特許第6281479号(P6281479)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越半導体株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6281479-単結晶引上げ装置 図000002
  • 特許6281479-単結晶引上げ装置 図000003
  • 特許6281479-単結晶引上げ装置 図000004
  • 特許6281479-単結晶引上げ装置 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6281479
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】単結晶引上げ装置
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20180208BHJP
   C30B 15/00 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   C30B29/06 502E
   C30B15/00 Z
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-249814(P2014-249814)
(22)【出願日】2014年12月10日
(65)【公開番号】特開2016-108204(P2016-108204A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2016年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】高沢 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】高野 清隆
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−127216(JP,A)
【文献】 特開2008−311310(JP,A)
【文献】 特開2006−298141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
C30B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱ヒータと、原料融液を収容する石英ルツボとが配置されたメインチャンバーと、
該メインチャンバー上に設けられた引上げチャンバーと、
前記メインチャンバーの天井部より延設され、前記原料融液の直上に設けられ、引上げられた単結晶棒を冷却する冷却筒と
を有する単結晶引上げ装置であって、
前記冷却筒は冷却水が通過する流路を有し、
前記流路の前記原料融液側の先端部に、前記流路の内部を継続的または断続的に観察する観察装置が設けられたものであることを特徴とする単結晶引上げ装置。
【請求項2】
前記冷却水が純水であることを特徴とする請求項1に記載の単結晶引上げ装置。
【請求項3】
前記観察装置が内視鏡であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の単結晶引上げ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶引上げ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイス用シリコンウェーハの高品質化と低コスト化が進み、高い品質のウェーハを高効率で製造する技術が望まれている。
【0003】
高効率結晶育成のひとつの解決策として,結晶の冷却度を高くすることが上げられる。すなわち、結晶の冷却度を高くすることで結晶成長界面において高い温度勾配にすると、無欠陥となる成長速度を高速化できるというものである。
【0004】
結晶成長界面における高い温度勾配を実現するために、低温の冷却筒を結晶成長界面近傍に設置することが行われている。しかしながら、冷却筒先端が原料融液に曝され、冷却筒の先端が高温となるため、冷媒を冷却筒内に流すことで冷却筒の先端を十分に冷却する必要があった。
冷却筒の先端を効率よく冷却する技術としては、例えば、特許文献1に開示されているようなものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−255682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、結晶成長界面における高い温度勾配を実現するために、冷媒を冷却筒内に流すことで冷却筒の先端を十分に冷却する必要があった。
そこで、本発明者は、連続的に結晶製造を行った場合の冷却筒先端部の温度の経時変化に着目し、図3に示すように冷却筒の冷媒の流路の先端部に熱電対を設置し、複数回の結晶製造を連続的に行い、各回の結晶製造時の最高温度の経時変化を調べた。なお、冷媒には冷却水(純水)を用いた。
その結果、結晶製造回数が増加する度に冷却筒先端部の最高温度が上昇し、冷却水の沸点である100℃を超えるまでに至った。
【0007】
冷却水が100℃以上になると、冷却水の沸騰により著しく冷却能力が低下し、冷却筒の温度が上昇する。その結果、冷却筒が焼け付き、場合によっては冷却筒が熱応力により変形して破損し、その後の継続使用が不可能になるという問題があった。また、冷却筒の変形に至らない場合でも、結晶成長界面における温度勾配が低下するために、育成した単結晶の結晶性に影響するという問題があった。
【0008】
本発明者は、さらに、結晶製造回数が増加する度に冷却筒先端部の最高温度が上昇する原因について、冷却筒の冷却水の流路先端部を工業用内視鏡を用いて調べた。その結果、図4に示すように、冷却水の流路の壁面にスライム状の堆積物が確認された。このスライム状の堆積物の成分を調査した所、銅、炭素、及び鉄が多く検出され、単結晶引上げ装置に冷却水を供給するように敷設された配管の成分と判明した。
【0009】
冷却筒の冷却水として純水を使用している限り、冷却筒内の流路に堆積物が形成されることは想定していなかったが、上記の結果から冷却筒の冷却水として純水を使用した場合であっても、冷却筒の冷却水の流路内部の状態を継続的または断続的に観察する必要があることがわかった。
【0010】
そして、このスライム状堆積物を洗浄により除去した後、結晶製造を行ったところ、冷却筒の先端部の結晶製造中の最高温度は70℃となり、初回の結晶製造時と同じであった。
以上から、冷却筒の先端部の温度の上昇は堆積物によるものであることがわかり、堆積物が確認され次第、これを除去する必要があった。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、冷却筒の経時的な温度上昇による冷却能力の低下を防止することができる単結晶引上げ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、加熱ヒータと、原料融液を収容する石英ルツボとが配置されたメインチャンバーと、該メインチャンバー上に設けられた引上げチャンバーと、前記メインチャンバーの天井部より延設され、前記原料融液の直上に設けられ、引上げられた単結晶棒を冷却する冷却筒とを有する単結晶引上げ装置であって、前記冷却筒は冷却水が通過する流路を有し、前記流路の前記原料融液側の先端部に、前記流路の内部を観察する観察装置が設けられたものであることを特徴とする単結晶引上げ装置を提供する。
【0013】
このように、冷却筒の流路の原料融液側の先端部に、冷却筒の流路の内部を観察する観察装置を設けることで、冷却筒の流路の内部に形成される堆積物を早期に検知することができ、堆積物の形成により引き起こされる冷却筒の経時的な冷却能力の低下を防止することができるとともに、冷却筒の洗浄のタイミングを適切に判断することができる。
【0014】
このとき、前記冷却水が純水であることが好ましい。
冷却水が純水であれば、冷却筒の流路の内部に堆積物が形成されにくくなり、冷却筒の洗浄頻度を低減させることができる。
【0015】
このとき、前記観察装置が内視鏡であることが好ましい。
観察装置が内視鏡であれば、より確実に冷却筒の流路の内部に形成される堆積物を検知することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明の単結晶引上げ装置によれば、冷却筒の流路の原料融液側の先端部に、冷却筒の流路の内部を観察する観察装置を設けることで、冷却筒の流路の内部に形成される堆積物を早期に検知することができ、冷却筒の経時的な冷却能力の低下を防止することができるとともに、冷却筒の洗浄のタイミングを適切に判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の単結晶引上げ装置の実施態様の一例を示す断面図である。
図2】本発明の単結晶引上げ装置の冷却筒の詳細な構成を示す断面図である。
図3】冷却筒における熱電対の設置位置を示す図である。
図4】冷却筒の流路の内部に形成される堆積物を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0019】
前述したように、結晶成長界面における高い温度勾配を実現するために、冷媒を冷却筒に流すことで冷却筒の先端を十分に冷却する必要があるが、冷却筒の経時的な冷却能力の低下が生じるという問題があった。
【0020】
そこで、本発明者は、冷却筒の経時的な冷却能力の低下を防止することができる単結晶引上げ装置について鋭意検討を重ねた。
その結果、冷却筒の流路の原料融液側の先端部に、冷却筒の流路の内部を観察する観察装置を設けることで、冷却筒の流路の内部に形成される堆積物を早期に検知することができ、冷却筒の経時的な冷却能力の低下を防止することができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0021】
以下、図1、2を参照しながら、本発明の単結晶引上げ装置の実施態様の一例を説明する。
【0022】
図1の単結晶引上げ装置15は、加熱ヒータ7と原料融液4を収容する石英ルツボ5とが配置されたメインチャンバー1と、メインチャンバー1上に設けられた引上げチャンバー2と、メインチャンバー1の天井部より下方に延設され、原料融液4の直上に設けられ、引上げられた単結晶棒3を冷却する冷却筒11とを有している。
【0023】
メインチャンバー1の下部にはガス流出口9を設けることができ、引上げチャンバー2の上部にはガス導入口10を設けることができる。石英ルツボ5は、例えば、黒鉛ルツボ6によって支持され、黒鉛ルツボ6は、例えば、ルツボ回転軸19によって支持される。石英ルツボ5を加熱する加熱ヒータ7の外側には、例えば、断熱部材8が周囲を取り囲むように設けられている。
引上げチャンバー2の上部には、例えば、引上げ機構(不図示)が設けられており、引上げ機構からは、例えば、引上げワイヤ16が巻出されており、その先端には、例えば、種結晶17を取り付けるための種ホルダ18が接続されている。冷却筒11には、例えば、冷却水導入口12が設けられている。冷却筒11の下端部には、例えば、原料融液面近傍に延伸する黒鉛製冷却補助部材13が設けられており、黒鉛製冷却補助部材13の下方には、例えば、輻射シールド14が設けられている。
【0024】
冷却筒11の詳細な構成を図2に示す。冷却筒11は冷却水が通過する流路22を有しており、流路22の原料融液4側の先端部に、流路22の内部を観察する観察装置が設けられている。冷却筒11には、例えば、冷却水入り口21、冷却水出口20が設けられている。
図2においては、観察装置として内視鏡30が例示されている。内視鏡30は、例えば、内視鏡コントローラ31によって制御され、内視鏡コントローラ31に接続されるモニター(不図示)によって観察結果を見ることができる。なお、内視鏡コントローラ31は、必ずしも内視鏡30と常時接続されている必要はなく、例えば、冷却筒11の流路22の内部を観察する時に内視鏡30と接続するようにしてもよい。
観察装置が内視鏡30であれば、より確実に冷却筒11の流路22の内部に形成される堆積物を検知することができる。
【0025】
上記のように、冷却筒11の流路22の原料融液4側の先端部に、冷却筒11の流路22の内部を観察する観察装置を設けることで、冷却筒11の流路22の内部に形成される堆積物を早期に検知することができ、堆積物の形成により引き起こされる冷却筒の経時的な冷却能力の低下を防止することができるとともに、冷却筒11の洗浄のタイミングを適切に判断することができる。
なお、冷却筒11の原料融液4側の先端部の温度監視により、堆積物形成の検知を間接的に行うこともできるが、温度監視に用いる熱電対を長期間使用すると断線し、温度測定を正確にできないという問題がある。従って、観察装置によって堆積物形成の検知を行った方が、より確実に堆積物形成を検知できる。
【0026】
この場合、冷却筒11の流路22を通過する冷却水が純水であることが好ましい。
冷却水が純水であれば、冷却筒11の流路22の内部に堆積物が形成されにくくなり、冷却筒11の洗浄頻度を低減させることができ、製造コストを低減させることができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
(実施例)
図1の単結晶引上げ装置15を用いて、複数回のシリコン単結晶の製造を行った。ただし、冷却筒11は、図2に示すように、流路22の原料融液4側の先端部に、内視鏡30を設けた構成とした。
シリコン単結晶製造終了のたびに、内視鏡30と内視鏡コントローラ31とを接続して、冷却筒11の原料融液4側の先端部分の流路22内部を観察し、流路22内の堆積物が顕著になった時点で冷却筒11の流路22の洗浄を実施し、洗浄後にシリコン単結晶製造を再開した。堆積物の確認、堆積物の確認結果に基づく流路洗浄を繰り返すことにより、冷却筒11の経時的な冷却能力の低下が起こることなく、継続して冷却筒11の使用が可能となった。さらに、冷却筒11の洗浄のタイミングを適切に判断できるようになったので、冷却筒11の洗浄の頻度が、後述する比較例に比べて25%低減した。
【0029】
(比較例)
図1の単結晶引上げ装置15を用いて、複数回のシリコン単結晶の製造を行った。ただし、冷却筒11は、観察装置を設けない構成とした。
冷却筒11の流路22内を洗浄した後、どの程度の経過時間で冷却筒11の変形が生じるのかを考慮して、冷却筒11が変形しないように10000時間毎に冷却筒11の流路22内の洗浄を実施した。このため、堆積物が少量であり洗浄が必要ない場合であっても、10000時間が経過すれば冷却筒11の洗浄を実施することになった。
【0030】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0031】
1…メインチャンバー、 2…引上げチャンバー、 3…単結晶棒、 4…原料融液、
5…石英ルツボ、 6…黒鉛ルツボ、 7…加熱ヒータ、
8…断熱部材、 9…ガス流出口、 10…ガス導入口、 11…冷却筒、
12…冷却水導入口、 13…黒鉛製冷却補助部材、 14…輻射シールド、
15…単結晶引上げ装置、 16…引上げワイヤ、 17…種結晶、
18…種ホルダ、 19…ルツボ回転軸、 20…冷却水出口、
21…冷却水入り口、 22…流路、
30…内視鏡、 31…内視鏡コントローラ。
図1
図2
図3
図4