特許第6280809号(P6280809)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6280809
(24)【登録日】2018年1月26日
(45)【発行日】2018年2月14日
(54)【発明の名称】研削装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 55/02 20060101AFI20180205BHJP
   B24B 7/04 20060101ALI20180205BHJP
【FI】
   B24B55/02 B
   B24B7/04 A
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-100372(P2014-100372)
(22)【出願日】2014年5月14日
(65)【公開番号】特開2015-217444(P2015-217444A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】特許業務法人東京アルパ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100087099
【弁理士】
【氏名又は名称】川村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100063174
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 功
(74)【代理人】
【識別番号】100124338
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 健
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ウィリアム ガド
【審査官】 亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−367933(JP,A)
【文献】 特開平11−347902(JP,A)
【文献】 特開昭63−306870(JP,A)
【文献】 特開2013−82061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 55/02 − 55/03
B24B 7/00 − 7/04
B24B 57/02
H01L 21/304
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持し所定の向きに回転可能な保持テーブルと、該保持テーブルで保持された被加工物を研削する環状に配設された研削砥石を含む研削ホイールを有した研削手段と、被加工物と該研削砥石とに研削液を供給する研削液供給手段と、を備えた研削装置であって、
該研削液供給手段は、被加工物に対して該研削砥石が作用する円弧状加工領域の該研削砥石より該保持テーブルの回転方向後方側から被加工物の上面に向けて研削液を供給する研削液供給口と、
該研削液供給口と該円弧状加工領域の該研削砥石との間で被加工物の上面側に所定の間隔を有し、該研削液供給口から被加工物上面に供給された研削液が該保持テーブルの回転に伴って該円弧状加工領域の該研削砥石に向かって流動する研削液供給層を形成する上壁部と、を有する研削液供給部を備え、
該研削液供給部は、該円弧状加工領域の弦と平行な軸周りに回動可能に配設され、一定圧力で該上壁部が該研削液供給層を被加工物の上面に対して押圧する研削装置。
【請求項2】
前記研削ホイールは、基台の自由端に複数の研削砥石が互いに所定の間隔を有して環状に配設され、
前記研削液供給手段は、前記円弧状加工領域より前記保持テーブルの回転方向前方側に配設され、前記研削液供給口から被加工物の上面に供給され該円弧状加工領域に到達した後に該研削砥石の外側に排出された研削液を吸引する吸引口を有する吸引部を備える請求項1に記載の研削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物に対して研削を行う研削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被加工物を研削する研削装置は、被加工物を保持する保持テーブルと、研削砥石が環状に固着された研削ホイールを有する研削手段と、被加工物と研削砥石とに研削液を供給する研削液供給手段とを少なくとも備えており、研削液供給手段によって被加工物の上面に研削液を供給しながら研削砥石で被加工物の上面を押圧して研削している。このような研削装置では、研削液供給手段によって被加工物の上面と研削砥石との間に研削液を供給しながら研削を行うため、研削砥石で被加工物を研削する際に発生する研削屑を除去することができる。また、研削液を被加工物の上面と研削砥石の研削面とが当接する加工領域に供給することで研削に伴う発熱を冷却して面焼けの発生を防止するとともに、被加工物の被研削面が粗く仕上がってしまうことも防止することができる。
【0003】
研削液供給手段としては、研削ホイールの外側に配設されたノズルを有し、該ノズルから研削砥石と被加工物とに研削液を供給するタイプのものがある(例えば下記の特許文献1を参照)。また、研削ホイールの内部に形成された研削液供給路を介して研削砥石と被加工物とに研削液を供給するタイプのものもある(例えば下記の特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−223152号公報
【特許文献2】実開平07−031268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記したような研削装置において被加工物を研削する際には、研削砥石の周囲に研削砥石の回転によって空気層が形成されており、研削液が研削砥石に到達しにくいという問題があり、また、回転する研削砥石に衝突した研削液が周囲に飛散してしまって上記加工領域に効率よく研削液が供給されない上、研削液に含まれる切削屑が被加工物上に飛散し付着してしまうという問題もある。
【0006】
本発明は、上記の事情にかんがみてなされたものであり、従来に比べて効果的に加工領域に研削液を供給できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、被加工物を保持し所定の向きに回転可能な保持テーブルと、該保持テーブルで保持された被加工物を研削する環状に配設された研削砥石を含む研削ホイールを有した研削手段と、被加工物と該研削砥石とに研削液を供給する研削液供給手段と、を備えた研削装置であって、該研削液供給手段は、被加工物に対して該研削砥石が作用する円弧状加工領域の該研削砥石より該保持テーブルの回転方向後方側から被加工物の上面に向けて研削液を供給する研削液供給口と、該研削液供給口と該円弧状加工領域の該研削砥石との間で被加工物の上面側に所定の間隔を有し該研削液供給口から被加工物上面に供給された研削液が該保持テーブルの回転に伴って該円弧状加工領域の該研削砥石に向かって流動する研削液供給層を形成する上壁部と、を有する研削液供給部を備え、該研削液供給部は、該円弧状加工領域の弦と平行な軸周りに回動可能に配設され、一定圧力で該上壁部が該研削液供給層を被加工物の上面に対して押圧する。
【0008】
上記研削ホイールは、基台の自由端に複数の研削砥石が互いに所定の間隔を有して環状に配設され、上記研削液供給手段は、前記円弧状加工領域より前記保持テーブルの回転方向前方側に配設され、前記研削液供給口から被加工物の上面に供給され該円弧状加工領域に到達した後に該研削砥石の外側に排出された研削液を吸引する吸引口を有する吸引部を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の研削装置に備える研削液供給手段は、被加工物に対して研削砥石が作用する円弧状加工領域より該保持テーブルの回転方向後方側で被加工物の上面に向けて研削液を供給する研削液供給口と、研削液供給口と円弧状加工領域の研削砥石との間で被加工物の上面側に所定の間隔を有する上壁部とを備えた研削液供給部を備えているため、被加工物の研削中は、被加工物の上面に供給された研削液が保持テーブルの回転に伴って上壁部と被加工物の上面との間を流れていき、円弧状加工領域の研削砥石の周辺において流動する研削液供給層を形成する。これにより、回転する研削砥石の周囲に発生する空気の層が研削液供給層が遮断するため、円弧状加工領域に十分に研削液を到達させることができる。
また、研削液供給手段では、研削液供給口から被加工物の上面に向けて研削液を供給することから、研削砥石の側壁に研削液が衝突して周囲に飛散するおそれも低減する。よって、従来に比べて使用する研削液の使用量を抑えるとともに、研削液を効果的に加工領域に供給することができる。更に、研削屑を含んだ研削液が飛散し被加工物上に研削屑が付着することも防止できる。
また、研削液供給部が円弧状加工領域の弦と平行な軸周りに回動可能に配設されているため、上壁部が所定の圧力で被加工物の上面に対して研削液供給層を押圧することにより、被加工物の上面と上壁部とにより区画される空間の断面積を最小にすることができ、保持テーブルの回転速度に応じて研削液供給層の流速を最適な速度に設定できる。よって、使用する研削液の使用量を抑えるとともに、研削液を効果的に円弧状加工領域に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】研削装置の一例を示す斜視図である。
図2】保持テーブルと研削ホイールとの間に配置された研削液供給手段の構成を示す斜視図である。
図3】研削液供給手段の構成及び動作状態を説明する断面図である。
図4】研削液供給手段で被加工物に研削液を供給しつつ被加工物を研削する状態を説明する平面図である。
図5】研削液供給手段の変形例の構成及び動作状態を説明する断面図である。構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示す研削装置1は、被加工物を研削加工する研削装置の一例であり、Y軸方向にのびる装置ベース2を有している。装置ベース2の上面2aには、研削前の被加工物を収容するカセット4a及び研削後の被加工物を収容するカセット4bが配設されている。カセット4aとカセット4bとの間には、研削前の被加工物をカセット4aから搬出するとともに研削後の被加工物をカセット4bへ搬入する搬送手段5が配設されている。搬送手段5の可動領域には、被加工物が仮置きされる仮置き手段6と、研削後の被加工物を洗浄する洗浄手段7とが配設されている。
【0012】
装置ベース2には、被加工物を保持し所定の向きに回転可能な保持テーブル10が配設されている。保持テーブル10の周囲は、カバー11によってカバーされており、Y軸方向にのびる蛇腹9の伸縮をともなってカバー11とともに保持テーブル10がY軸方向に往復移動可能となっている。仮置き手段6の近傍には、研削前の被加工物を仮置き手段6から保持テーブル10に搬送する第1の搬送手段8aが配設されている。また、第1の搬送手段8aに隣接して研削後の被加工物を保持テーブル10から洗浄手段7に搬送する第2の搬送手段8bが配設されている。
【0013】
装置ベース2のY軸方向後部には、Z軸方向にのびるコラム3が立設されており、コラム3の側方において昇降手段30を介して被加工物に対して研削を行う研削手段20が配設されている。研削手段20は、Z軸方向の軸心を有するスピンドル21(図2において図示する)と、スピンドル21を回転可能に囲繞するスピンドルハウジング22と、スピンドルハウジング22を支持する支持部27と、スピンドル21の一端に接続されたモータ23と、スピンドル21の下端においてマウント24を介して装着された研削ホイール25と、研削ホイール25の自由端(下部)において互いに所定の間隔を有して環状に固着された複数の研削砥石26とを備えている。研削手段20は、モータ23による駆動により研削ホイール25を所定の回転速度で回転させることができる。
【0014】
昇降手段30は、Z軸方向にのびるボールネジ31と、ボールネジ31の一端に接続されたモータ32と、ボールネジ31と平行にのびる一対のガイドレール33と、一方の面がスピンドルハウジング22を支持する支持部27に連結された昇降板34とを備えている。昇降板34の他方の面には一対のガイドレール33が摺接し。昇降板34の中央部に形成されたナットにはボールネジ31が螺合している。そして、モータ32によって駆動されてボールネジ31が回動すると、一対のガイドレール33に沿って昇降板34をZ軸方向に昇降させて研削手段20をZ軸方向に昇降させることができる。
【0015】
研削装置1は、保持テーブル10と研削ホイール26との間において、保持テーブル10が保持する被加工物と研削手段20の研削砥石26とに研削液を供給する研削液供給手段40を備えている。研削液供給手段40は、図2に示すように、保持テーブル10に保持される被加工物に対向して配設され、被加工物の上面に向けて研削液を供給する研削液供給部41と、研削液供給部41を支持する支持部材42とを備えている。
【0016】
研削液供給部41は、図3に示すように、被加工物に対して研削砥石26が作用する円弧状加工領域100における被加工物Wの上面に向けて研削液を供給する研削液供給口43と、研削液供給口43と円弧状加工領域100の研削砥石26との間で被加工物Wの上面Wa側に所定の間隔を有する空間440を形成する上壁部44とを有している。上壁部44は、研削液供給部41の下面である。円弧状加工領域100とは、図4に示す研削砥石の回転軌跡200のうち、研削砥石26が被加工物Wの上面Waを押圧して円弧状に研削作用を発揮する領域を指す。図3では明示していないが、保持テーブル10において被加工物Wを保持する保持面10aは、中心を頂点とする勾配の緩やかな円錐面(例えば直径φ200mmで頂点と横断面底面との高低差が20μm)に形成されており、保持面10aと研削砥石26の研削面260とが円弧状加工領域100において平行となるようにスピンドル21の軸心が保持テーブル10の回転軸に対して相対的に傾斜しているため、図4に示す円弧状加工領域100において研削砥石26が被加工物Wの上面Waに接触して研削が行われる。すなわち、被加工物Wの上方に位置する研削砥石26のうち、その半分が被加工物Wの上面Waに作用して研削が行われる。
【0017】
研削液供給口43は、例えば図4に示すように、複数の噴出孔430により構成されており、円弧状加工領域100に沿って形成されている。研削液供給口43には、図示しない研削液供給源が接続されている。図3に示す上壁部44は、研削液供給口43から被加工物Wの上面Waに供給された研削液を保持テーブル10の回転に伴って円弧状加工領域100に位置する研削砥石26に向けて流動させることができる。すなわち、上壁部44と被加工物Wの上面Waとによって区画された空間に沿って研削液が流れることで円弧状加工領域100の周囲に流動する研削液供給層50を形成することができる。そして、この研削液供給層50は、研削砥石26の回転によって発生する空気層を遮断する機能を有する。
【0018】
研削液供給部41は、図3に示すように、支持部材42の上端に設けられた回転軸45によって軸支されている。図4に示すように、回転軸45は、円弧状加工領域100の弦101と平行にのびる軸であり、研削液供給部41は、回転軸45の軸周りを回動可能に配設されている。そして、研削液供給部41を回転軸45の軸周りに回動させ、被加工物Wの上面Waにおいて流動する研削液供給層50を上壁部44によって一定圧力で押圧することができる。上壁部44は、自重により研削液供給層50を押圧する構成でもよいし、上壁部44を加圧することにより研削液供給層50を押圧する構成でもよい。
【0019】
なお、図示していないが、研削液供給手段40に昇降機構を備え、昇降機構によって研削液供給部41を上下方向に移動させて上壁部44の高さを被加工物の厚みに応じて調整するようにしてもよい。
【0020】
図5に示す研削液供給手段40aは、上記の研削液供給手段40の変形例である。研削液供給手段40aは、円弧状加工領域100に位置する研削砥石26より保持テーブル10の回転方向前方側に向けて研削液供給口43から被加工物Wの上面Waに供給された研削液が円弧状加工領域100に到達した後、隣り合う研削砥石26の間から外側に排出された研削液を吸引する吸引部46を備えている。吸引部46は、保持テーブル10に保持された被加工物に対面する吸引口460と、一端が吸引口460に連通するとともに他端がバルブ47を介して吸引源48に接続される吸引路461とを備えている。なお、研削液供給手段40aにおいて吸引部46を備えている点以外は、研削液供給手段40と同様の構成となっているため、同様の構成部分には研削液供給手段40と共通の符号を付してその説明は省略する。
【0021】
次に、図1に示した研削装置1の動作例について説明する。図2に示す被加工物Wは、特に材質等が限定されるものではなく、研削砥石26によって研削される面が上面Waとなっている。研削前の被加工物Wは、カセット4aに複数収容されている。
【0022】
まず、搬送手段5は、カセット4aから研削前の被加工物Wを取り出し、仮置き手段6に搬送する。仮置き手段6によって被加工物Wの位置合わせをした後、第1の搬送手段8aは、保持テーブル10に被加工物Wを搬送する。その後、保持テーブル10において被加工物Wを吸引保持するとともに、蛇腹9の伸縮をともないカバー11がY軸方向に移動し、図3に示すように、保持テーブル10を研削手段20の下方に移動させる。
【0023】
そして、図示しない回転手段によって保持テーブル10を例えば矢印B方向に回転させるとともに、研削ホイール25を例えば矢印A方向に回転させながら、図1で示した昇降手段30によって研削ホイール25を保持テーブル10に保持された被加工物Wに向けて下降させる。このようにして、回転しながら下降する研削砥石26が、図3に示すように、被加工物Wの上面Waを押圧しながら研削する。
【0024】
被加工物Wの研削中は、研削液供給手段40によって研削液を研削砥石26と被加工物Wの上面Waとに供給する。具体的には、研削液供給源が作動し、研削液供給口43から研削液を保持テーブル10の回転方向後方側で被加工物Wの上面Waに向けて供給する。図4に示すように、研削液供給口43は、円弧状加工領域100よりも保持テーブル10の回転方向後方側(上流側)に位置しており、この位置において噴出孔430から研削液を噴出する。そして、噴出孔430から噴出され被加工物Wの上面Waに供給された研削液は、図3に示した上壁部44と被加工物Wの上面Waとの間の空間440のうち、研削液供給口43と円弧状加工領域100の研削砥石26との間の所定の間隔を保持テーブル10の回転方向前方側(下流側)に流れる。すなわち、研削液供給口43から被加工物Wの上面Waに供給された研削液は、保持テーブル10の回転に伴って円弧状加工領域100の研削砥石26に向かって流動する研削液供給層50を形成する。研削液供給層50は、回転する研削砥石26の周辺に発生している空気層を遮断するため、研削液が円弧状加工領域100に到達することが阻まれることがない。
【0025】
上壁部44は、研削液供給層50を押圧してその断面積を小さくすることにより、円弧状加工領域100に向けて流れる研削液の流速を速くする。具体的には、研削液供給部41を回転軸45の軸周りを回動させ、上壁部44を保持テーブル10に保持された被加工物Wの上面Waに接近する方向に移動させて上壁部44で被加工物Wの上面Waにおいて流動する研削液供給層50を一定圧力で押圧し、被加工物Wの上面Waと上壁部44とで区画される空間440の断面積を小さくすることで空間440を流れる研削液の流速を速くすることができ、円弧状加工領域100に研削液を効率よく供給できる。なお、円弧状加工領域100に供給する研削液の流速は、保持テーブルの回転速度に応じて自動的に設定される。研削液供給部41は、研削液供給層50を過度に押圧せず、上壁部44と被加工物Wの上面Waとの間を流れる研削液の流量に応じて研削液供給部41が回転軸45の軸周りに回動し押し上げられるような圧力に設定しておくことにより、流量に応じて最速の流速が設定される。
【0026】
図示していない昇降機構によって、被加工物Wの厚みに合わせて上壁部44の高さ位置を調整してもよい。ただし、上壁部44と被加工物Wの上面Waとの間を狭くしすぎた状態で上壁部44の位置を固定すると、研削液を必要量供給することができないため、上述のように、研削液量に応じて研削液供給部41が回動し、研削液量に応じた最小間隔に調整されるようにする。なお、上壁部44の高さ位置の調整は、被加工物Wの研削前に行う。
【0027】
また、図4に示すように、回転する保持テーブル10の外周側の方が中央側よりも周速が速くなり、被加工物Wの外周側における円弧状加工領域100では図3に示した研削砥石26が被加工物Wを研削する仕事量が増えることから、研削液供給手段40は、研削砥石26の仕事量に比例させて研削液の量を増加させることが望ましい。例えば図4に示す保持テーブル10の外周側に配置される噴出孔430の径を、保持テーブル10の中央側に配置される噴出孔430の径よりも大きく形成することにより、保持テーブル10とともに回転する被加工物Wの外周側に研削液を多く供給する。このようにすれば、円弧状加工領域100の全域に多量の研削液を効率よく供給することができる。図4の例では、噴出孔430が保持テーブル10の外周側に近くなるにつれてその径が大きくなるように構成されているとともに、隣り合う噴出孔430間の間隔が、保持テーブル10の外周側に近づくほど小さくなっている。なお、図示していないが、複数の噴出孔430により構成される研削液供給口43は、円弧状加工領域100に沿った円弧状のスリット状に形成してもよい。その場合は、スリット状に形成された研削液供給口43のうち、保持テーブル10の外周側に対面する部分のスリット幅を、保持テーブル10の中央側に対面する部分のスリット幅よりも広く形成することで、円弧状加工領域100の全域に多量の研削液を効率よく供給することができる。
【0028】
図5に示す研削液供給手段40aによって、研削液を研削砥石26と被加工物Wの上面Waとに供給する場合は、上記した研削液供給手段40の動作に加えて研削砥石26の間から外側に流れた研削液を吸引することができる。具体的には、図5に示すように、被加工物Wの上面Waに供給された研削液が、研削液供給層50となって保持テーブル10の回転方向前方側に向けて流れて円弧状加工領域100に到達した後、円弧状加工領域100の研削砥石26の外側に排出されると、吸引源48からの吸引力が吸引口460において作用し、研削液を吸引口460から吸引して装置の外部に廃棄する。
【0029】
以上のようにして、研削液を円弧状加工領域100に供給しながら被加工物Wを研削することで被加工物Wが所望の厚みに達したら、図1に示した昇降手段30によって研削手段20を上昇させ研削を終了する。研削終了後、保持テーブル10を第2の搬送手段8bの可動範囲に移動させる。第2の搬送手段8bが研削後の被加工物Wを保持テーブル10から洗浄手段7に搬送して洗浄手段7において洗浄後、搬送手段5によって洗浄後の被加工物Wをカセット4bに収容する。
【0030】
本発明にかかる研削装置1では、保持テーブル10の回転方向後方側で被加工物Wの上面Waに向けて研削液を供給する研削液供給手段40を備え、被加工物Wの研削中は、円弧状加工領域100に沿って形成される研削液供給口43から被加工物Wの上面Waに向けて研削液を供給することにより、研削液が保持テーブル10の回転に伴って上壁部44と被加工物Wの上面Waとの間をつたって円弧状加工領域100に向けて流れていくため、研削砥石26の周辺に研削液供給層50を形成することができる。つまり、研削液を研削砥石26へと導く研削液導出路の一部として被加工物Wの上面Waを利用するとともに、上壁部44と被加工物Wの上面Waとで画成された研削液導出路を研削砥石26の周囲に形成される空気の層の遮断手段として利用する。これにより、回転する研削砥石26の周囲に発生する空気層を研削液供給層50が遮断するため、加工領域Pに十分に研削液を到達させることができる。
また、研削液供給手段40は、被加工物Wの上方側に配置された研削液供給口43から被加工物Wの上面Waに向けて研削液を供給するため、研削砥石26の側壁に研削液が衝突して飛散するおそれも低減する。これにより、従来のように過度に多量の研削液を被加工物Wに供給する必要がなくなる。
さらに、研削液供給部41が円弧状加工領域100の弦101と平行にのびる回転軸45の軸周りに回動可能に配設されているため、上壁部44が所定の圧力で被加工物Wの上面Waに対して研削液供給層50を押圧することにより、被加工物Wの上面Waと上壁部44とにより区画される空間の断面積を調整することができ、保持テーブル10の回転速度に応じて研削液供給層50の流速を最適な速度に設定できる。したがって、研削液の使用量を抑えつつ、円弧状加工領域100に効率よく研削液を供給することができる。
【符号の説明】
【0031】
1:研削装置 2:装置ベース 2a:上面 3:コラム
4a,4b:カセット 5:搬送手段 6:仮置き手段 7:洗浄手段
8a:第1の搬送手段 8b:第2の搬送手段 9:蛇腹
10:保持テーブル 11:カバー
20:研削手段 21:スピンドル 22:スピンドルハウジング 23:モータ
24:マウント 25:研削ホイール 26:研削砥石 27:支持部
30:昇降手段 31:ボールネジ 32:モータ 33:ガイドレール
34:昇降板
40,40a:研削液供給手段 41:研削液供給部 42:支持部材
43:研削液供給口 430:噴出孔 44:上壁部 45:回転軸
46:吸引部 460:吸引口 461:吸引路
47:バルブ 48:吸引源
50:研削液供給層
100:円弧状加工領域 101:弦 200:回転軌跡
図1
図2
図3
図4
図5