(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記位相差フィルムの波長550nmにおける複屈折Δn(ただし、Δn=nx−nyである)が、0.0020以上0.0050以下である、請求項1又は2記載の有機EL表示装置。
前記樹脂組成物(A)中の、前記シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体およびポリアリーレンエーテル以外の重合体の量が、0重量部である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の有機EL表示装置。
前記樹脂組成物(A)におけるシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体とポリアリーレンエーテルとの割合が、シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体:ポリアリーレンエーテルの重量比で、58:42〜55:45である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の有機EL表示装置。
前記位相差フィルムが、前記樹脂組成物(A)からなる長尺の延伸前フィルムを、その長尺方向に対して40°以上50°以下の範囲に延伸してなるものである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の有機EL表示装置。
前記位相差フィルムが、前記樹脂組成物(A)からなるP1層と、前記P1層に接して設けられた熱可塑性樹脂(B)からなるP2層とを有する長尺の延伸前フィルム積層体を、その長尺方向に対して40°以上50°以下の範囲に延伸してなるものである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の有機EL表示装置。
前記熱可塑性樹脂(B)が、アクリル樹脂、脂環式構造含有重合体を含む樹脂およびポリカーボネート樹脂から選ばれる少なくとも1種である、請求項10に記載の有機EL表示装置。
前記長尺の延伸前フィルム積層体が、前記樹脂組成物(A)および前記熱可塑性樹脂(B)を共押出または共流延して得られたものである、請求項10又は11に記載の有機EL表示装置。
前記熱可塑性樹脂(B)が、アクリル樹脂、脂環式構造含有重合体を含む樹脂およびポリカーボネート樹脂から選ばれる少なくとも1種である、請求項14に記載の有機EL表示装置の製造方法。
前記長尺の延伸前フィルム積層体が、前記樹脂組成物(A)および前記熱可塑性樹脂(B)を共押出または共流延して得られたものである、請求項14又は15に記載の有機EL表示装置の製造方法。
前記延伸を、前記樹脂組成物(A)のガラス転移温度(Tg)に対し、(Tg−15)℃以上(Tg+1)℃以下の温度で行ったものである、請求項14〜16のいずれか一項に記載の有機EL表示装置の製造方法。
シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体およびポリアリーレンエーテルを含む樹脂組成物(A)からなる層と、前記樹脂組成物(A)からなる層と接し、熱可塑性樹脂(B)からなる層とを備え、
前記樹脂組成物(A)におけるシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体とポリアリーレンエーテルとの割合が、シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体:ポリアリーレンエーテルの重量比で、65:35〜55:45であり、
Re450<Re550<Re650の関係を満たし、かつ
波長550nmにおけるNz係数が−0.25〜−0.05である、位相差フィルム。
(ただし、Re450、Re550、およびRe650はそれぞれ、測定波長450nm、550nm、および650nmにおける位相差フィルムの面内方向のレターデーションを表し、
Nz係数は(nx−nz)/(nx−ny)を表し、
nxは位相差フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率を表し、
nyは位相差フィルムの面内の進相軸方向の屈折率を表し、
nzは位相差フィルムの厚み方向の屈折率を表す。)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態及び例示物等を示して本発明について詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。
【0015】
以下の説明において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルの両方を包含する。
【0016】
本発明の有機EL表示装置は、光出射側から順に、基板、透明電極、発光層及び金属電極層を具備してなり、前記基板の光出射側に偏光フィルムと位相差フィルムとを積層してなる円偏光板を備える。
【0017】
(樹脂組成物(A))
前記位相差フィルムは、シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体とポリアリーレンエーテルとを含む樹脂組成物(A)からなる層を備える。ここで、ポリスチレン系重合体がシンジオタクチック構造を有する、とは、ポリスチレン系重合体の立体化学構造がシンジオタクチック構造となっていることをいう。また、シンジオタクチック構造とは、炭素−炭素結合で形成される主鎖に対して、側鎖であるフェニル基が、フィッシャー投影式において、交互に反対方向に位置する立体構造のことをいう。
【0018】
ポリスチレン系重合体のタクティシティー(tacticity:立体規則性)は、同位体炭素による核磁気共鳴法(
13C−NMR法)により定量されうる。
13C−NMR法により測定されるタクティシティーは、連続する複数個の構成単位の存在割合により示すことができる。一般に、例えば、連続する構成単位が2個の場合はダイアッド、3個の場合はトリアッド、5個の場合はペンタッドとなる。この場合、前記シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体とは、ラセミダイアッドで通常75%以上、好ましくは85%以上のシンジオタクティシティーを有するか、若しくは、ラセミペンタッドで通常30%以上、好ましくは50%以上のシンジオタクティシティーを有することをいう。
【0019】
シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体は、スチレンもしくはスチレン誘導体(以下、適宜、スチレン及びスチレン誘導体を「スチレン類」と総称することがある。)の、単独重合体または他の任意のモノマーとの共重合体を含む。これらは、一種単独でまたは二種以上を組み合わせて使用してもよい。スチレン誘導体とは、スチレンのベンゼン環またはα位に置換基が置換したものが挙げられる。スチレン類の例を挙げると、スチレン;メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン等のアルキルスチレン;クロロスチレン等のハロゲン化スチレン;クロロメチルスチレン等のハロゲン置換アルキルスチレン;メトキシスチレン等のアルコキシスチレン;などが挙げられる。なお、スチレンまたはスチレン誘導体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0020】
シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体に用いられる前記任意のモノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、無水マレイン酸、メチルメタクリレート、およびブタジエンが好ましいものとして挙げられる。本発明においては、これらの中でも、位相差発現性が高いこと、および、ポリアリーレンエーテルとの相溶性という観点から、スチレンまたはスチレン誘導体の単独重合体が好ましく、特にスチレンの単独重合体であるシンジオタクチックポリスチレンが好ましい。なお、任意のモノマーを共重合する場合であっても、ポリアリーレンエーテル樹脂との相溶性の観点から、任意のモノマーの重合比が5重量%より小さいことが望ましい。
【0021】
シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体の重量平均分子量は、通常130,000以上、好ましくは140,000以上、より好ましくは150,000以上であり、通常300,000以下、好ましくは270,000以下、より好ましくは250,000以下である。このような重量平均分子量とすると、ポリスチレン系重合体のガラス転移温度を高めて、位相差フィルムの耐熱性を安定して改善することができる。
【0022】
シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体のガラス転移温度は、通常85℃以上、好ましくは90℃以上、より好ましくは95℃以上である。このようにポリスチレン系重合体のガラス転移温度を高めることにより、樹脂組成物(A)のガラス転移温度を効果的に高め、ひいては位相差フィルムの耐熱性を安定して改善することができる。また、位相差フィルムの製造を安定して容易に行う観点から、シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体のガラス転移温度は、通常160℃以下、好ましくは155℃以下、より好ましくは150℃以下である。
【0023】
シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体は、例えば、不活性炭化水素溶媒中又は溶媒の不存在下において、チタン化合物及び水とトリアルキルアルミニウムの縮合生成物を触媒として、スチレン類を重合することにより製造してもよい(特開昭62―187708号公報参照)。また、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)については、例えば、特開平1−46912号公報に記載の方法により製造してもよい。
【0024】
ポリアリーレンエーテルは、アリーレンエーテル骨格を有する繰り返し単位を主鎖に有する重合体である。中でも、ポリアリーレンエーテルとしては、下記式(I)で表されるフェニレンエーテル単位を含む重合体が好ましい。
【0026】
式(I)中、Q
1は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、低級アルキル基(例えば炭素数7個以下のアルキル基)、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基、または、ハロ炭化水素オキシ基(ただし、そのハロゲン原子と酸素原子とを少なくとも2つの炭素原子が分離している基)を表す。中でも、Q
1としてはアルキル基及びフェニル基が好ましく、特に炭素数1以上4以下のアルキル基がより好ましい。
【0027】
式(I)中、Q
2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基(例えば炭素数7個以下のアルキル基)、フェニル基、ハロアルキル基、炭化水素オキシ基、または、ハロ炭化水素オキシ基(ただし、そのハロゲン原子と酸素原子とを少なくとも2つの炭素原子が分離している基)を表す。中でも、Q
2としては水素原子が好ましい。
【0028】
ポリアリーレンエーテルは、1種類の構造単位を有する単独重合体(ホモポリマー)であってもよく、2種類以上の構造単位を有する共重合体(コポリマー)であってもよい。
式(I)で表される構造単位を含む重合体が単独重合体である場合、当該単独重合体の好ましい例を挙げると、2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル単位(「−(C
6H
2(CH
3)
2−O)−」で表される繰り返し単位)を有する単独重合体が挙げられる。
【0029】
式(I)で表される構造単位を含む重合体が共重合体である場合、当該共重合体の好ましい例を挙げると、2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル単位と2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレンエーテル単位(即ち、「−(C
6H(CH
3)
3−O−)−」で表される繰り返し単位)と組み合わせて有するランダム共重合体が挙げられる。
また、ポリアリーレンエーテルは、アリーレンエーテル単位以外の繰り返し単位を含んでいてもよい。この場合、ポリアリーレンエーテルは、アリーレンエーテル単位とそれ以外の構造単位とを有する共重合体となる。ただし、ポリアリーレンエーテル中のアリーレンエーテル単位以外の構造単位の比率は、本発明の効果を著しく損なわない程度に少なくすることが好ましく、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下であり、特に好ましくは0重量%である。
【0030】
ポリアリーレンエーテルは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いるようにしてもよい。
【0031】
樹脂組成物(A)におけるシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体とポリアリーレンエーテルとの割合は、シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体:ポリアリーレンエーテルの重量比で、65:35〜55:45であり、好ましくは63.5:36.5〜56.5:43.5であり、より好ましくは62:38〜58:42である。樹脂の組成がこの範囲にあることで、延伸により位相差フィルムを成形する際に、後述するRe
450/Re
550およびRe
650/Re
550が所望の範囲にある位相差フィルムを容易に得ることができる。
【0032】
本発明の効果を著しく損なわない限り、樹脂組成物(A)は、前記のシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体およびポリアリーレンエーテル以外の成分を含んでいてもよい。
例えば、樹脂組成物(A)は、シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体およびポリアリーレンエーテル以外にも重合体を含んでいてもよい。シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体およびポリアリーレンエーテル以外の重合体の量は、シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体およびポリアリーレンエーテルの合計量を100重量部として、15重量部以下が好ましく、10重量部以下がより好ましく、5重量部以下が更に好ましく、0重量部が特に好ましい。
【0033】
また、例えば、樹脂組成物(A)は、配合剤を含んでいてもよい。配合剤の例を挙げると、層状結晶化合物;微粒子;酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤等の安定剤;可塑剤:染料及び顔料等の着色剤;帯電防止剤;などが挙げられる。なお、配合剤は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。配合剤の量は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で適宜定めてもよく、例えば位相差フィルムの全光線透過率を85%以上に維持できる範囲である。
【0034】
樹脂組成物(A)のガラス転移温度は、通常115℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは125℃以上である。樹脂組成物(A)のガラス転移温度が高いほど、位相差フィルムの耐熱性が優れる。ただし、ガラス転移温度を過度に高くすると位相差フィルムの製造が容易でなくなる可能性があるので、樹脂組成物(A)のガラス転移温度は通常200℃以下である。
【0035】
(位相差フィルム)
本発明に用いる位相差フィルムは、Re
450<Re
550<Re
650の関係を満たす。ここで、Re
450、Re
550、およびRe
650はそれぞれ、測定波長450nm、550nm、および650nmにおける位相差フィルムの面内方向のレターデーションを表す。これは通常、位相差フィルムが逆波長分散性を有することを意味する。このように逆波長分散性を有することにより、この位相差フィルムを有機EL表示装置に適用した場合に、観察角度による色調の変化を小さくしたり、広い波長においてレターデーションの補正等の効果を均質に得られるようにしたりできる。
【0036】
また、これに関し、Re
450/Re
550が0.95以下であることが好ましく、0.90以下であることがより好ましく、0.88以下であることがさらに好ましく、また、0.80以上であることが好ましい。また、Re
650/Re
550が1.05以上であることが好ましく、1.10以上であることがより好ましく、また、1.20以下であることが好ましい。Re
450、Re
550及びRe
650がこれらの関係を満たすことにより、広い波長におけるレターデーションの補正等の効果をより均質に得ることができる。
【0037】
さらに、本発明に係る位相差フィルムは、測定波長550nmにおける面内方向のレターデーションRe
550が、110nm以上150nm以下であることが好ましい。これにより、位相差フィルムを1/4波長板として機能させることができ、偏光フィルムと積層することで円偏光板とすることができる。
【0038】
なお、各測定波長における面内方向のレターデーション(Re
450、Re
550及びRe
650)は、|nx−ny|×d(式中、nxは位相差フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率を表し、nyは位相差フィルムの面内の進相軸方向の屈折率を表し、dは膜厚を表す。)で表される値である。
【0039】
本発明に用いる位相差フィルムは、波長550nmにおける複屈折Δnが、0.0020以上であることが好ましく、0.0030以上であることがより好ましい。また、Δnは0.0050以下であることが好ましく、0.0045以下であることがより好ましい。ここで、Δn=nx−nyであり、nxおよびnyは前記と同様である。Δnがこの範囲であると、位相差フィルムの厚さを薄くでき、また光学特性の経時変化を抑制することができる。
【0040】
本発明に用いる位相差フィルムは、波長550nmにおけるNz係数が−0.25〜−0.05、好ましくは−0.18〜−0.10である。ここでNz係数は(nx−nz)/(nx−ny)で表される値である(式中、nxおよびnyは前記と同様であり、nzは位相差フィルムの厚み方向の屈折率を表す)。Nz係数がこの範囲である位相差フィルムは、斜め延伸により容易に製造でき、かつ本発明の有機EL表示装置を視野角特性に優れるものとできる。
【0041】
位相差フィルムは、光学フィルムとして用いる観点から、その全光線透過率が85%以上であることが好ましく、92%以上であることがより好ましい。ここで、前記全光線透過率は、JIS K7361−1997に準拠して、日本電色工業社製「濁度計 NDH−300A」を用いて、5箇所測定し、それから求めた平均値である。
【0042】
位相差フィルムのヘイズは、好ましくは1%以下、より好ましくは0.8%以下、特に好ましくは0.5%以下である。ヘイズを低い値とすることにより、位相差フィルムを組み込んだ表示装置の表示画像の鮮明性を高めることができる。ここで、ヘイズは、JIS K7361−1997に準拠して、日本電色工業社製「濁度計 NDH−300A」を用いて、5箇所測定し、それから求めた平均値である。
【0043】
本発明に用いる位相差フィルムは、ΔYIが5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。このΔYIが上記範囲にあると、着色がなく視認性を良好にできる。ここで、ΔYIはASTM E313に準拠して、日本電飾工業社製「分光色差計 SE2000」を用いて同様の測定を5回行い、その算術平均値として求める。
【0044】
位相差フィルムの厚みは、通常5μm以上、好ましくは8μm以上、より好ましくは10μm以上、特に好ましくは20μm以上であり、通常500μm以下、好ましくは80μm以下、より好ましくは50μm以下である。
【0045】
(その他の層)
本発明に用いる位相差フィルムは、樹脂組成物(A)からなる層のみを有するフィルムであってもよい。また、本発明に用いる位相差フィルムは、その光学的機能を阻害しない範囲で、任意に樹脂組成物(A)からなる層の他の層を有していてもよい。このように、樹脂組成物(A)からなる層と樹脂組成物(A)からなる層の他の層とを有する積層体としての位相差フィルムを、以下、「複層位相差フィルム」という場合がある。例えば、複層位相差フィルムは、位相差フィルムの強度を高めるための透明樹脂層を有することができる。かかる透明樹脂層を構成する材料としては、位相差フィルムの強度を補える任意の熱可塑性樹脂(B)を用いることができる。熱可塑性樹脂(B)としては、アクリル樹脂、脂環式構造含有重合体を含む樹脂およびポリカーボネート樹脂から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、アクリル樹脂または脂環式構造含有重合体を含む樹脂が特に好ましい。また、熱可塑性樹脂(B)は、後述する延伸の条件において、光学異方性が発現しない樹脂であることが、樹脂組成物(A)からなる未延伸のフィルムとの共延伸を容易に行える観点から好ましい。
【0046】
熱可塑性樹脂(B)を構成するアクリル樹脂は、アクリル重合体を含む樹脂である。アクリル重合体とは、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸誘導体の重合体を意味する。アクリル重合体としては、例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリル酸およびメタクリル酸エステルなどの単独重合体及び共重合体が挙げられる。アクリル樹脂は強度が高く硬いため、アクリル樹脂層によって樹脂組成物(A)からなる層を適切に保護できるので、複層位相差フィルムの強度を高めることができる。
【0047】
アクリル重合体としては、(メタ)アクリル酸エステルを重合して形成される構造単位を含む重合体が好ましい。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸のアルキルエステルが挙げられる。なかでも、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜15のアルカノール又はシクロアルカノールから誘導される構造のものが好ましく、炭素数1〜8のアルカノールから誘導される構造のものがより好ましい。
【0048】
アクリル酸エステルの具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−デシル、アクリル酸n−ドデシルなどが挙げられる。
【0049】
また、メタクリル酸エステルの具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−デシル、メタクリル酸n−ドデシルなどが挙げられる。
【0050】
さらに、前記の(メタ)アクリル酸エステルは、本発明の効果を著しく損なわない範囲であれば、例えば水酸基、ハロゲン原子などの置換基を有していてもよい。そのような置換基を有する(メタ)アクリル酸エステルの例としては、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸グリシジルなどが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0051】
また、アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸誘導体のみの重合体であってもよく、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸誘導体とこれに共重合可能な単量体との共重合体でもよい。共重合可能な単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル以外のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体、並びに、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体、アルケニル芳香族単量体、共役ジエン単量体、非共役ジエン単量体、カルボン酸不飽和アルコールエステル、およびオレフィン単量体などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0052】
また、アクリル重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
これらのアクリル重合体のうち、ポリメタクリレートが好ましく、中でもポリメチルメタクリレートがより好ましい。
【0053】
アクリル樹脂は、ゴム粒子を含んでいてもよい。ゴム粒子を含むことにより、アクリル樹脂の可撓性を高め、複層位相差フィルムの耐衝撃性を向上させることができる。また、ゴム粒子によってアクリル樹脂層の表面に凹凸が形成され、当該層の表面における接触面積が減少するので、通常は、アクリル樹脂層の表面の滑り性を高めることができる。
【0054】
ゴム粒子を形成するゴムとしては、例えば、アクリル酸エステル重合体ゴム、ブタジエンを主成分とする重合体ゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体ゴム等が挙げられる。アクリル酸エステル重合体ゴムとしては、例えば、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等を単量体単位の主成分とするものが挙げられる。これらの中でも、ブチルアクリレートを主成分としたアクリル酸エステル重合体ゴム及びブタジエンを主成分とする重合体ゴムが好ましい。
【0055】
また、ゴム粒子には、2種類以上のゴムが含まれていてもよい。また、それらのゴムは、均一に混ぜ合わせられていてもよいが、層状になったものであってもよい。ゴムが層状になったゴム粒子の例としては、ブチルアクリレート等のアルキルアクリレートとスチレンとをグラフト化したゴム弾性成分からなるコアと、ポリメチルメタクリレート及びメチルメタクリレートの一方又は両方とアルキルアクリレートとの共重合体からなる硬質樹脂層(シェル)とが、コア−シェル構造で層を形成している粒子が挙げられる。
【0056】
ゴム粒子は、数平均粒子径が、0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、また、0.3μm以下であることが好ましく、0.25μm以下であることがより好ましい。数平均粒子径を前記範囲内とすることにより、アクリル樹脂層の表面に適度な凹凸を形成して、複層位相差フィルムの滑り性を向上させることができる。
【0057】
ゴム粒子の量は、アクリル重合体100重量部に対して、好ましくは5重量部以上であり、好ましくは50重量部以下である。ゴム粒子の量を前記範囲内とすることにより複層位相差フィルムの耐衝撃性を高めてハンドリング性を向上させることができる。
【0058】
また、アクリル樹脂は、本発明の効果を著しく損なわない限り、アクリル重合体及びゴム粒子以外の成分を含んでいてもよい。例えば、アクリル重合体以外に他の重合体を含んでいてもよい。ただし、本発明の利点を顕著に発揮させる観点からは、アクリル樹脂においてアクリル重合体及びゴム粒子以外の重合体の量は少ないことが好ましい。アクリル重合体及びゴム粒子以外の重合体の具体的な量は、例えばアクリル重合体100重量部に対して、10重量部以下が好ましく、5重量部以下がより好ましく、3重量部以下が更に好ましい。中でも、全く含まないことが特に好ましい。
【0059】
また、本発明の利点を顕著に発揮させる観点からは、アクリル樹脂においてアクリル重合体以外の重合体の量は少ないことが好ましい。アクリル重合体以外の重合体の具体的な量は、例えばアクリル重合体100重量部に対して、10重量部以下が好ましく、5重量部以下がより好ましく、3重量部以下が更に好ましい。中でも、全く含まないことが特に好ましい。
【0060】
アクリル樹脂のガラス転移温度は、通常80℃以上、好ましくは90℃以上であり、通常120℃以下、好ましくは110℃以下である。アクリル樹脂のガラス転移温度を前記範囲の下限値以上にすることにより樹脂ペレットを高温で乾燥する時のブロッキングを抑制できるので、水分の混入を防止できる。また、上限値以下にすることにより延伸時におけるアクリル重合体の配向を低減できるので、樹脂組成物(A)からなる層が発揮する光学的機能を阻害することを抑制できる。
また、アクリル樹脂のガラス転移温度は、樹脂組成物(A)のガラス転移温度をTg
Aとすると、Tg
A−10℃以下であることが好ましく、Tg
A−20℃以下であることがより好ましい。アクリル樹脂のガラス転移温度を前記範囲の上限値以下にすることにより、後述する延伸の温度条件においてP1層の破断を防ぐことができ、Δn、Re
550およびRe
450/Re
550が所望の範囲にある位相差フィルムを容易に得ることができる。
【0061】
熱可塑性樹脂(B)を構成する脂環式構造含有重合体は、重合体の繰り返し単位中に脂環式構造を有する重合体であり、主鎖に脂環式構造を有する重合体、及び、側鎖に脂環式構造を有する重合体のいずれを用いてもよい。脂環式構造含有重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。中でも、機械的強度、耐熱性などの観点から、主鎖に脂環式構造を含有する重合体が好ましい。
【0062】
脂環式構造としては、例えば、飽和脂環式炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和脂環式炭化水素(シクロアルケン、シクロアルキン)構造などが挙げられる。中でも、機械強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造が特に好ましい。
【0063】
脂環式構造を構成する炭素原子数は、一つの脂環式構造あたり、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下の範囲であるときに、機械強度、耐熱性、及びフィルムの成形性が高度にバランスされ、好適である。
【0064】
脂環式構造含有重合体中の、脂環式構造を有する繰り返し単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択してもよく、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式構造含有重合体中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合がこの範囲にあると、耐熱性の観点から好ましい。
【0065】
脂環式構造含有重合体の例としては、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素系重合体、及び、これらの水素化物を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系重合体は、成形性が良好なため、好適である。
【0066】
ノルボルネン系重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体、若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の任意の単量体との開環共重合体、又はそれらの水素化物;ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体、若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の任意の単量体との付加共重合体、又はそれらの水素化物を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適である。ここで「(共)重合体」とは、重合体及び共重合体のことをいう。
【0067】
ノルボルネン構造を有する単量体としては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.0.1
2,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.1
2,5]デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、およびこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。ここで、置換基としては、例えばアルキル基、アルキレン基、極性基などを挙げることができる。また、これらの置換基は、同一または相異なって、複数個が環に結合していてもよい。また、ノルボルネン構造を有する単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0068】
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な任意の単量体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどのモノ環状オレフィン類およびその誘導体;シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエンなどの環状共役ジエンおよびその誘導体;などが挙げられる。
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な任意の単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0069】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体、およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な任意の単量体との開環共重合体は、例えば、単量体を公知の開環重合触媒の存在下に重合又は共重合することにより製造してもよい。
【0070】
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどの炭素数2〜20のα−オレフィンおよびこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどのシクロオレフィンおよびこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエンなどの非共役ジエン;などが挙げられる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。また、ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な任意の単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0071】
ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体、およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な任意の単量体との付加共重合体は、例えば、単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合又は共重合することにより製造してもよい。
【0072】
単環の環状オレフィン系重合体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の単環を有する環状オレフィン系モノマーの付加重合体を挙げることができる。
【0073】
環状共役ジエン系重合体としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジエン系モノマーの付加重合体を環化反応して得られる重合体;シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン等の環状共役ジエン系モノマーの1,2−または1,4−付加重合体;およびこれらの水素化物;などを挙げることができる。
【0074】
ビニル脂環式炭化水素重合体としては、例えば、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキサン等のビニル脂環式炭化水素系モノマーの重合体およびその水素化物;スチレン、α−メチルスチレン等のビニル芳香族炭化水素系モノマーを重合してなる重合体に含まれる芳香環部分を水素化してなる水素化物;ビニル脂環式炭化水素系モノマー、またはビニル芳香族炭化水素系モノマーとこれらビニル芳香族炭化水素系モノマーに対して共重合可能な他のモノマーとのランダム共重合体若しくはブロック共重合体等の共重合体の、芳香環の水素化物;等を挙げることができる。前記のブロック共重合体としては、例えば、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体またはそれ以上のマルチブロック共重合体、並びに傾斜ブロック共重合体等を挙げることもできる。
【0075】
脂環式構造含有重合体のガラス転移温度は、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上であり、好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃以下、さらに好ましくは110℃以下である。ガラス転移温度が低すぎると高温下における耐久性が悪化する可能性があり、高すぎるものは、耐久性は向上するが通常の延伸加工が困難となる可能性がある。
また、脂環式構造含有重合体のガラス転移温度は、樹脂組成物(A)のガラス転移温度をTg
Aとすると、Tg
A−10℃以下であることが好ましく、Tg
A−20℃以下であることがより好ましい。脂環式構造含有重合体のガラス転移温度を前記範囲の上限値以下にすることにより、後述する延伸の温度条件においてP1層の破断を防ぐことができ、Δn、Re
550およびRe
450/Re
550が所望の範囲にある位相差フィルムを容易に得ることができる。
【0076】
熱可塑性樹脂(B)を構成するポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート重合体を含有する樹脂である。ポリカーボネート重合体としては、カーボネート結合(−O−C(=O)−O−)による繰り返し単位を有する重合体であれば任意のものを使用しうる。
【0077】
中でも、ポリカーボネート重合体としては、ビスフェノールZを由来とする下記化学式(II)に示す繰り返し単位Aを含むポリカーボネート重合体が好ましい。このようなポリカーボネート重合体を含有する樹脂としては、具体的には、例えば、SABIC社製のレキサン等を用いることができる。
【0079】
化学式(II)において、R
1〜R
8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、各置換もしくは無置換の炭素数1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、またはアリール基である。R
9は、水素原子、または炭素原子数1〜9のアルキル基もしくはアリール基である。Zは、それが結合している炭素原子と一緒になって、炭素数4〜11の飽和もしくは不飽和の炭素環を形成する残基である。前記の炭素環は、炭素数が6の飽和炭素環であることが好ましい。また、R
1(もしくはR
3)は、炭素数1〜10のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。また、R
6(もしくはR
8)は、炭素数1〜10のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。下記化学式(II)に示す繰り返し単位Aは、化学式(III)に示す繰り返し単位であることが好ましい。
【0081】
前記ポリカーボネート重合体としては、前記繰り返し単位Aに加えて、ビスフェノールAを由来とする下記化学式(IV)に示す繰り返し単位Bもさらに含むことが好ましく、特に、この繰り返し単位Bが化学式(V)に示す繰り返し単位であることが好ましい。繰り返し単位Aと繰り返し単位Bの組み合わせにおいて、化学式(II)に示す繰り返し単位Aの1モルに対して、化学式(IV)に示す繰り返し単位Bの量が0.6モル以上1.5モル以下であることが好ましい。ポリカーボネート重合体の組成を上記好適な範囲とすることにより、延伸時に光学異方性の発現の小さい樹脂とすることができる。
【0083】
化学式(IV)において、R
10〜R
17はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、各置換もしくは無置換の炭素数1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、またはアリール基である。
【0085】
ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度Tgは、通常80℃以上、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上、特に好ましくは120℃以上であり、好ましくは160℃以下、より好ましくは150℃以下である。ガラス転移温度が低すぎると高温下における耐久性が悪化する可能性があり、高すぎるものは、耐久性は向上するが通常の延伸加工が困難となる可能性がある。
【0086】
熱可塑性樹脂(B)は、例えば配合剤などを含んでいてもよい。配合剤の例としては、前記樹脂組成物(A)が含んでいてもよい配合剤と同様の例が挙げられる。なお、配合剤は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、配合剤の量は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で適宜定めることができる。
【0087】
(位相差フィルムの製造方法)
本発明に用いる位相差フィルムは、上記の樹脂組成物(A)からなる層を備える。通常は、樹脂組成物(A)を成形して長尺の延伸前フィルムを製造し、得られた延伸前フィルムに延伸処理を施すことにより、位相差フィルムを得る。ここで、フィルムが「長尺」とは、その幅に対して、少なくとも5倍以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するものをいう。このような長尺のフィルムは製造ラインにおいて、長さ方向に連続的に製造工程を行なうことにより得られる。このため、位相差フィルムを製造する場合に、各工程の一部または全部をインラインで簡便且つ効率的に行なうことが可能である。
【0088】
延伸前フィルムの製造方法は、例えば流延法などを用いてもよいが、製造効率の観点、および、フィルム中に溶剤などの揮発性成分を残留させないという観点で、溶融押出成形が好ましい。溶融押出成形は、例えばTダイ法などにより行なうことができる。
【0089】
延伸前フィルムの厚みは、好ましくは10μm以上、より好ましくは120μm以上であり、好ましくは800μm以下、より好ましくは200μm以下である。前記範囲の下限値以上とすることにより、十分なレターデーション及び機械的強度を得ることができ、上限値以下とすることにより、可撓性及びハンドリング性を良好なものとすることができる。
【0090】
得られた延伸前フィルムを延伸すると、フィルムにレターデーションが発現し、位相差フィルムが得られる。この際、発現したレターデーションは逆波長分散性を有することになる。逆波長分散性を発現する仕組みは、次の通りと推察される。
【0091】
波長400nm〜700nmの可視領域において、通常、正の固有複屈折値を有するポリアリーレンエーテルの波長分散性が、負の固有複屈折値を有するシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体の波長分散性よりも大きくなっている。さらに、本発明の樹脂組成物(A)では、低波長側ではポリアリーレンエーテルの配向による影響よりもシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体の配向による影響がやや大きく、かつ、長波長側に向かうにつれてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体の配向による影響がより大きく現れるように、その配合等が調整されている。
【0092】
ここで、延伸前フィルムを延伸することにより発現するレターデーションは、通常、本発明の樹脂組成物(A)が含むポリアリーレンエーテルが配向することにより発現するレターデーションと、シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体が配向することにより発現するレターデーションとの差になる。そうすると、前記のように長波長側に向かうにつれて、シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体の影響が大きくなるように調整してあれば、逆波長分散性の位相差フィルムを得ることができる。
【0093】
延伸の操作としては、例えば、ロール間の周速の差を利用して長尺方向に一軸延伸する方法(縦一軸延伸);テンターを用いて幅方向に一軸延伸する方法(横一軸延伸);縦一軸延伸と横一軸延伸とを順に行う方法(逐次二軸延伸);延伸前フィルムの長尺方向に対して斜め方向に延伸する方法(斜め延伸);等を採用できる。なかでも、斜め延伸を採用すると通常は斜め方向に遅相軸を有する長尺の位相差フィルムが得られるので、長尺の位相差フィルムから矩形の製品を切り出す際の無駄が少なく、大面積の位相差フィルムを効率よく製造できるから、好ましい。ここで「斜め方向」とは、平行でもなく、直交でもない方向を意味する。
【0094】
斜め延伸の具体的な方法の例としては、テンター延伸機を用いた延伸方法を挙げることができる。かかるテンター延伸機としては、例えば、延伸前フィルムの左右(すなわち水平に搬送される延伸前フィルムをMD方向から観察した際のフィルム幅方向両端の左右)において、異なる速度の送り力、引張り力又は引取り力を付加できるようにしたテンター延伸機が挙げられる。また、例えば、TD方向又はMD方向に左右等速度の送り力、引張り力又は引取り力を付加し左右移動する距離が同じで軌道を非直線とすることにより斜め方向の延伸を達成しうるテンター延伸機も挙げられる。さらに、例えば、移動する距離を左右で異なる距離とすることにより斜め方向の延伸を達成しうるテンター延伸機も挙げられる。
【0095】
延伸を斜め方向に行う場合、延伸前フィルムの長尺方向に対して延伸方向がなす角度が、40°以上50°以下となる方向に延伸することが好ましい。これにより、長尺方向に対して40°以上50°以下の範囲に配向角を有する位相差フィルムが得られる。ここで「配向角」とは、長尺の位相差フィルムのMD方向と、当該位相差フィルムの面内の遅相軸とがなす角である。
【0096】
位相差フィルムを矩形の形状のフィルム片として用いる場合、当該矩形の辺方向に対して40°以上50°以下の範囲に遅相軸を有することが好ましい。このような場合に、配向角が長尺方向に対して40°以上50°以下の範囲にあれば、長尺の位相差フィルムから矩形の製品を切り出すときに、長尺方向に対して平行又は直交する向きに辺を有する矩形のフィルム片を切り出すことができるので、製造効率が良く、また大面積化も容易である。
【0097】
延伸する際のフィルム温度は、樹脂組成物(A)のガラス転移温度をTg
Aとして、Tg
A−20℃以上であることが好ましく、Tg
A−15℃以上であることがより好ましく、Tg
A−13℃以上であることがさらに好ましい。また、Tg
A+20℃以下であることが好ましく、Tg
A+2℃以下であることがより好ましく、Tg
A+1℃以下であることが更に好ましく、Tg
A−2℃以下であることが中でも好ましく、Tg
A−11℃以下であることが特に好ましい。
【0098】
延伸倍率は、1.2倍〜6倍が好ましく、2.5倍〜5.0倍がより好ましい。延伸倍率がこの範囲であると、厚さが薄く、Re
450<Re
550<Re
650の関係を満たし、かつRe
550が所望の範囲にある位相差フィルムを容易に得ることができる。なお、延伸の回数は、1回でもよく、2回以上であってもよい。
【0099】
さらに、位相差フィルムを製造する際には、上述した以外の工程を行ってもよい。例えば、延伸される前に延伸前フィルムに対して予熱処理を施してもよい。
【0100】
上記の位相差フィルムの製造方法において、前記長尺の延伸前フィルムは、前記樹脂組成物(A)からなるP1層と、前記熱可塑性樹脂(B)からなるP2層とを有する長尺の延伸前フィルム積層体であってもよい。延伸前フィルム積層体はP2層を1層のみ備えていてもよいが、2層以上備えることが好ましい。特に好ましい例を挙げると、第一のP2層と、P1層と、第二のP2層とをこの順に備える延伸前フィルム積層体が挙げられる。このような延伸前フィルム積層体は、強度が高いP2層によってP1層を両側から挟みこむようにして保護できるので、P1層からのブリードアウトを効果的に防止できる。ここでP1層からのブリードアウトとは、P1層に含まれる一部の成分(例えば配合剤)がP1層の表面に染み出す現象をいう。
【0101】
かかる延伸前フィルム積層体の製造方法としては、例えば、共押出Tダイ法、共押出インフレーション法、共押出ラミネーション法等の共押出成形法;ドライラミネーション等のフィルムラミネーション成形法;共流延法;及び樹脂フィルム表面に樹脂溶液をコーティングする等のコーティング成形法;などの方法が挙げられる。中でも、共押出成形法は、製造効率や、延伸前フィルム積層体に溶剤などの揮発性成分を残留させないという観点から、好ましい。
【0102】
共押出成形法を採用する場合、延伸前フィルム積層体は、例えば、樹脂組成物(A)と熱可塑性樹脂(B)とを共押し出しすることにより得られる。共押出成形法には、例えば、共押出Tダイ法、共押出インフレーション法、共押出ラミネーション法等が挙げられるが、なかでも共押出Tダイ法が好ましい。また、共押出Tダイ法にはフィードブロック方式およびマルチマニホールド方式があるが、厚さのばらつきを少なくできる点でマルチマニホールド方式が特に好ましい。
【0103】
共押出Tダイ法を採用する場合、Tダイを有する押出機における樹脂の溶融温度は、樹脂組成物(A)及び熱可塑性樹脂(B)のガラス転移温度よりも、80℃高い温度以上にすることが好ましく、100℃高い温度以上にすることがより好ましく、また、180℃高い温度以下にすることが好ましく、150℃高い温度以下にすることがより好ましい。押出機での溶融温度を前記範囲の下限値以上にすることにより樹脂の流動性を十分に高くでき、上限値以下とすることにより樹脂の劣化を防止できる。
【0104】
延伸前フィルム積層体を延伸することで、樹脂組成物(A)からなる、前記P1層が延伸されてなる層(以下、「p1層」ともいう。)と熱可塑性樹脂(B)からなる、前記P2層が延伸されてなる層(以下、「p2層」ともいう。)とを有する位相差フィルム積層体が得られる。延伸の方法は、上記と同様の方法をいずれも採用できる。
【0105】
位相差フィルム積層体は、全体としてRe
450<Re
550<Re
650の関係を満たし、かつ波長550nmにおけるNz係数が−0.25〜−0.05である場合には、そのまま位相差フィルムとして本発明の有機EL表示装置に用いることができる。この場合において、p1層において発現する位相差を有効に活用して所望の光学特性を得る観点から、延伸によってp2層で発現する位相差の絶対値は小さいことが好ましく、p2層では位相差を発現しないことがより好ましい。具体的には、p2層の面内方向のレターデーションは1nm超10nm未満であることが好ましい。
【0106】
この場合において、熱可塑性樹脂(B)のガラス転移温度をTg
Bとすると、延伸前フィルムの延伸温度は、Tg
Bより10℃以上高いことが好ましく、Tg
Bよりも20℃〜60℃高いことがより好ましい。また、この際の延伸倍率は、1.1倍〜6倍にすることが好ましい。このような条件で延伸を行うことにより、延伸時のP1層の破断を防止できるとともに、p2層の面内方向のレターデーションを上記範囲に調整することができる。
【0107】
また、位相差フィルム積層体からp2層を剥離して位相差フィルムを得てもよい。この場合はp2層が発現する位相差を考慮する必要がないため、p1層が所望の光学特性を発現できるように、延伸前フィルム積層体のP2層の厚さおよび延伸条件を設定しうる。p2層を剥離する場合には、剥離の容易さの観点から、熱可塑性樹脂(B)としてアクリル樹脂または脂環式構造含有重合体を用いることが好ましい。また、延引前フィルム積層体における具体的なP2層の厚さの範囲は、P1層の厚さに対し好ましくは0.3倍以上、より好ましくは0.5倍以上、さらに好ましくは1.0倍以上、特に好ましくは2.0倍以上であり、好ましくは5.0倍以下、より好ましくは3.0倍以下である。延伸前フィルム積層体が複数のP2層を有している場合は、それぞれの層が単層で前記範囲内の厚さを有することが好ましい。
【0108】
特に、第一のP2層と、P1層と、第二のP2層とをこの順に備える延伸前フィルム積層体を延伸して第一のp2層と、p1層と、第二のp2層とをこの順に備える位相差フィルム積層体を得て、この位相差フィルム積層体から第一および第二のp2層を剥離して位相差フィルムを得ることが好ましい。この方法によれば、強度が高いP2層によってP1層を両側から挟みこむようにして保護できるので、P1層の破断を防止でき、高い延伸倍率で延伸を行うことが可能となる。高い延伸倍率で延伸することで樹脂組成物(A)の配向による位相差の発現が大きくなるので、p1層を薄くすることが可能となる。またp2層を剥離するので、得られる位相差フィルムの厚さを薄くすることができ、本発明の有機EL表示装置の薄型化を達成することが可能となる。
【0109】
(ハードコート層)
上記の位相差フィルムは、その少なくとも一方の面に、ハードコート層を有することが好ましい。位相差フィルムはハードコート層を一方の面のみに有していてもよく、両方の面に有していてもよいが、少なくとも偏光フィルムと積層する側の面とは反対側の面にハードコート層を有していることが好ましい。位相差フィルムがハードコート層を有していることにより、円偏光板の反射防止効果や強度をより高めることができる。
【0110】
ハードコート層は、保護フィルムの硬度を補強するための層であり、JIS K5600−5−4で示す鉛筆硬度試験(試験板はガラス板を用いる)で「H」以上の硬度を示すことが好ましい。このようなハードコート層が設けられた位相差フィルムは、その鉛筆硬度が4H以上になることが好ましい。ハードコート層を形成する材料(ハードコート材料)としては、熱や光硬化性の材料であることが好ましく、有機シリコーン系、メラミン系、エポキシ系、アクリル系、ウレタンアクリレート系などの有機ハードコート材料;二酸化ケイ素などの無機系ハードコート材料;などを挙げることができる。これらの中でも、ハードコート材料としては、接着力が良好であり、生産性に優れる観点から、ウレタンアクリレート系および多官能アクリレート系ハードコート材料の使用が好ましい。
【0111】
ハードコート層の厚さに制限はなく、適宜決定されるが、好ましくは1μm〜20μm、より好ましくは3μm〜10μmである。
【0112】
ハードコート層は、所望により、屈折率の調整、曲げ弾性率の向上、体積収縮率の安定化、並びに耐熱性、帯電防止性、および防眩性などの向上を図る目的で、各種フィラーを含有できる。また、ハードコート層は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、レベリング剤、および消泡剤などの添加剤を含有できる。
【0113】
ハードコート層の屈折率や帯電防止性を調整するためのフィラーとしては、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化錫、酸化セリウム、五酸化アンチモン、錫をドープした酸化インジウム(ITO)、アンチモンをドープした酸化錫(IZO)、アルミニウムをドープした酸化亜鉛(AZO)、およびフッ素をドープした酸化錫(FTO)等を挙げることができる。フィラーとしては、透明性を維持できる点で、五酸化アンチモン、ITO、IZO、ATO、FTOが好ましい。これらフィラーの一次粒子径は、通常1nm〜100nm、好ましくは1nm〜30nmである。
【0114】
防眩性を付与するためのフィラーとしては、平均粒径が0.5μm〜10μmのものが好ましく、1.0μm〜7.0μmのものがより好ましく、1.0μm〜4.0μmのものがさらに好ましい。防眩性を付与するフィラーの具体例としては、ポリメチルメタクリレート樹脂、フッ化ビニリデン樹脂およびその他のフッ素樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ナイロン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリスチレン樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂などの有機樹脂からなるフィラー;または酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化アンチモン、酸化錫、酸化ジルコニウム、ITO、フッ化マグネシウム、酸化ケイ素などの無機化合物からなるフィラーを挙げることができる。
【0115】
ハードコート層の屈折率は、1.57〜1.61であることが好ましい。ハードコート層の屈折率がこの範囲であると、反射防止効果が優れる。
【0116】
本発明に用いる位相差フィルムはさらに、フィルムの滑り性をよくするマット層、反射防止層、防汚層等のさらなる任意の層を有していてもよい。
【0117】
(偏光フィルム)
本発明に用いる円偏光板は、偏光フィルムと上記の位相差フィルムとを積層してなる。具体的には、位相差フィルムの遅相軸と、偏光フィルムの吸収軸とがなす角が、40°以上50°以下の範囲となるように積層する。
【0118】
積層に用いる偏光フィルムは、長尺方向に吸収軸を有する長尺の偏光フィルムであることが好ましい。上記長尺の位相差フィルムと長尺の偏光フィルムとを長軸方向を揃えて積層するだけで、位相差フィルムの遅相軸の方向と偏光板の吸収軸の方向とを適切な角度に設定できるので、円偏光板の製造が容易だからである。
【0119】
長尺の偏光フィルムは、例えば、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素若しくは二色性染料を吸着させた後、ホウ酸浴中で一軸延伸することによって製造してもよい。また、例えば、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素もしくは二色性染料を吸着させ延伸し、さらに分子鎖中のポリビニルアルコール単位の一部をポリビニレン単位に変性することによって製造してもよい。さらに、偏光フィルムとして、例えば、グリッド偏光板、多層偏光板などの、偏光を反射光と透過光とに分離する機能を有する偏光フィルムを用いてもよい。これらの中でも、ポリビニルアルコールを含んでなる偏光フィルムが好ましい。偏光フィルムの偏光度は、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上である。偏光フィルムの厚さ(平均厚さ)は、好ましくは5μm〜80μmである。
【0120】
偏光フィルムと位相差フィルムとを積層する場合、接着剤を用いてもよい。接着剤としては、光学的に透明であれば特に限定されず、例えば、水性接着剤、溶剤型接着剤、二液硬化型接着剤、紫外線硬化型接着剤、感圧性接着剤などが挙げられる。この中でも、水性接着剤が好ましく、特にポリビニルアルコール系の水性接着剤が好ましい。なお、接着剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0121】
接着剤により形成される層(接着層)の平均厚みは、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上であり、好ましくは5μm以下、より好ましくは1μm以下である。
【0122】
偏光フィルムに位相差フィルムを積層する方法に制限は無いが、偏光フィルムの一方の面に接着剤を塗布した後、ロールラミネーターを用いて偏光フィルムと位相差フィルムとを貼り合せ、乾燥させる方法が好ましい。貼り合せの前に、位相差フィルムの表面に、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理などの表面処理を施してもよい。乾燥時間及び乾燥温度は、接着剤の種類に応じて適宜選択される。
【0123】
得られた円偏光板は、必要に応じ適宜な大きさに裁断して、本発明の有機EL表示装置の反射防止フィルムとして用いられる。このような反射防止フィルムを有機EL表示装置の光出射面側に、位相差フィルムを有機EL表示装置の発光層側に位置するように設けることにより外光存在下でも視認性の良い有機EL表示装置を提供することができる。
【0124】
(基板)
本発明の有機EL表示装置に用いる基板は、透明なものであれば特に限定されず、その厚さは、通常、50μm〜2.0mm程度である。基板に用いられる材料としては、例えば、ガラス材料、樹脂材料、または、これらの複合材料からなるものが挙げられる。前記の複合材料としては、例えば、ガラス板に保護プラスチックフィルムもしくは保護プラスチック層を設けたもの等が用いられる。
【0125】
上記の樹脂材料、保護プラスチック材料としては、例えば、フッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエステル、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、液晶性ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリオキシメチレン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアクリレート、アクリロニトリル−スチレン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、シリコーン樹脂、非晶質ポリオレフィン等が挙げられる。この他の樹脂材料であっても、有機EL表示装置用として使用できる高分子材料であれば、使用可能である。
【0126】
このような基板は、有機EL表示装置の用途にもよるが、水蒸気や酸素等のガスバリアー性の良好なものであれば更に好ましい。また、基板に水蒸気や酸素等の透過を防止するガスバリアー層を形成してもよい。このようなガスバリアー層としては、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン等の無機酸化物をスパッタリング法や真空蒸着法等の物理蒸着法により形成したものが好ましい。
【0127】
(透明電極)
透明電極は通常は陽極として用いられ、基板上に形成された信号線、走査線と、駆動素子であるTFT(薄膜トランジスタ)とともに、電極配線パターンを構成するものである。このような透明電極の材質は、通常の有機EL表示装置に使用されるものであれば特に限定されず、例えば金属、合金、これらの混合物等を使用することができる。透明電極の材質の具体例としては、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化亜鉛、酸化第二錫、または金等の薄膜電極材料を挙げることができる。透明電極は正孔が注入し易いように、仕事関数の大きい(4eV以上)透明材料であるITO、IZO、酸化インジウム、金が好ましい。また、透明電極は、シート抵抗が数百Ω/□以下であることが好ましく、材質にもよるが、その厚みは、例えば、0.005μm〜1μm程度とすることが好ましい。
【0128】
(発光層)
発光素子の発光層は有機EL表示装置に通常使用されるものであれば特に限定されず、低分子型および高分子型のいずれも用いることができる。発光層は、例えば、透明電極層側から正孔注入層、発光層、および電子注入層が積層された構造、発光層単独からなる構造、正孔注入層と発光層とからなる構造、発光層と電子注入層とからなる構造、さらに、正孔注入層と発光層との間に正孔輸送層を介在させた構造、発光層と電子注入層との間に電子輸送層を介在させた構造等とすることができる。また、発光波長を調整したり、発光効率を向上させる等の目的で、上記の各層に適当な材料をドーピングすることもできる。
【0129】
(金属電極層)
金属電極層は通常は陰極として用いられる。金属電極層の材料としては、通常の有機EL表示装置に使用されるものであれば特に限定されず、例えば、金、マグネシウム合金(例えば、MgAg等)、アルミニウムまたはその合金(AlLi、AlCa、AlMg等)、銀等を挙げることができる。金属電極層は、電子が注入し易いように仕事関数の小さい(4eV以下)マグネシウム合金、アルミニウム、銀等が好ましい。このような金属電極層はシート抵抗が数百Ω/□以下が好ましく、このため、金属電極層の厚みは、例えば、0.005μm〜0.5μm程度とすることが好ましい。
【実施例】
【0130】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。なお、実施例および比較例中の部および%は、特に断りのない限り重量基準である。また、「Mw」とは、重量平均分子量を表す。
【0131】
実施例及び比較例において、各特性の測定は、下記に基づき行った。
【0132】
(フィルムの厚さ)
フィルムの各層及びフィルム全体の膜厚は、フィルムをエポキシ樹脂に包埋したのち、ミクロトーム(大和工業社製「RUB−2100」)を用いてスライスし、走査電子顕微鏡を用いて断面を観察して測定した。
【0133】
〔レターデーション、Nz係数及び複屈折〕
位相差フィルムの表面をプラスチック用研磨布で研磨して各層を単層にした。この単層の状態として、J.A.Woollam社製分光エリプソメーターM−2000Uを用いて、測定波長450nm、550nmおよび650nmで、各層の遅相軸方向の屈折率nx、各層の面内で遅相軸と直交する方向の屈折率ny及び厚さ方向の屈折率nzをそれぞれ測定した。これらの値と各層の厚さd(nm)を用いて、次式より各波長における各層のレターデーションRe、波長550nmにおけるNz係数および波長550nmにおける複屈折Δnを算出した。
Re=|nx−ny|×d
Nz=(nx−nz)/(nx−ny)
Δn=nx−ny
【0134】
〔ガラス転移温度〕
示差走査熱量計(セイコーインストルメンツ社製EXSTAR6220)を用いて昇温速度20℃/分で測定した。
【0135】
〔強度(可撓性)〕
長尺の位相差フィルムと長尺の偏光子とを連続的に貼り合せる際の、破断の発生の有無を以下の基準で評価した。
A:繰出しから貼り合わせの途中で破断が発生せずに全長で貼り合せ可能であった。
B:繰出しから貼り合わせの途中で破断が数回発生した。
【0136】
(有機EL表示装置の視野角特性)
反射板および円偏光板を円偏光板の位相差フィルム側が反射板と接するように積層したモデルで、4x4マトリクスを用いた光学シミュレーションを行うことによりコントラスト及び色味を計算し、コントラスト図及び色味図(色ずれを表す図)として表示した。コントラスト図において、色が濃いほど高コントラストであることを表す。色味図において、色が薄いほど色ずれが大きいことを表す。
【0137】
また、有機EL表示装置のガラス基板に位相差フィルムが接するように円偏光板を配置して、上下左右方向からの斜視表示特性を目視により確認し、以下の基準で判定した。
A:外の景色の映り込みや色味変化が見られない。
B:外の景色の映り込みや色味変化が僅かに見られる。
C:外の景色の映り込みや色味変化が少し見られる。
D:外の景色の映り込みや色味変化が大きく見られる。
【0138】
[実施例1]
(延伸前フィルムの製造)
シンジオタクチックポリスチレン(出光興産社製「ザレック130ZC」、Mw180,000)58部とポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンオキサイド)(アルドリッチ社カタログNo.18242−7)42部と酸化防止剤1部とを2軸押出機で混錬し、透明な樹脂組成物(A)のペレットを作製した。この樹脂組成物(A)のガラス転移温度は134℃であった。
【0139】
熱可塑性樹脂(B)として、アクリル重合体及びゴム粒子を含むアクリル樹脂(住友化学社製「HT55Z」、ガラス転移温度108℃)のペレットを、フィルム成型装置の一方の一軸押出機に投入して、溶融させた。
また、前記の樹脂組成物(A)のペレットを、フィルム成型装置の他方の一軸押出機に投入して、溶融させた。
【0140】
二種三層の共押出成形用のフィルム成形装置を準備し、溶融された熱可塑性樹脂(B)を、目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを通して、フィルム成型装置のマルチマニホールドダイ(ダイスリップの表面粗さRa=0.1μm)の一方のマニホールドに供給した。
また、溶融された樹脂組成物(A)を、目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを通して、フィルム成型装置の他方のマニホールドに供給した。
【0141】
熱可塑性樹脂(B)と樹脂組成物(A)とを、所望の厚みの樹脂層が得られるように押出し条件を調整しながら、前記マルチマニホールドダイから260℃で同時に押し出して、熱可塑性樹脂(B)からなるP2層/樹脂組成物(A)からなるP1層/熱可塑性樹脂(B)からなるP2層の3層構成のフィルム状にした。このようにフィルム状に共押し出しされた溶融樹脂を、表面温度115℃に調整された冷却ロールにキャストし、次いで表面温度120℃に調整された2本の冷却ロール間に通した。これにより、P2層と、P1層と、P2層とをこの順に備えた3層構造の延伸前フィルム積層体を得た(共押出工程)。各層の厚さ比は、P2層:P1層:P2層=2:1:2であった。
【0142】
(延伸フィルムの製造)
次いで、この延伸前フィルム積層体をテンター延伸機で、遅相軸がMD方向に対して45°傾いた方向になるように斜め延伸した。延伸時の温度は、樹脂組成物(A)のガラス転移温度より3℃低い温度である131℃、延伸倍率は3.2倍とした。これにより、熱可塑性樹脂(B)からなるp2層/樹脂組成物(A)からなるp1層/熱可塑性樹脂(B)からなるp2層の3層構成の位相差フィルム積層体を得た。各層の厚さ比は、p2層:p1層:p2層=2:1:2であった。次いで、この位相差フィルム積層体から両面のp2層を剥離して、p1層のみからなる厚さが49μmで長尺の位相差フィルムAを得た。得られた位相差フィルムAは巻き取ってフィルムロールとした。位相差フィルムAの配向を確認したところ、遅相軸はMD方向に対して45°傾いていた。この位相差フィルムAは、Re
550が140nmであり、かつRe
450<Re
550<Re
650の関係を満たし、Re
450/Re
550は0.87であった。また、Δnは0.0028であり、Nz係数は−0.12であった。
【0143】
(円偏光板の製造)
厚さ80μmの長尺のポリビニルアルコールフイルムを0.3%のヨウ素水溶液中で染色した。その後、4%のホウ酸水溶液及び2%のヨウ化カリウム水溶液中で5倍まで延伸した後、50℃で4分間乾燥させて長尺の偏光子を製造した。
この長尺の偏光子の片面に、上記の位相差フィルムAを、ロールから連続的に繰り出しながら、接着剤を用いてロールラミネーターで貼り合わせた。繰出しから貼り合わせの途中で破断は発生せず、全長で貼り合せ可能であった。これを矩形に切り出して円偏光板Aを製造した。
【0144】
この円偏光板Aを用いたモデルで、4x4マトリクスを用いた光学シミュレーションを行うことによりコントラスト及び色味を計算し、コントラスト図及び色味図として表示した。結果を
図1および
図2に示す。また、この円偏光板Aを有機EL表示装置に適用して、上下左右方向からの視野角特性を目視により確認した。結果を表1に示す。
【0145】
[実施例2]
シンジオタクチックポリスチレンの量を57部、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンオキサイド)の量を43部とした他は実施例1と同様にして、透明な樹脂組成物(A)のペレットを作製した。この樹脂組成物(A)のガラス転移温度は136℃であった。樹脂組成物(A)としてこれを用いる他は実施例1と同様にして、P2層と、P1層と、P2層とをこの順に備えた3層構造の延伸前フィルム積層体を得た(共押出工程)。各層の厚さ比は、P2層:P1層:P2層=3:1:3であった。
【0146】
次いで、この延伸前フィルム積層体をテンター延伸機で、遅相軸がMD方向に対して45°傾いた方向になるように延伸倍率2.8倍で斜め延伸した。延伸時の温度は、樹脂組成物(A)のガラス転移温度より15℃低い温度である121℃とした。これにより、熱可塑性樹脂(B)からなるp2層/樹脂組成物(A)からなるp1層/熱可塑性樹脂(B)からなるp2層の3層構成の位相差フィルム積層体を得た。各層の厚さ比は、p2層:p1層:p2層=3:1:3であった。次いで、この位相差フィルム積層体から両面のp2層を剥離して、p1層のみからなる厚さが35μmで長尺の位相差フィルムBを得た。得られた位相差フィルムBは巻き取ってフィルムロールとした。位相差フィルムBの配向を確認したところ、遅相軸はMD方向に対して45°傾いていた。この位相差フィルムBは、Re
550が141nmであり、かつRe
450<Re
550<Re
650の関係を満たし、Re
450/Re
550は0.88であった。また、Δnは0.0040であり、Nz係数は−0.14であった。
【0147】
この位相差フィルムBを用いて実施例1と同様にして円偏光板Bを作製した。位相差フィルムBは、ロールの繰出しから貼り合わせの途中で破断は発生せず、全長で貼り合せ可能であった。得られた円偏光板Bを用いてコントラスト及び色味の計算並びに有機EL表示装置の視野角特性を評価した。結果を
図3、
図4および表1に示す。
【0148】
[実施例3]
シンジオタクチックポリスチレンの量を64部、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンオキサイド)の量を36部とした他は実施例1と同様にして、透明な樹脂組成物(A)のペレットを作製した。この樹脂組成物(A)のガラス転移温度は127℃であった。樹脂組成物(A)としてこれを使用し、熱可塑性樹脂(B)として脂環構造含有重合体を含む樹脂(日本ゼオン社製「ゼオノア1060」、ガラス転移温度100℃)のペレットを用いる他は実施例1と同様にして、P2層と、P1層と、P2層とをこの順に備えた3層構造の延伸前フィルム積層体を得た(共押出工程)。各層の厚さ比は、P2層:P1層:P2層=1:1:1であった。
【0149】
次いでこの延伸前フィルム積層体を、テンター延伸機で、まずMD方向に延伸倍率1.4倍で縦一軸延伸し、次いで遅相軸がMD方向に対して45°傾いた方向になるように延伸倍率1.6倍で斜め延伸した。延伸時の温度は、縦一軸延伸および斜め延伸のいずれも、樹脂組成物(A)のガラス転移温度よりも2℃高い温度である129℃とした。これにより、熱可塑性樹脂(B)からなるp2層/樹脂組成物(A)からなるp1層/熱可塑性樹脂(B)からなるp2層の3層構成の位相差フィルム積層体を得た。各層の厚さ比は、p2層:p1層:p2層=1:1:1であった。次いで、この位相差フィルム積層体から両面のp2層を剥離して、p1層のみからなる厚さが99μmで長尺の位相差フィルムCを得た。得られた位相差フィルムCは巻き取ってフィルムロールとした。位相差フィルムCの配向を確認したところ、遅相軸はMD方向に対して45°傾いていた。この位相差フィルムCは、Re
550が139nmであり、かつRe
450<Re
550<Re
650の関係を満たし、Re
450/Re
550は0.96であった。また、Δnは0.0014であり、Nz係数は−0.22であった。
【0150】
この位相差フィルムCを用いて実施例1と同様にして円偏光板の作製を試みたところ、位相差フィルムCは、ロールの繰出しから貼り合わせの途中で破断が数回発生した。
これとは別に、位相差フィルムCを矩形に切り出した。一方、実施例1と同様にして長尺の偏光子を製造し、矩形に切り出した。この偏光子の片面に、上記の位相差フィルムCを、位相差フィルムCの遅相軸と偏光子の延伸方向が45°の角度をなすように、接着剤を用いてロールラミネーターで貼り合わせて円偏光板Cを製造した。この円偏光板Cを用いてコントラスト及び色味の計算並びに有機EL表示装置の視野角特性を評価した。結果を
図5、
図6および表1に示す。
【0151】
[比較例1]
シンジオタクチックポリスチレン58部に代えて、非晶性ポリスチレン(PSジャパン社製「HH102」ガラス転移温度101℃)57部を用い、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンオキサイド)の量を43部とした他は実施例1と同様にして透明な樹脂組成物(A’)のペレットを作製した。この樹脂組成物(A’)のガラス転移温度は141℃であった。前記樹脂組成物(A)のペレットに代えて、この樹脂組成物(A’)のペレットを用いる他は実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂(B)からなるP2層と、樹脂組成物(A’)からなるP1’層と、熱可塑性樹脂(B)からなるP2層とをこの順に備えた3層構造の延伸前フィルム積層体を得た(共押出工程)。各層の厚さ比は、P2層:P1’層:P2層=2:1:2であった。
【0152】
次いで、この延伸前フィルム積層体をテンター延伸機で、遅相軸がMD方向に対して45°傾いた方向になるように斜め延伸した。延伸時の温度は、樹脂組成物(A’)のガラス転移温度より2℃高い温度である143℃、延伸倍率は3.0倍とした。これにより、熱可塑性樹脂(B)からなるp2層/樹脂組成物(A’)からなるp1’層/熱可塑性樹脂(B)からなるp2層の3層構成の位相差フィルム積層体を得た。各層の厚さ比は、p2層:p1’層:p2層=2:1:2であった。次いで、この位相差フィルム積層体から両面のp2層を剥離して、p1’層のみからなる厚さが99μmで長尺の位相差フィルムDを得た。得られた位相差フィルムDは巻き取ってフィルムロールとした。位相差フィルムDの配向を確認したところ、遅相軸はMD方向に対して45°傾いていた。この位相差フィルムDは、Re
550が138nmであったが、Re
450<Re
550<Re
650の関係を満たしていなかった。また、Nz係数は+1.12であった。
【0153】
この位相差フィルムDを用いて実施例1と同様にして円偏光板の作製を試みたところ、位相差フィルムDは、ロールの繰出しから貼り合わせの途中で破断が数回発生した。
これとは別に、位相差フィルムDを矩形に切り出した。一方、実施例1と同様にして長尺の偏光子を製造し、矩形に切り出した。この偏光子の片面に、上記の位相差フィルムDを、接着剤を用いてロールラミネーターで貼り合わせて円偏光板Dを製造した。この円偏光板Dを用いてコントラスト及び色味の計算並びに有機EL表示装置の視野角特性を評価した。結果を
図7、
図8および表1に示す。
【0154】
[比較例2]
シンジオタクチックポリスチレンの量を63部、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンオキサイド)の量を37部とした他は実施例1と同様にして、透明な樹脂組成物(A)のペレットを作製した。この樹脂組成物(A)のガラス転移温度は129℃であった。この樹脂組成物(A)のペレットを単軸押出機で溶融させ、押出用のダイに供給し、押出成形することにより延伸前フィルムを得た。得られた延伸前フィルムをテンター延伸機で、MD方向およびTD方向に同時二軸延伸した。延伸時の温度は、樹脂組成物(A)のガラス転移温度より3℃高い温度である132℃、延伸倍率はMD方向が1.3倍、TD方向が1.2倍とした。これにより、厚さ62μmの長尺の位相差フィルムEを得た。得られた位相差フィルムEは巻き取ってフィルムロールとした。位相差フィルムEの配向を確認したところ、遅相軸はMD方向に対して垂直であった。この位相差フィルムEは、Re
550が142nmであり、かつRe
450<Re
550<Re
650の関係を満たし、Re
450/Re
550は0.95であった。また、Δnは0.0023であり、Nz係数は−1.00であった。
【0155】
この位相差フィルムEを用いて実施例1と同様にして円偏光板の作製を試みた。位相差フィルムEは、ロールの繰出しから貼り合わせの途中で破断は発生せず、全長で貼り合せ可能であった。
これとは別に、位相差フィルムEを矩形に切り出した。一方、実施例1と同様にして長尺の偏光子を製造し、矩形に切り出した。この偏光子の片面に、上記の位相差フィルムEを、位相差フィルムEの遅相軸と偏光子の延伸方向が45°の角度をなすように、接着剤を用いてロールラミネーターで貼り合わせて円偏光板Eを製造した。この円偏光板Eを用いてコントラスト及び色味の計算並びに有機EL表示装置の視野角特性を評価した。結果を
図9、
図10および表1に示す。
【0156】
[比較例3]
シンジオタクチックポリスチレンの量を76部、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンオキサイド)の量を24部とした他は実施例1と同様にして、透明な樹脂組成物(A)のペレットを作製した。この樹脂組成物(A)のガラス転移温度は115℃であった。この樹脂組成物(A)のペレットを単軸押出機で溶融させ、押出用のダイに供給し、押出成形することにより、厚さ100μmの延伸前フィルムを得た。
【0157】
次いで、この延伸前フィルムをテンター延伸機で、遅相軸がMD方向に対して45°傾いた方向になるように斜め延伸を試みた。延伸時の温度は、樹脂組成物(A)のガラス転移温度より12℃低い温度である103℃としたが、延伸倍率が1.5倍に達した時点でフィルムが破断し、位相差フィルムを得ることはできなかった。
【0158】
[比較例4]
セルロースエステルのフィルム(カネカ社製、商品名「KA」)を斜め延伸し、厚さ100μmの長尺の位相差フィルムFを得た。得られた位相差フィルムFは巻き取ってフィルムロールとした。位相差フィルムFの配向を確認すると、遅相軸はMD方向に対して45°傾いていた。この位相差フィルムFは、Re
550が140nmであり、かつRe
450<Re
550<Re
650の関係を満たしていた。また、Nz係数は+1.13であった。
【0159】
この位相差フィルムFを用いて実施例1と同様にして円偏光板Fを作製した。位相差フィルムFは、ロールの繰出しから貼り合わせの途中で破断は発生せず、全長で貼り合せ可能であった。得られた円偏光板Fを用いてコントラスト及び色味の計算並びに有機EL表示装置の視野角特性を評価した。結果を
図11、
図12および表1に示す。
【0160】
【表1】
【0161】
以上の実施例および比較例から明らかなように、本発明の有機EL装置は高コントラストで色ずれが小さく、視野角特性に優れることが分かる。一方比較例の有機EL装置は、コントラストが低く色ずれが大きく、視野角特性に劣るものである。