(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のウェーハのへき開方法により得られたウェーハのへき開面を観察して前記ウェーハの構造を評価することを特徴とするウェーハの評価方法。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスでは、材料の単結晶ウェーハ、特にシリコンウェーハの表面部にデバイスを作製している。このため、デバイス製造分野において、ウェーハの表面〜中心部にかけての高精度な評価の要求が高まっている。
【0003】
また、基板としてのシリコンウェーハは、表面に1μmの厚さのエピ層を形成するなどの多層化が進み、益々、表面〜中心部にかけてのミクロ構造の評価が重視されるようになってきている。
【0004】
このような状況下で、シリコンウェーハのミクロ構造、例えば、BMD等の構造の評価装置は、表面からの深さ方向や、シリコンウェーハの中心部〜外周端部(エッジ部)のBMD分布を、断面を観察することにより評価するため様々な評価装置が用いられている。
【0005】
シリコンウェーハやウェーハから得られるチップの断面解析のために、特定の箇所をへき開する方法がある。そこで、特許文献1に記載されているようにダイヤモンドペンによりウェーハに線状キズを入れる方法が考案された。また、特許文献2では、素子配置面に円盤状のカッターを押し付けて、V溝を作製する傷跡形成手段及びそのV溝の周囲に負荷をかけることでへき開して素子同士を分離する方法が開示されている。
【0006】
上述に例示されるへき開面を評価する方法では、綺麗なへき開面を作製することで、より小さいBMDを検出することが可能である。しかしながら、特許文献1、2では、昨今要求されているレベルの構造評価を行えるへき開面の作製は困難であった。このような状況から、従来の方法よりも綺麗で理想的な鏡面のへき開面を作製する方法が、構造測定及びその結果を用いた評価の精度の向上に不可欠であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
半導体デバイスの材料として用いられる単結晶、特にシリコン単結晶は脆性材料のために、多数のへき開面が存在する。シリコンウェーハの断面を観察するには、表面が綺麗なものとなる{110}面をへき開面として作製することが望ましい。しかし、最もへき開されやすい面、所謂第一へき開面は{111}面である。
【0009】
特許文献1では、ダイヤモンドペンによりウェーハに線状キズを入れる手法が記載されている。このような手法の場合は、ダイヤモンドペンとウェーハとの接触点(面)の関係から、線状キズの底部が丸みを帯びた形状となるために、{110}へき開面よりも{111}第一へき開面の方向に亀裂が伸長しやすい。また、ダイヤモンドペンではシリコンウェーハに十分に深いキズを作製することは困難である。
【0010】
特許文献2では、円盤状のカッターを押し付けて、ウェーハにV溝を作製する傷跡形成手段を開示している。その溝の周囲に4点曲げの負荷を与え、V溝の底の先端部に応力を集中させてへき開し、素子同士を分離する方法が開示されている。このような方法で得られたへき開面は、特許文献1よりも良好なものであった。しかしながら、特許文献2のように、V溝形状でV溝の深さが一定となるように形成し、かつV溝の形成を素子の厚み分にするなどとすると、{110}面の端部やエッジ部に、ミクロな{111}面のへき開が発生し、断面観察おいて障害となるミクロな凹凸ができやすく鏡面にならないという弱点が露見した。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、BMD等の構造評価の精度を向上することができるような、理想的な鏡面のへき開面、即ち、シリコン単結晶であれば{110}面を得ることのできるウェーハのへき開方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、
単結晶ウェーハをへき開する方法であって、
前記ウェーハの片面の直径方向にへき開面と平行な不均一な深さを有するシェブロンノッチを1本形成し、該シェブロンノッチ形成面の反対面から前記シェブロンノッチに沿って平行に荷重を加えることによりへき開するウェーハのへき開方法を提供する。
【0013】
このようなウェーハのへき開方法であれば、BMD等の構造評価の精度を向上することができるような、理想的な鏡面のへき開面を得ることができる。
【0014】
このうち、前記ウェーハへの荷重を、4点曲げにより付加することが好ましい。
【0015】
このような方法でウェーハに荷重をかけることにより、より良好なへき開面を得ることができる。
【0016】
また、前記シェブロンノッチの深さを、ウェーハの厚さの0%〜60%の範囲に設定することが好ましい。
【0017】
このような深さでシェブロンノッチを形成することで、負荷する荷重を小さいものとすることができ、また、欠損の少ないへき開面を得ることができる。
【0018】
さらに、前記シェブロンノッチの一方の端部を深く、他方の端部に向けて浅くなる形状で形成し、該シェブロンノッチの深い方の端部領域、かつ前記シェブロンノッチに沿って平行に荷重を加えることが好ましい。
【0019】
このようなウェーハのへき開方法であれば、深い方の端部領域に荷重をかけることからウェーハを容易にへき開させることができ、かつ、浅い方の端部領域に欠損の少ないへき開面を形成することができる。
【0020】
さらに、本発明は、
前記ウェーハのへき開方法により得られたウェーハのへき開面を観察して前記ウェーハの構造を評価するウェーハの評価方法を提供する。
【0021】
このようなウェーハの評価方法であれば、理想的な鏡面となっているウェーハのへき開面を観察することができるため、より小さなBMDを観察することができ、構造評価の精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように本発明のウェーハのへき開方法であれば、例えばシリコン単結晶ウェーハのBMD等の構造評価の精度の改善が可能となるような、理想的な鏡面である{110}面のへき開面を得ることができる。また、このようなへき開方法により得られたウェーハのへき開面を用いたウェーハの評価方法であれば、より小さなBMDを観察することができ、構造評価の精度を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
上述のように、シリコン単結晶ウェーハにおいてミクロの凹凸のないような綺麗な{110}面のへき開面を得る方法が求められていた。
そこで、本発明者は、上記の条件を見出すため、ヤング率や応力拡大係数測定を利用したシリコン単結晶の物性評価や、3点曲げ試験・4点曲げ試験などの単結晶ウェーハの破壊試験を行なった。
【0025】
3点曲げ試験機・4点曲げ試験機などで、単結晶ウェーハに荷重を加えていくと、荷重が加わるにつれて次第に応力が増加していき、ほとんど弾性的に変化したのち限界値に達すると一瞬で破断する。
【0026】
一般的に、シリコン単結晶のようなぜい性破壊をおこす材料では、この限界値は最大荷重点の値と一致している。シリコン単結晶では、一度亀裂の伸長が進行しはじめると、きわめて速い速度で伝播し、瞬間的に破断がおこる。
【0027】
また、破壊されずに最大荷重点が大きくなるような時には、シリコンウェーハの全体が弾性変形することで大きな曲げ応力を蓄積している。この状態では、破断と同時に応力は瞬間的に開放されて、一気に亀裂が伸長してウェーハは粉々に粉砕されてしまう。
【0028】
理想的な鏡面の{110}へき開面を作製するためには、この弾性応力の蓄積とそれによる瞬間的なぜい性破壊を防止して、亀裂の進行をコントロールすることが必要である。
そのためには、へき開のために形成したノッチからの最初期の亀裂の発生時の応力が、可能な限り小さくなる条件が望ましい。
上記の試験から、この条件は、3点曲げ試験機・4点曲げ試験機などの破壊試験での、最大荷重点(kN)の平均値と標準偏差値が小さくなるような条件と一致していることがわかった。
【0029】
シリコンウェーハの表面に極めてミクロなキズを有する場合には、キズや亀裂の無いウェーハに比べて、1/10〜1/100の荷重を加えることでぜい性破壊が発生する。
理想的な鏡面の{110}へき開面を作製するためには、クラックが{110}へき開方向になるように、亀裂先端付近にモードI(開口型)の変形様式における応力を与えるようなノッチを形成することが有効である。
【0030】
上記試験の結果から、本発明者は、ウェーハに形成する溝をシェブロンノッチ(V溝)とし、該シェブロンノッチをウェーハの片面の直径方向に形成し、かつへき開面と平行な方向において深さが一定ではなく、不均一なものとして、ノッチ形成面の反対面から該シェブロンノッチに沿って平行に荷重を加えることで、ウェーハの{110}面のへき開時に副次的に発生するミクロな{111}面のへき開が低減された、理想的な鏡面の{110}面のへき開面を有する領域が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0031】
即ち、本発明は、
前記ウェーハの片面の直径方向にへき開面と平行な不均一な深さを有するシェブロンノッチを1本形成し、該シェブロンノッチ形成面の反対面から前記シェブロンノッチに沿って平行に荷重を加えることによりへき開するウェーハのへき開方法である。
【0032】
以下、本発明のウェーハのへき開方法の実施態様の一例を、図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1は、ウェーハのシェブロンノッチ形成後の断面形状及び荷重方式の概略図である。
本発明では、切り欠きとしてノッチ4を形成したシリコンウェーハWの直径方向にあらかじめシェブロンノッチ1の先端の角度を40〜90°の範囲で加工する。
図2は、本発明で用いるウェーハの溝加工を示した断面図である。
【0033】
シェブロンノッチ1の深さは、測定サンプルであるウェーハの種類(P型・N型など)やウェーハ厚さ、所望の測定の感度や測定値のバラツキ度合いによって、それぞれに最適な深さを適宜選択できる。通常、ウェーハの厚さの0%〜60%の範囲に設定することが基本条件である。尚、シェブロンノッチが深くなればなるほど、最初期のクラックの発生に必要な荷重が小さくなり、シェブロンノッチが浅くなればなるほど、得られるへき開面の面積が大きくなる。
【0034】
具体的な例として、標準的なシリコンウェーハ(直径300mm P
−品(p型、抵抗率0.1Ωcm以上)厚さ780μm)では、
図1に示すように、直径方向に0〜200μmのアングルをつけたシェブロンノッチの溝加工の形状を挙げることができる。
【0035】
本発明のウェーハのへき開方法では、シェブロンノッチ1をへき開面と平行な不均一な深さを有する形状で形成する。特に、シェブロンノッチ1の一方の端部を深く、他方の端部に向けて浅くなる形状で形成することが好ましい。このケースでは、観察エリア(最終的に綺麗なへき開面を作りたい領域)をウェーハWの端部の特定領域に設定し、そのエリアを通過する、直径の反対側に位置する端部に、最も溝が深くなるようにシェブロンノッチ1を形成する。シェブロンノッチ1をこのように形成し、後述のように深い方の端部領域の反対面に荷重2をかけることからウェーハWの亀裂発生地点の拡散を防ぐことができ、かつ、容易にへき開させることができる。また、浅い方の端部領域に断面の欠損の少ないへき開面3(観察エリア3)を形成することができる。
【0036】
シェブロンノッチ1の形成において、ブレード先端があまりとがっていないもの、特に丸い形状のものを用いることは、シリコンウェーハに深い溝を作製するのが困難となる可能性が高い。一方、ブレード先端を極端に細く尖らせると最初は尖っているが、使用する毎に先端部が磨耗して丸い形状になり易い。このようにブレード先端が丸い形状になってくると、{110}へき開面ばかりでなく、{111}へき開面の亀裂も発生してしまう可能性があり、繰り返し利用には不向きである。このような理由から、シェブロンノッチ1の形成には、
図2に示すブレード5のような、例えば断面形状の先端の角度が60°となる特殊ブレードが実用的である。
【0037】
次に、本発明におけるウェーハ溝加工品への荷重方式の一つである4点曲げ方式の一態様を、
図3を参照して説明する。
ウェーハWの溝加工品を、シェブロンノッチ1を下面にして、支持治具6の上に置く。このとき、支持治具6の支持間距離の中心線がシェブロンノッチ1に沿って平行になるようにウェーハ溝加工品を置くことが好ましい。そして、支持治具6の支持間距離の中心線上に、荷重ピン2Aを設置する。
【0038】
荷重ピン2Aとしては、特に限定されないが、ウェーハのへき開においてよく用いられているものを使用でき、例えば、4点曲げの方式に用いるSiC製の円柱を二つ平行に並べた円柱押しピンを挙げることができる。
【0039】
支持治具6の長さは、特に限定されないが、例えば、へき開するウェーハWの直径と同一とすることができる。具体的には、直径300mmのウェーハをへき開する場合は、支持治具の長さも300mmとすることができる。
【0040】
支持治具6の支持間距離は、任意の範囲に設定することができ、例えば、20〜200mmとすることができる。この距離を変えることにより、測定の感度や測定値のバラツキを適宜調整することができ、測定サンプルであるウェーハの直径や厚さ、表面の凹凸の状況に応じて最適な支持間距離を選択することができる。
【0041】
同様な荷重を与える方法である3点曲げの方式でも、綺麗なへき開面を得ることができるが、4点曲げの方式の方が、より綺麗なへき開面を得ることができる。
【0042】
前述のように、シェブロンノッチ1の一方の端部を深く、他方の端部に向けて浅くなる形状で形成した場合、荷重2を加えるポイントは、シェブロンノッチ1の深い方の端部領域、かつシェブロンノッチ1に沿って平行な位置であることが好ましい。前述のシェブロンノッチ1の深い方の端部領域の反対面に荷重ピン2Aを設置し、4点曲げの荷重2を加えれば、ウェーハWの亀裂発生地点の拡散を防ぐことができ、かつ容易にへき開させることができる。また、浅い方の端部領域に断面の欠損の少ない良好なへき開面3(観察エリア)を形成することができる。
【0043】
本発明では、このようにして得られたウェーハのへき開面を観察して、ウェーハの構造を評価するウェーハの評価方法を提供する。
このような評価方法であれば、シリコン単結晶ウェーハにおいてへき開面が理想的かつ良好な鏡面となる{110}面であるため、従来よりも小さいBMD等の検出を行うことができ、より高い精度のウェーハの構造の評価を容易に行うことができる。
【0044】
尚、ウェーハのへき開面の観察は、通常へき開面の観察に用いている方法・装置であれば、いずれも適用することができる。具体例としては、光学干渉式表面粗さ測定装置を用いて、へき開面の特定領域の凹凸形状の分布を観察する方法を挙げることができる。ここで得られた観察結果を用いてウェーハの構造評価を行うことができる。
【0045】
上述の内容では、シリコン単結晶ウェーハをへき開対象及び評価対象とした例を挙げたが、本発明のウェーハのへき開方法及び評価方法は、シリコンばかりではなく、半導体ウェーハとして利用されているサファイヤやSiC結晶等の単結晶にも適用でき、上述と同様の治具を使用することで、同じように綺麗なへき開面を作製し構造評価をする事が可能である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
[実施例1]
図1に示すように、サンプルであるシリコンウェーハWに対して、ブレード厚さ80μm・先端角度60°のダイヤモンド粒径3000アルミボンド品を使用して、ディスコ社製ダイサー装置にてへき開面と平行な直径方向に溝加工を行った。
観察エリア(最終的に綺麗なへき開面を作りたい領域)を通過する、直径の反対側の位置のウェーハのエッジ端から、溝深さ200μmのシェブロンノッチ1の溝加工を開始し、直径方向(ウェーハ中心)へ向かってダイサーによる溝加工を行う際に、溝の深さを次第に浅くなるようにアングルをつけた。そして、溝加工開始のウェーハ端部より溝の長さ225mm地点で、溝の深さが0μmとなるようにシェブロンノッチ1を形成し、ダイサーによる溝加工を終了した。
この溝加工されたウェーハの諸条件を以下に示す。
【0048】
加工溝(アングル傾きあり):深さ 0〜200μm
シリコンウェーハ(使用数10枚): 直径300mm [100]シリコン P
−型
ウェーハ厚さ:780μm
酸素濃度:15ppma
抵抗率:20Ωcm
【0049】
上記のウェーハ溝加工品を、シェブロンノッチを下面にして、長さ300mm支持間距離50mmの支持治具に設置した。
そして溝が深い方の端部領域に、SiC製円柱押しピンφ5mm長さ40mmを押し当てた。
その後、万能試験機(荷重速度0.02mm/secの条件)で円柱押しピンに荷重を加え、ウェーハに4点曲げ試験に類似した応力を与えた。
このように小さな荷重をゆっくりと与えて、最も溝が深い端部領域のシェブロンノッチの底に、開口型応力を集中させた。そして、その地点に最初期の亀裂を{110}へき開方向に発生させた。
【0050】
このような方法でへき開したウェーハは、テストした全サンプルにおいて応力の集中が見受けられ、亀裂発生地点が同一箇所となった。また、亀裂を発生させるのに必要な荷重(最大破壊荷重[kN])も小さくその標準偏差(バラツキ)も小さいものとなった。結果を表1に示す。
【0051】
次に、上記で発生した亀裂をシェブロンノッチの方向(直径方向)に限定されるように伸長し、かつその進行を遅い速度で伝播するようにゆっくりと荷重を加え続けた。これにより、最初期のへき開面の方向を保持したまま、亀裂を伸長させ、{110}へき開面を有するウェーハを作製した。
【0052】
[比較例1]
図4に示すように、サンプルであるシリコンウェーハWに対して、ブレード厚さ80μm・先端角度60°のダイヤモンド粒径3000アルミボンド品を使用して、ディスコ社製ダイサー装置にてへき開面と平行な直径方向に溝加工を行った。
観察エリアを通過する、直径方向の反対側の位置のウェーハの端部から、溝深さ200μmシェブロンノッチ1’の溝加工を開始し、直径方向に均一な深さ(200μm)となるようなシェブロンノッチ1’を反対側の端部まで形成し、ダイサーによる溝加工を終了した。
この溝加工されたウェーハの諸条件を以下に示す。
【0053】
加工溝(深さ一定):200μm
シリコンウェーハ(使用数10枚): 直径300mm [100]シリコン P
−型
ウェーハ厚さ:780μm
酸素濃度:15ppma
抵抗率:20Ωcm
【0054】
上記のウェーハ溝加工品を、シェブロンノッチを下面にして、実施例1と同様に荷重を加え、4点曲げ試験に類似した応力を与えた。
尚、小さな荷重をゆっくりと与えることで、溝底の開口型応力が高くなったが、溝底の深さが直径方向では一定なため、実施例1のケースのように狭い領域への応力集中が見られず、亀裂発生地点が溝方向に幅広く分布していた。また、亀裂を発生させるのに必要な荷重(最大破壊荷重)も実施例1に比べて1.5倍ぐらいと大きくバラツキも大きいものとなった。結果を表1に示す。
【0055】
次に、実施例1と同様に荷重を加え続けて、亀裂を伸長させ、{110}へき開面を有するウェーハを作製した。
【0056】
[へき開面のミクロ凹凸の評価]
以下に示す条件の光学干渉式表面粗さ測定装置を用いて、実施例1及び比較例1で得られたウェーハWのへき開面のうち、
図5に示す3カ所の350μm角の測定エリア7について、へき開面のミクロな凹凸形状分布を観察し、へき開面のミクロ凹凸の評価を行った。
評価結果を表1に示す。
【0057】
光学干渉式表面粗さ測定装置LSM−3000(KOBELCO)(非接触)
分解能:Z→0.1Å、X,Y→0.4μm
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示すように、実施例(加工溝傾きあり)は、比較例(加工溝深さ一定)に比べて、表面粗さ測定装置によるミクロ凹凸が小さく、表面形状粗さの平均値及び標準偏差ともに比較例よりもかなり小さい値となった。
これは亀裂発生地点が一定であり、かつ最大破壊荷重が小さくてバラツキが小さいことによると考えられる。
【0060】
一方、比較例(加工溝 深さ一定 )は、実施例(加工溝 傾きあり)に比べて、表面粗さ測定装置によるミクロ凹凸が大きいものとなった。具体的には、ウェーハの破断の起こったへき開面において、溝の底からウエーハ断面を突き抜けるように伸長し、破壊起点から凹凸の大きい亀裂が扇型に広がるパターンが観察された。
これはシリコンウェーハの全体が、弾性変形することで大きな曲げ応力を蓄積し、破断と同時に応力が瞬間的に開放されて、一気に亀裂が伸長することに起因すると考えられる。即ち、亀裂発生地点は溝方向に幅広く分布していたこと、及び最大破壊荷重が大きく、バラツキも大きいことに起因する。このような状況の比較例は、実施例に比べて亀裂の伸長をコントロールすることが難しい
この為に{110}へき開面ばかりでなく、へき開両端部にミクロな{111}面へき開面が発生するなどのミクロな凹凸が発生し、破壊起点から凹凸の大きい亀裂が扇型に広がるパターンが観察されたと考えられる。
【0061】
上記の結果から、本発明のウェーハのへき開方法であれば、従来法よりも理想的な鏡面のへき開面、即ち{110}面が得られることが明らかになり、BMD評価の精度の向上が可能となることが示唆された。しかも、本発明では、観察領域においてシェブロンノッチのない、あるいは浅い領域とすることができ、より精度の高い観察・評価をすることも可能である。
【0062】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。