特許第6274632号(P6274632)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6274632
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】メチル化DNAを蛍光標識する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20180129BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20180129BHJP
   C07D 235/14 20060101ALI20180129BHJP
   C07D 209/18 20060101ALI20180129BHJP
   C07D 215/12 20060101ALI20180129BHJP
   C07D 413/02 20060101ALI20180129BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20180129BHJP
   C07K 14/195 20060101ALN20180129BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20180129BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12Q1/68 A
   C07D235/14CSP
   C07D209/18
   C07D215/12
   C07D413/02
   !C07K19/00
   !C07K14/195
   !C07K14/47
【請求項の数】8
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2016-538163(P2016-538163)
(86)(22)【出願日】2015年2月18日
(86)【国際出願番号】JP2015054475
(87)【国際公開番号】WO2016017194
(87)【国際公開日】20160204
【審査請求日】2016年7月22日
(31)【優先権主張番号】特願2014-158061(P2014-158061)
(32)【優先日】2014年8月1日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年2月21日 http://csj.jp/nenkai/94haru/program_jp.htmlを通じて発表。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年3月12日 「日本化学会第94春季年会(2014)講演予稿集」に発表。平成26年3月28日 日本化学会第94春季年会(2014)(場所:名古屋大学)において文書をもって発表。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年5月12日 http://www.molecularimaging.jp/special/index.asp?id=6238 を通じて発表。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年5月15日 「第9回日本分子イメージング学会総会・学術集会の講演予稿集」に発表。平成26年5月22日および23日 第9回日本分子イメージング学会総会・学術集会(場所:千里ライフサイエンスセンター)において文書をもって発表。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年5月30日、平成26年6月11日 「日本ケミカルバイオロジー学会 第9回年会のプログラム」に発表。平成26年6月11日 「日本ケミカルバイオロジー学会 第9回年会の講演予稿集」に発表。平成26年6月12日および13日 日本ケミカルバイオロジー学会 第9回年会(場所:大阪大学 豊中キャンパス 大阪大学会館1階アセンブリー・ホール 2階講堂)において文書をもって発表。
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】菊地 和也
(72)【発明者】
【氏名】堀 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】乙村 法道
【審査官】 松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】 Yuichiro HORI,Journal of the American Chemical Society,2013年,Vol.135,Pages 12360-12365
【文献】 Yoichiro HORI,Angew. Chem. Int. Ed.,2012年,Vol.51,Pages 5611-5614
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12Q
C07D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチル化DNAを蛍光標識する方法であって、
標識対象であるメチル化DNAとプローブまたはその塩とを反応させることにより、前記メチル化DNAを蛍光標識することを含み、
前記プローブは、融合タンパク質と化合物とを反応させて得られ、
前記融合タンパク質は、PYP(Photoactive Yellow Protein)またはPYP変異体と、MBD(Methyl CpG-binding domain)またはMBD由来タンパク質とを含む融合タンパク質であり、
前記化合物は、下記式(I)で表される化合物である、メチル化DNAの蛍光標識方法。
【化31】
前記式(I)中、
Zは、下記式(i)であり、
【化32】
前記式(i)中、
m1は、4〜6の整数であり、
前記式(i)中、Yは、下記式(xxxviii)であり、
【化33】
前記式(xxxviii)中、
n5は、1〜3の整数であり、
11は、水素原子または塩素原子であり。
12は、−CH3、または−(CH23SCOCH3であり、
13は、−O−、−S−または−Se−であり、
Xは、下記式(xxvi)であり、
nは、1〜6の整数であり、
【化34】
前記式(xxvi)中、
1〜R5は、同一であっても異なっていてもよく、R1〜R5の1つ以上が、−NO2、−COOH、または−CO−O−CH2−O−(C=O)−CH3であり、残りが水素原子である。
【請求項2】
前記融合タンパク質における前記PYPまたはPYP変異体のアミノ酸配列が、
1)配列表の配列番号2〜7で表されるアミノ酸配列、
2)配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列において、第1番目から第24番目、第1番目から第25番目、第1番目から第26番目、または、第1番目から第27番目のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、及び
3)上記1)または2)のアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列の1〜数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列であって、前記融合タンパク質の前記PYPまたはPYP変異体は、前記式(I)で表される化合物と反応して、式(I)で表される化合物から基Xが脱離した残基と結合するアミノ酸配列である、請求項1記載のメチル化DNAを蛍光標識する方法。
【請求項3】
前記融合タンパク質における前記MBDまたはMBD由来タンパク質のアミノ酸配列が、
1)配列表の配列番号8または9で表されるアミノ酸配列、及び
2)上記1)のアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列の1〜数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列であって、前記融合タンパク質の前記MBDまたはMBD由来タンパク質は、メチル化DNAと結合するアミノ酸配列
である請求項1または2記載のメチル化DNAを蛍光標識する方法。
【請求項4】
前記融合タンパク質を得ることが、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを得ること、前記融合タンパク質を発現可能なプラスミド若しくはベクターを得ること、細胞内で前記融合タンパク質を発現させること、又は、発現した前記融合タンパク質を単離することを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のメチル化DNAを蛍光標識する方法。
【請求項5】
式(I)で表わされる化合物またはその塩を含む請求項1〜4のいずれかの方法に用いるための組成物。
【化35】
前記式(I)中、
Zは、下記式(i)であり、
【化36】
前記式(i)中、
m1は、4〜6の整数であり、
前記式(i)中、Yは、下記式(xxxviii)であり、
【化37】
前記式(xxxviii)中、
n5は、1〜3の整数であり、
11は、水素原子または塩素原子であり。
12は、−CH3、または−(CH23SCOCH3であり、
13は、−O−、−S−または−Se−であり、
Xは、下記式(xxvi)であり、
nは、1〜6の整数であり、
【化38】
前記式(xxvi)中、
m3は、1または2の整数であり、
1〜R5は、同一であっても異なっていてもよく、R1〜R5の1つ以上が、−NO2、−COOH、または−CO−O−CH2−O−(C=O)−CH3であり、残りが水素原子である。
【請求項6】
請求項5に記載の組成物と、プラスミドまたはベクターとを含むメチル化DNAの蛍光標識方法用キットであって、
前記プラスミドまたはベクターは、PYP(Photoactive Yellow Protein)またはPYP変異体と、MBD(Methyl CpG-binding domain)またはMBD由来タンパク質とを含む融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドをクローニングするため又は前記融合タンパク質を発現させるためのプラスミド又はベクターであり、
前記プラスミドまたはベクターは、
1)配列表の配列番号19〜29で表される塩基配列、
2)配列表の配列番号19〜29で表される塩基配列において、第1番目から第72番目、第1番目から第75番目、第1番目から第78番目、または、第1番目から第81番目の塩基が欠失した塩基配列、及び
3)上記1)または2)の塩基配列のいずれかの塩基配列の1〜数個の塩基が欠失、置換、又は付加された塩基配列であって、前記融合タンパク質の前記PYPまたはPYP変異体は、前記式(I)で表される化合物と反応して、式(I)で表される化合物から基Xが脱離した残基と結合し、かつ、前記融合タンパク質の前記MBDまたはMBD由来タンパク質は、メチル化DNAと結合する塩基配列であって、前記融合タンパク質の前記PYPまたはPYP変異体は、前記式(I)で表される化合物と反応して、式(I)で表される化合物から基Xが脱離した残基と結合、かつ、前記融合タンパク質の前記MBDまたはMBD由来タンパク質は、メチル化DNAと結合する塩基配列からなる群から選択される塩基配列を含むプラスミドまたはベクターであるキット。
【化39】
前記式(I)中、
Zは、下記式(i)であり、
【化40】
前記式(i)中、
m1は、4〜6の整数であり、
前記式(i)中、Yは、下記式(xxxviii)であり、
【化41】
前記式(xxxviii)中、
n5は、1〜3の整数であり、
11は、水素原子または塩素原子であり。
12は、−CH3、または−(CH23SCOCH3であり、
13は、−O−、−S−または−Se−であり、
Xは、下記式(xxvi)であり、
nは、1〜6の整数であり、
【化42】
前記式(xxvi)中、
1〜R5は、同一であっても異なっていてもよく、R1〜R5の1つ以上が、−NO2、−COOH、または−CO−O−CH2−O−(C=O)−CH3であり、残りが水素原子である。
【請求項7】
一般式(I)で表わされる化合物またはその塩。
【化43】
前記式(I)中、
Zは、下記式(i)であり、
【化44】
前記式(i)中、
m1は、4〜6の整数であり、
前記式(i)中、Yは、下記式(xxxviii)であり、
【化45】
前記式(xxxviii)中、
n5は、1〜3の整数であり、
11は、水素原子または塩素原子であり。
12は、−CH3、または−(CH23SCOCH3であり、
13は、−O−、−S−または−Se−であり、
Xは、下記式(xxvi)であり、
nは、1〜6の整数であり、
【化46】
前記式(xxvi)中、
m3は、1または2の整数であり、
1〜R5は、同一であっても異なっていてもよく、R1〜R5の1つ以上が、−NO2、−COOH、または−CO−O−CH2−O−(C=O)−CH3であり、残りが水素原子である。
【請求項8】
メチル化DNAを蛍光標識する方法であって、
標識対象であるメチル化DNAとプローブまたはその塩とを反応させることにより、前記メチル化DNAを蛍光標識することを含み、
前記プローブは、融合タンパク質と化合物とを反応させて得られ、
前記融合タンパク質は、PYP(Photoactive Yellow Protein)またはPYP変異体と、MBD(Methyl CpG-binding domain)またはMBD由来タンパク質とを含む融合タンパク質であり、
前記化合物は、下記式(I)で表される化合物である、
メチル化DNAの蛍光標識方法。
【化47】
前記式(I)中、
Zは、下記式(i)であり、
【化48】
前記式(i)中、
m1は、4〜6の整数であり、
前記式(i)、Yは、下記式(xxxviii)であり、
【化49】
前記式(xxxviii)中、
n5は、1〜3の整数であり、
11は、水素原子または塩素原子であり。
12は、−CH3、または−(CH23SCOCH3であり、
13は、−O−、−S−または−Se−であり、
Xは、下記式(xxvi)であり、
nは、1〜6の整数であり、
【化50】
前記式(xxvi)中、
1〜R5は、同一であっても異なっていてもよく、R1〜R5の1つ以上が、−NO2、−COOH、または−CO−O−CH2−O−(C=O)−CH3であり、残りが水素原子である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メチル化DNAを蛍光標識する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAのシトシンのメチル化は、遺伝子発現を制御する重要な化学修飾反応である。この化学修飾は、発生、分化、老化、免疫反応の多岐に渡る生命現象に関わることが知られている。DNAメチル化の異常は、癌や生活習慣病、中枢神経疾患とも深い関わりがあることが知られており、DNAメチル化を触媒する酵素の阻害剤は、癌の治療薬となることが分かり、大きな脚光を浴びている。現在、DNAのメチル化を生細胞で検出する技術は、蛍光蛋白質や合成蛍光プローブによりラベル化したタグ蛋白質を用いた技術に限られている(例えば特許文献1)。
【0003】
例えば、メチル化DNAに結合するMethylCpG−binding domain (MBD)に蛍光蛋白質や合成蛍光プローブでラベル化したタグ蛋白質を融合させ、その融合タンパク質の局在を観測する手法が知られている(非特許文献1)。
【0004】
【化1】
【0005】
前記スキーム中、「GFP」は、緑色蛍光蛋白質(Green Fluorescent Protein)を意味する。
【0006】
一方、この手法では、メチル化DNAに結合していない融合タンパク質からも蛍光が観測されるため、観測される蛍光の分布がメチル化DNAの分布と本当に一致しているか判別できない。このため、遊離の状態では蛍光を発せず、かつ、メチル化DNAに結合すると蛍光を発する分子の開発が必要とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−68775号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】S.Kobayakawaら、Genes Cells, 2007年、12巻、p.447
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、メチル化DNAに特異的に結合し、かつ、高い蛍光強度を発する、メチル化DNAを蛍光標識する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、メチル化DNAを蛍光標識する方法であって、
標識対象であるメチル化DNAとプローブまたはその塩とを反応させることにより、前記メチル化DNAを蛍光標識することを含み、
前記プローブは、融合タンパク質と化合物とを反応させて得られ、
前記融合タンパク質は、PYP(Photoactive Yellow Protein)またはPYP変異体と、MBD(Methyl CpG-binding domain)またはMBD由来タンパク質とを含む融合タンパク質であり、
前記化合物は、下記式(I)で表される化合物である。
【0011】
【化2】
【0012】
前記式(I)中、
Zは、下記式(i)〜(x)から選択され、
【0013】
【化3】
【0014】
【化4】
【0015】
前記式(i)〜(v)中、
m1は、4〜6の整数であり、
前記式(vi)〜(x)中、
m2は、1または2の整数であり、
前記式(i)〜(x)中、Yは、下記式(xxxi)〜(xxxviii)から選択され、
【0016】
【化5】
【0017】
前記式(xxxvi)中、
n4は、0または1の整数であり、
前記式(xxxviii)中、
n5は、1〜3の整数であり、
11は、水素原子または塩素原子であり。
12は、−CH3、または−(CH23SCOCH3であり、
13は、−O−、−S−または−Se−であり、

Xは、下記式(xxi)〜(xxviii)から選択され、
nは、1〜6の整数であり、
【0018】
【化6】
【0019】
前記式(xxi)〜(xxviii)中、
m3は、1または2の整数であり、
1〜R5は、同一であっても異なっていてもよく、R1〜R5の1つ以上が、−NO2、−COOH、または−CO−O−CH2−O−(C=O)−CH3であり、残りが水素原子である。
【0020】
また本発明は、メチル化DNAを蛍光標識する方法であって、
標識対象であるメチル化DNAとプローブまたはその塩とを反応させることにより、前記メチル化DNAを蛍光標識することを含み、
前記プローブは、融合タンパク質と化合物とを反応させて得られ、
前記融合タンパク質は、PYP(Photoactive Yellow Protein)またはPYP変異体と、MBD(Methyl CpG-binding domain)またはMBD由来タンパク質とを含む融合タンパク質であり、
前記化合物は、DNA結合色素部分を含み、前記DNA結合色素部分は、前記MBDまたはMBD由来タンパク質部分がメチル化DNAと結合した場合前記DNA結合色素部分がメチル化DNAと結合することにより蛍光を発する化合物である、
メチル化DNAの蛍光標識方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明のメチル化DNAを蛍光標識する方法は、目的とするメチル化DNAを標識した場合にのみ、強い蛍光を示す。そのため、メチル化DNAを標識していないプローブを除去しなくとも、蛍光のバックグラウンドを最小限に抑えることができる。従って、精度の高い蛍光観察を行うことが可能である。また、未反応のプローブを除去する必要がないので、生体内での生体分子を観察する際に適する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、YOCNB−PYP3R−MBD1とメチル化DNAの反応後の蛍光画像を示す。
図2図2は、YOCNB−PYPWT−MBD1とメチル化DNAの反応後の蛍光画像を示す。
図3図3は、化合物YOCNBの蛍光強度を示す。
図4図4は、YOCNB−PYPWT−MBD1またはYOCNB−PYP3R−MBD1を含むプローブによる蛍光強度変化を示す。
図5図5は、YOCNBを添加した細胞の蛍光像を示す。
図6図6は、pcDNA3.1(+)v2−HA−PYP3R−MBD1(1−112)を導入した細胞の蛍光像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
PYP(Photoactive Yellow Protein)は、紅色光合成細菌Ectothiorhodospira halophila(Halorhodospira halophila)から単離された光受容タンパク質である。この紅色光合成細菌は真正細菌であるため、PYPを細胞内で用いた際、PYP由来の内在性タンパク質が蛍光標識に悪影響を与える可能性は低い。また、このPYPは、125のアミノ酸残基(配列表の配列番号1)により構成されており、比較的小さな(14kDa)タンパク質である。このPYPの69番目のシステイン残基に発色団であるp−クマル酸がチオエステル結合を介して結合する。PYPにはp−クマル酸以外、様々な類似体が結合することが知られている(例えば、以下のスキームに示す化合物。例えばCordgunkeら、Proc. Natl. Acad. Sci, USA, 1998, 95, pp7396-7401、Koonら、The Journal of Biological Chemistry, 1996, 271, pp. 31949-31956を参照)。
【0024】
【化7】
【0025】
本発明の標識方法においては、標識対象であるメチル化DNAと本発明のプローブまたはその塩とを反応させることにより、前記メチル化DNAを蛍光標識することを含む。本発明者らは、前記プローブとして、融合タンパク質と化合物とを反応させて得られたプローブを開発した。前記融合タンパク質は、前記PYPまたはPYP由来のタンパク質と、MBDまたはMBD由来タンパク質とを含む融合タンパク質である。
【0026】
【化8】
【0027】
前記化合物は、DNA結合色素部分と、PYP結合部分と、脱離基部分を含む。化合物は式(I)で表され、式中、Zで表される部分が、DNA結合色素部分、Xで表される部分が、脱離基部分、残りの部分がPYP結合部分である。前記DNA結合色素部分は、DNAと結合すると、蛍光を発するが、DNA結合色素単独では、DNA結合能力が低い。前記プローブに含まれているMBDまたはMBD由来タンパク質部分がメチル化DNAと結合した場合、前記プローブに含まれている前記DNA結合色素部分は、メチル化DNAに近接することができる。そうすると、前記DNA結合色素部分は、メチル化DNAと結合し、蛍光を発するのである。従って、前記プローブがメチル化DNAに結合していない場合、前記DNA結合色素部分は、蛍光を発しない。そのため、前記プローブは、メチル化DNAに結合しない場合は蛍光を発せず、一方、メチル化DNAに結合した場合には、蛍光を発するという効果を奏することができる。
【0028】
PYPのアミノ酸配列としては、例えば、Halorhodospira halophila由来のPYPのアミノ酸配列、すなわち、配列表の配列番号10で表されるアミノ酸配列が挙げられる。PYPのアミノ酸配列としては、他の由来を有するものでもよく、NCBIGene/Nucleotide(mRNA)/Protein data baseに記載のアミノ酸配列を利用してもよい。PYPをコードするポリヌクレオチドとしては、例えば、Halorhodospira halophila由来のPYPの塩基配列、すなわち、配列表の配列番号1で表される塩基配列が挙げられる。PYPの塩基配列としては、他の由来を有するものでもよく、NCBIGene/Nucleotide(mRNA)/Protein data baseに記載の塩基配列を利用してもよい。
【0029】
PYP変異体のアミノ酸配列としては、PYPのアミノ酸配列のうち、酸性アミノ酸のいずれか1〜5個をアルギニンに置き換えたものが挙げられる。PYP変異体のアミノ酸配列としては、例えば、Halorhodospira halophila由来のPYPのアミノ酸配列、すなわち、配列表の配列番号10で表されるアミノ酸配列の酸性アミノ酸のいずれか1〜3個をアルギニンに置き換えた、例えば、配列表の配列番号11〜16で表されるアミノ酸配列が挙げられる。具体的には、配列表の配列番号10で表されるアミノ酸配列の酸性アミノ酸の第53番目のAsp(配列番号11)、第65番目のAsp(配列番号12)、第71番目のAsp(配列番号13)、第74番目のGlu(配列番号14)、または第97番目のAsp(配列番号15)をArgに変異させたPYP変異体のアミノ酸配列、第71番目のAsp、第74番目のGlu、及び第97番目のAspをArgに変異させたPYP変異体のアミノ酸配列(配列番号16)が挙げられる。PYP変異体をコードするポリヌクレオチドとしては、PYPのアミノ酸配列のうち、酸性アミノ酸のいずれか1〜5個をアルギニンに置き換えたものの塩基配列が挙げられる。PYP変異体をコードするポリヌクレオチドとしては、例えば、配列表の配列番号2〜7で表される塩基配列が挙げられる。
【0030】
MBDのアミノ酸配列としては、例えば、Homo Sapiens由来のMBD1に含まれるアミノ酸配列、すなわち、配列表の配列番号17および18で表されるアミノ酸配列が挙げられ、MBDをコードするポリヌクレオチドとしては、例えば、Homo Sapiens由来のMBD1に含まれる塩基配列、すなわち、配列表の配列番号8および9で表される塩基配列が挙げられる。具体的には、配列番号8で表される塩基配列は、メチル化DNAに結合するドメイン(MBD)の塩基配列であり、配列番号9で表される塩基配列は、MBDドメインに加え、核移行シグナル配列の部分を含む塩基配列である。
【0031】
PYPもしくはPYP変異体およびMBDもしくはMBD由来タンパク質については、前記と異なる他の由来を有するものでもよく、NCBIGene/Nucleotide(mRNA)/Protein data baseに記載のアミノ酸配列を利用してもよい。例えば、MBDについては、以下のアクセッション番号が挙げられる。
【0032】
【表1】
【0033】
融合タンパク質は、前記のように、PYP(Photoactive Yellow Protein)またはPYP変異体と、MBD(Methyl CpG-binding domain)またはMBD由来タンパク質とを含む。PYP(Photoactive Yellow Protein)またはPYP変異体と、MBD(Methyl CpG-binding domain)またはMBD由来タンパク質とは、リンカーで結合されてもよい。このリンカーとしては、グリシン、セリン等のアミノ酸0〜30個から構成されたペプチドが挙げられる。
【0034】
融合タンパク質を発現可能なプラスミド若しくはベクターを得るには、標識対象タンパク質をコードするポリヌクレオチドを用い、通常の方法に従い、そのようなプラスミド若しくはベクターを調製することができる。本発明において、ベクターは、ポリヌクレオチド、好ましくは、融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを細胞内に導入するためのポリヌクレオチドをいい、プラスミドを含むものをいう。なお、ベクターは、プラスミドベクターであってもよく、ウイルスベクターであってもよい。融合タンパク質を発現可能とする配列は、当業者であれば、導入する細胞の種類に応じて適宜選択しうる。プラスミド及びベクターは、融合タンパク質の発現を調節する配列(例えば、発現誘導プロモーターや制御配列)を含んでもよい。
【0035】
細胞内で融合タンパク質を発現させるには、融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドまたは、融合タンパク質を発現可能なプラスミド若しくはベクターを用いて、通常の方法に従って行うことができる。
【0036】
発現した融合タンパク質を単離するには、通常の方法に従って行うことができる。
【0037】
本発明の蛍光標識する方法において用いられる式(I)の化合物は、前記のように、
Zは、前記式(i)〜(x)から選択され、
前記式(i)〜(v)中、
m1は、4〜6の整数であり、
前記式(vi)〜(x)中、
m2は、1または2の整数であり、
前記式(i)〜(x)中、Yは、前記式(xxxi)〜(xxxviii)から選択され、
前記式(xxxvi)中、
n4は、0または1の整数であり、
前記式(xxxviii)中、
n5は、1〜3の整数であり、
11は、水素原子または塩素原子であり。
12は、−CH3、または−(CH23SCOCH3であり、
13は、−O−、−S−または−Se−であり、
Xは、前記式(xxi)〜(xxviii)から選択され、
nは、1〜6の整数であり、
前記式(xxi)〜(xxviii)中、
m3は、1または2の整数であり、
1〜R5は、同一であっても異なっていてもよく、R1〜R5の1つ以上が、−NO2、−COOH、または−CO−O−CH2−O−(C=O)−CH3であり、残りが水素原子である。
【0038】
式(I)の化合物の塩は、酸または塩基との塩であってもよい。そのような塩としては、例えばナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属との塩、アンモニウム塩などの無機塩基との塩、及びトリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N’−ジベンジルエチレンアミンなどの有機アミンとの塩、及び塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸などの無機酸との塩、及びギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、マレイン酸、酒石酸などの有機カルボン酸との塩、及びメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などのスルホン酸付加塩、及びアルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸などの塩基性又は酸性アミノ酸といった塩基との塩又は酸付加塩が挙げられる。
【0039】
式(I)の化合物は、溶媒和物の形をとることもありうるが、これも本発明の範囲に含まれる。溶媒和物としては、好ましくは、水和物及びエタノール和物が挙げられる。
【0040】
本発明の蛍光標識する方法において用いられる式(I)の化合物は、従来技術における公知文献を参考に自家製造してもよいし、市販で入手してもよい。
【0041】
本発明の蛍光標識する方法において用いられる、融合タンパク質を得ることは、例えば、融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを得ること、融合タンパク質を発現可能なプラスミド若しくはベクターを得ること、細胞内で融合タンパク質を発現させること、又は、発現した融合タンパク質を単離することを含んでもよい。融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、MBDまたはMBD由来タンパク質をコードするポリヌクレオチド、PYPまたはPYP変異体をコードするポリヌクレオチド等を用い、通常の方法に従い、融合タンパク質を発現可能なプラスミド若しくはベクターを調製することができる。
【0042】
本発明のタンパク質を蛍光標識する方法において、前記融合タンパク質と、式(I)の化合物とを反応させる工程は、融合タンパク質を発現する細胞内や生体内で行ってもよく、単離した融合タンパク質を用いてin vitroで行ってもよい。標識をin vitroで行う場合、例えば、緩衝液中(pH6.8〜8.5)で20〜37℃の温度で行ってもよい。
【0043】
本発明のメチル化DNAを蛍光標識する方法において、融合タンパク質におけるPYPまたはPYP変異体のアミノ酸配列は、
1)配列表の配列番号2〜7で表されるアミノ酸配列、
2)配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列において、第1番目から第24番目、第1番目から第25番目、第1番目から第26番目、または、第1番目から第27番目のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、
3)上記1)または2)のアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列の1〜数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列であって、前記融合タンパク質の前記PYPまたはPYP変異体は、前記式(I)で表される化合物と反応して、式(I)で表される化合物から基Xが脱離した残基と結合するアミノ酸配列、及び、
4)上記1)または2)のアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、前記融合タンパク質の前記PYPまたはPYP変異体は、前記式(I)で表される化合物と反応して、式(I)で表される化合物から基Xが脱離した残基と結合するアミノ酸配列であるのが好ましい。
【0044】
本発明のメチル化DNAを蛍光標識する方法において、前記融合タンパク質における前記MBDまたはMBD由来タンパク質のアミノ酸配列は、
1)配列表の配列番号8または9で表されるアミノ酸配列、
2)上記1)のアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列の1〜数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列であって、前記融合タンパク質の前記MBDまたはMBD由来タンパク質は、メチル化DNAと結合するアミノ酸配列、及び、
3)上記1)のアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、前記融合タンパク質の前記MBDまたはMBD由来タンパク質は、メチル化DNAと結合するアミノ酸配列であるのが好ましい。
【0045】
本発明のメチル化DNAを蛍光標識する方法においては、前記融合タンパク質を得ること、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを得ること、前記融合タンパク質を発現可能なプラスミド若しくはベクターを得ること、細胞内で前記融合タンパク質を発現させること、又は、発現した前記融合タンパク質を単離することを含むのが好ましい。
【0046】
また、本発明は、式(I)で表わされる化合物またはその塩を含む前記本発明の方法に用いるための組成物である。
【0047】
また、本発明は、式(I)で表わされる化合物またはその塩と、前記プローブとを含む前記本発明の方法に用いるための組成物である。前記プローブは、融合タンパク質と化合物とを反応させて得られ、前記融合タンパク質は、PYP(Photoactive Yellow Protein)またはPYP変異体と、MBD(Methyl CpG-binding domain)またはMBD由来タンパク質とを含む融合タンパク質であり、前記化合物は、下記式(I)で表される化合物である。
【0048】
また、本発明は、前記組成物と、プラスミドまたはベクターとを含むメチル化DNAの蛍光標識方法用キットである。
前記プラスミドまたはベクターは、PYP(Photoactive Yellow Protein)またはPYP変異体と、MBD(Methyl CpG-binding domain)またはMBD由来タンパク質とを含む融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドをクローニングするため又は前記融合タンパク質を発現させるためのプラスミド又はベクターである。
【0049】
前記キットにおいて、
好ましくは、前記プラスミドまたはベクターは、
PYP(Photoactive Yellow Protein)またはPYP変異体と、MBD(Methyl CpG-binding domain)またはMBD由来タンパク質とを、リンカー(グリシン、セリン等のアミノ酸0〜30個から構成されたペプチド)で結合された融合タンパク質であり、
前記プラスミドまたはベクターは、
1)配列表の配列番号19〜29で表される塩基配列、
2)配列表の配列番号19〜29で表される塩基配列において、第1番目から第72番目、第1番目から第75番目、第1番目から第78番目、または、第1番目から第81番目の塩基が欠失した塩基配列、
3)上記1)または2)の塩基配列のいずれかの塩基配列の1〜数個の塩基が欠失、置換、又は付加された塩基配列であって、前記融合タンパク質の前記PYPまたはPYP変異体は、前記式(I)で表される化合物と反応して、式(I)で表される化合物から基Xが脱離した残基と結合し、かつ、前記融合タンパク質の前記MBDまたはMBD由来タンパク質は、メチル化DNAと結合する塩基配列、及び、
4)上記1)または2)の塩基配列のいずれかの塩基配列と70%以上の相同性を有する塩基配列であって、前記融合タンパク質の前記PYPまたはPYP変異体は、前記式(I)で表される化合物と反応して、式(I)で表される化合物から基Xが脱離した残基と結合、かつ、前記融合タンパク質の前記MBDまたはMBD由来タンパク質は、メチル化DNAと結合する塩基配列からなる群から選択される塩基配列を含むプラスミドまたはベクターである。
【0050】
本発明のメチル化DNAの蛍光標識方法用キットは、さらに、前記プラスミド又はベクターを導入するための宿主細胞、キットの取り扱い説明書を含むのが好ましい。
【0051】
本発明の方法、組成物、およびキットにおいて、
式(I)の化合物は、Zが、前記式(i)で表されるのが好ましい。
【0052】
また、本発明の方法、組成物、およびキットにおいて、式(I)の化合物は、Zが、前記式(i)で表され、Yが、式(xxxviii)で表されるのが好ましい。
【0053】
また、本発明の方法、組成物、およびキットにおいて、式(I)の化合物は、Xが、式(xxvi)で表されるのが好ましい。
【0054】
また、本発明の方法、組成物、およびキットにおいて、式(I)の化合物は、Xが、式(xxvi)で表され、Zが、前記式(i)で表されるのが好ましい。
【0055】
また、本発明の方法、組成物、およびキットにおいて、式(I)の化合物は、Xが、式(xxvi)で表され、Zが、前記式(i)で表され、Yが、式(xxxviii)で表されるのが好ましい。
【0056】
また、本発明は、一般式(I)で表わされる化合物またはその塩である。
【0057】
【化9】
【0058】
前記式(I)中、
Zは、下記式(i)〜(x)から選択され、
【0059】
【化10】
【0060】
【化11】
【0061】
前記式(i)〜(v)中、
m1は、4〜6の整数であり、
前記式(vi)〜(x)中、
m2は、1または2の整数であり、
前記式(i)〜(x)中、Yは、下記式(xxxi)〜(xxxviii)から選択され、
【0062】
【化12】
【0063】
前記式(xxxvi)中、
n4は、0または1の整数であり、
前記式(xxxviii)中、
n5は、1〜3の整数であり、
11は、水素原子または塩素原子であり。
12は、−CH3、または−(CH23SCOCH3であり、
13は、−O−、−S−または−Se−であり、

Xは、下記式(xxi)〜(xxviii)から選択され、
nは、1〜6の整数であり、
【0064】
【化13】
【0065】
前記式(xxi)〜(xxviii)中、
m3は、1または2の整数であり、
1〜R5は、同一であっても異なっていてもよく、R1〜R5の1つ以上が、−NO2、−COOH、または−CO−O−CH2−O−(C=O)−CH3であり、残りが水素原子である。
【0066】
式(I)の化合物は、Zが、前記式(i)で表されるのが好ましい。
【0067】
また、式(I)の化合物は、Zが、前記式(i)で表され、Yが、式(xxxviii)で表されるのが好ましい。
【0068】
また、式(I)の化合物は、Xが、式(xxvi)で表されるのが好ましい。
【0069】
また、式(I)の化合物は、Xが、式(xxvi)で表され、Zが、前記式(i)で表されるのが好ましい。
【0070】
また、式(I)の化合物は、Xが、式(xxvi)で表され、Zが、前記式(i)で表され、Yが、式(xxxviii)で表されるのが好ましい。
【0071】
また、式(I)の化合物としては、以下の式で表わされる化合物YOCNBがより好ましい。これらの好ましい式(I)の化合物は、本発明におけるメチル化DNAを蛍光標識する方法、組成物等においても好ましく用いられる。
【0072】
【化14】
【0073】
式(I)の化合物は、例えば、下記スキームに従い、製造することができる。なお、出発原料である式(III)の化合物、式(IV)の化合物および式(V)の化合物は、従来技術における公知文献を参考に自家製造してもよいし、購入してもよい。
【0074】
【化15】
【0075】
前記式(IV)中、Halはハロゲン原子を意味する。
【0076】
また、本発明は、メチル化DNAを蛍光標識する方法であって、
標識対象であるメチル化DNAとプローブまたはその塩とを反応させることにより、前記メチル化DNAを蛍光標識することを含み、
前記プローブは、融合タンパク質と化合物とを反応させて得られ、
前記融合タンパク質は、PYP(Photoactive Yellow Protein)またはPYP変異体と、MBD(Methyl CpG-binding domain)またはMBD由来タンパク質とを含む融合タンパク質であり、
前記化合物は、DNA結合色素部分を含み、前記DNA結合色素部分は、前記MBDまたはMBD由来タンパク質部分がメチル化DNAと結合した場合前記DNA結合色素部分がメチル化DNAと結合することにより蛍光を発する化合物である、
メチル化DNAの蛍光標識方法である。
【0077】
前記本発明の方法において、前記DNA結合色素部分は、DNAと結合すると、蛍光を発するが、DNA結合色素単独では、DNA結合能力が低い。前記プローブに含まれているMBDまたはMBD由来タンパク質部分がメチル化DNAと結合した場合、前記プローブに含まれている前記DNA結合色素部分は、メチル化DNAに近接することができる。そうすると、前記DNA結合色素部分は、メチル化DNAと結合し、蛍光を発するのである。従って、前記プローブがメチル化DNAに結合していない場合、前記DNA結合色素部分は、蛍光を発しない。そのため、前記プローブは、メチル化DNAに結合しない場合は蛍光を発せず、一方、メチル化DNAに結合した場合には、蛍光を発するという効果を奏することができる。
【0078】
また、DNAメチル化酵素の阻害剤は、抗癌薬として注目されている。一方、阻害剤のDNAメチル化阻害活性を生細胞においてハイスループットスクリーニングすることは、従来、適した技術がなかったため困難であった。本発明のメチル化DNAを蛍光標識する方法を用いれば、DNAメチル化阻害が起こると、プローブの蛍光が減少することが考えられる。このため、本発明のメチル化DNAを蛍光標識する方法により、生細胞レベルで蛍光強度の増減を検出するだけで容易にDNAメチル化阻害活性を調べることができる。これは、分子生物学研究において有用なだけではなく、製薬企業での創薬プロセスにおいても有用である。
【0079】
従って、本発明は、DNAメチル化阻害剤を見出すためのスクリーニング方法であり、前記スクリーニング方法は、スクリーニングされるべき化合物とDNAとを反応させた反応液に、本発明のプローブを反応させ、得られるDNAのメチル化の程度を判断することにより、前記スクリーニングされるべき化合物のDNAメチル化阻害活性を評価する工程を含む。
【0080】
また、本発明は、本発明のプローブを用いたDNAのメチル化検出方法である。前記検出方法は、本発明のプローブと被検体であるDNAとを反応させ、DNAのメチル化程度を判断することにより、前記被検体であるDNAのメチル化を検出する工程を含む。
【0081】
[実施例]
本明細書の記載において、以下の略語を使用する。
HOBt:1−ヒドロキシベンゾトリアゾール
DMF:ジメチルホルムアミド
NBS:N−ブロモスクシンイミド
AIBN:アゾビスブチロニトリル
TsCl:トルエンスルホニルクロライド
Boc:t−ブトキシカルボニル
HBTU:O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート
DMAP:N,N−ジメチルアミノピリジン
PyBOP:ヘキサフルオロリン酸(ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ)トリピロリジノホスホニウム
HPLC:高速液体クロマトグラフィー
【0082】
[化合物および機器]
化合物は、入手できる最も高いグレードのものであり、東京化成工業株式会社、和光純薬工業株式会社、およびシグマ−アルドリッチジャパン株式会社から購入して、さらなる精製を行わずに用いた。
【0083】
NMRスペクトルは、1H−NMR用には400MHzで、13C−NMR用には100.4MHzで、テトラメチルシランを内部標準として用い、JEOL JNM−AL400装置(日本電子株式会社)で測定した。質量スペクトル(EI)は、CBP1−M25−025カラムを備えたShimazu GCMS−QP2000(株式会社島津製作所)で電子衝撃モード(70eV)で操作して測定した。高分解能質量分析(HRMS)は、JEOL JMS−DX303(日本電子株式会社)測定した。ESI−TOF MSは、Waters LCT−Premier XE(日本ウォーターズ株式会社)で測定した。蛍光スペクトルは、Nanolog(ホリバ・ジョバン・イボン社)を用いて測定した。スリット幅は励起および放射の両方について3.0nmであった。光電子増倍管電圧は700Vであった。蛍光測定前にサンプルはDMSO(生化学用グレード、和光純薬工業株式会社)に溶解させた。シリカゲルカラムクロマトグラフィーは、BW−300(富士シリシア化学株式会社)を用いて行った。蛍光イメージングは、AE−6935B VISIRAYS−Bを用いて視覚化した。
【実施例1】
【0084】
化合物YOCNBの製造
下記化合物YOCNBを下記スキームに従い製造した。
【0085】
【化16】
【0086】
【化17】
【0087】
(i)1−ブロモ−4−(メトキシメトキシ)−2−メチルベンゼン(1)の製造
【0088】
【化18】
【0089】
フレームドライ、アルゴン置換した500mL三口フラスコに、4−ブロモ−3−メチルフェノール(3.01g、16.1mmol)、無水ジクロロメタン(180mL)、ジメトキシメタン(5.0mL、56.5mmol)、およびP25(7.31g、51.5mmol)を加えて、得られた混合物を室温で3時間撹拌した。撹拌後、前記混合物へNa2CO3を加えてろ過後、ろ液から溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、標題の化合物(1)を2.80g(12.1mmol、収率75%)得た。
【0090】
1H NMR (400 MHz, CDCl3)δ2.36 (s, 3H, c), 3.45 (s, 3H, a), 5.13 (s, 2H, b), 6.75 (dd, 1H, Jef = 8.4 Hz, Jde = 2.8 Hz, e), 6.93 (d, 1H, Jde = 2.8 Hz, d), 7.39 (d, Jef =8.8 Hz, f)
【0091】
(ii)1−ブロモ−2−(ブロモメチル)−4−(メトキシメトキシ)ベンゼン(2)の製造
【0092】
【化19】
【0093】
フレームドライ、アルゴン置換した300mL三口フラスコに化合物(1)(2.80g、12.1mmol)、NBS(2.81g、15.8mmol)、AIBN(1.00g、6.10mmol)およびCCl4(150mL)を加えて、得られた混合物を95℃で5時間還流した。還流終了後、前記混合物をろ過し、ろ液から溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、標題の化合物(2)を2.31g(7.44mmol、収率61%)得た。
【0094】
1H NMR (400 MHz, CDCl3)δ3.47 (s, 3H, f), 4.55 (s, 2H, a), 5.16 (s, 2H, e), 6.88 (dd, 1H, Jbc = 3.2 Hz, Jcd =2.8 Hz, b), 7.15 (d, 1H, Jbc =2.8Hz, b), 7.45 (d, 1H, Jcd = 8.8 Hz, d)
【0095】
(iii)14−ヒドロキシ−3,6,9,12−テトラオキサテトラデシル 4−メチルベンゼンスルホネート(3)の製造
【0096】
【化20】
【0097】
100 mLナスフラスコにペンタエチレングリコール(4.8251g、20.25mmol)、およびテトラヒドロフラン(20mL)を加えて、そこへ2NのNaOH水溶液を8mL(pH=12)滴下した後、得られた混合物を0℃で1時間撹拌した。その後、前記混合物へ、TsCl(872.10mg、4.574mmol)のテトラヒドロフラン(15mL)溶液を滴下漏斗で40分かけて滴下した。反応終了後、前記混合物へ水(100mL)およびジクロロメタン(100mL)を加えて、ジクロロメタン(100mL)で3回抽出した。得られた有機相を合わせて、水(100mL)で2回、ついで飽和NaCl水溶液(100mL)で1回洗浄し、無水硫酸ナトリウムを加えて、ろ過をした後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、標題の化合物(3)を1.510g(3.848mmol、収率84%)得た。
【0098】
1H NMR (400 MHz, CDCl3)δ2.45 (s, 3H, a), 3.59-3.82 (m, 18H, e, f, g, h, i, j, k, l, m), 4.16 (t, 2H, d), 7.34 (d, 2H, Jbc = 8.0 Hz, b), 7.80 (d, 2H, Jbc = 8.4 Hz, c)
MS (ESI+) [M+H]+計算値 393.16、測定値 393.02
【0099】
(iv)14−アジド−3,6,9,12−テトラオキサテトラデカン−1−オール(4)の製造
【0100】
【化21】
【0101】
フレームドライ、アルゴン置換した100mL三口フラスコに化合物(3)(1.5102g、3.848mmol)、NaN3(1.235g、19.02mmol)、および脱水DMF(25mL)を加えて60℃で4時間撹拌した。溶媒を留去した後、酢酸エチル(40mL)および水(40mL)を加えて、酢酸エチル(40mL)で20回抽出し、飽和NaCl水溶液(40mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムを加えてろ過をした後、溶媒を留去した。シリカゲルクロマトグラフィーにより精製を行い、化合物(4)を713.7mg(2.712mmol、収率70%)得た。
【0102】
1H NMR (400 MHz, CDCl3)δ3.40 (t, 2H, J = 5.2 Hz, a), 3.60-3.77 (m, 18H, b, c, d, e, f, g, h, i)
MS (ESI+)[M+Na]+計算値286.14、測定値 286.07
【0103】
(v)tert−ブチル (14−ヒドロキシ−3,6,9,12−テトラオキサテトラデシル)カルバメート(5)の製造
【0104】
【化22】
【0105】
50mL二口フラスコに酢酸エチル(15mL)に溶かした化合物(4)(315.89mg、1.200mmol)、(Boc)2O(418.78mg、1.919mmol)、トリエチルアミン(200μL、1.440mmol)、およびPd/C(38.29mg)を加えて、得られた混合物を室温で29時間撹拌した。前記混合物をろ過後、ろ液から溶媒を留去した。得られた残渣をカラムクロマトグラフィーにより精製し、標題の化合物(5)を375.0mg(1.112mmol、収率93%)得た。
【0106】
1H NMR (400 MHz, CDCl3)δ1.45 (s, 9H, a), 3.32 (m, 2H, b), 3.53 (t, 2H, Jjk = 5.2 Hz, k), 3.61-3.73 (m, 16H, c, d, e, f, g, h, i, j)
13C NMR (100 MHz, CDCl3)δ 28.2, 40.2, 61.3, 70.0, 70.2, 70.3, 78.9, 156.0
HRMS (Fab+)[M+H]+計算値 338.2173、測定値 338.2178
【0107】
(vi)tert−ブチル−(1−(2−ブロモ−5−(メトキシメトキシ)フェニル)−2,5,8,11,14−ペンタオキサヘキサデカン−16−イル)カルバメート(6)の製造
【0108】
【化23】
【0109】
フレームドライ、アルゴン置換した50mLの三口フラスコにNaH(190.69mg、4.767mmol)、および脱水DMF(18mL)を加えて、得られた混合物を0℃で2時間撹拌した。その後、前記混合物へ化合物(5)(373.2mg、1.107mmol)および化合物(2)(344.43mg、1.111mmol)の無水DMF(5.5mL)溶液を加えて0℃で2時間撹拌した。前記混合物から溶媒を留去した後、得られた残渣へ水(50mL)およびジクロロメタン(50mL)を加えて、ジクロロメタン(50mL)で3回抽出した。得られた有機相を合わせて、水(50mL)で1回、次いで飽和NaCl水溶液(50mL)で1回洗浄し、無水硫酸ナトリウムを加えて、ろ過をした後、溶媒を留去した。得られた残渣をカラムクラフトグラフィーにより精製し、標題の化合物(6)を274.35mg(0.485mmol、収率44%)得た。
【0110】
1H NMR (400 MHz, CDCl3)δ 1.44 (s, 9H, r), 3.32 (t, 2H, p), 3.46 (s, 3H, a), 3.52-3.75 (m, 18H, g, h, i, j, k, l, m, n, o), 4.58 (s, 2H, f), 5.19 (s, 2H, b), 6.84 (dd, 1H, Jcd = 2.8 Hz, Jde = 8.4 Hz, d), 7.20 (d, 1H, Jcd = 2.8 Hz, c), 7.40 (d, 1H, Jde = 8.4Hz, e)
13C NMR (100 MHz, CDCl3)δ28.3, 40.2, 60.0, 70.1, 70.5, 70.6, 72.3, 94.3, 113.9, 116.6, 116.8, 133.0, 138.7, 156.0, 156.6
HRMS (Fab+)[M+H]+計算値 566.1959、測定値 566.1966
【0111】
(vii)(E)−メチル−3−(2−(20,20−ジメチル−18−オキソ−2,5,8,11,14,19−ヘキサオキサ−17−アザヘニコシル)−4−(メトキシメトキシ)フェニル)アクリレート(7)の製造
【0112】
【化24】
【0113】
マイクロウェーブ用シリンジに化合物(6)(104.12mg、0.184mmol)、アクリル酸メチル(29.37mg、0.341mmol)、酢酸パラジウム(7.31mg、0.033mmol)、フッ化カリウム(36.87mg、0.635mmol)、トリフェニルホスフィン(15.21mg、0.058mmol)、トリエチルアミン(140μL、5.43mmol)およびDMF(10mL)を加え、得られた混合物をマイクロウェーブ(150W、170℃)で3時間撹拌した。反応終了後、前記混合物をろ過し、ろ液から溶媒を留去した。得られた残渣に酢酸エチル(25mL)および水(25mL)を加え、生じた溶液を酢酸エチル(25mL)で3回抽出した。得られた有機相を合わせて、水(50mL)で2回、次いで飽和NaCl水溶液(50mL)で1回洗浄し、無水硫酸ナトリウムを加えてろ過をした後、溶媒を留去した。得られた残渣をカラムクロマトグラフィーにより精製し、標題の化合物(7)を19.52mg(0.0342mmol、収率19%)得た。
【0114】
1H NMR (400 MHz, CDCl3)δ 1.44 (s, 9H, u), 3.31 (m, 2H, s), 3.47 (s, 3H, a), 3.51-3.70 (m, 18H, j, k, l, m, n, o, p, q, r), 3.80 (s, 3H, h), 4.66 (s, 2H, i), 5.20 (s, 2H, b), 6.29 (d, 1H, Jfg = 15.6 Hz, g), 6.98 (dd, 1H, Jcd = 2.8 Hz, Jde = 8.6 Hz, d), 7.10 (d, 1H, Jcd = 2.8 Hz, c), 7.55 (d, 1H, Jde = 8.4Hz, e), 7.92 (d, 1H, Jfg = 15.6 Hz, f)
13C NMR (100 MHz, CDCl3)δ28.4, 40.3, 51.6, 56.1, 69.9, 70.2, 70.5, 70.8, 79.1, 94.1, 115.6, 116.7, 117.5, 126.8, 128.2, 139.1, 141.2, 156.0, 158.6, 167.5
HRMS (Fab+) [M+H]+計算値 572.3065、測定値 572.3065
[M+Na]+計算値 594.2885、測定値 594.2885
【0115】
(viii)(E)−S−(4−(2−((4−ニトロベンジル)アミノ)−2−オキソエチル)フェニル)−3−(2−(20,20−ジメチル−18−オキソ−2,5,8,11,14,19−ヘキサオキサ−17−アザヘニコシル)−4−(メトキシメトキシ)フェニル)プロプ−2−エンチオエート(8)の製造
【0116】
【化25】
【0117】
化合物(7)(不純物を含む)(67.96mg)をDMF(1.0mL)に溶解させ、そこへ、2NのNaOH水溶液をpHが12になるまで加えた。得られた混合物を室温で9時間撹拌した。その後、前記混合物へ酢酸エチル(10mL)加え、飽和NaHCO3水溶液(10mL)で3回抽出した。抽出後の水層に2Nの塩酸をpHが2になるまで滴下し、この溶液を酢酸エチル(30mL)で3回抽出した。合わせた有機層を、飽和NaCl水溶液(30mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムを加えてろ過をした後、溶媒を留去し、無色のオイルを22.38mg得た。フレームドライ、アルゴン置換した20mL三口フラスコに前記オイル(22.38mg、0.040mmol)、HBTU(20.11mg、0.0553mmol)およびDMAP(6.22mg、0.051mmol)を加えて、得られた混合物を室温で80分撹拌した。その後、前記混合物へ2−(4−メルカプトフェニル)−N−(4−ニトロベンジル)アセトアミド(18.27mg、0.060mmol)を加えて室温で5時間撹拌した。前記混合物へ酢酸エチル(20mL)および10%クエン酸(20mL)を加えて、酢酸エチル(20mL)で3回抽出した。合わせた有機層を10%クエン酸(20mL)で3回、次いで飽和NaCl水溶液(20mL)で1回洗浄し、無水硫酸ナトリウムを加えてろ過をした後、溶媒を留去した。得られた残渣をカラムクロマトグラフィーにより精製し、標題の化合物(8)を18.95mg(0.023mmol、収率56%)得た。
【0118】
1H NMR (400 MHz, ACETN-d6)δ 1.40 (s, 9H, y), 3.19-3.22 (m, 2H, x), 3.46-3.69 (m, 23H, a, j, o, p, q, r, s, t, u, v, w), 4.56 (d, 2H, J=6.0 Hz, k), 4.72 (s, 2H, n), 5.29 (s, 2H, b), 6.84 (d, Jfg=15.6 Hz, g), 7.06 (dd, 1H,Jcd=2.4 Hz, Jde=8.4 Hz, d), 7.18 (d, Jcd=2.8 Hz, c), 7.46 (d, 4H, h, i), 7.54 (d, Jlm=8.8 Hz, l), 7.84 (d, Jde=8.8 Hz, e), 8.02 (d, Jfg=15.6 Hz, f), 8.19 (d, Jlm=8.8 Hz, m)
13C NMR (100 MHz, ACETN- d6)δ 28.6, 41.0, 43.1, 43.3, 56.2, 70.6, 70.7, 70.8, 71.2, 71.3, 71.5, 78.5, 94.8, 116.5, 117.9, 124.1, 124.2, 127.1, 129.0, 129.5, 130.9, 135.5, 138.5, 139.1, 141.5, 147.9, 148.5, 156.6, 160.0, 170.9, 187.6
HRMS (Fab+) [M+Na]+計算値 864.3348、測定値 864.3370
【0119】
(ix)2−(メチルチオ)ベンゾ[d]オキサゾール(9)の製造
【0120】
【化27】
【0121】
100mL二口フラスコに2−メルカプトベンズオキサゾール(2.047g、13.54mmol)、ヨードメタン(4.21mL、67.63mmol)、炭酸カリウム(1.189g、8.603mmol)およびアセトン(30mL)を加えて、得られた混合物を70℃で4時間還流した。その後、前記混合物をろ過し、ろ液から溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、標題の化合物(9)を1.707g(10.34mmol、収率78%)得た。
【0122】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6)δ2.77 (s, 3H, e), 7.31-7.34 (m, 2H, a, d), 7.63-7.66 (m, 2H, b, c)
HRMS (EI+)m/z :[M]+計算値 165.025、測定値 165.025
【0123】
(x)3−メチル−2−(メチルチオ)ベンゾ[d]オキサゾール−3−イウム(10)の製造
【0124】
【化28】
【0125】
フレームドライ、アルゴン置換した50mL三口フラスコに化合物(9)(507.98mg、3.08mmol)、トリメチルオキソニウムテトラフルオロホウ酸塩(545.32mg、3.69mmol)、および無水ジクロロメタン(30mL)を加えて、得られた混合物を室温で24時間撹拌し、トリメチルオキソニウムテトラフルオロホウ酸塩(133.95mg、0.91mmol)をさらに前記混合物へ加え、さらに8時間撹拌した。前記混合物へエーテル(50mL)を加えると白い沈殿が生じ、前記混合物をろ取して前記沈殿物を集めた。前記沈殿物をエーテル(50mL)で3回洗浄を行い、標題の化合物(10)を469.62mg(1.759mmol、収率57%)得た。
【0126】
1H NMR (400 MHz, D2O)δ 2.87 (s, 3H, f), 3.77 (s, 3H, e), 7.50-7.53 (m, 2H, a, b), 7.61 (m, 1H, c), 7.68 (m, 1H, d)
MS (ESI+)[M]+計算値 180.05、測定値 180.37
【0127】
(xi)(Z)−1−(4−カロボキシブチル)−4−((3−メチルベンゾ[d]オキサゾール−2(3H)−イリデン)メチル)キノリン−1−イウム(11)の製造
【0128】
【化29】
【0129】
フレームドライ、アルゴン置換した50mL三口フラスコに化合物10(50.75mg、0.190mmol)、1−(5−カルボキシペンチル)−4−メチルキノリン−1−イウム(53.02mg、0.164mmol)、無水ジクロロメタン(10mL)および、無水トリエチルアミン(60μL、0.78mmol)を加えると、得られた溶液がオレンジ色になった。この状態で得られた混合物を室温で3.5時間撹拌した。前記混合物へメタノールを加え、生じた固体を溶解させ、その後、混合物から溶媒を留去した。得られた残渣にアセトニトリル(10mL)を加えて溶かし、そこへエーテル(30mL)を加えて、得られた混合物を常温で一晩放置した。その後、混合物をろ過をして標題の化合物(11)を32.51mg(0.084mmol,収率44%)得た。
【0130】
1H NMR (400 MHz, CD3OD)δ 1.47 (m, 2H, o), 1.68 (m, 2H, p), 1.97(m, 2H, n), 2.31(t, 2H, Jpq=7.2 Hz, q), 3.84(s, 3H, e), 4.58(t, 2H, Jmn=7.4 Hz, m), 6.20(s, 1H, f), 7.40(m, 1H, a), 7.49(m, 2H, b, c), 7.64-7.74(m, 2H, d, l), 7.98(m, 1H, h), 8.06(m, 2H, g, i), 8.32(d, 1H, Jij=7.2 Hz, j), 8.64(d, 1H, Jlk=8.0 Hz, k)
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6)δ24.0, 25.4, 28.5, 30.4, 33.7, 38.9, 53.7, 73.8, 109.0, 110.6, 110.8, 117.9, 123.4, 124.2, 125.9, 126.1, 126.4, 131.3, 133.3, 137.1, 143.6, 146.0, 149.9, 161.4, 174.4
HRMS(Fab+) [M]+計算値389.1870、測定値 389.1870
【0131】
(xii)化合物YOCNBの製造
【0132】
【化30】
【0133】
20mLナスフラスコに化合物(8)(58.51mg、0.069mmol)、ジクロロメタン(5mL)およびトリエチルアミン(1mL)を加えて、得られた混合物を室温で1時間撹拌して溶媒を留去して、化合物(8)の脱保護体を得た。続いて、フレームドライ、アルゴン置換した50mL三口フラスコにPyBOP(103.18mg、0.198mmol)、HOBt(30.95mg、0.229mmol)ならびに無水DMF(6mL)に溶かした粗化合物(11)(53.58mg、0.138mmol)および無水トリエチルアミン(42.1μL、0.302mmol)を加えて、得られた混合物を室温で5時間撹拌した。その後、前記混合物へ、化合物(8)の脱保護体の無水DMF(4mL)溶液を加え、前記混合物をさらに室温で4時間撹拌した。前記混合物から溶媒を除去した後、得られた残渣をHPLC(水/0.1%トリエチルアミン含有アセトニトリル)により精製し、化合物YOCNBを9.58mg(0.00811mmol、収率11%)得た。
【0134】
1H NMR (400 MHz, ACETN)δ 1.45 (m, 2H, o), 1.67 (m, 2H, n), 1.99 (m, 2H, p), 2.19 (m, 2H, q), 3.17 (m, 2H, s), 3.44-3.68 (m, 20H, s, t, u, v, w, x, y, z, 1, 10), 3.95 (s, 3H, e), 4.54 (d, 2H, J=6.4 Hz, 11), 4.59 (s, 2H, 2), 4.65 (t, 2H, m), 6.34 (s, 1H, f), 6.67 (d, 1H, J67=15.6 Hz, 7), 6.83 (dd, 1H, J34=2.4 Hz, J45=8.8 Hz, 4), 6.95 (d, 1H, J34=2.4 Hz, 3), 7.40-7.46 (m, 5H, d, 8, 9), 7.52 (d, 2H, J1213=9.2 Hz, 12), 7.60 (d, 1H, c), 7.64 (d, 1H, J45=8.8 Hz, 5), 7.73 (d, 2H, a, b), 7.91 (d, 1H, J67=15.6 Hz, 6), 8.00 (m, 1H, i), 8.11-8.20 (m, 4H, h, j, 13), 8.46 (d, J=6.8 Hz, g), 8.71 (d, 1H, J=9.2 Hz, l)
13C NMR (100 MHz, DMF-d7)δ25.8 26.4, 26.5, 39.6, 42.9, 43.0, 54.9, 70.2, 70.3, 70.6, 70.8, 70.9, 71.0, 71.4, 74.6, 111.3, 111.5, 116.1, 117.3, 118.8, 122.4 124.1 124.6, 125.0, 126.7, 126.8, 127.2, 129.0, 129.8, 130.8, 132.4, 132.6, 134.1, 135.2, 136.6, 138.3, 138.7, 139.4, 141.6, 144.5, 147.5, 148.7, 151.3, 158.7, 159.6, 161.3, 168.5, 169.9, 175.8, 187.7
HRMS (MALDI+)[M]+計算値 1068.4423、測定値 1068.4462
【0135】
[His−PYPWT−MBD1/His−PYP3R−MBD1の遺伝子を持つ大腸菌の製造]
His−PYPWT−MBD1に関しては、まず、MBD1のDNA断片は、pGEX2T−MBD1をテンプレートとして、プライマー(配列番号32)およびプライマー(配列番号33)を用いてPCRにより得た。この増幅したDNA断片と、pcDNA3.1(+)−HA−PYP−NLSのそれぞれをHindIIIとBamHIで制限酵素処理し、ライゲーションすることでpcDNA3.1(+)−HA−PYP−MBD1−NLSを得た。シークエンス解析により、目的プラスミドの配列であることを確認した。
【0136】
PYPWT−MBD1のDNA断片はpcDNA3.1(+)−HA−PYP−MBD1−NLSをテンプレートとして、プライマー(配列番号34)およびプライマー(配列番号35)を用いてPCRにより得た。この増幅したDNA断片と、pQE−32空ベクターのそれぞれをSphIとKpnIで制限酵素処理し、ライゲーションすることでpQE32−His−PYP−MBD1を得た。シークエンス解析により、目的プラスミドの配列であることを確認した。His−PYPWT−MBD1のDNA断片はpQE32−His−PYP−MBD1をテンプレートとして、プライマー(配列番号36)およびプライマー(配列番号37)を用いてPCRにより得た。この増幅したDNA断片と、pET21b(+)空ベクターのそれぞれをNheIとXhoIで制限酵素処理し、ライゲーションすることでpET21b(+)−His−PYPWT−MBD1を得た。シークエンス解析により、目的プラスミドの配列(配列番号30)であることを確認した。
【0137】
His−PYP3R−MBD1に関しては、まず、pMALp5x−PYP3R−MBD1のDNA断片は、pMALp5x−PYPWT−MBD1をテンプレートとして、プライマー(配列番号38)およびプライマー(配列番号39)を用いてPCRにより得た。この増幅したDNA断片と、pcDNA3.1(+)−MBP−PYP3RのそれぞれをNdeIとKpnIで制限酵素処理し、ライゲーションすることでpMALp5x−PYP3R−MBD1を得た。シークエンス解析により、目的プラスミドの配列であることを確認した。
【0138】
His−PYP3R−MBD1のDNA断片は、pMALp5x−PYP3R−MBD1をテンプレートとして、プライマー(配列番号40)およびプライマー(配列番号41)を用いてPCRにより得た。この増幅したDNA断片と、pET21b(+)−His−PYPWT−MBD1のそれぞれをNheIとXhoIで制限酵素処理し、ライゲーションすることでpET21b(+)−His−PYP3R−MBD1を得た。シークエンス解析により、目的プラスミドの配列(配列番号31)であることを確認した。
【0139】
[His−PYPWT−MBD1の発現と精製]
100mg/mLのアンピシリンを20μL加えたLB培地(20mL)で、His−PYPWT−MBD1の遺伝子をもつ大腸菌(配列番号30)を37℃で16時間培養した。続いて、37℃に温めたLB培地(1L)に100mg/mLのアンピシリンを1mL加え、培養していたLB培地(20mL)を加えて37℃で3.5時間培養を行った。ここに1MのIPTGを300μL加えて20℃で16時間培養した。この培養液を5000rpm、20℃で12分間遠心分離を行い、上清を取り除き、Bind buffer(50mM リン酸ナトリウム、300mM NaCl、1mM DTT、Protease Inhibitor cocktail 1粒、pH8.0)を20mL加え懸濁し、氷上で超音波により大腸菌を破砕した。その後、15000rpm、4℃で20分間遠心分離を行い、上清をろ過し、ろ液をNiカラムに添加した。1時間撹拌後、25mLのWash buffer(50mM リン酸ナトリウム、300mM NaCl、5mM イミダゾール、1mM DTT、pH8.0)をカラムに2回添加することで洗浄操作を行い、25mLのElution buffer (50mM リン酸ナトリウム、300mM NaCl、250mM イミダゾール、1mM DTT、pH8.0)をカラムに添加しHis−PYPWT−MBD1を溶出させ、精製を行った。
【0140】
得られたHis−PYPWT−MBD1をゲルろ過カラムクロマトグラフィーによって精製した。ゲルろ過用緩衝液としてHEPES buffer(20mM HEPES、150mM NaCl、pH7.4)を使用した。
【0141】
[His−PYP3R−MBD1の発現と精製]
前記「His−PYPWT−MBD1の発現と精製」において、His−PYPWT−MBD1の遺伝子をもつ大腸菌の代わりにHis−PYP3R−MBD1の遺伝子をもつ大腸菌(配列番号31)を用いた以外は、同様にして、His−PYP3R−MBD1を得た。なお、PYP3Rは、Cys39の近傍に位置し、負電荷を持つアミノ酸残基D71、D97およびE74を正電荷を持つアミノ酸残基アルギニン(R)に変更したPYP変異体である。
【0142】
<ゲルシフトアッセイ>
化合物YOCNB(終濃度5μM)、His−PYP3R−MBD1(終濃度5μM)を含む50μLのHEPES緩衝液(20mM HEPES、150mM NaCl、5%DMSO、pH7.4)を調製し、25℃で2時間インキュベーションし、ラベル化反応させてYOCNB−PYP3R−MBD1(終濃度5μM)を得た。YOCNB−PYP3R−MBD1(終濃度0、25、50、100、200、400、800nM)、二本鎖のDNA(DNA配列(配列番号42)とその相補鎖(配列番号43)、mC:メチル化シトシン)(終濃度50nM)、IGEPAL(終濃度0.05%)、グリセロール(終濃度5%)を含むHEPES緩衝液(20mM HEPES、150mM NaCl、5%DMSO、pH7.4)を20μL調製し、25℃で30分間インキュベーションした。
【0143】
12%アクリルアミドゲルを用意し、180V、30分間プレランを行った後、サンプルを10μL添加し、TB buffer中、室温において180V、90分間電気泳動を行った。その後、SYBR green Iで30分間染色を行い、蛍光バンドを検出した。得られた結果を図1に示す。
【0144】
His−PYP3R−MBD1の代わりにHis−PYPWT−MBD1を用いて得られたYOCNB−PYPWT−MBD1を用いた結果を図2に示す。
【0145】
図1に示すように、化合物YOCNBでラベル化して得られたYOCNB−PYP3R−MBD1は、非メチル化DNAとは結合しないが、メチル化されたDNAとは結合することが確認された。
【0146】
一方、図2に示すように、化合物YOCNBでラベル化して得られたYOCNB−PYPWT−MBD1は、非メチル化DNAとは結合しないが、メチル化されたDNAとは結合することが確認された。
【0147】
[化合物YOCNBの蛍光強度]
二本鎖のDNA(DNA配列(配列番号42)とその相補鎖(配列番号43)、mC:メチル化シトシン)(終濃度50nM)の存在下もしくは非存在下で、化合物YOCNB(終濃度200nM)を含む200μLのHEPES緩衝液(20mM HEPES,150mM NaCl,5%DMSO,pH 7.4)を25 ℃で30分インキュベーションし、蛍光スペクトルを測定した。
【0148】
得られた結果を図3に示す。図3に示すように、化合物YOCNBとメチル化DNAとを混合しても、化合物YOCNBのみの場合と、蛍光強度は、ほぼ同一である。従って、式(I)で表される化合物を用いるのではなく、プローブを用いる本発明の方法により、メチル化DNAを蛍光標識することが可能であることが、確認された。
【0149】
[YOCNB−PYPWT−MBD1またはYOCNB−PYP3R−MBD1を含むプローブによる蛍光強度変化]
化合物YOCNB(終濃度 5 μM), His−PYPWT−MBD1あるいはHis−PYP3R−MBD1(終濃度 5 μM)を含む30 μLのHEPES緩衝液(20 mM HEPES, 150 mM NaCl,5% DMSO,pH 7.4)を調製し、25℃でHis−PYPWT−MBD1の場合は10 時間, His−PYP3R−MBD1の場合は3時間インキュベーションし、YOCNB−PYPWT−MBD1あるいはYOCNB−PYP3R−MBD1をそれぞれ調製した。
【0150】
その後、二本鎖のDNA(DNA配列(配列番号42)とその相補鎖(配列番号43)、mC:メチル化シトシンあるいはシトシン) (終濃度 50nM)の存在下もしくは非存在下で、YOCNB−PYPWT−MBD1あるいはYOCNB−PYP3R−MBD1(終濃度 200 nM), 200 μLのHEPES緩衝液(20 mM HEPES, 150 mM NaCl, 5% DMSO, pH 7.4)を調製し、25℃で30分インキュベーションし、蛍光スペクトルを測定した。
【0151】
得られた結果を図4に示す。図4に示すように、野生型PYP由来のYOCNB−PYPWT−MBD1より、変異型PYP由来のYOCNB−PYP3R−MBD1により、メチル化DNAをより強い蛍光で標識することが可能であることが確認された。
【0152】
この点は、野生型PYPのPI値が4.79であるのに対し、変異型PYP(例えばPYP3R)のPI値が6.72であるため、負電荷に帯電しているDNAへの結合能が、野生型PYPより変異型PYPのほうが高いため、と考えられる。
【0153】
[pcDNA3.1(+)−HA−PYPWT−MBD1(1−112)の作成]
MBD1のDNA断片はpET21b(+)−His−PYP−MBD1をテンプレートとして、プライマ―(配列番号44)およびプライマー(配列番号45)を用いてPCRにより得た。この増幅したDNA断片とpcDNA3.1−HA−PYPをそれぞれEcoRIとXhoIで制限酵素処理してライゲーションすることによりプラスミドを得た。得られたプラスミドは、シークエンス解析により、目的プラスミドのpcDNA3.1(+)v2−HA−PYPWT−MBD1(1−112)をであることを確認した。
【0154】
[pcDNA3.1(+)−HA−PYP3R−MBD1(1−112)の作成]
PYP3RのDNA断片は、pET21b(+)−His−PYP3Rをテンプレートとして、プライマー(配列番号46)およびプライマー(配列番号47)を用いてPCRにより得た。この増幅したDNA断片とpcDNA3.1(+)v2−HA−PYPWT−MBD1(1−112)をそれぞれHindhIIIとEcoRIで制限酵素処理してライゲーションすることによりプラスミドを得た。得られたプラスミドは、シークエンス解析により、目的遺伝子(配列番号48)を含むプラスミドのpcDNA3.1(+)v2−HA−PYP3R−MBD1(1−112)であることを確認した。
【0155】
[細胞の調整と遺伝子導入]
NIH3T3細胞(独立行政法人理化学研究所より購入)を10%ウシ胎児血清を含むイーグル最小必須培地(MEM)培地2mL中24時間培養し、培地を除いた後に、2mLのリン酸緩衝生理食塩水で3回洗浄し、MEM培地を2mL加えた。この細胞に、Lipofectamine3000(ライフテクノロージー社製)を用いて、pcDNA3.1(+)(HA−PYP3R−MBD1(1−112)の遺伝子断片を含まない空ベクター)及びpcDNA3.1(+)v2−HA−PYP3R−MBD1(1−112)の遺伝子を導入し、37℃で24時間インキュベーションを行った。その後、培地を除いた後、得られた細胞をハンクス平衡塩溶液(Hank’s Balanced Salt Solution、HBSS)1 mLで3回洗浄し、2μMのYOCNBおよび500nMのMitoTrackerを含むMEM培地1mLを加え、37℃で60分間インキュベーションした。更に、その細胞の培地に300μL(1mg/1mL)のHoechst33342を加えて、37℃で15分間インキュベーションを行い、HBSS(1mL)で3回洗浄し、10%ウシ胎児血清を含むMEM培地(1mL)を加えた。
【0156】
[蛍光イメージング実験]
上記の細胞の蛍光イメージングを共焦点レーザー走査型顕微鏡FV10i(オリンパス株式会社製)を用いて行った。YOCNB由来の蛍光像を取得する際には、473nmのレーザーを励起光として用い、490nm〜590nmの光を透過する蛍光フィルターを用い、60倍バイオ対物レンズを用いた。Hoechst33342の蛍光像を取得する際には、405nmのレーザーを励起光として用い、420nm〜460nmの光を透過する蛍光フィルターを用い、60倍バイオ対物レンズを用いて観測を行った。
【0157】
得られた結果を図5に示す。図5は、YOCNBを添加した細胞の蛍光像を示す。上段画像は、pcDNA3.1(+)(空ベクター)を導入した細胞の画像であり、下段画像は、pcDNA3.1(+)v2−HA−PYP3R−MBD1(1−112)を導入した細胞の画像である。図の左側の画像は蛍光像を示し、右側の画像は位相差像を示す。白枠の囲みは、核内から蛍光輝点が観測された領域を示している。
【0158】
空ベクターであるpcDNA3.1(+)を導入した細胞の核内から複数の蛍光の輝点は観測されなかったのに対し(図5中左上参照)、pcDNA3.1(+)v2−HA−PYP3R−MBD1(1−112)を導入した細胞の核内から複数の蛍光の輝点が観測された(図5中左下参照)。この結果から、YOCNB単独では、核内のDNAに結合し蛍光を発しないことが理解できる。一方、pcDNA3.1(+)−HA−PYP3R−MBD1(1−112)を導入した細胞では、YOCNBは細胞核内に発現している蛋白質HA−PYP3R−MBD1(1−112)を標識し、その蛋白質がメチル化DNAに結合し、その近傍のDNAにYOCNBの蛍光色素部位が結合し蛍光を発していると考えられる。
【0159】
図6は、pcDNA3.1(+)v2−HA−PYP3R−MBD1(1−112)を導入した細胞の蛍光像であり、YOCNB由来の蛍光像とHoechst33342の蛍光像を示している。左から、(a)YOCNBの蛍光像、(b)Hoechst33342の蛍光像、(c)YOCNBとHoechst33342の蛍光の重ね合わせ画像、および(d)位相差像を示す。
【0160】
図6(b)に示すように、Hoechst33342の蛍光は、核内から複数の輝点として観測された。その蛍光の分布は、YOCNB由来の蛍光(図6(a)参照)と一致した。Hoechst33342はメチル化DNAの豊富なヘテロクロマチンと呼ばれる遺伝子領域を蛍光染色することが知られていることから、YOCNB由来の蛍光がメチル化DNA領域から観測されていると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0161】
本発明のメチル化DNAを蛍光標識する方法は、DNAメチル化阻害剤のハイスループットスクリーニング等に適用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]