【実施例】
【0045】
以下、調製例、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、組成比(モル比)は仕込み比から算出した。
【0046】
[調製例1]薄膜形成用組成物Aの調製
20mL四口フラスコにジアミン成分として、
15Nで標識されたp−フェニレンジアミン(p−PDA−
15N、Aldrich製)0.243g(2.25mmol)、4−オクタデシルオキシ−1,3−ジアミノベンゼン(APC18)0.094g(0.25mmol)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)3.70g、γ−ブチロラクトン(GBL)3.70gを加え、約10℃に冷却し、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)0.485g(2.50mmol)を加え、室温に戻し窒素雰囲気下24時間反応させ、ポリアミック酸(ポリマーA)の濃度10質量%の溶液を得た。ポリマーA中の各構成単位の組成比は、CBDA:p−PDA−
15N:APC18=1.0:0.9:0.1であった。
上記ポリマーA溶液8.22gを50mL三角フラスコに移し、GBL2.74g及びブチルセロソルブ(BC)2.74gを加えて希釈し、ポリマーAが6質量%、GBLが47質量%、NMPが27質量%、BCが20質量%の薄膜形成用組成物Aを調製した。
【0047】
[調製例2]薄膜形成用組成物A’の調製
p−PDA−
15Nの代わりに
15Nで標識されていないp−PDAを用いた以外は調製例1と同じ方法でポリマーA’を合成し、薄膜形成用組成物A’を調製した。ポリマーA’中の各構成単位の組成比は、CBDA:p−PDA:APC18=1.0:0.9:0.1であった。
【0048】
[調製例3]薄膜形成用組成物Bの調製
30mL四口フラスコにジアミン成分として、4,4’−ジアミノジフェニルアミン(DADPA)0.996g(5.00mol)、NMP8.23g、GBL8.23gを加え、約10℃に冷却し、CBDA0.902g(4.60mmol)を加え、室温に戻し窒素雰囲気下24時間反応させ、ポリアミック酸(ポリマーB)の濃度10質量%の溶液を得た。ポリマーB中の各構成単位の組成比は、CBDA:DADPA=1.0:1.0であった。
上記ポリマーB溶液15gを50mL三角フラスコに移し、GBL5.00g及びBC5.00gを加えて希釈し、ポリマーBが6質量%、GBLが47質量%、NMPが27質量%、BCが20質量%の薄膜形成用組成物Bを調製した。
【0049】
[調製例4]モデル試料の作製
図1に、作製した2層分離構造モデル試料の断面図を示す。まず、ITO基板3上に上記薄膜形成用組成物Bをスピンコート法によって塗布し、下記成膜条件にしたがってポリマーB層2を形成した。成膜後、ポリマーB層2上に上記薄膜形成用組成物Aをスピンコート法によって塗布し、下記成膜条件にしたがってポリマーA層1を形成し、実施例1用の2層分離構造のモデル試料を作製した。
また、上記薄膜形成用組成物A’を用いてポリマーA’層1を形成した以外は上記方法と同じ方法で比較例1用の2層分離構造モデル試料を作製した。
【0050】
成膜条件:一層目(ポリマーB層)予備乾燥70℃、70sec、焼成250℃、10min、膜厚120nm、
二層目(ポリマーA(A’)層)焼成250℃、10min、膜厚120nm(膜厚合計240nm)
【0051】
[実施例1、比較例1]
調製例4で作製した2層分離構造モデル試料に対し、ION TOF社製TOF−SIMS5を用いて深さ方向にスパッタイオンによるスパッタリングを行い、その後、一次イオンを照射して試料から放出される安定同位体を含む二次イオンのTOF−SIMSスペクトルを負イオンモードで取得した。一次イオンとしてビスマス三量体クラスターの2価の正イオンを用い、スパッタイオンとしてセシウムの正イオンを用いた。また、スパッタリング面積は300μm×300μmとし、スパッタ分析面積は100μm×100μmとした。スパッタリングとTOF−SIMS測定を繰り返すことで、試料表面から深さ方向への安定同位体によるフラグメントイオンの分布を評価した。
【0052】
そして、スパッタ時間を横軸に、当該スパッタ時間における二次イオンの検出強度を縦軸にとって測定値をプロットし、スパッタ時間と二次イオン強度との関係をグラフ化することによりデプスプロファイルを取得し、2層分離構造を評価した。なお、TOF−SIMSの測定条件は以下のとおりである。
【0053】
一次イオン:25keV Bi
32+、0.2pA(パルス電流値)、ランダムスキャンモード
一次イオンスキャン範囲(測定領域):100μm×100μm
一次イオンのパルス周波数:10kHz(100μs/shot)
一次イオンのビーム径:約5μm
二次イオン検出モード:negative
スキャン数:1scan/cycle
(帯電補正としてフラットガンを使用)
<スパッタリング条件>
スパッタイオン:Cs
+(35nA、500eV)
スパッタリング領域:300μm×300μm
【0054】
実施例1であるポリマーAを用いたモデル試料の結果を
図2に、比較例1であるポリマーA’を用いたモデル試料の結果を
図3に示す。
図2に示されるように、安定同位体を導入したポリマーAを用いた2層分離構造のモデル試料の場合、ポリマーA層とポリマーB層の境界が可視化され、2層分離構造を分析できた。
一方、
図3に示されるように、安定同位体を導入していないポリマーA’を用いた2層分離構造のモデル試料の場合、ポリマーA’層とポリマーB層の境界を把握できなかった。
【0055】
次に、本発明の実施例1で示したモデル試料よりも薄い構造体に本発明の手法を適用した別の実施態様について以下に説明する。
【0056】
[調製例5]ポリマーCの調製
20mL四口フラスコにジアミン成分として、p−PDA−
15N(Aldrich製)0.243g(2.25mmol)、APC18を0.094g(0.25mmol)、NMP4.35gを加え、約10℃に冷却し、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物(TDA)0.750g(2.50mmol)を加え、窒素雰囲気下、40℃で16時間反応させ、ポリアミック酸(PAA−1)の濃度20質量%の溶液を得た。
上記PAA−1溶液5.44gに、NMP12.69gを加えて希釈し、無水酢酸0.57g及びピリジン0.24gを加え、50℃で3時間反応させた。この反応溶液を室温程度まで冷却後、約10℃に冷やしたメタノール70mL中に攪拌しながらゆっくり注ぎ、固体を析出させた。沈殿した固体を回収し、更に70mLのメタノールで2回分散洗浄し、100℃で減圧乾燥することで、ポリイミド(ポリマーC)の白色粉末を得た。ポリマーC中の各構成単位の組成比は、TDA:p−PDA−
15N:APC18=1.0:0.9:0.1であった。
【0057】
[調製例6]モデル試料の作製
1gの上記ポリマーCをGBL12.00gとBC2.22gとの混合溶媒に溶解し、薄膜形成用組成物Cを調製した。
図1(実施例1と同じ形態)に、作製した2層分離構造モデル試料の断面図を示す。まず、ITO基板3上に上記薄膜形成用組成物Bをスピンコート法によって塗布し、下記成膜条件にしたがってポリマーB層2を形成した。成膜後、ポリマーB層上に上記薄膜形成用組成物Cをスピンコート法によって塗布し、下記成膜条件にしたがってポリマーC層1を形成し、実施例2用の2層分離構造のモデル試料を作製した。
【0058】
成膜条件:一層目(ポリマーB層)予備乾燥70℃、70sec、焼成250℃、10min、膜厚60nm、
二層目(ポリマーC層)焼成250℃、10min、膜厚60nm
(膜厚合計120nm)
【0059】
[実施例2、比較例2]
調製例6で作製した2層分離構造モデル試料に対し、実施例1と同様に試料表面から深さ方向への安定同位体によるフラグメントイオンの分布を評価した。ただし、スパッタリング面積は200μm×200μmとし、スパッタ分析面積は60μm×60μmとした。TOF−SIMSの測定条件は以下のとおりである。
【0060】
一次イオン:25keV Bi
32+、0.2pA(パルス電流値)、ランダムスキャンモード
一次イオンスキャン範囲(測定領域):60μm×60μm
一次イオンのパルス周波数:10kHz(100μs/shot)
一次イオンのビーム径:約5μm
二次イオン検出モード:negative
スキャン数:1scan/cycle
(帯電補正としてフラットガン及び酸素ガス(真空度:1.0×10
-6mbar)を使用)
<スパッタリング条件>
スパッタイオン:Cs
+(20nA、500eV)
スパッタリング領域:200μm×200μm
【0061】
実施例2であるポリマーCを用いたモデル試料の結果を
図4に示す。
図4に示したように、安定同位体を導入したポリマーCを用いた2層分離構造のモデル試料の場合でもポリマーC層とポリマーB層の境界が可視化され、2層分離構造を分析できた。
これより、本発明の方法は、膜厚120nm程度の極薄膜構造体の層分離構造を分析するのにも適していることが証明された。
【0062】
[調製例7]オリゴアニリン化合物の合成
国際公開第2008/129947号に記載の方法にしたがって、下記式(1)で表されるオリゴアニリン化合物を合成した。
【化1】
【0063】
[調製例8]電荷受容性ドーパントの合成
国際公開第2006/025342号に記載の方法にしたがって、下記式(2)で表される電荷受容性ドーパントを合成した。
【化2】
【0064】
[調製例9]有機膜形成用材料の調製
式(1)で示されるオリゴアニリン化合物と式(2)で示される電荷受容性ドーパントとを1:1のモル比で、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)とシクロヘキサノールとの混合溶媒(組成比=2:4(質量比))に、固形分濃度3質量%になるように溶解し、更にその固形分に対して10質量%のトリフルオロプロピルトリメトキシシラン及びフェニルトリメトキシシラン(ともに信越シリコーン(株)製)(質量比1:2)を添加して有機膜形成用材料を調製した。
【0065】
[調製例10]分析用モデル試料の作製
図1に示すように、調製例3で調製した有機膜形成用材料をITO基板3上にスピンコート法によって塗布し、220℃で15分間加熱処理して有機膜2を形成した。上記有機膜2の厚さは50nmとした。
更に、メイワフォーシス(株)製の親水化処理機能付カーボンコーター(CADE−E)を用いて、真空度0.5〜1Pa、プリヒート時間5秒、蒸着時間1.8秒の条件で、真空蒸着法によって有機膜2の表面にカーボンコーティング層1(厚さ約35nm)を形成し、実施例用の試料とした。なお、カーボン源として黒鉛繊維(メイワフォーシス(株)製、高純度分析用カーボンファイバー(商品名))を用いた。また、カーボンコーティングを施さない試料を比較例用とした。
【0066】
[実施例3、比較例3]
ION TOF社製TOF−SIMS5を用いて、実施例用と比較例用のモデル試料に対し、それぞれ深さ方向にスパッタリングイオンによるスパッタリングを行い、その後、一次イオンを照射して試料から放出される分析対象物質(シラン添加剤)由来の二次イオンのTOF−SIMSスペクトルを、負イオンモードで取得した。一次イオンとしてビスマス三量体クラスターの2価の正イオンを用い、スパッタイオンとしてセシウムの正イオンを用いた。また、スパッタリング面積は200μm×200μmとし、スパッタ分析面積は50μm×50μmとした。スパッタリングとTOF−SIMS測定を繰り返すことで、シラン添加剤由来のフラグメントイオンの試料表面から深さ方向の分布を評価した。実施例及び比較例におけるTOF−SIMSの測定条件を以下に示す。
【0067】
一次イオン:25keV Bi
32+、0.2pA(パルス電流値)、ランダムスキャンモード
一次イオンスキャン範囲(測定領域):50μm×50μm
一次イオンのパルス周波数:10kHz(100μs/shot)
一次イオンのビーム径:約5μm
二次イオン検出モード:negative
スキャン数:1scan/cycle
(帯電補正としてフラットガンを使用)
<スパッタリング条件>
スパッタリングイオン:Cs
+(35nA、500eV)
スパッタリング領域:200μm×200μm
【0068】
スパッタ時間を横軸に、当該スパッタ時間における二次イオンの検出強度を縦軸にとって測定値をプロットし、スパッタ時間と二次イオン強度との関係をグラフ化することによってデプスプロファイルを取得し、シラン添加剤の膜内分布を評価した。実施例3の結果を
図6に、比較例3の結果を
図7に示す。
【0069】
図6及び
図7において、横軸(スパッタ時間)は試料表面からの深度を表し、縦軸(検出強度)は各イオンの濃度を表す。
図6から明らかなように、シラン添加剤の構成原子であるSiに着目することで、有機膜におけるシラン添加剤の表面偏在状態を分析することができた。