(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンとを必須成分としてポリアミド酸を合成する工程と、該ポリアミド酸を含む溶液からポリイミド前駆体溶液組成物を調製する工程と、該溶液組成物を支持体に塗布して自己支持性フィルムを生成する工程と、60〜150℃で2分〜5時間乾燥して、溶媒及び生成水分からなる揮発分含有量が25〜40質量%となった該自己支持性フィルムを支持体から剥離する工程と、剥離したフィルムを乾燥し、引き続き加熱キュアしてイミド化する工程とを有する平坦なポリイミドフィルムの製造方法において、
前記の剥離工程において、剥離した自己支持性フィルムの大気接触面に対して溶媒(ただし、カップリング剤を含まない)を噴霧あるいは塗布し、かつ自己支持性フィルムの支持体接触面に対して該溶媒を噴霧あるいは塗布せずに、該フィルムの支持体接触面に対する大気接触面の溶媒含有比を0.7〜1.3の範囲とすることで、得られるフィルムの線膨張係数が、大気接触面と支持体接触面の絶対値差として、3.5ppm/℃以下となることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
フィルムの平坦性が、50mm角の正方形状のサンプルを温度23℃、湿度50%RHの雰囲気で、24時間放置後、サンプルを定盤に置き、反りの状態で確認されることを特徴とする請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
得られたフィルムが、銅ポリイミド二層基板(CCL)を用いたチップ・オン・フィルム(COF)用フィルムの基材となることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリイミドフィルムは、ピロメリット酸二無水物あるいは3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸成分とp−フェニレンジアミンなど芳香族ジアミン成分とを必須成分として合成され、耐熱性、耐寒性、耐薬品性、電気絶縁性、機械的強度等において優れた特性を有することから、種々の分野で広く利用されている。特にその優れた耐熱性、高弾性率に着目して、高精度が求められるチップ・オン・フィルム(COF)用フィルム、COF原料である銅ポリイミド二層基板(CCL)の基材として適している。
【0003】
一般的なポリイミドフィルムの製膜では、回転するドラム状またはベルト状の加熱支持体上にポリアミド酸溶液(前駆体溶液)がフィルム状に連続的に押出又は塗布され、支持体上で溶媒除去され前駆体フィルム(ポリアミド酸自己支持性フィルム)が得られる。次いで前駆体フィルムは前記支持体から剥離され、搬送されながら加熱または触媒により脱水環化反応(イミド化反応)されポリイミドフィルムが製膜される。
当該前駆体フィルムは、溶媒を少なからず保有しており、フィルムは一般的に乾燥されるに従って収縮するため、搬送にはフィルムの幅方向の両側端部を多数のピンやクリップで保持しフィルムの幅方向を張設するテンター搬送装置が用いられる(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、従来のポリイミドフィルムでは、フィルム製造時の残留応力、大気接触面と支持体接触面の配向の度合い、および巻取り時の張力などに起因してフィルムの縦方向で反りが発生してしまう。特に製膜工程の熱履歴の影響で生じるフィルム大気接触面と支持体接触面の配向(面内配向性)の度合いの差が、反りの大きな原因のひとつとなる。
【0005】
このような問題を解決するため、下記に示すようなポリイミド製膜工程の改善が提案されている。
例えば、特許文献2では、支持体上で溶媒除去された前駆体フィルム(ポリアミド酸自己支持性フィルム)を剥離する際、前駆体フィルム延伸倍率が1.01〜1.2倍になるようにテンター搬送装置を用いて張力を制御することで、延伸による前駆体フィルム表裏の配向差を小さくし、製膜されるポリイミドフィルムの反りを低減させている。
【0006】
しかしながら、この方法は加熱溶媒除去時に生じた前駆体フィルム表裏の配向性またはイミド化率の差がフィルム反りに影響する場合には効果的ではない。前駆体フィルムの溶媒揮発は大気面に限られるため溶媒揮発時の反応熱により大気接触面と支持体接触面で温度の差が生じ前駆体フィルム表裏でイミド化率に差が出ることがある。また溶媒揮発時のマイグレーションにより前駆体フィルム表裏で配向性が変化する場合もある。
【0007】
また、特許文献3では、支持体温度と比べ大気雰囲気温度を1〜55℃高くして前駆体フィルム表裏のイミド化率の差を抑制することで300℃熱処理後の反りを低減する方法が提案されている。しかし、大気面の温度を高くすることで溶媒揮発が促進され、前駆体フィルム表裏の面内配向に差が出る場合がある。
【0008】
また、特許文献4では、支持体から剥離させた前駆体フィルムに対し両面乾燥工程を導入することで前駆体フィルム表裏のイミド化率の差を抑制する方法が提案されている。しかし、一旦支持体上で形成された前駆体フィルム表裏のイミド化率の差または面内配向の差がその後に両面から溶媒揮発によって変化する割合は限定的なものであり、十分な効果は期待できない。
【0009】
さらに、特許文献5では、キュア炉内の加熱温度を調整する方法が提案され、イミド化反応時の最高加熱温度以降の冷却温度を制御しており、特許文献6では、熱風加熱の代わりにIR加熱を採用し、フィルム走行部の下部に輻射板を設置することにより表裏均一に加熱することが提案されている。しかし、これらの方法では、加熱温度ムラによりフィルムの局所的なタルミが生じて平面性が悪化する場合がある。
【0010】
ところで、芳香族ポリイミドフィルムのなかでも、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸成分とp−フェニレンジアミン成分とを必須成分とするポリイミドフィルムは、特に高耐熱性で耐薬品性に優れ高弾性率であることから、本出願人もその優れた耐熱性、高弾性率に着目して、高精度が求められるチップ・オン・フィルム(COF)用フィルム、COF原料である銅ポリイミド二層基板(CCL)に用いる基材として適したフィルムを開発している(特許文献7)。
【0011】
電子機器の小型化・薄型化に伴い、使用されるCOFの配線ピッチ(配線幅およびスペース幅)も狭くなっており、これに対応できるよう高密度で精密な配線加工用CCLが求められ、導体層(銅層)の厚みを薄くでき、且つ厚みを自由に制御できるCCLが注目されている。該CCLはポリイミドフィルムの片面に金属層をめっきして形成されるが、表面に高密度で精密な配線を形成するために反りが極めて少ないことが要求されている。
反り量が極めて少ないことは、CCLの基材であるポリイミドフィルムにも同様に求められるが、この要求に応えられるようなフィルムはまだ得られていない。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明のポリイミドフィルムの製造方法、得られたポリイミドフィルムを用いたCOFやCCLなどについて項目毎に詳細に説明する。なお、本発明は、以下の詳細な説明によって限定的に解釈されるものではない。
【0019】
1.ポリイミドフィルムの製造方法
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、ポリアミド酸溶液の生成工程と、生成したポリアミド酸溶液に適宜無機フィラー等を添加するポリイミド前駆体溶液組成物の生成工程と、ポリイミド前駆体溶液組成物を支持体に塗布して自己支持性フィルムを生成するポリイミド前駆体溶液の塗布工程と、生成した自己支持性フィルムを支持体から剥離する工程と、自己支持性フィルムを乾燥しイミド化する工程とを有する。
【0020】
(1−1)ポリアミド酸溶液の生成工程
ポリアミド酸溶液の使用原料としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物および/またはピロメリット酸二無水物などの芳香族テトラカルボン酸二無水物と、p−フェニレンジアミンおよび/または4,4‘―ジアミノジフェニルエーテルなどの芳香族ジアミンが一般的であるが、本発明では、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物およびp−フェニレンジアミンを必須成分として使用する。
【0021】
しかし、本発明の効果を損なわない範囲で、他の芳香族テトラカルボン酸二無水物あるいは他の芳香族ジアミン成分、例えば1,3―ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3―ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、oートリジン、m−トリジンなどの他の芳香族ジアミンで一部を置き換えてもよい。
【0022】
ポリアミド酸溶液の生成工程では、先ず前記芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとをN、N―ジメチルアセトアミドやN−メチル−2−ピロリドンなどの有機極性溶媒中で、好ましくは10〜80℃で1〜30時間重合する。
これにより、固有粘度(測定温度30℃、濃度0.5g/dl溶媒、溶媒:N−メチル−2−ピロリドン)が1.5〜5で、ポリマー濃度が1.5〜25質量%であり、回転粘度(25℃)が500〜4500Pa・sであるポリアミド酸溶液を生成する。
【0023】
(1−2)ポリイミド前駆体溶液組成物の生成工程
次に、生成されたポリアミド酸溶液に、リン化合物や無機フィラーあるいは有機フィラーを所定量添加してポリイミド前駆体溶液組成物を生成する。
リン化合物は、ポリアミド酸100質量部に対して0.01〜5質量部、特に0.01〜3質量部添加するのが好ましく、中でも(ポリ)リン酸エステル、リン酸エステルのアミン塩などの有機リン化合物、あるいは無機リン化合物を0.01〜1質量部の割合で添加する。
さらには無機フィラーあるいは有機フィラーを、特にポリアミド酸100質量部に対して0.1〜3質量部添加するのが好ましい。無機フィラーとしてはコロイダルシリカ、窒化珪素、タルク、酸化チタン、リン酸カルシウムが挙げられ、平均粒径0.005〜2μm、特に0.005〜1μmのものを添加してポリイミド前駆体溶液組成物を生成するのがより好ましい。
【0024】
(1−3)ポリイミド前駆体溶液組成物の塗布工程
この工程は、ポリイミド前駆体溶液組成物を平滑な表面を有する金属製またはガラス製の支持体表面に連続的に流延して前記溶液の薄膜を形成し、加熱乾燥する工程である。
この工程で薄膜を60〜150℃、2分〜5時間加熱乾燥することで、固化した自己支持性フィルムが生成する。
固化フィルム中、前記溶媒及び生成水分からなる揮発分含有量が25〜40質量%程度の自己支持性フィルムを生成するのが好ましい。この自己支持性フィルムにフェニルシランカップリング剤などの表面処理剤と塗布処理してもよいし、これをさらに乾燥してもよい。
【0025】
(1−4)自己支持性フィルムの剥離工程
この剥離工程では、上述したポリイミド前駆体溶液を支持体上に塗布して生成した自己支持性フィルムを支持体から剥離させる。自己支持性フィルムは、レールに沿って駆動するチェーンに取り付けたフィルム把持装置に両端部を把持して剥離する。
その後、自己支持性フィルムの大気接触面に溶媒
(ただし、カップリング剤を含まない)を噴霧あるいは塗布
し、支持体接触面には該溶媒を噴霧あるいは塗布せずに、フィルム厚さ方向の残留溶媒量を調整する。溶媒はN、N―ジメチルアセトアミドまたはN−メチル−2−ピロリドンであり、フィルムの製造に用いたと同じものが好ましい。
【0026】
自己支持性フィルムの表面に溶媒を噴霧または塗布する方法としては、公知の手段を用いることが出来、特に限定されない。例えば、スプレー、シャワー、ロールコート、グラビアコートなどによって噴霧または塗布する方法などが挙げられる。
噴霧または塗布する雰囲気は、大気中でよいが、窒素や不活性ガスを混入させたり、加圧・減圧してもよい。また、溶媒の噴霧または塗布量は、フィルムの単位面積当たり3〜12g/m
2であることが好ましい。溶媒の噴霧または塗布量が、この範囲を外れると、フィルムの反りを抑制できないことがある。より好ましい噴霧または塗布量は、5〜10g/m
2である。
【0027】
自己支持性フィルムの大気接触面に溶媒
(ただし、カップリング剤を含まない)を噴霧または塗布することによって、自己支持性フィルム内に溶媒が拡散し、以降の乾燥・加熱キュア工程でポリイミド前駆体がイミド化される時のフィルム表裏の分子運動を制御でき、ポリイミドフィルム大気接触面と支持体接触面のCTEを変化させることが可能となり、ポリイミドフィルムの反りも制御できるようになる。
【0028】
本発明ではフィルムの支持体接触面に対する大気接触面の溶媒含有比を0.7〜1.3の範囲に制御することが必要である。
溶媒含有比は、ポリイミド前駆体溶液組成物を塗布した大気面に接するポリイミドフィルム面を大気接触面、支持体に接する面のポリイミドフィルム面を支持体接触面とするフィルムから試験片を切り出し、ATR(Attenuated Total Reflection(全反射測定法))スペクトルを測定し、波数988cm
−1の吸収バンドの吸光度を既知量のN−メチル−2−ピロリドンをCCl
4中に溶解させ作製した検量線を用いてモル量より算出する。そして、自己支持性フィルムそれぞれの面の溶媒含有量より、支持体接触面に対する大気接触面の溶媒含有比を算出する。
【0029】
本発明では、溶媒含有比が0.7〜1.3の範囲を外れると、その後のイミド化、冷却工程で、大気接触面と支持体接触面のCTEに差異が発生し、ポリイミドフィルムに反りが発生するため好ましくない。好ましい溶媒含有比は0.8〜1.2の範囲で、より好ましくは0.9〜1.1の範囲である。
【0030】
尚、ポリイミドフィルムの反りを軽減する目的で、剥離後の自己支持性フィルムに対して二軸延伸で延伸倍率を調整することや、ポリイミドフィルムの巻取り時の張力を調整することを行ってもよい。
【0031】
(1−5)自己支持性フィルムの乾燥、イミド化工程
上述した工程で剥離し、大気接触面に前記溶媒
(ただし、カップリング剤を含まない)を噴霧または塗布
し、支持体接触面には該溶媒を噴霧または塗布しない自己支持性フィルムは、次にキュア炉内に搬送して加熱乾燥し、さらに高温でイミド化する。
キュア炉では加熱ゾーンを複数設け、入り口ゾーンの温度として125〜175℃、次いで順次温度を多段が高くなるように加熱して最高加熱温度:425〜525℃程度、特に475〜500℃程度が20〜60分となる条件で、該自己支持性フィルムを加熱して乾燥及びイミド化する。
残揮発物量が0.4質量%以下程度になったらイミド化を完了し、キュア炉外で自然冷却することによって、本発明のポリイミドフィルムを製造することができる。
【0032】
2.ポリイミドフィルム
本発明
に係るポリイミドフィルムは、上記の製造方法で得られたポリイミドフィルムから一辺が15cmの試験片を切り出し、その一方の面にレジスト膜を成膜すると共に、もう一方の面を厚さが半分になるようエッチング処理した後、大気接触面と支持体接触面の線膨張係数(CTE)をJIS K7197に準拠して測定し、その絶対値差を単位ppm/℃で表示したとき、3.5ppm/℃以下となるものである。
前記大気接触面と支持体接触面のCTEの絶対値差が3.5ppm/℃以下と小さければ、ポリイミドフィルムの反りが小さくなり、一方、CTEの絶対値差が3.5ppm/℃よりも大きいと、ポリイミドフィルムの反りが大きくなって所望のCCLを製造できない。
【0033】
言い換えれば、反りの小さい平坦なポリイミドフィルムは、大気接触面と支持体接触面のCTEの絶対値差が3.5ppm/℃以下でなければならず、そして、CTEの絶対値差が3.5ppm/℃以下のフィルムは、前記製造工程で、剥離フィルムに溶媒を噴霧あるいは塗布して支持体接触面に対する大気接触面の溶媒含有比を0.7〜1.3の範囲に制御することで容易に得ることができる。しかし、このようなフィルムが得られるのであれば、その製造方法、製造条件は制限されない。
【0034】
得られるポリイミドフィルムの厚さは、10〜75μmであればよく、12.5〜50μmとすれば高精度が求められるCOF用CCLで好ましく使用でき、その製造時に反りの発生を押さえることができる。
【0035】
3.銅ポリイミド二層基板(CCL)の製造方法
CCLは、上述した製造方法により得られたポリイミドフィルムを放電処理した後、金属層を形成することで製造される。
【0036】
(3−1)放電処理工程
放電処理工程では、先ず、上述したポリイミドフィルムに対して、プラズマ放電処理(真空あるいは大気圧プラズマ放電処理)、コロナ放電処理などの少なくとも1つの放電処理、好適には真空プラズマ放電処理を行う。
【0037】
放電処理は、フィルム表面を処理せずに行うことができるが、アセトン、イソプロピルアルコール、エチルアルコールなどの有機溶媒で処理した後行ってもよい。
【0038】
真空プラズマ放電処理を行う雰囲気の圧力は、特に限定されないが、0.1〜1500Paの範囲が好ましい。前記プラズマ処理を行う雰囲気のガス組成としては、特に限定されないが酸素を含有することが好ましい。あるいは、希ガスを少なくとも20モル%含有していてもよい。希ガスとしてはHe、Ne、Ar、Xeなどが挙げられるが、Arが好ましい。希ガスにCO
2、N
2、H
2、H
2Oなどを混合して使用してもよい。前記プラズマ処理を行うプラズマ照射時間は1秒〜10分程度が好ましい。
【0039】
(3−2)金属層形成工程
金属層形成工程では、放電処理を行ったポリイミドフィルムに銅積層体を形成するため、蒸着および電気めっきを行う。この場合、金属蒸着または金属蒸着と金属めっき層とで金属層を形成することが好ましい。
金属蒸着方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法などの蒸着法を挙げることができる。真空蒸着法では、真空度が10
−5〜1Pa程度であり、蒸着速度が5〜500nm/秒程度であることが好ましい。スパッタリング法では、特にDCマグネットスパッタリング法が好適であり、その際の真空度が13Pa以下、特に0.1〜1Pa程度であり、その層の形成速度が0.05〜50nm/秒程度であることが好ましい。
得られる金属蒸着層の厚みは10nm以上、1μm以下であり、その中でも0.1μm以上、0.5μm以下であることが好ましい。この上に金属めっきにより肉厚の膜を形成することが好ましい。その厚みは約1〜20μm程度である。
【0040】
金属薄膜の材質としては、種々の組み合わせが可能である。金属蒸着膜として下地層と表面蒸着金属層を有する2層以上の構造としてもよい。下地層としては、クロム、チタン、パラジウム、亜鉛、モリブデン、ニッケル、コバルト、ジルコニウム、鉄などを単独、あるいはこれらの金属の合金が使用され、表面層としては銅の使用が好ましい。蒸着層上に設ける金属めっき層の材質としては銅が使用され、金属めっき層の形成方法としては、電気めっき法または無電解めっき法のいずれでもよい。
【0041】
本発明では、ポリイミドフィルムとして、ポリアミド酸自己支持性フィルムの支持体接触面に対する大気接触面の溶媒含有比が特定の範囲に調整されたものを用いており、大気接触面と支持体接触面の線膨張係数の絶対値差が特定値以下であることから、平坦なCCLを得ることが可能である。
なお、試作の段階で、平坦なCCLが得られなかった場合は、そのポリイミドフィルム材料の大気接触面と支持体接触面の線膨張係数の絶対値差を調べて、CCLの反り発生方向と逆向きの反りを持ったポリイミドフィルムを用いることで、平坦なCCLを得ることが可能となる。
【0042】
4.チップ・オン・フィルム(COF)の製造方法
本発明に係るCCLを用いれば、該CCLの少なくとも片面に、配線パターンを個別に形成して、COFを得ることができる。また、所定の位置に層間接続のためのヴィアホールを形成して、各種用途に用いることもできる。
前記配線パターンの形成方法としては、フォトエッチング等の従来公知の方法が使用でき、例えば、少なくとも片面に金属蒸着膜、銅被膜層が形成されたCCLを準備して、該銅上にスクリーン印刷あるいはドライフィルムをラミネートして感光性レジスト膜を形成後、露光現像してパターニングする。
次いで、エッチング液で該金属層を選択的にエッチング除去した後、レジストを除去して所定の配線パターンを形成する。
【0043】
尚、配線パターンの形成により、CCLの製造工程での放電処理工程や金属層形成工程に起因する応力の開放や基材の吸水、配線パターンの形状等の影響で、配線パターン形成されたCOFに反りが発生する場合がある。
その場合は、本発明のポリイミドフィルムの製造方法にて、ポリアミド酸自己支持性フィルムの支持体接触面に対する大気接触面の溶媒含有比を本発明の範囲内で任意に調整し、大気接触面と支持体接触面の線膨張係数の絶対値差を本発明の範囲内で調整することで、COFの反り発生方向と逆向きの反りを持ったポリイミドフィルムを用いることで、平坦な配線パターン形成されたCOFを得ることが可能である。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例について従来例、比較例を挙げて具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例によってのみ限定されるものではない。
【0045】
なお、自己支持性フィルム(以下、自立フィルムともいう)の大気接触面と支持体接触面中の溶媒含有量は、以下の要領で測定し算出した。
<自己支持性フィルムの溶媒含有量>
自己支持性フィルムの大気接触面と支持体接触面それぞれの面のATR(Attenuated Total Reflection(全反射測定法))スペクトルを測定し、波数988cm
−1の吸収バンドの吸光度を既知量のN−メチル−2−ピロリドンをCCl
4中に溶解させ作製した検量線を用いてモル量より算出した。
本自己支持性フィルムそれぞれの面の溶媒含有量より、支持体接触面に対する大気接触面の溶媒含有比を算出した。
【0046】
また、ポリイミドフィルムの大気接触面と支持体接触面のCTEの測定は、以下の順序により、大気接触面と支持体接触面の評価試料を作製し、この評価試料の大気接触面と支持体接触面の各面のCTEを測定し、絶対値差を算出した。
<評価試料の作製>
作製した30μm厚ポリイミドフィルムの大気接触面に花見化学(株)製レジストインキ873−Kを#20バーコーターで全面塗布し、15〜20μm厚のレジスト膜を形成した。次に、65℃に加熱した東レエンジニアリング(株)ポリイミドエッチング液(製品名:TPE3000)中に上記大気接触面にレジストフィルムを被覆させたポリイミドフィルムを浸漬し、該ポリイミドフィルムが膜厚15μmになるまで溶解(エッチング)させた。さらに、温度65℃に加熱した温水で5分洗浄を行い、レジストフィルムを剥離後、大気接触面評価用ポリイミドフィルムを得た。また、支持体接触面にレジスト膜を形成し以降、前述と同様な操作を行い、支持体接触面評価用ポリイミドフィルムを得た。
【0047】
<CTE(25〜200℃)測定>
CTEは、JIS K7197「プラスチックの熱機械分析による線膨張率試験方法」に準じて測定を行った。前記大気接触面および支持体接触面評価用フィルムから試料片を切り出し、前処理として加熱工程を加え応力緩和した試料片をTMA装置(引張モード、5g荷重、試料長23mm)で測定した。
【0048】
<ポリイミドフィルムの平坦性>
50mm角の正方形状のサンプルを温度23℃、湿度50%RHの雰囲気で、24時間放置後、サンプルを定盤に置き、反りの状態を確認した。
【0049】
(実施例1)
反応容器に、N−メチル−2−ピロリドン200mLにp−フェニレンジアミン4.17g、および3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物11.34gを加えて、窒素気流下、4℃で5時間、常温で19時間撹拌し重合反応させて、ポリアミド酸溶液を生成した。
生成したポリアミド酸溶液の物性は、固形分濃度が7質量%、固有粘度が4.10dl/g(測定温度30℃、濃度0.5g/dl溶媒、溶媒:N−メチル−2−ピロリドン)、回転粘度が334Pa・sであった(以下、ポリイミド前駆体溶液組成物という)。
次に、ポリイミド前駆体溶液組成物を、1000μmギャップのドクターブレードを用い平滑なガラス支持体上に薄膜を形成した。この薄膜を70℃に熱したアルミニウム基板上で70℃、3時間加熱後、支持体から剥離して自己支持性フィルムを得た。
次に、この自己支持性フィルムの大気接触面に対して、N−メチル−2−ピロリドンを5g/m
2噴霧した。その後、自己支持性フィルムの支持体接触面に対する大気接触面の溶媒含有比を前記の方法で測定すると0.7であった。
次に、本自己支持性フィルムを一辺が15cmの正方形の窓を有する正方形金属枠で両面から固定後、熱風窒素加熱炉で常温から100℃(昇温速度100℃/14分)まで昇温後1時間保持し、さらに同昇温速度で200℃まで昇温し1時間保持し、同昇温速度で430℃まで昇温し1時間保持することで溶媒乾燥、更にイミド化を行った。その後、炉内で自然冷却し、30μm厚のポリイミドフィルムを得た。それぞれの操作は窒素雰囲気内で行った。
このポリイミドフィルムの線膨張係数を前記の方法で測定すると、大気接触面と支持体接触面の絶対値差が3.36となり、支持体接触面には反りが発生しなかった。
以下の表1に、溶媒噴霧面、溶媒含有比及び、作製したポリイミドフィルムのCTEの絶対値差と平坦性を示す。
【0050】
(実施例2〜4)
実施例1において、自己支持性フィルムの大気接触面に対するN−メチル−2−ピロリドンの噴霧量を増加し、自己支持性フィルムの支持体接触面に対する大気接触面の溶媒含有比を1.0〜1.3に調整したこと以外は、同様にしてポリイミドフィルムを作製した。
表1に、溶媒噴霧面、溶媒含有比及び、作製したポリイミドフィルムのCTEの絶対値差と平坦性を示す。
【0051】
(従来例)
上記の実施例1と同様にして、自己支持性フィルムを調製したが、熱風窒素加熱炉での乾燥、イミド化工程前に、自己支持性フィルムの大気接触面に対してN−メチル−2−ピロリドンを噴霧しないでポリイミドフィルムを作製した。自己支持性フィルムの支持体接触面に対する大気接触面の溶媒含有比を測定すると、0.6であった。
得られたポリイミドフィルムの大気接触面と支持体接触面の線膨張係数を測定すると、絶対値差が4.06となり、支持体接触面を凹に反りが発生した。
表1に、作製したポリイミドフィルムのCTEの絶対値差と平坦性を示す。
【0052】
(比較例1〜3)
実施例4に対して、N−メチル−2−ピロリドンの噴霧量をさらに増加し、自己支持性フィルムの支持体接触面に対する大気接触面の溶媒含有比を1.5に調整したこと以外は、同様にして比較例1のポリイミドフィルムを作製した。
また、比較例2〜3は、熱風窒素加熱炉での乾燥、イミド化工程前に、自己支持性フィルムの支持体接触面に対してN−メチル−2−ピロリドンを噴霧し、自己支持性フィルムの支持体接触面に対する大気接触面の溶媒含有比を0.3〜0.4に調整したこと以外は、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを作製した。
比較例1のポリイミドフィルムは、大気接触面を凹に反り、比較例2〜3のポリイミドフィルムは、支持体接触面を凹に反りが生じた。
以下の表1に、溶媒噴霧面、溶媒含有比及び、作製したポリイミドフィルムのCTEの絶対値差と平坦性を示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示す結果から、実施例1〜4では、自立フィルムの大気接触面に溶媒を噴霧して、支持体接触面に対する大気接触面の溶媒含有比を0.7〜1.3の範囲に制御したので、作製したポリイミドフィルムの大気接触面と支持体接触面のCTEの絶対値差が、3.5ppm/℃以下となり、平坦なポリイミドフィルムが得られた。
【0055】
一方、比較例1では、自立フィルムの大気接触面に溶媒を噴霧して、自立フィルムの支持体接触面に対する大気接触面の溶媒含有比が1.5としたことで、このポリイミドフィルムの大気接触面と支持体接触面のCTEの絶対値差は4.20となり、大気接触面を凹に反るポリイミドフィルムが得られた。
【0056】
一方、比較例2では、自立フィルムの支持体接触面に溶媒を噴霧して、自立フィルム支持体接触面に対する大気接触面の溶媒含有比が0.4となるようにしたことで、このポリイミドフィルムの大気接触面と支持体接触面のCTEの絶対値差は4.65となり、支持体接触面を凹に反るポリイミドフィルムが得られた。
【0057】
一方、比較例3では、自立フィルムの支持体接触面に溶媒を噴霧して、自立フィルム支持体接触面に対する大気接触面の溶媒含有比が0.3となるようにしたことで、このポリイミドフィルムの大気接触面と支持体接触面のCTEの絶対値差は4.92となり、支持体接触面を凹に反るポリイミドフィルムが得られた。
【0058】
以上の結果から、支持体から剥離したポリアミド酸自己支持性フィルムを溶媒乾燥工程、及び加熱キュア工程前に、溶媒を噴霧または塗布してポリアミド酸自己支持性フィルム中の溶媒含有量を、フィルムの支持体接触面に対する大気接触面の溶媒含有比が0.7〜1.3の範囲となるように制御することで、大気接触面と支持体接触面のCTEの絶対値差が、3.5ppm/℃以下である、平坦なポリイミドフィルムを得ることができ、これを用いることで、高精度が求められるCOF用CCLを得ることができることがわかる。