特許第6275064号(P6275064)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6275064-ペリクル用粘着剤 図000008
  • 特許6275064-ペリクル用粘着剤 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6275064
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】ペリクル用粘着剤
(51)【国際特許分類】
   C09J 183/05 20060101AFI20180129BHJP
   C09J 133/00 20060101ALI20180129BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20180129BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20180129BHJP
   G03F 1/62 20120101ALI20180129BHJP
   B01D 19/04 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
   C09J183/05
   C09J133/00
   C09J11/06
   C09J11/08
   G03F1/62
   B01D19/04 A
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-23776(P2015-23776)
(22)【出願日】2015年2月10日
(65)【公開番号】特開2016-147921(P2016-147921A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2017年1月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108143
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋崎 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】堀越 淳
(72)【発明者】
【氏名】簗瀬 優
【審査官】 田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−156105(JP,A)
【文献】 特開平06−293831(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/157759(WO,A1)
【文献】 特開2011−095586(JP,A)
【文献】 特開2015−021034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
G03F 1/62
B01D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペリクルをフォトマスクに貼り付けるためのペリクル用粘着剤であって、粘着剤に反応性フッ素変性シリコーンオイルを添加したものであり、
前記粘着剤は、SiH基を有するシリコーン系粘着剤であり、
前記反応性フッ素変性シリコーンオイルは、ビニル基を有するフッ素変性シリコーンオイルであることを特徴とするペリクル用粘着剤。
【請求項2】
ペリクルをフォトマスクに貼り付けるためのペリクル用粘着剤であって、粘着剤に反応性フッ素変性シリコーンオイルを添加したものであり、
前記粘着剤は、水酸基、アミノ基又はカルボキシル基を有するアクリル系粘着剤であり、
前記反応性フッ素変性シリコーンオイルは、イソシアネート基を有するフッ素変性シリコーンオイルであることを特徴とするペリクル用粘着剤
【請求項3】
前記反応性フッ素変性シリコーンオイルが、両末端にビニル基を有するフッ素変性シリコーンオイルである請求項1に記載のペリクル用粘着剤。
【請求項4】
前記反応性フッ素変性シリコーンオイルが、下記一般式(1)で表されるフッ素変性シリコーンオイルである請求項1に記載のペリクル用粘着剤。
【化1】
[式中、Rはビニル基であり、Rは独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ビニル基、炭素原子数1〜12のアルキル基又はアルコキシ基であり、Rは炭素原子数3〜14のフッ素原子含有アルキル基であり、xは0以上の整数であり、yは1以上の整数であり、但し、x+yが20〜1000及びy/(x+y)が0.1〜1.0を満たす正数であり、xとyの並びはランダムである。]
【請求項5】
前記反応性フッ素変性シリコーンオイルが、下記一般式(1)で表されるフッ素変性シリコーンオイルである請求項2に記載のペリクル用粘着剤
【化1】
[式中、Rはイソシアネート基であり、Rは独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ビニル基、炭素原子数1〜12のアルキル基又はアルコキシ基であり、Rは炭素原子数3〜14のフッ素原子含有アルキル基であり、xは0以上の整数であり、yは1以上の整数であり、但し、x+yが20〜1000及びy/(x+y)が0.1〜1.0を満たす正数であり、xとyの並びはランダムである。]
【請求項6】
前記ペリクル用粘着剤中の前記反応性フッ素変性シリコーンオイルの含有量が、前記粘着剤100質量部に対して0.0001質量部〜1質量部である請求項1〜のいずれか1項に記載のペリクル用粘着剤。
【請求項7】
少なくともペリクル膜と、該ペリクル膜が一方の端面に貼り付けられたペリクルフレームと、該ペリクルフレームの他方の端面にペリクルをフォトマスクに貼り付けるための粘着剤層とを有するペリクルであって、該粘着剤層が、請求項1〜のいずれか1項に記載のペリクル用粘着剤からなることを特徴とするペリクル。
【請求項8】
請求項2又は5に記載の反応性フッ素変性シリコーンオイルを消泡有効成分として含有することを特徴とする消泡剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス、プリント基板、液晶ディスプレイ等を製造する際のゴミ除けとして使用されるリソグラフィー用ペリクルに関し、特には、フッ素変性シリコーンオイル系の消泡剤が添加されたペリクル用粘着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
LSI、超LSI等の半導体デバイスや液晶ディスプレイ等を製造する際、半導体ウェハー或いは液晶用原板に光を照射してパターンを作製するが、このときに用いるフォトマスクあるいはレチクル(以下、これらを単に「フォトマスク」と記述する。)にゴミが付着していると、パターンのエッジががさついたものとなるほか、下地が黒く汚れたりするなど、得られる製品の寸法、品質、外観等が損なわれるという問題があった。
【0003】
このため、パターンの作製作業は通常クリーンルーム内で行われているが、それでもフォトマスクを常に清浄に保つことは難しい。そこで、フォトマスク表面にゴミ除けとしてペリクルを貼り付けた後に露光が行われている。この場合、異物はフォトマスクの表面には直接付着せず、ペリクル膜上に付着するため、リソグラフィー時に焦点をフォトマスクのパターン上に合わせておけば、ペリクル膜上の異物は転写に無関係となる。
【0004】
一般に、ペリクルは光を良く透過させるニトロセルロース、酢酸セルロース、フッ素樹脂等からなる透明なペリクル膜をアルミニウム、ステンレス、ポリエチレン等からなるペリクルフレームの上端面にペリクル膜の良溶媒を塗布した後、風乾して接着するか(特許文献1参照)、アクリル樹脂やエポキシ樹脂等の接着剤で接着している(特許文献2,3参照)。さらに、ペリクルフレームの下端には、フォトマスクに貼り付けるための、ポリブテン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂等からなる粘着剤層、及び粘着剤層の保護を目的とした離型層(セパレータ)が設けられている。
【0005】
ペリクルフレームへの粘着剤の塗布は、刷毛塗り、スプレー塗布、ディップ、チューブやカートリッジからの押し出し塗布、自動塗布装置(特許文献4参照)による塗布等によって行われるが、いずれの塗布方法においても、もともと粘着剤中に気体が溶存していたり、塗布時に粘着剤とペリクルフレームの間に気泡を巻き込んだりして、塗布後の粘着剤中に泡が残ってしまうことは避けられなかった。
【0006】
これらの泡は粘着剤静置中に自然に抜けてしまうものもあったが、粘着剤が溶剤希釈タイプの場合、粘着剤中の溶剤が揮発し粘度が高くなってくると、泡は抜けなくなってしまうため速やかに泡を除去する必要がある。泡が粘着剤中に残っていた場合、その泡はペリクル検査時に集光ライトを照射すると輝点として確認でき、外観不良(異物)と判定され、ペリクル製造の歩留まり低下の一因となっていた。
【0007】
従来から液体中の泡を抜く方法として消泡剤が使用されている。非水系発泡液用の消泡剤としては、シリコーンオイル系のKF−96、KS−66、KS−602A、FA−600、FA−630、FL−100、FL−50(いずれも信越化学工業株式会社製:製品名)等の使用が効果的であるが、それらの中でも、フッ素変性シリコーンオイル系のFA−600、FA−630、FL−100、FL−50等の使用が特に効果的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭58−219023号公報
【特許文献2】米国特許第4861402号明細書
【特許文献3】特公昭63−27707号公報
【特許文献4】特開平7−24390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、フッ素変性シリコーンオイルが消泡剤として効果を発揮するには、非水系発泡液との相溶性がある程度低くなければならないため、消泡剤としてフッ素変性シリコーンオイルを含有した非水系発泡液を長期保管すると、その液表面にフッ素変性シリコーンオイルがブリードアウトしてくる。そのため、仮にフッ素変性シリコーンオイルをそのまま粘着剤に適用しようとすると、粘着剤中に添加したフッ素変性シリコーンオイルが粘着剤表面にブリードアウトしてきて粘着剤表面を覆い、粘着性を低下させ、フォトマスクへの貼付け性を悪化させてしまう可能性がある。さらに最悪の場合には、露光装置内での露光中にフォトマスクからペリクルが剥がれ落ち、露光装置を破損させてしまう可能性がある。
【0010】
このような状況に鑑み、本発明は、消泡性に優れ、かつ、粘着剤表面へのブリードアウトが起こりにくいフッ素変性シリコーンオイル系の消泡剤を含有したペリクル用粘着剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明者は鋭意検討を行った結果、ペリクルをフォトマスクに貼り付けるための粘着剤に反応性フッ素変性シリコーンオイルを少量添加することによって上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
さらに詳しく、本発明完成に至る経緯を説明すると、ペリクル用粘着剤として使用されるシリコーン系粘着剤は、その粘着剤組成物中に含まれるSiHとSiCH=CHが付加反応して硬化が進んでいくが、この時、SiHとSiCH=CHの比は通常、SiH/SiCH=CH=5〜20とSiHが過剰である点に本発明者は着目した。そして、反応性官能基としてビニル基を導入した反応性フッ素変性シリコーンオイルを消泡剤として用いることで、余剰となっているSiHと該反応性フッ素変性シリコーンオイルのビニル基とを反応させて粘着剤中に該反応性フッ素変性シリコーンオイルを固定化させる着想を得た。そして、そうすることにより、粘着剤としての性能を低下させることなく、前記反応性フッ素変性シリコーンオイルが消泡剤としての性能を発揮した後に、粘着剤表面にブリードアウトしてくることを抑止できるという事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明のペリクル用粘着剤は、ペリクルをフォトマスクに貼り付けるためのペリクル用粘着剤であって、粘着剤に反応性フッ素変性シリコーンオイルを添加したものである。
【0014】
また、本発明のペリクルは、少なくともペリクル膜と、該ペリクル膜が一方の端面に貼り付けられたペリクルフレームと、該ペリクルフレームの他方の端面にペリクルをフォトマスクに貼り付けるための粘着剤層とを有するペリクルであって、該粘着剤層が、本発明のペリクル用粘着剤からなるものである。
【0015】
また、本発明の消泡剤は、前記反応性フッ素変性シリコーンオイルを消泡有効成分として含有するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明のペリクル用粘着剤は、消泡剤として反応性フッ素変性シリコーンオイルを含有するため、ペリクル製造において粘着剤の塗布時及び硬化時に発生する泡を低減することができ、さらに粘着剤表面への前記反応性フッ素変性シリコーンオイルのブリードアウトを抑止することができ、その結果、ペリクル製造の歩留りを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】反応性フッ素変性シリコーンオイルが添加された本発明のペリクル用粘着剤を使用した、本発明のペリクルの一例を示す概略縦断面図である。
図2】粘着剤塗布装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は図面に示した態様に限定されるものではない。
【0019】
図1は、反応性フッ素変性シリコーンオイルが添加された本発明のペリクル用粘着剤を使用した、本発明のペリクルの一例を示す概略縦断面図である。
【0020】
図1において、本発明の一例を示すペリクル1は、ペリクル1を貼り付けるフォトマスク(ガラス基板)の形状に対応した形状、一般的には四角形枠状(長方形枠状又は正方形枠状)をしたペリクルフレーム12の上端面にペリクル膜11が張設され、ペリクルフレーム12の下端面には、ペリクル1をフォトマスク(ガラス基板)に貼り付けるための粘着剤層13が形成されている。この粘着剤層13は、反応性フッ素変性シリコーンオイルを含有した粘着剤、すなわち、本発明のペリクル用粘着剤からなるものである。また、粘着剤層13の下端面には粘着剤層13を保護するための離型層(セパレータ)14が剥離可能に貼り付けられている。ここで、本発明においては、ペリクル膜、及びペリクルフレームの材質に特に制限はなく、公知のものを使用することができるが、剛性、加工性の点から、ペリクルフレームは金属製のものが好ましい。また、ペリクル膜は公知の方法でペリクルフレームに接着される。
【0021】
本発明のペリクル用粘着剤はペリクルフレームの下端面に所定の幅(通常、ペリクルフレームのフレーム幅と同じ又はそれ以下)で塗布され、かつ、ペリクルフレームの下端面の周方向全周に亘って、ペリクルフレームをフォトマスク(ガラス基板)に貼り付けることができるように塗布される。
【0022】
本発明のペリクル用粘着剤は、前述したように、粘着剤に反応性フッ素変性シリコーンオイルを添加したものであるが、該粘着剤としては公知のものを使用することができる。特に、シリコーン系組成物を主成分とするシリコーン系粘着剤やアクリル系組成物を主成分とするアクリル系粘着剤、天然ゴム系粘着剤等が使用できる。なかでもシリコーン系粘着剤は、耐候性、耐熱性、耐寒性、電気絶縁性等の性能が良好であり、例えば、信越化学工業株式会社から市販されているシリコーン系粘着剤(例えば、シリコーン系粘着剤:X−40−3122、KR−3700、X−40−3103、X−40−3264等)を好適に使用することができる。シリコーン系粘着剤の中では、特には、粘着強度が強く、低分子シロキサンを低減していることから、X−40−3122(信越化学工業株式会社製:製品名)が好ましい。アクリル系粘着剤としては、例えば、綜研化学株式会社から市販されているアクリル粘着剤(SKダインシリーズなど)を使用することができるが、粘着力や作業性から、SK−1495が好ましい。
【0023】
前記粘着剤に添加される反応性フッ素変性シリコーンオイルは、粘着剤組成物中に含まれる官能基と反応性のある官能基を、ポリシロキサン鎖の片方ないし両方の末端、側鎖、あるいは末端と側鎖の両方に有するフッ素変性シリコーンオイルであると定義される。前記反応性フッ素変性シリコーンオイルを添加する粘着剤がシリコーン系粘着剤又はアクリル系粘着剤である場合、下記一般式(1)で表される反応性フッ素変性シリコーンオイルの使用が好ましい。
【化2】
[式中、Rはビニル基又はイソシアネート基であり、Rは独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ビニル基、炭素原子数1〜12のアルキル基又はアルコキシ基であり、Rは炭素原子数3〜14のフッ素原子含有アルキル基であり、xは0以上の整数であり、yは1以上の整数であり、但し、x+yが20〜1000及びy/(x+y)が0.1〜1.0を満たす正数であり、xとyの並びはランダムである。]
【0024】
一般式(1)中、Rで表されるアルキル基は、炭素原子数1〜12、好ましくは1〜8である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられ、好ましくは、メチル基、エチル基であり、より好ましくは、メチル基である。
【0025】
で表されるアルコキシ基は、炭素原子数1〜12、好ましくは1〜8、より好ましくは1〜4である。例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられ、好ましくは、メトキシ基、エトキシ基である。
【0026】
で表されるフッ素原子含有アルキル基は、炭素原子数3〜14、好ましくは3〜10、より好ましくは3〜8である。具体的には、Rは下記一般式(2)で表されるものが好ましい。
【化3】
[式中、aは1以上の整数、好ましくは2及び3、特に好ましくは2であり、bは1以上の整数、好ましくは1〜8の整数であり、但し、a+bは3〜14、好ましくは3〜10、特に好ましくは3〜8の整数である。]
【0027】
としては、例えば、−CHCHCF、−CHCH、−CHCH17等が挙げられ、特に−CHCHCF、−CHCHが好ましい。
【0028】
前記粘着剤としてシリコーン系粘着剤を使用する場合には、前記一般式(1)で表される反応性フッ素変性シリコーンオイルにおいて、Rを、シリコーン系粘着剤組成物中の反応性官能基であるSiH基と反応が可能であるビニル基とした反応性フッ素変性シリコーンオイルを好適に使用することができる。
また、前記粘着剤としてアクリル系粘着剤を使用する場合には、前記一般式(1)で表される反応性フッ素変性シリコーンオイルにおいて、Rを、アクリル系粘着剤組成物中の反応性官能基である水酸基やアミノ基、あるいはカルボキシル基と反応が可能であるイソシアネート基(−N=C=O)とした反応性フッ素変性シリコーンオイルを好適に使用することができる。
【0029】
前記反応性フッ素変性シリコーンオイルの配合量は、前記粘着剤100質量部に対して0.0001〜1質量部であり、好ましくは0.0001〜0.5質量部、より好ましくは0.0001〜0.1質量部である。前記反応性フッ素シリコーンオイルの配合量が0.0001質量部よりも少ないと、泡抜け効果(消泡性)が不十分となる場合があり、1質量部よりも多いと、本発明のペリクル用粘着剤の物性や耐候性、耐熱性等の特性に悪影響を与える恐れがある。
【0030】
また、本発明のペリクル用粘着剤は、必要に応じて、本発明の特徴を妨げない範囲で他の成分を配合することができる。すなわち、必要に応じて、顔料、染料、可塑剤、難燃性付与剤、耐熱性向上剤、耐候性向上剤、チキソ性付与剤、抗菌剤、防カビ剤等を配合してもよい。
【0031】
さらに、前記反応性フッ素変性シリコーンオイルを含有した粘着剤の粘度が高くて粘着剤塗布装置による塗布が困難な場合には、必要に応じて、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、ヘキサン、オクタン、イソオクタン、イソパラフィン等の脂肪族系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルメトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、ジイソプルピルエーテル、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶剤、又はこれらの混合溶剤を添加することができる。
【0032】
一方、本発明の消泡剤は、前述したように、前記反応性フッ素変性シリコーンオイルを消泡有効成分として含有するものである。本発明の消泡剤は、前記反応性フッ素変性シリコーンオイルのみで用いてもよいが、適宜、前述した溶剤で希釈して用いることができる。また、消泡効果を損なわない範囲で他の成分を配合することができる。
【0033】
また、本発明のペリクルは、前述したように、少なくともペリクル膜と、該ペリクル膜が一方の端面に貼り付けられたペリクルフレームと、該ペリクルフレームの他方の端面にペリクルをフォトマスクに貼り付けるための粘着剤層とを有し、該粘着剤層が、本発明のペリクル用粘着剤からなるものである。ペリクルフレームへの該ペリクル用粘着剤の塗布は、例えば、粘着剤塗布装置にて行うことができる。図2は、本発明のペリクルを作製する際において、粘着剤層の形成に好適に使用される粘着剤塗布装置の一例を示す模式図である。この粘着剤塗布装置2には、シリンジ23が、シリンジ23をXYZ軸方向に移動させることができるように固定レール及び可動レールを組み合わせて構成した3軸ロボット22を介して、架台21上方に取り付けられている。このシリンジ23の先端にはニードル25が取り付けられ、本発明のペリクル用粘着剤が満たされたシリンジ23をエア加圧式ディスペンサ(図示せず)に接続し、3軸ロボット22の制御部(図示せず)により、ロボット動作と塗布液吐出の両方を制御する。そして、粘着剤塗布装置2の架台21上にセットされたペリクルフレーム24上(この場合、ペリクルの天地が逆に配置されており、ペリクルの下端面が上方を向いている)に、本発明のペリクル用粘着剤をニードル25から滴下しながら移動させることにより、ペリクルフレーム24上に該粘着剤を塗布することができる。
【0034】
また、前記粘着剤の移送手段(図示せず)は、エア加圧、窒素加圧などの気体加圧によるものに限らず、シリンジポンプ、プランジャーポンプ、チューブポンプなど、供給量及び吐出・停止が制御できる各種の移送手段が利用できる。
【0035】
離型層(セパレータ)14は、ペリクルをフォトマスクに貼り付けるまで、粘着剤層13を保護するためのものであり、ペリクルの使用時には取り除かれる。そのため、離型層(セパレータ)は、粘着剤層をペリクルの使用時まで保護することが必要な場合に適宜設けられる。製品ペリクルは、一般に離型層(セパレータ)を貼り付けた状態で流通される。離型層(セパレータ)の材質については特に制限はなく、公知のものを使用することができる。また、離型層(セパレータ)は公知の方法で粘着剤層に貼り付ければよい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0037】
[実施例1]
はじめに、外寸782×474mm、内寸768×456mm、高さ5.0mmであり、上端面及び下端面の各々の外内両辺縁部がR加工され、これら両端面側の各々の平坦面が、幅4.0mm、コーナー部の内寸R2.0mm、外寸R6.0mmである長方形のアルミニウム合金製ペリクルフレームを機械加工により製作し、表面に黒色アルマイト処理を施した。このペリクルフレームをクリーンルームに搬入し、中性洗剤と純水により、十分に洗浄・乾燥させた。
次に、図2に示される粘着剤塗布装置2の架台21上に前記ペリクルフレーム24の下端面(粘着剤塗布端面)が上向き水平になるようにペリクルフレーム24を固定した。
ペリクルフレーム24の下端面に塗布するペリクル用粘着剤は、シリコーン系粘着剤:X−40−3122(信越化学工業株式会社製:製品名)100質量部に対して、反応性フッ素変性シリコーンオイルとして、両末端(R)にビニル基を有し、Rはメチル基、Rは−CHCHCF、x+yが250、y/(x+y)が0.7である、下記一般式(1)で表される反応性フッ素変性シリコーンオイル(粘度:5000mPa・s)を0.01質量部添加して調製した。
【化4】
そして、調製した前記ペリクル用粘着剤を図2に示した粘着剤塗布装置2のポリプロピレン(PP)製シリンジ23に充填した。シリンジ23はエア加圧式ディスペンサ(岩下エンジニアリング株式会社製、図示せず)に接続され、3軸ロボット22の制御部(図示せず)によりロボット動作と塗布液吐出の両方が制御され、自動運転により、ペリクルフレーム24の下端面(塗布時は上方を向いている)の周方向全周に、ニードル25から前記ペリクル用粘着剤を滴下して、下端面の平坦部に該粘着剤を塗布した。
その後、該粘着剤が流動しなくなるまで風乾させた後、さらに高周波誘導加熱装置(図示せず)によりペリクルフレームを130℃まで加熱し、溶媒を完全に蒸発させると共に、該粘着剤を硬化させて、粘着剤層を形成した。
また、前記ペリクルフレーム上端部には、ペリクル膜の接着剤としてサイトップCTX−A(旭硝子株式会社製:製品名)を介して、ペリクル膜を貼り付け、カッターにて外側の不要膜を切除しペリクルを完成させた。
【0038】
[実施例2]
シリコーン系粘着剤:X−40−3122(信越化学工業株式会社製:製品名)100質量部に対して、反応性フッ素変性シリコーンオイルとして、両末端(R)にビニル基を有し、Rはメチル基、Rは−CHCHCF、x+yが250、y/(x+y)が0.7である、前記一般式(1)で表される反応性フッ素変性シリコーンオイル(粘度:5000mPa・s)を0.0001質量部添加してペリクル用粘着剤を調製したほかは、実施例1と同様にしてペリクルを作製した。
【0039】
[実施例3]
シリコーン系粘着剤:X−40−3122(信越化学工業株式会社製:製品名)100質量部に対して、反応性フッ素変性シリコーンオイルとして、両末端(R)にビニル基を有し、Rはメチル基、Rは−CHCHCF、x+yが250、y/(x+y)が0.7である、前記一般式(1)で表される反応性フッ素変性シリコーンオイル(粘度:5000mPa・s)を0.1質量部添加してペリクル用粘着剤を調製したほかは、実施例1と同様にしてペリクルを作製した。
【0040】
[実施例4]
シリコーン系粘着剤:X−40−3122(信越化学工業株式会社製:製品名)100質量部に対して、反応性フッ素変性シリコーンオイルとして、両末端(R)にビニル基を有し、Rはメチル基、Rは−CHCHCF、x+yが100、y/(x+y)が0.5である、前記一般式(1)で表される反応性フッ素変性シリコーンオイル(粘度:200mPa・s)を0.01質量部添加してペリクル用粘着剤を調製したほかは、実施例1と同様にしてペリクルを作製した。
【0041】
[実施例5]
シリコーン系粘着剤:X−40−3122(信越化学工業株式会社製:製品名)100質量部に対して、反応性フッ素変性シリコーンオイルとして、両末端にトリビニル基を有し(すなわち、R、Rはビニル基)、Rは−CHCHCF、x+yが500、y/(x+y)が0.7である、前記一般式(1)で表される反応性フッ素変性シリコーンオイル(粘度:30000mPa・s)を0.01質量部添加してペリクル用粘着剤を調製したほかは、実施例1と同様にしてペリクルを作製した。
[実施例6]
アクリル系粘着剤:SK−1495(綜研化学株式会社製:製品名)100質量部に対して、反応性フッ素変性シリコーンオイルとして、両末端(R)にイソシアネート基を有し、Rはメチル基、Rは−CHCHCF、x+yが 250、y/(x+y)が0.7である、前記一般式(1)で表される反応性フッ素変性シリコーンオイル(粘度:5000mPa・s)を0.01質量部添加してペリクル用粘着剤を調製したほかは、実施例1と同様にしてペリクルを作製した。
【0042】
[比較例1]
シリコーン系粘着剤としてX−40−3122(信越化学工業株式会社製:製品名)を使用し、反応性フッ素変性シリコーンオイルを添加しないほかは、実施例1と同様にしてペリクルを作製した。
【0043】
[比較例2]
シリコーン系粘着剤:X−40−3122(信越化学工業株式会社製:製品名)100質量部に対して、反応性のないフッ素変性シリコーンオイルとして、両末端に反応基を有さず(すなわち、R、Rはメチル基)、Rは−CHCHCF、x+yが500、y/(x+y)が0.5である、前記一般式(1)で表されるフッ素変性シリコーンオイル(粘度:5000mPa・s)を0.01質量部添加してペリクル用粘着剤を調製したほかは、実施例1と同様にしてペリクルを作製した。
【0044】
実施例1〜6、及び比較例1、2で作製したペリクルに対し、粘着剤層の外観(泡発生率)及び粘着剤層表面のブリード状態について、以下の指標にて評価した。
【0045】
[粘着剤層の外観(泡発生率)]
前記ペリクルの粘着剤層に泡が発生しているかを確認した。泡発生の確認はペリクル用粘着剤の硬化後に目視にて行い、以下の式に基づいて、泡発生率を求めた。なお、対象とするペリクルの数は実施例1〜6、及び比較例1、2のそれぞれにおいて20とした(すなわち、以下の式において、ペリクル用粘着剤を塗布したペリクル数=20)。結果を表1に示す。
泡発生率(%)=(粘着剤層に泡が発生したペリクル数/ペリクル用粘着剤を塗布したペリクル数)×100
【0046】
[粘着剤層表面のブリード状態]
前記ペリクルを50℃の恒温槽内で1週間静置し、その後、該ペリクルの粘着剤層の表面状態を目視にて観察し、粘着剤層表面のブリード状態(前記フッ素変性シリコーンオイルのブリードアウトの有無)を確認した。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1の結果からわかるように、反応性フッ素変性シリコーンオイルを含有する本発明のペリクル用粘着剤を使用すれば、該粘着剤の塗布時及び塗布後の硬化時に発生する泡を低減することができ、かつ、粘着剤層表面への前記反応性フッ素変性シリコーンオイルのブリード現象を抑止することができるため、ペリクル製造の歩留りを向上させることができる。
【符号の説明】
【0049】
1 ペリクル
11 ペリクル膜
12 ペリクルフレーム
13 粘着剤層(反応性フッ素変性シリコーンオイルを含有した粘着剤)
14 離型層(セパレータ)
2 粘着剤塗布装置
21 架台
22 3軸ロボット
23 シリンジ
24 ペリクルフレーム
25 ニードル
図1
図2