特許第6275596号(P6275596)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6275596テルミサルタンのアンモニウム塩の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6275596
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】テルミサルタンのアンモニウム塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 235/20 20060101AFI20180129BHJP
【FI】
   C07D235/20
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-179625(P2014-179625)
(22)【出願日】2014年9月3日
(65)【公開番号】特開2016-53009(P2016-53009A)
(43)【公開日】2016年4月14日
【審査請求日】2017年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】宮奥 隆行
(72)【発明者】
【氏名】田中 健次
【審査官】 阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−227273(JP,A)
【文献】 特表2002−535315(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/147889(WO,A2)
【文献】 中国特許出願公開第101838243(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 235/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
で示されるテルミサルタンの粗体を、水と炭素数が2〜12のアルコールと酢酸エチルとの混合溶媒中、0〜30℃にて前記テルミサルタン1モルに対して2.0〜30.0モルのアンモニアを加えてアンモニウム塩化することにより溶解させる溶解工程、及び、前記溶解工程で得られた溶液から0〜30℃にて前記テルミサルタンのアンモニウム塩を析出させる結晶化工程を含むことを特徴とする前記テルミサルタンのアンモニウム塩の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法で製造された前記テルミサルタンのアンモニウム塩と酢酸とを反応させて前記テルミサルタンのアンモニウム塩を中和することにより、前記テルミサルタンを析出させる結晶化工程を含むことを特徴とする前記テルミサルタンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テルミサルタン(化学名称:4′−[[2−n−プロピル−4−メチル−6−(1−メチルベンズイミダゾール−2−イル)−ベンズイミダゾール−1−イル]−メチル]−ビフェニル−2−カルボン酸)のアンモニウム塩の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式(1)
【0003】
【化1】
【0004】
で示されるテルミサルタン(化学名称:4′−[[2−n−プロピル−4−メチル−6−(1−メチルベンズイミダゾール−2−イル)−ベンズイミダゾール−1−イル]−メチル]−ビフェニル−2−カルボン酸)は、アンジオテンシンII受容体拮抗薬として高血圧治療薬等に使用されている(特許文献1参照)。
【0005】
通常、公知の方法により合成されたテルミサルタンの粗体は、複数の不純物を含むため、医薬品として使用するためには、テルミサルタンの粗体を精製し当該不純物群を除去することが必須である。そのため、テルミサルタンの精製方法として、多数の精製方法が開示されているが、それらの中でも、特許文献1に記載の精製方法は、他の精製方法では除去困難な特定の不純物群(以下、特定不純物A及びBとも言う。)を除去可能な方法として開示されている。
具体的には、まず、特定不純物A及びBを含むテルミサルタンの粗体を、エタノールなどのアルコールと水との混合溶媒中、−10℃以上35℃未満で、アンモニアと反応させ、テルミサルタンのアンモニウム塩とし溶解させる。続いて、当該テルミサルタンのアンモニウム塩の溶液に、0℃以上50℃以下で、酢酸エチルを加えテルミサルタンのアンモニウム塩を結晶化させ、続いて固液分離、乾燥することにより、特定不純物A及びBが大幅に低減されたテルミサルタンのアンモニウム塩を得ることができる。当該アンモニウム塩を、異なる乾燥条件によってさらに乾燥する、或いは、酢酸などの酸と中和することにより製造されるテルミサルタンは、上記の特定不純物A及びBの含有量が少なく、医薬品として好適に使用することができる。
以上より、当該テルミサルタンの精製方法は、テルミサルタンの粗体から、それに含まれる不純物群、特に特定不純物A及びBを除去することが可能な、非常に有用な精製方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−227273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らが、上記の精製方法において、特定不純物A及びBとは異なる、2つの特定の不純物群(以下、特定不純物C及びDとも言う。)を含むテルミサルタンの粗体を使用した場合、当該精製方法によっては特定不純物C及びDを除去することが困難であることが判明した。
さらに、本発明者らは、当該特定不純物群C及びDが、他の公知の精方法によって低減可能かを検討した。具体的には、特定不純物C及びDを含むテルミサルタンの粗体を、アルコールなどの溶媒中、アンモニアなどの塩基と反応させ溶解させた後、酢酸などの酸とを混合することにより、テルミサルタンを精製する方法、或いは、上記テルミサルタンの粗体を、N,N−ジメチルホルムアミドなどの溶媒を用いた再結晶操作により、テルミサルタンを精製する方法について検討を行った。しかしながら、特許文献1に記載された精製方法と同様に、当該精製方法によっても特定不純物C及びDを低減することは、非常に困難であることが判明した。
【0008】
したがって、本発明の目的は、特定不純物C及びDを除去可能な、テルミサルタンの精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究を重ねた。特に、特許文献1に記載された精製方法について、溶媒の使用量や組成など、精製条件を詳細に検討した。その結果、特許文献1に記載された精製方法において、酢酸エチルの投入順序を変更すること、及び、テルミサルタンのアンモニウム塩を溶液から結晶化させる操作を特定の温度範囲で実施とすることによって、特定不純物C及びDの低減効果が大幅に向上することを見出した。具体的には、テルミサルタンの粗体を、アルコール、水、及び酢酸エチルの混合溶媒中、0〜30℃でアンモニアと反応させて、テルミサルタンのアンモニウム塩として溶解させ溶液を得た後、当該溶液からテルミサルタンのアンモニウム塩を0〜30℃で結晶化させ単離することにより、特定不純物C及びDが大幅に低減されたテルミサルタンのアンモニウム塩が得られることを見出した。また、当該アンモニウム塩は、酢酸と反応させ中和し、テルミサルタンへと変換すれば、特定不純物C及びDが低減されたテルミサルタンを得ることができ、医薬品として好適に使用することができる。
上記の操作を実施することにより、当該操作を実施しない場合(特許文献1に記載の方法)と比較して、テルミサルタンのアンモニウム塩が結晶化する速度がより速やかとなる。通常、結晶化による精製操作においては、結晶化速度がより緩やかな方が、結晶内への不純物の取り込みが少なく、精製効果が増大することが一般的である。しかしながらテルミサルタンのアンモニウム塩の結晶化においては驚くべきことにそのような効果は得られないことを見出した。むしろ、上述の通り、結晶化速度が速やかとなることで、特定不純物C及びDの含有量を低減できる。その理由は、明らかではないが、結晶化速度の増大に伴い、得られるテルミサルタンのアンモニウム塩が小粒子径化し、その結果、テルミサルタンのアンモニウム塩の結晶内に上記の特定不純物群を取り込み難くなったと推測される。さらに、特許文献1に記載の方法における効果である、特定不純物A及びBの低減効果についても、本発明の方法においても同等の効果が得られる。
【0010】
即ち、本発明は、テルミサルタンの粗体を、水と炭素数が2〜12のアルコールと酢酸エチルとの混合溶媒中、0〜30℃にて前記テルミサルタン1モルに対して2.0〜30.0モルのアンモニアを加えてアンモニウム塩化することにより溶解させる溶解工程、及び、前記溶解工程で得られた溶液から0〜30℃にて前記テルミサルタンのアンモニウム塩を析出させる結晶化工程を含むことを特徴とする前記テルミサルタンのアンモニウム塩の製造方法である。
【0011】
また、前記方法で製造されたテルミサルタンのアンモニウム塩と酢酸とを反応させて前記テルミサルタンのアンモニウム塩を中和することにより、前記テルミサルタンを析出させる結晶化工程を含むことを特徴とする前記テルミサルタンの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、テルミサルタンの粗体から、他の公知の精製方法によっては低減困難な特定不純物C及びDを低減することができる。そのため、低い回収率によって精製する、或いは、精製操作を繰り返すなどの過度な精製を要求されない。さらに、本発明により製造されたテルミサルタンのアンモニウム塩から誘導されたテルミサルタンは、特定不純物C及びDの含有量が少なく、医薬品として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、テルミサルタンの粗体を、水と炭素数が2〜12のアルコールと酢酸エチルとの混合溶媒中、0〜30℃にて前記テルミサルタン1モルに対して2.0〜30.0モルのアンモニアを加えてアンモニウム塩化することにより溶解させる溶解工程、及び、前記溶解工程で得られた溶液から0〜30℃にて前記テルミサルタンのアンモニウム塩を析出させる結晶化工程を含むことを特徴とする前記テルミサルタンのアンモニウム塩の製造方法である。
【0014】
<溶解工程>
(テルミサルタンの粗体)
本発明におけるテルミサルタンの粗体は、特定不純物C及びDを含むものであれば、その合成方法等に制限されることなく使用することができる。ただし、特定不純物C及びDの構造、及び、当該不純物群がテルミサルタンの粗体に含まれる経緯は明白ではないが、4−メチル−6(1−メチルベンズイミダゾール−2−イル)−2−n−プロピル−1H−ベンズイミダゾールを出発物質としてテルミサルタンを合成した場合に、テルミサルタンの粗体に特定不純物C及びDが含まれると推測される。つまり、原料の4−メチル−6(1−メチルベンズイミダゾール−2−イル)−2−n−プロピル−1H−ベンズイミダゾールに、特定不純物C及びDとなり得る化合物が含まれ、それらがテルミサルタンの粗体を合成する過程において低減されること無く、特定不純物C及びDとしてテルミサルタンの粗体に残存するものと考えられる。
【0015】
ゆえに、4−メチル−6(1−メチルベンズイミダゾール−2−イル)−2−n−プロピル−1H−ベンズイミダゾールに含まれる特定不純物C及びDとなり得る化合物の量などによって、テルミサルタンの粗体に含まれる特定不純物C及びDの量は変わり得る。一般的に市販される4−メチル−6(1−メチルベンズイミダゾール−2−イル)−2−n−プロピル−1H−ベンズイミダゾールを使用して、公知の製造方法、例えば、4−メチル−6(1−メチルベンズイミダゾール−2−イル)−2−n−プロピル−1H−ベンズイミダゾールと、4′−(ブロモメチル)ビフェニル−2−カルボン酸のアルキルエステルとを塩基を用いて縮合し、テルミサルタンのアルキルエステルを合成し、さらに、当該テルミサルタンのアルキルエステルを酸或いは塩基により加水分解することによってテルミサルタンの粗体を合成した場合、得られるテルミサルタンの粗体には、特定不純物C及びDがそれぞれ0.01〜2.00%含まれることが分かった。この範囲の特定不純物C及びDを含むテルミサルタンの粗体が、本発明における精製対象物として好適に使用できる。
【0016】
特定不純物C及びDは、その構造は明らかではないが、下記の実施例で詳細に説明する高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の測定において、4−メチル−6(1−メチルベンズイミダゾール−2−イル)−2−n−プロピル−1H−ベンズイミダゾール、テルミサルタン(アンモニウム塩を含む)、並びに特定不純物A及びBとは明らかに区別できる(異なる保持時間でピークが確認できる)。そして、下記条件の液体クロマトグラフ質量分析(LC−MS)において、特定不純物Cの分子量は1212、特定不純物Dの分子量は1212であり、分子量が同じであるため、特定不純物C及びDは構造異性体であると推測される。ちなみに、同条件で測定した特定不純物A及びBの分子量はどちらも1413であり、同様に構造異性体と推測される。
【0017】
(LC−MSの測定条件)
装置:液体クロマトグラフ装置及び質量分析計(Waters Corporation製)
検出器:紫外吸光光度計(Waters Corporation製)
測定波長:230nm
カラム:内径4.0mm、長さ12.5cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルが充填されたもの。
移動相a:ギ酸アンモニウム0.63gを水1000mLに添加し溶解させた後、水で希釈したギ酸を加えて、pH3.0に調整した混合液。
移動相b:アセトニトリル800mLに、メタノール200mLを加えた混合液。
移動相の送液:移動相A及びBの混合比を表1のように変えて濃度勾配制御する。
【0018】
【表1】
【0019】
流量:毎分0.8mL。
カラム温度:35℃付近の一定温度。
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化法(ESI)。
検出モード:正イオンモード。
【0020】
(溶媒)
本発明における混合溶媒は、水と炭素数が2〜12のアルコールと酢酸エチルから構成される。上記の水は、特に制限なく、水道水、イオン交換水、純水又は超純水な等が使用できるが、テルミサルタンを医薬品用途として使用する場合、イオン交換水、純粋、及び、超純水を使用することが好ましい。また、その使用量は、テルミサルタンの粗体1gに対し、0.5〜50mLである。これらの範囲において、テルミサルタンのアンモニウム塩を十分に溶解、結晶化させることができるが、中でも、操作性や回収率を考慮すると、1〜45mLがより好ましく、2〜40mLが最も好ましい。
【0021】
上記アルコールは、炭素数が2〜12のアルコールであり、具体的には、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、t−ブタノール、プロパルギルアルコール、アリルアルコールなどが挙げられる。これらのアルコールは単独で使用してもよく、二つ以上組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、テルミサルタンアンモニウム塩の溶解度が高い点、毒性が低い点、比較的沸点が低く、除去が容易である点から、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール等の炭素数2〜3のアルコールが好適に使用できる。中でも、エタノールは、テルミサルタンのアンモニウム塩に対する溶解度が高く、使用する溶媒の量を低減でき、さらに、特定不純物C及びDの低減効果が特に高いという理由のため、本発明において最も好適に使用できる。また、その使用量は、テルミサルタンの粗体1gに対し、0.1〜20mLである。これらの範囲であれば、上記の水と同様に、テルミサルタンのアンモニウム塩を十分に溶解、結晶化させることができる。これらの中でも、操作性や回収率を考慮すると、0.3〜17.5mLがより好ましく、0.5〜15mLが最も好ましい。
【0022】
上記の酢酸エチルは、試薬や工業グレードなど、特に制限されることなく使用することができ、その使用量は、テルミサルタンの粗体1gに対して、0.5〜50mLである。これらの中でも、操作性や回収率を考慮すると、テルミサルタン1グラムに対して、1〜45mLがより好ましく、2〜40mLが最も好ましい。
【0023】
なお、上記混合溶媒における、水、アルコール、酢酸エチルの混合比率は、上記の各溶媒の使用量の範囲を満たし、且つ、混合溶媒を100質量%としたときに、アルコールを2.5質量%以上、水及び酢酸エチルを15質量%以上含む必要がある。これらの中でも操作性や回収率を考慮すると、アルコールは2.5〜20質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましく、水及び酢酸エチルはそれぞれ20〜75質量%が好ましく、30〜65質量%がより好ましい。
【0024】
(アンモニア)
本発明におけるアンモニアの使用量は、テルミサルタン1モルに対して、2.0〜30.0モルである。アンモニアの量が2.0モル未満の場合には、溶解工程及び結晶化工程で温度を調整したとしても、特定不純物A、B、C、及びDを高度に低減できないため、好ましくない。一方、アンモニアの量が30.0モルを超える場合には、回収率が低下するため、好ましくない。アンモニアの量が2.0モル以上であれば、テルミサルタンの全量を溶解させることができ、その結果、特定不純物C及びDの低減効果を十分に得ることができる。一方、30.0モル以下であれば、テルミサルタンアンモニウム塩を十分に高い回収率で得ることができる。これらの範囲の中でも、テルミサルタンアンモニウム塩の回収率を考慮すると、2.0〜20.0モルが好ましく、2.0〜15.0モルがさらに好ましい。
【0025】
なお、上記のアンモニア量は、テルミサルタンの粗体の純分に対して算出する。ここで、テルミサルタンの粗体の純度は、後述する高速液体クロマトグラフィーにより測定された純度から算出することができる。
【0026】
また、アンモニアは気体で使用することもできるが、通常は溶液の形態として使用することが取り扱いやすく好ましい。当該溶液における溶媒の種類は、水、炭素数が2〜12のアルコール、或いは酢酸エチルであり、その濃度は上記のアンモニアの使用量及び溶媒量の範囲であれば特に制限されるものではない。
【0027】
(溶解条件)
本発明において、上記のテルミサルタンの粗体を、混合溶媒中、0〜30℃にてアンモニアを加えてアンモニウム塩化することにより溶解させる。当該溶解操作は、ガラス製容器、ステンレス製容器、テフロン(登録商標)製容器、グラスライニング容器等の容器にて実施し、さらに、メカニカルスターラー、マグネティックスターラー等を用いて撹拌下で実施することが、溶解に要する時間が短縮されることから好ましい。また、アンモニアや溶媒が揮発することを抑制する目的から、還流冷却管等を取り付けることも好ましい。
【0028】
当該溶解操作を実施する温度は、0〜30℃である。これらの温度範囲であれば、容易にテルミサルタンを溶解することができる。当該温度は、特定不純物C及びDの低減効果に影響するものではないが、溶媒の種類、使用量、及び混合比率等によっては、テルミサルタンの粗体が完全に溶解する前に、テルミサルタンのアンモニウム塩が過飽和の状態となり、その一部が析出する場合があり、特定不純物C及びDの低減効果を確実に得るためには、溶解操作における温度を0〜30℃とする必要がある。
【0029】
なお、テルミサルタンを溶解させる時間は、アンモニアの量、溶媒の種類、使用量、及び混合比率等により異なるため、一概に規定することはできないが、通常、0.01〜2時間で十分である。
【0030】
<結晶化工程>
(結晶化条件)
本発明において、上記の溶解工程で得られた溶液から0〜30℃にてテルミサルタンのアンモニウム塩を析出させ、テルミサルタンのアンモニウム塩を製造する。
【0031】
当該溶液において、テルミサルタンのアンモニウム塩は過飽和状態であり、特別な操作を必要とせず、時間の経過に伴い、テルミサルタンのアンモニウム塩が析出する。しかしながら、当該結晶化操作は撹拌下にて実施することが好ましい。撹拌下で実施することにより、テルミサルタンのアンモニウム塩の核発生が促進され、結晶化の開始までに要する時間が短縮される。さらに、析出したテルミサルタンのアンモニウム塩が、溶媒中に分散したスラリーを形成することができることから、続く固液分離における操作性が良好となる。
【0032】
さらに、核発生を促進し結晶化時間を短縮する方法として、上記の溶液にテルミサルタンのアンモニウム塩を種晶として添加する方法が挙げられる。テルミサルタンの粗体1グラムに対して、0.1〜10ミリグラムの種晶を使用すれば、十分に核発生を促進する効果を得ることができる。なお、当該種晶は、水、2〜12のアルコール、或いは、酢酸エチルであれば、これらを含んだもの、すなわち湿体状態のものを使用してもよく、その場合、上記使用量は、湿体中のテルミサルタンのアンモニウム塩の純分を考慮して算出する。
【0033】
また、当該種晶は、析出するテルミサルタンのアンモニウム塩に対して少量であることから、その純度は特に制限されないが、析出したテルミサルタンのアンモニウム塩をより高純度とするために、その純度は90%以上であることが好ましい。中でも、本発明により製造されたテルミサルタンのアンモニウム塩を種晶として使用することがより好ましい。
【0034】
当該結晶化操作を実施する温度は、0〜30℃であり、本発明において、最も重要な要件である。この温度範囲で実施することにより、種晶の使用量や撹拌条件などに関わらず、30℃よりも高い温度で実施する場合と比較して、テルミサルタンのアンモニウム塩の析出速度が速く、析出したテルミサルタンのアンモニウム塩が小粒子径化する。その結果、テルミサルタンのアンモニウム塩の粒子内への特定不純物C及びDの取り込みを抑制することができる。また、0℃未満の温度で実施する場合と比較して、固液分離における操作性も好ましく、当該操作における母液の結晶への残留による特定不純物C及びDの低減効果が低下することもない。上記の範囲の中でも、特定不純物の低減効果を考慮すると、0〜25℃が好ましく、0〜20℃がより好ましく、5〜20℃が最も好ましい。
【0035】
なお、当該結晶化操作を実施する時間は、使用する溶媒の種類や量、結晶化時の温度などにより変わるため、一概に規定することはできないが、通常、0.1〜50時間である。上述の通り、種晶の添加により、結晶化に要する時間は短縮され、0.1〜20時間でテルミサルタンのアンモニウム塩が十分に析出する。
【0036】
以上のようにして析出させたテルミサルタンのアンモニウム塩は、減圧濾過や加圧濾過、遠心分離などにより固液分離し、水、アルコール、酢酸エチル、或いはそれらの混合溶媒により結晶を洗浄し母液を十分に取り除くことにより、その湿体が単離される。なお、洗浄に使用する溶媒の量は、テルミサルタンの粗体に対して、0.1〜5mLであることが、洗浄効果が十分に得られること、テルミサルタンのアンモニウム塩の回収率が高いことから好ましい。
【0037】
当該テルミサルタンアンモニウム塩の湿体は、常圧下、減圧下、或いは、窒素やアルゴンなどの不活性ガスの通気下において乾燥させることにより、テルミサルタンのアンモニウム塩を得ることができる。乾燥を実施する温度は、−80℃以上35℃未満であり、その時間は水などの溶媒の残留量を確認しながら適宜決定すれば良いが、通常、0.1〜50時間である。
【0038】
このようにして得られたテルミサルタンのアンモニウム塩は、特定不純物C及びDが大幅に低減された高純度のテルミサルタンのアンモニウム塩である。当該テルミサルタンのアンモニウム塩は、酢酸と反応させることにより中和し、テルミサルタンとすることができる。その方法は特に制限されるものではないが、具体的な方法として、上記のテルミサルタンのアンモニウム塩と溶媒とを混合し、テルミサルタンのアンモニウム塩の溶液を得た後、当該溶液を活性炭処理する。続いて、70〜80℃に加熱して酢酸を加え中和し、70〜80℃で攪拌した後、得られた反応液を0〜10℃まで冷却して攪拌し、析出したテルミサルタンを濾過により分取し、溶媒で洗浄する方法が挙げられる。ただし、当該方法において、活性炭処理は省略しても良いし、各段階における反応液の温度や時間は、使用する溶媒の種類や量などによって適宜決定すれば良い。好適な条件を例示すれば、テルミサルタンの塩基塩の溶液を得る際の温度は、反応速度の点から20〜80℃とすることが好ましく、テルミサルタンを析出させる際は、テルミサルタンの回収率の点から0〜30℃とすることが好ましい。
【0039】
上記方法における溶媒は、テルミサルタンのアンモニウム塩が溶解するものであればよく、具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの炭素数が1〜3のアルコール類、酢酸エチル、アセトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これらは単独で使用しても良く、二つ以上を組み合わせて使用しても良く、これらと水を混合したものを使用しても良い。なお、その使用量も、テルミサルタンのアンモニウム塩が溶解する量を使用すれば良い。
【0040】
上記方法で得られたテルミサルタンの湿体は、70〜90℃で1〜90時間乾燥すれば、溶媒などを含まない、純粋なテルミサルタンとすることができる。当該乾燥操作は、常圧下、減圧下、或いは、窒素やアルゴンなどの不活性ガスの通気下において実施することができる。
【0041】
このようにして得られたテルミサルタンは、他の精製方法によっては除去困難な特定不純物C及びDが低減された、高純度のテルミサルタンであり、医薬品として好適に使用することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何等制限されることはない。
【0043】
なお、実施例、比較例のテルミサルタンのアンモニウム塩及びテルミサルタンの純度並びに、それらに含まれる特定不純物の量の測定は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定した。HPLC測定に使用した装置、測定の条件は、下記のとおりである。
【0044】
(HPLC分析)
当該条件によるHPLC分析では、テルミサルタンのアンモニウム塩及びテルミサルタンの保持時間は10.6分付近である。以下の実施例、比較例において、テルミサルタンのアンモニウム塩及びテルミサルタンの純度は、下記条件で測定される全ピーク(溶媒由来のピークを除く)の面積値の合計に対するテルミサルタンのアンモニウム塩及びテルミサルタンのピーク面積値の割合である。
【0045】
一方、各特定不純物の保持時間は、特定不純物Aが19.1分付近、特定不純物Bが19.4分付近、特定不純物Cが16.2分付近、特定不純物Dが16.4分付近である。以下の実施例、比較例において、各特定不純物の量は、下記条件で測定される全ピーク(溶媒由来のピークを除く)の面積値の合計に対する各特定不純物のピーク面積値の割合である。また、当該評価における検出限界は0.003%未満であった。
装置:液体クロマトグラフ装置(Waters Corporation製)
検出器:紫外吸光光度計(Waters Corporation製)
測定波長:230nm
カラム:内径4.0mm、長さ12.5cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルが充填されたもの。
移動相i:りん酸二水素カリウム2.0g及び1−ペンタンスルホン酸ナトリウム3.4gを水1000mLに添加し溶解させた後、水で希釈したりん酸を加えて、pH3.0に調整した混合液。
移動相ii:アセトニトリル800mLに、メタノール200mLを加えた混合液。
移動相の送液:移動相A及びBの混合比を表2のように変えて濃度勾配制御する。
流量:毎分1.0mL
カラム温度:40℃付近の一定温度
測定時間:35分
【0046】
【表2】
【0047】
製造例1(テルミサルタンの粗体の製造)
攪拌翼、温度計を取り付けた200mLの三つ口フラスコに、4−メチル−6(1−メチルベンズイミダゾール−2−イル)−2−n−プロピル−1H−ベンズイミダゾール10.0g(32.9mmol)、2−プロパノール30mL、及びジメチルスルホキシド10mLを加え攪拌した。次いで、カリウムターシャリーブトキシド4.1g(36.1mmol)を加えた後、加温し45℃で1時間撹拌した。得られた白色スラリーを30℃付近に冷却した後、4′−(ブロモメチル)ビフェニル−2−カルボン酸メチルエステル11.0g(36.0mmol)を加え、30℃付近で6時間反応させた。反応終了後、水50mLを加え、25℃付近で1時間撹拌した後、減圧濾過により析出した結晶を濾別し、水10mLとアセトン10mLにより、濾別した結晶を洗浄した。得られた白色結晶を60℃で15時間、減圧下乾燥し、白色結晶としてメチル 4′−[[2−n−プロピル−4−メチル−6−(1−メチルベンズイミダゾール−2−イル)−ベンズイミダゾール−1−イル]−メチル]−ビフェニル−2−カルボキシレート16.5g(31.2mmol)を得た(収率94.8%)。
【0048】
攪拌翼、温度計を取り付けた200mLの三つ口フラスコに、メチル 4′−[[2−n−プロピル−4−メチル−6−(1−メチルベンズイミダゾール−2−イル)−ベンズイミダゾール−1−イル]−メチル]−ビフェニル−2−カルボキシレート15.0g(28.4mmol)、及びメタノール30mLを加え攪拌した。次いで、得られた白色スラリーに、水酸化ナトリウム2.24g(56.1mmol)と水15mLから調製した水酸化ナトリウム水溶液を、水浴中、内温が25℃付近となるように、少しずつ滴下した。
【0049】
全量滴下後、加温し80℃で3時間反応させた。反応終了後、25℃付近まで冷却し、メタノール80mLを加えた。続いて希塩酸10.2g(56.1mmol)を、内温が25℃付近となるように加えたところ、pH7となった時点で結晶が析出した。さらに、イオン交換水75mLを加え10分間攪拌した後、減圧濾過により析出した結晶を濾別し、メタノール10mLと水5mLから調製した混合液により、濾別した結晶を2回洗浄した。得られた薄い褐色結晶を60℃で15時間、減圧下乾燥し、薄い褐色結晶としてテルミサルタンの粗体13.9g(27.0mmol)を得た。(収率95.1%、HPLC純度99.55%、特定不純物A:0.10%、特定不純物B:0.07%、特定不純物C:0.09%、特定不純物D:0.07%)。
【0050】
実施例1
攪拌翼、温度計を取り付けた200mLの三つ口フラスコに、製造例1で得られたテルミサルタンの粗体10.0g(19.4mmol)、エタノール10mL、水50mL、及び酢酸エチル50mLを加え攪拌した。得られた白色スラリーに、25%アンモニア水5.9g(87.3mmol)を25℃で加え、5分間攪拌したところ、テルミサルタンの粗体が全量溶解した。次いで、得られた溶液に、テルミサルタンのアンモニウム塩0.01gを加え攪拌を継続したところ、白色結晶が析出した。さらに、25℃付近で3時間攪拌した後、減圧濾過により析出した結晶を濾別し、水20mL、酢酸エチル20mLにより、濾別した結晶を洗浄した。得られた白色結晶を30℃で25時間減圧下乾燥し、白色結晶としてテルミサルタンのアンモニウム塩9.8g(18.5mmol)を得た(収率95.1%、HPLC純度99.94%、特定不純物A:検出限界以下、特定不純物B:検出限界以下、特定不純物C:0.03%、特定不純物D:0.02%)。条件を表3、得られたテルミサルタンのアンモニウム塩の結果を表4に示した。
【0051】
実施例2〜10
溶解条件、各溶媒の使用量、及び、結晶化条件を変更した以外は、実施例1と同様にして実施した。条件を表3、得られたテルミサルタンのアンモニウム塩の結果を表4に示した。
【0052】
実施例11
攪拌翼、温度計を取り付けた200mLの三つ口フラスコに、実施例1で得られたテルミサルタンのアンモニウム塩8.0g(15.1mmol)、メタノール100mLを加え攪拌した。得られた溶液に、活性炭0.40gを25℃で加え、30分間攪拌した。減圧濾過により活性炭を除去した後、得られた溶液に、酢酸5.4g(90.6mmol)とメタノール20mLとの混合物を少しずつ添加したところ、白色結晶が析出した。酢酸とメタノールとの混合物を2時間で全量滴下した後、5℃付近まで冷却し、5℃付近で1時間攪拌した。続いて、減圧濾過により析出した結晶を濾別し、メタノール20mLにより、濾別した結晶を2回洗浄した。得られた白色結晶を80℃で25時間減圧下乾燥し、白色結晶としてテルミサルタン7.2g(14.0mmol)を得た(収率93.0%、HPLC純度99.95%、特定不純物A:検出限界以下、特定不純物B:検出限界以下、特定不純物C:0.03%、特定不純物D:0.02%)。
【0053】
比較例1(中和)
攪拌翼、温度計を取り付けた200mLの三つ口フラスコに、製造例1で得られたテルミサルタンの粗体10.0g(19.4mmol)、メタノール120mL、アンモニア0.50g(29.1mmol)を含むアンモニア水2.0gを加え攪拌した。得られた溶液に、活性炭0.50gを25℃で加え、30分間攪拌した。減圧濾過により活性炭を除去した後、得られた溶液に、酢酸6.8g(113.3mmol)とメタノール20mLとの混合物を少しずつ添加したところ、白色結晶が析出した。酢酸とメタノールとの混合物を全量滴下した後、5℃付近まで冷却し、5℃付近で1時間攪拌した。続いて、減圧濾過により析出した結晶を濾別し、メタノール20mLにより、濾別した結晶を2回洗浄した。得られた白色結晶を80℃で25時間減圧下乾燥し、白色結晶としてテルミサルタン9.2g(17.9mmol)を得た(収率92.2%、HPLC純度99.68%、特定不純物A:0.07%、特定不純物B:0.06%、特定不純物C:0.08%、特定不純物D:0.07%)。
【0054】
比較例2(再結晶)
攪拌翼、温度計を取り付けた200mLの三つ口フラスコに、製造例1で得られたテルミサルタンの粗体10.0g(19.4mmol)とN,N‘−ジメチルホルムアミド100mLを加え、80℃付近まで加温した。80℃付近で15分間攪拌したところ、テルミルタンが全て溶解した。得られた溶液を5℃付近まで徐々に冷却し、5℃付近で2時間攪拌したところ、白色結晶が析出した。続いて、減圧濾過により析出した結晶を濾別し、N,N’−ジメチルホルムアミド5mLにより、濾別した白色結晶を2回洗浄した。得られた白色結晶を90℃で25時間減圧下乾燥し、白色結晶としてテルミサルタン7.2g(14.0mmol)を得た(収率72.0%、HPLC純度99.74%、特定不純物A:0.06%、特定不純物B:0.05%、特定不純物C:0.07%、特定不純物D:0.06%)。
【0055】
比較例3
攪拌翼、温度計を取り付けた200mLの三つ口フラスコに、製造例1で得られたテルミサルタンの粗体10.0g(19.4mmol)、エタノール10mL、及び水50mLを加え攪拌した。得られた白色スラリーに、25%アンモニア水5.9g(87.3mmol)を25℃で加え、15分間攪拌したところ、テルミサルタンの粗体が全量溶解した。次いで、得られた溶液に酢酸エチル50mL及びテルミサルタンのアンモニウム塩0.01gを加え攪拌を継続したところ、白色結晶が析出した。さらに、25℃付近で3時間攪拌した後、減圧濾過により析出した結晶を濾別し、水20mL、酢酸エチル20mLにより、濾別した結晶を洗浄した。得られた白色結晶を30℃で25時間減圧下乾燥し、白色結晶としてテルミサルタンのアンモニウム塩9.8g(18.5mmol)を得た(収率95.1%、HPLC純度99.82%、特定不純物A:検出限界以下、特定不純物B:検出限界以下、特定不純物C:0.09%、特定不純物D:0.07%)。
【0056】
比較例4〜8
溶解条件、各溶媒の使用量、及び、結晶化条件を変更した以外は、実施例1と同様にして実施した。条件を表3、得られたテルミサルタンのアンモニウム塩の結果を表4に示した。
【0057】
【表3】
【0058】
【表4】