(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池電極用複合粒子、リチウムイオン二次電池電極用複合粒子の製造方法、リチウムイオン二次電池電極材料、リチウムイオン二次電池電極及びリチウムイオン二次電池電極の製造方法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明の電気化学素子電極用複合粒子(以下、本発明の複合粒子ということがある。)は、電極活物質と結着剤とを含む複合粒子の表面を外添剤で被覆した電気化学素子電極用複合粒子であって、前記外添剤は、ガラス転移温度(Tg)が30℃以上80℃以下である有機微粒子を含む。
【0013】
(電極活物質)
本発明に用いる電極活物質は、電気化学素子の種類によって適宜選択される。なお、以下において、さらに、「正極用活物質」とは正極用の電極活物質を意味し、「負極用活物質」とは負極用の電極活物質を意味する。また、「正極活物質層」とは正極に設けられる電極活物質層を意味し、「負極活物質層」とは負極に設けられる電極活物質層を意味する。
本発明の複合粒子をリチウムイオン二次電池の電極材料として用いる場合、正極用活物質としては、遷移金属を含有する化合物、具体的には、遷移金属を含有する酸化物、又はリチウムと遷移金属との複合酸化物を用いることができる。このような遷移金属の例としては、コバルト、マンガン、ニッケル、鉄などを挙げることができる。さらに、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン、ポリキノンなどのポリマーを用いることができる。
【0014】
これらの中でも、ニッケルを含有する化合物、特に、リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物が好適に用いられる。リチウムとニッケルを含有する複合酸化物は、従来よりリチウム系二次電池の正極用活物質として用いられているコバルト酸リチウム(LiCoO
2)と比較して、高容量であるため、好適である。リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物としては、たとえば、下記一般式で表されるものが挙げられる。
【0015】
LiNi
1-x-yCo
xM
yO
2
(ただし、0≦x<1、0≦y<1、x+y<1、Mは、B、Mn、及びAlから選択される少なくとも1種の元素)
【0016】
また、リチウムイオン二次電池用正極の対極としての負極に用いる負極用活物質としては、たとえば、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メゾカーボンマイクロビーズ(MCMB)、及びピッチ系炭素繊維などの炭素質材料;ポリアセン等の導電性高分子;リチウムと合金化可能なSi、Sn、Sb、Al、Zn及びWなどが挙げられる。なお、上記に例示した電極活物質は適宜用途に応じて単独で使用してもよく、複数種混合して使用してもよい。
【0017】
リチウムイオン二次電池電極用の電極活物質の形状は、粒状に整粒されたものが好ましい。粒子の形状が球形であると、電極成形時により高密度な電極が形成できる。
【0018】
リチウムイオン二次電池電極用の電極活物質の平均粒子径は、正極用活物質、負極用活物質ともに通常0.1〜100μm、好ましくは1〜50μm、より好ましくは5〜20μmである。平均粒子径が大きすぎるとリチウムイオン二次電池としたときに抵抗が高くなり、平均粒子径が小さすぎると電解液の分解が促進されるため電池の耐久性が不十分となる傾向がある。
【0019】
また、本発明の複合粒子を電気二重層キャパシタ用の電極材料として用いる場合、電極活物質としては、通常、炭素の同素体が用いられる。電気二重層キャパシタ用の電極活物質は、同じ重量でもより広い面積の界面を形成することが可能な、比表面積の大きいものが好ましい。具体的には、比表面積が、通常、30m
2/g以上、好ましくは500〜5,000m
2/g、より好ましくは1,000〜3,000m
2/gの範囲である。炭素の同素体の具体例としては、活性炭、ポリアセン、カーボンウィスカ及びグラファイト等が挙げられ、これらの粉末又は繊維を使用することができる。これらのなかでも、活性炭が好ましく、具体的には、フェノール系、レーヨン系、アクリル系、ピッチ系、又はヤシガラ系等の活性炭を挙げることができる。
【0020】
さらに、本発明の複合粒子をリチウムイオンキャパシタ用の電極材料として用いる場合、電極活物質としては、正極用活物質として、上述した電気二重層キャパシタ用の電極活物質を、また、負極用活物質として、上述したリチウムイオン二次電池の負極用の電極活物質を、それぞれ使用することができる。
【0021】
(結着剤)
複合粒子に用いられる結着剤としては、上述の電極活物質を相互に結着させることができる物質であれば特に制限はない。好適な結着剤は、溶媒に分散する性質のある分散型結着剤である。分散型結着剤として、例えば、シリコン系重合体、フッ素含有重合体、共役ジエン系重合体、アクリレート系重合体、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン等の高分子化合物が挙げられ、好ましくはフッ素含有重合体、共役ジエン系重合体およびアクリレート系重合体、より好ましくは共役ジエン系重合体およびアクリレート系重合体が挙げられる。これらの重合体は、それぞれ単独で、または2種以上混合して、分散型結着剤として用いることができる。
【0022】
フッ素含有重合体は、フッ素原子を含む単量体単位を含有する重合体である。フッ素含有重合体の具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体、パーフルオロエチレン・プロペン共重合体が挙げられる。中でも、ポリテトラフルオロエチレンを含むことが、フィブリル化して電極活物質を保持しやすいので好ましい。
【0023】
共役ジエン系重合体は、共役ジエン系単量体の単独重合体もしくは共役ジエン系単量体を含む単量体混合物を重合して得られる共重合体、またはそれらの水素添加物である。共役ジエン系単量体として、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などを用いることが好ましく、電極とした際における柔軟性を向上させることができ、割れに対する耐性を高いものとすることができる点で1,3−ブタジエンを用いることがより好ましい。また、単量体混合物においてはこれらの共役ジエン系単量体を2種以上含んでもよい。
【0024】
共役ジエン系重合体が、上述した共役ジエン系単量体と、これと共重合可能な単量体との共重合体である場合、かかる共重合可能な単量体としては、たとえば、α,β−不飽和ニトリル化合物や酸成分を有するビニル化合物などが挙げられる。
【0025】
共役ジエン系重合体の具体例としては、ポリブタジエンやポリイソプレンなどの共役ジエン系単量体単独重合体;カルボキシ変性されていてもよいスチレン・ブタジエン共重合体(SBR)などの芳香族ビニル系単量体・共役ジエン系単量体共重合体;アクリロニトリル・ブタジエン共重合体(NBR)などのシアン化ビニル系単量体・共役ジエン系単量体共重合体;水素化SBR、水素化NBR等が挙げられる。
【0026】
共役ジエン系重合体中における共役ジエン系単量体単位の含有割合は、好ましくは20〜60重量%であり、より好ましくは30〜55重量%である。共役ジエン系単量体単位の含有割合が大きすぎると、結着剤として共役ジエン系重合体を含む、本発明の複合粒子を用いて負極を製造した場合に、耐電解液性が低下する傾向がある。共役ジエン系単量体単位の含有割合が小さすぎると、結着剤として共役ジエン系重合体を含む複合粒子を用いて電極を製造した際に、電極活物質層と集電体との十分な密着性が得られない傾向がある。
【0027】
アクリレート系重合体は、一般式(1):CH
2=CR
1−COOR
2(式中、R
1は水素原子またはメチル基を、R
2はアルキル基またはシクロアルキル基を表す。R
2はさらにエーテル基、水酸基、リン酸基、アミノ基、カルボキシル基、フッ素原子、またはエポキシ基を有していてもよい。)で表される化合物〔(メタ)アクリル酸エステル〕由来の単量体単位を含む重合体、具体的には、一般式(1)で表される化合物の単独重合体、または前記一般式(1)で表される化合物を含む単量体混合物を重合して得られる共重合体である。一般式(1)で表される化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸イソボニル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、および(メタ)アクリル酸トリデシル等の(メタ)アクリル酸(シクロ)アルキルエステル;(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシジプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等のエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸等のカルボン酸含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸パーフロロオクチルエチル等のフッ素基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸リン酸エチル等のリン酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル;等が挙げられる。
【0028】
本明細書において、「(メタ)アクリル」は「アクリル」及び「メタクリル」を意味する。また、「(シクロ)アルキルエステル」は「アルキルエステル」及び「シクロアルキルエステル」を意味する。また、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」を意味する。
【0029】
これら(メタ)アクリル酸エステルは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、および(メタ)アクリル酸n―ブチルやアルキル基の炭素数が6〜12である(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましい。これらを選択することにより、電解液に対する膨潤性を低くすることが可能となり、サイクル特性を向上させることができる。
【0030】
また、アクリレート系重合体が、上述した一般式(1)で表される化合物と、これと共重合可能な単量体との共重合体である場合、かかる共重合可能な単量体としては、たとえば、2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステル類、芳香族ビニル系単量体、アミド系単量体、オレフィン類、ジエン系単量体、ビニルケトン類、及び複素環含有ビニル化合物などのほか、α,β−不飽和ニトリル化合物や酸成分を有するビニル化合物が挙げられる。
【0031】
上記共重合可能な単量体の中でも、電極を製造した際に変形しにくく強度が強いものとすることができ、また、電極活物質層と集電体との十分な密着性が得られる点で、芳香族ビニル系単量体を用いることが好ましい。芳香族ビニル系単量体としては、スチレン等が挙げられる。
【0032】
なお、芳香族ビニル系単量体の含有割合が大きすぎると電極活物質層と集電体との十分な密着性が得られない傾向がある。また、芳香族ビニル系単量体の含有割合が小さすぎると、負極を製造した際に耐電解液性が低下する傾向がある。
【0033】
アクリレート系重合体中における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有割合は、電極とした際における柔軟性を向上させることができ、割れに対する耐性を高いものとする観点から、好ましくは50〜95重量%であり、より好ましくは60〜90重量%である。
【0034】
分散型結着剤を構成する重合体に用いられる、前記α,β−不飽和ニトリル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、及びα−ブロモアクリロニトリルなどが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。
【0035】
分散型結着剤中におけるα,β−不飽和ニトリル化合物単位の含有割合は、通常0.1〜40重量%、好ましくは0.5〜30重量%、より好ましくは1〜20重量%の範囲である。分散型結着剤中にα,β−不飽和ニトリル化合物単位を含有させると、電極を製造した際に変形しにくく強度が強いものとすることができる。また、分散型結着剤中にα,β−不飽和ニトリル化合物単位を含有させると、電極活物質層と集電体との十分な密着性が得られる。
【0036】
なお、α,β−不飽和ニトリル化合物単位の含有割合が大きすぎると電極活物質層と集電体との十分な密着性が得られない傾向がある。また、α,β−不飽和ニトリル化合物単位の含有割合が小さすぎると、負極を製造した際に耐電解液性が低下する傾向がある。
【0037】
前記酸成分を有するビニル化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、及びフマル酸などが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、およびイタコン酸が好ましく、メタクリル酸及びイタコン酸がより好ましく、接着力が良くなる点で特に、メタクリル酸とイタコン酸とを併用することが好ましい。
【0038】
分散型結着剤中における酸成分を有するビニル化合物単位の含有割合は、複合粒子用スラリーとした際における安定性が向上する観点から、通常0.5〜10重量%、好ましくは1〜8重量%、より好ましくは2〜7重量%である。。
【0039】
なお、酸成分を有するビニル化合物単位の含有割合が大きすぎると、バインダー組成物の粘度が高くなり、取扱いが困難になる傾向がある。また、酸成分を有するビニル化合物単位の含有割合が小さすぎると複合粒子用スラリーの安定性が低下する傾向がある。
【0040】
分散型結着剤の形状は、特に制限はないが、粒子状であることが好ましい。粒子状であることにより、結着性が良く、また、作製した電極の容量の低下や充放電の繰り返しによる劣化を抑えることができる。粒子状の結着剤としては、例えば、ラテックスのごとき結着剤の粒子が水に分散した状態のものや、このような分散液を乾燥して得られる粉末状のものが挙げられる。
【0041】
分散型結着剤の平均粒子径は、複合粒子用スラリーとした際における安定性を良好なものとしながら、得られる電極としての強度及び柔軟性が良好となる点から、好ましくは0.001〜100μm、より好ましくは10〜1000nm、さらに好ましくは50〜500nmである。
【0042】
また、本発明に用いる結着剤の製造方法は特に限定されず、乳化重合法、懸濁重合法、分散重合法または溶液重合法等の公知の重合法を採用することができる。中でも、乳化重合法で製造することが、結着剤の粒子径の制御が容易であるので好ましい。また、本発明に用いる結着剤は、2種以上の単量体混合物を段階的に重合することにより得られるコアシェル構造を有する粒子であっても良い。
【0043】
結着剤の量は、得られる電極活物質層と集電体との密着性が充分に確保でき、かつ、電気化学素子の内部抵抗を低くすることができる観点から、電極活物質100重量部に対して、乾燥重量基準で通常は0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜20重量部、より好ましくは1〜15重量部である。。
【0044】
(導電材)
本発明の電気化学素子電極用複合粒子は、上記各成分に加えて、必要に応じて導電材を含有していてもよい。
【0045】
導電材としては、導電性を有する粒子状の材料であればよく、特に限定されないが、たとえば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、及びケッチェンブラック等の導電性カーボンブラック;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛;ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相法炭素繊維等の炭素繊維;が挙げられる。導電材の平均粒子径は、特に限定されないが、電極活物質の平均粒子径よりも小さいものが好ましく、より少ない使用量で十分な導電性を発現させる観点から、通常、0.001〜10μm、より好ましくは0.05〜5μm、さらに好ましくは0.1〜1μmの範囲である。
【0046】
本発明の電気化学素子電極用複合粒子中における、導電材の含有割合は、得られる電気化学素子の容量を高く保ちながら、内部抵抗を十分に低減する観点から、電極活物質100重量部に対して、好ましくは0.1〜50重量部、より好ましくは0.5〜15重量部、さらに好ましくは1〜10重量部である。
【0047】
(分散剤)
複合粒子には、必要に応じて分散剤を用いてもよい。分散剤の具体例としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマー、ならびにこれらのアンモニウム塩またはアルカリ金属塩、アルギン酸プロピレングリコールエステルなどのアルギン酸エステル、ならびにアルギン酸ナトリウムなどのアルギン酸塩、ポリアクリル酸、およびポリアクリル酸(またはメタクリル酸)ナトリウムなどのポリアクリル酸(またはメタクリル酸)塩、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリカルボン酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、キチン、キトサン誘導体などが挙げられる。これらの分散剤は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。中でも、セルロース系ポリマーが好ましく、カルボキシメチルセルロースまたはそのアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩が特に好ましい。これらの分散剤の使用量は、本発明の効果を損ねない範囲であれば格別な限定はないが、電極活物質100重量部に対して、通常は0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部、より好ましくは0.8〜2重量部の範囲である。
【0048】
(複合粒子の製造)
複合粒子は、電極活物質、結着剤および必要に応じ添加される導電材等他の成分を用いて造粒することにより得られ、少なくとも電極活物質、結着剤を含んでなるが、前記のそれぞれが個別に独立した粒子として存在するのではなく、構成成分である電極活物質、結着剤を含む2成分以上によって一粒子を形成するものである。具体的には、前記2成分以上の個々の粒子が実質的に形状を維持した状態で複数個が結合して二次粒子を形成しており、複数個(好ましくは数個〜数十個)の電極活物質が、結着剤によって結着されて粒子を形成しているものが好ましい。
【0049】
複合粒子の形状は、流動性の観点から実質的に球形であることが好ましい。すなわち、複合粒子の短軸径をL
s、長軸径をL
l、L
a=(L
s+L
l)/2とし、(1−(L
l−L
s)/L
a)×100の値を球形度(%)としたとき、球形度が80%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上である。ここで、短軸径L
sおよび長軸径L
lは、走査型電子顕微鏡写真像より測定される値である。
【0050】
複合粒子の平均粒子径は、通常0.1〜200μm、好ましくは1〜80μm、より好ましくは10〜40μmの範囲である。複合粒子の平均粒子径をこの範囲にすることにより、所望の厚みの活物質層を容易に得ることができるため好ましい。
【0051】
なお、本発明において平均粒子径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置(たとえば、SALD−3100;島津製作所製)にて測定し、算出される体積平均粒子径である。
【0052】
また、複合粒子の構造は特に限定されないが、結着剤及び必要に応じて添加される導電材が複合粒子の表面に偏在する構造が好ましい。
【0053】
複合粒子の製造方法は特に限定されないが、噴霧乾燥造粒法、転動層造粒法、圧縮型造粒法、攪拌型造粒法、押出し造粒法、破砕型造粒法、流動層造粒法、流動層多機能型造粒法、および溶融造粒法などの製造方法によって複合粒子を得ることができる。
【0054】
流動層造粒法は、結着剤、および必要に応じて導電材、分散剤やその他の添加剤を含有するスラリーを得る工程、加熱された気流中に電極活物質を流動させ、そこにスラリーを噴霧し、電極活物質同士を結着させると共に乾燥する工程を有するものである。
【0055】
また、以下に説明する噴霧乾燥造粒法は、複合粒子表面付近に結着剤および必要に応じて添加される導電材が偏在した複合粒子を比較的容易に製造することができるため、好ましい。以下、噴霧乾燥造粒法について説明する。
【0056】
まず、電極活物質及び結着剤を含有する複合粒子用スラリー(以下、「スラリー」と略記することがある。)を調製する。複合粒子用スラリーは、電極活物質、結着剤、ならびに必要に応じて添加される導電材を、溶媒に分散又は溶解させることにより調製することができる。なお、この場合において、結着剤が分散媒としての水に分散されたものである場合には、水に分散させた状態で添加することができる。
【0057】
複合粒子用スラリーを得るために用いる溶媒としては、通常、水が用いられるが、水と有機溶媒との混合溶媒を用いてもよく、有機溶媒のみを単独または数種組み合わせて用いてもよい。この場合に用いることができる有機溶媒としては、たとえば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のアルキルケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム等のエーテル類;ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン等のアミド類;等が挙げられる。これらのなかでも、アルコール類が好ましい。水と、水よりも沸点の低い有機溶媒とを併用することにより、噴霧乾燥時に、乾燥速度を速くすることができる。また、これにより、複合粒子用スラリーの粘度や流動性を調整することができ、生産効率を向上させることができる。
【0058】
また、複合粒子用スラリーの粘度は、噴霧乾燥造粒工程の生産性を向上させる観点から、室温において、好ましくは10〜3,000mPa・s、より好ましくは30〜1,500mPa・s、さらに好ましくは50〜1,000mPa・sの範囲である。
【0059】
また、本発明においては、複合粒子用スラリーを調製する際に、必要に応じて、分散剤や界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、ノニオニックアニオン等の両性の界面活性剤が挙げられるが、アニオン性又はノニオン性界面活性剤で熱分解しやすいものが好ましい。界面活性剤の配合量は、電極活物質100重量部に対して、好ましくは50重量部以下であり、より好ましくは0.1〜10重量部、さらに好ましくは0.5〜5重量部である。
【0060】
スラリーを調製するときに使用する溶媒の量は、スラリー中に結着剤を均一に分散させる観点から、スラリーの固形分濃度が、通常1〜50重量%、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜30重量%となる量である。
【0061】
電極活物質、結着剤、ならびに必要に応じて添加される導電材を溶媒に分散又は溶解する方法又は順番は、特に限定されず、例えば、溶媒に電極活物質、導電材、結着剤および分散剤を添加し混合する方法、溶媒に分散剤を溶解した後、溶媒に分散させた結着剤(例えば、ラテックス)を添加して混合し、最後に電極活物質および導電材を添加して混合する方法、溶媒に分散させた結着剤に電極活物質および導電材を添加して混合し、この混合物に溶媒に溶解させた分散剤を添加して混合する方法等が挙げられる。
【0062】
また、混合装置としては、たとえば、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等を用いることができる。混合は、通常、室温〜80℃の範囲で、10分〜数時間行う。
【0063】
次いで、得られた複合粒子用スラリーを噴霧乾燥して造粒する。噴霧乾燥は、熱風中にスラリーを噴霧して乾燥する方法である。スラリーの噴霧に用いる装置としてアトマイザーが挙げられる。アトマイザーとしては、回転円盤方式と加圧方式との二種類の装置が挙げられ、回転円盤方式は、高速回転する円盤のほぼ中央にスラリーを導入し、円盤の遠心力によってスラリーが円盤の外に放たれ、その際にスラリーを霧状にする方式である。回転円盤方式において、円盤の回転速度は円盤の大きさに依存するが、通常は5,000〜30,000rpm、好ましくは15,000〜30,000rpmである。円盤の回転速度が低いほど、噴霧液滴が大きくなり、得られる複合粒子の平均粒子径が大きくなる。回転円盤方式のアトマイザーとしては、ピン型とベーン型が挙げられるが、好ましくはピン型アトマイザーである。ピン型アトマイザーは、噴霧盤を用いた遠心式の噴霧装置の一種であり、該噴霧盤が上下取付円板の間にその周縁に沿ったほぼ同心円上に着脱自在に複数の噴霧用コロを取り付けたもので構成されている。複合粒子用スラリーは噴霧盤中央から導入され、遠心力によって噴霧用コロに付着し、コロ表面を外側へと移動し、最後にコロ表面から離れ噴霧される。一方、加圧方式は、複合粒子用スラリーを加圧してノズルから霧状にして乾燥する方式である。
【0064】
噴霧される複合粒子用スラリーの温度は、通常は室温であるが、加温して室温より高い温度としてもよい。また、噴霧乾燥時の熱風温度は、通常25〜200℃、好ましくは50〜150℃、より好ましくは80〜120℃である。噴霧乾燥法において、熱風の吹き込み方法は特に制限されず、たとえば、熱風と噴霧方向が横方向に並流する方式、乾燥塔頂部で噴霧され熱風と共に下降する方式、噴霧した滴と熱風が向流接触する方式、噴霧した滴が最初熱風と並流し次いで重力落下して向流接触する方式等が挙げられる。
【0065】
なお、噴霧方法としては、電極活物質及び結着剤を有する複合粒子用スラリーを、一括して噴霧する方法以外にも、結着剤および必要に応じてその他添加剤を含有するスラリーを、流動している電極活物質に噴霧する方法も用いることができる。粒子径制御の容易性、生産性、粒子径分布が小さくできる、などの観点から、複合粒子の成分等に応じて最適な方法を適宜選択すればよい。
【0066】
以上に従って、本発明の電気化学素子電極用複合粒子の製造方法における工程(I)及び工程(II)を実施することができる。
【0067】
(外添粒子の製造)
本発明の電気化学素子電極用複合粒子(以下、「外添粒子」ということがある。)は、上述の方法により得られた複合粒子の表面の少なくとも一部を、有機微粒子を含む外添剤で被覆させることにより得られる。
【0068】
(有機微粒子)
本発明に用いられる有機微粒子は、そのガラス転移温度(Tg)が30℃以上80℃以下のものである。かかる有機微粒子を外添剤として用いるからこそ、本発明の外添粒子は流動性及び集電体との接着性に優れたものとなり、それを用いて得られる電気化学素子は内部抵抗が低いものとなる。当該有機微粒子のガラス転移温度(Tg)としては、30℃以上80℃未満であることが好ましく、30℃以上70℃未満であることがさらに好ましい。有機微粒子のTgが高すぎると外添粒子と集電体との接着力が低下し、Tgが低すぎると複合粒子の流動性が低下する。ここで、TgはJIS K7121:1987(プラスチックの転移温度測定方法)で測定することができる。
【0069】
本発明に用いられる有機微粒子の具体例としては、メタクリル酸エステル重合体粒子、アクリル酸エステル重合体粒子、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体粒子、スチレン−アクリル酸エステル共重合体粒子、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、シェルがメタクリル酸エステル共重合体でコアがスチレン重合体で形成されたコアシェル型粒子等が挙げられる。これらの中でも、集電体に用いられる銅箔との接着力が良好である点から、アクリル酸エステル単位を含有する重合体からなる有機微粒子が好ましい。これらの有機微粒子は、それぞれ単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0070】
また、有機微粒子の平均粒子径は、通常、0.02〜1μm、好ましくは0.05〜0.5μmである。平均粒子径が大きすぎると電池としたときの抵抗が高くなり、平均粒子径が小さすぎると外添粒子の流動性が低下する傾向がある。
【0071】
また、有機微粒子による前記複合粒子の被覆率は、外添粒子間の結着力と流動性のバランスが良好である点から複合粒子(造粒粒子)の表面積に対して、通常、0.1〜20%、好ましくは0.5〜15%、より好ましくは0.8〜10%である。有機微粒子による被覆率が大きすぎると外添粒子間の結着力が不十分となり、有機微粒子による被覆率が小さすぎると有機微粒子を添加した効果を十分に得ることができない傾向がある。
【0072】
本発明では、外添剤として前記有機微粒子や後述の導電性外添剤が用いられるが、外添剤として用いられる各成分による複合粒子表面の被覆率は、下記式により算出される。なお、この式によれば、所望の被覆率を設定し、外添剤各成分の添加量を求めることができる。
【0074】
L
A:外添剤の長径
R
G:造粒粒子の平均粒子径
D
G:造粒粒子のタップ密度(JIS:Z2512に準じて測定)
D
A:外添剤の真比重
W
A:造粒粒子を100としたときの外添剤の添加量(重量基準)
【0075】
外添剤として用いる有機微粒子の添加量としては、複合粒子100重量部に対し、通常、0.1〜18重量部、好ましくは0.4〜9重量部の範囲である。有機微粒子をかかる範囲で用いれば被覆率が所望の範囲となりうる。
【0076】
用いる外添剤中の有機微粒子の含有量としては、通常50〜100重量%、好ましくは70〜99重量%である。
【0077】
(導電性外添剤)
本発明に用いられる外添剤は、さらに導電性外添剤を含むことが好ましい。導電性外添剤としては、炭素材料や導電性セラミック等を用いることができ、電解液に対する安定性の点から導電性セラミックを用いることが好ましい。炭素材料としては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、及びケッチェンブラック等の導電性カーボンブラック;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛;ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相法炭素繊維等の炭素繊維;が挙げられる。導電性セラミックとしては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ジルコニアなどが挙げられる。これらの導電性外添剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0078】
導電性外添剤の粉体抵抗としては、通常、1000Ω・cm未満、好ましくは100Ω・cm未満である。
【0079】
本発明に用いられる導電性外添剤の粉体抵抗は、粉体抵抗測定システム(MCP−PD51型;ダイアインスツルメンツ社製)を用いて、室温にて10MPaの圧力をかけ続けながら抵抗値を測定し、収束した抵抗値R(Ω)と、圧縮された炭素粒子層の面積S(cm
2)と厚みd(cm)から粉体抵抗ρ(Ω・cm)=R×(S/d)を算出する。
【0080】
また、外添粒子間の結着力と流動性のバランスが良好である点から、導電性外添剤の平均粒子径は、通常、0.01〜0.1μm、好ましくは0.015〜0.07μm、より好ましくは0.02〜0.05μmである。導電性外添剤の平均粒子径が小さすぎると導電性外添剤を添加する効果が不十分となる傾向がある。
【0081】
また、導電性外添剤による複合粒子の被覆率は、外添粒子間の結着力と流動性のバランスが良好である点から複合粒子の表面積に対して、通常、0.01〜2%、好ましくは0.05〜1%である。導電性外添剤による被覆率が大きすぎると外添粒子の集電体への接着力が低下し、導電性外添剤による被覆率が小さすぎると外添粒子の流動性改善の効果が不十分となる傾向がある。
【0082】
外添剤として用いる導電性外添剤の添加量としては、複合粒子100重量部に対し、通常、0.01〜2重量部、好ましくは0.04〜1重量部の範囲である。導電性外添剤をかかる範囲で用いれば被覆率が所望の範囲となりうる。
【0083】
用いる外添剤中の導電性外添剤の含有量としては、通常、0〜50重量%、好ましくは1〜30重量%である。
【0084】
(複合粒子を被覆する工程)
上述の方法で得た複合粒子の表面の少なくとも一部を、外添剤で被覆し、外添粒子を得る。なお、本発明において「被覆」とは、複合粒子の表面の少なくとも一部に外添剤が付着することを表し、複合粒子の表面の全体が覆われることは要しない。被覆の方法は特に限定されないが、例えば、複合粒子と外添剤とを乾式混合により混合することで被覆することができる。特に、複合粒子と外添剤とを均一に混合でき、かつ混合中に複合粒子が破壊されないように複合粒子に強いせん断力がかからない方法で混合することが好ましい。
【0085】
具体的な混合方法としては、容器自体が振とう、回転、または振動することで混合される、ロッキングミキサー、タンブラーミキサー等を用いた容器攪拌法;容器内に対し水平、または垂直の回転軸に撹拌のための羽根、回転盤、またはスクリュー等が取り付けられた混合機である、水平円筒型混合機、V型混合機、リボン型混合機、円錐型スクリュー混合機、高速流動型混合機、回転円盤型混合機および高速回転羽根混合機等を用いた機械式撹拌;圧縮気体による旋回気流を利用する、流動層の中で粉体を混合する気流攪拌;等が挙げられる。また、これらの機構を単独で、あるいは組み合わせて用いられた混合機を使用することもできる。
【0086】
中でも、生産性の点から、撹拌時間を短縮できるやや強いせん断力のかかる高速回転羽根混合機(例えば、三井三池社製ヘンシェルミキサー)による機械式撹拌、および連続的に被覆処理が可能である気流撹拌が好ましい。高速回転羽根混合機(ヘンシェルミキサー)を用いる場合、回転数は、上述の複合粒子の構造を破壊することなく、表面に外添剤が均一に被覆した外添粒子を短時間で得られる観点から、通常1,000〜2,500rpm、好ましくは1,500〜2,000rpmである。混合時間は特に限定されないが、好ましくは5〜20分間である。また、混合温度は、通常、室温から100℃の範囲である。複合粒子の破壊の有無およびその表面が外添剤で被覆されていることは、走査型電子顕微鏡等の観察によって確認できる。このようにして、表面の少なくとも一部が外添剤で被覆された外添粒子を得ることができる。このようにして得られる外添粒子は、流動性を有すると共に集電体との接着性が良く、さらに電極としたときに内部抵抗が低いものである。
【0087】
以上に従って、本発明の電気化学素子電極用複合粒子の製造方法における工程(III)を実施することができる。
【0088】
本発明の電気化学素子電極用複合粒子には外添剤として前記有機微粒子が用いられるが、当該複合粒子を用いて得られる電気化学素子は、活物質層と集電体との接着性がよく、抵抗が低く、しかも、高温保存特性に優れたものとなる。
【0089】
(電気化学素子電極材料)
上述の外添粒子を単独で又は必要に応じて他の結着剤やその他の添加剤を併用することにより本発明の電気化学素子電極材料として用いることができる。電気化学素子電極材料中に含有される外添粒子の含有量は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。
【0090】
必要に応じて用いられる他の結着剤としては、例えば、上述の結着剤を用いることができる。本発明の外添粒子は、すでに結着剤を含有しているため、電気化学素子電極材料を調製する際に、他の結着剤を別途添加する必要はないが、外添粒子同士の結着力をより高めるために他の結着剤を添加してもよい。他の結着剤としては、シリコン系重合体、フッ素含有重合体、共役ジエン系重合体、及びアクリレート系重合体などの非水溶性バインダーを用いることが好ましい。また、他の結着剤の添加量は、電極活物質100重量部に対して、通常0.3〜8重量部、好ましくは0.4〜7重量部、より好ましくは0.5〜5重量部である。また、その他の添加剤としては、水やアルコールなどの成形助剤等が挙げられ、これらは、本発明の効果を損なわない量を適宜選択して加えることができる。
【0091】
(電気化学素子電極)
本発明の電気化学素子電極は、上述した本発明の電気化学素子電極材料からなる活物質層を集電体上に積層してなる。集電体用材料としては、たとえば、金属、炭素、導電性高分子などを用いることができ、好適には金属が用いられる。金属としては、通常、銅、アルミニウム、白金、ニッケル、タンタル、チタン、ステンレス鋼、その他の合金等が使用される。これらの中で導電性及び耐電圧性の面から、銅、アルミニウム又はアルミニウム合金を使用するのが好ましい。また、高い耐電圧性が要求される場合には特開2001−176757号公報等で開示される高純度のアルミニウムを好適に用いることができる。集電体は、フィルム又はシート状であり、その厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常1〜200μm、好ましくは5〜100μm、より好ましくは10〜50μmである。
【0092】
活物質層を集電体上に積層する際には、活物質層としての電気化学素子電極材料をシート状に成形し、次いで集電体上に積層してもよいが、集電体上で電気化学素子電極材料を直接加圧成形する方法が好ましい。加圧成形法としては、例えば、一対のロールを備えたロール式加圧成形装置を用い、集電体をロールで送りながら、スクリューフィーダー等の供給装置で電気化学素子電極材料をロール式加圧成形装置に供給することで、集電体上で、活物質層を成形するロール加圧成形法や、電気化学素子電極材料を集電体上に散布し、電気化学素子電極材料をブレード等でならして厚みを調整し、次いで加圧装置で成形する方法、電気化学素子電極材料を金型に充填し、金型を加圧して成形する方法などが挙げられる。これらのなかでも、ロール加圧成形法が好ましい。特に、本発明の電気化学素子電極用複合粒子(外添粒子)は、高い流動性を有しているため、その高い流動性により、ロール加圧成形による成形が可能であり、これにより、生産性の向上が可能となる。
【0093】
ロール加圧成形時のロール温度は、活物質層と集電体との接着性を十分なものとする観点から、外添剤に用いられる有機微粒子のガラス転移温度(Tg)よりも10℃以上50℃未満高いことが好ましく、Tgよりも20℃以上50℃未満高いことがさらに好ましい。また、ロール加圧成形時のロール間のプレス線圧は、活物質の厚みの均一性を向上させる観点から、通常10〜1000kN/m、好ましくは200〜900kN/m、より好ましくは300〜600kN/mである。また、ロール加圧成形時の成形速度は、好ましくは0.1〜100m/分、より好ましくは4〜80m/分である。
【0094】
また、成形した電気化学素子電極の厚みのばらつきを無くし、活物質層の密度を上げて高容量化を図るために、必要に応じてさらに後加圧を行ってもよい。後加圧の方法は、ロールによるプレス工程が一般的である。ロールプレス工程では、2本の円柱状のロールをせまい間隔で平行に上下にならべ、それぞれを反対方向に回転させて、その間に電極をかみこませることにより加圧する。この際においては、必要に応じて、ロールは加熱又は冷却等、温度調節してもよい。
【0095】
このようにして得られる電気化学素子電極は、活物質層に本発明の電気化学素子電極用複合粒子(外添粒子)を用いるため、活物質層と集電体との接着性が良く、しかも、電池としたときに抵抗が低いものである。電池としては、たとえば、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、およびリチウムイオンキャパシタなどが挙げられる。
【実施例】
【0096】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、重量基準である。実施例および比較例における各特性は、下記の方法に従い測定した。
【0097】
〔粉体の流動性〕
流動性の測定は、パウダテスタP−100(ホソカワミクロン社製)を使用し、振動台の上に、上から目開き250μm、150μm、76μmの順で篩をセットした。振動振り巾を1.0mm、振動時間を60秒とし、実施例及び比較例で製造した複合粒子2gを静かにのせて振動させた。振動停止後、それぞれの篩に残った重量を測定した。また、次式に従って凝集度を算出し、下記の評価基準に従って評価を行い、評価結果を表1に示した。
【0098】
(上段のふるいに残った粉体量)÷5(g)×100 ・・・a
(中段のふるいに残った粉体量)÷5(g)×100×0.6・・・b
(下段のふるいに残った粉体量)÷5(g)×100×0.2・・・c
a+b+c=凝集度(%)として算出する。
評価基準
A:0%以上10%未満
B:10%以上30%未満
C:30%以上50%未満
D:50%以上70%未満
E:70%以上
【0099】
〔ピール強度〕
実施例および比較例で製造したリチウムイオン二次電池用負極(試験片)の負極活物質層面を上にして固定し、試験片の負極活物質層の表面にセロハンテープを貼り付けた後、計測スタンドにデジタルフォースゲージ(いずれも(株)イマダ製)を装着し、それを用いて試験片の一端からセロハンテープを50mm/分の速度で180°方向に引き剥がしたときの応力を測定した。測定を10回行い、その平均値を求めてこれをピール強度とし、下記評価基準にて評価を行い、評価結果を表1に示した。この値が大きいほど、負極の密着強度が大きいことを示す。
評価基準
A:12N/m以上
B:7N/m以上12N/m未満
C:2N/m以上7N/m未満
D:2N/m未満
【0100】
〔抵抗〕
実施例および比較例で製造したリチウムイオン二次電池用負極を用いて、コイン型セルのリチウムイオン二次電池を作製し、室温で24時間静置した後に4.2V、0.1Cの充放電レートにて充放電の操作を行った。その後、−35℃環境下で、充放電の操作を行い、放電開始10秒後の電圧(ΔV)を測定し、下記評価基準にて評価を行い、評価結果を表1に示した。この値が小さいほど、内部抵抗が小さく、高速充放電が可能であることを示す。
評価基準
A:0.2V未満
B:0.2V以上0.3V未満
C:0.3V以上0.5V未満
D:0.5V以上0.7V未満
E:0.7V以上
【0101】
〔高温保存特性〕
実施例および比較例で製造したリチウムイオン二次電池用負極を用いて、コイン型セルのリチウムイオン二次電池を作製し、室温で24時間静置した後に4.2V、0.1Cの充放電レートにて充放電の操作を行い、初期容量C
0を測定した。さらに、4.2Vに充電し、60℃、14日間保存した後、4.2V、0.1Cの充放電レートにて充放電の操作を行い、高温保存後の容量C
1を測定した。高温保存特性は、ΔC=(C
1/C
0)×100(%)で示される容量変化率を求め、下記評価基準にて評価し、評価結果を表1に示した。容量変化率は、値が大きいほど高温保存特性に優れることを示す。
評価基準
A:85%以上
B:70%以上85%未満
C:60%以上70%未満
D:50%以上60%未満
E:50%未満
【0102】
実施例及び比較例の複合粒子、外添粒子、ハーフセル、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池は以下のように作製した。
【0103】
[実施例1]
(結着剤の製造)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、スチレン50部、1,3−ブタジエン47部、メタクリル酸3部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム4部、イオン交換水150部、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタン0.4部および重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、結着剤を得た。
【0104】
(複合粒子の製造)
負極用活物質として人造黒鉛(平均粒子径:24.5μm、黒鉛層間距離(X線回折法による(002)面の面間隔(d値)):0.354nm)を96部と、上記結着剤を固形分換算で3.0部、及び分散剤としてカルボキシメチルセルロースの1.5%水溶液(DN−10L;ダイセル化学工業社製)を固形分換算で1部を混合し、さらにイオン交換水を固形分濃度が20%となるように加え、混合分散して複合粒子用スラリーを得た。この複合粒子用スラリーを、スプレー乾燥機(大川原化工機社製)を使用し、回転円盤方式のアトマイザ(直径65mm)を用い、回転数25,000rpm、熱風温度150℃、粒子回収出口の温度が90℃で噴霧乾燥造粒を行い、複合粒子を得た。この複合粒子の平均粒子径は40μmであった。
【0105】
(外添粒子の製造)
上記複合粒子100部と、有機微粒子としてのアクリル系重合体粒子(FS−101、日本ペイント社製、Tg55℃、平均粒子径0.08μm、真比重1.1)0.06部及び導電性外添剤としてのSnO
2−Sb被覆酸化チタン微粒子(ET−300W、キャボット社製、粉体抵抗20Ω・cm、平均粒子径0.04μm、真比重 4.1)0.01部を含む外添剤とをヘンシェルミキサー(三井三池社製)を用いて10分間混合し、複合粒子に外添剤を付着させた粒子(外添粒子)を得た。なお、有機微粒子による被覆率は5%、導電性外添剤による被覆率は0.5%であった。
【0106】
(リチウムイオン二次電池用負極の製造)
次に、得られた外添粒子をロールプレス機(押し切り粗面熱ロール、ヒラノ技研工業社製)のロール(ロール温度80℃、プレス線圧4.0kN/cm)に供給し、成形速度20m/分で厚さ20μmの電解銅箔上にシート状に成形し、厚さ80μmのリチウムイオン二次電池用負極を得た。
【0107】
(ハーフセルの製造)
上記負極を直径15mmの円盤状に切り抜き、この負極の負極活物質層面側に直径18mm、厚さ25μmの円盤状のポリプロピレン製多孔膜からなるセパレーター、正極として用いる金属リチウム、エキスパンドメタルを順に積層し、これをポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼厚さ0.25mm)中に収納した。この容器中に電解液を空気が残らないように注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約2mm、初期容量測定用のハーフセル(二次電池)を作製した。
【0108】
なお、電解液としてはエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とをEC:DEC=1:2(20℃での容積比)で混合してなる混合溶媒にLiPF
6を1モル/リットルの濃度で溶解させた溶液を用いた。
【0109】
(正極用組成物およびリチウムイオン二次電池用正極の製造)
正極用活物質としてスピネル構造を有するLiCoO
2を95部に、正極活物質層用の結着剤としてPVDF(ポリフッ化ビニリデン)を固形分換算で3部となるように加え、さらに、アセチレンブラック2部、N−メチルピロリドン20部を加えて、プラネタリーミキサーで混合してスラリー状の正極用組成物を得た。この正極用組成物を厚さ18μmのアルミニウム箔に塗布し、120℃で30分乾燥した後、ロールプレスして厚さ60μmのリチウムイオン二次電池用正極を得た。
【0110】
(リチウムイオン二次電池の製造)
正極を直径13mm、負極を直径14mmの円形に切り抜いた。また、多孔膜を備えるセパレーターを直径18mmの円形に切り取った。正極の電極活物質層面側に、セパレーター及び負極を順に積層し、これをポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器中に収納した。この容器中に電解液(溶媒:EC/DEC=1/2、電解質:濃度1MのLiPF
6)を空気が残らないように注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約3.2mmのリチウムイオン二次電池を製造した(コインセルCR2032)。
【0111】
[実施例2]
用いる有機微粒子の種類をスチレンアクリル系重合体粒子(FS−301、日本ペイント社製、Tg65℃、平均粒子径0.5μm、真比重1.1)とし、ロールプレス機のロール温度を90℃とした以外は、実施例1と同様に複合粒子、外添粒子、ハーフセル、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池の製造を行った。
【0112】
[実施例3]
用いる有機微粒子の種類をフッ素アクリル系重合体粒子(FS−701、日本ペイント社製、Tg78℃、平均粒子径0.1μm、真比重1.1)とし、ロールプレス機のロール温度を100℃とした以外は、実施例1と同様に複合粒子、外添粒子、ハーフセル、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池の製造を行った。
【0113】
[実施例4]
用いる有機微粒子の量を0.12部とした以外は、実施例1と同様に複合粒子、外添粒子、ハーフセル、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池の製造を行った。なお、有機微粒子による被覆率は10%であった。
【0114】
[実施例5]
用いる有機微粒子の量を0.006部とした以外は、実施例1と同様に複合粒子、外添粒子、ハーフセル、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池の製造を行った。なお、有機微粒子による被覆率は0.5%であった。
【0115】
[実施例6]
用いる導電性外添剤の種類をシリカ(ES−650、キャボット社製、粉体抵抗60Ω・cm、平均粒子径0.07μm、真比重2.2)とし、シリカの添加量を0.01部とした以外は、実施例1と同様に複合粒子、外添粒子、ハーフセル、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池の製造を行った。なお、導電性外添剤による被覆率は1.0%であった。
【0116】
[実施例7]
用いる導電性外添剤の量を0.02部とした以外は、実施例1と同様に複合粒子、外添粒子、ハーフセル、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池の製造を行った。なお、導電性外添剤による被覆率は1%であった。
【0117】
[実施例8]
用いる導電性外添剤の量を0.001部とした以外は、実施例1と同様に複合粒子、外添粒子、ハーフセル、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池の製造を行った。なお、導電性外添剤による被覆率は0.01%であった。
【0118】
[実施例9]
ロールプレス機のロール温度を55℃とした以外は、実施例1と同様に複合粒子、外添粒子、ハーフセル、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池の製造を行った。
【0119】
[実施例10]
用いる導電性外添剤の種類をアセチレンブラック(HS−100、電気化学工業社製、粉体抵抗0.21Ω・cm、平均粒子径0.05μm、真比重1.9)とし、アセチレンブラックの添加量を0.01部とした以外は、実施例1と同様に複合粒子、外添粒子、ハーフセル、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池の製造を行った。なお、導電性外添剤による被覆率は0.6%であった。
【0120】
[比較例1]
有機微粒子及び導電性外添剤を用いなかった以外は、実施例1と同様に複合粒子、ハーフセル、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池の製造を行った。
【0121】
[比較例2]
ブタジエンとスチレンとの共重合体のラテックス(メタクリル酸及びアクリル酸をさらに共重合、Tg−15℃、平均粒子径100μm、真比重1.0)を−25℃から水を蒸発させて凍結乾燥して有機微粒子を得たが、外添粒子とすると当該有機微粒子が室温で凝集するため電極を作製することができなかった。従って、粉体の流動性、ピール強度、抵抗及び高温保存特性の評価をすることができなかった。
【0122】
[比較例3]
用いる有機微粒子の種類をポリメタクリル酸メチル(MP−2200、綜研化学社製、Tg126℃、平均粒子径0.3μm、真比重1.1)とし、ロールプレス機のロール温度を140℃とした以外は、実施例1と同様に複合粒子、外添粒子、ハーフセル、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池の製造を行った。
【0123】
[比較例4]
有機微粒子に代えてシリカ(SDX−3261、アデカ社製、平均粒子径0.1μm、真比重2.2)を用い、ロールプレス機のロール温度を140℃とした以外は、実施例1と同様に複合粒子、外添粒子、ハーフセル、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池の製造を行った。
【0124】
【表1】
【0125】
以上より、外添粒子に用いる外添剤が、ガラス転移温度が30℃以上80℃以下である有機微粒子を含んでいると、粉体の流動性に優れ、得られる電気化学素子は、ピール強度、抵抗及び高温保存特性の何れも良好であることが示された。