高めたり、塗工性を高めたりすることができる。
なお、本発明において、多糖類が「水溶性」であるとは、イオン交換水100質量部当たり粘度調整剤1質量部(固形分相当)を添加し攪拌して得られる混合物を、温度20℃以上70℃以下の範囲内で、かつ、pH3以上12以下(pH調整にはNaOH水溶液及び/またはHCl水溶液を使用)の範囲内である条件のうち少なくとも一条件に調整し、250メッシュのスクリーンを通過させた際に、スクリーンを通過せずにスクリーン上に残る残渣の固形分の質量が、添加した増粘剤の固形分に対して50質量%を超えないことをいう。
【0048】
ここで、粘度調整剤として使用しうる天然系高分子としては、例えば、アラビアガム、トラガカントガム、ガラクタン、グアガム、キャロブガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、コラーゲン、カゼイン、アルブミン、ゼラチン、キサンタンガム、デキストラン、サクシノグルカン、ブルラン等が挙げられる。
また、粘度調整剤として使用しうるセルロース系半合成系高分子としては、例えば、メチルセルロース、メチルエチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びそれらの塩等が挙げられる。
これらの中でも、セルロース系半合成系高分子が好ましく、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びその塩がより好ましい。
【0049】
粘度調製剤の含有量は、非導電性粒子及び非導電性有機繊維の合計含有量を100質量部とした場合に、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは、0.05質量部以上、さらに好ましくは0.1質量部以上であり、好ましくは、5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは2質量部以下である。粘度調製剤として作用する水溶性重合体の含有量を上記範囲とすることによって、多孔膜組成物をセパレータや電極上に塗工する際の塗工性を向上させて、セパレータや電極上に形成された多孔膜の強度を向上させることができる。
【0050】
[分散剤]
さらに、本発明のリチウムイオン二次電池用多孔膜組成物は、分散剤を含有することが好ましい。分散剤としては、酸性基含有単量体単位を有する水溶性重合体、及びそのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩を用いることが好ましい。ここで、酸性基含有単量体単位とは、酸性基含有単量体を重合して形成される構造を有する構造単位を示す。また、酸性基含有単量体とは、酸性基を含む単量体を示す。なお、本発明において、重合体が「水溶性」であるとは、25℃において重合体0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が0.5質量%未満であることをいう。
酸性基含有単量体単位を有する水溶性重合体は、当該水溶性重合体自体も酸性基を含むことになる。この酸性基の作用により、多孔膜組成物において非導電性粒子、非導電性有機繊維の分散性を向上させることができる。
酸性基としては、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられ、酸性基含有単量体単位を有する水溶性重合体、及びそのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩としては、例えば、ポリカルボン酸ナトリウム、ポリカルボン酸アンモニウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリアクリル酸、スルホン酸系アクリル共重合体、スルホン酸系アクリル共重合体ナトリウム塩などが挙げられる。
これらは、東亜合成株式会社より「アロン」、「ジュリマー」という商品名で市販されているものを用いることができる。
【0051】
分散剤として作用する水溶性重合体の含有量は、非導電性粒子及び非導電性有機繊維の合計含有量を100質量部とした場合に、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.2質量部以上であり、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは2質量部以下である。分散剤として作用する水溶性重合体の含有量を上記範囲内とすることで、セパレータや電極上に形成された多孔膜中において、非導電性粒子および非導電性有機繊維を均一に分散させることができ、多孔膜の強度を向上させることができる。
【0052】
[他の成分]
さらに、本発明のリチウムイオン二次電池用多孔膜組成物は、濡れ剤、補強材、酸化防止剤、電解液の分解を抑制する機能を有する電解液添加剤などの他の成分を含有していてもよい。これらの他の成分は、公知のものを使用することができ、例えば国際公開第2012/036260号に記載のものや、特開2012−204303号公報に記載のものを使用することができる。これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
<リチウムイオン二次電池用多孔膜組成物の調製>
リチウムイオン二次電池用多孔膜組成物の製造方法は、特に限定はされないが、通常は、上述した非導電性粒子及び非導電性有機繊維と、必要に応じて用いられる任意の他の成分とを混合して得られる。
ここで、非導電性有機繊維は、非導電性有機繊維の平均繊維径及び繊維径の変動係数を所定範囲とするために、以下の方法により原料繊維を解繊してから非導電性粒子等と混合することが好ましい。即ち、リチウムイオン二次電池用多孔膜組成物の製造方法は、原料繊維を解繊して上述した非導電性有機繊維を準備する工程(準備工程)と、非導電性有機繊維と非導電性粒子とを混合してリチウムイオン二次電池用多孔膜組成物を調製する工程(混合工程)とを含むことが好ましい。
【0054】
[非導電性有機繊維の解繊(準備工程)]
解繊は、非導電性有機繊維の種類に応じた既知の方法を用いて行うことができる。
例えば、非導電性有機繊維としてセルロースを用いる場合には、非導電性有機繊維の原材料とする原料繊維は、例えば特開2013−11026号公報に記載の方法を用いて解繊することができる。具体的には、原料繊維は、原料繊維を含むスラリー溶液を下記(I)〜(IV)の方法で処理することにより解繊することができる。中でも、(I)の方法を用いることが好ましい。
(I)ディスクリファイナーを用いてリファイナー(叩解)した後、リファイナー処理品をホモジナイザーを用いて処理
(II)グラインダーを用いて処理
(III)対向衝突型ホモジナイザーを用いて処理
(IV)ミキサーを用いて処理
ここで、ディスクリファイナー、ホモジナイザー、グラインダー及びミキサーの諸設定、並びに、それらを用いた処理条件及び処理回数などは、原料繊維の性状、並びに所望の平均繊維径及び繊維径の変動係数に応じて、適宜設定することができる。
【0055】
一方、非導電性有機繊維としてキチンやキトサンを用いる場合には、非導電性有機繊維の原材料とするキチンやキトサンの原料繊維は、原料繊維を氷酢酸などの酸性液体に浸漬させた後、石臼式粉砕機などを用いて処理する方法などにより解繊することが好ましい。そのような解繊処理方法は特に制限されず、例えば特開2013−112721号公報に記載の解繊処理方法を採用することができる。
【0056】
そして、これらの方法で得た非導電性有機繊維は、二次電池用多孔膜組成物中で再び絡み合ってしまうことを避けるために、分散液中で保存する。分散媒として使用する溶媒は、使用する非導電性有機繊維に損傷を与えないものであれば特に制限されず、例えば水である。尚、非導電性有機繊維同士の絡み合いをより確実に予防するため、分散液中の固形分濃度を例えば50質量%以下と低くすることが好ましい。
【0057】
[多孔膜組成物の調製(混合)]
上述のようにして調製した非導電性有機繊維の分散液と、非導電性粒子と、他の任意成分とを混合するに当たり、混合順序は、特に制限されないが、例えば分散剤として作用する水溶性重合体を配合する場合、少なくとも非導電性粒子と水溶性重合体(分散剤)とを溶媒に分散させてから、非導電性有機繊維の分散液を添加することが好ましい。このような添加順とすることで、非導電性有機繊維の分散液中で少なくとも部分的に絡み合って存在している非導電性有機繊維を十分に分散させ、多孔膜の形成時に非導電性有機繊維と非導電性粒子とを良好に絡み合わせることができるからである。なお、カルボキシメチルセルロース等の水溶性高分子を配合する場合は、同様の理由により、非導電性粒子と、非導電性有機繊維と、任意に水溶性高分子(粘度調整剤)とを溶媒に分散させた後に水溶性高分子を添加し、更にその後に結着剤を添加することが好ましい。
また、混合方法にも特に制限は無い。例えば多孔膜組成物が溶媒を含む多孔膜スラリー組成物である場合、通常は、非導電性粒子および非導電性有機繊維を速やかに分散させるため、混合装置として分散機を用いて混合を行う。
【0058】
分散機は、上記成分を均一に分散および混合できる装置が好ましい。例を挙げると、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサーなどが挙げられる。なかでも、高い分散シェアを加えることができることから、ビーズミル、ロールミル、フィルミックス等の高分散装置が特に好ましい。
【0059】
そして、多孔膜組成物が多孔膜スラリー組成物である場合、その固形分濃度は、通常、多孔膜を製造する際に作業性を損なわない範囲の粘度をスラリー組成物が有する範囲で任意に設定すればよい。具体的には、多孔膜スラリー組成物の固形分濃度は、通常20〜50質量%とすることができる。
【0060】
(リチウムイオン二次電池用保護層付きセパレータ)
本発明のリチウムイオン二次電池用保護層付きセパレータは、セパレータと、前記セパレータの表面に設けられた保護層とを備え、前記保護層が、上述の多孔膜組成物から得られる多孔膜を含む。そして、保護層付きセパレータは、例えば、リチウムイオン二次電池用多孔膜組成物をセパレータ上に塗布し、乾燥させて多孔膜を形成することにより得られる。具体的には、本発明の二次電池用保護層付きセパレータは、例えば、有機セパレータのようなセパレータの表面に溶媒を含む多孔膜組成物(多孔膜スラリー組成物)を塗布することで塗膜を形成し、形成した塗膜を乾燥することにより得ることができる。
このリチウムイオン二次電池用保護層付きセパレータの保護層を構成する多孔膜では、非導電性有機繊維が非導電性粒子の間隙を縫って延在し、相互に絡みあっているので、かかる多孔膜は強度に優れており、厚さを薄くすることが可能であり、電気抵抗を低減することができる。また、この多孔膜は、多孔性に優れているので、電解液の拡散性に優れている。従って、該保護層付きセパレータを備えるリチウムイオン二次電池のレート特性及び高温サイクル特性は、優れたものとなる。
【0061】
<有機セパレータ>
有機セパレータは、有機材料からなる多孔性部材であり、有機セパレータの例を挙げると、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂などを含む微孔膜または不織布などが挙げられる。
【0062】
<保護層>
保護層を構成する多孔膜の厚みは、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは1μm以上、特に好ましくは3μm以上であり、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下、特に好ましくは10μm以下である。本発明のリチウムイオン二次電池用多孔膜組成物を用いて形成した多孔膜は、強度に優れるため、多孔膜の厚みを比較的薄くすることができる。そして、セパレータ上に設けられた多孔膜の厚みをかかる範囲内とすることで、保護層付きセパレータを用いて製造したリチウムイオン二次電池の電気抵抗を低減し、レート特性や高温サイクル特性といった二次電池の電気的特性を向上させることができる。
なお、保護層を構成する多孔膜は、例えば以下の工程を経て形成することができる。
【0063】
[スラリー調製工程]
調製工程において用いる非導電性粒子、非導電性有機繊維、溶媒、および他の任意成分は、上述した本発明の多孔膜組成物に用い得るものと同様であり、それら各成分の好適な構成、及び存在比は、本発明の多孔膜組成物中の各成分における好適な構成、存在比と同じである。
そして、多孔膜スラリー組成物の調製は、上記<リチウムイオン二次電池用多孔膜組成物の調製>の項において上述した方法と同様の方法を用いて行うことができる。
【0064】
[塗布工程]
多孔膜スラリー組成物をセパレータ上に塗布する工程は、特に制限は無く、例えば、塗布法、浸漬法などにより行えばよい。なかでも、多孔膜の厚みを制御し易いことから、塗布法が好ましい。塗布法としては、例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。なかでも、均一な多孔膜が得られる点で、ディップ法およびグラビア法が好ましい。
【0065】
[多孔膜形成工程]
次いで、塗布した多孔膜スラリー組成物を例えば、50℃以上、好ましくは70℃以上、そして200℃以下、好ましくは150℃以下で乾燥させる。多孔膜スラリー組成物を上述の温度で乾燥させることで、非導電性有機繊維と非導電性粒子との絡み合いを良好に進行させ、強度に優れた多孔膜を得ることができる。乾燥方法としては特に限定されないが、例えば、温風、熱風、低湿風等の風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射などが挙げられる。
【0066】
(リチウムイオン二次電池用保護層付き電極)
本発明のリチウムイオン二次電池用保護層付き電極は、電極と、前記電極の表面に設けられた保護層とを備え、前記保護層が、上述の多孔膜多孔膜組成物から得られる多孔膜を含む。そして、保護層付き電極は、例えば、リチウムイオン二次電池用多孔膜組成物を電極上に塗布し、乾燥させて多孔膜を形成することにより得られる。本発明のリチウムイオン二次電池用保護層付き電極に用いる電極としては、単独で電極となり得るリチウム板などの金属板や、集電体と、前記集電体上に形成された電極合材層との積層体が挙げられる。
このリチウムイオン二次電池用保護層付き電極の保護層を構成する多孔膜では、非導電性有機繊維が非導電性粒子の間隙を縫って延在し、相互に絡みあっているので、かかる多孔膜は強度に優れており、厚さを薄くすることが可能であり、電気抵抗を低減することができる。また、この多孔膜は、多孔性に優れているので、電解液の拡散性に優れている。従って、該保護層付き電極を備えるリチウムイオン二次電池のレート特性及び高温サイクル特性は、優れたものとなる。
以下、一例として、電極が集電体と集電体上に形成された電極合材層との積層体からなる場合について説明する。
【0067】
<電極>
[集電体]
電極を構成する集電体は、電気導電性を有しかつ電気化学的に耐久性のある材料であれば特に制限されない。なかでも、耐熱性を有するとの観点から、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などの金属材料が好ましい。その中でも、リチウムイオン二次電池の正極用集電体としてはアルミニウムが特に好ましく、負極用集電体としては銅が特に好ましい。なお、集電体の形状や寸法は特に制限されない。また、集電体は、任意に、既知の方法を用いて表面処理されていてもよい。
【0068】
[電極合材層]
電極合材層は、電極活物質および電極合材層用結着剤を必須成分として含む。なお、以下の説明においては、適宜、電極活物質のなかでも特に正極用の電極活物質のことを「正極活物質」と呼び、負極用の電極活物質のことを「負極活物質」と呼ぶ。
【0069】
[[電極活物質]]
リチウムイオン二次電池用の電極活物質は、電解質中で電位をかけることにより可逆的にリチウムイオンを挿入放出できるものであればよく、無機化合物でも有機化合物でも用いることができる。
【0070】
正極活物質は、無機化合物からなるものと有機化合物からなるものとに大別される。無機化合物からなる正極活物質としては、例えば、遷移金属酸化物、リチウムと遷移金属との複合酸化物、遷移金属硫化物などが挙げられる。上記の遷移金属としては、例えば、Fe、Co、Ni、Mn等が使用される。正極活物質に使用される無機化合物の具体例としては、LiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2、LiMn
2O
4、LiFePO
4、LiFeVO
4等のリチウム含有複合金属酸化物;TiS
2、TiS
3、非晶質MoS
2等の遷移金属硫化物;Cu
2V
2O
3、非晶質V
2O−P
2O
5、MoO
3、V
2O
5、V
6O
13等の遷移金属酸化物などが挙げられる。一方、有機化合物からなる正極活物質としては、例えば、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレンなどの導電性重合体を用いることもできる。さらに、無機化合物および有機化合物を組み合わせた複合材料からなる正極活物質を用いてもよい。
なお、これらの正極活物質は、1種類だけを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、前述の無機化合物と有機化合物との混合物を正極活物質として用いてもよい。
【0071】
負極活物質としては、例えば、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メゾカーボンマイクロビーズ、ピッチ系炭素繊維等の炭素質材料;ポリアセン等の導電性重合体;などが挙げられる。また、ケイ素、錫、亜鉛、マンガン、鉄およびニッケル等の金属並びにこれらの合金;前記金属または合金の酸化物;前記金属または合金の硫酸塩;なども挙げられる。また、金属リチウム;Li−Al、Li−Bi−Cd、Li−Sn−Cd等のリチウム合金;リチウム遷移金属窒化物;シリコン等を使用できる。なお、これらの負極活物質は、1種類だけを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
[[電極合材層用結着剤]]
電極合材層は、電極活物質の他に、電極合材層用結着剤を含む。電極合材層用結着剤を含むことにより、電極中の電極合材層の結着性が向上し、電極の巻回時等の工程上においてかかる機械的な力に対する強度が上がる。また、電極中の電極合材層の各成分が脱離しにくくなることから、脱離物による短絡等の危険性が小さくなる。
【0073】
電極合材層用結着剤としては既知の様々な重合体成分を用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリアクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル誘導体などを用いることができる。また、国際公開第2012/029805号に記載の軟質重合体も用いることができる。
なお、電極合材層用結着剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
[[その他の成分]]
電極合材層には、電極活物質および電極合材層用結着剤以外にも、その他の成分が含まれていてもよい。その例を挙げると、導電性付与材(導電材ともいう)、補強材などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種類が単独で含まれていてもよく、2種類以上が組み合わせて含まれていてもよい。
【0075】
導電性付与材としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラファイト、気相成長カーボン繊維、カーボンナノチューブ等の導電性カーボン;黒鉛などの炭素粉末;各種金属のファイバー及び箔;などが挙げられる。導電性付与材を用いることにより、電極活物質同士の電気的接触を向上させることができ、特に出力特性を改善できる。
【0076】
補強材としては、例えば、各種の無機および有機の各種形状のフィラーが使用できる。
【0077】
なお、電極合材層中の各成分の量は適宜調整することができる。
また、電極合材層の形成は、既知の手法を用いて行うことができる。具体的には、上述した成分を含むスラリーを調製し、調製したスラリーを集電体の両面または片面に塗布した後に乾燥し、次いで、120℃以上で1時間以上加熱処理することにより電極合材層を形成することができる。なお、電極合材層には、任意に、金型プレスおよびロールプレスなどを用いて加圧処理を施すことが好ましい。
【0078】
<保護層>
そして、本発明の保護層付き電極では、上述の多孔膜組成物から得られる多孔膜が、保護層として電極の表面に設けられる。なお、上述した、集電体と集電体上に形成された電極合材層との積層体を電極として用いる場合には、保護層(多孔膜)は積層体の電極合材層側の表面に形成される。そして、多孔膜スラリー組成物を電極上に塗布し、乾燥させて多孔膜を形成する工程は、特に制限なく、多孔膜スラリー組成物をセパレータ上に塗布し、乾燥させて多孔膜を形成する工程(上述したスラリー調製工程、塗布工程、及び多孔膜形成工程)と同様の工程により、実施することができる。
ここで、電極の表面に保護層として多孔膜を設けても、多孔膜には電解液が浸透できるので、出力特性等に対して悪影響を及ぼすことは無い。また、多孔膜は適度な柔軟性を有するため、電極の表面に設けられることで、電池の製造過程における電極活物質の脱落防止および電池作動時の短絡防止ができる。
なお、保護層付き電極は、本発明の効果を著しく損なわない限り、電極および保護層(多孔膜)以外の構成要素を備えていてもよい。例えば、必要に応じて、電極と保護層(多孔膜)との間に他の層を設けてもよい。この場合、保護層(多孔膜)は電極の表面に間接的に設けられることになる。また、保護層(多孔膜)の表面に、更に別の層を設けてもよい。
【0079】
(リチウムイオン二次電池)
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極、電解液、及びセパレータを備え、前記正極、負極、及びセパレータからなる群から選択される少なくとも1つの電池部材の表面に保護層が設けられ、該保護層が、上記の多孔膜組成物から得られる多孔膜である。即ち、本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明のリチウムイオン二次電池用保護層付きセパレータ及び/又は本発明のリチウムイオン二次電池用保護層付き電極を備える。
本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の多孔膜組成物から得られる多孔膜を備えているので、電池特性に優れ、高性能である。
【0080】
<電極>
本発明の二次電池の正極及び負極としては、上述した本発明の二次電池用多孔膜組成物で形成された保護層を有する保護層付き正極及び/又は負極か、或いは、かかる保護層を有さない正極及び/又は負極を用いることができる。
【0081】
<セパレータ>
本発明の二次電池のセパレータとしては、上述した本発明の二次電池用多孔膜組成物で形成された保護層を有する保護層付きセパレータか、かかる保護層を有さないセパレータを用いることができる。
【0082】
<電解液>
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。支持電解質としては、例えば、リチウムイオン二次電池においてはリチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF
6、LiAsF
6、LiBF
4、LiSbF
6、LiAlCl
4、LiClO
4、CF
3SO
3Li、C
4F
9SO
3Li、CF
3COOLi、(CF
3CO)
2NLi、(CF
3SO
2)
2NLi、(C
2F
5SO
2)NLiなどが挙げられる。なかでも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF
6、LiClO
4、CF
3SO
3Liが好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0083】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(MEC)等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いのでカーボネート類が好ましい。通常、用いる溶媒の粘度が低いほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、溶媒の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0084】
なお、電解液中の電解質の濃度は適宜調整することができる。また、電解液には、既知の添加剤を添加してもよい。
【0085】
<リチウムイオン二次電池の製造方法>
リチウムイオン二次電池は、例えば、正極と負極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて、巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することで製造し得る。なお、正極、負極、セパレータのうち、少なくとも一つの部材を多孔膜付きの部材とする。ここで、電池容器には、必要に応じて必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をしてもよい。電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例】
【0086】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、本実施例における部および%は、特記しない限り質量基準である。
実施例および比較例において、保護層付きセパレータのピール強度、水分量、熱収縮性、及びイオン透過性、並びに、リチウムイオン二次電池の高温サイクル特性及びレート特性はそれぞれ以下の方法により測定及び評価した。さらに、二次電池用多孔膜組成物を電極上に塗布して得た保護層付き電極については、電極曲げ試験を実施して、耐粉落ち性を評価した。試験方法及び評価方法を以下に示す。さらに、非導電性粒子及び結着剤の体積平均粒子径D50、並びに結着剤のガラス転移温度についても、測定方法を以下に示す。
【0087】
<保護層付きセパレータのピール強度>
保護層付きセパレータを、幅10mm×長さ100mmの長方形に切り出し、多孔膜の表面にセロハンテープ(JIS Z1522に規定されるもの)を貼り付け、試験片とした。次に、前記試験片のセロハンテープを試験台に固定した状態で、セパレータの一端を垂直方向に引張り速度10mm/分で引張って剥がしたときの応力を測定した。測定を3回行い、その平均値を求めてこれを保護層付きセパレータのピール強度とし、下記の基準により判定した。ピール強度が大きいほど、保護層とセパレータとの結着力が大きい、すなわち密着強度が大きいことを示す。
A:ピール強度が100N/m以上
B:ピール強度が75N/m以上100N/m未満
C:ピール強度が50N/m以上75N/m未満
D:ピール強度が50N/m未満
【0088】
<保護層付きセパレータの水分量>
保護層付きセパレータを、幅10cm×長さ10cmの大きさで切り出して、試験片とした。この試験片を、温度25℃、湿度50%で24時間放置した。その後、電量滴定式水分計を用い、カールフィッシャー法(JIS K−0068(2001)水分気化法、気化温度150℃)により、試験片の水分量を測定した。測定された水分量を以下の基準により判定し、保護層付きセパレータの水分量を評価した。保護層付きセパレータの水分量が少ないほど、リチウムイオン二次電池に使用した際にリチウムイオン二次電池中の電解質がセパレータに含有される水分により分解されてガスが発生する虞を低減することができる。
A:セパレータ水分量が2000ppm未満
B:セパレータ水分量が2000ppm以上2500ppm未満
C:セパレータ水分量が2500ppm以上3000ppm未満
D:セパレータ水分量が3000ppm以上
【0089】
<保護層付きセパレータの熱収縮性>
保護層付きセパレータを、幅12cm×長さ12cmの正方形に切り、正方形内部に1辺が10cmの正方形を描き試験片とする。試験片を150℃の恒温槽に入れ1時間放置した後、内部に描いた正方形の面積変化を熱収縮率(={(放置前の正方形の面積−放置後の正方形の面積)/放置前の正方形の面積}×100%)として求め、下記の基準に従ってセパレータの熱収縮性を評価した。熱収縮率が小さいほどセパレータの耐熱収縮性が優れることを示す。
A:熱収縮率が1%未満である
B:熱収縮率が1%以上5%未満である
C:熱収縮率が5%以上10%未満である
D:熱収縮率が10%以上である
【0090】
<保護層付きセパレータのイオンの透過性>
セパレータおよび保護層付きセパレータについて、ガーレー測定器(熊谷理機工業製 SMOOTH & POROSITY METER(測定径:φ2.9cm))を用いてガーレー値(sec/100cc)を測定する。これにより、多孔膜を設けることで、セパレータからガーレー値が増加する割合を求め、下記の基準により判定する。ガーレー値の増加率(={(保護層付きセパレータのガーレー値−セパレータのガーレー値)/セパレータのガーレー値}×100%)が低いほど多孔膜よりなる保護層がイオンの透過性に優れ、かかる保護層付きセパレータを用いてリチウムイオン二次電池を製造した場合の電解液の拡散性が良好であることを示す。
A:ガーレー値の増加率が1%以上5%未満である
B:ガーレー値の増加率が5%以上10%未満である
C:ガーレー値の増加率が10%以上15%未満である
D:ガーレー値の増加率が15%以上である
【0091】
<リチウムイオン二次電池の高温サイクル特性>
10セルのコイン型リチウムイオン二次電池を60℃雰囲気下、0.2Cの定電流法によって4.2Vに充電し、3Vまで放電する充放電を50回(=50サイクル)繰り返し、電気容量を測定した。10セルの平均値を測定値とし、5サイクル終了時の電気容量に対する200サイクル終了時の電気容量の割合を百分率で算出して充放電容量保持率(=(200サイクル終了時の電気容量/5サイクル終了時の電気容量)×100%)を求め、これをサイクル特性の評価基準とする。この値が高いほど高温サイクル特性に優れることを示す。
A:充放電容量保持率が80%以上である。
B:充放電容量保持率が70%以上80%未満である。
C:充放電容量保持率が60%以上70%未満である。
D:充放電容量保持率が60%未満である。
【0092】
<リチウムイオン二次電池のレート特性>
10セルのコイン型リチウムイオン二次電池を用いて、25℃で0.1Cの定電流で4.2Vまで充電し、0.1Cの定電流で3Vまで放電する充放電サイクルと、25℃で1Cの定電流で4.2Vまで充電し、1Cの定電流で3Vまで放電する充放電サイクルをそれぞれ行い、電気容量を測定した。0.1Cにおける電気容量に対する1Cにおける電気容量の割合を百分率で算出して充放電レート特性(=(1Cにおける電気容量/0.1Cにおける電気容量)×100%)とした。0.1Cにおける電気容量は、0.1Cの定電流で3Vまで放電したときの放電容量のことをいい、1Cにおける電気容量は、1Cの定電流で3Vまで放電したときの放電容量のことをいう。充放電レート特性を、下記の基準で評価した。この値が大きいほど、内部抵抗が小さく、高速充放電が可能であることを示す。
A:充放電レート特性が80%以上である
B:充放電レート特性が75%以上80%未満である
C:充放電レート特性が70%以上75%未満である
D:充放電レート特性が70%未満である
【0093】
<電極曲げ試験による耐粉落ち性の評価>
保護層付き電極を、幅1cm×長さ5cmの矩形に切って、試験片とした。この試験片の多孔膜側の面を上にして机上に置き、長さ方向の中央(端部から2.5cmの位置)の集電体側の面に、直径3mmのステンレス棒を短手方向に横たえて設置した。このステンレス棒を中心にして、試験片を多孔膜が外側になるように180°折り曲げた。以上の試験を10枚の試験片について行い、各試験片の多孔膜の折り曲げた部分について、ひび割れまたは粉落ち(即ち、多孔膜からの非導電性粒子等の脱落)の有無を観察し、下記の基準により判定した。ひび割れ及び粉落ちが少ないほど、電極上に形成した多孔膜が耐粉落ち性に優れることを示す。
A:10枚中全てに、ひび割れがみられない
B:10枚中1〜3枚に、ひび割れがみられる
C:10枚中4〜6枚に、ひび割れがみられる
D:10枚中7枚以上に、ひび割れがみられる
【0094】
<体積平均粒子径D50>
非導電性粒子をヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用いて超音波分散した後、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製「SALD−7100」)により測定して、非導電性粒子の体積平均粒子径D50を求めた。
【0095】
<ガラス転移温度>
測定対象の結着剤(アクリル系重合体)を含む水分散液を50%湿度、23〜25℃の環境下で3日間乾燥させて、厚み1±0.3mmのフィルムを得た。このフィルムを、120℃の熱風オーブンで1時間乾燥させた。その後、乾燥させたフィルムをサンプルとして、JIS K7121に準じて、測定温度−100℃〜180℃、昇温速度5℃/分で、DSC6220SII(示差走査熱量分析計、ナノテクノロジー社製)を用いてガラス転移温度(℃)を測定した。
【0096】
(実施例1)
<結着剤1(アクリル系重合体1)の製造>
撹拌機を備えた反応器に、イオン交換水70部、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム(花王ケミカル社製、製品名:エマール(登録商標)2F)0.15部、並びに重合開始剤としてペルオキソ二硫酸アンモニウム0.5部を、それぞれ供給し、気相部を窒素ガスで置換し、60℃に昇温した。
一方、別の容器でイオン交換水50部、重合用分散剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部、並びに、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてn−ブチルアクリレート94.8部、(メタ)アクリル酸単量体としてメタクリル酸1部、(メタ)アクリルアミド単量体としてN−メチロールアクリルアミド1.2部、(メタ)アクリロニトリル単量体としてアクリロニトリル2部、および、架橋性単量体としてアリルグリシジルエーテル1部を混合して単量体混合物を得た。この単量体混合物を4時間かけて前記反応器に連続的に添加して重合を行った。添加中は、60℃で反応を行った。添加終了後、さらに70℃で3時間撹拌して反応を終了し、結着剤としてのアクリル系重合体1(表1においてACL1と記載する)を含む水分散液を製造した。
得られたアクリル系重合体1の体積平均粒子径D50は0.36μm、ガラス転移温度は−45℃であった。
【0097】
<非導電性有機繊維の製造>
非導電性有機繊維の原材料とする原料繊維としてセルロース(丸住製紙(株)製NBKPパルプ、固形分約50質量%、カッパー価約0.3)を用いて、パルプを1質量%の割合で含有するスラリー液を100リットル調製した。次いで、ディスクリファイナー(長谷川鉄工(株)製、SUPERFIBRATER 400−TFS)を用いて、クリアランス0.15mm、ディスク回転数1750rpmとして10回叩解処理し、リファイナー処理品を得た。このリファイナー処理品を、通常の非破砕型ホモバルブシートを備えた第1ホモジナイザー(ゴーリン社製、15M8AT)を用いて、処理圧50MPaで20回処理した。さらに、破砕型ホモバルブシートを備えた第2ホモジナイザー(ニロソアビ社製、PANDA2K)を用いて、処理圧120MPaで20回処理した。得られた非導電性有機繊維(セルロースナノファイバー)の水分散液の固形分濃度は2質量%であった。また、非導電性有機繊維の平均繊維径は29.0nm、繊維径の変動係数は0.5、平均繊維長は150μmであった。
【0098】
<二次電池用多孔膜組成物(スラリー形態)の製造>
非導電性粒子として、体積平均粒子径D50が0.4μmの酸化アルミニウム(アルミナ)を99部、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩(東亜合成社製、アロンA6114)を0.5部、更に水を固形分濃度が50%となるように混合し、メディアレス分散装置を用いて酸化アルミを分散させた。ここに、水に2質量%で分散している繊維径0.029μm、変動係数0.5のセルロースナノファイバーからなる非導電性有機繊維を固形分相当で1部となるよう添加し混合した。次いで、粘度調整剤としてカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(ダイセル社製、製品名D1200、エーテル化度0.8〜1.0、1%水溶液の粘度が10〜20mPa・s)を固形分相当で0.1部混合し、結着剤として上述のようにして得られたアクリル系重合体1を固形分相当で4部、更に水を固形分濃度が40質量%になるように混合し、二次電池用多孔膜組成物(スラリー形態)を製造した。
【0099】
<二次電池用保護層付きセパレータの製造>
上述のようにして得られた二次電池用多孔膜組成物(スラリー形態)を、幅250mm、長さ1500mm、厚さ12μmの湿式法により製造された単層のポリエチレン製セパレータの片面に乾燥後の厚さが4μmになるようにグラビアコーターを用いて20m/minの速度で塗工し、次いで50℃の乾燥炉で乾燥し、巻き取ることにより保護層(多孔膜)付きセパレータを作製した。
得られた保護層付きセパレータについて、ピール強度、水分量、熱収縮性、及びイオン透過性をそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
さらに、表1に示すように、ピール強度、水分量、熱収縮性、及びイオン透過性の全てにおいて良好な評価結果が得られたため、実施例1にかかる二次電池用多孔膜組成物から得られる多孔膜を含むリチウムイオン二次電池を以下の手順で作製した。
【0100】
<正極の製造>
正極活物質としてLiCoO
2(体積平均粒子径D5012μm)を100部、導電材としてアセチレンブラック(電気化学工業社製、HS−100)を2部、正極合材層用結着剤としてPVDF(ポリフッ化ビニリデン、クレハ社製、#7208)を固形分相当で2部を、NMP(N−メチルピロリドン)中で混合して全固形分濃度が70%となる量とし、さらにこれらをプラネタリーミキサーにより混合し、正極用スラリー組成物を調製した。
得られた正極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmのアルミ箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、アルミ箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理して、プレス前の正極原反を得た。このプレス前の正極原反をロールプレスで圧延して、正極合材層の厚みが80μmの正極を得た。
【0101】
<負極の製造>
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、1,3−ブタジエン33.5部、イタコン酸3.5部、スチレン62部、2−ヒドロキシエチルアクリレート1部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4部、イオン交換水150部及び重合開始剤としてペルオキソ二硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、負極合材層用結着剤(SBR)を含む混合物を得た。上記負極合材層用結着剤を含む混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整した後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。その後、30℃以下まで冷却し、所望の負極合材層用結着剤を含む水分散液を得た。
人造黒鉛(体積平均粒子径D50:15.6μm)100部と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(日本製紙社製、MAC350HC)の2%水溶液を固形分相当で1部との混合物をイオン交換水で固形分濃度68%に調製した後、25℃で60分間混合した。さらにイオン交換水で固形分濃度62%に調整した後、25℃で15分間混合した。上記の負極合材層用結着剤(SBR)を固形分相当量で1.5部、及びイオン交換水を入れ、最終固形分濃度52%となるように調整し、さらに10分間混合した。これを減圧下で脱泡処理して流動性の良い負極用スラリー組成物を調製した。
得られた負極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmの銅箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、銅箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理してプレス前の負極原反を得た。このプレス前の負極原反をロールプレスで圧延して、負極合材層の厚みが80μmの負極を得た。
【0102】
<リチウムイオン二次電池の作製>
上記で得られた正極を直径13mmの円形に切り抜いた。上記で得られた負極を直径14mmの円形に切り抜いた。上記で得られた保護層付きセパレータを直径18mmの円形に切り抜いた。これらを、ポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼厚さ0.25mm)中に収納した。外装容器内の円形の電極及びセパレータの配置は、下記の通りとした。円形の正極は、そのアルミニウム箔(集電体)が外装容器底面に接触するよう配置した。円形のセパレータは、セパレータ上に形成された保護層が正極と対向するように、円形の正極と円形の負極との間に配置した。円形の負極は、その負極合材層側の面が、円形のセパレータを介して円形の正極の正極合材層側の面に対向するよう配置した。更に負極の上にエキスパンドメタルを載置し、この容器中に電解液(体積比EC/DEC=1/2、濃度1M LiPF
6)を空気が残らないように注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、外装容器を封止して、直径20mm、厚さ約3.2mmの本発明のリチウムイオン二次電池であるフルコインセル型リチウムイオン二次電池(コインセルCR2032)を作製した。得られたフルコインセル型リチウムイオン二次電池についてレート特性及び高温サイクル特性を評価した。結果を表1に示す。
【0103】
(実施例2〜3)
使用する非導電性粒子を、それぞれ表1に示す体積平均粒子径D50を有するアルミナに変更した以外は、実施例1と同様にして、二次電池用保護層付きセパレータ及びリチウムイオン二次電池を作製して、評価を行った。結果を表1に示す。
【0104】
(実施例4)
以下の方法により非導電性有機繊維を製造した以外は、実施例1と同様にして、二次電池用保護層付きセパレータ及びリチウムイオン二次電池を作製して、評価を行った。結果を表1に示す。
【0105】
<非導電性有機繊維の製造>
非導電性有機繊維の原材料とする原料繊維として粉末セルロース(日本製紙株式会社製、製品名:KCフロックW−300G)の1質量%スラリー液を用い、かかるスラリー液を対向衝突型ホモジナイザー(スターバースト、株式会社スギノマシン製)で20回処理行った。得られた非導電性有機繊維の平均繊維径は15.0nm、繊維径の変動係数は0.5、平均繊維長は150μmであった。
【0106】
(実施例5)
以下の方法により非導電性有機繊維を製造した以外は、実施例1と同様にして、二次電池用保護層付きセパレータ及びリチウムイオン二次電池を作製して、評価を行った。結果を表1に示す。
【0107】
<非導電性有機繊維の製造>
非導電性有機繊維の原材料とする原料繊維としてセルロース(ダイセル化学工業株式会社製、商品名:セリッシュKY-100G)を用い、かかるセルロースについて、グラインダー(増幸産業株式会社製、スーパーマスコロイダー)により、80番砥石を用いて10パス処理を行った。得られた非導電性有機繊維の平均繊維径は70nm、繊維径の変動係数は0.5、平均繊維長は150μmであった。
【0108】
(実施例6)
以下の方法により非導電性有機繊維を製造した以外は、実施例1と同様にして、二次電池用保護層付きセパレータ及びリチウムイオン二次電池を作製して、評価を行った。結果を表1に示す。
【0109】
<非導電性有機繊維の製造>
非導電性有機繊維の原材料とする原料繊維としてセルロース(丸住製紙(株)製NBKPパルプ、固形分約50質量%、カッパー価約0.3)を用いて、パルプを1質量%の割合で含有するスラリー液を100リットル調製した。次いで、ディスクリファイナー(長谷川鉄工(株)製、SUPERFIBRATER 400−TFS)を用いて、クリアランス0.15mm、ディスク回転数1750rpmとして10回叩解処理し、リファイナー処理品を得た。このリファイナー処理品を、通常の非破砕型ホモバルブシートを備えた第1ホモジナイザー(ゴーリン社製、15M8AT)を用いて、処理圧50MPaで30回処理した。さらに、破砕型ホモバルブシートを備えた第2ホモジナイザー(ニロソアビ社製、PANDA2K)を用いて、処理圧120MPaで20回処理した。得られた非導電性有機繊維の平均繊維径は29.0nm、繊維径の変動係数は0.2、平均繊維長は150μmであった。
【0110】
(実施例7)
以下の方法により非導電性有機繊維を製造した以外は、実施例1と同様にして、二次電池用保護層付きセパレータ及びリチウムイオン二次電池を作製して、評価を行った。結果を表1に示す。
【0111】
<非導電性有機繊維の製造>
非導電性有機繊維の原材料とする原料繊維としてセルロース(丸住製紙(株)製NBKPパルプ、固形分約50質量%、カッパー価約0.3)を用いて、パルプを1質量%の割合で含有するスラリー液を100リットル調製した。次いで、ディスクリファイナー(長谷川鉄工(株)製、SUPERFIBRATER 400−TFS)を用いて、クリアランス0.15mm、ディスク回転数1750rpmとして10回叩解処理し、リファイナー処理品を得た。このリファイナー処理品を、通常の非破砕型ホモバルブシートを備えた第1ホモジナイザー(ゴーリン社製、15M8AT)を用いて、処理圧50MPaで10回処理した。さらに、破砕型ホモバルブシートを備えた第2ホモジナイザー(ニロソアビ社製、PANDA2K)を用いて、処理圧120MPaで20回処理した。得られた非導電性有機繊維の平均繊維径は29.0nm、繊維径の変動係数は0.7、平均繊維長は150μmであった。
【0112】
(実施例8〜9)
二次電池用多孔膜組成物(スラリー形態)の製造時に非導電性粒子と非導電性有機繊維の配合割合(質量比)を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、二次電池用保護層付きセパレータ及びリチウムイオン二次電池を作製して、評価を行った。結果を表1に示す。
【0113】
(実施例10)
非導電性粒子として、以下の方法により製造したポリマー粒子体積平均粒子径D500.5μm)を使用した以外は、実施例1と同様にして、二次電池用保護層付きセパレータ及びリチウムイオン二次電池を作製して、評価を行った。結果を表1に示す
【0114】
<ポリマー粒子の製造>
撹拌機を備えた反応器に、ドデシル硫酸ナトリウムを0.06部、過硫酸アンモニウムを0.23部、及びイオン交換水を100部入れて混合し、混合物を得た。この混合物Dは、80℃に昇温した。
一方、別の容器中で、アクリル酸ブチル93.8部、メタクリル酸2.0部、アクリロニトリル2.0部、アリルグリシジルエーテル1.0部、N−メチロールアクリルアミド1.2部、ドデシル硫酸ナトリウム0.1部、及びイオン交換水100部を混合して、単量体混合物の分散体を調製した。
この単量体混合物の分散体を、4時間かけて、上記の混合物中に、連続的に添加して重合させた。単量体混合物の分散体の連続的な添加中は、反応系の温度は80℃に維持し、反応を行った。連続的な添加の終了後、さらに90℃で3時間反応を継続させた。これにより、平均粒子径370nmのシードポリマー粒子の水分散体を得た。
次に、撹拌機を備えた反応器に、上記のシードポリマー粒子の水分散体を固形分基準で20部、単量体としてエチレングリコールジメタクリレート(共栄社化学株式会社「ライトエステルEG」)を100部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを1.0部、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(日油社製「パーブチルO」)を4.0部、及びイオン交換水を200部入れ、35℃で12時間撹拌することで、シードポリマー粒子に単量体及び重合開始剤を完全に吸収させた。次いで、これを90℃で5時間重合させた。その後、スチームを導入して未反応の単量体および開始剤分解生成物を除去した。これにより、体積平均粒子径D50が0.5μmのポリマー粒子の水分散体を得た。
【0115】
(実施例11)
以下の方法により非導電性有機繊維を製造した以外は、実施例1と同様にして、二次電池用保護層付きセパレータ及びリチウムイオン二次電池を作製して、評価を行った。結果を表1に示す。
【0116】
<非導電性有機繊維の製造>
蒸留水100質量部に、非導電性有機繊維の原材料とする原料繊維として精製キチン(ナカライテスク株式会社製)1.5質量部、氷酢酸(キシダ化学株式会社製)0.5質量部を添加し、pHを3に調整した。これを、石臼式粉砕機(増幸産業株式会社製、スーパーマスコロイダー MKCA6−2)で解繊処理を1回行うことによって、非導電性有機繊維(キチン繊維)のペースト状物を得た。得られた非導電性有機繊維の平均繊維径は50nm、繊維径の変動係数は0.5、平均繊維長は200μmであった。
【0117】
(実施例12)
以下の方法により結着剤を製造した以外は、実施例1と同様にして、二次電池用保護層付きセパレータ及びリチウムイオン二次電池を作製して、評価を行った。結果を表1に示す。
【0118】
<結着剤2(アクリル系重合体2)の製造>
撹拌機を備えた反応器に、イオン交換水70部、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム(花王ケミカル社製、製品名:エマール(登録商標)2F)0.15部、並びに重合開始剤としてペルオキソ二硫酸アンモニウム0.5部を、それぞれ供給し、気相部を窒素ガスで置換し、60℃に昇温した。
一方、別の容器でイオン交換水50部、重合用分散剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部、並びに、(メタ)アクリル酸エステル単量体として、n−ブチルアクリレート41部及びエチルアクリレート41.5部、(メタ)アクリロニトリル単量体としてアクリロニトリル15部、架橋性単量体としてグリシジルメタクリレート2.0部、及びスルホン酸基含有単量体として2−アクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸0.5部を混合して単量体混合物を得た。この単量体混合物を4時間かけて前記反応器に連続的に添加して重合を行った。添加中は、60℃で反応を行った。添加終了後、さらに70℃で3時間撹拌して反応を終了し、結着剤としてのアクリル系重合体2(表1においてACL2と記載する)を含む水分散液を製造した。
得られたアクリル系重合体2の体積平均粒子径D50は0.12μm、ガラス転移温度は−23℃であった。
【0119】
(実施例13)
二次電池用多孔膜組成物(スラリー形態)をセパレータ上ではなく、実施例1と同様にして得た負極の負極合材層上に塗工し、保護層付き電極を形成した。したがって、二次電池用セパレータについては評価を実施せず、保護層を形成した負極について、電極曲げ試験を実施した。結果を表1に示す。
また、負極に替えて保護層付き電極を使用し、保護層付きセパレータに替えて単層のポリエチレン製セパレータを使用した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製して、評価を行った。結果を表1に示す。
【0120】
(実施例14)
二次電池用多孔膜組成物(スラリー形態)の製造時に非導電性粒子と非導電性有機繊維との配合割合(質量比)を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、二次電池用保護層付きセパレータ及びリチウムイオン二次電池を作製して、評価を行った。結果を表1に示す。
【0121】
(比較例1)
使用する非導電性粒子を、表1に示す体積平均粒子径D50を有するアルミナに変更した以外は、実施例1と同様にして、二次電池用保護層付きセパレータを作製して、評価を行った。結果を表1に示す。
なお、本比較例ではピール強度、水分量、熱収縮性、及びイオン透過性の全てにおいて良好な評価結果が得られなかったため、かかる二次電池用多孔膜組成物から得られる多孔膜を含むリチウムイオン電池は作製しなかった。
【0122】
(比較例2)
非導電性有機繊維として、リファイナーによる叩解処理やホモジナイザーによるホモジナイズ処理を行わずに、セルロース(ダイセル化学工業株式会社製、商品名:セリッシュKY−100G)をそのまま用いた以外は、実施例1と同様にして、二次電池用保護層付きセパレータを作製して、評価を行った。結果を表1に示す。
なお、非導電性有機繊維として用いたセルロースの平均繊維径は600nm、繊維径の変動係数は1.2、平均繊維長は150μmであった。
【0123】
(比較例3)
非導電性有機繊維を以下の方法により製造した以外は、実施例1と同様にして、二次電池用保護層付きセパレータを作製して、評価を行った。結果を表1に示す。
【0124】
<非導電性有機繊維の製造>
非導電性有機繊維の原材料とする原料繊維としてセルロース(丸住製紙(株)製NBKPパルプ、固形分約50質量%、カッパー価約0.3)を用いて、パルプを1質量%の割合で含有するスラリー液を100リットル調製した。次いで、ディスクリファイナー(長谷川鉄工(株)製、SUPERFIBRATER 400−TFS)を用いて、クリアランス0.15mm、ディスク回転数1750rpmとして10回叩解処理し、リファイナー処理品を得た。このリファイナー処理品を、通常の非破砕型ホモバルブシートを備えた第1ホモジナイザー(ゴーリン社製、15M8AT)を用いて、処理圧50MPaで40回処理した。さらに、破砕型ホモバルブシートを備えた第2ホモジナイザー(ニロソアビ社製、PANDA2K)を用いて、処理圧120MPaで20回処理した。得られた非導電性有機繊維の平均繊維径は29.0nm、繊維径の変動係数は0.08、平均繊維長は150μmであった。
【0125】
【表1】
【0126】
表1より、特定の体積平均粒子径D50を有する非導電性粒子と、特定の平均繊維径を有し且つ特定の変動係数を有する非導電性有機繊維とを併用したリチウムイオン二次電池用多孔膜組成物から形成される保護層を有することとした実施例1〜12、及び14で、保護層(多孔膜)の強度及び電解液拡散性を良好なものとすることができ、かかる保護層を有するセパレータは、ピール強度、イオン透過性、水分量、及び耐熱性に優れ、さらに、かかる保護層を用いて製造した二次電池の電気的特性(高温サイクル特性、レート特性)が良好であることがわかる。さらに、実施例13で、上述の保護層を有する電極は、耐粉落ち性に富み、かかる電極を用いて製造した二次電池の電気的特性(高温サイクル特性、レート特性)が良好であることがわかる。
一方、特定の体積平均粒子径D50を有する非導電性粒子、特定の平均繊維径を有し且つ特定の変動係数を有する非導電性有機繊維を含むリチウムイオン二次電池用多孔膜組成物から形成されない保護層を有することとした比較例1〜3では、かかる保護層を有するセパレータは、ピール強度、イオン透過性、水分量、及び耐熱性の全てを高い次元で並立することができないことがわかる。
また、表1の実施例1〜9、12及び14より、無機微粒子である非導電性粒子の体積平均粒子径D50、セルロースである非導電性有機繊維の平均繊維径及び変動係数、非導電性粒子と非導電性有機繊維との質量比、並びに、結着剤の体積平均粒子径D50を調整することにより、ピール強度、イオン透過性、水分量、及び耐熱性の全てを高い次元で並立し、電気的特性に優れた二次電池を製造できることが分かる。
特に、表1の実施例1、8、9、及び14より、非導電性粒子と非導電性有機繊維との含有量の比を所定範囲とすることで、ピール強度、イオン透過性、水分量、及び耐熱性の全てを高い次元で並立し、電気的特性に優れた二次電池を製造できることが分かる。