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特許6281835太陽電池用化合物半導体ナノ粒子の作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6281835
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】太陽電池用化合物半導体ナノ粒子の作製方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0749 20120101AFI20180208BHJP
   C01G 3/12 20060101ALI20180208BHJP
   C01G 9/08 20060101ALI20180208BHJP
   C01G 19/00 20060101ALI20180208BHJP
   C01G 15/00 20060101ALI20180208BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20180208BHJP
   C07C 329/12 20060101ALI20180208BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20180208BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20180208BHJP
【FI】
   H01L31/06 460
   C01G3/12
   C01G9/08
   C01G19/00 Z
   C01G15/00 B
   B82Y40/00
   C07C329/12
   B82Y20/00
   B82Y30/00
【請求項の数】13
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-185403(P2013-185403)
(22)【出願日】2013年9月6日
(65)【公開番号】特開2015-53391(P2015-53391A)
(43)【公開日】2015年3月19日
【審査請求日】2016年9月1日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST) 研究領域「エネルギー高効率利用のための相界面科学」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100158229
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 恒雄
(72)【発明者】
【氏名】吉野 賢二
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 修二
(72)【発明者】
【氏名】パンディ シャム スデル
(72)【発明者】
【氏名】豐田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】沈 青
【審査官】 河村 麻梨子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−233845(JP,A)
【文献】 特開2010−150135(JP,A)
【文献】 特表2011−513181(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/100139(WO,A1)
【文献】 D. P. Dutta et al.,A facile route to the synthesis of CuInS2 nanoparticles,Materials Letters,米国,2006年,Vol.60,p.2395-2398
【文献】 Thomas Rath et al.,A Direct Route Towards Polymer/Copper Indium Sulfide Nanocomposite Solar Cells,Advanced Energy Materials,ドイツ,2011年,Vol.1,p.1046-1050
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02−31/078、31/18−31/20、
51/42−51/48
H02S 10/00−10/40、30/00−50/15、99/00CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キサンテートを配位した金属錯体から太陽電池の光吸収層形成に使用する金属硫化物ナノ粒子を作製する方法において、
キサンテートを配位した金属錯体単体を、不活性雰囲気下で加熱すること、
を特徴とする金属硫化物ナノ粒子作製方法
【請求項2】
請求項1に記載の金属硫化物ナノ粒子作製方法において、
前記金属錯体の金属原子は、銅、亜鉛、インジウム、スズのいずれかであること、
を特徴とする金属硫化物ナノ粒子作製方法。
【請求項3】
請求項2に記載の金属硫化物ナノ粒子作製方法において、
銅を原子とする金属錯体の分子式は、
一般式(1)
【化1】

であることを特徴とする金属硫化物ナノ粒子作製方法。
【請求項4】
請求項2に記載の金属硫化物ナノ粒子作製方法において、
亜鉛を原子とする金属錯体の分子式は、
一般式(2)
【化2】
であることを特徴とする金属硫化物ナノ粒子作製方法。
【請求項5】
請求項2に記載の金属硫化物ナノ粒子作製方法において、
スズを原子とする金属錯体の分子式は、
一般式(3)
【化3】

であることを特徴とする金属硫化物ナノ粒子作製方法。
【請求項6】
請求項2に記載の金属硫化物ナノ粒子作製方法において、
インジウムを原子とする金属錯体の分子式は、
一般式(4)
【化4】

であることを特徴とする金属硫化物ナノ粒子作製方法。
【請求項7】
請求項1に記載の金属硫化物ナノ粒子作製方法において、
加熱温度は、100℃〜300℃であること、
を特徴とする金属硫化物ナノ粒子作製方法。
【請求項8】
請求項1に記載の金属硫化物ナノ粒子作製方法において、
前記不活性ガスは、窒素、アルゴン、ヘリウムのいずれかであること、
を特徴とする金属硫化物ナノ粒子作製方法。
【請求項9】
請求項1に記載の金属硫化物ナノ粒子作製方法において、
前記金属錯体を複数混合して、不活性雰囲気下で加熱し、複合金属の硫化物を作製すること、
を特徴とする金属硫化物ナノ粒子作製方法。
【請求項10】
請求項9に記載の金属硫化物ナノ粒子作製方法において、
前記金属錯体を複数混合して溶媒に溶かし、溶解液とした後に不活性雰囲気下で70℃〜80℃で溶媒を蒸発させる工程を含んで加熱し、溶媒蒸発後に加熱すること、
を特徴とする金属硫化物ナノ粒子作製方法。
【請求項11】
請求項10に記載の金属硫化物ナノ粒子作製方法において、
前記溶媒は、トリクロロメタンであること、
を特徴とする金属硫化物ナノ粒子作製方法。
【請求項12】
請求項10に記載の金属硫化物ナノ粒子作製方法において、
前記溶媒は、テトラヒドロフロンであること、
を特徴とする金属硫化物ナノ粒子作製方法。
【請求項13】
請求項1又は9に記載の金属硫化物ナノ粒子作製方法により作成された金属硫化物ナノ粒子を溶媒に溶解または分散させて塗布液とする工程と、
前記塗布液を、基板に形成された電極上に塗布する工程と、
前記基板を加熱焼成する工程と、
から成ることを特徴とする太陽電池の光吸収層形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池の光吸収層形成に使用される金属硫化物ナノ粒子の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、太陽の光エネルギーを電力に変換する素子である。pn接合された半導体界面に照射した太陽光により、内部光電効果による光電子が発生し、pn接合による整流作用で一定の方向に光電子が移動するために、電極を取り付けて電流を外部に取りだすことで電池として機能させることができる。
【0003】
p型半導体とn型半導体を接合すると、接合界面では拡散電流により伝導電子と正孔がお互いに拡散して結びつき、伝導電子と正孔が打ち消し合い、その結果、接合界面付近に伝導電子と正孔の少ない領域(空乏層)が形成される。伝導電子と正孔が相互に引きあうことから内部に電界が発生する。太陽光をpn接合部に照射し、接合領域で内部の電界よりも大きなエネルギーを持った光電子はn型半導体側に移動し、電子がn型半導体に蓄積されると、正孔がp型半導体に移動する。この光起電力による電子と正孔の移動は、n型半導体とp型半導体に電極を取り付けると、n型半導体側が負極、p型半導体側が正極となって、外部に取り出すことができる。
【0004】
太陽電池は、概略シリコン系・化合物系・有機系の3つに分類され、シリコン系が最も広く用いられており、最近は、化合物系太陽電池は薄くて経年変化が少なく光電変換効率が高くなると期待され開発が進んでいる。化合物系は、光吸収層の材料として、シリコンの代わりに、銅(以下Cuという)、インジウム(以下Inという)、ガリウム(以下Gaという)、セレン(以下Seという)、イオウ(以下Sという)などから成るカルコパイライト系と呼ばれるI−III−VI族化合物を用いる。代表的なものは二セレン化銅インジウムCuInSe(以下CISという)、二セレン化銅インジウム・ガリウムCu(In,Ga)Se(以下CIGSという)や、二セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウムCu(In,Ga)(S,Se)(以下CIGSSという)がある(特許文献1等参照)。
【0005】
カルコパイライト型化合物半導体は、p型半導体にもn型半導体にもなる特性を有し、直接遷移半導体であるため光吸収特性に優れ、禁制帯幅はイオウ化アルミニウム銅CuAlSの3.5eVから、テルル・インジウム銅CuInTeの0.8eVと幅広い波長をカバーしており赤外域から紫外域までの発光、受光素子の作製も可能である。特に多結晶CIGS太陽電池は、優れた光吸収特性を生かして変換効率が20.3%という報告もある(非特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、構成元素であるGa及びInは希少金属であること、Seは人体に有害であることから、コスト的にも安定供給の面からもGa、InやSeを使用しないp型化合物半導体の開発が行われている(特許文献2等参照)。
【0007】
Ga、InやSeに代わる材料としては亜鉛,錫やイオウが注目され、銅Cu,亜鉛Zn,錫SnとイオウSを成分とするCuZnSnS(以下CZTSという。)は、現状での変換効率はCIGS太陽電池に比べて劣るものの、禁制帯幅が太陽光に対して最適な1.45〜1.6eVであること、光の吸収係数が10cm−1と大きいこと、特に、安価で豊富な材料を使用した組成であることから、太陽電池用の光吸収層の材料として期待されている。
【0008】
一方、CZTSは、禁制帯幅が太陽光に対して最適な1.45〜1.6eVであり、特に、安価で豊富な材料を使用した組成である。このため、太陽電池用の光吸収層の材料として期待されている。
【0009】
太陽電池の変換効率は、pn接合における半導体の禁制帯幅に依存し、光エネルギーが半導体の禁制帯幅より小さい場合、光は半導体で吸収されず、光エネルギーの方が大きい場合、光は半導体に吸収され、電子と正孔との対が生成される。したがって、半導体に吸収される太陽光の最低のエネルギーは、半導体の禁制帯幅によって決定され、最適な禁制帯幅は1.45〜1.6eVとなっている。
【0010】
光吸収の程度を表す量としての吸収係数は、物質中を進む光強度の吸収を示し、吸収が強く起こる物質では光は急に弱くなるため、吸収係数は小さくなる。従って、変換効率を上げようとすると、光吸収係数を小さくするために、CZTSの成分であるSを、Seと混合した材料であるCuZnSn(SSe1−x(以下CZTSSeという。)、ここで0<x<1、が用いられている。
【0011】
太陽電池の光吸収層となるCZTS膜の作製方法としては、例えば化学析出法(以下CBD法という。)、スパッタ法、真空蒸着法、パルスレーザー堆積(PLD)法等があり、基板上にCu、Sn、及びZnSが所定の順序で積層された前駆体を形成し、この前駆体を硫化水素HS存在雰囲気下(例えば、5〜20%HS+N雰囲気下)で500〜600℃程度の温度で硫化させて製造する方法の提案もある(特許文献3参照)。
【0012】
太陽電池の開発目標は、主として高い変換効率と低い製造コストであり、薄膜化、安価な材料の使用、希少金属を使用しない等が目標となっているが、製造方法においても真空プロセスから非真空プロセス、光吸収層の印刷技術の適用等の低コスト化が提案されている。
【0013】
単結晶シリコン太陽電池や多結晶シリコン太陽電池の光吸収層の厚みが少なくとも200μm必要なのに対して、数μmと薄膜化可能なCIGS、CZTSでは、光吸収層の材料となる硫化物及びセレン化物を粉体化して溶媒に溶かして基板に塗布し、加熱焼成して光吸収層を形成する非真空プロセスでの製造方法がある。
【0014】
例えば、硫化物及びセレン化物の粉体の合成方法としては、溶媒として用いるグリコールと原料を、冷却塔を備えた反応容器に投入した上で、グリコールの沸点まで反応容器を加熱し、加熱によって蒸発したグリコール溶媒を、冷却塔を介して反応容器に還流させつつ原料を反応させ、その反応の結果として所望の不定比性を有するカルコパイライト型の結晶構造を持ったセレン化物及び硫化物を反応容器内に得る方法が特許文献4に開示されている。
【0015】
溶媒としては、トリエチレングリコールまたはテトラエチレングリコールを使用し、そこで用いるCIGS太陽電池の光吸収層用原料として、金属Cu及びCuClからなるグループ、金属In、InCl、金属Ga及びGaClからなるグループ、S及びSeからなるクループの4つのグループから夫々少なくとも1種類ずつ選択してなる原料を用いる。
【0016】
また、この原料は、所望の組成物と同一のCu:In:Ga:Se:S比を実現する組成比に調合したものを使用する。これを、グリコールに投入して溶解し、析出によって所望の不定比性を有するカルコパイライト型の結晶構造を持ったセレン化物の粉体を得る。冷却塔を使った還流という手段を用いることで、圧力容器を用いることなく溶媒の蒸発に伴う放散を抑止することができる。
【0017】
CZTS太陽電池の光吸収層用原料とするには、金属Cu及びCuClからなるグループと金属Zn及びZnClからなるグループと金属Sn及びSnClからなるグループとSe及びSからなるグループから夫々少なくとも1種類の物質を原料として溶媒に投入する。
【0018】
CZTS太陽電池の光吸収層用の複合硫化物を得る方法として、特許文献5には以下の方法が開示されている。
【0019】
複合硫化物粉体の製造方法は、銅イオン、亜鉛(II)イオン及び錫(II)イオンを含み、亜鉛イオンと錫イオンとのモル比(亜鉛イオン:錫イオン)が40:60〜60:40の範囲にあり、銅イオンと、亜鉛イオン及び錫イオンの合計とのモル比〔銅イオン:(亜鉛イオン+錫イオン)〕が40:60〜60:40の範囲にある金属イオン含有溶液と、硫化物イオン及び/又は水硫化物イオンを含有する溶液とを反応させる工程を有する。
【0020】
例えば、銅イオンを含む化合物としては硫酸銅、亜鉛イオンを含む化合物としては硫酸亜鉛、錫イオンを含む化合物としては硫酸錫が好ましく硫化物イオン及び/又は水硫化物イオンを含有する溶液は、硫化物イオンや水硫化物イオンを含む化合物を溶媒に溶解させることで得られる。さらに、50〜300℃で2〜24時間加熱し、複合硫化物粉体を得ている。
【0021】
ソルボサーマル法を用いたCZTS太陽電池の光吸収層用の複合硫化物を得る方法は、特許文献6に開示されている。
ソルボサーマル法は、エチレンジアミン等の有機溶媒中において高圧下で複数の原料物質を反応させて、反応生成物の結晶を得る方法であり、Cu源とZn源とSn源とを、種々のモル数の硫黄粉末と一緒に有機溶媒に分散させ、オートクレーブに充填して30分間撹拌する。Cu源,Zn源及びSn源は、金属の形態であっても塩の形態であってもよい。得られた生成物を濾過し、大気中、50℃、22時間の条件で乾燥処理し硫化物系化合物半導体(CZTS)粒子を得ている
【0022】
このように製造技術的にも低コスト化の技術が開発されているが、さらなる低コスト化に対して、原材料に着目した提案がある。
【0023】
非特許文献2には、有機高分子(ポリマー)塗布型有機薄膜太陽電池のポリマー(PSiF−DBT)中にCISナノ粒子を含有させて光起電力を生成させて変換効率を向上させる試みが開示されている。このCISナノ粒子は、金属キサンテートである銅エチルキサンテート及びインジウムエチルキサンテートを有機溶媒に溶解させて作製されるが、有機溶媒に溶けにくく、アルキル基の一部を2,2−ジメチルペンタン−3−ylグループで置換している。これにより、クロロホルム、トルエンやクロロベンゼンに溶解するようになり、CISナノ粒子を実現している。
【0024】
非特許文献3には、金属キサンテートを用いてCZTS太陽電池の光吸収層用薄膜形成を、単独の金属キサンテート、即ち、銅キサンテート、亜鉛キサンテートとスズキサンテートを使用して作製する方法が開示されている。金属キサンテートは、キサンテートの分枝したアルキルサイドチェーン(3,3−ジメチル−2−ブチル)を金属にしており、低い分解温度で溶解度の高いキサンテートである。これらの前駆体は硫化物を含有しているため、イオウ源を必要としない。スズキサンテートは、純粋な金属キサンテートではなく、塩化スズ水溶液(SnCl・5HO)とポタジウムキサンテートからスズチオキサンテートを作製している。これはスズキサンテーの粉末中間生成物である。
【0025】
CZTS薄膜は、銅キサンテート、亜鉛キサンテートとスズチオキサンテートを、クロロホルムに溶解してスピンコート法により塗布し、真空にして180℃〜350℃で加熱焼成することで形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】特開平10−135498号公報
【特許文献2】特開2009−135316号公報
【特許文献3】特開2010−129660号公報
【特許文献4】特開2012−076976号公報
【特許文献5】特開2012−230953号公報
【特許文献6】特開2013−お14498号公報
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】Philip Jackson, Dimitrios Hariskos,Erwin Lotter, Stefan Paetel, Roland Wuerz,Richard Menner, Wiltraud Wischmann and Michael Powalla:Prog. Photov. Res. Appl. 2011;19:pp894−897
【非特許文献2】Thomas Rath, Michael Edler, Wernfried Haas, Achim Fischereder ,Stefan Moscher, Alexander Schenk, Roman Trattnig, Meltem Sezen, Gernot Mauthner, Andreas Pein,Dorith Meischler, Karin Bartl, Robert Saf, Neha Bansal, Saif A. Haque, Ferdinand Hofer, Emil J.W.List, and Gregor Trimmel:Adv. Energy Mater; 2011, 1: pp1046−1050
【非特許文献3】Achim Fischereder, Alexander Schenk, Thomas Rath, Wernfried Haas,Sebastien Delbos, Corentin Gougaud, Negar Naghavi, Angelika Pateter,Robert Saf, Dorith Schenk, Michael Edler, Kathrin Bohnemann, Angelika Reichmann, Boril Chernev, Ferdinand Hofer, Gregor Trimmel:Monatsh; Chem (2013) 144: pp273−283
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
太陽電池の光吸収層作製に対してさまざまな製膜プロセスの技術提案が行われているが、安全性の問題や高精度の温度制御を必要とする等、化合物半導体材料を使用することによる製造技術の難しさと、高価な製造設備が必要となることによる生産性が低いことが原因となっている。
【0029】
光吸収層の形成は、スパッタ法、真空蒸着法、パルスレーザー堆積(PLD)法等を用いて、基板上にCu、Sn、及びZnSが所定の順序で積層された前駆体を形成し、この前駆体を硫化水素HS存在雰囲気下(例えば、5〜20%HS+N雰囲気下)で500〜600℃程度の温度で硫化させて製造するが、製造プロセスが複雑で真空プロセスあること、高温を必要とすることから、製造装置のコストが高い問題がある。
【0030】
このため、簡単な製造プロセスで作製可能とするために、複合硫化物半導体粉末を作製して、溶媒に分散させて塗布液を調整して、スクリーン印刷法、スピンコート法等により基板に塗布し、加熱焼成して成膜する。この方法では非真空プロセスで成膜できるために、製造コストの低減は図れるが、加熱焼成での温度は数百度の高温を必要とする。さらに、複合硫化物半導体粉末を使用した薄膜形成は、均一な成膜が得られるものの結晶粒界が充分に成長せず、焼結補助剤を用いているが、なお光吸収層としての機能は充分ではない。
【0031】
光吸収層としての機能向上のためには、化合物半導体粉末の超微粒化が望まれている。ソルボサーマル法での複合硫化物半導体粉末の超微粒化に適した方法であり、粒径が数nm〜数百nmのナノ粒子を得ることができる。しかしながら、ソルボサーマル法は、本質的に有機溶媒中での高圧下において、原料物質を反応させて反応物の結晶を得る方法であり、アミン等の毒性物質を扱うことや、圧力容器が必要なこと、温度が250℃〜350℃と高温であることが製造コストを低減するための課題となる。さらには未反応の物質が残る欠点がある。
【0032】
金属錯体である金属キサンテートを原料として、イオウ成分を含む化合物半導体粉末を作成する方法では、原料となるキサンテートが不安定でるために、安定的に硫化物ナノ粒子を得ることが困難である。また、各金属単体での硫化物の作製方法については開示されていない。
【0033】
本発明は、太陽電池の光吸収層を形成する金属材料の硫化物ナノ粒子を、低コストで容易に作製する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0034】
太陽電池の光吸収層形成に使用する金属硫化物ナノ粒子を作製する方法において、キサンテートを配位した金属錯体を、不活性雰囲気下で加熱することを特徴とする。金属キサンテートは、金属イオンにキサンテートを配位させた分子構造である。この金属キサンテートを加熱して金属硫化物であるナノ粒子を作製する。金属原子は、銅、亜鉛、インジウム、スズのいずれかであり、一般的分子式は以下のようになる。
【0035】
銅を原子とする金属錯体の分子式は、
一般式(1)
【化1】
である。
【0036】
亜鉛を原子とする金属錯体の分子式は、
一般式(2)
【化2】
である。
【0037】
スズを原子とする金属錯体の分子式は、
一般式(3)
【化3】
である
【0038】
インジウムを原子とする金属錯体の分子式は、
一般式(4)
【化4】
である。
【0039】
安定な硫化物生成のため、不活性ガスは窒素、アルゴン、ヘリウム等を使用し、加熱温度は100℃〜300℃である。
【0040】
複合金属硫化物を作製するときは、銅、亜鉛、インジウム、スズそれぞれの金属錯体を組み合わせて混合すればよい。混合した金属錯体を不活性ガス雰囲気で加熱することにより反応して複合金属硫化物が得られる。
【0041】
より安定に複合金属硫化物を得るためには、溶媒に溶かして溶解液としてしてもよい。この場合の溶媒は、クロロホルムまたはテトラヒドロフロンが好適である。また、溶媒は70℃〜80℃で蒸発させておくのがよい。溶媒蒸発後に加熱して複合金属硫化物を得る。このように溶媒を使用することにより、より反応が促進して、複合金属硫化物を安定かつ効率的に得ることができる。
【0042】
単体の金属硫化物ナノ粒子の組み合わせまたは複合金属硫化物ナノ粒子は、その金属組成比を、例えばCISあるいはCZTS光吸収層の組成に合わせることにより、CISあるいはCZTS光吸収層前駆体となる。このため、金属硫化物粒子の組み合わせ、または、複合金属硫化物ナノ粒子を溶媒に溶解または分散させて塗布液として、基板に形成された電極上に、例えばスクリーン印刷法やスピンコート法により塗布し、加熱焼成することで目的とする組成の光吸収層が形成できる。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、キサンテートを配位した金属錯体を、不活性雰囲気下で、100℃〜250℃で加熱するだけの簡単な方法で、太陽電池の光吸収層形成を行なうための前駆体となる金属硫化物ナノ粒子を得ることができる。このため、非真空プロセス、かつ、低温で容易に光吸収層を形成することができ、さらには複雑で大規模な製造設備を必要としないため、低コスト化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明による金属キサンテートから金属硫化物ナノ粒子を作製する方法を示したフローチャート。
図2】金属キサンテートの熱重量分析結果。
図3】反応前の各金属キサンテートの状態を示す図。
図4】加熱反応後の各金属キサンテートの状態を示す図。
図5】Cuキサンテートの加熱反応後のXRD評価結果。
図6】Znキサンテートの加熱反応後のXRD評価結果。
図7】Inキサンテートの加熱反応後のXRD評価結果。
図8】Snキサンテートの加熱反応後のXRD評価結果。
図9】複合金属硫化物の作製方法を示すフローチャート。
図10】Cu−Inキサンテートの熱重量分析結果。
図11】Cu−Inキサンテートの加熱反応後のXRD評価結果。
図12】Cu−Sbキサンテートの加熱反応後のXRD評価結果。
図13】Cu−Zn−Snキサンテートの加熱反応後のXRD評価結果。
図14】溶解液を利用した複合金属硫化物ナノ粒子の作製方法を示すフローチャート。
図15】溶解液としたCu−Inキサンテートの加熱反応後のXRD評価結果。
図16】溶解液としたCu−Zn−Snキサンテートの加熱反応後のXRD評価結果。
図17】金属硫化物ナノ粒子を用いた光吸収層の作製方法。
【発明を実施するための形態】
【0045】
化合物半導体を使用した太陽電池の光吸収層として機能するp型半導体の材料は、元素周期表においてIV族(Si,Geなど)を挟んでIV族から等間隔にある2種の元素で化合物をつくると、同様の化学結合ができて半導体になる性質を利用しており、アダマンティン系列に属するI−III−VI族元素である。結晶構造はカルコパイライト型構造で、I族のCu,III族のGaやIn,VI族のSやSe各原子が4配位になっており、正方晶系の結晶構造を有している。
【0046】
本発明は、太陽電池の光吸収層に使用する金属硫化物ナノ粒子の作製方法であり、非真空プロセスで低温での作製により、容易な作製方法による低コスト化を目的としている。
【0047】
CIS系の太陽電池の光吸収層は、CISがCu,InとSe、CIGSがCu,In,GaとSe、CIGSSeがCu,In,Ga,SeとSを原子構成としている。また、CISにおけるSeをSに置き換えたCuInSの原子構成もある。CZTSは、Cu,Zn,InとSから成り、さらにCZTSの組成成分にSeを加えたCZTSSeがある。
【0048】
本発明においては、光吸収層に利用される金属硫化物ナノ粒子を低コストで簡易に作製するために、金属原子にキサンテートを配位した金属錯体(以下、金属キサンテートという。)を使用している。
【0049】
金属キサンテートの合成は、キサンテートを可溶性の溶液、例えばシンクロデキストリンまたは固形担持体に結合されたシンクロデキストリンと会合させることで作製できる。シンクロデキシタン−キサンテート会合物は、特に一般式XZYの金属錯体が適している。この一般式では、XとYの両方、またはXのみあるいはYのみがキサンテートの残基を表している。XとYは同じであってもよい。Zはキサンテート類との錯体を形成することができる金属、例えば、Cu、Zn等を表す。
【0050】
本発明で使用した銅キサンテートは、Zを銅として、XとYは同じキサンテートを配位しており、次の分子式を持っている。
【0051】
【化1】
である。
【0052】
亜鉛キサンテートもXとYは同じキサンテートを配位しており、次の分子式を持っている。
【化2】
【0053】
スズキサンテートもXとYは同じキサンテートを配位しており、溶媒への溶解度を上げるために炭素の量を多く配位し、次の分子式を持っている。
【化3】
【0054】
インジウムキサンテートは、金属であるインジウムに、3つのキサンテートを配位しており、次の分子式となっている、
【化4】
【0055】
以下に実施例を示す。
(実施例1)
【0056】
まず、単体の金属キサンテートから金属硫化物ナノ粒子を作製する。
【0057】
図1は、単体の金属キサンテートから金属硫化物ナノ粒子の作製方法10を示すフローチャートである。ステップS1では、金属キサンテートを容器に入れる。ステップS2でこの容器を不活性ガス雰囲気で加熱する。金属キサンテートを反応させた後、ステップS3で室温まで戻して金属硫化物ナノ粒子が作製される。このように、金属キサンテートを使用することで、極めて簡単に金属硫化物ナノ粒子が作製できる。加熱温度も100℃〜300℃であり、不活性ガスとしては窒素、アルゴン、ヘリウム等が使用できる。
【0058】
金属キサンテートは、Cu,Zn,In,Snを試作し、各金属キサンテートの熱分解を含めた熱反応過程を知るために、熱重量分析(Thermogravimetric Analysis:TG)により、温度を変化させながら、あるいは一定の温度に保って、試料の重量変化を測定した。
【0059】
図2は、Cuキサンテート(Cu)、Znキサンテート(Zn)、Inキサンテート(In)とSnキサンテート(Sn)の熱重量分析の結果を示している。分解開始温度(重量が5%減少したときの温度)は、Cuキサンテートが約170℃、Znキサンテートが約135℃、Inキサンテートが125℃で、Snキサンテートが約130℃となっている。
【0060】
温度を高くして220℃以上とすると、全ての金属キサンテートの重量が飽和し、相対的重量損失は、CuキサンテートとZnキサンテートが約70%、Inキサンテートが約80%で、Snキサンテートが約40%となっている。
【0061】
この結果を基に、各種金属硫化物ナノ粒子の作製を試みた。作製方法は図1に示したフローチャートに従った。Cuキサンテート、Znキサンテート、Gaキサンテート、Inキサンテートの粉末を各容器に入れ、不活性ガスとして窒素を流しながら、金属キサンテートの入った容器を加熱した。加熱温度はまず150℃とし、加熱反応促進されない金属キサンテートについては、250℃まで温度を上げた。加熱時間はそれぞれ20分とした。
【0062】
図3は、反応前の各金属キサンテートの状態20を示している。図3では、Cuキサンテート22,Znキサンテート24,Inキサンテート28とSnキサンテート26の粉末を示している。外観での色は、Cuキサンテート22は濃い黄色をしている。Znキサンテート24は白色、Snキサンテート32は僅かにピンクがかった薄い黄色であり、Inキサンテート28も色は薄く、僅かに灰色がかった黄色である。
【0063】
図4は、加熱反応後の各金属キサンテートの状態34を示している。ここでは、加熱温度を150℃とした場合の反応後の状態である。Cuキサンテート22は、濃い黄色から黒色がかった黄色へと色が変化した。Znキサンテート24は、白色から黒色がかった黄色に変化した。Snキサンテート26は黒色へと変化し、Inキサンテー28は濃いこげ茶色へと変化した。
【0064】
150℃で加熱反応させた状態でXRD(X−ray Diffraction)による評価を行い、その後さらに温度を高くして、250℃で加熱反応させ、さらにXRDで評価を行なった。XRDでは、一定波長のX線を分析試料に照射して、物質の原子・分子の配列状態によって散乱したX線の回折パターンから結晶性を評価できるため、金属キサンテートの加熱反応後に、金属硫化物の生成が行なわれたかどうかを評価することができる。
【0065】
図5は、Cuキサンテートの加熱反応後のXRD評価結果40を示している。回折角(Diffrection Angle)2θに対するXRDスペクトルの関係は、Cuキサンテーの試料をガラス基板にグリースを塗布して固着させているため、ガラスとグリース塗布ガラスについてのデータも示している。熱重量分析の結果から、Cuキサンテートの反応開始温度は150℃以上であるため、250℃の加熱で反応を促進させた。図5では2回行なった結果を示している。この結果より、XRDスペクトルは2θが約33度と約46度に強いピークが存在し、ICDDdata #00−002−1283(CuS)での(200)、(220)面ピークとXRDピークが一致し、他のピークもほぼ一致しているため、本発明による作製方法で、高結晶性のCuSが生成されていることがわかる。
【0066】
図6は、Znキサンテートの加熱反応後のXRD評価結果42を示している。Znキサンテートの加熱温度は、150℃と250℃であり、両方のXRD評価結果を示している。回折角に対するXRDスペクトルの関係は、回折角2θが、約29度、約48度及び約57度でXRDスペクトルのピークが観測され、これは、ICDDdata #01−080−0020(Hexagonal ZnS)の(111)、(220)、(011)面ピークと一致しており、ZnSの生成が行なわれたことを示している。参考までに、ICDDdata #01−077−3378(Tetragonal ZnS)も示しているが、いずれの位置にも近いピークが観測されている。これより、Znキサンテートから、亜鉛硫化物であるZnSが150℃で生成できていることがわかる。
【0067】
図7は、Inキサンテートの加熱反応後のXRD評価結果44を示している。Inキサンテートの加熱温度は、150℃と250℃であり、両方の温度におけるXRD評価結果を示している。回折角に対するXRD強度の関係は、加熱温度が250℃において、回折角2θが約34度、約48度にXRDスペクトルのピークが存在している。CDDdata #00−005−0731のピークである(200)、(220)面と同じ回折角2θにピークが観測された。加熱温度150℃では回折角34度付近にピークは観測されなかった。これより、Inキサンテートからは、加熱温度250℃での亜鉛硫化物であるInが生成されていることがわかる。
【0068】
図8は、Snキサンテートの加熱反応後のXRD評価結果46を示している。Snキサンテートの加熱温度は、150℃である。回折角に対するXRDスペクトルの関係は、回折角2θが約32度と約56度に、ブローではあるがピークが観測された。ICDDdata #01−083−1758のSnSと同じ角度にピークが観測された。参考までに示したSnOのICDDdata #00−001−0625のピーク位置とは異なり、Snキサンテートからスズ硫化物であるSnSが150℃で生成されたことがわかる。
(実施例2)
【0069】
次に、複数の金属キサンテートを混合した場合の複合金属硫化物ナノ粒子についての実施例を説明する。
【0070】
図9は、複合金属硫化物ナノ粒子の作製方法60を示したフローチャートである。ステップS21では、それぞれの金属キサンテートを、目的とする化学量論的組成比となるように秤量する。ステップS22で、この秤量した金属キサンテートを容器に入れて混合する。その後、ステップS23では不活性ガス雰囲気で容器を加熱し、ステップ24で室温まで冷却して金属硫化物を作製する。
【0071】
実施例2では、複合金属硫化物ナノ粒子を、CuキサンテートとInキサンテートを混合した金属キサンテート(以下、Cu−Inキサンテートという。)と、CuキサンテートとSbキサンテートを混合した金属キサンテート(以下、Cu−Sbキサンテートという。)、及び、CuキサンテートとZnキサンテートとSnキサンテートを混合した金属キサンテート(以下、Cu−Zn−Snキサンテートという。)の3種類について、図9に示した作製方法で金属硫化物ナノ粒子を作製した。Sb(アンチモン)は、光吸収層の結晶形成時に緻密な結晶粒の成長を促進させるため、Sbキサンテートを試作し、Cuキサンテートとの複合金属ナノ粒子の作製を試みたものである。
【0072】
化学量論的組成比は、Cu−InキサンテートがCu:In=1:1、Cu−SbキサンテートがCu:Sb=1:1であり、Cu−Zn−SnキサンテートはCZTSの組成となっており、Cu:Zn:Sn=2:1:1とした。
【0073】
図10は、加熱反応後のCu−Inキサンテートの熱重量分析結果72である。分解開始温度は、約140℃であり、飽和時の相対的重量損失は約75%である。なお、参考までに、CuキサンテートとInキサンテートの熱重量分析の結果も示している。Cuキサンテートの分解開始温度は高いが、CuキサンテートとInキサンテートを混合混合して、複合金属キサンテート(Cu+In)とすることで、分解開始温度、及び分解温度が低くなった。
【0074】
図11は、Cu−Inキサンテートの加熱反応後のXRD測定結果74である。加熱温度が、100℃、150℃、250℃の場合についての結果を示している。250℃については、2回の評価結果である。加熱温度が150℃と250℃のときに、回折角2θが約28度、46度と55度にXRDスペクトルのピークが観測されている。これは、ICDDdata #01−075−0106に於けるCuInSの(112)、(204)、(312)面のピーク位置と一致している。これより、Cu−Inキサンテートから、150℃で金属硫化物ナノ粒子であるCuInSが生成されている。
【0075】
図12は、Cu−Sbキサンテートの加熱反応後のXRD測定結果76である。加熱温度は、150℃である。回折角2θが約30度と50度にXRDスペクトルのピークが観測されている。これは、ICDDdata #01−075−0106に於けるCuSbSの(222)、(440)面のピーク位置と一致している。これより、Cu−Sbキサンテートから、150℃で金属硫化物ナノ粒子であるCuSbSが生成されている。
【0076】
図13は、Cu−Zn−Snキサンテートの加熱反応後のXRD測定結果80である。加熱温度は、250℃である。回折角2θが約33度、47度と55度にXRDスペクトルのピークが観測されている。これは、ICDDdata #00−034−1246に於けるCuZnSnSの(112)、(220)、(312)面のピーク位置と一致している。これより、Cu−Zn−Snキサンテートから、250℃で金属硫化物ナノ粒子であるCuZnSnSが生成されている。
(実施例3)
【0077】
金属キサンテートは、溶媒に溶かして溶解液としてから金属硫化物ナノ粒子を作製することもでき、次に説明する。
【0078】
図14は、溶解液を利用した複合金属硫化物ナノ粒子の作製方法82を示すフローチャートである。ステップS31では、各金属キサンテートを目的の組成比となるように秤量する。次にステップS32では、秤量した金属キサンテートを溶媒の入った容器に入れ、溶解する。溶媒は、合成した金属キサンテートが溶解しなければならず、例えばトリクロロメタンやテトラヒドロフロンを使用する。
【0079】
金属硫化物ナノ粒子の作製は、溶解液の溶媒を蒸発させてから加熱反応させる。ステップS33では、金属キサンテートの溶解液を、不活性ガス雰囲気で溶媒を蒸発させている。このときの温度は、70℃〜80℃である。ステップS34では、溶媒を蒸発させた容器を、不活性ガス雰囲気で加熱して金属キサンテートを反応させる。ステップS33、ステップS34における不活性ガスは、例えば窒素、アルゴン、ヘリウムを使用する。次に、ステップS35で室温まで冷却することにより、加熱反応させた金属キサンテートから金属硫化物ナノ粒子を得ることができる。
【0080】
複数の金属キサンテートを溶媒に溶解してから金属硫化物ナノ粒子を作製するために、CuキサンテートとInキサンテートを混合したCu−Inキサンテートと、CuキサンテートとZnキサンテートとSnキサンテートを混合したCu−Zn−Snキサンテートの2種類を作製した。溶解液の溶媒にはテトラヒドロフロンを使用した。
【0081】
金属硫化物ナノ粒子は、図14に示した方法により作製した。溶媒の蒸発温度は75℃とし、不活性ガスは窒素を使用した。また、加熱温度は、100℃以上であり、通常300℃あれば充分である。
【0082】
図15は、溶解液としたCu−Inキサンテートの加熱反応後のXRD測定結果84である。本実施例では、テトラヒドロフランに溶解させたCu−Inキサンテートを、75℃で30分間、窒素ガス雰囲気中に置き、溶媒を蒸発させた。その後、同じく窒素雰囲気下で、加熱温度を100℃、150℃、250℃、300℃、350℃、400℃、500℃として加熱反応させた。
【0083】
XRDスペクトルは、加熱温度150℃以上で、回折角2θが、約28度、33度、46度、55度に観測された。これは、ICDDdata(CuInS)のピークと一致し、150℃でCu−Inキサンテートから硫化物ナノ粒子である、CuInSが生成されていることを示している。
【0084】
図16は、溶解液としたCu−Zn−Snキサンテートの加熱反応後のXRD測定結果86である。本実施例では、テトラヒドロフランに溶解させたCu−Zn−Snキサンテートを、75℃で30分間、窒素ガス雰囲気中に置き、溶媒を蒸発させた。その後、同じく窒素雰囲気下で、加熱温度を100℃、250℃、300℃、400℃、500℃として加熱反応させた。
【0085】
XRDスペクトルは、加熱温度100℃以上で、回折角2θが、約28度、47度、56度に観測された。これは、ICDDdata(CuZnSnS)のピークと一致し、100℃でCu−Inキサンテートから硫化物ナノ粒子である、CuZnSnSが生成されていることを示している。
【0086】
以上、金属キサンテートから太陽電池の光吸収層の原材料として使用する硫化物金属ナノ粒子の作製方法について説明したが、次に、この硫化物金属ナノ粒子を用いた太陽電池の光吸収層の作製方法を実施例により説明する。
【0087】
本発明が対象とする化合物半導体太陽電池は、ガラス基板上に、下部電極、光吸収層、バッファ層、窓層及び上部電極がこの順に積層した構造を有する。本発明では太陽電池の光吸収層が、金属キサンテートから生成された硫化物金属ナノ粒子から形成されることを特徴としている。
【0088】
図17は、本発明による金属硫化物ナノ粒子を用いた光吸収層の作製方法88を示すフローチャートである。まず、ステップS41では、各金属硫化物ナノ粒子あるいは複合硫化物ナノ粒子を、目的の組成となるように秤量する。金属原子が単体の金属硫化物ナノ粒子の組み合わせ、金属原子が複数存在する複合硫化物ナノ粒子、または、金属原子が単体の金属硫化物ナノ粒子と複合硫化物ナノ粒子との組み合わせで調整してもよい。ステップS42で、秤量した各金属硫化物ナノ粒子、複合金属硫化物ナノ粒子を容器に入れ、溶媒に溶解または分散させた塗布液を作製する。塗布液は、硫化物ナノ粒子が溶解している場合、分散している場合のいずれでもよい。
【0089】
塗布液の溶媒としては、溶解させても分散させてもよく、例えば、テトラヒドロフロン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられ、2種以上の溶媒を組み合わせてもよい。また、必要に応じて、顔料、充填剤、分散剤、可塑剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、結合剤、乳化剤、消泡剤、乾燥剤、レベリング剤、腐食防止剤、酸化防止剤、チクソトロピー化剤等の添加剤を加えることができる。
【0090】
ステップS43では、塗布液を下部電極が形成された基板に塗布する。塗布液を塗布する方法については特に制限されず、例えば、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット法、スピンコート法などの既知の塗布方法を用いることができる。
【0091】
塗布液が塗布された基板は、ステップS44で、不活性ガス雰囲気で加熱し、溶媒を蒸発させる。不活性ガスは、例えば窒素ガスが使用され、加熱温度は70℃〜80℃である。さらにステップS45では、不活性ガス雰囲気において基板を加熱し、各金属硫化物ナノ粒子を加熱焼成し、薄膜を形成する。
【0092】
薄膜焼成後は、ステップS46で、室温に戻す。これにより、光吸収層となる化合物半導体の薄膜が作製される。
【0093】
太陽電池として完成させるためには、光吸収層上に、n型半導体として機能させるバッファ層、表面電極を形成し、さらに取り出し用の電極を設けている。基板に使用されるガラスはソーダガラスで、下部電極はモリブデンが使用されている場合が多い。また、バッファ層は、硫化カドミウムCdSが使用され、最上部に設ける表面電極はZnO(酸化亜鉛)等が使用される。
【0094】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はその目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に、上記の実施形態による限定は受けない。
【符号の説明】
【0095】
10 金属硫化物ナノ粒子の作製方法
12 金属キサンテートの熱重量分析結果
20 反応前の各金属キサンテートの状態
22 Cuキサンテート
24 Znキサンテート
26 Snキサンテート
28 Inキサンテート
34 加熱反応後の各金属キサンテートの状態
40 Cuキサンテートの加熱反応後のXRD評価結果
42 Znキサンテートの加熱反応後のXRD評価結果
44 Inキサンテートの加熱反応後のXRD評価結果
46 Snキサンテートの加熱反応後のXRD評価結果
60 複合金属硫化物ナノ粒子の作製方法
72 Cu−Inキサンテートの熱重量分析結果
74 Cu−Inキサンテートの加熱反応後のXRD測定結果
76 Cu−Sbキサンテートの加熱反応後のXRD測定結果
80 Cu−Zn−Snキサンテートの加熱反応後のXRD測定結果
82 溶解液を利用した複合金属硫化物ナノ粒子の作製方法
84 溶解液としたCu−Inキサンテートの加熱反応後のXRD測定結果
86 溶解液としたCu−Zn−Snキサンテートの加熱反応後のXRD測定結果
88 金属硫化物ナノ粒子を用いた光吸収層の作製方法
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図16
図17