特許第6275124号(P6275124)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6275124
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】水性結合剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 51/00 20060101AFI20180129BHJP
   C08F 265/00 20060101ALI20180129BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20180129BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20180129BHJP
   C09D 151/00 20060101ALI20180129BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20180129BHJP
【FI】
   C08L51/00
   C08F265/00
   C08K5/29
   C08F2/44 C
   C09D151/00
   C09D7/12
【請求項の数】19
【全頁数】47
(21)【出願番号】特願2015-513169(P2015-513169)
(86)(22)【出願日】2013年5月23日
(65)【公表番号】特表2015-523429(P2015-523429A)
(43)【公表日】2015年8月13日
(86)【国際出願番号】EP2013060558
(87)【国際公開番号】WO2013174894
(87)【国際公開日】20131128
【審査請求日】2016年5月16日
(31)【優先権主張番号】12169244.6
(32)【優先日】2012年5月24日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】12191424.6
(32)【優先日】2012年11月6日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】イェンス ハーティヒ
(72)【発明者】
【氏名】マンフレート ダーガッツ
(72)【発明者】
【氏名】カール ヘーベアレ
(72)【発明者】
【氏名】ゼバスティアン エンク
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−026551(JP,A)
【文献】 特開2010−024456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 251/00−283/00
C08F 283/02−289/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性結合剤組成物であって、
a)分散されたポリマー粒子の水性多段ポリマー分散液の形態のポリマーPにおいて、該ポリマー粒子が、少なくとも30℃のガラス転移温度を有し、エチレン性不飽和モノマーM−Aから構成される第一ポリマーと、20℃以下のガラス転移温度を有し、エチレン性不飽和モノマーM−Bから構成される第二ポリマーとを含んでおり、
ここで、前記エチレン性不飽和モノマーM−AおよびM−Bが共に:
i.25℃および1barでの水中での溶解度が高くても50g/lである、少なくとも1種の中性のモノエチレン性不飽和モノマーM1を、モノマーM−AとM−Bとの総量に対して85〜99.45質量%;
ii.25℃および1barでの水中での溶解度が少なくとも100g/lである、少なくとも1種の中性のモノエチレン性不飽和モノマーM2を、モノマーM−AとM−Bとの総量に対して0.5〜10質量%;
iii.酸性基を有する、1種または複数のモノエチレン性不飽和モノマーM3を、モノマーM−AとM−Bとの総量に対して0.05〜0.5質量%;および
iv.任意に、少なくとも2つの非共役エチレン性不飽和二重結合を有する1種または複数のモノマーM4を、モノマーM−AとM−Bとの総量に対して0〜5質量%;
み、
前記第一ポリマーを形成するモノマーM−Aが、
i.25℃および1barでの水中での溶解度が高くても50g/lである、少なくとも1種の中性のモノエチレン性不飽和モノマーM1を、モノマーM−Aの総量に対して80〜99.4質量%;
ii.25℃および1barでの水中での溶解度が少なくとも100g/lである、少なくとも1種の中性のモノエチレン性不飽和モノマーM2を、モノマーM−Aの総量に対して0.5〜20質量%、
iii.酸性基を有する、1種または複数のモノエチレン性不飽和モノマーM3を、モノマーM−Aの総量に対して0.1〜2質量%
む、前記ポリマーPと、
b)脂肪族炭素原子に結合されている、少なくとも2つのカルボジイミド部分を有する、少なくとも1つのカルボジイミド
とを含む前記組成物。
【請求項2】
前記第一ポリマーの量が、該第一ポリマーと前記第二ポリマーとの総量に対して5〜50質量%である、請求項1に記載の水性結合剤組成物。
【請求項3】
前記第二ポリマーを形成するモノマーM−Bが、25℃および1barでの水中での溶解度が高くても50g/lである、少なくとも1種の中性のモノエチレン性不飽和モノマーM1を、モノマーM−Bの総量に対して90〜100質量%含む、請求項1または2に記載の水性結合剤組成物。
【請求項4】
前記第二ポリマーを形成するモノマーM−Bが、少なくとも2つの非共役エチレン性不飽和二重結合を有する1種または複数のモノマーM4を、モノマーM−Bの総量に対して0.1〜10質量%含み、
前記モノマーM4が、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸の飽和脂肪族ジオールまたは飽和脂環式ジオールとのジエステル、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸のモノエチレン性不飽和脂肪族モノヒドロキシ化合物またはモノエチレン性不飽和脂環式モノヒドロキシ化合物とのモノエステル、およびジビニル芳香族化合物からなる群から選択される、請求項に記載の水性結合剤組成物。
【請求項5】
前記ポリマーPが、ポリマーPの1gあたり10mgKOH以下の酸価を有する、請求項1からまでのいずれか1項に記載の水性結合剤組成物。
【請求項6】
前記水性多段ポリマー分散液が、
(1)モノマーM−Aを水性乳化重合して、前記第一ポリマーの水性分散液を得ることと、
(2)前記第一ポリマーの水性分散液中でモノマーM−Bを水性乳化重合すること
とを含む連続的な水性ラジカル乳化重合により得られる、請求項1からまでのいずれか1項に記載の水性結合剤組成物。
【請求項7】
前記モノマーM1が、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸のC1〜C10アルカノールとのエステル、およびビニル芳香族炭化水素からなる群から選択され
前記モノマーM2が、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸のヒドロキシ−C2〜C4アルキルエステル、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸の第一級アミド、ヒドロキシ−C3〜C10アルキルケトンのモノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸とのエステル、アミノ−C3〜C10アルキルケトンのモノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸とのアミド、モノエチレン性不飽和C3〜C8カルボン酸のポリオキシ−C2〜C4アルキレンエーテルとのモノエステル、および少なくとも1つのウレア基を有するモノエチレン性不飽和モノマーからなる群から選択され、
前記モノマーM3が、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸およびモノエチレン性不飽和C4〜C8ジカルボン酸からなる群から選択される、請求項1からまでのいずれか1項に記載の水性結合剤組成物。
【請求項8】
前記カルボジイミドを、前記ポリマーPの質量に対して0.1〜30質量%の量で含む、請求項1からまでのいずれか1項に記載の水性結合剤組成物。
【請求項9】
前記カルボジイミドが、ポリ−C2〜C3アルキレンオキシド基を含む、請求項1からまでのいずれか1項に記載の水性結合剤組成物。
【請求項10】
前記カルボジイミドが、一般式
【化1】
[式中、*は、カルボジイミド部分またはウレタン部分の窒素原子に結合しており、♯は、炭素原子に結合している]
の繰り返し単位を含む脂肪族カルボジイミドである、請求項1からまでのいずれか1項に記載の水性結合剤組成物。
【請求項11】
前記カルボジイミドが、N=C=N部分を、該カルボジイミドの質量に対して2〜20質量%有する、請求項1から10までのいずれか1項に記載の水性結合剤組成物。
【請求項12】
分散されたポリマー粒子の水性多段ポリマー分散液の形態のポリマーPにおいて、該ポリマーP粒子が、少なくとも30℃のガラス転移温度を有し、エチレン性不飽和モノマーM−Aから構成される第一ポリマーと、20℃以下のガラス転移温度を有し、エチレン性不飽和モノマーM−Bから構成される第二ポリマーとを含み、前記ポリマー粒子が、
a)前記第一ポリマーを、該第一ポリマーと前記第二ポリマーとの総量に対して5〜50質量%、ここで、前記第一ポリマーを形成するモノマーM−Aは、以下からなる:
i.25℃および1barでの水中での溶解度が高くても50g/lである、少なくとも1種の中性のモノエチレン性不飽和モノマーM1を、モノマーM−Aの総量に対して80〜99.4質量%;
ii.25℃および1barでの水中での溶解度が少なくとも100g/lである、少なくとも1種の中性のモノエチレン性不飽和モノマーM2を、モノマーM−Aの総量に対して0.5〜20質量%、
iii.酸性基を有する、1種または複数のモノエチレン性不飽和モノマーM3を、モノマーM−Aの総量に対して0.1〜2質量%;
b)前記第二ポリマーを、前記第一ポリマーと前記第二ポリマーとの総量に対して50〜95質量%、ここで、第二ポリマーを形成するモノマーM−Bは、以下を含む:
iv.25℃および1barでの水中での溶解度が高くても50g/lである、少なくとも1種の中性のモノエチレン性不飽和モノマーM1を、モノマーM−Bの総量に対して90〜100質量%、ならびに
v.任意に、少なくとも2つの非共役エチレン性不飽和二重結合を有する1種または複数のモノマーM4を、モノマーM−Bの総量に対して0〜10質量%、
を含んでおり、
前記ポリマーPが、請求項1に記載の通りである、前記水性多段ポリマー分散液
【請求項13】
前記第二ポリマーを形成するモノマーM−Bが、少なくとも2つの非共役エチレン性不飽和二重結合を有する1種または複数のモノマーM4を、モノマーM−Bの総量に対して0.1〜10質量%含み、
前記モノマーM4が、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸の飽和脂肪族ジオールまたは飽和脂環式ジオールとのジエステル、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸のモノエチレン性不飽和脂肪族モノヒドロキシ化合物またはモノエチレン性不飽和脂環式モノヒドロキシ化合物とのモノエステル、およびジビニル芳香族化合物からなる群から選択される、請求項12に記載の水性多段ポリマー分散液
【請求項14】
前記ポリマーPが、ポリマーPの1gあたり10mgKOH以下の酸価を有する、請求項12又は13に記載の水性多段ポリマー分散液。
【請求項15】
前記水性多段ポリマー分散液が、
(1)モノマーM−Aを水性乳化重合して、前記第一ポリマーの水性分散液を得ることと、
(2)前記第一ポリマーの水性分散液中でモノマーM−Bを水性乳化重合すること
とを含む連続的な水性ラジカル乳化重合により得られる、請求項12から14までのいずれか1項に記載の水性多段ポリマー分散液。
【請求項16】
前記モノマーM1が、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸のC1〜C10アルカノールとのエステル、およびビニル芳香族炭化水素からなる群から選択され、
前記モノマーM2が、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸のヒドロキシ−C2〜C4アルキルエステル、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸の第一級アミド、ヒドロキシ−C3〜C10アルキルケトンのモノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸とのエステル、アミノ−C3〜C10アルキルケトンのモノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸とのアミド、モノエチレン性不飽和C3〜C8カルボン酸のポリオキシ−C2〜C4アルキレンエーテルとのモノエステル、および少なくとも1つのウレア基を有するモノエチレン性不飽和モノマーからなる群から選択され、
前記モノマーM3が、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸およびモノエチレン性不飽和C4〜C8ジカルボン酸からなる群から選択される、請求項12から15までのいずれか1項に記載の水性多段ポリマー分散液。
【請求項17】
請求項1から11までのいずれか1項に記載の水性結合剤組成物、または請求項12から16までのいずれか1項に記載の水性多段ポリマー分散液の、コーティング組成物における結合剤としての使用。
【請求項18】
請求項1から11までのいずれか1項に記載の水性結合剤組成物、または請求項12から16までのいずれか1項に記載の水性多段ポリマー分散液を含むコーティング組成物。
【請求項19】
ポリウレタン結合剤、ポリエステル結合剤およびアルデヒド樹脂からなる群から選択される、少なくとも1種の追加の結合剤を含む、請求項18に記載のコーティング組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性多段ポリマー分散液を基とする水性結合剤組成物、この結合剤組成物の使用、およびこれを含むコーティング組成物に関する。
【0002】
水性ポリマー分散液であって、この水性分散液溶媒が気化する場合にポリマー塗膜を形成する前記分散液は、幅広く使用されている。これらは、例えば、水性結合剤系として、塗料、ワニス、紙塗工液、皮革コーティング系、無機成形品、例えば、繊維セメントスラブおよびコンクリートシングル屋根板のためのコーティング系、金属用プライマーの防食剤において、不織布製品における結合剤として、接着剤のベース材料として、水硬性硬化組成物、例えば、プラスターまたはコンクリートの添加剤として、クレイまたはロームの建設材料の添加剤として、膜および同類のものを製造するために使用される。
【0003】
架橋ポリマー鎖を有するポリマー分散液が、前記適用の多くの場合に有利でありうる特性を持つことが明らかになった。前記ポリマー鎖は、乳化重合の間か、またはその後に架橋されてよい。前者は内部架橋、後者は外部架橋と呼ばれる。内部架橋の例は、架橋剤として作用する多価不飽和モノマーの存在下における一価不飽和モノマーの遊離ラジカル重合である。外部架橋の場合、特定の官能基または反応基を有するポリマーは、一般に、照射により架橋されるか、または前記ポリマーの官能基/反応基と反応して、配位結合または共有結合を形成する架橋剤の添加により架橋される。
【0004】
架橋剤の、ポリマー分散液を基とする塗膜形成コーティング配合物への添加が、改善された特性、例えば、耐溶媒性、硬度および傷抵抗を有するコーティングをもたらしうることはよく知られている。
【0005】
カルボキシル基を含むポリマーの、ポリカルボジイミドと組み合わせた、外部架橋の場合の使用は、以下の文献US4,977,219、US5,047,588、US5,117,059、EP0277361、EP0507407、EP0628582およびUS5,352,400から公知である。架橋は、前記ポリマーのカルボキシル基とポリカルボジイミドとの反応に基づくと推測される。この反応は、一般的に、主にN−アシルウレア結合を基とする共有結合架橋をもたらす(J.W.Taylor and D.R.Bassett,E.J.Glass(Ed.),Technology for Waterborne Coatings,ACS Symposium Series 663,Am.Chem.,Washington,DC,1997,chapter 8,137〜163ページ)。
【0006】
前記文献で開示される方法は、特にコーティング適用で使用される場合にいくつかの欠点がある。特に、芳香族ポリカルボジイミドが使用される場合、得られるコーティング膜は、UV光にさらされると不所望な変色をする傾向がある。他方、脂肪族ポリカルボジイミドが使用される場合、架橋工程は、多くの場合、迅速に進行するため、コーティング膜の形成が完了する前にすでにかなり進むか、またはもっと言えば終了する。膜形成工程が正常に機能しない結果として、一般に、多孔性および/または脆性であることが多い不十分なコーティングがもたらされる。さらに、迅速な架橋工程は、脂肪族ポリカルボジイミドを含むコーティング組成物を、通常、不所望に短いポットライフを有する前記組成物にもする。
【0007】
これらの問題は、文献EP0780440で脂肪族ポリカルボジイミドおよび特定のポリマーを含む架橋性組成物を使用して述べられている。これらの組成物は、架橋プロセスを遅らせると報告されており、したがって、改善された品質のコーティングをもたらすとされている。しかし、EP0780440のポリマーは、塗膜形成ポリマー分散液中でほとんど望まれない硫黄含有またはリン含有の酸性基を含む必要があるため、大幅に範囲が制限されている。さらに、EP0780440で開示される組成物はすべて、通常、かなり高価で、潜在的に毒性であるポリカルボジイミドを、比較的大量に含んでいる。
【0008】
US2011/0151128は、ケトカルボン酸と架橋剤のポリカルボジイミドとの反応生成物を含む、水性で硬化性の一成分コーティング組成物を開示している。
【0009】
US2011/0217471は、水性コーティング組成物の架橋剤として有用である、テトラメチルキシリレンジイソシアネートを基とする親水性のポリカルボジイミドを開示している。
【0010】
EP1227116は、カルボン酸およびヒドロキシル官能基を有する結合剤ポリマーと、イソシアネート基、カルボジイミド基、アジリジニル基およびエポキシ基から選択される官能基を有する多官能性架橋剤とを含む水性二成分コーティング組成物を記載している。この結合剤ポリマー中では、酸性基を有するモノマーの量は、この結合剤ポリマーの少なくとも5質量%である。
【0011】
コーティング適用で使用するための水性ポリマー分散液が、多段重合プロセスで製造されることは先行技術においても公知である。例えば、文献EP2371870は、第一のポリマーシェルおよび第二のポリマーコアを含むポリマー粒子を有する多段水性エマルションポリマーを記載している。これらの水性エマルションポリマーは、EP2371870では低レベルの揮発性有機化合物を有し、均衡の取れた特性を有するコーティングを提供すると特徴付けられている。しかし、EP2371870で開示されるエマルションポリマーはすべて、共有架橋の手段を含んでおらず、硬度および/または耐水性が低下したコーティングをもたらす。
【0012】
本発明の目的は、改善された性能特性を有し、先行技術から公知の結合剤の欠陥を有さない、水性ポリマー分散液を基とする結合剤を提供することである。
【0013】
驚くべきことに、前記目的およびさらなる目的は、少なくとも30℃のガラス転移温度(Tg)を有する第一のポリマーと、20℃以下のTgを有する第二のポリマーとを含むポリマー粒子を有する水性多段ポリマー分散液を基とする結合剤組成物であって、脂肪族炭素原子に結合されている、少なくとも2つのカルボジイミド部分を有する、少なくとも1つのカルボジイミドを含む前記結合剤組成物により達成されることが判明した。
【0014】
それに応じて、本発明は、第一に、水性結合剤組成物であって、
a)分散されたポリマー粒子の水性多段ポリマー分散液の形態のポリマーPにおいて、前記ポリマー粒子が、少なくとも30℃のガラス転移温度を有し、エチレン性不飽和モノマーM−Aから構成される第一ポリマーと、20℃以下のガラス転移温度を有し、エチレン性不飽和モノマーM−Bから構成される第二ポリマーとを含んでおり、
ここで、前記エチレン性不飽和モノマーM−AおよびM−Bが共に:
i.25℃および1barでの水中での溶解度が高くても50g/lである、少なくとも1種の中性のモノエチレン性不飽和モノマーM1を、モノマーM−AとM−Bとの総量に対してそれぞれ85〜99.45質量%、好ましくは87.5〜97質量%、特に90〜95.5質量%;
ii.25℃および1barでの水中での溶解度が少なくとも100g/lである、少なくとも1種の中性のモノエチレン性不飽和モノマーM2を、モノマーM−AとM−Bとの総量に対してそれぞれ0.5〜10質量%、好ましくは1〜7.5質量%、特に1.5〜6.5質量%;
iii.酸性基を有する、1種または複数のモノエチレン性不飽和モノマーM3を、モノマーM−AとM−Bとの総量に対してそれぞれ0.05〜0.5質量%、好ましくは0.15〜0.5質量%、特に0.3〜0.5質量%;および
iv.任意に、少なくとも2つの非共役エチレン性不飽和二重結合を有する1種または複数のモノマーM4を、モノマーM−AとM−Bとの総量に対してそれぞれ0〜5質量%、特に0〜4.5質量%;
を含む、前記ポリマーPと、
b)脂肪族炭素原子に結合されている、少なくとも2つのカルボジイミド部分を有する、少なくとも1つのカルボジイミド
とを含む前記組成物を提供する。
【0015】
この関連において、「中性」とは、モノマーM1およびM2が、どちらもプロトン化されておらず、水性の環境で酸として作用しないことを意味する。
【0016】
本発明の水性結合剤組成物は、分散されたポリマー粒子の水性多段ポリマー分散液の形態のポリマーPを含んでいるのが好ましく(本願では分散液Dとも呼ばれる)、前記ポリマー粒子は、少なくとも30℃のガラス転移温度を有し、エチレン性不飽和モノマーM−Aから構成される第一ポリマーと、20℃以下のガラス転移温度を有し、エチレン性不飽和モノマーM−Bから構成される第二ポリマーとを含んでおり、ここで、前記ポリマー粒子は、以下:
a)前記第一ポリマーを、該第一ポリマーと前記第二ポリマーとの総量に対してそれぞれ5〜50質量%、より好ましくは15〜50質量%、特に20〜45質量%、ここで、前記第一ポリマーを形成するモノマーM−Aは、以下からなる:
i.25℃および1barでの水中での溶解度が高くても50g/lである、少なくとも1種の中性のモノエチレン性不飽和モノマーM1を、モノマーM−Aの総量に対してそれぞれ80〜99.4質量%、好ましくは81〜95質量%、特に82.5〜93質量%;
ii.25℃および1barでの水中での溶解度が少なくとも100g/lである、少なくとも1種の中性のモノエチレン性不飽和モノマーM2を、モノマーM−Aの総量に対してそれぞれ0.5〜20質量%、好ましくは2.5〜18質量%、特に5〜16質量%、
iii.酸性基を有する、1種または複数のモノエチレン性不飽和モノマーM3を、モノマーM−Aの総量に対してそれぞれ0.1〜2質量%、好ましくは0.5〜1.75質量%、特に1〜1.6質量%;
b)前記第二ポリマーを、前記第一ポリマーと該第二ポリマーとの総量に対してそれぞれ50〜95質量%、より好ましくは52〜85質量%、特に55〜80質量%、ここで、前記第二ポリマーを形成するモノマーM−Bは、以下を含んでいる
iv.25℃および1barでの水中での溶解度が高くても50g/lである、少なくとも1種の中性のモノエチレン性不飽和モノマーM1を、モノマーM−Bの総量に対してそれぞれ90〜100質量%、好ましくは91.5〜100質量%、特に92.5〜98質量%、ならびに
v.任意に、少なくとも2つの非共役エチレン性不飽和二重結合を有する1種または複数のモノマーM4を、モノマーM−Bの総量に対してそれぞれ0〜10質量%、好ましくは0〜8質量%、特に0〜6.5質量%;
を含んでおり、
前記ポリマーPは、前述の通りであり、特に、前述のモノマーM−AおよびM−Bと同一の全体組成を有している。
【0017】
前記分散液Dは、本発明の実施態様それ自体を表している。
【0018】
前記ガラス転移温度(Tg)は、本願では、動的機械的熱分析(DMTA)を用いて測定することができる、ASTM3418/82に準拠する中心点温度を意味する。ポリマーのガラス転移温度は、実施例に関連して示される方法に従って示差走査熱量測定(DSC)によって測定することもできる。前記第一ポリマーおよび第二ポリマーのガラス転移温度は、モノマーM−AおよびM−Bの好適な選択によってそれぞれ設定されてよい。ポリマーPに含まれる第一ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、一般に少なくとも40℃、好ましくは少なくとも60℃、特に少なくとも70℃である。例えば、第一ポリマーのTgは、40〜200℃の範囲、好ましくは60〜150℃の範囲、特に70〜120℃の範囲にあってよい。ポリマーPに含まれる第二ポリマーのTgは、同様に、一般に、35℃以下、好ましくは30℃以下、特に25℃以下である。例えば、第二ポリマーのTgは、−25〜35℃の範囲、好ましくは−20〜30℃の範囲、特に−15〜25℃の範囲にあってよい。
【0019】
本発明は、前述の通り、分散されたポリマー粒子の水性多段ポリマー分散液をさらに提供するものであり、この分散液は、連続的な水性ラジカル乳化重合によって得られ、この重合は、
(1)モノマーM−Aを水性乳化重合して、前記第一ポリマーの水性分散液を得ることと、
(2)前記第一ポリマーの水性分散液中でモノマーM−Bを水性乳化重合すること
とを含んでいる。
【0020】
本発明の結合剤組成物は、水性ポリマー分散液を基とする結合剤組成物が使用されるさまざまな適用に好適である。コーティング組成物中の結合剤として使用される場合、カルボキシル変性されたポリマーとポリカルボジイミドとの組み合わせを基とする先行技術の結合剤から得られるコーティングと比べて、同じような好ましい耐水性、耐水蒸気性および耐化学薬品性を示すが、実質的に改善された可撓性を示すコーティングがもたらされる。さらに、本発明の結合剤組成物は、カルボキシル基の割合が高いポリマーを含む先行技術の結合剤よりも、塩基性pH値における低い粘度およびまた長いポットライフを有している。さらに、本発明の結合剤を塗料およびワニス中で使用することにより、一般に、多数の表面への優れた接着性を有する高品質のコーティングを得ることが可能である。したがって、本発明による組成物は、特に、金属基材のプライマー、金属およびプラスチック表面の多層コーティングのためのトップコート塗料系、木ニス、および床材適用(flooring application)中の結合剤として有用である。さらに、エポキシド樹脂またはポリウレタン樹脂を基とする慣用の結合剤と比べて、本発明の結合剤組成物は、健康および/または環境に危険を及ぼしうるため不所望である溶媒および反応成分の両方のレベルが低いことを特徴としている。
【0021】
それに応じて、さらに、本発明は、上述の結合剤組成物の、金属表面をコーティングするためのコーティング組成物における使用を提供する。
【0022】
さらに、本発明は、上述の結合剤組成物の、木材表面をコーティングするためのコーティング組成物における使用を提供する。
【0023】
さらに、本発明は、上述の結合剤組成物の、プラスチックまたは複合物の表面をコーティングするためのコーティング組成物における使用を提供する。
【0024】
さらに、本発明は、上述の結合剤組成物の、コンクリートの表面または繊維セメントシートの表面をコーティングするためのコーティング組成物における使用を提供する。
【0025】
本発明のコーティングを製造するために使用される水性多段ポリマー分散液のポリマーPは、分散されたポリマー粒子の形態で存在している。ポリマーPは、一般的に、エチレン性不飽和モノマーM−AおよびM−Bのフリーラジカル水性乳化重合により得られ、以上及び以下に記載されるモノマーをそこで示される量で含んでいる。
【0026】
さらに、本発明により提供されるのは、本発明の結合剤組成物を含むコーティング組成物、特に塗料、ワニス、ラッカー、シーリング剤、およびコンクリート表面または繊維セメントシート表面用のコーティング材である。
【0027】
本発明の範囲において、「アルキル」という表現は、直鎖および分岐鎖のアルキル基、特に1〜30個の炭素原子を有するアルキル基、つまり、「C1〜C30アルキル」を含む。
【0028】
好適な短鎖アルキル基は、例えば、長鎖または分岐鎖のC1〜C7アルキル、好ましくはC1〜C6アルキル、より好ましくはC1〜C4アルキル基である。これには、特に、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、2−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、1,2−ジメチルプロピル、1,1−ジメチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、1−エチルプロピル、n−ヘキシル、2−ヘキシル、2−メチルペンチル、3−メチルペンチル、4−メチルペンチル、1,2−ジメチルブチル、1,3−ジメチルブチル、2,3−ジメチルブチル、1,1−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、1,1,2−トリメチルプロピル、1,2,2−トリメチルプロピル、1−エチルブチル、2−エチルブチル、1−エチル−2−メチルプロピル、n−ヘプチル、2−ヘプチル、3−ヘプチル、2−エチルペンチル、1―プロピルブチルなどが含まれる。
【0029】
好適な長鎖アルキル基は、例えば、長鎖および分岐鎖のC8〜C30アルキル基、好ましくはC8〜C20アルキル基である。好ましくは、これらは主に直鎖のアルキル基、例えば、天然脂肪酸または合成脂肪酸、および脂肪アルコールとして、および同じくオキソプロセスアルコールとしても生じる。これには、例えば、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ペンタデシル、n−ヘキサデシル、n−ヘプタデシル、n−オクタデシル、およびn−ノナデシルが含まれる。「アルキル」という表現は、不飽和および飽和アルキル基を含む。
【0030】
アルキルに関する前記観察は、アルカノール、アルキルアミン、アルキルケトン、およびアルカンカルボン酸のアルキル基にも同じように適用される。
【0031】
本発明の関連における「アルキレン」という表現は、1〜7個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖のアルカンジイル基、例えば、メチレン、1,2−エチレン、1,2−プロピレン、1,3−プロピレン、1,2−ブチレン、1,3−ブチレン、1,4−ブチレン、2−メチル−1,2−プロピレンなどを表している。
【0032】
前記詳細に述べられた通り、本発明による水性結合剤組成物中に含まれるポリマーPのポリマー粒子は、エチレン性不飽和モノマーM−Aで構成される第一ポリマー、およびエチレン性不飽和モノマーM−Bで構成される第二ポリマーを含んでいる。
【0033】
本発明の好ましい実施態様によれば、前記水性結合剤組成物は、前記第一ポリマーおよび前記第二ポリマーからなるポリマーPのポリマー粒子を含んでいる。
【0034】
前記第一ポリマーの量は、一般的に、この第一ポリマーと前記第二ポリマーとの総質量に対してそれぞれ2〜60質量%、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは15〜50質量%、特に20〜45質量%の範囲にある。
【0035】
本発明によるポリマーPの第一ポリマーは、以下を含むモノマーM−Aから形成されているのが好ましい:
i.25℃および1barでの水中での溶解度が高くても50g/lである、少なくとも1種の中性のモノエチレン性不飽和モノマーM1を、モノマーM−Aの総量に対してそれぞれ80〜99.4質量%、より好ましくは81〜95質量%、特に82.5〜93質量%;
ii.25℃および1barでの水中での溶解度が少なくとも100g/lである、少なくとも1種の中性のモノエチレン性不飽和モノマーM2を、モノマーM−Aの総量に対してそれぞれ0.5〜20質量%、より好ましくは2.5〜18質量%、特に5〜16質量%;
iii.酸性基を有する、1種または複数のモノエチレン性不飽和モノマーM3を、モノマーM−Aの総量に対してそれぞれ0.1〜2質量%、より好ましくは0.5〜1.75質量%、特に1〜1.6質量%。
【0036】
本発明によるポリマーPの第二ポリマーは、25℃および1barでの水中の溶解度が高くても50g/lである、少なくとも1種の中性のモノエチレン性不飽和モノマーM1を、モノマーM−Bの総量に対してそれぞれ90〜100質量%、より好ましくは91〜100質量%、特に92.5〜100質量%含むモノマーM−Aから形成されているのが好ましい。
【0037】
本発明の実施態様によれば、本発明の結合剤組成物中か、または本発明の分散液D中に含まれるポリマーPの第二ポリマーを形成するモノマーM−Bは、少なくとも2つの非共役エチレン性不飽和二重結合を有する、1種または複数のモノマーM4を、モノマーM−Bの総量に対してそれぞれ0.1〜10質量%、好ましくは2〜8質量%、特に3〜6.5質量%含んでいる。
【0038】
本発明による好ましい実施態様によれば、本発明の結合剤組成物中か、または本発明の分散液D中に含まれるポリマーPの第二ポリマーを形成するモノマーM−Bは、モノマーM4を含んでいないか、または少なくとも2つの非共役エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーM4をモノマーM−Bの質量に対して0.01質量%未満含んでいる。
【0039】
本発明の結合剤組成物中か、または本発明の分散液D中に含まれるポリマーPの第一ポリマーは、好ましくは、1,000〜500,000g/mol、より好ましくは2,000〜100,000g/mol、特に5,000〜50,000g/molの範囲の数平均分子量Mnを有しているのが好ましい。モル質量は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより、標準、例えば、ポリメチルメタクリレートを用いて測定することができる。
【0040】
本発明の結合剤組成物中か、または本発明の分散液D中に含まれるポリマーPの第二ポリマーは、少なくとも500,000g/mol、好ましくは少なくとも1,000,000g/mol、特に少なくとも1,500,000g/mol、例えば、500,000〜10,000,000g/molの範囲、より好ましくは1,000,000g/mol〜5,000,000g/molの範囲、特に1,500,000〜2,500,000g/molの範囲の数平均分子量Mnを有しているのが好ましい。モル質量は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより、標準、例えば、ポリメチルメタクリレートを用いて測定することができる。
【0041】
さらに、本発明の結合剤組成物中か、または本発明の分散液D中に含まれるポリマーPは、10mgKOH以下、より好ましくは7.5mgKOH以下、特に5mgKOH以下の酸価を有している。ここで「酸価」とは、ポリマーPの1グラムを中性化するのに必要な水酸化カリウム(KOH)のミリグラム(mg)を意味している。
【0042】
本発明の結合剤組成物中か、または本発明の分散液D中に存在するポリマー粒子は、一般に、5〜1000nmの範囲、多くの場合10〜500nmの範囲、好ましくは15〜250nmの範囲、より好ましくは20〜150nmの範囲、特に25〜100nmの範囲の平均粒径を有している。前記ポリマー粒子は、最大値が1つだけの単峰性の粒径分布、言い換えればガウス分布を有していてよいか、または一般に、少なくとも50nm異なる、少なくとも2つの明らかな最大値の多峰性分布を有していてよい。平均粒径は、希釈したポリマー分散液(0.001〜1質量%、22℃)に対する準弾性光散乱(QELS)により測定されるキュムラント解析の平均値(フィット(fits)の平均)と理解される。
【0043】
本発明の結合剤組成物中か、または本発明の分散液D中に含まれるポリマーPは、共重合加された形で、25℃および1barでの脱イオン水での溶解度が高くても50g/lである、少なくとも1種の中性モノエチレン性不飽和モノマーM1を含んでいる。好ましくは、モノマーM1の水中での溶解度は、40g/lを超過しない、特に30g/lを超過せず、一般的に、0.1〜50g/lの範囲、好ましくは0.1〜40g/lの範囲、特に0.1〜50g/lの範囲にある(25℃、1bar)。
【0044】
モノマーM1は、モノエチレン性不飽和である、つまり、正確に1つのエチレン性不飽和C=C二重結合を有している。モノマーM1は、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸およびモノエチレン性不飽和C4〜C8ジカルボン酸のC1〜C30アルカノール、特にC1〜C10アルカノールとのエステルおよびジエステル、ビニルアルコールまたはアリルアルコールのC1〜C30モノカルボン酸とのエステル、ビニル芳香族炭化水素、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸およびモノエチレン性不飽和C4〜C8ジカルボン酸のC1〜C30アルキルアミンまたはジ−C1〜C30アルキルアミン、特にC1〜C10アルキルアミンまたはジ−C1〜C10アルキルアミンとのアミドおよびジアミド、ならびにそれらの混合物から選択されるのが好ましい。
【0045】
「モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸」という表現は、エチレン性不飽和C=C二重結合を有する、3〜8個の炭素原子を有する一価カルボン酸、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸ビニルまたはクロトン酸を表している。
【0046】
「モノエチレン性不飽和C4〜C8ジカルボン酸」という表現は、エチレン性不飽和C=C二重結合を有する、4〜8個の炭素原子を有する二価カルボン酸、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸またはシトラコン酸を表している。
【0047】
さらに好適なモノマーM1は、例えば、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン、およびそれらの混合物である。
【0048】
好適な、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸およびモノエチレン性不飽和C4〜C8ジカルボン酸のC1〜C30アルカノール、特にC1〜C10アルカノールとのエステルおよびジエステルは、特に、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸のエステル、特に、アクリル酸のC1〜C30アルカノール、特にC1〜C10アルカノールとのエステルおよびメタクリル酸のC1〜C30アルカノール、特にC1〜C10アルカノールとのエステル、例えば、メチル(メタ)アクリレート、メチルエタクリレート、エチル(メタ)アクリレート、エチルエタクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチルエタクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、1,1,3,3−テトラメチルブチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ウンデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、アラキジル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、リグノセリル(メタ)アクリレート、セロチル(メタ)アクリレート、メリシル(メタ)アクリレート、パルミトレイル(メタ)アクリレート、オレイル(メタ)アクリレート、リノリル(メタ)アクリレート、リノレニル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートおよびラウリル(メタ)アクリレート、しかし、また、モノエチレン性不飽和C4〜C8ジカルボン酸のジエステル、特にマレイン酸のC1〜C30アルカノールとのジエステル、例えば、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジ(n−プロピル)、マレイン酸ジイイソプロピル、マレイン酸ジ(n−ブチル)、マレイン酸ジ(n−ヘキシル)、マレイン酸ジ(1,1,3,3−テトラメチルブチル)、マレイン酸ジ(n−ノニル)、マレイン酸ジトリデシル、マレイン酸ジミリスチル、マレイン酸ジペンタデシル、マレイン酸ジパルミチル、マレイン酸ジアラキジルおよびそれらの混合物である。ここで「(メタ)アクリレート」という表現は、アクリル酸のエステルに相当するもの、およびメタクリル酸のエステルに相当するものの両方を含んでいる。
【0049】
好適な、ビニルアルコールおよびアリルアルコールのC1〜C30モノカルボン酸とのエステルは、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸のビニルエステル、ギ酸アリル、酢酸アリル、プロピオン酸アリル、酪酸アリル、ラウリン酸アリル、およびそれらの混合物である。
【0050】
好適なビニル芳香族炭化水素は、スチレン、2−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2−n−ブチルスチレン、4−n−ブチルスチレン、4−n−デシルスチレンであり、特にスチレンである。
【0051】
好適な、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸およびモノエチレン性不飽和C4〜C8ジカルボン酸のC1〜C30アルキルアミンまたはジ−C1〜C30アルキルアミン、特にC1〜C10アルキルアミンまたはジ−C1〜C10アルキルアミンとのアミドおよびジアミドは、特に、アクリル酸およびメタクリル酸のC1〜C30アルキルアミンまたはジ−C1〜C30アルキルアミン、特にC1〜C10アルキルアミンまたはジ−C1〜C10アルキルアミンとのアミドであり、例えば、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−(n−ブチル)(メタ)アクリルアミド、N−(tert−ブチル)(メタ)アクリルアミド、N−(n−オクチル)(メタ)アクリルアミド、N−(1,1,3,3−テトラメチルブチル(メタ)アクリルアミド、N−エチルヘキシル)(メタ)アクリルアミド、N−(n−ノニル)(メタ)アクリルアミド、N−(n−デシル)(メタ)アクリルアミド、N−(n−ウンデシル)(メタ)アクリルアミド、N−トリデシル(メタ)アクリルアミド、N−ミリスチル(メタ)アクリルアミド、N−ペンタデシル(メタ)アクリルアミド、N−パルミチル(メタ)アクリルアミド、N−ヘプタデシル(メタ)アクリルアミド、N−ノナデシル(メタ)アクリルアミド、N−アラキジル(メタ)アクリルアミド、N−ベヘニル(メタ)アクリルアミド、N−リグノセリル(メタ)アクリルアミド、N−セロチル(メタ)アクリルアミド、N−メリシル(メタ)アクリルアミド、N−パルミトレイル(メタ)アクリルアミド、N−オレイル(メタ)アクリルアミド、N−リノリル(メタ)アクリルアミド、N−リノレニル(メタ)アクリルアミド、N−ステアリル(メタ)アクリルアミド、N−ラウリル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、しかし、また、マレイン酸のC1〜C30アルキルアミンまたはジ−C1〜C30アルキルアミン、特にC1〜C10アルキルアミンまたはジ−C1〜C10アルキルアミンとのジアミドおよびイミド、例えば、N,N’−ジメチルマレアミド、N,N’−ジエチルマレアミド、N,N’−ジプロピルマレアミド、N,N’−ジ−(tert−ブチル)マレアミド、N,N’−ジ−(n−オクチル)マレアミド、N,N’−ジ−(n−ノニル)マレアミド、N,N’−ジトリデシルマレアミド、N,N’−ジミリスチルマレアミド、N,N,N’,N’−テトラメチルマレアミド、N,N,N’,N’−テトラエチルマレアミド、およびそれらの混合物である。ここで「(メタ)アクリルアミド」という表現は、アクリル酸のアミドに相当するもの、およびメタクリル酸のアミドに相当するものの両方を含んでいる。
【0052】
好適なハロゲン化ビニルおよびハロゲン化ビニリデンは、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、およびそれらの混合物である。
【0053】
前記少なくとも1種のモノマーM1は、好ましくはモノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸のエステル、特に、アクリル酸のC1〜C10アルカノールとのエステル(アクリレート)およびメタクリル酸のC1〜C10アルカノールとのエステル(メタクリレート)、およびビニル芳香族炭化水素から、特に、C1〜C10アルキルアクリレートおよびC1〜C10アルキルメタクリレート、およびビニル芳香族炭化水素から、殊に、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、tert−ブチルメタクリレートおよびスチレンから選択される。
【0054】
本発明の1つの好ましい実施態様によれば、ポリマーPは、共重合された形で、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸のエステル、特にアクリル酸およびメタクリル酸のC1〜C30アルカノール、殊にC1〜C10アルカノールとのエステル、およびビニル芳香族炭化水素から選択される、少なくとも2種のモノマーM1を含んでいる。1つの特に好ましい実施態様によれば、ポリマーPは、共重合された形で、少なくとも1種のモノマーM1.1、少なくとも1種のモノマーM1.2を含んでおり、前記少なくとも1種のモノマーM1.1は、C1〜C10アルキルアクリレートおよび好ましくはメチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、tert−ブチルアクリレートおよび2−エチルヘキシルアクリレートから選択されており、前記少なくとも1種のモノマーM1.2は、C1〜C10アルキルメタクリレートおよびビニル芳香族、好ましくは、メチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、tert−ブチルメタクリレートおよびスチレンから選択される。
【0055】
本発明によれば、モノマーM1の割合は、モノマーM−AとM−Bとの総量に対して85〜99.45質量%の範囲、好ましくは87.5〜97質量%の範囲、特に90〜95.5質量%の範囲である。さらに、モノマーM1の割合は、モノマーM−Aの総量に対して80〜99.4質量%、好ましくは81〜95質量%、特に82.5〜93質量%である一方、モノマーM1の割合は、モノマーM−Bの総量に対して90〜100質量%、好ましくは91.5〜100質量%、特に92.5〜98質量%である。
【0056】
さらに、適用の数に関して、共重合された形で、モノマーM1.1およびM1.2を、モノマーM1.1のモノマーM1.2に対する質量比、7.5:1〜1:15の範囲、好ましくは3:1〜1:10の範囲、特に2:1〜1:5.5の範囲で含むポリマーPが好ましい。本願の関連において、共重合されたモノマーM1.1を5〜80質量%、好ましくは10〜60質量%、および共重合されたモノマーM1.2を20〜95質量%、好ましくは40〜90質量%含むポリマーPが特に好ましい。
【0057】
本発明の結合剤組成物中か、または本発明の分散液D中に含まれるポリマーPは、共重合された形で、25℃および1barでの脱イオン水中での溶解度が少なくとも100g/lである、少なくとも1種の中性のモノエチレン性不飽和モノマーM2を含んでいる。好ましくは、モノマーM2の水中での溶解度は、少なくとも150g/l、より好ましくは少なくとも250g/l、特に少なくとも500g/lである(25℃、1bar)。
【0058】
本発明の好ましい実施態様によれば、少なくとも1種のモノマーM2は、25℃および1barで、いずれの比率でも水と混和する。
【0059】
モノマーM2は、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸のヒドロキシ−C2〜C4アルキルエステル、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸の第一級アミド、ヒドロキシ−C3〜C10アルキルケトンのモノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸とのエステル、アミノ−C3〜C10アルキルケトンのモノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸とのアミド、モノエチレン性不飽和C3〜C8カルボン酸のポリオキシ−C2〜C4アルキレンエーテルとのモノエステル、および少なくとも1つのウレア基を有するモノエチレン性不飽和モノマー、およびそれらの混合物から選択されるのが好ましい。
【0060】
M2として好適な、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸のヒドロキシ−C2〜C4アルキルエステルは、例えば、アクリル酸およびメタクリル酸のヒドロキシ−C2〜C4アルキルエステル、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルエタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−ヒドロキシブチルアクリレート、3−ヒドロキシブチルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、およびそれらの混合物である。
【0061】
M2として好適な、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸の第一級アミドは、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、およびそれらの混合物である。
【0062】
M2として好適な、ヒドロキシ−C3〜C10アルキルケトンのモノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸とのエステルは、例えば、N−(2−オキソプロピル)アクリルエステル、N−(2−オキソプロピル)メタクリルエステル、N−(1−メチル−2−オキソプロピル)アクリルエステル、N−(3−オキソブチル)アクリルエステル、N−(3−オキソブチル)メタクリルエステル、N−(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)アクリルエステル、N−(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)メタクリルエステル、N−(4−オキソヘキシル)アクリルエステル、およびその混合物である。
【0063】
M2として好適な、アミノ−C3〜C10アルキルケトンのモノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸とのアミドは、例えば、N−(2−オキソプロピル)アクリルアミド、N−(2−オキソプロピル)メタクリルアミド、N−(1−メチル−2−オキソプロピル)アクリルアミド、N−(3−オキソブチル)アクリルアミド、N−(3−オキソブチル)メタクリルアミド、N−(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)アクリルアミド(ジアセトンアクリルアミドとも呼ばれる)、N−(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)メタクリルアミド、N−(4−オキソヘキシル)アクリルアミド、およびそれらの混合物である。
【0064】
モノエチレン性不飽和C3〜C8カルボン酸のポリオキシ−C2〜C4アルキレンエーテルとのモノエステルの群からの好適なモノマーM2は、例えば、モノエチレン性不飽和C3〜C8カルボン酸のモノエステル、さらに特に、一般式(A)
【化1】
[式中、
アルキレンオキシド単位の順序は任意であり、
kおよびlは、互いに独立してそれぞれ0〜100の範囲、特に0〜50の範囲の整数であり、kおよびlの合計は、少なくとも3、特に4、例えば、3〜200、特に、4〜100であり、
aは、水素、C1〜C30アルキル、C5〜C8シクロアルキルまたはC6〜C14アリールであり、および
bは、水素またはC1〜C8アルキル、特に水素またはメチルである]
のアクリル酸およびメタクリル酸のポリ−C2〜C4アルキレンエーテルとのモノエステルである。
【0065】
kは、好ましくは、3〜50、特に4〜30の整数である。lは、好ましくは、0〜30、特に0〜20の整数である。lは、0であるのがより好ましい。kおよびlの合計は、3〜50の範囲、特に4〜40の範囲にあるのが好ましい。
【0066】
一般式(A)のRaは、水素、C1〜C20アルキルであるのが好ましく、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルまたはsec−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、オクチル、2−エチルヘキシル、デシル、ラウリル、パルミチルまたはステアリルである。Raは、水素またはC1〜C4アルキルであるのがより好ましい。
【0067】
bは、水素またはメチルであるのが好ましい。
【0068】
少なくとも1つのウレア基を有する好適なモノマーM2は、例えば、N−ビニルウレア、N−(2−アクリロイルオキシエチル)イミダゾリジン−2−オンおよびN−(2−メタクリロイルオキシエチル)イミダゾリジン−2−オン(2−ウレイドメタクリレート、UMA)である。
【0069】
前記少なくとも1種のモノマーM2は、アクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシ−C2〜C4アルキルエステル、ヒドロキシ−C3〜C10アルキルケトンのアクリル酸またはメタクリル酸とのエステル、ヒドロキシ−C3〜C10アルキルケトンのアクリル酸またはメタクリル酸とのアミド、2−ウレイドメタクリレート、および一般式(A’)
【化2】
[式中、kは、4〜40の整数であり、Raは、水素またはC1〜C4アルキルであり、Rbは、水素またはメチルである]のポリ−C2〜C4アルキレンエーテルから選択されるのが好ましい。前記少なくとも1種のモノマーM2は、アクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシ−C2〜C4アルキルエステル、およびヒドロキシ−C3〜C10アルキルケトンのアクリル酸またはメタクリル酸とのアミド、特にN−(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)アクリルアミド、N−(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)メタクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリレートおよび2−ヒドロキシエチルメタクリレートから選択されるのがより好ましい。
【0070】
本発明の実施態様によれば、ポリマーPは、共重合加された形で、本願に挙げられるモノマーM2、特に、好ましいとして挙げられるモノマーM2から選択される1種のモノマーM2のみを含んでいる。
【0071】
本発明の好ましい実施態様によれば、ポリマーPは、共重合された形で、少なくとも2種のモノマーM2を含んでおり、特に、本願で挙げられるモノマーM2、特に好ましいとして挙げられるモノマーM2から選択される2種のモノマーM2のみを含んでいる。
【0072】
本発明によれば、モノマーM2の割合は、モノマーM−AとM−Bとの総量に対して5〜10質量%の範囲、好ましくは1〜7.5質量%の範囲、特に1.5〜6.5質量%の範囲にある。さらに、モノマーM2の割合は、モノマーM−Aの総量に対して0.5〜20質量%、好ましくは2.5〜18質量%、特に5〜16質量%である。
【0073】
本発明の別の好ましい実施態様によれば、一般的に、共重合された形のポリマーPを含むモノマーM2の総量の少なくとも95質量%、好ましくは少なくとも98質量%、特に少なくとも99質量%は、ポリマーPの第一ポリマーを形成するモノマーM−Aの一部である。
【0074】
本発明の結合剤組成物中か、または本発明の分散液D中に含まれるポリマーPは、共重合された形で、酸性基を有する1種または複数のモノエチレン性不飽和モノマーM3を含んでいる。モノマーM3の酸性基は、一般的に、カルボン酸基(−COOH)、スルホン酸基(−SO3H)、リン酸基(−PO32)、相応のモノエステル基、リン酸モノエステル基(−OP(=O)(OH)2)およびリン酸ジエステル基((−O)2P(=O)(OH))からなる群から選択される。
【0075】
カルボン酸基を有する好適なモノマーM3は、例えば、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸、例えば、特にアクリル酸およびメタクリル酸、モノエチレン性不飽和C4〜C8ジカルボン酸、例えば、特にマレイン酸、フマル酸およびイタコン酸、およびそれらの混合物である。
【0076】
スルホン酸基を有する好適なモノマーM3は、例えば、不飽和スルホン酸、例えば、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、スルホエチルアクリレート、スルホエチルメタクリレート、スルホプロピルアクリレート、スルホプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイルオキシプロピルスルホン酸、2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルスルホン酸、スチレンスルホン酸、およびそれらの誘導体、例えば、スチレン−4−スルホン酸およびスチレン−3−スルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロペンスルホン酸、およびそれらの混合物である。
【0077】
ホスホン酸基を有する好適なモノマーM3は、例えば、不飽和ホスホン酸、例えば、ビニルホスホン酸、アリルホスホン酸、およびそれらの混合物である。
【0078】
リン酸モノエステル基またはリン酸ジエステル基を有する好適なモノマーM3は、例えば、リン酸のヒドロキシ−C2〜C4アルキルアクリレートまたはヒドロキシ−C2〜C4アルキルメタクリレートとのモノエステルおよびジエステル、例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレートまたはヒドロキシブチルメタクリレート、ならびにこれらのモノエステルおよび/またはジエステルの混合物である。
【0079】
モノマーM3は、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸、例えば、特にアクリル酸およびメタクリル酸、モノエチレン性不飽和C4〜C8ジカルボン酸、例えば、特にマレイン酸、フマル酸およびイタコン酸、ならびにそれらの混合物から選択されるのが好ましい。モノマーM3は、アクリル酸およびメタクリル酸から選択されるのがより好ましく、特にアクリル酸である。
【0080】
本発明の好ましい実施態様によれば、ポリマーPは、共重合された形で、本願で挙げられるモノマーM3、特に好ましいとして挙げられるモノマーM3から選択される1種のモノマーM3のみを含んでおり、これは、特に好ましい実施態様によれば、アクリル酸である。
【0081】
本発明によれば、モノマーM3の割合は、モノマーM−AとM−Bとの総量に対して0.05〜0.5質量%の範囲、好ましくは0.15〜0.5質量%の範囲、特に0.3〜0.5質量%の範囲にある。さらに、モノマー3の割合は、モノマーM−Aの総量に対して0.1〜2質量%、好ましくは0.5〜1.75質量%、特に1〜1.6質量%である。
【0082】
本発明の好ましい実施態様によれば、一般的に、ポリマーP中に共重合された形で含まれるモノマーM3の総量の少なくとも95質量%。好ましくは少なくとも98質量%、特に少なくとも99質量%は、ポリマーPの第一ポリマーを形成するモノマーM−Aの一部である。
【0083】
本発明の結合剤組成物中か、または本発明の分散液D中に含まれるポリマーPは、共重合された形で、少なくとも2つの非共役エチレン性不飽和二重結合を有する1種または複数のモノマーM4を含んでいる。
【0084】
本発明の別の好ましい実施態様によれば、モノマーM4は、2つの非共役エチレン性不飽和二重結合のみを有している。
【0085】
モノマーM4は、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸の飽和脂肪族ジオールまたは飽和脂環式ジオールとのヒドロキシジエステル、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸のモノエチレン性不飽和脂肪族モノヒドロキシ化合物またはモノエチレン性不飽和脂環式モノヒドロキシ化合物とのモノエステル、およびビニル芳香族化合物、およびそれらの混合物から選択されるのが好ましい。
【0086】
M4として好適な、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸の飽和脂肪族ジオールまたは飽和脂環式ジオールとのヒドロキシジエステルは、例えば、飽和脂肪族ジオールまたは飽和脂環式ジオールのジアクリレートおよびジメタクリレート、例えば、エチレングリコールのジアクリレートおよびジメタクリレート(1,2−エタンジオール)、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール(2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール)または1,2−シクロヘキサンジオール、およびそれらの混合物である。
【0087】
M4として好適な、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸のモノエチレン性不飽和脂肪族モノヒドロキシ化合物またはモノエチレン性不飽和脂環式モノヒドロキシ化合物とのモノエステルは、例えば、モノエチレン性不飽和脂肪族モノヒドロキシ化合物またはモノエチレン性不飽和脂環式モノヒドロキシ化合物のアクリレートおよびメタクリレート、例えば、ビニルアルコール(エタノール)、アリルアルコール(2−プロペン−1−オール)または2−シクロヘキセン−1−オールのアクリレートおよびメタクリレート、ならびにそれらの混合物である。
【0088】
ジビニル芳香族化合物の群からの好適なモノマーM4は、例えば、1,3−ジビニルベンゼン、1,4−ジビニルベンゼン、およびそれらの混合物である。
【0089】
モノマーM4は、好ましくは飽和脂肪族ジオールまたは飽和脂環式ジオールのジアクリレートおよびジメタクリレートから、より好ましくは飽和脂肪族ジオールのジアクリレートおよびジメタクリレートから、特に飽和脂肪族ジオールのジアクリレート、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオールおよび1,4−ブタンジオールのジアクリレートから選択される。
【0090】
本発明の好ましい実施態様によれば、ポリマーPは、共重合された形で、本願で挙げられるモノマーM4、特に、好ましいとして挙げられるモノマーM4から選択される1種のモノマーM4のみを含んでおり、特に好ましい実施態様によれば、1,4−ブタンジオールのジアクリレートである。
【0091】
本発明によれば、モノマーM4の割合は、モノマーM−AとM−Bとの総量に対して0〜5質量%の範囲、特に0〜4.5質量%の範囲である。さらに、モノマーM4の割合は、モノマーM−Bの総量に対して0〜10質量%、好ましくは0〜8質量%、特に0〜6.5質量%である。
【0092】
本発明の別の好ましい実施態様によれば、一般的に、ポリマーPに共重合された形で含まれるモノマーM4の総量の少なくとも95質量%、好ましくは少なくとも98質量%、特に少なくとも99質量%は、ポリマーPの第一ポリマーを形成するモノマーM−Bの一部である。
【0093】
ポリマーPに加えて、前記水性結合剤組成物および前記水性多段ポリマー分散液は、それぞれ、一般的に、ポリマーPのポリマー粒子を安定化させる目的のために、少なくとも1種の界面活性物質をさらに含んでいる。しかし、以下により詳しく説明される通り、本発明の多段ポリマー分散液の乳化重合による製造の場合、安定化のために前記物質は比較的わずかな量しか必要とされない。前記界面活性物質は、イオン性乳化剤および非イオン性乳化剤およびまたイオン性および非イオン性の保護コロイドまたは安定化剤を含んでいる。乳化剤は、保護コロイドと比べて、その分子量(数平均)が一般的に2000g/mol未満、特に1500g/mol未満の界面活性物質である。保護コロイドは、一般的に、2000g/mol以上、例えば、2000〜100000g/molの範囲、特に5000〜50000g/molの範囲の数平均分子量を有する水溶性ポリマーである。保護コロイドおよび乳化剤を混合物として使用することは、当然可能である。
【0094】
界面活性物質の量は、一般的に、ポリマー100質量%に対して、またはポリマーPを構成するモノマーM−AおよびモノマーM−B100質量%に対して0.001〜2質量%、好ましくは0.005〜1質量%、より好ましくは0.01〜0.5質量%、特に0.015〜0.2質量%の範囲である。
【0095】
本発明による水性結合剤組成物およびポリマー分散液は、追加の界面活性物質として乳化剤のみを含んでいるのが好ましい。特に、追加の界面活性物質として少なくとも1種の非イオン性乳化剤のみを含んでいることが前記ポリマー分散液に好適であることが判明した。前記乳化剤は、一般に、非重合性である、つまり、この乳化剤は、フリーラジカル重合において重合性のエチレン性不飽和基を含んでいない。しかし、前記乳化剤の一部または全部は、重合性であることがある。この種の重合性乳化剤は、エチレン性不飽和基を含んでおり、非イオン性か、または陰イオン性の乳化剤である。重合性の非イオン性乳化剤は、アルケノールのC2〜C3アルコキシレート、特にプロパ−2−エン−1−オール、およびモノエチレン性不飽和モノカルボン酸またはモノエチレン不飽和ジカルボン酸のポリ−C2〜C3アルキレンエーテルとのモノエステルから選択されるのが好ましく、アルコキシ化度は、それぞれ通常、3〜100である。重合性の陰イオン性乳化剤は、前記重合性の非イオン性乳化剤の相応する硫酸モノエステルおよびリン酸モノエステルから選択されるのが好ましい。
【0096】
非重合性の陰イオン性乳化剤は、一般に少なくとも10個の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸、および同じくその塩、特にそのアンモニウム塩およびアルカリ金属塩、一般に少なくとも6個の炭素原子を有する脂肪族スルホン酸、芳香脂肪族スルホン酸および芳香族スルホン酸、および同じくそれらの塩、特にそのアンモニウム塩およびアルカリ金属塩、エトキシ化アルカノール及びアルキルフェノールを有するスルホン酸モノエステル、および同じくそれらの塩、特にそのアンモニウム塩およびアルカリ金属塩、ならびにまたリン酸アルキル、リン酸アラルキルおよびリン酸アリールを、アルカノールおよびアルキルフェノールのリン酸モノエステルを含めて、一般的に含んでいる。
【0097】
好適な陰イオン性乳化剤の例は、以下の通りである:スルホコハク酸のジアルキルエステルのアルカリ金属塩およびアンモニウム塩、アルキル硫酸のアルカリ金属塩およびアンモニウム塩(アルキル基:C8〜C18)、エトキシ化アルカノールを有する硫酸モノエステルのアルカリ金属塩およびアンモニウム塩(EO度:4〜30、アルキル基:C8〜C18)、エトキシ化アルキルフェノールを有する硫酸モノエステルのアルカリ金属塩およびアンモニウム塩(EO度:3〜50、アルキル基:C4〜C16)、アルキルスルホン酸のアルカリ金属塩およびアンモニウム塩(アルキル基:C8〜C18)、およびアルキルアリールスルホン酸のアルカリ金属塩およびアンモニウム塩(アルキル基:C4〜C18)。好適な陰イオン性乳化剤の例は、以下に記載される一般式
【化3】
[式中、R1およびR2は、水素またはC4〜C14アルキルであり、同時に水素ではなく、XおよびYは、アルカリ金属イオンおよび/またはアンモニウムイオンであってよい]の化合物でもある。R1およびR2は、水素または6〜18個の炭素原子、特に6個、12個および16個の炭素原子を有する直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、R1およびR2は両方同時に水素ではない。XおよびYは、ナトリウムイオン、カリウムイオンまたはアンモニウムイオンであるのが好ましく、ナトリウムが特に好ましい。特に有利な化合物は、XおよびYがナトリウムであり、R1が12個の炭素原子を有する分岐鎖アルキル基であり、R2が水素であるか、またはR1に記載の水素ではない定義のうちの1つを有する化合物である。多くの場合、モノアルキル化生成物50〜90質量%の割合を含む工業的混合物、例えば、Dowfax(登録商標)2A1(Dow Chemical Company社)が使用される。
【0098】
好適な非イオン性乳化剤は、一般的に、アルキル基中に8〜36個の炭素原子を有するエトキシ化アルカノール、アルキル基中に一般的に4〜12個の炭素原子を有するエトキシ化モノアルキルフェノール、ジアルキルフェノールおよびトリアルキルフェノール、一般的に3〜50の範囲のエトキシ化度を有するエトキシ化アルカノールおよびアルキルフェノールである。
【0099】
さらなる好適な乳化剤は、例えば、Houben−Weyl,Methoden der organischen Chemie,Volume 14/1,Makromolekulare Stoffe[Macromolecular compounds],Georg Thieme Verlag,Stuttgart,1961,192〜208ページに見られる。
【0100】
本発明による水性結合剤組成物および水性ポリマー分散液において、ポリマーPは、均一な水相中に分散または懸濁されている、微細に分配された粒子の形で不均一相として存在している。前記均一な水相は、水および同じく一般的に製造に使用される助剤、例えば、界面活性物質、酸、塩基、および重合反応からの分解生成物の他に、少量の水混和性の有機溶媒をさらに含んでいてよい。最後に挙げられた成分の割合は、前記分散液の総量に対して、一般的に1質量%を超過しない。
【0101】
ポリマーPの水性多段ポリマー分散液は、一般に、2つの別個の重合段階を含む多段プロセスにおいて得られる。第一段階(ここで段階Aとも呼ばれる)では、ポリマーP中に含まれている第一ポリマーは、モノマーM−Aの遊離ラジカル水性乳化重合の直接生成物として製造され、第二段階(ここで段階Bとも呼ばれる)では、ポリマーP中に含まれている第二ポリマーは、モノマーM−Bの遊離ラジカル水性乳化重合の直接生成物として製造される。代替的に、第一ポリマーは、溶液重合において、または別の方法において製造されて、その後、いわゆる第二分散液に移されてもよい、つまり、第一ポリマーは、水性溶媒中に懸濁または分散されており、任意に有機溶媒が溶液重合から除去される。第一ポリマーおよび第二ポリマーは、両方とも、段階Aおよび段階Bにおいてそれぞれ遊離ラジカル水性乳化重合により製造される。前記両方の段階の遊離ラジカル水性乳化重合は、いわゆるミニエマルション重合として実施されてよい;つまり、重合のモノマーは、水性ミニエマルションの形で使用され、この乳化において、モノマー液滴は、きわめて小さい径を有している(前記モノマーエマルションの体積平均液滴1μm未満、特に0.6μm未満)。
【0102】
本発明の好ましい実施態様では、前記水性多段ポリマー分散液は、前記第一ポリマーの存在下におけるモノマーM−Bの水性ラジカル乳化重合により得られる、つまり、段階Bは、段階Aにおいて、水性ラジカル乳化重合か、または異なる種類の重合、例えば、溶液重合を使用してモノマーM−Aを重合し、その後、前記ポリマーを水性溶媒中に分散させて得られる第一ポリマーの分散液中で実施される。
【0103】
それに応じて、特に好ましい実施態様では、本発明の水性多段ポリマー分散液は、連続的な水性ラジカル乳化重合(ここでいわゆるプロセスIとも呼ばれる)により得られ、この重合は、
(1)段階Aとして、モノマーM−Aを水性乳化重合して、前記第一ポリマーの水性分散液を得ること
(2)段階Bとして、前記第一ポリマーの水性分散液中でモノマーM−Bを水性乳化重合すること
を含む。
【0104】
第一および第二ポリマーを製造するための遊離ラジカル水性乳化重合は、一般的に、上述の界面活性物質の存在下に実施される。本発明によるプロセスでは、乳化剤のみを使用するのが好ましい。特に、追加の界面活性物質として少なくとも1種の陰イオン性乳化剤のみを使用するのが好適である。
【0105】
一般的に、前記界面活性物質は、重合されるモノマーM−AとM−Bとの量に対して0.001〜2質量%、好ましくは0.005〜0.5質量%、特に0.015〜0.1質量%の量で使用される。前記多段プロセスの段階Aにおいて、段階Aが遊離ラジカル水性乳化重合として実施される場合、界面活性物質は、一般的に、重合されるモノマーM−Aの量に対して0.01〜1質量%の量で、特に0.05〜0.25質量%の量で使用される一方、段階Bにおいて、特に段階BがプロセスIの一部である場合、さらなる界面活性物質は、一般的に、重合されるモノマーM−Bの量に対して、0.001〜0.5質量%の量で、特に0.005〜0.07質量%の量で使用される。
【0106】
前記第一ポリマーの水性分散液中で実施されるモノマーM−Bの乳化重合を必要とする本発明の多段プロセスは、比較的少量の追加の界面活性物質の使用を可能にする。理論にとらわれるものではないが、第二ポリマーからなるモノマーM−Bの重合の間、第一ポリマーは、モノマー液滴を安定化させる保護コロイドとして機能すると考えられる。したがって、本発明の多段重合プロセスに必要な、低レベルの追加の界面活性物質は、おそらく主として第一ポリマーのこの安定化効果によるものである。この効果は、第一ポリマーが主に、最終的に得られる多段ポリマー分散液のポリマー粒子のシェルに位置し、第二ポリマーがそのコアに位置しているという事実を説明するものでもある。この理由のため、第一ポリマーは、ここでシェルポリマーとも呼ばれ、第二ポリマーは、ここでコアポリマーとも呼ばれる。
【0107】
前記コアポリマーからなるモノマーM−Bは、これ以前に詳細に記載されたモノマーM4を含んでいる。その少なくとも2つの非共役エチレン性不飽和二重結合により、モノマーM4は、分散液D中に生じると証明されたコアポリマーおよび有利な特性を有する本発明の結合剤組成物の架橋をもたらす。
【0108】
前記遊離ラジカル乳化重合に使用される開始剤は、一般的に、遊離ラジカルを形成する水溶性の物質である。
【0109】
前記乳化重合のための水溶性の開始剤は、有機または無機過酸化化合物、つまり、少なくとも1種の過酸化物または過酸化水素基を有する化合物、例えば、ペルオキソ二硫酸のアンモニウム塩およびアルカリ金属塩、例えば、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、または過酸化水素、または有機過酸化物、例えば、tert−ブチル過酸化水素である。
【0110】
いわゆる還元酸化(レドックス)開始系も好適である。レドックス開始剤系は、少なくとも1種の、通常、無機還元剤および1種の有機または無機酸化剤から構成される。酸化成分は、例えば、既に上述の過酸化物成分からなる。酸化成分は、例えば、亜硫酸のアルカリ金属塩、例えば、二亜硫酸ナトリウム、脂肪族アルデヒドおよびケトンの亜硫酸水素塩付加化合物、例えば、アセトン亜硫酸水素塩からなる、または酸化剤、例えば、ヒドロキシメタンスルフィン酸およびその塩、またはアスコルビン酸である。レドックス開始剤系は、溶解性金属化合物との組み合わせで使用されてよく、この化合物の金属成分は、複数の原子価状態で存在していることができるものである。一般的なレドックス開始剤系は、アスコルビン酸/硫酸鉄(II)/ペルオキソ二硫酸ナトリウム、tert−ブチルヒドロペルオキシド/二亜硫酸ナトリウム、およびtert−ブチルヒドロペルオキシド/ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウムによって例示される。個々の成分、酸化成分は、例えば、混合物、例えば、ヒドロキシメタンスルフィン酸のナトリウム塩と二亜硫酸ナトリウムとの混合物であってもよい。
【0111】
前記開始剤は、主に水性溶液の形態で使用され、比較的低い濃度は、前記分散液中で許容される水の量により測定され、比較的高い濃度は、水中の個々の成分の溶解度により測定される。一般に的に言えば、濃度は、前記溶液に対して0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜20質量%、より好ましくは2〜15質量%である。
【0112】
開始剤の量は、一般に、重合されるモノマーに対して0.1〜15質量%、好ましくは1〜8質量%である。2つ以上の異なる開始剤を前記乳化重合に使用することも可能である。
【0113】
前記重合において、調整剤を、例えば、重合されるモノマーに対して0〜1質量%の量で使用することが可能である。このようにして、ポリマーのモル質量が減少される。好適であるのは、チオール基、例えば、tert−ブチルメルカプタン、メルカプトエタノール、チオグリコール酸、チオグリコール酸エチル、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、およびtert−ドデシルメルカプタンを有する化合物により好適さが有される。任意に、調整剤を重合の過程で、比較的長期間にわたり、同時並行に、例えば、モノマーを添加して、添加することは有利である。前記添加は、連続供り速度で、または送り速度を増加もしくは減少させて行われてよい。
【0114】
本発明の好ましい実施態様によれば、段階Aのシェルポリマーの重合は、モノマーM−Aに対して0.1〜5質量%、特に0.5〜2.5質量%の量で使用されるのが好ましい調整剤の存在下に実施される。
【0115】
本発明の多段プロセスの段階AおよびBにおける重合は、供給プロセスとして実施されるのが好ましい、すなわち、それぞれの段階の少なくとも90%の重合されるモノマーは、重合条件下に、重合の過程で重合反応器に添加される。この添加は、連続的に、または段階的に行われてよい。重合の過程では、モノマーの組成は、1回、複数回、または連続的(勾配法)に変化されてよい。
【0116】
本発明の多段プロセスにおける好ましい方法は、水および任意に段階AおよびBの重合で使用される界面活性物質の総量の一部を含む初期装入物を導入することである。次に、この初期装入物を、まだ加熱が行われていない場合、重合温度に加熱し、その後、一般的に重合開始剤の少なくとも一部を、段階Aおよび段階Bの場合に使用される開始剤の総量に対して、例えば、10〜100質量%、特に50〜100質量%で添加する。代替的な方法は、最初に、重合開始剤の少なくとも一部を添加し、次に、重合温度への加熱を実施することである。その後、モノマーM−Aの重合反応器への添加が、重合条件下に行われる。この添加は、通常、少なくとも15分、例えば、15分〜5時間の、通常比較的長期間にわたって、特に30分〜3時間にわたって実施される。この添加は、添加速度を一定にして、増加させて、または減少させて実施されてよい。第一の好ましい実施態様では、前記添加は、重合の開始時に送り速度を増加させて行われる。本発明の方法の、別の同様に好ましい実施態様では、前記添加は、一定の添加速度で行われる。モノマーM−Aは、そのまま添加されてよい。好ましくは、モノマーM−Aは、一般的に、段階Aおよび段階Bの重合で使用される界面活性物質の総量の少なくとも一部、好ましくは少なくとも20質量%を含む水性モノマーエマルションの形で添加される。このモノマーエマルションは、一般的に、60〜90質量%の範囲、特に65〜85質量%の範囲のモノマー含有量を有している。モノマーM−AまたはモノマーM−Aのエマルションを、2つまたは複数の供給によって重合反応器に添加することは根本的に可能であり、この場合、個々の供給のモノマー組成は異なっていてよい。しかし、一般に、モノマーM−Aを混合物として、1つの供給部を通して重合反応器に添加することは充分である。モノマーM−Aが水性エマルションの形で重合反応器に添加される場合、例えば、モノマーM−Aを重合反応器に添加される速度で添加する直前に、連続法によりモノマーM−Aを乳化することは有利であることがある。前記モノマーエマルションをまず製造し、次に、所望の添加速度で重合反応器に導入してもよい。モノマーM−Aの添加終了後、この重合混合物は、通常、約5分〜2時間、一般的に、段階Aの重合を終わらせる重合温度で後反応されてよい。その後、続いて任意に水を添加して、段階Bによる重合は、前記モノマーM−Aの場合と根本的に同じ方法でモノマーM−Bを添加することにより達成される。
【0117】
モノマーM−Aの添加および/またはモノマーM−Bの添加と同時並行して、重合開始剤の総量の一部またはすべてを添加してよい。本発明の好ましい実施態様によれば、前記開始剤のすべてまたは大部分、例えば、この開始剤の総量の少なくとも80質量%および特に85〜95質量%が、モノマーM−Aの添加前に前記反応器に装入される。特に好ましい実施態様によれば、前記開始剤のすべてが、モノマーM−Aの添加前に装入される。
【0118】
一般的に、段階AでのモノマーM−Aの重合、および段階BでのモノマーM−Bの重合の量補が完了した後、一般に7.5〜10.5、好ましくは8.5〜10の塩基の範囲のpH値を達成するために、個々の重合混合物に塩基を添加する。さらに、この塩基は、モノマーM−AまたはM−Bを含む供給の1つまたは両方と同時に既に供給されてよい。本関連における好ましい塩基は、アンモニア水(つまり、水酸化アンモニウム)および有機アミン、例えば、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンまたはポリエチレンアミン、例えば、Jeffamines(登録商標)から選択される。段階Aおよび段階Bの重合が完了した後に添加する他に、塩基がモノマーM−Bの供給に同時に供給されるのが好ましい。
【0119】
モノマーM−Bの重合に続いて、前記塩基の全量が重合反応器に装入された後、エチレン性不飽和二重結合のない架橋化合物が、前記ポリマー分散液に添加されてよい。架橋化合物(そもそも使用される場合)が、通常、モノマー100部あたり4重量部(pphm)まで、好ましくは2pphmまで、例えば、0.1〜4pphm、特に、0.5〜3pphm、殊に1〜2pphmの量で使用される。一般的な架橋化合物は、ポリマー中に含まれる相補的官能基(complementary functional groups)に適合する官能基を有している、例えば、ケト基を有するポリマーは、2つまたは複数のヒドラジド部分を有する化合物と架橋することができる。したがって、ケト基を含んでいるポリマーPの場合、架橋化合物は、好ましくはポリヒドラジドから、特に、例えば、US4,931,494、US2006/247367またはUS2004/143058に記載のジヒドラジドから選択される。この関連においては、特に好ましいジヒドラジドは、脂肪族ジカルボン酸ジヒドラジド、例えば、アジピン酸ジヒドラジドである。
【0120】
重合温度および重合圧力は、あまり重要ではない。前記乳化重合は、一般的に、30〜130の範囲、好ましくは50〜100℃の範囲の温度で行われる。重合圧力は、通常、大気圧、つまり、周囲圧力の範囲にあるが、少し上回るか、または下回ってもよく、例えば、800〜1500mbarの範囲であってよい。
【0121】
重合溶媒は、水のみか、または水および水混和性の液体、例えば、メタノールの混合物からなっていてよい。水だけを使用するのが好ましい。
【0122】
前述の通りに製造した後、本発明の水性ポリマー分散液は、陰イオン性界面活性物質を添加することによりさらに安定化することができる。この目的のためには、スルホコハク酸のジアルキルエステルまたはその塩、特に、ナトリウム塩、特に、1つのアルキル基あたり6〜12個の炭素原子を有するスルホコハク酸のジアルキルエステルが好ましい。しかし、段階Bにおける最後の乳化重合の後に、前記追加の陰イオン性界面活性物質が、前記水性ポリマー分散液と混合されないことが好ましい。
【0123】
一般に、前記水性ポリマー分散液は、微生物による侵入に反撃するため、1種または複数のバイオサイド(防腐剤)により安定化もされる。これらのバイオサイドは、例えば、パラヒドロキシ安息香酸のアルキルエステル、安息香酸ナトリウム、2−ブロモ−2−ニトロプロパンー1,3−ジオール、オルトフェニルフェノール、ジクロロフェン、ベンジルアルコールヘミホルマル、ペンタクロロフェノール、2,4−ジクロロベンジルアルコール、また特に、置換イソチアゾロン、例えば、C1〜C10アルキルイソチアゾリノン、5−クロロ−2−メチル−4―イソチアゾリノン、およびベンゾイソチアゾリノンを含んでおり、例えば、Avecia社(またはArch社)Proxel(登録商標)またはThor Chemie社Acticide(登録商標)の商品名で市販される製品である。防腐剤は、一般的に、前記ポリマー分散液0.01〜10g/lの量で使用される。
【0124】
前記水性ポリマー分散液の固体含有量は、一般的に、20〜70質量%、好ましくは30〜55質量%、特に35〜50質量%である。
【0125】
前記ポリマーPの水性多段ポリマー分散液は、本発明の結合剤組成物中の結合剤成分に特に好適である。
【0126】
前述の通り、本発明による結合剤組成物は、ポリマーPの水性多段分散液の他に、脂肪族炭素原子に結合されている、少なくとも2つのカルボジイミド部分を有する、少なくとも1つのカルボジイミドも含んでいる。このようなカルボジイミドは、本願では、カルボジイミドCとも呼ばれる。
【0127】
好適なカルボジイミドCは、例えば、EP0198343、EP0965582、US5,008,363、US5,258,481、EP0686626、EP0792908、EP0878496、EP0952146、WO2007/089142、US4,820,863、US5,047,588、US6,248,819、WO2005/003204、US2008/0103266およびEP0277361に記載されるものである。好ましいカルボジイミドCは、N=C=N部分を、このカルボジイミドの質量に対して2〜20質量%、特に5〜15質量%有している。さらに、これらのカルボジイミドCは、平均して2〜20、より好ましくは2〜10、特に2〜6のカルボジイミド部分を有しているのが好ましい。
【0128】
本発明の好ましい実施態様によれば、カルボジイミドCは、水溶性または水分散性である。したがって、特に好ましいカルボジイミドCは、エチレンオキシド繰り返し単位を2〜50、特に5〜20有する、ポリ−C2〜C3アルキレンオキシド基、特にポリエチレンオキシド基を含んでいる。
【0129】
さらに、脂肪族であるカルボジイミドCが好ましい、つまり、カルボジイミドCのカルボジイミド部分が、脂肪族ジラジカルにより、より好ましくは飽和脂肪族ジラジカルにより、特に、1〜5個のC1〜C5アルキル基で置換することができる分岐鎖または直鎖のC2〜C15アルカンジイルおよびC4〜C8シクロアルカンジイルから選択されるジラジカルにより架橋されている。
【0130】
別の好ましい実施態様によれば、カルボジイミドCは、一般式(B)
【化4】
[式中、*は、カルボジイミド部分またはウレタン部分の窒素原子に結合しており、♯は、炭素原子に結合している]の繰り返し単位を含んでいる脂肪族カルボジイミドである。これらの化合物は、イソホロンジイソシアネート(1−イソシアネート−3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン)の自己縮合により、ヒドロキシル基を有する化合物の存在下に二酸化炭素を失って得られるものである。このヒドロキシル基を有する化合物は、一般的に、前記ウレタン部分を介して結合している前述のポリ−C2〜C3アルキレンオキシド基を構成するポリ−C2〜C3アルキレンオキシドである。
【0131】
カルボジイミドCおよび特に一般式(B)のカルボジイミドCは、以下の方法により製造することができる:ジイソシアネート、例えば、イソホロンジイソシアネート、およびモノヒドロキシポリ−C2〜C3アルキレンオキシド(例えば、メタノール開始ポリエチレンオキシド)を、非プロトン性溶媒中で混合して、約100〜150℃に加熱する。次に、触媒、例えば、1−メチル−2−ホスホレン−1−オキシドを添加して、この混合物を、複数時間、約130〜160℃で加熱する。その後、捕捉剤、例えば、エタノールを、残りのイソシアネート基をクエンチするため前記反応混合物に添加する。このようにして得られる生成物は、本発明の結合剤組成物中のカルボジイミドCとして直接使用することができる。
【0132】
本発明の結合剤組成物中に含まれるカルボジイミドCの量は、一般に、ポリマーPに対して0.1〜30質量%、好ましくは0.2〜20質量%、特に0.1〜10質量%である。
【0133】
カルボジイミドCの有利な効果の場合、本発明の結合剤組成物のpH値は、一般的に7.5〜10.5の範囲、8.5〜10の範囲、特に8.5〜10の範囲に設定される。この塩基性pH値は、アミン、例えば、特に含水水酸化アンモニウムを、前記水性多段ポリマー分散液に添加することにより達成されるのが好ましい。
【0134】
カルボジイミドCは、ポリマーPの重合段階の1つ前、その間またはその後に添加されてよい。代替的に、前記結合剤組成物の製造の間に添加されてもよい。
【0135】
水性結合剤組成物を製造する場合、カルボジイミドCは、分散液または溶液の形態のポリマーPのポリマー分散液に添加されるのが好ましく、その中に不均一に分布している。
【0136】
カルボジイミドCとポリマーPの組合せは、種々の適用分野に有利な特性を有する本発明の結合剤組成物をもたらす。例えば、コーティング組成物の構成成分である結合剤組成物は、その耐水性および耐化学薬品性に不利に影響を及ぼすことなく、生じるコーティングの可撓性を高めるものである。他のカルボジイミドを含むコーティング組成物と比べて、本発明による前記組成物は、塩基性pH値におけるその粘度が比較的低く、ポットライフが比較的長いため、加工がかなり簡単であることを特徴とするだけでなく、含んでいる界面活性物質もより少ない。さらに、エポキシド樹脂またはポリウレタン樹脂を基とする慣用の結合剤と比べて、本発明の結合剤組成物は、不所望な溶媒および反応性成分のレベルが比較的低いために優れている。概して、本発明の結合剤組成物の塗料およびワニスにおける使用は、種々の表面への一般に良好ないし優れた接着性を有する高品質のコーティングを可能にする。
【0137】
カルボジイミドCの分子レベルにおける有利な効果をどのように説明するかが、本発明にとって二次的に重要である。それにもかかわらず、カルボジイミドCが、ポリマーPのカルボキシル基と共有結合性相互作用をすると考えられており、これは、例えば、J.W. Taylor and D.R. BassettによるE.J.Glass(Ed.),Technology for Waterborne Coarings,ACS Symposium Series 663,Am.Chem.Soc.,Washington,DC,1997,chapter 8,137〜163ページ)の記載と同様である。したがって、前記相互作用は、主に、N−アシルウレア結合をもたらす、カルボジイミドCのカルボジイミド部分とポリマーPのカルボキシル基との反応を基とする推測される。それに応じて、カルボジイミドC分子は、ポリマーPの2つまたは複数のカルボキシル基と相互に作用し、それゆえ架橋作用を発展させることができる。本発明の多段ポリマー分散液は、前記の通り、そのポリマーPがはるかに低いレベルのカルボキシル基を有している、つまり、酸価がはるかに低いことにおいて、先行技術の同等の分散液と区別される。したがって、前記分散剤から製造される本発明の結合剤組成物は、実質的に、酸価が比較的高い先行技術の分散液を基とする公知の結合剤よりも少ない量のカルボジイミドを必要とする。前記低下した量のカルボジイミドおよびポリマーPの低い酸価も、本発明の結合剤組成物およびそれから得られるポリマー塗膜の前述の有利な特性の主要因であると考えられる。したがって、例えば、本発明の結合剤から形成されるポリマー塗膜の高い可撓性と組み合わさる高強度は、主にコーティング膜が表面に塗布された後に行われる円滑な膜形成プロセスに由来すると推測することが可能である。これは、カルボジイミドが多量で、酸価の高いポリマーを有し、迅速な塗膜形成の傾向がある前記公知の結合剤と比べて、不十分な接着および脆弱なコーティングをもたらす。この点において、本発明の結合剤組成物は、第一に、架橋によって有利な強度および硬度を有するコーティングをもたらし、第二に、速度を落とした塗膜形成プロセスによって優れた接着性、高い可撓性および破砕に対する低い脆弱性をもたらす。同じく、遅い塗膜形成は、架橋官能性基、すなわち、カルボジイミド部分およびカルボキシル基の濃度が低いことによるものである。これは、例えば、高い硬度および優れた耐引掻性である一方、塗布される、および可撓性が高い表面に充分に接着することも特徴とするコーティングにおいて明らかである。おそらく、また前述の架橋官能性基の濃度が低いため、本発明の結合剤組成物は、長期のポットライフ、および塩基性pH値における低い粘度を有している。
【0138】
本発明の結合剤組成物を基とするコーティング膜の性能特性は、カルボジイミドCの量を変化させることによって変更できる。例えば、カルボジイミドCの量を最適化することによって、コーティング材の特異的性質、例えば、コーティングの基材への接着性を最大限にすることが可能であるか、または異なる性質、例えば、接着硬度の評価(weighting)を前提条件に従って実施することができる。
【0139】
本発明の結合剤組成物は、多様な適用に好適であり、ここで、水性ポリマー分散液は、一般的に、結合剤、例えば、コーティング材として、例えば、内部および外部適用のための塗料において、紙塗工液において、皮革および繊維コーティング系において、印刷インクにおいて、無機成形品のコーティング系において、コーティング材のプライマーにおいて、ポリマー結合不織布の製造における結合剤として、接着剤の基材として、無機水硬性結合剤の添加剤として、例えば、CaSO4・0.5H2O、無水石こうまたはセメント、およびそこから水硬性硬化組成物のために製造されるもの、例えば、プラスターまたはコンクリート、クレイまたはローム建築材料のため、膜を製造するための添加剤などとして使用される。
【0140】
本発明の水性結合剤組成物は、水性表面コーティング材において使用されるのが好ましい。それに応じて、本発明は、さらに、本願記載の結合剤組成物の、コーティング組成物(ここでコーティング配合物および表面コーティング材とも呼ばれる)における使用を提供する。
【0141】
本発明の別の好ましい実施態様では、本発明の水性結合剤組成物は、水性フィラーコーティング材において使用することができる。このフィラーコーティング材は、プライマーと表面コーティングとの間、プライマーとベースコートとの間、プライマーとトップコートとの間のコーティング層として、またはプライマーそれ自体としてそれぞれに使用されてよい。プライマーの代わりに、陰極電着が適用されてもよい。
【0142】
代替的に、フィラー機能およびベースコート機能は、例えば、WO03/025076に記載の通り、単一機能層(single functional layer)として組み合わせてもよい。1つの実施態様では、この単一機能層は、以下を含む。
a)本発明の少なくとも1種の結合剤組成物10〜60質量%(ポリマー含有量40〜75質量%)、
b)結合剤組成物a)のポリマーとは異なる、少なくとも1種の結合剤ポリマー0〜20質量%、
c)少なくとも1種の架橋結合剤0〜5質量%
d)少なくとも1種の顔料および/または効果付与性(effect−imparting)成分1〜30質量%
e)フィラー0〜20質量%、
f)添加剤0〜8質量%、
g)共溶媒0〜18質量%、および
h)水100質量%まで。
【0143】
前記結合剤組成物の他に、フィラーコーティング材も、表面コーティング配合物も、さらなるアジュバンド、一般的にフィラーおよび水性ポリマー分散液を基とする表面コーティング材のアジュバンドを含んでいてよい。これらのアジュバンドは、顔料、フィラー、さらなる助剤、および、適切な場合、追加の膜形成ポリマーを含んでいる。
【0144】
好適な顔料は、例えば、無機白色顔料、例えば、二酸化チタン、好ましくは、ルチル型の二酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛、塩基性炭酸鉛、三酸化アンチモン、リトポン(硫化亜鉛および硫酸バリウム)または有色顔料、例えば、酸化鉄、カーボンブラック、グラファイト、亜鉛黄色、亜鉛緑、ウルトラマリン、マンガン黒、黒色アンチモン、マンガン紫、パリブルーまたはシュバインフルトグリーンである。前記無機顔料と同様に、本発明のエマルション塗料は、有機着色顔料、例えば、セピア色、藤黄、カッセルブラウン、トルイジンレッド、パラレッド、ハンザイエロー、インディゴ、アゾ染料、アントラキノンおよびインジゴイド染料、および同じくジオキサジン、キナクリドン、フタロシアニン、イソインドリノン、および金属錯体顔料も含んでいてよい。光散乱を高めるため空気が封入された合成白色顔料、例えばRhopaque(登録商標)分散液も好適である。
【0145】
好適なフィラーは、例えば、アルミノケイ酸塩、例えば、長石、ケイ酸塩、例えば、カオリン、タルク、マイカ、マグネサイト、アルカリ土類金属炭酸塩、例えば、炭酸カルシウム、カルサイトまたは白亜の形の、例えば炭酸マグネシウム、ドロマイト、アルカリ土類金属硫酸塩、例えば、硫酸カルシウム、二酸化ケイ素などである。フィラーコーティング材も表面コーティング材においても、当然、微粉フィラーが好ましい。このフィラーは、個々の成分として使用することができる。しかし、実際、フィラー混合物が特に好適であることが判明し、例えば、炭酸カルシウム/カオリン、および炭酸カルシウム/タルクである。光沢のある表面コーティング材は、一般に、少量の極微粉フィラーのみを含んでいるか、またはフィラーを含んでいない。
【0146】
微粉フィラーは、隠蔽力を増加させるため、および/または白色顔料を節約するために使用されてもよい。隠蔽力、色相、色の深さを調整するため、有色顔料およびフィラーのブレンドを使用するのが好ましい。
【0147】
一般的な助剤は、重合で使用される乳化剤の他に、湿潤剤または分散剤も含んでおり、例えば、ポリホスホン酸ナトリウム、ポリホスホン酸カリウムまたはポリホスホン酸アンモニウム、アクリル酸のアルカリ金属塩およびアンモニウム塩、または無水マレイン酸コポリマー、ポリホスホン酸塩、例えば、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸ナトリウム、およびナフタリンスルホン酸の塩、特にそのナトリウム塩である。
【0148】
フィラーコーティング材の場合、コーティング組成物は、さらに、少なくとも1種の腐食抑制剤を含んでいてよい。
【0149】
さらに好適な助剤は、レベリング剤、消泡剤、バイオサイド、増粘剤、および塗膜形成助剤である。好適な増粘剤の例は、会合性増粘剤、例えば、ポリウレタン増粘剤である。増粘剤の量は、表面コーティング材の固体含有量に対して好ましくは1質量%未満、特に0.6質量%未満である。好適な塗膜形性助剤は、特に、コーティング材の塗膜形成温度を低下させる有機溶媒である。前記溶媒は、特に、芳香族および脂肪族炭化水素溶媒および脂肪族エステル、特にジアルキルジカルボキシレートを含んでおり、塗膜形成剤は、一般的に、80〜250℃の範囲の沸点(大気圧下)を有しており、ポリマーPに対して0.5〜10質量%の量で使用される。
【0150】
顔料の割合は、顔料容積濃度(PVC)によって表すことができる。PVCは、顔料の容積(VP)およびフィラーの容積(VF)の、乾燥したコーティング塗膜における結合剤の容積(VB)、顔料の容積、およびフィラーの容積からなる総量に対する比をパーセントで表すものである:PVC=(VP+VF)×100/(VP+VF+VB)(Ullmann’s Enzyklopaedie der technischen Chemie,4th edition,Volume 15,667ページ参照)。表面コーティング材は、PVCにより、例えば、以下の通りに分けることができる:
高充填屋内用塗料、耐水性、白色/つや消し 約85以下
屋内用塗料、耐洗浄性(scrub resistant)、白色/つや消し 約60〜85
半光沢塗料、絹つや消し 約30〜60
半光沢塗料、絹光沢 約25〜35
光沢塗料 約15〜25
屋外壁塗り用塗料(exterior masonry paint)、白色 約45〜55
クリアワニス 0。
【0151】
本発明の表面コーティング材は、例えば、無着色系(クリアワニス)または着色系の形態を受け継ぐことがある。
【0152】
本発明の1つの課題は、以下:
・少なくとも1種の本発明の結合剤組成物、
・少なくとも1種の無機フィラーおよび/または少なくとも1種の無機顔料、
・少なくとも1種の一般的な助剤、および
・水
含む水性組成物の形の表面コーティング材に関する。
【0153】
表面コーティング材であって、以下:
・本発明の少なくとも1種の結合剤組成物10〜60質量%(ポリマー含有量40〜75質量%)、
・無機フィラーおよび/または無機顔料10〜70質量%、
・一般的な助剤0.1〜20質量%、ならびに
・水100質量%まで
を含む前記コーティング材が好ましい。
【0154】
本発明の1つの実施態様は、エマルション塗料の形の表面コーティング材である。エマルション塗料は、一般に、不揮発性物を30〜75質量%、好ましくは40〜65質量%含んでいる。これらは、水ではないが、少なくとも、結合剤、フィラー、顔料、低揮発性溶媒(沸点220℃超)の総量である配合物のあらゆる構成成分、例えば、可塑剤、およびポリマー助剤を意味する。前記数字のうち、前記構成成分それぞれに占める量は、以下の通りである:
a)本発明のポリマー分散液(PD)3〜90質量%、特に10〜60質量%(ポリマー含有量40〜75質量%)、
b)少なくとも1種の無機顔料0〜85質量%、好ましくは5〜60質量%、特に10〜50質量%、
c)無機フィラー0〜85質量%、特に5〜60質量%、および
d)一般的な助剤0.1〜40質量%、特に0.5〜20質量%。
【0155】
本発明の結合剤組成物は、30〜65の範囲のPVCを有する壁塗り用塗料または65〜80の範囲のPVCを有する屋内用塗料を製造するのに特に好適である。さらに、これらは、例えば、PVCを12〜35、好ましくは15〜30の範囲に有する半光沢塗料または光沢塗料の製造に特に好適である。
【0156】
本発明の表面コーティング材は、公知の方法で、前記構成成分を混合装置で混合することによって、通常、前記目的のために製造される。水性ペーストまたは分散液を、前記顔料、水、および任意に、助剤から製造して、そこで初めてポリマー結合剤、つまり、一般に、前記ポリマーの前記水性分散液を、前記顔料ペーストまたは顔料分散液と混合することが好適であることが判明した。
【0157】
水性組成物の形態のフィラーコーティング材の場合、このコーティング組成物は、以下:
・少なくとも1種の本発明の結合剤組成物、
・少なくとも1種の無機フィラー、
・任意に少なくとも1種の有機または無機、好ましくは無機顔料、
・少なくとも1種の一般的な助剤、および
・水
を含んでいる。
【0158】
本発明の1つの実施態様では、本発明のコーティング組成物または本発明のフィラーコーティング材は、ポリウレタン結合剤、ポリエステル結合剤およびアルデヒド樹脂、例えば、イソブチルアルデヒドを基とする樹脂からなる群から選択される、少なくとも1種の追加の結合剤、例えば、Laropal(登録商標)LR8991またはLaropal(登録商標)LR9008を含んでいる。前記追加の結合剤は、例えば0〜20質量%または1〜15質量%の量で使用されてよい。
【0159】
フィラーコーティング材であって、以下:
・少なくとも1種の本発明の結合剤組成物(ポリマー含有量40〜75質量%)または少なくとも1種の本発明の結合剤組成物および少なくとも1種の追加の結合剤10〜60質量%、
・無機フィラーおよび任意の顔料10〜50質量%、好ましくは10〜20質量%、
・一般的な助剤0.1〜20質量%、ならびに
・水100質量%まで
を含む前記フィラーコーティング材が好ましい。
【0160】
高固体のフィラーコーティング材の場合、前記コーティング組成物は、無機フィラーおよび任意の顔料50〜65質量%を含んでいてよい。
【0161】
好ましい実施態様では、前述の表面コーティング材に関して記載された量の顔料も、前記フィラーコーティング組成物中のフィラー材も含むことが可能であるため、前記ベースコートは、フィラーコーティング層上に、通常通り比較的薄く塗布されてよいか、またはより適切に言えば不必要である。
【0162】
本発明のフィラーコーティング材および表面コーティング材は、通常の方法で、例えば、延展(spreading)、噴霧(spraying)、浸漬、回転、ナイフコーティングなどにより、基材に塗布することができる。
【0163】
プライマーコーティング材の場合、コーティング層は、25〜250μmの乾燥厚みで基材に塗布されてよい。特殊な場合、このプライマーコーティング材を比較的薄い層で塗布することが可能であることもある。
【0164】
表面コーティング材の場合、コーティング層は、25〜120μmの乾燥厚みで存在しているコーティング層に塗布されてよい。直接金属コーティングの場合、前記コーティング層の厚みは、200μmまでであってよい。特殊な場合、前記表面コーティング材を比較的厚い層で塗布することが可能であることもある。
【0165】
フィラーコーティング材の場合、コーティング層は、20〜500μm、好ましくは50〜350μm、より好ましくは50〜250μmの乾燥厚みで、存在しているコーティング層上に塗布されてよい。特殊な場合、前記フィラーコーティング材を比較的厚い層で塗布することが可能であることもある。
【0166】
本発明の結合剤組成物が、大気水分と反応せず(例えば、イソシアネートを基とするコーティングは反応する)、したがって、コーティング内の気泡(「ポッピング(popping)」としても知られている)を生じさせる二酸化炭素を放出しないことが、前記結合剤組成物の利点である。
【0167】
塗布後、本発明によるコーティング材は、通常、少なくとも部分的な水の除去に好適な条件下に乾燥される。
【0168】
一般的な条件は、室温で24時間〜200℃で30秒の範囲、好ましくは40℃で12時間〜160℃で5分の範囲である。
【0169】
本発明の結合剤組成物が、乾燥により部分的に硬化されることが、この組成物の利点である。物理的な乾燥では、前記結合剤組成物は、部分的に架橋する傾向があるため、中間コーティング層それぞれを硬化する必要はないが、通常、前記コーティングを中間層それぞれの塗布および乾燥後に最終的に硬化することで充分である。
【0170】
硬化条件は、室温で1週間〜160℃で30分の範囲である。
【0171】
本発明の表面コーティング材は、建築用コーティング材として、つまり、建造物または建造物の一部をコーティングするために使用されるのが好ましい。対象となる基材は、無機基材、例えば、下塗り材料、石こうまたは石こうボード、メーソンリー(masonry)またはコンクリート、繊維セメントシート、木材、木質系材料、金属または紙、例えば、壁紙、またはプラスチック、例えば、PVCであってよい。
【0172】
本発明の表面コーティング材は、取り扱いやすさ、優れた加工特性、および高い隠蔽力が注目すべき点である。さらに、前記表面コーティング材の有害物質の含有量は低い。前記コーティング材は、優れた性能特性、例えば、優れた耐水性および耐化学薬品性、優れた湿潤密着性(wet adhesion)、優れた耐ブロッキング性、優れた重ね塗り適合性(recoatability)を有しており、優れた塗布流れ(flow on application)を示している。表面コーティング材は、さび止めコーティングを製造するのにも好適である。
【0173】
本発明の表面コーティング材から製造されるコーティングは、優れた接着性と優れた耐摩耗性との組合せを特徴としている。さらに、前記コーティングは、一般に、可撓性が高く、脆弱性が低いことを特徴としており、これによって、前記コーティングを、例えば、作業している基材に適合させることが可能である。
【0174】
本発明を説明するために以下の例を用いる。
【0175】
I 分析
平均粒子径の測定
平均粒子径を、光子相関分光法(PCS)(準弾性光散乱法(QELS)または動的光散乱としても知られる)を用いて測定した。測定法は、ISO13321標準に記載されている。測定は、HPPS(High Performance Particle Sizer)を使用して実施した。このために、高度希釈した水性ポリマー分散液(c〜0.005%)を分析した。測定配置:Malvern社HPPS、自動、連続流キュベットおよびGilsonオートサンプラー使用。パラメータ:測定温度22.0℃;測定時間120秒(6サイクル各20s);散乱角173°;波長レーザー633nm(HeNe);媒体屈折率1.332(水性);粘度0.9546mPas。測定によってキュムラント解析の平均値(フィットの平均)が示された。フィットの平均は、nmにおける強度加重平均粒子径(average、intensity−weighted particle diameter)であり、体積平均粒子径または質量平均粒子径に相当するものである。
【0176】
重量平均粒子径は、HDC(Hydrodynamic Chromatography fractionation)により、例えば、H.Wiese,”Characterization of Aqueous Polymer Dispersions”, Polymer Dispersons and Their Industrial Applications(Wiley−VCH,2002),41〜73ページに記載の通り、測定した。測定は、粒度分布測定装置PL−PSDA(Polymer Laboratories,Inc.社)を使用して実施した。少量の試料を、乳化剤を含む水性溶離液に注入し、約0.5g/lの濃度にした。この混合物を、ポリスチレン球体が充填された、直径約15mmのガラス毛管に圧送した。その流体力学的径によって測定される通り、比較的小さい粒子は、平均して、比較的小さい粒子が比較的遅い溶離液の流れを体験するように、毛管中の比較的遅い流れの区域に立体的に到達することができる。分別は、最終的に、254nmの固定波長での吸光を測定するUV検出器を用いて観察した。
【0177】
前記平均粒子径は、代替的に、H.Coelfen,”Analytical Ultracentrifugation of Nanoparticles”,Encyclopedia of Nanoscience and Nanotechnology,(American Scientific Publishers,2004),67〜88ページに記載の方法によって測定することができる。このために、23℃で、ポリマー分散液0.1〜0.5質量%希釈液(固体含有量に対して;光線透過率約10%)を、超遠心分離機(Beckmann Model XL型)を用いて、沈降場傾斜600〜40000rpmで、2250〜150000gの加速に応じて、濁り度を基とする光学系を使用して調査した(W.Maechtle and L.Boerger,”Analytical Ultracentrifugation of Polymers and Nanoparticles”,(Springer,Berlin,2006)、W.Maechtle,Analytical Ultracentrifugation in Biochemistry and Polymer Science:S.E.Haertingら(editors),Cambridge:Royal Society of Chemistry,1992,147〜175ページ、およびW.Maechtle,Makromolekulare Chemie 185(1984),1025〜1039ページも参照)。使用した希釈液は、Emulgator K30(乳化剤:アルカンスルホン酸のナトリウム塩)約0.1〜0.5g/l、例えば、0.5g/lのD2Oであった。
【0178】
モル質量および分子量分布の測定
モル質量および分子量分布は、例えば、H.Wiese,”Characterization of Aqueous Polymer Dispersions”,Polymer Dispersions and Their Industrial Applications(Wiley−VCH,2002),41〜73ページに記載のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(分子ふるいクロマトグラフィー(SEC)としても公知である)により測定することができる。ポリマーは、有機溶媒、例えば、THF中で分解されて、その後、コイル寸法にしたがって、このポリマーを規定のポアサイズ分布を有する微孔性ゲルに通すことにより分別される。例えば、架橋されたポリスチレン/ジビニルベンゼンマトリックスを含む10μmPLgel Mixed Bed columns(Agilent Technologies社、7.5×300mm)を使用することができ、基材をカラム温度35℃で500〜10,000,000g/molの範囲に分離することができる。校正は、例えば、Polymer Laboratories社から入手可能の、分子量580〜7,500,000g/molのポリスチレン標準も、ヘキシルベンゼン(162g/mol)も使用して、この範囲の外側で生じる値を外挿して実施することができる。ポリマー分別の検出は、屈折率またはUV検出器、例えば、DRI Agilent 1100 検出器を254nmで使用して実施することができる。
【0179】
粘度の測定
ブルックフィールド粘度を、DIN EN ISO3219を基とする方法で、回転粘度計(Anton Paar社の試料交換装置およびCC27測定装置を備えるPhysica MCR 301レオメーター)を使用して23℃およびせん断速度0〜500sec-1で測定した。結果として出た数値は、示される通り、100sec-1および250sec-1での値である。
【0180】
塗膜形成最低温度(MFFT)の測定
MFFTは、ISO2115に準拠して、分散液を規定の層厚(例えば、200μmでウェット)で、冷却/加熱した板に温度勾配が確立して(例えば、0〜40℃)散布(spread)することにより測定する。管理された大気環境内で完全に乾燥させた後、塗膜の亀裂を視覚的に試験した。MFFTは、均一で、亀裂のない塗膜が形成される最低温度として定義される。
【0181】
ガラス転移温度(Tg)の測定
gは、ISO11357−1に準拠する示差走査熱量測定(DSC)により測定される。この方法は、線形温度傾斜の間の、前記ポリマー塗膜により単位時間に吸収された熱と、熱不活性の基準物質により吸収された熱との差をモニタリングすることを含んでいる。対象の試料および基準を、規定の耐熱性のセンサー板Rに置いて、次に、前記両方の温度差DTを、温度傾斜にわたりモニタリングする。 熱量差(DTおよびRの負の商)を、温度関数としてプロットする。Tgを超えると、ガラス質のポリマー塗膜は、粘性またはゴム状になり、これは、ポリマー鎖が移動性になることにより引き起こされるものである。このポリマーのガラス転移は、通常、幅広い温度範囲周辺で起こり、熱量差の比は、この温度範囲とともに上昇するのが明らかになる。Tgは、最終的に増加した熱量差の領域の中間点によって測定される。
【0182】
II ポリマー分散液の製造
例1(分散液D1)
計測装置、撹拌器、および温度調節装置を備える重合容器に、20〜25℃(室温)で、窒素雰囲気下に、初期装入分(下記参照)を装入し、次に、これを撹拌しながら(150rpm)80℃に加熱した。この温度に達成したところで、7質量%濃度のペルオキソ二硫酸ナトリウム水溶液25.71gを加えて、このバッチを2分間撹拌した。その後、前記温度を維持して、供給Z1を、40分の間、一定の流量で連続的に計量供給した。供給Z1の添加終了後、洗浄水1を前記重合混合物に加えた。次に、この重合混合物を、80℃で10分間後反応させた。続いて、供給Z3を、10分の間に、一定の流量で連続的に前記重合混合物に計量供給した。その後、90分の間に、一定流量で、供給Z2を連続的に計量供給した。供給Z2の開始40分後および進行中の供給Z2と同時並行して、10分の間に、連続的に、一定流量で供給Z4を前記重合混合物に計量供給した。供給Z2の終了後、洗浄水2を前記重合混合物に加えた。その後、前記重合混合物を80℃でさらに90分、後反応させた。その後、供給Z5を10分の間に、連続的に一定流量で、前記重合混合物に計量供給した。室温に冷却した後、得られた前記水性ポリマー分散液を、次に、洗浄水3と混合して、125μmのフィルターに通してろ過した。
【0183】
初期装入分:
脱イオン水290.93g
15質量%濃度のラルリル硫酸ナトリウム水溶液12.00g。
【0184】
供給Z1(以下を含む均一な混合物):
脱イオン水76.21g
15質量%濃度ラウリル硫酸ナトリウム水溶液3.00g
2−エチルヘキシルチオグリコレート2.16g
アクリル酸2.03g
ヒドロキシエチルメタクリレート8.78g
n−ブチルアクリレート13.50g
スチレン13.50g
メチルメタクリレート97.20g。
【0185】
洗浄水1:
脱イオン水12.00g。
【0186】
供給Z2(以下を含む均一な混合物):
脱イオン水124.41g
15質量%濃度ラルリル硫酸ナトリウム水溶液6.00g
1,4−ブタンジオールジアクリレート18.00g
n−ブチルアクリレート162.00g
メチルメタクリレート135.00g。
【0187】
供給Z3:
3質量%濃度アンモニア水溶液1.80g。
【0188】
供給Z4:
3質量%濃度アンモニア水溶液2.40g。
【0189】
洗浄水2:
脱イオン水12.00g。
【0190】
供給Z5:
5質量%濃度アンモニア水溶液28.08g。
【0191】
洗浄水3:
脱イオン水38.84g。
【0192】
これによって、固体含有量42.0質量%、pH9.5、平均粒子径66nm(HPPSを用いて測定)、および重量平均粒子径53nm(HDCを用いて測定)を有するポリマー分散液が生じた。ブルックフィールド粘度は、それぞれ100s-1で155mPa・sおよび250s-1で100mPa・sであった。ガラス転移温度は、18℃および89℃(DSCにより測定)であり、塗膜形成最小温度は27℃であった。
【0193】
例2(分散液D2)
室温への冷却後に、供給Z5に続いて追加供給Z6を計量供給したのを除いて、例1に記載の通りに製造を行い、次に、こうして得られた水性ポリマー分散液を洗浄水3と混合して、125μmのフィルターに通してろ過した。例1に示される供給および洗浄水の代わりに、以下のものを使用した。
【0194】
初期装入分:
脱イオン水290.93g
15質量%濃度ラルリル硫酸ナトリウム水溶液12.00g。
【0195】
供給Z1(以下を含む均一な混合物):
脱イオン水33.00g
15質量%濃度ラルリル硫酸ナトリウム水溶液3.00g
2−エチルヘキシルチオグリコレート2.16g
20質量%濃度ジアセトンアクリルアミド水溶液54.00g
アクリル酸2.03g
ヒドロキシエチルメタクリレート8.78g
n−ブチルアクリレート13.50g
スチレン13.50g
メチルメタクリレート86.40g。
【0196】
洗浄水1:
脱イオン水12.00g。
【0197】
供給Z2(以下を含む均一な混合物):
脱イオン水124.42g
15質量%濃度ラウリル硫酸ナトリウム水溶液6.00g
アリルメタクリレート18.00g
n−ブチルアクリレート162.00g
メチルメタクリレート135.00g。
【0198】
供給Z3:
3質量%濃度アンモニア水溶液1.80g。
【0199】
供給Z4:
3質量%濃度アンモニア水溶液2.40g。
【0200】
洗浄水2:
脱イオン水12.00g。
【0201】
供給Z5:
5質量%濃度アンモニア水溶液28.08g。
【0202】
供給Z6:
12質量%濃度アジピン酸ジヒドラジド水溶液45.00g。
【0203】
洗浄水3:
脱イオン水6.62g。
【0204】
これによって、固体含有量42.2質量%、pH9.6、平均粒子径72nm(HPPSを用いて測定)、および重量平均粒子径59nm(HDCを用いて測定)を有するポリマー分散液が生じた。ブルックフィールド粘度は、それぞれ100s-1で80mPa・sおよび250s-1で62mPa・sであった。ガラス転移温度は、25℃および87℃(DSCにより測定)であり、塗膜形成最低温度は、43℃であった。
【0205】
例3(分散液D3)
室温への冷却後に、供給Z5に続いて追加供給Z6を計量供給したのを除いて、例1に記載の通りに製造を行い、次に、こうして得られた水性ポリマー分散液を洗浄水3と混合して、125μmのフィルターに通してろ過した。例1に示される供給および洗浄水の代わりに、以下のものを使用した。
【0206】
初期装入分:
脱イオン水290.93g
15質量%濃度ラウリル硫酸水溶液12.00g。
【0207】
供給Z1(以下を含む均一な混合物):
脱イオン水33.00g
15質量%濃度ラウリル硫酸ナトリウム水溶液3.00g
2−エチルヘキシルチオグリコレート2.16g
20質量濃度ジアセトンアクリルアミド水溶液54.00g
アクリル酸2.03g
ヒドロキシエチルメタクリレート8.78g
n−ブチルアクリレート13.50g
スチレン13.50g
メチルメタクリレート86.40g。
【0208】
洗浄水1:
脱イオン水12.00g。
【0209】
供給Z2(以下を含む均一な混合物):
脱イオン水124.42g
15質量%濃度ラウリル硫酸ナトリウム水溶液6.00g
1,4−ブタンジオールジアクリレート18.00g
n−ブチルアクリレート162.00g
メチルメタクリレート135.00g。
【0210】
供給Z3:
3質量%濃度アンモニア水溶液1.80g。
【0211】
供給Z4:
3質量%濃度アンモニア水溶液2.40g。
【0212】
洗浄水2:
脱イオン水12.00g。
【0213】
供給Z5:
5質量%濃度アンモニア水溶液28.08g。
【0214】
供給Z6:
12質量%濃度アジピン酸ジヒドラジド水溶液45.00g。
【0215】
洗浄水3:
脱イオン水6.62g。
【0216】
これによって、固体含有量42.2質量%、pH9.5、平均粒子径69nm(HPPSを用いて測定)、および重量平均粒子径56nm(HDCを用いて測定)を有するポリマー分散液が生じた。ブルックフィールド粘度は、それぞれ100s-1で148mPa・sおよび250s-1で95mPa・sであった。 ガラス転移温度は、15℃および86℃(DSCにより測定)であり、塗膜形成最低温度は、24℃であった。
【0217】
例4(分散液D4)
室温への冷却後に、供給Z5に続いて追加供給Z6を計量供給したのを除いて、例1に記載の通りに製造を行い、次に、こうして得られた水性ポリマー分散液を洗浄水3と混合して、125μmのフィルターに通してろ過した。例1に示される供給および洗浄水の代わりに、以下のものを使用した。
【0218】
初期装入分:
脱イオン水290.93g
15質量%濃度ラウリル硫酸ナトリウム水溶液12.00g。
【0219】
供給Z1(以下を含む均一な混合物):
脱イオン水33.00g
15質量%濃度ラウリル硫酸ナトリウム水溶液3.00g
2−エチルヘキシルチオグリコレート2.16g
20質量%濃度ジアセトンアクリルアミド水溶液54.00g
アクリル酸2.03g
ヒドロキシエチルメタクリレート8.78g
n−ブチルアクリレート13.50g
スチレン13.50g
メチルメタクリレート86.40g。
【0220】
洗浄水1:
脱イオン水12.00g。
【0221】
供給Z2(以下を含む均一な混合物):
脱イオン水124.42g
15質量%濃度ラウリル硫酸ナトリウム水溶液6.00g
グリシジルメタクリレート9.00g
1,4−ブタンジオールジアクリレート18.00g
n−ブチルアクリレート208.80g
メチルメタクリレート79.20g。
【0222】
供給Z3:
3質量%濃度アンモニア水溶液1.80g。
【0223】
供給Z4:
3質量%濃度アンモニア水溶液2.40g。
【0224】
洗浄水2:
脱イオン水12.00g。
【0225】
供給Z5:
5質量%濃度アンモニア水溶液28.08g。
【0226】
供給Z6
12質量%濃度アジピン酸ジヒドラジド水溶液45.00g。
【0227】
洗浄水3:
脱イオン水6.62g。
【0228】
これによって、固体含有量42.4質量%、pH9.5、平均粒子径73nm(HPPSを用いて測定)、および重量平均粒子径56nm(HDCを用いて測定)を有するポリマー分散液が生じた。ブルックフィールド粘度は、それぞれ100s-1で150mPa・sおよび250s-1で94mPa・sであった。 ガラス転移温度は、−6℃および88℃(DSCにより測定)であり、塗膜形成最低温度は、8℃であった。
【0229】
例5(分散液D5)
室温への冷却後に、供給Z5に続いて追加供給Z6を計量供給したのを除いて、例1に記載の通りに製造を行い、次に、こうして得られた水性ポリマー分散液を125μmのフィルターに通してろ過した。例1に示される供給および洗浄水の代わりに、以下のものを使用した。
【0230】
初期装入分:
脱イオン水290.93g
15質量%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液12.00g。
【0231】
供給Z1(以下を含む均一な混合物):
脱イオン水44.00g
15質量%濃度ラウリル硫酸ナトリウム水溶液3.90g
2−エチルヘキシルチオグリコレート2.88g
20質量%濃度ジアセトンアクリルアミド水溶液72.00g
アクリル酸2.70g
ヒドロキシエチルメタクリレート11.70g
n−ブチルアクリレート18.00g
スチレン18.00g
メチルメタクリレート115.20g。
【0232】
洗浄水1:
脱イオン水12.00g。
【0233】
供給Z2(以下を含む均一な混合物):
脱イオン水93.44g
15質量%濃度ラウリル硫酸ナトリウム水溶液5.10g
1,4−ブタンジオールジアクリレート15.44g
n−ブチルアクリレート138.87g
メチルメタクリレート115.70g。
【0234】
供給Z3
3質量%濃度アンモニア水溶液2.55g。
【0235】
供給Z4:
3質量%濃度アンモニア水溶液3.00g。
【0236】
洗浄水2:
脱イオン水12.00g。
【0237】
供給Z5:
5質量%濃度アンモニア水溶液29.43g。
【0238】
供給Z6:
12質量%濃度アジピン酸ジヒドラジド水溶液60.00g。
【0239】
これによって、固体含有量42.1質量%、pH9.5、平均粒子径64nm(HPPSを用いて測定)、および重量平均粒子径54nm(HDCを用いて測定)を有するポリマー分散液が生じた。ブルックフィールド粘度は、それぞれ100s-1で141mPa・sおよび250s-1で92mPa・sであった。ガラス転移温度は、16℃および90℃(DSCにより測定)であり、塗膜形成最低温度は、33℃であった。
【0240】
例6(分散液D6)
室温への冷却後に、供給Z5に続いて追加供給Z6を計量供給したのを除いて、例1に記載の通りに製造を行い、次に、こうして得られた水性ポリマー分散液を洗浄水3と混合して、125μmのフィルターに通してろ過した。例1に示される供給および洗浄水の代わりに、以下のものを使用した。
【0241】
初期装入分:
脱イオン水290.93g
15質量%濃度ラウリル硫酸ナトリウム水溶液12.00g。
【0242】
供給Z1(以下を含む均一な混合物):
脱イオン水30.06g
15質量%濃度ラウリル硫酸ナトリウム水溶液3.00g
20質量%濃度ジアセトンアクリルアミド水溶液54.00g
アクリル酸2.03g
ヒドロキシエチルメタクリレート8.78g
n−ブチルアクリレート13.50g
スチレン13.50g
メチルメタクリレート86.40g。
【0243】
洗浄水1:
脱イオン水12.00g。
【0244】
供給Z2(以下を含む均一な混合物):
脱イオン水124.41g
15質量%濃度ラウリル硫酸ナトリウム水溶液6.00g
1,4−ブタンジオールジアクリレート18.00g
n−ブチルアクリレート217.80g
メチルメタクリレート79.20g。
【0245】
供給Z3:
3質量%濃度アンモニア水溶液1.80g。
【0246】
供給Z4
3質量%濃度アンモニア水溶液2.40g。
【0247】
洗浄水2:
脱イオン水12.00g。
【0248】
供給Z5:
5質量%濃度アンモニア水溶液28.08g。
【0249】
供給Z6
12質量%濃度アジピン酸ジヒドラジド水溶液45.00g。
【0250】
洗浄水3:
脱イオン水6.62g。
【0251】
これによって、固体含有量41.9質量%、pH9.5、平均粒子径73nm(HPPSを用いて測定)、および重量平均粒子径61nm(HDCを用いて測定)を有するポリマー分散液が生じた。ブルックフィールド粘度は、それぞれ100s-1で103mPa・sおよび250s-1で69mPa・sであった。ガラス転移温度は、−9℃および90℃(DSCにより測定)であり、塗膜形成最低温度は、0℃であった。
【0252】
例7(分散液D7)
室温への冷却後に、供給Z5に続いて追加供給Z6を計量供給したのを除いて、例1に記載の通りに製造を行い、次に、こうして得られた水性ポリマー分散液を洗浄水3と混合して、125μmのフィルターに通してろ過した。例1に示される供給および洗浄水の代わりに、以下のものを使用した。
【0253】
初期装入分
脱イオン水290.93g
15質量%濃度ラウリル硫酸ナトリウム水溶液12.00g。
【0254】
供給Z1(以下を含む均一な混合物):
脱イオン水33.00g
15質量%濃度ラウリル硫酸ナトリウム水溶液3.00g
2−エチルヘキシルチオグリコレート2.16g
20質量%濃度ジアセトンアクリルアミド水溶液54.00g
アクリル酸2.03g
ヒドロキシエチルメタクリレート8.78g
n−ブチルアクリレート13.50g
スチレン13.50g
メチルメタクリレート86.40g。
【0255】
洗浄水1:
脱イオン水12.00g。
【0256】
供給Z2(以下を含む均一な混合物):
脱イオン水124.42g
15質量%濃度ラウリル硫酸ナトリウム水溶液6.00g
1,4−ブタンジオールジアクリレート18.00g
n−ブチルアクリレート217.80g
メチルメタクリレート79.20g。
【0257】
供給Z3:
3質量%濃度アンモニア水溶液1.80g。
【0258】
供給Z4:
3質量%濃度アンモニア水溶液2.40g。
【0259】
洗浄水2:
脱イオン水12.00g。
【0260】
供給Z5:
5質量%アンモニア水溶液28.08g。
【0261】
供給Z6:
12質量%濃度アジピン酸ジヒドラジド水溶液45.00g。
【0262】
洗浄水3:
脱イオン水6.62g。
【0263】
これによって、固体含有量42.3質量%、pH9.4、平均粒子径77nm(HPPSを用いて測定)、および重量平均粒子径60nm(HDCを用いて測定)を有するポリマー分散液が生じた。ブルックフィールド粘度は、それぞれ100s-1で83mPas・および250s-1で61mPa・sであった。ガラス転移温度は、−11℃および83℃(DSCにより測定)であり、塗膜形成最低温度は、4℃であった。
【0264】
例8:カルボジイミド溶液の製造
イソホロンジイソシアネート(IPDI)300質量割合(1.35モル)を、メトキシプロピルアセテート(MPA)300gと、還流冷却器およびサーモメータを備える丸底フラスコで混合した。この混合物を90℃に加熱して、その後、メタノール開始ポリエチレンオキシド(モル質量760g/mol)92.8質量割合(0.12モル)を加えた。270分後、イソシアネートの含有量を測定して、16.1質量%であった。前記反応を145℃に加熱して、次に、1−メチル−2−ホスホレン−1−オキシド(MPO)0.6質量割合を加えて、この混合物を145℃で24時間撹拌して、その後、100℃に冷却した。その後、イソシアネートの含有量を測定し、1.9質量%であった。エタノール11質量割合を加えて、前記混合物を100℃で24時間撹拌した。前記時間後、イソシアネート含有量を測定することはできなかった。
【0265】
比較例1(分散液CD1)
室温への冷却後に、供給Z5に続いて追加供給Z6を計量供給したのを除いて、例1に記載の通りに製造を行い、次に、こうして得られた水性ポリマー分散液を洗浄水3と混合して、125μmのフィルターに通してろ過した。例1に示される供給および洗浄水の代わりに、以下のものを使用した。
【0266】
初期装入分:
脱イオン水290.93g
15質量%濃度ラウリル硫酸ナトリウム水溶液12.00g。
【0267】
供給Z1(以下を含む均一な混合物):
脱イオン水33.00g
15質量%濃度ラウリル硫酸ナトリウム水溶液3.00g
2−エチルヘキシルチオグリコレート2.16g
20質量%濃度ジアセトンアクリルアミド水溶液54.00g
アクリル酸2.03g
メタクリル酸8.78g
n−ブチルアクリレート13.50g
スチレン13.50g
メチルメタクリレート86.40g。
【0268】
洗浄水1:
脱イオン水2.00g。
【0269】
供給Z2(以下を含む均一な混合物):
脱イオン水123.47g
15質量%濃度ラウリル硫酸ナトリウム水溶液6.00g
n−ブチルアクリレート217.80g
メチルメタクリレート97.20g。
【0270】
供給Z3:
3質量%濃度アンモニア水溶液8.55g。
【0271】
供給Z4:
3質量%濃度アンモニア水溶液10.80g。
【0272】
洗浄水2:
脱イオン水2.00g。
【0273】
供給Z5:
5質量%アンモニア水溶液43.38g。
【0274】
供給Z6:
12質量%濃度アジピン酸ジヒドラジド水溶液45.00g。
【0275】
洗浄水3:
脱イオン水15.03g。
【0276】
これによって、固体含有量41.8質量%、pH8.8、平均粒子径88nm(HPPSを用いて測定)、および重量平均粒子径56nm(HDCを用いて測定)を有するポリマー分散液が生じた。ブルックフィールド粘度は、それぞれ100s-1で314mPa・sおよび250s-1で233mPa・sであった。ガラス転移温度は、−13℃および112℃(DSCにより測定)であり、塗膜形成最低温度は、0℃未満であった。
【0277】
比較例2(分散液CD2)
室温への冷却後に、供給Z5に続いて追加供給Z6を計量供給したのを除いて、例1に記載の通りに製造を行い、次に、こうして得られた水性ポリマー分散液を洗浄水3と混合して、125μmのフィルターに通してろ過した。例1に示される供給および洗浄水の代わりに、以下のものを使用した。
【0278】
初期装入分:
脱イオン水290.93g
15質量%濃度ラウリル硫酸ナトリウム水溶液12.00g。
【0279】
供給Z1(以下を含む均一な混合物):
脱イオン水33.00g
15質量%濃度ラウリル硫酸ナトリウム水溶液3.00g
2−エチルヘキシルチオグリコレート2.16g
20質量%濃度ジアセトンアクリルアミド水溶液54.00g
アクリル酸2.03g
メタクリル酸8.78g
n−ブチルアクリレート13.50g
スチレン13.50g
メチルメタクリレート86.40g。
【0280】
洗浄水1:
脱イオン水2.00g。
【0281】
供給Z2(以下を含む均一な混合物):
脱イオン水123.47g
15質量%濃度ラウリル硫酸ナトリウム水溶液6.00g
1,4−ブタンジオールジアクリレート18.00g
n−ブチルアクリレート217.80g
メチルメタクリレート79.20g。
【0282】
供給Z3:
3質量%濃度アンモニア水溶液8.55g。
【0283】
供給Z4:
3質量%濃度アンモニア水溶液10.80g。
【0284】
洗浄水2:
脱イオン水2.00g。
【0285】
供給Z5
5質量%濃度アンモニア水溶液43.38g。
【0286】
供給Z6:
12質量%濃度アジピン酸ジヒドラジド水溶液45.00g。
【0287】
これによって、固体含有量41.7質量%、pH8.8、平均粒子径90nm(HPPSを用いて測定)、および重量平均粒子径56nm(HDCを用いて測定)を有するポリマー分散液が生じた。ブルックフィールド粘度は、それぞれ100s-1で320mPa・sおよび250s-1で237mPa・sであった。ガラス転移温度は、−12℃および108℃(DSCにより測定)であり、塗膜形成最低温度は、0℃未満であった。
【0288】
III 結合剤組成物の評価
例2および例3、ならびに比較例1および比較例2で得られた分散液D2、D3、CD1およびCD2を、それぞれ第1表に示される量のブチルグリコールおよび脱イオン水と混合した。「質量%」の数字は、それぞれの分散液の質量に対している。生じる希釈分散液を2つの部分に分けた。次に、各分散液の一部に、カルボジイミドを、分散液中に含まれるポリマー(%(固体/固体))の質量に対してそれぞれ、CD1およびCD2の場合は10質量%の量、ならびにD2およびD3の場合は5質量%の量で加えた。前記カルボジイミドは、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル(Dow Chemicals社Dawanol DMM)中の50質量%溶液として使用した。前記カルボジイミドは、イソホロンジイソシアネートおよびモノメチルポリエチレングリコールを基としており、例8に記載のものと類似した合成物として製造することができる。得られた混合物、カルボジイミドで処理したもの、および比較のために未処理のものを、いくつかの化学薬品および成分に対する耐性ならびに水および水蒸気に対する耐性の測定のために、下記の通りに使用した。さらに、すべての混合物の試料を23℃で5分間撹拌して、その後、それらの粘度を第1表に記載の通り測定した。
【0289】
【表1】
【0290】
いくつかの化学薬品および成分に対する耐性の測定
1.製造した分散液によるコーティングの形成
カルボジイミドで処理された、または未処理の前記分散液D2、D3、CD1およびCD2を基とする混合物それぞれを、湿潤膜200ミクロンの形態で特別な写真用紙に塗布した。この膜は、最初に室温で30分間、その後少なくとも16時間、60℃でフラッシュオフすることができた。得られたコーティングを耐性試験に供する前に、30〜45分間、室温で冷却した。
【0291】
2.形成されたコーティングの耐性試験
直径2.8cmのセルロースパッドを、以下の第2表に記載の化学薬品および成分それぞれに、オリーブオイルを除いてそれぞれ20分間浸漬させた。前記パッドを第2表に記載の曝露時間の間、前述の方法により得られたコーティングされた基材上に置いた。オリーブオイルを、前記コーティングされた基材上にピペットを使用して滴下しながら塗布し、同様に第2表に記載の時間の間曝露させた。
【0292】
【表2】
【0293】
その後、曝露箇所をティッシュペーパーでそっと拭いて、水で1回洗浄した。すべての曝露箇所のコーティングの品質を、速やかに評価した水性エタノールの箇所を除いて24時間後に、第3表に記載の0〜5の等級で評価した。
【0294】
【表3】
【0295】
結果は、第1表に記載される。
【0296】
第1表の項目「化学薬品耐性平均」は、先に測定された、記載の化学薬品および成分に対する耐性の値すべての算術平均を表している。
【0297】
水、水蒸気およびハンドクリームに対する耐性の測定の場合、以下の方法をマコレパネル(macoree panel)上の湿潤膜200μmに適用した。試験の前に、前記試料を60℃で30分間乾燥させ、その後、中間研磨を当てて(Zwischenschliff)、次に、前記試料を60℃でさらに24時間乾燥させた。
【0298】
耐水性
直径2.5cmのセルロースパッドを、希釈水に20分間浸漬させて、追加の水を、このパッドにピペットを使用して塗布した。次に、このパッドを前記コーティングされた基材上に24時間置いて、取り除き、前記パッドが置かれていた場所を、第3表に記載の0〜5の等級で速やかに評価した。結果は第1表に記載される。
【0299】
耐水蒸気性
希釈水を、上部に前記コーティングされた基材を置いた三角フラスコ内で加熱した。前記コーティングされた基材を5〜30分気化させて、それぞれ、次に、試験箇所をそっと拭いて、第3表に記載の0〜5の等級で速やかに評価した。最後に、レクリエーション値(recreation value)を、24時間後に室温で評価した。結果を第1表に記載する。
【0300】
耐ハンドクリーム性
少量の直径2.5cmのアトリックスハンドクリーム(Atrix handcream)を、前記コーティングされた基材上に塗布した。前記コーティングされた基材を60℃で2時間貯蔵して、次に、試験する箇所をそっと拭いて、この基材を30〜45分間で室温に冷却した。次に、試験する箇所を再度そっと拭いて、第3表に記載の0〜5の等級で速やかに評価した。結果を第1表に記載する。
【0301】
第1表から分かるように、比較分散液CD1およびCD2と比べて、本発明によるポリマー分散液D2およびD3は、低い粘度を維持して、その結果ポットライプが大幅に改善されるだけでなく、優れた耐化学薬品性も示す結合剤組成物をもたらす。これは、D2およびD3に、架橋カルボジイミドが、CD1およびCD2と比べて半分の量しか添加されなかっただけになおさら驚きである。これらの有利な特性は、D2およびD3の酸価が、CD1およびCD2と比べてはるかに低いことと相関している。