特許第6278458号(P6278458)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6278458超短パルスγ線のパルス幅検出方法およびその装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6278458
(24)【登録日】2018年1月26日
(45)【発行日】2018年2月14日
(54)【発明の名称】超短パルスγ線のパルス幅検出方法およびその装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/00 20060101AFI20180205BHJP
【FI】
   H01S3/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-98898(P2014-98898)
(22)【出願日】2014年5月12日
(65)【公開番号】特開2015-216268(P2015-216268A)
(43)【公開日】2015年12月3日
【審査請求日】2017年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(72)【発明者】
【氏名】大石 祐嗣
【審査官】 吉野 三寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−323566(JP,A)
【文献】 特開2002−139758(JP,A)
【文献】 特開2009−16120(JP,A)
【文献】 特開平9−283864(JP,A)
【文献】 特開平9−223850(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0222147(US,A1)
【文献】 特開2015−215261(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00−3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超短パルスレーザー光を電子線に衝突させ、両者の相互作用によりレーザーコンプトン散乱X線またはγ線(以下、両者をまとめてγ線という)を生成させるとともに、前記レーザーコンプトン散乱γ線を薄膜コンバーターに入射して電子線に変換する一方、
前記電子線に衝突させる前の前記超短パルスレーザー光の一部を分岐するとともに、分岐した前記超短パルスレーザー光の光路長を調整し、
さらに分岐された前記超短パルスレーザー光を、前記薄膜コンバーターで変換された前記電子線に衝突させて両者の相互作用により生成されるトムソン散乱光に基づき時間軸に沿う前記レーザーコンプトン散乱γ線の強度を表すレーザーコンプトン散乱γ線信号を生成し、さらに前記レーザーコンプトン散乱γ線信号に基づき前記レーザーコンプトン散乱γ線のパルス幅を検出することを特徴とする超短パルスγ線のパルス幅検出方法。
【請求項2】
請求項1に記載する超短パルスγ線のパルス幅検出方法において、
前記薄膜コンバーターで変換されたコンプトン散乱電子線を絞り手段を通過させることにより、特定エネルギーのコンプトン散乱電子線を選択するようにしたことを特徴とする超短パルスγ線のパルス幅検出方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する超短パルスγ線のパルス幅検出方法において、
分岐された前記超短パルスレーザー光を、集光させて前記薄膜コンバーターで変換された前記電子線に衝突させるようにしたことを特徴とする超短パルスγ線のパルス幅検出方法。
【請求項4】
超短パルスレーザー光を照射するレーザー光発生手段と、
前記レーザー光発生手段から照射された超短パルスレーザー光を電子線に衝突させ、両者の相互作用によりレーザーコンプトン散乱γ線を生成させるレーザーコンプトン散乱γ線生成部と、
前記レーザーコンプトン散乱γ線を入射して電子線に変換する薄膜コンバーターと、
前記レーザー光発生手段とレーザーコンプトン散乱γ線生成部との間に配設されて前記超短パルスレーザー光の一部を分岐する分岐手段と、
分岐した前記超短パルスレーザー光の光路長を調整可能に形成した遅延手段と、
前記遅延手段を経由した前記超短パルスレーザー光と、前記薄膜コンバーターで変換された前記電子線との相互作用によりトムソン散乱光を生成するトムソン散乱光生成部と、
前記トムソン散乱光を入射して時間軸に沿う前記レーザーコンプトン散乱γ線の強度を表すレーザーコンプトン散乱γ線信号を生成するとともに、該レーザーコンプトン散乱γ線信号に基づき前記レーザーコンプトン散乱γ線のパルス幅を検出する光検出手段とを有することを特徴とする超短パルスγ線のパルス幅検出装置。
【請求項5】
請求項4に記載する超短パルスγ線のパルス幅検出装置において、
前記薄膜コンバーターと前記トムソン散乱光生成部との間に、前記薄膜コンバーターで変換したコンプトン散乱電子線のうち特定のエネルギーのものを選択的に透過させる絞り手段を配設したことを特徴とする超短パルスγ線のパルス幅検出装置。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載する超短パルスγ線のパルス幅検出装置において、
前記遅延手段と前記トムソン散乱光生成部との間に配設され、前記遅延手段を経由した前記超短パルスレーザー光を集光させて前記トムソン散乱光生成部に入射させる集光手段を有することを特徴とする超短パルスγ線のパルス幅検出装置。
【請求項7】
請求項4〜請求項6に記載する何れか一つの超短パルスγ線のパルス幅検出装置において、
少なくとも前記レーザーコンプトン散乱γ線生成部、薄膜コンバーターおよびトムソン散乱光生成部は真空容器内に収納されていることを特徴とする超短パルスγ線のパルス幅検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超短パルスX線またはγ線(以下、本明細書においては、両者をまとめてγ線という)のパルス幅検出方法およびその装置に関し、特に超短パルスレーザーコンプトン散乱γ線のパルス幅を検出する場合に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
サブps〜psオーダーの超短パルスレーザーコンプトン散乱γ線のパルス幅を高精度に検出することができれば、産業上利用し得る有用な発明を提供し得る。例えば、配管を検出対象とする非破壊検査において前記配管の数mmオーダーの減肉を検出することが可能になる非破壊検査方法ないし非破壊検査装置を実現し得るからである。
【0003】
しかしながら、構造物の非破壊検査に有用なエネルギーの高いγ線で、かつ、上述の如きサブps〜psオーダーの超短パルスγ線のパルス幅の検出の可能性を示唆する文献としては、非特許文献1が存在するものの、サブps〜psオーダーの超短パルスのパルス幅の検出を行うという課題を具体的に解決する技術は未だに確立されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「90度衝突レーザーコンプトン散乱を用いた超短パルスガンマ線発生とその応用に関する研究」(平義隆 P123〜P125の「5.4 チェレンコフ光の光子数とパルス幅の拡がり」およびP127〜P128の「5.4 光カー効果を用いたパルス幅測定の検討」参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑み、超短パルスレーザーコンプトン散乱γ線のパルス幅を容易かつ高精度に検出し得る超短パルスγ線のパルス幅検出方法およびその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の第1の態様は、超短パルスレーザー光を電子線に衝突させ、両者の相互作用によりレーザーコンプトン散乱γ線を生成させるとともに、前記レーザーコンプトン散乱γ線を薄膜コンバーターに入射して電子線に変換する一方、前記電子線に衝突させる前の前記超短パルスレーザー光の一部を分岐するとともに、分岐した前記超短パルスレーザー光の光路長を調整し、さらに分岐された前記超短パルスレーザー光を、前記薄膜コンバーターで変換された前記電子線に衝突させて両者の相互作用により生成されるトムソン散乱光に基づき時間軸に沿う前記レーザーコンプトン散乱γ線の強度を表すレーザーコンプトン散乱γ線信号を生成し、さらに前記レーザーコンプトン散乱γ線信号に基づき前記レーザーコンプトン散乱γ線のパルス幅を検出することを特徴とする超短パルスγ線のパルス幅検出方法にある。
【0007】
本態様によれば、レーザーコンプトン散乱電子線を薄膜コンバーターで電子線に変換し、さらにトムソン効果を利用して可視光であるトムソン散乱光を得、このトムソン散乱光に基づき得られたレーザーコンプトン散乱γ線信号の信号処理により所定のパルス幅を検出するようにしたので、容易かつ高精度にパルス幅を検出し得る。
【0008】
ここで、トムソン散乱光を利用した散乱γ線信号の生成に当たっては、電子線に衝突させる前の超短パルスレーザー光の一部を分岐して前記散乱γ線信号の取り込みの同期信号として利用しているので、超短パルスレーザー光とレーザーコンプトン散乱γ線信号との間に発生するジッターを完全に除去することができる。したがって、この点でも、レーザーコンプトン散乱γ線信号に基づき特定されるパルス幅の測定精度を高精度なものとすることができる。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載する超短パルスγ線のパルス幅検出方法において、前記薄膜コンバーターで変換されたコンプトン散乱電子線を絞り手段を通過させることにより、特定エネルギーのコンプトン散乱電子線を選択するようにしたことを特徴とする超短パルスγ線のパルス幅検出方法にある。
【0010】
本態様によれば、レーザーコンプトン散乱γ線から変換された電子線を、特定のエネルギーを有するコンプトン散乱電子線とすることができ、電子線のエネルギー分布の広がりを抑制して変換前の尖鋭なコンプトン散乱γ線を高精度に再現し得る。この結果、レーザーコンプトン散乱γ線のパルス幅を正確に再現したコンプトン散乱電子線とすることができる。
【0011】
本発明の第3の態様によれば、第1または第2の態様に記載する超短パルスγ線のパルス幅検出方法において、分岐された前記超短パルスレーザー光を、集光させて前記薄膜コンバーターで変換された前記電子線に衝突させるようにしたことを特徴とする超短パルスγ線のパルス幅検出方法にある。
【0012】
本態様によれば、集光させた超短パルスレーザー光を薄膜コンバーターで変換された電子線に照射することができるので、両者の相互作用により得られるレーザーコンプトン散乱γ線信号(トムソン散乱光)の強度を高くし、さらに高精度にコンプトン散乱γ線のパルス幅を再現したものとすることができる。
【0013】
本発明の第4の態様は、超短パルスレーザー光を照射するレーザー光発生手段と、前記レーザー光発生手段から照射された超短パルスレーザー光を電子線に衝突させ、両者の相互作用によりレーザーコンプトン散乱γ線を生成させるレーザーコンプトン散乱γ線生成部と、前記レーザーコンプトン散乱γ線を入射して電子線に変換する薄膜コンバーターと、前記レーザー光発生手段とレーザーコンプトン散乱γ線生成部との間に配設されて前記超短パルスレーザー光の一部を分岐する分岐手段と、分岐した前記超短パルスレーザー光の光路長を調整可能に形成した遅延手段と、前記遅延手段を経由した前記超短パルスレーザー光と、前記薄膜コンバーターで変換された前記電子線との相互作用によりトムソン散乱光を生成するトムソン散乱光生成部と、前記トムソン散乱光を入射して時間軸に沿う前記レーザーコンプトン散乱γ線の強度を表すレーザーコンプトン散乱γ線信号を生成するとともに、該レーザーコンプトン散乱γ線信号に基づき前記レーザーコンプトン散乱γ線のパルス幅を検出する光検出手段とを有することを特徴とする超短パルスγ線のパルス幅検出装置にある。
【0014】
本態様によれば、レーザーコンプトン散乱γ線生成部で生成したレーザーコンプトン散乱電子線を薄膜コンバーターで電子線に変換し、さらにトムソン効果を利用して可視光であるトムソン散乱光を得、このトムソン散乱光に基づき得られたレーザーコンプトン散乱γ線信号の光検出手段における信号処理により所定のパルス幅を検出するようにしたので、容易かつ高精度にパルス幅を検出し得る。
【0015】
ここで、トムソン散乱光を利用した散乱γ線信号の生成に当たっては、電子線に衝突させる前の超短パルスレーザー光の一部を分岐手段で分岐して前記散乱γ線信号の取り込みの同期信号として利用している。この結果、超短パルスレーザー光と散乱γ線信号の間に発生するジッターを完全に除去することができる。したがって、この点でも、散乱γ線信号に基づき特定されるパルス幅の測定精度を高精度なものとすることができる。
【0016】
本発明の第5の態様は、第4の態様に記載する超短パルスγ線のパルス幅検出装置において、前記薄膜コンバーターと前記トムソン散乱光生成部との間に、前記薄膜コンバーターで変換したコンプトン散乱電子線のうち特定のエネルギーのものを選択的に透過させる絞り手段を配設したことを特徴とする超短パルスγ線のパルス幅検出装置にある。
【0017】
本態様によれば、レーザーコンプトン散乱γ線から変換された電子線を、特定のエネルギーを有するコンプトン散乱電子線とすることができ、電子線のエネルギー分布の広がりを抑制して変換前の尖鋭なコンプトン散乱γ線を高精度に再現し得る。この結果、レーザーコンプトン散乱γ線のパルス幅を正確に再現したコンプトン散乱電子線とすることができる。
【0018】
本発明の第6の態様は、第4または第5の態様に記載する超短パルスγ線のパルス幅検出装置において、前記遅延手段と前記トムソン散乱光生成部との間に配設され、前記遅延手段を経由した前記超短パルスレーザー光を集光させて前記トムソン散乱光生成部に入射させる集光手段を有することを特徴とする超短パルスγ線のパルス幅検出装置にある。
【0019】
本態様によれば、集光手段により集光させた超短パルスレーザー光を薄膜コンバーターで変換された電子線に照射することができるので、両者の相互作用により得られるレーザーコンプトン散乱γ線信号(トムソン散乱光)の強度を高くし、さらに高精度にコンプトン散乱γ線のパルス幅を再現したものとすることができる。
【0020】
本発明の第7の態様は、第4〜第6の態様に記載する何れか一つの超短パルスγ線のパルス幅検出装置において、少なくとも前記レーザーコンプトン散乱γ線生成部、薄膜コンバーターおよびトムソン散乱光生成部は真空容器内に収納されていることを特徴とする超短パルスγ線のパルス幅検出装置にある。
【0021】
本態様によれば、レーザーコンプトン散乱γ線、これを変換した電子線による気体分子との相互作用によるプラズマ化等に起因する減衰を可及的に抑制し得る。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、超短パルスレーザーコンプトン散乱γ線を薄膜コンバーターで電子線に変換し、さらにトムソン効果を利用して最終的に可視光であるトムソン散乱光に基づきレーザーコンプトン散乱γ線信号を得ているので、レーザーコンプトン散乱γ線信号の信号処理により所定のパルス幅を検出することができる。この結果、前記超短パルスγ線のパルス幅を容易かつ高精度に検出し得る。
【0023】
さらに、超短パルスレーザー光の一部を利用してトムソン散乱光を生成させているので、超短パルスレーザー光とレーザーコンプトン散乱γ線信号との同期を完全に取ることができ、レーザーコンプトン散乱γ線信号におけるジッターの発生を除去し得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施の形態を示すブロック図である。
図2】レーザーコンプトン散乱ガンマ線信号(トムソン散乱光)が、遅延機能を利用したスキャニングにより形成される際の態様を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0026】
図1に示すように、本形態に係るパルス幅検出装置は、レーザー光発生手段1、電子線発生手段2、レーザーコンプトン散乱γ線生成部3、薄膜コンバーター4、トムソン散乱光生成部5、光検出手段6、分岐手段8および遅延手段9を有する。ここで、レーザー光発生手段1は、サブps〜psオーダーの超短パルスレーザー光を照射するとともに、電子線発生手段2は所定の電子線を照射する。レーザーコンプトン散乱γ線生成部3では、電子線発生手段2が照射した電子線を、レーザー光発生手段1から照射された超短パルスレーザー光に衝突させ、両者の相互作用によるレーザーコンプトン散乱γ線(LCSγ線)を生成させる。かかるレーザーコンプトン散乱γ線は超短パルスレーザー光と同程度のパルス幅を有する超短パルスγ線として薄膜コンバーター4に入射され、電子線に変換される。かかる電子線も前記超短パルスレーザー光に対応する超短パルス幅を有する。また、レーザーコンプトン散乱γ線は配管等の検査対象に対し透過性を有するとともに、その壁面で散乱されてコンプトン散乱γ線を生成することができる。したがって、前記コンプトン散乱γ線を検査対象に照射することにより所定の検査対象の非破壊検査に適用し得る。
【0027】
薄膜コンバーター4で変換されて得る電子線は絞り手段7を通過することにより特定のエネルギーを有するコンプトン散乱電子線となる。薄膜コンバーター4で変換された電子線の特定エネルギーのものを絞り手段7で選択するようにすることは本発明においては必須ではないが、絞り手段7で特定エネルギーの散乱電子線に絞ることにより、電子線のエネルギー分布の広がりを抑制して変換前の尖鋭なコンプトン散乱γ線を高精度に再現し得る。
【0028】
一方、レーザー光発生手段1とレーザーコンプトン散乱γ線生成部3との間にはミラーで好適に形成し得る分岐手段8が配設されており、レーザー光発生手段1から照射した超短パルスレーザー光の一部を分岐するようになっている。遅延手段9は分岐手段8で分岐した一部の超短パルスレーザー光の光路長を調整可能に形成したものである。さらに詳言すると、遅延手段9は、反射手段である4枚のミラー9A,9B,9C,9Dからなり、分岐手段8で分岐された超短パルスレーザー光の一部をミラー9A,9B,9C,9Dの順で順次反射させるとともに、ミラー9A,9B間の距離およびミラー9C,9D間の距離を適宜変更することでミラー9Aからミラー9Dに至る光路長をμm単位で調整することができる。
【0029】
遅延手段9のミラー9Dで反射された超短パルスレーザー光はミラー10および集光手段11を介してトムソン散乱光生成部5に照射される。トムソン散乱光生成部5は、遅延手段9を経由した超短パルスレーザー光と、薄膜コンバーター4で変換され、絞り手段7で選択された特定エネルギーの散乱電子線との相互作用により図1の紙面に直交する方向に沿い表面側から裏面側に向かうトムソン散乱光を生成する。かかるトムソン散乱光は光検出手段6に入射される。
【0030】
光検出手段6は、トムソン散乱光を入射して時間軸に沿う前記レーザーコンプトン散乱γ線の強度を表すレーザーコンプトン散乱γ線信号を生成するとともに、該レーザーコンプトン散乱γ線信号に基づき前記レーザーコンプトン散乱γ線のパルス幅を検出する。
【0031】
図2は散乱ガンマ線信号が、遅延機能を利用したスキャニングにより形成される際の態様を模式的に示す説明図である。同図に示すように、遅延手段9により超短パルスレーザー光の光路長を決定すればその光路長に対して時間軸の特定の一点でトムソン散乱光生成部5に超短パルスレーザー光が入射される。このときコンプトン散乱電子線がトムソン散乱光生成部を通過すれば、超短パルスレーザー光と散乱電子線との相互作用によりトムソン散乱光が生成される。かかるトムソン散乱光はレーザーコンプトン散乱γ線のパルスに対応するパルス幅を有する可視光であるレーザーコンプトン散乱γ線信号となり、その強度が光検出手段6で検出される。すなわち、時間軸上の特定の一点で超短パルスレーザー光が散乱電子線に作用している間開く時間軸上のゲートGが形成され、当該ゲートGが開いている間にトムソン散乱光生成部5にコンプトン散乱電子線が到達することにより超短パルスレーザー光との相互作用により発生するレーザーコンプトン散乱γ線信号の強度を検出する。ここで、遅延手段9を介してトムソン散乱光生成部5に至る超短パルスレーザー光は、レーザーコンプトン散乱γ線を生成する超短パルスレーザー光の一部を分岐したものであるので、散乱電子線との間にジッターを生じることはなく、時間軸上の特定の点におけるレーザーコンプトン散乱γ線信号の強度を高精度に検出し得る。したがって、遅延手段9により光路長を適宜調整することで時間軸上をスキャンしつつ各点でのレーザーコンプトン散乱γ線信号の強度を検出し得る。
【0032】
ちなみに、psオーダーの時間分解能を必要とするパルス幅を検出する際には、超短パルスレーザー光を照射するタイミングとトムソン散乱光の生成タイミングとのズレ、すなわち両者間のジッターをps以下に抑制する必要があるが、本形態では、トムソン散乱光を生成させる超短パルスレーザー光をレーザーコンプトン散乱γ線を生成させる超短パルスレーザー光由来のものとしているので、前述の如きジッターを完全に除去し得る。
【0033】
本形態において、レーザーコンプトン散乱γ線信号の強度は、図2に示すように、各ゲートGにおけるヒストグラムの大きさとして表わされる。したがって、この信号強度を記憶手段に一旦記憶し、その後読み出すことによりレーザーコンプトン散乱γ線信号を生成し、所定の信号処理を行うことによりパルス幅を検出することができる。
【0034】
また、本形態においては、レーザーコンプトン散乱γ線生成部3、薄膜コンバーター4絞り手段7、トムソン散乱光生成部5および集光手段11は真空容器12内に収納されている。本発明においては、真空容器12内に収納するように構成することは必須ではないが、本態様の如く、真空容器12内に収納することにより、レーザーコンプトン散乱γ線、これを変換した電子線による気体分子との相互作用によるプラズマ化等に起因する減衰を可及的に抑制し得る。
【0035】
上述の如き本形態によれば、レーザーコンプトン散乱γ線生成部3で生成したレーザーコンプトン散乱電子線を薄膜コンバーター4で電子線に変換し、さらにトムソン効果を利用して可視光であるトムソン散乱光を得、これに基づきレーザーコンプトン散乱γ線信号を得ることができる。この結果、レーザーコンプトン散乱γ線信号に基づき信号処理により、容易かつ高精度に所望のパルス幅を検出し得る。すなわち、サブps〜psオーダーのパルスγ線であってもそのパルス幅を容易かつ高精度に検出し得る。
【0036】
ここで、レーザーコンプトン散乱γ線は配管等の検査対象に対し透過性を有するとともに、その壁面で散乱されてコンプトン散乱γ線を生成することができる。したがって、前記検査対象をレーザーコンプトン散乱γ線生成部3と薄膜コンバーター4の間に配設してコンプトン散乱γ線を検査対象に照射することにより所定の検査対象の非破壊検査を実施し得る。例えば、検査対象を配管としてこの配管の減肉の程度を非破壊検査する場合、配管の内径を、例えば15cmとすると、γ線の往復経路が約30cmとなる。したがって、これを光速cで割れば、30cm÷(3×10(m/s))=1nsとなる。そこで、例えば1.5mmの減肉を検出するためには、往復経路が3mmであるので、3mm÷(3×10(m/s))=10psとなり、この場合には、psオーダーの時間分解能を有する必要がある。すなわち、γ線源としては、超短パルスのγ線を発生する必要がある。本形態におけるレーザーコンプトン散乱γ線は、かかる条件を満足し得る。また、検出手段もγ線源に合わせて十分な時間分解能を有するものとする必要がある。本形態においては、トムソン散乱光に基づくレーザーコンプトン散乱γ線を利用して所定の信号処理を行なうことによりパルス幅を検出するようにしたので、時間分解能に関する条件も満足し得る。
【0037】
かくして検出するレーザーコンプトン散乱γ線信号のパルスの幅がps(ピコ秒)オーダーの時間分解能を要する場合でも適切に対処し得、検査対象のわずかな減肉等も確実かつ高精度に検出し得る。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明はγ線を利用した非破壊検査を行う原子力設備の保守、道路等の建築物の保守を行う産業分野で有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 レーザー光発生手段
2 電子線発生手段
3 レーザーコンプトン散乱γ線生成部
4 薄膜コンバーター
5 トムソン散乱光生成部
6 光検出手段
7 絞り手段
8 分岐手段
9 遅延手段
10 ミラー
11 集光手段
12 真空容器
図1
図2