(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6269866
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】電気伝導度によるpH制御方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/66 20060101AFI20180122BHJP
【FI】
C02F1/66 530P
C02F1/66 510A
C02F1/66 521B
C02F1/66 530K
C02F1/66 530L
C02F1/66 540Z
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-14354(P2017-14354)
(22)【出願日】2017年1月30日
【審査請求日】2017年9月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 守
(72)【発明者】
【氏名】育野 望
【審査官】
岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−268352(JP,A)
【文献】
特開2005−177564(JP,A)
【文献】
特開平09−057261(JP,A)
【文献】
特開2004−167423(JP,A)
【文献】
特開2007−268397(JP,A)
【文献】
特開2002−349804(JP,A)
【文献】
特開平09−314129(JP,A)
【文献】
特開平10−202259(JP,A)
【文献】
特開平05−269464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/66
B01D 61/02
B01D 61/04
B01D 61/12
B01D 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱炭酸処理水にアルカリ又は酸を添加してpHを中性領域に制御する方法において、電気伝導度計を利用してアルカリ又は酸添加量を制御するpH制御方法であって、
脱炭酸処理水のpH及び電気伝導度EC1を測定する工程と、アルカリ又は酸添加後の水の電気伝導度EC2を次式に従って演算する工程と、
アルカリ又は酸添加後の電気伝導度が演算されたEC2となるようにアルカリ又は酸を添加する工程とを有し、
前記脱炭酸水のΔEC/ΔpHを実験的に求めておくことを特徴とするpH制御方法。
電気伝導度EC2=電気伝導度EC1+(ΔEC/ΔpH)[mS・m]×(目標pH−脱炭酸水pH)
【請求項2】
請求項1において、脱炭酸処理水は、工業用水又は地下水を炭酸濃度が10ppm以下となるように脱炭酸処理した水であることを特徴とするpH制御方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記pH制御によりpH6〜8とされた脱炭酸水をRO処理して純水を製造する工程をさらに有することを特徴とするpH制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱気膜装置およびRO(逆浸透)膜装置を有した純水製造プロセス等において、電気伝導度計を用いて、脱炭酸水のpHを中性に調整する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ROを用いて純水を得るプロセスとしては、以下のようにROを二段に設置したプロセスが一般的である。
【0003】
濾過→第一RO→MD→第二RO
【0004】
二段ROの間に脱炭酸を目的とした脱気膜(MD)を配置するのは、濾材の充填層から成る濾過装置では、SSや、凝集剤で用いるAlのリークを完全に防止することができないためである。脱気膜には、疎水性の膜が用いられるため、濾過器からリークする微粒子(SS)やAlの影響で、ファウリングが生じる。そこで、MDの前に、第一ROを設置し、SSやAlと共に、硬度成分も除去する。その後、硫酸を用いてpHを5程度まで下げ、MDを用いて脱炭酸を行うことにより、MDのファウリングを防止する。MDで炭酸を除去した後、アルカリを添加してpHを6〜8に調整し第二ROに通水する。
【0005】
しかしながら、このシステムでは、脱気のために添加する酸および脱気後のpH調整に用いるアルカリの除去は第二ROで行うことになるため、5MΩ・cm以上の水質を得ることが難しい。
【0006】
ROを利用して、5MΩ・cm以上の水質を得るためには、本来、原水に含まれる炭酸や硬度成分を含む電解質を、二段ROで除去する必要がある。従って、そのためには、以下のプロセスが必要となる。
【0007】
凝集→除濁膜→MD→第一RO→第二RO
【0008】
除濁膜を用いてSSやAlを完全に除去することで、二段ROの前に脱気膜(MD)を配置することが可能となる。また、このような構成とすることで、脱気前に添加する酸および脱気後の中和に用いるアルカリも含めた電解質を二段のROで除去できることから、水質の向上を図ることが可能となる。
【0009】
また、5MΩ・cm以上の水質を確保するには、第一RO、第二RO共に高い電解質除去率を発揮させる必要がある。そのためには、RO膜の阻止率が最高となる中性域(pH6〜8)で用いることが重要となる。そのためにも、脱気後のpH緩衝性のない水のpHを安定して6〜8に調整する必要がある。
【0010】
一般に、pH調整を行う場合、ガラス電極式のpH計が用いられる。pH計はガラス拡散電極を利用しているため、時間応答性が悪い。工業用水のように測定対象水に炭酸が含まれる場合、炭酸のpH緩衝作用があるので、
図2に一例を示すように、酸やアルカリの添加に伴うpH変化は緩やかである。(なお、
図2は、工業用水に硫酸を加えた場合のpH変化の一例を示す。)そのため、pH計を用いても、制御性は高い。
【0011】
工業用水を脱炭酸した後、アルカリを利用してpHを中性付近に制御する場合の中和曲線の一例を
図3に示す。(なお、
図3は、工業用水に硫酸を加えてpHを5.0とした後、膜脱気装置によって無機炭素(IC)を2.5mg−C/Lまで脱気した後に、水酸化ナトリウム(NaOH)を加えた場合のpH変化の一例を示している。)この場合は、炭酸による緩衝作用が大幅に低下しているため、
図3の通り、僅かなアルカリ添加でpHは大きく変化する。
【0012】
図2の通り、脱炭酸前の工業用水では、pHを7.4から5.0に下げるのに必要な硫酸は1L当たり約60mg−H
2SO
4(1.22×10
−3当量)である。これに対して、
図3の脱気処理水(pH5.85)をpH7にするのに必要なNaOHは、1L当たり約5mg−NaOH/L(0.125×10
−3当量)ときわめて少ない。このように、脱炭酸後の水は、炭酸による緩衝作用がないため、アルカリの添加に対するpH変化率が非常に大きい。従って、脱炭酸水の場合、時間応答性の悪いガラス拡散電極式のpH計では、目標とするpH6〜8となるようにpH調整することが非常に困難である。
【0013】
特許4983069号及びその従来技術である特公昭63−054438号には、ボイラ給水に対するヒドラジンや中和性アミン等のアルカリ性薬品添加量を制御するにあたり、pHと電気伝導率が対数比例関係にあると判断し、電気伝導率で制御する旨が記載されている。しかし、高pH(8.5以上)領域では、pHと電気伝導率は必ずしも比例関係にあるとはいえず、ばらつきを持つ。そのため、RO等のpH感受性の高い処理に際しては、電気伝導率の変化をpH変化の代替手段とするとの考えはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許4983069号
【特許文献2】特公昭63−054438号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、pH緩衝作用が低い脱炭酸処理水を中性pHとするようにアルカリ又は酸の添加量を制御する方法において、この添加量を脱炭酸処理水のpH変化に迅速に追従して制御することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のpH制御方法は、脱炭酸処理水にアルカリ又は酸を添加してpHを中性領域(たとえばpH6〜8、好ましくは6〜7)に制御する方法において、電気伝導度計を利用してアルカリ又は酸添加量を制御する
pH制御方法であって、脱炭酸処理水のpH及び電気伝導度EC1を測定する工程と、アルカリ又は酸添加後の水の電気伝導度EC2を次式に従って演算する工程と、アルカリ又は酸添加後の電気伝導度が演算されたEC2となるようにアルカリ又は酸を添加する工程とを有し、前記脱炭酸水のΔEC/ΔpHを実験的に求めておくことを特徴とするものである。
電気伝導度EC2=電気伝導度EC1+(ΔEC/ΔpH)[mS・m]×(目標pH−脱炭酸水pH)
【0017】
脱炭酸処理水としては、工業用水又は地下水を炭酸濃度が10ppm以下となるように脱炭酸処理した水などが好適である。
【0018】
本発明の一態様の方法は、前記pH制御によりpH6〜8とされた脱炭酸水をRO処理して純水を製造する工程をさらに有する。
【発明の効果】
【0021】
電気伝導度計は、所定距離離隔した電極間の電気抵抗を測定するため、応答性に優れている。水溶液の電気伝導度は、溶解している電解質の種類と濃度によって決まる。表1に各種イオンのモル極限電気伝導度を示す。
【0022】
【表1】
【0023】
なお、化学便覧(基礎編)では、電荷当量当たりの[S・m
2/eq]として表わしているが、表1ではイオンのモル当たりで表記している。また、HCO
3−については、便宜的に、50×10
−4[S・m
2/mol]としている。その根拠は、H
+およびOH
−以外では、2価イオンは100〜160[S・m
2/mol]、1価イオンは50〜80[S・m
2/mol]であることによる。
【0024】
これらのイオンを含む水溶液の電気伝導度ECは、次式(1)で表わすことができる。
【0025】
【数1】
【0026】
表1の通り、直接的にpHに関係するH
+,OH
−のモル電気伝導度が、他のイオンに比べて特異的に高い。従って、pH変化があると、電気伝導度も変化する。電気伝導度計の応答性はpH計に比べて著しく速いので、本発明によるとアルカリ又は酸の添加量を脱炭酸処理水のpH変化に迅速に追従して制御することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は本発明のpH制御方法の一例を説明するブロック図である。脱炭酸水をスタティックミキサ5に導くための配管1にpH計2と、第1電気伝導度計3と、アルカリ(この実施の形態ではNaOH水溶液)添加手段4とが設けられている。アルカリ添加手段4は、タンク、薬注ポンプ及び添加量制御弁4a等を備えている。脱炭酸水の炭酸濃度は、緩衝作用と電気伝導度によるpH制御の正確性から、好ましくは10ppm以下、より好ましくは8ppm以下、特に好ましくは5ppm以下である。脱炭酸手段としては、脱気膜、脱炭酸塔、曝気塔などを用いることができるが、脱気膜が好ましい。
【0029】
スタティックミキサ5でアルカリが混合された後の水は、配管6を介して第1RO(逆浸透)装置8に供給され、第1RO装置の透過水が第2RO装置9に通水される。配管6に第2電気伝導度計7が設けられている。
【0030】
pH計2、第1及び第2電気伝導度計3、7の検出値が制御器10に入力され、その演算結果に基づいて、弁4aの開度が制御され、アルカリ添加量が制御される。
【0031】
なお、
図1ではスタティックミキサ5を用いているが、撹拌機を用いたpH調整槽など、各種の混合手段を用いることができる。
【0032】
制御器10においては、第1電気伝導度計3の検出電気伝導度EC
1、脱炭酸水のpH、目標とするpH(適正な時間平均値)を次式に代入して、目標とする電気伝導度EC
2を算出し、第2電気伝導度計7の検出値がこの目標電気伝導度EC
2となるように、弁4aによってNaOH添加量を制御する。
【0033】
電気伝導度EC
2=電気伝導度EC
1+(ΔEC/ΔpH)[mS・m]×(目標pH−脱炭酸水pH) (2)
【0034】
式(2)のΔEC/ΔpH[mS・m]の算出方法は後述するが、具体的には、現場の処理実績をベースに適正値を更新していくこととする。
【0035】
時間応答性の高い電気伝導度計を用いる本発明のpH制御方法によると、脱炭酸によってpH緩衝作用が大幅に減少しており、アルカリ添加によってpHが鋭敏に変化する、制御の困難な脱炭酸水のpH調整(好ましくはpH6〜8、特に好ましくは6〜7)における制御応答性を高めることが可能となる。なお、pH6〜8の領域では、pHと電気伝導度との相関(比例)性が高く、pH6〜7では相関性がさらに高い。本発明は、酸性の脱炭酸水をアルカリ添加によりpH6〜8特にpH6〜7に中和する場合に好適である。
【0036】
なお、脱炭酸膜の脱炭酸率が低く、第2RO装置9の処理水の電気伝導度が目標電気伝導度を満足できない場合、第1RO装置8と第2RO装置9との間に、同様のpH調整装置(第1及び第2電気伝導度計3、7、アルカリ添加手段4、スタティックミキサ5等の混合手段及び制御器10)を設置しても良い。
【実施例】
【0037】
[実験例1]
表2に示す性状の工業用水1〜4にそれぞれ硫酸を添加してpH5に調整後、膜脱気装置で脱炭酸(残留IC=2.5mg−C/L)した水の性状を表3に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
脱炭酸水1〜4にNaOHを添加し、pH7に調整した後の水質を表4に示す。
【0041】
【表4】
表4に示すように、脱炭酸後、pH7に調整した後の電気伝導度は、原水の水質によって異なる。脱炭酸後の水(表3)にNaOHを添加していく場合の、NaOH添加量に対する電気伝導度の変化を
図4に示す。なお、
図4中の試料水1〜4は、それぞれ表3の脱炭酸水1〜4である。
【0042】
図4に示すように、試料水(脱炭酸水)をpH7に調整するためにNaOHを添加した場合、pH、電気伝導度は、同様に上昇している。また、電気伝導度は、いずれの場合も線形に、一定の上昇率で上昇していることが解る。
【0043】
図4(A)のpHの値を横軸にプロットし、
図4(B)の電気伝導度の値を縦軸にプロットしたときのグラフの傾きからΔEC/ΔpHを求める。
【0044】
pHの変化に対する電気伝導度変化率(ΔEC/ΔpH)は、表5の通りである。
【0045】
【表5】
【0046】
脱炭酸処理水のpHを7(目標pH)に調整するための目標電気伝導度の計算式(2)の係数0.89は、この表5のΔEC/ΔpHの平均値として求めたものである。
【符号の説明】
【0047】
3,7 電気伝導度計
4 アルカリ添加手段
5 スタティックミキサ
8,9 RO装置
【要約】
【課題】pH緩衝作用が低い脱炭酸処理水を中性pH(6〜8)とするようにアルカリ又は酸の添加量を制御する方法において、この添加量を脱炭酸処理水のpH変化に迅速に追従して制御することができる方法を提供する。
【解決手段】脱炭酸処理水にアルカリ又は酸を添加してpHを中性領域(pH6〜8)に制御する方法において、電気伝導度計を利用してアルカリ又は酸添加量を制御するpH制御方法。脱炭酸処理水は、工業用水又は地下水を炭酸濃度が10ppm以下となるように脱炭酸処理した水などである。
【選択図】
図1