(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記犠牲糸が、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、レーヨン、およびセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む糸である、請求項1または2に記載の強化電解質膜。
前記強化前駆体膜をアルカリ性水溶液に接触させる際に、前記式(2)を満足するように前記犠牲糸の一部のみ加水分解してアルカリ性水溶液に溶出させる、請求項8に記載の強化電解質膜の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<強化電解質膜>
図1は、本発明の強化電解質膜の一例を示す断面図である。強化電解質膜1は、イオン交換基を有する含フッ素ポリマーを含む電解質膜10が、織布20で補強されたものである。
【0018】
(電解質膜)
電解質膜10は、高い電流効率を発現する機能層としての、カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーからなる層(以下、第1の層12と記す。)と、機械的強度を保持する、スルホン酸型官能基を有する含フッ素共重合体からなる層(以下、第2の層14と記す。)とからなる積層体である。
【0019】
(第1の層)
カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーとしては、カルボン酸型官能基を有する含フッ素モノマーに由来する単位と、含フッ素オレフィンに由来する単位との共重合体が挙げられる。カルボン酸型官能基は、カルボン酸基(−COOH)そのもの、または−COOM(ただし、Mはアルカリ金属または第4級アンモニウム塩基である。)である。
【0020】
カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーは、後述する工程(b)にて、後述するカルボン酸型官能基の前駆体基を有する含フッ素ポリマーの前駆体基をカルボン酸型官能基に転換することによって得られる。
【0021】
第1の層12の厚さは、5〜50μmが好ましく、10〜35μmがより好ましい。第1の層12の厚さが5μm以上であれば、高い電流効率を発現できるとともに、塩化ナトリウムの電解を行った場合には、製品となる水酸化ナトリウム中の塩化ナトリウム量を少なくすることができる。第1の層12の厚さが50μm以下であれば、強化電解質膜1の膜抵抗が充分に低く抑えられ、電解電圧の上昇が充分に抑えられる。
【0022】
(第2の層)
第2の層14は、第2の層14内に織布20を埋設するために、上層と下層との積層構造とされる。第2の層14の上層と下層との層間には、織布20が挿入された状態にて埋設される。
【0023】
スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーとしては、スルホン酸型官能基を有する含フッ素モノマーに由来する単位と、含フッ素オレフィンに由来する単位との共重合体が挙げられる。スルホン酸型官能基は、スルホン酸基(−SO
3H)そのもの、または−SO
3M(ただし、Mはアルカリ金属または第4級アンモニウム塩基である。)である。
【0024】
スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーは、後述する工程(b)にて、後述するスルホン酸型官能基の前駆体基を有する含フッ素ポリマーの前駆体基をスルホン酸型官能基に転換することによって得られる。
【0025】
第2の層14の下層の厚さは、30〜140μmが好ましく、30〜100μmがより好ましい。第2の層14の下層の厚さが30μm以上であれば、電解質膜10の機械的強度が充分に高くなる。第1の層12の下層の厚さが140μm以下であれば、強化電解質膜1の膜抵抗が充分に低く抑えられ、電解電圧の上昇が充分に抑えられる。
【0026】
第2の層14の上層の厚さは、10〜60μmが好ましく、10〜40μmがより好ましい。第2の層14の上層の厚さが10μm以上であれば、織布20が電解質膜10中に収まり、織布20の耐剥離耐性が向上するとともに、電解質膜10の表面に織布20が近づきすぎることがなく、電解質膜10の表面にクラックが入りにくく、その結果、機械的強度の低下が抑えられる。第1の層12の上層の厚さが60μm以下であれば、強化電解質膜1の膜抵抗が充分に低く抑えられ、電解電圧の上昇が充分に抑えられる。
【0027】
(織布)
織布20は、電解質膜10を補強する補強材であり、通常、第2の層14の上層と下層との層間に挿入された状態にて第2の層14内に埋設される。
【0028】
織布20は、補強糸22と犠牲糸24とからなる織物である。
補強糸22の密度(打ち込み数)は、3〜50本/cmが好ましく、8〜30本/cmがより好ましい。補強糸22の密度が3本/cm以上であれば、補強材としての機械的強度が充分に高くなる。補強糸22の密度が50本/cm以下であれば、強化電解質膜1の膜抵抗が充分に低く抑えられ、電解電圧の上昇が充分に抑えられる。
【0029】
犠牲糸24の密度は、補強糸22の密度の偶数倍とされる。奇数倍の場合、補強糸22の経糸と緯糸とが交互に上下に交差しないため、犠牲糸24が溶出した後に、織物組織が形成されない。犠牲糸24の密度は、補強糸22の密度の2〜10倍のうちの偶数倍が好ましい。
補強糸22および犠牲糸24の合計の密度は、製織のしやすさ、目ずれの起きにくさの点から、20〜100本/cmが好ましい。
【0030】
犠牲糸24が溶出した後の補強糸22のみからなる織布の開口率は、70〜90%が好ましく、80〜90%がより好ましい。織布の開口率が70%以上であれば、強化電解質膜1の膜抵抗が充分に低く抑えられ、電解電圧の上昇が充分に抑えられる。織布の開口率が90%以下であれば、補強材としての機械的強度が充分に高くなる。
織布の開口率は、光学顕微鏡写真から求めることができる。
【0031】
織布20の厚さは、5〜40μm以下が好ましく、5〜35μmがより好ましい。織布20の厚さが5μm以上であれば、補強材としての機械的強度が充分に高くなる。織布20の厚さが40μm以下であれば、糸交点の厚みが抑えられ、織布20の電流遮蔽による電解電圧上昇の影響を充分に抑えられる。
【0032】
(補強糸)
補強糸22は、犠牲糸が溶出した後、織布を構成する残存糸として強化電解質膜1の機械的強度や寸法安定性を維持する。
【0033】
補強糸22としては、塩化アルカリ電解における高温、塩素、次亜塩素酸ナトリウム、水酸化ナトリウムに対する耐性を有するものが好ましい。
補強糸22としては、機械的強度、耐熱性、および耐薬品性の点から、含フッ素ポリマーを含む糸が好ましく、ペルフルオロカーボンポリマーを含む糸がより好ましく、PTFEを含む糸がさらに好ましく、PTFEのみからなるPTFE糸が特に好ましい。
【0034】
補強糸22は、モノフィラメントであってもよく、マルチフィラメントであってもよい。補強糸22がPTFE糸の場合、紡糸が容易である点から、モノフィラメントが好ましく、PTFEフィルムをスリットして得られたテープヤーンがより好ましい。
【0035】
補強糸22の繊度は、25〜400デニールが好ましく、50〜200デニールがより好ましい。補強糸22の繊度が25デニール以上であれば、機械的強度が充分に高くなる。補強糸22の繊度が400デニール以下であれば、強化電解質膜1の膜抵抗が充分に低く抑えられ、電解電圧の上昇が充分に抑えられる。また、電解質膜10の表面に補強糸22が近づきすぎることがなく、電解質膜10の表面にクラックが入りにくく、その結果、機械的強度の低下が抑えられる。
【0036】
(犠牲糸)
犠牲糸24は、(i)イオン交換基の前駆体基を有する含フッ素ポリマーを含む前駆体膜が織布20で補強された強化前駆体膜をアルカリ性水溶液に浸漬させることによって、前駆体基を加水分解してイオン交換基に変換して強化電解質膜1を製造する際に、その一部がアルカリ性水溶液に溶出するものであり、かつ(ii)強化電解質膜1を電解槽に配置し、塩化アルカリ電解の本運転前のコンディショニング運転を行う際に、残部が完全にアルカリ性水溶液に溶出し、除去されるものである。
【0037】
本発明における犠牲糸は、強化電解質膜を32質量%の水酸化ナトリウム水溶液に25℃24時間浸漬することによって犠牲糸の全部が水酸化ナトリウム水溶液に溶出するもの、と定義する。この条件にて犠牲糸の全部が水酸化ナトリウム水溶液に溶出すれば、強化電解質膜を電解槽に配置し、塩化アルカリ電解の本運転前のコンディショニング運転を行う際に、犠牲糸が完全にアルカリ性水溶液に溶出し、除去される。
【0038】
犠牲糸24としては、PET、ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと記す。)、ポリトリメチレンテレフタレート(以下、PTTと記す。)、レーヨン、およびセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む糸が好ましく、PETのみからなるPET糸、PETおよびPBTの混合物からなるPET/PBT糸、PBTのみからなるPBT糸、またはPTTのみからなるPTT糸がより好ましい。
【0039】
犠牲糸24としては、コストの点からは、PET糸が好ましい。犠牲糸24としては、(i)の際にアルカリ性水溶液に溶出しにくく、機械的強度が充分に高い強化電解質膜1が得られる点からは、PBT糸、またはPTT糸が好ましく、PTT糸が特に好ましい。犠牲糸24としては、コストと、強化電解質膜1の機械的強度とのバランスの点からは、PET/PBT糸が好ましい。
【0040】
犠牲糸24は、
図1に示すようにフィラメント26が複数集まったマルチフィラメントであってもよく、モノフィラメントであってもよい。アルカリ水溶液との接触面積が広くなり、(ii)の際に犠牲糸24が容易にアルカリ性水溶液に溶出する点から、マルチフィラメントが好ましい。
【0041】
犠牲糸24がマルチフィラメントの場合、犠牲糸24の1本あたりのフィラメント26の数は、2〜12本が好ましく、2〜8本がより好ましい。フィラメント26の数が2本以上であれば、(ii)の際に犠牲糸24がアルカリ性水溶液に溶出しやすい。フィラメント26の数が12本以下であれば、犠牲糸24の繊度が必要以上に大きくならない。
【0042】
犠牲糸24の繊度は、(i)の前において、1〜20デニールが好ましく、3〜9デニールがより好ましい。犠牲糸24の繊度が1デニール以上であれば、機械的強度が充分に高くなるとともに、織布性が充分高くなる。犠牲糸24の繊度が20デニール以下であれば、犠牲糸24が溶出した後に形成される孔が電解質膜10の表面に近づきすぎることがなく、電解質膜10の表面にクラックが入りにくく、その結果、機械的強度の低下が抑えられる。
【0043】
(空隙)
電解質膜10内には、(i)の後においても犠牲糸24が残存し、犠牲糸24のフィラメント26のまわりには、
図2に示すように、電解質膜10との間に空隙28が形成される。
【0044】
強化電解質膜1は、犠牲糸24のフィラメント26の断面積および空隙28の断面積の合計をA、犠牲糸24のフィラメント26の断面積をBとしたときに、下式(1)を満足するものであり、下式(1’)を満足することが好ましい。
2000μm
2<A<6000μm
2 ・・・(1)、
2000μm
2<A<4000μm
2 ・・・(1’)。
【0045】
Aが6000μm
2未満であれば、空隙28が電解質膜10の表面に近づきすぎることがなく、電解質膜10の表面にクラックが入りにくく、その結果、機械的強度の低下が抑えられる。フィラメント26を紡糸する際の制約から断面積が2000μm
2以下のフィラメント26を得ることが困難である、すなわちAが2000μm
2以下の孔を形成できない。
【0046】
また、強化電解質膜1は、下式(2)を満足するものであり、下式(2’)を満足することが好ましい。
0.3≦B/A<1.0 ・・・(2)、
0.6≦B/A≦0.95 ・・・(2’)。
【0047】
B/Aが0.3以上であれば、犠牲糸24が充分に残存し、強化電解質膜1の機械的強度が充分となる。B/Aは大きければ大きいほどよいが、犠牲糸24は(i)の際に必ず一部がアルカリ性水溶液に溶出するため、B/A=1.0とすることはできない。
【0048】
犠牲糸の断面積および空隙の断面積は、90℃で2時間以上乾燥した強化電解質膜の断面を走査型電子顕微鏡(以下、SEMと記す。)にて観察し、画像ソフトを用いて犠牲糸(マルチフィラメントの場合はフィラメント)およびそのまわりの空隙の断面積を測定し、4本の犠牲糸(マルチフィラメントの場合は4本のフィラメント)およびそのまわりの空隙の断面積を平均したものである。
【0049】
(作用効果)
以上説明した強化電解質膜1にあっては、電解質膜10内に犠牲糸24が残存し、犠牲糸24の断面積および犠牲糸24のまわりに形成された空隙28の断面積の合計をA、犠牲糸の断面積をBとしたときに、前記式(1)および前記式(2)を満足するため、機械的強度に優れる。そのため、強化電解質膜1の製造後から塩化アルカリ電解のコンディショニング運転の前までの強化電解質膜1の取り扱い時やコンディショニング運転の際の電解槽への強化電解質膜1の設置時において、クラック等の破損が発生しにくい。
【0050】
なお、電解質膜10内に犠牲糸24が残存していても、強化電解質膜1を電解槽に配置し、塩化アルカリ電解の本運転前のコンディショニング運転を行う際に、犠牲糸24が完全にアルカリ性水溶液に溶出し、除去されるため、強化電解質膜1を用いた塩化アルカリ電解の本運転の時点では、膜抵抗に影響を及ぼさない。
電解槽に強化電解質膜1を設置した後は、強化電解質膜1に外部から大きな力が作用することはないため、犠牲糸24が完全にアルカリ性水溶液に溶出し、除去されても、強化電解質膜1にクラック等の破損は発生しにくい。
【0051】
(他の形態)
なお、本発明の強化電解質膜は、イオン交換基を有する含フッ素ポリマーを含む電解質膜が、補強糸と犠牲糸とからなる織布で補強された強化電解質膜であって、電解質膜内には、犠牲糸が残存し、犠牲糸のまわりには、電解質膜との間に空隙が形成され、かつ前記式(1)および前記式(2)を満足するものであればよく、図示例のものに限定はされない。
【0052】
たとえば、電解質膜10は、図示例のような第1の層12と第2の層14とからなる積層体に限定はされず、単層の膜であってもよく、第1の層12および第2の層14以外の他の層を有する積層体であってもよい。
また、織布20は、図示例のように第1の層12に埋設されたものに限定はされず、第2の層14に埋設されていてもよい。
また、犠牲糸24は、図示例のようなマルチフィラメントに限定はされず、モノフィラメントであってもよい。
また、犠牲糸24の密度は、図示例のように補強糸22の密度の2倍に限定はされず、4倍以上の偶数倍であってもよい。
【0053】
<電解質膜の製造方法>
強化電解質膜1は、たとえば、下記の工程(a)、工程(b)を経て製造される。
(a)イオン交換基の前駆体基を有する含フッ素ポリマーを含む前駆体膜が、補強糸と犠牲糸とからなる織布で補強された強化前駆体膜を得る工程。
(b)強化前駆体膜をアルカリ性水溶液に接触させることによって、前駆体基を加水分解してイオン交換基に変換し、強化電解質膜1を得る工程。
【0054】
(工程(a))
共押出法によって、カルボン酸型官能基の前駆体基を有する含フッ素ポリマーからなる第1の前駆体層と、スルホン酸型官能基の前駆体基を有する含フッ素ポリマーからなる第2の前駆体層の下層との積層体を得る。
別途、単層押出法によって、スルホン酸型官能基の前駆体基を有する含フッ素ポリマーからなる第2の前駆体層の上層を得る。
ついで、第2の前駆体層の上層、織布20、第2の前駆体層の下層と第1の前駆体層との積層膜の順に配置し、積層ロールまたは真空積層装置を用いてこれらを積層する。この際、第2の前駆体層の下層と第1の前駆体層との積層膜は、第2の前駆体層の下層が織布20に接するように配置する。
【0055】
(カルボン酸型官能基の前駆体基を有する含フッ素ポリマー)
カルボン酸型官能基の前駆体基を有する含フッ素ポリマーとしては、カルボン酸型官能基の前駆体基を有する含フッ素モノマーに由来する単位と、含フッ素オレフィンに由来する単位との共重合体が挙げられる。
【0056】
カルボン酸型官能基の前駆体基を有する含フッ素モノマーとしては、分子中に1個以上のフッ素原子を有し、エチレン性の二重結合を有し、かつカルボン酸型官能基の前駆体基を有する化合物であれば、特に限定されず、従来から公知のものを用いることができる。
【0057】
カルボン酸型官能基の前駆体基を有する含フッ素モノマーとしては、モノマーの製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られる含フッ素ポリマーの特性に優れる点から、下式(3)で表わされるフルオロビニルエーテルが好ましい。
CF
2=CF−(O)
p−(CF
2)
q−(CF
2CFX)
r−(O)
s−(CF
2)
t−(CF
2CFX’)
u−A
1 ・・・(3)。
【0058】
Xは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基である。また、X’は、フッ素原子またはトリフルオロメチル基である。1分子中にXおよびX’の両方が存在する場合、それぞれは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0059】
A
1は、カルボン酸型官能基の前駆体基である。カルボン酸型官能基の前駆体基は、加水分解によってカルボン酸型官能基に変換し得る官能基である。カルボン酸型官能基に変換し得る官能基としては、−CN、−COF、−COOR
1(ただし、R
1は炭素原子数1〜10のアルキル基である。)、−COONR
2R
3(ただし、R
2およびR
3は、水素原子または炭素原子数1〜10のアルキル基を示す。R
2およびR
3は、同一であってもよく、異なっていてもよい。)等が挙げられる。
【0060】
pは、0または1であり、qは、0〜12の整数であり、rは、0〜3の整数であり、sは、0または1であり、tは、0〜12の整数であり、uは、0〜3の整数である。ただし、pおよびsが同時に0になることはなく、rおよびuが同時に0になることはない。すなわち、1≦p+sであり、1≦r+uである。
【0061】
式(3)で表わされるフルオロビニルエーテルの具体例としては、下記の化合物が挙げられ、製造が容易である点から、p=1、q=0、r=1、s=0〜1、t=1〜3、u=0〜1である化合物が好ましい。
CF
2=CF−O−CF
2CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF
2−CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF
2−CF
2CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF
2−O−CF
2CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF
2−O−CF
2CF
2−CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF
2−O−CF
2CF
2−CF
2CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2−CF
2CF
2−O−CF
2CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF(CF
3)−O−CF
2CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF(CF
3)−O−CF
2−CF
2CF
2−COOCH
3。
【0062】
含フッ素オレフィンとしては、分子中に1個以上のフッ素原子を有する炭素原子数が2〜3のフルオロオレフィンが用いられる。フルオロオレフィンとしては、テトラフルオロエチレン(CF
2=CF
2)(以下、TFEと記す。)、クロロトリフルオロエチレン(CF
2=CFCl)、フッ化ビニリデン(CF
2=CH
2)、フッ化ビニル(CH
2=CHF)、ヘキサフルオロプロピレン(CF
2=CFCF
3)等が挙げられ、モノマーの製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られる含フッ素ポリマーの特性に優れる点から、TFEが特に好ましい。含フッ素オレフィンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
本発明においては、カルボン酸型官能基の前駆体基を有する含フッ素モノマーおよび含フッ素オレフィンに加えて、さらに他のモノマーを共重合させてもよい。他のモノマーとしては、CF
2=CF
2−R
f、CF
2=CF−OR
f(ただし、R
fは炭素原子数1〜10のペルフルオロアルキル基である。)、CF
2=CFO(CF
2)
vCF=CF
2(ただし、vは1〜3の整数である。)等が挙げられる。他のモノマーを共重合させることによって、強化電解質膜1の可撓性や機械的強度を向上できる。他のモノマーの割合は、イオン交換性能の維持の点から、全モノマー(100質量%)のうち30質量%以下が好ましい。
【0064】
カルボン酸型官能基の前駆体基を加水分解して得られる含フッ素ポリマーのイオン交換容量は、塩化アルカリ電解法に用いられるイオン交換膜として用いる場合、0.5〜2.0ミリ当量/グラム乾燥樹脂が好ましい。カルボン酸型官能基の前駆体基を加水分解して得られる含フッ素ポリマーのイオン交換容量は、イオン交換膜としての機械的強度や電気化学的性能の点から、0.6ミリ当量/グラム乾燥樹脂以上が好ましく、0.7ミリ当量/グラム乾燥樹脂以上がより好ましい。
【0065】
カルボン酸型官能基の前駆体基を有する含フッ素ポリマーの分子量は、イオン交換膜としての機械的強度および製膜性の点から、TQ値で150℃以上が好ましく、170〜340℃がより好ましく、170〜300℃がさらに好ましい。
TQ値は、重合体の分子量に関係する値であって、容量流速:100mm
3/秒を示す温度で示したものである。容量流速は、ポリマーを3MPaの加圧下に一定温度のオリフィス(径:1mm、長さ:1mm)から溶融、流出させ、流出するポリマーの量をmm
3/秒の単位で示したものである。TQ値は、ポリマーの分子量の指標となり、TQ値が高いほど高分子量であることを示す。
【0066】
(スルホン酸型官能基の前駆体基を有する含フッ素ポリマー)
スルホン酸型官能基の前駆体基を有する含フッ素ポリマーとしては、スルホン酸型官能基の前駆体基を有する含フッ素モノマーに由来する単位と、含フッ素オレフィンに由来する単位との共重合体が挙げられる。
【0067】
スルホン酸型官能基の前駆体基を有する含フッ素モノマーとしては、分子中に1個以上のフッ素原子を有し、エチレン性の二重結合を有し、かつスルホン酸型官能基の前駆体基を有する化合物であれば、特に限定されず、従来から公知のものを用いることができる。
【0068】
スルホン酸型官能基の前駆体基を有する含フッ素モノマーとしては、モノマーの製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られる含フッ素ポリマーの特性に優れる点から、下式(4)または下式(5)で表わされる化合物が好ましい。
CF
2=CF−O−R
f2−A
2 ・・・(4)、
CF
2=CF−R
f2−A
2 ・・・(5)。
【0069】
R
f2は、炭素数1〜20のペルフルオロアルキレン基であり、エーテル性の酸素原子を含んでいてもよく、直鎖状または分岐状のいずれでもよい。
A
2は、スルホン酸型官能基の前駆体基である。スルホン酸型官能基の前駆体基は、加水分解によってスルホン酸型官能基に変換し得る官能基である。スルホン酸型官能基に変換し得る官能基としては、−SO
2F、−SO
2Cl、−SO
2Br等が挙げられる。
【0070】
式(4)で表わされる化合物としては、具体的には下記の化合物が好ましい。
CF
2=CF−O−(CF
2)
1〜8−SO
2F、
CF
2=CF−O−CF
2CF(CF
3)O(CF
2)
1〜8−SO
2F、
CF
2=CF[OCF
2CF(CF
3)]
1〜5SO
2F。
【0071】
式(5)で表わされる化合物としては、具体的には下記の化合物が好ましい。
CF
2=CF(CF
2)
0〜8−SO
2F、
CF
2=CF−CF
2−O−(CF
2)
1〜8−SO
2F。
【0072】
スルホン酸型官能基の前駆体基を有する含フッ素モノマーとしては、工業的な合成が容易である点から、下記の化合物がより好ましい。
CF
2=CFOCF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CFOCF
2CF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CFOCF
2CF
2CF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)SO
2F、
CF
2=CFCF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CFCF
2CF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CF−CF
2−O−CF
2CF
2−SO
2F。
【0073】
含フッ素オレフィンとしては、先に例示したものが挙げられ、モノマーの製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られる含フッ素共重合体の特性に優れる点から、TFEが特に好ましい。含フッ素オレフィンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
本発明においては、スルホン酸型官能基の前駆体基を有する含フッ素モノマーおよび含フッ素オレフィンに加えて、さらに他のモノマーを共重合させてもよい。他のモノマーとしては、先に例示したものが挙げられる。他のモノマーを共重合させることによって、強化電解質膜1の可撓性や機械的強度を向上できる。他のモノマーの割合は、イオン交換性能の維持の点から、全モノマー(100質量%)のうち30質量%以下が好ましい。
【0075】
スルホン酸型官能基の前駆体基を加水分解して得られる含フッ素ポリマーのイオン交換容量は、塩化アルカリ電解法に用いられるイオン交換膜として用いる場合、0.5〜2.0ミリ当量/グラム乾燥樹脂が好ましい。スルホン酸型官能基の前駆体基を加水分解して得られる含フッ素ポリマーのイオン交換容量は、イオン交換膜としての機械的強度や電気化学的性能の点から、0.6ミリ当量/グラム乾燥樹脂以上が好ましく、0.7ミリ当量/グラム乾燥樹脂以上がより好ましい。
【0076】
スルホン酸型官能基の前駆体基を有する含フッ素ポリマーの分子量は、イオン交換膜としての機械的強度および製膜性の点から、TQ値で150℃以上が好ましく、170〜340℃がより好ましく、170〜300℃がさらに好ましい。
【0077】
(工程(b))
このようにして得られた強化前駆体膜の、カルボン酸型官能基の前駆体基およびスルホン酸型官能基の前駆体基を、加水分解してそれぞれカルボン酸型官能基およびスルホン酸型官能基に転換することによって、強化電解質膜1が得られる。加水分解の方法としては、たとえば、特開平1−140987号公報に記載されているような、水溶性有機化合物とアルカリ金属の水酸化物との混合物を用いる方法が好ましい。
【0078】
工程(b)においては、強化前駆体膜をアルカリ性水溶液に接触させることによって、前記式(2)を満足するように犠牲糸24の一部を加水分解してアルカリ性水溶液に溶出させることが好ましい。
【0079】
前記式(2)を満足させる方法としては、たとえば、犠牲糸24として従来からよく用いられているPET糸を用いる場合は、強化前駆体膜をアルカリ性水溶液に接触させる時間を従来よりも短くする方法;犠牲糸24として、PET糸よりも加水分解しにくい糸(PET/PBT糸、PBT糸、PTT糸等)を用い、強化前駆体膜をアルカリ性水溶液に接触させる時間を従来と同程度とする方法;等が挙げられる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
例1〜7は、実施例であり、例8〜11は、比較例である。
【0081】
(TQ値)
TQ値は、ポリマーの分子量に関係する値であって、容量流速:100mm
3/秒を示す温度で示したものである。容量流速は、島津フローテスターCFD−100D(島津製作所社製)を用い、イオン交換基の前駆体基を有する含フッ素ポリマーを3MPaの加圧下に一定温度のオリフィス(径:1mm、長さ:1mm)から溶融、流出させたときの流出量をmm
3/秒の単位で示したものである。
【0082】
(イオン交換容量)
イオン交換基の前駆体基を有する含フッ素ポリマーの約0.5gをそのTQ値より約10℃高い温度にて平板プレスしてフィルム状にし、これを透過型赤外分光分析装置によって分析し、得られたスペクトルのCF
2ピーク、CF
3ピーク、OHピークの各ピーク高さを用いて、イオン交換容量を算出した。
【0083】
(断面積)
90℃で2時間以上乾燥した強化電解質膜の断面をSEMにて観察し、画像ソフトを用いて犠牲糸のフィラメントおよびそのまわりの空隙の断面積を測定し、4本のフィラメントおよびそのまわりの空隙の断面積を平均し、これら平均値からB、AおよびB/Aを求めた。
【0084】
(犠牲糸溶出試験)
強化電解質膜を、20〜25℃に調温された32質量%の水酸化ナトリウム水溶液に24時間浸漬した。強化電解質膜を交換水で洗浄した後、強化電解質膜の断面をSEMにて観察し、画像ソフトを用いて犠牲糸のフィラメントの断面積を測定し、4本のフィラメント断面積を平均し、Bを求めた。
【0085】
(繰り返し破断試験)
強化電解質膜から1号ダンベルサイズの試験片を切り出した。試験片としては、長さ方向が、ロールを通した方向に対し45°の方向の方向に一致するものを4点ずつ用意した。
試験片の一端を、引っ張り試験機の上部チャックに、他端を下部チャックに取り付け、チャック間が70mmになるように挟み、試験速度を500mm/分、上限設定加重を12.5Nとし、20〜25℃にて、繰り返し加重を印加する試験を行い、破断するまでの加重印加回数の平均値を求め、繰り返し破断回数とした。
【0086】
(寸法変化)
強化電解質膜から、ロールを通した方向に直角の方向(TD方向)に長さ1300mm、ロールを通した方向(MD方向)に幅200mmの試験片を2点用意した。
試験片を、25℃に調温された交換水中に2時間以上浸漬し、直定規でTD方向の寸法を測定した。さらに、25℃に調温された32質量%の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、2時間経過後のTD方向の寸法を同様に直定規で測定した。2点の平均値を求め、下式(6)から寸法変化率(%)を算出した。
寸法変化率(%)=((32%質量%の水酸化ナトリウム水溶液中の寸法(mm)−交換水中の寸法(mm))/交換水中の寸法(mm))×100 ・・・(6)。
【0087】
(破断強度)
強化電解質膜を、4.9Nの塩化ナトリウム水溶液に16時間以上浸漬した後、強化電解質膜から1号ダンベルサイズの試験片を切り出した。試験片としては、TD方向とMD方向のものを各5点ずつ用意した。
試験片の一端を、引っ張り試験機の上部チャックに、他端を下部チャックに取り付け、チャック間が70mmになるように挟み、20〜25℃にて50mm/分の速度でチャック間を広げ、最大となる引っ張り加重(N/cm)を測定した。10点の平均値を求め、破断強度とした。
【0088】
(電解電圧、電流効率)
強化電解質膜を、第1の層が陰極に面するように、電解面サイズ150mm×100mmの試験用電解槽に配置し、水酸化ナトリウム濃度:32質量%、塩化ナトリウム濃度:200g/L、温度:90℃、電流密度:6kA/m
2の条件で塩化ナトリウム水溶液の電解を行い、運転開始から3〜10日後の電解電圧(V)および電流効率(%)を測定した。
【0089】
〔例1〕
TFEと下式(3−1)で表されるカルボン酸型官能基の前駆体基を有する含フッ素モノマーとを共重合してカルボン酸型官能基の前駆体基を有する含フッ素ポリマー(イオン交換容量:1.06ミリ当量/グラム乾燥樹脂、TQ:225℃)(以下、ポリマーCと記す。)を合成した。
CF
2=CF−O−CF
2CF
2−CF
2−COOCH
3 ・・・(3−1)。
【0090】
TFEと下式(4−1)で表されるスルホン酸型官能基の前駆体基を有する含フッ素モノマーとを共重合してスルホン酸型官能基の前駆体基を有する含フッ素ポリマー(イオン交換容量:1.0ミリ当量/グラム乾燥樹脂、TQ:235℃)(以下、ポリマーSと記す。)を合成した。
CF
2=CF−O−CF
2CF(CF
3)−O−CF
2CF
2−SO
2F ・・・(4−1)。
【0091】
ポリマーCとポリマーSとを共押し出し法により成形し、ポリマーCからなる第1の前駆体層(厚さ:12μm)およびポリマーSからなる第2の前駆体層の下層(厚さ:68μm)の2層構成のフィルムAを得た。
また、ポリマーSを溶融押し出し法により成形し、第2の前駆体層の上層となるフィルムB(厚さ:30μm)を得た。
【0092】
PTFEフィルムを急速延伸した後、100デニールの太さにスリットして得たモノフィラメントのPTFE糸と、5デニールのPETフィラメントを6本引きそろえて撚った30デニールのマルチフィラメントのPET糸とを、PTFE糸1本に対し、PET糸2本の交互配列で平織りし、補強用の織布(PTFE糸の密度:10本/cm、PET糸の密度:20本/cm)を得た。
【0093】
得られた織布およびフィルムを、フィルムB、織布、フィルムA、離型用PETフィルム(厚さ:100μm)の順に、かつフィルムAの第1の前駆体層が離型用PETフィルム側となるように重ね、ロールを用いて積層した。離型用PETフィルムを剥がし、強化前駆体膜を得た。
【0094】
酸化ジルコニウム(平均粒子径:1μm)の29.0質量%、メチルセルロースの1.3質量%、シクロヘキサノールの4.6質量%、シクロヘキサンの1.5質量%および水の63.6質量%からなるペーストを、強化前駆体膜の第2の前駆体層の上層側にロールプレスにより転写し、ガス開放性被覆層を付着させた。酸化ジルコニウムの付着量は、20g/m
2とした。
【0095】
片面ガス開放性被覆層付き強化前駆体膜を、5質量%のジメチルスルホキシドおよび30質量%の水酸化カリウムの水溶液に、95℃で8分間浸漬し、ポリマーCの−COOCH
3およびポリマーSの−SO
2Fを加水分解して、イオン交換基に転換し、片面ガス開放性被覆層付き強化電解質膜を得た。
【0096】
ポリマーSの酸型ポリマーを2.5質量%含むエタノール溶液に、酸化ジルコニウム(平均粒子径:1μm)を13質量%の濃度で分散させた分散液を調製した。該分散液を、片面ガス開放性被覆層付き強化電解質膜の第1の層側に噴霧し、ガス開放性被覆層を付着させ、両面ガス開放性被覆層付き強化電解質膜を得た。酸化ジルコニウムの付着量は3g/m
2とした。
得られた強化電解質膜について評価を行った。結果を表1に示す。
【0097】
〔例2〜11〕
犠牲糸の材料、犠牲糸の繊度、強化前駆体膜の加水分解処理の条件を表1に示すように変更した以外は、例1と同様にして両面ガス開放性被覆層付き強化電解質膜を得た。
得られた強化電解質膜について評価を行った。結果を表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
表中、PEEKは、ポリエーテルエーテルケトンであり、犠牲糸の材料における2種の材料の混合比率は、質量比である。
表1の結果から、式(1)および式(2)を満足する例1〜7の強化電解質膜は、機械的強度に優れていることがわかる。一方、式(1)および式(2)を満足しない例8〜10の強化電解質膜は、機械的強度に劣る。犠牲糸として、アルカリ性水溶液に溶解しないPEEKを用いた例11は、塩化アルカリ電解における電解電圧が高くなる。