(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の電気化学素子負極用複合粒子用のスラリー組成物について説明する。本発明の電気化学素子負極用複合粒子用のスラリー組成物は、負極活物質と、粒子状結着樹脂と、水溶性樹脂とを含有し、前記負極活物質はタップ密度が0.90〜1.30g/cm
3の活物質A、およびタップ密度が0.30〜0.80g/cm
3の活物質Bを含み、前記負極活物質中の活物質Aと活物質Bとの混合比率(活物質A/活物質B)が重量比にて99/1〜50/50である。
【0013】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は「アクリル」及び「メタクリル」を意味する。さらに、「負極活物質」とは負極用の電極活物質を意味し、「負極活物質層」とは負極に設けられる電極活物質層を意味する。
【0014】
(負極活物質)
本発明の電気化学素子負極用複合粒子用のスラリー組成物(以下、「負極用スラリー組成物」と記載することがある。)に用いる負極活物質は、タップ密度が0.90〜1.30g/cm
3の活物質A、およびタップ密度が0.30〜0.80g/cm
3の活物質Bを含む。
【0015】
また、活物質Aと活物質Bとの混合比率(活物質A/活物質B)は、負極用スラリー組成物の粘度を下げることができ、負極用スラリー組成物中の固形分濃度を高めることができる観点から、重量比にて99/1〜50/50、好ましくは95/5〜60/40、より好ましくは90/10〜70/30である。
【0016】
(活物質A)
本発明に用いる活物質Aのタップ密度は、得られる複合粒子の強度の向上を図る観点から、0.90〜1.30g/cm
3、好ましくは0.90〜1.25g/cm
3、より好ましくは0.90〜1.20g/cm
3である。また、活物質Aの形状は、球状であることが好ましい。
【0017】
活物質Aとしては、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素、活性炭、熱分解炭素などの低結晶性炭素(非晶質炭素)、グラファイト(天然黒鉛、人造黒鉛)、炭素被覆黒鉛、あるいはこれら物理的性質の異なる炭素の複合化炭素材料等を好ましく用いることができる。なお、上記に例示した活物質Aは適宜用途に応じて単独で使用してもよく、複数種混合して使用してもよい。
ここで、炭素被覆黒鉛は、黒鉛粒子の表面に、この黒鉛粒子とは異なる結晶構造の炭素同位体による被覆層を設けたものである。
【0018】
黒鉛粒子の表面に被覆層を形成する方法としては、流動床式の反応炉を用いる化学蒸着処理が優れている。化学蒸着処理の炭素源として使用する有機物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン等の芳香族炭化水素や、メタン、エタン、プロパン等の脂肪族炭化水素を挙げることができる。流動床式反応炉には、これらの有機物を窒素や希ガス等の不活性ガスと混合して導入する。混合ガス中の有機物の濃度としては、2〜50モル%が好ましく、5〜33モル%がより好ましい。化学蒸着処理温度としては、850〜1500℃が好ましく、950〜1150℃がより好ましい。このような条件で化学蒸着処理を行うことにより、原料となる黒鉛粒子の表面を結晶性炭素のAB面(即ちベーサル面)で均一、かつ完全に被覆することができる。被覆層の形成に必要な炭素の量は、原料となる黒鉛粒子の粒子径及び形状によって異なるが、炭素被覆黒鉛における被覆層の炭素量として、0.1〜10重量%が好ましく、0.5〜7重量%がより好ましく、0.8〜5重量%が更に好ましい。少なすぎると被覆層の効果が得られず、逆に多すぎると、炭素被覆黒鉛中の原料となる黒鉛粒子の割合が低下するので、得られる電気化学素子の充放電量が低下する等の不都合を生じる。
【0019】
炭素源の種類および化学蒸着処理の条件により、被覆層中での炭素同素体は、ダイヤモンド状の結晶構造をとったり、グラファイト(黒鉛)状の結晶構造をとったり、その中間の非結晶の状態(両方の結晶構造が部分的に成長し、全体としては非晶質の状態)をとることができる。被覆層中での炭素同素体は、これらの2種の結晶状態であってもよいし、非結晶状態であってもよく、非結晶状態であることが好ましい。
【0020】
また、活物質Aの体積平均粒子径は、好ましくは5〜30μm、より好ましくは10〜25μmである。活物質Aの体積平均粒子径が大きすぎると得られる複合粒子の強度が低下する。また、活物質Aの体積平均粒子径が小さすぎると負極用スラリー組成物を作製することが困難となる。
【0021】
(活物質B)
本発明に用いる活物質Bのタップ密度は、0.30〜0.80g/cm
3、好ましくは0.40〜0.80g/cm
3、より好ましくは0.50〜0.80g/cm
3である。活物質Bのタップ密度が大きすぎると、得られる複合粒子の強度が低下する。また、活物質Bのタップ密度が小さすぎると、負極用スラリー組成物を作製することが困難となる。また、活物質Bの形状は、鱗片状であることが好ましい。
【0022】
活物質Bとしては、活物質Aと同様に易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素、活性炭、熱分解炭素などの低結晶性炭素(非晶質炭素)、グラファイト(天然黒鉛、人造黒鉛)、炭素被覆黒鉛、あるいはこれら物理的性質の異なる炭素の複合化炭素材料等を好ましく用いることができ、これらを単独で使用してもよく、複数種混合して使用してもよい。
【0023】
また、活物質Bの体積平均粒子径は、好ましくは5〜30μm、より好ましくは10〜25μmである。活物質Bの体積平均粒子径が大きすぎると得られる複合粒子の強度が低下する。また、活物質Bの体積平均粒子径が小さすぎると負極用スラリー組成物を作製することが困難となる。
【0024】
(粒子状結着樹脂)
本発明の電気化学素子負極用複合粒子用のスラリー組成物に用いる粒子状結着樹脂は、粒子形状を有する重合体であればよく特に限定されない。特に、粒子状結着樹脂としては、得られる電気化学素子負極電極用複合粒子内において、粒子状態を保持した状態、すなわち、負極活物質上に粒子状態を保持した状態で存在できるものが好ましい。電気化学素子負極電極用複合粒子内において、粒子状態を保持した状態で存在することにより、電子伝導を阻害することなく、負極活物質同士を良好に結着することが可能となる。なお、本発明において、“粒子状態を保持した状態”とは、完全に粒子形状を保持した状態である必要はなく、その粒子形状をある程度保持した状態であればよく、たとえば、負極活物質同士を結着した結果、これら負極活物質同士によりある程度押しつぶされたような形状となっていてもよい。
【0025】
このような粒子状重合樹脂としては、たとえば、分散媒として水を用いた乳化重合に得られた重合体などが挙げられ、この場合には、粒子状重合樹脂は、分散媒としての水に分散させた状態で用いられる。このような重合体の具体例としては、共役ジエン単量体を重合して得られる構造単位(以下、「共役ジエン単量体単位」と記すことがある。)、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を重合して得られる構造単位(以下、「エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位」と記すことがある。)、及びこれらと共重合可能な他の単量体を重合して得られる構造単位(以下、「これらと共重合可能な他の単量体単位」と記すことがある。)を含有するものが挙げられる。
【0026】
共役ジエン単量体単位を形成する共役ジエン単量体としては、たとえば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換及び側鎖共役ヘキサジエン類などが挙げられる。これら共役ジエン単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、1,3−ブタジエンが好ましい。
【0027】
粒子状結着樹脂における共役ジエン単量体単位の含有割合は、耐電解液性を良好に保ちながら、集電体との密着性を向上させることができる観点から、好ましくは20〜60重量%、より好ましくは30〜55重量%である。
【0028】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を形成するエチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのモノカルボン酸、ジカルボン酸又はジカルボン酸の無水物などが挙げられる。これらエチレン性不飽和カルボン酸単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、メタクリル酸、及びイタコン酸が好ましく、メタクリル酸がより好ましい。
【0029】
粒子状結着樹脂におけるエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合は、負極用スラリー組成物を作製した際の粘度上昇を抑えることができ、かつ、得られる負極用スラリー組成物を安定なものとする観点から、好ましくは0.5〜10重量%であり、より好ましくは1〜8重量%、さらに好ましくは2〜7重量%である。
【0030】
共重合可能な他の単量体単位を形成する他の単量体としては、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、不飽和カルボン酸アミド単量体などが挙げられる。これら他の単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体が好ましく、芳香族ビニル系単量体がより好ましい。
芳香族ビニル系単量体としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、ビニルトルエンなどが挙げられる。
【0031】
シアン化ビニル系単量体としては、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどが挙げられる。
【0032】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、たとえば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が挙げられる。
【0033】
ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体としては、たとえば、β−ヒドロキシエチルアクリレート、β−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジ−(エチレングリコール)マレエート、ジ−(エチレングリコール)イタコネート、2−ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2−ヒドロキシエチル)マレエート、2−ヒドロキシエチルメチルフマレートなどが挙げられる。
【0034】
不飽和カルボン酸アミド単量体としては、たとえば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド等が挙げられる。
これらのなかでも、粒子状結着樹脂としてスチレン−ブタジエン共重合体を用いることが好ましい。
【0035】
粒子状結着樹脂における共重合可能な他の単量体単位の含有割合は、耐電解液性を良好に保ちながら、集電体との密着性を向上させることができる観点から、好ましくは30〜79.5重量%であり、より好ましくは35〜69重量%である。
【0036】
さらに、粒子状結着樹脂には、例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等、通常の乳化重合において使用される単量体を用いてもよい。なお、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0037】
粒子状結着樹脂の重量平均分子量は、負極の強度及び負極活物質の分散性を良好にし易い観点から、好ましくは10000〜1000000、より好ましくは20000〜500000である。なお、非水溶性重合体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって、テトラヒドロフランを展開溶媒としたポリスチレン換算の値として求めることができる。
【0038】
粒子状結着樹脂のガラス転移温度は、負極の柔軟性、結着性及び捲回性、負極活物質層と集電体との密着性などの特性が高度にバランスされる観点から、好ましくは−75〜40℃以上、より好ましくは−55〜30℃、さらに好ましくは−35〜15℃である。
【0039】
通常、粒子状結着樹脂は、非水溶性の重合体となる。したがって、本発明の負極用スラリー組成物においては、粒子状結着樹脂は溶媒として好ましく用いられる水には溶解せず、粒子となって分散する。なお、重合体が非水溶性であるとは、25℃において、その重合体0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が90重量%以上となることをいう。
【0040】
また、粒子状結着樹脂の平均粒子径は、電気化学素子負極を製造とした場合の負極の強度及び柔軟性を良好なものとする観点から、好ましくは50〜500nm、より好ましくは70〜400nmである。
粒子状結着樹脂は、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を水系溶媒中で重合することにより製造される。
【0041】
単量体組成物中の各単量体の比率は、通常、バインダーとしての重合体における繰り返し単位(例えば、脂肪族共役ジエン系単量体単位、芳香族ビニル系単量体単位等)の比率と同様にする。即ち、通常、ある組成の単量体組成物を重合することにより、かかる組成で、それぞれの単量体に基づく単位を有する重合体を得ることができる。このことは、後述する酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂の製造においても同様である。
【0042】
水系溶媒としては、粒子状結着樹脂の粒子の分散が可能なものであれば格別限定されることはなく、常圧における沸点が好ましくは80〜350℃、より好ましくは100〜300℃の水系溶媒から選ばれる。以下、その水系溶媒の例を挙げる。なお、以下の例示において、溶媒名の後のカッコ内の数字は常圧での沸点(単位℃)であり、小数点以下は四捨五入または切り捨てられた値である。
【0043】
水系溶媒としては、例えば、水(100);ダイアセトンアルコール(169)、γ−ブチロラクトン(204)等のケトン類;エチルアルコール(78)、イソプロピルアルコール(82)、ノルマルプロピルアルコール(97)等のアルコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル(120)、メチルセロソルブ(124)、エチルセロソルブ(136)、エチレングリコールターシャリーブチルエーテル(152)、ブチルセロソルブ(171)、3−メトキシー3メチル−1−ブタノール(174)、エチレングリコールモノプロピルエーテル(150)、ジエチレングリコールモノブチルピルエーテル(230)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(271)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(188)等のグリコールエーテル類;1,3−ジオキソラン(75)、1,4−ジオキソラン(101)、テトラヒドロフラン(66)等のエーテル類;などが挙げられる。中でも水は可燃性がなく、粒子状結着樹脂の粒子の分散体が容易に得られやすいという観点から特に好ましい。なお、主溶媒として水を使用して、粒子状結着樹脂の粒子の分散状態が確保可能な範囲において上記記載の水以外の水系溶媒を混合して用いてもよい。
【0044】
重合方法は、特に限定されず、例えば溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。重合方法としては、例えばイオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの方法も用いることができる。高分子量体が得やすいこと、並びに、重合物がそのまま水に分散した状態で得られるので再分散化の処理が不要であり、そのまま本発明に係る負極用スラリー組成物の製造に供することができることなど、製造効率の観点から、中でも乳化重合法が特に好ましい。
【0045】
乳化重合法は、通常は常法により行う。例えば、「実験化学講座」第28巻、(発行元:丸善(株)、日本化学会編)に記載された方法で行う。すなわち、攪拌機および加熱装置付きの密閉容器に水と、分散剤、乳化剤、架橋剤などの添加剤と、重合開始剤と、単量体とを所定の組成になるように加え、容器中の組成物を攪拌して単量体等を水に乳化させ、攪拌しながら温度を上昇させて重合を開始する方法である。あるいは、上記組成物を乳化させた後に密閉容器に入れ、同様に反応を開始させる方法である。
【0046】
重合開始剤としては、例えば、過酸化ラウロイル、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等の有機過酸化物;α,α’−アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;過硫酸アンモニウム;過硫酸カリウムなどが挙げられる。なお、重合開始剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0047】
乳化剤、分散剤、重合開始剤などは、これらの重合法において一般的に用いられるものであり、通常はその使用量も一般に使用される量とする。また重合に際しては、シード粒子を採用してシード重合を行ってもよい。
【0048】
重合温度および重合時間は、重合方法及び重合開始剤の種類などにより任意に選択でき、通常、重合温度は約30℃以上、重合時間は0.5時間〜30時間程度である。
また、アミン類などの添加剤を重合助剤として用いてもよい。
【0049】
さらに、これらの方法によって得られるバインダーの粒子の水系分散液を、例えばアルカリ金属(例えば、Li、Na、K、Rb、Cs)の水酸化物、アンモニア、無機アンモニウム化合物(例えばNH
4Clなど)、有機アミン化合物(例えばエタノールアミン、ジエチルアミンなど)などを含む塩基性水溶液と混合して、pHを通常5〜10、好ましくは5〜9の範囲になるように調整してもよい。なかでも、アルカリ金属水酸化物によるpH調整は、集電体と負極活物質との結着性(ピール強度)を向上させるので、好ましい。
【0050】
上述した粒子状結着樹脂の粒子は、2種類以上の重合体からなる複合重合体粒子であってもよい。複合重合体粒子は、少なくとも1種類の単量体成分を常法により重合し、引き続き、他の少なくとも1種の単量体成分を重合し、常法により重合させる方法(二段重合法)などによっても得ることができる。このように単量体を段階的に重合することにより、粒子の内部に存在するコア層と、当該コア層を覆うシェル層とを有するコアシェル構造の粒子を得ることができる。
【0051】
本発明の負極用スラリー組成物における、粒子状結着樹脂の含有割合は、好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.5〜3重量%、さらに好ましくは1〜2重量%である。粒子状結着樹脂の含有割合が大きすぎるとリチウムイオン二次電池を作製した場合にリチウムイオンの移動が阻害され、抵抗が増加する。また、粒子状結着樹脂の含有割合が小さすぎると負極活物質同士の結着性及び集電体との密着性が低下する。
【0052】
(水溶性樹脂)
本発明の電気化学素子負極用複合粒子用のスラリー組成物に用いる水溶性樹脂とは、25℃において、高分子0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が1.0重量%未満の樹脂をいう。水溶性樹脂の具体例としては、増粘剤が挙げられる。
【0053】
増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマーおよびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリ(メタ)アクリル酸およびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリビニルアルコール、アクリル酸又はアクリル酸塩とビニルアルコールの共重合体、無水マレイン酸又はマレイン酸もしくはフマル酸とビニルアルコールの共重合体などのポリビニルアルコール類;ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、変性ポリアクリル酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体水素化物などが挙げられる。これらのなかでもカルボキシメチルセルロースを用いることが好ましい。なお、本発明において、「(変性)ポリ」は「未変性ポリ」又は「変性ポリ」を意味する。
【0054】
また、本発明の負極用スラリー組成物に用いる水溶性樹脂は、酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂を含むことが好ましい。酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂は、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含むフッ素系水溶性樹脂であることがより好ましく、カルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」と記すことがある。)とフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含むフッ素系水溶性樹脂とを併用することがさらに好ましい。
【0055】
なお、本発明において、(メタ)アクリル酸エステル単量体の中でもフッ素を含有するものは、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体として、(メタ)アクリル酸エステル単量体とは区別する。
【0056】
酸性官能基含有単量体単位を形成する酸性官能基含有単量体としては、カルボキシル基含有単量体、スルホン酸基含有単量体、リン酸基含有単量体等が挙げられる。
カルボキシル基含有単量体としては、エチレン系不飽和カルボン酸単量体、カルボキシル基を有する環状オレフィン単量体などが挙げられる。
【0057】
エチレン系不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、モノカルボン酸及びその誘導体、ジカルボン酸及びその酸無水物並びにそれらの誘導体などが挙げられる。モノカルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。モノカルボン酸の誘導体の例としては、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α−アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、β−ジアミノアクリル酸などが挙げられる。ジカルボン酸の例としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。ジカルボン酸の酸無水物の例としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。ジカルボン酸の誘導体の例としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸等のマレイン酸メチルアリル;マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキル等のマレイン酸エステルなどが挙げられる。これらの中でも、重合のしやすさ、電極の柔軟性、可とう性の観点から、アクリル酸が好ましい。
なお、エチレン系不飽和カルボン酸単量体は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0058】
スルホン酸基含有単量体としては、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、スルホエチルメタクリレート、スルホプロピルメタクリレート、スルホブチルメタクリレートなどのスルホン酸基以外の官能基を有さないスルホン酸基含有化合物;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)などのアミド基とスルホン酸基とを含有する化合物;3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(HAPS)などのヒドロキシル基とスルホン酸基とを含有する化合物;などが挙げられる。また、これらのリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などを用いることもできる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
リン酸基含有単量体単位は、リン酸基含有単量体を重合して得られる繰り返し単位である。リン酸基含有単量体が有しうるリン酸基としては、−O−P(=O)(−OR
1)−OR
2基を有する単量体(R
1及びR
2は、独立に、水素原子、又は任意の有機基である。)、又はこの塩を挙げることができる。R
1及びR
2としての有機基の具体例としては、オクチル基等の脂肪族基、フェニル基等の芳香族基等が挙げられる。
【0060】
リン酸基含有単量体としては、例えば、リン酸基及びアリロキシ基を含む化合物、及びリン酸基含有(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができる。リン酸基及びアリロキシ基を含む化合物としては、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンリン酸を挙げることができる。リン酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、ジオクチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、モノメチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジメチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、モノエチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジエチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、モノイソプロピル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジイソプロピル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、モノn−ブチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジn−ブチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、モノブトキシエチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブトキシエチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、モノ(2−エチルヘキシル)−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジ(2−エチルヘキシル)−2−メタクリロイロキシエチルホスフェートなどが挙げられる。
なお、リン酸基含有単量体は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0061】
酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂における酸性官能基含有単量体単位の含有割合は、好ましくは20〜50重量%、より好ましくは25〜45重量%、さらに好ましくは30〜40重量%である。
【0062】
また、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合して得られる繰り返し単位である。フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば、下記の式(I)で表される単量体が挙げられる。
【0063】
【化1】
前記の式(I)において、R
1は、水素原子またはメチル基を表す。
【0064】
前記の式(I)において、R
2は、フッ素原子を含有する炭化水素基を表す。炭化水素基の炭素数は、通常1以上であり、通常18以下である。また、R
2が含有するフッ素原子の数は、1個でもよく、2個以上でもよい。
【0065】
式(I)で表されるフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の例を挙げると、(メタ)アクリル酸フッ化アルキル、(メタ)アクリル酸フッ化アリール、(メタ)アクリル酸フッ化アラルキルなどが挙げられる。このような単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチル、(メタ)アクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸β−(パーフルオロオクチル)エチル、(メタ)アクリル酸2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、(メタ)アクリル酸2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチル、(メタ)アクリル酸1H,1H,9H−パーフルオロ−1−ノニル、(メタ)アクリル酸1H,1H,11H−パーフルオロウンデシル、(メタ)アクリル酸パーフルオロオクチル、(メタ)アクリル酸3[4〔1−トリフルオロメチル−2、2−ビス〔ビス(トリフルオロメチル)フルオロメチル〕エチニルオキシ〕ベンゾオキシ]2−ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸パーフルオロアルキルエステルなどが挙げられる。
なお、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体は1種類を単独で用いてもよく、
2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0066】
酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂におけるフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、好ましくは1〜30重量%、より好ましくは1.5〜25重量%、さらに好ましくは2〜20重量%である。
【0067】
酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂は、酸性官能基含有単量体単位及びフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位に加えて、これら以外の任意の単位を含みうる。水溶性樹脂中の任意の単位の割合は、好ましくは20〜79重量%、より好ましくは30〜73.5重量%、さらに好ましくは40〜68重量%である。任意の単位としては、酸性官能基含有単量体単位及びフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位と共重合しうる任意の単量体単位を採用することができる。
【0068】
任意の単量体単位としては、(i)(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、及び(ii)その他の単位を挙げることができ、好ましいものとしては、(i)(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を挙げることができる。
【0069】
(i)(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は、(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合して得られる繰り返し単位である。かかる任意の単位を与える(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、酸性官能基含有単量体及びフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体以外の、任意の(メタ)アクリル酸エステルを採用しうる。具体的には例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。
なお、(メタ)アクリル酸エステル単量体は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0070】
酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂において、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の比率は、特に限定されず、酸性官能基含有単量体単位及びフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、並びに、後述する(ii)他の任意の単位の残余とすることができる。
【0071】
(ii)その他の単位は、酸性官能基含有単量体単位及びフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位並びに前述した(メタ)アクリル酸エステル単量体単位と共重合可能な単量体単位である。かかる単位を与える単量体の例としては、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等の、2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステル単量体;スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体;アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のアミド系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のα,β−不飽和ニトリル化合物単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン類単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類単量体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類単量体;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類単量体;N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物単量体などが挙げられる。これらの単量体は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂において、(ii)その他の単位の含有割合は、好ましくは0〜10重量%、より好ましくは0〜5重量%である
【0072】
酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂の重量平均分子量は、通常は粒子状結着樹脂となる重合体よりも小さく、好ましくは100〜500000、より好ましくは500〜250000、さらに好ましくは1000〜100000である。なお、水溶性樹脂の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって、アセトニトリルの10体積%水溶液に0.85g/mlの硝酸ナトリウムを溶解させた溶液を展開溶媒としたポリエチレンオキサイド換算の値として求めることができる。
【0073】
酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂のガラス転移温度は、負極の密着性と柔軟性とを両立させる観点から、好ましくは0〜100℃、好ましくは5〜50℃である。なお、水溶性樹脂のガラス転移温度は、様々な単量体を組み合わせることによって調整可能である。
【0074】
酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂は、1重量%水溶液とした場合の粘度が、好ましくは0.1〜20000mPa・s、より好ましくは0.5〜15000mPa・s以上、さらに好ましくは1〜10000mPa・sである。前記粘度が低すぎると、水溶性樹脂の強度が低くなり負極の耐久性が低下する。また、前記粘度が高すぎると、負極用スラリー組成物の塗工性が悪化し、集電体と負極活物質層との密着強度を低下する。前記粘度は、例えば、水溶性樹脂の分子量を調整することにより調整することができる。なお、前記粘度は、E型粘度計を用いて25℃、回転数60rpmで測定した値である。
【0075】
酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂の製造方法としては、例えば、上述した酸性官能基含有単量体、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体を含む単量体組成物を、水系溶媒中で重合して製造することができる。水系溶媒としては、例えば、前記粒子状結着樹脂の製造に用いることができるものと同様のものを用いることができ、重合方法としては、粒子状結着樹脂の製造に用いることができる方法と同様の方法を用いることができる。これにより、水系溶媒に酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂が溶解した水溶液が得られる。こうして得られた水溶液から酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂を取り出してもよいが、水系溶媒に溶解した状態の酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂を用いて負極用スラリー組成物を製造し、その負極用スラリー組成物を用いて負極を製造することが好ましい。
【0076】
酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂を水系溶媒中に含有する前記の水溶液は通常は酸性であるので、必要に応じて、pH7〜pH13にアルカリ化してもよい。これにより水溶液の取り扱い性を向上させることができ、また、負極用スラリー組成物の塗工性を改善することができる。pH7〜pH13にアルカリ化する方法としては、例えば、水酸化リチウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等のアルカリ金属水溶液;水酸化カルシウム水溶液、水酸化マグネシウム水溶液等のアルカリ土類金属水溶液;アンモニア水溶液などのアルカリ水溶液を混合する方法が挙げられる。なお、前記のアルカリ水溶液は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0077】
CMCと酸性官能基含有単量体を含む水溶性樹脂とを併用する場合におけるCMCと酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂との比率(CMC/酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂)は、接点結着力が向上し、得られる複合粒子の強度が向上する観点から、重量比にて、好ましくは90/10〜50/50、より好ましくは80/20〜60/40、さらに好ましくは75/25〜65/35である。
【0078】
また、本発明の負極用スラリー組成物における水溶性樹脂の含有割合は、好ましくは0.01〜3重量%、より好ましくは0.02〜2.5重量%、さらに好ましくは0.05〜2重量%である。水溶性樹脂の含有割合が小さすぎると、負極用スラリー組成物の分散性が低下する。
【0079】
(負極用複合粒子用のスラリー組成物)
本発明の負極用複合粒子用のスラリー組成物は、負極活物質と、粒子状結着樹脂と、水溶性樹脂とを含有する。負極用スラリー組成物はこれらの成分を溶媒に分散又は溶解させることにより調製することができる。
【0080】
負極用スラリー組成物を得るための溶媒としては、通常、水が用いられる。負極活物質、粒子状結着樹脂及び水溶性樹脂を溶媒に分散又は溶解する方法又は順番としては、例えば、負極活物質と水溶性樹脂とを混合装置で攪拌混合して水性混合物を得て、この水性混合物に粒子状結着樹脂と水等の溶媒とを添加して攪拌機で混合する方法等が挙げられる。ここで、粒子状結着樹脂が分散媒としての水に分散されたものである場合には、水に分散させた状態で添加することができる。また、水溶性樹脂が水に溶解した状態である場合には、水に溶解させた状態で添加することができる。
【0081】
また、混合装置としては、たとえば、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等を用いることができる。混合は、室温〜80℃の範囲で、10分〜数時間行うことが好ましい。
【0082】
また、負極用スラリー組成物のせん断速度が10s
-1の時の粘度は、室温において、好ましくは2000mPa・s以下、より好ましくは1500mPa・s以下、さらに好ましくは1000mPa・s以下である。複合粒子用スラリーのせん断速度が10s
-1の時の粘度が高すぎると後述する造粒工程において噴霧乾燥を行うのに適さない。
【0083】
また、本発明においては、負極用スラリー組成物を調製する際に、必要に応じて、界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、ノニオニックアニオン等の両性の界面活性剤が挙げられるが、アニオン性又はノニオン性界面活性剤で熱分解しやすいものが好ましい。
【0084】
(電気化学素子負極用複合粒子)
本発明の電気化学素子負極用複合粒子(以下、「複合粒子」と記載することがある。)の製造方法は、特に限定されないが、例えば、負極用スラリー組成物を造粒することにより得ることができる。
【0085】
本発明の複合粒子は、負極活物質、粒子状結着樹脂及び水溶性樹脂を含んでなるが、前記のそれぞれが個別に独立した粒子として存在するのではなく、負極活物質、粒子状結着樹脂及び水溶性樹脂の3成分の、少なくとも2成分、好ましくは3成分で一粒子を形成するものである。また、複合粒子中において、水溶性樹脂も、粒子状で存在していてもよい。
【0086】
具体的には、前記3成分の個々の粒子の複数個が結合して二次粒子を形成しており、複数個(好ましくは数個〜数十個)の負極活物質が、粒子状結着樹脂及び/又は水溶性樹脂によって結着されて塊状の粒子を形成しているものが好ましい。
【0087】
複合粒子の造粒方法は特に制限されず、噴霧乾燥造粒法、転動層造粒法、圧縮型造粒法、攪拌型造粒法、押出し造粒法、破砕型造粒法、流動層造粒法、流動層多機能型造粒法、および溶融造粒法などの公知の造粒法により製造することができる。これらのなかでも、以下に説明する噴霧乾燥造粒法によれば、本発明の電気化学素子負極用複合粒子を比較的容易に得ることができるため、好ましい。以下、噴霧乾燥造粒法について説明する
【0088】
噴霧乾燥造粒法においては、上記のようにして得られた負極用スラリー組成物を噴霧乾燥して造粒する。噴霧乾燥は、熱風中に負極用スラリー組成物を噴霧して乾燥する方法である。負極用スラリー組成物の噴霧に用いる装置としてアトマイザーが挙げられる。アトマイザーとしては、回転円盤方式と加圧方式との二種類の装置が挙げられ、回転円盤方式は、高速回転する円盤のほぼ中央に負極用スラリー組成物を導入し、円盤の遠心力によって負極用スラリー組成物が円盤の外に放たれ、その際に負極用スラリー組成物を霧状にする方式である。回転円盤方式において、円盤の回転速度は円盤の大きさに依存するが、通常は5,000〜30,000rpm、好ましくは15,000〜30,000rpmである。円盤の回転速度が低いほど、噴霧液滴が大きくなり、得られる電気化学素子負極用複合粒子の平均粒子径が大きくなる。回転円盤方式のアトマイザーとしては、ピン型とベーン型が挙げられるが、好ましくはピン型アトマイザーである。ピン型アトマイザーは、噴霧盤を用いた遠心式の噴霧装置の一種であり、該噴霧盤が上下取付円板の間にその周縁に沿ったほぼ同心円上に着脱自在に複数の噴霧用コロを取り付けたもので構成されている。複合粒子用スラリーは噴霧盤中央から導入され、遠心力によって噴霧用コロに付着し、コロ表面を外側へと移動し、最後にコロ表面から離れ噴霧される。一方、加圧方式は、負極用スラリー組成物を加圧してノズルから霧状にして乾燥する方式である。
【0089】
噴霧される負極用スラリー組成物の温度は、通常は室温であるが、加温して室温より高い温度としてもよい。また、噴霧乾燥時の熱風温度は、通常80〜250℃、好ましくは100〜200℃である。噴霧乾燥法において、熱風の吹き込み方法は特に制限されず、たとえば、熱風と噴霧方向が横方向に並流する方式、乾燥塔頂部で噴霧され熱風と共に下降する方式、噴霧した滴と熱風が向流接触する方式、噴霧した滴が最初熱風と並流し次いで重力落下して向流接触する方式等が挙げられる。
【0090】
(電気化学素子負極材料)
電気化学素子負極電極材料は、上述した本発明の電気化学素子負極用複合粒子を含んでなる。本発明の電気化学素子負極電極用複合粒子は、単独で又は必要に応じて他の結着剤やその他の添加剤を含有させることで、電気化学素子負極材料として用いられる。電気化学素子負極材料中に含有される電気化学素子負極用複合粒子の含有量は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。
【0091】
必要に応じて用いられる他の結着剤としては、たとえば、上述した粒子状結着樹脂を用いることができる。負極用複合粒子は、すでに結着剤としての粒子状結着樹脂を含有しているため、電気化学素子負極電極材料を調製する際に、他の結着剤を別途添加する必要はないが、電気化学素子負極電極用複合粒子同士の結着力を高めるために他の結着剤を添加してもよい。また、その他の添加剤としては、水などの成形助剤等が挙げられ、これらは、本発明の効果を損なわない量を適宜選択して加えることができる。
【0092】
(電気化学素子負極)
本発明の電気化学素子負極電極は、上記電気化学素子負極電極材料からなる活物質層を集電体上に積層してなる。集電体用材料としては、たとえば、金属、炭素、導電性高分子などを用いることができ、好適には金属が用いられる。金属としては、通常、アルミニウム、白金、ニッケル、タンタル、チタン、ステンレス鋼、その他の合金等が使用される。これらの中で導電性、耐電圧性の面からアルミニウム又はアルミニウム合金を使用するのが好ましい。また、高い耐電圧性が要求される場合には特開2001−176757号公報等で開示される高純度のアルミニウムを好適に用いることができる。集電体は、フィルム又はシート状であり、その厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、好ましくは1〜200μm、より好ましくは5〜100μm、さらに好ましくは10〜50μmである。
【0093】
活物質層を集電体上に積層する際には、活物質層を電気化学素子負極電極材料をシート状に成形し、次いで集電体上に積層してもよいが、集電体上で電気化学素子負極電極材料を直接加圧成形する方法が好ましい。加圧成形としては、たとえば、一対のロールを備えたロール式加圧成形装置を用い、集電体をロールで送りながら、スクリューフィーダー等の供給装置で電気化学素子負極電極材料をロール式加圧成形装置に供給することで、集電体上で、活物質層を成形するロール加圧成形法や、電気化学素子負極材料を集電体上に散布し、電気化学素子負極材料をブレード等でならして厚みを調整し、次いで加圧装置で成形する方法、電気化学素子負極材料を金型に充填し、金型を加圧して成形する方法などが挙げられる。これらのなかでも、ロール加圧成形法が好ましい。
【0094】
ロール加圧成形時の温度は、活物質層と集電体との密着性を十分なものとすることができる観点から、好ましくは25〜200℃であり、より好ましくは50〜150℃、さらに好ましくは80〜120℃である。また、ロール加圧成形時のロール間のプレス線圧は、活物質層の厚みの均一性を向上させる観点から、好ましくは10〜1,000kN/m、より好ましくは200〜900kN/m、さらに好ましくは300〜600kN/mである。また、ロール加圧成形時の成形速度は、好ましくは0.1〜20m/分、より好ましくは1〜10m/分である。
【0095】
また、成形した電気化学素子負極の厚みのばらつきを無くし、活物質層の密度を上げて高容量化をはかるために、必要に応じてさらに後加圧を行ってもよい。後加圧の方法は、ロールによるプレス工程が一般的である。ロールプレス工程では、2本の円柱状のロールをせまい間隔で平行に上下にならべ、それぞれを反対方向に回転させて、その間に電極をかみこませることにより加圧する。この際においては、必要に応じて、ロールは加熱又は冷却等、温度調節してもよい。
このようにして得られる電気化学素子負極は、リチウムイオン二次電池などの各種電気化学素子用の負極電極として好適に用いることができる。
【0096】
本発明の電気化学素子負極用複合粒子用のスラリー組成物及び電気化学素子負極用複合粒子の製造方法によれば、強度に優れた複合粒子を得ることができる。即ち、負極用スラリー組成物の粘度を低くすることで、複合粒子を造粒する際のスラリーの固形分濃度を高くすることができる。その結果、複合粒子内の密度が増加するため、強度に優れた複合粒子を得ることができる。
【0097】
また、本発明の電気化学素子負極用複合粒子は上記負極用スラリー組成物を造粒することにより得られる。この複合粒子は、強度に優れるため、造粒工程以降の工程での複合粒子の破壊を抑制することができ、適用設備の選択性が拡大する。
【実施例】
【0098】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、重量基準である。
実施例及び比較例における評価は以下のように行った。
【0099】
(評価項目)
1) スラリー粘度
スラリーの粘度を、温度25℃、せん断速度10s
-1の条件下、二重円筒型回転粘度計で測定し、下記基準により評価した。結果を表1に示す。
A:1000mPa・s以下
B:1000mPa・s以上、2000mPa・s未満
C:スラリー作製不可
【0100】
2) 複合粒子強度I
複合粒子の強度は、微小圧縮試験機(株式会社島津製作所製:MCT−W500)を用い、室温で粒子の中心方向へ荷重負荷速度4.46mN/secで圧縮し、測定した。圧縮変位が急激に増加した時点を圧壊点として、圧壊強度(MPa)を算出した。測定は体積平均径相当の粒子を選択して行い、計5回の測定平均値を圧壊強度とし、下記基準にて評価した。なお、圧壊強度が高いほど、活物質同士の密着強度が高く、複合粒子としての強度が高いと判断できる。結果を表1に示す。
A:圧壊強度が1.00MPa以上
B:圧壊強度が0.90MPa以上、1.00MPa未満
C:圧壊強度が0.80MPa以上、0.90MPa未満
D:圧壊強度が0.80MPa未満、または5.0MPa以上
【0101】
3) 複合粒子強度II
複合粒子の強度は、乾式レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製:マイクロトラックMT−3200II)を用い、圧縮空気を使用しないで分散させたときと、圧縮空気圧力0.15MPaで分散させたときの粒度分布変化を下記基準にて評価した。なお、粒度分布変化が小さいほど、活物質同士の密着強度が高く、複合粒子としての強度が高いと判断でき、1次粒子である活物質の粒度分布に近づくほど、強度が低いと判断できる。結果を表1に示す。
A:変化しない、または小粒径側にショルダーが発現する
B:ダブルピーク形状になる
C:ピーク位置が1次粒子径側にシフトしたシングルピークになる
【0102】
[実施例1]
以下の手順で、実施例1の負極用スラリー組成物および複合粒子を製造した。
(a)負極用スラリー組成物の製造
負極活物質として活物質A(球状の非晶質被覆黒鉛(体積平均径22μm、タップ密度1.01g/cm
3))と活物質B(鱗片状の非晶質被覆黒鉛(体積平均径16μm、タップ密度0.65g/cm
3))との混合比率(活物質A/活物質B)が重量比にて80/20である混合物を98部、カルボキシメチルセルロース(第一工業製薬社製)を0.7部、酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂0.3部とイオン交換水を攪拌機で攪拌混合し混合物を得た。そこにジエン系重合体を固形分換算量で1部加えて混合し、スラリー組成物を得た。なお、酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂としては、酸性官能基含有単量体としてメタクリル酸を32.5部、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体として2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートを7.5部、(メタ)アクリル酸エステル単量体を60部仕込んで重合したものを用いた。また、ジエン系重合体としては、スチレンーブタジエン共重合体(以下、「SBR」とも記載する。)を用いた。また、得られた負極用スラリー組成物のせん断速度が10s
-1の時の粘度は800mPa・sであった。
【0103】
(b)負極用複合粒子の製造
上記で得た負極用スラリー組成物を、スプレー乾燥機(大川原化工機社製)に供給し、回転円盤方式のアトマイザー(直径65mm)を用いて、回転数25000rpm、熱風温度150℃、粒子回収出口温度90℃の条件で噴霧乾燥し、体積平均粒子径が65μmの負極用複合粒子を得た。なお、得られた複合粒子の粒度分布は乾式レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製:マイクロトラックMT−3200II)を用いて測定し、圧壊強度は微小圧縮試験機((株)島津製作所製:MCT−W)を用いて測定した。
【0104】
[実施例2]
体積平均径25μm、タップ密度0.90g/cm
3の活物質Aを用いた以外は、実施例1と同様に負極用スラリー組成物および複合粒子の製造を行った。
【0105】
[実施例3]
体積平均径20μm、タップ密度1.20g/cm
3の活物質Aを用いた以外は、実施例1と同様に負極用スラリー組成物および複合粒子の製造を行った。
【0106】
[実施例4]
体積平均径10μm、タップ密度0.35g/cm
3の活物質Bを用いた以外は、実施例1と同様に負極用スラリー組成物および複合粒子の製造を行った。
【0107】
[実施例5]
体積平均径13μm、タップ密度0.50g/cm
3の活物質Bを用いた以外は、実施例1と同様に負極用スラリー組成物および複合粒子の製造を行った。
【0108】
[実施例6]
負極活物質として活物質Aと活物質Bの混合比率(活物質A/活物質B)が重量比にて90/10の負極活物質を用いた以外は、実施例1と同様に負極用スラリー組成物および複合粒子の製造を行った。
【0109】
[実施例7]
負極活物質として活物質Aと活物質Bの混合比率(活物質A/活物質B)が重量比にて70/30の負極活物質を用いた以外は、実施例1と同様に負極用スラリー組成物および複合粒子の製造を行った。
【0110】
[実施例8]
カルボキシメチルセルロースを1部用い、酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂を用いなかった以外は、実施例1と同様に負極用スラリー組成物および複合粒子の製造を行った。
【0111】
[比較例1]
体積平均径30μm、タップ密度0.85g/cm
3の活物質Aを用いた以外は、実施例1と同様に負極用スラリー組成物および複合粒子の製造を行った。
【0112】
[比較例2]
体積平均径16μm、タップ密度1.33g/cm
3の活物質Aを用いた以外は、実施例1と同様に負極用スラリー組成物および複合粒子の製造を行った。
【0113】
[比較例3]
体積平均径5μm、タップ密度0.25g/cm
3の活物質Bを用いた以外は、実施例1と同様に負極用スラリー組成物および複合粒子の製造を行った。
【0114】
[比較例4]
体積平均径30μm、タップ密度0.85g/cm
3の活物質Bを用いた以外は、実施例1と同様に負極用スラリー組成物および複合粒子の製造を行った。
【0115】
[比較例5]
負極活物質として活物質Bを用いなかった以外、即ち、活物質Aと活物質Bの混合比率(活物質A/活物質B)が重量比にて100/0の負極活物質を用いた以外は、実施例1と同様に負極用スラリー組成物および複合粒子の製造を行った。
【0116】
[比較例6]
負極活物質として活物質Aと活物質Bの混合比率(活物質A/活物質B)が重量比にて40/60の負極活物質を用いた以外は、実施例1と同様に負極用スラリー組成物および複合粒子の製造を行った。
【0117】
【表1】
【0118】
表1に示すように、負極活物質と、粒子状結着樹脂と、水溶性樹脂とを含有し、負極活物質はタップ密度が0.90〜1.30g/cm
3の活物質A、およびタップ密度が0.30〜0.80g/cm
3の活物質Bを含み、負極活物質中の活物質Aと活物質Bとの混合比率(活物質A/活物質B)が重量比にて99/1〜50/50である負極用スラリー組成物の粘度は低く、この負極用スラリー組成物を噴霧乾燥して得られる複合粒子の強度は良好であった。