特許第6277924号(P6277924)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6277924
(24)【登録日】2018年1月26日
(45)【発行日】2018年2月14日
(54)【発明の名称】インゴットの切断方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 27/06 20060101AFI20180205BHJP
【FI】
   B24B27/06 R
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-199058(P2014-199058)
(22)【出願日】2014年9月29日
(65)【公開番号】特開2016-68182(P2016-68182A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2016年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】上林 佳一
【審査官】 須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−000733(JP,A)
【文献】 特開2008−023644(JP,A)
【文献】 特開2005−153031(JP,A)
【文献】 特開平09−029607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B27/06
H01L21/304
B28D5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一組のボビンの一方から繰り出され、他方のボビンに巻き取られるワイヤーを、複数のワイヤーガイド間に螺旋状に巻回して軸方向に走行させ、ワイヤー列を形成し、インゴットと前記ワイヤーとの接触部に加工液を供給しながら、前記ワイヤーを繰り出す前記ボビン側と、前記ワイヤーを巻き取る前記ボビン側とにそれぞれ配置された張力付与機構により前記ワイヤーに張力を付与しつつ、前記ワイヤー列に前記インゴットを押し当てることで、前記インゴットをウエーハ状に切断するインゴットの切断方法であって、
前記インゴットの最大直径の部分を切断する際に、前記ボビンから繰り出される側の前記ワイヤーに付与する張力を、基準の張力とした場合に、
前記インゴットの切り始め部分を切断する際の、前記ボビンから繰り出される側の前記ワイヤーに付与する張力を、前記基準の張力より高くし、
前記ボビンに巻き取られる側の前記ワイヤーに付与する張力を、前記基準の張力より低くして、前記インゴットの切断を行うことを特徴とするインゴットの切断方法。
【請求項2】
前記インゴットの切り始め部分を切断する際の、前記ボビンから繰り出される側の前記ワイヤーに付与する張力を、前記基準の張力の1.1倍以上の張力とし、
前記ボビンに巻き取られる側の前記ワイヤーに付与する張力を、前記基準の張力の半分以下の張力とすることを特徴とする請求項1に記載のインゴットの切断方法。
【請求項3】
前記基準の張力を20〜30Nとすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインゴットの切断方法。
【請求項4】
前記インゴットの切り始め部分以外を切断する際は、前記ボビンから繰り出される側の前記ワイヤーに付与する張力を、前記基準の張力と同じとし、
前記ボビンに巻き取られる側の前記ワイヤーに付与する張力は、前記インゴットの切断位置によらず、前記基準の張力より低い値で一定にすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のインゴットの切断方法。
【請求項5】
前記インゴットと前記ワイヤーが最初に接触する位置から、前記インゴットの送り方向へ10mmまで切り込んだ区間を前記切り始め部分とした場合に、
前記切り始め部分以降では前記ボビンから繰り出される側の前記ワイヤーに付与する張力を直線的に下げていき、前記基準の張力と同じとすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のインゴットの切断方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーソーを使用したインゴットの切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ウエーハの大型化が望まれており、この大型化に伴い、インゴットの切断には専らワイヤーソー装置が使用されている。
【0003】
ワイヤーソー装置は、ワイヤー(高張力鋼線)を高速走行させて、ここにスラリーを掛けながら、ワーク(例えばシリコンインゴットが挙げられる。以下、単にインゴットと言うこともある。)を押し当てて切断し、多数のウエーハを同時に切り出す装置である(特許文献1参照)。
【0004】
ここで、図4に、従来の一般的なワイヤーソー装置の一例の概要を示す。
図4に示すように、ワイヤーソー装置101は、主に、インゴットWを切断するためのワイヤー102、ワイヤー102を巻回したワイヤーガイド103、ワイヤー102に張力を付与するための張力付与機構104、104’、切断されるインゴットWを送り出すインゴット送り手段105、切断時に砥粒をクーラントに分散して混合したスラリーを供給するためのノズル106等で構成されている。
【0005】
ワイヤー102は、一方のボビン107(ワイヤーリール)から繰り出され、トラバーサ108を介してパウダクラッチ(定トルクモーター109)やダンサーローラ(デットウェイト)(不図示)等からなる張力付与機構104を経て、ワイヤーガイド103に入っている。ワイヤー102はこのワイヤーガイド103に300〜400回程度巻回された後、もう一方の張力付与機構104’を経てボビン107’に巻き取られている。
【0006】
また、ワイヤーガイド103は鉄鋼製円筒の周囲にポリウレタン樹脂を圧入し、その表面に一定のピッチで溝を切ったローラーであり、巻回されたワイヤー102が、駆動用モーター110によって予め定められた周期で往復方向に駆動できるようになっている。
【0007】
そして、ワイヤーガイド103、巻回されたワイヤー102の近傍には、ノズル106が設けられている。インゴットWを切断する時にはこのノズル106から、ワイヤーガイド103、ワイヤー102にスラリーを供給できるようになっている。そして、切断後には廃スラリーとして排出される。
【0008】
このようなワイヤーソー装置101を用い、ワイヤー102に張力付与機構104、104’を用いて適当な張力をかけて、駆動用モーター110により、ワイヤー102を往復方向に走行させ、スラリーを供給しつつインゴットWをスライスすることにより、所望のスライスウエーハを得ている。
【0009】
このとき、切断後ウエーハの品質として、反りが小さく、うねりがない平坦なウエーハが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−86140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、インゴットをワイヤーソーで切断することで得られたウエーハの形状を確認すると、インゴットの切り始め部分の領域において、反りやうねりが出やすくなっている。
【0012】
これは、インゴットを切断する時のワイヤーの張力が低いことによって、インゴットの切断中にワイヤーがブレやすくなり、これによって切断後のウエーハの反りが大きくなりやすくなってしまうためである。
【0013】
このような、切り始め部分の反りやうねりを低減させるための1つの方法として、ワイヤーの張力を高くすることが挙げられる。ワイヤーを高張力で張ることで、切断時のワイヤーの横ブレが少なくなり、ウエーハ面内の反りやうねりが小さくなると考えられる。
【0014】
しかしながら、インゴットの切断時にワイヤーへかける張力を上げ過ぎると、インゴット切断中のワイヤーの破断が起きやすくなるという問題が生じる。
インゴットの切断中にワイヤーの破断が発生すると、インゴットの切断が中断し、復旧作業に多くの手間と時間を要する。そのため、ウエーハの生産効率を著しく低下させる。また、ワイヤーの破断が起こると、切断後のウエーハ品質を大きく悪化させる。そのため、インゴット切断中のワイヤーの破断は、出来る限り発生させないことが望ましい。
【0015】
本発明は上記のような問題に鑑みてなされたもので、ワイヤーの破断発生率を悪化させること無く、反りが少ないウエーハをインゴットから切り出すことができるインゴットの切断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明によれば、一組のボビンの一方から繰り出され、他方のボビンに巻き取られるワイヤーを、複数のワイヤーガイド間に螺旋状に巻回して軸方向に走行させ、ワイヤー列を形成し、インゴットと前記ワイヤーとの接触部に加工液を供給しながら、前記ワイヤーを繰り出す前記ボビン側と、前記ワイヤーを巻き取る前記ボビン側とにそれぞれ配置された張力付与機構により前記ワイヤーに張力を付与しつつ、前記ワイヤー列に前記インゴットを押し当てることで、前記インゴットをウエーハ状に切断するインゴットの切断方法であって、
前記インゴットの最大直径の部分を切断する際に、前記ボビンから繰り出される側の前記ワイヤーに付与する張力を、基準の張力とした場合に、
前記インゴットの切り始め部分を切断する際の、前記ボビンから繰り出される側の前記ワイヤーに付与する張力を、前記基準の張力より高くし、
前記ボビンに巻き取られる側の前記ワイヤーに付与する張力を、前記基準の張力より低くして、前記インゴットの切断を行うことを特徴とするインゴットの切断方法を提供する。
【0017】
このようにすれば、ワイヤーの破断発生率を悪化させること無く、反りが少ないウエーハをインゴットから切り出すことができる。
【0018】
このとき、前記インゴットの切り始め部分を切断する際の、前記ボビンから繰り出される側の前記ワイヤーに付与する張力を、前記基準の張力の1.1倍以上の張力とし、
前記ボビンに巻き取られる側の前記ワイヤーに付与する張力を、前記基準の張力の半分以下の張力とすることが好ましい。
このようにすれば、より確実にワイヤーの破断発生率を悪化させること無く、反りが少ないウエーハをインゴットから切り出すことができる。
【0019】
またこのとき、基準の張力を20〜30Nとすることができる。
このようにすれば、効率的に切断をすることができるとともに、ワイヤーの破断発生率を悪化させること無く、反りが少ないウエーハをインゴットから切り出すことができる。
【0020】
またこのとき、前記インゴットの切り始め部分以外を切断する際は、前記ボビンから繰り出される側の前記ワイヤーに付与する張力を、前記基準の張力と同じとし、
前記ボビンに巻き取られる側の前記ワイヤーに付与する張力は、前記インゴットの切断位置によらず、前記基準の張力より低い値で一定にすることが好ましい。
このようにすれば、操作が簡単であるとともに、より確実にワイヤーの破断発生率を悪化させること無く、反りが少ないウエーハをインゴットから切り出すことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のインゴットの切断方法であれば、ワイヤーが破断する発生率を悪化させること無く、反りが少ないウエーハをインゴットから切り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明で用いることができるワイヤーソー装置の一例を示した概略図である。
図2】実施例及び比較例1における、インゴットの切断位置と繰り出し側のワイヤーに付加する張力の関係を示した図である。
図3】実施例及び比較例1における、インゴットの切断位置と巻き取り側のワイヤーに付加する張力の関係を示した図である。
図4】一般的なワイヤーソー装置の一例を示した概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
上述したように、インゴットの切り始め部分において生じる、反りやうねりを低減させるために、ワイヤーに付加する張力を高くすると、インゴット切断中のワイヤーの破断が起きやすくなるという問題があった。
【0024】
そこで、本発明者はこのような問題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、インゴットの切り始め部分を切断する際の、ボビンから繰り出される側のワイヤーに付与する張力を、基準の張力より高くし、ボビンに巻き取られる側のワイヤーに付与する張力を、基準の張力より低くして、インゴットの切断を行うことで、ワイヤーが破断する発生率を悪化させること無く、反りが少ないウエーハをインゴットから切り出すことができることに想到した。そして、これらを実施するための最良の形態について精査し、本発明を完成させた。
【0025】
まず、本発明のインゴットの切断方法で使用することができる、ワイヤーソー装置の一例について説明する。
【0026】
図1に示すように、ワイヤーソー装置1は、主に、インゴットWを切断するためのワイヤー2、ワイヤー2を巻回したワイヤーガイド3(溝付きローラー)、ワイヤー2に張力を付与するための張力付与機構4、4’、切断されるインゴットWを送り出すインゴット送り手段5、切断時にワイヤー2に加工液を供給するためのノズル6等で構成されている。
【0027】
ワイヤー2は、一方のボビン7(ワイヤーリール)から繰り出され、トラバーサ8を介してパウダクラッチ(定トルクモーター9)やダンサーローラ(デットウェイト)(不図示)等からなる張力付与機構4を経て、ワイヤーガイド3に入っている。
【0028】
そして、ワイヤー2をこの複数のワイヤーガイド3間に300〜400回程度巻回して軸方向に走行させ、ワイヤー列を形成した後、もう一方の張力付与機構4’を経てもう一方のボビン7’に巻き取られている。
【0029】
また、ワイヤーガイド3は鉄鋼製円筒の周囲にポリウレタン樹脂を圧入し、その表面に一定のピッチで溝を切ったローラーであり、巻回されたワイヤー2が、駆動用モーター10によって予め定められた周期で往復方向に駆動できるようになっている。
【0030】
そして、ワイヤーガイド3、巻回されたワイヤー2の近傍には、ノズル6が設けられている。インゴットWを切断する時には、このノズル6から、ワイヤーガイド3、ワイヤー2にスラリーを供給できるようになっている。そして、切断後には廃スラリーとして排出される。
以上のように、本発明のインゴットの切断方法で用いられるワイヤーソー装置は、従来一般に用いられているものを適用することができる。
【0031】
次に、このワイヤソー装置1を用いた場合の本発明のインゴットWの切断方法について説明する。
【0032】
ワイヤーソー装置1において、インゴットWとワイヤー2との接触部に加工液を供給しながら、ワイヤー2を繰り出すボビン7側に配置された張力付与機構4と、ワイヤー2を巻き取るボビン7’側に配置された張力付与機構4’によりワイヤー2にそれぞれ張力を付与しつつ、走行するワイヤー列にインゴットWを押し当てることで、インゴットWをウエーハ状に切断する。
【0033】
ここで、インゴットWの最大直径の部分を切断する際に、ボビン7から繰り出される側のワイヤー2に張力付与機構4で付与する張力を、基準の張力とする。
【0034】
またこのとき、基準の張力としては、特に限定されないが、一般に採用されている20〜30Nとすることができる。これにより、インゴットを通常通り切断することができる。
【0035】
そして、インゴットWの切り始め部分を切断する際の、ボビン7から繰り出される側のワイヤーに張力付与機構4で付与する張力を、基準の張力より高くするように設定する。一方で、ボビン7’に巻き取られる側のワイヤーに張力付与機構4’で付与する張力は、基準の張力より低くするように設定する。
【0036】
すなわち、切り始め部分の切断における繰り出される側の張力を高くすることで、切り出されるウエーハの切り始め部分に発生する反りやうねりを低減することができる。この時、巻き取られる側の張力を低くしていれば、ワイヤーの破断が発生することを抑制できる。
【0037】
なお、インゴットWの切り始め部分とは、インゴットWがワイヤー2と最初に接触する部分を含むものとする。
例えば具体的には、インゴットWがワイヤー2と最初に接触する位置からインゴットの送り方向へ10mmまで切り込んだ区間とすることができる。
【0038】
このようにして、インゴットWの切断を行うことで、ワイヤーの破断発生率を悪化させること無く、反りが少ないウエーハをインゴットから切り出すことができる。
【0039】
また、インゴットWの切り始め部分を切断する際の、ボビン7から繰り出される側のワイヤー2に張力付与機構4で付与する張力を、基準の張力の1.1倍以上の張力とし、また、あまりに高い張力を付与するとワイヤー破断の発生率が再び上昇する恐れがあるので、2倍以内とすることが好ましい。
【0040】
また、ボビン7’に巻き取られる側のワイヤー2に張力付与機構4’で付与する張力は、基準の張力の半分以下の張力とすることが好ましい。なお、巻き取られる側のワイヤー2の張力を下げ過ぎると、巻き取ったワイヤー2がボビン7’から解けやすくなる為、一定の大きさ以上(例えば0.1倍以上)の巻き張力が必要となる。
【0041】
また、インゴットWの切り始め部分以外を切断する際は、ボビン7から繰り出される側のワイヤー2に張力付与機構4で付与する張力を、基準の張力と同じとし、ボビン7’に巻き取られる側のワイヤー2に張力付与機構4’で付与する張力は、インゴットWの切断位置によらず、基準の張力より低い値で一定にすることが好ましい。
【0042】
これらのようにすることで、切断操作が簡単になるとともに、より確実にワイヤーの破断発生率を悪化させること無く、反りが少ないウエーハをインゴットから切り出すことができる。
【0043】
なお、上記の説明ではボビン7からワイヤーが送り出され、ボビン7’に巻き取られる場合(正転方向)を例に説明したが、本発明はこれに限定されない。
【0044】
つまり、ワイヤー2が正転方向へ走行する場合は、上記したように、張力付与機構4でワイヤー2に上述したようにインゴットWの切断位置に応じて基準の張力より高い張力をワイヤー2に付与し、一方で張力付与機構4’では基準の張力より低い張力をワイヤー2に付与する。
【0045】
逆に、ワイヤー2が正転方向とは反対の、逆転方向へ走行する場合は、張力付与機構4’でワイヤー2に上述したようにインゴットWの切断位置に応じて基準の張力より高い張力を付与し、一方で張力付与機構4では基準の張力より低い張力をワイヤー2に付与する。このようにして、上記動作を交互に繰り返していけば、複数本のインゴットの切断を連続して進めていくことができる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
(実施例)
図1に示すような、ワイヤーソー装置1を用いて、直径300mmのインゴットWの切断を行った。
なお、インゴットWの最大直径の部分を切断する際に、ボビンから繰り出される側のワイヤー2に張力付与機構で付加する張力を23Nに設定し、これを基準の張力とした。
【0048】
そして、下記の表1の条件1に示すように、インゴットWの切り始め部分を切断する際の、ボビンから繰り出される側のワイヤー2に張力付与機構で付加する張力は、基準の張力の1.17倍である27Nに設定して、基準の張力の1.1倍以上となるようにした。
【0049】
一方、ボビンに巻き取られる側のワイヤー2に張力付与機構で付加する張力は、基準の張力の43%相当の値である10Nに設定して、基準の張力の半分以下の張力となるようにした。
【0050】
なお、インゴットWとワイヤー2が最初に接触する位置から、インゴットWの送り方向へ10mmまで切り込んだ区間を切り始め部分とした。
【0051】
そして、図2に示すようにインゴットWの切断位置10mm以降は、ボビンから繰り出される側のワイヤー2に張力付与機構で付加する張力を直線的に下げていき、インゴットWの切断位置50mmの部分で、基準の張力と同じ張力になるようにした。
【0052】
また、図3に示すように、ボビンに巻き取られる側のワイヤー2に張力付与機構で付与する張力は、インゴットWの切断位置によらず、低い値で一定の値とした。なお、図2及び図3には、後述する比較例1についても併せて記載した。
【0053】
上記のような切断条件(表1の条件1)で、同一の1台のワイヤーソー装置1にて、インゴットWを25本切断した。そして、各インゴットWを切断する際、ワイヤー2の破断が発生した回数をカウントし、切断本数で割った値をワイヤー破断発生率とした。
【0054】
そして、後述の比較例1(従来の条件)の条件2で切断した際のワイヤー破断発生率の値を1とした相対値で表し、表1に記載した。
【0055】
さらに、切断後のウエーハについては、静電容量式のコベルコ科研製SBW330にて測定を行い、反り形状の変位量を算出し、ウエーハの反りを測定した。そして、後述する比較例1の条件2で切断した際のウエーハの反りの値を1とした相対値で表し、表1に記載した。
【0056】
上記したように、ワイヤーの破断が発生すると、生産性の面でも、切断後ウエーハ品質の面でも、大きなデメリットがある。そのため、ワイヤー破断発生率は悪化させないことが好ましく、値が小さい方が望ましい。ウエーハの反りは値が小さい方が望ましい。
【0057】
その結果、表1に示すように、ワイヤー破断発生率は従来条件の比較例1と同等の水準であった。また、ウエーハの反りは従来条件の比較例1の0.92倍とウエーハ品質の改善がみられた。
【0058】
このように、実施例では、ワイヤーの破断発生率を悪化させることなく、反りの少ないウエーハをインゴットから切り出すことができた。
【0059】
【表1】
【0060】
(比較例1)
図2、3に示すように、ボビンから繰り出される側のワイヤーに張力付与機構で付与する張力と、ボビンに巻き取られる側のワイヤーに張力付与機構で付与する張力を共に、インゴットの切断位置によらず、基準の張力と同じ値である23.0Nとなるように設定した(条件2)以外は、実施例と同様にしてインゴットの切断を行った。
【0061】
そして、このときのワイヤー破断発生率及び、得られたウエーハの反りについての測定を実施例と同様にして行った。なお、この比較例1でのワイヤー破断発生率及び、ウエーハの反りの測定結果をそれぞれ基準にして、前記の実施例及び後述の比較例2から4のそれぞれの値を相対値で表1に示した。
【0062】
(比較例2)
インゴットの切り始め部分を切断する時に、ボビンから繰り出される側のワイヤーに張力付与機構で付与する張力と、ボビンに巻き取られる側のワイヤーに張力付与機構で付与する張力を共に、基準の張力に対して1.17倍の値である27.0Nとなるように設定した(条件3)以外は、実施例と同様にしてインゴットの切断を行った。
【0063】
そして、このときのワイヤー破断発生率及び、得られたウエーハの反りについての測定を実施例と同様にして行い、表1に示した。
【0064】
その結果、表1に示したように、ウエーハの反りについては従来条件の比較例1の0.92倍となり改善した。しかしながら、ワイヤー破断発生率は1.4倍と悪化した。上記でも述べたように、ワイヤー破断はデメリットが大きく、この破断発生率は許容できる水準ではない。
【0065】
(比較例3)
インゴットの切り始め部分を切断する時に、ボビンから繰り出される側のワイヤーに張力付与機構で付与する張力を、基準の張力と同じ大きさの23.0Nとし、ボビンに巻き取られる側のワイヤーに張力付与機構で付与する張力を、基準の張力の75%の値である17.3Nとなるように設定した(条件4)以外は、実施例と同様にしてインゴットの切断を行った。
【0066】
そして、このときのワイヤー破断発生率及び、得られたウエーハの反りについての測定を実施例と同様にして行い、表1に示した。
【0067】
その結果、表1に示したように、ワイヤー破断発生率、ウエーハの反り共に、比較例1と同等であり、改善は見られなかった。
【0068】
この結果から、ワイヤー破断発生率の改善に寄与するためには、ボビンに巻き取られる側のワイヤーに張力付与機構で付与する張力を実施例の条件1のように、基準の張力の半分以下まで低減させるのが有効であると考えられる。
【0069】
(比較例4)
インゴットの切り始め部分を切断する時に、ボビンから繰り出される側のワイヤーに張力付与機構で付与する張力と、ボビンに巻き取られる側のワイヤーに張力付与機構で付与する張力を共に、基準の張力の75%の値である17.3Nとなるように設定した(条件5)以外は、実施例と同様にしてインゴットの切断を行い、ウエーハを得た。
【0070】
そして、このときのワイヤー破断発生率及び、得られたウエーハの反りについての測定を実施例と同様にして行い、表1に示した。
【0071】
その結果、表1に示したように、ワイヤー破断発生率は比較例1と同じ水準であった。一方で、ウエーハの反りについては比較例1と比べて1.2倍となり、悪化した。
【0072】
この結果から、インゴットの切り始め部分を切断する時に、ボビンから繰り出される側のワイヤーに張力付与機構で付与する張力に関しては、低くし過ぎるとウエーハの反りが悪化しやすくなることが分かった。
【0073】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0074】
1、101…ワイヤーソー装置、 2、102…ワイヤー、
3、103…ワイヤーガイド、 4、4’、104、104’…張力付与機構、
5、105…インゴット送り手段、 6、106…ノズル、
7、7’、107、107’…ボビン、 8、108…トラバーサ、
9、109…定トルクモーター、 10、110…駆動用モーター、
W…インゴット。
図1
図2
図3
図4