特許第6273948号(P6273948)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6273948電気化学素子電極用導電性接着剤組成物、接着剤層付集電体および電気化学素子用電極
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6273948
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】電気化学素子電極用導電性接着剤組成物、接着剤層付集電体および電気化学素子用電極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/66 20060101AFI20180129BHJP
   H01G 11/28 20130101ALI20180129BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20180129BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
   H01M4/66 A
   H01G11/28
   H01M4/13
   H01M4/02 Z
【請求項の数】3
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-59744(P2014-59744)
(22)【出願日】2014年3月24日
(65)【公開番号】特開2015-185309(P2015-185309A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】小黒 寛樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 直樹
【審査官】 式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−045984(JP,A)
【文献】 特開2013−140770(JP,A)
【文献】 特開2013−110376(JP,A)
【文献】 特開2013−073846(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/153916(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0171517(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0128412(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0017563(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/84
H01G 9/00
H01G 11/00−11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性カーボン、粒子状結着樹脂、分散媒を含んでなり、
前記導電性カーボンが少なくとも多層グラフェンを含み、
前記粒子状結着樹脂が二塩基酸単量体単位を含
前記導電性カーボン100質量部に対する単層グラフェン及び前記多層グラフェンの含有量の合計が2〜8質量部であり、
前記粒子状結着樹脂100質量部に対する前記二塩基酸単量体単位の含有量が0.5〜4質量部である電気化学素子電極用導電性接着剤組成物。
【請求項2】
集電体上に、請求項に記載の電気化学素子電極用導電性接着剤組成物を塗布・乾燥することにより形成してなる導電性接着剤層を有する、接着剤層付集電体。
【請求項3】
請求項に記載の接着剤層付集電体の前記導電性接着剤層上に形成された、電極活物質を含む電極組成物層を有する、電気化学素子用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極組成物層と集電体との間に設ける導電性接着剤層を形成するための電気化学素子電極用導電性接着剤組成物、この電気化学素子電極用導電性接着剤組成物により形成される導電性接着剤層を有する接着剤層付集電体および電気化学素子用電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能な電気化学素子、特にリチウムイオン二次電池は、その特性を活かして急速に需要を拡大している。また、リチウムイオン二次電池に代表される電気化学素子は、エネルギー密度、出力密度が大きいことから、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータの小型用途から、車載などの大型用途での利用が期待されている。そのため、これらの電気化学素子には、用途の拡大や発展に伴い、低抵抗化、高容量化、高耐電圧特性及び機械的特性の向上、サイクル寿命の長期化など、よりいっそうの改善が求められている。
【0003】
電気化学素子用電極は、通常、電極活物質と、必要に応じて用いられる導電材とをバインダーで結着することにより形成された電極組成物層を集電体上に積層してなるものである。ここで、電気化学素子は、有機系電解液を用いることで作動電圧を高め、かつ、エネルギー密度を高めることができるが、一方では電解液の粘度が高いために、内部抵抗が大きくなる傾向があった。そこで、内部抵抗を低減させるため、及び電極組成物層と集電体との密着性向上のために、電極組成物層と集電体との間に導電性接着剤層を設けることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、導電性接着剤層は、例えば集電体上に導電性カーボンと結着樹脂とを含む接着剤組成物を塗布、乾燥することにより得られる。
また、特許文献2には電極組成物層を形成するための電極組成物用スラリーに導電材としてグラフェンを用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2011/12297号
【特許文献2】特許第5273274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1記載の接着剤組成物に導電性カーボンとしてグラフェンを添加して導電性接着剤層を形成しようとした場合、連続塗工で均一な塗工ができず、導電性接着剤層の性能が十分に発揮できないという問題があることが、本発明者らの検討によりわかった。
【0006】
本発明の目的は、連続塗工性に優れた電気化学素子電極用導電性接着剤組成物、この電気化学素子電極用導電性接着剤組成物により形成される導電性接着剤層を有する接着剤層付集電体および電気化学素子用電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を続けた結果、特定の粒子状結着樹脂を用いることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明によれば、
(1) 導電性カーボン、粒子状結着樹脂、分散媒を含んでなり、前記導電性カーボンが単層グラフェン及び多層グラフェンの少なくとも一方を含み、前記粒子状結着樹脂が二塩基酸単量体単位を含む、電気化学素子電極用導電性接着剤組成物、
(2) 前記導電性カーボン100質量部に対する前記単層グラフェン及び前記多層グラフェンの含有量の合計が1〜10質量部である(1)に記載の電気化学素子電極用導電性接着剤組成物、
(3) 前記粒子状結着樹脂100質量部に対する前記二塩基酸単量体単位の含有量が0.1〜5.0質量部である(1)に記載の電気化学素子電極用導電性接着剤組成物、
(4) 集電体上に、(1)〜(3)の何れかに記載の電気化学素子電極用導電性接着剤組成物を塗布・乾燥することにより形成してなる導電性接着剤層を有する、接着剤層付集電体、
(5) (4)に記載の接着剤層付集電体の前記導電性接着剤層上に形成された、電極活物質を含む電極組成物層を有する、電気化学素子用電極
が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、連続塗工性に優れた電気化学素子電極用導電性接着剤組成物、この電気化学素子電極用導電性接着剤組成物により形成される導電性接着剤層を有する接着剤層付集電体および電気化学素子用電極が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の電気化学素子電極用導電性接着剤組成物について説明する。本発明の電気化学素子電極用導電性接着剤組成物は、導電性カーボン、粒子状結着樹脂、及び分散媒を含み、前記導電性カーボンが単層グラフェン及び多層グラフェンの少なくとも一方を含み、前記粒子状結着樹脂が二塩基酸単量体単位を含む。
【0011】
(導電性カーボン)
本発明に係る電気化学素子電極用導電性接着剤組成物(以下、単に「接着剤組成物」と記載することがある。)に用いられる導電性カーボンは、単層グラフェン及び多層グラフェンの少なくとも一方を含む。導電性カーボンが単層グラフェン及び/または多層グラフェンを含むことにより、スラリー状の接着剤組成物の静置時における構造粘性が高まり沈降安定性が高まる。ここで、グラフェンは単層のグラフェン、又は2層以上100層以下の多層グラフェンを含むものである。また、単層グラフェンとは、π結合を有する1原子層の炭素分子のシートのことをいう。
また、本発明に用いる導電性カーボンは単層グラフェン及び/または多層グラフェンに加えて他の炭素粒子を含んでいてもよい。炭素粒子とは、炭素のみからなるか、又は実質的に炭素のみからなる粒子である。その具体例としては、グラファイト(具体的には天然黒鉛、人造黒鉛など)カーボンブラック(具体的にはアセチレンブラック、ケッチェンブラック、その他のファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラックなど)、炭素繊維やカーボンナノチューブ、カーボンウィスカーが挙げられる。これらの中でも、他の炭素粒子として、グラファイト、カーボンブラックを用いることが好ましく、グラファイト及びカーボンブラックを併用することがより好ましい。単層グラフェン及び/または多層グラフェン、グラファイトとカーボンブラックとを併用することにより、接着剤組成物の構造安定性が向上し、沈降安定性が高まるため、連続塗工性を向上させることができる。
【0012】
導電性カーボン100質量部に対する単層グラフェン及び多層グラフェンの含有量の合計は、沈降安定性及び凝集安定性の優れたスラリー状の接着剤組成物を得る観点から、好ましくは1〜10質量部、より好ましくは2〜8.5質量部、さらに好ましくは3〜7質量部である。導電性カーボンにおける単層グラフェン及び多層グラフェンの含有量が前記範囲であると、スラリー状の接着剤組成物の凝集安定性に優れ、集電体に対する連続塗工性がより向上する。また、接着剤組成物の沈降安定性のさらなる改善効果が得られる。
【0013】
導電性カーボンの電気抵抗率は、導電性接着剤層の電子移動抵抗をより低減し、リチウムイオン電池の内部抵抗をより低減する観点から、好ましくは0.0001〜1Ω・cmであり、より好ましくは0.0005〜0.5Ω・cm、特に好ましくは0.001〜0.1Ω・cmである。ここで、電気抵抗率は、粉体抵抗測定システム(MCP−PD51型:ダイアインスツルメンツ社製)を用いて、炭素粒子に圧力をかけ続けながら抵抗値を測定し、圧力に対して収束した抵抗値R(Ω)と、圧縮された炭素粒子層の面積S(cm2)と厚みd(cm)から電気抵抗率ρ(Ω・cm)=R×(S/d)を算出する。
【0014】
(粒子状結着樹脂)
本発明の接着剤組成物に用いる粒子状結着樹脂は、二塩基酸単量体単位を含み、導電性カーボンを相互に結着させることができる化合物であれば特に制限はない。粒子形状は真球状であっても、楕円球状であってもよく、その他の異形形状であってもよいが、球形度の高い形状であることが好ましい。
【0015】
(二塩基酸単量体単位)
二塩基酸単量体としては、たとえばイタコン酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸などのエチレン性不飽和多価カルボン酸およびそれらの無水物;フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノ2−ヒドロキシプロピルなどのエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル化物;などが挙げられる。これらの中でもイタコン酸、マレイン酸が特に好ましい。これらの二塩基酸単量体は一種単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0016】
粒子状結着樹脂は、二塩基酸単量体単位が含まれる限り、特に限定はされないが、適当な結着性、分散性、粒子性状を達成する観点から、二塩基酸単量体に加えて、エチレン性不飽和カルボン酸エステルおよびこれらと共重合可能なモノオレフィン性単量体を含む単量体混合物を、乳化重合して得られる粒子状共重合体(I)および/または、二塩基酸単量体に加えて、ジエン系モノマーおよびこれらと共重合可能なモノオレフィン性単量体を含む単量体混合物を、乳化重合して得られる粒子状共重合体(II)であることが好ましい。
【0017】
エチレン性不飽和カルボン酸エステルの具体例としては、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリレート等;エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、トリデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレートなどのメタアクリレート等が挙げられる。これらの中でも、アクリレートが好ましく、n−ブチルアクリレートおよび2―エチルヘキシルアクリレートが、得られる電極の強度を向上できる点で、特に好ましい。これらのエチレン性不飽和カルボン酸エステルは一種単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0018】
ジエン系モノマーの具体例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、クロロプレン、ペンタジエン等が挙げられる。これらの中でも、1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましく、1,3−ブタジエンが、得られる電池の寿命を向上できる点で、特に好ましい。これらのジエン系モノマーは一種単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0019】
上記各単量体と、共重合可能なモノオレフィン性単量体としては、たとえば、エチレン性不飽和ニトリル単量体、芳香族ビニル単量体、エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体などが挙げられる。
【0020】
エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、α−クロロアクリロニトリルなどが挙げられる。これらのなかでも、特に、アクリロニトリルが好ましい。
【0021】
芳香族ビニル単量体としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、モノクロルスチレン、ビニルトルエンなどが挙げられる。これらのなかでも、特に、スチレンが好ましい。
【0022】
エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体としては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸などのエチレン性不飽和モノカルボン酸があげられる。また、これらのエチレン性不飽和カルボン酸単量体は、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などの塩の状態で使用しても良い。
【0023】
さらにその他の配合可能な単量体化合物の具体例としては、プロピオン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル等が挙げられる。
【0024】
これらのモノオレフィン性単量体は、単独でまたは2種以上を組み合せて用いることができる。
【0025】
粒子状共重合体(I)を形成するための単量体混合物の組成は特に限定はされないが、好適な組成の一例は、二塩基酸単量体が好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.5〜4.0質量%、さらに好ましくは1〜3.0質量%であり、エチレン性不飽和カルボン酸エステルが好ましくは60〜90質量%、より好ましくは65〜85質量%、さらに好ましくは68〜82質量%であり、モノオレフィン性単量体が好ましくは39.9〜5質量%、より好ましくは35〜10質量%、さらに好ましくは30〜15質量%である。二塩基酸単量体の含有量が前記範囲であると、重合安定性に優れ、また、結着樹脂の結着機能がより優れたものとなり、スラリー状の接着剤組成物の凝集安定性がより向上する。
【0026】
粒子状共重合体(II)を形成するための単量体混合物の組成は特に限定はされないが、好適な組成の一例は、二塩基酸単量体が好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.5〜4.0質量%、さらに好ましくは1〜3.0質量%であり、ジエン系モノマーが好ましくは20〜50質量%、より好ましくは25〜45質量%、さらに好ましくは30〜40質量%であり、モノオレフィン性単量体が好ましくは79.9〜50質量%、より好ましくは75〜52質量%、さらに好ましくは70〜55質量%である。二塩基酸単量体の含有量が多すぎると、重合時に不安定になりやすい。また、結着樹脂としての機能を十分に発揮できない。二塩基酸単量体の含有量が少なすぎると、スラリー状の接着剤組成物の凝集安定性効果が下がる。
【0027】
このような粒子状結着樹脂のガラス転移温度は、好ましくは−40〜40℃の範囲にある。
【0028】
粒子状結着樹脂のテトラヒドロフラン不溶解分は、好ましくは60〜99質量%、より好ましくは70〜95質量%である。テトラヒドロフラン不溶解分が上記範囲にあると剥離強度の高い活物質層を持つ電極が得られる。
【0029】
(粒子状結着樹脂の製造)
粒子状結着樹脂の製法は特に限定はされないが、上述したように、各共重合体を構成する単量体を含む単量体混合物を、それぞれ乳化重合して得ることができる。乳化重合の方法としては、特に限定されず、従来公知の乳化重合法を採用すれば良い。
【0030】
乳化重合に使用する重合開始剤としては、たとえば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0031】
これらのなかでも、無機過酸化物が好ましく使用できる。これらの重合開始剤は、それぞれ単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。また、過酸化物開始剤は、重亜硫酸ナトリウム等の還元剤と組み合わせて、レドックス系重合開始剤として使用することもできる。
重合開始剤の使用量は、重合に使用する単量体混合物の全量100質量部に対して、好ましくは0.05〜5質量部、より好ましくは0.1〜2質量部である。
【0032】
得られる共重合体粒子のテトラヒドロフラン不溶解分量を調節するために、乳化重合時に連鎖移動剤を使用することが好ましい。連鎖移動剤としては、たとえば、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン;ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物;ターピノレンや、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物;2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物;アリルアルコール等のアリル化合物;ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物;チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレート、ジフェニルエチレン、α−メチルスチレンダイマーなどが挙げられる。
【0033】
これらのなかでも、アルキルメルカプタンが好ましく、t−ドデシルメルカプタンがより好ましく使用できる。これらの連鎖移動剤は、単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0034】
連鎖移動剤の使用量は、単量体混合物100質量部に対して、好ましくは0.05〜2質量部、より好ましくは0.1〜1質量部である。
【0035】
乳化重合時に、さらにアニオン性界面活性剤を使用することが好ましい。アニオン性界面活性剤を使用することにより、重合安定性を向上させることができる。
【0036】
アニオン性界面活性剤としては、乳化重合において従来公知のものが使用できる。アニオン性界面活性剤の具体例としては、ナトリウムラウリルサルフェート、アンモニウムラウリルサルフェート、ナトリウムドデシルサルフェート、アンモニウムドデシルサルフェート、ナトリウムオクチルサルフェート、ナトリウムデシルサルフェート、ナトリウムテトラデシルサルフェート、ナトリウムヘキサデシルサルフェート、ナトリウムオクタデシルサルフェートなどの高級アルコールの硫酸エステル塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ヘキサデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩;ラウリルスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム、テトラデシルスルホン酸ナトリウムなどの脂肪族スルホン酸塩;などが挙げられる。
【0037】
アニオン性界面活性剤の使用量は、単量体混合物100質量部に対して、好ましくは0.5〜10質量部、より好ましくは1〜5質量部である。この使用量が少ないと、得られる粒子の粒径が大きくなり、使用量が多いと粒径が小さくなる傾向がある。また、アニオン性界面活性剤に加えて、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などを併用することもできる。
【0038】
さらに乳化重合の際に、水酸化ナトリウム、アンモニアなどのpH調整剤;分散剤、キレート剤、酸素捕捉剤、ビルダー、粒子径調節のためのシードラテックスなどの各種添加剤を適宜使用することができる。特にシードラテックスを用いた乳化重合が好ましい。シードラテックスとは、乳化重合の際に反応の核となる微小粒子の分散液をいう。微小粒子は粒径が100nm以下であることが多い。微小粒子は特に限定はされず、アクリル系重合体などの汎用の重合体が用いられる。シード重合法によれば、比較的粒径の揃った粒子状共重合体が得られる。
【0039】
重合反応を行う際の重合温度は、特に限定されないが、通常、0〜100℃、好ましくは40〜80℃とする。このような温度範囲で乳化重合し、所定の重合転化率で、重合停止剤を添加したり、重合系を冷却したりして、重合反応を停止する。重合反応を停止する重合転化率は、好ましくは93質量%以上、より好ましくは95質量%以上である。
【0040】
重合反応を停止した後、所望により、未反応単量体を除去し、pHや固形分濃度を調整して、粒子結着樹脂が分散媒に分散された形態(ラテックス)で得られる。その後、必要に応じ、分散媒を置換してもよく、また分散媒を蒸発し、粒子状結着樹脂を粉末形状で得ても良い。
【0041】
得られる粒子状結着樹脂の分散液には、公知の分散剤、増粘剤、老化防止剤、消泡剤、防腐剤、抗菌剤、ブリスター防止剤、pH調整剤などを必要に応じて添加することができる。
【0042】
粒子状結着樹脂には、二塩基酸構造が含まれるため、導電性カーボンに対する親和性が高い。このため、接着剤組成物中においては、導電性カーボンの分散性を向上し、組成物中に導電性カーボンを均一に分散するので、スラリー状の接着剤組成物の凝集安定性が高まる。
【0043】
(分散媒およびその他の成分)
本発明に係る電気化学素子電極用導電性接着剤組成物は、上記した導電性カーボン、粒子状結着樹脂が分散媒に分散されたスラリー状の組成物である。ここで分散媒は、上記各成分を均一に分散でき、安定的に分散状態を保ちうる限り、水、各種有機溶媒が特に制限されることなく使用できる。製造工程の簡素化の観点から、上記の乳化重合後に溶媒置換などの操作を行うことなく、直接接着剤組成物を製造することが好ましく、分散媒としては乳化重合時の反応溶媒を使用することが望ましい。乳化重合時には、水が反応溶媒として用いられることが多く、また作業環境の観点からも水を分散媒とすることが特に好ましい。
【0044】
さらに本発明の電気化学素子電極用導電性接着剤組成物には、上記各成分を分散させるための分散剤が含まれていても良い。
【0045】
分散剤の具体例としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマー、ならびにこれらのアンモニウム塩またはアルカリ金属塩、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウムなどのポリ(メタ)アクリル酸塩、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリカルボン酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプンなどが挙げられる。これらの分散剤は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0046】
(接着剤組成物)
本発明の電気化学素子電極用導電性接着剤組成物は、単層グラフェン及び多層グラフェンの少なくとも一方を含む導電性カーボン、二塩基酸単量体単位を含む粒子状結着樹脂、及び分散媒を含み、各成分の含有割合は特に限定はされないが、接着剤組成物における粒子状結着樹脂の含有量は、全導電性カーボン100質量部に対して、好ましくは10〜100質量部、より好ましくは15〜80質量部、さらに好ましくは20〜60質量部である。粒子状結着樹脂の量が多すぎると、接着剤組成物により形成される導電性接着剤層の電気抵抗が高くなりすぎる。また、粒子状結着樹脂の量が少なすぎると、接着剤組成物により形成される導電性接着剤層と、アルミニウム等からなる集電体との密着性が低下する。
【0047】
接着剤組成物はスラリー状であり、その粘度は、塗布法にもよるが、集電体上に均一な導電性接着剤層を形成する観点から、好ましくは10〜5,000mPa・s、より好ましくは20〜1,000mPa・s、さらに好ましくは50〜500mPa・sである。接着剤組成物の粘度は、例えば、高圧分散処理等の分散処理を行うことにより調整することができる。高圧分散処理は、例えば、高圧分散機を用いて行うことができる。高圧分散機は、スラリー組成物を高圧にしてノズル等の細い間隙から噴出させる装置であれば特に限定されないが、衝突型湿式ジェットミル(例えば、スギノマシン社製(スターバースト))、せん断型湿式ジェットミル(例えば、常光社製ジェットミル(JN−100)、吉田機械興業社製ナノヴェイダ(C−ES)、美粒社製(BERYU MINI))等が挙げられる。
【0048】
接着剤組成物の粘度が高すぎると、集電体上への接着剤組成物の均一な塗工が困難となる。また、高圧分散処理が困難となる。接着剤組成物の粘度が低すぎると、集電体上に接着剤組成物を塗布する際に、接着剤組成物がはじかれ均一な塗膜を得ることができない。接着剤組成物の粘度は、E型粘度計を用いて、60rpm、温度25℃時の粘度である。
【0049】
接着剤組成物の固形分濃度は好ましくは15〜35%、より好ましくは17〜32%、さらに好ましくは20〜30%である。接着剤組成物の固形分濃度が高すぎると、接着剤組成物のスラリー粘度が高くなりすぎる。接着剤組成物の固形分濃度が低すぎると、接着剤組成物のスラリー粘度が低くなりすぎる。
【0050】
接着剤組成物の製造方法は、特に限定はされず、上記各固形成分を分散媒に分散させることができればいかなる手段であってもよい。たとえば、粒子状結着樹脂の分散液、導電性カーボンおよび必要に応じ添加される任意成分を一括して混合し、その後必要に応じ分散媒を添加し、分散液の固形分濃度を調整してもよい。また、導電性カーボンを何らかの分散媒に分散した状態で添加してもよい。
【0051】
(接着剤層付集電体)
本発明の接着剤層付集電体は、例えば、上記の接着剤組成物を集電体上に塗布乾燥することにより得られる。即ち、接着剤組成物を集電体上に塗布、乾燥することにより導電性接着剤層が形成される。
【0052】
集電体の材料は、例えば、金属、炭素、導電性高分子などであり、好適には金属が用いられる。集電体用金属としては、通常、アルミニウム、白金、ニッケル、タンタル、チタン、ステンレス鋼、銅、その他の合金等が使用される。これらの中で導電性、耐電圧性の面から銅、アルミニウムまたはアルミニウム合金を使用するのが好ましい。
集電体の厚みは、5〜100μmで、好ましくは10〜70μm、特に好ましくは15〜50μmである。
【0053】
導電性接着剤層の形成方法は、特に制限されない。例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗りなどによって、集電体上に形成される。また、剥離紙上に、導電性接着剤層を形成した後に、これを集電体に転写してもよい。
【0054】
導電性接着剤層の乾燥方法としては、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。中でも、熱風による乾燥法、遠赤外線の照射による乾燥法が好ましい。乾燥温度と乾燥時間は、集電体上に塗布したスラリー中の溶媒を完全に除去できる温度と時間が好ましく、乾燥温度は好ましくは50〜300℃、より好ましくは80〜250℃である。乾燥時間は、好ましくは2時間以下、より好ましくは5秒〜30分である。
【0055】
導電性接着剤層の厚みは、導電性接着剤層を介して電極組成物層と集電体とが良好に接着し、かつ電子移動抵抗を低減する観点から、好ましくは0.5〜5μm、より好ましくは0.8〜2.5μm、さらに好ましくは1.0〜2.0μmである。
【0056】
導電性接着剤層は、接着剤組成物の固形分組成に応じた組成を有し、単層グラフェン及び多層グラフェンの少なくとも一方を含む導電性カーボン、二塩基酸単量体単位を含む粒子状結着樹脂を含む。
【0057】
(電気化学素子用電極)
本発明の電気化学素子用電極は、上記接着剤層付集電体の導電性接着剤層上に電極組成物層を有する。電極組成物層は、電極活物質と電極用導電材および電極用バインダーとからなり、これら成分を含むスラリーから調整される。
【0058】
(電極活物質)
電極活物質は負極活物質であってもよく、また正極活物質であってもよい。電極活物質は、電池内で電子の受け渡しをする物質である。電極活物質の体積平均粒子径は、正極、負極ともに好ましくは0.01〜100μm、より好ましくは0.05〜50μm、さらに好ましくは0.1〜20μmである。これらの電極活物質は、それぞれ単独でまたは二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0059】
(電極用導電材)
電極用導電材は、導電性を有し、電気二重層を形成し得る細孔を有さない、粒子状の炭素の同素体からなり、具体的には、カーボンブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、及びケッチェンブラック(アクゾノーベルケミカルズベスローテンフェンノートシャップ社の登録商標)などの導電性カーボンが挙げられる。これらの中でも、アセチレンブラックおよびファーネスブラックが好ましい。
【0060】
(電極用バインダー)
電極用バインダーは、電極活物質、電極用導電材を相互に結着させることができる化合物であれば特に制限はない。好適な電極用バインダーは、溶媒に分散する性質のある分散型バインダーである。分散型バインダーとして、例えば、フッ素系重合体、ジエン系重合体、アクリル系重合体、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン系重合体等の高分子化合物が挙げられ、フッ素系重合体、ジエン系重合体又はアクリル系重合体が好ましく、ジエン系重合体又はアクリル系重合体が、耐電圧を高くでき、かつリチウムイオン二次電池のエネルギー密度を高くすることができる点でより好ましい。
【0061】
フッ素系重合体はフッ素原子を含む単量体単位を含有する重合体であり、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂が挙げられる。また、ジエン系重合体は、共役ジエンの単独重合体もしくは共役ジエンを含む単量体混合物を重合して得られる共重合体、またはそれらの水素添加物である。ジエン系重合体の具体例としては、ポリブタジエンやポリイソプレンなどの共役ジエン単独重合体;カルボキシ変性されていてもよいスチレン・ブタジエン共重合体(SBR)などの芳香族ビニル・共役ジエン共重合体;アクリロニトリル・ブタジエン共重合体(NBR)などのシアン化ビニル・共役ジエン共重合体;水素化SBR、水素化NBR等が挙げられる。
【0062】
アクリル系重合体は、一般式(1):CH2=CR3−COOR4(式(1)中、R3は水素原子またはメチル基を、R4はアルキル基またはシクロアルキル基を表す。)で表される化合物を含む単量体混合物を重合して得られる重合体である。一般式で表される化合物の具体例としては、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリレート;エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、トリデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレートなどのメタアクリレート等が挙げられる。これらの中でも、アクリレートが好ましく、ブチルアクリレートおよび2−エチルヘキシルアクリレートが、得られる電極の強度を向上できる点で、特に好ましい。アクリル系重合体中のアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステル由来の単量体単位の割合は、耐熱性が高く、かつ得られる電気化学素子用電極の内部抵抗を小さくできる観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。
【0063】
前記アクリル系重合体は、一般式(1)で表される化合物の他に、共重合可能なカルボン酸基含有単量体を用いることができ、具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸などの一塩基酸含有単量体、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの二塩基酸含有単量体が挙げられる。なかでも、二塩基酸含有単量体が好ましく、導電性接着剤層との結着性を高め、電極強度を向上できる点で、イタコン酸が特に好ましい。これらの一塩基酸含有単量体、二塩基酸含有単量体は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。共重合の際の、前記単量体混合物におけるカルボン酸基含有単量体の量は、導電性接着剤層との結着性に優れ、得られる電極強度が高まる観点から、一般式(1)で表される化合物100質量部に対して、好ましくは0.1〜50質量部、より好ましくは0.5〜20質量部、さらに好ましくは1〜10質量部である。
【0064】
前記アクリル系重合体は、一般式(1)で表される化合物の他に、共重合可能なニトリル基含有単量体を用いることができる。ニトリル基含有単量体の具体例としては、アクリロニトリルやメタクリロニトリルなどが挙げられ、中でもアクリロニトリルが、導電性接着剤層との結着性が高まり、電極強度が向上できる点で好ましい。共重合の際の、前記単量体混合物におけるアクリロニトリルの量は、導電性接着剤層との結着性に優れ、得られる電極強度が高まる観点から、一般式(1)で表される化合物100質量部に対して、好ましくは0.1〜40質量部、より好ましくは0.5〜30質量部、さらに好ましくは1〜20質量部である。
【0065】
電極用バインダーの形状は、特に制限はないが、導電性接着剤層との結着性が良く、また、作成した電極の容量の低下や充放電の繰り返しによる劣化を抑えることができるため、粒子状であることが好ましい。
【0066】
電極用バインダーのガラス転移温度(Tg)は、少量の使用量で結着性に優れ、電極強度が強く、柔軟性に富み、電極形成時のプレスエ程により電極密度を容易に高めることができる観点から、好ましくは50℃以下、さらに好ましくは−40〜0℃である。
【0067】
電極用バインダーが粒子状である場合、その数平均粒子径は、格別な限定はないが、少量の使用でも優れた結着力を電極に与えることができる観点から、好ましくは0.0001〜100μm、より好ましくは0.001〜10μm、さらに好ましくは0.01〜1μmである。ここで、数平均粒子径は、透過型電子顕微鏡写真で無作為に選んだ電極用バインダー粒子100個の径を測定し、その算術平均値として算出される個数平均粒子径である。粒子の形状は球形、異形、どちらでもかまわない。これらの電極用バインダーは単独でまたは二種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
電極用バインダーの使用量は、得られる電極組成物層と導電性接着剤層との密着性が十分に確保でき、リチウムイオン二次電池の容量を高く且つ内部抵抗を低くすることができる観点から、電極活物質100質量部に対して、好ましくは0.1〜50質量部、より好ましくは0.5〜20質量部、さらに好ましくは1〜10質量部である。
【0069】
(電極組成物層)
電極組成物層は、導電性接着剤層上に設けられるが、その形成方法は制限されない。電極形成用組成物は、電極活物質及び電極用バインダーを必須成分として、必要に応じて電極用導電材、その他の分散剤および添加剤を配合することができる。その他の分散剤の具体例としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマー、ならびにこれらのアンモニウム塩またはアルカリ金属塩;ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウムなどのポリ(メタ)アクリル酸塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリカルボン酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプンなどが挙げられる。なお、本発明において、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」又は「メタアクリル」を意味する。
【0070】
これらの分散剤は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。中でも、セルロース系ポリマーが好ましく、カルボキシメチルセルロースまたはそのアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩が特に好ましい。これらの分散剤の量は、格別な限定はないが、電極活物質100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.5〜5質量部、さらに好ましくは0.8〜2質量部である。
【0071】
電極組成物層を形成する場合、ペースト状の電極形成用組成物(以下、「電極組成物層用スラリー」と記載することがある。)は、電極活物質及び電極用バインダーの必須成分、必要に応じて用いられる電極用導電材、その他の分散剤および添加剤を、水またはN−メチル−2−ピロリドンやテトラヒドロフランなどの有機溶媒中で混練することにより製造することができる。
【0072】
電極組成物層用スラリーを得るために用いる溶媒は、特に限定されないが、上記の分散剤を用いる場合には、分散剤を溶解可能な溶媒が好適に用いられる。具体的には、通常水が用いられるが、有機溶媒を用いることもできるし、水と有機溶媒との混合溶媒を用いてもよい。有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等のアルキルアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のアルキルケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム等のエーテル類;ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン等のアミド類;ジメチルスルホキサイド、スルホラン等のイオウ系溶剤;等が挙げられる。この中でも有機溶媒としては、アルコール類が好ましい。電極組成物層用スラリーは、電極組成物層の乾燥の容易さと環境への負荷に優れる点から水を分散媒とした水系スラリーが好ましい。水と、水よりも沸点の低い有機溶媒とを併用すると、乾燥速度を速くすることができる。また、水と併用する有機溶媒の量または種類によって、バインダーの分散性または分散剤の溶解性が変わる。これにより、電極組成物層用スラリーの粘度や流動性を調整することができ、生産効率を向上させることができる。
【0073】
電極組成物層用スラリーを調製するときに使用する溶媒の量は、各成分を均一に分散させる観点から、電極組成物層用スラリーの固形分濃度が、好ましくは1〜90質量%、より好ましくは5〜85質量%、さらに好ましくは10〜80質量%となる量である。
【0074】
電極活物質、電極用導電材、電極用バインダー、その他の分散剤や添加剤を溶媒に分散または溶解する方法または手順は特に限定されず、例えば、溶媒に電極活物質、電極用導電材、電極用バインダーおよびその他の分散剤や添加剤を添加し混合する方法;溶媒に分散剤を溶解した後、溶媒に分散させた電極用バインダーを添加して混合し、最後に電極活物質および電極用導電材を添加して混合する方法;溶媒に分散させた電極用バインダーに電極活物質および電極用導電材を添加して混合し、この混合物に溶媒に溶解させた分散剤を添加して混合する方法等が挙げられる。混合の手段としては、例えば、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等の混合機器が挙げられる。混合は、好ましくは、室温〜80℃で、10分〜数時間行う。
【0075】
電極組成物層用スラリーの粘度は、室温において、生産性を上げる観点から、好ましくは10〜100,000mPa・s、より好ましくは30〜50,000mPa・s、さらに好ましくは50〜20,000mPa・sである。
【0076】
電極組成物層用スラリーの導電性接着剤層上への塗布方法は特に制限されない。例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。スラリーの塗布厚は、目的とする電極組成物層の厚みに応じて適宜に設定される。
【0077】
乾燥方法としては例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。中でも、遠赤外線の照射による乾燥法が好ましい。乾燥温度と乾燥時間は、集電体に塗布したスラリー中の溶媒を完全に除去できる温度と時間が好ましく、乾燥温度としては好ましくは100〜300℃、より好ましくは120〜250℃である。乾燥時間としては、好ましくは10分〜100時間、より好ましくは20分〜20時間である。
【0078】
電極組成物層の密度は、特に制限されないが、好ましくは0.30〜10g/cm3、より好ましくは0.35〜8.0g/cm3、さらに好ましくは0.40〜6.0g/cm3である。また、電極組成物層の厚みは、特に制限されないが、好ましくは5〜1000μm、より好ましくは20〜500μm、さらに好ましくは30〜300μmである。
【0079】
(電気化学素子)
電気化学素子用電極の使用態様としては、かかる電極を用いたリチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、ナトリウム電池、マグネシウム電池などが挙げられ、リチウムイオン二次電池が好適である。たとえばリチウムイオン二次電池は、上記電気化学素子用電極、セパレーターおよび電解液で構成される。
【0080】
(セパレーター)
セパレーターは、電気化学素子用電極の間を絶縁でき、陽イオンおよび陰イオンを通過させることができるものであれば特に限定されない。具体的には、(a)気孔部を有する多孔性セパレーター、(b)片面または両面に高分子コート層が形成された多孔性セパレーター、または(c)無機セラミック粉末を含む多孔質の樹脂コート層が形成された多孔性セパレーターが挙げられる。これらの非制限的な例としては、ポリプロピレン系、ポリエチレン系、ポリオレフィン系、またはアラミド系多孔性セパレーター、ポリビニリデンフルオリド、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルまたはポリビニリデンフルオリドヘキサフルオロプロピレン共重合体などの固体高分子電解質用またはゲル状高分子電解質用の高分子フィルム、ゲル化高分子コート層がコートされたセパレーター、または無機フィラー、無機フィラー用分散剤からなる多孔膜層がコートされたセパレーターなどを用いることができる。セパレーターは、上記一対の電極組成物層が対向するように、電気化学素子用電極の間に配置され、素子が得られる。セパレーターの厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、好ましくは1〜100μm、より好ましくは10〜80μm、さらに好ましくは20〜60μmである。
【0081】
(電解液)
電解液は、特に限定されないが、例えば、非水系の溶媒に支持電解質としてリチウム塩を溶解したものが使用できる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C49SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(CF3SO22NLi、(C25SO2)NLiなどのリチウム塩が挙げられる。特に溶媒に溶けやすく高い解離度を示すLiPF6、LiClO4、CF3SO3Liは好適に用いられる。これらは、単独、または2種以上を混合して用いることができる。支持電解質の量は、電解液に対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、また好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。支持電解質の量が少なすぎても多すぎてもイオン導電度は低下し電池の充電特性、放電特性が低下する。
【0082】
電解液に使用する溶媒としては、支持電解質を溶解させるものであれば特に限定されないが、通常、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、およびメチルエチルカーボネート(MEC)などのアルキルカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチルなどのエステル類、1,2−ジメトキシエタン、およびテトラヒドロフランなどのエーテル類;スルホラン、およびジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物類;が用いられる。特に高いイオン伝導性が得易く、使用温度範囲が広いため、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートが好ましい。これらは、単独、または2種以上を混合して用いることができる。また、電解液には添加剤を含有させて用いることも可能である。また、添加剤としてはビニレンカーボネート(VC)などのカーボネート系の化合物が好ましい。
【0083】
上記以外の電解液としては、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルなどのポリマー電解質に電解液を含浸したゲル状ポリマー電解質や、硫化リチウム、LiI、Li3Nなどの無機固体電解質を挙げることができる。
【0084】
リチウムイオン二次電池は、負極と正極とをセパレーターを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口して得られる。さらに必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をすることもできる。電池の形状は、ラミネートセル型、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型などいずれであってもよい。
【0085】
本発明によれば、連続塗工性に優れた電気化学素子電極用導電性接着剤組成物を提供することができる。また、特定の導電性カーボン、特定の粒子状結着樹脂及び分散媒を含む接着剤組成物を用いるため、接着剤組成物の沈降安定性、凝集安定性が向上し、連続塗工を行っても均一な導電性接着剤層を形成することができる。また、この導電性接着剤層を備えるリチウムイオン二次電池はサイクル特性に優れる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における部および%は、特に断りのない限り質量基準である。実施例および比較例における各特性は、下記の方法に従い測定した。
【0087】
(沈降安定性)
高さ60cmの円筒状ガラス容器に導電性接着剤組成物を底からの高さ50cmまで入れ23℃環境下で24時間静置した。液面からの高さ5cmの部分から採取した液の固形分濃度C1と底からの高さ5cmの部分から採取した液の固形分濃度C2をそれぞれ乾燥減量法で測定し、下記式により沈降安定性を求め、以下の基準により評価した。この値が大きいほど、沈降安定性に優れることを示す。結果を表1に示す。
沈降安定性=C1/C2
A:沈降安定性が0.5以上
B:沈降安定性が0.25以上0.5未満
C:沈降安定性が0.1以上0.25未満
D:沈降安定性が0.1未満
【0088】
(凝集安定性)
まず、製造直後の導電性接着剤組成物の粒度分布(体積分布)を測定し、D90(1)を求めた。次に、密閉容器に移し、23℃で14日間静置した。容器を軽く振り混ぜ、粒度分布を再測定し、D90(2)を求めた。下記式により凝集安定性を求め、以下の基準により評価した。この値が大きいほど、凝集安定性に優れることを示す。結果を表1に示す。
凝集安定性=D90(1)/D90(2)
A:凝集安定性が0.8以上
B:凝集安定性が0.7以上0.8未満
C:凝集安定性が0.6以上0.7未満
D:凝集安定性が0.6未満
【0089】
(高温サイクル特性)
作製したラミネートセル型のリチウムイオン二次電池を、電解液注液後、5時間静置し0.2Cの定電流法によってセル電圧3.65Vまで充電し、その後60℃で12時間エージングし、0.2Cの定電流法によってセル電圧2.75Vまで放電を行った。さらに、60℃環境下で1Cの定電流法によって4.2Vに充電し、3.0Vまで放電する充放電を、200サイクル繰り返し行った。そのときの1サイクル目の容量、すなわち初期放電容量X1、および200サイクル目の放電容量X2を測定し、下記式により放電容量保持率を求め、以下の基準により評価した。この放電容量保持率の値が高いほど、高温サイクル特性に優れることを示す。
放電容量保持率(%)=(X2/X1)×100
A:放電容量保持率が85%以上
B:放電容量保持率が80%以上85%未満
C:放電容量保持率が75%以上80%未満
D:放電容量保持率が75%未満
【0090】
(実施例1)
(粒子状結着樹脂A1の製造)
重合缶Aにイオン交換水130部を加え、更に重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.8部、およびイオン交換水10部を加え、80℃に加温した。また、別の重合缶Bに2−エチルヘキシルアクリレート77部、アクリロニトリル20部、イタコン酸3部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2部、及びイオン交換水377部を加え、十分に攪拌してエマルションを調製した。重合缶Bで得られたエマルションを、重合缶Aに180分かけて連続的に添加した。更に80℃に維持しながら重合転化率が98%に達するまで重合反応を継続した。冷却して反応を停止し、粒子状結着樹脂(A1)の水分散液を得た。得られた粒子状結着樹脂(A1)の体積平均粒子径は150nmであった。
【0091】
(接着剤組成物の製造)
容器に黒鉛47.5部、カーボンブラック47.5部、および平面方向の平均径15μmで面と垂直方向の平均厚み6nmの多層グラフェン5部、カルボキシメチルセルロース5部(ダイセルファインケム社製、DN−10L)、粒子状結着樹脂(A1)を固形分相当で30部、及びイオン交換水を全固形分濃度が23%となるように混合し、高圧分散装置(常光社製、JN−100)を用いて高圧分散処理し導電性接着剤組成物(粘度150mPa・s)を得た。得られた導電性接着剤組成物について、沈降安定性および凝集安定性を評価した。
【0092】
(導電性接着剤層付きアルミニウム集電体の製造)
前記接着剤組成物を、厚さ15μmのアルミニウム集電体の上に、乾燥後の厚さが1.5μmとなるようにグラビアコーターを用いて50m/minの速度で塗布し、100℃の乾燥炉で乾燥し、導電性接着剤層付きアルミニウム集電体を得た。
【0093】
(正極の製造)
プラネタリーミキサーにコバルト酸リチウム100部、アセチレンブラック2部(電気化学工業社製、HS−100)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)2部(クレハ社製、KF−1100)、さらに全固形分濃度が67%となるようにN−メチル−2−ピロリドンを加えて混合し、正極用スラリー組成物を調製した。上記正極用のスラリー組成物を、前記導電性接着剤層付きアルミニウム集電体の上に19.0〜20.0mg/cm2となるように塗布し、60℃で2分間、引き続き120℃にて2分間加熱処理して正極原反を得た。この正極原反をロールプレス機にてプレス後の密度が3.4〜3.5g/cm3となるようにプレスし、さらに水分の除去を目的として、真空条件下120℃の環境に3時間置き、正極を得た。得られた正極を4.0cm×4.0cmの正方形に打ち抜き、リチウムイオン二次電池用正極をとした。
【0094】
(負極の製造)
ディスパー付きのプラネタリーミキサーに人造黒鉛100部、カルボキシメチルセルロースの1%水溶液を固形分相当で1部(第一工業製薬社製、BSH−12)、及びイオン交換水を入れ固形分濃度55%に調整した後、25℃で60分間混合した。次に、イオン交換水で固形分濃度52%に調整した。その後、さらに25℃で15分間混合し混合液を得た。上記混合液に、スチレン−ブタジエン共重合体(ガラス転移点温度が−15℃)を含む40%水分散液を固形分相当で1部、及びイオン交換水を入れ、固形分濃度50%に調整し、さらに10分間混合した。これを減圧下で脱泡処理して、流動性の良い負極用のスラリー組成物を調整した。上記負極用のスラリー組成物を、厚さ20μmの銅集電体の上に8.5〜9.5mg/cm2となるように塗布し、60℃で2分間、引き続き120℃にて2分間加熱処理して負極原反を得た。この負極原反をロールプレス機にて密度が1.4〜1.5g/cm3となるようにプレスし、負極を得た。得られた負極を4.2cm×4.2cmの正方形に打ち抜き、リチウムイオン二次電池用負極とした。
【0095】
(リチウムイオン二次電池の製造)
単層のポリプロピレン製セパレーター(幅65mm、長さ500mm、厚さ25μm、乾式法により製造、気孔率55%)を用意し、5.0cm×5.0cmの正方形に切り抜いた。また、電池の外装としてアルミニウム包材外装を用意した。上記で得られた正極を集電体側の表面がアルミニウム包材外装に接するように配置した。次に、正極の電極組成物層の面上に、上記のセパレーターを配置した。さらに、上記で得られた負極をセパレーター上に、電極組成物層側の表面がセパレーターに向かい合うよう配置した。その後、電解液として濃度1.0MのLiPF6溶液(溶媒はエチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)=3/7(体積比)の混合溶媒、添加剤としてビニレンカーボネート2体積%(溶媒比)含有)を充填した。さらに、アルミニウム包材の開口を密封するために、150℃のヒートシールをしてアルミニウム外装を閉口し、リチウムイオン二次電池を製造した。得られたリチウムイオン二次電池について、高温サイクル特性を評価した。
【0096】
(実施例2)
(接着剤組成物の製造)
容器に黒鉛49部、カーボンブラック49部、および平面方向の平均径15μmで面と垂直方向の平均厚み6nmの多層グラフェン2部、カルボキシメチルセルロース5部(ダイセルファインケム社製、DN−10L)、粒子状結着樹脂(A1)を固形分相当で30部、及びイオン交換水を全固形分濃度が24%となるように混合し、高圧分散装置(常光社製、JN−100)を用いて高圧分散処理し導電性接着剤組成物(粘度140mPa・s)を得た。得られた導電性接着剤組成物について、沈降安定性および凝集安定性を評価した。また、得られた接着剤組成物を用いて、実施例1と同様に導電性接着剤層の形成、電極の製造及びリチウムイオン二次電池の製造を行った。得られたリチウムイオン二次電池について、高温サイクル特性を評価した。
【0097】
(実施例3)
(接着剤組成物の製造)
容器に黒鉛46部、カーボンブラック46部、単層グラフェン0.2部、平面方向の平均径15μmで面と垂直方向の平均厚み6nmの多層グラフェン7.8部、カルボキシメチルセルロース5部(ダイセルファインケム社製、DN−10L)、粒子状結着樹脂(A1)を固形分相当で30部、及びイオン交換水を全固形分濃度が22%となるように混合し、高圧分散装置(常光社製、JN−100)を用いて高圧分散処理し導電性接着剤組成物(粘度170mPa・s)を得た。得られた導電性接着剤組成物について、沈降安定性および凝集安定性を評価した。また、得られた接着剤組成物を用いて、実施例1と同様に導電性接着剤層の形成、電極の製造及びリチウムイオン二次電池の製造を行った。得られたリチウムイオン二次電池について、高温サイクル特性を評価した。
【0098】
(実施例4)
(粒子状結着樹脂A2の製造)
重合缶Aにイタコン酸1部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部、およびイオン交換水80部を加えて十分攪拌した。また、別の重合缶Bにブタジエン50部、スチレン48部、イタコン酸1部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部、およびイオン交換水45部を加えて攪拌しエマルションを調整した。その後、重合缶Aを70℃とし、重合缶Bで調整したエマルションのうち1/30を、重合缶Bから重合缶Aに連続的に添加した。その5分後に、重合缶Aに重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.5部、およびイオン交換水10部を添加し、重合缶Bの残りのエマルションを300分かけて重合缶Aに連続的に添加した。更に70℃に維持しながら重合転化率が95%に達するまで重合反応を継続した。冷却して反応を停止し、粒子状結着樹脂(A2)の水分散液を得た。得られた粒子状結着樹脂(A2)の体積平均粒子径は100nmであった。
【0099】
接着剤組成物の製造において、粒子状結着樹脂(A1)に代えて粒子状結着樹脂(A2)を用いた以外は、実施例1と同様に接着剤組成物の製造を行った。得られた導電性接着剤組成物(粘度145mPa・s)について、沈降安定性および凝集安定性を評価した。また、得られた接着剤組成物を用いて、実施例1と同様に導電性接着剤層の形成、電極の製造及びリチウムイオン二次電池の製造を行った。得られたリチウムイオン二次電池について、高温サイクル特性を評価した。
【0100】
(実施例5)
(粒子状結着樹脂A3の製造)
重合缶Aにイオン交換水130部を加え、更に重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.8部、およびイオン交換水10部を加え、80℃に加温した。また、別の重合缶Bに2−エチルヘキシルアクリレート77部、アクリロニトリル22.5部、イタコン酸0.5部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2部、及びイオン交換水377部を加え、十分に攪拌してエマルションを調製した。重合缶Bで得られたエマルションを、重合缶Aに180分かけて連続的に添加した。更に80℃に維持しながら重合転化率が98%に達するまで重合反応を継続した。冷却して反応を停止し、粒子状結着樹脂(A3)の水分散液を得た。得られた粒子状結着樹脂(A3)の体積平均粒子径は145nmであった。
【0101】
接着剤組成物の製造において、粒子状結着樹脂(A1)に代えて粒子状結着樹脂(A3)を用いた以外は、実施例1と同様に接着剤組成物の製造を行った。得られた導電性接着剤組成物(粘度140mPa・s)について、沈降安定性および凝集安定性を評価した。また、得られた接着剤組成物を用いて、実施例1と同様に導電性接着剤層の形成、電極の製造及びリチウムイオン二次電池の製造を行った。得られたリチウムイオン二次電池について、高温サイクル特性を評価した。
【0102】
(実施例6)
(粒子状結着樹脂A4の製造)
重合缶Aにイオン交換水130部を加え、更に重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.8部、およびイオン交換水10部を加え、80℃に加温した。また、別の重合缶Bに2−エチルヘキシルアクリレート80部、アクリロニトリル16部、マレイン酸4部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2部、及びイオン交換水377部を加え、十分に攪拌してエマルションを調製した。重合缶Bで得られたエマルションを、重合缶Aに180分かけて連続的に添加した。更に80℃に維持しながら重合転化率が98%に達するまで重合反応を継続した。冷却して反応を停止し、粒子状結着樹脂(A4)の水分散液を得た。得られた粒子状結着樹脂(A4)の体積平均粒子径は175nmであった。
【0103】
接着剤組成物の製造において、粒子状結着樹脂(A1)に代えて粒子状結着樹脂(A4)を用いた以外は、実施例1と同様に接着剤組成物の製造を行った。得られた導電性接着剤組成物(粘度155mPa・s)について、沈降安定性および凝集安定性を評価した。また、得られた接着剤組成物を用いて、実施例1と同様に導電性接着剤層の形成、電極の製造及びリチウムイオン二次電池の製造を行った。得られたリチウムイオン二次電池について、高温サイクル特性を評価した。
【0104】
(比較例1)
接着剤組成物の製造において、黒鉛50部、カーボンブラック50部とし、多層グラフェンを用いず、イオン交換水を全固形分濃度が25%となるように混合した以外は、実施例1と同様に接着剤組成物の製造を行い、導電性接着剤組成物(粘度160mPa・s)を得た。得られた導電性接着剤組成物について、沈降安定性および凝集安定性を評価した。また、得られた接着剤組成物を用いて、実施例1と同様に導電性接着剤層の形成、電極の製造及びリチウムイオン二次電池の製造を行った。得られたリチウムイオン二次電池について、高温サイクル特性を評価した。
【0105】
(比較例2)
(粒子状結着樹脂A5の製造)
重合缶Aにスチレン85部、1,3−ブタジエン13部、メタクリル酸2部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム5 部、イオン交換水150部、及び重合開始剤として過硫酸カリウム1部を入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。モノマー消費量が95%になった時点で冷却して反応を停止し、粒子状結着樹脂(A5)の水分散液を得た。得られた粒子状結着樹脂(A5)の体積平均粒子径は120nmであった。
【0106】
接着剤組成物の製造において、粒子状結着樹脂(A1)に代えて二塩基酸単量体単位を含まない粒子状結着樹脂(A5)を用いた以外は、実施例1と同様に接着剤組成物の製造を行った。得られた導電性接着剤組成物(粘度135mPa・s)について、沈降安定性および凝集安定性を評価した。また、得られた接着剤組成物を用いて、実施例1と同様に導電性接着剤層の形成、電極の製造及びリチウムイオン二次電池の製造を行った。得られたリチウムイオン二次電池について、高温サイクル特性を評価した。
【0107】
【表1】
【0108】
表1に示すように、グラフェンを含む導電性カーボン、二塩基酸単量体単位を含む粒子状結着樹脂、及び分散媒を含む、スラリー状の電気化学素子電極用導電性接着剤組成物の沈降安定性及び凝集安定性は良好であり、この接着剤組成物により形成された導電性接着剤層含む電池の高温サイクル特性は良好であった。