特許第6281437号(P6281437)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6281437酸化物焼結体とその製造方法、および、この酸化物焼結体を用いたスパッタリングターゲット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6281437
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】酸化物焼結体とその製造方法、および、この酸化物焼結体を用いたスパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/64 20060101AFI20180208BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   C04B35/64
   C23C14/34 C
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-155563(P2014-155563)
(22)【出願日】2014年7月30日
(65)【公開番号】特開2016-33092(P2016-33092A)
(43)【公開日】2016年3月10日
【審査請求日】2016年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有泉 秀之
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−113051(JP,A)
【文献】 特開平01−282157(JP,A)
【文献】 特開平01−246179(JP,A)
【文献】 特開2007−147264(JP,A)
【文献】 特開2012−153592(JP,A)
【文献】 特開平05−124870(JP,A)
【文献】 特開平08−188472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
C23C 14/00−14/58
B22F 3/10−3/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物を含む原料粉末を加圧成形した成形体を得て、該成形体を焼結炉内のヒータとの間に遮蔽物が配置された状態で焼結させて、焼結体を得る酸化物焼結体の製造方法であって、
前記遮蔽物を、長さ方向端部に係合部を備えた複数の遮蔽片を、角部を除き、前記遮蔽片の係合部同士が相対し、かつ、相対する係合部の間に、厚さ方向に関して非直線状で、幅1mm〜5mmの間隙が形成されるように構成することを特徴とする、
酸化物焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記遮蔽物として、アルミナ製の遮蔽片を用いる、請求項1に記載の酸化物焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記遮蔽物の厚さを5mm〜30mmとする、請求項1または2に記載の酸化物焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記間隙の経路長さを、前記遮蔽物の厚さの1.5倍〜2.0倍とする、請求項1〜3のいずれかに記載の酸化物焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記係合部を、相決り継ぎ状に形成する、請求項1〜4のいずれかに記載の酸化物焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記遮蔽片の厚さに対する、前記係合部の突出部の長さの比を、0.5〜1.0とする、請求項5に記載の酸化物焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記遮蔽物、該遮蔽物を載置するセッターおよび該遮蔽物の上部に載置されるセッターによって形成される領域が、平面視で縦450mm〜1800mmおよび横350mm〜1400mmである場合において、前記間隙を縦方向に3個〜6個、横方向に4個〜6個設ける、請求項1〜6のいずれかに記載の酸化物焼結体の製造方法。
【請求項8】
前記焼結工程において、炉内容積1L当たり、0.9×10-2L/min〜3.6×10-2L/minの酸素を流通させる、請求項1〜7のいずれかに記載の酸化物焼結体の製造方法。
【請求項9】
前記酸化物焼結体を複数得た場合に、該複数の酸化物焼結体についての焼結前後における収縮率の最大値と最小値の差が0.3%以下であり、該複数の酸化物焼結体についての相対密度の最大値と最小値の差が0.2%以下であり、かつ、該複数の酸化物焼結体の反り量がいずれも0.25mm以下である、請求項1〜8のいずれかに記載の酸化物焼結体の製造方法
【請求項10】
バンキングプレートまたはバッキングチューブに、ターゲット材を接合することによりスパッタリングターゲットを得る工程を備え、前記ターゲット材として、請求項1〜9のいずれかに記載の酸化物焼結体の製造方法により得られた酸化物焼結体を用いる、スパッタリングターゲットの製造方法



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物焼結体とその製造方法、および、この酸化物焼結体を、ターゲット材として用いたスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイなどに用いられる透明導電膜には、低抵抗かつ高透過率であることが求められる。このような要求を満たす透明導電膜としては、酸化インジウムを含有する酸化物膜が挙げられる。特に、酸化インジウムに酸化スズを添加した酸化インジウムスズ(ITO)膜は、抵抗が低く、可視光域での透過率に優れるため、透明導電膜として広く利用されている。また、近年では、酸化インジウムに、酸化インジウム以外の金属酸化物を添加することで、さまざまな特性を付与した酸化インジウム系酸化物膜が研究されており、一部では実用化されつつある。
【0003】
このような酸化物膜は、工業規模の生産において、容易に大面積の膜を得ることができることから、スパッタリング法によって成膜されることが多い。このようなスパッタリング法において、ターゲット材として使用される酸化物焼結体は、粉末焼結法や鋳込み成形法などによって製造される。
【0004】
このうち、粉末焼結法は、平均粒径が0.3μm〜2μmの金属酸化物からなる原料粉末を、あるいは、この原料粉末に水や有機バインダなどを加えて噴霧乾燥した、数十から数百μmの造粒粉末を、一軸プレスまたは冷間静水圧プレス(CIP)により加圧成形した後、得られた成形体を焼成することにより、酸化物焼結体を得る方法である。しかしながら、粉末焼結法で得られる酸化物焼結体は、表面や内部に空孔が形成されやすく、高密度化が困難であるという問題がある。このような高密度化が不十分な酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして成膜した場合には、ノジュールやアーキングの発生により、高品質の透明導電膜を得ることはできない。
【0005】
この問題に対して、特開2002−47562号公報には、成形体を焼成する際に、焼結炉内に、酸素を成形体重量1kg当たり0.5L/min〜3.0L/minの割合で、少なくとも成形体片面に沿って酸素が流れるように流通させつつ、成形体に含まれる有機バインダを揮発させ、その後、24時間程度かけて1000℃まで昇温し、1000℃から焼結温度(1400℃〜1600℃)までを150分以内で昇温し、焼結温度で10時間以上保持して焼成する方法が開示されている。このような方法によれば、空孔の形成が抑制され、酸化物焼結体を高密度なものとすることができるため、成膜時におけるノジュールやアーキングの発生を防止することができると考えられる。
【0006】
しかしながら、この方法では、ヒータの近傍では、成形体にヒータの輻射熱が直接当たり、当該部分は、他の部分と比べて焼結が進行して、粒子の粗大化が引き起こされるため、均一な酸化物焼結体が得られない。この結果、得られた酸化物焼結体において、収縮率や密度のばらつきや、反りやクラックなどの欠陥が生じる。
【0007】
これに対して、WO2010/125801号公報には、成形体を、酸素が流通可能な容器に収納した上で、焼成する方法が開示されている。また、特開2012−153592号公報では、成形体とヒータとの間に、アルミナ、マグネシアまたはジルコニアなどからなる遮蔽物を設置した上で、成形体を焼成する方法が開示されている。
【0008】
これらの方法によれば、成形体に、ヒータからの輻射熱が直接当たることがなく、成形体内の熱分布を均一化させることができると考えられる。しかしながら、これらの方法では、一定の効果は得られるものの、酸化物焼結体の収縮率や密度のばらつき、および、これらに起因する反りやクラックなどを十分に抑制することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−47562号公報
【特許文献2】WO2010/125801号公報
【特許文献3】特開2012−153592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、焼結前後における収縮率や密度のばらつきが少なく、かつ、反りやクラックなどの欠陥がほとんど存在しない、酸化物焼結体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の酸化物焼結体の製造方法は、金属酸化物を含む原料粉末を加圧成形した成形体を得て、該成形体を焼結炉内のヒータとの間に遮蔽物が配置された状態で焼結させて、焼結体を得る酸化物焼結体の製造方法であって、前記遮蔽物を、長さ方向端部に係合部を備えた複数の遮蔽片を、角部を除き、前記遮蔽片の係合部同士が相対し、かつ、相対する係合部の間に、厚さ方向に関して非直線状で、幅1mm〜5mmの間隙が形成されるように構成することを特徴とする。
【0012】
前記遮蔽物として、アルミナ製の遮蔽片を用いることが好ましい。
【0013】
前記遮蔽物の厚さを5mm〜30mmとすることが好ましい。
【0014】
前記間隙の経路長さを、前記遮蔽物の厚さの1.5倍〜2.0倍とすることが好ましい。
【0015】
前記係合部を、相決り継ぎ状に形成することが好ましい。この場合、前記遮蔽片の厚さに対する、斬鬼係合物の突出部の長さの比を、0.5〜1.0とすることが好ましい。
【0016】
前記遮蔽物、該遮蔽物を載置するセッターおよび該遮蔽物の上部に載置されるセッターによって形成される領域が、平面視で縦450mm〜1800mmおよび横350mm〜1400mmである場合において、前記間隙を縦方向に3個〜6個、横方向に4個〜6個設けることが好ましい。
【0017】
前記焼結工程において、炉内容積1L当たり、0.9×10-2L/min〜3.6×10-2L/minの酸素を流通させることが好ましい。
【0018】
本発明の酸化物焼結体は、上述した製造方法で得られ、焼結前後における収縮率の最大値と最小値の差が0.3%以下であり、相対密度の最大値と最小値の差が0.2%以下であり、かつ、反り量が0.25mm以下であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明のスパッタリングターゲットは、バンキングプレートまたはバッキングチューブと、該バッキングプレートまたはバッキングチューブに接合されたターゲット材とからなり、該ターゲット材として、前記酸化物焼結体が用いられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、焼結前後における収縮率や密度のばらつきが少なく、かつ、反りやクラックなどの欠陥がほとんど存在しない、酸化物焼結体およびその製造方法を提供することができる。このため、本発明の工業的意義はきわめて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、焼結炉内における成形体および遮蔽物の配置を説明するため、この遮蔽物の上部に載置されたセッターを透過した状態で示した、概略模式図である。
図2図2は、図1のA−A断面図である。
図3図3は、遮蔽物を構成する遮蔽片の一実施態様を示す、概略平面図である。
図4図4は、図1のB部の拡大図である。
図5図5(a)〜(c)は、遮蔽片の別実施態様を示す、概略平面図である。
図6図6は、比較例3および4における成形体および遮蔽物の配置を説明するため、この遮蔽物の上部に載置されたセッターを透過した状態で示した、概略模式図である。
図7図7は、図6のC部の拡大図である。
図8図8は、比較例5における成形体および遮蔽物の配置を説明するため、この遮蔽物の上部に載置されたセッターを透過した状態で示した、概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明者らは、収縮率や密度のばらつきが少なく、反りやクラックなどの欠陥の少ない酸化物焼結体を得るため、WO2010/125801号公報や特開2012−153592号公報に記載される容器または遮蔽物を用いて、成形体を焼成する実験を繰り返し行ったところ、収縮率や密度のばらつき、または、欠陥の発生を十分に抑制することができなかった。特に、大型の成形体を焼成する場合や、多数の成形体を同時に焼成する場合には、収縮率や密度のばらつきが大きくなり、それに伴い、上述した欠陥の発生も増加した。
【0023】
本発明者らは、この点について研究を重ねた結果、この原因が、これらの従来技術では、容器内または遮蔽物で囲まれた範囲内における酸素ガスの分布や対流、さらには酸素ガスによる伝熱が不均一になることにあるとの結論を得た。この結論に基づき、さらに研究を重ねた結果、成形体を焼成する際、焼結炉内のヒータとの間に、特定の構造を有する遮蔽物を配置することで、酸素ガスの分布や対流および酸素ガスによる伝熱を均一なものとすることができ、上述した課題を解決することができるとの知見を得た。本発明は、この知見に基づき完成されたものである。
【0024】
以下、本発明について、「1.酸化物焼結体の製造方法」と、「2.酸化物焼結体およびスパッタリングターゲット」に分けて詳細に説明する。なお、本発明は、目的とする酸化物焼結体の形状によって制限されることはなく、平板状の酸化物焼結体はもちろんのこと、円筒形の酸化物焼結体を製造する場合にも適用可能である。
【0025】
1.酸化物焼結体の製造方法
本発明の酸化物焼結体の製造方法は、従来技術と同様に、
(1)金属酸化物を含む原料粉末を、水や有機バインダなどと混合することでスラリー化する、原料調整工程と、
(2)スラリーを噴霧乾燥して造粒粉末とする、造粒工程と、
(3)造粒粉末を加圧成形して成形体を得る、加圧成形工程と、
(4)成形体を焼成し、酸化物焼結体を得る、焼結工程と
を備える。
【0026】
特に、本発明は、焼結工程において、成形体を、焼結炉内のヒータとの間に、特定の構造を有する遮蔽物が配置された状態で焼成することを特徴とする。以下、工程ごとに分けて、本発明を詳細に説明する。
【0027】
(1)原料調整工程
原料調整工程では、金属酸化物に、水、ポリビニルアルコール(PVA)などの有機バインダ、アクリル酸系共重合物のアミン塩などを混合し、粉砕してスラリー化することが必要となる。このようなスラリー化手段は、従来技術と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0028】
本発明において、金属酸化物は特に制限されることなく、目的とする酸化物焼結体に応じて適宜選択することができる。たとえば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化アルミニウム亜鉛(AZO)、酸化亜鉛スズ(ZTO)などの酸化物焼結体を得ようとする場合、これらの酸化物焼結体を構成する金属元素の酸化物粉末を用いることができる。より具体的には、酸化インジウムスズ(ITO)焼結体を得ようとする場合、原料となる金属酸化物として、酸化インジウム粉末と酸化スズ粉末の混合粉末、酸化インジウムと酸化スズの合成粉末、または、これらの混合粉末を用いることができる。
【0029】
なお、酸化インジウムは難焼結性であるため、平均粒径が1μm未満となるように調整し、焼結性を向上させた上で、加圧成形および焼結させることが多い。このため、スラリー中で酸化インジウム粉末が凝集してしまう場合がある。また、酸化インジウムは比重が大きいため、スラリー中で沈降しやすく、均一なスラリーを得ることが困難となる場合がある。このような場合、スラリー中に、適量の分散剤などを加えて、酸化インジウム粉末の分散を促進することが好ましい。
【0030】
(2)造粒粉工程
造粒工程では、原料調整工程で得られたスラリーを、スプレードライヤなどを用いて噴霧乾燥し、造粒粉末を作製する。この際、乾燥温度を、130℃〜220℃とすることが好ましい。乾燥温度が130℃未満では、スラリーを十分に噴霧乾燥することができない場合がある。一方、乾燥温度が220℃を超えると、造粒粉末が硬質となり、加圧成形時に空孔が生じやすくなり、得られる酸化物焼結体が低密度なものとなってしまう場合がある。
【0031】
(3)加圧成形工程
加圧成形工程では、造粒工程で得られた造粒粉末を、金型やゴム型に充填した上で、一軸プレスまたは冷間静水圧プレス(CIP)などにより加圧成形する。このような成形方法も従来技術と同様であり、特に制限されることはないが、成形圧力を、100MPa〜300MPaとすることが好ましい。成形圧力が100MPa未満では、得られる成形体の密度や強度が低いものとなり、製品歩留まりの悪化を招く場合がある。一方、成形圧力が300MPaを超えても、それ以上の効果を得ることができないばかりか、プレス型などへの負荷が増大する場合がある。
【0032】
(4)焼結工程
本発明では、焼結工程において、上述のようにして得られた成形体を、焼成炉内のヒータとの間に特定の構造を有する遮蔽物を配置した状態で焼成することが必要となる。なお、焼結工程に使用する焼結炉は、焼結時における酸素流量を制御することができる限り、特に制限されることはない。以下、図1図5を参照しながら、焼成工程について説明する。
【0033】
[焼結炉の構成]
焼結工程に用いられる焼結炉は、少なくとも成形体1の両側に、好ましくは成形体1の四方を囲むように矩形状に配置されるヒータ2を備える。この焼結炉内には、成形体1を載置するためのセッター(セラミック製棚板)11a、成形体1を囲むように配置される遮蔽物3、遮蔽物3上に載置され、成形体1の上方を覆うためのセッター11b、ならびに、セッター11aの上面、セッター11bの下面および遮蔽物3の内壁で取り囲まれた領域10内に酸素ガスを供給するための複数(図示の例では4つ)の酸素ガス導入管12が設置される。なお、セッター11bの上に、さらに、成形体1、遮蔽物3、セッター11bおよび酸素ガス導入管12を設置し、多段積構造としてもよい。
【0034】
個々の構成要素の大きさは焼結炉の大きさや焼成される成形体1の大きさや個数により任意であるが、一般的に用いられる焼結炉において、ヒータ2の高さは500mm〜2000mm程度、ならびに、ヒータ2に囲まれる領域の大きさは、平面視で縦550mm〜2200mmおよび横450mm〜1800mm程度である。
【0035】
また、セッター11aの上面、セッター11bの下面および遮蔽物3の内壁によって囲まれる領域10の大きさは、平板状の酸化物焼結体を製造する場合には、縦450mm〜1800mm、横350mm〜1400mmおよび高さ5mm〜60mm程度とすることが好ましい。一方、円筒形酸化物焼結体を製造する場合には、縦450mm〜1800mm、横350mm〜1400mmとし、高さを円筒形酸化物焼結体の全長(長手方向の長さ)よりも3mm〜10mm程度高くすることが好ましい。なお、領域10の高さは、遮蔽物3の高さと同様となる。下記の説明は、基本的には、ここに示したヒータ2の高さおよびヒータ2に囲まれる領域の大きさ、ならびに、領域10の大きさを基準としてなされる。
【0036】
[遮蔽物]
a)形状
図1図4に示すように、遮蔽物3は、複数の遮蔽片4または遮蔽片8を幅方向に組み合わせることにより構成される。より具体的には、遮蔽物3の角部以外の部分では、複数の遮蔽片4を幅方向に組み合わせることにより、角部では、遮蔽片8を組み合わせることにより構成される。
【0037】
遮蔽片4は、本体部5と、本体部5の幅方向両端に形成された係合部6とを備え、隣接する遮蔽片4同士を組み合わせた状態で、相対する係合部6の間に、一定の幅を有し、遮蔽物3の厚さ方向に関して非直線状である間隙9が形成されるように構成される。なお、本発明において、係合部6は、遮蔽片4同士を厚さ方向に移動させた場合に、相互に係合(当接)可能となっている構造と定義される。ただし、遮蔽物3の配置状態では、遮蔽片4の幅方向両端部の間には、係合部6の存在に基づき、厚さ方向に関して非直線状の経路R1を有する間隙9が形成されるため、隣接する遮蔽片4の幅方向端部同士が係合するわけではない。
【0038】
このような遮蔽物3を組み合わせて用いた場合、焼結炉の両側または四方に配置されるヒータ2の輻射熱が、成形体1に直接当たることが防止される。また、焼結時に、成形体1から生じたガス(分解生成ガス)は、間隙9によって形成される経路R1を介して、領域10から外部へ排出されることとなる。この際、ガス圧や流量(排出量)が絞られ、分解生成ガスの排出速度が増加するため、領域10における酸素ガスの分布や対流および酸素ガスによる伝熱を均一化することが可能となる。この結果、収縮率や密度のばらつきが抑制され、反りやクラックなどの欠陥がほとんど存在しない酸化物焼結体を得ることができる。
【0039】
これに対して、図6および図7に示すように、係合部が設けられていない、複数の遮蔽片24からなる遮蔽物23を用いた場合、ヒータ2の輻射熱が、成形体1に直接当たることを防止することはできない。また、分解生成ガスが領域30から外部へ排出される際に通過する経路R2は、直線状となるため、その流量を制御する(絞る)ことができない。この結果、得られる酸化物焼結体には、収縮率や密度にばらつきが生じ、反りやクラックなどの欠陥が生じることとなる。
【0040】
なお、本発明では、遮蔽物3の角部を構成する遮蔽片8は、一端にのみ係合部6を備えていればよい。これは、後述するように、成形体1は、遮蔽物3の内壁から一定の間隔をもって配置されるため、角部を構成する遮蔽片8の他端に係合部6が形成されていなくても、成形体1に、ヒータ2の輻射熱が直接当たることはないためである。また、角部を構成する遮蔽片8によって形成される経路が直線状になったとしても、他の部分の経路R1によって、分解生成ガスの流量を絞ることができれば、領域10における酸素ガスの分布や対流および酸素ガスによる伝熱を、支障なく均一化することができるからである。ただし、角部を構成する遮蔽片8をL字状に形成し、その両端に係合部6を形成することも可能である。
【0041】
遮蔽片4の係合部6の形状は、図1図4に示すように、隣接する遮蔽片4の端部にある係合部6同士により、遮蔽片4が幅方向に相決り継ぎ状に配置されるように形成することが好ましい。係合部6がこのような形状である場合には、間隙9によって形成される経路R1を略S字状とすることができるため、経路R1を通過する分解生成ガスの流量を容易かつ適切に制御することができる。この結果、酸素ガスの分布や対流および酸素ガスによる伝熱の均一化を、一層促進することが可能となる。また、このような形状は、加工が容易であるばかりでなく、耐久性に優れ、かつ、遮蔽片4を幅方向に逆転させてもそのまま遮蔽片4を使用することができるため、その配置作業を容易化できる。
【0042】
ただし、遮蔽片の係合部の形状は、相決り継ぎ状に制限されることはなく、図5(a)〜図5(c)に示すように、隣接する遮蔽片4a〜4cの係合部6a〜6c同士の間に、厚さ方向に関して非直線状の間隙9a〜9cが形成される限り、任意の形状の係合部6a〜6cを採用することができる。この場合、間隙9a〜9cによって形成される厚さ方向の経路R1a〜R1cの長さ(La〜Lc)が、遮蔽片4a〜4cの厚さtに対して、1.5倍〜2.0倍となるように規制すればよい。
【0043】
b)間隙
間隙9、9a〜9cの幅dは、1mm〜5mm、好ましくは1mm〜4mm、より好ましくは1mm〜3mmに調整することが必要となる。これにより、焼結時に、領域10から外部に排出される分解生成ガスの流量を制御し、領域10内における酸素ガスの分布や対流および酸素ガスによる伝熱を均一化することができる。
【0044】
これに対して、間隙9、9a〜9cの幅dが1mm未満では、分解生成ガスを領域10から十分に排出することができない。一方、間隙9、9a〜9cの幅dが5mmを超えると、分解生成ガスが領域10から外部に排出される際のガス圧や流量を十分に絞ることができない。このため、いずれの場合も、領域10内の酸素ガスの分布や対流および酸素ガスによる伝熱が不均一となり、得られる焼結体の収縮率や密度のばらつきを抑制することができない。
【0045】
なお、間隙9、9a〜9cの数は、領域10の大きさ、成形体1のサイズや同時に焼成する成形体1の個数などに応じて、実験やシミュレーションなどに基づき、焼結時における酸素ガスの分布や対流および酸素ガスによる伝熱が均一となるように適宜決定される。たとえば、領域10の大きさが、平面視で上述した範囲にある場合、間隙9、9a〜9cは、縦方向に3個〜6個、横方向に4個〜6個設けることが好ましい。
【0046】
c)遮蔽片の寸法
遮蔽片4、4a〜4cおよび8の長手方向の長さは、間隙9、9a〜9cの数を上述した範囲で適宜調整することができる限り、特に制限されることないが、概ね100〜300mm程度することが好ましく、150mm〜250mm程度とすることがより好ましい。なお、遮蔽片4および4a〜4cの長手方向の長さは、全て同一とする必要はなく、間隙9、9a〜9cの数や位置が最適なものとなるように、上述した範囲で適宜調整してもよい。
【0047】
一方、遮蔽片4、4a〜4cおよび8の高さは、平板状の酸化物焼結体を製造する場合には5mm〜60mm程度とすることが好ましい。円筒形状の酸化物焼結体を製造する場合には、その全長よりも3mm〜10mm程度高くすることが好ましい。なお、遮蔽片4、4a〜4cおよび8の高さは、領域10の高さとなるため、全て同一とすることが必要となる。
【0048】
また、遮蔽片4、4a〜4cおよび8の厚さtは、その材質に応じて適宜選択されるべきものであるが、概ね、5mm〜30mmとすることが好ましく、5mm〜25mmとすることがより好ましく、10mm〜20mmとすることがさらに好ましい。遮蔽片4、4a〜4cおよび8の厚さtが5mm未満では、十分な断熱効果が得られないばかりでなく、遮蔽物3から放射される熱量が小さくなる。一方、遮蔽片4、4a〜4cおよび8の厚さtが30mmを超えると、断熱効果が過大となり、領域10内を均熱化することが困難となる。
【0049】
なお、遮蔽片として、係合部の形状が相決り継ぎ状である遮蔽片4を用いる場合、その厚さtに対する、突出部7の長さwの比(w/t比)は、好ましくは0.5〜1.0、より好ましくは0.5〜0.8、さらに好ましくは0.5〜0.7とする。w/t比が0.5未満では、分解生成ガスが領域10から外部に排出される際のガス圧や流量を十分に絞ることができない場合がある。一方、w/t比が1.0を超えると、経路R1が長くなり、領域10から外部に排出される分解生成ガスに作用する抵抗(流体抵抗)が過大となる場合がある。
【0050】
d)材質
遮蔽物3の材質は、目的とする酸化物焼結体の焼結温度で容易に変形および変質しないものであれば、特に制限されることはない。具体的には、遮蔽物3の材質として、アルミナ(Al23)、マグネシア(MgO)、ジルコニア(ZrO2)、アルミナ−シリカ(Al23−SiO2)系セラミックなどを使用することができる。これらの中でも、低コストで、熱環境度が高く、耐熱衝撃性に優れる、アルミナ製の遮蔽物を使用することが好ましい。
【0051】
[遮蔽物の配置]
図1および図2に示すように、焼結炉内において、遮蔽物3は、ヒータ2と成形体1との間に配置される。より具体的には、遮蔽物3は、複数の成形体1を囲むように、セッター11a上に配置され、その上部には、セッター11bが配置される。ただし、セッター11aおよび11bならびに遮蔽物3によって取り囲まれる領域10内には、酸素ガスを供給するための酸素ガス導入管12を配置する必要がある。このような配置を採ることで、ヒータ2の輻射熱から成形体1を保護しつつ、分解生成ガスを、効率的に領域10から外部に排出することが可能となるため、領域10内の酸素ガスの分布や対流および酸素ガスによる伝熱を均一化することができる。
【0052】
なお、遮蔽物3の内壁と成形体1との間隔は20mm〜30mm程度とし、成形体1同士の間隔は20m〜60mm程度とすることが好ましい。
【0053】
[焼結条件]
成形体1は、ヒータ2との間に、遮蔽物3が配置された状態で焼成される。この際の焼結条件は、目的とする酸化物焼結体の組成、形状、大きさおよび同時に焼成する成形体1の個数などに応じて、適宜選択されるべきものである。たとえば、長さが100mm〜400mm、幅が50mm〜200mm、厚さが3mm〜10mmの平板状の酸化インジウム系酸化物焼結体、または、全長が100mm〜300mm、外径が90mm〜180mm、内径が80mm〜140mmの円筒形の酸化インジウム系酸化物焼結体を得ようとする場合には、以下のような条件を採用することができる。
【0054】
a)雰囲気
焼結工程における雰囲気は、酸化性雰囲気であることが必要であり、酸素ガス導入管12を介して、炉内容積1L当たり、0.9×10-2L/min〜3.6×10-2L/minの酸素を導入することが好ましく、1.5×10-2L/min〜2.7×10-2L/minの酸素を導入することがより好ましい。この際、炉内圧は、ゲージ圧で2気圧以下とすることが好ましい。
【0055】
酸素の導入量が、炉内容積1L当たり0.9×10-2L/min未満では、内部や表面に空孔が発生し、高密度の酸化物焼結体を得ることができない場合がある。一方、酸素の導入量が、炉内容積1L当たり3.6×10-2L/minを超えると、焼結中に、炉内の温度分布が不均一となり、同様に、高密度の酸化物焼結体を得ることができない場合がある。
【0056】
b)焼結温度
焼結温度は、成形体1を構成する金属酸化物粉末が粒成長することが可能な範囲とすることが必要となる。具体的には、酸化インジウム系酸化物焼結体を得ようとする場合、焼結温度を1100℃〜1600℃の範囲で設定することが好ましく、1400℃〜1550℃の範囲で設定することがより好ましい。
【0057】
焼結温度が1100℃未満では、酸化インジウム粉末を十分に粒成長させることができない。一方、焼結温度が1600℃を超えると、焼結炉に過度の負荷がかかるばかりでなく、金属成分の揮発量が増加し、得られる酸化物焼結体に組成ずれなどの問題が生じることとなる。
【0058】
c)昇温速度
本発明において、焼結工程における昇温速度は、特に制限されることはないが、成形体1に含まれる有機バインダなどを揮発させた後、1300℃までは24時間程度かけて昇温し、1300℃から焼結温度までを150分以内で昇温することが好ましい。なお、1300℃から焼結温度までの昇温速度は、炉内の温度分布を均一に保てる範囲で、可能な限り早くすることがより好ましい。
【0059】
2.酸化物焼結体およびスパッタリングターゲット
(1)酸化物焼結体
本発明の酸化物焼結体は、上述した製造方法によって製造されるものである。このような酸化物焼結体は、収縮率や密度のばらつきが少ないことを特徴とする。具体的には、焼結前後における収縮率の最大値と最小値の差を0.3%以下、好ましくは0.1%以下とすることができる。また、相対密度の最大値と最小値の差を0.2%以下、好ましくは0.1%以下とすることができる。
【0060】
なお、収縮率は、得られた酸化物焼結体の寸法を、スケールを用いて測定し、予め測定した成形体1の寸法と対比することにより求めることができる。また、相対密度は、アルキメデス法により求めることができる。
【0061】
加えて、本発明の酸化物焼結体は、反りやクラックなどの欠陥がほとんど存在しないことを特徴とする。具体的には、反り量を0.30mm以下、好ましくは0.25mm以下に抑制することができる。
【0062】
なお、反り量は、酸化物焼結体を定盤上に載置し、その端部4か所において、定盤からの浮き上がり量を測定し、その平均値を算出することで求めることができる。
【0063】
(2)スパッタリングターゲット
本発明のスパッタリングターゲットは、従来のスパッタリングターゲットと同様に、バッキングプレートまたはバッキングチューブと、このバッキングプレートまたはバッキングチューブに接合されたターゲット材とから構成される。特に、本発明のスパッタリングターゲットは、ターゲット材として、本発明の酸化物焼結体が用いられていることを特徴とする。
【0064】
このようなスパッタリングターゲットは、高密度でありながらも、密度のばらつきが少なく、かつ、反りやクラックなどの欠陥もほとんどしないため、成膜時におけるノジュールやアーキングの発生を大幅に低減することが可能である。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例は例示に過ぎず、本発明は、これらの実施により限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
[原料調整工程〜加圧成形工程]
はじめに、平均粒径が0.4μmの酸化インジウム粉末90質量%と、平均粒径が0.4μmの酸化スズ粉末10質量%とを混合し、これに水と有機バインダ(ポリビニルアルコール)2質量%加えて、湿式ボールミルを用いて18時間混合することによりスラリーを得た。
【0067】
このようにして得られたスラリーを、スプレードライヤ(大川原化工機株式会社製、ODL−20型)を用いて噴霧乾燥し、平均粒径が60μmの造粒粉末を得た。
【0068】
この造粒粉末をゴム型に充填し、CIPにより、3tоn/cm2(300MPa)で加圧成形し、長さが350mm、幅が150mm、厚さが9mmの平板状の成形体1を4枚作製した。
【0069】
[焼結工程]
焼結工程に際して、図1図4に示すように、複数の遮蔽片4と遮蔽片8により構成される、遮蔽物3を用意した。このうち、遮蔽片4は、本体部5と、両端に、隣接する遮蔽片4同士を組み合わせた状態で、相決り継ぎ状の継ぎ目を構成する係合部6を備え、長手方向の長さが245mmまたは170mm、高さが30mm、厚さtが20mmであり、突出部7の長さwが10mm(w/t比=0.5)、厚さが8.5mmとなるように構成されたものであった。また、遮蔽片8は、長手方向の長さが235mmまたは160mm、高さが30mm、厚さtが20mmであり、側端部に設けられた突出部7の長さwが10mm(w/t比=0.5)、厚さが8.5mmとなるように構成されたものであった。
【0070】
次に、ヒータ2によって囲まれた領域の容積が1.1m3(縦1100mm、横1000mm、高さ1000mm)である焼結炉内に、セッター11a(縦1000mm、横900mm、厚さ30mm)を設置し、その上面にITO粉末を0.5mmの厚さで敷き詰めた上で、4枚の成形体1を50mm間隔で並べて載置した。続いて、成形体1の周囲に、遮蔽片4および遮蔽片8を、平面視で縦方向に2個ずつを両側2列、横方向に3個と2個ずつを両側2列、配置して、遮蔽物3を構成した。この際、遮蔽片4の相対する係合部6の間に、幅dが3mm程度で、厚さ方向に関してクランク形状を有する間隙9が形成されるように、遮蔽片4の配置を調整した。この間隙9によって形成される経路R1の長さは30mm(1.5t)であった。また、遮蔽物3は、その内壁と成形体1との間隔が50mm程度となるように配置し、その上面にセッター11bを設置した。この状態において、セッター11aの上面、セッター11bの下面および遮蔽物3の内壁に囲まれた領域10の大きさは、縦900mm、横800mmおよび高さ30mmであった。
【0071】
また、図1に示すように、領域10内に、焼結炉内に酸素を導入するための酸素ガス導入管12を設置した。具体的には、セッター11aの一端(図1のセッター11aの上端)から10mm離隔した位置に、200mm間隔で、内径0.5mmの酸素ガス導入管(磁性管)12を設置した。そして、これらの酸素ガス導入管12を介して、炉内溶液1L当たり、1.8×10-2L/minの流量で、酸素の導入を開始した。
【0072】
この状態で、炉内温度を、室温から1300℃までを24時間かけて昇温した。続いて、1300℃から1450℃までを30分間かけて昇温した後、1500℃までを10分間かけて昇温し、この温度で15時間保持することにより、酸化物焼結体を4枚作製した。
【0073】
[酸化物焼結体の評価]
得られた4枚の酸化物焼結体のそれぞれについて、以下の評価を行った。
【0074】
a)収縮率
酸化物焼結体の寸法(長さ、幅および厚さ)をスケールで測定し、成形体1に対する収縮率を求めた。4枚の酸化物焼結体の収縮率の平均値、最大と最小値の差および標準偏差を表2に示す。
【0075】
b)相対密度
アルキメデス法により、酸化物焼結体の相対密度を測定した。4枚の酸化物焼結体の相対密度の平均値、最大値と最小値の差および標準偏差を表2に示す。
【0076】
c)反り量
酸化物焼結体を定盤上に載置し、その端部4か所において、定盤からの浮き上がり量を測定し、その平均値をその酸化物焼結体の反り量とした。4枚の酸化物焼結体の反り量の平均値および最大値と最小値の差を表2に示す。
【0077】
d)欠陥
酸化物焼結体の外観を目視で観察することにより、クラックなどの欠陥の有無を確認した。この結果を表2に示す。
【0078】
(実施例2、3および比較例1〜5)
遮蔽物の配置や、これを構成する遮蔽片の形状を表1に示すようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、酸化物焼結体を得て、その評価を行った。これらの結果を表2に示す。
【0079】
(実施例4)
実施例1と同様にして得られた造粒粉末をゴム型に充填し、CIPにより、3tоn/cm2(300MPa)で加圧成形することで、外径163mm、内径127mm、全長145mmの円筒形成形体を得た。
【0080】
この円筒形成形体を、遮蔽片4として、高さが150mmのものを用いたこと以外は実施例1と同様にして焼成させて、円筒形酸化物焼結体を得た。この円筒形酸化物焼結体に対して、反り量の測定を除き、実施例1と同様にして、評価を行った。この結果を表2に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
[評価]
表1および表2より、本発明の技術的範囲に属する実施例1〜4で得られた酸化物焼結体は、焼結前後における収縮率の最大値と最小値の差が0.3%以下であることが確認された。また、これらの酸化物焼結体は、相対密度が99.60%以上と高く、かつ、その最大値と最小値の差が0.2%以下であることが確認された。さらに、目視による観察の結果、これらの酸化物焼結体には、欠陥がほとんど存在しないことが確認された。なお、実施例1〜3の平板状の酸化物焼結体については、反り量が0.30μm以下に抑制されていることが確認された。
【0084】
これに対して、比較例1〜5で得られた酸化物焼結体は、収縮率の最大値と最小値の差、反り量および相対密度の最大値と最小の差が、いずれも本発明の範囲から外れていることが確認された。この理由は、以下のように考えられる。
【0085】
比較例1および3では、遮蔽片間に間隙が存在しないため、成形体から生じた分解生成ガスを、遮蔽物で囲まれた領域から外部に排出することができず、この領域内の酸素の分布や対流および酸素による伝熱が不均一になったためと考えられる。
【0086】
比較例2では、遮蔽片間の間隙が広すぎたため、ガス圧や分解生成ガスの流量を十分に絞ることができず、同様に、遮蔽物で囲まれた領域内の酸素の分布や対流および酸素による伝熱が不均一になったためと考えられる。
【0087】
比較例4では、遮蔽片に係合部を形成しなかったため、成形体をヒータの輻射熱から保護することができず、成形体が部分的に加熱されたためと考えられる。
【0088】
比較例5では、遮蔽片間の間隙によって形成される経路が遮蔽片と平行であることに起因して、ガス対流が不均一になったためと考えられる。
【0089】
以上より、本発明の製造方法により、収縮率や密度のばらつきが少なく、かつ、反りなどの欠陥がほとんど存在しない、高品質の酸化物焼結体が得られることが分かる。
【符号の説明】
【0090】
1 成形体
2 ヒータ
3 遮蔽物
4、4a〜4c 遮蔽片
5、5a〜5c 本体部
6、6a〜6c 係合部
7 突出部
8 遮蔽片
9、9a〜9c 間隙
10 領域
11a、11b セッター
12 酸素ガス導入管
23 遮蔽物
24 遮蔽片
29 間隙
30 領域
33 遮蔽物
34 遮蔽片
39 間隙
40 領域
1、R1a〜R1c、R2 経路
t 遮蔽片の厚さ
w 突出部の長さ
d 間隙の幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8