【実施例】
【0051】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はそれらによって限定されない。なお、実施例中に示した物性値の測定方法又は定義を以下に示す。
1)DSC測定における融解温度と融解熱量
TA INSTRUMENTS社製のDSC測定装置Q10を使用して、室温(26℃)〜230℃の温度範囲で、昇温速度10℃/min、窒素雰囲気、サンプル重量4mgの条件で測定し、その2nd runにおける融解ピークトップの温度を融解温度(℃)とし、ピーク面積から融解熱量(J/g)を求めた。
2)平均繊維径と繊維径のCV値
日本電子株式会社製の走査型電子顕微鏡JSM−5410LVを使用して、電界紡糸によって得られた繊維シートを15000倍で観察し、画像解析ソフトを用いて繊維50本の直径を測定した。繊維50本の繊維径の平均値を平均繊維径とし、標準偏差を平均繊維径で除した値をCV値とした。
3)経時面積収縮率
PVDF系ポリマーを溶解して得られた電界紡糸溶液を基材(不織布)上に電界紡糸し、繊維シートと基材とからなる繊維シート複合体を作製した。なお、本発明における全ての電界紡糸は、24±2℃、35±5%の雰囲気温湿度条件で実施した。繊維シート複合体を、縦10cm、横10cmのサイズに切り出し、繊維シートを基材から剥がして静置した。紡糸から24時間後に繊維シートの縦と横の長さを3ヶ所ずつ測定し、下式によって経時面積収縮率を算出した。
経時面積収縮率
=[(紡糸直後の面積)−(24時間後の面積)]/(紡糸直後の面積)×100
4)重量平均分子量
PVDF系ポリマーの重量平均分子量は、PVDF系ポリマーを0.1重量%の濃度でN−メチル−2−ピロリドンに溶解し、日本分光製のGPC−900、shodex KD−806Mカラムを使用して、40℃で測定を実施し、ポリスチレン換算の重量平均分子量を求めた。
5)フィルター加工性
各種のフィルターへ加工する際の加工速度、トラブル発生率、歩留まり、良品率等を総合的に判断し、◎、○、△、×の4段階でフィルター加工性を評価した。
◎:フィルター加工性が満足できるレベルである。
○:フィルター加工性が十分なレベルである。
△:フィルター加工性が許容できるレベルである。
×:フィルター加工性が許容できないレベルである。
【0052】
参考例1
フッ化ビニリデンを主体とするPVDF系共重合体として、Arkema社のKynar 2851(商品名、重量平均分子量57万)をN,N−ジメチルアセトアミドとアセトンの共溶媒(50/50(w/w))に20重量%の濃度で溶解し、電界紡糸に用いるポリマー溶液を調整した。得られた溶液を内径0.3mmのニードルを用いて、溶液供給量2.0mL/h、印加電圧45.0kV、紡糸距離25.0cmの条件で電界紡糸した。コレクター電極の上には、鞘/芯=高密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレートの熱融着性複合繊維からなる目付20g/m
2のカード不織布を基材として配し、電界紡糸されたナノ繊維を基材上に1.5g/m
2の目付となるように捕集することで、繊維シート複合体を作製した。
得られた繊維シート複合体は、繊維シートの剥離や皺入り(繊維シートの収縮によって発生する皺)は見られず、良好な地合であった。
繊維シートの各種物性等を測定したところ、平均繊維径は250nmであり、繊維径のCV値は32%であり、経時面積収縮率は10.5%であり、融解温度は156.0℃であり、融解熱量は42.1J/gであった。
繊維シート複合体と、ポリエステルスパンボンド不織布とを、該繊維シート複合体中の繊維シートの層が中層となるように積層し、これをプリーツ加工し、プリーツフィルターとした。プリーツ加工する際に、繊維シートが基材から剥離した部分が僅かであるが確認できたが、プリーツ加工の加工性を悪化させるほどではなく、さらにフィルターへの加工性も問題がなかった。得られたプリーツフィルターにおいて、繊維シートに破れ等の不具合は見られなかった。
【0053】
参考例2
フッ化ビニリデンを主体とするPVDF系共重合体として、Arkema社のKynar 3120−50(商品名、重量平均分子量54万)をN,N−ジメチルアセトアミドとアセトンの共溶媒(80/20(w/w))に20重量%の濃度で溶解し、電界紡糸に用いるポリマー溶液を調整した。得られた溶液を内径0.2mmのニードルを用いて、溶液供給量2.5mL/h、印加電圧40.0kV、紡糸距離15.0cmの条件で電界紡糸した。コレクター電極の上には、ポリエステル繊維からなる目付20g/m
2のスパンボンド不織布を基材として配し、電界紡糸されたナノ繊維をスパンボンド不織布の上に2.0g/m
2の目付となるように捕集することで、繊維シート複合体を作製した。
得られた繊維シート複合体は、繊維シートの剥離や皺入りは見られず、良好な地合であった。
繊維シートの各種物性等を測定したところ、平均繊維径は210nmであり、繊維径のCV値は27%であり、経時面積収縮率は8.3%であり、融解温度は163.0℃であり、融解熱量は29.3J/gであった。
繊維シート複合体と、基材と同じポリエステル繊維スパンボンド不織布とを、上記繊維シート複合体中の繊維シート層が中層となるように積層し、これをポイント超音波シール機(ポイント直径2mm、ポイント面積率8%)で一体化した。さらに、これをプリーツ加工し、プリーツフィルターとした。プリーツ加工、フィルター加工性はともに良好で、得られたプリーツフィルターにおいて、繊維シートに破れ等の不具合は見られなかった。
【0054】
実施例3
フッ化ビニリデンを主体とするPVDF系共重合体として、Arkema社のKynar 3120−50(商品名、重量平均分子量54万)をN,N−ジメチルホルムアミドとアセトンの共溶媒(80/20(w/w))に18重量%の濃度で溶解し、添加剤として臭化テトラブチルアンモニウムを0.05重量%添加して、電界紡糸に用いるポリマー溶液を調整した。得られた溶液を内径0.2mmのニードルを用いて、溶液供給量2.5mL/h、印加電圧40.0kV、紡糸距離15.0cmの条件で電界紡糸した。コレクター電極の上には、鞘/芯=高密度ポリエチレン/ポリプロピレンの熱融着性複合繊維(低融点成分の融解温度130℃)からなる目付50g/m
2の抄紙不織布を基材として配し、電界紡糸されたナノ繊維を基材上に1.5g/m
2の目付となるように捕集することで、繊維シート複合体を作製した。
得られた繊維シート複合体は、繊維シートの剥離や皺入りは見られず、良好な地合であった。
繊維シートの各種物性等を測定したところ、平均繊維径は110nmであり、繊維径のCV値は15%であり、経時面積収縮率は8.9%であり、融解温度は163.1℃であり、融解熱量は29.5J/gであった。
メルトブローン法ポリプロピレン不織布が巻回されてなる筒状カートリッジフィルターの製造工程において、筒状に巻回される前段階でポリプロピレン不織布(融解温度162℃)の上に、上記繊維シート複合体を挿入し、145℃の輻射熱で熱処理しながら巻回し、繊維シート複合体が5周巻回された筒状カートリッジフィルターを作製した。挿入した繊維シート複合体の一部である抄紙不織布は、熱処理によってメルトブローン法ポリプロピレン不織布と融着しており、形態安定性を向上させていた。繊維シート複合体は、基材が適当な剛性を有しているので、ハンドリング性やポリプロピレン不織布上への挿入性に優れ、フィルターへの加工性が良好であった。得られた筒状カートリッジフィルターにおいて、繊維シートに破れ等の不具合は見られなかった。
【0055】
実施例4
フッ化ビニリデンを主体とするPVDF系共重合体として、Arkema社のKynar 3120−50(商品名、重量平均分子量54万)をN,N−ジメチルホルムアミドとアセトンの共溶媒(70/30(w/w))に16重量%の濃度で溶解し、添加剤としてドデシル硫酸ナトリウムを0.02重量%添加して、電界紡糸に用いるポリマー溶液を調整した。得られた溶液を内径0.2mmのノズル孔8個を有する多孔スピナレットを用いて、溶液供給量3.0mL/h、印加電圧45.0kV、紡糸距離12.5cmの条件で電界紡糸した。コレクター電極の上には、鞘/芯=高密度ポリエチレン/ポリプロピレンの熱融着性複合繊維(低融点成分の融解温度:130℃)からなる目付40g/m
2のカード不織布を基材として配し、電界紡糸されたナノ繊維を基材上に2.5g/m
2の目付となるように捕集することで、繊維シート複合体を作製した。
得られた繊維シート複合体は、繊維シートの剥離や皺入りは見られず、良好な地合であった。
繊維シートの各種物性等を測定したところ、平均繊維径は120nmであり、繊維径のCV値は12%であり、経時面積収縮率は8.9%であり、融解温度は163.3℃であり、融解熱量は29.1J/gであった。
繊維シート複合体と、鞘/芯=高密度ポリエチレン/ポリプロピレンからなる目付20g/m
2の複合スパンボンド不織布(低融点成分の融解温度130℃)とを、該繊維シート複合体中の繊維シートが中層となるように積層し、これをスルーエア加工ラインにて140℃の循環熱風で熱処理し、それぞれの層間を接着して3層繊維シート複合体を作製した。3層繊維シート複合体は、ナノ繊維層が表面に露出していないために、擦れなどによってナノ繊維層が破れたりする恐れがなく、ハンドリング性に優れていた。3層繊維シート複合体を5枚積層して平膜状フィルターを作製したが、フィルターへの加工性は良好であった。
【0056】
実施例5
フッ化ビニリデンを主体とするPVDF系共重合体として、Arkema社のKynar 3120−50(商品名、重量平均分子量54万)をN,N−ジメチルアセトアミドに15重量%の濃度で溶解し、添加剤として塩化テトラブチルアンモニウムを0.1重量%添加して、電界紡糸に用いるポリマー溶液を調整した。得られた電界紡糸溶液を内径0.2mmのニードルを用いて、溶液供給量1.0mL/h、印加電圧45.0kV、紡糸距離20.0cmの条件で電界紡糸した。
コレクター電極の上には、鞘/芯=高密度ポリエチレン/ポリプロピレンの熱融着性複合繊維(低融点成分の融解温度130℃)からなる目付40g/m
2のカード不織布を基材として配し、電界紡糸されたナノ繊維を基材上に1.0g/m
2の目付となるように捕集することで、繊維シート複合体を作製した。
得られた繊維シート複合体は、繊維シートの剥離や皺入りは見られず、良好な地合であった。
繊維シートの各種物性等を測定したところ、平均繊維径は80nmであり、繊維径のCV値は10%であり、経時面積収縮率は9.2%であり、融解温度は163.0℃であり、融解熱量は29.2J/gであった。
繊維シート複合体と、鞘/芯=高密度ポリエチレン/ポリプロピレンからなる複合スパンボンド不織布(低融点成分の融解温度130℃)とを、該繊維シート複合体中の繊維シートが中層となるように積層し、エンボス面積率4%のエンボス加工機にて、フラットロール温度が110℃、エンボスロール温度が121℃、クリアランスが0.01mm、線圧が55N/mmの条件で接着加工を実施した。3層繊維シート複合体は、ナノ繊維層が表面に露出していないために、エンボスロールにPVDF系ナノ繊維の層が巻き付くトラブルがなく、安定的に3層繊維シート複合体を作製することができた。得られた3層繊維シート複合体を直径8cmの円形に切り出してメンブレンフィルターとし、ブフナーロートを用いた吸引濾過に使用したところ、カード基材不織布および積層した複合スパンボンド不織布層がサポート材として機能し、PVDF系繊維の層に破れなどを生じることなく、安定的に濾過することができた。
【0057】
比較例1
PVDF単独重合体として、Arkema社のKynar 761(商品名、重量平均分子量54万)をN,N−ジメチルアセトアミドに17.5重量%の濃度で溶解し、電界紡糸に用いるポリマー溶液を調整した。得られた溶液を内径0.2mmのニードルを用いて、溶液供給量1.0mL/h、印加電圧45.0kV、紡糸距離20.0cmの条件で電界紡糸した。コレクター電極の上には、鞘/芯=高密度ポリエチレン/ポリプロピレンの熱融着性複合繊維(低融点成分の融解温度130℃)からなる目付20g/m
2のカード不織布を基材として配し、電界紡糸されたナノ繊維を基材上に2.5g/m
2の目付となるように捕集することで、繊維シート複合体を作製した。
基材に捕集されたナノ繊維は、ロールに巻き取られるまでの間に、経時変化によって収縮して基材から部分的に剥離し、この部分が皺となってロールに巻き取られた。また、巻き取ったロールから繊維シート複合体を繰り出したところ、部分的に剥離した部分を起点に剥離部分が拡大し、ハンドリング性が大幅に低下してしまった。
繊維シートの各種物性等を測定したところ、平均繊維径は260nmであり、繊維径のCV値は8%であり、経時面積収縮率は12.5%であり、融解温度は165.7℃であり、融解熱量は50.9J/gであった。
繊維シート複合体と、鞘/芯=高密度ポリエチレン/ポリプロピレンからなる複合スパンボンド不織布(低融点成分の融解温度:130℃)とを、繊維シート複合体中の繊維シートが中層となるように積層し、エンボス面積率4%のエンボス加工機にて、フラットロール温度が110℃、エンボスロール温度が121℃、クリアランスが0.01mm、線圧が55N/mmの条件で接着加工を実施しようと試みたが、基材から剥離した繊維シートが、繰り出しテンションロールに巻きついて、操業性が低下した。また、剥離した繊維シートが部分的に折り重なってエンボス機に挿入され、皺の発生によって3層繊維シート複合体の品質が低下した。
【0058】
比較例2
PVDF単独重合体として、Alkema社のKynar 711(商品名、重量平均分子量30万)をN,N−ジメチルアセトアミドとアセトンの共溶媒(50/50(w/w))に16重量%の濃度で溶解し、添加剤としてドデシル硫酸ナトリウムを0.05重量%添加して、電界紡糸に用いるポリマー溶液を調整した。得られた溶液を内径0.2mmのノズル孔4個を有する多孔スピナレットを用いて、溶液供給量2.0mL/h、印加電圧40.0kV、紡糸距離20.0cmの条件で電界紡糸した。コレクター電極の上には、鞘/芯=高密度ポリエチレン/ポリプロピレンの熱融着性複合繊維(低融点成分の融解温度130℃)からなる目付40g/m
2のカード不織布を基材として配し、電界紡糸されたナノ繊維を基材上に3.0g/m
2の目付となるように捕集し、繊維シート複合体を作製した。
基材に捕集されたナノ繊維は、ロールに巻き取られるまでの間に、経時変化によって収縮して基材から部分的に剥離し、この部分が皺となってロールに巻き取られた。また、巻き取ったロールから繊維シート複合体を繰り出したところ、部分的に剥離した部分を起点に剥離部分が拡大し、ハンドリング性が大幅に低下してしまった。
繊維シートの各種物性等を測定したところ、平均繊維径は160nmであり、繊維径のCV値は21%であり、経時面積収縮率は12.9%であり、融解温度は169.5℃であり、融解熱量は53.5J/gであった。
繊維シート複合体と、ポリエステルテル繊維不織布とを、繊維シート複合体中の繊維シートが中層となるように、ホットメルト接着剤を用いて積層一体化させた。基材から剥離した繊維シートが、繰り出しテンションロールに巻きついて操業性を悪化させたり、剥離した繊維シートが部分的に折り重なって皺を生じて品質を低下させたりした。
【0059】
比較例3
フッ化ビニリデンを主体とするPVDF系共重合体として、Solvay社のSolef 21216/1010(商品名、重量平均分子量60万)をN,N−ジメチルアセトアミドとアセトンの共溶媒(50/50 w/w)に10重量%の濃度で溶解し、添加剤としてドデシル硫酸ナトリウムを0.05重量%添加して、電界紡糸に用いるポリマー溶液を調整した。得られた溶液を内径0.2mmのニードルを用いて、溶液供給量1.0mL/h、印加電圧43.0kV、紡糸距離20.0cmの条件で電界紡糸した。コレクター電極の上には、鞘/芯=高密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレートの熱融着性複合繊維(低融点成分の融解温度:130℃)からなる目付40g/m
2のカード不織布を基材として配し、電界紡糸されたナノ繊維を基材上に1.5g/m
2の目付となるように捕集し、繊維シート複合体を作製した。
基材に捕集されたナノ繊維は、経時収縮することなくロールに巻き取られ、皺等は見られず、良好な地合であった。
繊維シートの各種物性等を測定したところ、平均繊維径は100nmであり、繊維径のCV値は15%であり、経時面積収縮率は9.3%であり、融解温度は136.0℃であり、融解熱量は29.0J/gであった。
繊維シート複合体を、メルトブローン法ポリプロピレン不織布(融解温度:162℃)が巻回されてなる筒状カートリッジフィルターの製造工程において、筒状に巻回される前段階で該ポリプロピレン不織布の上に挿入し、145℃の輻射熱で熱処理しながら巻回して筒状カートリッジフィルターを作製しようと試みたが、熱処理時に繊維シートが大きく収縮し、均一に巻回することができなかった。繊維シートの熱収縮を抑制するために、熱処理の温度を繊維シートを構成するナノ繊維の融点を下回る132℃に変更したが、繊維シートの熱収縮抑制効果は十分でなく、巻回して得られた筒状カートリッジフィルターの均一性は満足できるものではなかった。次に、熱処理温度を125℃まで低下したところ、繊維シートの熱収縮は改善されたが、得られた筒状カートリッジフィルターにおいて、基材と繊維シートおよびメルトブローン法ポリプロピレン不織布は融着しておらず、各層間の接着が十分でなく、形態保持性が著しく劣っていた。
【0060】
比較例4
フッ化ビニリデンを主体とするPVDF系共重合体として、Arkema社のKynar 2801(商品名、重量平均分子量74万)をN,N−ジメチルアセトアミドとアセトンの共溶媒(70/30(w/w))に15重量%の濃度で溶解し、電界紡糸に用いるポリマー溶液を調整した。得られた溶液を内径0.3mmのニードルを用いて、溶液供給量1.5mL/h、印加電圧43.0kV、紡糸距離17.5cmの条件で電界紡糸した。コレクター電極の上には、鞘/芯=直鎖状低密度ポリエチレン/ポリプロピレン繊維からなる目付40g/m
2の複合スパンボンド不織布(低融点成分の融解温度125℃)を基材として配し、電界紡糸されたナノ繊維を基材上に2.0g/m
2の目付となるように捕集することで、繊維シート複合体を作製した。
基材に捕集されたナノ繊維は、経時収縮することなくロールに巻き取られ、皺等は見られず、良好な地合であった。
繊維シートの各種物性等を測定したところ、平均繊維径は180nmであり、繊維径のCV値は22%であり、経時面積収縮率は9.6%であり、融解温度は142.3℃であり、融解熱量は31.1J/gであった。
繊維シート複合体と、基材である不織布と同じ、鞘/芯=直鎖状低密度ポリエチレン/ポリプロピレンからなる複合スパンボンド不織布(低融点成分の融解温度125℃)とを、繊維シートが中層となるように積層し、スルーエア加工ラインにて132℃の循環熱風で熱処理し、それぞれの層間を接着して3層繊維シート複合体の作製を試みた。繊維シートの融点と熱処理温度が近いためか、繊維シートが大きく収縮し、破れを生じてしまい、均一な3層繊維シート複合体を得ることができなかった。得られた3層繊維シート複合体を直径8cmの円形に切り出してメンブレンフィルターとし、ブフナーロートを用いた吸引濾過に使用したが、濾過液の通過が繊維シートの破れ部分に集中し、濾過効率が著しく低く、フィルターとしての機能をなさなかった。
【0061】
以上の実験の結果について、表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示した結果から、
参考例1
、参考例2、実施例3〜5において、融解熱が155℃以上で、かつ融解熱量が45J/g以下である繊維シートは、経時変化による収縮率が低く、基材として用いた不織布から剥離するという不具合が見られなかった。
実施例1においては、得られた繊維シートをプリーツ加工する際に、繊維シートが基材から僅かに剥離した部分が見られたが、操業性や品質を大幅に低下させることはなく、満足できる製品であった。また、
参考例2
、実施例3〜5においては、積層用の不織布との積層複合化の工程およびフィルター加工の工程において不具合は見られず、十分な操業性と品質を有していた。
【0064】
一方で、比較例1〜2においては、繊維シートの融解熱量が45J/g以上で、経時変化による収縮率が高く、基材として用いた不織布から剥離して皺を発生させるといった不具合が見られた。また、比較例3から4においては、繊維シートの融解温度が155℃よりも低く、電界紡糸によって得られた繊維シートは、経時変化により大きく収縮して皺を発生するといった不具合は見られなかった。しかし、得られた繊維シート複合体は、熱収縮しやすく、輻射熱や循環熱風による熱処理を利用した積層複合化を行うことができなかった。