(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(A)無機酸化物(但し酸化チタンを除く)を複合してもよい酸化チタンを核とし、該核の外側に酸化ケイ素の殻を有するコアシェル型微粒子100質量部に対して、下記一般式(I)及び下記一般式(II)で表される表面処理成分の双方により、該表面処理成分の合計量11〜200質量部において処理されてなる表面処理酸化チタン、
R1Si(OR2)3 (I)
(式(I)中において、R1は(メタ)アクリル基を有してもよい炭素数1以上15以下の有機基、R2は炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。)
(R3R42Si)2NH (II)
(式(II)中において、R3は(メタ)アクリル基を有してもよい炭素数1以上15以下の有機基、R4は炭素数1以上6以下のアルキル基を表す。)
(B)アルコキシシリル基を含有するビニル系単量体(b−1):1〜50質量%と、紫外線吸収性ビニル系単量体(b−2):5〜40質量%と、これらビニル系単量体と共重合可能な他の単量体(b−3):10〜94質量%とを共重合して得られるビニル系共重合体、
(C)溶剤
を含有し、かつ(A)表面処理酸化チタン量が、(B)ビニル系共重合体100質量部に対して、1〜50質量部であり、
コアシェル型微粒子が、スズ並びにマンガンを固溶した正方晶系酸化チタン固溶体微粒子を核とし、核の外側に酸化ケイ素の殻を有するコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体であって、該酸化チタン水分散液を動的光散乱法で測定した該核微粒子の体積平均50%累計分布径が30nm以下で、該コアシェル型微粒子の50%累計分布径が50nm以下であり、前記スズ成分の固溶量が、チタンとのモル比(Ti/Sn)で10〜1,000、前記マンガン成分の固溶量が、チタンとのモル比(Ti/Mn)で10〜1,000であることを特徴とするコーティング組成物。
一般式(I)で示される表面処理成分が、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン又は3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
(b−3)成分が、環状ヒンダードアミン構造を有する(メタ)アクリル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、アルキルビニルエーテル、アルキルビニルエステル、スチレン、及びこれらの誘導体から選ばれる成分である請求項1〜7のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
基材の少なくとも一方の面に、直接もしくは少なくとも1種の他の層を介して、請求項1〜8のいずれか1項に記載のコーティング組成物の硬化被膜を被覆してなる被覆物品。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の組成物を詳細に説明する。
(A)成分:表面処理酸化チタン
本発明における表面処理酸化チタンは、無機酸化物、特に金属酸化物(但し酸化チタンを除く)を複合してもよい酸化チタンを核とし、該核の外側に酸化ケイ素の殻を有するコアシェル型微粒子であって、コアシェル型微粒子100質量部に対して、下記一般式(I)及び下記一般式(II)で表される表面処理成分の双方で該表面処理成分の合計量が11〜200質量部となるように処理したものであることを特徴としている。
R
1Si(OR
2)
3 (I)
(式(I)中において、R
1は(メタ)アクリル基を有してもよい炭素数1以上15以下の有機基、R
2は炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。)
(R
3R
42Si)
2NH (II)
(式(II)中において、R
3は(メタ)アクリル基を有してもよい炭素数1以上15以下の有機基、R
4は炭素数1以上6以下のアルキル基を表す。)
【0024】
R
1としては、特に(メタ)アクリロイルオキシ基を有してもよい炭素数1〜15、特に4〜12のアルキル基が挙げられる。一般式(I)で表される化合物の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシメチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシメチルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリエトキシシラン等の(メタ)アクリロイルオキシ基で置換可能な炭素基を有するシラン化合物を挙げることができる。このような化合物は、合成しても市販されているものを用いてもよい。市販品では、メチルトリメトキシシランとして信越化学工業(株)製の「KBM−13」、プロピルトリメトキシシランとして「KBM−3033」、アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランとして「KBM−5103」、メタアクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランとして「KBM−503」等を使用することができる。
【0025】
R
3としては、特に(メタ)アクリロイルオキシ基を有してもよい炭素数1〜15、特に4〜12のアルキル基が挙げられる。一般式(II)で表される化合物の具体例としては、ヘキサメチルジシラザン、ビス{(アクリロイルオキシメチル)ジメチルシリル}アザン、ビス{(アクリロイルオキシプロピル)ジメチルシリル}アザン、ヘキサエチルジシラザン、ヘキサプロピルジシラザン等を例示することができる。これらの化合物は、公知の手法(特開2009−67778号公報)によって合成することができる。
【0026】
ここで、上記式(I)及び(II)で表される表面処理剤成分の合計量は、コアシェル型微粒子100質量部に対し11〜200質量部であるが、好ましくは40〜190質量部、更に好ましくは60〜180質量部である。
この場合、式(I)の表面処理剤成分と式(II)の表面処理剤成分との処理量割合は、質量比として10:190〜199:1であることが好ましく、より好ましくは20:170〜170:20、更に好ましくは30:150〜150:30である。
【0027】
表面処理酸化チタンの製造方法は特に限定されるものではなく、市販の有機溶剤分散酸化チタン(例えば、日揮触媒化成(株)製、「オプトレイク」シリーズ等)に対して、一般式(I)及び一般式(II)で示されるシラン化合物によって表面処理したものを用いてもよいが、以下に記載する工程(i)〜工程(viii)によって製造したものを用いることがより好ましい。
【0028】
工程(i)
本発明における、工程(i)において準備する酸化チタン分散液は無機酸化物コロイドの水分散液として準備されることが好ましい。無機酸化物コロイド水分散液は、好ましくは1〜200nmの平均累計粒子径を有する無機酸化物粒子が水等の液体分散媒中に凝集せずに分散しているものである。
【0029】
コロイド溶液の分散質
本発明で用いるコロイド溶液の分散質は、無機酸化物、特に金属酸化物を複合してもよい酸化チタン(以下、単に酸化チタンという場合がある)である。酸化チタンと複合されることが可能な金属酸化物を構成する元素としては、酸化チタン以外の13族元素、14族元素(炭素を除く)、第1系列遷移元素、第2系列遷移元素、第3系列遷移元素、ランタノイド等が挙げられる。特にスズ及びマンガンであることが好ましい。
【0030】
本発明で用いる酸化チタンと複合されることが可能な金属酸化物は、前記の金属酸化物の群から選ばれるものであれば、1種単独で又は2種以上を複合したものを用いることができる。なお、本発明において複合とは、広義の意味であり、単純混合及び化学結合を介して複合化されたものであればよい。化学結合を介した複合とは、下記一般式(X)で表されるような形態をいう。
(M
1O
x)
m(M
2O
y)
n (X)
【0031】
ここで、M
1は、Al、B、In、Si、Ge、Sn、Ti、Mn、Zn、Y、Zr、Hf、Ta、La、Ce、Pr、Nd、Tb、Dy、Ybの元素記号で表されるいずれか1種である。M
2は、Al、B、In、Si、Ge、Sn、Ti、Mn、Zn、Y、Zr、Hf、Ta、La、Ce、Pr、Nd、Tb、Dy、Ybの元素記号で表されるいずれか1種であり、M
1で選択されたものと同一ではない元素である。x、yは、M
1の価数をaとすればx=a/2、M
2の価数をbとすればy=b/2で表すことができる。m、nは、m+n=1を満たす実数であって、かつ0<m<1及び0<n<1を満たす。即ち、構造中において、M
1とM
2が酸素を介して結合した単位を有している。M
1とM
2は、構造中において散在していてもよく、また偏在していてもよい。M
1とM
2が構造中において散在しているものは、複数種の金属アルコキシドの共加水分解物において見られる構造である。M
1とM
2が構造中において偏在しているものは、コアシェル粒子(金属酸化物微粒子を核とし、この核の外側に他の金属酸化物の殻を有する粒子)において見られる構造であり、例えば、複数種の金属アルコキシドを種類に応じて段階的に加水分解することで形成される。特にスズ及びマンガンであることが好ましい。
【0032】
酸化チタン分散質の粒子径(平均累計粒子径)は、種々の方法で測定できる。本発明での粒径の範囲は、レーザー光を用いた動的光散乱法で測定したものの体積基準の50%累積分布径(D
50)として議論するが、傍証として電子顕微鏡法を用いて観測することも可能である。これらの測定法によって求められる値は、測定装置に依存したものではないが、例えば、動的光散乱法としては、ナノトラックUPA−EX150(日機装(株)製)等の装置を用いることができる。また、電子顕微鏡法としては透過型電子顕微鏡H−9500(日立ハイテクノロジーズ(株)製)を装置として例示することができる。例えば、コロイド溶液をコーティング塗料に添加する場合は、可視領域における透明性が重要であるため、分散質の平均累計粒子径は、1〜200nmが好ましく、1〜100nmであることがより好ましく、1〜80nmであることが更に好ましく、1〜50nmであることが特に好ましい。分散質の平均累計粒子径が200nmを超えると、可視領域の光波長より大きくなり、散乱が顕著となる場合がある。また、1nm未満になると、分散質の系中での総表面積が極めて大きくなることにより、酸化チタン分散液としての取り扱いが困難になる場合がある。
【0033】
酸化チタン分散液の分散媒
本発明の工程(i)で準備するコロイド溶液は、水を分散媒とすることを特徴とする。水としては、水道水、工業用水、井戸水、天然水、雨水、蒸留水、イオン交換水等の淡水を用いることができるが、特にイオン交換水であることが好ましい。イオン交換水は、純水製造器(例えば、オルガノ(株)製、製品名「FW−10」、メルクミリポア(株)製、製品名「Direct−QUV3」等)を用いて製造することができる。また、分散媒には、以下に述べるように酸化チタン分散液を製造する工程で水と任意に混和可能な1価のアルコールを含んでいてもよい。水と任意に混和可能な1価のアルコールは、コアシェル型微粒子を製造する際の共溶媒及びゾル−ゲル反応における金属アルコキシドの加水分解副生成物としての由来で含有してもよい。水と任意に混和可能な1価のアルコールは、水に対して0質量%以上30質量%以下で含んでいることが好ましく、0質量%以上25質量%以下であることがより好ましく、0質量%以上20質量%以下であることが更に好ましい。水と任意に混和可能な1価のアルコールの含有量が30質量%より多くなると、工程(ii)において添加する水と完全には相溶しないアルコールの相溶化剤として作用することがあるため好ましくないことがある。
【0034】
酸化チタン分散液の濃度
本発明の工程(i)で準備する酸化チタン分散液の濃度は、好ましくは1質量%以上35質量%以下、より好ましくは5質量%以上30質量%以下、更に好ましくは10質量%以上25質量%以下である。酸化チタン分散液の濃度が1質量%より低いと、製造効率がよくないことがあり、酸化チタン分散液の濃度が35質量%より高いと、pHや温度等の条件によっては、ゲル化し易くなることがある。ここでいう濃度とは、酸化チタン分散液全体(分散質及び分散媒の質量の総和)中に含まれる分散質の質量の割合を100分率で表したものである。濃度は、酸化チタン分散液の一定量を秤量して、分散媒を強制乾固した際の質量変化から求めることができる。
【0035】
コアシェル構造を有する酸化チタン分散液
本発明で用いる酸化チタン分散液としては、とりわけ、上述した金属元素の酸化物の1種単独又は2種以上と酸化チタンを複合したものを核とし、この核の外側に上述した金属元素の酸化物の1種単独又は2種以上を複合したものの殻を有するコアシェル型微粒子を含有するコアシェル構造を有する酸化チタンの分散液を用いるのが好ましい。このようなコアシェル型微粒子含有酸化チタンの分散液としては、酸化チタン−酸化スズ−酸化マンガン複合酸化物(スズ及びマンガンを固溶した酸化チタン微粒子)を核とし、この核の外側に酸化ケイ素の殻を有するコアシェル型微粒子を含む酸化チタン分散液等が挙げられる。以下に、本発明で用いられるコアシェル型微粒子(コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体)酸化チタン分散液について詳細に説明する。
【0036】
コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体(微粒子)コロイド溶液
コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体コロイド溶液は、スズ及びマンガンを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子を核とし、該核の外側に酸化ケイ素の殻を有するコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体を水等の水性分散媒中に分散したものである。
【0037】
ここで、酸化チタンには、通常、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型の3つがあるが、本発明では、光触媒活性が低く、紫外線吸収能力に優れた正方晶系ルチル型の酸化チタンをスズ及びマンガンの固溶媒として用いることが好ましい。
【0038】
固溶質としてのマンガン成分は、マンガン塩から誘導されるものであればよく、酸化マンガン、硫化マンガン等のマンガンカルコゲナイドが挙げられ、酸化マンガンであることが好ましい。マンガン塩としては、フッ化マンガン、塩化マンガン、臭化マンガン、ヨウ化マンガン等のマンガンハロゲン化物、シアン化マンガン、イソチオシアン化マンガン等のマンガン擬ハロゲン化物、硝酸マンガン、硫酸マンガン、燐酸マンガン等のマンガン鉱酸塩等を用いることができるが、安定性と入手の容易さから塩化マンガンを用いることが好ましい。また、マンガン塩におけるマンガンは2価から7価の原子価のものから選択できるが、2価のマンガンを用いることが特に好ましい。
固溶質としてのスズ成分は、スズ塩から誘導されるものであればよく、酸化スズ、硫化スズ等のスズカルコゲナイドが候補として挙げられ、酸化スズであることが好ましい。スズ塩としては、フッ化スズ、塩化スズ、臭化スズ、ヨウ化スズ等のスズハロゲン化物、又は、シアン化スズ、イソチオシアン化スズ等のスズ擬ハロゲン化物、又は、硝酸スズ、硫酸スズ、燐酸スズ等のスズ鉱酸塩等を用いることができるが、安定性と入手の容易さから塩化スズを用いることが好ましい。また、スズ塩におけるスズは2価から4価の原子価のものから選択できるが、4価のスズを用いることが特に好ましい。それぞれ後述の固溶量となるように使用される。また、水性分散媒、塩基性物質は、それぞれ前述のものが、前述の配合となるように使用される。
【0039】
スズ及びマンガンを正方晶系酸化チタンに固溶させる場合、スズ成分の固溶量が、チタンとのモル比(Ti/Sn)で10〜1,000、より好ましくは20〜200であり、マンガン成分の固溶量が、チタンとのモル比(Ti/Mn)で10〜1,000、より好ましくは20〜200である。スズ成分、マンガン成分の固溶量が、チタンとのモル比(Ti/Sn)、(Ti/Mn)で10よりも少ないとき、スズ及びマンガンに由来する可視領域の光吸収が顕著となり、一方、1,000を超えると、光触媒活性が十分に失活せず、結晶系も可視吸収能の小さいアナターゼ型となる場合がある。
【0040】
スズ成分及びマンガン成分の固溶様式は、置換型であっても侵入型であってもよい。ここでいう、置換型とは、酸化チタンのチタン(IV)イオンのサイトにスズ及びマンガンが置換されて形成される固溶様式のことであり、侵入型とは、酸化チタンの結晶格子間にスズ及びマンガンが存在することにより形成される固溶様式のことである。侵入型では、着色の原因となるF中心が形成され易く、また金属イオン周囲の対称性が悪いため金属イオンにおける振電遷移のフランク−コンドン因子も増大し、可視光を吸収し易くなる。そのため、置換型であることが好ましい。
【0041】
スズ及びマンガンを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子の核の外側に形成される酸化ケイ素の殻は、酸化ケイ素を主成分とし、スズやアルミニウムなどその他の成分を含有していてもよく、どのような手法で形成させたものであってもよい。例えば、該酸化ケイ素の殻は、テトラアルコキシシランの加水分解縮合によって形成することができる。テトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトラ(i−プロポキシ)シラン、テトラ(n−ブトキシ)シラン等の通常入手可能なものを用いればよいが、反応性と安全性の観点からテトラエトキシシランを用いることが好ましい。このようなものとして、例えば、市販の「KBE−04」(信越化学工業(株)製)を用いることができる。また、テトラアルコキシシランの加水分解縮合は、水中で行えばよく、アンモニア、アルミニウム塩、有機アルミニウム、スズ塩、有機スズ等の縮合触媒を適宜用いればよいが、アンモニアは該核微粒子の分散剤としての作用も兼ね備えているため、特に好ましい。
【0042】
このようなスズ及びマンガンを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子を核とし、該核の外側に酸化ケイ素の殻を有するコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体全体に対する殻の酸化ケイ素の割合は、20〜50質量%、好ましくは25〜45質量%、より好ましくは30〜40質量%であることがよい。20質量%よりも少ないとき、殻の形成が不十分となる場合があり、一方、50質量%を超えると、該粒子の凝集を促進し分散液が不透明となる場合がある。
【0043】
コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体において、レーザー光を用いた動的光散乱法で測定した核となるスズ及びマンガンを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子の体積基準の50%累積分布径(D
50)は30nm以下、より好ましくは20nm以下であり、コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体の体積基準の50%累積分布径(D
50)は50nm以下であり、より好ましくは30nm以下である。上記核微粒子及びコアシェル型固溶体のD
50値が上記上限値を超えるとき、分散液が不透明となる場合がある。また、特に限定されないが、通常、上記核微粒子のD
50の下限値は、5nm以上、コアシェル型固溶体のD
50下限値は、6nm以上である。なお、このような体積基準の50%累積分布径(D
50、以下、「平均粒子径」ということがある。)を測定する装置としては、例えば、ナノトラックUPA−EX150(日機装(株)製)等を挙げることができる。
【0044】
コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体を分散する水性分散媒としては、水、及び水と任意の割合で混合される親水性有機溶媒との混合溶媒が挙げられる。水としては、例えば、脱イオン水(イオン交換水)、蒸留水、純水等が好ましい。親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコールが好ましい。この場合、親水性有機溶媒の混合割合は、水性分散媒中0〜30質量%であることが好ましい。30質量%を超えると、工程(ii)において、水と完全には相溶しないアルコールの相溶化剤として作用することがあるため好ましくないことがある。中でも、生産性、コスト等の点から脱イオン水、純水が最も好ましい。
【0045】
コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体と水性分散媒とから形成されるコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体コロイド溶液において、上記コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体の濃度は、0.1質量%以上10質量%未満が好ましく、より好ましくは0.5〜5質量%、更に好ましくは1〜3質量%である。なお、この水性分散媒中には、後述するコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体の製造過程において使用された塩基性物質(分散剤)等を含んでいることを許容する。特に、塩基性物質は、pH調整剤、分散剤としての性質を兼ね備えているので、上記水性分散媒と共に適当な濃度の水溶液にして用いてもよい。但し、コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体コロイド溶液には、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物、リン酸化合物、リン酸水素化合物、炭酸化合物及び炭酸水素化合物以外の分散剤(塩基性物質)を含有していないことが好ましい。これは、上記塩基性物質を含有させておくことによって、従来、酸化チタン微粒子の分散剤として使用せざるを得なかった高分子分散剤を敢えて使用する必要がなくなり、従って、該高分子分散剤を含む酸化チタン微粒子分散剤をコーティング剤に適用した際に生じていた塗膜(硬化膜)の耐擦傷性及び基材との密着性に係る阻害を回避できるためである。
【0046】
このようなコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体水分散液における塩基性物質(分散剤)としては、例えば、アンモニア、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、リン酸二水素一リチウム、リン酸二水素一ナトリウム、リン酸二水素一カリウム、リン酸二水素一セシウム、リン酸水素二リチウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二セシウム、リン酸三リチウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸三セシウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等を挙げることができ、特に、アンモニア及び水酸化ナトリウムが好ましい。
【0047】
このような構成のコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体コロイド溶液は高い透明性を有し、例えば、1質量%濃度のコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体コロイド溶液が満たされた光路長1mmの石英セルを通過する550nmの波長の光の透過率が通常80%以上、より好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上である。なお、このような透過率は、紫外可視透過スペクトルを測定することによって、容易に求めることができる。
【0048】
特に、以下に述べるスズ及びマンガンを固溶したコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体コロイド溶液の製造方法によるものは、該固溶体を得るに際し、製造工程中で粉砕や分級等の機械的単位操作を経ていないにもかかわらず、上記の特定の累積粒度分布径にすることができるので、生産効率が非常に高いだけでなく、上記の高い透明性を確保できる。
【0049】
コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体コロイド溶液の製造方法
上述した構成を有するスズ及びマンガンを固溶したコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体水分散液の製造方法は、次の工程(イ)、(ロ)からなる。
工程(イ)
この工程では、まず、スズ成分及びマンガン成分が正方晶系酸化チタンに固溶している正方晶系酸化チタン固溶体微粒子の水分散体を用意する。この水分散体を得る方法は、特に限定されないが、原料となるチタン化合物、スズ化合物、マンガン化合物、塩基性物質及び過酸化水素を水性分散媒中で反応させて、一旦、スズ及びマンガンを含有したペルオキソチタン酸溶液を得た後、これを水熱処理してスズ及びマンガンを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子分散液を得る方法が好ましい。
【0050】
前段のスズ及びマンガンを含有したペルオキソチタン酸溶液を得るまでの反応は、水性分散媒中の原料チタン化合物に塩基性物質を添加して水酸化チタンとし、含有する不純物イオンを除去し、過酸化水素を添加してペルオキソチタン酸とした後にスズ化合物及びマンガン化合物を添加して、スズ及びマンガンを含有したペルオキソチタン酸溶液とする方法でも、水性分散媒中の原料チタン化合物にスズ化合物及びマンガン化合物を添加した後に塩基性物質を添加してスズ及びマンガンを含有した水酸化チタンとし、含有する不純物イオンを除去し、過酸化水素を添加してスズ及びマンガンを含有したペルオキソチタン酸溶液とする方法でもよい。
【0051】
ここで、原料のチタン化合物としては、例えば、チタンの塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の無機酸塩、蟻酸、クエン酸、蓚酸、乳酸、グリコール酸等の有機酸塩、これらの水溶液にアルカリを添加して加水分解することにより析出させた水酸化チタン等が挙げられ、これらの1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
スズ化合物としては、スズ塩から誘導されるものであればよく、酸化スズ、硫化スズ等のスズカルコゲナイドが候補として挙げられ、酸化スズであることが好ましい。スズ塩としては、フッ化スズ、塩化スズ、臭化スズ、ヨウ化スズ等のスズハロゲン化物、又は、シアン化スズ、イソチオシアン化スズ等のスズ擬ハロゲン化物、又は、硝酸スズ、硫酸スズ、燐酸スズ等のスズ鉱酸塩等を用いることができるが、安定性と入手の容易さから塩化スズを用いることが好ましい。また、スズ塩におけるスズは2価から4価の原子価のものから選択できるが、4価のスズを用いることが特に好ましい。それぞれ前述の固溶量となるように使用される。また、水性分散媒、塩基性物質も、それぞれ前述のものが、前述の配合となるように使用される。
【0053】
マンガン化合物としては、マンガン塩から誘導されるものであればよく、酸化マンガン、硫化マンガン等のマンガンカルコゲナイドが挙げられ、酸化マンガンであることが好ましい。マンガン塩としては、フッ化マンガン、塩化マンガン、臭化マンガン、ヨウ化マンガン等のマンガンハロゲン化物、シアン化マンガン、イソチオシアン化マンガン等のマンガン擬ハロゲン化物、硝酸マンガン、硫酸マンガン、燐酸マンガン等のマンガン鉱酸塩等を用いることができるが、安定性と入手の容易さから塩化マンガンを用いることが好ましい。また、マンガン塩におけるマンガンは2価から7価の原子価のものから選択できるが、2価のマンガンを用いることが特に好ましい。
【0054】
過酸化水素は、上記原料チタン化合物又は水酸化チタンをペルオキソチタン、つまりTi−O−O−Ti結合を含む酸化チタン系化合物に変換させるためのものであり、通常、過酸化水素水の形態で使用される。過酸化水素の添加量は、チタン、スズ及びマンガンの合計モル数の1.5〜5倍モルとすることが好ましい。また、この過酸化水素を添加して原料チタン化合物又は水酸化チタンをペルオキソチタン酸にする反応における反応温度は、5〜60℃とすることが好ましく、反応時間は、30分〜24時間とすることが好ましい。
【0055】
こうして得られるスズ及びマンガンを含有したペルオキソチタン酸溶液は、pH調整等のため、塩基性物質又は酸性物質を含んでいてもよい。ここでいう、塩基性物質としては、例えば、アンモニア等が挙げられ、酸性物質としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、炭酸、リン酸、過酸化水素等の無機酸及び蟻酸、クエン酸、蓚酸、乳酸、グリコール酸等の有機酸が挙げられる。この場合、得られたスズ及びマンガンを含有したペルオキソチタン酸溶液のpHは1〜7、特に4〜7であることが取り扱いの安全性の点で好ましい。
【0056】
次いで、後段のスズ及びマンガンを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子コロイド溶液を得るまでの反応は、上記スズ及びマンガンを含有したペルオキソチタン酸溶液を、圧力0.01〜4.5MPa、好ましくは0.15〜4.5MPa、温度80〜250℃、好ましくは120〜250℃、反応時間1分〜24時間の条件下での水熱反応に供される。その結果、スズ及びマンガンを含有したペルオキソチタン酸は、スズ及びマンガンを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子に変換されていく。
【0057】
本発明においては、こうして得られるスズ及びマンガンを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子分散液に、1価アルコール、アンモニア、及びテトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシランを配合する。
【0058】
1価アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、及びこれらの任意の混合物が使用され、特に好ましくはエタノールが使用される。このような1価アルコールの配合量は、上記酸化チタン微粒子分散液100質量部に対して、100質量部以下、好ましくは30質量部以下で使用される。特に、1価アルコールの配合量を変えることによって、次工程において、スズ及びマンガンを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子からなる核の外側に形成する酸化ケイ素の殻の厚さを制御することが可能になる。一般に、1価アルコールの配合量を増やせば、テトラアルコキシシラン等のケイ素反応剤の反応系への溶解度が増大する一方で酸化チタンの分散状態には悪影響を与えないので、該殻の厚さは厚くなる。即ち、次工程において得られるスズ及びマンガンを固溶したコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体水分散液は、製造工程中で粉砕や分級等の機械的単位操作を経ていないにもかかわらず、上記特定の累積粒度分布径の範囲にすることができ、可視部における透明性を付与し得る。1価アルコールの配合量は、30質量部以下であることが好ましいが、これ以上のアルコールを含有する場合であっても、濃縮の工程でアルコールを選択的に取り除くことも可能であるため、適宜必要な操作を追加することができる。なお、1価アルコールの配合量下限は、5質量部以上、特に10質量部以上であることが好ましい。
【0059】
アンモニアは、アンモニア水であり、スズ及びマンガンを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子分散液中にアンモニアガスを吹き込むことによってアンモニア水の添加に代えてもよく、更に該分散液中でアンモニアを発生し得る反応剤を加えることによってアンモニア水の添加に代えてもよい。アンモニア水の濃度は、特に限定されるものではなく、市販のどのようなアンモニア水を用いてもよい。本発明の工程においては、例えば、28質量%の濃アンモニア水を用いて、スズ及びマンガンを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子分散液のpHを9〜12、より好ましくは9.5〜11.5となる量までアンモニア水を添加することが好ましい。
【0060】
テトラアルコキシシランとしては、上述したものを用いることができるが、テトラエトキシシランが好ましい。テトラエトキシシランには、それ自体の他、テトラエトキシシランの(部分)加水分解物も用いることができる。このようなテトラエトキシシラン又はテトラエトキシシランの(部分)加水分解物としては、市販のどのようなものでもよく、例えば、製品名「KBE−04」(テトラエトキシシラン:信越化学工業(株)製)、製品名「シリケート35」,「シリケート45」(テトラエトキシシランの部分加水分解縮合物:多摩化学工業(株)製)、製品名「ESI40」,「ESI48」(テトラエトキシシランの部分加水分解縮合物:コルコート(株)製)等を使用してもよい。これらのテトラエトキシシラン等は、1種を用いても、複数種を用いてもよい。
【0061】
テトラアルコキシシランの配合量は、加水分解後の酸化ケイ素を含有する酸化チタンに対して20〜50質量%、好ましくは25〜45質量%、より好ましくは30〜40質量%となるように用いる。20質量%よりも少ないとき、殻の形成が不十分となり、50質量%よりも多いとき、該粒子の凝集を促進し、分散液が不透明となることがある。
【0062】
スズ及びマンガンを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子分散液に、1価アルコール、アンモニア、及びテトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシランを加えて混合する方法は、どのような方法で実施してもよく、例えば、磁気攪拌、機械攪拌、振盪攪拌等を用いることができる。
【0063】
工程(ロ)
ここでは、上記工程(イ)で得られた混合物を急速加熱することにより、スズ及びマンガンを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子を核とし、該核の外側に酸化ケイ素の殻を有するコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体の微粒子を形成させる。
【0064】
工程(イ)で得られた混合物を急速加熱する方法は、既存のどのようなものであってもよく、マイクロ波による加熱、高い熱交換効率を達成できるマイクロリアクター、及び大きな熱容量を持った外部熱源との熱交換等を用いることができる。特に、マイクロ波を用いた加熱方法は、均一かつ急速に加熱することができるため好ましい。なお、マイクロ波を照射して加熱する工程は、回分工程であっても連続工程であってもよい。
【0065】
急速加熱法は、室温から分散媒の沸点直下(通常、10〜80℃程度)に達するまでの時間が10分以内であることが好ましい。これは、10分を超える加熱方法のとき、該粒子が凝集することとなり、好ましくないからである。
【0066】
このような急速加熱法にマイクロ波加熱を用いるときは、例えば、その周波数が300MHz〜3THzの電磁波の中から適宜選択することができる。日本国内においては、電波法によって、通常使用可能なマイクロ波周波数帯域が、2.45GHz、5.8GHz、24GHz等に決められているが、中でも2.45GHzは、民生用にも多く使用されており、この周波数の発振用マグネトロンは設備価格上有利である。しかしながら、この基準は特定の国や地域の法律や経済状況に依存したものであり、技術的には周波数を限定するものではない。マイクロ波の出力は100W〜24kW、好ましくは100W〜20kWの定格を有する限り、市販のどのような装置を用いてもよい。例えば、μReactorEx(四国計測工業(株)製)、Advancer(バイオタージ(株)製)等を用いることができる。
【0067】
マイクロ波加熱のとき、加熱に要する時間を10分以内とするためには、マイクロ波の出力を調節するか、回分反応の場合は反応液量を、連続反応の場合は反応流量を適宜調節して行うことができる。
【0068】
このようにして得られたスズ及びマンガンを固溶したコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体コロイド溶液は、本発明のオルガノゾルの製造に好適に用いることができる。
【0069】
無機酸化物コロイド水分散液の固形分濃度は、好ましくは1質量%以上30質量%以下であり、より好ましくは5質量%以上25質量%以下であり、更に好ましくは10質量%以上20質量%以下である。1質量%未満であると、オルガノゾル製造における産業上の効率から好ましくないことがあり、30質量%を超えると、コロイド溶液が流動性を失いゲル化することがあるため好ましくない場合がある。
【0070】
無機酸化物コロイド溶液の液性は、好ましくはpHが2以上12以下であり、より好ましくはpHが3以上11以下であり、更に好ましくは4以上10以下である。pHが2より小さい又は12より大きいとコロイド溶液が流動性を失いゲル化することがあるため好ましくない場合がある。
【0071】
工程(ii)
工程(ii)は、水と完全には相溶せず2相系を形成するアルコールを添加する工程である。通常の条件では、ここで添加するアルコールは無機酸化物コロイド水分散液とは混合せず、また分散液中の無機酸化物分散質が該アルコール中に移行することはない。
【0072】
工程(ii)で添加するアルコールは、炭素数4以上8以下の、芳香族基を有してもよい直鎖状、分岐鎖状又は環状の1価のアルコール、及び炭素数3以上8以下のフッ素原子で(部分)置換された1価のアルコールからなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。炭素数が2以下のアルコールは通常の条件では、水と任意に混和するために本工程で用いることはできない。また炭素数が8より大きくなると、パラフィンとしての性質が強くなり、本工程での適用が困難なことがある。炭素数4以上8以下の芳香族基を有してもよい直鎖状、分岐鎖状又は環状の1価のアルコールであることがより好ましい。フッ素原子での置換は、全置換(パーフルオロアルキル)型及び部分置換のいずれであってもよい。長鎖アルキル基において全置換型のアルコールは高価となるため、置換数は原価に応じて調整可能である。アルコールの価数が2より大きくなると、水溶性が強くなる傾向があり、また増粘して取り扱いが困難になることもある。
【0073】
工程(ii)で添加するアルコールの具体例としては、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、ネオペンチルアルコール、シクロペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、tert−ヘキシルアルコール、シクロヘキサノール等の直鎖・分岐鎖・環状アルコール類、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、ベンジルアルコール等の含芳香環アルコール類、ヘプタフルオロプロパン−1−オール、ヘプタフルオロプロパン−2−オール、3,3,4,4,4−ペンタフルオロブタン−1−オール、ノナフルオロブタン−1−オール、ノナフルオロブタン−2−オール等のフッ素原子で(部分)置換された直鎖・環状アルコール類を挙げることができる。
【0074】
工程(ii)において添加するアルコールの20℃における水に対する溶解度は、1(アルコール1g/水100g)以上、30(アルコール30g/水100g)以下であることが好ましく、5以上28以下であることがより好ましく、10以上26以下であることが更に好ましい。1より小さいと本発明の効果を発現できないことがあり、30を超えると、工程(i)で用いた水と任意に混和するアルコールの作用によって、完全相溶することがある。
【0075】
工程(ii)において添加するアルコールの水に対する溶解度は、常法に従って測定することが可能である。例えば、20℃において該アルコールをビュレットに入れ、純水100gが入ったコニカルビーカー中に対してよく攪拌しながら滴下する。該アルコールが溶解できずに二相系を形成した時点で滴下を終了する。その際の重量増加量が、水100gに対する該アルコールの溶解度である。
【0076】
工程(ii)において添加するアルコールの添加量は、工程(i)で用いた無機酸化物コロイド水分散液の水成分に対して、好ましくは10質量%以上1,000質量%以下、より好ましくは15質量%以上500質量%以下、更に好ましくは20質量%以上300質量%以下である。添加量が10質量%よりも少ないと、抽出効率が高くない場合があり、添加量が1,000質量%よりも多くなると、有機溶媒を大量に使用することによる産業上及び環境上の問題があるため好ましくないことがある。
【0077】
工程(iii)
工程(iii)は、下記一般式(I)で示されるシラン化合物及び/又は同シラン化合物の(部分)加水分解縮合物を添加する工程である。
R
1Si(OR
2)
3 (I)
(式(I)中において、R
1は(メタ)アクリル基を有してもよい炭素数1以上15以下の有機基、R
2は炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。)
【0078】
一般式(I)で表される化合物の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシメチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシメチルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリエトキシシラン等の(メタ)アクリロイルオキシ基で置換可能な炭素基を有するシラン化合物を挙げることができる。このような化合物は、合成しても市販されているものを用いてもよい。市販品では、メチルトリメトキシシランとして信越化学工業(株)製の「KBM−13」、プロピルトリメトキシシランとして「KBM−3033」、アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランとして「KBM−5103」、メタアクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランとして「KBM−503」等を使用することができる。
【0079】
本発明の表面処理酸化チタンは、工程(i)における無機酸化物コロイド水分散液の固形分に対して、上記一般式(I)で示されるシラン化合物及び/又は同シラン化合物の(部分)加水分解縮合物と、後述する工程(viii)において一般式(II)で表される表面処理成分との合計量11〜200質量%、好ましくは40〜190質量%、更に好ましくは60〜180質量%で処理することによって得られる。添加量が200質量%よりも多いと、オルガノゾル中における有効成分である無機酸化物の割合が相対的に低下し、紫外線遮蔽性が不足する。添加量が11質量%よりも少ないと、有機溶媒中での無機酸化物微粒子の分散安定性が確保できなくなる。
工程(iii)において添加するシラン化合物及び/又は同シラン化合物の(部分)加水分解縮合物の添加量は、工程(i)における無機酸化物コロイド水分散液の固形分に対して、好ましくは10質量%以上199質量%以下であり、より好ましくは20質量%以上170質量%以下であり、更に好ましくは30質量%以上150質量%以下である。添加量が199質量%よりも多いと、オルガノゾル中における有効成分である無機酸化物の割合が相対的に低下する場合がある。添加量が10質量%よりも少ないと、有機溶媒中での無機酸化物微粒子の分散安定性が確保しにくくなることがある。
【0080】
工程(iii)におけるシラン化合物及び/又は同シラン化合物の(部分)加水分解縮合物の添加方法は、液中滴下、液外滴下、ポーション添加などを実施することができ、液中滴下であることが好ましい。
【0081】
工程(iii)におけるシラン化合物及び/又は同シラン化合物の(部分)加水分解縮合物の添加時の液温は、好ましくは0℃以上45℃以下であり、より好ましくは5℃以上40℃以下であり、更に好ましくは10℃以上35℃以下である。液温が0℃より低くなると、無機酸化物コロイド水分散液が凍結による状態変化を経て変質する可能性がある。液温が45℃より高くなると、添加したシラン化合物及び/又は同シラン化合物の(部分)加水分解縮合物が予期せぬ加水分解縮合反応を起こすことがある。
【0082】
工程(iv)
工程(iv)はマイクロ波を照射する工程である。マイクロ波照射は、その周波数が300MHz〜3THzの電磁波の中から適宜選択することができる。日本国内においては、電波法によって、通常使用可能なマイクロ波周波数帯域が、2.45GHz、5.8GHz、24GHz等に決められているが、中でも2.45GHzは、民生用にも多く使用されており、この周波数の発振用マグネトロンは設備価格上有利である。しかしながら、この基準は特定の国や地域の法律や経済状況に依存したものであり、技術的には周波数を限定するものではない。マイクロ波の出力は100W〜24kW、好ましくは100W〜20kWの定格を有する限り、市販のどのような装置を用いてもよい。例えば、μReactorEx(四国計測工業(株)製)、Advancer(バイオタージ(株)製)等を用いることができる。
【0083】
マイクロ波照射は結果として反応液の温度上昇をもたらす。マイクロ波照射後の温度範囲は、好ましくは10℃以上150℃以下、より好ましくは60℃以上100℃以下、更に好ましくは80℃以上90℃以下である。マイクロ波照射後の温度が10℃より低いと反応に時間を要する場合があり、またマイクロ波照射後の温度が150℃より高いと、無機酸化物コロイド水分散液の溶媒が沸騰して反応系が扱いにくくなることがある。なおマイクロ波と同様の効果を与える反応方法を用いることによって、マイクロ波照射に代えることもできる。マイクロ波照射に代えることのできる方法としては、マイクロリアクターの利用、電磁誘導加熱、大きな熱容量を有する熱媒との瞬間的な接触法等を例示することができる。
【0084】
マイクロ波を照射する時間は、好ましくは60秒以上3,600秒以内、より好ましくは120秒以上1,800秒以内、更に好ましくは180秒以上900秒以内である。時間が60秒より短いと工程(iii)で添加したシランと無機酸化物微粒子の表面水酸基の反応が不十分となることがあり、3,600秒より長いと産業効率上好ましくないことがある。反応時間はこれらの範囲に入るようにその他の反応条件(pH・濃度)を調整することにより実施することが可能である。
【0085】
工程(iv)では、更に攪拌しながらマイクロ波を照射することを特徴としている。攪拌は、機械攪拌、磁気攪拌、振盪攪拌等を用いることができる。攪拌することによって、工程(ii)で添加した疎水性アルコールと無機酸化物水性分散液が懸濁し、マイクロ波によって表面処理された微粒子が効率的に疎水性アルコールへと移行することができる。攪拌は乱流攪拌であることが好ましい。攪拌の程度は系のレイノルズ数を計算することによって見積もることができる。攪拌レイノルズ数は、好ましくは3,000以上1,000,000以下、より好ましくは5,000以上500,000以下、更に好ましくは10,000以上200,000以下である。3,000より小さいと、層流攪拌となり効率的な懸濁が困難な場合があり、1,000,000より大きいと攪拌に要するエネルギーが不必要に大きくなることによる産業効率上の観点から好ましくないことがある。なお、上記レイノルズ数(Re)は、数式(1)から求めることができる。数式(1)においてρは密度(kg/m
3)、nは回転数(rps)、dは攪拌子長(m)、μは粘度(Pa・s)をそれぞれ表す。
Re=ρ・n・d
2/μ 数式(1)
本発明で扱う酸化チタン分散液はρが900〜2,000(kg/m
3)、好ましくは1,000〜1,500(kg/m
3)、μは0.001〜0.05(Pa・s)、好ましくは0.002〜0.01(Pa・s)である。例えば、5(cm)の磁気回転子を700(rpm)でρが1,000(kg/m
3)、μが0.002(Pa・s)の酸化チタン分散液を回転した場合のReは約15,000である。nとdを適宜選択することによって上記所望のReの範囲となるように調節することができる。
また、攪拌には、邪魔板を設置した反応器を用いることによる攪拌効率の向上方法を実施してもよい。
【0086】
工程(v)
工程(v)は、有機溶媒を添加する工程である。この工程の実施は、好ましくは0℃以上45℃以下、より好ましくは5℃以上40℃以下、更に好ましくは10℃以上30℃以下の温度で行う。温度が0℃より低いと、無機酸化物コロイド水分散液由来の水成分が凍結して変質する可能性があり、また、温度が45℃より高いと、VOC(揮発性有機化合物)が大気環境及び作業環境に放出され易くなり、安全上及び労働環境衛生上好ましくないこともある。
【0087】
工程(v)で添加される有機溶媒は、炭素数5以上30以下の炭化水素化合物、アルコール化合物、エーテル化合物、エステル化合物、ケトン化合物、及びアミド化合物からなる群から選ばれる1種以上である。
【0088】
このような有機溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、イコサン、ドコサン、トリイコサン、テトライコサン、ペンタイコサン、ヘキサイコサン、ヘプタイコサン、オクタイコサン、ノナイコサン、トリアコンタン、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、及びこれらを含む混合物である石油エーテル、ケロシン、リグロイン、ヌジョール等の炭素数5以上30以下の炭化水素化合物;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、シクロペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、β−チアジグリコール、ブチレングリコール、グリセリン等の単価及び多価アルコール類;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ブチレングリコールモノメチルエーテル、ブチレングリコールモノエチルエーテル、ブチレングリコールモノプロピルエーテル、ブチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類;蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸ブチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、蓚酸ジメチル、蓚酸ジエチル、蓚酸ジプロピル、蓚酸ジブチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジプロピル、マロン酸ジブチル、エチレングリコールジフォルメート、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールジプロピオネート、エチレングリコールジブチレート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジプロピオネート、プロピレングリコールジブチレート、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類;アセトン、ダイアセトンアルコール、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルノルマルブチルケトン、ジブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン等のケトン類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラアセチルエチレンジアミド、テトラアセチルヘキサメチレンテトラミド、N,N−ジメチルヘキサメチレンジアミンジアセテート等のアミド類;をそれぞれ挙げることができる。
【0089】
工程(v)で添加する有機溶媒の量は、工程(i)で用いた無機酸化物コロイド水分散液の水成分に対して、好ましくは50質量%以上1,000質量%以下、より好ましくは100質量%以上500質量%以下、更に好ましくは120質量%以上300質量%以下である。添加量が50質量%よりも少ないと、次工程(vi)において水を十分に除去できない場合があり、添加量が1,000質量%よりも多くなると、有機溶媒を大量に使用することによる産業上及び環境上の問題があるため好ましくないことがある。
【0090】
工程(v)では、有機溶媒の添加によって表面処理された無機酸化物微粒子を均一に有機溶媒相に分散させることができる。工程(v)で溶媒を加えたことによって、系が均一相及び二相のいずれを形成してもよい。二相を形成した場合には有機層を分液によって分取することもできる。
【0091】
工程(vi)
工程(vi)は、水を除去する工程である。水の除去は、共沸蒸留及び/又は限外ろ過で実施することが好ましい。
【0092】
工程(vi)における共沸蒸留は、工程(i)で用いた無機酸化物コロイド水分散液に由来する水を除去することを目的としている。この水と共沸する有機溶媒は、工程(ii)及び工程(v)のいずれで加えたもの由来であってもよい。共沸蒸留では、水と有機溶媒の蒸気圧の総和が系の圧力とつりあった際に、気液平衡曲線から予測される割合で水と有機溶媒の混合物が留去される現象である。
【0093】
工程(vi)は、200mmHg以上760mmHg以下で実施することが好ましく、300mmHg以上760mmHg以下で実施することがより好ましく、400mmHg以上760mmHg以下で実施することが更に好ましい。200mmHgより低い圧力では、混合物が突沸して制御しにくいことがあり、760mmHgより高い圧力では水が蒸発しにくくなることがある。
【0094】
工程(vi)は、50℃以上250℃以下で実施することが好ましく、60℃以上200℃以下で実施することがより好ましく、80℃以上150℃以下で実施することが更に好ましい。50℃より低い温度では、留去に時間を要することがあり、250℃より高い温度ではオルガノゾルが変質することがある。このような範囲で実施できるように、圧力を適宜調節することができる。
【0095】
工程(vi)で要する加熱は、熱媒との接触による加熱、誘導加熱、及びマイクロ波による加熱の各種方法を用いることができる。
【0096】
工程(vi)では、共沸蒸留に代えて(又は組み合わせて)、限外ろ過を実施することができる。限外ろ過では、無機及び/又は有機基材の表面に設けられた細孔を通過させることによって実施することができる。このような細孔を有する基材であれば材料は特定されないが、好ましくは5nm以上50nm以下、より好ましくは5nm以上30nm以下の平均細孔径を有しているものを使用することができる。細孔径が5nmより小さいと、ろ過速度が遅くなり、50nmを超えると、ゾルの分散質がろ液側に流出するおそれがある。限外ろ過に用いることのできる好適な材料としては無機セラミックフィルター(ANDRITZ KMPT GmbH製、製品名「Filterkeramik」)を例示することができる。
【0097】
限外ろ過を実施する場合には、溶媒の種類によるろ過膜の透過係数の違いを考慮して、有機溶媒を添加しながら実施することが可能である。
【0098】
水の除去は、工程後の水分濃度を測定することによって確認することができる。このような確認方法としては、カール・フィッシャー反応を利用した電量滴定が利用可能である。このような目的に利用できる好適な滴定装置として、例えば、平沼産業(株)製「AQV−2100」、三菱化学アナリテック(株)製「KF−200」等を挙げることができる。
【0099】
工程(vi)後の水分濃度は、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下であり、更に好ましくは0.1質量%以下である。水分濃度が1質量%より大きいとオルガノゾルとして各種樹脂などと混合した際に白濁の原因となることがある。なお、本工程(vi)実施後における水分濃度の下限値は特に定めないが0.1質量%程度であることが好ましい。工程(v)で用いた有機溶媒自体にも水が一定の割合で含まれていることがあり、工程(vi)のみによって、水分濃度を0.1質量%を超えて低減させることは、エネルギー効率上好ましくないことがある。工程(vi)の実施のみによって水分濃度が所望の水準に達しない場合は、次工程(vii)を実施することができる。
【0100】
工程(vii)
工程(vii)は、前工程(vi)で除去しきれなかったオルガノゾル中に存在する痕跡量の水を除去する工程である。本工程では、水分濃度が好ましくは1,000ppm以下、より好ましくは500ppm以下、更に好ましくは100ppm以下、最も好ましくは10ppm以下まで低減する。
【0101】
工程(vii)の実施には、好ましくは3Å以上10Å以下の細孔直径を有するゼオライトを用いた物理吸着及び/又はオルト有機酸エステル又は、下記一般式(III)で示されるgem−ジアルコキシアルカンを用いた化学反応を伴う方法で実施することができる。
(R
5O)(R
6O)CR
7R
8 (III)
(式(III)中において、R
5及びR
6はそれぞれ独立に炭素数1〜10までの炭化水素基であって、互いに結合して環形成可能な置換基であり、またR
7及びR
8はそれぞれ独立に炭素数1〜10までの炭化水素基であって、互いに結合して環形成可能な置換基である。)
【0102】
ゼオライトとして用いることができる物質の例としては、K
4Na
4[Al
8Si
8O
32]、Na[AlSi
2O
6]、Na
2[Al
2Si
7O
18]、(K,Ba,Sr)
2Sr
2Ca
2(Ca,Na)
4[Al
18Si
18O
72]、Li[AlSi
2O
6]O、Ca
8Na
3[Al
19Si
77O
192]、(Sr,Ba)
2[Al
4Si
12O
32]、(Sr,Ba)
2[Al
4Si
12O
32]、(Ca
0.5,Na,K)
4[Al
4Si
8O
24]、CaMn[Be
2Si
5O
13(OH)
2]、(Na,K,Ca
0.5,Sr
0.5,Ba
0.5,Mg
0.5)
6[Al
6Si
30O
72]、Ca[Al
2Si
3O
10]、(Ca
0.5,Na,K)
4-5[Al
4-5Si
20-19O
48]、Ba[Al
2Si
3O
10]、(Ca,Na
2)[Al
2Si
4O
12]、K
2(Na,Ca
0.5)
8[Al
10Si
26O
72]、(Na,Ca
0.5,Mg
0.5,K)
z[Al
zSi
12-zO
24]、(K,Na,Mg
0.5,Ca
0.5)
6[Al
6Si
30O
72]、NaCa
2.5[Al
6Si
10O
32]、Na
4[Zn
2Si
7O
18]、Ca[Al
2Si
2O
8]、(Na
2,Ca,K
2)
4[Al
8Si
16O
48]、Na
5[Al
5Si
11O
32]、(Na,Ca)
6-8[(Al,Si)
20O
40]、Ca[Al
2Si
6O
16]、Na
3Mg
3Ca
5[Al
19Si
117O
272]、(Ba
0.5,Ca
0.5,K,Na)
5[Al
5Si
11O
32]、(Ca
0.5,Sr
0.5,Ba
0.5,Mg
0.5,Na,K)
9[Al
9Si
27O
72]、Li
2Ca
3[Be
3Si
3O
12]F
2、K
6[Al
4Si
6O
20]B(OH)
4Cl、Ca
4[Al
8Si
16O
48]、K
4Na
12[Be
8Si
28O
72]、(Pb
7Ca
2)[Al
12Si
36(O,OH)
100]、(Mg
2.5K
2Ca
1.5)[Al
10Si
26O
72]、K
5Ca
2[Al
9Si
23O
64]、Na
16Ca
16[Al
48Si
72O
240]、K
9[Al
9Si
23O
64]、(Na
2,Ca,K
2)
4[Al
8Si
40O
96]、Na
3Ca
4[Al
11Si
85O
192]、Na
2[Al
2Si
3O
10]、CaKMg[Al
5Si
13O
36]、(Ca
5.5Li
3.6K
1.2Na
0.2)Li
8[Be
24P
24O
96]、Ca
2[Al
4Si
4O
15(OH)
2]、(K,Ca
0.5,Na,Ba
0.5)
10[Al
10Si
32O
84]、K
9Na(Ca,Sr)[Al
12Si
24O
72]、(K,Na,Ca
0.5,Ba
0.5)
z[Al
zSi
16-zO
32]、(Cs,Na)[AlSi
2O
6]、Ca
2[Be(OH)
2Al
2Si
4O
13]、Ca[Al
2Si
3O
10]、Ca[Al
2Si
7O
18]、(Ca
0.5,Na,K)
9[Al
9Si
27O
72]、NaCa[Al
3Si
17O
40]、Ca
2Na[Al
5Si
5O
20]、Ca[Al
2Si
6O
16]、Ca
4(K
2,Ca,Sr,Ba)
3Cu
3(OH)
8[Al
12Si
12O
48]、Ca[Al
2Si
4O
12]、Ca[Be
3(PO
4)
2(OH)
2]、K
zCa
(1.5-0.5z)[Al
3Si
3O
12]、Ca[Al
2Si
6O
16](zは0以上1以下の実数)等の化学組成を有するものを挙げることができ、これらの化学組成を有するものであって、好ましくは3Å以上10Å以下の細孔直径を有するものを使用することができる。細孔直径の範囲としては、好ましくは3Å以上10Å以下、より好ましくは4Å以上8Å以下、更に好ましくは4Å以上6Å以下である。細孔直径が3Åより小さいと水を十分に吸着できないことがあり、細孔直径が10Åより大きいと水の吸着に時間を要することがある。
【0103】
このような脱水用ゼオライトとしては、モレキュラーシーブ3A、モレキュラーシーブ4A、モレキュラーシーブ5A、モレキュラーシーブ6A、モレキュラーシーブ7A、モレキュラーシーブ8A、モレキュラーシーブ9A、モレキュラーシーブ10A、モレキュラーシーブ3X、モレキュラーシーブ4X、モレキュラーシーブ5X、モレキュラーシーブ6X、モレキュラーシーブ7X、モレキュラーシーブ8X、モレキュラーシーブ9X、モレキュラーシーブ10X等という名称で市販されているものの中から適宜組み合わせて用いることができ、例えば、細孔径が約4ÅであるLTA型ゼオライトとして、関東化学(株)製「製品番号25958−08」を用いることができる。
【0104】
ゼオライトは、工程(vi)で得られたオルガノゾルに対して、好ましくは1質量%以上20質量%以下、より好ましくは2質量%以上15質量%以下、更に好ましくは5質量%以上10質量%以下用いる。使用量が1質量%より少ないと、脱水効果が十分に得られないことがあり、使用量が20質量%より多くとも、脱水の程度が向上するわけではないことが多いため、これ以上使用することは実際上必要とされない。
【0105】
工程(vii)では、オルト有機酸エステル又は、下記一般式(III)で示されるgem−ジアルコキシアルカンを用いた化学反応を伴う方法でも実施することができる。
(R
5O)(R
6O)CR
7R
8 (III)
(式(III)中において、R
5及びR
6はそれぞれ独立に炭素数1〜10までの炭化水素基であって、互いに結合して環形成可能な置換基であり、またR
7及びR
8はそれぞれ独立に炭素数1〜10までの炭化水素基であって、互いに結合して環形成可能な置換基である。)
【0106】
オルト有機酸エステル及びgem−ジアルコキシアルカンは、いずれもアセタール骨格を分子中に有している。オルト有機酸エステルは有機酸エステルのアセタールであり、gem−ジアルコキシアルカンはケトンのアセタールである。アセタールは、水と反応してアルコールとカルボニル化合物に分解する性質があるため、脱水の目的で用いることができる。反応によって、水が消費されて有機溶媒を添加したことと同じ効果が得られる。
【0107】
オルト有機酸エステルの具体例としては、オルト蟻酸メチル、オルト蟻酸エチル、オルト蟻酸プロピル、オルト蟻酸ブチル、オルト酢酸メチル、オルト酢酸エチル、オルト酢酸プロピル、オルト酢酸ブチル、オルトプロピオン酸メチル、オルトプロピオン酸エチル、オルトプロピオン酸プロピル、オルトプロピオン酸ブチル、オルト酪酸メチル、オルト酪酸エチル、オルト酪酸プロピル、オルト酪酸ブチル等を挙げることができる。
【0108】
gem−ジアルコキシアルカンの具体例としては、アセトンジメチルアセタール、アセトンジエチルアセタール、アセトンジプロピルアセタール、アセトンジブチルアセタール、アセトンエチレングリコールアセタール、アセトンプロピレングリコールアセタール、メチルエチルケトンジメチルアセタール、メチルエチルケトンジエチルアセタール、メチルエチルケトンジプロピルアセタール、メチルエチルケトンジブチルアセタール、メチルエチルケトンエチレングリコールアセタール、メチルエチルケトンプロピレングリコールアセタール、メチルイソブチルケトンジメチルアセタール、メチルイソブチルケトンジエチルアセタール、メチルイソブチルケトンジプロピルアセタール、メチルイソブチルケトンジブチルアセタール、メチルイソブチルケトンエチレングリコールアセタール、メチルイソブチルケトンプロピレングリコールアセタール、シクロペンタノンジメチルアセタール、シクロペンタノンジエチルアセタール、シクロペンタノンジプロピルアセタール、シクロペンタノンジブチルアセタール、シクロペンタノンエチレングリコールアセタール、シクロペンタノンプロピレングリコールアセタール、シクロヘキサノンジメチルアセタール、シクロヘキサノンジエチルアセタール、シクロヘキサノンジプロピルアセタール、シクロヘキサノンジブチルアセタール、シクロヘキサノンエチレングリコールアセタール、シクロヘキサノンプロピレングリコールアセタール等を挙げることができる。
【0109】
これらのアセタール骨格を有する化合物の選択は、水と反応した際に生成する分子の種類で好ましいものがある場合には、それを見越して使用することができる。例えば、オルガノゾル中から水を除いて、シクロヘキサノンとブタノールで置換する場合には、シクロヘキサノンジブチルアセタールを用いることによって目的を達成することができる。
【0110】
アセタール骨格を有する化合物は、工程(vi)で得られたオルガノゾルに対して、好ましくは0.5質量%以上20質量%以下、より好ましくは2質量%以上15質量%以下、更に好ましくは5質量%以上10質量%以下用いる。使用量が0.5質量%より少ないと、脱水効果が十分に得られないことがあり、使用量が20質量%より多くとも、脱水の程度が向上するわけではないことが多く、オルガノゾルとして樹脂等と混合した際に、エッチング等の予期せぬ効果をもたらすことがあるため、これ以上使用することは実際上必要とされない。
【0111】
工程(viii)
工程(viii)では、下記一般式(II)で表される表面処理成分で表面処理される工程である。
(R
3R
42Si)
2NH (II)
(式(II)中において、R
3は(メタ)アクリル基を有してもよい炭素数1以上15以下の有機基、R
4は炭素数1以上6以下のアルキル基を表す。)
【0112】
一般式(II)で表される化合物の具体例としては、ヘキサメチルジシラザン、ビス{(アクリロイルオキシメチル)ジメチルシリル}アザン、ビス{(アクリロイルオキシプロピル)ジメチルシリル}アザン、ヘキサエチルジシラザン、ヘキサプロピルジシラザン等を例示することができる。
【0113】
一般式(II)で表される化合物の添加量は、工程(A)における無機酸化物コロイド水分散液の固形分に対して、好ましくは1質量%以上190質量%以下であり、より好ましくは20質量%以上170質量%以下であり、更に好ましくは30質量%以上150質量%以下である。添加量が190質量%よりも多いと、オルガノゾル中における有効成分である無機酸化物の割合が相対的に低下する場合がある。添加量が1質量%よりも少ないと、有機溶媒中での無機酸化物微粒子の分散安定性が確保しにくくなることがある。
【0114】
工程(viii)では反応において副生するアンモニアガスをイオン交換樹脂を用いて除去しながら実施することができる。このような目的に使用可能なイオン交換樹脂としては、アンバーライトIR120B(オルガノ(株)製)、アンバーライト200CT(オルガノ(株)製)、アンバーライトIR124(オルガノ(株)製)、アンバーライトFPC3500(オルガノ(株)製)、アンバーライトIRC76(オルガノ(株)製)、ダイヤイオンSK104(三菱化学(株)製)、ダイヤイオンPK208(三菱化学(株)製)などの陽イオン交換樹脂を例示することができる。また、アンモニアガスの除去は分圧の原理を利用した不活性ガス等の吹き込みによって代えることもできる。
【0115】
工程(viii)の反応の進行は、
29Si核磁気共鳴分光法によって確認することができる。核磁気共鳴分光法は、固体及び液体のいずれにおいて実施してもよいが、固体核磁気共鳴分光法では測定試料の前処理として乾固する必要があり、必ずしも試料中でのケイ素の結合状態を反映したものであるとは限らない。従って、液体状態の核磁気共鳴分光法によって確認することが好ましい。液体
29Si核磁気共鳴分光法では、試料管及びプローブにケイ素を含有しない素材を用いて測定することが好ましい。ケイ素を含有しない核磁気共鳴分光法に使用可能な素材としてポリテトラフルオロエチレン(テフロン
TM)を例示することができる。液体
29Si核磁気共鳴分光法では、測定時間の短縮のために適切な緩和剤を用いることができる。緩和剤としては公知の試薬等(例えば、Organometallics誌、2008年、27巻、4号、500−502頁及びreferences therein)が利用できる。特に、トリス(アセチルアセトナト)鉄(III)錯体は水及び有機溶媒への溶解性にも優れており、酸化チタンの凝集を起こさしめることもないので優れている。例えば、トリス(アセチルアセトナト)鉄(III)をヘキサデューテリオアセトン(アセトン−d
6)に1mol・dm
-3程度の濃度で溶解した溶液を緩和剤として数滴使用することによって、緩和効果と重水素ロック効果の双方が得られるため好ましい。また、酸化チタンの表面の状態は組成物化後に同様の核磁気共鳴スペクトルを測定することによって調べることもできる。
【0116】
工程(viii)の工程前後での
29Si核磁気共鳴分光法での測定では、3官能性ポリシロキサン(T単位)の縮合状態の変化を調べることができる。縮合状態の変化は、下記に示す(T0)〜(T3)の割合を調べることによって達成することができる。縮合度はT3>T2>T1>T0の順であり、検出磁場はT3>T2>T1>T0の順で高磁場側となることが多い。縮合状態の割合はシグナル強度から見積もることができる。この際に、
29Si核は、負の磁気回転比(γ
B)を有しているために、核オーバーハウザー効果が逆となり、共鳴核の周囲に存在する核磁気緩和を抑制する。従って、負の核オーバーハウザー効果が顕著とならないような測定条件であることが好ましい。パルス−フーリエ変換型核磁気共鳴の場合では、適切なパルスシークエンスを用いることによってこの問題を解決できる。例えば、オフレゾナンス型のパルスシークエンスを用いることが好ましい。T単位中におけるT3の割合は好ましくは50モル%以上90モル%以下、より好ましくは55モル%以上85モル%以下である。50モル%未満であると、微粒子の表面にシラノール基が存在し、親水性相互作用によって凝集し易くなることがある。90モル%を超えると、(B)成分中に存在するアルコキシシリル基と相互作用することによる分散安定性に寄与しづらくなることがある。
【0117】
【化3】
(式中、R
1は(メタ)アクリル基を有してもよい炭素数1以上15以下の有機基、Xは水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。)
【0118】
共鳴磁場の表記はテトラメチルシランの
29Si核の共鳴を基準とした際の共鳴磁場との差異を百万分率(ppm)で表したものとして表現することができる。この表記に従った場合、T0は−40〜−46ppm、好ましくは−42〜−45ppm、T1は−46〜−54ppm、好ましくは−48〜−52ppm、T2は−54〜−60ppm、好ましくは−56〜−58ppm、T3は−60〜−70ppm、好ましくは−62〜−68ppmの範囲に検出できることが多い。なお、T3の一変種であって、シロキシ基に代えて、一つの置換基がチタノキシ基になったT3’は―45〜−55ppm、好ましくは−48〜−53ppmの範囲に検出できることが多い。T1とT3’の区別は、
1H核と
29Si核のスピン結合の状態を調べることによって達成することが好ましい。表記上の負の値は、共鳴磁場が基準線よりも高磁場側に差異があることを示している。共鳴線の幅は測定に用いる核磁気共鳴装置の磁場の強さに依存しており、上記の好ましい共鳴線の範囲は一例として11.75T(テスラ)の磁場を印加した場合の値である。核磁気共鳴装置に用いることのできる磁場は5T以上20T以下、好ましくは8T以上15T以下、更に好ましくは10T以上13T以下である。磁場が5T未満である場合は、S/N比が小さくなることによって測定が難しくなる場合があり、磁場が20Tを超える場合は共鳴装置が大掛かりなものとなって測定が難しくなる場合がある。磁場の強さと共鳴線の幅及びシグナル強度は、当業者であれば当然にここに記した情報から類推することができる。
【0119】
前項の測定条件によって測定した
29Si核磁気共鳴分光法で得られるT3のシグナル強度は、下記数式(2)で表した値を満足することが好ましい。
0.9≧∫(T3+T3’)/ΣT=∫(T3+T3’)/(∫T3+∫T3’+∫T2+∫T1+∫T0)≧0.5 数式(2)
【0120】
ここで、ΣTは全ての3官能性ポリシロキサン(T単位)に由来する
29Si核磁気共鳴シグナルの積分値であり、∫(T3+T3’)は、上記に示した(T3)に由来する
29Si核磁気共鳴シグナルの積分値である。∫(T3+T3’)/ΣTが0.5以上である場合は、一般式(I)で示したシラン化合物の50%以上がすでにこれ以上縮合の余地がないということを示しており、従って微粒子の表面の疎水化度も大きく、アクリル系の樹脂との相溶性に優れるため好ましい。∫(T3+T3’)/ΣTが0.5未満である場合は縮合余地のあるシラノールが微粒子表面に存在することを示しており、ポリアクリレート系の樹脂と混合・塗料化した際に、微粒子同士の凝集の原因となり、結果として白化することがあり、好ましくない場合がある。また、∫(T3+T3’)/ΣTが0.9を超えると、(B)成分及び/又はコーティング組成物中に含まれるシラノール基(Si−OH)との相互作用が十分にできないことがある。ここでいう積分値は百万分率(ppm)に対してシグナル強度をプロットした際の求積問題のことをいう。求積は特定の基準のS/N比によって閾値を設けることが好ましい。S/N比は、5以上、好ましくは10以上、より好ましくは20以上である。5未満である場合はベースラインが太くなり積分の精度が悪くなるため好ましくないことがある。積分は電子計算機によるシンプソン法などで求めてもよく、またスペクトルを表示した均一な平面密度を有する印刷媒体をスペクトル形状に切断して、重量を計測することによって求めてもよい。
【0121】
(A)成分の配合量は、(A)の表面処理酸化チタン固形分量が、(B)ビニル系共重合体の固形分に対して、1〜50質量%、好ましくは2〜30質量%、より好ましくは5〜20質量%である。配合量が1質量%未満であると効果が十分に得られないことがある。配合量が50質量%を超えると可撓性が損なわれることがある。(A)成分の(B)成分への配合は定法に従って混合することによって達成することができる。混合法としては、機械攪拌、磁気攪拌、振盪攪拌、剪断攪拌、スタティックミキサー法等を挙げることができる。混合は(A)成分に対して(B)成分を徐々に添加して行うことが好ましいが、分散安定性が優れている場合はこの限りでない。(A)成分の配合は、単純な混合に加えて(B)成分と化学結合を介して共重合させて達成してもよい。(A)成分の表面には、(メタ)アクリル基等のビニル系反応性基を配置させることができ、(B)成分を構成するモノマー単位と共重合することによって、配合することと同等の効果を得ることができる。特に、(A)成分の(B)成分中における分散安定性が問題となる場合及び塗料・塗膜中の経時での変質が問題となる場合に、共重合を適用することが好ましい。共重合の方法としては、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、配位重合のいずれも用いることができるが、ラジカル重合であることが好ましい。ラジカル重合の反応条件としては、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等のパーオキサイド類又はアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物から選択されるラジカル重合用開始剤を加え、加熱下(50〜150℃、特に70〜120℃で1〜10時間、特に3〜8時間)に反応させることが好ましい。共重合させる場合に、(A)成分の添加の時期を適切に調整することによって、ブロックコポリマー化及び/又はランダムコポリマー状態にして分散状態を制御することもできる。
【0122】
(B)成分
(B)成分のアルコキシシリル基と有機系紫外線吸収性基とが側鎖に結合したビニル系共重合体としては、アルコキシシリル基がSi−C結合を介してビニル共重合体主鎖と結合していることが好ましく、更に有機系紫外線吸収性基もビニル共重合体主鎖と結合していることが好ましい。このような共重合体は、アルコキシシリル基がSi−C結合を介して結合したビニル系単量体(b−1)と、有機系紫外線吸収性基を有するビニル系単量体(b−2)と、共重合可能な他の単量体(b−3)とからなる単量体成分を共重合して得ることができる。
【0123】
ここで、(b−1)のアルコキシシリル基がSi−C結合を介して結合したビニル系単量体は、一分子中に1個のビニル重合性官能基と、1個以上のアルコキシシリル基を含有するものであれば、如何なるものでも使用することができる。
【0124】
ビニル重合性官能基としては、ビニル基、ビニルオキシ基、(メタ)アクリルオキシ基、(α−メチル)スチリル基を含む炭素数2〜12の有機基を示すことができる。具体的には、ビニル基、5−ヘキセニル基、9−デセニル基、ビニルオキシメチル基、3−ビニルオキシプロピル基、(メタ)アクリルオキシメチル基、3−(メタ)アクリルオキシプロピル基、11−(メタ)アクリルオキシウンデシル基、ビニルフェニル基(スチリル基)、イソプロペニルフェニル基(α−メチルスチリル基)、ビニルフェニルメチル基(ビニルベンジル基)を具体例として示すことができる。反応性、入手し易さから、(メタ)アクリルオキシプロピル基を使用することが好ましい。
【0125】
アルコキシシリル基中のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基などを具体例として示すことができる。加水分解性の制御のし易さ、及び入手のし易さから、メトキシ基、エトキシ基が好適に使用できる。
【0126】
上記置換基以外の置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、デシル基などのアルキル基、フェニル基などを例示できる。入手し易さから、メチル基を用いるのが好ましい。
【0127】
アルコキシシリル基がSi−C結合を介して結合したビニル系単量体(b−1)としては、例えば、
メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、
メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、
メタクリロキシウンデシルトリメトキシシラン、
メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、
メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、
メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、
アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、
アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、
アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、
アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、
アクリロキシメチルトリメトキシシラン、
アクリロキシウンデシルトリメトキシシラン、
ビニルトリメトキシシラン、
ビニルトリエトキシシラン、
ビニルメチルジメトキシシラン、
アリルトリメトキシシラン、
スチリルトリメトキシシラン、
スチリルメチルジメトキシシラン、
スチリルトリエトキシシラン
などを挙げることができる。これらの中でも、入手のし易さ、取り扱い性、架橋密度及び反応性などから、
メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、
メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、
メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、
アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、
アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン
が好ましい。
【0128】
(b−1)のアルコキシシリル基がSi−C結合を介して結合したビニル系単量体の量は、共重合組成で1〜50質量%、特に3〜40質量%の範囲が好ましい。1質量%未満では(A)成分中の表面処理酸化チタン微粒子や上記ビニル系共重合体同士の架橋によるシロキサンネットワークの形成が不十分となり、塗膜の線膨張係数が十分に低くならず、耐熱性、耐久性が改良されない場合がある。また50質量%を超えると架橋密度が高くなりすぎて硬くなり接着性が低下したり、未反応のアルコキシシリル基が残存し易くなり、経時での後架橋が生起し、クラックが発生し易くなる場合がある。
【0129】
次に、有機系紫外線吸収性基を有するビニル系単量体(b−2)について説明する。分子内に紫外線吸収性基とビニル重合性基を含有していれば、如何なるものでも使用することができる。
【0130】
このような有機系紫外線吸収性基を有するビニル系単量体の具体例としては、分子内に紫外線吸収性基を有する(メタ)アクリル系単量体が示され、下記一般式(2)で表されるベンゾトリアゾール系化合物、及び下記一般式(3)で表されるベンゾフェノン系化合物を挙げることができる。
【0131】
【化4】
(式中、Xは、水素原子又は塩素原子を示す。R
11は、水素原子、メチル基、又は炭素数4〜8の第3級アルキル基を示す。R
12は、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数2〜10のアルキレン基を示す。R
13は、水素原子又はメチル基を示す。qは、0又は1を示す。)
【0132】
【化5】
(式中、R
13は、上記と同じ意味を示す。R
14は、置換又は非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数2〜10のアルキレン基を示す。R
15は、水素原子又は水酸基を示す。R
16は、水素原子、水酸基、又は炭素数1〜6のアルコキシ基を示す。)
【0133】
上記一般式(2)において、R
11で示される炭素数4〜8の第3級アルキル基としては、tert−ブチル基、tert−ペンチル基、tert−ヘキシル基、tert−ヘプチル基、tert−オクチル基、ジtert−オクチル基などを挙げることができる。
R
12で示される直鎖状又は分岐鎖状の炭素数2〜10のアルキレン基としては、例えば、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、1,1−ジメチルテトラメチレン基、ブチレン基、オクチレン基、デシレン基などを挙げることができる。
【0134】
また、上記一般式(3)において、R
14で示される直鎖状又は分岐鎖状の炭素数2〜10のアルキレン基としては、上記R
12で例示したものと同様のもの、あるいはこれらの水素原子の一部をハロゲン原子で置換した基などを挙げることができる。R
16で示されるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などを挙げることができる。
【0135】
上記一般式(2)で表されるベンゾトリアゾール系化合物の具体例としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、
2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−(メタ)アクリロキシメチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、
2−[2’−ヒドロキシ−5’−(2−(メタ)アクリロキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、
2−[2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−(2−(メタ)アクリロキシエチル)フェニル]−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、
2−[2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−(8−(メタ)アクリロキシオクチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール
などを挙げることができる。
【0136】
上記一般式(3)で表されるベンゾフェノン系化合物の具体例としては、例えば、
2−ヒドロキシ−4−(2−(メタ)アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノン、
2−ヒドロキシ−4−(4−(メタ)アクリロキシブトキシ)ベンゾフェノン、
2,2’−ジヒドロキシ−4−(2−(メタ)アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノン、
2,4−ジヒドロキシ−4’−(2−(メタ)アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノン、
2,2’,4−トリヒドロキシ−4’−(2−(メタ)アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノン、
2−ヒドロキシ−4−(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、
2−ヒドロキシ−4−(3−(メタ)アクリロキシ−1−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン
などを挙げることができる。
【0137】
上記紫外線吸収性ビニル系単量体としては、式(2)で表されるベンゾトリアゾール系化合物が好ましく、中でも2−[2’−ヒドロキシ−5’−(2−(メタ)アクリロキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾールが好適に使用される。
更に、上記紫外線吸収性ビニル系単量体は、1種を単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0138】
有機系紫外線吸収性基を有するビニル系単量体(b−2)の使用量は、共重合組成で5〜40質量%、特に5〜30質量%、とりわけ8〜25質量%が好ましい。5質量%未満では良好な耐候性が得られず、また、40質量%を超えると塗膜の密着性が低下したり、白化などの塗膜外観不良を引き起こしたりする。
【0139】
次に、上記単量体(b−1)及び(b−2)と共重合可能な他の単量体(b−3)としては、共重合可能な単量体であれば特に制限されないが、環状ヒンダードアミン構造を有する(メタ)アクリル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、アルキルビニルエーテル、アルキルビニルエステル、スチレン、及びこれらの誘導体などを挙げることができる。更に、(A)成分を単純に添加するのではなく、(B)成分との共重合を企図する場合には、(A)成分を単量体(b−3)とみなして、反応させてもよい。
【0140】
環状ヒンダードアミン構造を有する(メタ)アクリル系単量体の具体例としては、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニルメタクリレート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニルメタクリレートなどが挙げられ、これらの光安定剤は2種以上併用してもよい。
【0141】
(メタ)アクリル酸エステル及びその誘導体の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸イソヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸イソヘプチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n−ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸n−デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸n−ウンデシル、(メタ)アクリル酸n−ドデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4−メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4−tert−ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ベンジル等の1価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル類;
2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メトキシブチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、4−メトキシブチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート(エチレングリコール単位数は例えば2〜20)、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート(プロピレングリコール単位数は例えば2〜20)等のアルコキシ(ポリ)アルキレングリコールの(メタ)アクリル酸エステル類;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(エチレングリコール単位数は例えば2〜20)、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート(プロピレングリコール単位数は例えば2〜20)等の多価アルコールのモノ(メタ)アクリル酸エステル類;
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(エチレングリコール単位数は例えば2〜20)、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(プロピレングリコール単位数は例えば2〜20)等の多価アルコールのポリ(メタ)アクリル酸エステル類;
コハク酸モノ[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]、コハク酸ジ[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]、アジピン酸モノ[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]、アジピン酸ジ[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]、フタル酸モノ[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]、フタル酸ジ[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]等の非重合性多塩基酸と(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルとの(ポリ)エステル類;
(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、(メタ)アクリル酸2−(N−メチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(N−エチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(N,N−ジエチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸4−(N,N−ジメチルアミノ)ブチル等のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル類;
(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類
などを挙げることができる。
【0142】
また、(メタ)アクリロニトリルの誘導体の具体例としては、α−クロロアクリロニトリル、α−クロロメチルアクリロニトリル、α−トリフルオロメチルアクリロニトリル、α−メトキシアクリロニトリル、α−エトキシアクリロニトリル、シアン化ビニリデンなどを挙げることができる。
(メタ)アクリルアミドの誘導体の具体例としては、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシ(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメトキシ(メタ)アクリルアミド、N−エトキシ(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエトキシ(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、N−(2−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリルアミド、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’−エチレンビス(メタ)アクリルアミドなどを挙げることができる。
【0143】
アルキルビニルエーテルの具体例としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテルなどを挙げることができる。
アルキルビニルエステルの具体例としては、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、アクリル酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、ステアリン酸ビニルなどを挙げることができる。
スチレン及びその誘導体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどを挙げることができる。
【0144】
これらの単量体のうち、(メタ)アクリル酸エステル類が好ましく、特に(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4−メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4−tert−ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチルなどが好ましい。
共重合可能な他の単量体(b−3)は、前記単量体を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0145】
共重合可能な他の単量体(b−3)の使用量は、共重合組成で10〜94質量%、特に20〜94質量%、とりわけ35〜90質量%の範囲が好ましい。単量体(b−3)が多すぎると得られるビニル系共重合体同士や(A)成分中の(表面被覆)複合酸化チタン微粒子(表面処理酸化チタン微粒子)との架橋が不十分となり、塗膜の線膨張係数が低くならず耐熱性、耐久性が改善されなかったり、良好な耐候性が得られず、少なすぎると架橋密度が高くなりすぎて接着性が低下したり、白化などの塗膜外観不良を引き起こしたりする。
【0146】
前記ビニル系共重合体(B)において、アルコキシシリル基がSi−C結合を介して結合したビニル系単量体(b−1)と、有機系紫外線吸収性基を含有するビニル系単量体(b−2)と、前記共重合可能な他の単量体(b−3)との共重合反応は、これら単量体を含有する溶液にジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等のパーオキサイド類又はアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物から選択されるラジカル重合用開始剤を加え、加熱下(50〜150℃、特に70〜120℃で1〜10時間、特に3〜8時間)に反応させることにより容易に得られる。
【0147】
なお、このビニル系共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量は、1,000〜300,000、特に5,000〜250,000であることが好ましい。分子量が大きすぎると粘度が高くなりすぎて合成しにくかったり、取り扱いづらくなる場合があり、小さすぎると塗膜の白化などの外観不良を引き起こしたり、十分な接着性、耐久性、耐候性が得られない場合がある。
【0148】
(C)成分
(C)成分は溶剤であり、(A)成分及び(B)成分を溶解する又は分散するものであれば特に限定されるものではないが、極性の高い有機溶剤が主溶剤であることが好ましい。有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等のケトン類;ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸シクロヘキシル等のエステル類などを挙げることができ、これらからなる群より選ばれた1種もしくは2種以上の混合物を使用することができる。
【0149】
(C)成分の添加量としては、本発明のコーティング組成物の固形分濃度を1〜30質量%、特に5〜25質量%とする量を用いることが好ましい。この範囲外では該組成物を塗布、硬化した塗膜に不具合が生じることがある。即ち、上記範囲未満の濃度では塗膜にタレ、ヨリ、マダラが発生し易くなり、所望の硬度、耐擦傷性が得られない場合がある。また上記範囲を超える濃度では、塗膜のブラッシング、白化、クラックが生じ易くなるおそれがある。
【0150】
(D)成分
(D)成分のコロイダルシリカは、塗膜の硬度、耐擦傷性を特に高めたい場合、適量添加することができる。粒子径5〜50nm程度のナノサイズのシリカが水や有機溶剤の媒体にコロイド分散している形態であり、市販されている水分散、有機分散タイプが使用可能である。具体的には、日産化学工業(株)製スノーテックスO、OS、OL、メタノールシリカゾル、IPA−ST、IBA−ST、PMA−ST、MEK−STなどが挙げられる。コロイダルシリカの添加量は、(A)成分と(B)成分の固形分の合計100質量部に対し、0〜100質量部、好ましくは5〜100質量部、特に5〜50質量部がよい。
【0151】
本発明のコーティング組成物には、必要に応じて、pH調整剤、レベリング剤、増粘剤、顔料、染料、金属酸化物微粒子、金属粉、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、熱線反射・吸収性付与剤、可撓性付与剤、帯電防止剤、防汚性付与剤、撥水性付与剤などを本発明の効果に悪影響を与えない範囲内で添加することができる。
【0152】
本発明のコーティング組成物の更なる保存安定性を得るために、液のpHを、好ましくは2〜8、より好ましくは3〜6にするとよい。pHがこの範囲外であると、貯蔵性が低下することがあるため、pH調整剤を添加し、上記範囲に調整することもできる。コーティング組成物のpHが上記範囲外にあるときは、この範囲より酸性側であれば、アンモニア、エチレンジアミン等の塩基性化合物を添加してpHを調整すればよく、塩基性側であれば、塩酸、硝酸、酢酸、クエン酸等の酸性化合物を用いてpHを調整すればよい。しかし、その調整方法は特に限定されるものではない。
【0153】
本発明のコーティング組成物は、保存中あるいは使用中に吸水して、ビニル系共重合体(B)中のアルコキシシリル基が加水分解することで、保存安定性が低下することがある。これを防ぐために、脱水剤を添加してもよい。脱水剤としては、オルト蟻酸メチル、オルト蟻酸エチル、オルト酢酸エチルなどのオルトカルボン酸エステル;ジシクロヘキシルカルボジイミドなどのジアルキルカルボジイミド;シリカゲル、モレキュラーシーブなどの固体吸着剤などを用いることができる。
【0154】
本発明のコーティング組成物の硬化塗膜に、有機樹脂や木材製品を基材とした場合、基材の黄変、表面劣化を防ぐ目的で、本発明の(A)成分及び(B)成分以外の紫外線吸収剤及び/又は紫外線安定剤を添加することもできるが、本発明のコーティング組成物と相溶性が良好で、かつ揮発性の低い紫外線吸収剤及び/又は紫外線安定剤が好ましい。
【0155】
紫外線吸収剤としては、(A)成分で述べた表面処理酸化チタン微粒子以外で、紫外線遮蔽能を更に高めるため、公知の無機酸化物、例えば酸化セリウム、酸化ジルコニウムなどであり、光触媒活性の抑制されたものが好ましい。ジルコニウム、鉄等の金属キレート化合物、及びこれらの(部分)加水分解物、縮合物などを用いることができる。有機系の例として、主骨格がヒドロキシベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系、トリアジン系である化合物誘導体が好ましい。更に側鎖にこれら紫外線吸収剤を含有するビニルポリマーなどの重合体、及び他のビニルモノマーとの共重合体、又はシリル化変性された紫外線吸収剤、その(部分)加水分解縮合物でもよい。
【0156】
具体的には、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ベンジロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジエトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジプロポキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジブトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシ−4’−プロポキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシ−4’−ブトキシベンゾフェノン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート、2−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−4,6−ジフェニルトリアジン、2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノンの(共)重合体、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールの(共)重合体、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノンとγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランとの反応物、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンとγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランとの反応物、これらの(部分)加水分解物などが挙げられる。これらの有機系紫外線吸収剤は2種以上を併用してもよい。
【0157】
紫外線吸収剤の配合量は、コーティング組成物の固形分に対して0〜100質量%が好ましく、配合する場合、好ましくは0.3〜100質量%、特に0.3〜30質量%である。
【0158】
紫外線安定剤としては、分子内に1個以上の環状ヒンダードアミン構造を有し、本発明のコーティング組成物との相溶性がよく、また低揮発性のものが好ましい。紫外線安定剤の具体例としては、3−ドデシル−1−(2,2’,6,6’−テトラメチル−4−ピペリジニル)ピロリジン−2,5−ジオン、N−メチル−3−ドデシル−1−(2,2’,6,6’−テトラメチル−4−ピペリジニル)ピロリジン−2,5−ジオン、N−アセチル−3−ドデシル−1−(2,2’,6,6’−テトラメチル−4−ピペリジニル)ピロリジン−2,5−ジオン、セバシン酸ビス(2,2’,6,6’−テトラメチル−4−ピペリジル)、セバシン酸ビス(1,2,2’,6,6’−ペンタメチル−4−ピペリジル)、テトラキス(2,2’,6,6’−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2’,6,6’−ペンタメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と2,2’,6,6’−テトラメチル−ピペリジノールとトリデカノールとの縮合物、8−アセチル−3−ドデシル−7,7’,9,9’−テトラメチル−1,3,8−トリアザスピロ[4,5]デカン−2,4−ジオン、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,6,6’−ペンタメチル−4−ピペリジノールとβ,β,β’,β’−テトラメチル−3,9−(2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5’]ウンデカン)ジエタノールとの縮合物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と2,2’,6,6’−ペンタメチル−4−ピペリジノールとβ,β,β’,β’−テトラメチル−3,9−(2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5’]ウンデカン)ジエタノールとの縮合物、また、光安定剤を固定化させる目的で、特公昭61−56187号公報にあるようなシリル化変性の光安定剤、例えば2,2,6,6−テトラメチルピペリジノ−4−プロピルトリメトキシシラン、2,2’,6,6’−テトラメチルピペリジノ−4−プロピルメチルジメトキシシラン、2,2’,6,6’−テトラメチルピペリジノ−4−プロピルトリエトキシシラン、2,2’,6,6’−テトラメチルピペリジノ−4−プロピルメチルジエトキシシラン、更にこれらの(部分)加水分解物などが挙げられ、これらの光安定剤は2種以上併用してもよい。
【0159】
紫外線安定剤の配合量は、コーティング組成物の固形分に対して0〜10質量%であることが好ましい。配合する場合、好ましくは0.03〜10質量%、特に0.03〜7.5質量%である。
【0160】
本発明のコーティング組成物は、上記各成分の所定量を常法に準じて混合することにより得ることができる。
【0161】
このようにして得られたコーティング組成物は、基材の少なくとも一方の面に、直接もしくは少なくとも1種の他の層を介して、上記コーティング組成物を塗布、硬化することにより被膜を形成した被覆物品を得ることができる。
【0162】
ここで、コーティング組成物の塗布方法としては、通常の塗布方法で基材にコーティングすることができ、例えば、刷毛塗り、スプレー、浸漬、フローコート、ロールコート、カーテンコート、スピンコート、ナイフコート等の各種塗布方法を選択することができる。
【0163】
また、ここで用いられる基材としては、特に限定されることはないが、プラスチック成形体、木材系製品、セラミックス、ガラス、金属、あるいはそれらの複合物などが挙げられ、各種プラスチック材料(有機樹脂基材)が好適に使用され、特にポリカーボネート、ポリスチレン、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、ウレタン樹脂、チオウレタン樹脂、ハロゲン化ビスフェノールAとエチレングリコールの重縮合物、アクリルウレタン樹脂、ハロゲン化アリール基含有アクリル樹脂、含硫黄樹脂などが好ましい。更にこれらの樹脂基材の表面が処理されたもの、具体的には、化成処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、酸やアルカリ液での処理、及び基材本体と表層が異なる種類の樹脂で形成されている積層体を用いることもできる。積層体の例としては、共押し出し法やラミネート法により製造されるポリカーボネート樹脂基材の表層にアクリル樹脂層もしくはウレタン樹脂層が存在する積層体、又はポリエステル樹脂基材の表層にアクリル樹脂層が存在する積層体などが挙げられる。
【0164】
本発明のコーティング組成物を塗布した後の硬化は、空気中に放置して風乾させてもよいし、加熱してもよい。硬化温度、硬化時間は限定されるものではないが、基材の耐熱温度以下で10分〜2時間加熱するのが好ましい。具体的には80〜135℃で30分〜2時間加熱するのがより好ましい。
【0165】
塗膜の厚みは特に制限はなく、0.1〜50μmであればよいが、塗膜の硬さ、耐擦傷性、長期的に安定な密着性、及びクラックが発生しないことを満たすためには、1〜20μmが好ましい。
【0166】
本発明のコーティング組成物は、塗膜とした時の可視光透過性が特徴の一つである。その指標として、塗膜の曇価(ヘイズ(Haze))の値の上限を定めることができる。ヘイズは一般に膜厚が大きいほど大きくなるので、ここでは膜厚5μm以下でのヘイズが2.0以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.0以下を満たすものが好ましい。塗膜のヘイズは、濁度計NDH2000(日本電色工業(株)製)で測定した値とする。
【0167】
本発明のコーティング組成物にシリコーンハードコーティング膜を積層した塗膜は、耐擦傷性に優れているのが二つ目の特徴である。その指標として、塗膜の耐擦傷性ΔHzで上限を定めることができる。ΔHzはASTM D1044に準じ、テーバー摩耗試験にて摩耗輪CS−10Fを装着、荷重500gの下での500回転後のヘイズを測定、試験前後のヘイズ差(ΔHz)である。膜厚5μm以下でのΔHzが15以下、好ましくは13以下、より好ましくは10以下を満たすものが好ましい。
【0168】
本発明のコーティング組成物は、塗膜とした場合の耐候性が三つ目の特徴である。その指標として、塗膜の耐候性試験での塗膜の外観の変化で定めることができる。耐候性試験での塗膜の外観の変化は、岩崎電気(株)製アイスーパーUVテスターW−151を使用し、試験条件は、1×10
3W/m
2の強度の紫外光、温度60℃、湿度50%RHの環境で塗膜クラックが発生するまでの積算時間の長さで評価することができる。例えば、1×10
3W/m
2の強度の紫外光を1時間照射した場合の積算エネルギーは、1kWh/m
2となるが、組立単位の変換の規則に従うと、これは3.6MJ/m
2(メガジュール)に等しい。本発明の硬化塗膜で被覆された物品は、1m
2辺り1500MJの積算紫外線エネルギーを照射後もクラック、白化及び黄変が発生せず、良好な外観を維持することができる。
【0169】
本発明における耐候性試験の試験条件環境は任意に設定できるものであるが、1m
2辺り1500MJの積算紫外線エネルギーは、約10年の屋外暴露に相当するものである。試験条件と屋外暴露との相関は容易に見積もることができる。例えば、紫外線照度計(岩崎電気(株)製アイ紫外線照度計UVP365−1)を用いて屋外の紫外線量を測定すると1×10
1W/m
2であることが分かる(群馬県安中市松井田町において晴天時の春分の日の正午に測定した場合)。年間を通して一日の平均日照時間を12時間であると仮定すれば、12(h/日)×365(日/年)×10(年)×10(W/m
2)=438(kWh/m
2)≒1500(MJ/m
2)となる。屋外の環境は、緯度や気候にも依存し、耐候性試験が人工的な環境であることを考慮すると、概算で1500MJ/m
2を10年の屋外暴露に相当すると考えるのが妥当である。試験条件は、硬化塗膜の使用環境に応じて適宜変更すればよい。
【0170】
耐候性試験では、紫外線照射中に被覆物品を適宜取り出して外観を観測することによって、劣化度合いを調べることができる。外観の変化でクラックについては、目視又は顕微鏡を用いて評価できる。このような目的に使用できる顕微鏡は、特に限定されないが、例えば、レーザー顕微鏡(キーエンス(株)製、装置名「VK−8710」)を挙げることができる。
【0171】
外観の変化で白化については、被覆物品のヘイズでその尺度を計ることができる。例えば、濁度計NDH2000(日本電色工業(株)製)を用いることができる。初期のヘイズをHz
0、試験後のヘイズをHz
1としたときに、耐候ヘイズ(ΔHz’=Hz
1−Hz
0)を求めることができる。耐候ヘイズ(ΔHz’)は、10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましく、5以下であることが更に好ましい。10を超える場合は、白化が進行し、透明性が悪くなるので好ましくない。
【0172】
外観の変化で耐黄変性については、被覆物品のイエローインデックスでその尺度を計ることができる。例えば、色度計Z−300A(日本電色工業(株)製)を用いることができる。初期のイエローインデックスをYI
0、試験後のイエローインデックスをYI
1としたときに、耐候イエローインデックスの差(ΔYI’=YI
1−YI
0)を求めることができ、耐黄変性の指標とすることができる。耐候イエローインデックスの差(ΔYI’=YI
1−YI
0)は、10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましく、5以下であることが更に好ましい。10を超える場合は、黄変が進行し、基材の劣化及び意匠性の悪化が顕著となるため好ましくない。
【0173】
本発明のコーティング組成物は、塗膜とした際の基材との良好な密着性が四つ目の特徴である。その指標として、JIS K5400に準じ、カミソリ刃を用いて、塗膜に2mm間隔で縦、横6本ずつ切れ目を入れて25個の碁盤目を作製し、セロテープ(登録商標、ニチバン(株)製)をよく付着させた後、90°手前方向に急激に剥がした時、塗膜が剥離せずに残存するマス目数(X)を、X/25で表示すればよい。マス目数(X)の値が25に近いほど密着性が良好であるといえる。また、硬化塗膜を有する基材を100℃の水中で2時間煮沸し、同様のマス目試験を行えば、耐水密着性の指標とすることができる。
【0174】
本発明のコーティング組成物は、樹脂基材の表面に、直接又は必要に応じてプライマー層や紫外線吸収層、印刷層、記録層、熱線遮蔽層、粘着層、無機蒸着膜層などを介して形成することもできる。
【0175】
更に耐擦傷性の機能を求める場合、本発明のコーティング組成物をプライマーとして用い、本コーティング組成物の硬化被膜の表面に、シリコーン系硬質被膜を形成することもできる。このような積層システムは、高度な耐擦傷性と同時に、長期の耐候性をも付与することが可能である。
【0176】
ここでシリコーン系硬質被膜としては、具体的にはシリコーンレジンとコロイダルシリカからなる硬化被膜が好ましい。このような被膜の例としては、特開昭51−2736号公報、特開平9−71654号公報などが挙げられる。
【0177】
具体的には、シリコーンハードコーティング剤が下記(ア)〜(エ)成分を含有するものが好ましく、シリコーンハードコーティング被膜が該組成物の硬化被膜であることが好ましい。
(ア)下記式(4):
(R
01)
m(R
02)
nSi(OR
03)
4-m-n (4)
(式中、R
01及びR
02は、各々独立に、水素原子、又は置換もしくは非置換の1価炭化水素基であり、置換基同士が相互に結合していてもよく、R
03は、炭素数1〜3のアルキル基であり、m,nは、各々独立に、0又は1であり、かつm+nは、0,1又は2である。)
で表されるアルコキシシラン及びその部分加水分解縮合物から選ばれる少なくとも1種を(共)加水分解・縮合することにより得られたシリコーンレジン、
(イ)コロイダルシリカ、
(ウ)硬化触媒、
(エ)溶剤
また、シリコーンハードコーティング剤は、上記(ア)〜(エ)成分に加えて、(オ)酸化チタンを含有することができる。
【0178】
(ア)成分
本発明に用いられる(ア)成分は、下記一般式(4):
(R
01)
m(R
02)
nSi(OR
03)
4-m-n (4)
(式中、R
01及びR
02は、各々独立に、水素原子、又は置換もしくは非置換の1価炭化水素基であり、置換基同士が相互に結合していてもよく、R
03は、炭素数1〜3のアルキル基であり、m,nは、各々独立に、0又は1であり、かつm+nは、0,1又は2である。)
で表されるアルコキシシラン及びその部分加水分解縮合物から選ばれる少なくとも1種を(共)加水分解・縮合することにより得られたシリコーンレジンである。
【0179】
上記式中、R
01及びR
02は、水素原子又は置換もしくは非置換の好ましくは炭素数1〜12、特に1〜8の1価炭化水素基であり、例えば、水素原子;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基等のアリール基;クロロメチル基、γ−クロロプロピル基、3,3’,3’’−トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換炭化水素基;γ−メタクリロキシプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基、γ−メルカプトプロピル基、γ−アミノプロピル基、γ−イソシアネートプロピル基等の(メタ)アクリロキシ、エポキシ、メルカプト、アミノ、イソシアネート基置換炭化水素基などを例示することができる。また、複数のイソシアネート基置換炭化水素基同士が結合したイソシアヌレート基も例示することができる。これらの中でも、特に耐擦傷性や耐候性が要求される用途に使用する場合にはアルキル基が好ましく、靭性や染色性が要求される場合にはエポキシ、(メタ)アクリロキシ、イソシアヌレート置換炭化水素基が好ましい。
【0180】
また、R
03は、炭素数1〜3のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基を例示することができる。これらの中でも、加水分解縮合の反応性が高いこと、及び生成するアルコールR
03OHの蒸気圧が高く、留去のし易さなどを考慮すると、メチル基、エチル基が好ましい。
【0181】
上記式の例としては、m=0、n=0の場合、一般式:Si(OR
03)
4で表されるテトラアルコキシシラン、もしくはその部分加水分解縮合物(ア−1)である。このようなテトラアルコキシシラン、もしくはその部分加水分解縮合物の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラメトキシシランの部分加水分解縮合物(商品名「Mシリケート51」多摩化学工業(株)製、商品名「MSI51」コルコート(株)製)、商品名「MS51」、「MS56」三菱化学(株)製)、テトラエトキシシランの部分加水分解縮合物(商品名「シリケート35」、「シリケート45」多摩化学工業(株)製、商品名「ESI40」、「ESI48」コルコート(株)製)、テトラメトキシシランとテトラエトキシシランとの共部分加水分解縮合物(商品名「FR−3」多摩化学工業(株)製、商品名「EMSi48」コルコート(株)製)などを挙げることができる。
【0182】
また、m=1、n=0あるいはm=0、n=1の場合、一般式:R
01Si(OR
03)
3あるいはR
02Si(OR
03)
3で表されるトリアルコキシシラン、もしくはその部分加水分解縮合物(ア−2)である。このようなトリアルコキシシラン、もしくはその部分加水分解縮合物の具体例としては、ハイドロジェントリメトキシシラン、ハイドロジェントリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、イソシアネート基同士が結合したトリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、トリス(3−トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、メチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物(商品名「KC−89S」、「X−40−9220」信越化学工業(株)製)、メチルトリメトキシシランとγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物(商品名「X−41−1056」信越化学工業(株)製)などを挙げることができる。
【0183】
m=1、n=1の場合、一般式:(R
01)(R
02)Si(OR
03)
2で表されるジアルコキシシラン、もしくはその部分加水分解縮合物(ア−3)である。このようなジアルコキシシラン、もしくはその部分加水分解縮合物の具体例としては、メチルハイドロジェンジメトキシシラン、メチルハイドロジェンジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルエチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、メチルプロピルジメトキシシラン、メチルプロピルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシランなどを挙げることができる。
【0184】
(ア)成分のシリコーンレジンは、前記(ア−1)、(ア−2)及び(ア−3)を任意の割合で使用して調製すればよいが、更に保存安定性、耐擦傷性、耐クラック性を向上させるには、(ア−1)、(ア−2)、(ア−3)の合計100Siモル%に対して、(ア−1)を0〜50Siモル%、(ア−2)を50〜100Siモル%、(ア−3)を0〜10Siモル%の割合で使用することが好ましく、更には(ア−1)を0〜30Siモル%、(ア−2)を70〜100Siモル%、(ア−3)を0〜10Siモル%の割合で使用することが好ましい。この際、主成分となる(ア−2)が50Siモル%未満では、樹脂の架橋密度が小さくなるために硬化性が低く、また硬化膜の硬度が低くなる傾向がある。一方、(ア−1)が50Siモル%より過剰に用いられると、樹脂の架橋密度が高くなりすぎ、靭性が低下してクラックを回避しにくくなる場合がある。
【0185】
なお、Siモル%は全Siモル中の割合であり、Siモルとは、モノマーであればその分子量が1モルであり、2量体であればその平均分子量を2で割った数が1モルである。
【0186】
(ア)成分のシリコーンレジンを製造するに際しては、(ア−1)、(ア−2)、(ア−3)を公知の方法で(共)加水分解・縮合させればよい。例えば、(ア−1)、(ア−2)、(ア−3)のアルコキシシランもしくはその部分加水分解縮合物の単独又は混合物を、pHが1〜7.5、好ましくは2〜7の水で(共)加水分解させる。この際、水中にシリカゾル等の金属酸化物微粒子が分散されたものを使用してもよい。このpH領域に調整するため及び加水分解を促進するために、フッ化水素、塩酸、硝酸、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、蓚酸、クエン酸、マレイン酸、安息香酸、マロン酸、グルタール酸、グリコール酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸等の有機酸及び無機酸、もしくは表面にカルボン酸基やスルホン酸基を有する陽イオン交換樹脂等の固体酸触媒、あるいは酸性の水分散シリカゾル等の水分散金属酸化物微粒子を触媒に用いてもよい。また加水分解時にシリカゾル等の金属酸化物微粒子を水もしくは有機溶剤中に分散させたものを共存させてもよい。更に前述した(A)成分である(表面被覆)複合酸化チタン微粒子分散体において、分散媒が水、あるいは水溶性の有機溶剤である場合、この分散体共存下にて、水、酸性の加水分解触媒、及びアルコキシシランを混合することによって、加水分解・縮合反応をさせてもよい。この場合、(A)成分中の(表面被覆)複合酸化チタン微粒子の表面とアルコキシシランの加水分解縮合物が一部反応する可能性があるが、それにより(A)成分中の(表面被覆)複合酸化チタン微粒子の分散性が向上するためより好ましい。
【0187】
この加水分解において、水の使用量は(ア−1)、(ア−2)及び(ア−3)のアルコキシシラン及び/又はその部分加水分解縮合物の合計100質量部に対して水20〜3,000質量部の範囲であればよいが、過剰の水の使用は、装置効率の低下ばかりでなく、最終的な組成物とした場合、残存する水の影響による塗工性、乾燥性の低下をも引き起こすおそれがある。更に保存安定性、耐擦傷性、耐クラック性を向上させるためには、50質量部以上150質量部以下とすることが好ましい。水が少ないと、得られるシリコーンレジンのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析におけるポリスチレン換算重量平均分子量が後述する最適領域にまで大きくならないことがあり、多すぎると、得られるシリコーンレジンに含まれる原料(ア−2)に由来する単位式:R’SiO
(3-p)/2(OX)
p{但し、R’はR
01又はR
02であり、Xは水素原子又はR
03であり、R
01、R
02、R
03は前記と同じであり、pは0〜3の整数である。}で表される単位中のR’SiO
3/2{但し、R’は前記と同じ}で表される単位が、塗膜の耐クラック性を維持するための最適範囲にまで達しないことがある。
【0188】
加水分解は、アルコキシシラン、もしくはその部分加水分解縮合物中に水を滴下又は投入したり、逆に水中にアルコキシシラン、もしくはその部分加水分解縮合物を滴下又は投入したりしてもよい。この場合、有機溶剤を含有してもよいが、有機溶剤を含有しない方が好ましい。これは有機溶剤を含有するほど、得られるシリコーンレジンのGPC分析におけるポリスチレン換算重量平均分子量が小さくなる傾向があるためである。
【0189】
(ア)成分のシリコーンレジンを得るには、前記の加水分解に続いて、縮合させることが必要である。縮合は、加水分解に続いて連続的に行えばよく、通常、液温が常温又は100℃以下の加熱下で行われる。100℃より高い温度ではゲル化する場合がある。更に80℃以上、常圧又は減圧下にて、加水分解で生成したアルコールを留去することにより、縮合を促進させることができる。更に、縮合を促進させる目的で、塩基性化合物、酸性化合物、金属キレート化合物等の縮合触媒を添加してもよい。縮合工程の前又は最中に、縮合の進行度及び濃度を調整する目的で有機溶剤を添加してもよく、またシリカゾル等の金属酸化物微粒子を水もしくは有機溶剤中に分散させたものや、本発明の(A)成分である(表面被覆)複合酸化チタン微粒子分散体を添加してもよい。一般的にシリコーンレジンは縮合が進行すると共に、高分子量化し、水や生成アルコールへの溶解性が低下していくため、添加する有機溶剤としては、シリコーンレジンをよく溶解し、沸点が80℃以上の比較的極性の高い有機溶剤が好ましい。このような有機溶剤の具体例としてはイソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等のケトン類;ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル類;酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸シクロヘキシル等のエステル類などを挙げることができる。
【0190】
この縮合により得られたシリコーンレジンのGPC分析におけるポリスチレン換算重量平均分子量は、1,500以上であることが好ましく、1,500〜50,000であることがより好ましく、2,000〜20,000であることが更に好ましい。分子量がこの範囲より低いと、塗膜の靱性が低く、クラックが発生し易くなる傾向があり、一方、分子量が高すぎると、硬度が低くなる傾向があり、また塗膜中の樹脂が相分離するために塗膜白化を引き起こす場合がある。
【0191】
(イ)成分
(イ)成分は、前述の(D)成分と同一であり、前項で説明しているので省略する。また、その配合量は(ア)成分のシリコーンレジン固形分100質量部に対し0〜100質量部、好ましくは5〜100質量部、特に5〜50質量部がよい。
【0192】
(ウ)成分
(ウ)成分は、先行技術などで公知となっているシリコーンハードコーティング組成物に用いられる硬化触媒が使用できる。具体的には、シリコーンレジン(ア)中に含まれる、シラノール基、アルコキシ基等の縮合可能基が縮合する反応を促進する硬化触媒であり、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、蟻酸ナトリウム、蟻酸カリウム、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、テトラメチルアンモニウムアセテート、n−ヘキシルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジシアンジアミド等の塩基性化合物類;テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、チタンアセチルアセトナート、アルミニウムトリイソブトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジイソプロポキシ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、塩化アルミニウム、コバルトオクチレート、コバルトアセチルアセトナート、鉄アセチルアセトナート、スズアセチルアセトナート、ジブチルスズオクチレート、ジブチルスズラウレート等の含金属化合物類;p−トルエンスルホン酸、トリクロル酢酸等の酸性化合物類などが挙げられる。この中で特にプロピオン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、蟻酸ナトリウム、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジイソプロポキシ(エチルアセトアセテート)アルミニウムが好ましい。
【0193】
更に、硬化性、耐クラック性に加え、コーティング組成物の保存安定性を維持するためにより適した硬化触媒として、以下のものが使用可能である。
下記一般式(5)で表される分子中に芳香族基を含まない化合物である。
〔(R
5)(R
6)(R
7)(R
8)M〕
+・X
- (5)
(式中、R
5,R
6,R
7,R
8は、各々独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜18のアルキル基であって、R
5,R
6,R
7,R
8における各々のTaft−Duboisの置換基立体効果定数Esの合計が−0.5以下であり、Mは、アンモニウムカチオン又はホスホニウムカチオンであり、X
-は、ハロゲンアニオン、ヒドロキシドアニオン、又は炭素数1〜4のカルボキシレートアニオンである。)
【0194】
ここで、Taft−Duboisの置換基立体効果定数Esとは、置換カルボン酸の酸性下エステル化反応速度におけるメチル基CH
3を基準にした相対速度であり、下記式で表される{J.Org.Chem.45,1164(1980)、J.Org.Chem.64,7707(1999)参照}。
Es=log(k/k0)
(式中、kは、特定条件下での置換カルボン酸の酸性下エステル化反応速度であり、k0は、同一条件下でのメチル基置換カルボン酸の酸性下エステル化反応速度である。)
【0195】
このTaft−Duboisの置換基立体効果定数Esは、置換基の立体的嵩高さを表す一般的な指標であり、例えば、メチル基:0.00、エチル基:−0.08、n−プロピル基:−0.31、n−ブチル基:−0.31となっており、Esが小さいほど立体的に嵩高いことを示している。
【0196】
本発明においては、式(5)中のR
5,R
6,R
7,R
8におけるEsの合計が−0.5以下であることが好ましい。Esの合計が−0.5より大きいと、コーティング組成物としての保存安定性が低下したり、塗膜化した際や耐水試験後にクラックや白化が発生したり、密着性、特に耐水密着性、煮沸密着性が低下するおそれがある。これはEsの合計が−0.5より大きい場合(例えばR
5,R
6,R
7,R
8がメチル基)、相当する式(5)で表される硬化触媒は触媒活性が強くなるものの、コーティング組成物の保存安定性は低下する傾向があり、またその塗膜は非常に吸湿し易くなり、耐水試験後の塗膜異常を引き起こす場合がある。なお、R
5,R
6,R
7,R
8におけるEsの合計は、通常、−3.2以上、特に−2.8以上であることが好ましい。
【0197】
上記式中、R
5,R
6,R
7,R
8のハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜18、好ましくは1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;クロロメチル基、γ−クロロプロピル基、3,3’,3’’−トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換炭化水素基などが挙げられる。
【0198】
また、Mはアンモニウムカチオン又はホスホニウムカチオンであり、X
-はハロゲンアニオン、ヒドロキシドアニオン又は炭素数1〜4のカルボキシレートアニオンであり、ヒドロキシドアニオン又はアセテートアニオンであることが好ましい。
【0199】
このような硬化触媒の具体例としては、例えば、テトラn−プロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラn−ブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラn−ペンチルアンモニウムヒドロキシド、テトラn−ヘキシルアンモニウムヒドロキシド、テトラシクロヘキシルアンモニウムヒドロキシド、テトラキス(トリフロロメチル)アンモニウムヒドロキシド、トリメチルシクロヘキシルアンモニウムヒドロキシド、トリメチル(トリフロロメチル)アンモニウムヒドロキシド、トリメチルtert−ブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラn−プロピルホスホニウムヒドロキシド、テトラn−ブチルホスホニウムヒドロキシド、テトラn−ペンチルホスホニウムヒドロキシド、テトラn−ヘキシルホスホニウムヒドロキシド、テトラシクロヘキシルホスホニウムヒドロキシド、テトラキス(トリフロロメチル)ホスホニウムヒドロキシド、トリメチルシクロヘキシルホスホニウムヒドロキシド、トリメチル(トリフロロメチル)ホスホニウムヒドロキシド、トリメチルtert−ブチルホスホニウムヒドロキシド等のヒドロキシド類、これらヒドロキシド類とハロゲン酸との塩、及び炭素数1〜4のカルボン酸との塩を挙げることができる。これらの中でも、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムアセテート、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムアセテート、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムアセテートが好ましい。これらは1種単独で使用しても2種以上を併用してもよく、更には前述の公知の硬化触媒と併用してもよい。
【0200】
(ウ)成分の配合量は、(ア)成分のシリコーンレジンを硬化させるのに有効な量であればよく、特に限定されるものではないが、具体的には、シリコーンレジンの固形分に対し、0.0001〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは0.001〜10質量%である。0.0001質量%未満であると硬化が不十分となり、硬度が低下する場合があり、30質量%より多いと塗膜にクラックが発生し易くなる場合や、耐水性が低下する場合がある。
【0201】
(エ)成分
(エ)成分は、先行技術などで公知となっているシリコーンハードコーティング組成物に用いられる溶剤が使用できる。前述の(C)成分と類似であるので、その説明を省略する。その配合量は、シリコーンハードコーティング剤の固形分濃度を1〜30質量%、特に5〜25質量%とする量であることが好ましい。
【0202】
(オ)成分
(オ)成分は、酸化チタンである。前述の(A)成分と類似のものをシリコーンハードコーティング組成物にも用いることができる。(オ)成分の詳細な説明は(A)成分と同様であるので省略する。その配合量は、シリコーンハードコーティング剤の固形分濃度を1〜30質量%、特に5〜25質量%とする量であることが好ましい。
【0203】
なお、シリコーンハードコーティング被膜の膜厚は0.5〜50μm、特に1〜20μmとすることが好ましい。
【0204】
もう一段の耐擦傷性を得るために、無機蒸着膜層を本塗膜上又は/本塗膜上にシリコーンハードコート膜を更に設けた積層膜上に被覆してもよい。無機蒸着膜層としては、乾式成膜工法で形成されたものであれば特に制限されるものではなく、例えば、Si、Ti、Zn、Al、Ga、In、Ce、Bi、Sb、B、Zr、Sn、及びTa等の元素を有する少なくとも1種以上の各種金属又は金属酸化物、窒化物及び硫化物等を主成分とする層が挙げられる。また、例えば、高硬度で絶縁性に優れたダイヤモンドライクカーボン膜層も挙げられる。無機蒸着膜層の積層方法は、乾式成膜工法であれば特に限定されず、例えば、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、分子線エピタキシー法、イオンビームデポジション、イオンプレーティング、スパッタリング等の物理気相成長法や、熱CVD、プラズマCVD、光CVD、エピタキシャルCVD、アトミックレイヤーCVD、catCVD等の化学気相成長法等の乾式成膜工法が挙げることができる。
この無機蒸着層の厚さは、0.1〜10μmであることが好ましい。
【実施例】
【0205】
以下、合成例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において%は質量%、部は質量部を示す。また、粘度はJIS Z8803に基づいて測定した25℃での値であり、重量平均分子量は、標準ポリスチレンを基準としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。
【0206】
[合成例1]
表面処理酸化チタン(A−1)の合成
工程(i)
無機酸化物コロイド水分散液として、酸化チタン−スズ−マンガン複合酸化物を核とし酸化ケイ素を殻とするコアシェル微粒子を分散質とし、水を分散媒とするものを調製した。まず、核となる酸化チタン微粒子を含有する分散液を製造し、次いで、テトラエトキシシランを加水分解縮合することで、コアシェル微粒子を含有するコロイド溶液とした。
36質量%の塩化チタン(IV)水溶液(石原産業(株)製、製品名「TC−36」)66.0gに塩化スズ(IV)五水和物(和光純薬工業(株)製)1.8g、塩化マンガン(II)四水和物(和光純薬工業(株)製)0.2gを添加し、よく混合した後、これをイオン交換水1,000gで希釈した。この金属塩水溶液混合物に5質量%のアンモニア水(和光純薬工業(株)製)300gを徐々に添加して中和、加水分解することによりスズとマンガンを含有する水酸化チタンの沈殿物を得た。このときの水酸化チタンスラリーのpHは8であった。得られた水酸化チタンの沈殿物を、イオン交換水の添加とデカンテーションを繰り返して脱イオン処理した。この脱イオン処理後のスズ及びマンガンを含有する水酸化チタン沈殿物に30質量%過酸化水素水(和光純薬工業(株)製)100gを徐々に添加し、その後60℃で3時間攪拌して十分に反応させた。その後、純水を添加して濃度調整を行うことにより、半透明のスズ及びマンガン含有ペルオキソチタン酸溶液(固形分濃度1質量%)を得た。容積500mLのオートクレーブ(耐圧硝子工業(株)製、製品名「TEM−D500」)に、上記のように合成したペルオキソチタン酸溶液350mLを仕込み、これを200℃、1.5MPaの条件下、240分間水熱処理した。その後、オートクレーブ内の反応混合物を、サンプリング管を経由して、25℃の水浴中に保持した容器に排出し、急速に冷却することで反応を停止させ、酸化チタン分散液を得た。
磁気回転子と温度計を備えたセパラブルフラスコに、得られた酸化チタン分散液1,000質量部、エタノール100質量部、アンモニア2.0質量部を室温(25℃)で加えて磁気攪拌した。このセパラブルフラスコを氷浴に浸漬し、内容物温度が5℃になるまで冷却した。ここに、テトラエトキシシラン18質量部(信越化学工業(株)製、製品名「KBE−04」)を加えた後に、セパラブルフラスコをμReactorEx(四国計測工業(株)製)内に設置して、周波数2.45GHz・出力1,000Wのマイクロ波を1分間にわたって照射しながら磁気攪拌した。その間、温度計を観測して内容物温度が85℃に達するのを確認した。得られた混合物を定性ろ紙(Advantec 2B)でろ過して希薄コロイド溶液を得た。この希薄コロイド溶液を限外ろ過(Andritz製フィルター)によって10質量%まで濃縮し、無機酸化物コロイド水分散液(WT−1)を得た。WT−1(200g)を磁気攪拌子を備えた1,000mLのセパラブルフラスコに入れた。
工程(ii)
先の工程(i)でWT−1を入れたフラスコに、イソブチルアルコール(デルタ化成(株)製、200g)を入れた。水性チタニアゾルとイソブチルアルコールは完全に相溶せず、2相を成した。なお、イソブチルアルコールの20℃における水に対する溶解度は、10(g/100g水)であった。
工程(iii)
先の工程(i)、工程(ii)を経たフラスコに、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、製品名「KBM−5103」)、20gを入れた。シランは主として有機層(イソブチルアルコール層)に溶解する様子が観察された。
工程(iv)
先の工程(i)〜工程(iii)を経たフラスコをマイクロ波照射装置(四国計測工業(株)製、製品名「μReactorEx」)のキャビティー内に入れた。磁気攪拌子を700rpmで回転させながら、マイクロ波を5分間照射した。マイクロ波の照射は液温が最高で82℃に達するように、該装置に内蔵のプログラムで制御した。マイクロ波照射後、液温が40℃になるまで室温で静置した。この際に、コロイド溶液は懸濁状態であった。
工程(v)
先の工程(i)〜工程(iv)を経たフラスコに、磁気攪拌子で攪拌(700rpm)しながら、有機溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテル(日本乳化剤(株)製、300g)を添加した。有機溶媒添加後、反応液は均一で透明な状態を呈した。
工程(vi)
先の工程(i)〜工程(v)を経たフラスコの内容物を蒸留用フラスコに移し、760mmHgの圧力下において加熱留去した。フラスコ内温が約85℃の時点で留去が起こった。留出量が500gに達するまで留去を続けた。留去終了時の内温は約120℃であった。フラスコ内容物を室温まで冷却し、水分濃度の分析(カールフィッシャー法)を行ったところ0.20%であった。合成されたオルガノチタニアゾルの動的光散乱法による体積平均50%累計粒子径を測定した。測定結果は
図1の通りであった。合成されたオルガノチタニアゾルは、透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ(株)製、装置名「HT−9000」)を用いて粒子の観察(50k)を行った。結果を
図2に示した。
工程(vii)
工程(i)〜工程(vi)で製造したオルガノチタニアゾル(200g)をモレキュラーシーブ4A(関東化学(株)製、「製品番号25958−08」、20g)で処理したところ、水分濃度が250ppmまで低下した。この際に凝集は見られなかったことから、工程(vi)で除去しきれなかった水分の低減にモレキュラーシーブ処理が有用であることが明らかとなった。
工程(viii)
工程(i)〜工程(vii)を経たオルガノチタニアゾル(200g、固形分11質量%)とビス{(アクリロイルオキシメチル)ジメチルシリル}アザン(10g)の反応を窒素気流下80℃で8時間反応した。反応後、陽イオン交換樹脂(10g、オルガノ(株)製、「アンバーライト200CT(H)−A」)と接触させることによって副生アンモニアを除去した。混合物を定性ろ紙(Advantec 2B)でろ過し、表面処理酸化チタン(T−1)を得た。T−1(10mL)に対して、トリスアセチルアセトナト鉄(III)(関東化学(株)製)のヘキサデューテリオアセトン(Cambridge Isotope Laboratories Inc.製)1M溶液を数滴(ca.0.2mL)加えた後、PTFE製NMRチューブ(φ10mm)に移し、
29Si核磁気共鳴スペクトルの測定を行った。測定条件は、ゲート付デカップリング、45度パルス、パルス間隔6秒のパルスシークエンスを用い、磁場強度11.75Tにおいて7,200回の積算を行った。得られた核磁気共鳴スペクトルを
図3に示した。
図3からT単位(3官能ポリシロキサン)の割合∫T3/ΣTは70モル%であった。
【0207】
[合成例2]
表面処理酸化チタン(A−2)の合成
合成例1において実施した工程(viii)において、ビス{(アクリロイルオキシメチル)ジメチルシリル}アザン(10g)に代えてヘキサメチルジシラザン(8g)を用いた他は合成例1と同様の操作を行い、表面処理酸化チタン(T−2)を得た。得られた表面処理酸化チタン(T−2)に対して、トリスアセチルアセトナト鉄(III)(関東化学(株)製)のヘキサデューテリオアセトン(Cambridge Isotope Laboratories Inc.製)1M溶液を数滴(ca.0.2mL)、及び内部標準物質としてcyclo−オクタメチルテトラシロキサンを加えた後、PTFE製NMRチューブ(φ10mm)に移し、
29Si核磁気共鳴スペクトルの測定を行った。測定条件は、ゲート付デカップリング、45度パルス、パルス間隔6秒のパルスシークエンスを用い、磁場強度11.75Tにおいて7,200回の積算を行った。得られた核磁気共鳴スペクトルを
図4に示した。
図4からT単位(3官能ポリシロキサン)の割合∫T3/ΣTは60モル%であった。
【0208】
[合成例3]
表面処理酸化チタン(A−3)の合成
合成例1において実施した工程(viii)において、ビス{(アクリロイルオキシメチル)ジメチルシリル}アザン(10g)に代えてビス{(アクリロイルオキシプロピル)ジメチルシリル}アザン(11g)を用いた他は合成例1と同様の操作を行い、表面処理酸化チタン(T−3)を得た。得られた表面処理酸化チタン(T−3)に対して、トリスアセチルアセトナト鉄(III)(関東化学(株)製)のヘキサデューテリオアセトン(Cambridge Isotope Laboratories Inc.製)1M溶液を数滴(ca.0.2mL)加えた後、PTFE製NMRチューブ(φ10mm)に移し、
29Si核磁気共鳴スペクトルの測定を行った。測定条件は、ゲート付デカップリング、45度パルス、パルス間隔6秒のパルスシークエンスを用い、磁場強度11.75Tにおいて7,200回の積算を行った。核磁気共鳴スペクトルからT単位(3官能ポリシロキサン)の割合∫T3/ΣTは60モル%であった。
【0209】
[比較合成例1]
表面処理酸化チタン(RA−1)の合成
合成例1において実施した工程(viii)を実施しなかった以外は合成例1と同様の操作を行った。得られた表面処理酸化チタン(T−4)に対して、トリスアセチルアセトナト鉄(III)(関東化学(株)製)のヘキサデューテリオアセトン(Cambridge Isotope Laboratories Inc.製)1M溶液を数滴(ca.0.2mL)加えた後、PTFE製NMRチューブ(φ10mm)に移し、
29Si核磁気共鳴スペクトルの測定を行った。測定条件は、ゲート付デカップリング、45度パルス、パルス間隔6秒のパルスシークエンスを用い、磁場強度11.75Tにおいて7,200回の積算を行った。得られた核磁気共鳴スペクトルを
図5に示した。
図5からT単位(3官能ポリシロキサン)の割合∫T3/ΣTは3モル%であった。
【0210】
[参考例1]
表面処理酸化チタン(RA−2)
アークプラズマ法によって合成した表面処理酸化チタン微粒子分散液(CIKナノテック(株)製、製品名「RTTDBN−E88」)の
29Si核磁気共鳴スペクトルの測定を行った。測定条件は、ゲート付デカップリング、45度パルス、パルス間隔6秒のパルスシークエンスを用い、磁場強度11.75Tにおいて7,200回の積算を行った。得られた核磁気共鳴スペクトルを
図6に示した。
図6からT単位(3官能ポリシロキサン)の割合∫(T3+T3’)/ΣTは100モル%であった。
【0211】
<アルコキシシリル基及び有機系紫外線吸収性基が側鎖に結合したビニル系共重合体(B)の合成>
[合成例4]
攪拌機、コンデンサー及び温度計を備えた2リットルフラスコに溶剤としてジアセトンアルコール152gを仕込み、窒素気流下にて80℃に加熱した。ここに予め調製しておいた単量体混合溶液(2−[2’−ヒドロキシ−5’−(2−メタクリロキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール(RUVA−93、大塚化学(株)製)67.5g、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを90g、メチルメタクリレート270g、グリシジルメタクリレート22.5g、ジアセトンアルコール350g)を混合したもののうち240g及び予め調製しておいた重合開始剤としての2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)2.3gをジアセトンアルコール177.7gに溶解した溶液のうち54gを順次投入した。80℃で30分反応させた後、残りの単量体混合溶液と残りの重合開始剤溶液を同時に80〜90℃で1.5時間かけて滴下した。更に80〜90℃で5時間攪拌した。
得られたトリメトキシシリル基及び有機系紫外線吸収性基が側鎖に結合したビニル系重合体の粘度は5,050mPa・s、またその共重合体中の紫外線吸収性単量体の含有量は15%、トリメトキシシリル基がSi−C結合を介して側鎖に結合したビニル系単量体量は20%であった。また、標準ポリスチレンを基準とするGPC分析による重量平均分子量は60,800であった。このようにして得られたビニル系共重合体(溶液)をB−1とする。
【0212】
[合成例5,6、比較合成例2,3]
表1に示した組成で、合成例4と同様にして、ビニル系共重合体(溶液)B−2,3及び比較用ビニル系共重合体(溶液)RB−1,2を得た。
【0213】
【表1】
【0214】
(注)
MPTMS :γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
RUVA−1:2−[2’−ヒドロキシ−5’−(2−メタクリロキシエチル)フェニル
]−2H−ベンゾトリアゾール(RUVA−93、大塚化学(株)製)
RUVA−2:2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロキシエチル)ベンゾフェノン(BP
−1A、大阪有機化学工業(株)製)
MMA :メチルメタクリレート
GMA :グリシジルメタクリレート
VIAc :酢酸ビニル
MHALS :1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレート
【0215】
<コロイダルシリカ含有オルガノポリシロキサン組成物の合成>
[合成例7]
攪拌機、コンデンサー及び温度計を備えた1リットルフラスコにメチルトリエトキシシラン336g、イソブタノール94gを仕込み、氷冷下に攪拌しながら5℃以下に維持し、ここに5℃以下とした水分散コロイダルシリカ(スノーテックスO(平均粒子径15〜20nm)、日産化学工業(株)製、SiO
220%含有品)283gを添加して氷冷下で3時間、更に20〜25℃で12時間攪拌したのち、ジアセトンアルコールを27g、プロピレングリコールモノメチルエーテルを50g添加した。次いで硬化触媒として10%プロピオン酸ナトリウム水溶液を3g、レベリング剤としてポリエーテル変性シリコーンKP−341(信越化学工業(株)製)0.2gを加え、更に酢酸にてpHを6〜7に調整した。そして、不揮発分(JIS K6833)が20%となるようにイソブタノールで調整し、常温で5日間熟成して得られたコロイダルシリカ含有オルガノポリシロキサン組成物の粘度は4.2mm
2/s、GPC分析による重量平均分子量は1,100であった。このものをコロイダルシリカ含有オルガノポリシロキサン組成物HC−7とする。
【0216】
<コロイダルチタニア含有オルガノポリシロキサン組成物の合成>
[合成例8]
攪拌機、コンデンサー及び温度計を備えた2リットルフラスコにメチルトリメトキシシラン(251g)、酸化チタン分散液([合成例1]の工程(i)で合成したシリカ被覆酸化チタン水分散液、固形分濃度10%、78g)を室温で混合した。アルコキシシランの加水分解・縮合に伴う自己発熱(フラスコ内部温度が28℃から55℃に変化)が観測された。この混合物にシリカゾル(日産化学工業(株)製、製品名「スノーテックスO」、210g)及び酢酸(和光純薬工業(株)製、1.4g)を添加し、60℃で3時間攪拌した。ここにシクロヘキサノン(279g)を加えて230gを加熱留去した。加熱留去の際にフラスコ内温度は91℃に達した。得られた懸濁物を室温まで冷却し、イソプロピルアルコール(372g)、レベリング剤(信越化学工業(株)製、製品名「KP−341」、0.23g)、酢酸(1.5g)、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(4.1g)を順次添加し、60℃で4時間熟成した。得られたコロイダルチタニア含有オルガノポリシロキサン組成物の粘度は4.3mm
2/s、GPC分析による重量平均分子量は1,200であった。このものをコロイダルチタニア含有オルガノポリシロキサン組成物HC−8とする。
【0217】
[実施例1〜8、比較例1〜5]
以下にコーティング組成物としての実施例を挙げる。なお、実施例及び比較例に用いた略号のうち、合成例で説明していない略号は以下の通りである。
【0218】
<有機溶剤に分散したシリカ微粒子>
D−1 :プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに分散したコロイダ
ルシリカ(PMA−ST、固形分濃度30%、1次粒子径10〜15nm
、日産化学工業(株)製)
【0219】
<熱可塑性樹脂>
POL−1 :ポリメチルメタクリレート樹脂(ダイヤナールBR−80、三菱レイヨン
(株)製)の40%ジアセトンアルコール溶液
【0220】
<有機系紫外線吸収剤>
UVA−1 :2−[2−ヒドロキシ−4−(1−オクチルオキシカルボニルエトキシ)
フェニル]−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリ
アジン(チヌビン479、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)
UVA−2 :2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン(シーソーブ10
6、シプロ化成(株)製)
【0221】
<ヒンダードアミン系光安定剤>
HALS−1:N−アセチル−3−ドデシル−1−(2,2,6,6−テトラメチル−4
−ピペリジニル)ピロリジン−2,5−ジオン(サンドバー3058Li
q.クラリアント・ジャパン(株)製)
【0222】
<脱水剤>
E−1 :オルト蟻酸エチル
【0223】
また、実施例中の各種物性の測定及び評価は以下の方法で行った。
評価は、本発明のコーティング組成物の硬化被膜単独膜について各種評価を行った。
表2〜4に示した組成(固形分換算)で配合した組成物を、全固形分濃度が10%になるように、ジアセトンアルコールとプロピレングリコールモノメチルエーテルの質量比率を20/80とした混合溶剤にて調整してコーティングに用いた。
得られた各コーティング組成物を、表面を清浄化した0.5mmポリカーボネート樹脂板(ユーピロンシート、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)に硬化塗膜として約6〜8μmになるようにディップコーティング法にて塗布し、120℃にて60分硬化させた。このようにして得られた塗膜を試験片とし、各種物性評価の結果を表2〜4に示した。
【0224】
(1)分散安定性:コーティング組成物を室温1週間放置した後、配合した表面処理酸化チタン微粒子の分散の状態を下記の基準で評価した。
○:沈降なく、分散している
×:凝集、沈降している
【0225】
(2)初期塗膜外観:コーティング組成物の硬化被膜単独膜の試験片について塗膜外観を目視にて観察した。
【0226】
(3)塗膜透明性:塗膜のヘイズをヘイズメーター(NDH2000:日本電色工業(株))にて測定した。
【0227】
(4)1次密着性:JIS K5400に準拠し、試験片をカミソリの刃で2mm間隔の縦横6本ずつ切れ目を入れて25個の碁盤目を作り、市販のセロハン粘着テープをよく密着させた後、90度手前方向に急激に剥がした時、被膜が剥離せずに残存したマス目数(X)をX/25で表示した。
【0228】
(5)耐水性及び耐水密着性:試験片を沸騰水中に2時間浸漬した後に、目視にて外観観察、及び前記(4)と同様にして密着性試験を行った。
【0229】
(6)耐擦傷性試験:ASTM D1044に準拠し、テーバー摩耗試験機にて摩耗輪CS−10Fを装着し、荷重500g下で500回転後の曇価を測定した。耐擦傷性(%)は(試験後の曇価)−(試験前の曇価)で示した。
【0230】
(7)耐候性試験:
<条件の設定>
紫外線照度計(岩崎電気(株)製・アイ紫外線照度計UVP365−1)を用いて屋外の紫外線量を測定した。群馬県安中市松井田町において晴天時の春分の日(平成24年3月20日)の正午に紫外線量を測定したところ、1×10
1W/m
2であることが明らかとなった。この紫外線量は従来から報告(International Commission on Illumination 1972年20巻47頁、CIE Publication)されているものと考量しても典型的な値であった。本発明における硬化塗膜の耐候性は、10年間の屋外暴露相当に設定した。年間を通して一日の平均日照時間を12時間であると仮定したところ、積算エネルギー線量は、12(h/日)×365(日/年)×10(年)×10(W/m
2)=438(kWh/m
2)≒1500(MJ/m
2)と見積もることができた。
耐候性の評価
岩崎電気(株)製アイスーパーUVテスターW−151を使用し、試験条件は、1×10
3W/m
2の強度の紫外光、温度60℃、湿度50%RHの環境で、1m
2辺り750及び1500MJの積算紫外線エネルギーを照射した毎に評価を行った。
【0231】
[黄変度]
色度計Z−300A(日本電色工業(株)製)を使用し、塗膜の初期のイエローインデックスをYI
0、耐候性試験後のイエローインデックスをYI
1としたときのイエローインデックスの差(ΔYI=YI
1−YI
0)を、黄変度として評価した。
【0232】
[耐候塗膜クラック]
耐候性試験後の塗膜外観を下記の基準で評価した。
○:異常なし
△:僅かにクラックあり
×:塗膜全体にクラックあり
【0233】
[耐候塗膜剥離]
耐候性試験後の塗膜の状態を下記の基準で評価した。
○:異常なし
△:一部剥離
×:全面剥離
【0234】
【表2】
【0235】
【表3】
【0236】
【表4】
【0237】
[実施例9〜16、比較例6〜10]
以下に本発明のコーティング組成物をプライマーとして用い、該硬化被膜の上にコロイダルシリカ含有オルガノポリシロキサン組成物層を順次硬化・積層させた積層膜についての実施例を挙げる。これら積層膜についても前項に従って各種評価を行った。
【0238】
表5〜7に示した組成(固形分換算)で配合した組成物を、全固形分濃度が10%になるように、ジアセトンアルコールとプロピレングリコールモノメチルエーテルの質量比率を20/80とした混合溶剤にて調整してコーティングに用いた。
【0239】
得られた各コーティング組成物を、表面を清浄化(イソプロピルアルコールで表面を洗った後、乾燥)した0.5mmポリカーボネート樹脂板(ユーピロンシート、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)に硬化塗膜として約6〜8μmになるようにディップコーティング法にて塗布し、120℃にて60分硬化させた。更に該塗膜上に合成例7,8で作製したポリシロキサン組成物(HC−7,8)を、硬化塗膜として約2〜3μmになるようにディップコーティング法にて塗布し、120℃にて60分硬化させた。このようにして得られた塗膜を試験片とし、各種物性評価の結果を表5〜7に示した。
【0240】
【表5】
【0241】
【表6】
【0242】
【表7】