【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
(実施例)
図1に示すような、ワイヤーソー装置1を用いて、直径300mmのインゴットWの切断を行った。
なお、インゴットWの最大直径の部分を切断する際に、ボビンから繰り出される側のワイヤー2に張力付与機構で付加する張力を23Nに設定し、これを基準の張力とした。
【0048】
そして、下記の表1の条件1に示すように、インゴットWの切り始め部分を切断する際の、ボビンから繰り出される側のワイヤー2に張力付与機構で付加する張力は、基準の張力の1.17倍である27Nに設定して、基準の張力の1.1倍以上となるようにした。
【0049】
一方、ボビンに巻き取られる側のワイヤー2に張力付与機構で付加する張力は、基準の張力の43%相当の値である10Nに設定して、基準の張力の半分以下の張力となるようにした。
【0050】
なお、インゴットWとワイヤー2が最初に接触する位置から、インゴットWの送り方向へ10mmまで切り込んだ区間を切り始め部分とした。
【0051】
そして、
図2に示すようにインゴットWの切断位置10mm以降は、ボビンから繰り出される側のワイヤー2に張力付与機構で付加する張力を直線的に下げていき、インゴットWの切断位置50mmの部分で、基準の張力と同じ張力になるようにした。
【0052】
また、
図3に示すように、ボビンに巻き取られる側のワイヤー2に張力付与機構で付与する張力は、インゴットWの切断位置によらず、低い値で一定の値とした。なお、
図2及び
図3には、後述する比較例1についても併せて記載した。
【0053】
上記のような切断条件(表1の条件1)で、同一の1台のワイヤーソー装置1にて、インゴットWを25本切断した。そして、各インゴットWを切断する際、ワイヤー2の破断が発生した回数をカウントし、切断本数で割った値をワイヤー破断発生率とした。
【0054】
そして、後述の比較例1(従来の条件)の条件2で切断した際のワイヤー破断発生率の値を1とした相対値で表し、表1に記載した。
【0055】
さらに、切断後のウエーハについては、静電容量式のコベルコ科研製SBW330にて測定を行い、反り形状の変位量を算出し、ウエーハの反りを測定した。そして、後述する比較例1の条件2で切断した際のウエーハの反りの値を1とした相対値で表し、表1に記載した。
【0056】
上記したように、ワイヤーの破断が発生すると、生産性の面でも、切断後ウエーハ品質の面でも、大きなデメリットがある。そのため、ワイヤー破断発生率は悪化させないことが好ましく、値が小さい方が望ましい。ウエーハの反りは値が小さい方が望ましい。
【0057】
その結果、表1に示すように、ワイヤー破断発生率は従来条件の比較例1と同等の水準であった。また、ウエーハの反りは従来条件の比較例1の0.92倍とウエーハ品質の改善がみられた。
【0058】
このように、実施例では、ワイヤーの破断発生率を悪化させることなく、反りの少ないウエーハをインゴットから切り出すことができた。
【0059】
【表1】
【0060】
(比較例1)
図2、3に示すように、ボビンから繰り出される側のワイヤーに張力付与機構で付与する張力と、ボビンに巻き取られる側のワイヤーに張力付与機構で付与する張力を共に、インゴットの切断位置によらず、基準の張力と同じ値である23.0Nとなるように設定した(条件2)以外は、実施例と同様にしてインゴットの切断を行った。
【0061】
そして、このときのワイヤー破断発生率及び、得られたウエーハの反りについての測定を実施例と同様にして行った。なお、この比較例1でのワイヤー破断発生率及び、ウエーハの反りの測定結果をそれぞれ基準にして、前記の実施例及び後述の比較例2から4のそれぞれの値を相対値で表1に示した。
【0062】
(比較例2)
インゴットの切り始め部分を切断する時に、ボビンから繰り出される側のワイヤーに張力付与機構で付与する張力と、ボビンに巻き取られる側のワイヤーに張力付与機構で付与する張力を共に、基準の張力に対して1.17倍の値である27.0Nとなるように設定した(条件3)以外は、実施例と同様にしてインゴットの切断を行った。
【0063】
そして、このときのワイヤー破断発生率及び、得られたウエーハの反りについての測定を実施例と同様にして行い、表1に示した。
【0064】
その結果、表1に示したように、ウエーハの反りについては従来条件の比較例1の0.92倍となり改善した。しかしながら、ワイヤー破断発生率は1.4倍と悪化した。上記でも述べたように、ワイヤー破断はデメリットが大きく、この破断発生率は許容できる水準ではない。
【0065】
(比較例3)
インゴットの切り始め部分を切断する時に、ボビンから繰り出される側のワイヤーに張力付与機構で付与する張力を、基準の張力と同じ大きさの23.0Nとし、ボビンに巻き取られる側のワイヤーに張力付与機構で付与する張力を、基準の張力の75%の値である17.3Nとなるように設定した(条件4)以外は、実施例と同様にしてインゴットの切断を行った。
【0066】
そして、このときのワイヤー破断発生率及び、得られたウエーハの反りについての測定を実施例と同様にして行い、表1に示した。
【0067】
その結果、表1に示したように、ワイヤー破断発生率、ウエーハの反り共に、比較例1と同等であり、改善は見られなかった。
【0068】
この結果から、ワイヤー破断発生率の改善に寄与するためには、ボビンに巻き取られる側のワイヤーに張力付与機構で付与する張力を実施例の条件1のように、基準の張力の半分以下まで低減させるのが有効であると考えられる。
【0069】
(比較例4)
インゴットの切り始め部分を切断する時に、ボビンから繰り出される側のワイヤーに張力付与機構で付与する張力と、ボビンに巻き取られる側のワイヤーに張力付与機構で付与する張力を共に、基準の張力の75%の値である17.3Nとなるように設定した(条件5)以外は、実施例と同様にしてインゴットの切断を行い、ウエーハを得た。
【0070】
そして、このときのワイヤー破断発生率及び、得られたウエーハの反りについての測定を実施例と同様にして行い、表1に示した。
【0071】
その結果、表1に示したように、ワイヤー破断発生率は比較例1と同じ水準であった。一方で、ウエーハの反りについては比較例1と比べて1.2倍となり、悪化した。
【0072】
この結果から、インゴットの切り始め部分を切断する時に、ボビンから繰り出される側のワイヤーに張力付与機構で付与する張力に関しては、低くし過ぎるとウエーハの反りが悪化しやすくなることが分かった。
【0073】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。