特許第6274656号(P6274656)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6274656
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】透水試験方法及び透水試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/00 20060101AFI20180129BHJP
   G01N 15/08 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
   G01N3/00 D
   G01N15/08 C
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-49948(P2014-49948)
(22)【出願日】2014年3月13日
(65)【公開番号】特開2015-175623(P2015-175623A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2016年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】田中 幸久
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 保貴
【審査官】 伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−099834(JP,A)
【文献】 特開2001−349813(JP,A)
【文献】 特開平08−338796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00 − 3/62
G01N 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
供試体の一方向の膨張変形を制限しつつ、前記供試体の前記一方向に沿う側面を非透水且つ可撓の被覆部材で囲むと共に当該被覆部材の外周当接する拘束モールドを配設して前記一方向と直交する方向外向きの変位を制限し且つ前記被覆部材にセル圧を加えた状態で前記供試体に水を通水させることを特徴とする透水試験方法。
【請求項2】
前記被覆部材がゴムスリーブであることを特徴とする請求項1記載の透水試験方法。
【請求項3】
前記拘束モールドが前記被覆部材に当接する側の透水層と外周側の層との複数の層から構成されることを特徴とする請求項1記載の透水試験方法。
【請求項4】
水槽と、当該水槽の上蓋下面から下向きに突出する上側拘束柱及び前記水槽の底板上面から上向きに突出する下側拘束柱と、前記上側拘束柱の下端面に当接すると共に供試体の上端に配設される上側透水部材及び前記下側拘束柱の上端面に当接すると共に前記供試体の下端に配設される下側透水部材と、前記供試体の側面を囲む非透水且つ可撓の被覆部材と、当該被覆部材の外周に当接して配設されて当該被覆部材の水平方向外方への変位を制限する拘束モールドとを有し、前記水槽内に貯留する水によって前記被覆部材にセル圧を加えた状態で前記供試体に水を通水させることを特徴とする透水試験装置。
【請求項5】
前記被覆部材がゴムスリーブであることを特徴とする請求項4記載の透水試験装置。
【請求項6】
前記拘束モールドが前記被覆部材に当接する側の透水層と外周側の層との複数の層から構成されることを特徴とする請求項4記載の透水試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透水試験方法及び透水試験装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、例えば高膨潤圧試料の三軸透水試験に用いて好適な試験方法及び試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
飽和状態にある土の層流状態における透水係数を求める従来の透水試験として、日本工業規格のJIS A 1218や米国試験材料協会(ASTM International)のASTM D5084に規定されているものがある。
【0003】
JIS A 1218に規定されている剛性容器を用いた透水試験法は、図3に示すように、高膨潤圧試料101並びに当該試料101を挟む下側多孔板102A及び上側多孔板102Bを剛性容器103によって囲み、注水用配管104から水を注入し、当該水を下側多孔板102Aと試料101と上側多孔板102Bとを通過させて排水用配管105から排出させることによって行うものである(非特許文献1)。
【0004】
また、ASTM D5084に規定されている三軸試験装置を用いた透水試験法は、図4に示すように、高膨潤圧試料111を下側多孔板112A及び上側多孔板112Bで挟んだうえで上側と下側との拘束柱116A,116Bの間に設置すると共に試料111の側周面をゴム膜117で囲み、このように構成された供試体全体を密閉水槽113内で水浸させ、上下の拘束柱116A,116Bによって下側・上側多孔板112A,112Bの上下方向の動きを拘束すると共にガス配管118からガスを注入して水槽113内にガス圧をかけることによって水を介して試料111の側周面を囲むゴム膜117にセル圧をかけながら注水用配管114から水を注入し、当該水を下側多孔板112Aと試料111と上側多孔板112Bとを通過させて排水用配管115から排出させることによって行うものである(非特許文献2)。なお、図中における符号119は、止水用のゴムバンドである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本工業規格 JIS A 1218 土の透水試験方法
【非特許文献2】ASTM International ASTM D5084 Standard Test Methods for Measurement of Hydraulic Conductivity of Saturated Porous Materials Using a Flexible Wall Permeameter
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、JIS A 1218に規定されている剛性容器を用いた透水試験法は、高膨潤圧試料101が膨潤する際の大きな膨潤圧は剛性容器103に作用するために高圧ガス保安法(昭和26年6月7日法律第204号)に基づく規制の対象にはならないので同法規定の要件を満たす必要がないという特長や、高膨潤圧試料101の膨潤時の変形が剛性容器103によって拘束されるために試料101の密度変化による透水係数の変化が生じないという特長を有する一方で、サンプリング試料の場合で試料側面と容器内側面との間の密着性が十分でない場合には境界面を通る局所的な流れ(水みち)が生じて透水係数が過大に評価される可能性があるという問題がある。
【0007】
また、ASTM D5084に規定されている三軸試験装置を用いた透水試験法は、ゴム膜117の試料111の側面への密着性が高いので境界面を通る局所的な流れ(水みち)が生じ難いという特長を有する一方で、高圧ガス保安法に基づく規制の対象になるので同法規定の要件を満たす必要があるという問題や、膨潤圧が不明であるために膨潤圧よりも大きいと考えられるセル圧を設定せざるを得ないので試料111が収縮して密度増加が起きるために透水係数が過小に評価されるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、試料側面を覆う部材と試料側面との密着性が高いために境界面を通る局所的な流れが生じ難くしたがって試料の透水係数の変化が生じないようにすることができ、さらに、試料の密度変化が生じないのでしたがって試料の透水係数の変化が生じないようにすることができ、且つ、高圧ガス保安法に基づく規制の対象にならない、透水試験方法及び透水試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の透水試験方法は、供試体の一方向の膨張変形を制限しつつ、供試体の前記一方向に沿う側面を非透水且つ可撓の被覆部材で囲むと共に当該被覆部材の外周当接する拘束モールドを配設して前記一方向と直交する方向外向きの変位を制限し且つ被覆部材にセル圧を加えた状態で供試体に水を通水(浸透)させるようにしている。
【0010】
また、請求項4記載の透水試験装置は、水槽と、当該水槽の上蓋下面から下向きに突出する上側拘束柱及び前記水槽の底板上面から上向きに突出する下側拘束柱と、上側拘束柱の下端面に当接すると共に供試体の上端に配設される上側透水部材及び下側拘束柱の上端面に当接すると共に供試体の下端に配設される下側透水部材と、供試体の側面を囲む非透水且つ可撓の被覆部材と、当該被覆部材の外周に当接して配設されて当該被覆部材の水平方向外方への変位を制限する拘束モールドとを有し、水槽内に貯留する水によって被覆部材にセル圧を加えた状態で供試体に水を通水(浸透)させるようにしている。
【0011】
したがって、これらの透水試験方法及び透水試験装置によると、拘束モールドを通してセル圧が加えられて被覆部材が供試体に押しつけられるので、被覆部材が供試体側面に密着し、これによって境界面を通る局所的な流れが生じ難くなる。
【0012】
これらの透水試験方法及び透水試験装置によると、また、供試体の膨潤時の変形は拘束モールドによって制御されるので、膨潤時の変形を抑制するために供試体の膨潤圧よりも大きいと考えられるセル圧を供試体に加える必要がなく、すなわち供試体が収縮することがないので試料の密度増加が起こらず、したがって試料の透水係数の変化が生じない。
【0013】
これらの透水試験方法及び透水試験装置によると、また、供試体の膨潤時の変形が拘束モールドによって制限されるので、すなわち供試体が膨張することがないので試料の密度減少が起こらず、したがって試料の透水係数の変化が生じない。
【0014】
これらの透水試験方法及び透水試験装置によると、また、供試体が膨潤する際の大きな膨潤圧は拘束リングが受け持つためにセル圧を大きくする必要がないので、高圧ガス保安法に基づく規制の対象にならず、したがって装置の性能・仕様として同法に規定された要件を満たす必要がない。
【0015】
また、本発明の透水試験方法及び透水試験装置は、被覆部材がゴムスリーブであるようにしても良い。この場合には、被覆部材が非透水性を備え且つ可撓性を有する膜状の部材として適切なものになる。
【0016】
また、本発明の透水試験方法は拘束モールドが被覆部材に当接する側の透水層と外周側の層との複数の層から構成されるようにしても良く、また、本発明の透水試験装置は拘束モールドが被覆部材に当接する側の透水層と外周側の層との複数の層から構成されるようにしても良い。これらの場合には、拘束モールドの構成が柔軟なものになる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の透水試験方法及び透水試験装置によれば、被覆部材を供試体側面に密着させることができ、これによって境界面を通る局所的な流れを生じ難くすることができるので、試料の透水係数を正確に計測することが可能になり、透水試験の信頼性の向上を図ることが可能になる。
【0018】
本発明の透水試験方法及び透水試験装置によれば、また、透水試験中に供試体を収縮させないようにすることができ、試料の密度増加を起こさせないようにすることができるので、試料の透水係数の変化を生じさせないようにして透水係数を正確に計測することが可能になり、透水試験の信頼性の向上を図ることが可能になる。
【0019】
本発明の透水試験方法及び透水試験装置によれば、また、透水試験中に供試体を膨張させないようにすることができ、試料の密度減少を起こさせないようにすることができるので、試料の透水係数の変化を生じさせないようにして透水係数を正確に計測することが可能になり、透水試験の信頼性の向上を図ることが可能になる。
【0020】
本発明の透水試験方法及び透水試験装置によれば、また、装置の性能・仕様として高圧ガス保安法に規定された要件を満たす必要がないので、装置の構造を必要以上に重厚にする必要がなく、また法律上の制約がないという点においても、透水試験としての汎用性の向上を図ることが可能になる。
【0021】
また、本発明の透水試験方法及び透水試験装置は、被覆部材がゴムスリーブであるようにしても良く、この場合には、被覆部材を非透水性を備え且つ可撓性を有する膜状の部材として適切なものにすることが可能になる。
【0022】
また、本発明の透水試験方法及び透水試験装置は、拘束モールドが被覆部材に当接する側の透水層と外周側の層との複数の層から構成されるようにしても良く、この場合には、拘束モールドの構造を多様にすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の透水試験装置の実施形態の一例を示す図であり、図2のII−II矢視図である。
図2】実施形態の透水試験装置を示す図であり、図1のI−I矢視図である。
図3】従来の透水試験装置を示す縦断面図である。
図4】従来の三軸透水試験装置を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0025】
図1及び2に、本発明の透水試験方法及び透水試験装置の実施形態の一例を示す。なお、図1におけるX軸は水平方向であり、Z軸は鉛直方向である。そして、以下の説明では、Z軸方向を供試体20の軸心方向とし、また、透水試験装置及びその構成物にとっての上下方向とする。
【0026】
透水試験方法は、供試体20の上下方向(軸心方向)の膨張変形を制限しつつ、供試体20の側面を非透水且つ可撓の被覆部材10で囲むと共に当該被覆部材10の外周に拘束モールド7を配設して水平方向外向きの変位を制限し且つ被覆部材10にセル圧を加えた状態で供試体20に水を通水(浸透)させるようにしている。
【0027】
そして、透水試験装置は、上記透水試験方法を実行するものとして、水槽1と、当該水槽1の上蓋1a下面から下向きに突出する上側拘束柱5A及び前記水槽1の底板上面から上向きに突出する下側拘束柱5Bと、上側拘束柱5Aの下端面に当接すると共に供試体20の上端に配設される上側透水部材6A及び下側拘束柱5Bの上端面に当接すると共に供試体20の下端に配設される下側透水部材6Bと、供試体20の側面を囲む非透水且つ可撓の被覆部材10と、当該被覆部材10の外周に当接して配設される拘束モールド7とを有し、水槽1内に貯留する水13によって被覆部材10にセル圧を加えた状態で供試体20に水を通水(浸透)させるものである。
【0028】
本発明の供試体20として用いられる試料は、特定のものに限定されるものではなく、少なくとも透水性がある材料、例えば種々の地盤材料が挙げられる。なお、日本工業規格 JIS A 1218「土の透水試験方法」や米国試験材料協会(ASTM International)のASTM D5084「Standard Test Methods for Measurement of Hydraulic Conductivity of Saturated Porous Materials Using a Flexible Wall Permeameter」の試験対象になり得る試料は、本発明の適用対象(即ち、供試体20)になり得る。具体的には例えば、ベントナイトやベントナイト混合土が本発明の適用対象になり得る。また、供試体20は、現地で採取された試料が締め固められて作製されたものでも良いし、現地でサンプリングされた試料そのままのものでも良い。
【0029】
供試体20の大きさは、特定の大きさに限定されるものではなく、例えば採取可能な試料の大きさなどに応じて適宜調整され得る(ただし、供試体20は、原則として、軸心方向において一定の断面積を有する)。なお、日本工業規格 JIS A 1218「土の透水試験方法」では、供試体を収容する透水円筒について、試料の最大粒径に比べて十分大きい内径と長さとをもつ円筒のものとし、通常内径10cm,長さ12cmとするとされている。本発明においても、日本工業規格に規定されている透水円筒の大きさとしての供試体(円柱状)の大きさの考え方が適用され得る。
【0030】
水槽1は、供試体20を水浸状態に保って供試体20に対してセル圧を加えるためのものであり、上蓋1aと底板及び周壁を有する本体1bとから構成される。なお、図示していないが、水槽1には、水密性・気密性を確保するために必要な箇所にゴムパッキン(Oリング)が適宜設けられる。
【0031】
水槽1の上蓋1aは、本体1bに対して着脱自在であり、加えて、本体1bの周壁の上端面との接触部分にゴムパッキン(Oリング)が設けられ且つ当該ゴムパッキン(Oリング)に押しつけられることなどによって本体1bとの間で気密性が確保された状態で装着される。
【0032】
なお、上蓋1aの気密性が確保された装着状態を確実に維持するため、両端に固定構造(例えばねじ構造)を備えると共に上蓋1aと底板との間に架け渡されて周壁に対して上蓋1aを押し付けるようにして確実に固定するための金属棒などを一本若しくは複数本必要に応じて備えるようにしても良い。
【0033】
水槽1の上蓋1a下面には、本体1b内に向けて下向きに突出する円柱状の上側拘束柱5A(キャップとも呼び得る)が設けられると共に、本体1bの底板上面には、上側拘束柱5Aと正対する位置に、本体1b内に向けて上向きに突出する円柱状の下側拘束柱5B(ペデスタルとも呼び得る)が設けられる。これら上側拘束柱5A及び下側拘束柱5Bは、水槽1内に位置固定されて設けられる。
【0034】
上側拘束柱5A及び下側拘束柱5Bは、上側透水部材6Aの上方への変位を制限すると共に下側透水部材6Bの下方への変位を制限することにより、供試体20の膨潤による変形を制限するものである。上側拘束柱5Aの下端面と上側透水部材6Aの上端面とが当接させられ、下側拘束柱5Bの上端面と下側透水部材6Bの下端面とが当接させられる。
【0035】
なお、上側拘束柱5Aや下側拘束柱5Bは、水槽1内に位置固定されていれば、具体の構成は図1に示すものに限定されるものではなく、例えば、位置固定用の金属棒などを介して上蓋1aや底板に固定されるようにしても良い。
【0036】
上側拘束柱5Aの下端面及び下側拘束柱5Bの上端面の大きさは、供試体20の上端面及び下端面の大きさと同じになるように調整される。また、上側拘束柱5Aの下端面と下側拘束柱5Bの上端面との間の寸法は、供試体20の長さ(即ち、軸心方向の寸法)と上側透水部材6Aの厚みと下側透水部材6Bの厚みとの合計と同じになるように調整される。
【0037】
水槽1は、通水用配管2及び排水用配管3、並びに、加圧用配管4を有する。
【0038】
通水用配管2は、所定の水圧が付与された水を供試体20に供給するためのものである。なお、通水用配管2から供給される水に付与される水圧は、特定の値に限定されるものではなく、例えば試験対象の試料(供試体20)が採取された現地における動水勾配や透水試験の目的などを考慮して適当な値に適宜設定される。具体的には例えば0.001〜1.0〔MPa〕程度の範囲で設定されることが考えられる。
【0039】
通水用配管2は、水槽1の本体1bの側方から底板内に入り込んで当該底板と下側拘束柱5Bとを貫通し、下側拘束柱5Bの上端面に開口端を有する。
【0040】
また、通水用配管2の、水槽1の外部端には、例えば所定圧力の水を充填した圧力タンクやシリンジポンプなどで構成される水圧付与手段(図示省略)が接続される。なお、通水用配管2には、必要に応じてバルブが適宜設けられる。
【0041】
通水用配管2に接続された水圧付与手段により、下側透水部材6Bを介在させて、供試体20の下端面に一定水圧の水が供給される。すなわち、供試体20の下端面が注水端面になる。
【0042】
排水用配管3は、通水用配管2から供給されて下側透水部材6Bと供試体20と上側透水部材6Aとを通過(言い換えると、浸透)した水を排出させるためのものである。なお、供試体20の上端面が排水端面になる。
【0043】
排水用配管3は、水槽1の上蓋1aと上側拘束柱5Aとを貫通し、上側拘束柱5Aの下端面に開口端を有する。
【0044】
また、排水用配管3の、水槽1の外部端には、排出された水の量を計測するための例えばメスシリンダなどの水量計測器具(図示省略)が設けられる。
【0045】
加圧用配管4は、所定の圧力が付与されたガスを水槽1の本体1b内に注入するためのものである。そして、加圧用配管4から注入される加圧ガスにより、水槽1の本体1b内に貯留する水13を介して被覆部材10及び供試体20にセル圧が加えられる。
【0046】
セル圧は、供試体20の外周面と被覆部材10の内周面とを密着させて境界面を通る局所的な流れ(水みち)が生じることを防ぐためのものであり、したがって膜状の被覆部材10が供試体20の側面に密着する程度であれば、特定の値に限定されるものではなく、例えば通水用配管2から供給される水の水圧などに応じて適当な値に適宜調整される。具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、0.1〜0.4〔MPa〕程度の範囲で設定されることが考えられる。
【0047】
上側拘束柱5Aの下端面と供試体20の上端面との間に(言い換えると、上側拘束柱5Aの下端面に当接させられて)上側透水部材6Aが配設されると共に、供試体20の下端面と下側拘束柱5Bの上端面との間に(言い換えると、下側拘束柱5Bの上端面に当接させられて)下側透水部材6Bが配設される。なお、供試体20上端面と上側透水部材6Aとの間及び供試体20下端面と下側透水部材6Bとの間には、透水による細流分の流出防止のために濾紙や供試体20の粒径に応じた孔径を有するフィルターなどが適宜配設される。
【0048】
上側透水部材6A及び下側透水部材6Bの平面視(円形)の直径は、供試体20の上下端面の直径と同じになるように調整される。
【0049】
つまり、供試体20は、下端(即ち、注水端面)側の下側透水部材6Bと、上端(即ち、排水端面)側の上側透水部材6Aとに挟まれる。
【0050】
上側透水部材6Aと下側透水部材6Bとしては、多数の小孔や空隙を有するなどして供試体20の透水性に影響を与えない程度の透水性を有すると共に、耐食性を備えた部材が用いられる。
【0051】
上側透水部材6Aや下側透水部材6Bとしては、例えば、日本工業規格 JIS A 1218「土の透水試験方法」における有孔板として用いられ得るものや、地盤工学会基準 JGS 0522「土の圧密非排水(CU)三軸圧縮試験方法」(以下、単に「地盤工学会基準」と表記する)における多孔板として用いられ得るものが、用いられ得る。
【0052】
被覆部材10は、上側拘束柱5Aと下側拘束柱5Bとの間に設置された供試体20の側面全体を覆って透水・排水を制限すると共に供試体20の側面に対してセル圧を伝えるためのものであり、これらの性質・挙動を発揮する部材、具体的には非透水性を備え且つ可撓性を有する膜状の部材が用いられる。例えば、地盤工学会基準におけるゴムスリーブとして用いられ得るものが、本発明の被覆部材10として用いられ得る。
【0053】
被覆部材10は、上側拘束柱5Aと下側拘束柱5Bとに渡しかけられて取り付けられる。すなわち、被覆部材10は、上端寄り部分が上側拘束柱5Aの側周面に巻き付けられ、中間部分が供試体20の側周面に巻き付けられ、下端寄り部分が下側拘束柱5Bの側周面に巻き付けられる。
【0054】
被覆部材10は、上端近傍位置において上側止水用部材11Aにより外側から環状に締め付けられることによって上側拘束柱5Aとの間で水密性が確保された状態で着脱自在に取り付けられると共に、下端近傍位置において下側止水用部材11Bにより外側から環状に締め付けられることによって下側拘束柱5Bとの間で水密性が確保された状態で着脱自在に取り付けられる。
【0055】
上側・下側止水用部材11A,11Bは、被覆部材10を上側拘束柱5Aや下側拘束柱5Bに対して水密性を確保した状態で取り付け得るものであれば、特定の部材に限定されるものではない。具体的には例えばゴムバンドやOリングや針金が用いられ得る。
【0056】
また、上側止水用部材11Aと上側拘束柱5Aの下端面との、上下方向における間の位置に、上側試料流出防止部材12Aが取り付けられると共に、下側止水用部材11Bと下側拘束柱5Bの上端面との、上下方向における間の位置に、下側試料流出防止部材12Bが取り付けられる。
【0057】
上側・下側試料流出防止部材12A,12Bは、上側・下側拘束柱5A,5Bと被覆部材10とを密着させて密閉してこれらの間からの供試体20の流出を防止し得るものであれば、特定の部材に限定されるものではない。具体的には例えばゴムバンドやOリングや針金が用いられ得る。
【0058】
なお、上側・下側試料流出防止部材12A,12Bの代わりに、上側・下側拘束柱5A,5Bと拘束モールド7とが対向する位置においてこれらのうちの少なくとも一方に突起を設けて当該突起によって被覆部材10を圧着させることによって上側・下側拘束柱5A,5Bと被覆部材10との間からの供試体20の流出を防止するようにしても良い。
【0059】
また、上側・下側試料流出防止部材12A,12Bにより、上側・下側拘束柱5A,5Bと被覆部材10との間からの、本体1b内の水13の流入を防ぐことができる場合には、上側・下側止水用部材11A,11Bを設けないようにしても良い。
【0060】
拘束モールド7は、被覆部材10の水平方向外方への変位を制限することにより、供試体20の膨潤による変形を制限するためのものであり、円筒状に形成され、被覆部材10の外周面に当接させられて配設される。
【0061】
拘束モールド7は、水槽1の本体1b内に貯留する水13(及びガス14)によるセル圧が被覆部材10に伝えられることの障害にならないように十分な透水性(空隙、多孔性)を有する一方で、供試体20の膨潤圧によって被覆部材10及び供試体20に細かい凹凸が生じるような変形が起こらない程度の目の細かさを被覆部材10との接触面である内周面は少なくとも有する。
【0062】
拘束モールド7は、水槽1の本体1bの底板に位置固定されて設けられたモールド固定治具9に着脱自在に取り付けられる。本実施形態では、平面視において下側拘束柱5Bと離間する周囲位置に等間隔で四つのモールド固定治具9が設けられ、下側拘束柱5Bの側周面に巻き付けられている被覆部材10とモールド固定治具9との間に拘束モールド7の下端部分が挿し込まれ且つ拘束モールド7の下端がモールド固定治具9から下側拘束柱5Bに向けて突出する突出部に支持される。これにより、拘束モールド7は、上側拘束柱5A及び下側拘束柱5Bと、これら拘束柱5A,5Bの間の供試体20並びに上側透水部材6A及び下側透水部材6Bとに対して位置固定されて配設される(なお、拘束モールド7の軸回転は制限されなくても良い)。
【0063】
そして、上側拘束柱5A及び下側拘束柱5B並びに被覆部材10及び拘束モールド7により、供試体20並びに上側透水部材6A及び下側透水部材6Bを取り囲み、供試体20の水槽1内における位置を固定すると共に変形を制限する空間が形成される。
【0064】
本実施形態では、拘束モールド7は、軸心方向の切断面によって二分割されるものとして構成され、組み合わされて被覆部材10の外周面に当接させられて配設された状態でモールド拘束部材8によって緊締される。
【0065】
モールド拘束部材8は、本実施形態では、二つの帯状部材が連結されて全体としてリング状になるものとして構成される。具体的には、平面視半円の円弧状で側面視帯状の二つの部材が、全体として環状になる位置関係において、各々の一端に設けられた連結部を貫通する回動軸8aによって回動自在に連結されると共に、各々の他端には径方向外向きに突起が設けられる。そして、回動軸8aによって相互に回動して広げられた状態で内側に拘束モールド7を入り込ませ、続いて回動軸8aによって相互に回動して閉じられて二つの半円の円弧状部材の他端の突起同士が対向当接して合わせられ、これら二つの突起にキャップ8bが嵌められて全体としてリング状の状態が維持される。これにより、二分割の拘束モールド7が組み合わされた状態で緊締される。
【0066】
本実施形態ではモールド拘束部材8が上下方向に三つ配設されるようにしているが、モールド拘束部材8の数は、三つに限られるものではなく、一つでも二つでも良いし、四つ以上でも良い。
【0067】
そして、上述のように構成された透水試験装置を用いた透水試験は、例えば、米国試験材料協会のASTM D5084に規定されている方法に従った透水試験方法と同様にして行われる。ただし、ASTMに規定されている内容におけるセル圧は、実際の値は不明である膨潤圧よりも大きいと考えられる値に設定されるが、本発明の透水試験装置を用いた透水試験ではセル圧は膨潤圧よりも低い値に設定され得る(言い換えると、セル圧は膨潤圧とは関係なく設定される)。すなわち、本発明の透水試験装置では、供試体20の膨潤圧はモールド拘束部材8によって緊締された拘束モールド7によって受け持たれて供試体20の膨潤時の変形は制限されるので、セル圧によって供試体20の膨潤時の変形を抑制する必要がないため、通水用配管2の水圧に被覆部材10と供試体20側面との密着性を高めるための圧力(例えば0.1〜0.5〔MPa〕程度)がセル圧として加えられれば良く、供試体20の膨潤圧が大きい場合にはASTMにおける方法の場合のセル圧と比べて格段に低いセル圧で試験が行われるようにすることができる。なお、供試体20の膨潤圧が被覆部材10と供試体20側面との密着性を高めるための圧力よりも小さい場合には、供試体20の収縮によって被覆部材10と拘束モールド7との間に隙間が発生して拘束モールド7に膨潤圧が作用しないため、実質的にはASTMと同様の試験が行われることになる。
【0068】
以上のように構成された透水試験方法及び透水試験装置によれば、拘束モールド7を通してセル圧が加えられて被覆部材10が供試体20に押しつけられるので、被覆部材10が供試体20側面に密着し、これによって境界面を通る局所的な流れが生じ難くすることができる。
【0069】
また、供試体20の膨潤時の変形は拘束モールド7によって制御されるので、膨潤時の変形を抑制するために供試体20の膨潤圧よりも大きいと考えられるセル圧を供試体20に加える必要がなく、すなわち供試体20が収縮することがないので試料の密度増加が起こらず、したがって試料の透水係数の変化が生じないようにすることができる。
【0070】
また、供試体20の膨潤時の変形が拘束モールド7によって制限されるので、すなわち供試体20が膨張することがないので試料の密度減少が起こらず、したがって試料の透水係数の変化が生じないようにすることができる。
【0071】
なお、上述の形態は本発明を実施する際の好適な形態の一例ではあるものの本発明の実施の形態が上述のものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。すなわち、本発明の要点は、供試体の一方向(軸心方向)の膨張変形を制限しつつ、供試体の前記一方向(軸心方向)に沿う側面を非透水且つ可撓の被覆部材で囲むと共に当該被覆部材の外周に拘束部材を配設して前記一方向と直交する方向(軸心方向と直交する方向)外向きの変位を制限し且つ被覆部材にセル圧を加えた状態で供試体に水を通水(浸透)させることであり、この要点を満たすものであれば具体的な実施の形態は上述の形態には限定されない。
【0072】
例えば、上述の実施形態では被覆部材10の膨張変形を制限するものとしての拘束モールド7は単一部材で一層構造のものとして構成されるようにしているが、拘束モールド7は単一部材の一層構造に限られるものではなく、少なくとも被覆部材10に当接する側の透水層と外周側の非透水層などとの複層構造であるようにしても良い。そして、この場合には特に、外周側の層の剛性を高めることもできるので、上述の実施形態におけるモールド拘束部材8に相当する仕組み(機能)が外周側の層に拘束モールド7と一体のものとして備えられるようにしても良い。
【0073】
また、上述の実施形態では拘束モールド7が軸心方向の切断面によって二分割されるものとして構成されるようにしているが、拘束モールド7の構成はこれに限られるものではない。具体的には例えば円筒状の一部材として構成され、上側と下側との拘束柱5A,5Bの間に供試体20を設置する際には上側拘束柱5Aの方にスライドさせるようにしても良い。
【0074】
また、上述の実施形態では供試体20の軸心方向が鉛直方向になるように供試体20を水槽1内に設置すると共に通水方向を鉛直方向にするようにしているが、これに限られず、供試体20の軸心方向が水平方向になるように供試体20を水槽1内に設置すると共に通水方向を水平方向にするようにしても良い。なお、供試体20の軸心方向が水平方向になるように設置する場合には、上述の実施形態における上側・下側拘束柱5A,5Bに相当する構成が、水槽1の本体1bの水平方向において対向する一対の側壁それぞれの内側面に、本体1b内に向けて水平方向に突出する左側・右側拘束柱として設けられる。なお、この場合には、モールド固定治具9を設けないようにしても良い。
【符号の説明】
【0075】
1 水槽
1a 上蓋
1b 本体
2 通水用配管
3 排水用配管
4 加圧用配管
5A 上側拘束柱
5B 下側拘束柱
6A 上側透水部材
6B 下側透水部材
7 拘束モールド
8 モールド拘束部材
8a 回動軸
8b キャップ
9 モールド固定治具
10 被覆部材
13 水
14 ガス
20 供試体
図1
図2
図3
図4