(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6273376
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】ニオブ酸化物焼結体及び該焼結体からなるスパッタリングターゲット並びにニオブ酸化物焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20180122BHJP
C04B 35/495 20060101ALI20180122BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C04B35/495
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-552872(P2016-552872)
(86)(22)【出願日】2015年9月14日
(86)【国際出願番号】JP2015075952
(87)【国際公開番号】WO2016056352
(87)【国際公開日】20160414
【審査請求日】2016年12月21日
(31)【優先権主張番号】特願2014-205389(P2014-205389)
(32)【優先日】2014年10月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100173901
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 一輝
(72)【発明者】
【氏名】成田 里安
【審査官】
村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/132872(WO,A1)
【文献】
特開平08−283935(JP,A)
【文献】
国際公開第2004/038061(WO,A1)
【文献】
国際公開第1997/008359(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0126800(US,A1)
【文献】
中国特許出願公開第101864555(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C04B 35/495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NbOx(2<x<2.4)の組成を有するニオブ酸化物焼結体スパッタリングターゲットであって、NbO2の(400)面、Nb2O5の(001)面若しくは(110)面、のX線回折ピーク、又は、2θ=20〜60°範囲内におけるいずれか一のX線回折ピーク、のうち、最も大きいX線回折ピーク強度に対する、Nbの(110)面からのX線回折ピーク強度の強度比が1%以下であることを特徴とするニオブ酸化物焼結体スパッタリングターゲット。
【請求項2】
相対密度が90%以上であることを特徴とする請求項1記載のニオブ酸化物焼結体スパッタリングターゲット。
【請求項3】
焼結体面内の任意の点における密度の差が1.0%以下であることを特徴とする請求項1又は2のいずれか一項に記載のニオブ酸化物焼結体スパッタリングターゲット。
【請求項4】
直径が58mm以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のニオブ酸化物焼結体スパッタリングターゲット。
【請求項5】
抵抗率が10Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のニオブ酸化物焼結体スパッタリングターゲット。
【請求項6】
Nb12O29の相を含有することを特徴とする請求項5記載の二オフ酸化物焼結体スパッタリングターゲット。
【請求項7】
NbO2(400)面からのX線回折ピーク強度に対する、Nb12O29(400)面からのX線回折ピーク強度の強度比が10%以上であることを特徴とする請求項6記載のニオブ酸化物焼結体スパッタリングターゲット。
【請求項8】
NbO2粉末とNb2O5粉末とを混合し、この粉砕粉を950℃〜1300℃でホットプレスにより焼結することを特徴とするニオブ酸化物焼結体スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項9】
NbO2粉末の平均粒径が1〜10μm、Nb2O5粉末の平均粒径が1〜10μmであることを特徴とする請求項8記載のニオブ酸化物焼結体スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項10】
NbO2粉末とNb2O5粉末とを湿式混合することを特徴とする請求項8又は9記載のニオブ酸化物焼結体スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項11】
NbO2粉末の純度が99.9%以上であり、Nb2O5粉末の純度が99.9%以上であることを特徴とする請求項8〜10のいずれか一項に記載のニオブ酸化物焼結体スパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニオブ酸化物焼結体及び該焼結体からなるスパッタリングターゲット並びにニオブ酸化物焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フラッシュメモリの代替として、電圧印加による電気抵抗の大きな変化を利用したReRAMが注目されており、その抵抗変化層としてニッケル、チタン、タンタル、ニオブ等の遷移金属の酸化物であって、特に、化学量論からずれた組成の酸化物(亜酸化物)を使用することが知られている(特許文献1〜3、参照)。例えば、特許文献1には、ReRAMが備える抵抗変化層として、五酸化ニオブ(Nb
2O
5)が開示されている。
【0003】
ニオブ酸化物からなる薄膜は、通常、スパッタリング法によって形成される。例えば、特許文献4には、五酸化ニオブの例ではあるが、五酸化ニオブの粉末をホットプレス等の加圧焼結で作製したニオブ酸化物のスパッタリングターゲットが開示されている。
ところで、ターゲット用焼結体を作製する場合、目的とする焼結体の組成と原料の組成とを一致させることが最も簡便な製造方法である。しかし、ニオブ酸化物において単相として一般的に入手できるのは、NbO、NbO
2、Nb
2O
5の3種類であり、例えば、NbO
2.2のような亜酸化物は原料として存在しないため、NbO
x(2<x<2.5)の組成を有する焼結体を製造することはできなかった。なお、NbO
x(2<x<2.5)のうち、Nb
12O
29(≒NbO
2.417)は存在するが、流通していないため入手は難しい。
【0004】
そこで、反応焼結(合成と焼結を同時に行う方法)によって、原料の組成と異なる組成の焼結体を作製する方法が考えられる。ところが、メタル(Nb)とその酸化物とを所望の組成(酸素の価数)となるように混合、焼結して、焼結体を作製すると、未反応物質が残存したり、焼結体中に多数の小さな孔が形成したりする問題があった。さらに、大型の焼結体を作製する場合には、焼結体面内の密度が均一にならないという問題が生じた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−149091号公報
【特許文献2】特開2011−71380号公報
【特許文献3】特開2007−67402号公報
【特許文献4】特開2002−338354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、スパッタリングターゲットとして使用可能なNbO
x(2<x<2.5)の組成を有する焼結体及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明者は鋭意研究を行った結果、NbO
2とNb
2O
5とを酸素の計算上の価数がNbO
x(2<x<2.5)になるよう調整、混合し、これを焼結することにより、スパッタリングターゲットに使用可能なNbO
x(2<x<2.5)の組成を有する焼結体、特には、高密度であって、大型のスパッタリングターゲットに有用な焼結体が得られるとの知見が得られた。
このような知見に基づき、本発明は、
1)NbO
x(2<x<2.5)の組成を有することを特徴とするニオブ酸化物焼結体、
2)NbO
2の(400)面、Nb
2O
5の(001)面若しくは(110)面、のX線回折ピーク、又は、2θ=20〜60°範囲内におけるいずれか一のX線回折ピーク、のうち、最も大きいX線回折ピーク強度に対する、Nbの(110)面からのX線回折ピーク強度の強度比が1%以下であることを特徴とする上記1)記載のニオブ酸化物焼結体、
3)相対密度が90%以上であることを特徴とする上記1)又は2記載のニオブ酸化物焼結体、
4)焼結体面内の任意の点における密度の差が1.0%以下であることを特徴とする上記1)〜3)のいずれか一に記載のニオブ酸化物焼結体、
5)直径が58mm以上であることを特徴とする上記1)〜4)のいずれか一に記載のニオブ酸化物焼結体、
6)抵抗率が10Ω・cm以下であることを特徴とする上記1)〜5)のいずれか一に記載のニオブ酸化物焼結体、
7)Nb
12O
29の相を含有することを特徴とする上記6)記載の二オフ酸化物焼結体、
8)NbO
2(400)面からのX線回折ピーク強度に対する、Nb
12O
29(400)面からのX線回折ピーク強度の強度比が10%以上であることを特徴とする上記7)記載のニオブ酸化物焼結体、
9)上記1)〜8)のいずれか一に記載のニオブ酸化物焼結体から作製されることを特徴とするスパッタリングターゲット、
10)NbO
2粉末とNb
2O
5粉末とを混合し、950℃〜1300℃でホットプレスにより焼結することを特徴とするニオブ酸化物焼結体の製造方法、
11)NbO
2粉末の平均粒径が1〜10μm、Nb
2O
5粉末の平均粒径が1〜10μmであることを特徴とする上記10)記載のニオブ酸化物焼結体の製造方法、
12)NbO
2粉末とNb
2O
5粉末とを湿式混合することを特徴とする上記10)又は11)記載のニオブ酸化物焼結体の製造方法、
13)NbO
2粉末の純度が99.9%以上であり、Nb
2O
5粉末の純度が99.9%以上であることを特徴とする上記10)〜12)のいずれか一に記載のニオブ酸化物焼結体の製造方法、を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、NbO
2とNb
2O
5とを混合焼結し、酸素の計算上の価数がNbO
x(2<x<2.5)の組成を有する焼結体を得ることができる。特に、本発明の焼結体は高密度であるので、これを機械加工して得られるスパッタリングターゲットは、スパッタリング中に異常放電の発生がなく、安定的なスパッタリングを行うことができ、パーティクルの発生が少なく、品質の優れたNbO
x(2<x<2.5)の薄膜を形成することができるという優れた効果を有する。また、近年の大型のスパッタリングターゲットの需要に対しても、高密度のものを提供できるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1の焼結体のXRDプロファイルを示す図である。
【
図2】実施例1、2、3の焼結体のTG−DTAによる評価を示す図である。
【
図3】狙いx(組成)とTG−DTAの結果から求めたxの関係を示す表である。
【
図4】実施例2の焼結体(直径460mm)の光学顕微鏡写真を示す図である。
【
図5】実施例2の焼結体(直径460mm)の密度分布を示す図である。
【
図6】比較例1の焼結体(直径58mm)のSEM観察画像を示す図である。
【
図7】x(組成)と理論密度の関係を示す図である。
【
図8】実施例4〜6、比較例3〜4の焼結体のXRDプロファイルを示す図である。
【
図9】実施例4〜6、比較例3の焼結体のNbO
2(400)面からのX線回折ピーク強度に対するNb
12O
29(400)面からのX線回折ピーク強度比と組成xの関係を示す図である。
【
図10】実施例4〜6、比較例3〜4の焼結体の抵抗率と組成xの関係を示す図である。
【
図11】実施例4〜6、比較例3〜4の焼結体の組成xと組織(電子顕微鏡像)の関係を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のニオブ酸化物焼結体は、酸素の計算上の価数がNbO
x(2<x<2.5)の組成を有することを特徴とする。先に述べた通り、一般的に行われている反応焼結(合成と焼結を同時に行う方法)によって、Nbとその酸化物からニオブの亜酸化物の焼結体を作製すると、焼結温度等を調整しても、完全な合成ができず、後述の比較例で示す金属ニオブが未反応物質として残存することがある。このような未反応物質の周辺には、パーティクルの発生原因となるボイドが発生することがある。また、金属ニオブと反応済みのニオブ酸化物とでは、導電性が異なることから、その部分でマイクロアーキングが発生することがある。
【0011】
このようなことから、Nbとその酸化物を用いつつも未反応物質を生成させないためにNbとNb
2O
5とを予め希望の酸素価数になるよう混合し、事前に合成してから焼結体を作製する方法もある。しかしながら、目標組成からずれた場合には、Nb又はNb
2O
5を追加する必要があるが、特にNbを追加する場合には、未反応物質の生成を回避するため再度合成が必要となり、プロセスが煩雑となるという問題がある。このようなことから、Nbとその酸化物からニオブの亜酸化物の焼結体を作製することは極めて困難であった。
【0012】
しかし、本発明によれば、予め合成されたNbO
2とNb
2O
5を混合して、これを焼結するので、未反応物質のない酸素の計算上の価数がNbO
x(2<x<2.5)の組成を有する焼結体を作製することができる。さらに、混合した時点で目標組成とずれている場合は、合成されたNbO
2もしくはNb
2O
5を追加するだけなので、再合成する必要はない。そして、このような焼結体スパッタリングターゲットは、NbO
x(2<x<2.5)薄膜を安定的に成膜することができる。
【0013】
ニオブ酸化物焼結体の酸素の価数は、次のようにして、求めることができる。
まず、焼結体をリガク製TG−DTA装置で重量変化を測定する。焼結体を加熱していくと、徐々に重量が増えていく。これは、NbO
x(2<x<2.5)を大気で加熱すると、安定なNb
2O
5となって酸素吸着により重量が増えるためである。その後、所定の温度付近で飽和するので、この飽和した時の重量変化を△M%とする。重量変化は、酸素の変化であるので、次式のように表される。
(NbO
2.5の分子量)÷(NbO
xの分子量)=1+△M/100
=(Nb+O×2.5)/(Nb+O×x)
これをx(酸素の価数)について解くと、
x=(O×2.5−△M×Nb/100)/(1+△M/100)/O
(Oの原子量:15.9994g/mol、Nbの原子量:92.9g/mol)
上式に測定した△Mを代入すると、酸素の計算上の価数(x)が得られる。
【0014】
また、本発明のニオブ酸化物焼結体は、NbO
2の(400)面、Nb
2O
5の(001)面若しくは(110)面、のX線回折ピーク、又は、2θ=20〜60°範囲内におけるいずれか一のX線回折ピーク、のうち、最も大きいX線回折ピーク強度に対する、Nbの(110)面からのX線回折ピーク強度の強度比が1%以下であることが好ましい。このような実質的に金属Nbが存在しない焼結体ターゲットは、安定したスパッタリングが可能となる。なお、NbO
2とNb
2O
5のピーク強度は組成によって大小変化するため、それらの中で最大のピーク強度、又は、2θ=20〜60°までスキャンした時の最大ピーク強度と、金属Nbのピーク強度とを比較する必要がある。
【0015】
本発明のニオブ酸化物焼結体は、相対密度が90%以上、好ましくは95%以上と高密度であるので、これを機械加工して作製したスパッタリングターゲットは、スパッタリング中に異常放電の発生がなく、安定的なスパッタリングを行うことができ、パーティクルの発生が少なく、品質の優れた薄膜を形成することができる。
また、本発明は、焼結体面内の任意の点における密度の差を1.0%以下に抑制することができ、好ましくは、0.5%以下、に抑制することができる。焼結体面内の密度のばらつきを抑えることにより、スパッタリングで成膜した膜のユニフォーミティ(均一性)を向上させることができる。
前記の密度の差は、焼結体面内の中央と半径方向の1/2の点(90°おきに4点)の計5点において、{(相対密度が高い点の相対密度)/(相対密度が低い点の相対密度)−1}×100(%)として求めることができる。尚、密度を測定する各点の寸法は、12±2mm四方(厚さ方向は焼結体の厚さ)とする。
【0016】
本発明は、直径58mm以上、さらには、直径110mm以上、直径460mm以上の大型のNbO
x(2<x<2.5)焼結体において、特に優れた効果を発揮する。前記のように、大型の焼結体を作製する場合、小型の焼結体を作製する場合と異なり、焼結体の形状に変化が起こる場合があり、直径が110mm未満では、小型のサンプルで条件出しを行ったホットプレス条件を、そのまま適用することができるが、直径が110mm以上では、小型のサンプルから得られるホットプレス条件をそのまま適用すると、焼結体の形状等に変化が生じるといった高密度の焼結体を作製することの困難性があるからである。なお、焼結体の大きさに上限はないが、生産上の観点から直径480mm程度までが好ましい。
【0017】
また、本発明の二オフ酸化物焼結体は、ターゲットとして使う場合、高速成膜が可能なDCスパッタで使用したいとの要望があり、その場合、抵抗率が低いことが要求される。スパッタ装置や条件にもよるが、DCスパッタが可能な抵抗率は、100Ω・cm以下、好ましくは抵抗率が10Ω・cm以下である。
【0018】
本発明のNbOx(2<x<2.5)の組成を有するニオブ酸化物焼結体は、後述の実施例で示す通り、他の組成範囲(例えば、x=2、x=2.5)の焼結体と比較して、低い抵抗率を示すという極めて特異な性質を有する。その理由は定かではないが、当該焼結体のX線回折プロファイルからNb
12O
29相の存在に起因するものと考えられる。そこで本発明は、NbO
2(400)面からのX線回折ピーク強度に対して、Nb
12O
29(400)面からのX線回折ピーク強度の強度比が10%以上とする。
【0019】
本発明のNbO
x(2<x<2.5)の組成を有するニオブ酸化物焼結体は、例えば、以下のようにして、作製することができる。
まず、平均粒径2.0μmのNbO
2粉末と平均粒径2.0μmのNb
2O
5粉末を準備する。なお、市販の原料粉末の粒径が粗い場合は、SCミルなどを用いて微粉砕することが有効である。次に、このNbO
2粉末とNb
2O
5粉末を所望の比率となるように秤量し、混合する。このとき、均一に混合するために湿式混合を行うことが好ましい。例えば、混合粉にエタノールもしくは純水を入れてスラリー状にし、これを混合することで均一な混合が可能となる。その後、これを乾燥、解砕する。
【0020】
次に、この混合したNbO
x(2<x<2.5)粉末をホットプレスにより焼結する。 ホットプレスの温度は950℃〜1300℃とする。一般に、温度が高いほど相対密度が上がりやすいが、NbOx(2<x<2.5)粉末の場合、焼結温度が1300℃超では、焼結中の出ガスにより焼結体に膨らみ・欠けが発生することがあるので、焼結温度の上限は1300℃とする。一方、焼結温度の下限は950℃とする。これは、TMA(熱機械分析)によれば、950℃以下では単調な収縮が得られないからである。
また、大型の焼結体の場合、特に直径が110mm以上の焼結体の場合には、ホットプレス焼結温度を950℃〜1100℃とするのが好ましい。焼結温度が1100℃超では、焼結中の出ガスにより、焼結体の密度が低下するとともに、焼結体面内の端部(端から30mm以内)の任意の点と中心部の点とで密度に差が生じ、また、焼結体自体にも欠けが発生する場合があるからである。
【0021】
以上により、高密度のNbO
x(2<x<2.5)焼結体を得ることができる。そして、この焼結体を切削、研磨などの機械加工を行うことで、スパッタリングターゲットを作製することができる。さらに、得られたスパッタリングターゲットを用いてNbO
x(2<x<2.5)の組成を有する薄膜を形成することができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例および比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。
【0023】
(実施例1)
平均粒径1.4μm、純度99.9%のNbO
2粉末と、平均粒径20μm、純度99.9%のNb
2O
5粉末を用意した。Nb
2O
5粉末の粒径は20μmと粗かったことから、NbO
2粉末と同程度(D
50=1.4μm前後)になるまでSCミルで粉砕を行った。
次に、このNb
2O
5粉末とNbO
2粉末とをNbO
2.25となるように秤量(重量比でNb
2O
5粉末:NbO
2粉末=51.55%:48.45%)し、混合した。混合には湿式混合を用い、原料粉末をエタノールに入れてスラリー状とし、それを混合、その後、乾燥、解砕して、混合粉が得られた。
次に、このNbO
2.25粉末を用いてホットプレス焼結を行った。ホットプレス焼結は、狙い形状を直径58mm、厚さ10mmとし、ホットプレス温度は1300℃とした。その結果、相対密度の平均値は97.6%と高密度であった。また、焼結体面内分布の密度の差を0.5%以下に抑えることができた。なお、真密度(理論密度)を5.112g/cm
3として、相対密度を算出した。
次に、リガク製X線回折装置で焼結体を評価したところ、2θ=25.99°近辺に現れるNbO
2(400)のピーク強度は3220cps、2θ=22.61°近辺に現れるNb
2O
5(001)のピーク強度は40cps、2θ=23.74°近辺に現れる(110)のピーク強度は1023cps、2θ=38.56°近辺に現れるNb(110)のピーク強度は17cpsであった。NbO
2とNb
2O
5のピーク強度は組成によって大小するため、それらの中で最大のピーク強度、又は、2θ=20〜60°までスキャンした時の最大ピーク強度と、Nb(110)のピーク強度を比較した。その結果、最大強度はNbO
2(400)であり、Nb(110)÷NbO
2(400)=0.53%と1%以下であった。
【0024】
(実施例2)
平均粒径1.4μm、純度99.9%のNbO
2粉末と平均粒径20μm、純度99.9%のNb
2O
5粉末を用意した。Nb
2O
5粉末の粒径は20μmと粗かったことから、NbO
2粉末と同程度(D
50=1.4μm前後)になるまでSCミルで微粉砕を行った。
次に、このNb
2O
5粉末とNbO
2粉末とをNbO
2.30となるように秤量(重量比でNb
2O
5粉末:NbO
2粉末=61.48%:38.52%)し、混合した。混合には湿式混合を用い、原料粉末をエタノールに入れてスラリー状とし、それを混合、その後、乾燥、解砕して、混合粉が得られた。
次に、このNbO
2.30粉末を用いてホットプレス焼結を行った。ホットプレス焼結は、狙い形状を直径480mm、厚さ10mmとし、ホットプレス温度は1100℃とした。その結果、相対密度の平均値は96.7%と高密度であった。また、焼結体面内分布の密度の差を0.5%以下に抑えることができた。なお、真密度(理論密度)を4.984g/cm
3として、相対密度を算出した。
次に、リガク製X線回折装置で焼結体を評価したところ、NbO
2(400)のピーク強度は1583cps、Nb
2O
5(001)のピーク強度は104cps、(110)のピーク強度は480cps、Nb(110)のピーク強度は14cpsであった。NbO
2とNb
2O
5のピーク強度は組成によって大小するため、それらの中で最大のピーク強度、又は、2θ=20〜60°までスキャンした時の最大ピーク強度と、Nb(110)のピーク強度を比較した。その結果、最大強度はNbO
2(400)であり、Nb(110)÷NbO
2(400)=0.88%と1%以下であった。
【0025】
(実施例3)
実施例2で作製したNbO
2.30狙いの混合粉に平均粒径D
50=1.4μm、純度99.9%のNbO
2粉末をNbO
2.20となるように追加秤量し、混合した。混合には湿式混合を用い、原料粉末をエタノールに入れてスラリー状とし、それを混合、その後、乾燥、解砕して、混合粉が得られた。
次に、このNbO
2.20粉末を用いてホットプレス焼結を行った。ホットプレス焼結は、狙い形状を直径170mm、厚さ10mmとし、ホットプレス温度は950℃とした。その結果、相対密度の平均値は96.3%と高密度であった。また、焼結体面内分布の密度の差を0.5%以下に抑えることができた。このように一度混合した原料に原料を追加しても問題ないことがわかる。なお、真密度(理論密度)を5.249g/cm
3として、相対密度を算出した。
次に、リガク製X線回折装置で焼結体を評価したところ、NbO
2(400)のピーク強度は2963cps、Nb
2O
5(001)のピーク強度は32cps、(110)のピーク強度は901cps、Nb(110)のピーク強度は13cpsであった。NbO
2とNb
2O
5のピーク強度は組成によって大小するため、それらの中で最大のピーク強度、又は、2θ=20〜60°までスキャンした時の最大ピーク強度と、Nb(110)のピーク強度を比較した。その結果、最大強度はNbO
2(400)であり、Nb(110)÷NbO
2(400)=0.44%と1%以下であった。
【0026】
図2に、実施例1、2、3で得られた焼結体をリガク製TG−DTA装置で重量変化を示す。なお、これは、NbO
x(2<x<2.5)を大気で加熱すると安定なNb
2O
5になり、酸素吸着により重量が増えるためである。
図2に示すように、300℃から徐々に重量が増えてゆき、400℃を超えたあたりで飽和する。この飽和した時の重量変化を△M%とする。先述の通り、重量変化は酸素の変化であるので、次式のように表される。
(NbO
2.5の分子量)÷(NbO
xの分子量)=1+△M/100
=(Nb+O×2.5)/(Nb+O×x)
これをxについて解くと、
x=(O×2.5−△M×Nb/100)/(1+△M/100)/O
(O原子量:15.9994g/mol、Nb原子量:92.9g/molである。)
実施例1の場合、△M=3.15%であり、上式に当てはめると、x=2.25を得る。同様にして、実施例2、実施例3では、各々△M=2.408%、3.708%であり、x=2.30、2.20となり、所望の組成(酸素の計算上の価数)からなる焼結体が得られた。以上の結果を
図3に示す。なお、単体のNbO
2、Nb
2O
5をTG−DTAでした結果、組成NbO
2の場合、x=2.00、組成Nb
2O
5の場合、x=2.50であることを確認した。
実施例3のように、一旦任意の組成に混合した後NbO
2粉末を追加し再混合しても、所望の組成が得られることを確認した。もちろん、再混合の際には狙いの組成(x)の値によってはNbO
2粉末ではなく、Nb
2O
5粉末で調整することが可能である。
【0027】
(比較例1)
平均粒径45μm、純度99.9%のNb粉末と平均粒径20μm、純度99.9%のNb
2O
5粉末を用意した。このNb粉末とNb
2O
5粉末とをNbO
2.25となるように秤量(Nb粉:Nb
2O
5粉=2mol:9mol=7.207wt%:92.793wt%)し、混合した。混合には乾式混合を用いた。
次に、この混合粉を用いてホットプレス焼結を行った。ホットプレス焼結は、狙い形状を直径58mm、厚さ10mmとし、ホットプレス温度は1100℃とした。得られた焼結体の表面の顕微鏡写真を
図4に示す。その結果、未反応の金属ニオブが残っていることを確認した。また、未反応の金属ニオブの周辺に空隙ができた。これらはターゲットとしてはパーティクルの原因になり得るため好ましいことではない。酸素の価数についてはTG−DTAの結果x=2.28と予定よりも大き目であった。
【0028】
(比較例2)
平均粒径45μm、純度99.9%のNb粉末と平均粒径20μm、純度99.9%のNb
2O
5粉末を用意した。このNb粉末とNb
2O
5粉末とをNbO
2.25となるように秤量(Nb粉:Nb
2O
5粉=2mol:9mol=7.207wt%:92.793wt%)し、混合した。混合には乾式混合を用いた。
次に、この混合粉をカーボン製の坩堝に入れ、不活性ガス雰囲気で熱処理を行った。熱処理温度は1300℃とし、処理時間は2時間とした。この熱処理した粉をTG−DTAにより組成を測定したところ、x=2.27と予定よりも大きくなった。狙いはx=2.25であるためNb粉を追加し、乾式混合を行った。この混合粉を再度カーボン製の坩堝に入れ、不活性ガス雰囲気で熱処理を行った。再処理後の組成は、x=2.25と狙い通りであったが、組成調整のために追加で熱処理を行う必要があった。
【0029】
(実施例4)
平均粒径1.4μm、純度99.9%のNbO
2粉末と、平均粒径20μm、純度99.9%のNb
2O
5粉末を用意した。Nb
2O
5粉末の粒径は20μmと粗かったことから、NbO
2粉末と同程度(D
50=1.4μm前後)になるまでSCミルで粉砕を行った。
次に、このNb
2O
5粉末とNbO
2粉末とをNbO
2.2となるように秤量(重量比でNb
2O
5粉末:NbO
2粉末=41.50%:58.50%)し、混合した。混合には湿式混合を用い、原料粉末をエタノールに入れてスラリー状とし、それを混合、その後、乾燥、解砕して、混合粉が得られた。
次に、このNbO
2.2粉末を用いてホットプレス焼結を行った。ホットプレス焼結は、狙い形状を直径58mm、厚さ10mmとし、ホットプレス温度は1050℃とした。その結果、相対密度の平均値は98.4%と高密度であった。また、焼結体面内分布の密度の差を0.5%以下に抑えることができた。なお、真密度(理論密度)を5.249g/cm
3として、相対密度を算出した。また、この焼結体について、(株)共和理研製抵抗率測定器Model K−705RSを用いて抵抗率を測定したところ、5.3mΩ・cmであった。
次に、リガク製X線回折装置で焼結体を評価した。NbO
2とNb
2O
5のピーク強度は組成によって大小するため、それらの中で最大のピーク強度、又は、2θ=20〜60°までスキャンした時の最大ピーク強度と、Nb(110)のピーク強度を比較した。その結果、最大強度はNbO
2(222)であり、Nb(110)÷NbO
2(222)=0.21%と1%以下であった。また、Nb
12O
29のX回折ピークを確認することができ、NbO
2(400)面からのX線回折ピーク強度に対して、Nb
12O
29(400)面からのX線回折ピーク強度の強度比が0.6倍であった。この焼結体を研磨し、(株)日立ハイテクノロジー製の電子顕微鏡(型式S−3000N)で組織観察を行ったところ、濃い灰色の下地に薄い灰色のアイランド状の模様が見えた。
【0030】
(実施例5)
平均粒径1.4μm、純度99.9%のNbO
2粉末と、平均粒径20μm、純度99.9%のNb
2O
5粉末を用意した。Nb
2O
5粉末の粒径は20μmと粗かったことから、NbO
2粉末と同程度(D
50=1.4μm前後)になるまでSCミルで粉砕を行った。
次に、このNb
2O
5粉末とNbO
2粉末とをNbO
2.3となるように秤量(重量比でNb
2O
5粉末:NbO
2粉末=61.48%:38.52%)し、混合した。混合には湿式混合を用い、原料粉末をエタノールに入れてスラリー状とし、それを混合、その後、乾燥、解砕して、混合粉が得られた。
次に、このNbO
2.3粉末を用いてホットプレス焼結を行った。ホットプレス焼結は、狙い形状を直径58mm、厚さ10mmとし、ホットプレス温度は1050℃とした。その結果、相対密度の平均値は97.3%と高密度であった。また、焼結体面内分布の密度の差を0.5%以下に抑えることができた。なお、真密度(理論密度)を4.984g/cm
3として、相対密度を算出した。また、この焼結体について、(株)共和理研製抵抗率測定器Model K−705RSを用いて抵抗率を測定したところ、3.7mΩ・cmであった。
次に、リガク製X線回折装置で焼結体を評価した。NbO
2とNb
2O
5のピーク強度は組成によって大小するため、それらの中で最大のピーク強度、又は、2θ=20〜60°までスキャンした時の最大ピーク強度と、Nb(110)のピーク強度を比較した。その結果、最大強度はNbO
2(400)であり、Nb(110)÷NbO
2(400)=0.14%と1%以下であった。また、Nb
12O
29のX回折ピークを確認することができ、NbO
2(400)面からのX線回折ピーク強度に対して、Nb
12O
29(400)面からのX線回折ピーク強度の強度比が1.29倍であった。この焼結体を研磨し、(株)日立ハイテクノロジー製の電子顕微鏡(型式S−3000N)で組織観察を行ったところ、濃い灰色の下地に薄い灰色のアイランド状の模様が見えた。この薄いアイランド状の面積は、実施例4よりも減っていた。
【0031】
(実施例6)
平均粒径1.4μm、純度99.9%のNbO
2粉末と、平均粒径20μm、純度99.9%のNb
2O
5粉末を用意した。Nb
2O
5粉末の粒径は20μmと粗かったことから、NbO
2粉末と同程度(D
50=1.4μm前後)になるまでSCミルで粉砕を行った。
次に、このNb
2O
5粉末とNbO
2粉末とをNbO
2.4となるように秤量(重量比でNb
2O
5粉末:NbO
2粉末=80.98%:19.02%)し、混合した。混合には湿式混合を用い、原料粉末をエタノールに入れてスラリー状とし、それを混合、その後、乾燥、解砕して、混合粉が得られた。
次に、このNbO
2.4粉末を用いてホットプレス焼結を行った。ホットプレス焼結は、狙い形状を直径58mm、厚さ10mmとし、ホットプレス温度は1050℃とした。その結果、相対密度の平均値は97.4%と高密度であった。また、焼結体面内分布の密度の差を0.5%以下に抑えることができた。なお、真密度(理論密度)を4.750g/cm
3として、相対密度を算出した。また、この焼結体について、(株)共和理研製抵抗率測定器Model K−705RSを用いて抵抗率を測定したところ、2.5mΩ・cmであった。
次に、リガク製X線回折装置で焼結体を評価した。NbO
2とNb
2O
5のピーク強度は組成によって大小するため、それらの中で最大のピーク強度、又は、2θ=20〜60°までスキャンした時の最大ピーク強度と、Nb(110)のピーク強度を比較した。その結果、最大強度はNbO
2(400)であり、Nb(110)÷NbO
2(400)=0.65%と1%以下であった。また、Nb
12O
29のX回折ピークを確認することができ、NbO
2(400)面からのX線回折ピーク強度に対して、Nb
12O
29(400)面からのX線回折ピーク強度の強度比が1.46倍であった。この焼結体を研磨し、(株)日立ハイテクノロジー製の電子顕微鏡(型式S−3000N)で組織観察を行ったところ、濃い灰色の下地に薄い灰色のアイランド状の模様が見えた。この薄い灰色のアイランド状の面積は、実施例4、5よりも減っていた。X線回折結果から、組成xが増えるとNbO
2のX線回折ピークが減少してゆく。アイランド状の面積とNbO
2のX線回折ピーク強度は相関があるため、アイランド状は、NbO
2と考えられる。
【0032】
(比較例3)
平均粒径1.4μm、純度99.9%のNbO
2粉末を用意した。次に、このNbO
2.0粉末を用いてホットプレス焼結を行った。ホットプレス焼結は、狙い形状を直径58mm、厚さ10mmとし、ホットプレス温度は1050℃とした。その結果、相対密度の平均値は98.5%と高密度であった。また、焼結体面内分布の密度の差を0.5%以下に抑えることができた。なお、真密度(理論密度)を5.9g/cm
3として、相対密度を算出した。また、この焼結体について、(株)共和理研製抵抗率測定器Model K−705RSを用いて抵抗率を測定したところ、21.6Ω・cmであった。
次に、リガク製X線回折装置で焼結体を評価した。NbO
2とNb
2O
5のピーク強度は組成によって大小するため、それらの中で最大のピーク強度、又は、2θ=20〜60°までスキャンした時の最大ピーク強度と、Nb(110)のピーク強度を比較した。その結果、最大強度はNbO
2(222)であり、Nb(110)÷NbO
2(2220)=0.16%と1%以下であった。また、Nb
12O
29のX回折ピークを確認することができ、NbO
2(400)面からのX線回折ピーク強度に対して、Nb
12O
29(400)面からのX線回折ピーク強度の強度比が0.04倍であった。
【0033】
(比較例4)
平均粒径20μm、純度99.9%のNb
2O
5粉末を用意した。Nb
2O
5粉末の粒径は20μmと粗かったことから、D
50=1.4μm前後になるまでSCミルで粉砕を行った。
次に、このNbO
2.5粉末を用いてホットプレス焼結を行った。ホットプレス焼結は、狙い形状を直径58mm、厚さ10mmとし、ホットプレス温度は1050℃とした。その結果、相対密度の平均値は97.1%と高密度であった。また、焼結体面内分布の密度の差を0.5%以下に抑えることができた。なお、真密度(理論密度)を4.542g/cm
3として、相対密度を算出した。また、この焼結体について、(株)共和理研製抵抗率測定器Model K−705RSを用いて抵抗率を測定したところ、375Ω・cmであった。NbO
2.5については、NbO
2、Nb
12O
29は存在しないため、それらの比率計算はしていない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のNbO
x(2<x<2.5)の組成を有する焼結体は、スパッタリングターゲットに用いることができ、このスパッタリングターゲットを使用して形成された薄膜は、ReRAMに用いられる高品質な抵抗変化層として有用である。さらに、本発明の大きな特徴は、原料粉として存在しない亜酸化物からなる焼結体を作製することができることであり、また高密度のものが得られるので、安定したスパッタリングが可能で、近年の生産の効率化に対して非常に有用である。