(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6269853
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】有機樹脂積層体
(51)【国際特許分類】
C08J 7/04 20060101AFI20180122BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20180122BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20180122BHJP
B32B 37/14 20060101ALI20180122BHJP
B05D 7/02 20060101ALI20180122BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20180122BHJP
C08F 2/48 20060101ALI20180122BHJP
【FI】
C08J7/04 KCFD
B32B27/30 A
B32B27/18 A
B32B37/14 Z
B05D7/02
B05D7/24 302P
B05D7/24 301T
C08F2/48
【請求項の数】25
【全頁数】51
(21)【出願番号】特願2016-553427(P2016-553427)
(86)(22)【出願日】2015年6月8日
(65)【公表番号】特表2017-511399(P2017-511399A)
(43)【公表日】2017年4月20日
(86)【国際出願番号】IB2015054332
(87)【国際公開番号】WO2015189762
(87)【国際公開日】20151217
【審査請求日】2016年9月16日
(31)【優先権主張番号】62/011,336
(32)【優先日】2014年6月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501080424
【氏名又は名称】エグザテック・リミテッド・ライアビリティー・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Exatec,LLC.
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガスワース、スティーブン、マーク
(72)【発明者】
【氏名】樋口 浩一
【審査官】
大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−164994(JP,A)
【文献】
特開2013−035275(JP,A)
【文献】
特開2009−155540(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/032421(WO,A1)
【文献】
特開2005−054183(JP,A)
【文献】
特開2008−231304(JP,A)
【文献】
特開2002−309211(JP,A)
【文献】
特開2013−170209(JP,A)
【文献】
特開2012−224077(JP,A)
【文献】
特開2010−253683(JP,A)
【文献】
特開2010−053239(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2016/0017169(US,A1)
【文献】
韓国公開特許第10−2003−0080713(KR,A)
【文献】
特表2013−514908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C08J 7/04− 7/06
B05D 1/00− 7/26
C08F 2/00− 2/60
C23C 16/00−16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機樹脂積層体を形成する方法であって、有機樹脂基材に湿式コーティング組成物を塗布して有機樹脂基材上に中間層(II)を形成し、ここで湿式コーティング組成物は、多官能性(メタ)アクリレートと、光重合開始剤と、下記一般式(1)で表される反応性紫外線吸収剤とを含み、
【化1】
{式中、Y
1及びY
2はそれぞれ独立して、一般式(2)の置換基であり、
【化2】
*は結合部位を示し、rは0又は1であり、
R
1、R
2、R
3はそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数4〜12のシクロアルコキシ基、炭素数2〜20のアルケニルオキシ基、炭素数7〜20のアラルキル基、ハロゲン原子、−C≡N、炭素数1〜5のハロアルキル基、−SO
2R’、−SO
3H、−SO
3M(M=アルカリ金属)、−COOR’、−CONHR’、−CONR’R”、−OCOOR’、−OCOR’、−OCONHR’、(メタ)アクリルアミノ基、(メタ)アクリルオキシ基、置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基、及び置換されていてもよい炭素数3〜12のヘテロアリール基からなる群より選ばれ、R’及びR”はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基、又は置換されていてもよい炭素数3〜12のヘテロアリール基を示し、
Xは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい2、3又は4価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素残基であり、
Tはウレタン基−O−(C=O)−NH−を表し、
Qは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい2又は3価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素残基であり、
Pは(メタ)アクリルオキシ基であり、
mは1又は2であり、及び
nは1〜3の整数であるが、mとnとが同時に1であることはない。}
前記湿式コーティング組成物を紫外線硬化して硬化被膜を形成し、
この硬化被膜上に第1のプラズマコーティングを析出する、ここで第1のプラズマコーティングは、ケイ素、酸素、炭素、及び水素を含み、有機ケイ素化合物のプラズマ重合によって析出される
ことを含む有機樹脂積層体の形成方法。
【請求項2】
有機樹脂積層体を形成する方法であって、有機樹脂基材に湿式コーティング組成物を塗布して基材上に中間層(II)を形成し、ここで湿式コーティング組成物は、多官能性(メタ)アクリレートと、光重合開始剤と、下記一般式(1)で表される反応性紫外線吸収剤とを含み、
【化3】
{式中、Y
1及びY
2はそれぞれ独立して、一般式(2)の置換基であり、
【化4】
*は結合部位を示し、rは0又は1であり、
R
1、R
2、R
3はそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数4〜12のシクロアルコキシ基、炭素数2〜20のアルケニルオキシ基、炭素数7〜20のアラルキル基、ハロゲン原子、−C≡N、炭素数1〜5のハロアルキル基、−SO
2R’、−SO
3H、−SO
3M(M=アルカリ金属)、−COOR’、−CONHR’、−CONR’R”、−OCOOR’、−OCOR’、−OCONHR’、(メタ)アクリルアミノ基、(メタ)アクリルオキシ基、置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基、及び置換されていてもよい炭素数3〜12のヘテロアリール基からなる群より選ばれ、R’及びR”はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基、又は置換されていてもよい炭素数3〜12のヘテロアリール基を示し、
Xは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい2、3又は4価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素残基であり、
Tはウレタン基−O−(C=O)−NH−を表し、
Qは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい2又は3価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素残基であり、
Pは(メタ)アクリルオキシ基であり、
mは1又は2であり、及び
nは1〜3の整数であるが、mとnとが同時に1であることはない。}
前記湿式コーティング組成物を紫外線硬化して硬化被膜を形成し、
この硬化被膜上に分子酸素流を導入しないで第1のプラズマコーティングを析出する
ことを含む有機樹脂積層体の形成方法。
【請求項3】
更に、第1のプラズマコーティング上に第2のプラズマコーティングを析出する、ここで第2のプラズマコーティングと第1のプラズマコーティングがプラズマ層を形成し、第2のプラズマコーティングは、第2の酸素流量がプラズマ源当たり250sccm又はそれより多い流量において析出される、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
第2の酸素流量がプラズマ源当たり400sccm又はそれより多い請求項3記載の方法。
【請求項5】
第2の酸素流量がプラズマ源当たり800sccm又はそれより多い請求項4記載の方法。
【請求項6】
第1のプラズマコーティングが、膨張熱プラズマ析出法により析出される請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
紫外線硬化前に、湿式コーティング膜から溶剤を蒸発分離することを含む請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
蒸発分離がコートされた基材を60℃又はそれより高い温度で加熱することを含む請求項7記載の方法。
【請求項9】
蒸発分離がコートされた基材を70℃又はそれより高い温度で加熱することを含む請求項8記載の方法。
【請求項10】
有機樹脂基材が、ポリカーボネート、ポリカーボネートを含むブレンド、又はポリカーボネートを含む共重合体を含み、湿式コーティング組成物を塗布する前に基材を成形することを含む請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
有機樹脂基材とこの基材の表面上の多層コーティングシステムとを含み、多層コーティングシステムが、
ケイ素、酸素、炭素、及び水素を含み、有機ケイ素化合物のプラズマ重合によって形成されたプラズマ層、及び
コーティング組成物の紫外線硬化された被膜である中間層(II)と
を含み、中間層(II)がプラズマ層と有機樹脂基材との間に配置され、
前記コーティング組成物が、(A)反応性紫外線吸収剤、(B)多官能性(メタ)アクリレート、及び(C)光重合開始剤を含み、反応性紫外線吸収剤が一般式(1):
【化5】
{式中、Y
1及びY
2はそれぞれ独立して、一般式(2)の置換基であり、
【化6】
*は結合部位を示し、rは0又は1であり、
R
1、R
2、R
3はそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数4〜12のシクロアルコキシ基、炭素数2〜20のアルケニルオキシ基、炭素数7〜20のアラルキル基、ハロゲン原子、−C≡N、炭素数1〜5のハロアルキル基、−SO
2R’、−SO
3H、−SO
3M(M=アルカリ金属)、−COOR’、−CONHR’、−CONR’R”、−OCOOR’、−OCOR’、−OCONHR’、(メタ)アクリルアミノ基、(メタ)アクリルオキシ基、置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基、及び置換されていてもよい炭素数3〜12のヘテロアリール基からなる群より選ばれ、R’及びR”はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基、又は置換されていてもよい炭素数3〜12のヘテロアリール基を示し、
Xは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい2、3又は4価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素残基であり、
Tはウレタン基−O−(C=O)−NH−を表し、
Qは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい2又は3価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素残基であり、
Pは(メタ)アクリルオキシ基であり、
mは1又は2であり、及び
nは1〜3の整数であるが、mとnとが同時に1であることはない。}
で表される
有機樹脂積層体。
【請求項12】
Xが一般式(3)又は(4):
【化7】
{式中、*1は前記式(1)中の酸素と結合しており、*2は前記式(1)中のTと結合しており、*3はそれぞれ独立して、水素原子、又は直接あるいは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい2価の直鎖もしくは分岐の飽和炭化水素基を介して上記式(1)中のTと結合しており、*3の少なくとも1つは直接あるいは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい2価の直鎖もしくは分岐の飽和炭化水素基を介してTと結合している。}
で表される基であり、Qが一般式(5)又は(6):
【化8】
{式中、*4は前記式(1)中のTと結合しており、*5は前記式(1)中のPと結合している。}
で表される基である請求項11記載の積層体。
【請求項13】
式(1)において、R1、R2、R3はそれぞれ独立して、水素原子又はメチル基であり、Xは式(3)の基であり、Qは式(6)の基であり、mは2であり、nは1である請求項11又は12記載の積層体。
【請求項14】
多官能性(メタ)アクリレート(B)が、(メタ)アクリル官能性アルコキシシランの加水分解物及び/又は縮合物を含む請求項11〜13のいずれか1項記載の積層体。
【請求項15】
多官能性(メタ)アクリレート(B)が、更に、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(2−(メタ)アクリロキシアルキル)イソシアヌレート、分子当たり少なくとも5個のラジカル重合性不飽和二重結合を有するウレタンポリ(メタ)アクリレート化合物、及び分子当たり少なくとも5個のラジカル重合性不飽和二重結合を有するポリエステルポリ(メタ)アクリレート化合物からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む請求項11〜14のいずれか1項記載の積層体。
【請求項16】
プラズマ層が2.5〜5.0μmの範囲のトータル厚さを有する請求項11〜15のいずれか1項記載の積層体。
【請求項17】
プラズマ層が2.5〜4.0μmの範囲のトータル厚さを有する請求項16記載の積層体。
【請求項18】
ASTM D870に従ってイオン交換水に65℃で10日間浸漬し、ASTM D3359−09,B方式に従ってテープ試験により密着性を測定した密着試験において、少なくとも97%の値を示す請求項11〜17のいずれか1項記載の積層体。
【請求項19】
有機樹脂基材が、ポリカーボネート、ポリカーボネートを含むブレンド、又はポリカーボネートを含む共重合体を含む成形基材である請求項11〜18のいずれか1項記載の積層体。
【請求項20】
プラズマ層が、第1のプラズマコーティング及び第2のプラズマコーティングを含み、外側のプラズマ層が、1mNの最大荷重においてナノインデンティションにより測定したときに3GPa又はそれより大きいヤング率を有する請求項11〜19のいずれか1項記載の積層体。
【請求項21】
プラズマ層が、1mNの最大荷重においてナノインデンティションにより測定したときに3〜40GPaのヤング率を有する請求項20記載の積層体。
【請求項22】
プラズマ層が、1mNの最大荷重においてナノインデンティションにより測定したときに3〜15GPaのヤング率を有する請求項21記載の積層体。
【請求項23】
有機樹脂基材とこの基材の表面上の多層コーティングシステムとを含み、多層コーティングシステムが、
有機ケイ素化合物の重合によって形成されたプラズマ層と、
反応性紫外線吸収剤、多官能性(メタ)アクリレート、及び光重合開始剤の紫外線硬化された被膜である中間層(II)と
を含み、1mNの最大荷重においてナノインデンティションにより測定したときに3GPa又はそれより大きいヤング率を有する有機樹脂積層体。
【請求項24】
ASTM D870に従ってイオン交換水に65℃で10日間浸漬し、ASTM D3359−09,B方式に従ってテープ試験により密着性を測定した密着試験において、少なくとも97%の値を示す請求項23記載の積層体。
【請求項25】
自動車の窓に使用する材料であって、有機樹脂基材とこの基材の表面上の多層コーティングシステムとを含み、多層コーティングシステムが、
ケイ素、酸素、炭素、及び水素を含み、有機ケイ素化合物のプラズマ重合によって形成された最外プラズマ層と、
このプラズマ層と有機樹脂基材との間に配置された、コーティング組成物の紫外線硬化された被膜である中間層(B)と
を含み、
前記湿式コーティング組成物が、多官能性(メタ)アクリレート、光重合開始剤、及び一般式(1):
【化9】
{式中、Y
1及びY
2はそれぞれ独立して、一般式(2)の置換基であり、
【化10】
*は結合部位を示し、rは0又は1であり、
R
1、R
2、R
3はそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数4〜12のシクロアルコキシ基、炭素数2〜20のアルケニルオキシ基、炭素数7〜20のアラルキル基、ハロゲン原子、−C≡N、炭素数1〜5のハロアルキル基、−SO
2R’、−SO
3H、−SO
3M(M=アルカリ金属)、−COOR’、−CONHR’、−CONR’R”、−OCOOR’、−OCOR’、−OCONHR’、(メタ)アクリルアミノ基、(メタ)アクリルオキシ基、置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基、及び置換されていてもよい炭素数3〜12のヘテロアリール基からなる群より選ばれ、R’及びR”はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基、又は置換されていてもよい炭素数3〜12のヘテロアリール基を示し、
Xは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい2、3又は4価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素残基であり、
Tはウレタン基−O−(C=O)−NH−を表し、
Qは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい2又は3価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素残基であり、
Pは(メタ)アクリルオキシ基であり、
mは1又は2であり、及び
nは1〜3の整数であるが、mとnとが同時に1であることはない。}
で表される反応性紫外線吸収剤を含む、前記材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐候性及び耐摩耗性を有する有機樹脂積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
有機樹脂材料は、耐衝撃性、軽量性、加工性を含む多くの特徴を有するため、様々な用途で使用されている。特に近年、有機樹脂成型物が種々の車両の窓材に適用され得るように、有機樹脂の表面硬度及び耐摩耗性を高める努力がなされている。しかしながら、有機樹脂成型物、又は一般的にいってプラスチック材料の成型物は、ガラスに比べて耐摩耗性及び耐候性の表面特性に劣る。このため、それらの表面特性を改善することが試みられている。
なお、本発明に関連する先行技術文献としては、下記の特許文献が挙げられる(これらの文献についての詳細は後述する)。
特許文献1:米国特許第6,110,544号明細書
特許文献2:米国特許第6,948,448号明細書
特許文献3:米国特許第6,397,446号明細書
特許文献4:特開2009−540124号公報
特許文献5:特開2009−502569号公報
特許文献6:米国特許第7,163,749号明細書
特許文献7:米国特許第7,056,584号明細書
特許文献8:米国特許第6,426,125号明細書
【0003】
当該技術において必要とされるものは、改良された耐摩耗性、密着性及び/又は耐候性を有する有機樹脂積層体である。
【発明の概要】
【0004】
ここには、有機積層体を製造する方法、及びそれから得られた積層体が開示されている。
【0005】
有機樹脂積層体を製造する方法の一態様は、有機樹脂基材に湿式コーティング組成物を塗布して有機樹脂基材上に中間層(II)を形成し、ここで湿式コーティング組成物は、多官能性(メタ)アクリレートと、光重合開始剤と、下記一般式(1)で表される反応性紫外線吸収剤とを含み、
【化1】
{式中、Y
1及びY
2はそれぞれ独立して、一般式(2)の置換基であり、
【化2】
*は結合部位を示し、rは0又は1であり、
R
1、R
2、R
3はそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数4〜12のシクロアルコキシ基、炭素数2〜20のアルケニルオキシ基、炭素数7〜20のアラルキル基、ハロゲン原子、−C≡N、炭素数1〜5のハロアルキル基、−SO
2R’、−SO
3H、−SO
3M(M=アルカリ金属)、−COOR’、−CONHR’、−CONR’R”、−OCOOR’、−OCOR’、−OCONHR’、(メタ)アクリルアミノ基、(メタ)アクリルオキシ基、置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基、及び置換されていてもよい炭素数3〜12のヘテロアリール基からなる群より選ばれ、R’及びR”はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基、又は置換されていてもよい炭素数3〜12のヘテロアリール基を示し、
Xは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい2、3又は4価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素残基であり、
Tはウレタン基−O−(C=O)−NH−を表し、
Qは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい2又は3価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素残基であり、
Pは(メタ)アクリルオキシ基であり、
mは1又は2であり、及び
nは1〜3の整数であるが、mとnとが同時に1であることはない。}
前記湿式コーティング組成物を紫外線硬化して硬化被膜を形成し、
この硬化被膜上に第1のプラズマコーティングを析出する、ここで第1のプラズマコーティングは、プラズマ源当たり250sccm未満の第1の酸素流量を用いて析出される
ものである。
【0006】
有機樹脂積層体の一態様は、有機樹脂基材とこの基材の表面上の多層コーティングシステムとを含み、多層コーティングシステムが、
有機ケイ素化合物の重合によって形成されたプラズマ層と、
反応性紫外線吸収剤、多官能性(メタ)アクリレート、及び光重合開始剤の紫外線硬化コーティングである中間層(II)とを含み、
積層体は1mNの最大荷重においてナノインデンティションにより測定したときに3GPa又はそれより大きいヤング率を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1は、合成例1で得られた化合物及びその反応体のGPCチャートを示した図である。
【0008】
図2は、合成例1で得られた化合物の
1H−NMRチャートを示す。
【0009】
図3は、合成例1で得られた化合物のIRチャートを示す。
【0010】
図4は、実施例8で得られた積層体の酸素透過度チャートを示す図である。
【0011】
近年、有機樹脂成型物の表面特性の更なる向上が要求されている。例えば、自動車分野では、フロントガラスがワイパー作動時にすり傷をつけたり又は摩耗することを防止し、サイドウインドウが昇降時にすり傷をつけたり又は摩耗することを防止するため、高いレベルの耐摩耗性が要求されている。非常に高い温度及び/又は湿度の環境下における使用の可能性も考慮に入れなければならない。
【0012】
表面特性を向上させるため、二酸化ケイ素等の薄膜を湿式樹脂系の硬化層上に析出させることができ、これにより自動車窓材に要求される耐摩耗性を達成することができる。このような乾式コーティングシステムから得られる被膜は、上述した湿式コーティングシステムを越えて耐摩耗性を向上させる。
【0013】
膨張熱プラズマ(ETP)プロセスは、乾式コーティングを高い析出速度で析出するために用いられてきた。なかでもプラズマプロセスは耐摩耗性被膜を大スケールでかつ大面積部分にコートするのに適している(例えば、米国特許第6,110,544号明細書、米国特許第6,948,448号明細書、米国特許第6,397,446号明細書)。
【0014】
これらの湿式コーティングプロセスを乾式コーティングプロセスに組み合わせた積層技術において、長期間に亘る屋外曝露試験及び促進耐候性試験における有機樹脂基材の劣化防止又は変色防止に対して十分ではないことが明らかとなってきた。こうした問題点に対しては、紫外線を遮断するため、湿式コーティング層に紫外線吸収剤を含有させることで克服することができる。特に、これらの積層構造が、有機樹脂基材、この基材の表面上のアクリル系コーティング組成物のプライマー層、その上に形成されたシリコーンハードコート組成物から形成されるシリコーンハードコート層、及びその上に析出されたプラズマCVDプロセスによる硬質酸化ケイ素層である場合、プライマー層及びシリコーンコート層に有機又は無機紫外線吸収剤が配合され得る。一般的に、プライマー層及びシリコーンハードコート層は、コーティング工程後、120℃で約1時間の加熱乾燥工程を採用する。この技術は、高度な耐摩耗性及び長期の耐候性を与えることができるが、複数の加熱工程を必要とする。製造時間の減少、増収率、最終的なコスト減の点から、この技術の簡素化が要望されている。
【0015】
湿式工程の簡素化について、光硬化型システムの応用が考えられている。具体的には、有機樹脂基材の表面に、多官能性(メタ)アクリレート化合物と光重合開始剤とを含むコーティング組成物を塗布し、放射線を組成物に照射して放射線曝露により生じた(メタ)アクリル基の光重合の結果として架橋された被膜が形成され、そして酸化層がこのコーティング上に乾式プロセスにより形成されるものである。光硬化性(メタ)アクリルコーティング組成物は、上記シリコーンハードコート組成物においては必須であるプライマーを必要とせずに、樹脂基材に直接コートされ、硬化される。この技術は、工程簡略化は達成されているが、長期の耐候性の点で未だ満足するものではない。
【0016】
ガラスに匹敵する非常に高いレベルの耐摩耗性を維持しながら、可視光透明性、紫外線遮蔽性、及び長期の屋外曝露に耐え得る耐候性と耐久性を含む全ての要求を満たす積層体を、層間に湿式光硬化性被膜を介在させるという簡単な工程によって製造する方法は現在得られていない。
【0017】
有機樹脂積層体の一態様は、有機樹脂基材とこの基材の一表面にある多層コーティングシステムを含み、この積層体は耐摩耗性及び耐候性を発揮する。多層コーティングシステムは、有機ケイ素化合物のプラズマ重合によって得られたコーティングとしてのプラズマ層と、湿式コーティング組成物の硬化被膜として中間層(II)を含む。中間層(II)は一対の対向する表面を有し、一方の表面はプラズマ層に隣接して配置され、他方の表面は有機樹脂基材に隣接して配置されている。湿式コーティング組成物は、(A)下記に規定する式(1)の反応性紫外線吸収剤、(B)多官能性(メタ)アクリレート、及び(C)光重合開始剤を含む。
【0018】
上記の及び他の態様は、以下に詳細に記載する。
【0019】
有機樹脂積層体の一態様は、ポリカーボネート樹脂の成型基材のような基材と、この基材上の多層コーティングシステムとを含む。多層コーティングシステムは、特別な反応性紫外線吸収剤を含む硬化コーティングとしての中間層(II)と、有機シリコン化合物のプラズマ重合から得られるコーティングとしてのプラズマ層、典型的には、プラズマ化学蒸着析出(PECVD)法によって形成された酸化ケイ素コーティングを含む。上記層は、上記した順序で基材上に析出される。積層体は、5層(即ち、有機樹脂基材、硬化プライマー層、硬化シリコーン層、及び耐摩耗層(2つのサブ層を含む)を包含するシステムを、4層(即ち、有機樹脂基材、中間層(II)、及び耐摩耗層としてのプラズマ層(2つのサブ層を含む)を包含する新しいシンプルなシステムに代えることができる。5層積層体又はここに開示した積層体のいずれかは、インク層のような他の層を含むことができる。更に、本発明の積層体は、特別な紫外線吸収剤を中間層(II)に含むので、可視光透過性能及び紫外線遮蔽性能を有し、そして、紫外線吸収剤がバインダーと反応して層に固定され、即ち紫外線吸収剤が中間層の外にブリードすることが防止されるので、長期に亘り耐候性を維持する。積層体は、窓、例えば車両、飛行機などの運送機の窓や風防、建物の窓、道路の遮音壁で使用される用途に適している。
プラズマ層
【0020】
プラズマ層は、有機ケイ素化合物のプラズマ重合によって形成される、ケイ素、酸素、炭素及び水素を含むコーティング(例えば、ハードコーティング)であり得る。特に、ハードコーティングは、膨張熱プラズマ法によって形成、積層される。膨張熱プラズマ技術については、JP−A2009−540124、JP−A2009−502569、USP7,163,749、USP7,056,584、及びUSP6,426,125を参照することができる。
【0021】
最外層は、プラズマ析出プロセス(例えば、低圧膨張熱プラズマ析出プロセス)を用いて析出させることができる。膨張熱プラズマプロセスにおいて、プラズマは直流(DC)アーク発生器を通してAr又はHeのような貴ガスをイオン化することにより発生する。プラズマは、気化した有機ケイ素物化合物が注入されるチャンバー、典型的には低圧チャンバー内において膨張する。プラズマ種は、有機ケイ素化合物ガスと反応し、解離された分子を生成する。これは析出フィルムの先駆物質である。解離された反応体分子と反応させるため、必要により酸化ガスをチャンバー内に添加してもよい。
【0022】
プラズマ層をプラズマプロセスで形成する際に用いられる有機ケイ素化合物の具体的な例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メトキシトリメチルシラン、メチルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンなどを挙げることができるが、これに限定されるものではない。オクタメチルシクロテトラシロキサンが特に好ましい。
【0023】
コーティングチャンバーは、加熱ステーションと、内側サブ層及び外側サブ層を析出する2つのコーティングステーションを含む連続両サイドコーティングプロセスから構成される。コーティングステーションは、直流プラズマアーク発生器の全ウインドウ表面をコートするため、例えば2列(例えば、基材の対向サイドに配置された垂直配列)に整列した直流プラズマアーク発生器の配列を含む。析出速度は、100ナノメータ/分(nm/min)〜20,000nm/minである。一列のプラズマアーク発生器の数は、大面積の基材、典型的にはウインドウを完全にコートするためにスケールアップすることができる。
【0024】
プラズマ層は、内側サブ層(第1のプラズマコーティングともいう)及び外側サブ層(第2のプラズマコーティングともいう)を含むことができる。必要に応じて、これらサブ層の性状については、中間層(II)への密着性及びコーティング層に耐摩耗性を与えるために調整してもよい。上記の積層体の製造方法において、内側サブ層への密着性を実現させるために周囲の温度より高い温度で樹脂基材を加熱することができる。具体的には、プラズマ堆積の前に上記基材を表面温度35〜100℃に加熱することができる。
【0025】
一態様として、例えば密着性を高めるために、内側サブ層が外側サブ層よりも高い割合で有機官能基を含有する。好ましくは、第1のプラズマコーティングは、プラズマ源当たり100sccm又はそれ未満、より好ましくはプラズマ源当たり50sccm又はそれ未満、更に好ましくはプラズマ源当たり10sccm又はそれ未満の第1の酸素流量、より更に好ましくは酸素流なし乃至0sccmの酸素流量(換言すると、コーティングチャンバー内に酸素をことさら導入しない)において析出される。好ましくは、第2のプラズマコーティングは、プラズマ源当たり250sccm又はそれより大きい、より好ましくはプラズマ源当たり400sccm又はそれより大きい、更に好ましくはプラズマ源当たり800sccm又はそれより大きい第2の酸素流量において析出される。好ましくは、プラズマ層は、1mNの最大荷重でナノインデンティションにより測定したときヤング率が3ギガパスカル(GPa)又はそれより大きい、より好ましくは3〜40GPa、更に好ましくは3〜15GPaの値を有する。
【0026】
プラズマ層は、トータル厚さが2.5〜5.0マイクロメータ(μm)、特に2.5〜4.0μmであり得る。
中間層
【0027】
中間層(II)は、(A)特定の反応性紫外線吸収剤、(B)多官能性(メタ)アクリレート、及び(C)光重合開始剤を含有するコーティング組成物を含むものである。
【化3】
【0028】
式(1)において、Y
1及びY
2はそれぞれ独立して、一般式(2)の置換基である。
【化4】
ここで、星印(*)は結合部位を示す。rは0又は1であり、好ましくは1である。r=1であると紫外線を吸収した際に生じるラジカルは、その共役系が広がるため安定化すると考えられる。
【0029】
R
1、R
2、R
3はそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数4〜12のシクロアルコキシ基、炭素数2〜20のアルケニルオキシ基、炭素数7〜20のアラルキル基、ハロゲン原子、−C≡N、炭素数1〜5のハロアルキル基、−SO
2R’、−SO
3H、−SO
3M(M=アルカリ金属)、−COOR’、−CONHR’、−CONR’R”、−OCOOR’、−OCOR’、−OCONHR’、(メタ)アクリルアミノ基、(メタ)アクリルオキシ基、ハロゲン原子等で置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基、又はハロゲン原子等で置換されていてもよい炭素数3〜12のヘテロアリール基である。なかでも、水素原子、水酸基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、ハロゲン原子、炭素数6〜12のアリール基が好ましく、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基がより好ましい。R’及びR”はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基、又はハロゲン原子等で置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基、又はハロゲン原子等で置換されていてもよい炭素数3〜12のヘテロアリール基である。なかでも、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基が好ましく、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基がより好ましい。
【0030】
Xは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基等の2、3又は4価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素残基である。なかでも、Xは下記一般式(3)又は(4)で示される基であることが、合成上の容易さ、出発反応体の合成及び入手のし易さの点から好ましい。
【化5】
ここで、*1は式(1)中の酸素と結合しており、*2は式(1)中のTと結合しており、*3はそれぞれ独立して、水素原子、又は直接あるいは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい2価の直鎖もしくは分岐の飽和炭化水素基を介して式(1)中のTと結合しており、*3の少なくとも1つは直接あるいは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい2価の直鎖もしくは分岐の飽和炭化水素基を介してTと結合している。
【0031】
Tはウレタン基−O−(C=O)−NH−を表す。
【0032】
Qは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基等の2又は3価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素残基である。なかでも、Qは下記一般式(5)又は(6)で示される基であることが、合成上の容易さ、原料の入手のし易さの点から好ましい。
【化6】
ここで、*4は式(1)中のTと結合しており、*5は式(1)中のPと結合している。
【0033】
Pは(メタ)アクリルオキシ基であり、特に、下記一般式(11)で表される(メタ)アクリルオキシ基である。
【化7】
式中、R
8は水素原子又はメチル基を示す。
【0034】
下付き文字mは1又は2であり、nは1〜3の整数であるが、mとnとが同時に1であることはない。好ましくは、mは2であり、nは1である。
【0035】
(A)反応性紫外線吸収剤の例としては、出発反応体の入手し易さ、多官能性(メタ)アクリレートなどの比較的極性の高いバインダー前駆体への相溶性、及び光硬化性の点で好ましいことから、下記の化合物などを挙げることができる。
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【0036】
(A)反応性紫外線吸収剤の製造方法は、特に限定されるものではない。例えば、エステル交換反応及びウレタン化反応を組み合わせることにより合成することができる。
【0037】
反応性紫外線吸収剤を製造する一方法としては、下記式(7)で示される前駆化合物を出発とする。
【化12】
ここで、Y
1、Y
2、X、nは前記の通りである。
【0038】
一つの態様として、Xが上記式(4)等のエステル基(COO基)を含む式(7)の前駆化合物は、下記式(9)で表されるエステル化合物と、下記式(10)で表される多価アルコール化合物とをエステル交換反応させて、下記式(7a)の前駆化合物を得る工程(i)により得ることができる。
【化13】
ここで、Y
1、Y
2は前記の通りである。R
4は酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい1価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素基である。
【化14】
ここで、R
5、R
6、R
7はそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい1価の直鎖もしくは分岐の飽和炭化水素基、又は酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい末端に水酸基を有する1価の直鎖もしくは分岐の飽和炭化水素基であって、R
5、R
6、R
7のうち少なくとも1つは水酸基又は酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい末端に水酸基を有する1価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素基である。
【化15】
ここで、Y
1、Y
2、nは前記の通りである。X’は式(4)で示される基等の酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうちの少なくとも1種の元素が介在していてもよいエステル基を含む2、3又は4価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素残基である。
【0039】
式(1)の目的化合物は、式(7)の前駆化合物を下記式(8)の化合物と反応させること、特に式(7)の前駆化合物中のXに結合している水酸基を式(8)の化合物中のイソシアネート基と反応させる工程(ii)によって製造される。
【化16】
ここで、Q、P、mは前記の通りである。
工程(i)
【0040】
式(7)の前駆化合物、特にXが式(3)の基である式(7)の前駆化合物は公知の化合物であり、いずれの公知の方法によって製造することができる。
【0041】
Xが式(4)で示されるもの等のエステル(COO)基を含む式(7)の前駆化合物は、下記式(9)のエステル化合物と下記式(10)の多価アルコールとをエステル交換する工程(i)により得ることができ、下記式(7a)の前駆化合物を形成することができる。
【化17】
ここで、Y
1、Y
2は前記の通りであり、R
4は酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい1価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素基である。
【化18】
ここで、R
5、R
6、R
7は前記の通りである。
【化19】
ここで、Y
1、Y
2、nは前記の通りである。X’は酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうちの少なくとも1種の元素が介在していてもよいエステル基を含む2、3又は4価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素残基であり、特に式(4)の基である。
【0042】
前記式(9)において、R
4は、酸素、窒素、硫黄及びリン原子の少なくとも1種の元素が介在していてもよい炭素数1〜25の1価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素基である。具体的には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、シクロヘキシル、n−へプチル、イソへプチル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシルなどを挙げられる。なかでも出発反応体の入手し易さから、n−オクチルが好ましい。
【0043】
前記式(9)で表されるエステル化合物は市販品として入手し得、例えば、商品名「Tinuvin479」(BASF社製)を挙げることができる。
【0044】
前記式(10)において、R
5、R
6、R
7は、独立に水素原子、水酸基、酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい1価の直鎖もしくは分岐の飽和炭化水素基、又は酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい末端に水酸基が結合した1価の直鎖もしくは分岐の飽和炭化水素基であって、R
5、R
6、R
7のうち少なくとも1つは水酸基又は酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい末端に水酸基が結合した1価の直鎖もしくは分岐の飽和炭化水素基である。なかでも出発反応体の入手し易さから、メチル基、水酸基、メチロール基が好ましい。好適な多価アルコールとしては、ペンタエリスリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジメチロールプロパン、ジメチロールブタン、ジメチロールペンタン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどを挙げることができる。なかでも出発反応体の入手し易さから、ペンタエリスリトール及びトリメチロールプロパンが好ましい。
【0045】
前記式(7a)において、X’は、酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい2、3又は4価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素残基であって、具体的には、前記式(10)から誘導される残基を含むエステル含有基である。
【0046】
工程(i)において、式(9)と式(10)との反応は、温度10〜200℃の範囲で行うことができ、より好ましくは20〜180℃である。10℃未満の温度の場合には、反応に時間がかかり、生産性の観点から好ましくない。一方、200℃を超える温度の場合には、副反応による副生成物が多くなり易く、また生成物が着色する場合がある。
【0047】
工程(i)では、反応を促進するために触媒を用いてもよい。触媒としては、通常エステル交換反応に用いられる公知の触媒を用いることができる。例えば、スズ系の触媒を用いることができる。触媒の使用量としては、前記式(9)及び式(10)で表される化合物の全量に対して、0質量%より多く5質量%までの範囲が好ましく、より好ましくは1,000ppm〜3質量%である。触媒が5質量%を超えると副生成物が副生し易く、また生成物が着色し易くなる。
【0048】
反応を行う場合、前記式(9)及び式(10)で表される化合物は等モル量使用することができるが、使用量はこれに限定されるものではない。
【0049】
工程(i)の反応の際には、溶媒を用いてもよい。溶媒としては、前記式(9)で表される化合物を溶解できるものであって、かつ活性水素を有しないものが好ましい。活性水素を有する溶媒を用いると、前記式(7a)の前駆化合物以外の副生物が生じてしまうので好ましくない。また反応系から水を除去する目的で、共沸脱水やモレキュラーシーブスによる脱水処理を行ってもよい。工程(i)に使用する溶媒は、工程(ii)の反応生成物から溶媒を除去せずにコーティング組成物を調製できるという観点から、コーティング組成物の調製時に用いる溶媒と同じであることが好ましい。
工程(ii)
【0050】
工程(ii)は、前記式(7)で表される前駆化合物中のXと結合した水酸基を、式(8)で表される化合物のイソシアネート基と反応させ、前記式(1)で表される目的化合物を得る工程である。
【化20】
【0051】
式(8)中、Qは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい2又は3価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素残基であり、Pは(メタ)アクリルオキシ基であり、mは1又は2である。
【0052】
炭化水素残基Qの例としては、−CH
2−、−CH
2CH
2−、−CH(CH
3)CH
2−、−(CH
2)
4−、−CH(CH
3)CH
2CH
2−、−C(CH
3)
2CH
2−、=CH−、=CHCH
2−、=C(CH
3)CH
2−、−C(CH
3)(CH
2−)
2などを挙げることができる。なお、記号“=”は二重結合ではなく、結合手が2本あることを示す。
【0053】
特にQとしては、式(5)又は(6)で表される基であり得る。
【化21】
ここで、*4は式(1)中のTと結合し、*5は式(1)中のPと結合する。
【0054】
式(8)中のPとしては、(メタ)アクリルオキシ、特に一般式(11)で表される(メタ)アクリルオキシ基である。
【化22】
ここで、R
8は水素原子又はメチル基を示す。
【0055】
式(8)中のmは1又は2であり、好ましくは2である。mが2を超える場合、対応する化合物は合成が難しく入手しにくくなるためである。式(1)中のnが1の場合、mは1であることはない。m=n=1である場合、式(1)において得られる化合物としてはモノ(メタ)アクリルオキシ化合物、いわゆる単官能性化合物となり、これは3次元架橋することができないことから、得られる硬化被膜の耐摩耗性の低下が顕著になるためである。
【0056】
前記式(8)の化合物の具体例としては、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート、1,1−ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートなどを挙げることができ、これらは市販品として昭和電工(株)製の商品名カレンズ(Karenz)AOI、カレンズBEI、カレンズMOIとして入手することができる。
【0057】
この工程(ii)において、式(7)と式(8)の化合物の反応は、温度10〜200℃の範囲で行うことが好ましく、より好ましくは20〜180℃である。10℃未満の温度の場合には、反応時間がかかり、生産性の観点から好ましくない。200℃を超える温度の場合には、副反応による副生成物が多くなり易く、また生成物が着色する場合がある。
【0058】
工程(ii)では、反応を促進させるために触媒を用いてもよい。触媒としては、通常ウレタン化反応に用いられているスズ系の触媒のような公知の触媒を用いることができる。触媒の使用量としては、前記式(7)及び式(8)で表される化合物の全量に対して、0ppmより多く10,000ppmまでの範囲が好ましく、より好ましくは100〜5,000ppmである。触媒が10,000ppmを超えると副生成物が副生し易く、また生成物が着色し易くなる。
【0059】
反応に際して、前記式(7)及び式(8)で表される化合物は等モル量を用いることができるが、使用量はこれに限定されるものではない。使用量は、式(8)中のイソシアネート基と反応できる式(7)中の水酸基の数によって調整すればよい。反応生成物中にイソシアネート基が残存しないように、化合物(8)に対する化合物(7)の比を調整することが好ましい。イソシアネート基が残存する場合、反応生成物を含むコーティング組成物は貯蔵安定性が低下する傾向にある。
【0060】
化合物(7)中にはベンゼン環に結合した水酸基が存在するが、この水酸基は化合物(8)中のイソシアネート基とはウレタン化反応しない。その理由として、フェノール性水酸基とイソシアネート基との反応は遅く、更に当該水酸基の周りは立体障害で込み入っているためと考えられる。実際、反応後の
1H−NMR分析でフェノール性水酸基のプロトンが残存していることが確認される。
【0061】
なお、ウレタン化反応の際には、(メタ)アクリルオキシ基の重合を抑制するため、p−メトキシフェノールなどの重合禁止剤を使用してもよい。また反応雰囲気を大気下又は4%酸素を含む窒素などの下で行うことでも重合を抑制することができる。これらの重合抑制手段を併用してもよい。
【0062】
工程(ii)の反応の際には、溶媒を用いてもよい。溶媒としては、前記式(7)で表される化合物を溶解できるものであって、かつ活性水素を有しないものが好ましい。活性水素を有する溶媒を用いると、化合物(8)中のイソシアネート基と反応し、副生物が生成するので好ましくない。反応系から水を除去する目的で、共沸脱水やモレキュラーシーブスによる脱水処理を行ってもよい。工程(ii)で使用する溶媒は、工程(ii)の反応物から溶媒を除去せずにコーティング組成物を調製できるという観点から、コーティング組成物に用いる溶媒と同じであることが好ましい。
【0063】
上述したように、コーティング組成物は、反応性紫外線吸収剤(A)及びバインダー前駆化合物(B)を含む。(A)成分は、(B)成分100質量部に対して1〜100質量部、特に5〜80質量部の量で用いることができる。(A)成分が1質量部未満の場合には、得られる積層体が耐候性を十分に発現できず、100質量部を超える場合には、得られる積層体の耐摩耗性及び基材への密着性が低下するおそれがある。
【0064】
(B)成分は多官能性(メタ)アクリレートである。
【0065】
ここで使用し得る(B)成分の例は、重合性不飽和結合を有する多官能性(メタ)アクリレートであり、例えばウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシアルコキシシランの加水分解物及び/又は縮合物、コロイダルシリカと(メタ)アクリロイルオキシアルコキシシランとを加水分解縮合して得られる有機/無機ハイブリッド(メタ)アクリレートなどが挙げられ、塗膜の要求性能に応じて適宜選択すればよい。
【0066】
(B)成分として、本発明の利点を損なわない限り、種々の単官能性(メタ)アクリレートを加えることができる。単官能性(メタ)アクリレートの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、モルフォリニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカン(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート等のモノ(メタ)アクリレート、無水フタル酸と2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの付加物などのモノ(メタ)アクリレート誘導体等が挙げられる。
【0067】
多官能性(メタ)アクリレートの例としては、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(n=2−15)ジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2−15)ジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコール(n=2−15)ジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、トリメチロールプロパンジアクリレート、ビス(2−(メタ)アクリロキシエチル)−ヒドロキシエチルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(2−(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート;ビスフェノールA型ジエポキシと(メタ)アクリル酸とを反応させたエポキシジ(メタ)アクリレート等のエポキシポリ(メタ)アクリレート;1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体に2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを反応させたウレタントリ(メタ)アクリレート、イソホロンジイソシアネートと2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとを反応させたウレタンジ(メタ)アクリレート、イソホロンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートとを反応させたウレタンヘキサ(メタ)アクリレート、ジシクロヘキシルジイソシアネートと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとを反応させたウレタンジ(メタ)アクリレート、ジシクロヘキシルジイソシアネートとポリ(n=6−15)テトラメチレングリコールとのウレタン化反応物に2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとを反応させたウレタンジ(メタ)アクリレート等のウレタンポリ(メタ)アクリレート;トリメチロールエタンとコハク酸及び(メタ)アクリル酸とを反応させたポリエステル(メタ)アクリレート、トリメチロ−ルプロパンとコハク酸、エチレングリコール及び(メタ)アクリル酸とを反応させたポリエステル(メタ)アクリレート等のポリエステルポリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
なお、ここで用いる“n”はポリエチレングリコール及びその類似物の繰り返し単位数を示す。
【0068】
(メタ)アクリロイルオキシアルコキシシランの加水分解物及び/又は縮合物やコロイダルシリカと(メタ)アクリロイルオキシアルコキシシランとを加水分解縮合して得られる有機/無機ハイブリッド(メタ)アクリレートも塗膜の硬度や耐久性を向上させるために有用である。それらの例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリロキシエチルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、8−(メタ)アクリロキシオクチルトリメトキシシラン、8−(メタ)アクリロキシオクチルトリエトキシシランなどの単独シラン又は他のシランとの混合シランを、場合によってコロイダルシリカ存在下で、(共)加水分解縮合することによって得られる(メタ)アクリロイル基含有アルコキシシランの加水分解物又は加水分解縮合物、有機/無機ハイブリッドビニル化合物及び有機/無機ハイブリッド(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
【0069】
(B)成分として必要に応じて上に例示した化合物を複数組み合わせて用いることができ、そのような組み合わせは好ましい。特に、1又は2種類の多官能性(メタ)アクリレートと(メタ)アクリロイル基含有アルコキシシランの加水分解物又は加水分解縮合物の少なくとも1種の組み合わせが適している。なかでもヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、モノ又はポリペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート、1分子内に少なくとも5個のラジカル重合性不飽和二重結合を有するウレタンポリ(メタ)アクリレート、1分子内に少なくとも5個のラジカル重合性不飽和二重結合を有するポリエステルポリ(メタ)アクリレート、ポリ〔(メタ)アクリロイルオキシアルキル〕(イソ)シアヌレート、(メタ)アクリロイルオキシプロピルアルコキシシラン単独又は他のシランとの(共)加水分解物/縮合物、コロイダルシリカと(メタ)アクリロイルオキシプロピルアルコキシシラン等の(メタ)アクリル官能性アルコキシシラン単独又は他のシランとを(共)加水分解・縮合して得られる有機/無機ハイブリッド(メタ)アクリレートなどの2種又はそれ以上の組み合わせが、耐熱性、耐薬品性、耐久性、基材との密着性に優れた塗膜を得ることができるためにより好ましい。
【0070】
(C)成分は、光重合開始剤で、これは光硬化型コーティング組成物中での相溶性及び硬化性を考慮して選択すればよく、特に限定されるものではない。
【0071】
開始剤(C)の具体例としては、例えばベンゾイン、ベンゾインモノメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、アセトイン、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2,2−ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、メチルフェニルグリオキシレート、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルエトキシフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイドなどのリン酸化合物;2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1やカンファーキノン等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で使用しても、2種以上を併用して用いてもよい。上記化合物の2種以上は、要求される塗膜性能に応じて、任意に組み合わせることができる。
【0072】
また(C)成分の含有量は、(A)、(B)成分の合計100質量部に対して、0.1〜10質量部の範囲とすることができ、特に1〜8質量部である。(C)成分が0.1質量部未満の場合には、得られる塗膜の硬化速度が著しく低下し、耐摩耗性及び基材への密着性が低下するおそれがある。(C)成分が10質量部を超える場合には、硬化塗膜の着色や耐候性の低下が生じるおそれがある。
【0073】
中間層(II)を形成するための湿式コーティング組成物は、必要に応じて、1種又はそれ以上の添加剤を含んでもよい。そのような添加剤の例としては、(A)成分以外の紫外線吸収剤、有機溶剤、防汚剤、撥水剤、レベリング剤、着色剤、顔料、酸化防止剤、黄変防止剤、ブルーイング剤、消泡剤、増粘剤、沈降防止剤、帯電防止剤、界面活性剤、粘着付与剤、赤外線吸収剤、光安定剤、硬化触媒、金属酸化物微粒子等が挙げられる。好ましくは、コーティング組成物は、防汚剤、撥水剤、レベリング剤、着色剤、顔料、粘着付与剤、赤外線吸収剤、光安定剤、前記重合開始剤以外の硬化触媒、前記有機/無機ハイブリッド(メタ)アクリレート〔以下、(メタ)アクリル官能性アルコキシシランで表面処理されたコロイドシリカと称する場合がある〕以外の金属酸化物微粒子、及び(A)成分以外の紫外線吸収剤を含む群から選択された1以上の添加剤を含むことができる。
【0074】
金属酸化物微粒子の例としては、シリカ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、及びこれらを少なくとも1種含む組み合わせが挙げられる。積層体の透明性の観点から、金属酸化物微粒子は、ナノサイズ(例えば1μm未満)であることが好ましい。積層体の硬度及び耐摩耗性を高めたい場合又は紫外線吸収性能を増強したい場合に、金属酸化物ナノ粒子を適量添加することができる。そのような粒子のサイズ(又は長さ)はナノ(即ちナノメートル、(nm))又はサブミクロンオーダーであり、特に500nm以下、より好ましくは5〜200nmである。このようなナノ粒子は、一般にナノ粒子が水又は有機溶剤の媒体に分散している分散液の形態で使用する。例えば、適切なシリカ分散物として、日産化学工業(株)製スノーテックス−O、OS、OL、メタノールシリカゾル等の市販品を挙げることができる。
【0075】
酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウムのナノ粒子について、光触媒活性が低いもの、あるいは活性のないものを使用することができる。酸化物ナノ粒子は、一般的に紫外線遮蔽作用を有すると同時に光触媒としても機能する。光触媒活性の高い酸化物ナノ粒子をコーティング組成物に使用した場合、被膜に光触媒作用によるバインダーの劣化に伴うクラックが発生する。活性の低い、あるいはない酸化物ナノ粒子を使用した場合は、クラック発生が抑制される。光触媒活性は、メチレンブルーの光劣化による吸光度変化を測定することによって評価することができる。即ち、濃度0.01ミリモル/リットル(mmol/L)のメチレンブルーの水/メタノール(1:1質量比)のメチレンブルー溶液20gに固形分として0.15gの酸化物ナノ粒子が加えられる。溶液はブラックライトにより15ワット(W)の電力及び溶液から100ミリメートル(mm)の距離において12時間光照射される。その後、溶液は、3,000回転/分(rpm)で15分間遠心分離され、上澄みを収集し、紫外/可視分光光度計によりメチレンブルーの吸光度を653ナノメートル(nm)で測定する。光触媒分解性(PD)は、下記式に従ってブラックライト照射前後の吸光度から計算される:
PD(%)=[(A
0−A)/A
0]×100
ただし、A
0は初期吸光度、Aは光照射後の吸光度である。
酸化物ナノ粒子は、光触媒分解性(PD)が25%又はそれより少ないことが必要である。最小の光触媒活性を有する酸化物ナノ粒子の例としては、酸化物ナノ粒子の表面を酸化物(例えばシリカ)又は水酸化物で被覆するか又は加水分解性シランで表面処理することにより得ることができる表面被覆酸化物ナノ粒子が挙げられる。表面被覆酸化物ナノ粒子の例としては、酸化物ナノ粒子にAl、Si、ZrあるいはSnのアルコキシドを用い、これを加水分解することで酸化物被覆を施したもの、又は、ケイ酸ナトリウム水溶液を用い、中和させることにより表面に酸化物や水酸化物を析出させたもの、更に必要により析出した酸化物や水酸化物を加熱して結晶性を高めたものを挙げることができる。このような酸化物ナノ粒子は、市販されているものとして、シーアイ化成社製のナノテック(Nano−Tek(登録商標))ZNTANB15WT%−E16、同E34、RTTDNB15WT%−E68、同E88を挙げることができる。
【0076】
ナノ粒子金属酸化物の配合量は、(A)、(B)、及び(C)の合計固形分の100質量部に対して、0〜50質量部(pbw)であり、使用する場合は特に0質量部より多く50質量部まで、特に望ましくは5〜40質量部の範囲にすることが好ましい。金属酸化物が50質量部を超えると、基材に対する接着性が低くなる可能性がある。
【0077】
紫外線吸収性能を増強したい場合に(A)成分以外の有機系紫外線吸収剤を配合できる。紫外線吸収剤としては、本発明の湿式コーティング組成物と相溶性が良好で、かつ揮発性の低い有機系紫外線吸収剤が望ましい。低揮発性の有機系紫外線吸収剤は、300又はそれより大きい分子量を有し、開放状態で120℃,24時間保持したときに少なくとも90%の重量を保持している。有機系紫外線吸収剤としては、主骨格がヒドロキシベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系、トリアジン系である化合物誘導体が好ましい。更に側鎖にこれら紫外線吸収剤を含有するビニルポリマー及びコポリマーのような重合体、又はシリル化変性された有機系紫外線吸収剤、その(部分)加水分解縮合物が有用である。このような補助的な紫外線吸収剤としては、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ベンジロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジエトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジプロポキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジブトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシ−4’−プロポキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシ−4’−ブトキシベンゾフェノン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、2−(2−ヒドロキシ−5−t−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−4,6−ジフェニルトリアジン、2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノンの(共)重合体、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールの(共)重合体、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノンとγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランとの反応物、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンとγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランとの反応物、これらの(部分)加水分解物等が挙げられる。これらの有機系紫外線吸収剤は2種以上を混合して用いることができる。
【0078】
補助的な有機系紫外線吸収剤の配合量は、湿式コーティング組成物の固形分100質量部に対して0〜50質量部とすることができ、特に0質量部より多く50質量部まで、より好ましくは0.3〜15質量部、更には0.3〜5質量部とすることができる。しかしながら、これらの有機系紫外線吸収剤は、反応性の(メタ)アクリル基を有さないので、バインダー前駆体と反応せず、中間層に固定化できないので、補助的な有機系紫外線吸収剤がブリードアウトするおそれがある。この紫外線吸収剤がブリードアウトすると中間層(II)とプラズマ層との間の密着性を損なう可能性がある。
【0079】
また、塗膜の平滑化をはかるため、フロラードFC−4430(住友スリーエム(株)製)、KP−341(信越化学工業(株)製)等のフッ素系あるいはシリコーン系の界面活性剤を効果量添加してもよい。また、この塗膜の硬化を促進させるためにネオスタンU−810(日東化成(株)製)、B−7(日本曹達(株)製)、オルガチックスZA−60、TC−200(松本製薬工業(株)製)等の架橋硬化触媒を触媒量添加してもよい。
【0080】
適切な有機溶剤は塗装方法によって選択して用いるのがよい。例えば、イソブタノールなどのアルコール系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコール系溶剤、酢酸n−ブチルなどのエステル系溶剤、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、トルエンなどの芳香族系溶剤、これらの組み合わせを適宜選択することができる。溶剤はスプレー塗装の場合には、コーティング組成物の粘度を20mPa・s以下にする量で用いられる。またシャワーフローコートやディップによる塗装の場合には、コーティング組成物の粘度を100mPa・s以下にする量で用いられる。一方、固形分が80質量%を超えるハイソリッド型コーティング組成物の場合では、各種添加剤の溶解性を考慮し、溶剤を注意深く選択することが必要となる。
【0081】
中間層(II)の厚さは特に制限はないが、0.1〜50μmの厚さとすることができる。塗膜の硬さ、耐摩耗性、長期的に安定な密着性及びクラックが発生しにくいことを満たすためには、1〜30μmの厚さであることが好ましい。厚さが0.1μm未満であると塗膜に欠損が生じ易くなったり、十分な紫外線吸収能を付与できない場合がある。厚さが50μmを超えると、塗膜にクラックが発生し易くなる。
【0082】
湿式コーティング組成物は、通常の塗布方法で基材の上に塗布することができる。好適なコーティング手法としては、刷毛塗り、スプレーコート、浸漬、フローコート、ロールコート、カーテンコート、スピンコート、ナイフコートが挙げられる。
【0083】
湿式コーティング組成物を塗布した後、中間層(II)を得る前に、被膜は乾燥を行うことができる。乾燥は、溶剤を除去できる条件であれば特に限定されるものではない。多くの場合、被膜は、基材の耐熱温度以下の温度で加熱する。被膜は、15〜120℃の温度で、1〜20分間加熱することができる。
【0084】
湿式コーティング組成物は、光照射によって硬化する。ここで照射源及び照射量は特に限定されるものではない。具体的な照射源としては、低圧、中圧、高圧、超高圧の水銀灯、ケミカルランプ、カーボンアーク灯、キセノン灯、メタルハライド灯、蛍光灯、タングステン灯、太陽光などが挙げられる。照射量としては、365nmで100〜10,000ミリジュール/平方センチメートル(mJ/cm
2)とすることができ、より好ましくは365nmで300〜5,000mJ/cm
2の範囲である。
【0085】
樹脂基材を湿式コーティング組成物で湿式コーティングする際、組成物は、基材表面に直接又は必要により他のコーティング層、例えばプライマー層、紫外線吸収層、印刷層、記録層、熱線遮蔽層、粘着層、又は無機蒸着膜層を介して塗布することができる。
【0086】
更に必要に応じて、積層体の表面上に、他のコーティング層、例えば接着層、紫外線吸収層、印刷層、記録層、熱線遮蔽層、粘着層、無機蒸着膜層、撥水/撥油層、又は親水防汚層などを形成してもよい。
基材
【0087】
本発明で用いられる基材としては、プラスチック材料(例えば、有機樹脂基材)にて形成することができ、例えばポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、ウレタン樹脂、チオウレタン樹脂、ハロゲン化ビスフェノールAとエチレングリコールの重縮合物、アクリルウレタン樹脂、ハロゲン化アリール基含有アクリル樹脂、含硫黄樹脂、及び上記のプラスチック材料を1種以上含む組み合わせが好ましい。更にこれらの樹脂基材の表面が処理されたもの、具体的には、化成処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、酸やアルカリ液での処理、及び上記の処理を少なくとも一つを含む組み合わせであってもよい。また、単層の基材であっても複数層の基材であってもよい。ベース樹脂基材と、このベース樹脂とは異なるタイプの樹脂から形成されてこのベース樹脂上の表面層とを含む積層基材を用いることもできる。例えば、基材が単層のプラスチック材料(例えば、ポリカーボネートのような透明プラスチック材料)と、基材に物理的に接触させて直接基材表面上に堆積させた多層コーティングとからなる積層基材が挙げられる。別の態様として、上記の基材が複数層からなる基材(例えば、共押し出し法やラミネート法により製造されるものが挙げられる。この複数層の積層基材の例としては、キャップ層(例えば、アクリル樹脂層及び/又はウレタン樹脂層)と、共押し出し法やラミネート法により製造されるプラスチック層を有する積層基材を含む。この場合、多層コーティング層が上記キャップ層の上に形成される。多層構造の基材の例としては、プラスチックの基材と紫外線吸収性を有するキャップ層を含むものであり、具体例として、ポリカーボネートベース樹脂基材とキャップ層としてアクリル樹脂層もしくはウレタン樹脂層を有する多層基材、又はポリエステルベース樹脂基材とキャップ層としてアクリル樹脂層を有する多層基材等が挙げられる。これらの多層基材は例えば共押し出し法やラミネート法により製造される。
【0088】
本発明に係る積層体は、耐摩耗性が特徴である。耐摩耗性の指標は、テーバー摩耗試験におけるデルタヘーズ値(ΔHz)である。即ち、ΔHz値はASTM D1044に準じ、テーバー摩耗試験機にて摩耗輪CS−10Fを装着し、荷重500グラム(g)の下での1,000回転後のヘイズを測定し、試験前後のヘイズ値の差(ΔHz)を計算することで定められる。積層体とは、ΔHzが5.0%以下、特に3.0%以下、更には2.0%未満を満たすことができる。
【0089】
本発明の積層体は、密着性がもう一つの特徴である。密着性の指標としては、(A)ASTM D870に従ってイオン交換水に65℃において10日間浸漬し、ASTM D3359,B方式のテープ試験により密着性を測定する密着性試験、及び(B)ASTM D870に従ってイオン交換水に100℃で2時間浸漬し、ASTM D3359,B方式のテープ試験により密着性を測定する密着性試験により行われる。上記試験(A)及び(B)の両方を行った後、取り除かれた面積が3%又はそれより少ない場合、試料は良好な密着性であると評価される。
【0090】
本発明の積層体は、更に耐候性も特徴である。耐候性の指標としては、被膜がそのままに保っているか否か、即ち、被膜にクラックや剥離が生じたか否か、また積層体が黄変したか否かをみる耐候性試験によって行われる。被膜のクラックの発達を試験するため、耐候性試験は、アイスーパーUVテスターW−151(岩崎電気(株)製)を使用し、[ブラックパネル温度63℃,湿度50%RH、照度が一平方センチメートル当たり50ミリワット(mW/cm
2)、水スプレー間隔が1時間当たり10秒(sec/hour)で5時間]及び[ブラックパネル温度30℃,湿度95%RHで1時間]からなるサイクルを繰り返すことによって行われる。30サイクル後において、被膜がクラックも剥離も生ぜず、また基材が3.0又はそれより小さい黄色インデックス変化を示す試料が、試験に合格と判断される。
【実施例】
【0091】
以下、積層体の実施例を具体的に示すが、これに制限されるものではない。実施例において、全ての部及びパーセントは、別にことわらない限り、質量基準である。粘度はJIS Z 8803に基づいて25℃で測定した。Mwは標準ポリスチレンを基準としたGPCにより測定した重量平均分子量である。GPCはゲルパーミエーションクロマトグラフィーであり、
1H−NMRは、プロトン核磁気共鳴スペクトルであり、IRは赤外線吸収スペクトルである。
反応性紫外線吸収剤(A)の合成:[合成例1]
【0092】
1Lのフラスコに、Tinuvin405(BASF社製;2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−(2’−エチル)ヘキシル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン)を87.6g(0.15モル)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを391.5g、及びメトキシフェノールを0.12g仕込み、4%酸素/窒素雰囲気下、80℃にて加熱撹拌した。次いで、フラスコにカレンズBEI(昭和電工(株)製;1,1−ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート)を35.9g(0.15モル)、及びジオクチルスズオキシドを0.12g投入し、80℃で5時間反応させた。反応液を室温まで冷却した後、シリカゲルを充填したカラムに通し、減圧濃縮して、黄色透明粘稠液体110.8gを得た。この液体は、GPC(
図1)、
1H−NMR(
図2)及びIR(
図3)の分析結果から、この液体は、下記式(12)で示される化合物S1であることが確認された。また、下記式(12)から計算されるS1の紫外線吸収性基含有率は、48%である。
【化23】
[合成例2]
【0093】
1Lのフラスコに、Tinuvin479(BASF社製;2−[2−ヒドロキシ−4−(1−オクチルオキシカルボニルエトキシ)フェニル]−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジン)101.7g(0.15モル)、1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)プロパン220g、及びジオクチルスズオキシド8gを仕込み、窒素雰囲気下、165℃にて5時間加熱撹拌した。次いで反応液を室温まで冷却後、メタノールを用いて結晶析出させた。結晶を濾過し、メタノールで洗浄した。その後、トルエンから再結晶化させることにより、下記式(20)で示される前駆化合物を得た。
【化24】
【0094】
次いで、500ミリリットル(mL)フラスコに前記式(20)の前駆化合物35g(0.05モル)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを130.5g、及びメトキシフェノールを0.04g仕込み、4%酸素/窒素雰囲気下、80℃にて加熱撹拌した。次いで、フラスコにカレンズBEI(昭和電工(株)製;1,1−ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート)を24g(0.1モル)、及びジオクチルスズオキシドを0.04g投入後、80℃で5時間反応させた。反応液を室温まで冷却した後、シリカゲルを充填したカラムに通し、減圧濃縮して下記式(15)で示される化合物S3を41.8g得た。また下記式(15)から計算される化合物S
2の紫外線吸収性基含有率は、41%である。
【化25】
[参考例1(3官能アクリルシラン加水分解縮合物)]
【0095】
KBM5103(信越化学工業(株)製、アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン)142gにイソプロピルアルコール500g、p−メトキシフェノール0.1g、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド1.0g、脱イオン水20gを配合し、20℃で24時間反応させ、無色透明の液体を得た。この液体を減圧蒸留にて濃縮し、無色透明の液体として3官能アクリルシラン加水分解縮合物(5103縮合物)を得た。この液体の不揮発分は99.3%、Mw(重量平均分子量)は1,900であった。
[参考例2(有機/無機ハイブリッドアクリレート;アクリルシランで表面処理したコロイダルシリカ)]
【0096】
KBM5103(信越化学工業(株)製、アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン)2.8g、メチルエチルケトンシリカゾルMEK−ST(日産化学工業(株)製、数平均粒子径45nm、シリカ濃度30%)95.6g(固形分28.7g)及びイオン交換水0.1gの混合物を、80℃、3時間撹拌した。この混合物にオルト蟻酸メチルエステル1.4gを添加し、更に1時間同一温度で加熱撹拌することで表面処理シリカ粒子分散液(5103処理シリカ)を得た。この分散液の固形分含量は32質量%であった。このシリカ粒子の平均粒子径は45nmであった。
[参考例3(2官能アクリルシラン加水分解縮合物)]
【0097】
KBM5102(信越化学工業(株)製、アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン)155gにp−メトキシフェノール0.15g、エタノール3.9g、及び陽イオン交換樹脂ピューロライト(登録商標)CT−169DR 1.9gを配合し、よく撹拌した。次いでこの混合物にイオン交換水25.5gを加え、室温下、1時間撹拌した後、70℃まで加熱し、更に2時間撹拌した。反応混合物は減圧蒸留にて濃縮し、メッシュ濾過にて陽イオン交換樹脂を濾別することで、無色透明の液体として2官能アクリルシラン加水分解縮合物(5102縮合物)を得た。この不揮発分は、98.8%、粘度は129ミリパスカル−秒(mPa・s)であった。
湿式コーティング組成物の調製
調製例1〜4、比較調製例1〜5
【0098】
(A)合成例1及び2の化合物S1及びS2から選ばれる反応性紫外線吸収剤、(B)多官能性(メタ)アクリレート、(C)光重合開始剤、及びその他の成分を表1に示す配合量で、室温下、30分間混合し、濾紙No.2で濾過することで、光硬化性コーティング組成物(α1〜α4,α7〜α11)を得た。
【表1】
【0099】
なお、表1中の略語は次の通りである。
(B)成分
A−M403 :東亞合成(株)の商標アロニックスM403として入手されるジペン
タエリスリトールペンタ及びヘキサアクリレート
HDDA :ダイセル・オルネクス社の商標HDDAとして入手される1,6−ヘ
キサンジオールジアクリレート
U−4HA :新中村化学工業(株)商標U−4HAとして入手される無黄変タイプ
ウレタンアクリレート
5103縮合物:KBM5103(3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランの信
越化学工業(株)の商標)の加水分解縮合物、参考例1参照
5103処理シリカ:有機/無機ハイブリッド分散液、即ち、KBM5103(3−ア
クリロキシプロピルトリメトキシシランの信越化学工業(株)の商標
)によって表面処理されたコロイダルシリカの有機溶剤分散液、参考例
2参照
5102縮合物:KBM5102(3−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン
の信越化学工業(株)の商標)の加水分解縮合物、参考例3参照
(C)成分
I754 :BASF社の商標IRGACURE754である光重合開始剤として
入手されるオキシフェニル酢酸2−[2−オキソ−2−フェニルアセト
キシエトキシ]エチルエステルとオキシフェニル酢酸2−(2−ヒドロ
キシエトキシ)エチルエステルとの混合物
I184 :BASF社の商標IRGACURE184である光重合開始剤として
入手される1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン
TPO :BASF社の商標Lucilinの光重合開始剤として入手される2
,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド
その他の成分
T928 :BASF社の商標TINUVIN928である紫外線吸収剤として入
手される2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(1−メ
チル−1−フェニルエチル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブ
チル)フェノール
R93 :大塚化学(株)の商標RUVA93である紫外線吸収剤として入手さ
れる2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロキシエチルフェニル)
−2H−ベンゾトリアゾール
T400 :BASF社の商標TINUVIN400である紫外線吸収剤として入
手される2−(4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,
5−トリアジン−2−イル)−5−ヒドロキシフェニルとオキシラン[
(C
10−C
16,主としてC
12−C
13アルキルオキシ)メチル]オキシラ
ンとの反応生成物85%及び1−メトキシ−2−プロパノール15%の
混合物
TiO
2 :CI化成(株)の商標Nano−Tek RTTDNB 15wt%
−E88として入手される有機溶剤に分散した表面処理酸化チタン
HALS :(株)ADEKAの商標LA−82として入手される1,2,2,6
,6−ペンタメチル−4−ピペリジニルメタクリレート
KP341 :信越化学工業(株)の商標KP341として入手されるポリエーテル
変性シリコーン
PGM :プロピレングリコールモノメチルエーテル
積層体の調製及び評価
実施例1
【0100】
調製例1の光硬化性コーティング組成物(α1)を、レキサン(Lexan(登録商標))ポリカーボネート板(150mm×150mm×4mm厚)の清浄化した表面にフローコートし、80℃で5分加熱し溶剤の蒸発を行った。次いで、120ワット(W)の高圧水銀ランプを備えたコンベア型紫外線照射装置を用いて、365nmにおいて積算光量600mJ/cm
2になるよう窒素雰囲気下で紫外線照射した。こうして中間層(II)として厚さ約9〜11μmの硬化被膜を得た。
【0101】
次に、プラズマ重合により、硬化被膜上にプラズマ層としてケイ素、酸素、炭素及び水素から形成された被膜を析出させ、積層体を得た。具体的には、プラズマ重合の前に、光硬化性コーティング組成物の硬化被膜が形成された基材は、イソプロピルアルコール/脱イオン水が浸されたリントフリーの布によって手により清浄にされた。次いで、真空チャンバー内において、連続的な両サイド(2−sided)膨張熱プラズマ(expanding thermal plasma)プロセスによりプラズマ重合を行った(C. D. Iacovangelo, et al. “Expanding thermal plasma deposition system”, US Patent Application 2005/0202184, March 8, 2005)。2つのプラズマコーティング位置は、超音速でアルゴンプラズマジェットを創成する膨張熱プラズマ源列よりなる。プラズマジェットはプラズマコーティング位置で膨張し、チャンバー内に直接注入された有機ケイ素試薬と任意成分の酸化剤と反応した。この有機ケイ素試薬はオクタメチルシクロテトラシロキサン(Gelest社製)であり、酸化剤は工業用グレードの99%純酸素(Airgas社製)であった。基材は連続的にチャンバーを通って移送され、コーティング位置に入る前に約40〜70℃に加熱された。
【0102】
プラズマプロセスの変数は、予熱チャンバーの加熱温度、移送線速度、有機ケイ素化合物、酸素及びアルゴンの流量、及び電流/プラズマ源を含んだ。プロセス圧力は30〜70ミリトル(mTorr)の範囲であった。これらのプロセス変数は、積層体の耐摩耗性及び他の特性及び中間層(II)の密着性を実現するために、特定の化学的及び物理的性状を持った固体層を形成するように調整された。プラズマプロセスの条件を表2に示す。
実施例2〜7
【0103】
調製例1〜4の光硬化性コーティング組成物(α1〜α4)を用いて、実施例1と同様の操作により積層体を得た。得られた積層体について、下記の試験による評価を行い、その結果を表3に示す。
比較例1〜6
【0104】
調製例1及び比較調製例1〜5の光硬化性コーティング組成物(α1)及び(α7〜α11)を用いて、実施例1と同様の操作により積層体を得た。ただし比較例6では、プラズマ層を設けていなかった。得られた積層体について、下記の試験による評価を行い、その結果を表4に示す。
初期ヘイズ(Hz)
【0105】
ヘイズメータNDH5000SP(日本電色工業(株)製)にて積層体試料のヘイズを測定した。
耐摩耗性(ΔHz)
【0106】
ASTM D1044に準じ、テーバー摩耗試験機にて摩耗輪CS−10Fを装着し、荷重500g下での1,000回転後のヘイズを測定し、試験前後のヘイズ差(ΔHz)を計算することにより、耐摩耗性を測定した。2.0%又はそれより小さいデルタヘイズ(ΔHz)を合格とみなした。
初期密着性
【0107】
ASTM D3359のB方式に準じ、密着性をクロスハッチ密着性試験により評価した。具体的には、カミソリ刃を用いて、積層体に1mm間隔で縦11本、横11本の切れ目を入れて100個の正方形状の切片を作製し、粘着テープをよく付着させ、粘着テープを90°手前方向に急激に剥がし、離層を行った被膜切片の面積%を算出した。97%又はそれより大きい初期密着性(即ち、100%に対し、離層を行った被膜面積%)は合格とみなす。
煮沸水浸漬後の密着性
【0108】
積層体を100℃の脱イオン水に2時間浸漬した後、初期密着性と同じ密着性試験(ASTM D3359のB方式)を行った。97%又はそれより大きい密着性値(即ち、100%に対し、離層を行った被膜面積%)は合格とみなす。
水浸漬後の密着性
【0109】
積層体を65℃の脱イオン水に10日間浸漬した後、初期密着性と同じ密着性試験(ASTM D3359のB方式)を行った。97%以上の浸漬後密着性(即ち、100%に対し、離層を行った被膜面積%)は合格とみなす。
耐候性
【0110】
岩崎電気(株)製アイスーパーUVテスターW−151を使用し、耐候性試験を行った。この場合、[ブラックパネル温度63℃、湿度50%RH、照度50mW/cm
2、水スプレー間隔10秒/1時間で4時間]及び[ブラックパネル温度30℃、湿度95%RHで1時間]を1サイクルとした。このサイクルを繰り返す条件で30サイクル及び70サイクルの試験を行った。耐候性試験前後に、JIS K 7103に準拠して黄変度の指数(YI)を測定し、黄変度指数の変化(ΔYI)を求めた。また、耐候試験された積層体は、クラック及び剥離の状態を目視又は顕微鏡(倍率250倍)にて観察した。30サイクル後に黄変度の変化(ΔYI)が3.0又はそれより小さく、外観に欠陥のない(例えばクラック及び剥離の発生がない)試料を合格とみなす。
クラック
【0111】
耐候性試験後の被膜外観を下記の基準で評価した。
○:異常なし
△:僅かにクラックあり
×:塗膜全体にクラックあり
剥離
【0112】
耐候性試験後の被膜の状態を下記の基準で評価した。
○:異常なし
△:一部で剥離あり
×:全面剥離
【表2】
【表3】
【表4】
【0113】
表3,4に示されるように、ここでの積層体は、耐摩耗性が実質的に改善されている。プラズマ層を設けた実施例1〜7では、ΔHzが2.0%又はそれより小さい(良好な耐摩耗性を示す)ものであるのに対し、プラズマ層を積層しなかった比較例6では、ΔHzが7.1%(耐摩耗性が劣る)を示した。実施例1〜7では、ΔHz値が2.0%又はそれより小さく、30サイクル後のΔYIが3.0又はそれより小さく、特に2.0又はそれより小さい(最小黄変度変化)ものであった。これに対し、比較例1及び2では、ΔHzが2.0%又はそれより小さいものであるが、中間層(II)中に紫外線吸収剤を含まない、あるいは少量のため、ΔYI値が10より大きく、かつ剥離も発生した。中間層(II)中に市販の紫外線吸収剤が多量に配合された比較例3,4では、紫外線吸収剤の低い相溶性のため、紫外線吸収剤の析出が見られ(比較例4)、また初期Hzが1%より大きく、ΔHzも2.0%より大きかった(比較例3)。相溶性の高い液状の紫外線吸収剤を用いた比較例5では、吸収剤がバインダーとの反応性基を含まないため、耐候性試験30サイクルでは、紫外線吸収剤のブリードアウトによると思われる剥離も発生した。これらの比較例は、本発明の積層体から得られる諸特性を全て満足し得るものではなかった。
実施例8
【0114】
調製例1の光硬化性コーティング組成物(α1)及び清浄化したレキサン(Lexan)ポリカーボネート板(100mm×100mm×0.5mm厚)を用いて、実施例1及び比較例6と同様の操作により2種類の積層体を得た。得られた2種類の積層体及び積層していない(neat)ポリカーボネート板について、イリノイ・インストルメント社より入手される8000シリーズ酸素透過アナライザーを用いて酸素透過率を測定した。積層体はプラズマ層が測定セルに接するようにOリングを介して治具に固定し、25℃で90%RHの条件で測定を行った。測定は、10分間に1回の割合で15時間にわたって行い、実質的に一定値に収束するように測定した。測定された酸素透過率は、ポリカーボネート基材の場合195cc/m
2/dayであり、その光硬化性コーティング組成物の中間層(II)のみが堆積された積層体の場合は168cc/m
2/dayであり、中間層(II)とプラズマ層との両方が堆積された積層体の場合は158cc/m
2/dayであった。
【0115】
本発明の一態様は、有機樹脂基材及びこの基材の一面又は両面上の多層コーティングシステムを含有する(例えば、ハイレベルな耐摩耗性及び耐候性を有する)有機樹脂積層体を含む。多層コーティングシステムは、有機ケイ素化合物のプラズマ重合により得られたハードコーティングであるプラズマ層及び湿式コーティング組成物の硬化被膜である中間層(II)を含み、中間層(II)はプラズマ層に隣接して配置された一面と有機樹脂基材に隣接して配置された他の面を有する。湿式コーティング組成物は、(A)特定の反応性紫外線吸収剤、(B)多官能性(メタ)アクリレート、及び(C)光重合開始剤を含む。
【0116】
有機樹脂積層体を製造する方法の他の態様は、有機樹脂基材を形成し、基材の表面に湿式コーティング組成物を適用して中間層(II)を形成し、有機ケイ素化合物のプラズマ重合を行って、中間層(II)上にプラズマ層を形成することを含む。湿式コーティング組成物は、(A)特定の反応性紫外線吸収剤、(B)多官能性(メタ)アクリレート、(C)光重合開始剤を含む。様々な態様が含まれる。実施態様(i)では、基材が押し出し、共押し出し又は積層手法によって形成される。実施態様(ii)では、湿式コーティング組成物は基材に物理的接触することによって単層基材を形成する。実施態様(iii)では、基材がプラスチック材料(例えば、透明のプラスチック材料、特に光学的にクリヤーなプラスチック材料)及びキャップ層を押し出すことによって形成される。更なる実施態様においては、基材がプラスチック材料(例えば、透明のプラスチック材料、特に光学的にクリヤーな材料)とキャップ層を積層することによって形成される。
【0117】
以下にいくらかの実施態様を開示する。
【0118】
実施態様1:有機樹脂積層体を形成する方法であって、有機樹脂基材に湿式コーティング組成物を塗布して基材上に中間層(II)を形成し、ここで湿式コーティング組成物は、多官能性(メタ)アクリレート、光重合開始剤、及び反応性紫外線吸収剤を含み、この紫外線吸収剤は、一般式(1):
【化26】
{式中、Y
1及びY
2はそれぞれ独立して、一般式(2)の置換基であり、
【化27】
*は結合部位を示し、rは0又は1であり、
R
1、R
2、R
3はそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数4〜12のシクロアルコキシ基、炭素数2〜20のアルケニルオキシ基、炭素数7〜20のアラルキル基、ハロゲン原子、−C≡N、炭素数1〜5のハロアルキル基、−SO
2R’、−SO
3H、−SO
3M(M=アルカリ金属)、−COOR’、−CONHR’、−CONR’R”、−OCOOR’、−OCOR’、−OCONHR’、(メタ)アクリルアミノ基、(メタ)アクリルオキシ基、置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基、及び置換されていてもよい炭素数3〜12のヘテロアリール基からなる群より選ばれ、R’及びR”はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基、又は置換されていてもよい炭素数3〜12のヘテロアリール基を示し、
Xは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい2、3又は4価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素残基であり、
Tはウレタン基−O−(C=O)−NH−を表し、
Qは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい2又は3価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素残基であり、
Pは(メタ)アクリルオキシ基であり、
mは1又は2であり、及び
nは1〜3の整数であるが、mとnとが同時に1であることはない。}
前記湿式コーティング組成物を紫外線硬化して硬化被膜を形成し、この硬化被膜上に第1のプラズマコーティングを析出する、ここで第1のプラズマコーティングは、第1の酸素流量がプラズマ源当たり250sccm未満において析出されることを含む有機樹脂積層体の形成方法である。
【0119】
実施態様2:第1の酸素流量がプラズマ源当たり100sccm又はそれ未満である実施態様1記載の方法。
【0120】
実施態様3:第1の酸素流量がプラズマ源当たり50sccm又はそれ未満である実施態様2記載の方法。
【0121】
実施態様4:第1の酸素流量がプラズマ源当たり10sccm又はそれ未満である実施態様3記載の方法。
【0122】
実施態様5:有機樹脂積層体を形成する方法であって、有機樹脂基材に湿式コーティング組成物を塗布して基材上に中間層(II)を形成し、ここで湿式コーティング組成物は、多官能性(メタ)アクリレートと、光重合開始剤と、下記一般式(1)で表される反応性紫外線吸収剤とを含み、
【化28】
{式中、Y
1及びY
2はそれぞれ独立して、一般式(2)の置換基であり、
【化29】
*は結合部位を示し、rは0又は1であり、
R
1、R
2、R
3はそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数4〜12のシクロアルコキシ基、炭素数2〜20のアルケニルオキシ基、炭素数7〜20のアラルキル基、ハロゲン原子、−C≡N、炭素数1〜5のハロアルキル基、−SO
2R’、−SO
3H、−SO
3M(M=アルカリ金属)、−COOR’、−CONHR’、−CONR’R”、−OCOOR’、−OCOR’、−OCONHR’、(メタ)アクリルアミノ基、(メタ)アクリルオキシ基、置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基、及び置換されていてもよい炭素数3〜12のヘテロアリール基からなる群より選ばれ、R’及びR”はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基、又は置換されていてもよい炭素数3〜12のヘテロアリール基を示し、
Xは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい2、3又は4価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素残基であり、
Tはウレタン基−O−(C=O)−NH−を表し、
Qは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい2又は3価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素残基であり、
Pは(メタ)アクリルオキシ基であり、
mは1又は2であり、及び
nは1〜3の整数であるが、mとnとが同時に1であることはない。}
前記湿式コーティング組成物を紫外線硬化して硬化被膜を形成し、
この硬化被膜上に分子酸素流を導入しないで第1のプラズマコーティングを析出することを含む有機樹脂積層体の形成方法。
【0123】
実施態様6:更に、第1のプラズマコーティング上に第2のプラズマコーティングを析出する、ここで第2のプラズマコーティングと第1のプラズマコーティングがプラズマ層を形成し、第2のプラズマコーティングは、第2の酸素流量がプラズマ源当たり250sccm又はそれより多い流量において析出される、実施態様1〜5のいずれか1項記載の方法。
【0124】
実施態様7:第2の酸素流量がプラズマ源当たり400sccm又はそれより多い実施態様6記載の方法。
【0125】
実施態様8:第2の酸素流量がプラズマ源当たり800sccm又はそれより多い実施態様7記載の方法。
【0126】
実施態様9:第1のプラズマコーティングが、膨張熱プラズマ析出法により析出される実施態様1〜8のいずれか1項記載の方法。
【0127】
実施態様10:紫外線硬化前に、湿式コーティング膜から溶剤を蒸発分離することを含む実施態様1〜9のいずれか1項記載の方法。
【0128】
実施態様11:蒸発分離がコートされた基材を60℃又はそれより高い温度で加熱することを含む実施態様10記載の方法。
【0129】
実施態様12:蒸発分離がコートされた基材を70℃又はそれより高い温度で加熱することを含む実施態様11記載の方法。
【0130】
実施態様13:有機樹脂基材が、ポリカーボネート、ポリカーボネートを含むブレンド、又はポリカーボネートを含む共重合体を含み、湿式コーティング組成物を塗布する前に基材を成形することを含む実施態様1〜12のいずれか1項記載の方法。
【0131】
実施態様14:実施態様1〜13のいずれか1項記載の方法によって形成された有機樹脂積層体。
【0132】
実施態様15:前記式(1)中のXが一般式(3)又は(4):
【化30】
{式中、*1は前記式(1)中の酸素と結合しており、*2は前記式(1)中のTと結合しており、*3はそれぞれ独立して、水素原子、又は直接あるいは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい2価の直鎖もしくは分岐の飽和炭化水素基を介して上記式(1)中のTと結合しており、*3の少なくとも1つは直接あるいは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい2価の直鎖もしくは分岐の飽和炭化水素基を介してTと結合している。}
で表される基であり、Qが一般式(5)又は(6):
【化31】
{式中、*4は前記式(1)中のTと結合しており、*5は前記式(1)中のPと結合している。}
で表される基である実施態様14記載の積層体。
【0133】
実施態様16:前記式(1)において、R
1、R
2、R
3はそれぞれ独立して、水素原子又はメチル基であり、Xは式(3)の基であり、Qは式(6)の基であり、mは2であり、nは1である実施態様14〜15のいずれか1項記載の積層体。
【0134】
実施態様17:多官能性(メタ)アクリレート(B)が、(メタ)アクリル官能性アルコキシシランの加水分解物及び/又は縮合物を含む実施態様14〜16のいずれか1項記載の積層体。
【0135】
実施態様18:多官能性(メタ)アクリレート(B)が、更に、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(2−(メタ)アクリロキシアルキル)イソシアヌレート、分子当たり少なくとも5個のラジカル重合性不飽和二重結合を有するウレタンポリ(メタ)アクリレート化合物、及び分子当たり少なくとも5個のラジカル重合性不飽和二重結合を有するポリエステルポリ(メタ)アクリレート化合物からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む実施態様14〜17のいずれか1項記載の積層体。
【0136】
実施態様19:積層体が、ASTM D870に従ってイオン交換水に65℃で10日間浸漬し、ASTM D3359−09,B方式に従ってテープ試験により密着性を測定した密着試験において、少なくとも97%の値を示す実施態様14〜18のいずれか1項記載の積層体。
【0137】
実施態様20:第1のプラズマ層、第2のプラズマ層、又は第1のプラズマ層と第2のプラズマ層の両方が、ケイ素、酸素、炭素、及び水素を含み、有機ケイ素化合物のプラズマ重合によって形成されている実施態様14〜19のいずれか1項記載の積層体。
【0138】
実施態様21:第2のプラズマコーティングを含み、プラズマ層が2.5〜5.0μmの範囲のトータル厚さを有する実施態様14〜20のいずれか1項記載の積層体。
【0139】
実施態様22:第2のプラズマコーティングを含み、プラズマ層が2.5〜4.0μmの範囲のトータル厚さを有する実施態様21記載の積層体。
【0140】
実施態様23:有機樹脂基材が、ポリカーボネート、ポリカーボネートを含むブレンド、又はポリカーボネートを含む共重合体を含む実施態様14〜22のいずれか1項記載の積層体。
【0141】
実施態様24:第2のプラズマコーティングを含み、プラズマ層が、1mNの最大荷重においてナノインデンティションにより測定したときに3GPa又はそれより大きいヤング率を有する実施態様14〜23のいずれか1項記載の積層体。
【0142】
実施態様25:第2のプラズマコーティングを含み、プラズマ層が、1ミリニュートン(mN)の最大荷重においてナノインデンティションにより測定したときに3〜40GPaのヤング率を有する実施態様24記載の積層体。
【0143】
実施態様26:第2のプラズマコーティングを含み、プラズマ層が、1mNの最大荷重においてナノインデンティションにより測定したときに3〜15GPaのヤング率を有する実施態様25記載の積層体。
【0144】
実施態様27:有機樹脂基材とこの基材の表面上の多層コーティングシステムとを含む有機樹脂積層体であって、多層コーティングシステムが、有機ケイ素化合物の重合によって形成されたプラズマ層、及びコーティング組成物の紫外線硬化された被膜である中間層(II)とを含み、中間層(II)がプラズマ層と有機樹脂基材との間に配置され、前記コーティング組成物が、(A)反応性紫外線吸収剤、(B)多官能性(メタ)アクリレート、及び(C)光重合開始剤を含み、反応性紫外線吸収剤が一般式(1):
【化32】
{式中、Y
1及びY
2はそれぞれ独立して、一般式(2)の置換基であり、
【化33】
*は結合部位を示し、rは0又は1であり、
R
1、R
2、R
3はそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数4〜12のシクロアルコキシ基、炭素数2〜20のアルケニルオキシ基、炭素数7〜20のアラルキル基、ハロゲン原子、−C≡N、炭素数1〜5のハロアルキル基、−SO
2R’、−SO
3H、−SO
3M(M=アルカリ金属)、−COOR’、−CONHR’、−CONR’R”、−OCOOR’、−OCOR’、−OCONHR’、(メタ)アクリルアミノ基、(メタ)アクリルオキシ基、置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基、及び置換されていてもよい炭素数3〜12のヘテロアリール基からなる群より選ばれ、R’及びR”はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基、又は置換されていてもよい炭素数3〜12のヘテロアリール基を示し、
Xは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい2、3又は4価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素残基であり、
Tはウレタン基−O−(C=O)−NH−を表し、
Qは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい2又は3価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素残基であり、
Pは(メタ)アクリルオキシ基であり、
mは1又は2であり、及び
nは1〜3の整数であるが、mとnとが同時に1であることはない。}
で表される有機樹脂積層体。
【0145】
実施態様28:Xが一般式(3)又は(4):
【化34】
{式中、*1は前記式(1)中の酸素と結合しており、*2は前記式(1)中のTと結合しており、*3はそれぞれ独立して、水素原子、又は直接あるいは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい2価の直鎖もしくは分岐の飽和炭化水素基を介して上記式(1)中のTと結合しており、*3の少なくとも1つは直接あるいは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい2価の直鎖もしくは分岐の飽和炭化水素基を介してTと結合している。}
で表される基であり、Qが一般式(5)又は(6):
【化35】
{式中、*4は前記式(1)中のTと結合しており、*5は前記式(1)中のPと結合している。}
で表される基である実施態様27記載の積層体。
【0146】
実施態様29:式(1)において、R
1、R
2、R
3はそれぞれ独立して、水素原子又はメチル基であり、Xは式(3)の基であり、Qは式(6)の基であり、mは2であり、nは1である実施態様27又は28記載の積層体。
【0147】
実施態様30:多官能性(メタ)アクリレート(B)が、(メタ)アクリル官能性アルコキシシランの加水分解物及び/又は縮合物を含む実施態様27〜29のいずれか1項記載の積層体。
【0148】
実施態様31:多官能性(メタ)アクリレート(B)が、更に、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(2−(メタ)アクリロキシアルキル)イソシアヌレート、分子当たり少なくとも5個のラジカル重合性不飽和二重結合を有するウレタンポリ(メタ)アクリレート化合物、及び分子当たり少なくとも5個のラジカル重合性不飽和二重結合を有するポリエステルポリ(メタ)アクリレート化合物からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む実施態様27〜30のいずれか1項記載の積層体。
【0149】
実施態様32:プラズマ層が、ケイ素、酸素、炭素、及び水素を含み、有機ケイ素化合物のプラズマ重合によって形成された実施態様27〜31のいずれか1項記載の積層体。
【0150】
実施態様33:プラズマ層が2.5〜5.0μmの範囲のトータル厚さを有する実施態様27〜32のいずれか1項記載の積層体。
【0151】
実施態様34:プラズマ層が2.5〜4.0μmの範囲のトータル厚さを有する実施態様33記載の積層体。
【0152】
実施態様35:ASTM D870に従ってイオン交換水に65℃で10日間浸漬し、ASTM D3359−09,B方式に従ってテープ試験により密着性を測定した密着試験において、少なくとも97%の値を示す実施態様27〜34のいずれか1項記載の積層体。
【0153】
実施態様36:有機樹脂基材が、ポリカーボネート、ポリカーボネートを含むブレンド、又はポリカーボネートを含む共重合体を含む成形基材である実施態様27〜35のいずれか1項記載の積層体。
【0154】
実施態様37:プラズマ層が、第1のプラズマコーティング及び第2のプラズマコーティングを含み、外側のプラズマ層が、1mNの最大荷重においてナノインデンティションにより測定したときに3GPa又はそれより大きいヤング率を有する実施態様27〜36のいずれか1項記載の積層体。
【0155】
実施態様38:プラズマ層が、1mNの最大荷重においてナノインデンティションにより測定したときに3〜40GPaのヤング率を有する実施態様37記載の積層体。
【0156】
実施態様39:プラズマ層が、1mNの最大荷重においてナノインデンティションにより測定したときに3〜15GPaのヤング率を有する実施態様38記載の積層体。
【0157】
実施態様40:有機樹脂基材とこの基材の表面上の多層コーティングシステムとを含み、多層コーティングシステムが、有機ケイ素化合物の重合によって形成されたプラズマ層と、反応性紫外線吸収剤、多官能性(メタ)アクリレート、及び光重合開始剤の紫外線硬化された被膜である中間層(II)とを含み、1mNの最大荷重においてナノインデンティションにより測定したときに3GPa又はそれより大きいヤング率を有する有機樹脂積層体。
【0158】
実施態様41:ASTM D870に従ってイオン交換水に65℃で10日間浸漬し、ASTM D3359−09,B方式に従ってテープ試験により密着性を測定した密着試験において、少なくとも97%の値を示す実施態様40記載の積層体。
【0159】
実施態様42:自動車の窓に使用する材料であって、有機樹脂基材とこの基材の表面上の多層コーティングシステムとを含み、多層コーティングシステムが、有機ケイ素化合物の重合によって形成された最外プラズマ層と、このプラズマ層と有機樹脂基材との間に配置された、コーティング組成物の紫外線硬化された被膜である中間層(B)とを含み、前記湿式コーティング組成物が、多官能性(メタ)アクリレート、光重合開始剤、及び一般式(1):
【化36】
{式中、Y
1及びY
2はそれぞれ独立して、一般式(2)の置換基であり、
【化37】
*は結合部位を示し、rは0又は1であり、
R
1、R
2、R
3はそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数4〜12のシクロアルコキシ基、炭素数2〜20のアルケニルオキシ基、炭素数7〜20のアラルキル基、ハロゲン原子、−C≡N、炭素数1〜5のハロアルキル基、−SO
2R’、−SO
3H、−SO
3M(M=アルカリ金属)、−COOR’、−CONHR’、−CONR’R”、−OCOOR’、−OCOR’、−OCONHR’、(メタ)アクリルアミノ基、(メタ)アクリルオキシ基、置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基、及び置換されていてもよい炭素数3〜12のヘテロアリール基からなる群より選ばれ、R’及びR”はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基、又は置換されていてもよい炭素数3〜12のヘテロアリール基を示し、
Xは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい2、3又は4価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素残基であり、
Tはウレタン基−O−(C=O)−NH−を表し、
Qは酸素、窒素、硫黄及びリン原子のうち少なくとも1種の元素が介在していてもよい2又は3価の直鎖又は分岐の飽和炭化水素残基であり、
Pは(メタ)アクリルオキシ基であり、
mは1又は2であり、及び
nは1〜3の整数であるが、mとnとが同時に1であることはない。}
で表される反応性紫外線吸収剤を含む、前記材料。
【0160】
本明細書で採用する用語「積層体」は、適切なプロセスによって形成された複数層を含む構造を意図する。このプロセスとしては、例えば、押し出し、共押し出し、接着フィルム、フィルム挿入成型、湿式塗装、プラズマ堆積、ラミネート、及び、これらを任意に組み合わせた方法が挙げられる。表記(C
n−C
m)は、1個の基当たりのn〜mの炭素原子を含む基を意味する。UVは、電磁スペクトルの紫外線領域まで言及するものである。Mwは、標準ポリスチレンを基準としたゲル浸透クロマトグラフ(GPC)によって測定される重量平均分子量である。「(メタ)アクリレート」の術語は、アクリレートとメタアクリレートとを総称したものである。本明細書で開示される全ての範囲は、両端点も含まれ、それぞれの点は独立して他と組み合わせ可能である(例えば、25質量%以下、特には5〜20質量%には、5〜25質量%の終点及びこの範囲の全ての値が含まれる)。「組み合わせ」には、ブレンド、混合物、合金、反応生成物などが含まれる。英語(冠詞)「a」、「an」、「the」は、それぞれ量の限定を意味するものではなく、他に指示しない場合又はその状況から明らかに否定されない場合、単数及び複数をも包含する意味である。ここで使用される接尾辞(s)は、その用語の単数又は複数の両方を含む意図であり、その用語の1又はそれ以上を含む意図である(例えば、フィルムには1又はそれ以上のフィルムが含まれる)。本明細書において、「一態様」、「他の態様」及び「ある態様」などについては、その態様と関連して記述された特定の要素(例えば、特徴、構造、及び/又は特性)がここで記述された少なくとも1つの態様の中に含まれ、他の態様の中には含まれていても含まれなくてもよいことを意味する。更に、記述された要素が様々な態様の中に適当な方法で組み合わされてもよいことが理解されよう。特に他に特定されない場合、ここで示されたテストスタンダードの日付はこの出願が提出された日付に最も最近のスタンダードの日付である。
【0161】
全ての引用された特許、特許出願、及び他の文献は、これらの全体で各文献が本明細書に含まれる。しかしながら、もし本明細書の用語が引用される文献の用語と矛盾したり対立する場合には、引用した文献の用語よりも本明細書の用語が先立って採用される。
【0162】
本発明が代表的な実施態様により説明され、記述されたが、本発明の精神から逸脱することなく種々の変更や置換が行われ得ることから、ここに示された記載に制限されることは意図していない。このように、ここに開示された発明の更なる変更及び等価が当業者にとって通常の実験を超えることなしに生じ得る。そしてそのような全ての変更及び等価は、以下の請求項によって規定された発明の精神及び範囲内にあると信じられる。