(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6274691
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】16APSKの変調器、復調器、送信装置、及び受信装置
(51)【国際特許分類】
H04L 27/36 20060101AFI20180129BHJP
H04L 27/38 20060101ALI20180129BHJP
H04L 27/01 20060101ALI20180129BHJP
H04L 27/00 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
H04L27/36
H04L27/38
H04L27/01
H04L27/00 B
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-209735(P2013-209735)
(22)【出願日】2013年10月5日
(65)【公開番号】特開2015-76646(P2015-76646A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年8月29日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、総務省、「周波数有効利用に資する次世代放送基盤技術の研究開発」に係わる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100143568
【弁理士】
【氏名又は名称】英 貢
(72)【発明者】
【氏名】木村 武史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽一
(72)【発明者】
【氏名】橋本 明記
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 敬文
【審査官】
北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−039259(JP,A)
【文献】
特開2010−183633(JP,A)
【文献】
特開2001−036353(JP,A)
【文献】
石川 博一,町田 正信,半田 志郎,大下 眞二郎,(4,12)型QAMに対するコード割当てとその誤り率特性,電子情報通信学会論文誌,日本,1998年11月25日,VOL.J81-B-II,NO.11,pp.1077-1081
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 27/00−27/38
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周円に12個の信号点、内周円に4個の信号点を配し、外周円の信号点の位相間隔は30度、内周円の信号点の位相間隔は90度で、内周円の4つの信号点の位相角上に、外周円の信号点のうち4つの信号点が配置される、16APSK変調方式の変調器であって、
内周円上で隣接する各信号点配置関係、外周円上で隣接する各信号点配置関係、及び、内周円の信号点と外周円の信号点との間で最小ユークリッド距離となる信号点配置関係にある各信号点に対応するビット列がハミング距離として最小となるように、16APSKの信号点配置における全てのビット列の割り当てを行うビットマッピング手段を備え、
前記ビットマッピング手段は、
基準位相0度に対し左回りで内周円上の45度の位置から90度ごとの位相間隔でそれぞれ配置されたビット列1100,1110,1111,1101、及び基準位相0度に対し左回りで外周円上の30度の位置から30度ごとの位相間隔でそれぞれ配置されたビット列0100,0000,1000,1010,0010,0110,0111,0011,1011,1001,0001,0101よりなる高度広帯域衛星デジタル放送の伝送方式における16APSKの信号点配置及びそのビット列として既定の信号点配置ビット列関係に対して、外周円の信号点を右回り又は左回りに30度の位相回転を行った関係にある第1の信号点配置ビット列関係、
前記第1の信号点配置ビット列関係における当該外周円の信号点を右回り又は左回りに30度の位相回転を行った関係にある信号点配置から、更に全ての信号点について90度の1倍から3倍のいずれかの位相量分で位相回転を行った関係にある第2の信号点配置ビット列関係、
前記第1の信号点配置ビット列関係又は前記第2の信号点配置ビット列関係の全ての信号点に割り当てられた各ビット列について、上位ビットから下位ビットまで4ビットを置換した関係にある第3の信号点配置ビット列関係、及び、
前記第1の信号点配置ビット列関係ないし前記第3の信号点配置ビット列関係の全てのビット列について、ビット毎に0/1の反転を選択した第4の信号点配置ビット列関係のうち、
いずれかの信号点配置ビット列関係により、各信号点にビット列の割り当てを行うことを特徴とすることを特徴とする変調器。
【請求項2】
請求項1に記載の変調器により外周円に12個の信号点、内周円に4個の信号点を配し、外周円の信号点の位相間隔は30度、内周円の信号点の位相間隔は90度で、内周円の4つの信号点の位相角上に、外周円の信号点のうち4つの信号点が配置されるビット列について復調する、16APSK変調方式の復調器であって、
前記変調器により内周円上で隣接する各信号点配置関係、外周円上で隣接する各信号点配置関係、及び、内周円の信号点と外周円の信号点との間で最小ユークリッド距離となる信号点配置関係にある各信号点に対応するビット列がハミング距離として最小となっているものとして、16APSKの信号点配置における全てのビット列の割り当てに関する尤度判定を行なう尤度判定手段を備え、
前記尤度判定手段は、
基準位相0度に対し左回りで内周円上の45度の位置から90度ごとの位相間隔でそれぞれ配置されたビット列1100,1110,1111,1101、及び基準位相0度に対し左回りで外周円上の30度の位置から30度ごとの位相間隔でそれぞれ配置されたビット列0100,0000,1000,1010,0010,0110,0111,0011,1011,1001,0001,0101よりなる高度広帯域衛星デジタル放送の伝送方式における16APSKの信号点配置及びそのビット列として既定の信号点配置ビット列関係に対して、外周円の信号点を右回り又は左回りに30度の位相回転を行った関係にある第1の信号点配置ビット列関係、
前記第1の信号点配置ビット列関係における当該外周円の信号点を右回り又は左回りに30度の位相回転を行った関係にある信号点配置から、更に全ての信号点について90度の1倍から3倍のいずれかの位相量分で位相回転を行った関係にある第2の信号点配置ビット列関係、及び、
前記第1の信号点配置ビット列関係又は前記第2の信号点配置ビット列関係の全ての信号点に割り当てられた各ビット列について、上位ビットから下位ビットまで4ビットを置換した関係にある第3の信号点配置ビット列関係、及び、
前記第1の信号点配置ビット列関係ないし前記第3の信号点配置ビット列関係の全てのビット列について、ビット毎に0/1の反転を選択した第4の信号点配置ビット列関係のうち、
いずれかの信号点配置ビット列関係により、各信号点のビット列の割り当てに関する尤度判定を行なうことを特徴とする復調器。
【請求項3】
請求項1に記載の変調器と、
前記変調器の出力を電力増幅する電力増幅器と、
を備えることを特徴とする、送信装置。
【請求項4】
前記電力増幅器の前段又は後段に、当該電力増幅器に起因する位相歪みを補償する位相補償器を更に備えることを特徴とする、請求項3に記載の送信装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の送信装置から送信される伝送信号を受信し、波形等化を行う等化器と、
前記等化器の出力に対して尤度判定を行なう、請求項2に記載の復調器と、
を備えることを特徴とする受信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、16APSK(Amplitude Phase Shift Keying)変調方式の信号伝送技術に関し、特に、16APSKの変調器、復調器、送信装置、受信装置及びビット割り当て方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衛星放送では、電力増幅器に進行波管増幅器(TWTA:Travelling-Wave Tube Amplifier)を使用して、この進行波管増幅器を飽和状態(振幅方向にも変調する場合は、最大振幅のシンボルにおいて飽和状態)で使用することが多い。また、衛星放送における変調方式は、振幅成分一定のBPSK(Binary Phase Shift Keying)、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)、8PSKなどが主流であり、振幅成分も変調する16APSK、32APSKが実用化されたのは最近のことである。
【0003】
その具体的な技術方式としては、日本の高度広帯域衛星デジタル放送の伝送方式(例えば、非特許文献1参照)や、欧州のDVB−S2の伝送方式(例えば、非特許文献2参照)がある。以下、代表して、高度広帯域衛星デジタル放送(以下、「高度BS」と称する)の伝送方式を例示する。
【0004】
高度BSの伝送方式における16APSKの信号点配置及びそのビット列(以下、「既定の信号点配置ビット列関係」と称する)は、
図6に示すような、I軸(同相成分)とQ軸(直交成分)で表われる信号点配置となっている。
図6において、外周円に12個の信号点、内周円に4個の信号点を配し、外周円の信号点の位相間隔は30度、内周円の信号点の位相間隔は90度で、内周円の4つの信号点の位相角上に、外周円の信号点のうち4つの信号点が配置される。外周円半径(R
2)と内周円半径(R
1)は所定のリング比(γ)で規定され、0/1のビットにより4次元のビット空間で表される16APSKの各ビット列[C3 C2 C1 C0]についても、
図6に示すように規定されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“高度広帯域衛星デジタル放送の伝送方式”、標準規格 ARIB STD-B44 1.0版、[online]、平成21年7月29日改定、ARIB、[平成25年8月1日検索]、インターネット〈URL:http://www.arib.or.jp/english/html/overview/doc/2-STD-B44v1_0.pdf〉
【非特許文献2】“Digital Video Broadcasting (DVB); Second generation framing structure, channel coding and modulation systems for Broadcasting, Interactive Services, News Gathering and other broadband satellite applications (DVB-S2)”、欧州標準規格 ETSI EN 302 307 V1.3.1 (2013-03)、[online]、[平成25年8月1日検索]、インターネット〈http://www.arib.or.jp/english/html/overview/doc/2-STD-B44v1_0.pdf〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した「既定の信号点配置ビット列関係」について、ハミング距離1の信号点配置関係を併記したのが、
図7である。
図7を参照するに、ハミング距離1となる信号点配置関係(エッジ)は、破線で示されるようになり、特に内周円に係るエッジは格子状で表される。一方で、内周円の或る信号点と、その位相角上に配置される外周円の信号点との間のユークリッド距離は、両矢印で示されるように、内周円の信号点と外周円の信号点との間で最小ユークリッド距離となる。
【0007】
この内周円の信号点と外周円の信号点との間で最小ユークリッド距離となる関係にある各信号点に着目すると、ユークリッド距離が小さいのに、ハミング距離が2と大きい。つまり、これらの信号点配置関係は、当該信号点配置の半径方向に最も近いにも関わらず、2ビット異なる信号点配置関係となっている。したがって、ユークリッド距離が小さいため雑音等でシンボル誤りが生じやすいのに、ハミング距離が2と大きいため更にシンボル誤りが生じたときのビット誤りが大きくなる状況になっている。このような信号点配置のビット列に起因するビット誤りは、周波数有効利用の観点、及び所要C/Nの観点からも改善の余地がある。
【0008】
本発明は、上述の問題を鑑みて為されたものであり、16APSKの伝送性能を改善する変調器、復調器、送信装置、受信装置及びビット割り当て方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の問題を解決するために、本発明では、16APSKの信号点配置において、雑音等でシンボル誤りが生じやすい関係にあるビット列に対して、シンボル誤りが生じたときのビット誤りが小さくなるようにビットマッピングを行うように構成する。具体的には、I・Q軸で表わされる信号点配置にて、内周円上で隣接する各信号点配置関係、外周円上で隣接する各信号点配置関係、及び、内周円の信号点と外周円の信号点との間で最小ユークリッド距離となる信号点配置関係にある各信号点に対応するビット列がハミング距離として最小となるように(即ち、1になるように)、16APSKの信号点配置における全てのビット列の割り当てを行う。
【0010】
即ち、本発明の変調器は、外周円に12個の信号点、内周円に4個の信号点を配し、外周円の信号点の位相間隔は30度、内周円の信号点の位相間隔は90度で、内周円の4つの信号点の位相角上に、外周円の信号点のうち4つの信号点が配置される、16APSK変調方式の変調器であって、内周円上で隣接する各信号点配置関係、外周円上で隣接する各信号点配置関係、及び、内周円の信号点と外周円の信号点との間で最小ユークリッド距離となる信号点配置関係にある各信号点に対応するビット列がハミング距離として最小となるように、16APSKの信号点配置における全てのビット列の割り当てを行うビットマッピング手段を備え
、前記ビットマッピング手段は、基準位相0度に対し左回りで内周円上の45度の位置から90度ごとの位相間隔でそれぞれ配置されたビット列1100,1110,1111,1101、及び基準位相0度に対し左回りで外周円上の30度の位置から30度ごとの位相間隔でそれぞれ配置されたビット列0100,0000,1000,1010,0010,0110,0111,0011,1011,1001,0001,0101よりなる高度広帯域衛星デジタル放送の伝送方式における16APSKの信号点配置及びそのビット列として既定の信号点配置ビット列関係に対して、外周円の信号点を右回り又は左回りに30度の位相回転を行った関係にある第1の信号点配置ビット列関係、前記第1の信号点配置ビット列関係における当該外周円の信号点を右回り又は左回りに30度の位相回転を行った関係にある信号点配置から、更に全ての信号点について90度の1倍から3倍のいずれかの位相量分で位相回転を行った関係にある第2の信号点配置ビット列関係、前記第1の信号点配置ビット列関係又は前記第2の信号点配置ビット列関係の全ての信号点に割り当てられた各ビット列について、上位ビットから下位ビットまで4ビットを置換した関係にある第3の信号点配置ビット列関係、及び、前記第1の信号点配置ビット列関係ないし前記第3の信号点配置ビット列関係の全てのビット列について、ビット毎に0/1の反転を選択した第4の信号点配置ビット列関係のうち、いずれかの信号点配置ビット列関係により、各信号点にビット列の割り当てを行うことを特徴とする。
【0012】
更に、本発明の復調器は、
本発明の変調器により外周円に12個の信号点、内周円に4個の信号点を配し、外周円の信号点の位相間隔は30度、内周円の信号点の位相間隔は90度で、内周円の4つの信号点の位相角上に、外周円の信号点のうち4つの信号点が配置される
ビット列について復調する、16APSK変調方式の復調器であって、
前記変調器により内周円上で隣接する各信号点配置関係、外周円上で隣接する各信号点配置関係、及び、内周円の信号点と外周円の信号点との間で最小ユークリッド距離となる信号点配置関係にある各信号点に対応するビット列がハミング距離として最小とな
っているものとして、16APSKの信号点配置における全てのビット列の割り当てに関する尤度判定を行なう尤度判定手段を備え
、前記尤度判定手段は、基準位相0度に対し左回りで内周円上の45度の位置から90度ごとの位相間隔でそれぞれ配置されたビット列1100,1110,1111,1101、及び基準位相0度に対し左回りで外周円上の30度の位置から30度ごとの位相間隔でそれぞれ配置されたビット列0100,0000,1000,1010,0010,0110,0111,0011,1011,1001,0001,0101よりなる高度広帯域衛星デジタル放送の伝送方式における16APSKの信号点配置及びそのビット列として既定の信号点配置ビット列関係に対して、外周円の信号点を右回り又は左回りに30度の位相回転を行った関係にある第1の信号点配置ビット列関係、前記第1の信号点配置ビット列関係における当該外周円の信号点を右回り又は左回りに30度の位相回転を行った関係にある信号点配置から、更に全ての信号点について90度の1倍から3倍のいずれかの位相量分で位相回転を行った関係にある第2の信号点配置ビット列関係、及び、前記第1の信号点配置ビット列関係又は前記第2の信号点配置ビット列関係の全ての信号点に割り当てられた各ビット列について、上位ビットから下位ビットまで4ビットを置換した関係にある第3の信号点配置ビット列関係、及び、前記第1の信号点配置ビット列関係ないし前記第3の信号点配置ビット列関係の全てのビット列について、ビット毎に0/1の反転を選択した第4の信号点配置ビット列関係のうち、いずれかの信号点配置ビット列関係により、各信号点のビット列の割り当てに関する尤度判定を行なうことを特徴とする。
【0014】
更に、本発明の送信装置は、本発明の変調器と、前記変調器の出力を電力増幅する電力増幅器と、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の送信装置において、前記電力増幅器の前段又は後段に、当該電力増幅器に起因する位相歪みを補償する位相補償器を更に備えることを特徴とする。
【0016】
更に、本発明の受信装置は、本発明の送信装置から送信される伝送信号を受信し、波形等化を行う等化器と、前記等化器の出力に対して尤度判定を行なう、本発明の復調器と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、16APSKにおいて、振幅方向に最もユークリッド距離が小さい信号点間で、ハミング距離も最小になる。つまり、最もシンボル誤りが起きる可能性の高い信号点間では、最もビットの差が少ない(1ビット差=ビット誤り最小)という関係にある。このため、本発明によれば、ビット誤りを小さくし、周波数有効利用の観点からも改善して、所要C/Nを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係るビット割り当て方法による信号点配置の一例を示す図である。
【
図2】本発明による実施例1の伝送システムの基本構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明による実施例2の伝送システムの基本構成を示すブロック図である。
【
図4】進行波管増幅器(TWTA)の非線形特性の一例を示す図である。
【
図5】従来の伝送システム(高度BS)と本発明に係る伝送システム(実施例1)における生のビット誤り特性(誤り訂正前の特性)について、シミュレーションによる比較例を示す図である。
【
図6】従来の伝送システム(高度BS)における16APSKの信号点配置を示す図である。
【
図7】従来の伝送システム(高度BS)における16APSKの信号点配置にて、ハミング距離1の信号点配置関係を併記した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明による各実施例の変調器、復調器、送信装置、受信装置及びそのビット割り当て方法について説明する。
【0021】
まず、本発明による各実施例に係るビット割り当て方法と、I・Q軸で表わされる16APSKの信号点配置について説明する。本発明に係るビット割り当て方法は、16APSKの信号点配置において、内周円上で隣接する各信号点配置関係、外周円上で隣接する各信号点配置関係、及び、内周円の信号点と外周円の信号点との間で最小ユークリッド距離となる信号点配置関係にある各信号点間でハミング距離として最小となるように(即ち、1になるように)、16APSKの各信号点におけるビット列の割り当てを行う。
【0022】
これを実現するための本発明に係るビット割り当て方法による信号点配置の一例を
図1に示す。これは、「既定の信号点配置ビット列関係」(
図7)のうち、外周円の信号点に配置されるビット列を右回りに30度“ひねる”(位相回転配置させる)ことにより、16APSKの信号点配置における全てのビット列の割り当てを行う例である。これにより、16APSKの信号点配置において、 或る内周円の信号点に対してその位相角上(半径方向)にある最も近い外周円の信号点がハミング距離1となるように、内周円上で隣接する各信号点配置関係(エッジ)や外周円上で隣接する各信号点配置関係(エッジ)と一致させることができる。
【0023】
より詳細に説明するに、従来の伝送システムにおける信号点配置を示す
図7にて、破線で示されるハミング距離1となる信号点配置関係(エッジ)は、16QAMにおける格子に相当する。即ち、この格子に沿って1ビットの0/1が変化する。
図7では、ハミング距離1となる信号点配置関係の格子(破線で囲まれる四角形)において、この四角形の最短の辺より更に短い対角線(両矢印に相当する線)が存在する。即ち、「既定の信号点配置ビット列関係」では、起こりやすい1ビット誤りよりも、更に起こりやすい2ビット誤りが存在することになる。一方、本発明に係る一例の信号点配置を示す
図1では、当該四角形に対応するエッジにおいて、当該最短の対角線に相当するユークリッド距離は、当該四角形に対応する最短の辺に相当するユークリッド距離よりも常に長くなる。即ち、起こりやすい1ビット誤りよりも、更に起こりやすい2ビット誤りが存在することがなくなる。
【0024】
尚、
図1では、「既定の信号点配置ビット列関係」に対して、外周円の信号点を右回りに30度ひねることで得られる信号点配置を示しているが、外周円の信号点を左回りに30度の位相回転を行うことでビット割り当てを行うように構成することや、当該外周円の信号点を右回り又は左回りに30度の位相回転を行った信号点配置に対して全ての信号点の位相が90度の整数倍(1〜3倍)回転したビット列関係でビット割り当てを行うように構成することや、
図1に示す例に対して4ビットの上位ビットから下位ビットまでのビットを任意に入れ替えた(置換した)関係や、任意のビットの0/1を入れ替えたビット列関係でビット割り当てを行うように構成しても、本発明に係るビットマッピングを同様に実現することができる。
【0025】
なお、16APSK変調方式における信号点配置ビット列関係の総数は、16の並べ替え(転置)であるので16!=2.09×10の13乗通り存在する。これに対して、前記の本発明に該当する信号点配置ビット列関係の実現例の数は、右ひねり/左ひねりの2通り、90°ずつ回転の4通り、4ビットの並べ替え(転置)の4!=24通り、及び、4ビットのビット反転の有/無の2の4乗=16通りの組み合わせで、重複がないとして2×4×24×16=3072通りである。
【0026】
〔実施例1の伝送システム〕
より具体的に、本発明による実施例1の変調器、復調器、送信装置、受信装置及び信号点配置とビット割り当て方法について説明する。
図2は、本発明による実施例1の伝送システムの基本構成を示すブロック図である。
【0027】
図2を参照するに、実施例1の伝送システムは、16APSKの変調器11及び電力増幅器12を備える送信装置10と、等化器51及び16APSKの復調器52を備える受信装置50から構成される。16APSKの変調器11は、マッピング部111及びIQ変調部112を備える。16APSKの復調器52は、IQ復調部521、尤度判定部522及びデマッピング部523を備える。
図2では、本発明に係るビット列の変調からビット列の復調までの部分を示し、周波数変換の要素は省略しており、更に本発明とは直接的に関係しないシンボル同期・フレーム同期・誤り訂正やインタリーブなどの他の処理も、例えば非特許文献1に示される伝送システムと同様に、適宜構成されているものとする。
【0028】
(送信装置)
マッピング部111は、入力ビット列を4ビット毎に区切り、区切られた4ビットのパターンに応じて、内周円上で隣接する各信号点配置関係、外周円上で隣接する各信号点配置関係、及び、内周円の信号点と外周円の信号点との間で最小ユークリッド距離となる信号点配置関係にある各信号点に対応するビット列がハミング距離として最小となるように、16APSKの信号点配置における全てのビット列の割り当てを行う(例えば、
図1の信号点配置)。
【0029】
IQ変調部112は、搬送波を当該16APSKの信号点に変調して、変調波を生成する。
【0030】
電力増幅器12は、変調波を電力増幅して伝送信号を生成し、伝送路を介して送信する。この電力増幅器12は、線形増幅でもよいし、非線形増幅(例えば、TWTAの飽和増幅動作)であってもよい。
【0031】
伝送路では、伝送信号に、信号の減衰・信号の線形歪み・ノイズの加算などの影響を受ける。
【0032】
(受信装置)
等化器51は、伝送路を介して伝送信号を受信し、電力増幅器12に起因する非線形歪みや伝送路の線形歪みを等化する。等化器51は、FIR(Finite Impulse Response)フィルタやIIR(Infinite Impulse Response)フィルタ、また、固定動作する等化器や、適応等化器、非線形等化器、など各種の形式のものがある。
【0033】
IQ復調部521は、等化器51の出力から、I・Q軸上の位置(I,Qの値)を検出する。
【0034】
尤度判定部522は、当該検出したI・Q軸上の位置から、内周円上で隣接する各信号点配置関係、外周円上で隣接する各信号点配置関係、及び、内周円の信号点と外周円の信号点との間で最小ユークリッド距離となる信号点配置関係にある各信号点に対応するビット列がハミング距離として最小となるように割り当てられた16APSKの信号点配置(例えば、
図1の信号点配置)において、最も尤もらしい信号点を判定する。
【0035】
デマッピング部523は、当該判定されたI・Q軸上の信号点について、当該本発明に係る16APSKの信号点配置(例えば、
図1の信号点配置)における4ビットに変換し、更に4ビット毎の信号を連結したビット列を出力する。
【0036】
以上説明した本実施例の伝送システムの動作は、従来の伝送システムにおける16APSK変復調時の動作とほぼ同等であるが、I・Q軸上の信号点と4ビット毎の信号パターンとの関係が、例えば
図1に示された関係となるように動作する点で相違する。尚、当該本発明に係る16APSKの信号点配置は、
図1に示す例に限定することなく、内周円上で隣接する各信号点配置関係、外周円上で隣接する各信号点配置関係、及び、内周円の信号点と外周円の信号点との間で最小ユークリッド距離となる信号点配置関係にある各信号点に対応するビット列がハミング距離として最小となるように定めたものであればよい。例えば、
図1に示す例に対して外周円を30度回転配置させる位相の方向が逆の関係、
図1に示す例に対して全ての信号点の位相が90度の整数倍(1〜4倍)回転した関係、
図1に示す例に対して4ビットのビット順を入れ替えた関係や任意のビットの0/1を入れ替えた関係等、これらに等価なビットマッピングの入れ替えを重複して作用させる場合も含み、様々な実現例を随意定めることができる。
【0037】
本発明による実施例1の伝送システムによれば、16APSKにおいて、振幅方向に最もユークリッド距離が小さい信号点間で、ハミング距離を最小にすることができ、ビット誤りを小さくし、周波数有効利用の観点からも改善して、所要C/Nを小さくすることができる。
【0038】
〔実施例2の伝送システム〕
次に、本発明による実施例2の変調器、復調器、送信装置、受信装置及び信号点配置とビット割り当て方法について説明する。
図3は、本発明による実施例2の伝送システムの基本構成を示すブロック図である。尚、
図2に示す実施例1と同様な構成要素には、同一の参照番号を付している。
【0039】
図3を参照するに、実施例2の伝送システムは、16APSKの変調器11及び電力増幅器12を備える送信装置10と、受信部31及び電力増幅器32を備える衛星中継器30と、等化器51及び16APSKの復調器52を備える受信装置50から構成される。16APSKの変調器11は、マッピング部111及びIQ変調部112を備える。16APSKの復調器52は、IQ復調部521、尤度判定部522及びデマッピング部523を備える。
図3では、本発明に係るビット列の変調からビット列の復調までの部分を示し、周波数変換の要素は省略しており、更に本発明とは直接的に関係しないシンボル同期・フレーム同期・誤り訂正やインタリーブなどの他の処理も、例えば非特許文献1に示される伝送システムと同様に、適宜構成されているものとする。また、衛星中継器30の伝送特性に関わる要素として、IMUX(Input Multiplexer)フィルタ、OMUX(Output Multiplexer)フィルタなどがあるが、ここでは衛星中継器30の電力増幅器31の特性に含んでいるものとする。
【0040】
図3に示す実施例2の伝送システムでは、衛星中継器30の受信部31によりアップリンク伝送路を介して送信装置10からの伝送信号を受信し、衛星中継器30の電力増幅器32により電力増幅してダウンリンク伝送路を経て受信装置50に送信するように構成される。ここで、衛星中継器30の電力増幅器32の特性を送信装置10の電力増幅器12の特性に含めて考え、アップリンク伝送路の特性とダウンリンク伝送路の特性を合わせて伝送路の特性と見なせば、
図2に示す実施例1の伝送システムの基本構成と同等に見なすこともできる。そして、同一の参照番号を付した各構成要素は同様の機能を有するため、更なる詳細な説明は省略する。
【0041】
したがって、本発明による実施例2の伝送システムにおいても、16APSKにおいて、振幅方向に最もユークリッド距離が小さい信号点間で、ハミング距離を最小にすることができ、ビット誤りを小さくし、周波数有効利用の観点からも改善して、所要C/Nを小さくすることができる。
【0042】
尚、TWTAを飽和動作又は飽和に近い動作をさせる場合など、各電力増幅器12,32が非線形特性を有している場合は、
図4に示すように、振幅が大きくなると群遅延が大きくなる傾向を示すことが一般的である。このような時は、内周円より外周円のシンボルが、より遅れる傾向を示すことになる。
【0043】
そこで、本発明に係るビットマッピングを適用するには、伝送路上において正しいシンボル配置となっていることが望ましい。特に、伝送路がアップリンクとダウンリンクに分かれている衛星放送伝送路では、より雑音(妨害)の影響を受けやすいダウンリンクの伝送路上において、正しいシンボル配置となっていることが望ましい。このため、送信装置10側で、各電力増幅器12,32の位相特性によるシンボル配置のずれを位相補償する手段を設けることが好適である。これは、例えば電力増幅器12の前段又は後段に位相補償器(好適には、非線形位相補償器)を配置することで実現することができる。
【0044】
ただし、位相補償器の設置の有無に関わらず、16APSKの変調器11は、伝送路上のシンボル配置を基本に、16APSKの信号点配置において、内周円上で隣接する各信号点配置関係、外周円上で隣接する各信号点配置関係、及び、内周円の信号点と外周円の信号点との間で最小ユークリッド距離となる信号点配置関係にある各信号点に対応するビット列がハミング距離として最小となるように、16APSKの信号点配置における全てのビット列の割り当てを行うことが、伝送特性の効率を最大に引き出すこととなる。
【0045】
図5に、従来の伝送システム(高度BS)の16APSKを基準にし、仮にリング比も高度BSの方式で最適化された条件に固定して、本発明に係る伝送システム(実施例2)における生のビット誤り特性(誤り訂正前の特性)をシミュレーションによって比較した例を示す。
図5から分かるように、C/Nが比較的高くビット誤りの少ない範囲で本発明に係る方式の優位性が確認できている。つまり、符号化率の大きな符号を使用する場合において、本方式が優位となることが想定される。更に、従来の伝送システム(高度BS)の場合よりも、C/Nに応じてビット誤りが低下する傾向を示していることから、本発明に係る方式において、リング比、符号(LDPC符号)及びインタリーブ等を最適化すれば、C/Nの広範囲にて、更に伝送特性を改善させることが期待できる。
【0046】
上述の実施例については代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変形及び置換することができることは当業者に明らかである。例えば、上述の実施例では、特定の伝送システムを例に説明したが、本発明は、16APSKを利用する任意の伝送システムに適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、16APSKにおいて、振幅方向に最もユークリッド距離が小さい信号点間で、ハミング距離も最小にすることで、ビット誤りを小さくし、周波数効率有効利用の観点からも改善して、所要C/Nを小さくすることができるので、16APSKを利用する任意の伝送システムに有用である。
【符号の説明】
【0048】
10 送信装置
11 16APSKの変調器
12 電力増幅器
30 衛星中継器
31 受信部
32 電力増幅器
50 受信装置
51 等化器
52 16APSKの復調器
111 マッピング部
112 IQ変調部
521 IQ復調部
522 尤度判定部
523 デマッピング部