(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により得られた主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体を含む多孔質体に、水酸基活性化剤を反応させて、前記主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体を含む多孔質体の水酸基の一部を活性化させる工程を含む、水酸基が活性化された、主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体を含む多孔質体の製造方法。
前記エチレンビニルアルコール共重合体およびキトサンの溶液におけるエチレンビニルアルコール共重合体およびキトサンの合計の濃度が、20〜200mg/mlである請求項6または7に記載の製造方法。
エチレンビニルアルコール共重合体およびキトサンの質量比(エチレンビニルアルコール共重合体/キトサン)が、98/2〜20/80である請求項6〜8のいずれかに記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体を含む多孔質体の製造方法(本文中、「第1の製造方法」と呼ぶことがある)であって、
加熱しながらエチレンビニルアルコール共重合体に水と水に混和性の第1の溶媒を加えてエチレンビニルアルコール共重合体溶液を得、
前記エチレンビニルアルコール共重合体溶液を冷却して析出した成形体を得、
前記成形体を第2の溶媒に浸漬させて、前記成形体中に含まれる水および/または第1の溶媒を前記第2の溶媒と置換させ、主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体を含む多孔質体を得る工程を含み、
前記水と第1の溶媒の体積割合(水/(水+第1の溶媒))が、0.1〜0.6である。
【0013】
本発明(第1の製造方法、後記する第2の製造方法、後記する第3の製造方法、後記する主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体を含む多孔質体、後記する水酸基が活性化された、主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体を含む多孔質体、および後記する主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体とキトサンとを含む多孔質体)の多孔質体の形状は限定されないが、例えば、膜状、立方体状、直方体状、円柱状、卵形状等が挙げられる。また、この多孔質体の縦横高さの3つの方向のうち、最も短いものを便宜的に厚みと呼ぶ。本発明の多孔質体の厚みは限定されないが、例えば10μm以上であり、好ましくは100μm以上であり、より好ましくは1mm以上である。
【0014】
本発明(第1の製造方法、後記する第2の製造方法、後記する第3の製造方法、後記する主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体を含む多孔質体、後記する水酸基が活性化された、主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体を含む多孔質体、および後記する主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体とキトサンとを含む多孔質体)において、エチレンビニルアルコール共重合体はエチレン含有量は限定されないが、例えば10モル%〜60モル%、好ましくは15モル%〜50モル%、より好ましくは27モル%〜44モル%である。
【0015】
<第1の製造方法>
本発明における第1の製造方法で用いるエチレンビニルアルコール共重合体溶液は、従来公知の方法により、エチレンビニルアルコール共重合体を水と水に混和性の第1の溶媒に溶解させて得ることができる。例えば、エチレンビニルアルコール共重合体を水と第1の溶媒に溶解させる際、物理的刺激を与えて行ってもよい。その物理的刺激としては、例えば、攪拌、振とう、超音波処理等が挙げられる。また、エチレンビニルアルコール共重合体を水および第1の溶媒に溶解させる際、加熱してもよい。この加熱温度は、例えば、30℃〜100℃であり、好ましくは、40℃〜100℃である。
【0016】
前記主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体を含む多孔質体は、前記のように、エチレンビニルアルコール共重合体が、水親和性であり、かつ、非水溶性であるため、水中での使用においても架橋は不要である。また、前記主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体を含む多孔質体は、水酸基を有するため、その水酸基を種々修飾することにより、多機能な多孔質体を得ることが可能である。
【0017】
前記第1の溶媒は、水と混和性であり、かつ水以外の溶媒であれば、限定されない。前記第1の溶媒は、例えば、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサンおよびアセトニトリルが挙げられる。
【0018】
本発明の第1の製造方法においては、前記エチレンビニルアルコール共重合体溶液におけるエチレンビニルアルコール共重合体の濃度は、例えば、40〜300mg/ml、好ましくは、60〜250mg/ml、より好ましくは、80〜200mg/mlである。この濃度が高い場合、孔径および骨格径が小さい多孔質体を得ることができる。
【0019】
本発明の第1の製造方法においては、前記水と前記第1の溶媒の体積割合(水/(水+第1の溶媒))は、0.1〜0.6であり、好ましくは0.2〜0.6、より好ましくは0.25〜0.55である。
【0020】
本発明における第1の製造方法においては、次に、前記エチレンビニルアルコール共重合体溶液を冷却して析出した成形体を得る。この冷却温度は、例えば、−196℃〜40℃、好ましくは−196℃〜35℃、より好ましくは−196℃〜30℃である。この冷却温度が低い場合、孔径および骨格径が小さい多孔質体を得ることができる。冷却時間は、好ましくは10秒〜48時間であり、より好ましくは30秒〜24時間である。なお、このエチレンビニルアルコール共重合体溶液を冷却する際、エチレンビニルアルコール共重合体溶液を容器に入れて冷却してもよい。また、このエチレンビニルアルコール共重合体溶液を冷却する際、グラビアコーター、バーコーター、バードフィルムアプリケーター等の塗布装置を用いて基板上に塗布し、それを冷却してもよい。基板上にエチレンビニルアルコール共重合体溶液を塗布して冷却する場合、膜状の多孔質体を最終的に得ることが可能である。
【0021】
本発明における第1の製造方法においては、次に、前記成形体を第2の溶媒に浸漬させて、前記成形体中に含まれる水および/または前記第1の溶媒を前記第2の溶媒と置換させ、主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体を含む多孔質体を得る。
【0022】
前記第2の溶媒は、水、低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン、1,4−ジオキサンおよびアセトニトリルからなる群から選択される1以上が好ましく、水、アセトンがより好ましい。前記低級アルコールとしては、炭素数1〜6を有する低級アルコールが挙げられ、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、t−アミルアルコール、n−ヘキサノールが挙げられる。なお、前記第2の溶媒が水である場合、前記成形体中に含まれる水および/または前記第1の溶媒を前記溶媒と置換させる工程は、前記成形体中に含まれる前記第1の溶媒を前記第2の溶媒(水)と置換させる工程である。また、前記第2の溶媒が第1の溶媒と同一である場合、前記成形体中に含まれる水および/または前記第1の溶媒を前記第2の溶媒と置換させる工程は、前記成形体中に含まれる水を前記第2の溶媒と置換させる工程である。
【0023】
前記溶媒と置換させた後、得られた成形体を乾燥して多孔質体を得てもよい。前記乾燥は、例えば0℃〜90℃、好ましくは10℃〜80℃で行う。また、前記乾燥は、例えば減圧〜常圧、好ましくは減圧で行う。
【0024】
また、本発明は、主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体を含む多孔質体である。
【0025】
本発明の主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体を含む多孔質体は、前記のようにエチレンビニルアルコール共重合体を主成分として含み、平均孔径は、例えば0.3μm〜5μmであり、平均骨格径は、例えば0.3μm〜5μmである。また、本発明の多孔質体の比表面積は、例えば、20〜300m
2/gであり、好ましくは50〜200m
2/gである。なお、比表面積は、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。従って、このような多孔質体は、例えばフィルター、吸着材等として、用いることができる。
【0026】
「主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体を含む多孔質体」において、「主成分」とは、原料であるポリマー成分全体に対して、エチレンビニルアルコール共重合体が例えば30重量%〜100重量%、好ましくは50重量%〜100重量%、より好ましくは70重量%〜100重量%含まれることを意味する。
【0027】
<第2の製造方法>
また、本発明は、水酸基が活性化された、主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体を含む多孔質体の製造方法(本文中、「第2の製造方法」と呼ぶことがある)であって、前記第1の製造方法により得られた主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体を含む多孔質体に、水酸基活性化剤を反応させて、前記主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体を含む多孔質体の水酸基の一部を活性化させる工程を含む。
【0028】
本発明の水酸基の一部を活性化させた、エチレンビニルアルコール共重合体を含む多孔質体は、その活性化された水酸基が、酵素に含まれるアミノ基と反応することにより、前記多孔質体上に酵素を固定することが可能である。そのような酵素が固定化された多孔質体は、酵素を再利用しやすい点、酵素を安定に利用できる点、そのような多質体を反応液から除去することにより容易に酵素反応を停止することができる点、酵素反応生成物に酵素が混在するのを避けることができる点、酵素と酵素反応生成物とを容易に分離することができる点などで、優れている。なお、酵素に代えて、アミノ基含有化合物(例えばアミノ酸)を用いても、同様に行うことができる。
【0029】
前記第2の製造方法において、水酸基活性化剤としては、例えば、カルボニルジイミダゾール、ジ(N−スクシンイミジル)、トレシルクロリド、トシルクロリド、シアヌリッククロライド、シアノゲンブロミド、2−フルオロ−3−メチルピリジニウムトシレート(FMP)などが挙げられ、好ましくはカルボニルジイミダゾールである。
【0030】
前記第2の製造方法において、水酸基活性化剤との反応は、例えば10〜50℃、好ましくは20〜40℃で行うことができる。
【0031】
また、本発明は、水酸基が活性化された、主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体を含む多孔質体である。
【0032】
前記水酸基が活性化された、主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体を含む多孔質体は、前記のようにエチレンビニルアルコール共重合体を主成分として含み、平均孔径は、例えば0.3μm〜5μmであり、平均骨格径は、例えば0.3μm〜5μmである。従って、このような多孔質体は、例えばフィルター、吸着材等として、用いることができる。
【0033】
また、水酸基が活性化された、主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体を含む多孔質体と酵素とを反応させ、酵素が固定化された多孔質体を製造することもできる。このような多孔質体に固定化された酵素は、遊離の酵素より熱的に安定であるという効果を有する。
【0034】
前記酵素固定において、イミダゾリウムカルボニル修飾されたエチレンビニルアルコール共重合体を含む多孔質体と酵素との反応は、例えば、-4〜50℃、好ましくは0〜40℃で行うことができる。
【0035】
前記固定化される酵素としては、カタラーゼ、ペルオキシダーゼ、チロシナーゼ、グルコシダーゼ、リパーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、グルコースオキシダーゼ、ヒアルロニダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、トランスグルタミナーゼ等が挙げられる。
【0036】
前記水酸基活性化剤の種類により、水酸基が活性化された、主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体を含む多孔質体、および酵素とを反応させ、酵素が固定化された多孔質体は以下のように分類できる。
【0037】
a)トシルクロリド、トリフルオロメチルスルホニルクロリド、2−フルオロ−3−メチルピリジニウムトシレート(FMP)
【0041】
c)カルボニルジイミダゾール(CDI)、ジ(N−スクシンイミジル)(DSC)
【0047】
<第3の製造方法>
また、本発明は、主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体とキトサンとを含む多孔質体の製造方法(本文中、「第3の製造方法」と呼ぶことがある)であって、
加熱しながらエチレンビニルアルコール共重合体に、キトサン水溶液と、水に混和性の第3の溶媒とを加えてエチレンビニルアルコール共重合およびキトサンの溶液を得、
前記エチレンビニルアルコール共重合体およびキトサンの溶液を冷却して析出した成形体を得、
前記成形体を第4の溶媒に浸漬させて、前記成形体中に含まれる水および/または第3の溶媒を前記第4の溶媒と置換させ、主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体およびキトサンを含む多孔質体を得る工程を含み、
前記水と第3の溶媒の体積割合(水/(水+第3の溶媒))が、0.1〜0.6である。
【0048】
キトサンは、アミノ基を有する天然多糖類であり、抗菌性、金属キレート能などの多様な用途を有する機能性高分子である。主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体とキトサンとを含む多孔質体は、エチレンビニルアルコール共重合体の水酸基と、キトサンのアミノ基をあわせ持つ多孔質体である。
【0049】
前記第3の製造方法および後記する主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体とキトサンとを含む多孔質体において、キトサンとしては、脱アセチル化度が、例えば、60モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上である。また、キトサンとしては、重合度が、例えば、30〜10,000、好ましくは50〜5,000である。
【0050】
本発明の第3の製造方法においては、前記エチレンビニルアルコール共重合体とキトサンの溶液におけるエチレンビニルアルコール共重合体とキトサンの合計の濃度は、例えば、20〜200mg/ml、好ましくは、30〜150mg/ml、より好ましくは、40〜120mg/mlである。
【0051】
本発明の第3の製造方法および後記する主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体とキトサンとを含む多孔質体においては、前記エチレンビニルアルコール共重合体およびキトサンの質量比(エチレンビニルアルコール共重合体/キトサン)は、例えば、98/2〜20/80、好ましくは95/5〜30/70、より好ましくは95/5〜40/60である。前記エチレンビニルアルコール共重合体およびキトサンの質量比(エチレンビニルアルコール共重合体/キトサン)が高くなると、孔径および骨格径が小さい多孔質体を得ることができる。
【0052】
前記第3の溶媒は、水と混和性であり、かつ水以外の溶媒であれば、限定されない。前記第3の溶媒は、例えば、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサンおよびアセトニトリルが挙げられる。
【0053】
本発明の第3の製造方法においては、前記水と前記第3の溶媒の体積割合(水/(水+第3の溶媒))は、0.1〜0.6であり、好ましくは0.2〜0.6、より好ましくは0.25〜0.55である
【0054】
本発明における第3の製造方法においては、次に、前記エチレンビニルアルコール共重合体とキトサンの溶液を冷却して析出した成形体を得る。この冷却温度は、例えば、−196℃〜40℃、好ましくは−196℃〜35℃、より好ましくは−196℃〜30℃である。冷却時間は、好ましくは10秒〜48時間であり、より好ましくは30秒〜24時間である。なお、このエチレンビニルアルコール共重合体とキトサンの溶液を冷却する際、エチレンビニルアルコール共重合体とキトサンの溶液を容器に入れて冷却してもよい。また、このエチレンビニルアルコール共重合体とキトサンの溶液を冷却する際、グラビアコーター、バーコーター、バードフィルムアプリケーター等の塗布装置を用いて基板上に塗布し、それを冷却してもよい。基板上にエチレンビニルアルコール共重合体とキトサンの溶液を塗布して冷却する場合、膜状の多孔質体を最終的に得ることが可能である。
【0055】
本発明における第3の製造方法においては、次に、前記成形体を第4の溶媒に浸漬させて、前記成形体中に含まれる水および/または前記第3の溶媒を前記第2の溶媒と置換させ、主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体とキトサンを含む多孔質体を得る。
【0056】
前記第4の溶媒は、水、低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン、1,4−ジオキサンおよびアセトニトリルからなる群から選択される1以上が好ましく、水、アセトンがより好ましい。前記低級アルコールとしては、炭素数1〜6を有する低級アルコールが挙げられ、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、t−アミルアルコール、n−ヘキサノールが挙げられる。なお、前記第2の溶媒溶媒が水である場合、前記成形体中に含まれる水および/または前記第1の溶媒を前記溶媒と置換させる工程は、前記成形体中に含まれる前記第1の溶媒を前記第2の溶媒(水)と置換させる工程である。また、前記第2の溶媒が第1の溶媒と同一である場合、前記成形体中に含まれる水および/または前記第1の溶媒を前記第2の溶媒と置換させる工程は、前記成形体中に含まれる水を前記第2の溶媒と置換させる工程である。
【0057】
前記溶媒と置換させた後、得られた成形体を乾燥して多孔質体を得てもよい。前記乾燥は、例えば0℃〜90℃、好ましくは10℃〜80℃で行う。また、前記乾燥は、例えば減圧〜常圧、好ましくは減圧で行う。
【0058】
また、本発明は、主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体とキトサンとを含む多孔質体である。
【0059】
本発明の主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体とキトサンとを含む多孔質体は、前記のようにエチレンビニルアルコール共重合体とキトサンを主成分として含み、平均孔径は、例えば0.3μm〜5μmであり、平均骨格径は、例えば0.3μm〜5μmである。また、本発明の多孔質体の比表面積は、例えば、20〜300m
2/gであり、好ましくは50〜200m
2/gである。なお、比表面積は、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。従って、このような多孔質体は、例えばフィルター、吸着材等として、用いることができる。
【0060】
「主成分としてエチレンビニルアルコール共重合体とキトサンとを含む多孔質体」において、「主成分」とは、原料であるポリマー成分全体に対して、エチレンビニルアルコール共重合体とキトサンの合計が例えば55重量%〜100重量%、好ましくは65重量%〜100重量%、より好ましくは80重量%〜100重量%含まれることを意味する。
【0061】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例により限定されない。
本明細書の記載において、以下の略語を用いる。
EVOH:ポリ(エチレン−ビニルアルコール)
IPA:イソプロパノール
SEM:走査電子顕微鏡
【0062】
本明細書において、測定機器は以下の機器を用いた。
SEM:日立S−3000N(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)
イオンスパッタ:日立E−1010
比表面積(BET法):NOVA e4200(Quantachrome製)
本明細書において孔径および骨格径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影した画像から測定した孔径および骨格径の最小値および最大値を記載した。
【0063】
<SEM観察>
15.0mAの放電電流で150sスパッタリングを行った後、15.0kVから25.0kVの印加電圧でSEM観察を行った。
【0064】
[実施例1]
5ccのサンプル管にEVOH(エチレン含有量:27モル%、アルドリッチ製)を入れ、水とIPAの混合物(含水率35体積%)をEVOHの濃度が150mg/mLとなるように加えて80℃で溶解させた。このEVOH溶液の入ったサンプル管を20℃で12時間静置した。この冷却時の間に相分離が起こり、円柱状の成形体が得られた。24時間中にアセトンを3回交換して混合溶媒中の水をアセトンに置換した。その後24時間常温で減圧乾燥を行い、アセトンを除去して多孔質体を得た(寸法:直径10mm、厚み6mmの略円柱状)。
【0065】
得られた多孔質体のSEM写真を
図1に示す。
図1に示すように、多孔質体は、孔が連続しており、かつ、平均孔径が0.96μm、平均骨格径が0.80μm、比表面積が80m
2/gの多孔質体であることが確認できた。
【0066】
<EVOH濃度と含水率>
EVOHの濃度および水とIPAの混合物中の含水率(すなわち、水/(水+IPA)の百分率)を変化させた以外は、実施例1と同様に行った結果を、以下の表1に示す。表中、「B」は、連通孔を有する多孔質体が得られた場合を示す。
【0068】
また、EVOH(エチレン含有量:27モル%、アルドリッチ製)をEVOH(エチレン含有量:44モル%、アルドリッチ製)に変え、EVOHの濃度および水とIPAの混合物中の含水率(すなわち、水/(水+IPA)の百分率)を変化させた以外は、実施例1と同様に行った結果を、以下の表2に示す。表中、「B」については、表1において説明したとおりである。
【0070】
表1および表2に示すように、本発明の第1の製造方法によれば、EVOH多孔質体を得ることができることが確認できた。
【0071】
<水と第1の溶媒の体積割合の影響>
EVOH(エチレン含有量:27モル%、アルドリッチ製)、EVOHの濃度を100mg/mlを用い、水とIPAの混合物の含水率(すなわち、水と第1の溶媒の比率)を30%、35%、55%および60%に変化させた以外は、実施例1と同様に行って得られる多孔質体のSEM写真を
図2に示す。
【0072】
図2から、水と第1の溶媒(この場合はIPA)の体積割合が変化すると、得られる多孔質体の形態が変化することが確認できた。
【0073】
<EVOH濃度の影響>
EVOH(エチレン含有量:27モル%、アルドリッチ製)を用い、水とIPAの混合物の含水率を35%にし、EVOHの濃度を120mg/ml、140mg/ml、150mg/mlおよび180mg/mlに変化させた以外は、実施例1と同様に行って得られる多孔質体のSEM写真を
図3に示す。またその多孔質体の平均孔径と平均骨格径を、以下の表3に示す。
【0075】
また、EVOH(エチレン含有量:44モル%、アルドリッチ製)を用い、水とIPAの混合物の含水率を35%にし、EVOHの濃度を150mg/ml、180mg/mlおよび200mg/mlに変化させた以外は、実施例1と同様に行って得られる多孔質体の平均孔径と平均骨格径を、以下の表4に示す。
【0077】
表3、表4および
図3に示すように、EVOHの濃度が高くなるほど、孔径および骨格径が小さくなることが確認できた。
【0078】
<冷却温度の影響>
なお、水とIPAの混合物の含水率を35%にし、EVOHの濃度を150mg/mlにし、EVOH(エチレン含有量:27モル%、アルドリッチ製)を用いて、冷却温度を20℃または−196℃にした以外は、実施例1と同様に行って得られる多孔質体のSEM写真を
図6に示す。また、水とIPAの混合物の含水率を35%にし、EVOHの濃度を150mg/mlにし、EVOH(エチレン含有量:44モル%、アルドリッチ製)を用いて、冷却温度を20℃または−196℃にした以外は、実施例1と同様に行って得られる多孔質体のSEM写真も
図4に示す。
図4中、EVOH27は、エチレン含有量が27モル%のEVOH、EVOH44は、エチレン含有量が44モル%のEVOHの場合である。
【0079】
図4に示すように、−196℃で冷却した場合には多孔構造が観察されず、20℃で冷却して得られる多孔質体は、連通孔であることが確認できた。
【0080】
[実施例2]
実施例1において得られた多孔質体(寸法:直径10mm、厚み6mmの略円柱状、平均孔径は0.96μm、平均骨格径は0.80μm、0.1g)を、8質量%のカルボニルイミダゾールのアセトニトリル溶液(5mL)中に浸漬させ、バイオシェイカー中で25℃で4時間振とうさせた。前記溶液から多孔質体を取り出し、アセトンで洗浄した後、常温真空乾燥させて、カルボニルイミダゾール処理した多孔質体(0.1g、寸法:直径10mm、厚み6mmの略円柱状、平均孔径は0.96μm、平均骨格径は0.80μm)を得た。得られた多孔質体のSEM写真を
図5に示す。なお、前記カルボニルイミダゾール処理した多孔質体は、IR分析において、原料には存在しなかった、カルボニルに特徴的なピークと、イミダゾールに特徴的なピークが確認できたことから、エチレンビニルアルコールの水酸基の一部がイミダゾリウムカルボニルオキシ基に変換されたイミダゾリウムカルボニル修飾されたエチレンビニルアルコール共重合体が得られたことが確認できた。また、前記カルボニルイミダゾール処理した多孔質体の元素分析において、原料の多孔質体の窒素量が0であったのに対し、11.67%と増加していたことからも、多孔質体のエチレンビニルアルコールの水酸基の一部がイミダゾリウムカルボニルオキシ基に変換されたイミダゾリウムカルボニル修飾されたエチレンビニルアルコール共重合体が得られたことが確認できた。前記カルボニルイミダゾール処理した多孔質体と原料の元素分析の結果を表5に示す。
【0082】
[実施例3:酵素の固定]
実施例2で得られたイミダゾリウムカルボニル修飾されたエチレンビニルアルコール共重合体50mgの多孔質体を、0.05質量%のカタラーゼ水溶液(10mL)中に浸漬させ(0.1M、pH6.8のリン酸緩衝液中)、バイオシェイカー中で4℃で12時間振とうさせた。前記溶液から多孔質体を取り出し、水洗した後、常温真空乾燥させて、カタラーゼ処理した多孔質体(50mg、寸法:直径10mm、厚み6mmの略円柱状、平均孔径は0.96μm、平均骨格径は0.80μm)を得た。また、得られた多孔質体には、カタラーゼは6〜10mg/g固定されていた。この固定量は、Bradford法により確認した。
【0083】
<酵素活性について:反応温度>
実施例3で得られた多孔質体(20mg)を、過酸化水素(20mM、5mL)中に浸漬させ、バイオシェイカー中で30℃で、5分間振とうさせた。振とう後の過酸化水素の240nmの吸光度を測定し、以下の式に従い、多孔質体上に固定されたカタラーゼの触媒活性を算出した。
【0085】
式中、
C
1:当初の過酸化水素濃度
C
2:反応後の過酸化水素濃度
V:過酸化水素水の容積
【0086】
実施例3で得られた多孔質体上に固定されたカタラーゼは、遊離のカタラーゼと同様に触媒活性を示した。
【0087】
<酵素活性について:反応pH>
実施例3で得られた多孔質体を、過酸化水素(20mM、pHは5、6、6.8、8または9)中に浸漬させ、バイオシェイカー中で30℃で5分間振とうさせた。振とう後の過酸化水素の240nmの吸光度を測定し、前記の式に従い、多孔質体上に固定されたカタラーゼの触媒活性を算出した。
【0088】
実施例3で得られた多孔質体上に固定されたカタラーゼの触媒活性を
図6に示す。
図6に示されるように、遊離のカタラーゼと同様、触媒活性の最適pHは、6.8であった。また、多孔質体への固定化により酸性側における触媒活性の低下が抑制された。
【0089】
<酵素活性について:繰り返し利用>
実施例3で得られた多孔質体を、過酸化水素(20mM、pHは6.8)中に浸漬させ、バイオシェイカー中で30℃で5分間振とうさせた。振とう後の過酸化水素の240nmの吸光度を測定し、前記の式に従い、多孔質体上に固定されたカタラーゼの触媒活性を算出した。この操作を繰りかえした。
【0090】
実施例3で得られた多孔質体上に固定されたカタラーゼの触媒活性を
図7に示す。
図7に示されるように、実施例3で得られた多孔質体上に固定されたカタラーゼは、11回再利用した後でも約75%の触媒活性を有することが確認できた。
【0091】
<酵素活性について:経時変化>
実施例3で得られた多孔質体を、過酸化水素(20mM、pHは6.8)中に浸漬させ、バイオシェイカー中で30℃で振とうさせた。30分、60分、90分、120分および150分、振とう後の過酸化水素の240nmの吸光度を測定し、前記の式に従い、多孔質体上に固定されたカタラーゼの触媒活性を算出した。
【0092】
実施例3で得られた多孔質体上に固定されたカタラーゼの触媒活性を
図8に示す。
図8に示されるように、実施例3で得られた多孔質体上に固定されたカタラーゼは、遊離カタラーゼと比較して経時的に安定であることが確認できた。
【0093】
[実施例4]
5ccのサンプル管にキトサン(脱アセチル化度80モル%以上、重合度1000、和光純薬工業株式会社製)を入れ、2%(体積/体積)酢酸水溶液を加えて、キトサン溶液を調製した。このキトサン溶液に、EVOHとキトサンの質量比が8:2になるようにEVOH(エチレン含有量:27モル%、アルドリッチ製)を加え、EVOHとキトサンの合計の濃度が70mg/mlになり、かつ、水/水+IPAの体積比が0.35になるようにIPAを加えて80℃で溶解させた。このEVOHとキトサンの溶液の入ったサンプル管を20℃で12時間静置した。この冷却時の間に相分離が起こり、円柱状の成形体が得られた。24時間中にアセトンを3回交換して混合溶媒中の水をアセトンに置換した。その後24時間常温で減圧乾燥を行い、アセトンを除去して多孔質体を得た(寸法:直径10mm、厚み6mmの略円柱状、平均孔径が0.91μm、平均骨格径が1.03μm、比表面積が61m
2/g)。
【0094】
<EVOHとキトサンの質量比>
EVOHとキトサンの質量比および、EVOHとキトサンの合計の濃度を変化させた以外は、実施例4と同様に行った結果を、以下の表6に示す。表中、「B」については、表1において説明したとおりである。
【0096】
表6に示すように、本発明の第3の製造方法によれば、EVOHとキトサンの多孔質体を得ることができることが確認できた。
【0097】
<EVOHとキトサンの質量比の影響>
なお、EVOHとキトサンの質量比を9:1および7:3に変化させた以外は、実施例4と同様に行って得られた多孔質体のSEM写真を
図9に示す。また、EVOHとキトサンの質量比を8:2にした実施例4の多孔質体のSEM写真も同様に
図9に示す。
図9に示すように、得られた多孔質体は、孔が連続した構造の多孔質体であることが確認できた。また、その多孔質体の平均孔径と平均骨格径を、以下の表7に示す。
【0099】
表7に示すように、EVOHの比率が高くなるほど、孔径および骨格径が大きくなることが確認できた。
【0100】
<冷却温度の影響>
なお、冷却温度を4℃または−20℃にした以外は、実施例4と同様に行って得られる多孔質体のSEM写真を
図10に示す。また、冷却温度を20℃にした実施例4の多孔質体のSEM写真も同様に
図10に示す。
【0101】
図10に示すように、冷却温度が変わると、孔径および骨格径が変化することが確認できた。