【実施例】
【0052】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は下記実施例等に何ら制約されるものではない。
【0053】
実施例1:ヒト由来MAIT細胞からのiPS細胞の樹立
ヒト臍帯血よりフィコールを用いて単核球細胞を調製した。この単核球細胞に、MAIT細胞のTCR(Vα7.2)を特異的に認識するモノクローナル抗体3C10(仏・キュリー研のOlivier Lantz博士の恵与、又はBiolegend社)をビオチン標識したものを混和させ、アビジン磁気ビーズを利用したMACSカラム(Miltenyi Biotech社製)を用いて3C10抗体に反応性を有する細胞をポジティブ選択することにより、MAIT細胞を濃縮した。この操作を、異なる3名のドナー由来の臍帯血を用いて行った結果、FACS解析により3C10陽性細胞として規定されるMAIT細胞は、それぞれ96%、88%、78%の純度であった。
【0054】
この様にして精製した20万個の3C10陽性細胞に、ヒトiPS細胞作製用ベクターであるSeVdp(KOSM)302L(産業総合研究所の中西真人博士からの恵与)を室温で2時間感染させた(MOI=2.5)。当該ベクターは、ヒト由来の4遺伝子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c−Mycをコードする核酸)を同一ベクター内に搭載しているセンダイウイルスベクターであり、効率的なiPS細胞作製能を有する(WO2010/134526)。ウイルスベクターを含む溶液を遠心操作により除去し、20%Knockout Serum Replacement(KSR;Invitrogen社)、0.1mmol/L MEM非必須アミノ酸液、2mmol/L L−グルタミン、及び0.1mmol/L 2−メルカプトエタノールを含むDMEM/F12培地(Sigma社)に4ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF:basic fibroblast growth factor、Reprotech社)を添加したES/iPS細胞専用培地に懸濁して、マイトマイシンCで処理したマウス胚性線維芽細胞(MEF)上へ播種し、37℃、5%CO
2濃度下で共培養を行った。12日後、ES/iPS様の形態を呈するコロニーを回収し、24ウェルプレートに播種したMEFの上に蒔き直した。ES/iPS細胞専用培地で培養した後、成長したコロニーを形態的に判断し、ES/iPS細胞様の形態をとるコロニーを選抜した。
【0055】
この様にして得られたiPS細胞がヒトMAIT細胞由来であることを確認するため、ゲノムDNAを鋳型として、T細胞抗原受容体α鎖(TCRα)遺伝子座がMAIT細胞特異的な遺伝子再構成を起こしているかどうかを調べた。ここで、
図1に示すように、MAIT細胞に特異的なTCRα鎖遺伝子を有する細胞では、TCRα領域をコードする遺伝子の一方がVα7.2−Jα33に再構成することが知られている。そこで、下記に示すプライマーを用いて、各iPS細胞クローンのゲノムDNAを鋳型としてPCRを行ない、再構成の有無を確認した。Vα7.2−Jα33が遺伝子再構成しているTCRα鎖を有している場合、下記プライマーを用いたゲノムPCRにより282bpのバンドが増幅され、当該PCR産物は制限酵素SacIで消化すると191+91bpのDNA断片を生じる。一方、Vα7.2−Jα33に再構成していない場合、282bpのバンドは増幅されない。
【0056】
以上のようにして確認した結果、3名のドナー由来細胞から、独立した3回の実験を実施することにより、ヒトMAIT細胞に由来するiPS細胞(MAIT−iPS細胞)を50株以上樹立することができた。
【0057】
実施例2:MAIT−iPS細胞の特性解析
実施例1で個別に樹立・単離されたMAIT−iPS細胞株である1−3D、2−5D、4−6Dは、MEFフィーダー上で単層かつ扁平で明確な輪郭のコロニーを呈し、一般的なヒトES/iPS細胞ときわめて良く似た形態を示した(
図2A)。
【0058】
また、この様に継代維持したMAIT−iPS細胞を用い、ヒトES/iPS細胞に特異的なマーカーの発現を調べた。固定したMAIT−iPS細胞に対し、1次抗体として抗アルカリフォスファターゼ(ALP)抗体、抗SSEA4抗体、抗Oct−3/4抗体、抗Nanog抗体(以上、R&D System社)、抗TRA−1−60抗体(BD Bioscience社)、又は抗TRA−1−81抗体(Santa Cruz社)と反応させた後、ローダミン標識2次抗体(Jackson ImmunoResearch社)を用いて染色した。細胞核は4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI:4’,6−diamidino−2−phenylindole)溶液(1μg/mL)で染色した。これらの抗体や色素による染色像を蛍光顕微鏡下にて観察した。その結果、MAIT−iPS細胞はアルカリフォスファターゼ、SSEA4、Oct−3/4、Nanog、TRA−1−60、TRA−1−81の全てについて強陽性を示した(
図2B)。
【0059】
同様にMAIT−iPS細胞のRNAを調製し、未分化なヒトiPS細胞特異的な遺伝子であるOct−3/4およびNanogの発現を確認した。MAIT−iPS細胞やヒトiPS細胞から調製した全RNAを用いてcDNAを合成し、これを鋳型として以下のプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction:PCR)を行ない、各種遺伝子断片の増幅を行なった。
Oct−3/4〔増幅サイズ:144bp〕
Nanog〔増幅サイズ:391bp〕
GAPDH(グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ)〔増幅サイズ:382bp〕
【0060】
PCR産物を1.5%アガロースゲルで電気泳動し、エチジウムブロマイド(Merck社)で染色した後、ゲル撮影装置(ATTO社)を用いて検出した。その結果、個別に樹立・単離されたMAIT−iPS細胞株である1−3D、2−5D、4−6D、A11、A13、C4B、C5Bの各細胞株において、ヒトiPS細胞と同様にOct−3/4ならびにNanog遺伝子の強い発現が認められた(
図3)。
【0061】
より網羅的にMAIT−iPS細胞株の遺伝子発現状況を検討するために、DNAマイクロアレイ(Agilent社)解析を行い、MAIT−iPS細胞とヒトiPS/ES細胞における遺伝子発現プロファイルの相関を調べた。その結果を表1に示す。表1から明らかなように、MAIT−iPS細胞はヒトES細胞あるいはヒトiPS細胞ときわめて良く似た遺伝子発現パターン(全ての比較において相関係数が0.95以上)を呈し、一方、作出の起源細胞となったヒト臍帯血由来MAIT細胞とは異なっていた。また、MAIT−iPS細胞では、一般的なヒトES/iPS細胞と同様、Oct−3/4遺伝子やNanog遺伝子プロモーター領域の脱メチル化や、高いテロメレース活性も確認でき、数十代以上、未分化形質を維持したまま継代培養することが可能である。
【0062】
以上の結果より、MAIT細胞から樹立したiPS細胞株(MAIT−iPS細胞株)が一般的なiPS細胞様の特性・機能を有していることが示される。
【0063】
【表1】
【0064】
なお、以下の実験には、上記と同様、MAIT−iPS細胞として1−3D株、2−5D株、4−6D株等の複数の細胞株を用いたが、総じて細胞株の違いによる実験結果の相違はみられなかった。そのため、以下の実施例では、特に断りがない場合、1−3D株を用いた実施例データを示す。
【0065】
引き続き、MAIT−iPS細胞の分化能を検討した。MEF上で未分化な形質を保ちながら継代培養したMAIT−iPS細胞を細胞解離液(0.25% トリプシン、1mg/mlコラゲナーゼIVを含む)で処理して小塊にし、bFGFを含まないES/iPS細胞専用培地で懸濁した後、低接着性プレートに播種した。8日後に細胞凝集塊を回収し、それらをゼラチンで前処理した細胞接着性プレートに播種し、16日後に固定した。固定した細胞は1次抗体として抗筋性アクチン抗体(Nichirei Bioscience社)や抗Sox−17抗体(R&D System社)、抗ネスチン抗体(Sigma社)と反応させた後、上記の方法と同様に染色ならびに蛍光顕微鏡観察を行った。その結果、MAIT−iPS細胞を分化誘導したものから、本条件下において筋性アクチン陽性の中胚葉細胞やSox−17陽性の内胚葉性細胞、ネスチン陽性の外胚葉性細胞の出現が確認できた。
【0066】
また、8×10
6〜10×10
6個のMAIT−iPS細胞をNOD/scidマウス(Charles River社)の皮下に移植したところ、10〜14週後に奇形腫(teratoma)の形成が見られた。各腫瘍のパラフィン包埋標本から組織切片を作製し、1次抗体として抗汎サイトケラチン抗体(DAKO社)又は抗デスミン抗体(DAKO社)と反応させた後、ビオチン標識2次抗体(DAKO社)と反応させ、最後にジアミノベンチジンを用いた呈色反応を行った。ヘマトキシリン液で染色後、光学顕微鏡下にて観察を行ったところ、MAIT−iPS細胞由来腫瘍内には、メラニン陽性細胞を含む神経管様構造やサイトケラチン陽性細胞で構成される腸管様構造、さらにはデスミン陽性の筋細胞様組織の存在が認められた(
図4)。
【0067】
以上の結果より、MAIT−iPS細胞は一般的なヒトES/iPS細胞と同様、未分化状態特異的なマーカー遺伝子ならびに蛋白を発現し、三胚葉への分化多能性を有した細胞であることが確認できた。
【0068】
実施例3:MAIT−iPS細胞からのMAIT細胞作製
ES細胞等の幹細胞は、OP9細胞をフィーダー細胞とした共培養により、CD34陽性の血球/リンパ球前駆細胞に分化誘導することができ、さらにNotchリガンドであるDLL1を強制発現したOP9細胞(OP9/DLL1)と共培養することにより、T細胞系列の細胞に分化誘導させることができることが知られている(Schmitt TM et al.,Nat.Immun.5,410−417(2004);Wakao H et al.,FASEB J.22,2223−2231(2008);Wakao H et al.,WO2008/038579;Watarai H et al.,J.Clin.Invest.120,2610−2618(2010);WO2010/027094;Timmermans F et al.,J.Immunol.182,6879−6888(2011))。
【0069】
本実施例では、当該方法に基き、MAIT−iPS細胞からMAIT細胞への分化誘導を試みた。
【0070】
OP9細胞及びOP9/DLL1細胞は、理化学研究所バイオリソースセンター(Riken Cell Bank)より購入したものを使用した。まず、コンフルエントにして3〜7日後のOP9細胞上に、MAIT−iPS細胞のコロニーを100個程度の小塊に分散したものを、10cmディッシュ辺り1×10
6個播種し、10%牛胎児血清(FBS)および0.1mM 1−thioglycerolを含むαMEM培地中で培養し、血球及びリンパ球系の幹・前駆細胞に分化誘導した。播種後11〜12日目にコロニー状に形成された細胞集塊をリン酸緩衝液(PBS)で2回洗浄後、1mg/mLのcollagenase IV(Invitrogen社)を含むαMEM培地および0.01%トリプシン/EDTA(Sigma社)を加えてよく攪拌し、単一細胞に分散させた。この細胞集団をCD34 MultiSort Kit(Miltenyi社)を用いてCD34陽性細胞分画(純度95%以上)を調製・回収した後、20%FBS、ヒトSCF(stem cell factor)、ヒト・インターロイキン7(IL−7)、ヒトFlt3リガンド(FL)(全てReprotech社、各5ng/mL)を含むαMEM培地(以下、MAIT細胞分化誘導培地)に懸濁し、事前に24穴細胞培養プレートに播種し、コンフルエントにして3〜7日後のOP9/DLL1細胞上に播種した。MAIT細胞分化誘導培地を4日ごとに半量ずつ交換し、培養を14〜30日間継続した後、細胞をピペッティング操作によりフィーダー細胞から分離させ、回収した。
【0071】
この様にしてMAIT−iPS細胞から分化させた細胞の形質を、フローサイトメトリー(flow cytometry:FCM)法で、抗TCR Vα7.2抗体(3C10)、抗TCRαβ抗体(IP26;Biolegend社)、抗CD161抗体(DX12;BD Bioscience社)及び抗IL−18Rα抗体(H44;Biolegend社)に対する反応性を指標に検討した。その結果を
図5に示す。
【0072】
まず、上記の方法により調製したMAIT−iPS細胞に由来する分化細胞(OP9/DLL1細胞に播種して30日目)を、上記4種の抗体で染色したところ、そのほとんど全ての細胞がTCR Vα7.2
+/TCRαβ
+となった(以下、TCR Vα7.2
+を3C10抗原陽性:3C10
+と記載する)。また、この共陽性画分の細胞は、同時にそのほとんど全てがCD161
+およびIL−18Rα
+であり、MAIT−iPS細胞からMAIT様細胞を分化誘導できることが示された。
【0073】
このMAIT様細胞は本方法により再現性良く、また高率で作製することができ、複数回の検討において3C10
+/TCRαβ
+/CD161
+/IL−18Rα
+で規定されるMAIT様細胞は、常に全体の85%以上を占めることが確認できた。
【0074】
以下、本方法によりMAIT−iPS細胞から分化誘導されたMAIT様細胞をiMAIT細胞と称する。
【0075】
実施例4:iMAIT細胞の特性解析
Lantzらの一連の報告(Dusseaux et al.,2011)によると、生体内、特に末梢血に存在するMAIT細胞は、TCR Vα7.2、CD161、IL−18Rα以外にCD26(DPP−IV)やCD27、CD28、CD62L(L−selectin)、CD95(Fas)、CD127(IL−7Rα)、CD244(SLAMF4)といった細胞表面マーカーが陽性であることが知られている。そこで上述の方法に基づき、iMAIT細胞における、これらマーカーに特異的な抗体に対する反応性を調べた。
【0076】
陽性対照として、ヒト末梢血単核球細胞(Cellular Technology社)より上記の方法と同様に3C10
+/TCRαβ
+/CD161
+画分細胞を調製し、当該細胞をヒト末梢血由来MAIT細胞(以下、PBMC−MAIT細胞)として用いた。
【0077】
【表2】
【0078】
表2に結果を示す。PBMC−MAIT細胞では、既報の通り、CD26やCD27、CD28、CD62L、CD95、CD127、CD244の発現が認められた。iMAIT細胞においても、発現に若干の強弱があるものの、これら全てのマーカーの発現を確認することができた(
図6、表2)。
【0079】
また、PBMC−MAIT細胞はCCR5やCCR6といったケモカイン受容体を強く発現する一方、CCR7の発現が陰性であることが知られている(Dusseaux et al.,2011)。そこで、PBMC−MAIT細胞とiMAIT細胞における、これらケモカイン受容体の発現を上述の方法と同様に検討したところ、iMAIT細胞では、PBMC−MAIT細胞と同様、CCR5とCCR6の強い発現が認められた。一方、CCR7は弱いながらも発現が確認され、PBMC−MAIT細胞とは異なる特性を呈した(表2)。
【0080】
さらに、PBMC−MAIT細胞は一般的にエフェクターメモリー型T細胞のマーカーであるCD45ROの発現が陽性であり、ナイーブ型T細胞(抗原刺激を受ける前のT細胞)のマーカーとして知られるCD45RAの発現は陰性又はごく一部の細胞でのみ陽性であるが、iMAIT細胞ではCD45RAの発現が強く認められ、CD45RO陽性細胞はほとんど認められなかった(
図6、表2)。
【0081】
以上の結果より、iMAIT細胞はPBMC−MAIT細胞とほぼ同様の形質を呈することが強く示された一方、CD45RAやCCR7の発現で規定されるナイーブ型T細胞としての特性を保持しており、PBMC−MAITとは一部異なる形質を有していることが明らかになった。
【0082】
実施例5:iMAIT細胞のサイトカイン産生能確認
MAIT細胞の特徴として、CD3/TCRとCD28への共刺激シグナル(以下、CD3/CD28刺激)、又はホルボール12−ミリスタート13−アセテート(phorbol12−myristate 13−acetate:PMA)とイオノマイシン(Ionomycin)による刺激(以下、PMA/Iono刺激)によりインターフェロン(IFN)γ等のサイトカインを産生することが知られている(Dusseaux et al.,2011)。そこで、実施例2、3記載の方法に基づき作製したiMAIT細胞を、抗CD3抗体並びに抗CD28抗体でコートされた磁気ビーズ(Dynabeads Human T−Activator CD3/CD28;Invitrogen社)と混和培養してCD3/CD28刺激を48時間、行った。また、同様にiMAIT細胞培養系にPMA(10ng/mL;和光純薬社)とIonomycin(1μM;和光純薬社)を添加してPMA/Iono刺激を48時間行った。
【0083】
その後、培地上清を回収し、各種サイトカインの量をBioplex Pro−Human Cytokine 21−plex AssayおよびPro−Human Cytokine 27−plex Assayシステム(BioRad社)を用いて測定した。その結果、iMAIT細胞は未刺激状態ではIFNγを産生していなかったが、CD3/CD28刺激又はPMA/Iono刺激を与えたところ、著明に高いIFNγの産生が認められた(
図7)。また、その他のサイトカイン産生能も調べたところ、iMAIT細胞は未刺激状態ではIL−2、IL−17、TNF−αの産生がみられなかったが、PMA/Iono刺激により明らかな産生亢進効果が認められた。一方、IL−4やIL−10の産生はみられず、以上の結果はPBMC−MAIT細胞とよく似た傾向を示していた。
【0084】
また、MAIT細胞は、細菌を貪食させたモノサイトと共培養することにより、インターフェロン(IFN)γ等のサイトカインを産生することが知られている。そこで、同様の系を用いてiMAIT細胞のサイトカイン産生能を検討した。ヒト末梢血由来単核球細胞(1×10
6個/mL;Cellular Technology社)を細胞培養用96穴プレートに1×10
5個ずつ播種し、1時間放置した後、底面に付着性細胞として残る細胞(約1×10
4個)をモノサイトとして使用した。無血清・無添加のDMEM培地中の付着性細胞に対して大腸菌(Escherichia coli;多重感染度MOI=100)を3時間感染させた。その後、10%FBS及びペニシリン・ストレプトマイシンを加えたDMEMで洗浄・置換し、そこに実施例3、4と同様の方法で調製したiMAIT細胞を2×10
4個ずつ播種した。48時間共培養を行った後、培地の上清を回収し、各種サイトカインの量を測定した。その結果、当該共培養系においても、IFNγやIL−2、IL−17、TNF−αといったサイトカインの産生量増大が確認できた。
【0085】
実施例6:マウス体内におけるiMAIT細胞の定着と感染防御効果の検討
iMAIT細胞が動物体内で、通常のMAIT細胞と同様の挙動を取り得るかを確認するため、事前に320cGyの放射線照射を行った8〜10週齢のNOD/scidマウス(Charles River社)に、実施例3で作製したiMAIT細胞(5×10
4個/匹)を経静脈投与により注入移植した。6〜10週後に安楽的に屠殺した後、骨髄や肝臓、脾臓、小腸上皮や粘膜固有層を摘出した。次に、当該臓器よりリンパ球を回収し、実施例3と同様のFCM法を用いて、リンパ球中のiMAIT細胞、即ち3C10
+/TCRαβ
+細胞の存在を調べた。
【0086】
その結果、調べた全ての臓器においてiMAIT細胞の存在が確認され、特に小腸粘膜固有層に高率に集積していることが示された(
図8)。また、小腸粘膜固有層で検出されたiMAIT細胞数が、移入した細胞数の少なくとも100倍を超えている例が確認され、iMAIT細胞がマウス体内環境下で増殖していることが示唆された。
【0087】
MAIT細胞は、結核菌等の細菌に感染した細胞と反応し、感染防御の機能を有することが知られている。iMAIT細胞は、感染防御の際に重要な役割を担うIFNγやIL−17、IL−2を産生するとともに(実施例5参照)、これらサイトカインと同様、細胞傷害性を誘起する上で中心的な役割を担うパーフォリンおよびグランザイムも産生している(データ示さず)。そこで、iMAIT細胞が、実際に細菌感染に対する防御効果を示すか否かを検討した。
【0088】
NOG(NOD.Cg−Prkdcscid Il2rgtm 1 Sug/Jic)マウス(実験動物中央研究所)に、実施例3の方法に基づいて作製したiMAIT細胞(5×10
4個/匹)を経静脈投与により注入移植した。その5週間後、非結核性抗酸菌(Mycobacterium abscessus)を1.0×10
6CFU/匹で接種した。その2週間後に安楽的に屠殺して肝臓と脾臓を摘出し、当該臓器内で生存するM.abscessus菌の数(コロニー形成能)を調べた。
【0089】
結果を
図9に示すが、iMAIT細胞を移入しなかった群であるiMAIT(−)と比較して、iMAIT細胞を移入した群であるiMAIT(+)では肝臓における生菌(形成コロニー)数が有意に低減しており、脾臓においても同様の傾向が認められた。
【0090】
以上の実験結果は、動物体内において、iMAIT細胞はMAIT細胞と同等の機能や効果を呈することを明らかに示すものである。
[配列表]