特許第6270781号(P6270781)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6270781クロマト分析装置およびクロマト分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6270781
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】クロマト分析装置およびクロマト分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20180122BHJP
【FI】
   G01N33/543 521
   G01N33/543 501J
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-131804(P2015-131804)
(22)【出願日】2015年6月30日
(65)【公開番号】特開2017-15533(P2017-15533A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2017年10月11日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓太
(72)【発明者】
【氏名】岩本 久彦
【審査官】 三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−195403(JP,A)
【文献】 特開2014−62820(JP,A)
【文献】 特開2014−167439(JP,A)
【文献】 特開2008−197038(JP,A)
【文献】 特開2013−228308(JP,A)
【文献】 特許第5567932(JP,B2)
【文献】 特開2004−245831(JP,A)
【文献】 特開2005−221473(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/136476(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/122094(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0267065(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0159599(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/543
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体に含まれる被検出物質を検出する検出部が担持されたクロマトグラフ媒体部を少なくとも含むクロマト分析装置において、
前記クロマトグラフ媒体部が、支持体上にメンブレンを設けた構成を有し、
前記メンブレンの平均膜厚が、110μm〜130μmであり、かつ
前記メンブレンの展開流速が、30〜45秒/40mmである
クロマト分析装置。
【請求項2】
前記検体を添加する試料添加部と、前記検体に含まれる被検出物質を認識する標識物質を保持する標識物質保持部と、前記クロマトグラフ媒体部とを順次含む請求項1に記載のクロマト分析装置。
【請求項3】
前記メンブレンが、ニトロセルロースメンブレンである請求項1または2に記載のクロマト分析装置。
【請求項4】
前記検体が、鼻汁、喀痰、唾液、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、便から選択される少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項に記載のクロマト分析装置。
【請求項5】
免疫クロマト分析装置である請求項1〜4のいずれか1項に記載のクロマト分析装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のクロマト分析装置を用い、前記クロマトグラフ媒体部に担持された検出部によって、前記検体に含まれる被検出物質を検出する工程を少なくとも有するクロマト分析方法。
【請求項7】
請求項2に記載のクロマト分析装置を用い、下記工程(1)〜(4)を順次実施する、クロマト分析方法。
(1)前記検体を試料添加部に添加する工程
(2)前記標識物質保持部に保持されている標識物質により前記検体に含まれる被検出物質を認識させる工程
(3)前記検体および標識物質を移動相としてクロマトグラフ媒体部に展開させる工程
(4)展開された移動相中の被検出物質を検出部で検出する工程
【請求項8】
前記メンブレンが、ニトロセルロースメンブレンである請求項7に記載のクロマト分析方法。
【請求項9】
前記検体が、鼻汁、喀痰、唾液、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、便から選択される少なくとも1種である請求項6〜8のいずれか1項に記載のクロマト分析方法。
【請求項10】
前記クロマト分析装置が、免疫クロマト分析装置である請求項6〜9のいずれか1項に記載のクロマト分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマト分析装置およびクロマト分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、検体の前処理を行う必要の無い、免疫クロマトグラフィーによるイムノアッセイは、抗体の持つ特異的反応性を利用して、試料液中の抗原を検出する簡便な体外診断キットもしくは携帯用診断装置として重要性が高まっている。特に、ウイルスや細菌等の病原体検査キットは、一般の病院やクリニックでも汎用されている身近な免疫クロマト分析装置である。
【0003】
従来の免疫クロマト分析装置の最も簡単な構造としては、試料添加部、標識物質保持部、検出部が担持されたクロマトグラフ媒体部、および検出部を通過した液体を吸収する吸収部が相互に繋がった構造である。
【0004】
このような免疫クロマト分析装置に対し、現在ではインフルエンザウイルスのような微量な抗原を検出するために、高感度化が求められている。
そのため、従来では、標識物質に結合させる抗体の量を増加させる等の手段が行われていた。しかし、このような手段では、非特異反応が生じやすくなるという問題点がある。なお、抗体の量を減じると、十分な感度が得られない。
【0005】
そこで、例えば特許文献1には、反応液に金属イオンのマスキング剤を共存させる技術が提案されている。
特許文献2には、生体材料含有溶液の毛管現象による拡散を防ぐための制御ラインを所定の位置に形成し、該生体材料含有溶液を制御ラインの近傍に滴下し、これを局在化する技術が開示されている。
しかし、従来の免疫クロマト分析装置では、非特異反応を抑制しつつ、要求されるレベルにまで感度を高めることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−203735号公報
【特許文献2】特開2009−264879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、非特異反応を抑制しつつ、被検出物質の検出感度を高めることのできる、クロマト分析装置およびクロマト分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の通りである。
1.検体に含まれる被検出物質を検出する検出部が担持されたクロマトグラフ媒体部を少なくとも含むクロマト分析装置において、
前記クロマトグラフ媒体部が、支持体上にメンブレンを設けた構成を有し、
前記メンブレンの平均膜厚が、110μm〜130μmであり、かつ
前記メンブレンの展開流速が、30〜45秒/40mmである
クロマト分析装置。
2.前記検体を添加する試料添加部と、前記検体に含まれる被検出物質を認識する標識物質を保持する標識物質保持部と、前記クロマトグラフ媒体部とを順次含む前記1に記載のクロマト分析装置。
3.前記メンブレンが、ニトロセルロースメンブレンである前記1または2に記載のクロマト分析装置。
4.前記検体が、鼻汁、喀痰、唾液、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、便から選択される少なくとも1種である前記1〜3のいずれか1に記載のクロマト分析装置。
5.免疫クロマト分析装置である前記1〜4のいずれか1に記載のクロマト分析装置。
6.前記1〜5のいずれか1に記載のクロマト分析装置を用い、前記クロマトグラフ媒体部に担持された検出部によって、前記検体に含まれる被検出物質を検出する工程を少なくとも有するクロマト分析方法。
7.前記2に記載のクロマト分析装置を用い、下記工程(1)〜(4)を順次実施する、クロマト分析方法。
(1)前記検体を試料添加部に添加する工程
(2)前記標識物質保持部に保持されている標識物質により前記検体に含まれる被検出物質を認識させる工程
(3)前記検体および標識物質を移動相としてクロマトグラフ媒体部に展開させる工程
(4)展開された移動相中の被検出物質を検出部で検出する工程
8.前記メンブレンが、ニトロセルロースメンブレンである前記7または8に記載のクロマト分析方法。
9.前記検体が、鼻汁、喀痰、唾液、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、便から選択される少なくとも1種である前記6〜8のいずれか1に記載のクロマト分析方法。
10.前記クロマト分析装置が、免疫クロマト分析装置である前記6〜9のいずれか1に記載のクロマト分析方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、クロマトグラフ媒体部におけるメンブレンの平均膜厚および展開流速を特定の範囲に設定しているので、検出部における非特異反応の原因となる物質の悪影響を最大限に防止することができ、かつ検出感度も同時に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】クロマト分析装置の構造の一例を説明するための断面図である。
図2】クロマトグラフ媒体部の支持体とメンブレンの構造の一例を説明するための断面図である。
図3】実施例6のクロマトグラフ媒体部の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための形態についてさらに詳しく説明する。
【0012】
本発明のクロマト分析装置およびクロマト分析方法は、生体分子の親和力に基づく特異的な結合を利用するものであればとくに制限されないが、例えば、抗原と抗体との結合を利用する免疫クロマト分析装置および方法、核酸のハイブリダイゼーションを利用する核酸クロマト分析装置および方法等が挙げられ、その他、糖とレクチンとの結合、ホルモンと受容体との結合、酵素と阻害剤との結合等を利用するクロマト分析装置および方法であることもできる。
以下、本発明に好適な免疫クロマト分析装置および免疫クロマト分析方法を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明は下記の形態に制限されるものではない。
【0013】
本発明の免疫クロマト分析装置は、検体に含まれる被検出物質を検出する検出部が担持されたクロマトグラフ媒体部を少なくとも含むものであり、このクロマトグラフ媒体部におけるメンブレンが、下記で説明する平均膜厚および展開流速を満たすものであればとくに制限されないが、以下、本発明の好適な免疫クロマト分析装置の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
本発明の免疫クロマト分析装置は図1に示すように、試料添加部(サンプルパッドともいう)(1)、標識物質保持部(コンジュゲートパッドともいう)(2)、クロマトグラフ媒体部(3)、検出部(4)、吸収部(5)およびバッキングシート(6)から構成されている。
【0015】
試料添加部(1)は、免疫クロマト分析装置において、検体(サンプル)を滴下する部位である。サンプルは、通常の免疫クロマト分析装置に使用される素材であればどのようなものでもよい。試料添加部(1)は試料を吸収保持するグラスファイバーまたはセルロースの膜が通常使用される。
【0016】
標識物質保持部(2)は、あらかじめ被検出物質と結合する抗体に結合した、後述する標識物質(マーカー物質)が含有されている。標識物質保持部内を被検出物質が移動する際に抗体と結合し、標識化される。標識物質保持部(2)は、例えば、グラスファイバー不織布またはセルロース膜等からなっている。
【0017】
クロマトグラフ媒体部(3)は、クロマトグラフの展開部位である。クロマトグラフ媒体部(3)は、毛管現象を示す微細多孔性物質からなる不活性の膜である。
クロマトグラフ媒体部(3)は、図2に示すように、支持体(32)上にメンブレン(34)を設けた構成を有し、本発明ではメンブレン(34)の平均膜厚が、110μm〜130μmであり、かつメンブレン(34)の展開流速が、30〜45秒/40mmであることを必須要件とする。
【0018】
メンブレン(34)の平均膜厚が110μm未満であると、支持体(32)からメンブレン(34)が脱離したり、傷がつきやすくなったりして実用的ではない。逆にメンブレン(34)の平均膜厚が130μmを超えると粘度の高い検体に対する非特異反応が生じやすくなる。メンブレン(34)の厚さは、例えば、支持体(32)とメンブレン(34)からなるクロマトグラフ媒体部(3)の断面の走査型電子顕微鏡写真(例えば、図3)より、支持体(32)とメンブレン(34)の境界線を特定し、メンブレン(34)の厚さを計測できる。また、クロマトグラフ媒体部(3)と、クロマトグラフ媒体部(3)をメタノールなどの有機溶媒に浸漬し、メンブレン(34)を溶解させた後に残った支持体(32)とを、市販のマイクロメータやダイヤルゲージなどの膜厚測定器で夫々の膜厚を測定し、溶解前後の膜厚の差分よりメンブレン(34)の膜厚を算出することもできる。これら測定方法を用いてクロマトグラフ媒体部(3)内の異なる複数個所を測定し(好ましくは9〜10箇所以上)、その平均値をメンブレン(34)の平均膜厚として算出する。
メンブレン(34)の平均膜厚は、より高感度で非特異的反応を抑制するためには、110μm〜127μmのものが好ましく用いられ、110μm〜120μmのものがより好ましく用いられ、114μm〜117μmのものが最適である。また、メンブレン(34)の厚さは、110μm〜132μmの範囲内であれば、本発明の効果を十分発揮でき好ましく、110μm〜122μmのものがより好ましく用いられる。
【0019】
メンブレン(34)の展開流速が30秒/40mm未満であると、充分な感度を得る事が出来にくく、逆に展開流速が45秒/40mmを超えると、非特異反応が生じやすくなる。
メンブレン(34)のさらに好ましい展開流速は、35〜45秒/40mmである。
なお、本発明における展開流速は、メンブレン上に水を垂直方向に40mm展開させた時間を測定することにより得られた値を意味する。
【0020】
一般的に、メンブレン(34)の平均膜厚が薄くなると、メンブレン(34)の平均孔径が小さくなり、展開流速は遅くなる。逆にメンブレン(34)の平均膜厚が増加すると、展開流速は速くなる。本発明では、従来技術のクロマト分析装置に比べ、メンブレン(34)の平均膜厚を薄くするとともに、展開流速を速く設定している。メンブレン(34)の平均膜厚が薄くなることより検体に含まれる被検出物質と検出部(4)における抗体との接触確率が上昇し、高感度化を達成できるとともに、展開流速を速くすることにより、検出部(4)における非特異反応の原因となる物質の悪影響を最大限に防止することができる。
【0021】
なお、メンブレン(34)の平均膜厚を薄くし、かつ、展開流速を速く設定するには、メンブレン(34)の平均孔径を調整する手段が挙げられ、この平均孔径の調整は、例えばメンブレン(34)を構成するポリマーを、有機溶剤を含む溶液に溶解し、キャスティングしてメンブレンとするときに、該有機溶剤に含まれる水分量を適宜調整することにより、行うことができる。
【0022】
本発明では、クロマトグラフで使用される検出試薬、固定化試薬または被検出物質などと反応性を有しないという観点から、また、本発明の効果が向上するという観点から、例えば、ニトロセルロース製のメンブレン(以下「ニトロセルロースメンブレン」という場合がある)や、酢酸セルロース製のメンブレン(以下「酢酸セルロースメンブレン」という場合がある)が好ましく、ニトロセルロースメンブレンがさらに好ましい。なお、セルロース類メンブレン、ナイロンメンブレンおよび多孔質プラスチック布類(ポリエチレン、ポリプロピレン)も使用可能である。
【0023】
ニトロセルロースメンブレンとしては、ニトロセルロースが主体で含まれていればよく、純品またはニトロセルロース混合品などニトロセルロースを主材とするメンブレンを使用することができる。
【0024】
ニトロセルロースメンブレンは毛細管現象を示すものであるが、さらに毛細管現象を促進させる物質を含有させることもできる。該物質としては、膜面の表面張力を低下させ、親水性をもたらす物質が好ましい。例えば、糖類、アミノ酸の誘導体、脂肪酸エステル、各種合成界面活性剤またはアルコール等の両親媒性の作用を有する物質であって、免疫クロマトグラフ上での被検出物質の移動に影響がなく、マーカー物質(例えば金コロイドなど)の発色に影響を及ぼさない物質が好ましい。
【0025】
本発明におけるメンブレン(34)は上記のように平均膜厚が薄いものであるため、その構造を維持するべく、クロマトグラフ媒体部(3)は、支持体(32)上にメンブレン(34)を設けた構成を有する。
支持体(32)としては、水不透過性のプラスチック等からなる支持体を挙げることができ、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリウレタン製のフィルム状の支持体が挙げられる。なお、目視判定によって測定結果の観察を行う場合には、支持体(32)は、標識物質によりもたらされる色彩と類似しない色彩を有するものであることが好ましく、通常、無色、または白色であることが好ましい。
支持体(32)の厚さは、例えば50μm〜130μmであり、好ましくは80μm〜120μmである。
上記のようなニトロセルロースメンブレンや酢酸セルロースメンブレンに代表されるクロマトグラフ媒体部(3)の形態および大きさは特に制限されるものではなく、実際の操作の点および反応結果の観察の点において適切であればよい。
【0026】
検出部(4)は、前記クロマトグラフ媒体部(3)上に形成され、すなわち、被検出物質と特異的に結合する抗体が任意の位置に固定化される。
抗体としては例えば、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体が挙げられる。モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体若しくはそのフラグメントは、公知であり、入手可能であり、公知の方法により調製することができる。抗体は、固定化試薬として任意の位置に固定化し、反応部位としての検出部(4)を形成することができる。
【0027】
固定化試薬をクロマトグラフ媒体部(3)に固定化する方法としては、固定化試薬をクロマトグラフ媒体部(3)に物理的または化学的手段により直接固定化する方法と、固定化試薬を微粒子に物理的または化学的に結合し、この微粒子をクロマトグラフ媒体部(3)に捕捉して固定化する間接固定化方法がある。
【0028】
直接的に固定化する方法としては、物理吸着を利用してもよいし、共有結合によってもよい。ニトロセルロースメンブレンの場合、物理吸着を行うことができる。共有結合ではクロマトグラフ媒体部(3)の活性化には一般的に臭化シアン、グルタルアルデヒドまたはカルボジイミド等が用いられるが、いずれの方法も用いることができる。
【0029】
間接的に固定化する方法としては、不溶性微粒子に固定化試薬を結合した後に、クロマトグラフ媒体部(3)に固定化する方法がある。不溶性微粒子の粒径はクロマトグラフ媒体部(3)に捕捉されるが移動することのできないサイズのものを選択することができ、好ましくは平均粒径5μm程度以下の微粒子である。
【0030】
これらの粒子としては抗原抗体反応に使用されるものが種々知られており、本発明でもこれら公知の粒子を使用することができる。例えば、ポリスチレン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、ポリグリシジルメタクリレートもしくはアクロレイン−エチレングリコールジメタクリレート共重合体などの乳化重合法によって得られる有機高分子ラテックス粒子などの有機高分子物質の微粒子、ゼラチン、ベントナイト、アガロースもしくは架橋デキストランなどの微粒子、シリカ、シリカ−アルミナもしくはアルミナなどの無機酸化物または無機酸化物にシランカップリング処理などで官能基を導入した無機粒子等が挙げられる。
【0031】
本発明においては、感度調整の容易さ等から直接固定化の方が好ましい。また、クロマトグラフ媒体部(3)への固定化試薬の固定化には、いろいろな方法が使用できる。例えば、マイクロシリンジ、調節ポンプ付きペンまたはインキ噴射印刷等、種々の技術が使用可能である。反応部位の形態としては特に限定されないが、円形のスポット、クロマトグラフ媒体の展開方向に対し垂直にのびるライン、数字、文字または+、−などの記号等として固定化することもできる。
【0032】
固定化試薬を固定化した後、非特異反応により分析の精度が低下することをさらに防止するため、必要に応じて、クロマトグラフ媒体部(3)に、公知の方法でブロッキング処理を行うことができる。一般にブロッキング処理はウシ血清アルブミン、スキムミルク、カゼインまたはゼラチン等の蛋白質が好適に用いられる。かかるブロッキング処理後に、必要に応じて、例えば、Tween20、TritonX−100またはSDS等の界面活性剤を1つまたは2つ以上組み合わせて洗浄してもよい。
【0033】
吸収部(5)は、クロマトグラフ媒体部(3)の末端に、検出部(4)を通過した検体や展開液等の液体を吸収させるために必要に応じて設置される。本発明の免疫クロマト分析装置において、吸収部(5)は例えばグラスファイバーからなることができる。吸収部(5)がグラスファイバーからなることによって、試料液の液戻りを大幅に低減することができる。
【0034】
バッキングシート(6)は、基材である。片面に粘着剤を塗布したり、粘着テープを貼り付けることにより、片面が粘着性を有し、該粘着面上に試料添加部(1)、標識物質保持部(2)、クロマトグラフ媒体部(3)、検出部(4)、および吸収部(5)の一部または全部が密着して設けられている。バッキングシート(6)は、粘着剤によって試料液に対して不透過性、非透湿性となるようなものであれば、基材としては、特に限定されない。
【0035】
本発明の免疫クロマト分析方法は、上記の免疫クロマト分析装置を用い、クロマトグラフ媒体部(3)に担持された検出部(4)によって、検体に含まれる被検出物質を検出する工程を少なくとも有すればとくに制限されないが、以下の工程(1)〜(4)を順次実施することが好ましい。
【0036】
(1)前記検体を試料添加部に添加する工程
(2)前記標識物質保持部に保持されている標識物質により前記検体に含まれる被検出物質を認識させる工程
(3)前記検体および標識物質を移動相としてクロマトグラフ媒体部に展開させる工程
(4)展開された移動相中の被検出物質を検出部で検出する工程
各工程について以下に説明する。
【0037】
(1)検体を試料添加部に添加する工程
工程(1)では、第1に、検体を、測定精度を低下させることなく、免疫クロマトグラフ媒体部(3)中をスムーズに移動する程度の濃度に検体希釈液で調整または希釈して検体含有液とするのが好ましい。第2に、該検体含有液を試料添加部(1)上に、所定量(通常、0.1〜2ml)滴下する。検体含有液が滴下されると、検体含有液は試料添加部(1)中で移動を開始する。
【0038】
検体希釈液は、また展開液としても使用することができるものであるが、通常、溶媒として水を用い、これに緩衝液、塩、および非イオン界面活性剤、さらに、例えば抗原抗体反応の促進あるいは非特異的反応を抑制するための蛋白質、高分子化合物(PVP等)、イオン性界面活性剤またはポリアニオン、あるいは、抗菌剤、キレート剤等々の1種もしくは2種以上を加えてもよい。展開液として用いる場合には、検体と展開液を予め混合したものを、試料添加部上に供給・滴下して展開させることもできるし、先に検体を試料添加部上に供給・滴下した後、展開液を試料添加部上に供給・滴下して展開させてもよい。
【0039】
被検出物質を含む検体としては、例えば、生体試料、即ち、鼻汁、喀痰、唾液、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、便、全血、血清、血漿、尿、髄液、羊水、乳頭分泌液、涙、汗、皮膚からの浸出液、組織や細胞および便からの抽出液等の他、牛乳、卵、小麦、豆、牛肉、豚肉、鶏肉などやそれらを含む食品等の抽出液等が挙げられる。
【0040】
中でも本発明では、検体が、鼻汁、喀痰、唾液、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、便から選択される少なくとも1種であって、いわゆる高粘性検体であることが好ましい。
このような高粘性検体は、ムチンのような粘性物質を含有し、このような粘性物質は非特異反応を生じやすいことが知られている。
【0041】
本発明では、上記のようにメンブレン(34)の平均膜厚を110μm〜130μmに、メンブレン(34)の展開流速を30〜45秒/40mmの範囲に設定しているため、検体に含まれる被検出物質と検出部(4)における抗体との接触確率を上昇させ、高感度化を達成するとともに、展開流速を速くすることにより、検出部(4)における高粘性物質の到達を遅延させ、非特異反応を最大限に防止することができる。
【0042】
具体的な被検出物質としては、例えば、癌胎児性抗原(CEA)、HER2タンパク、前立腺特異抗原(PSA)、CA19−9、α−フェトプロテイン(AFP)、免疫抑制酸性タンパク(IPA)、CA15−3、CA125、エストロゲンレセプター、プロゲステロンレセプター、便潜血、トロポニンI、トロポニンT、CK−MB、CRP、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、梅毒抗体、インフルエンザウイルス、RSウイルス、ヒトヘモグロビン、クラミジア抗原、A群β溶連菌抗原、HBs抗体、HBs抗原、ロタウイルス、アデノウイルス、アルブミンまたは糖化アルブミン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、便潜血、トロポニンI、トロポニンT、CK−MB、CRP、インフルエンザウイルス、RSウイルス、ヒトヘモグロビン、クラミジア抗原、A群β溶連菌抗原、HBs抗体、HBs抗原、ロタウイルス、アデノウイルス、アルブミンまたは糖化アルブミンが被検出物質として用いられる。
【0043】
(2)標識物質保持部に保持されている標識物質により検体に含まれる被検出物質を認識させる工程
工程(2)は、工程(1)において試料添加部に添加された検体含有液を、標識物質保持部(2)へと移動させ、標識物質保持部に保持されている標識物質により検体中の被検出物質を認識させる工程である。
【0044】
標識物質は抗体を標識化する。免疫クロマト分析方法における検出試薬の標識には、一般に酵素等も使用されるが、被検出物質の存在を目視で判定するのに適していることから、標識物質としては不溶性担体を用いることが好ましい。抗体を不溶性担体に感作することにより標識化した検出試薬を調製することができる。なお、抗体を不溶性担体に感作する手段は、公知の方法に従えばよい。
【0045】
標識物質としての不溶性担体には、金、銀もしくは白金のようなコロイド状金属粒子、酸化鉄のようなコロイド状金属酸化物粒子、硫黄などのコロイド状非金属粒子および合成高分子よりなるラテックス粒子、またはその他を用いることができる。特に金コロイドが、検出が簡便で好ましい。金コロイドの粒子の平均粒径は、例えば10nm〜250nm、好ましくは35nm〜120nmである。平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM:日本電子(株)製、JEM−2010)により、撮影した投影写真を用いて無造作に100個の粒子を粒子の投影面積円相当径を計測し、その平均値から算出することができる。
【0046】
不溶性担体は、被検出物質の存在を視覚的に判定するのに適した標識物質であり、目視による判定を容易にするためには有色であることが好ましい。コロイド状金属粒子およびコロイド状金属酸化物粒子は、それ自体が粒径に応じた特定の自然色を呈するものであり、その色彩を標識として利用することができる。
【0047】
(3)検体および標識物質を移動相としてクロマトグラフ媒体部に展開させる工程
工程(3)は、工程(2)において被検出物質が標識物質保持部において標識物質に認識された後、検体および標識物質を、クロマトグラフ媒体部上を移動相として通過させる工程である。
【0048】
(4)展開された移動相中の被検出物質を検出部で検出する工程
工程(4)は、クロマトグラフ媒体部上を移動相として通過した検体中の被検出物質が、抗原・抗体の特異的結合反応により、検出部に保持、即ち、担持固定されている抗体と標識試薬とによってサンドイッチ状に挟まれるように特異的に反応結合して、検出部が着色する工程である。
被検出物質が存在しない場合には、試料の水分に溶解した標識試薬は、クロマトグラフ媒体部上の検出部を通過しても特異的結合反応が起こらないので、検出部が着色しない。
【0049】
最後に、検体含有液の水分は、吸収部(5)へと移動する。
【0050】
なお上記では免疫クロマト分析装置および免疫クロマト分析方法を例にとり説明したが、本発明は、上記形態に制限されず、生体分子の親和力に基づく特異的な結合を利用するものであれば、その効果をいずれも享受することができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0052】
(1)試料添加部の作製
試料添加部としてグラスファイバーからなる不織布(ミリポア社製:300mm×30mm)を用いた。
(2)標識物質保持部の作製
金コロイド懸濁液(田中貴金属工業社製:LC40nm)0.5mlに、リン酸緩衝液(pH7.4)で0.05mg/mlの濃度になるように希釈したマウス由来抗RSウイルスモノクローナル抗体(第二抗体)を0.1ml加え、室温で10分間静置した。
次いで、1質量%の牛血清アルブミン(BSA)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)を0.1ml加え、更に室温で10分間静置した。その後、十分撹拌した後、8000×gで15分間遠心分離を行い、上清を除去した後、1質量%のBSAを含むリン酸緩衝液(pH7.4)を0.1ml加えた。以上の手順で標識物質溶液を作製した。
上記作製した標識物質溶液300μLに300μLの10質量%トレハロース水溶液と1.8mLの蒸留水を加えたものを15mm×300mmのグラスファイバーパッド(ミリポア社製)に均一になるように添加した後、真空乾燥機にて乾燥させ、標識物質保持部を作製した。
【0053】
(3)クロマトグラフ媒体部および検出部の作製
ポリエチレンテレフタラート製の厚さ100μmの支持体上に、ニトロセルロースからなりかつ下記表1及び表2に示す厚さおよび展開流速を有するメンブレン(300mm×25mm)を積層し、クロマトグラフ媒体部とした。表1及び表2に示すメンブレンの厚さは、後の免疫クロマト分析装置の作成後(裁断後)、免疫クロマト分析装置内のクロマトグラフ媒体部の走査型電子顕微鏡写真による任意の3箇所の断面観察から夫々任意の3箇所の膜厚測定を行い、測定された合計9箇所の膜厚からクロマトグラフ媒体の最小値の膜厚、最大値の膜厚および平均値の膜厚(平均膜厚)を算出した。
次に、5質量%のイソプロピルアルコールを含むリン酸緩衝液(pH7.4)で1.0mg/mlの濃度になるようにマウス由来抗RSウイルスモノクローナル抗体(第一抗体)を希釈した溶液150μLを、乾燥されたメンブレン上の検出部位(検出ライン)に1mmの幅で塗布し、金ナノ粒子標識試薬の展開の有無や展開速度を確認するために検出部位の下流に、金ナノ粒子標識物質などと広く親和性を有するヤギ由来抗血清をリン酸緩衝液(pH7.4)で希釈した液をコントロール部位(コントロールライン)に塗布した。その後、50℃で30分間乾燥させ、室温で一晩乾燥させ、クロマトグラフ媒体部上に検出部を作製した。
【0054】
(4)免疫クロマト分析装置の作成
次に、バッキングシートから成る基材に、試料添加部、標識物質保持部、検出部が担持されたクロマトグラフ媒体部、展開した試料や標識物質を吸収するための吸収部としてグラスファイバー製の不織布を順次貼り合わせた。そして、裁断機で幅が5mmとなるように裁断し、免疫クロマト分析装置とした。なお、標識物質保持部の試料展開方向の長さを8mmとした。
【0055】
(5)検体希釈液
1質量%の非イオン界面活性剤(日油株式会社製、商品名:MN811とナカライテスク社製、商品名NP−40の1:1混合物)、80mMの塩化カリウム、20mMのグアニジン塩酸塩、0.4重量%のポリビニルピロリドン(平均分子量36万)を含む50mMのHEPES緩衝液(pH7.5)を調製し、検体を希釈処理するための試薬とした。
【0056】
(6)測定
RSウイルス陰性の臨床実検体鼻汁を前記検体希釈液で希釈し10%の濃度とし検体とした。この検体の120μlを免疫クロマト分析装置の試料添加部上に載せて展開させ、15分経過後に、検出部の着色の度合いを目視で確認し、以下の評価基準によって非特異反応の有無を評価した。
++:はっきりしたラインが確認された。
+:薄いラインが確認された。
−:ラインは確認されなかった。
【0057】
なお、RSウイルス陽性の臨床実検体鼻汁を前記検体希釈液で希釈し10%の濃度としたものを検体として、上記測定を繰り返し、感度を評価した。実施形態毎に夫々5回の測定を行い、その平均の感度の結果を表1及び表2に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
表1において、実施例1〜6は、メンブレンの平均膜厚が、110μm〜130μmの範囲内であり、かつメンブレンの展開流速が30〜45秒/40mmの範囲内であるため、高粘性検体を用いた分析であっても非特異反応が生じないことが分かった。また感度も良好である。
これに対し、表2における比較例1〜2は、展開流速は本発明の範囲内であるが、メンブレンの平均膜厚がいずれも本発明で規定する上限を超えているので、非特異反応が生じた。比較例3は、メンブレンの平均膜厚は本発明の範囲内であるが、展開流速が本発明で規定する上限を超えているので、感度が実施例と比較して低かった。
なお、前記検体希釈液のみを検体として上記試験を繰り返した場合は、感度および非特異反応ともに、いずれも「−」評価であった。
更に、実施例1〜6について、夫々繰り返し50回測定した場合、実施例4〜6では非特異反応は検出されなかったが、実施例1〜3では、1〜2回の非特異反応が検出された。
【符号の説明】
【0061】
1 試料添加部(サンプルパッド)
2 標識物質保持部
3 クロマトグラフ媒体部
32 支持体
34 メンブレン
4 検出部
5 吸収部
6 バッキングシート
図1
図2
図3