特許第6274339号(P6274339)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6274339
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】水性分散液
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/12 20060101AFI20180129BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20180129BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20180129BHJP
   C09D 127/12 20060101ALI20180129BHJP
   C09D 133/04 20060101ALI20180129BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20180129BHJP
   C08F 14/18 20060101ALI20180129BHJP
   C08F 20/18 20060101ALI20180129BHJP
   C08F 214/18 20060101ALI20180129BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20180129BHJP
   C08F 259/08 20060101ALI20180129BHJP
   C08F 2/26 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
   C08L27/12
   C08L33/04
   C09D7/12
   C09D127/12
   C09D133/04
   C09D5/02
   C08F14/18
   C08F20/18
   C08F214/18
   C08F220/18
   C08F259/08
   C08F2/26 A
【請求項の数】14
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-64830(P2017-64830)
(22)【出願日】2017年3月29日
【審査請求日】2017年5月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100121393
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 洋一
(72)【発明者】
【氏名】柿内 俊文
(72)【発明者】
【氏名】中島 聡夫
(72)【発明者】
【氏名】室谷 英介
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 俊
(72)【発明者】
【氏名】石塚 圭
【審査官】 前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2003/011991(WO,A1)
【文献】 国際公開第95/008582(WO,A1)
【文献】 特開平08−170045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/00− 27/24
C08F 2/00− 2/60
C08F 14/00− 14/28
C08F 114/00− 114/28
C08F 214/00− 214/28
C08F 259/00− 259/08
C09D 5/00− 5/46
C09D 127/00− 127/24
B01F 17/00− 17/56
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、界面活性剤、フルオロポリマーおよび(メタ)アクリレートポリマーを含み、フルオロポリマーおよび(メタ)アクリレートポリマーが水中に分散している水性分散液であって、
該フルオロポリマーが、フルオロオレフィンに基づく単位を含み、該フルオロポリマーが含む全単位に対して、該単位を95〜100モル%含み、
該(メタ)アクリレートポリマーが、アルキル(メタ)アクリレートに基づく単位を含み、該(メタ)アクリレートポリマーが含む全単位に対して、該単位を75〜100モル%含み、
該界面活性剤が、ベンゼン環に、式−(OQ)OSOで表される基(ただし、Qは炭素数2〜4のアルキレン基、nは2〜30の整数、XはNaまたはNHを示す。)の1基と、フェニルアルキル基の2〜4基とが結合した化合物であることを特徴とする、水性分散液。
【請求項2】
前記フルオロポリマーおよび前記(メタ)アクリレートポリマーが、該フルオロポリマーをコア部とし該(メタ)アクリレートポリマーをシェル部とするコアシェルポリマーである、請求項1に記載の水性分散液。
【請求項3】
前記フルオロポリマーおよび前記(メタ)アクリレートポリマーが、それぞれ独立して分散している、請求項1に記載の水性分散液。
【請求項4】
前記化合物において、前記フェニルアルキル基の2〜4基のうちの2基がいずれも、前記式−(OQ)OSOで表される基が結合している該ベンゼン環の炭素原子に対して、オルト位の炭素原子に結合している、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性分散液。
【請求項5】
前記化合物における前記ベンゼン環には、さらに、アルキル基またはアルコキシ基の1基以上が結合している、請求項1〜4のいずれか1項に記載の水性分散液。
【請求項6】
前記化合物における前記ベンゼン環には、さらに、メチル基の1基以上が結合している、請求項1〜4のいずれか1項に記載の水性分散液。
【請求項7】
前記化合物における前記式−(OQ)OSOで表される基が、式−(OCHCHn1OSOで表される基(ただし、n1は6〜24の整数、XはNaまたはNHを示す。)である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の水性分散液。
【請求項8】
前記化合物における前記フェニルアルキル基が、フェニルエチル基である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の水性分散液。
【請求項9】
前記界面活性剤の含有量が、前記水性分散液の全質量に対して、0.01〜5質量%である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の水性分散液。
【請求項10】
前記フルオロオレフィンが、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレンおよびビニリデンフルオリドからなる群より選ばれる少なくとも2種以上からなる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の水性分散液。
【請求項11】
前記アルキル(メタ)アクリレートが、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレートおよびシクロヘキシル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種以上からなる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の水性分散液。
【請求項12】
前記(メタ)アクリレートポリマーが、さらに、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに基づく単位を含み、該(メタ)アクリレートポリマーが含む全単位に対して、該単位を0モル%超20モル%以下含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の水性分散液。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の水性分散液を含む、水性塗料。
【請求項14】
基材と、該基材上に配置され、請求項13に記載の水性塗料を用いて形成された塗膜と、を有する、塗装物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロポリマーおよび(メタ)アクリレートポリマーが水中に分散している水性分散液、および、かかる水性分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境保護の観点から、塗料分野では、水を塗料溶媒とする水性塗料が注目されている。さらに、耐候性、耐薬品性、耐溶剤性等の塗膜物性の観点とから、フルオロポリマーを含む水性塗料が期待されており、特に経済性と加工性の観点から、フルオロポリマーと(メタ)アクリレートポリマーとを含む水性塗料が期待されている。
特許文献1には、水およびラウリル硫酸ナトリウムを含み、フルオロポリマーと(メタ)アクリレートポリマーが分散している水性分散液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−188052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水性塗料は、有機溶媒を塗料溶媒とする溶剤型塗料と比べて、その塗膜の耐水性が劣る場合がある。特許文献1に記載のフルオロポリマーと(メタ)アクリレートポリマーとを含む水性分散液から形成される塗膜の耐水性は未だ充分ではなかった。また、塗膜には水滴付着を抑制する防曇性が求められる場合があるが、特許文献1に記載の水性分散液から形成される塗膜の防曇性は未だ充分ではなかった。特に、該塗膜は、水と接触する環境下に長期間曝されると、耐水性と防曇性が低下しやすかった。
さらに、特許文献1に記載の水性分散液から形成される塗膜は、屋外環境にて長期間曝されると、塗膜が劣化して剥離しやすかった。
そのため、耐水性と防曇性に優れ、耐久耐光性にも優れた塗膜を形成できる、フルオロポリマーおよび(メタ)アクリレートポリマーを含む水性塗料が求められている。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたのであり、耐水性と防曇性と耐久耐光性に優れた塗膜を形成できる水性分散液と、該水性分散液の製造方法との提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、フルオロポリマーおよび(メタ)アクリレートポリマーが分散している水性分散液に、特定の界面活性剤を含ませれば、所望の効果が得られるのを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明者は、以下の構成により上記課題が解決できるのを見出した。
【0006】
[1]水、界面活性剤、フルオロポリマーおよび(メタ)アクリレートポリマーを含み、フルオロポリマーおよび(メタ)アクリレートポリマーが水中に分散している水性分散液であって、
該フルオロポリマーが、フルオロオレフィンに基づく単位を含み、該フルオロポリマーが含む全単位に対して、該単位を95〜100モル%含み、
該(メタ)アクリレートポリマーが、アルキル(メタ)アクリレートに基づく単位を含み、該(メタ)アクリレートポリマーが含む全単位に対して、該単位を75〜100モル%含み、
該界面活性剤が、ベンゼン環に、式−(OQ)OSOで表される基(ただし、Qは炭素数2〜4のアルキレン基、nは2〜30の整数、XはNaまたはNHを示す。)の1基と、フェニルアルキル基の2〜4基とが結合した化合物である、水性分散液。
[2]前記フルオロポリマーおよび前記(メタ)アクリレートポリマーが、該フルオロポリマーをコア部とし該(メタ)アクリレートポリマーをシェル部とするコアシェルポリマーである、[1]に記載の水性分散液。
[3]前記フルオロポリマーおよび前記(メタ)アクリレートポリマーが、それぞれ独立して分散している、[1]に記載の水性分散液。
[4]前記化合物において、前記フェニルアルキル基の2〜4基のうちの2基がいずれも、前記式−(OQ)OSOで表される基が結合している該ベンゼン環の炭素原子に対して、オルト位の炭素原子に結合している、[1]〜[3]のいずれか1つに記載の水性分散液。
[5]前記化合物における前記ベンゼン環には、さらに、アルキル基またはアルコキシ基の1基以上が結合している、[1]〜[4]のいずれか1つに記載の水性分散液。
[6]前記化合物における前記ベンゼン環には、さらに、メチル基の1基以上が結合している、[1]〜[4]のいずれか1つに記載の水性分散液。
[7]前記化合物における前記式−(OQ)OSOで表される基が、式−(OCHCHn1OSOで表される基(ただし、n1は6〜24の整数、XはNaまたはNHを示す。)である、[1]〜[6]のいずれか1つに記載の水性分散液。
[8]前記化合物における前記フェニルアルキル基が、フェニルエチル基である、[1]〜[7]のいずれか1つに記載の水性分散液。
[9]前記界面活性剤の含有量が、前記水性分散液の全質量に対して、0.01〜5質量%である、[1]〜[8]のいずれか1つに記載の水性分散液。
[10]前記フルオロオレフィンが、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレンおよびビニリデンフルオリドからなる群より選ばれる少なくとも2種以上からなる、[1]〜[9]のいずれか1つに記載の水性分散液。
[11]前記アルキル(メタ)アクリレートが、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレートおよびシクロヘキシル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種以上からなる、[1]〜[10]のいずれか1つに記載の水性分散液。
[12]前記(メタ)アクリレートポリマーが、さらに、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに基づく単位を含み、該(メタ)アクリレートポリマーが含む全単位に対して、該単位を0モル%超20モル%以下含む、[1]〜[11]のいずれか1つに記載の水性分散液。
[13][1]〜[12]のいずれか1つに記載の水性分散液を含む、水性塗料。
[14]基材と、該基材上に配置され、[13]に記載の水性塗料を用いて形成された塗膜と、を有する、塗装物品。
[15]フルオロオレフィンを重合させてフルオロポリマーが水中に分散している分散液を得て、つぎに、アルキル(メタ)アクリレートを重合させて、フルオロポリマーをコア部とし(メタ)アクリレートポリマーをシェル部とするコアシェルポリマーが水中に分散している水性分散液を得る方法であって、
ベンゼン環に、式−(OQ)OSOで表される基(ただし、Qは炭素数2〜4のアルキレン基、nは2〜30の整数、XはNaまたはNHを示す。)の1基と、フェニルアルキル基の2〜4基とが結合した化合物である界面活性剤の存在下で、該フルオロオレフィンの重合、または、該アルキル(メタ)アクリレートの重合を行う、水性分散液の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐水性と防曇性と耐久耐光性に優れた塗膜を形成できる水性分散液、該水性分散液の製造方法、水性塗料および塗装物品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明における用語の意味は、以下の通りである。
「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」および「メタクリレート」の総称であり、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」および「メタクリル」の総称である。
「単位」とは、モノマーの重合により直接形成される原子団と、モノマーの重合によって形成される原子団の一部を化学変換して得られる原子団との総称である。ポリマーが含む全単位に対する、それぞれの単位の含有量(モル%)は、ポリマーを核磁気共鳴スペクトル法により分析して求められ、また、ポリマーの製造におけるそれぞれのモノマーの仕込量からも決定できる。
「平均粒子径」は、ELS−8000(大塚電子株式会社製)を用いて動的光散乱法により求められるD50の値である。なお、D50は、動的光散乱法により測定した粒子の粒度分布において、小さな粒子側から起算した体積累計50体積%の粒子直径値である。
【0009】
本発明の水性分散液は、水、界面活性剤および含フッ素重合体を含み、フルオロポリマーおよび(メタ)アクリレートポリマーが水中に分散している。
また、本発明の水性分散液において、フルオロポリマーが、フルオロオレフィンに基づく単位を含み、該フルオロポリマーが含む全単位に対して、該単位を95〜100モル%含む。
また、本発明の水性分散液において、(メタ)アクリレートポリマーが、アルキル(メタ)アクリレートに基づく単位を含み、該(メタ)アクリレートポリマーが含む全単位に対して、該単位を75〜100モル%含む。
また、本発明の水性分散液において、界面活性剤が、ベンゼン環に、式−(OQ)OSOで表される基(ただし、Qは炭素数2〜4のアルキレン基、nは2〜30の整数、XはNaまたはNHを示す。)の1基と、フェニルアルキル基の2〜4基とが結合した化合物(以下、「特定の界面活性剤」ともいう。)である。
【0010】
本発明の水性分散液において、「フルオロポリマーおよび(メタ)アクリレートポリマーが水中に分散している」とは、フルオロポリマーおよび(メタ)アクリレートポリマーが粒子として水中に分散している状態を意味する。
本発明の水性分散液において、フルオロポリマーおよび(メタ)アクリレートポリマーは、フルオロポリマーをコア部とし(メタ)アクリレートポリマーをシェル部とするコアシェルポリマーであってもよい。この場合、コアシェルポリマーは、粒子(コアシェル粒子)として、水中に分散している。
コアシェル粒子は、フルオロポリマーのコア部と該コア部の表面に位置する(メタ)アクリレートポリマーのシェル部とを有する、いわゆるコアシェル構造の粒子である。シェル部は、コア部の表面の一部を被覆していてもよいし、コア部の全体を被覆していてもよい。
また、本発明の水性分散液において、フルオロポリマーおよび(メタ)アクリレートポリマーは、それぞれ独立して、水中に分散していてもよい。この場合、フルオロポリマーはフルオロポリマーの粒子として、(メタ)アクリレートポリマーは(メタ)アクリレートポリマーの粒子として、水性分散液中に分散している。
フルオロポリマーの粒子、(メタ)アクリレートポリマーの粒子、および、コアシェル粒子の平均粒子径はそれぞれ、30〜300nmが好ましく、粒子が密にパッキングして本塗膜の耐水性がより優れる観点から、50〜200nmがより好ましい。
【0011】
本発明の水性分散液から形成される塗膜(以下「本塗膜」ともいう。)は、耐水性と防曇性と耐久耐光性に優れる。その理由は必ずしも明確ではないが、以下の様に考えられる。
本発明の水性分散液に含まれる特定の界面活性剤は、ポリオキシアルキレン基およびサルフェート基から構成された親水性部と、フェニルアルキル基の2〜4基が結合したベンゼン環基から構成された嵩高い疎水部とを有する。
そのため、フルオロポリマーおよび(メタ)アクリレートポリマー(特にフルオロポリマー)は、特定の界面活性剤の疎水部から強い界面作用を受け、粒度分布が狭いポリマー粒子として水性分散液中に存在すると考えられる。つまり、本塗膜は、粒度分布が狭いポリマー粒子の高密度かつ均質なパッキングにより形成されるため、塗膜に空隙が少なく耐水性に優れる。さらに、粒度分布が狭いポリマー粒子のパッキングにより形成される本塗膜において、特定の界面活性剤の親水性部は塗膜の表面に均質に配向するため、本塗膜は防曇性に優れる。
また、前述したとおり、本発明におけるポリマー(特にフルオロポリマー)と特定の界面活性剤との相互作用が強いため、特定の界面活性剤は塗膜からブリードアウトしにくい。そのため、本塗膜は、耐水性と防曇性の長期持続効果にも優れる。
さらに、特定の界面活性剤は、フェニルアルキル基の2〜4基が結合したベンゼン環基を有し、紫外線を吸収する。よって、本塗膜のポリマー(特に(メタ)アクリレートポリマー)の劣化が抑制され、屋外環境に長期曝露されても塗膜の白化や剥離が起きにくい。
なお、これらの効果は、本発明の好適な範囲において、特に顕著に発現する。
【0012】
本発明におけるフルオロポリマーは、フルオロオレフィンに基づく単位を含む。
フルオロオレフィンは、水素原子の1個以上がフッ素原子で置換されたα−オレフィンである。フルオロオレフィンは、フッ素原子で置換されていない水素原子の1個以上が塩素原子で置換されていてもよい。
フルオロオレフィンとしては、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」ともいう。)、ヘキサフルオロプロピレン(以下、「HFP」ともいう。)、クロロトリフルオロエチレン(以下、「CTFE」ともいう。)およびビニリデンフルオリド(以下、「VDF」ともいう。)からなる群より選ばれる少なくとも2種以上のフルオロオレフィンが好ましく、本塗膜の耐候性の観点から、VDFと、TFE、CTFEおよびHFPからなる群より選ばれる1種との組み合わせがより好ましい。
【0013】
フルオロポリマーは、フルオロポリマーが有する全単位に対して、フルオロオレフィンに基づく単位を、95〜100モル%含む。
フルオロポリマーは、フルオロオレフィンの他に、フルオロポリマーが有する全単位に対して、フルオロオレフィンと共重合可能な非フッ素モノマーに基づく単位を5モル%未満含んでいてもよい。
非フッ素モノマーの具体例としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン、ビニルエーテル、アリルエーテル、ビニルエステルが挙げられる。
【0014】
本発明における(メタ)アクリレートポリマーは、アルキル(メタ)アクリレートに基づく単位を含む。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレートおよびシクロヘキシル(メタ)アクリレートが挙げられ、これらの群より選ばれる少なくとも1種以上が好ましく、本塗膜の加工性の観点から、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、およびシクロヘキシル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種以上がより好ましい。
本発明における(メタ)アクリレートポリマーは、(メタ)アクリレートポリマーが有する全単位に対して、アルキル(メタ)アクリレートに基づく単位を、75〜100モル%含むのが好ましい。
【0015】
本発明における(メタ)アクリレートポリマーは、さらにヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに基づく単位を含むのが好ましい。ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに基づく単位におけるヒドロキシ基が、架橋性基として機能するため、本塗膜の硬化性が向上する。
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートおよび4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが挙げられ、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
本発明における(メタ)アクリレートポリマーは、本塗膜の硬度の観点から、(メタ)アクリレートポリマーが有する全単位に対して、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに基づく単位を、0モル%超20モル%以下含むのが好ましい。
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、1種を単独使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
(メタ)アクリレートポリマーは、アルキル(メタ)アクリレートに基づく単位およびヒドロキシ(メタ)アクリレートに基づく単位以外の単位を、(メタ)アクリレートポリマーが有する全単位に対して、25モル%未満含んでいてもよい。他のモノマーの具体例としては、不飽和カルボン酸、加水分解性シリル基含有モノマー、水酸基含有アルキルビニルエーテル、カルボン酸ビニルエステルおよびα−オレフィンが挙げられる。
【0017】
本発明における、フルオロポリマーと(メタ)アクリレートポリマーとの総質量に対する該フルオロポリマーの含有量は、30〜70質量%が好ましく、耐候性と加工性のバランスの観点から、40〜60質量%がより好ましい。
本発明の水性分散液がフルオロポリマーの粒子および(メタ)アクリレートポリマーの粒子を含む場合、該フルオロポリマーの粒子および該(メタ)アクリレートポリマーの粒子の含有量の合計は、該水性分散液の全質量に対して、10〜70質量%が好ましい。
本発明の水性分散液がコアシェル粒子を含む場合、該コアシェル粒子の含有量は、該水性分散液の全質量に対して、10〜70質量%が好ましい。
【0018】
本発明における界面活性剤(特定の界面活性剤)は、ベンゼン環に、式−(OQ)OSOで表される基(ただし、Qは炭素数2〜4のアルキレン基、nは2〜30の整数、XはNaまたはNHを示す。)の1基と、フェニルアルキル基の2〜4基とが結合した化合物である。
すなわち、ベンゼン環に、2〜4基のフェニルアルキル基と、1基の式−(OQ)OSOで表される基とが、該ベンゼン環を構成する炭素原子のうち異なる炭素原子に、それぞれ結合している。なお、フェニルアルキル基のフェニル部位には、アルキル基またはアルコキシ基が結合していてもよい。
【0019】
フェニルアルキル基のアルキル部分の炭素数は、1または2が好ましく、該アルキル部分がベンゼン環同士の分子内相互作用(共役等)を緩和させることによる特定の界面活性剤の界面活性効果の観点と、該アルキル部分の鎖長または立体構造に起因することによる特定の界面活性剤の界面活性効果の観点と、特定の界面活性剤の紫外線吸収効果の観点とから、2が特に好ましい。
特定の界面活性剤におけるフェニルアルキル基の数は、2基が好ましい。それぞれのフェニルアルキル基は、同一でもあってもよく、異なってもよいが、同一であるのが好ましい。
フェニルアルキル基の具体例としては、ベンジル基(PhCH−)、フェニルエチル基が挙げられ、フェニルエチル基が好ましい。フェニルエチル基は、1−フェニルエチル基(PhCHCH−)であってもよく、2−フェニルエチル基(PhCH(CH)−)であってもよい。
【0020】
特定の界面活性剤におけるベンゼン環には、アルキル基またはアルコキシ基(以下、「置換基」ともいう。)の1基以上が結合しているのが好ましい。置換基は、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルキコキシ基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。置換基は、疎水性の電子供与性基であり、ベンゼン環に結合することで、フェニルアルキル基が複数結合する該ベンゼン環の電子的安定性を向上させ、特定の界面活性剤の界面活性効果を高める。
置換基が結合する場合、1基の置換基がベンゼン環に結合しているのが好ましい。なお、置換基が2基以上結合する場合、置換基は、同一でもあってもよく、異なってもよい。
【0021】
特定の界面活性剤における式−(OQ)OSOで表される基において、Qは、−CHCH−が好ましい。なお、Qが3または4である場合、Qは、直鎖状のアルキレン基であってもよく分岐鎖状のアルキレン基であってもよい。複数のQが存在する場合、Qは同一であってもよく異なってもよい。また、複数のQが存在する場合、それらの結合順は特に限定されず、ランダム型でもブロック型でもよい。
nは、6〜24が好ましい。
式−(OQ)OSOで表される基の具体例としては、式−(OCHCHn1OSOで表される基(ただし、n1は6〜24の整数、XはNaまたはNHを示す。)が挙げられる。
【0022】
特定の界面活性剤は、下式(S1)で表される化合物が好ましい。
【0023】
【化1】
【0024】
上記式(S1)中、R11は−CHCH−または−CH(CH)−であり、n1は6〜24の整数であり、XはNaまたはNHであり、Yは炭素数1〜4のアルキル基であり、メチル基が好ましい。m1は、2〜4の整数であり、2が特に好ましい。
複数存在するR11は、同一であってもよく異なってもよいが、同一であるのが好ましい。
【0025】
特定の界面活性剤において、本塗膜の防曇性の観点から、上記フェニルアルキル基の2〜4基のうちの2基がいずれも、上記式−(OQ)OSOで表される基が結合しているベンゼン環の炭素原子に対して、オルト位の炭素原子に結合しているのが好ましい。
特定の界面活性剤は、下式(S2)で表される化合物が特に好ましい。
【0026】
【化2】
【0027】
上記式(S2)中、R21およびR22は、それぞれ独立に−CHCH−または−CH(CH)−であり、n1は6〜24の整数であり、XはNaまたはNHであり、Yは炭素数1〜4のアルキル基である。R21およびR22は、同一であるのが好ましい。
【0028】
本発明の水性分散液における特定の界面活性剤の含有量は、水性分散液の全質量に対して、0.01〜5質量%が好ましく、0.05〜2質量%がより好ましい。特定の界面活性剤が上記範囲に含まれれば、より密なパッキングにより塗膜が形成されるため、本塗膜の耐水性と防曇性が向上する。
【0029】
本発明の水性分散液は、塗料溶媒(分散媒)として、水のみか、水と水溶性有機溶媒の混合液を含む。
水溶性有機溶媒の具体例としては、tert−ブタノール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルおよびトリプロピレングリコールが挙げられる。水溶性有機溶剤の含有量は、水の100質量部に対して1〜40質量部が好ましい。
本発明の水性分散液は、水性分散液の全質量に対して、水を10〜90質量%含むのが好ましい。
【0030】
本発明の水性分散液には、本発明の効果を損なわない範囲で、フルオロポリマー、(メタ)アクリレートポリマー、特定の界面活性剤、および、水以外の成分(以下、「他の成分」ともいう。)が含まれていてもよい。
他の成分の具体例としては、特定の界面活性剤以外の界面活性剤、分子量調整剤、色調調整剤、紫外線吸収剤、低汚染化剤、硬化剤が挙げられる。
【0031】
本発明における水性分散液の製造方法の一態様としては、フルオロオレフィンを重合させてフルオロポリマーが水中に分散している分散液を得て、つぎに、アルキル(メタ)アクリレートを重合させて、フルオロポリマーをコア部とし(メタ)アクリレートポリマーをシェル部とするコアシェルポリマーが水中に分散している水性分散液を得る方法であって、特定の界面活性剤の存在下で、フルオロオレフィンの重合、または、アルキル(メタ)アクリレートの重合を行う態様が挙げられる。なお、特定の界面活性剤は、アルキル(メタ)アクルリレートの重合後に添加してもよい。
なお、アルキル(メタ)アクリレートに加えて、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートをさらに併用してもよい。
各成分については、本発明の水性分散液において説明した通りなので、その説明を省略する。
【0032】
各単量体(フルオロオレフィン、アルキル(メタ)アクリレート等)の使用量は、フルオロポリマーと(メタ)アクリレートポリマーとの総質量に対するフルオロポリマーの含有量が好ましくは30〜70質量%(より好ましくは40〜60質量%)となるように、適宜決定されればよい。
特定の界面活性剤の使用量は、得られる水性分散液の全質量に対して、好ましくは0.01〜5質量%(より好ましくは0.05〜2質量%。)となるように、適宜決定されればよい。
水の使用量は、得られる水性分散液の全質量に対して、好ましくは10〜90質量%となるように、適宜決定されればよい。
重合法の具体例としては、乳化重合法、懸濁重合法が挙げられる。
重合では、特定の界面活性剤以外の界面活性剤、ラジカル重合開始剤、連鎖移動剤、キレート化剤、pH調整剤等を添加してよい。
【0033】
本発明における水性分散液の製造方法の別の態様としては、水を含みフルオロポリマーが水中に分散している第1の水性分散液と、水を含み(メタ)アクリレートポリマーが水中に分散している第2の水性分散液とを混合して、該フルオロポリマーおよび該(メタ)アクリレートポリマーが水中に分散している水性分散液を得る方法であって、該第1の水性分散液および該第2の水性分散液のいずれか一方または両方が特定の界面活性剤を含む態様、もしくは、該第1の水性分散液および該第2の水性分散液の両方が特定の界面活性剤を含まず、該第1の水性分散液および該第2の水性分散液を混合した後に特定の界面活性剤を添加する態様が挙げられる。
【0034】
第1の水性分散液は、水を含む系にて、フルオロオレフィンを重合させることにより得られる。重合において、フルオロオレフィン以外のモノマーを使用してもよい。また、水を含む系は、特定の界面活性剤を含んでいてもよい。
第2の水性分散液は、水を含む系にて、アルキル(メタ)アクリレートを重合させることにより得られる。重合において、アルキル(メタ)アクリレート以外の、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートや、他のモノマーをさらに使用してもよい。また、水を含む系は、特定の界面活性剤が好ましい。
【0035】
第1の水性分散液と第2の水性分散液との混合割合は、得られる水性分散液において、フルオロポリマーと(メタ)アクリレートポリマーとの総質量に対するフルオロポリマーの含有量が好ましくは30〜70質量%(より好ましくは40〜60質量%)となるように、適宜決定されればよい。各単量体(フルオロオレフィン、アルキル(メタ)アクリレート等)の使用量についても、これと同様にして適宜決定されればよい。
特定の界面活性剤の使用量は、得られる水性分散液の全質量に対して、好ましくは0.01〜5質量%(より好ましくは0.05〜2質量%。)となるように、適宜決定されればよい。
第1の水性分散液および第2の水性分散液における水の使用量は、得られる水性分散液の全質量に対して、好ましくは10〜90質量%となるように、適宜決定されればよい。
【0036】
本発明の水性塗料(以下、「本水性塗料」という。)は、本発明の水性分散液を含むほか、顔料(無機着色顔料、有機着色顔料、体質顔料等。)、硬化剤、硬化助剤、造膜助剤、増粘剤、消泡剤、光安定剤、表面調整剤等の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0037】
本水性塗料は、本水性塗料の全質量に対して、水性分散液を10〜80質量%含むのが好ましい。水性分散液の含有量は、本水性塗料の全質量に対して、10〜60質量%がより好ましい。水性分散液の含有量が10質量%以上であれば、本塗膜の耐候性が向上し、80質量%以下であれば、本水性塗料の成膜性が向上する。
本水性塗料は、本水性塗料の全質量に対して、フルオロポリマーおよび(メタ)アクリレートポリマーを合計で10〜90質量%含むのが好ましい。
【0038】
本発明の塗装物品は、基材と、該基材上に配置され、本水性塗料を用いて形成された塗膜(本塗膜)と、を有する。
基材の具体例としては、樹脂、ゴム、木材等の有機質材料、コンクリート、ガラス、セラミックス、石材等の無機質材料、鉄、鉄合金、アルミニウム、アルミニウム合金が挙げられる。
本塗膜の膜厚は、10〜100μmが好ましい。本塗膜の膜厚が下限値以上であれば、本塗膜のブロッキング性が向上し、上限値以下であれば、本塗膜の耐候性が向上する。
【0039】
塗装物品は、基材の表面に本水性塗料を塗布し、乾燥させて本塗膜を形成すると製造できる。本水性塗料は、基材の表面に直接塗布してもよく、基材の表面に公知の表面処理(下地処理等)を施した上に塗布してもよい。さらに、基材に下塗り層を形成した後、該下塗り層上に塗布してもよい。
本水性塗料の塗布方法の具体例としては、刷毛、ローラー、ディッピング、スプレー、ロールコーター、ダイコーター、アプリケーター、スピンコーター等の塗装装置を使用する方法が挙げられる。
塗布後の乾燥温度と硬化温度は、25℃〜300℃が好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、例を挙げて本発明を詳細に説明する。例1〜例3は実施例であり、例4〜例6は比較例である。ただし本発明はこれらの例に限定されない。なお、後述する表中における各成分の配合量は、質量基準を示す。
【0041】
〔試験板の評価法〕
(耐水性評価1)
後述の方法で作製した試験板を60℃の温水に1日間浸漬後、5℃の冷水に15時間浸漬し、その後5℃で乾燥して、塗膜の外観を目視で評価した。
○:塗膜面の80%以上の面積に、白化やふくれの発生が認められなかった。
△:塗膜面の60%以上80%未満の面積に、白化やふくれの発生が認められなかった。
×:塗膜面の40%超の面積に、白化やふくれの発生が認められた。
【0042】
(耐水性評価2)
後述の方法で作製した試験板を60℃の温水に3ヶ月間浸漬後、5℃で乾燥して、塗膜の外観を目視で評価した。
○:塗膜面の80%以上の面積に、白化やふくれの発生が認められなかった。
△:塗膜面の60%以上80%未満の面積に、白化やふくれの発生が認められなかった。
×:塗膜面の40%超の面積に、白化やふくれの発生が認められた。
【0043】
(防曇性評価)
耐水性評価2を実施した試験板を、湿度98%RH、50℃の恒温槽に3分間静置し、塗膜面に曇りが生じるかを目視で評価した。
○:塗膜面の80%以上の面積に、曇りが認められなかった。
△:塗膜面の60%以上80%未満の面積に、白化やふくれの発生が認められなかった。
×:塗膜面の40%超の面積に、曇りが認められた。
(耐久耐光性評価(実暴露試験))
試験板を沖縄県那覇市の屋外に設置し、1年後の塗膜剥離の有無について、以下の基準に従って評価した。
○:塗膜の割れ及び塗膜の剥離は見られなかった。
△:試験板の端部に、塗膜の割れが若干確認された。
×:加工部の全面に、塗膜の割れ及び塗膜の剥離が確認された。
【0044】
〔水性分散体および水性塗料の製造に使用した主な成分〕
フルオロオレフィン:VDF、TFE、CTFE
(メタ)アクリレート:メチルメタクリレート(MMA)、ブチルアクリレート(BA)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2−HEMA)
界面活性剤:下記に示す界面活性剤1〜5
造膜助剤:エチレングリコールモノ(2−エチルヘキシル)エーテル
【0045】
[例1]
(水性分散液の製造)
オートクレーブに、イオン交換水(500g)、CFO(CFCFO)CFCOONH(0.5g)、およびモノステアリン酸ポリオキシエチレン(0.05g)を仕込み、真空脱気した。この後、オートクレーブ内圧が0.75〜0.8MPaとなるように、VDF、TFE、CTFEをこの順に74.1モル%、13.9モル%、12.0モル%含む混合ガスを圧入した。続いて、過硫酸アンモニウム(0.2g)を仕込み、70℃で重合を開始した。
重合中、オートクレーブ内圧が0.75〜0.8MPaとなるように混合ガスをオートクレーブに供給し、重合開始8時間後に重合を停止して、フルオロポリマーの粒子を含む第1分散液を得た。フルオロポリマーが有する全単位に対して、VDF、TFE、CTFEのそれぞれに基づく単位の含有量は、この順に74.2モル%、13.0モル%、12.8モル%であった。
フラスコに、第1分散液(190g)および界面活性剤1(下式(S3)で表される化合物であり、式中、n≒20である。)(1.8g)を入れ、フラスコ内温を75℃に保持した。一方で、MMA(50g)、BA(30g)、2−HEMA(8g)、界面活性剤1(1.8g)、過硫酸アンモニウム(0.1g)、およびイオン交換水(80g)を含む溶液を調製した。
撹拌下のフラスコに、該溶液を滴下しながら重合を進めた。滴下終了後、そのまま3時間撹拌を続け、さらにフラスコ内温80℃にて1時間撹拌した。その後、フラスコを冷却し、フラスコ内溶液を100メッシュ金網で濾過し、ポリマー濃度48.0質量%である、フルオロポリマーからなるコア部の表面に(メタ)アクリレートポリマーからなるシェル部が形成されている粒子を含む水性分散液1を得た。水性分散液1の、フルオロポリマーと(メタ)アクリレートポリマーとの総質量に対するフルオロポリマーの含有量(以下、「ポリマー比率」ともいう。)は50質量%であり、コアシェル粒子の平均粒子径は175.2nmであった。
水性分散液1(47g)に、造膜助剤(3.0g)を加えて、水性塗料1を得た。
【0046】
【化3】
【0047】
[例2]
フラスコに、イオン交換水(150g)と界面活性剤1(1.8g)を仕込み、フラスコ内を撹拌しながら、MMA(50g)、BA(30g)、2−HEMA(8g)および界面活性剤1(1.8g)を仕込み、フラスコ内温を75℃に保持した。つぎに、フラスコに過硫酸アンモニウム(0.1g)を仕込んで重合を進めた。3時間後、フラスコ内温を80℃に保持して、さらに1時間撹拌した。その後、フラスコを冷却し、フラスコ内溶液を100メッシュ金網で濾過し、(メタ)アクリレートポリマーの粒子を含む水性分散液を得た。なお、(メタ)アクリレートポリマーの粒子が有する全単位に対して、MMA、BA、2−HEMAのそれぞれに基づく単位の含有量は、この順に62.8モル%、29.5モル%、7.7モル%であった。
該水性分散液(100g)と、例1の第1分散液(114g)とを混合して、フルオロポリマーの粒子および(メタ)アクリレートポリマーの粒子が分散している水性分散液2を得た。水性分散液2の、ポリマー比率は50質量%であり、それぞれのポリマーの粒子の平均粒子径は140.1nmであった。
水性分散液2(47g)に、造膜助剤(3.0g)を加えて、水性塗料2を得た。
【0048】
[例3]
例1において、界面活性剤1を、界面活性剤2(下式(S4)で表される化合物であり、式中、n≒20である。)に変更する以外は、例1と同様にして、水性分散液3を得た。水性分散液3のポリマー比率は50質量%であり、コアシェル粒子の平均粒子径は182.1nmであった。
水性分散液3(47g)に、造膜助剤(3.0g)を加えて、水性塗料3を得た。
【0049】
【化4】
【0050】
[例4]
例4において、界面活性剤1を、界面活性剤3(下式(S5)で表される化合物であり、式中、n≒20である。)に変更する以外は、例1と同様にして、水性分散液4を得た。水性分散液4のポリマー比率は50質量%であり、コアシェル粒子の平均粒子径は195.8nmであった。
水性分散液4(47g)に、造膜助剤(3.0g)を加えて、水性塗料4を得た。
【0051】
【化5】
【0052】
[例5]
例1において、界面活性剤1を、界面活性剤4(下式(S6)で表される化合物であり、式中、n≒20である。)に変更する以外は、例1と同様にして、水性分散液5を得た。水性分散液5のポリマー比率は50質量%であり、コアシェル粒子の平均粒子径は185.5nmであった。
水性分散液5(47g)に、造膜助剤(3.0g)を加えて、水性塗料5を得た。
【0053】
【化6】
【0054】
[例6]
例1において、界面活性剤1を、界面活性剤5(ラウリル硫酸ナトリウム。日光ケミカルズ(株)社製の商品名「NIKKOL SLS」を使用した。)に変更する以外は、例1と同様にして、水性分散液6を得た。水性分散液6のポリマー比率は50質量%であり、コアシェル粒子の平均粒子径は200.1nmであった。
水性分散液6(47g)に、造膜助剤(3.0g)を加えて、水性塗料6を得た。
【0055】
水性塗料1〜6を用いて、試験板をそれぞれ作製した。
ポリエステル樹脂焼き付け塗装板の表面に、スプレー装置を用いて各水性塗料を塗布した。各水性塗料の塗布量は、50g/mとした。
その後、塗布した各水性塗料を、100℃で10分間の雰囲気下でポリエステル樹脂焼き付け塗装板上に焼き付けて、ポリエステル樹脂焼き付け塗装板の表面に塗膜が形成された試験板をそれぞれ得て、前記の評価法に供した。
各水性分散液の組成と、試験板を用いてした塗膜の評価結果とを表1に示す。なお、界面活性剤の含有量は水性分散液の全質量に対する含有量(質量%)を示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1の例1〜例3に示すように、フルオロポリマーからなるコア部の表面に(メタ)アクリレートポリマーからなるシェル部が形成されている粒子が水中に分散している水性分散液、または、フルオロポリマーの粒子および(メタ)アクリレートポリマーの粒子がそれぞれ水中に分散している水性分散液に、特定の界面活性剤を含ませれば、耐水性と防曇性と耐久耐光性に優れた塗膜を形成するのが示された。また、塗膜が水と接触する環境下に長期間曝された場合であっても、その効果が発揮されることが示された。
一方、表1の例4〜例6に示すように、特定の界面活性剤を使用しない場合、塗膜の耐水性および防曇性の少なくとも一方が劣るのが示された。
【要約】
【課題】本発明の課題は、耐水性および防曇性に優れた塗膜を形成できる水性分散液、該水性分散液の製造方法、水性塗料および塗装物品の提供である。
【解決手段】本発明の水性分散液は、水、界面活性剤、フルオロポリマーおよび(メタ)アクリレートポリマーを含み、フルオロポリマーおよび(メタ)アクリレートポリマーが水中に分散している水性分散液であって、該フルオロポリマーが、フルオロオレフィンに基づく単位を含み、該フルオロポリマーが含む全単位に対して、該単位を95〜100モル%含み、該(メタ)アクリレートポリマーが、アルキル(メタ)アクリレートに基づく単位を含み、該(メタ)アクリレートポリマーが含む全単位に対して、該単位を75〜100モル%含み、該界面活性剤が、ベンゼン環に、式−(OQ)OSOで表される基(ただし、Qはアルキレン基、nは2〜30の整数、XはNaまたはNHを示す。)の1基と、フェニルアルキル基の2〜4基とが結合した化合物であることを特徴とする、水性分散液。
【選択図】なし