特許第6274359号(P6274359)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6274359ガスシール部材用組成物およびガスシール部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6274359
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】ガスシール部材用組成物およびガスシール部材
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/10 20060101AFI20180129BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20180129BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20180129BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20180129BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
   C09K3/10 N
   C09K3/10 Q
   F16J15/10 Y
   C08L21/00
   C08K3/04
   C08K7/06
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-524649(P2017-524649)
(86)(22)【出願日】2016年6月24日
(86)【国際出願番号】JP2016003071
(87)【国際公開番号】WO2016208203
(87)【国際公開日】20161229
【審査請求日】2017年9月27日
(31)【優先権主張番号】特願2015-128773(P2015-128773)
(32)【優先日】2015年6月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】武山 慶久
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−1475(JP,A)
【文献】 特開2004−308836(JP,A)
【文献】 特開2013−23575(JP,A)
【文献】 特開2012−224815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/10−3/12、
F16J15/00−15/14、
C08K3/00−13/08、
C08L1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーと、繊維状炭素ナノ構造体とを含有するガスシール部材用組成物であって、
前記繊維状炭素ナノ構造体は、単層カーボンナノチューブを含み、
前記エラストマー100質量部当たり、前記繊維状炭素ナノ構造体を0.1質量部以上12質量部以下の割合で含有する、ガスシール部材用組成物。
【請求項2】
前記繊維状炭素ナノ構造体は、吸着等温線から得られるt−プロットが上に凸な形状を示す、請求項1に記載のガスシール部材用組成物。
【請求項3】
前記t−プロットの屈曲点が、0.2≦t(nm)≦1.5の範囲にある、請求項2に記載のガスシール部材用組成物。
【請求項4】
前記t−プロットから得られる全比表面積S1および内部比表面積S2が、0.05≦S2/S1≦0.30を満たす、請求項2または3に記載のガスシール部材用組成物。
【請求項5】
前記繊維状炭素ナノ構造体の平均直径が2nm以上10nm以下である、請求項1〜4の何れかに記載のガスシール部材用組成物。
【請求項6】
架橋剤を更に含有する、請求項1〜5の何れかに記載のガスシール部材用組成物。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載のガスシール部材用組成物を用いて形成した、ガスシール部材。
【請求項8】
10MPa以上の高圧ガスに接触した状態で用いられる、請求項7に記載のガスシール部材。
【請求項9】
10MPa以上の高圧ガスが充填された容器と、
前記容器内に充填された前記高圧ガスと接触している、請求項7に記載のガスシール部材と、
を備える高圧ガス機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスシール部材用組成物およびガスシール部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、気体の漏洩を防止する部材として、パッキンやガスケットなどのガスシール部材が用いられている。そして、このようなガスシール部材は、例えば、石油や天然ガス等の地下資源を大深度で採掘する装置や、燃料電池車用の水素ステーションなどにおいて用いられている。このような用途では、ガスシール部材は高温環境等の過酷な条件に曝されることとなるため、ガスシール部材には、高温環境下における、より高い耐久性が求められている。
【0003】
例えば特許文献1では、3元系の含フッ素エラストマーに対して所定の平均直径を有する多層カーボンナノチューブを所定の割合で配合してなるエラストマー組成物を架橋してガスシール部材を形成することにより、高温環境等の過酷な条件においても長時間使用に耐え得るガスシール部材を提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−109020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、石油や天然ガス等の地下資源を大深度で採掘する装置や、燃料電池車用の水素ステーション(高圧水素機器)などにおいて用いられるガスシール部材には、例えば10MPa以上という高圧環境下での耐久性が求められる。このような高圧ガスに接触するガスシール部材には、はみ出し破壊およびブリスター破壊が起こり得るため、これらの破壊の発生を抑制することが求められている。
ここで、「はみ出し破壊」とは、高圧のガスとの接触によってガスシール部材が所定の設置位置(例えば、設置用の溝など)からはみ出し、設置位置周囲の隙間などに噛み込むことにより生じる破壊である。また、「ブリスター破壊」とは、高圧のガスとの接触によってガスシール部材の内部に浸透したガスが、急速減圧時などにガスシール部材の内部に滞留したまま膨張してガスシール部材を破裂させることにより生じる破壊である。
【0006】
しかし、特許文献1に記載のガスシール部材は、高温環境における耐久性には優れるものの、高圧条件下における耐久性が十分とは言えず、はみ出し破壊およびブリスター破壊の発生を十分に抑制できるとは言い得なかった。
【0007】
そこで、本発明は、はみ出し破壊の発生とブリスター破壊の発生との双方を十分に抑制することができるガスシール部材を形成可能なガスシール部材用組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、はみ出し破壊の発生とブリスター破壊の発生との双方を十分に抑制することができるガスシール部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者は、単層カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体をエラストマーに対して所定の割合で含有する組成物を用いてガスシール部材を形成すれば、はみ出し破壊の発生とブリスター破壊の発生との双方を十分に抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のガスシール部材用組成物は、エラストマーと、繊維状炭素ナノ構造体とを含有するガスシール部材用組成物であって、前記繊維状炭素ナノ構造体は、単層カーボンナノチューブを含み、前記エラストマー100質量部当たり、前記繊維状炭素ナノ構造体を0.1質量部以上12質量部以下の割合で含有することを特徴とする。このように、単層カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体を所定の割合で含有させれば、はみ出し破壊の発生とブリスター破壊の発生との双方を十分に抑制することが可能なガスシール部材を形成することができる。
【0010】
ここで、本発明のガスシール部材用組成物において、前記繊維状炭素ナノ構造体は、吸着等温線から得られるt−プロットが上に凸な形状を示すことが好ましい。吸着等温線から得られるt−プロットが上に凸な形状を示す繊維状炭素ナノ構造体を使用すれば、ブリスター破壊の発生を更に抑制することが可能なガスシール部材を形成することができるからである。
【0011】
そして、前記t−プロットの屈曲点は、0.2≦t(nm)≦1.5の範囲にあることが好ましい。t−プロットの屈曲点が0.2≦t(nm)≦1.5の範囲にある繊維状炭素ナノ構造体を使用すれば、ブリスター破壊の発生を更に抑制することができるからである。
【0012】
また、前記t−プロットから得られる全比表面積S1および内部比表面積S2は、0.05≦S2/S1≦0.30を満たすことが好ましい。全比表面積S1および内部比表面積S2が0.05≦S2/S1≦0.30を満たす繊維状炭素ナノ構造体を使用すれば、ブリスター破壊の発生を更に抑制することができるからである。
【0013】
更に、本発明のガスシール部材用組成物では、前記繊維状炭素ナノ構造体の平均直径が2nm以上10nm以下であることが好ましい。平均直径が2nm以上10nm以下の繊維状炭素ナノ構造体を使用すれば、はみ出し破壊の発生とブリスター破壊の発生とを更に抑制することができるからである。
【0014】
そして、本発明のガスシール部材用組成物は、架橋剤を更に含有することができる。
【0015】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のガスシール部材は、上述したガスシール部材用組成物の何れかを用いて形成したことを特徴とする。上述したガスシール部材用組成物を使用して形成したガスシール部材は、はみ出し破壊の発生とブリスター破壊の発生との双方を十分に抑制することができる。
【0016】
そして、上述した本発明のガスシール部材は、10MPa以上の高圧ガスに接触した状態で用いられてもよい。
また、本発明の高圧ガス機器は、10MPa以上の高圧ガスが充填された容器と、前記容器内に充填された前記高圧ガスと接触しているガスシール部材と、を備えるものとすることができる。上述したガスシール部材を用いることにより、10MPa以上の高圧ガスに接触していても、十分な耐久性を奏することができる。
なお、高圧ガスの圧力は、例えば30MPa以上、50MPa以上または70MPa以上とすることができる。また、高圧ガスの圧力は、例えば120MPa以下、100MPa以下または90MPa以下とすることができる。また、高圧ガスの種類としては、例えば、メタン等の炭化水素、二酸化炭素、水素、およびこれらのガスを含む混合ガス等を挙げることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、はみ出し破壊の発生とブリスター破壊の発生との双方を十分に抑制することができるガスシール部材を形成可能なガスシール部材用組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、はみ出し破壊の発生とブリスター破壊の発生との双方を十分に抑制することが可能なガスシール部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
ここで、本発明に係るガスシール部材用組成物は、パッキンやガスケットなどのガスシール部材の形成に用いられるものである。また、本発明に係るガスシール部材は、本発明に係るガスシール部材用組成物を用いて形成することができ、例えば、石油や天然ガス等の地下資源を大深度で採掘する装置や、燃料電池車用の水素ステーションなどにおいて気体の漏洩を防止する部材として用いることができる。特に、本発明に係るガスシール部材は、ガスシール部材が10MPa以上の高圧ガスに接触する高圧ガス機器において好適に用いることができる。このような高圧ガス機器としては、例えば、10MPa以上の高圧ガスが充填された容器と、容器内に充填された高圧ガスと接触して高圧ガスの漏出を防止するガスシール部材とを備える高圧ガス機器が挙げられる。具体的には、高圧ガス機器としては、高圧水素機器を挙げることができ、この高圧水素機器としては、水素ステーションに用いられる、水素製造装置や、水素ガス圧縮機、蓄ガス機、燃料電池等を挙げることができる。
【0019】
(ガスシール部材用組成物)
本発明のガスシール部材用組成物は、エラストマーと、繊維状炭素ナノ構造体とを含有し、任意に架橋剤や酸化防止剤などの添加剤を更に含有するエラストマー組成物である。そして、本発明のガスシール部材用組成物では、繊維状炭素ナノ構造体として単層カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体を使用する。
【0020】
<エラストマー>
ここで、ガスシール部材用組成物のエラストマーとしては、特に限定されることなく、ガスシール部材の形成に用いられる既知のエラストマーを用いることができる。具体的には、エラストマーとしては、例えば、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、ハロゲン化ブチルゴム、ポリイソブチレンゴム、シリコーンゴムなどを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
上述した中でも、エラストマーとしては、ムーニー粘度(ML1+4、100℃)が20以上150以下であるゴム(例えば、水素化ニトリルゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム等)およびムーニー粘度(ML1+10、121℃)が20以上150以下のフッ素ゴムが好ましい。なお、本発明において、ムーニー粘度は、JIS K6300に準拠して測定することができる。
【0021】
<繊維状炭素ナノ構造体>
繊維状炭素ナノ構造体としては、例えば、カーボンナノチューブ(CNT)等の円筒形状の炭素ナノ構造体や、炭素の六員環ネットワークが扁平筒状に形成されてなる炭素ナノ構造体等の非円筒形状の炭素ナノ構造体が挙げられる。そして、本発明のガスシール部材用組成物では、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を使用する。このように、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を使用することで、はみ出し破壊の発生とブリスター破壊の発生との双方を十分に抑制することが可能なガスシール部材を形成することができる。
【0022】
なお、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を使用することではみ出し破壊の発生およびブリスター破壊の発生を抑制することができる理由は、明らかではないが、以下の通りであると推察される。即ち、単層CNTは多層CNTと比較してガスが透過し易く、単層CNTを用いたガスシール部材では、内部に浸透したガスが急速減圧時などにガスシール部材から抜け易くなるため、ブリスター破壊の発生を抑制することができると推察される。また、単層CNTは多層CNTと比較して補強効果が高いため、単層CNTを用いたガスシール部材は、高圧のガスと接触した場合でも変形し難く、はみ出し破壊が発生し難いと推察される。
【0023】
そして、ガスシール部材用組成物中の繊維状炭素ナノ構造体の含有量は、エラストマー100質量部当たり、0.1質量部以上であることが必要であり、1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましく、3質量部以上であることが更に好ましい。繊維状炭素ナノ構造体の含有量がエラストマー100質量部当たり0.1質量部未満である場合、ガスシール部材用組成物を用いて形成したガスシール部材の強度を確保することができず、はみ出し破壊の発生およびブリスター破壊の発生を十分に抑制することができない。
また、ガスシール部材用組成物中の繊維状炭素ナノ構造体の含有量は、エラストマー100質量部当たり、12質量部以下であることが必要であり、10質量部以下であることが好ましく、8質量部以下であることがより好ましく、7質量部以下であることが更に好ましい。繊維状炭素ナノ構造体の含有量がエラストマー100質量部当たり12質量部超である場合、ガスシール部材用組成物を用いて形成したガスシール部材の内部に浸透したガスが急速減圧時などにガスシール部材から抜け難くなるため、ブリスター破壊の発生を十分に抑制することができない。
【0024】
ここで、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、単層CNTを含むものであれば特に限定されることなく、単層CNTのみからなるものであってもよいし、単層CNTと多層CNTとの混合物であってもよいし、少なくとも単層CNTを含むCNTと、CNT以外の繊維状炭素ナノ構造体との混合物であってもよい。
そして、ガスシール部材用組成物を用いて形成したガスシール部材においてはみ出し破壊の発生とブリスター破壊の発生との双方を更に抑制する観点からは、繊維状炭素ナノ構造体100本中の単層CNTの割合は、50本以上であることが好ましく、70本以上であることがより好ましく、90本以上であることが更に好ましい。
【0025】
また、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、吸着等温線から得られるt−プロットが上に凸な形状を示すことが好ましい。吸着等温線から得られるt−プロットが上に凸な形状を示す繊維状炭素ナノ構造体を使用すれば、ブリスター破壊の発生を更に抑制することが可能なガスシール部材を形成することができる。
なお、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、CNTの開口処理が施されておらず、t−プロットが上に凸な形状を示すことがより好ましい。
【0026】
ここで、一般に、吸着とは、ガス分子が気相から固体表面に取り去られる現象であり、その原因から、物理吸着と化学吸着に分類される。そして、t−プロットの取得に用いられる窒素ガス吸着法では、物理吸着を利用する。なお、通常、吸着温度が一定であれば、繊維状炭素ナノ構造体に吸着する窒素ガス分子の数は、圧力が大きいほど多くなる。また、横軸に相対圧(吸着平衡状態の圧力Pと飽和蒸気圧P0の比)、縦軸に窒素ガス吸着量をプロットしたものを「等温線」といい、圧力を増加させながら窒素ガス吸着量を測定した場合を「吸着等温線」、圧力を減少させながら窒素ガス吸着量を測定した場合を「脱着等温線」という。
【0027】
そして、t−プロットは、窒素ガス吸着法により測定された吸着等温線において、相対圧を窒素ガス吸着層の平均厚みt(nm)に変換することにより得られる。即ち、窒素ガス吸着層の平均厚みtを相対圧P/P0に対してプロットした、既知の標準等温線から、相対圧に対応する窒素ガス吸着層の平均厚みtを求めて上記変換を行うことにより、繊維状炭素ナノ構造体のt−プロットが得られる(de Boerらによるt−プロット法)。
【0028】
ここで、表面に細孔を有する試料では、窒素ガス吸着層の成長は、次の(1)〜(3)の過程に分類される。そして、下記の(1)〜(3)の過程によって、t−プロットの傾きに変化が生じる。
(1)全表面への窒素分子の単分子吸着層形成過程
(2)多分子吸着層形成とそれに伴う細孔内での毛管凝縮充填過程
(3)細孔が窒素によって満たされた見かけ上の非多孔性表面への多分子吸着層形成過程
【0029】
そして、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のt−プロットは、窒素ガス吸着層の平均厚みtが小さい領域では、原点を通る直線上にプロットが位置するのに対し、tが大きくなると、プロットが当該直線から下にずれた位置となり、上に凸な形状を示すことが好ましい。かかるt−プロットの形状は、繊維状炭素ナノ構造体の全比表面積に対する内部比表面積の割合が大きく、繊維状炭素ナノ構造体を構成する炭素ナノ構造体に多数の開口が形成されていることを示している。そして、多数の開口が形成されている結果として、当該繊維状炭素ナノ構造体は、繊維状炭素ナノ構造体の内部まで浸透したガスが透過して抜け易い(即ち、当該繊維状炭素ナノ構造体を含むガスシール部材はブリスター破壊が起こり難くなる)と推察される。
【0030】
なお、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のt−プロットの屈曲点は、0.2≦t(nm)≦1.5を満たす範囲にあることが好ましく、0.45≦t(nm)≦1.5を満たす範囲にあることがより好ましく、0.55≦t(nm)≦1.0を満たす範囲にあることが更に好ましい。t−プロットの屈曲点の位置が上記範囲内にあると、繊維状炭素ナノ構造体の特性が更に向上するため、ブリスター破壊の発生を更に抑制することができる。
ここで、「屈曲点の位置」とは、t−プロットにおける、前述した(1)の過程の近似直線Aと、前述した(3)の過程の近似直線Bとの交点である。
【0031】
更に、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、t−プロットから得られる全比表面積S1に対する内部比表面積S2の比(S2/S1)が、0.05以上であることが好ましく、0.06以上であることがより好ましく、0.08以上であることが更に好ましく、0.30以下であることが好ましい。S2/S1が0.05以上0.30以下であれば、繊維状炭素ナノ構造体の特性を更に向上させることができるので、ブリスター破壊の発生を更に抑制することができる。
また、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の全比表面積S1および内部比表面積S2は、特に限定されないが、個別には、S1は、600m2/g以上1400m2/g以下であることが好ましく、800m2/g以上1200m2/g以下であることが更に好ましい。一方、S2は、30m2/g以上540m2/g以下であることが好ましい。
ここで、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の全比表面積S1および内部比表面積S2は、そのt−プロットから求めることができる。具体的には、まず、(1)の過程の近似直線の傾きから全比表面積S1を、(3)の過程の近似直線の傾きから外部比表面積S3を、それぞれ求めることができる。そして、全比表面積S1から外部比表面積S3を差し引くことにより、内部比表面積S2を算出することができる。
【0032】
因みに、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の吸着等温線の測定、t−プロットの作成、および、t−プロットの解析に基づく全比表面積S1と内部比表面積S2との算出は、例えば、市販の測定装置である「BELSORP(登録商標)−mini」(日本ベル(株)製)を用いて行うことができる。
【0033】
また、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体としては、平均直径(Av)に対する、直径の標準偏差(σ)に3を乗じた値(3σ)の比(3σ/Av)が0.20超0.60未満の繊維状炭素ナノ構造体を用いることが好ましく、3σ/Avが0.25超の繊維状炭素ナノ構造体を用いることがより好ましく、3σ/Avが0.40超の繊維状炭素ナノ構造体を用いることが更に好ましい。3σ/Avが0.20超0.60未満の単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を使用すれば、はみ出し破壊の発生とブリスター破壊の発生とを更に抑制することが可能なガスシール部材を形成することができる。
なお、「繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)」および「繊維状炭素ナノ構造体の直径の標準偏差(σ:標本標準偏差)」は、それぞれ、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択した繊維状炭素ナノ構造体100本の直径(外径)を測定して求めることができる。そして、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)および標準偏差(σ)は、繊維状炭素ナノ構造体の製造方法や製造条件を変更することにより調整してもよいし、異なる製法で得られた繊維状炭素ナノ構造体を複数種類組み合わせることにより調整してもよい。
【0034】
更に、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、ラマンスペクトルにおけるDバンドピーク強度に対するGバンドピーク強度の比(G/D比)が1以上20以下であることが好ましい。G/D比が1以上20以下であれば、はみ出し破壊の発生とブリスター破壊の発生とを更に抑制することが可能なガスシール部材を形成することができる。
【0035】
また、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)は、2nm以上であることが好ましく、2.5nm以上であることが更に好ましく、10nm以下であることが好ましく、6nm以下であることが更に好ましい。繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)が2nm以上であれば、繊維状炭素ナノ構造体の内部まで浸透したガスが透過して抜け易くなるので、ブリスター破壊の発生を更に抑制することが可能なガスシール部材を形成することができる。また、繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)が10nm以下であれば、ガスシール部材用組成物を用いて形成したガスシール部材の強度を高めることができるので、はみ出し破壊の発生を更に抑制することができる。
【0036】
また、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、合成時における構造体の平均長さが100μm以上であることが好ましい。なお、合成時の構造体の長さが長いほど、分散時に繊維状炭素ナノ構造体に破断や切断などの損傷が発生し易いので、合成時の構造体の平均長さは5000μm以下であることが好ましい。
そして、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のアスペクト比(長さ/直径)は、10を超えることが好ましい。なお、繊維状炭素ナノ構造体のアスペクト比は、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択した繊維状炭素ナノ構造体100本の直径および長さを測定し、直径と長さとの比(長さ/直径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0037】
更に、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積は、600m2/g以上であることが好ましく、800m2/g以上であることが更に好ましく、2500m2/g以下であることが好ましく、1200m2/g以下であることが更に好ましい。単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積が600m2/g以上であれば、ガスシール部材用組成物を用いて形成したガスシール部材の強度を高めることができるので、はみ出し破壊の発生を更に抑制することができる。また、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積が2500m2/g以下であれば、繊維状炭素ナノ構造体の表面から内部へと浸透するガスの量を低減して、ブリスター破壊の発生を更に抑制することが可能なガスシール部材を形成することができる。
なお、本発明において、「BET比表面積」とは、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指す。
【0038】
また、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、後述のスーパーグロース法によれば、カーボンナノチューブ成長用の触媒層を表面に有する基材上に、基材に略垂直な方向に配向した集合体(配向集合体)として得られるが、当該集合体としての繊維状炭素ナノ構造体の質量密度は、0.002g/cm3以上0.2g/cm3以下であることが好ましい。質量密度が0.2g/cm3以下であれば、繊維状炭素ナノ構造体同士の結びつきが弱くなるので、エラストマー中で繊維状炭素ナノ構造体を均質に分散させることができる。また、質量密度が0.002g/cm3以上であれば、繊維状炭素ナノ構造体の一体性を向上させ、バラけることを抑制できるため取り扱いが容易になる。
【0039】
更に、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、複数の微小孔を有することが好ましい。繊維状炭素ナノ構造体は、中でも、孔径が2nmよりも小さいマイクロ孔を有するのが好ましく、その存在量は、下記の方法で求めたマイクロ孔容積で、好ましくは0.40mL/g以上、より好ましくは0.43mL/g以上、更に好ましくは0.45mL/g以上であり、上限としては、通常、0.65mL/g程度である。単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体が上記のようなマイクロ孔を有することで、繊維状炭素ナノ構造体の内部まで浸透したガスが透過して抜け易くなり、ブリスター破壊の発生を更に抑制することができる。なお、マイクロ孔容積は、例えば、繊維状炭素ナノ構造体の調製方法および調製条件を適宜変更することで調整することができる。
ここで、「マイクロ孔容積(Vp)」は、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の液体窒素温度(77K)での窒素吸着等温線を測定し、相対圧P/P0=0.19における窒素吸着量をVとして、式(I):Vp=(V/22414)×(M/ρ)より、算出することができる。なお、Pは吸着平衡時の測定圧力、P0は測定時の液体窒素の飽和蒸気圧であり、式(I)中、Mは吸着質(窒素)の分子量28.010、ρは吸着質(窒素)の77Kにおける密度0.808g/cm3である。マイクロ孔容積は、例えば、「BELSORP(登録商標)−mini」(日本ベル(株)製)を使用して求めることができる。
【0040】
そして、上述した性状を有する単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、例えば、カーボンナノチューブ製造用の触媒層を表面に有する基材上に、原料化合物およびキャリアガスを供給して、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)において、基材表面への触媒層の形成をウェットプロセスにより行うことで、効率的に製造することができる。なお、以下では、スーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブを「SGCNT」と称することがある。
【0041】
なお、スーパーグロース法により製造した単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、SGCNTのみから構成されていてもよいし、SGCNTと、非円筒形状の炭素ナノ構造体とから構成されていてもよい。具体的には、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体には、内壁同士が近接または接着したテープ状部分を全長に亘って有する単層または多層の扁平筒状の炭素ナノ構造体(以下、「グラフェンナノテープ(GNT)」と称することがある。)が含まれていてもよい。
【0042】
ここで、GNTは、その合成時から内壁同士が近接または接着したテープ状部分が全長に亘って形成されており、炭素の六員環ネットワークが扁平筒状に形成された物質であると推定される。そして、GNTの形状が扁平筒状であり、かつ、GNT中に内壁同士が近接または接着したテープ状部分が存在していることは、例えば、GNTとフラーレン(C60)とを石英管に密封し、減圧下で加熱処理(フラーレン挿入処理)して得られるフラーレン挿入GNTを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察すると、GNT中にフラーレンが挿入されない部分(テープ状部分)が存在していることから確認することができる。
なお、GNTについて、「テープ状部分を全長に亘って有する」とは、「長手方向の長さ(全長)の60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは100%に亘って連続的にまたは断続的にテープ状部分を有する」ことを指す。
【0043】
なお、非円筒形状の炭素ナノ構造体としてGNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、触媒層を表面に有する基材を用いてスーパーグロース法によりCNTを合成する際に、触媒層を表面に有する基材(以下、「触媒基材」と称することがある。)を所定の方法で形成することにより、得ることができる。具体的には、GNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、アルミニウム化合物を含む塗工液Aを基材上に塗布し、塗布した塗工液Aを乾燥して基材上にアルミニウム薄膜(触媒担持層)を形成した後、アルミニウム薄膜の上に、鉄化合物を含む塗工液Bを塗布し、塗布した塗工液Bを温度50℃以下で乾燥してアルミニウム薄膜上に鉄薄膜(触媒層)を形成することで得た触媒基材を用いてスーパーグロース法によりCNTを合成することで得ることができる。
【0044】
<添加剤>
ガスシール部材用組成物に任意に配合し得る添加剤としては、特に限定されることなく、架橋剤、架橋助剤、酸化防止剤、補強材などの既知の添加剤を用いることができる。
【0045】
具体的には、架橋剤としては、特に限定されることなく、ガスシール部材用組成物に含まれているエラストマーを架橋可能な既知の架橋剤を用いることができる。より具体的には、架橋剤としては、例えば、硫黄、パーオキサイド系架橋剤、トリアリルイソシアヌレートなどを用いることができる。
また、架橋助剤としては、特に限定されることなく、例えば亜鉛華などを用いることができる。
更に、酸化防止剤としては、特に限定されることなく、アミン系酸化防止剤やイミダゾール系酸化防止剤などを用いることができる。
更に、補強材としては、特に限定されることなく、カーボンブラックやシリカなどを用いることができる。
これらの添加剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、添加剤の配合量は、所望の効果の発現が阻害されない限り、任意の量とすることができる。
【0046】
<ガスシール部材用組成物の調製>
なお、ガスシール部材用組成物は、例えば、エラストマーと、単層カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体と、任意成分である添加剤とを、所望の配合比で混合または混練することにより調製することができる。
【0047】
具体的には、ガスシール部材用組成物は、特に限定されることなく、エラストマーと、単層カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体との混合物を得た後、得られた混合物と任意成分である添加剤とを混練することにより、調製することができる。
【0048】
そして、エラストマーと、単層カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体との混合物の調製は、エラストマー中に単層カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体を分散させることが可能な任意の混合方法を用いて行うことができる。具体的には、上記混合物は、特に限定されることなく、有機溶媒にエラストマーを溶解させてなるエラストマー溶液または分散媒にエラストマーを分散させてなるエラストマー分散液に対し、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を添加し、更に超音波ホモジナイザーや湿式ジェットミルなどを用いてCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を分散処理した後、得られた分散処理液から有機溶媒または分散媒を除去することより、調製することができる。なお、溶媒または分散媒の除去には、例えば凝固法、キャスト法または乾燥法を用いることができる。
【0049】
また、混合物と添加剤との混練は、例えば、ミキサー、一軸混練機、二軸混練機、ロール、ブラベンダー、押出機などを用いて行うことができる。
【0050】
(ガスシール部材)
本発明のガスシール部材は、上述したガスシール部材用組成物を所望の形状に成形して得ることができる。具体的には、ガスシール部材は、例えば、上述したガスシール部材用組成物を金型に投入し、任意に架橋させて形成することができる。そして、上述したガスシール部材用組成物を用いて形成したガスシール部材は、ガスシール部材用組成物に含まれていた成分に由来する成分を、ガスシール部材用組成物と同様の比率で含有する。即ち、ガスシール部材は、例えばガスシール部材用組成物が架橋剤を含有していた場合には、架橋されたエラストマーと、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体とを所定の比率で含有し、任意に酸化防止剤などの添加剤を更に含有する。
【0051】
なお、ガスシール部材の形状は、用途に応じた任意の形状とすることができ、ガスシール部材は、例えば、環状のガスシール部材(Oリング)であってもよいし、中空円盤状のガスシール部材であってもよい。
【0052】
そして、上記ガスシール部材は、はみ出し破壊の発生とブリスター破壊の発生との双方を十分に抑制することができる。
【0053】
なお、ガスシール部材が上述したガスシール部材用組成物を架橋してなる架橋物からなる場合、当該架橋物は以下の物性を有することが好ましい。
即ち、架橋物は、引張強さが8MPa以上であることが好ましく、10MPa以上であることがより好ましく、12MPa以上であることが更に好ましく、14MPa以上であることが特に好ましく、60MPa以下であることが好ましく、55MPa以下であることがより好ましく、50MPa以下であることが更に好ましく、45MPa以下であることが特に好ましい。
また、架橋物は、切断時伸びが100%以上であることが好ましく、110%以上であることがより好ましく、120%以上であることが更に好ましく、130%以上であることが特に好ましく、600%以下であることが好ましく、550%以下であることがより好ましく、500%以下であることが更に好ましく、450%以下であることが特に好ましい。
更に、架橋物は、デュロメータ硬さが65以上であることが好ましく、70以上であることがより好ましく、73以上であることが更に好ましく、75以上であることが特に好ましく、95以下であることが好ましく、93以下であることがより好ましく、92以下であることが更に好ましく、90以下であることが特に好ましい。
【0054】
ここで、架橋物の「引張強さ」および「切断時伸び」は、JIS K6251に準拠して測定することができる。また、架橋物の「デュロメータ硬さ」は、JIS K6253に準拠し、タイプAデュロメータを用いて測定することができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
実施例および比較例において、架橋物の引張強さ、切断時伸びおよびデュロメータ硬さ、並びに、ガスシール部材の耐ブリスター性および耐久性は、それぞれ以下の方法を使用して測定または評価した。
【0056】
<引張強さ>
作製したシート状の架橋物をダンベル状3号形で打ち抜き、試験片を得た。そして、得られた試験片について、JIS K6251に準拠し、23℃における引張強さを測定した。
<切断時伸び>
作製したシート状の架橋物をダンベル状3号形で打ち抜き、試験片を得た。そして、得られた試験片について、JIS K6251に準拠し、23℃における切断時伸びを測定した。
<デュロメータ硬さ>
作製したシート状の架橋物をダンベル状3号形で打ち抜き、試験片を得た。そして、得られた試験片について、タイプAデュロメータを使用し、JIS K6253に準拠して温度23℃におけるデュロメータ硬さを測定した。
<耐ブリスター性>
作製した4個のOリングについて、ISO23936−2に準拠して加圧減圧繰り返し試験(RGD(Rapid Gas Decompression)試験)を実施し、耐ブリスター性を評価した。
具体的には、作製したOリングを、試験装置の装着溝に設置した。なお、装着溝内のOリングの充填率は85体積%とし、Oリングの潰し率は15体積%とした。
次に、Oリングを設置した試験装置のOリング内周側の領域を、温度100℃のCH4/CO2雰囲気(混合比:CH4/CO2=90mol%/10mol%)とし、圧力を15MPaとして68時間保持した。その後、Oリング内周側の領域を、大気圧となるまで減圧速度2MPa/分で減圧し、大気圧で1時間放置した。その後、2回目の加圧・減圧操作として、圧力15MPaとなるまで加圧し、圧力15MPaで6時間保持し、その後、Oリング内周側の領域を、大気圧となるまで減圧速度2MPa/分で減圧し、大気圧で1時間放置する操作を行った。その後、2回目の加圧・減圧操作と同様の加圧・減圧操作を合計7回繰り返した。
その後、Oリングを試験装置から取り出し、取り出したOリングの4箇所を切断して、以下に掲げる基準に準拠して耐ブリスター性を評価した。
そして、上述したような加圧減圧繰り返し試験を4個のOリングについて行い、4個のOリング全てにおいて評価結果の点数が3以下であれば、「合格」と判定し、評価結果の点数が4以上のOリングが一つでもあれば「不合格」と判定した。なお、評価結果の点数は、低いほどOリングが耐ブリスター性に優れており、ブリスター破壊が起こり難いことを示す。
点数0:亀裂、窪み、および、膨らみがない
点数1:点数0の条件を満たさず、且つ、亀裂の個数が4個以下、各亀裂の長さがOリング線径の半分未満および亀裂の合計長さがOリング線径以下の条件を満たす
点数2:点数0および点数1の条件を満たさず、且つ、亀裂の個数が6個以下、各亀裂の長さがOリング線径の半分未満および亀裂の合計長さがOリング線径の2.5倍以下の条件を満たす
点数3:点数0〜2の条件を満たさず、且つ、亀裂の個数が9個以下およびOリング線径の50%以上80%未満の長さの亀裂が2個以下の条件を満たす
点数4:点数0〜3の条件を満たさず、且つ、亀裂の個数が8個以上およびOリング線径の80%以上の長さとなる亀裂が1個以上の条件を満たす
点数5:亀裂が断面を貫き、Oリングが分割、もしくは粉々に破損している
<耐久性>
まず、作製した円筒形試験片の重量(Wa)を測定した。
次に、ギャップ間距離0.635mmの金型内に円筒形試験片を設置し、温度175℃、圧力103.5MPaで5分間加熱および加圧した後、常温常圧に戻した。その後、金型のギャップからはみ出していない試験片の重量(Wb)を測定した。
そして、下記式を用いて変形量を求めた。変形量が小さいほど、耐久性に優れており、はみ出し破壊が起こり難いことを示す。
変形量(質量%)={(Wa−Wb)/Wa}×100
【0057】
(実施例1)
<単層カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体の調製>
国際公開第2006/011655号の記載に従い、スーパーグロース法により繊維状炭素ナノ構造体としてのカーボンナノチューブ(SGCNT)を調製した。なお、SGCNTの調製時には、基材表面への触媒層の形成をウェットプロセスにより行い、アセチレンを主成分とする原料ガスを用いた。
得られたSGCNTは、主として単層CNTからなり、ラマン分光光度計での測定において、単層CNTに特長的な100〜300cm-1の低波数領域にラジアルブリージングモード(RBM)のスペクトルが観察された。また、BET比表面積計(日本ベル(株)製、BELSORP(登録商標)−max)を用いて測定したSGCNTのBET比表面積は1050m2/g(未開口)であった。更に、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択した100本のSGCNTの直径および長さを測定し、SGCNTの平均直径(Av)、直径の標準偏差(σ)および平均長さを求めたところ、平均直径(Av)は3.3nmであり、標準偏差(σ)に3を乗じた値(3σ)は1.9nmであり、それらの比(3σ/Av)は0.58であり、平均長さは500μmであった。更に、日本ベル(株)製の「BELSORP(登録商標)−mini」を用いてSGCNTのt−プロットを測定したところ、t−プロットは、上に凸な形状で屈曲していた。そして、S2/S1は0.09であり、屈曲点の位置tは0.6nmであった。
<ガスシール部材用組成物の調製>
[混合物の調製]
有機溶媒としてのメチルエチルケトン9800gにエラストマーとしての水素化ニトリルゴム(日本ゼオン製、Zetpol2020L)190gを加え、48時間撹拌して水素化ニトリルゴムを溶解させた。なお、JIS K6300に準拠して測定した水素化ニトリルゴムのムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、57.5であった。
次に、得られた水素化ニトリルゴム溶液に対し、SGCNTを19g加え、撹拌機(PRIMIX製、ラボ・リューション(登録商標))を用いて15分間撹拌した。更に、湿式ジェットミル(吉田機械興業製、L−ES007)を用いて、SGCNTを加えた溶液を120MPaで分散処理した。その後、得られた分散処理液を50000gのシクロヘキサンへ滴下し、凝固させて黒色固体を得た。そして、得られた黒色固体を50℃で48時間減圧乾燥し、水素化ニトリルゴムとSGCNTとの混合物を得た。
[混練]
その後、50℃のオープンロールを用いて、水素化ニトリルゴムとSGCNTとの混合物と、酸化防止剤としての4,4’−ビス(a,a−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(大内新興化学工業製、商品名「ノクラックCD」)および2−メルカプトベンズイミダゾールの亜鉛塩(大内新興化学工業製、商品名「ノクラックMBZ」)と、架橋剤としての1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン(GEO Specialty Chemicals Inc製、商品名「Vul Cup 40KE」)とを表1に示す割合で混練し、ガスシール部材用組成物を得た。
<シート状の架橋物の作製>
得られたガスシール部材用組成物を金型に投入し、温度170℃、圧力10MPaで20分間架橋させてシート状の架橋物(長さ:150mm、幅:150mm、厚さ:2mm)を得た。
そして、得られたシート状の架橋物を用いて架橋物の引張強さ、切断時伸びおよびデュロメータ硬さを測定した。結果を表1に示す。
<Oリングの作製>
得られたガスシール部材用組成物を金型に投入し、温度170℃、圧力10MPaで20分間架橋させてOリング(ガスシール部材)を作製した。
そして、得られたOリングを用いて耐ブリスター性を評価した。結果を表1に示す。
<円筒形試験片の作製>
得られたガスシール部材用組成物を金型に投入し、温度170℃、圧力10MPaで25分間架橋させ、直径29mm、高さ12.7mmの円筒形試験片を作製した。
そして、得られた円筒形試験片を用いて耐久性を評価した。結果を表1に示す。
【0058】
(実施例2〜3)
混合物を調製する際に水素化ニトリルゴム溶液に対して添加するSGCNTの量を9.5g(実施例2)および1.9g(実施例3)に変更した以外は実施例1と同様にして、ガスシール部材用組成物、シート状の架橋物、Oリングおよび円筒形試験片を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0059】
(実施例4)
混合物を調製する際にエラストマーとして水素化ニトリルゴム190gに替えてフッ素ゴム(デュポン製、Viton GBL200S)190gを使用し、SGCNTの添加量を9.5gに変更し、50000gのシクロヘキサンに替えて50000gのメタノールを使用し、また、混練の際にフッ素ゴムとSGCNTとの混合物と、架橋助剤としての亜鉛華と、架橋剤としての2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン(日本油脂製、商品名「パーヘキサ25B40」)と、共架橋剤としてのトリアリルイソシアヌレート(日本化成製、商品名「TAIC」)とを表1に示す割合で混練した以外は実施例1と同様にして、ガスシール部材用組成物を得た。
次に、得られたガスシール部材用組成物を金型に投入し、温度170℃、圧力10MPaで20分間架橋させてシート状の一次架橋物(長さ:150mm、幅:150mm、厚さ:2mm)を得た。次いで、得られたシート状の一次架橋物をギヤー式オーブンにて230℃で2時間二次架橋し、シート状の架橋物を作製した。
また、得られたガスシール部材用組成物を金型に投入し、温度170℃、圧力10MPaで20分間架橋させた後、得られた一次架橋物をギヤー式オーブンにて230℃で2時間二次架橋し、Oリング(ガスシール部材)を作製した。
更に、得られたガスシール部材用組成物を金型に投入し、温度170℃、圧力10MPaで25分間架橋させ、直径29mm、高さ12.7mmの円筒形の一次架橋物を得た。次いで、得られた円筒形の一次架橋物をギヤー式オーブンにて230℃で2時間二次架橋し、円筒形試験片を作製した。
そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
なお、JIS K6300に準拠して測定したフッ素ゴムのムーニー粘度(ML1+10、121℃)は、25であった。
【0060】
(比較例1〜2)
混合物を調製する際に水素化ニトリルゴム溶液に対して添加するSGCNTの量を0.1g(比較例1)および38g(比較例2)に変更した以外は実施例1と同様にして、ガスシール部材用組成物、シート状の架橋物、Oリングおよび円筒形試験片を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
(比較例3)
以下のようにして調製したガスシール部材用組成物を用いた以外は実施例1と同様にして、シート状の架橋物、Oリングおよび円筒形試験片を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
<ガスシール部材用組成物の調製>
表面温度20℃のオープンロールを用いて、エラストマーとしての水素化ニトリルゴム(日本ゼオン製、Zetpol2020L)150gを素練りし、次に、単層CNTを含まない繊維状炭素ナノ構造体としての多層CNT(ナノシル製、商品名「NC7000」、BET比表面積:290m2/g)と、酸化防止剤としての4,4’−ビス(a,a−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(大内新興化学工業製、商品名「ノクラックCD」)および2−メルカプトベンズイミダゾールの亜鉛塩(大内新興化学工業製、商品名「ノクラックMBZ」)と、架橋剤としての1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン(GEO Specialty Chemicals Inc製、商品名「Vul Cup 40KE」)とを表1に示す割合で混練した。その後、ロール間隙を0.5mmとして、10回薄通しを行い、ガスシール部材用組成物を得た。
【0062】
(比較例4)
以下のようにして調製したガスシール部材用組成物を用いた以外は実施例1と同様にして、シート状の架橋物、Oリングおよび円筒形試験片を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
<ガスシール部材用組成物>
容量250mlのバンバリーミキサーを用いて、水素化ニトリルゴム(日本ゼオン製、Zetpol2020L)150gを素練りし、次に、カーボンブラック(東海カーボン製、商品名「シーストSO」、BET比表面積:42m2/g)と、酸化防止剤としての4,4’−ビス(a,a−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(大内新興化学工業製、商品名「ノクラックCD」)および2−メルカプトベンズイミダゾールの亜鉛塩(大内新興化学工業製、商品名「ノクラックMBZ」)とを表1に示す割合で添加し、80℃を開始温度として3.5分間混合した。得られた混合物をロールに移し、架橋剤としての1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン(GEO Specialty Chemicals Inc製、商品名「Vul Cup 40KE」)を表1に示す割合で添加し、温度50℃で混練してガスシール部材用組成物を得た。
【0063】
【表1】
【0064】
表1より、単層カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体を所定の割合で配合した実施例1〜4では、単層カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体を所定の割合で配合しなかった比較例1〜2および単層カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体を使用しなかった比較例3〜4と比較し、優れた耐ブリスター製および耐久性を有するガスシール部材が得られることが分かる。
特に、表1の実施例1〜3より、単層カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体の配合量を調整することで、ガスシール部材の耐ブリスター製と耐久性とを更に向上させ得ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、はみ出し破壊の発生とブリスター破壊の発生との双方を十分に抑制することができるガスシール部材を形成可能なガスシール部材用組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、はみ出し破壊の発生とブリスター破壊の発生との双方を十分に抑制することが可能なガスシール部材を提供することができる。