(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の発明者らは随伴水処理用の樹脂を開発している際、ビニルピリジン、エチルビニルベンゼン、及びジビニルベンゼンの共重合樹脂(以下、ビニルピリジン樹脂又は単にピリジン樹脂とも称する)が、随伴水中の可溶性油分(例えばフェノールを用いた)と不溶性油分(例えばトルエンを用いた)とを同時に除去できるという知見を得た。発明者らはこの知見に基づき更に研究を進めたところ、上記共重合樹脂に含まれるピリジン基の一部をMeI(ヨウ化メチル)等で四級化するか、あるいは共重合樹脂に含まれるフェニル基の一部を濃硫酸等でスルホン化することによって、可溶性(水溶性)油分及び不溶性(疎水性)油分に対する吸着容量が増大することを見出した。
【0010】
このような顕著な効果が得られた理由について、発明者らは以下のように推測している。すなわち、ピリジン樹脂は疎水性であるため、ポリビニルピリジン樹脂で形成される多孔性粒子の細孔内部は疎水性環境になり、被処理水に溶け込んでいるフェノールなどの可溶性油分や該被処理水中に分散しているトルエンなどの不溶性油分は樹脂粒子の細孔内部まで届きにくくなって、実質的に粒子の外表面にある吸着サイトしか油分の吸着に寄与させることができなかった。
【0011】
これに対して、ピリジン基又はフェニル基に代表される疎水基を部分的に四級化又はスルホン化することにより細孔の内面に親水性の官能基を導入することが可能となり、疎水基から変換された親水基と元々存在する疎水基(親油基)とが共存する状態となる。これにより、樹脂に疎水性と親水性の両機能を併せて持たせることができるので、ピリジン樹脂が疎水性であるにもかかわらず、樹脂粒子の細孔内部に被処理水が浸入しやくなるため、表面だけではなく、細孔の内面も油分の吸着に寄与させることができる。
【0012】
また、共重合により得られる架橋構造のピリジン樹脂は耐熱性及び耐有機溶媒性が高いため、被処理水中の溶解性油分や分散性油分を安定的に吸着できる上、飽和した樹脂の再生の際に再生液として低級アルコールなどの有機溶媒を用いることが可能になるので再生処理が極めて容易になる。これにより、例えばピリジン樹脂の多孔性粒子が充填された2本の吸着塔を並列に設置して吸着運転と再生運転とを交互に切り替えることで、連続的に排出される被処理水に対して連続的に処理を行うことが可能になる。
【0013】
上記したビニルピリジン樹脂で形成される多孔性粒子の製造方法は特に限定されないが、例えばビニルピリジンモノマー、スチレンモノマー、架橋剤、ポーラス剤及び重合開始剤を含む油性媒体と水性媒体とを混合して、ビニルピリジンモノマーを懸濁重合する方法によって製造することができる。この水性媒体には、必要に応じて適量の分散剤(懸濁安定剤)、界面活性剤、消ラジカル剤、比重調整剤及びpH調整剤等を含んでいてもよい。これらの油性媒体と水性媒体とを重合反応器内で混合し、緩やかに昇温して50℃〜80℃でポリマーを重合させ、さらに昇温して85℃〜95℃で熱処理を加えることにより、ビニルピリジン樹脂からなる外径0.1〜2mm程度の多孔性粒子を製造することができる。
【0014】
ここでポーラス剤とは、モノマーは溶解するがモノマーが重合してできるポリマーは溶解しにくい溶媒をいい、例えば架橋共重合体を膨潤する性質を有する有機溶媒や、非膨潤性の有機溶媒などを挙げることができる。ビニルピリジン樹脂の粒子が懸濁重合法で合成される際には、モノマーと一緒に仕込んだポーラス剤とが相分離することによって、0.10〜100μmのサイズを有するネットワーク状に架橋したマイクロジェルが数多く生成される。これらマイクロジェルのサイズ、マイクロジェル同士の融合、又はマイクロジェルの隙間における有機溶媒の分布はマイクロジェルとポーラス剤との相溶性に顕著に影響される。
【0015】
ポーラス剤にはビニルピリジンポリマーに対する貧溶媒と良溶媒とを組み合わせて用いることによって、ビニルピリジンポリマーと溶媒との相溶性を調整し、マイクロジェルの析出及び析出したマイクロジェル同士の溶媒中のモノマーを介した融合を調節することができる。ここで「組み合わせる」とは、ポーラス剤の場合は2以上のポーラス剤を、後述する重合開始剤の場合は2種類以上の重合開始剤を、それぞれ混合して懸濁重合に用いることをいう。この2種類以上のポーラス剤又は重合開始剤は、あらかじめ混合して調製したものを用いてもよいし、反応容器内で撹拌等により混合してもよい。
【0016】
ビニルピリジンポリマーとポーラス剤として用いられる溶媒との相溶性は両者の極性に左右され、互いの極性が近いほど相溶性が高い。溶解性の尺度として、分子間結合力を表す凝集エネルギー密度の平方根で示される溶解パラメータ(SP)が使われており、ここではビニルピリジンポリマーのSP(19MPa
1/2)との差の絶対値が2以下のSPを有する溶媒を良溶媒と、2より大きいSPを有するものを貧溶媒と定義する。このような良溶媒としては例えばトリメチルベンゼン、トルエン、キシレン、2−エチルヘキサノール等を挙げることができ、貧溶媒としては例えばジオクチルフタレート、オクタン、ノナン等を挙げることができる。
【0017】
本発明者らの検討によれば、以下の作用により所望の特性を有するビニルピリジン樹脂が得られると考えられる。貧溶媒のみをポーラス剤として用いると、モノマーの重合で生成したポリマーはすぐに溶媒と相分離するため、比較的小さいマイクロジェルがはじめに析出する。この析出したマイクロジェルは高い相溶性を示す未反応のモノマーを取り込んで互いに融合し、比較的大きいサイズのマイクロジェルに成長する。
【0018】
このとき、取り込まれたモノマーによりマイクロジェル間の隙間が閉塞されるため、最終的な樹脂では大きいマイクロジェル同士の間隙に由来する大きいサイズの細孔が発達することになる。こうしてできた樹脂では、発達した大きいサイズの細孔によりマイクロジェル同士の接合面が小さくなり、比表面積が小さくなり、細孔容積も小さくなる。
【0019】
一方で良溶媒のみをポーラス剤として用いると、ポリマーと溶媒とは相分離しにくく、マイクロジェルは一定の大きさに成長してから析出しはじめることになる。このとき、溶媒中に残存するモノマーは少なくなっている。さらに、モノマーが良溶媒とマイクロジェルとの間に均等に分配されるため、析出したマイクロジェル同士のモノマーを介した融合はほとんどなされず、結果としてマイクロジェル同士の隙間に均一に分散される良溶媒に由来する微小な細孔のみが形成される。そのため、最終的に得られる樹脂は細孔径が小さく、十分な物質拡散速度が得られない。
【0020】
これに対して、貧溶媒と良溶媒とを組み合わせて用いることにより、ポリマーと溶媒との相分離を調整することが可能になる。すなわち、析出するマイクロジェルのサイズ及び析出した後のマイクロジェル同士の溶媒中のモノマーを介した融合が調節され、貧溶媒のみを用いたときのような大きいサイズのマイクロジェルは発達せず、比較的小さいマイクロジェルが緻密に接合された樹脂を得ることができる。
【0021】
このとき、良溶媒はマイクロジェルと相溶性が高く、その一部はマイクロジェル内部で骨格を溶媒和する。残りの良溶媒と貧溶媒との混合物はマイクロジェル同士の隙間に均一に分散される。そのため、マイクロジェル同士の間隙がモノマーによって完全に閉塞されることはなく、樹脂が形成された後に良溶媒と貧溶媒とを除去することにより、適切な径を有する細孔が樹脂全体に均一に形成されることになる。
【0022】
このようにして、マイクロジェル同士を緻密に接合しつつ、その隙間に由来する適当な大きさの細孔を残したマクロポーラス型の樹脂を得ることができる。このマクロポーラス型の樹脂では、比較的小さいサイズのマイクロジェル同士が緻密に接合しているため、高い比表面積と大きな細孔容積とを有する多孔性粒子を得ることができる。
【0023】
ポーラス剤の組成は、用いる良溶媒及び貧溶媒の性質により異なるが、良溶媒がポーラス剤全質量に対して50質量%以上90質量%未満、好ましくは60質量%以上85質量%以下であることが好ましい。良溶媒の割合が50質量%より少ないと、析出したマイクロジェルは溶媒中のモノマーを取り込みつつ成長して最終的に大きなマイクロジェルとなり、その隙間に由来する細孔も大きくなる。
【0024】
なお、良溶媒としては、トリメチルベンゼン、トルエン、キシレン等のベンゼン環を持つものが好ましい。良溶媒のベンゼン環とビニルピリジン及びジビニルベンゼンからなるコポリマーの芳香族環との間の高い相溶性により良溶媒がマイクロジェル内の骨格やマイクロジェル同士の隙間に均一に分布するため、適切な細孔径を有する細孔をより多くかつ均一に分布させることができ、さらには樹脂の構造のむらを抑えて粉化や熱分解を生じにくくすることができるからである。
【0025】
ビニルピリジンモノマーとしては、限定するものではないが、2−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、ピリジン環にメチル基やエチル基等の低級アルキル基を有する4−ビニルピリジン誘導体又は2−ビニルピリジン誘導体、2−メチル−5−ビニルピリジン、2−エチル−5−ビニルピリジン、3−メチル−5−ビニルピリジン、2,3−ジメチル−5−ビニルピリジン、2−メチル−3−エチル−5−ビニルピリジン等を使用することができる。これらのモノマーは単独で使用してもよく、また二種類又はそれ以上のモノマーを組み合わせてもよい。
【0026】
スチレンモノマーとしては、限定するものではないが、ベンゼン環にメチル、エチルなどの低級アルキル基を含まないまたは1個以上を含むビニルベンゼン、2−メチルビニルベンゼン、3−メチルビニルベンゼン、4−メチルビニルベンゼン、2−エチルビニルベンゼン、3−エチルビニルベンゼン、4−エチルビニルベンゼン、2,3−ジメチルビニルベンゼン、2,4−ジメチルビニルベンゼンなどを使用することができる。ビニルピリジンとスチレンモノマーの割合を必要に応じて調整することができる。ビニルピリジンモノマー1モルに対して、スチレンモノマーのモル数が0〜5モルであることが好ましく、0〜2モルであることがさらに好ましい。
【0027】
架橋剤としては、2個又はそれ以上のビニル基を有する化合物を使用することができる。ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、若しくはトリビニルベンゼン等の芳香族ポリビニル化合物、ブタジエン、フタル酸ジアリル、ジアクリル酸エチレングリコール、若しくはジメタアクリル酸エチレングリコール等の脂肪族ポリビニル化合物、又はジビニルピリジン、トリビニルピリジン、ジビニルキノリン、若しくはジビニルイソキノリン等のポリビニル含窒素複素環式化合物等を用いることができる。この架橋剤はモノマー100質量部に対して10〜60質量部、好ましくは15〜35質量部の割合で使用することが好ましい。
【0028】
重合開始剤は特に限定はなく、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、及びアゾビスイソブチロニトリルなどの、ビニル化合物の反応を開始させるために従来使用されているいかなるものをも使用することができる。好ましい重合開始剤の使用量はモノマー混合物100質量部に対して0.5〜5.0質量部、好ましくは0.7〜2.0質量部である。
【0029】
上記重合開始剤を主重合開始剤として用い、これに主重合開始剤よりも低い半減温度を有する補助重合開始剤を組み合わせて使用することが好ましい。モノマーを重合させる際に発生する反応熱により反応温度が100℃に近づくと、水相が沸騰して分散された油滴が合一してしまう。主重合開始剤のみを用いる場合、この反応熱を除去して反応温度を100℃以下に制御するために油相/水相比を小さくする必要があり、1バッチあたり得られる樹脂の量が少ないという問題があった。これに対し、主重合開始剤と補助重合開始剤とを組み合わせて使用することにより、重合速度を維持したまま重合温度を低下させることができる。これにより重合反応熱の除去が容易になり、油相/水相比を大きくすることができるため、1バッチ当たりの製造量を多くすることができる。
【0030】
このような補助重合開始剤としては、例えば2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)等を用いることができる。重合開始剤と補助重合開始剤との比率は、用いる重合開始剤及び補助重合開始剤の種類にもよるが、例えば質量基準で1:0.2〜1.0、好ましくは1:0.3〜0.5とすることが好ましい。
【0031】
分散剤も特に限定はなく、従来使用されているポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリメタクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、澱粉、ゼラチン、スチレン/無水マレイン酸共重合体のアンモニウム塩等の水溶性高分子、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、ベントナイト、ケイ酸マグネシウム等の無機塩を使用することができる。
【0032】
界面活性剤、消ラジカル剤、比重調整剤、及びpH調整剤も特に限定はなく、従来使用されているいかなるものをも使用することができる。例えば、界面活性剤としてはドデシルベンゼンスルホン酸等を、消ラジカル剤としては亜硝酸ナトリウム等を、比重調整剤としては塩化ナトリウム等を、pH調整剤としては水酸化ナトリウム等を使用することができる。
【0033】
上記の方法で得たピリジン樹脂からなる多孔性粒子に対してそのピリジン基を部分的に四級化又はフェニル基をスルホン化する。これにより有機成分である油を含む水から油を効率よく除去できる油吸着材が得られる。なお、ピリジン基を四級化することにより窒素原子が正の電荷を帯び、この電荷を帯びた窒素原子に水分子が引き付けられるので親水性が発現する。四級化の場合は多孔性粒子に対してヨウ化メチルやヨウ化エチルなどのハロゲン化アルキル又はヨウ化水素酸などのハロゲン化水素酸を接触させて、ピリジン樹脂の粒子表面及び細孔内のピリジン基を四級化する。
【0034】
なお、
図1(a)には代表的な疎水基であるピリジン基を四級化して親水基にする例が示されている。ピリジン基を四級化する際は、多孔性粒子のピリジン基の全モル数に接触させるハロゲン化アルキルやハロゲン化水素酸のモル量を調整し、全ピリジン基の内の一部だけを四級化するようにする。これにより、粒子表面のみならず細孔内のピリジン基の一部を親水基に変えることができるので、粒子表面のみならず細孔内面において疎水基から変えられた親水基と元々存在する疎水基(親油基)とを共存させることができる。
【0035】
一方、スルホン化の場合は、上記の方法で得たピリジン樹脂からなる多孔性粒子に対して濃硫酸やクロロスルホン酸などのスルホン化試薬を接触させて、ピリジン樹脂の粒子表面及び細孔内のフェニル基をスルホン化する。これによって、疎水基から変えられた親水基と元々存在する疎水基とを共存させることができる。なお、
図1(b)には代表的な疎水基であるフェニル基を濃硫酸やクロロスルホン酸でスルホン化して親水基にする例が示されている。
【0036】
油を含む水を処理する際、油を含む水を油吸着材の表面に接触させる。上記した四級化又はスルホン化により、多孔性粒子の外面の疎水基のみならず細孔壁面の疎水基も親水基に変えることができ、
図2の点線で示すように油分を含む被処理水5を油吸着材としての樹脂1の表面3に接触させているとき、被処理水5を樹脂1の細孔2内に届けることが可能になる。すなわち、従来は被処理水を細孔内に流通させることは難しく、一点鎖線6のようにほとんどの被処理水は多孔性粒子の表面に沿って流れるだけであったが、四級化又はスルホン化によって細孔壁面に親水基4を導入することにより、被処理水を樹脂1の表面3のみならず細孔2の内面にも接触させることが可能になる。その結果、より広い接触面積に亘って固液接触を行わせることが可能になるので、より効率のよい有機成分の吸着処理が可能になる。
【0037】
以上説明したように、含窒素芳香族環を部分的に四級化すること又はフェニル基をスルホン化することによってポリマーの親水性を制御できるので、被処理水の性状に応じて親水性と疎水性とのバランスに優れた多孔性粒子を用いて吸着する処理を行うことができ、油を含んだ水から効率よく油を吸着して除去することが可能となる。
【0038】
以上、本発明の多孔性粒子及びこれを用いた水処理方法について具体例を挙げて説明したが、本発明は係る具体例に限定されるものではなく、本発明の主旨から逸脱しない範囲の種々の態様で実施することができる。例えば、多孔性粒子を構成する疎水基の一部を親水基に変える場合は、ヨウ化メチル等による四級化や、スルホン化に代表される置換に限定されるものではなく、カルボキシル基、ヒドロキシ基等の親水基を疎水基に導入してもよい。また、親水基に変える疎水基はピリジン基やフェニル基に限定されるものではなく、共重合樹脂を構成する他の疎水基であってもよい。また、親水性を付与する親油性の樹脂はピリジン樹脂に限定されるものではなく、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリマーにヒマシ油を混合させたものでもよい。
【実施例】
【0039】
先ず懸濁重合法を用いて架橋ビニルピリジン樹脂(CR−1共重合樹脂)を合成した。具体的には、10質量部のNaCl(比重調整剤)、0.3質量部のNaNO
2(消ラジカル剤)、0.064質量部のゼラチン(分散剤)、及び0.009質量部のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(界面活性剤)を89.627質量部のイオン交換水に溶解させて6250gの水性溶媒を調製した。
【0040】
一方、36.4質量部の4−ビニルピリジン(ビニルピリジンモノマー)、43.6質量部のジビニルベンゼン(純度:55質量%)(架橋剤)、15質量部の1,2,4−トリメチルベンゼン(良溶媒)、5質量部のジオクチルフタレート(貧溶媒)を混合して3750gの油性溶媒を調製した。
【0041】
上記油性溶媒の100質量部に対して、さらに0.34質量部の2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(補助重合開始剤)、及び0.84質量部の過酸化ベンゾイル(重合剤)を溶解した後、ジャケット付きの容量10Lの懸濁重合反応器に入れた。この反応器の下部から上記にて調製した水性溶媒を供給し、油滴が均一に分散するまで緩やかに撹拌を行った。
【0042】
その後、反応器のジャケットに温水を流すことにより反応器内液を60℃まで昇温し、この温度で保持した。反応器内では徐々に重合反応が進行し始め、約80℃をピークとしてその後60℃まで低下した。60℃まで低下したのを確認した後、反応器内液を90℃まで昇温し、そのまま4時間保持した。4時間経過後、反応器内液を常温まで冷却し、ろ過により固液分離を行い、樹脂を回収した。回収した樹脂に対してさらに抽出洗浄によりポーラス剤である1,2,4−トリメチルベンゼン及びジオクチルフタレートを除去した後、篩により分級を行い、架橋4−ビニルピリジン樹脂を得た。このCR−1共重合樹脂の架橋度(全モノマーの重量に対して架橋材が占める割合で定義する)は30%であった。
【0043】
[参考例1]
上記にて作製したCR−1共重合樹脂をメスシリンダーで45mL測り取り、これを
図3に示すような内径30mm×長さ150mmの円筒形カラム10に充填して吸着塔とした。この吸着塔の塔底からフェノール(可溶性油分)を200質量ppm及びトルエン(不溶性油分)を400質量ppm含むモデル水溶液をLHSV=16h
−1で供給しながら、吸着塔の塔頂から排出される処理済み水に含まれるフェノールとトルエンの濃度を水素炎イオン化検出器付きのガスクロマトグラフィ(GC/FID)により測定して架橋ビニルピリジン樹脂(CR−1)に吸着されたフェノールとトルエンの量を定めた。そして、各々の吸着量とカラム10に充填されている樹脂11の容量からCR−1の単位容量当たりのフェノール及びトルエンの吸着容量を求めた。なお、出口濃度が1質量ppmを超えた時を破過点と定義した。
【0044】
[実施例1]
上記にて作製したCR−1共重合樹脂をメスシリンダーで45mL測り取った。一方、この45mLのCR−1共重合樹脂に含まれるピリジン基の全モル数に対して10モル%に相当する量のMeI(ヨウ化メチル)を含むメタノール溶液100mLを用意した。このメタノール溶液を45mLのCR−1共重合樹脂に添加して室温で5時間撹拌し、CR−1共重合樹脂を四級化させた。この四級化したレジンを濾過で回収し、100mLの水で5回洗浄した。このようにして得た10%四級化した樹脂を用いて上記参考例1と同じ方法で吸着容量測定試験を行った。
【0045】
[実施例2]
45mLのCR−1共重合樹脂に含まれるピリジン基の全モル数に対して10モル%に代えて20モル%に相当する量のMeIを使用した以外は上記実施例1と同様にしてCR−1共重合樹脂を四級化させ、これにより得た20%四級化した樹脂を用いて上記参考例1と同じ方法で吸着容量測定試験を行った。
【0046】
[実施例3]
45mLのCR−1共重合樹脂に含まれるピリジン基の全モル数に対して10モル%に代えて40モル%に相当する量のMeIを使用した以外は上記実施例1と同様にしてCR−1共重合樹脂を四級化させ、これにより得た40%四級化した樹脂を用いて上記参考例1と同じ方法で吸着容量測定試験を行った。
【0047】
[参考例2]
45mLのCR−1共重合樹脂に含まれるピリジン基の全モル数に対して10モル%に代えて100モル%に相当する量のMeIを使用した以外は上記実施例1と同様にしてCR−1共重合樹脂を四級化させ、これにより得た100%四級化した樹脂を用いて上記参考例1と同じ方法で吸着容量測定試験を行った。
【0048】
[比較例]
CR−1共重合樹脂の代わりに、アミン基を持つ市販のスチレン系陰イオン交換樹脂Amberlite 96SBを用いた以外は参考例1と同様にして吸着容量測定試験を行った。その結果を上記した参考例1及び2、並びに実施例1〜3と共に下記表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
図4にCR−1共重合樹脂の四級化割合がフェノール及びトルエンへの吸着容量に与える影響をプロットした。この
図4からわかるように、ピリジン基の四級化割合が0%から増えるに連れて、フェノールとトルエンの吸着容量は共に増加し、10%四級化したレジンで最大吸着容量を示す。更に四級化割合を増やすと、両者の吸着容量が減少した。100%四級化したレジンの場合、フェノールに対する吸着能力はほぼゼロになった。この結果から、ピリジン基はフェノールの吸着サイトであると推定することができる。
【0051】
なお、トルエンの吸着容量は40%四級化あたりが変曲点となっており、この部分でのトルエンの吸着容量は5%四級化でのトルエンの吸着容量とほぼ等しい。すなわち、ピリジン基全体のうちの5%以上40%以下を親水基に変えることによりフェノールとトルエンの両方を効率よく吸着させることが可能となる。この実施例ではピリジン基の一部を親水基に変えたものであるが、ピリジン基以外の芳香族環の一部をスルホン化等により親水基に変えた場合でも同様の効果が得られると推測できる。換言すれば、疎水基100モルに対して親水基のモル数の割合が(5/95)×100=5.3モル以上、(40/60)×100=67モル以下となるように調整した樹脂を用いることによりフェノールとトルエンの両方を効率よく吸着させることが可能となる。
【0052】
上記の四級化割合と吸着容量の関係は下記の様に解釈される。ピリジン基が四級化されるとピリジニウムカチオンが生成されて樹脂の親水性が増すので、水が樹脂内部の細孔まで入りやすくなり、内部にある吸着サイトと接触できるようになったと考えられる。しかし四級化割合が増えるとフェノールへの吸着サイトが減るため、当然フェノールへの吸着容量が減少する。又は親水性が高まると、疎水性のトルエンとの相互作用は逆に弱くなるため、トルエンに対する吸着容量も減ると推定する。
【0053】
[実施例4]
上記実施例1でフェノールとトルエンを破過まで吸着させた10%四級化したCR−1共重合樹脂に再生液としてのメタノールをLHSV=4h
−1で通して、出口の流出液中のフェノールとトルエンの濃度を測定して、CR−1の再生を実施した。その結果、
図5に示すように、メタノールを累積で700mLを通した時点でフェノールとトルエンとを共に1質量ppm以下にできた。このように、CR−1共重合樹脂は室温の低級アルコールで再生できることが確認できた。