特許第6269214号(P6269214)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6269214蛍光体板、発光装置及び蛍光体板の製造方法、発光装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6269214
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】蛍光体板、発光装置及び蛍光体板の製造方法、発光装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/50 20100101AFI20180122BHJP
   C09K 11/00 20060101ALI20180122BHJP
   C09K 11/02 20060101ALI20180122BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20180122BHJP
【FI】
   H01L33/50
   C09K11/00 C
   C09K11/02
   C09K11/08 G
   C09K11/08 J
【請求項の数】19
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-55995(P2014-55995)
(22)【出願日】2014年3月19日
(65)【公開番号】特開2015-179719(P2015-179719A)
(43)【公開日】2015年10月8日
【審査請求日】2016年10月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(74)【代理人】
【識別番号】100111545
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 悦夫
(72)【発明者】
【氏名】三賀 大輔
【審査官】 高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/018222(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/064930(WO,A1)
【文献】 特開2011−216543(JP,A)
【文献】 特表2008−533270(JP,A)
【文献】 特表2013−526007(JP,A)
【文献】 特開2010−157637(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00−33/64
C09K 11/00−11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物相と蛍光物質含有酸化物相とが断面視で斑状に設けられた第1の光変換部と、
酸化物相と蛍光物質含有バインダ相とが断面視で斑状に設けられた第2の光変換部と、を備えており、
前記第1の光変換部の酸化物相と前記第2光変換部の酸化物相とが少なくとも一部で連続し、
前記第1の光変換部の蛍光物質含有酸化物相と前記第2の光変換部の蛍光物質含有バインダ相とが板厚方向に並んで配置されている蛍光体板。
【請求項2】
前記第1の光変換部の蛍光物質含有酸化物相と前記第2の変換部の蛍光物質含有バインダ相とが板厚方向に少なくとも一部で連続している請求項1に記載の蛍光体板。
【請求項3】
前記第1の光変換部の酸化物相に少なくとも一部が連続する酸化物相と、前記第1の光変換部の蛍光物質含有酸化物相に板厚方向で並んで配置されている蛍光物質含有バインダ相とが断面視で斑状である第3の光変換部を、前記第1の光変換部に連続して設けた請求項1又は請求項2に記載の蛍光体板。
【請求項4】
前記第1の光変換部の蛍光物質含有酸化物相が含有する蛍光物質と、前記第3の光変換部の蛍光物質含有バインダ相の蛍光物質とが異なるものである請求項3に記載の蛍光体板。
【請求項5】
酸化物相と蛍光物質含有バインダ相とが断面視で斑状に設けられた第1の光変換部と、
酸化物相と蛍光物質含有バインダ相とが断面視で斑状に設けられた第2の光変換部と、を備え、
前記第1の光変換部の酸化物相と前記第2の光変換部の酸化物相とが少なくとも一部で連続して設けられ、
前記第1の光変換部の蛍光物質含有バインダ相と前記第2の光変換部の蛍光物質含有バインダ相とが板厚方向に並んで配置されている蛍光体板。
【請求項6】
前記第1の光変換部の蛍光物質含有バインダ相と前記第2の光変換部の蛍光物質含有バインダ相とが異なる蛍光物質を含有する請求項5に記載の蛍光体板。
【請求項7】
前記第1の光変換部の酸化物相に少なくとも一部が連続する酸化物相、及び、前記第1の光変換部の蛍光物質含有バインダ相に板厚方向で並んで配置されている蛍光物質含有バインダ相が断面視で斑状に設けられた第3の光変換部を、前記第1の光変換部に連続して備え、
前記第3の光変換部の蛍光物質含有バインダ相は、前記第1の光変換部の蛍光物質含有バインダ相及び前記第2の光変換部の蛍光物質含有バインダ相のいずれか一方と異なる蛍光物質を含有する請求項5に記載の蛍光体板。
【請求項8】
前記第1の光変換部の酸化物相の材料がAl23を含む請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の蛍光体板。
【請求項9】
前記第1の光変換部の蛍光物質含有酸化物相に含まれる蛍光物質が希土類アルミン酸塩蛍光体を含む請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の蛍光体板。
【請求項10】
前記蛍光物質含有バインダ相に含まれる蛍光物質が窒化物系蛍光体または酸窒化物系蛍光体を含む請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の蛍光体板。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の蛍光体板と、基板上に半導体層を積層してなる発光素子とを備え、前記蛍光体板と前記基板とが接合された発光装置。
【請求項12】
前記基板の材料がAl23を含む請求項11に記載の発光装置。
【請求項13】
前記蛍光体板の酸化物相が複数の酸化物相であるときにその酸化物相の1つが単一金属酸化物である場合の当該単一金属酸化物の材料と前記基板の材料とが同等の成分であり、当該蛍光体板と前記基板とが直接接合により接合されている請求項11又は請求項12に記載の発光装置。
【請求項14】
前記蛍光体板と、前記基板とを接合層を介して接合した請求項11又は請求項12に記載の発光装置。
【請求項15】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の蛍光体板の製造方法において、
蛍光物質と酸化物の混合物を溶融した後に凝固させることにより、断面視で斑状に設けられた複数の酸化物相を有する凝固体を形成する凝固体形成工程と、
前記凝固体をエッチング液に浸漬して当該凝固体の酸化物相の1つを板厚方向において所定深さまでエッチングすることで空隙を形成するエッチング工程と、
前記空隙が形成された前記凝固体の面に、バインダに蛍光物質を含む蛍光物質含有バインダを塗布する塗布工程と、
前記空隙に前記蛍光物質含有バインダを含浸させる含浸工程と、
前記凝固体に含浸させた蛍光物質含有バインダを硬化させる硬化工程と、を含むこととした蛍光体板の製造方法。
【請求項16】
前記含浸工程は、前記蛍光物質含有バインダを塗布した凝固体を真空引きすることで行う請求項15に記載の蛍光体板の製造方法。
【請求項17】
前記エッチング工程の前に前記凝固体の一方の面にマスクを形成するマスク形成工程と、
前記エッチング工程の後で、かつ、前記塗布工程の前に前記マスクを前記凝固体から除去するマスク除去工程と、を行うことを特徴とする請求項15に記載の蛍光体板の製造方法。
【請求項18】
請求項11から請求項14のいずれか一項に記載の発光装置を製造する発光装置の製造方法において、
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の蛍光体板を製造して準備すると共に、基板上に半導体層を積層して複数の発光素子を製造して準備する準備工程と、
前記蛍光体板のいずれか1つの酸化物相と同じ成分で形成された前記基板と前記蛍光体板とを接合する接合工程と、
前記蛍光体板と前記基板を接合した接合体を発光素子ごとに切断して個片化する個片化工程と、
を含むことを特徴とする発光装置の製造方法。
【請求項19】
請求項11から請求項14のいずれか一項に記載の発光装置を製造する発光装置の製造方法において、
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の蛍光体板を製造する工程と、
前記蛍光体板のいずれか1つの酸化物相と同じ成分の材料で形成された基板を前記蛍光体板の当該酸化物相側に接合する接合工程と、
接合した前記基板上に半導体層を積層して複数の発光素子を形成する工程と、
前記複数の発光素子を形成した前記基板を前記蛍光体板と共に発光素子ごとに個片化する個片化工程と、
を含むこととした発光装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長を変換する蛍光物質を含む蛍光体板、その蛍光体板を用いた発光装置及び、蛍光体板の製造方法、発光装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、LED等の発光素子を有する発光装置では、波長を変換する蛍光物質を含む蛍光体層や蛍光体板を使用して、白色光の取出し効率を高めることが行われている。例えば、従来の発光装置では、青色発光素子の前面に、青色光の一部を吸収して黄色光を発する蛍光体を含有するコーティング層と、光源の青色光とコーティング層からの黄色光を混色するためのモールド層とを設け、補色関係にある青色と黄色を混色することにより擬似的に白色を得るものである。そして、前記した発光装置では、コーティング層としては、セリウムで付活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG:Ce)粉末と樹脂の混合物が採用されている。
【0003】
LED等の発光素子と組み合わせるため、波長を変換する蛍光物質を含む蛍光体層や蛍光体板の例として、例えば、従来、特許文献1に記載されているような発光ダイオード用基板が提案されている。この発光ダイオード用基板は、発光ダイオード素子が形成可能な単結晶層と、単一金属酸化物および複合金属酸化物から選ばれる少なくとも2つ以上の酸化物相が連続的にかつ三次元的に相互に絡み合って形成されている凝固体からなる光変換用セラミックス複合体層とが積層されている。さらに、前記発光ダイオード用基板は、該凝固体中の酸化物相のうち少なくとも1つは蛍光を発する金属元素酸化物を含有し、前記単結晶層と前記光変換用セラミックス複合体層が直接に接合されているか、前記単結晶層と前記光変換用セラミックス複合体層とをシリカで接合された構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際交換番号WO2007−018222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の発光ダイオード用基板では、凝固体中の酸化物相に蛍光を発する金属元素酸化物が含有されているが、蛍光の種類が酸化物相において特定されることになり、混色する光の設定に対する自由度が制限されていた。また、上記の発光ダイオード用基板では、蛍光物質を含有させた酸化物相の凝固体を形成するときに高い温度の熱処理が必要になるため、熱に弱い蛍光物質を使用することができなかった。
【0006】
本発明は、前記した問題点に鑑みて創案されたものであり、光取出し効率を維持しながら混色する光の自由度の制限を緩和することができ、蛍光物質の使用制限も緩和することができる蛍光体板、その製造方法及び発光装置、その製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題を解決するために、本発明に係る発光装置は、以下に示すような構成とした。すなわち、蛍光体板は、酸化物相と蛍光物質含有酸化物相とが断面視で斑状に設けられた第1の光変換部と、酸化物相と蛍光物質含有バインダ相とが断面視で斑状に設けられた第2の光変換部と、を備えており、前記第1の光変換部の酸化物相と前記第2光変換部の酸化物相とが少なくとも一部で連続し、前記第1の光変換部の蛍光物質含有酸化物相と前記第2の光変換部の蛍光物質含有バインダ相とが板厚方向に並んで配置されている構成とした。
【0008】
また、本発明に係る蛍光体板の製造方法において、蛍光物質と酸化物の混合物を溶融した後に凝固させることにより、断面視で斑状に設けられた複数の酸化物相を有する凝固体を形成する凝固体形成工程と、前記凝固体をエッチング液に浸漬して当該凝固体の酸化物相の1つを板厚方向において所定深さまでエッチングすることで空隙を形成するエッチング工程と、前記空隙が形成された前記凝固体の面に、バインダに蛍光物質を含む蛍光物質含有バインダを塗布する塗布工程と、前記空隙に前記蛍光物質含有バインダを含浸させる含浸工程と、前記凝固体に含浸させた蛍光物質含有バインダを硬化させる硬化工程と、を含むこととした。
【0009】
また、発光装置として、前記した蛍光体板と、基板上に半導体層を積層してなる発光素子とを備え、前記蛍光体板と前記基板とが接合される構成とした。
さらに、前記した発光装置を製造する発光装置の製造方法において、前記した蛍光体板を製造して準備すると共に、基板上に半導体層を積層して複数の発光素子を製造して準備する準備工程と、前記蛍光体板のいずれか1つの酸化物相と同じ成分で形成された前記基板とを接合する接合工程と、前記蛍光体板と前記基板を接合した接合体を発光素子ごとに切断して個片化する個片化工程と、を含むこととした。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る蛍光体板その製造方法、及び、発光装置その製造方法では、以下に示すように優れた効果を奏するものである。
蛍光体板及び発光装置は、蛍光物質含有バインダを第2の光変換部に選択的に備えることができるので、光取出し効率を維持しながら混色する光の自由度の制限を緩和することができ、蛍光物質の使用制限も緩和することができる。
【0011】
蛍光体板の製造方法及び発光装置の製造方法では、酸化物相の少なくとも一部をエッチングして除去することにより形成した空隙に蛍光物質含有バインダを含浸させて硬化させることで、酸化物相と蛍光物質含有バインダとの光変換部を形成することができる。これにより、蛍光体板の製造方法及び発光装置の製造方法では、所望の光を混色する蛍光物質を選択でき、かつ、熱に対する蛍光物質の制限も緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る蛍光体板の構成を、一部を省略しかつ一部を断面にして模式的に示す斜視図である。
図2】(a)〜(d)は、本発明の実施形態に係る蛍光体板の製造方法の手順を模式的に示す模式図である。
図3】(a)〜(d)は、本発明の実施形態に係る蛍光体板の製造方法の手順を模式的に示す模式図である。
図4】(a)は、本発明の実施形態に係る蛍光体板の第1の光変換部をエッチングする前の状態を断面斜視図として模式的に示す図、(b)は、本発明の実施形態に係る蛍光体板の第1の光変換部をエッチングした状態を断面斜視図として模式的に示す図、(c)は、本発明の実施形態に係る蛍光体板の第1の光変換部をエッチングすることにより形成された空隙に蛍光物質含有バインダ相を形成した状態を断面斜視図として模式的に示す図である。
図5】(a)〜(d)は、本発明の実施形態に係る蛍光体板の他の構成をそれぞれ模式的に示す断面図である。
図6】(a)、(b)は、本発明の実施形態に係る発光装置の製造方法を模式的に示す断面図である。
図7】本発明の実施形態に係る発光装置の他の構成を模式的に示す断面図である。
図8】本発明の実施形態に係る支持基板付発光装置の構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため部分的に誇張して示すことがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一の構成、部材もしくは同質の構成、部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。また、各構成において、層と膜と板の違いは表現のみであり、厚み形成範囲等によって異なるものではない。
【0014】
<蛍光体板の構成>
図1に示すように、蛍光体板1は、第1の光変換部4と、第2の光変換部6とが凝固体として連続して一体で設けられている。そして、蛍光体板1において、第1の光変換部4は、単一金属酸化物及び複合金属酸化物から選択される酸化物を含む複数(図1で図示するものは2つ)の酸化物相2,3が断面視において斑状となる凝固体として形成されている。さらに、蛍光体板1において、第2の光変換部6は、前記した酸化物の1つである酸化物相2と、蛍光物質5a及びその蛍光物質5aのバインダ5bを含む相(以下、「蛍光物質含有バインダ相」という。)5が断面視において斑状となる凝固体として形成されている。
【0015】
そして、蛍光体板1の第1の酸化物相は、例えば、単一金属酸化物の酸化物相(以下、「単一金属酸化物相」という。)2として構成されている。また、蛍光体板1の第2の酸化物相は、例えば、蛍光物質3aを含むセラミック複合材料で形成された複合金属酸化物の酸化物相(以下、「複合金属酸化物相」という。)3として構成されている。この蛍光体板1は、後記する発光素子12からの光を透過すると共に、蛍光物質3a,5aに対応して光の波長を変換して、例えば、白色光として出力するものである。以下、蛍光体板1の各構成について更に詳しく説明する。
【0016】
第1の光変換部4は、単一金属酸化物を含有する単一金属酸化物相2と、複合金属酸化物であるセラミック複合材料で形成された複合金属酸化物相3とが斑状に(連続的にかつ3次元的に相互に絡み合って)設けられている凝固体からなる。この第1の光変換部4は、複合金属酸化物が、蛍光を発現する元素等である蛍光物質3aを含有している。ここで用いられる単一金属酸化物とは、1種類の金属の酸化物であり、複合金属酸化物は、2種以上の金属の酸化物である。それぞれの酸化物相2,3は、断面視において不規則な斑状に形成され、互いに絡み合った構造に形成されている。
【0017】
単一金属酸化物としては、酸化アルミニウム(Al23)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化シリコン(SiO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化バリウム(BaO)、酸化ベリリウム(BeO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化クロミウム(Cr23)等の他、希土類元素酸化物(La23、Y23、CeO2、Pr611、Nd23、Sm23、Gd23、Eu23、Tb47、Dy23、Ho23、Er23、Tm23、Yb23、Lu23)が挙げられる。なお、単一金属酸化物相2は、例えば、前記した単一金属酸化物として酸化アルミニウムで形成されていることが好ましい。
【0018】
また、複合金属酸化物としては、LaAlO3、CeAlO3、PrAlO3、NdAlO3、SmAlO3、EuAlO3、GdAlO3、DyAlO3、ErAlO3、Yb4Al29、Y3Al512、Lu3Al612、Er3Al512、Tb3Al512、11Al23・La23、11Al23・Nd23、3Dy23・5Al23、2Dy23・Al23、11Al23・Pr23、EuAl1118、2Gd23・Al23、11Al23・Sm23、Yb3Al512、CeAl1118、Er4Al29等が挙げられる。
【0019】
なお、複合金属酸化物相3には、単一金属酸化物相2と相性がよい酸化物、例えば、CeAlO3等の複合金属酸化物を選択することが好ましい。また、複合金属酸化物相3に含有している蛍光物質3aは、一般的に用いられる酸化物、窒化物、酸窒化物等を用いることができる。そのような蛍光物質3aとして、例えば、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)をCe等で賦活したYAG系蛍光体や、Eu、Ce等のランタノイド系元素で賦活した窒化物系蛍光体、酸窒化物系蛍光体等が挙げられる。
【0020】
蛍光物質3aは、後記する発光素子12が発光する光により励起されて発光可能な、Ce(セリウム)で付活されたイットリウム・アルミニウム酸化物系蛍光体をベースとしたものを用いることができる。具体的なイットリウム・アルミニウム酸化物系蛍光体としては、YAlO3:Ce、Y3Al512Y:Ce(YAG:Ce)やY4Al29:Ce、更にはこれらの混合物などが挙げられる。イットリウム・アルミニウム酸化物系蛍光体にBa、Sr、Mg、Ca、Znの少なくとも一種が含有されていてもよい。
【0021】
他にも青色、青緑色や緑色を吸収して赤色が発光可能な蛍光物質3aとしては、Eu及び/又はCrで付活されたサファイア(酸化アルミニウム)蛍光体やEu及び/又はCrで付活された窒素含有Ca−Al23−SiO2蛍光体(オキシナイトライド蛍光硝子)等が挙げられる。また、例えば、組成式がSi6-zAlzz8-z:Eu(0<z<4.2)で示されるEu付活βサイアロン蛍光体、(Y,Lu)3(Al,Ga)512:Ceで示される希土類アルミン酸塩蛍光体、これらの蛍光物質3aを単数あるいは複数種組み合わせて利用して発光素子12からの光と蛍光物質3aからの光の混色により白色光を得ることもできる。
【0022】
また、前記したCeで付活されたYAG系蛍光体とEu及び/又はCrで付活された窒素含有Ca−Al−Si−O−N系オキシナイトライド蛍光硝子とを組み合わせることにより青色系が発光可能な発光素子12を利用してRGB(赤色、緑色、青色)成分を高輝度に含む極めて演色性の高い発光装置10を形成させることもできる。このため、所望の顔料を添加するだけで任意の中間色も極めて簡単に形成させることができる。
なお、複合金属酸化物相3に添加される蛍光物質3aは、凝固体として形成するときの温度に耐えることができるものが使用される。
【0023】
図1に示すように、第2の光変換部6は、単一金属酸化物相2及び蛍光物質含有バインダ相5が断面視において斑状に(単一金属酸化物相2及び蛍光物質含有バインダ相5が連続的にかつ三次元的に相互に絡み合って)設けられている凝固体からなる。そして、第2の光変換部6は、単一金属酸化物相2と、第1の光変換部4の単一金属酸化物相2とが少なくとも一部で連続して形成されている。なお、第1の光変換部4の単一金属酸化物相2と第2の光変換部の単一金属酸化物相2とは、後記するように予め板厚方向に凝固体として一体に形成される場合には、第1の光変換部4から第2の光変換部6に板厚方向で必ず連続する部分と、第1の光変換部4又は第2の光変換部6のいずれかに偏在して独立した部分とを含んだ状態となる。したがって、第2の光変換部6の単一金属酸化物2と第1の光変換部4の単一金属酸化物相2とは、少なくとも一部で連続して形成される構成である。
【0024】
蛍光物質含有バインダ相5は、後記するように、予め形成されている第1の光変換部4から第2の光変換部6に連続する複合金属酸化物相3において、第2の光変換部6に対応する部分の複合金属酸化物相3を除去した後に、含浸して充填されることで形成されるものである。つまり、第1の光変換部4と第2の光変換部6とが、蛍光物質及び原料金属酸化物を融解後、複合材料を凝固して凝固体として一体に形成される。そして、その凝固体の複合金属酸化物相3の一部を除去することにより形成された空隙に蛍光物質含有バインダが充填されることで蛍光物質含有バインダ相5は形成されている。蛍光物質含有バインダ相5は、複合金属酸化物相3に間隔を空けて並んで配置される部分と、複合金属酸化物相3に間隔を空けないで当接して連続するように並んで配置される部分とが存在している。つまり、蛍光物質含有バインダ相5は、複合金属酸化物相3に少なくとも一部で連続し、その他の部分では空間を介して並んで配置されている構成である。
【0025】
蛍光物質含有バインダ相5は、蛍光物質5aと、その蛍光物質5aのバインダである結着剤5bとから構成されている。
蛍光物質5aは、前記した蛍光物質3aと同じものを使用することができ、一般的に用いられる酸化物、窒化物、酸窒化物等を用いることができる。そのような蛍光物質5aとして、例えば、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)をCe等で賦活したYAG系蛍光体や、Eu、Ce等のランタノイド系元素で賦活した窒化物系蛍光体、酸窒化物系蛍光体等が挙げられる。なお、蛍光物質含有バインダ5の蛍光物質5aは、凝固体を形成するような温度をかけることがないので、例えば、次のようなものをさらに使用できる。すなわち、組成式がSi6-zAlzz8-z:Eu(0<z<4.2)で示されるEu付活βサイアロン蛍光体、MGa24:Eu(M=Mg,Ca,Sr,Ba)で示されるEu付活チオガレート蛍光体、(Y,Lu)3(Al,Ga)512:Ceで示される希土類アルミン酸塩蛍光体、La3Si611:Ceで表されるランタンシリコンナイトライド系蛍光体、例えば、K2SiF6:Mn4+、K2TiF6:Mn4+、K2Si0.5Ge0.56:Mn4+等の組成を有する、Mn4+で付活されたフッ化物蛍光体も挙げることができる。
これらの蛍光物質3aを単数あるいは複数種組み合わせて幅広い種類のものを使用することができる。
【0026】
結着剤5bは、蛍光物質5aと結着し相として蛍光物質含有バインダ5を形成させるものである。この結着剤5bは、例えば、樹脂やガラスである。なお、結着剤5bとして、樹脂を使用した場合には、例えば、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂、あるいは、エポキシ樹脂及びシリコーン樹脂の混合樹脂を使用することができる。また、結着剤5bとして、ガラスを使用した場合には、ホウケイ酸ガラスその他一般的な低融点ガラスを使用することができる。
【0027】
以上のような構成とした蛍光体板1は、各結晶相である単一金属酸化物相2及び複合金属酸化物相3、ならびに、単一金属酸化物相2及び蛍光物質含有バインダ相5が独立ではなく、各相が不可分な関係として斑状に絡み合って一体化した凝固体として形成されており、後記する発光素子12と接合して使用される場合に発光素子12の基板11との成分を共通させることにより光の屈折率や熱に対して優位な構成となる。
【0028】
また、蛍光体板1は、例えば、第1の光変換部4において、前記したAl23結晶(単一金属酸化物相2)とY3Al512:Ceからなる光変換用セラミックス複合体(複合金属酸化物相3)の場合、単に2つの結晶が存在するのではなく、Al23でもないY3Al512でもない組成をもつ一種類の融液から同時にAl23結晶とY3Al512:Ce結晶が結晶化した結果として2つの結晶が存在しているのであって、独立に2つの結晶が存在する場合とは異なる。したがって、物理的な区画としては単一金属酸化物相2及び複合金属酸化物相3が存在しているが、前記した意味において2つの結晶は不可分である。このような凝固体は、単なるAl23結晶とYAG:Ce結晶が混在している状態とは本質的に異なっている。
【0029】
なお、蛍光体板1では、第1の光変換部4及び第2の光変換部6において、単一金属酸化物相2を残して、第2の光変換部6の複合金属酸化物相3を除去した部分に蛍光物質含有バインダ相5を形成しているため、第2の光変換部6においても第1の光変換部4と同様に2つの結晶である単一金属酸化物相2及び蛍光物質含有バインダ相5とが断面視において斑状に(三次元的に)相互に絡み合った結晶化の状態で形成されることになる。
以上説明したように、蛍光体板1は、少なくとも第1の酸化物相2と第2の酸化物相3とを含む複数の酸化物相が斑状に設けられた第1の光変換部4と、第1の酸化物相2と同じ成分の酸化物相2と蛍光物質含有バインダ相5とが斑状に設けられた第2の光変換部6とを備えることにより、光取出し効率を維持して、蛍光物質の使用制限も緩和することができる。
【0030】
<蛍光体板の製造方法>
次に、蛍光体板1の製造方法について説明する。
蛍光体板1では、第1の光変換部4を構成する凝固体は、蛍光物質と原料金属酸化物の混合物を融解した後に、凝固させることで作製される。例えば、所定温度に保持したルツボに仕込んだ溶融物を、冷却温度を制御しながら冷却凝結させる簡単な方法で凝固体を得ることができるが、最も好ましいのは一方向凝固法により作製されたものである。一方向凝固をおこなうことにより含まれる結晶相が単結晶状態、またはそれに類似の状態で連続的に成長し、各相が単一の結晶方位となるためである。
【0031】
また、本発明に用いる第1の光変換部4は、少なくとも1つの相が蛍光を発する金属元素酸化物を含有していることを除き、特開平7−149597号公報、特開平7−187893号公報、特開平8−81257号公報、特開平8−253389号公報、特開平8−253390号公報および特開平9−67194号公報並びにこれらに対応する米国出願(米国特許第5,569,547号、同第5,484,752号、同第5,902,963号)等に開示したセラミックス複合材料と同様のものであることができ、これらの公報に開示した製造方法で製造できる。
【0032】
さらに、蛍光体板1の第2の光変換部6は、以下のような工程により製造することができる。なお、第2の光変換部6の蛍光物質含有バインダ相5を形成することで、ここでは、蛍光体板1を製造することができるものである。以下、図2図3及び図4を参照して説明する。なお、第1の光変換部4は、単一金属酸化物相2としてAl23結晶と、複合金属酸化物相3としてYAG:Ce結晶が混在したものとして説明する。つまり、第1の光変換部4は、単一金属酸化物相2及び複合金属酸化物相3が、断面視で斑状に(連続的にかつ3次元的に相互に絡み合って)形成されている凝固体からなる。
図2(a)、図4(a)に示すように、すべての状態が第1の光変換部4である構成の凝固体Cを準備する。凝固体Cは、蛍光物質と酸化物を混合した混合物を溶融した後に凝固させることにより、断面視で斑状に設けられた複数の酸化物相を有するように形成され(凝固体形成工程)、準備される。
図2(b)に示すように、第1の光変換部4のみの凝固体Cの一方の面に、例えば、CVDにてSiO2のマスクMsを形成する(マスク形成工程)。
【0033】
そして、図2(c)に示すように、加熱したリン酸:硫酸混合液となるエッチング液Hc中に凝固体Cを入れてエッチングを行う(エッチング工程)。なお、エッチングを行う場合、非マスク側からエッチング液Hcに浸漬させると、YAG:Ce結晶である複合金属酸化物相3が、Al23結晶である単一金属酸化物相2よりも相対的に速くエッチングされることになる。したがって、エッチングされた凝固体Cには、単一金属酸化物相2と複合金属酸化物相3との第1の光変換部4と、単一金属酸化物相2と複合金属酸化物相3の一部がエッチングにより除去されて空隙Eを有する層Epとが形成されている構成となる。なお、図2において、単一金属酸化物2は、ハッチング等を示していないが、酸化物相として常に存在している状態を示している。
【0034】
図2(d)及び図4(b)に示すように、空隙Eが形成された凝固体CからマスクMsを、例えば、既存の超高純度バッファードフッ酸(BHF:50%HF水溶液と40%NH4F水溶液を任意の配合比でブレンドした薬液)を使用してエッチングして除去する(マスク除去工程)。
つぎに、図3(a)に示すように、凝固体Cの空隙E側から、結着剤5bとなる樹脂と蛍光物質5aの蛍光粉末とを混合した蛍光粉末樹脂混合材料Pzを塗布する(例えば、キャスト法)(塗布工程)。
さらに、図3(b)に示すように、蛍光粉末樹脂混合材料Pzを塗布した凝固体Cを真空引きできる減圧装置Va(例えば、真空ポンプ)内に配置して真空引きする(減圧状態下に置く)ことで、空隙Eに蛍光粉末樹脂混合材料Pzを含浸させて充填する(含浸工程)。
【0035】
そして、図3(c)及び図4(c)に示すように、凝固体Cの表面の余分な蛍光粉末樹脂混合材料Pzを除去した後に、オーブン等の加熱装置Htにより所定温度に加熱することで樹脂を硬化させて蛍光物質含有バインダ相5を形成する(硬化工程)ことで、図3(d)に示すように、蛍光体板1を製造する。
以上のような各工程により、単一金属酸化物相2及び複合金属酸化物相3の第1の光変換部4と、単一金属酸化物相2及び蛍光物質含有バインダ相5の第2の光変換部6とを備える蛍光体板1を製造することができる。つまり、蛍光体板1は、単一金属酸化物及び複合金属酸化物から選択された酸化物からなる複数の酸化物相2,3(少なくとも第1の酸化物相と第2の酸化物相とを含む複数の酸化物相)が断面視で斑状である凝固体において、第2の酸化物相である複合金属酸化物相3が、板厚方向の所定深さまで蛍光物質含有バインダ5に置き換えられることで形成されている。そして、蛍光体板1は、その置き換えられた蛍光物質含有バインダ相5の位置までを第2の光変換部6とし、残留している複合金属酸化物相3までの範囲(ここでは凝固体の板厚方向の略半分)を第1の光変換部4としている。
【0036】
以上説明したように製造される蛍光体板1では、後から含浸させて形成される蛍光物質含有バインダ相5に、凝固体を形成するような高い温度をかけることがないので、蛍光物質含有バインダ相5に所望の蛍光物質5aを用いることが可能である。したがって、後記する発光装置10として使用するときに光の混色状態を自由に設定することができる。また、第1の光変換部4の厚みと、第2の光変換部6の厚みとをエッチング工程におけるエッチング時間を変えることで調整することができるので、任意の色調に調整することが可能となる。
【0037】
つぎに、図5を参照して、蛍光体板の他の構成について順次説明する。なお、各図において、同じ構成には同じ符号を付して説明を適宜省略する。
図5(a)に示すように、蛍光体板1Aは、単一金属酸化物相2及び複合金属酸化物相3を有する第1の光変換部4と、この第1の光変換部4の一方の面に連続し、単一金属酸化物相2及び蛍光物質含有バインダ相5を有する第2の光変換部6と、第1の光変換部4の他方の面に連続し、単一金属酸化物相2及び蛍光物質含有バインダ相15を有する第3の光変換部16とを備える構成としても構わない。
【0038】
この蛍光体板1Aを製造するには、次のような手順で行っている。凝固体Cをエッチング液Hcにエッチングしたい範囲の深さ(第3の光変換部16に対応する深さ)で浸漬させる。エッチング液Hcに浸漬させるときにはマスクMs(図2(c)参照)を設けない。そして、凝固体Cの一方の面側と、凝固体Cの他方の面側からエッチングを行う。このように凝固体Cの両面側から所定深さまでの複合金属酸化物相3を除去し、中央に複合金属酸化物相3が残るように調整したエッチング時間でエッチングを行う。つぎに、エッチングで複合金属酸化物相3が除去された後に形成された空隙E(図2(d)参照)に、凝固体Cの一方の面から、蛍光物質5aを含有する蛍光粉末樹脂混合材料を塗布する。併せて、エッチングで複合金属酸化物相3が除去された後に形成された空隙E(図2(d)参照)に、凝固体Cの他方の面から、蛍光物質15aを含有する蛍光粉末樹脂混合材料を塗布する。そして、蛍光粉末樹脂混合材料を塗布した凝固体Cを真空引きすることで、空隙Eに蛍光粉末樹脂混合材料を含浸させる。
【0039】
そして、その後、凝固体Cを加熱することで蛍光粉末樹脂混合材料を硬化させて、第1の光変換部4の両側に第2の光変換部6及び第3の光変換部16を備える蛍光体板1Aを製造することができる。なお、蛍光体板1Aでは、第2の光変換部6及び第3の光変換部16の蛍光物質5a,15aが同じものであってもよいし、蛍光物質5aと蛍光物質15aとが異なるものであっても構わない。なお、この蛍光体板1Aでは、3層とすることができるので、例えば、光の三原色であるRGBを変換することができる構成とすることもできる。蛍光体板1Aは、本来、酸化物相(2,3)の凝固体Cで形成されている状態から、置き換えられた蛍光物質含有バインダ相5、15の位置までを第2の光変換部6、第3の光変換部16とし、残留している複合金属酸化物相3までの範囲を第1の光変換部4としている。
【0040】
つぎに、図5(b)に示すような構成の蛍光体板1Bであっても構わない(請求項2に記載の蛍光体板に相当)。
図5(b)に示すように、蛍光体板1Bは、単一金属酸化物相2及び蛍光物質含有バインダ相15を備える第1の光変換部16A(既に説明した第3の光変換部16と同じ構成)と、単一金属酸化物相2及び蛍光物質含有バインダ相5を備える第2の光変換部6とを備えている。この蛍光体板1Bは、予め凝固体Cに単一金属酸化物相2と共に形成されていた複合金属酸化物相3を板厚方向において全部エッチングで除去した空隙Eに、蛍光物質含有バインダ相15と、蛍光物質含有バインダ相5とが連続するように形成されたものである。
【0041】
蛍光体板1Bを製造するには、一例として、次のような手順で行っている。はじめに、単一金属酸化物相2及び複合金属酸化物相3とからなる凝固体C(図2〜3参照)からマスクMsを設けることなく、エッチングすることで、凝固体Cから単一金属酸化物相2を残した状態で複合金属酸化物相3を全て除去する。そして、凝固体Cの一方の面から蛍光物質5aを含有する蛍光粉末樹脂混合材料を塗布すると共に、凝固体Cの他方の面から蛍光物質15aを含有する蛍光粉末樹脂混合材料を塗布する。そして、両面に異なる蛍光粉末樹脂混合材料を塗布した凝固体Cを真空引きすることで、空隙Eの板厚方向の全てに蛍光粉末樹脂混合材料を含浸させ、その後、硬化させて蛍光体板1Bを製造する。製造した蛍光体板1Bは、第1の光変換部16A及び第2の光変換部6に所望の蛍光物質5a,15aを備えることができるので、光の混色の調整を自在にすることができる。蛍光体板1Bは、本来、酸化物相(2,3)の凝固体Cで形成されている状態から、置き換えられた蛍光物質含有バインダ相5,15の位置までを第1の光変換部16A、第2の光変換部6としている。
【0042】
つぎに、図5(c)に示すように、蛍光体板1Cは、板厚方向に連続して第3の光変換部26と、この第3の光変換部26に連続する第1の光変換部16A(既に説明した第3の光変換部16と同じ構成)と、この第1の光変換部16に連続する第2の光変換部6と、を備えるように構成されている。そして、第3の光変換部26は、単一金属酸化物相2及び蛍光物質含有バインダ相25が断面視で斑状になるように構成されている。また、第1の光変換部16Aは、単一金属酸化物相2及び蛍光物質含有バインダ相15が断面視で斑状になるように構成されている。さらに。第2の光変換部6は、単一金属酸化物相2及び蛍光物質含有バインダ相5が断面視で斑状になるように構成されている。
【0043】
この蛍光体板1Cを製造するには、一例として、次のような手順で行っている。はじめに、単一金属酸化物相2及び複合金属酸化物相3とからなる凝固体C(図2(a)参照)にマスクMsを設けることなく、エッチングすることで、凝固体Cから単一金属酸化物相2を残した状態で複合金属酸化物相3を全て除去する。そして、凝固体Cの一方の面から蛍光物質5aを含有する蛍光粉末樹脂混合材料を塗布すると共に、凝固体Cの他方の面から蛍光物質15a、蛍光物質25aを含有する蛍光粉末樹脂混合材料を重ねて塗布する。そして、異なる蛍光粉末樹脂混合材料を塗布した凝固体Cを真空引きすることで、空隙Eの板厚方向の全てに3種類の蛍光粉末樹脂混合材料を含浸させ、その後、硬化させることで、蛍光体板1Cを製造する。なお、蛍光体板1Cにおいて、第3の光変換部26、第1の光変換部16A、第2の光変換部6が形成されるため、光の混色の調整を容易とする。蛍光体板1Cは、本来、酸化物相(2,3)の凝固体Cで形成されている状態から、置き換えられた蛍光物質含有バインダ相5の位置までを第2の光変換部6、置き換えられた蛍光物質含有バインダ相25の位置までを第3の光変換部26とし、残留している複合金属酸化物相3までの範囲を第1の光変換部16Aとしている。
【0044】
つぎに、図5(d)に示すように、蛍光体板1Dは、板厚方向に連続して単一金属酸化物相2及び蛍光物質含有バインダ相5からなる光変換部6A(既に説明した第2の光変換部6と同じ構成)から構成されている。この蛍光体板1Dは、予め形成されていた単一金属酸化物相2及び複合金属酸化物相3のうち、複合金属酸化物相3を除去した後の空隙に蛍光物質含有バインダ相5を形成することで製造されている。
【0045】
この蛍光体板1Dを製造するには、一例として、次のような手順で行っている。はじめに、単一金属酸化物相2及び複合金属酸化物相3とからなる凝固体C(図2(a)参照)にマスクMsを設けることなく、エッチングすることで、凝固体Cから単一金属酸化物相2を残した状態で複合金属酸化物相3を全て除去する。そして、凝固体Cの一方の面または両方の面から蛍光物質5aを含有する蛍光粉末樹脂混合材料を塗布する。そして、蛍光粉末樹脂混合材料を塗布した凝固体Cを真空引きすることで、空隙Eの板厚方向の全てに蛍光粉末樹脂混合材料を含浸させ、その後、硬化させることで、蛍光体板1Dを製造することができる。
【0046】
以上説明した蛍光体板1A〜1Dは、すでに説明した蛍光体板1と同様に、凝固体Cを形成する温度よりも低い温度で蛍光物質5a(15a,25a)を含浸させて充填することができるので、光の混色の調整の制限が緩和され、かつ、異なる蛍光物質5a(15a,25a)を多層にして使用することが可能となる。
【0047】
なお、蛍光体板1、1A〜1Dは、図6(a)、(b)に示すように、発光素子12に接合して発光装置10の一部として使用することができる。以下、発光装置10について説明する。なお、既に説明した各構成は、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。なお、図6では、蛍光体板1を使用した例として説明する。
図6に示すように、蛍光体板1と、発光素子12とを接合して発光装置10の構成としている。発光装置10は、発光素子12と、この発光素子12の基板11と、この基板11に接合される蛍光体板1とを備えている。そして、発光素子12では、例えば、透光性のサファイア基板を基板11として使用している。なお、図6(a)、(b)では、複数の発光素子(発光素子群)12を形成したウエハから個別の発光素子12に切断された後の状態を示している。
【0048】
発光装置10は、基板11に積層して形成した半導体層である半導体積層構造の発光素子12を備えている。発光素子12は、構成の詳細を省略しているが、例えば、基板11上に形成されたn型半導体層と、このn型半導体層上に形成されるp型半導体層と、n型半導体層とp型半導体層の間に形成される活性層と、p型半導体層上に形成されたp側全面電極層と、を備えている。なお、発光層の材料としては、例えばInXAlYGa1-X-YN(0≦X≦1、0≦Y≦1、X+Y≦1)等が利用できる。そして、発光素子12は、p型半導体層が積層されていないn型半導体層上には、n側パッド電極13が形成されると共に、p側全面電極層上に突出させてp側パッド電極14が形成されている。また、発光素子12には、n側パッド電極13の接続端面側、及び、p側パッド電極14の接続端面側を露出させるように保護膜(図示せず)が設けられている。
【0049】
発光装置10の製造方法としては、一例として、液相成長法、HDVPE法やMOCVD法により基板11上にZnS、SiC、GaN、GaP、InN、AlN、ZnSe、GaAsP、GaAlAs、InGaN、GaAlN、AlInGaP、AlInGaN等の半導体を発光層として形成させた半導体の積層構造であるn型半導体層、p型半導体層等を積層して発光素子12を形成する。
【0050】
また、蛍光体板1を図2図3及び図4で示すように製造する。そして、発光素子12及び蛍光体板1を準備して(準備工程)、準備した蛍光体板1と発光素子12とを基板11を介して直接接合させる(接合工程)。発光素子12の基板11と蛍光体板1との直接接合としては、例えば、表面活性化接合、原子拡散接合、水酸基接合などが挙げられ、これらのうちの一つを選択して用いることができる。なお、表面活性化接合とは、接合対象である部材の表面層に付着した酸化物や水分、有機物などといった不純物を表面層の一部ごと除去し、表面の原子の結合手同士を常温で直接結合する方法である(参考文献:国際公開第2011/126000号公報)。
【0051】
発光素子12の基板11と蛍光体板1を接合した後、ダイシング等により発光装置10の切断しろ部分に沿って一つ一つ個片化(個片化工程)させることで、図6(b)に示すように、発光装置10を製造している。なお、図6(b)中で示す矢印は光が取出された方向を示している。
この発光装置10は、発光素子12の基板11に接続された蛍光体板1側の面を光取出面として構成されており、半導体層の材料やその混晶度の選択により、発光波長を紫外光から赤外光まで種々選択することができ、さらに、蛍光体板1により光を混色して調整することができるものである。
【0052】
なお、発光装置10として使用されるときの発光素子12では、その基板11の材料が、蛍光体板1の単一金属酸化物相2と同等の素材であることが好ましい。すなわち、蛍光体板1では、単一金属酸化物相2として、例えば、酸化アルミニウム(サファイア)が使用されている場合、発光素子12の基板11の材料にも酸化アルミニウムが使用されることが望ましい。ここで材料が同等とは、共通の成分を含み、屈折率差が0.1を越えることがない状態であるものをいう。また、発光素子12から基板11及び単一金属酸化物相2の素材が酸化アルミニウムであると、ガラスや樹脂あるいはYAG単体と比較しても熱伝導率が高く蛍光体板1の温度上昇を抑えることができる。そのため、蛍光体板1の温度上昇に伴う変換効率の低下を抑制し、光束低下や色調ズレの少ない白色LEDである発光装置10を得ることができる。
【0053】
なお、図7に示すように、発光装置10を製造するときに、発光素子12の基板11と蛍光体板1とを接合する場合に、接合層30を介して接合するように構成しても構わない。ここで使用される接合層30は、低融点材料、例えばシリカ、樹脂、ガラス等であることが好ましい。なお、接合層30には、蛍光物質を含有させることができる。この含有させた蛍光物質によって発光ダイオードの色調の制御が可能になる。接合部分に存在させる蛍光物質としては、各種の蛍光材料が挙げられるが、白色発光ダイオードへの適用を考えた場合、赤色の蛍光を発するユーロピウムで付活したCa2Si58、ユーロピウムで付活したCaAlSiN3のような材料が好ましい。接合層30の蛍光物質の接着材料としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂などを用いることが可能である。なお、図7中で示す矢印は光が取出された方向を示している。
【0054】
さらに、図8に示すように、発光装置10を使用して支持基板付発光装置20の構成としても構わない。なお、図8中で示す矢印は光が取出された方向を示している。
この支持基板付発光装置20は、発光装置10のn側パッド電極13及びp側パッド電極14を支持基板21の実装位置に接合し、発光装置10の下方及び側面に白樹脂22を設けることで構成されている。
この支持基板付発光装置20は、例えば、支持基板21に発光装置10を複数実装し、各発光装置10の間に樹脂を充填して発光装置10の上端と揃えて硬化させ、その後個片化することで支持基板付発光装置20を製造することができる。なお、支持基板付発光装置20は、例えば、一つあるいは複数を並列させて用いることで車載外装用として使用することができる。
【0055】
以上説明したように、蛍光体板1、1A〜1Dを発光装置10あるいは支持基板付発光装置20に使用することで、蛍光物質5a(15a,25a)の選択の範囲を広げることができ、光の混色の設定を行う自由度を高めることができ、また、熱の影響を受け難い構成とすることができる。
なお、前記した発光素子12の基板11と蛍光体板1との接合方法において、原子拡散接合とは、互いの部材の接合面に超高真空中で微細結晶膜を形成し、それらの薄膜を真空中で重ね合わせて接合する方法である。さらに、水酸基接合とは、接合対象である部材の接合面に親水化処理を施すことにより水酸基(OH基)を形成し、接合面を接触させることにより互いの水酸基同士を水素結合させて接合する方法である。
【0056】
また、蛍光物質含有バインダ相5は、加熱することで硬化する結着剤5bを使用することとして説明したが、紫外線等の光を照射することにより硬化する樹脂等であっても構わない。
さらに、蛍光体板1,1A〜1Dは、単一金属酸化物及び複合金属酸化物の酸化物相が3次元的に相互に絡み合って形成されている既存の蛍光体板からエッチングして空隙Eを設けて蛍光物質含有バインダ5を含浸させて形成したが、第1の光変換部と、第2の光変換部、あるいは、第3の光変換部とを共通する酸化物相を備える別々な凝固体として設け、設けた凝固体を直接接合することで蛍光体板を形成しても構わない。
【0057】
そして、蛍光体板1,1A〜1Dは、単一金属酸化物の酸化物相と、複合金属酸化物の酸化物相とからなる凝固体の第1の光変換部4として説明したが、つぎの構成であってもよい。すなわち、第1の光変換部は、2つの異なる単一金属酸化物の酸化物相からなる凝固体、異なる2つ以上の単一金属酸化物の酸化物相からなる凝固体、2つの異なる複合金属酸化物の酸化物相からなる凝固体、あるいは、異なる2つ以上の複合金属酸化物の酸化物相からなる凝固体であっても構わない。
【0058】
また、第2の光変換部及び第3の光変換部においても、蛍光物質含有バインダ相と酸化物相が単一金属酸化物である凝固体として説明したが、酸化物相が複合金属酸化物であっても構わず、第1の光変換部に連続する同じ材料であれば限定されるものではない。
なお、発光装置では、蛍光体板1,1A〜1Dが凝固体の金属酸化物の一方として単一金属酸化物でその単一金属酸化物がAl23の単結晶である例として説明したが、発光装置の基板と同一の材料を蛍光体板1,1A〜1Dの基板を接合する側に備える場合であれば、前記した以外の材料であってもよく、限定されるものではない。また、発光装置では、基板と接合する材料を蛍光体板1,1A〜1Dの接合する側に備えていことがより好ましいが、互いに接合する材料が異なる材料であっても構わない。
【0059】
なお、蛍光体板1,1A、1B、1Cでは、各層の境目における蛍光物質含有バインダ相5,15、25等が同一直線平面上で区画される必要はなく境目部分は凹凸状態となっても構わない。また、蛍光物質含有バインダ相5,15,25は、板厚方向に対向する層に空間を挟んで並んで配置される状態と、板厚方向に空間を設けずに当接(連続)して並んで配置される状態とが存在する構成であってもよい。さらに、蛍光物質含有バインダ相5,15,25は、対向している全ての相に空間を設けずに板厚方向に連続するように構成されてもよい。つまり、蛍光物質含有バインダ相5,15,25は、発光装置に使用されるときに所望の光を取り出すことができれば、その対向する相との接続関係(充填状態)が限定されるものではない。
さらに、第1の光変換部と第2の光変換部との板厚方向の割合、及び、第1の光変換部〜第3の光変換部までのそれぞれの板厚方向の割合は、均等であることや、任意に設定される構成であっても構わない。
また、蛍光体板1,1A〜1Dでは、断面視において斑状に絡み合った酸化物相(2,3)の間に他の酸化物相が存在する事もある。そして、斑状とは、不規則な相(2,3あるいは2,5等)が互いに絡み合って3次元方向に連続あるいは非連続になっている状態である。
【0060】
さらに、蛍光体板の製造方法において、凝固体形成工程と、エッチング工程と、塗布工程と、含浸工程と、硬化工程とを行うことで蛍光体板を製造することとしてもよい。含浸工程においては、通常の塗布工程で蛍光物質含有バイダが空隙に含浸さえすれば、真空引きは必ずしも必須ではないが、真空引きすることで行うようにすれば、蛍光物質含有バインダが空隙の奥深くまで含浸され、対向する相に対して連続して設けられる状態がより増える構成となる。
また、蛍光体板の製造方法において、前記したように予め準備される凝固体を切断し、切断した一方の凝固体における一方の酸化物相をエッチングで除去し蛍光物質含有バインダを充填することとしてもよい。そして、蛍光物質含有バインダ相を形成した後に、切断した他方の凝固体と接合する手順を行う。この製造方法で切断する凝固体の位置は、充填したい蛍光物質含有バインダ相の範囲が予め分かっていたときにその範囲で設定することができる。したがって、この製造方法では、光を混色する自由度をさらに向上することができ、都合がよい。
【0061】
つまり、蛍光体板は、蛍光物質を含む蛍光相(3,5)と蛍光物質を含まない非蛍光相(酸化物相2)と、が断面視で斑状に設けられた蛍光体板であって、前記蛍光相(3,5)は、第1蛍光物質(3a)を含む第1領域(複合酸化物相3)と、第2蛍光物質(5a)を含む第2領域(蛍光物質含有バインダ相5)と、が板厚方向に並んで設けられている構成であればよい。また、図5(a)、(c)に示すような第3の光変換部が設けられる場合には、第3領域(蛍光物質含有バインダ相15,25)が既に説明したように、板厚方向に並んで設けられることとしても構わない。
さらに、蛍光体板の製造方法において、第1の光変換部の蛍光物質含有層である複合酸化物相をエッチングにより一部を除去して蛍光物質含有バインダ層にすることとして説明したが、第1の光変換部の酸化物相をエッチングにより除去して蛍光物質含有バインダ相を形成する構成としても構わない。
また、発光装置を製造する製造方法において、蛍光体板1,1A〜1Dを製造し、基板11と先に接合した後に、基板11に半導体層を前記したようにして積層して製造する手順としても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本願発明は、照明用光源、各種インジケーター用光源、車両用ヘッドライトを含む車載光源、ディスプレイ用光源、液晶のバックライト用光源、信号機、看板用チャンネルレターなど、種々の光源に使用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1、1A、1B、1C、1D 蛍光体板
2 酸化物相、第1の酸化物相(単一金属酸化物相)
3 第2の酸化物相(複合金属酸化物相)
3a 蛍光物質(金属元素酸化物)
4,16A 第1の光変換部
5,15,25 蛍光物質含有バインダ相
5a,15a,25a 蛍光物質
5b 結着剤
6 第2の光変換部
10 発光装置
11 基板
12 発光素子
13 n側パッド電極
14 p側パッド電極
16,26 第3の光変換部
20 支持基板付発光装置
21 支持基板
22 白樹脂
30 接合層
C 凝固体
E 空隙
Ep 層
Hc エッチング液
Ht 加熱装置
Ms マスク
Pz 蛍光粉末樹脂混合材料
Va 減圧装置
図1
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図8