【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24、25年度、総務省、ICTイノベーション創出型研究開発事業「極低消費電力テラヘルツ波無線通信に向けた集積回路基盤技術の研究開発」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Mingbo Pu, et al.,Engineering heavily doped silicon for broadband absorber in the terahertz regime,OPTICS EXPRESS,米国,Optical Society of America,2012年11月 5日,Vol.20, No.23,pages 25513-25519
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記共振状態形成用格子点は、前記2次元フォトニック結晶スラブの主面に対して上下対称の貫通孔を備えることを特徴とする請求項1に記載のフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体。
前記共振状態形成用格子点は、前記2次元フォトニック結晶スラブの主面に対して上下非対称の非貫通孔を備えることを特徴とする請求項1に記載のフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体。
前記共振状態形成用格子点の格子定数は、媒質内波長に等しく、波長に応じてスケーリング可能であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体。
前記2次元フォトニック結晶スラブの厚さは、媒質内波長の1/5以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体。
前記半導体材料は、シリコン(Si)、GaAs、InP、GaN、さらに、GaInAsP/InP系、InGaAs/GaAs系、GaAlAs/GaAs系若しくはGaInNAs/GaAs系、GaAlInAs/InP系、AlGaInP/GaAs系、GaInN/GaN系、SiC、ダイヤモンドの内、いずれかを適用可能であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体。
前記共振状態形成用格子点は、正方格子、長方格子、面心長方格子、若しくは三角格子のいずれかに配置されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載のフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体。
前記共振状態形成用格子点は、正方格子若しくは長方格子に配置され、かつ前記フォトニック結晶層のフォトニックバンド構造におけるΓ点、X点、若しくはM点におけるテラヘルツ波を前記フォトニック結晶スラブ面内で共振可能であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載のフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体。
前記共振状態形成用格子点は、面心長方格子若しくは三角格子に配置され、かつ前記フォトニック結晶層のフォトニックバンド構造におけるΓ点、X点、若しくはJ点におけるテラヘルツ波を前記フォトニック結晶スラブ面内で共振可能であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載のフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体。
前記共振状態形成用格子点は、多角形、円形、楕円形若しくは長円形のいずれかの形状を備えることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載のフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体。
前記反射鏡は、金属板、金属薄膜を形成した基板、誘電体多層膜、フォトニック結晶のいずれかで形成されることを特徴とする請求項16に記載のフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体。
前記2次元フォトニック結晶スラブと前記反射鏡との間の離隔距離は、電磁波の波長に対して、波長/4プラスマイナス波長/8に等しいことを特徴とする請求項18に記載のフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】(a)第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体の模式的鳥瞰図、(b)第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体の別の模式的鳥瞰図。
【
図2】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体における捕獲・吸収効果を説明する模式図。
【
図3】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体に適用可能なフォトニック結晶スラブのバンド端効果の説明図であって、透過率と周波数との関係(バンド端共振周波数の表示例)。
【
図4】(a)比較例に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体にテラヘルツ波が入射した場合の説明図、(b)第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体にテラヘルツ波が入射した場合の説明図。
【
図5】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体の捕獲効果の実証実験系(テラヘルツ時間領域分光システム(THzTDS:THz time-domain spectroscopy))の模式図(詳細構成は
図43参照)。
【
図6】テラヘルツ時間領域分光システムの入射波に用いるテラヘルツ波の電界時間波形の例。
【
図7】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体にテラヘルツ波が入射した場合の透過電界の時間波形例。
【
図8】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体において、透過電界の時間波形上の窓関数Wの説明図。
【
図9】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体において、透過電界の時間波形上を時間的にシフトする窓関数Wの説明図。
【
図10】シリコンウェハ上に作製した第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体の表面写真例と1チップ部分の拡大された表面写真例。
【
図11】透過電界の時間波形の比較であって、(a)入射テラヘルツ波自身の電界時間波形(サンプル無しのリファレンス)、(b)第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体にテラヘルツ波が入射した場合。
【
図12】捕獲効果(時間領域)とバンド端効果(周波数領域)を同時に観測するTHzTDSのスペクトログラムの比較であって、(a)入射テラヘルツ波自身のスペクトログラム(サンプル無しのリファレンス)、(b)第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体にテラヘルツ波が入射した場合。
【
図13】(a)フォトニック結晶スラブの共振状態形成用格子点に貫通孔を有し、かつフォトニック結晶スラブに不純物ドーピングを実施したフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体の模式的鳥瞰図、(b)フォトニック結晶スラブの共振状態形成用格子点に貫通孔を有し、かつフォトニック結晶スラブに不純物ドーピング(N〜10
12cm
-3)を実施した第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体の模式的鳥瞰図、(c)フォトニック結晶スラブの共振状態形成用格子点に貫通孔を有し、かつフォトニック結晶スラブに不純物ドーピング(N〜10
15cm
-3)を実施した第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体の模式的鳥瞰図。
【
図14】スペクトログラムの比較であって、(a)
図13(b)に対応する場合、(b)
図13(c)に対応する場合。
【
図15】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体において、(a)フォトニック結晶スラブの共振状態形成用格子点の模式的平面パターン構成図、(b)
図15(a)のI−I線に沿う模式的断面構造図(共振状態形成用格子点に貫通孔を有する例)。
【
図16】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体に適用可能なフォトニック結晶スラブの吸収率の周波数特性例(THzTDS測定結果とシミュレーション結果の比較)。
【
図17】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体において、捕獲効果のQ値を下げて広帯域化を図るための第1の方法の説明図であって、(a)共振状態形成用格子点に貫通孔を有するフォトニック結晶スラブの実施例、(b)共振状態形成用格子点に非貫通孔を有するフォトニック結晶スラブの実施例。
【
図18】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体において、2つの隣り合う共振点を近付けて広帯域化を図るための第2の方法の説明図(透過率の周波数特性例)。
【
図19】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体において、2つの隣り合う共振点を近付けて広帯域化を図るのに適した
図18の曲線P(透過率の周波数特性例)。
【
図20】フォトニック結晶スラブの面内に主として電界成分を有する偶(even)モードと面内に主として磁界成分を有する奇(odd)モードの2つの隣り合う共振点を近付けて広帯域化を図る説明図。
【
図21】フォトニック結晶スラブの面内に主として電界成分を有する偶モードの説明図であって、(a)共振状態形成用格子点における共振方向(破線矢印方向)の模式図、(b)共振状態形成用格子点における電界分布(破線)および磁界分布(実線)の模式図。
【
図22】フォトニック結晶スラブの面内に主として磁界成分を有する奇モードの説明図であって、(a)共振状態形成用格子点における共振方向(実線矢印方向)の模式図、(b)共振状態形成用格子点における電界分布(破線)および磁界分布(実線)の模式図。
【
図23】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体に適用可能なフォトニック結晶スラブの共振状態形成用格子点の断面の模式図であり、(a)深さH
1(80%)の例、(b)深さH
2(90%)の例、(c)深さH
3(100%)の例。
【
図24】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体における透過率の周波数特性例(A:深さH
3(100%)の例、B:深さH
2(90%)の例、C:深さH
1(80%)の例)。
【
図25】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体に適用可能なフォトニック結晶スラブの共振状態形成用格子点の断面の模式図であり、(a)直径D
1(=0.3a)の例、(b)直径D
2(=0.35a)の例、(c)直径D
3(=0.40a)の例。
【
図26】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体における透過率の周波数特性例(S:直径D
1(=0.3a)の例、T:直径D
2(=0.35a)の例、U:直径D
3(=0.40a)の例)。
【
図27】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体における透過率の周波数特性例(J:
図15の貫通孔を有する例、K:非対称構造の非貫通孔を有する例、L:共振点を近付けて広帯域化を図った例)。
【
図28】(a)捕獲効果と整合がとれた材料吸収を導入するためにキャリア密度を変化させたフォトニック結晶スラブを有する第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体の模式的鳥瞰構成図、(b)シミュレーションで材料の誘電率虚部を最適化し、ドルーデモデル(Drude Model)を用いて得られた吸収率(%)とキャリア密度N(cm
-3)の関係。
【
図29】作製した第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体のサンプル表面の光学顕微鏡写真例。
【
図30】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体の模式的鳥瞰構成に対応した表面電子顕微鏡写真例および端面電子顕微鏡写真例。
【
図31】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体において得られた吸収率、透過率、反射率の割合(%)と周波数f(THz)との関係。
【
図32】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体において、捕獲効果を得るために波長に応じてスケーリングし、他の周波数帯域への拡張可能性を説明する模式的鳥瞰構成であって、(a)電波を対象とした例、(b)テラヘルツ帯を対象とした例、(c)光波領域を対象とした例。
【
図33】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体において、吸収効果を得るためにドーピングされるキャリア密度N(cm
-3)と周波数f(THz)との関係のドルーデモデルを用いて得られた理論解析結果。
【
図34】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体において、吸収効果を得るためにドーピングされるキャリア密度N(cm
-3)と消衰係数κとの関係のドルーデモデルを用いて得られた理論解析結果。
【
図35】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体において、(a)入射波に対する反射率REおよび透過率TRの割合(%)と周波数f(THz)の関係(キャリア吸収効果の無い場合)、(b)入射波に対する反射率RE、透過率TR、および吸収率ABの割合(%)と周波数f(THz)の関係(フォトニック結晶スラブ材料に不純物ドーピングし、キャリア吸収効果を導入した場合)。
【
図36】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体における捕獲効果とキャリア吸収効果を説明する模式的鳥瞰図であって、(a)バルク結晶基板(PC構造なし)にテラヘルツ波を入射する比較例、(b)フォトニック結晶スラブ12にテラヘルツ波を入射する実施例、(c)バルク結晶基板(PC構造なし)にテラヘルツ波を入射した場合(捕獲効果なし:キャリア吸収効果なし)、(d)フォトニック結晶スラブにテラヘルツ波を入射した場合(捕獲効果有り:キャリア吸収効果なし)、(e)不純物ドーピングし、キャリア吸収効果を導入したバルク結晶基板(PC構造なし)にテラヘルツ波を入射した場合(捕獲効果なし:キャリア吸収効果有り)、(f)不純物ドーピングし、キャリア吸収効果を導入したフォトニック結晶スラブにテラヘルツ波を入射した場合(捕獲効果有り:キャリア吸収効果有り)。
【
図37】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体において、最適な吸収効果を得るための説明図であって、(a)消衰係数κ=0.001の場合の吸収率AB(%)と周波数f(THz)との関係、(b)消衰係数κ=0.01の場合の吸収率AB(%)と周波数f(THz)との関係、(c)消衰係数κ=0.1の場合の吸収率AB(%)と周波数f(THz)との関係。
【
図38】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体において、吸収率AB(%)と屈折率虚部(消衰係数κ)との関係の理論解析結果。
【
図39】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体において、高吸収率化および広帯域化を実現する方法の説明図であって、(a)共振状態形成用格子点に上下対称の貫通孔を備えるフォトニック結晶スラブの吸収スペクトルの模式図、(b)共振状態形成用格子点に上下非対称の非貫通孔を備え、かつ孔の直径を大きくしてフォトニック結晶の共振のQ値を下げたフォトニック結晶スラブの吸収スペクトルの模式図、(c)さらに、フォトニック結晶スラブの厚さd、共振状態形成用格子点の周期(格子定数a)、孔の直径D、孔の深さHを総合的に調節して隣り合う共振点を近付けたフォトニック結晶スラブの吸収スペクトルの模式図。
【
図40】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体において、他の周波数帯域への展開方法を説明する図であって、キャリア密度Nをパラメータとする消衰係数κと周波数f(THz)との関係の理論解析結果。
【
図41】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体において、他の周波数帯域への展開方法を説明する図であって、(a)フォトニック結晶スラブの共振状態形成用格子点の模式的平面パターン構成図、(b)
図41(a)のII−II線に沿う模式的断面構造図(共振状態形成用格子点に非貫通孔を有する例)。
【
図42】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体において、他の周波数帯域への展開方法を説明する図であって、格子定数a(μm)と周波数f(THz)との関係の理論解析結果。
【
図43】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体の評価システム構成であって、テラヘルツ時間領域分光システム(THzTDS)の模式的ブロック構成図。
【
図44】(a)第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体を適用した高周波金属配線回路の模式的鳥瞰構成図、(b)第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体上に高周波金属配線回路を配置した積層構造の模式的断面構造図。
【
図45】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体に適用可能な2次元フォトニック結晶スラブにおいて、(a)共振状態形成用格子点の周期構造であって、正方格子の配置例、(b)
図45(a)に対応する2次元フォトニック結晶スラブのバンド構造図。
【
図46】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体に適用可能な2次元フォトニック結晶スラブにおいて、(a)共振状態形成用格子点の周期構造であって、三角格子の配置例、(b)
図46(a)に対応する2次元フォトニック結晶スラブのバンド構造図。
【
図47】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体に適用可能な2次元フォトニック結晶スラブにおいて、(a)共振状態形成用格子点の周期構造であって、長方格子の配置例、(b)
図47(a)に対応する2次元フォトニック結晶スラブのバンド構造図。
【
図48】第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体に適用可能な2次元フォトニック結晶スラブにおいて、(a)共振状態形成用格子点の周期構造であって、菱型格子の配置例、(b)
図48(a)に対応する2次元フォトニック結晶スラブのバンド構造図。
【
図49】第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体であって、2次元フォトニック結晶スラブの裏側に反射鏡を導入したフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体における捕獲・吸収効果を説明する模式図。
【
図50】第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体であって、2次元フォトニック結晶スラブの裏側に反射鏡を導入したフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体の模式的鳥瞰構成および表面電子顕微鏡写真例および端面電子顕微鏡写真例。
【
図51】第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体において、2次元フォトニック結晶スラブの裏側に反射鏡を導入した結果、フォトニック結晶由来の面内共振モード(偶モード,奇モード)に加え、反射鏡とフォトニック結晶に由来する第3のファブリーペロー共振モードが導入され、吸収スペクトルの変化する様子を説明する図であって、(a)初期状態のスペクトル強度分布、(b)共振状態形成用格子点の孔の径寸法を最適化した状態のスペクトル強度分布、(c)さらに、2次元フォトニック結晶スラブの厚さを最適化した状態のスペクトル強度分布、(d)さらに、フォトニック結晶スラブの裏側に反射鏡を導入した結果のスペクトル強度分布。
【
図52】第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体において、2次元フォトニック結晶スラブの裏側に導入した反射鏡とフォトニック結晶との離隔距離Sと周波数fとの関係における吸収率のシミュレーション結果(fe:偶モード、fo:奇モード、fm:ファブリペローモード)。
【
図53】第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体において、捕獲効果(時間領域)とバンド端効果(周波数領域)を同時に観測するTHzTDSのスペクトログラムの比較であって、(a)フォトニック結晶がなく、吸収が無い高抵抗スラブの例、(b)フォトニック結晶を有し、吸収が無い高抵抗スラブの例、(c)フォトニック結晶および反射鏡を有し、吸収が無い高抵抗スラブの例、(d)フォトニック結晶がなく、吸収がある低抵抗スラブの例、(e)フォトニック結晶を有し、吸収がある低抵抗スラブの例、(f)フォトニック結晶および反射鏡を有し、吸収がある低抵抗スラブの例。
【
図54】吸収率と周波数fとの関係であって、(a)比較例としてフォトニック結晶がないスラブの場合、(b)比較例として2次元フォトニック結晶スラブの場合、(c)第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体の場合。
【
図55】(a)比較例としての送信器と受信器間の近接無線通信システムの模式的鳥瞰構成図、(b)第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体を適用した送信器と受信器間の近接無線通信システムの模式的鳥瞰構成図。
【
図56】第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体を適用した送信器と受信器間の近接無線通信システムの模式的ブロック構成図。
【
図57】第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体を適用した送信器と受信器の間のアンテナ間隔SANに対するビット誤り率の関係(A:比較例として送受信用アンテナと金属の筐体(反射鏡)のみの場合、B:送受信用アンテナと金属の筐体(反射鏡)+フォトニック結晶スラブ電磁波吸収体の構成の場合)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0025】
又、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施の形態は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の実施の形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0026】
[第1の実施の形態]
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1の模式的鳥瞰構造は、
図1(a)に示すように表され、別の模式的鳥瞰構造は、
図1(b)に示すように表される。
【0027】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1は、
図1(a)および
図1(b)に示すように、半導体材料からなる2次元フォトニック結晶スラブ12と、2次元フォトニック結晶スラブ12内に周期的に配置され、2次元フォトニック結晶スラブ12のフォトニックバンド構造のバンド端における電磁波を、2次元フォトニック結晶スラブ12の面内で共振させることで、外部から入射された電磁波を捕獲可能な共振状態形成用格子点12Aとを備える。ここで、2次元フォトニック結晶スラブ12は、不純物ドーピングされ、捕獲された電磁波をバンド端共振周波数において吸収可能である。
【0028】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1において、共振状態形成用格子点12Aは、
図1(a)に示すように、2次元フォトニック結晶スラブ12の主面に対して上下対称の貫通孔を備えていても良い。
【0029】
また、第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1において、共振状態形成用格子点12Aは、
図1(b)に示すように、2次元フォトニック結晶スラブ12の主面に対して上下非対称の非貫通孔を備えていても良い。
【0030】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1においては、2次元フォトニック結晶スラブ12は所定の不純物密度でドーピングされ、捕獲された電磁波を2次元フォトニック結晶スラブ12の面内で共振させる共振周波数において吸収可能である。フォトニック結晶スラブ12によって捕獲された電磁波が、半導体中の自由キャリア吸収と効果的に相互作用し、吸収率が高めることができ、キャリア密度を最適化すれば、吸収率を最大化することができる。
【0031】
また、第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1において、2次元フォトニック結晶スラブ12の共振状態形成用格子点12Aは、波長と同程度の周期構造を備えるため、2次元フォトニック結晶スラブ12に対して入射された電磁波は、2次元フォトニック結晶スラブ12の面内において、大面積の共振を起こす。
【0032】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1は、単純な構造を備えるため、作製が容易である。
【0033】
また、第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1は、波長の1/5以下の厚さに形成可能であり、平面型・薄型化が可能である。
【0034】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1は、電波、テラヘルツ波、光波など、さまざまな電磁波吸収体として適用可能である。作製上、共振状態形成用格子点12Aの格子定数aを波長と同程度に設定すれば良く、波長に応じたスケーリング則を適用可能である。以下では、主としてテラヘルツ波帯域について説明する。
【0035】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1においては、フォトニック結晶スラブ12の材料として、単一材料、若しくは複数の材料を組み合わせて、キャリア密度によって物性制御が可能な半導体材料を用いる。
【0036】
半導体材料としては、以下のものを適用可能である。すなわち、例えば、シリコン(Si)、GaAs、InP、GaN、さらに、GaInAsP/InP系、InGaAs/GaAs系、GaAlAs/GaAs系若しくはGaInNAs/GaAs系、GaAlInAs/InP系、AlGaInP/GaAs系、GaInN/GaN系、SiC、ダイヤモンドなどを適用可能である。
【0037】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1において、特に、Siをフォトニック結晶スラブ12の材料として適用し、ドーピングされる不純物密度を制御することによって、テラヘルツ波の材料吸収が可能となることが実証されている。
【0038】
2次元フォトニック結晶スラブに対するドーピング不純物としては、一般的な材料、例えば、Siでは、B、P、As、Sbなど、GaAsでは、Zn、C、Mg、Si、Beなど、InPでは、Zn、Sなど、GaNでは、Mg、Siなど、SiCでは、N、Al、Bなど、ダイヤモンドでは、P、Bなどが適用可能である。
【0039】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1においては、適切な吸収率が得られるようにキャリア密度を調整すれば良く、上記に限らず、フォトニック結晶スラブ材料およびドーピング不純物を選択可能である。
【0040】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1において、2次元フォトニック結晶スラブの基板面直方向の不純物密度分布は、2次元フォトニック結晶スラブの基板全体に均一であっても、あるいはイオン注入技術や拡散技術を用いて、ドーピング領域を基板表面部分や所定の深さ領域に形成しても良い。
【0041】
2次元フォトニック結晶スラブの基板表面近傍にドーピング層を設ける構造は、表面に電界分布が強い電磁界分布をもつ奇モードで吸収効果が得られるため、適用可能である。表面のドーピング量を高くすることで、表面のみを金属的にすることで、干渉効果により、内部のフォトニック結晶層での吸収を強くすることも可能である。
【0042】
すなわち、第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1においては、2次元フォトニック結晶スラブのドーピング濃度を構造内で変化させる(表面を高ドープで金属的、その他は適切な吸収量、もしくは徐々に断熱的にドーピングを変化させることで余計な反射を低減するなど)構造も適用可能である。
【0043】
また、共振状態形成用格子点12Aは、例えば、空気孔として形成しても良く、或いは屈折率の異なる半導体層で充填しても良い。例えば、GaAs層に対してAlGaAs層を充填して形成しても良い。
【0044】
また、共振状態形成用格子点12Aは、空気の孔を空けるだけでなく、孔(の一部)を低屈折率(誘電率)の媒質で埋める構造も適用可能である。低屈折率(誘電率)の媒質としては、例えば、テフロン、フッ素樹脂、ポリイミド、アクリル、ポリエステル、エポキシ樹脂、液晶、ポリウレタンなどのポリマー材料を適用可能である。さらに、低屈折率(誘電率)の媒質としては、例えば、SiO
2、SiN、SiON、アルミナ、サファイアなどの誘電体も適用可能である。さらに、低屈折率(誘電率)の媒質としては、エアロゲルなどの多孔質体も適用可能である。
【0045】
(捕獲・吸収の相乗効果)
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1における捕獲・吸収の相乗効果を説明する模式図は、
図2に示すように表される。
【0046】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1に入射された電磁波I
Iは、フォトニック結晶スラブ12の面内で共振され、捕獲される。このため、反射される電磁波I
Rは極めて少ない。さらに、第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1に入射された電磁波I
Iは、フォトニック結晶スラブ12の材料によって、吸収されるため、透過される電磁波I
Tも極めて少ない。すなわち、第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1は、捕獲+吸収の相乗効果によって、吸収性能を増大可能である。
【0047】
(フォトニック結晶スラブのバンド端効果)
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1に適用可能なフォトニック結晶スラブ12のフォトニックバンド構造において、傾きが0となる部分をバンド端と呼ぶ。バンド端においては、電磁波の群速度が0となり、定在波が形成されるため、フォトニック結晶が電磁波の共振器として機能する。共振状態形成用格子点12Aの周期構造とバンド構造については、後述する(
図45〜
図48参照)。
【0048】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1に適用可能なフォトニック結晶スラブ12のバンド端効果の説明図であって、透過率(%)と周波数f(THz)との関係は、
図3に示すように表される。
図3において、破線の丸印で示された部分に対応する周波数がバンド端共振周波数を示す。バンド端においては、電磁波の媒質内波長が、共振状態形成用格子点12Aの構造の周期と等しくなる。このため、フォトニック結晶スラブ12の面内で定在波が発生し、フォトニック結晶スラブ12の面外のモードと結合可能となる。このため、第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1に入射された電磁波I
Iは、フォトニック結晶スラブ12の面内で共振され、捕獲される。
【0049】
(フォトニック結晶による電磁波の捕獲)
比較例に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1aにテラヘルツ波が入射した場合の説明図は、
図4(a)に示すように表される。一方、第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1にテラヘルツ波が入射した場合の説明図は、
図4(b)に示すように表される。
【0050】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1においては、共振状態形成用格子点12Aを有するフォトニック結晶スラブ12に入射したテラヘルツ波が、フォトニック結晶スラブ12の面内共振モードに結合されて、テラヘルツ波を捕獲することができる。
【0051】
一方、バルク結晶基板12B(PC構造なし)にテラヘルツ波が入射した場合には、バルク結晶基板12B(PC構造なし)で捕獲されることなく、反射若しくは透過される。
【0052】
(捕獲効果の実証実験)
ターゲット周波数を0.3THzとして第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1のサンプルを作製した。また、リファレンスとして、バルク結晶基板12B(PC構造なし)のサンプルも作製した。
【0053】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1の捕獲効果の実証実験系(テラヘルツ時間領域分光システム(THzTDS:THz time-domain spectroscopy))の模式図(詳細構成は
図43)は、
図5に示すように表される。ここで、サンプルの無い状態でのテラヘルツ波の波形を基準データ(Reference: リファレンス)とする。
【0054】
THzTDSを用いて、サンプル/リファレンスに対する入射電磁波I
Iおよび透過電磁波I
Tを観測することによって、捕獲効果(時間領域)とバンド端効果(周波数領域)を同時に観測することができる。
【0055】
THzTDSにおいて、リファレンスの透過電界の時間波形を観測した結果は、
図6に示すように表され、第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体にテラヘルツ波を入射して透過電界の時間波形を観測した結果は、
図7に示すように表される。
【0056】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体において、透過電界波形上の窓関数Wは
図8に示すように表され、透過電界波形上を時間的にシフトする窓関数Wは
図9に示すように表される。時間的にシフトする窓関数Wを用いて、得られた時間波形をフーリエ解析し、透過スペクトログラムを得ることができる。
【0057】
ここで、電磁場解析の一手法である有限差分時間領域法(時間領域差分法)(FDTD:Finite-difference time-domain method)と厳密結合波解析(RCWA:Rigorous Coupled Wave Analysis)を用いることによって、共振周波数とテラヘルツ波捕獲効果で決まるQ値Q
cを評価している。
【0058】
(捕獲効果の実証実験結果)
シリコンウェハ上に作製した第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1の光学顕微鏡表面写真例およびその拡大写真例は、
図10に示すように表される。
【0059】
入射させたテラヘルツ波自身のスペクトログラム(リファレンス)・フォトニック結晶スラブ電磁波吸収体にテラヘルツ波が入射した場合の透過電界波形(
図6・
図7に対応)は、
図11(a)・
図11(b)に示すように比較される。
【0060】
入射させたテラヘルツ波自身のスペクトログラム(リファレンス)・フォトニック結晶スラブ電磁波吸収体にテラヘルツ波が入射した場合のTHzTDSのスペクトログラムは、
図12(a)・
図12(b)に示すように比較される。
図12(a)・
図12(b)に示すように、THzTDSにおいては、捕獲効果(時間領域)とバンド端効果(周波数領域)を同時に観測可能である。
図12(a)・
図12(b)は、それぞれ
図11(a)・(b)に対応している。
【0061】
バンド端共振周波数(0.3THz)で捕獲された成分は遅れて透過する。すなわち、リファレンスに比較してフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1では、
図12(a)・
図12(b)に示すように、バンド端共振周波数(0.3THz)近傍において、捕獲効果(時間領域)による時間遅延成分が観測される。
【0062】
フォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1がテラヘルツ電磁波を捕獲している時間(共振ライフタイム)τ
rは、透過電界強度が1/eとなるまでの時間で定義される。実験により得られた共振ライフタイムτ
rは、約30psecである。このときのテラヘルツ波捕獲効果で決まるQ(Quality Factor)値Q
cは、約60である。
【0063】
(吸収効果の導入)
2次元フォトニック結晶スラブ12に不純物をドーピングすることによって、バンド端共振周波数において、捕獲されたテラヘルツ波の吸収効果を導入可能である。
【0064】
共振状態形成用格子点12Aに貫通孔を有し、かつフォトニック結晶スラブ12Dに不純物ドーピングを実施したフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1の模式的鳥瞰構成は、
図13(a)に示すように表される。
【0065】
また、共振状態形成用格子点12Aに貫通孔を有し、かつフォトニック結晶スラブ12D
1に不純物ドーピング(N〜10
12cm
-3)を実施したフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1の模式的鳥瞰構成は、
図13(b)に示すように表される。また、共振状態形成用格子点12Aに貫通孔を有し、かつフォトニック結晶スラブ12D
2に不純物ドーピング(N〜10
15cm
-3)を実施したフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1の模式的鳥瞰構成は、
図13(c)に示すように表される。
【0066】
図13(b)・
図13(c)に示されたフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1に0.3THzの連続波のテラヘルツ電磁波I
Iを入射した場合のTHzTDSのスペクトログラムは、
図14(a)・
図14(b)に示すように比較される。
【0067】
相対的に低キャリア密度に不純物ドーピング(N〜10
12cm
-3)された
図13(b)・
図14(a)に示されたサンプル例では、共振ライフタイムτ
rは、約30psecであり、このときのテラヘルツ波捕獲効果で決まるQ値Q
cは、約60である。一方、相対的に高キャリア密度に不純物ドーピング(N〜10
15cm
-3)された
図13(c)・
図14(b)に示されたサンプル例では、共振ライフタイムτ
rは、約10psecであり、このときのテラヘルツ波捕獲効果で決まるQ値Q
cは、約20である。共振ライフタイムτ
rは、約30psecから約10psecに減少し、テラヘルツ波捕獲効果で決まるQ値Q
cも約60から約20に減少している。
【0068】
以上の結果より、2次元フォトニック結晶スラブ12に不純物をドーピングすることによって、バンド端共振周波数において、捕獲されたテラヘルツ波が材料に吸収される吸収効果を導入可能である。
【0069】
(吸収スペクトル)
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体において、フォトニック結晶スラブの共振状態形成用格子点12Aの模式的平面パターン構成例は、
図15(a)に示すように表され、
図15(a)のI−I線に沿う模式的断面構造は、
図15(b)に示すように表される。
図15(a)および
図15(b)に示された例は、共振状態形成用格子点12Aに貫通孔を有する例に対応している。ここで、フォトニック結晶スラブの基板の抵抗率は、約10オームcm、不純物ドーピングによるキャリア密度は、約1.2×10
15(cm
-3)である。また、周期(格子定数a)は、450μm、共振状態形成用格子点12Aの直径Dは0.6a=270μm、フォトニック結晶スラブ12の厚さTH(共振状態形成用格子点12Aの深さdに等しい)は、200μmである。
【0070】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体に適用可能なフォトニック結晶スラブの吸収率の周波数特性例(THzTDS測定結果とシミュレーション結果の比較)は、
図16に示すように表される。第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体では、
図16に示すように、周波数fが0.30THz近傍で吸収率(%)のピークが得られており、バンド端共振周波数における捕獲・吸収効果の原理検証はなされている。
【0071】
(広帯域化:第1の方法)
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1において、広帯域化を図るための第1の方法は、
図17(a)および
図17(b)に示すように表される。すなわち、第1の方法は、テラヘルツ波捕獲効果で決まるQ値Q
cを下げて広帯域化を図る方法である。
【0072】
共振状態形成用格子点12Aにフォトニック結晶スラブ12の主面に対して上下対称の貫通孔を有するフォトニック結晶スラブ12は、
図17(a)に示すように表され、上下非対称の非貫通孔を有するフォトニック結晶スラブは、
図17(b)に示すように表される。
【0073】
テラヘルツ波捕獲効果で決まるQ値Q
cを下げて広帯域化を図るためには、共振状態形成用格子点12Aに非対称構造を導入することが効果的である。
【0074】
(広帯域化:第2の方法)
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1において、広帯域化を図るための第2の方法は、2つの隣り合う共振点を近付けて広帯域化を図る方法である。
【0075】
尚、2つの隣り合う共振点を近付けるだけでなく、一致させても良い。
【0076】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1において、それぞれ異なる共振状態形成用格子点12Aの孔形状を有する場合の透過率(%)の周波数f(THz)特性が、曲線P、Q、Rに対応している。
【0077】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1において、2つの隣り合う共振点を近付けて広帯域化を図るのに適した
図18の曲線Pの拡大図(透過率の周波数特性例)は、
図19に示すように表される。2つの隣り合う共振点(バンド端共振周波数近傍)においては、
図19に示すように、透過率がほぼゼロまで低下している(逆に吸収率が上昇する)。したがって、2つの隣り合う共振点を近付けることによって、吸収率の曲線を重ね合わせることができるため、広帯域化を図ることができる。
【0078】
(共振点の種類)
フォトニック結晶スラブの面内に主として電界成分を有する偶(even)モードと面内に主として磁界成分を有する奇(odd)モードの2つの隣り合う共振点を近付けて広帯域化を図るための説明図は、
図20に示すように表される。透過率Tの周波数f特性上、2つの隣り合う共振周波数は、偶モードの共振周波数f
eと奇モードの共振周波数f
oで表すことができる。このため、偶モードと奇モードを近付けることによって、2つの隣り合う共振点を近付けて広帯域化を図ることが可能である。
【0079】
フォトニック結晶スラブの面内に主として電界成分を有する偶モードの説明図であって、共振状態形成用格子点12Aにおける共振方向(破線矢印方向)の模式図は、
図21(a)に示すように表され、共振状態形成用格子点12Aにおける電界分布(破線)および磁界分布(実線)の模式図は、
図21(b)に示すように表される。
【0080】
一方、フォトニック結晶スラブの面内に主として磁界成分を有する奇モードの説明図であって、共振状態形成用格子点12Aにおける共振方向(実線矢印方向)の模式図は、
図22(a)に示すように表され、共振状態形成用格子点12Aにおける電界分布(破線)および磁界分布(実線)の模式図は、
図22(b)に示すように表される。
【0081】
2つの隣り合う共振点を近付けて広帯域化を図るパラメータには、フォトニック結晶スラブ12の厚さTH、共振状態形成用格子点12Aの周期a・孔径(孔の直径D)・孔の深さdがあり、これらのパラメータを総合的に調節することによって、2つの隣り合う共振点を近付けることができる。
【0082】
(テラヘルツ波捕獲効果で決まるQ値Q
cの低減化:非対称(非貫通孔)構造)
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1に適用可能なフォトニック結晶スラブ12の共振状態形成用格子点12Aの断面の模式図であり、深さd
1(80%)の例は
図23(a)に示すように表され、深さd
2(90%)の例は
図23(b)に示すように表され、深さd
3(100%)の例は
図23(c)に示すように表される。
【0083】
また、第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1における透過率(%)の周波数特性例は、
図24に示すように表される。
図24において、曲線Aは、
図23(a)に示された共振状態形成用格子点12Aが深さd
3(100%)を有する例、曲線Bは、
図23(b)に示された共振状態形成用格子点12Aが深さd
2(90%)を有する例、曲線Cは、
図23(c)に示された共振状態形成用格子点12Aが深さd
1(80%)を有する例に対応する。また、曲線A上の点A
1・A
2は、2つの隣り合う偶モード共振点・奇モード共振点を表す。同様に、曲線B上の点B
1・B
2は、2つの隣り合う偶モード共振点・奇モード共振点を表し、曲線C上の点C
1・C
2は、2つの隣り合う偶モード共振点・奇モード共振点を表す。
【0084】
図23および
図24に示すように、非対称(非貫通孔)構造を導入することによって、矢印AP
3およびAP
1に示すように、偶モード共振点は、シフト方向A
1→B
1→C
1に示すように、相対的に大きく低周波数側にシフトしている。一方、奇モード共振点は、シフト方向A
2→B
2→C
2に示すように、シフト量は相対的に小さい。
【0085】
図23および
図24に示すように、非対称(非貫通孔)構造を導入することによって、偶モードのテラヘルツ波捕獲効果で決まるQ値Q
cを低減することができ、結果として吸収率の周波数特性上、広帯域化を図ることができる。
【0086】
(共振点を近付けるための孔の直径Dの調整)
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1に適用可能なフォトニック結晶スラブ12の共振状態形成用格子点12Aの断面の模式図であり、直径D
1(=0.3a)を有する例は
図25(a)に示すように表され、直径D
2(=0.35a)を有する例は
図25(b)に示すように表され、直径D
3(=0.40a)を有する例は
図25(c)に示すように表される。ここで、aは共振状態形成用格子点12Aの周期(格子定数)である。
【0087】
また、第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1における透過率(%)の周波数特性例は、
図26に示すように表される。
図26において、曲線Sは、
図25(a)に示された共振状態形成用格子点12Aが直径D
1(=0.3a)を有する例、曲線Tは、
図25(b)に示された共振状態形成用格子点12Aが直径D
2(=0.35a)を有する例、曲線Uは、
図25(c)に示された共振状態形成用格子点12Aが直径D
3(=0.40a)を有する例に対応する。
【0088】
図25および
図26に示すように、共振状態形成用格子点12Aの直径Dを調整して、D
1→D
2→D
3と相対的に大きく設定することによって、曲線S→T→Uに示されるように、偶モード共振点と奇モード共振点の2つの共振点を相対的に近付けることができ、結果として吸収率の周波数特性上、広帯域化を図ることができる。
【0089】
(テラヘルツ波捕獲効果で決まるQ値Q
cの低減化および共振点を近付けるための孔の直径Dの調整構造)
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1における透過率の周波数特性例は、
図27に示すように表される。
【0090】
図27において、曲線Jは、
図15に示された貫通孔を有する例に対応する。
【0091】
一方、曲線Kは、共振状態形成用格子点12Aの孔の深さHを調整して非対称構造の非貫通孔を導入することで、テラヘルツ波捕獲効果で決まるQ値Q
cの低減化により広帯域化を図った例である。
【0092】
さらに、曲線Lは、共振状態形成用格子点12Aの孔の直径Dを調整して2つの隣接する共振点を近付けて、広帯域化を図った例である。
【0093】
図27において、矢印JP
3は、曲線J→曲線Kへのシフトを表し、矢印JP
2は、曲線K→曲線Lへのシフトを表す。
【0094】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1においては、曲線J→曲線Kへのシフトによって、相対的に低周波側にピークシフトが見られるが、テラヘルツ波捕獲効果で決まるQ値Q
cの低減化により、広帯域化を図ると共に吸収率を相対的に高くすることができる。
【0095】
また、第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1においては、曲線K→曲線Lへのシフトによって、相対的に高周波側にピークシフトが見られ、2つの隣接する共振点を近付けて、広帯域化を図ることによって、広帯域で相対的に高い吸収率を得ることができる。特に、曲線Lでは、約0.31THz−約0.33THzの広い帯域幅fwにおいて、約90%以上の高い吸収率が得られている。
【0096】
(材料吸収の最適化)
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1においては、フォトニック結晶スラブ12の材料基板に適切なドーズ量の不純物をドーピングすることによって、材料吸収の最適化、キャリア密度の最適化を図ることができる。
【0097】
捕獲効果と整合がとれた材料吸収を導入するためにキャリア密度を変化させたフォトニック結晶スラブ12Dを有する第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1の模式的鳥瞰構成は、
図28(a)に示すように表され、シミュレーションで材料の誘電率虚部を最適化し、ドルーデモデル(Drude Model)を用いて得られた吸収率(%)とキャリア密度N(cm
-3)との関係は、
図28(b)に示すように表される。
図28(b)は、キャリア密度N(cm
-3)からドルーデモデルによって算出した複素誘電率を用い、周波数0.3THzで共振効果を持つフォトニック結晶の吸収率のシミュレーションを行った結果である。
【0098】
図28(b)に示すように、キャリア密度Nが約2×10
15cm
-3で吸収率が最大となった。この条件では、材料の吸収効果(intrinsic material absorption)で決まるQ値Q
aと、フォトニック結晶スラブ12Dの構造のテラヘルツ波捕獲効果で決まるQ値Q
cの整合がとれ、フォトニック結晶スラブ12Dによって捕獲されたテラヘルツ波が、半導体(ここではSi)中の自由キャリア吸収と効果的に相互作用し、吸収率が最大化されている。
【0099】
(作製したサンプル)
得られた設計をもとに、キャリア密度N=2×10
15(cm
-3)のシリコンウェハをフォトリソグラフィー、プラズマエッチングで加工し、第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体のサンプルを作製した。
【0100】
作製した第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1のサンプルの表面チップの光学顕微鏡写真例は、
図29に示すように表される。また、第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1の模式的鳥瞰構成および対応した表面SEM写真例および端面SEM写真例は、
図30に示すように表される。
【0101】
(吸収率、透過率、反射率の割合)
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1において、THzTDSで透過率TRと反射率REを測定し、吸収率AB=1−(TR+RE)で得られた吸収率AB、透過率TR、反射率REの割合(%)と周波数f(THz)の関係は、
図31に示すように表される。
【0102】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1においては、
図31に示すように、最大吸収率約96%、90%吸収帯域約19GHz、半値全幅(FWHM:Full-Width Half-Maximum)約0.1THzの特性が得られている。
【0103】
(他の周波数帯域への拡張)
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1において、捕獲効果を得るために波長に応じてスケーリングし、他の周波数帯域への拡張可能性を説明する相対的な模式的鳥瞰構成であって、電波を対象とした例は、
図32(a)に示すように表され、テラヘルツ帯を対象とした例は、
図32(b)に示すように表され、光波領域を対象とした例は、
図32(c)に示すように表される。
図32(a)〜
図32(c)の各図において、共振状態形成用格子点12Aの周期が媒質内波長程度に等しい。
【0104】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体は、フォトニック結晶のスケーリング則と半導体のドーピング技術を用いることで、約100MHz〜約100THzまでの電磁波に対応可能である。
【0105】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1において、フォトニック結晶スラブ12に対して吸収効果を得るために不純物ドーピングして得られるキャリア密度N(cm
-3)と周波数f(THz)との関係(ドルーデモデルを用いて得られた理論解析結果)は、
図33に示すように表される。同じ誘電率虚部が得られるように、ドーピングされるキャリア密度N(cm
-3)を調節している。
【0106】
(ドルーデモデル)
キャリアドーピングによる吸収を記述するドルーデモデルに関して、複素誘電率ε(ω)の周波数分散関係は、次式で表される。すなわち、
ε(ω)=ε
r∞[1−ω
p2/(ω
2+iωτ)]=ε
1(ω)−iε
2(ω) (1)
ここで、ω
pはプラズマ周波数、τは緩和時間、ε
r∞は光領域(高周波)での誘電率、ε
1(ω)は誘電率実部、ε
2(ω)は誘電率虚部を表す。
【0107】
プラズマ周波数ω
pと緩和時間τは、自由キャリアのキャリア密度Nによって決まり、次式で表される。すなわち、
τ(N)=μ(N)×m
*/q (2)
ω(N)=[Nq
2/(ε
r∞ε
0m
*)]
1/2 (3)
ここで、μはキャリアの移動度、m
*は有効質量、qは素電荷、Nはキャリア密度、ε
0は真空での誘電率を表す。
【0108】
複素誘電率ε(ω)=ε
1(ω)−iε
2(ω)を用いて、複素屈折率nは、次式で求めることができる。すなわち、
n=[{ε
1+(ε
12+ε
22)
1/2}/2]
1/2−i[{−ε
1+(ε
12+ε
22)
1/2}/2]
1/2=n
r−iκ
(4)
ここで、n
rは屈折率実部、κは屈折率虚部(消衰係数)を表す。
【0109】
(キャリア密度と消衰係数)
材料による吸収損失を表すのは消衰係数(複素屈折率の虚部)κである。角周波数ωで振動し、z方向に伝播する電磁波の電界強度Eは、振幅E
0、複素屈折率n、光速cを用いて、
E=E
0exp[iω(t−n/c・z)]=E
0exp[−ωκ/c・z]・exp[iω(t−n
r/c・z)] (5)
で表される。ここで、exp[−ωκ/c・z]は減衰項を表す。
【0110】
ドルーデモデルのパラメータはキャリア密度Nに依存する。したがって、キャリア密度Nの値を変化させることによって、消衰係数κを調節することができる。
【0111】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1において、キャリア密度N(cm
-3)と消衰係数κとの関係のドルーデモデルを用いて得られた理論解析結果は
図34に示すように表される。
図34においては、フォトニック結晶スラブ12Dとしてシリコンを適用し、共振周波数は、0.3THzとしている。
図34に示すように、キャリア密度Nを増加すると、消衰係数κが上昇する。したがって、フォトニック結晶スラブ12Dへの不純物ドーピングによって、半導体材料に吸収損失を導入することができる。
【0112】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1においては、材料の吸収効果で決まるQ値Q
aと、フォトニック結晶スラブ12Dの構造、すなわち、テラヘルツ波捕獲効果で決まるQ値Q
cの整合がとれ、フォトニック結晶スラブ12Dによって捕獲されたテラヘルツ波が、半導体(ここではSi)中の自由キャリア吸収と効果的に相互作用し、吸収率が最大化可能である。
【0113】
(共振周波数における共振とキャリア吸収効果)
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1において、キャリア吸収効果の無い場合における入射波に対する反射率REおよび透過率TRの割合(%)と周波数f(THz)の関係は、
図35(a)に示すように表される。一方、フォトニック結晶スラブ材料に不純物ドーピングし、キャリア吸収効果を導入した場合における入射波に対する反射率RE、透過率TR、および吸収率ABの割合(%)と周波数f(THz)の関係は、
図35(b)に示すように表される。
【0114】
フォトニック結晶スラブ材料に不純物ドーピングし、キャリア吸収効果を導入すると、
図35(b)の吸収率ABの曲線で示されるように、共振周波数において、吸収率のピークが現われている。
【0115】
(捕獲効果とキャリア吸収効果)
バルク結晶基板(PC構造なし)12Bにテラヘルツ波hνを入射する比較例は
図36(a)に示すように表され、フォトニック結晶スラブ12にテラヘルツ波hνを入射する実施例は
図36(b)に示すように表される。
【0116】
バルク結晶基板(PC構造なし)12Bにテラヘルツ波を入射した場合、
図36(c)に示すように入射電磁波I
Iがバルク結晶基板(PC構造なし)12Bを透過し、透過電磁波I
Tが観測される。この場合、捕獲効果・キャリア吸収効果ともに存在しない。
【0117】
フォトニック結晶スラブ12にテラヘルツ波を入射した場合、
図36(d)に示すように、入射電磁波I
Iがフォトニック結晶スラブ12に捕獲されるが、キャリア吸収効果は存在しないため、透過電磁波I
Tが観測される。
【0118】
不純物ドーピングし、キャリア吸収効果を導入したバルク結晶基板(PC構造なし)にテラヘルツ波を入射した場合、
図36(e)に示すように、入射電磁波I
Iのキャリア吸収効果は存在するが、捕獲効果は存在しないため、透過電磁波I
Tが観測される。
【0119】
不純物ドーピングし、キャリア吸収効果を導入したフォトニック結晶スラブにテラヘルツ波を入射した場合、
図36(f)に示すように、入射電磁波I
Iがフォトニック結晶スラブ12に捕獲され、かつキャリア吸収効果も存在するため、透過電磁波I
Tは観測されない。また、反射電磁波I
Rも観測されない。
【0120】
(最適な吸収効果)
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体において、最適な吸収効果を得るための説明図であって、消衰係数κ=0.001の場合の吸収率AB(%)と周波数f(THz)との関係は、
図37(a)に示すように表され、消衰係数κ=0.01の場合の吸収率AB(%)と周波数f(THz)との関係は、
図37(b)に示すように表され、消衰係数κ=0.1の場合の吸収率AB(%)と周波数f(THz)との関係は、
図37(c)に示すように表される。
【0121】
消衰係数κ=0.001の場合には、フォトニック結晶スラブ12のキャリア密度Nが相対的に低いため、自由キャリアの数が相対的に少ない。このため、吸収率AB(%)のピーク値は相対的に小さい。
【0122】
一方、消衰係数κ=0.01の場合には、フォトニック結晶スラブ12のキャリア密度Nが適正値に近付くため、自由キャリアの数も適正量となる。このため、吸収率AB(%)のピーク値は相対的に高くなる。
【0123】
さらに、消衰係数κ=0.1の場合には、フォトニック結晶スラブ12のキャリア密度Nが相対的に高くなるため、自由キャリアの数が相対的に多くなりすぎて、フォトニック結晶スラブ12が金属的になる。このため、反射成分が増大し、吸収率AB(%)のピーク値はなだらかな形状となり、かつ相対的に低下する。
【0124】
フォトニック結晶スラブ12のキャリア密度Nを変化させて消衰係数κの値を変化させた場合、吸収率AB(%)のピーク値には、最適値が存在する。
【0125】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1において、吸収率AB(%)と屈折率虚部(消衰係数κ)との関係の理論解析結果は、
図38に示すように表される。
図38に示すように、吸収率AB(%)のピーク値を得るためには、屈折率虚部(消衰係数κ)には、最適値が存在し、消衰係数κが約0.008近傍において、単一共振点では最大吸収率50%程度が得られる。
【0126】
(高吸収率化および広帯域化を実現する方法)
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体において、高吸収率化および広帯域化を実現する方法の説明図であって、共振状態形成用格子点に上下対称の貫通孔を備えるフォトニック結晶スラブの吸収スペクトルS1・S2は、模式的に
図39(a)に示すように表される。
【0127】
一方、共振状態形成用格子点に上下非対称の非貫通孔を備え、かつ孔の直径Dを大きくしてフォトニック結晶の共振のQ値(テラヘルツ波捕獲効果で決まるQ値Q
c)を下げたフォトニック結晶スラブの吸収スペクトルS1・S2は、模式的に
図39(b)に示すように表される。
【0128】
さらに、フォトニック結晶スラブ12の厚さTH、共振状態形成用格子点12Aの周期(格子定数a)、孔の直径D、孔の深さdを総合的に調節して隣り合う共振点を近付けたフォトニック結晶スラブ12の吸収スペクトルは、模式的に
図39(c)に示すように、吸収スペクトルS1・S2が重なり合った吸収スペクトルS1+S2で表される。
【0129】
さらにフォトニック結晶スラブ12にドーピングされるキャリア密度Nを最適化し、屈折率虚部(消衰係数κ)の最適化を実施することによって、
図31に示したように、最大吸収率約96%、90%吸収帯域約19GHz、半値帯域0.1THzを有するフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体が得られている。
【0130】
すなわち、第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1においては、共振状態形成用格子点12Aに非対称構造を導入し、かつ隣り合う共振点を近付けるか若しくは一致させ、かつフォトニック結晶スラブ12に対してドーピングされるキャリア密度Nを最適化し、屈折率虚部(消衰係数κ)の最適化を実施することによって、
図27および
図31に示したように、吸収率50%を超える高い吸収率を広帯域で得ることができる。
【0131】
(他の周波数帯域への展開方法:自由キャリア効果)
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1において、他の周波数帯域への展開方法を説明する図であって、キャリア密度Nをパラメータとする消衰係数κと周波数f(THz)との関係の理論解析結果は、
図40に示すように表される。
【0132】
周波数f(THz)が変化すると、同じキャリア密度N(cm
-3)で得られる消衰係数κの値が変化する。したがって、他の周波数で同じ屈折率虚部(消衰係数κ
I)を得るためには、
図40に示すように、キャリア密度Nを変更する必要がある。
【0133】
(他の周波数帯域への展開方法:捕獲効果)
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1において、他の周波数帯域への展開方法を説明する図であって、フォトニック結晶スラブ12の共振状態形成用格子点12Aの模式的平面パターン構成は、
図41(a)に示すように表され、
図41(a)のII−II線に沿う模式的断面構造は、
図41(b)に示すように表される。
図41(a)および
図41(b)には、共振状態形成用格子点12Aに非貫通孔を有する例が示されている。
図41(a)および
図41(b)に示された構成例では、共振状態形成用格子点12Aの直径Dは0.78a、フォトニック結晶スラブ12の厚さTHは0.4a、共振状態形成用格子点12Aの深さdは0.34aに等しい。
【0134】
格子定数aに対して、
図41(a)および
図41(b)に示すように、共振状態形成用格子点12Aの直径D・フォトニック結晶スラブ12の厚さTH・共振状態形成用格子点12Aの深さdの比率が設定される場合には、スケール則が適用可能であることから、他の周波数帯域においても同様の特性を得ることができる。
【0135】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1において、他の周波数帯域への展開方法を説明する図であって、格子定数a(μm)と周波数f(THz)との関係の理論解析結果は、
図42に示すように表される。
図42においては、数値例として、格子定数a=500μmにおいて、周波数f=0.3(THz)が得られる。
【0136】
(テラヘルツ時間領域分光システム)
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1の評価システム構成であって、テラヘルツ時間領域分光システム(THzTDS)は、
図43に示すように、パルスレーザ20と、ビームスプリッタ26と、複数のミラー21と、テラヘルツパルスエミッタ22と、複数の放物面鏡23と、遅延ステージ28と、ディテクタ24とを備える。
【0137】
パルスレーザ20からのレーザ光は、ビームスプリッタ26において、検出パルスP
Dと励起パルスP
Eに分かれる。
【0138】
励起パルスP
Eはミラー21を介してテラヘルツパルスエミッタ22を励起する。
【0139】
テラヘルツパルスエミッタ22より放出されたテラヘルツ波は、複数の放物面鏡23を介して反射され、フォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1に入射される。
【0140】
フォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1を透過したテラヘルツ波は、複数の放物面鏡23を介して反射され、ディテクタ24に到達する。
【0141】
検出パルスP
Dは、遅延ステージ28に入力される。
【0142】
遅延された検出パルスP
Dは、複数のミラー21を介して反射され、ディテクタ24に到達する。
【0143】
遅延ステージ28の移動に伴って少しずつ検出パルスP
Dと励起パルスP
Eが出会うタイミングが遅くなる。検出パルスP
Dと励起パルスP
Eが出会った時の強度に応じて流れる電流をディテクタ24により検出し、透過波の時間波形を得る。
【0144】
得られた時間波形をフーリエ解析し、透過スペクトルを得る。
【0145】
(高周波金属配線回路)
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1は、高周波金属配線回路2に適用可能である。
【0146】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1を適用した高周波金属配線回路2の模式的鳥瞰構成は、
図44(a)に示すように表され、第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1上に金属配線50を配置した積層構造の模式的断面構造は、
図44(b)に示すように表される。
【0147】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1を高周波金属配線回路2の基板に用いることで、回路中で発生する不要モード(放射)の抑制が可能である。
【0148】
(電子部品)
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1は、様々な電子部品に適用可能である。第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1は、例えば、薄型・平面型のテラヘルツ波電磁波吸収体、フレキシブルに設計可能なテラヘルツ波フィルタ、テラヘルツ波変調器、テラヘルツ波遅延線、テラヘルツ波集積回路への入出力インタフェース、高感度テラヘルツ波検出器などに適用可能である。
【0149】
(共振状態形成用格子点の周期構造とバンド構造)
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1に適用可能な2次元フォトニック結晶スラブ12の共振状態形成用格子点12Aの周期構造であって、正方格子・三角格子・長方格子・菱型格子(面心長方格子)の配置例は、
図45(a)・
図46(a)・
図47(a)・
図48(a)に示すように模式的に表され、対応する2次元フォトニック結晶スラブ12のバンド構造は、
図45(b)・
図46(b)・
図47(b)・
図48(b)に示すように表される。
【0150】
共振状態形成用格子点12Aは、正方格子、長方格子、面心長方格子、若しくは三角格子のいずれかに配置されていても良い。
【0151】
また、共振状態形成用格子点12Aは、正方格子若しくは長方格子に配置され、かつフォトニック結晶スラブ12のフォトニックバンド構造におけるΓ点、X点、若しくはM点における電磁波をフォトニック結晶スラブ面内で共振可能である。
【0152】
また、共振状態形成用格子点12Aは、面心長方格子若しくは三角格子に配置され、かつフォトニック結晶スラブ12のフォトニックバンド構造におけるΓ点、X点、若しくはJ点における電磁波をフォトニック結晶スラブ面内で共振可能である。
【0153】
また、共振状態形成用格子点12Aは、多角形、円形、楕円形若しくは長円形のいずれかの孔形状を備えていても良い。
【0154】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体によれば、フォトニック結晶の電磁波捕獲効果を用いることで、加工が容易な薄型・平面電磁波吸収体を提供することができる。
【0155】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体によれば、共振モードのQ値を下げ、共振周波数を近付けるか若しくは一致させることで、90%以上の吸収率をもつ電磁波吸収体を広帯域で提供することができる。
【0156】
第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体は、フォトニック結晶のスケーリング則と半導体のドーピング技術を用いることで、約100MHz〜約100THzまでの電磁波に対応可能である。
【0157】
第1の実施の形態によれば、捕獲・吸収効果の高く、加工が容易な薄型・平面型のフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体およびそのフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体を適用した高周波金属配線回路、電子部品を提供することができる。
【0158】
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体であって、2次元フォトニック結晶スラブ12Dの裏側に反射鏡30を導入したフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3における捕獲・吸収効果を説明する模式図は、
図49に示すように表される。
【0159】
図49に示すように、第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3においても第1の実施の形態と同様に、入射された電磁波I
Iは、2次元フォトニック結晶スラブ12Dの面内で共振され、捕獲される。また、入射された電磁波I
Iは、2次元フォトニック結晶スラブ12Dの材料によって吸収される。すなわち、第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3においても、捕獲+吸収の相乗効果によって、吸収性能を増大可能である。
【0160】
さらに、第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3は、
図49に示すように、2次元フォトニック結晶スラブ12Dの裏側に反射鏡30を導入することによって、透過された電磁波I
Tを反射している。この反射された電磁波I
RRは、2次元フォトニック結晶スラブ12Dの裏面に入射され、捕獲+吸収の相乗効果によって吸収される。この結果、反射電磁波I
RRTは、入射された電磁波I
Iの例えば、約0.014%以下の強度となる。すなわち、第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3においては、捕獲+吸収+捕獲+吸収の相乗効果によって、さらに吸収性能を増大可能である。
【0161】
第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体であって、2次元フォトニック結晶スラブ12Dの裏側に、スペーサ32を介して、反射鏡30を導入したフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3の模式的鳥瞰構成および表面電子顕微鏡写真例および端面電子顕微鏡写真例は、
図50に示すように表される。
図50に示された表面電子顕微鏡写真例および端面電子顕微鏡写真例は、
図30に示された第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1と同様である。また、第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3における2次元フォトニック結晶スラブ12Dも第1の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体1における2次元フォトニック結晶スラブ12Dの構成と同様の構成が適用可能である。このため、重複説明は省略する。
【0162】
第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3は、
図49および
図50に示すように、半導体材料からなる2次元フォトニック結晶スラブ12Dと、2次元フォトニック結晶スラブ12D内に周期的に配置され、2次元フォトニック結晶スラブ12Dのフォトニックバンド構造のバンド端における電磁波を、2次元フォトニック結晶スラブ12Dの面内で共振させることで、外部から入射された電磁波I
Iを捕獲可能な共振状態形成用格子点12Aと、2次元フォトニック結晶スラブ12Dの裏面に平行に配置され、2次元フォトニック結晶スラブ12Dを透過した電磁波I
Tを反射する反射鏡30とを備える。ここで、2次元フォトニック結晶スラブ12Dは、不純物ドーピングされ、捕獲された電磁波をバンド端の共振周波数において吸収可能である。また、反射された電磁波I
RRは、2次元フォトニック結晶スラブ12Dの裏面に入射可能である。
【0163】
反射鏡30は、金属板、金属薄膜を形成した基板、誘電体多層膜、フォトニック結晶のいずれかで形成可能である。
【0164】
また、2次元フォトニック結晶スラブ12Dと反射鏡30は、離隔して配置される。
【0165】
2次元フォトニック結晶スラブ12Dと反射鏡30との間の離隔距離Sには最適値SAが存在し、このSAの値としては、例えば、電磁波の波長に対して、例えば、波長/4プラスマイナス波長/8に等しいことが望ましい。
【0166】
第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3において、2次元フォトニック結晶スラブ12Dの裏側に反射鏡30を導入した結果、フォトニック結晶由来の面内共振モード(偶モードおよび奇モード)に加え、反射鏡とフォトニック結晶に由来する第3のファブリーペロー共振モードが導入され、吸収率および吸収帯域が増大する。ここで、吸収スペクトルの変化する様子を説明する。
【0167】
初期状態のスペクトル強度分布は
図51(a)に示すように表される。初期状態では、偶モードの共振スペクトルSP1と奇モードの共振スペクトルSP2が存在する。
【0168】
次に、共振状態形成用格子点12Aの孔の径寸法を最適化した状態のスペクトル強度分布は
図51(b)に示すように表される。共振状態形成用格子点12Aの孔の径寸法を最適化することによって、偶モードの共振スペクトルSP1および奇モードの共振スペクトルSP2の帯域は広帯域化される。
【0169】
さらに、2次元フォトニック結晶スラブ12Dの厚さを最適化した状態のスペクトル強度分布は
図51(c)に示すように表される。2次元フォトニック結晶スラブ12Dの厚さを最適化することによって、偶モードと奇モードの共振点を近付けて、偶モードの共振スペクトルSP1と奇モードの共振スペクトルSP2とを重ね合わせ、広帯域化を図ることができる。
【0170】
さらに、2次元フォトニック結晶スラブ12Dの裏側に反射鏡30を導入した結果のスペクトル強度分布は
図51(d)に示すように表される。2次元フォトニック結晶スラブ12Dの裏側に反射鏡30を導入することによって、フォトニック結晶由来の面内共振モード(偶モード、奇モード)に加え、反射鏡30とフォトニック結晶に由来する第3のファブリーペロー共振モードが導入される。偶モードの共振スペクトルSP1と奇モードの共振スペクトルSP2に加え、第3のファブリーペロー共振モードの共振スペクトルSP3が加わることで、さらに広帯域化を図ることができる。
【0171】
第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3においては、反射鏡30と2次元フォトニック結晶スラブ12Dとの離隔距離Sを調整することによって、吸収体の性能(最高吸収率、吸収帯域)を増大させることができる。
【0172】
第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3においては、反射鏡30の反射率は高い方が望ましい。
【0173】
反射鏡30としては、金(Au)、銀(Ag)、アルミ二ウム(Al)などの金属やそれらの金属薄膜を形成したガラス、半導体、プラスチック、ポリマー等の基板、若しくはSiO
2、SiN、SiON、SiC、MgO、ZrO
2、TiO
2などからなる誘電体多層膜、さらには、例えば、多層化構成し高い反射率をもつように設計されたフォトニック結晶などを適用可能である。
【0174】
(反射鏡とフォトニック結晶の距離の調整)
第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3において、2次元フォトニック結晶スラブ12Dと反射鏡30との離隔距離Sと周波数fとの関係における吸収率の周波数f=0.3THz(波長λ=1mm)付近でのシミュレーション結果(fe:偶モード、fo:奇モード、fm:ファブリペローモード)は、
図52に示すように表される。
【0175】
2次元フォトニック結晶スラブ12Dと反射鏡30との離隔距離Sには、最適値SAが存在する。2次元フォトニック結晶スラブ12Dと反射鏡30との離隔距離Sが小さくなると、フォトニック結晶のモードが乱されてしまう。一方で離隔距離Sが大きすぎるとフォトニック結晶由来のモードとの合成ができずに、帯域や最大吸収率の増大には寄与できなくなる。よって、離隔距離Sとしては、電磁波の波長に対して、例えば、約波長/4プラスマイナス波長/8程度の大きさが望ましい。
図52において、feがフォトニック結晶由来の偶モード、foが奇モード、fmが新たに発生するファブリペローモードに対応している。離隔距離Sが100μm以上では、確かに、fe とfoは反射鏡30の影響を受けずに一定である。一方、fm は離隔距離Sで変化する。
【0176】
(実験結果1:スペクトログラム)
第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体において、捕獲効果(時間領域)とバンド端効果(周波数領域)を同時に観測するTHzTDSのスペクトログラムの比較であって、フォトニック結晶がなく、吸収が無い高抵抗スラブの例は
図53(a)に示すように表され、フォトニック結晶スラブを有し、吸収が無い高抵抗スラブの例は
図53(b)に示すように表され、フォトニック結晶スラブおよび反射鏡を有し、吸収が無い高抵抗スラブの例は
図53(c)に示すように表され、フォトニック結晶スラブがなく、吸収がある低抵抗スラブの例は
図53(d)に示すように表され、フォトニック結晶スラブを有し、吸収がある低抵抗スラブの例は
図53(e)に示すように表され、フォトニック結晶スラブおよび反射鏡を有し、吸収がある低抵抗スラブの例は
図53(f)に示すように表される。
【0177】
ここで、実験に使用した2次元フォトニック結晶スラブ12Dの共振状態形成用格子点12Aの周期は500μm、孔径は390μm、孔の深さは、170μmであり、2次元フォトニック結晶スラブ12の厚さは、190μmである。また、2次元フォトニック結晶スラブ12Dと反射鏡30との離隔距離Sは、220μmである。また、吸収有の場合の2次元フォトニック結晶スラブ12DのSi基板の抵抗率は、約6Ωcm、キャリア密度は、約1.8×10
15cm
-3である。また、吸収なしの場合の2次元フォトニック結晶スラブ12Dの基板抵抗率は、約10000Ωcmである。
【0178】
図53(a)〜
図53(f)は、反射特性の時間発展を周波数に関してプロットしたスペクトログラムに対応している。2次元フォトニック結晶スラブ12Dに吸収がない場合には、
図53(a)・
図53(b)・
図53(c)に示すように、時間的に遅れた成分がフォトニック結晶の捕獲効果により捕獲される様子が観察される。
図53(c)に示すように、反射鏡30を導入することにより、フォトニック結晶の捕獲成分が確かに増えている。
【0179】
さらに2次元フォトニック結晶スラブ12Dに吸収がある場合には、
図53(d)、
図53(e)および
図53(f)に示すように、自由キャリアによる吸収効果を導入することで捕獲効果の周波数での反射成分がなくなり、フォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3で略電磁波が吸収されていることが観測される。
【0180】
(実験結果2:吸収スペクトル)
比較例としてフォトニック結晶がないバルク結晶基板12B(PC構造なし)の場合の吸収率と周波数fとの関係は、
図54(a)に示すように表され、比較例としてフォトニック結晶スラブの場合の吸収率と周波数fとの関係は、
図54(b)に示すように表され、第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3の場合の吸収率と周波数fとの関係は、
図54(c)に示すように表される。ここで、実線はシミュレーション結果、プロットは実験結果を表している。実験に使用した2次元フォトニック結晶スラブ12Dの共振状態形成用格子点12Aの周期は例えば、約500μm、孔径は例えば、約390μm、孔の深さは例えば、約170μmであり、2次元フォトニック結晶スラブ12Dの厚さは、190μmである。また、2次元フォトニック結晶スラブ12Dと反射鏡30との離隔距離Sは例えば、約220μmである。また、2次元フォトニック結晶スラブ12DのSi基板の抵抗率は例えば、約6Ωcm、キャリア密度は例えば、約1.8×10
15cm
-3である。
【0181】
吸収率90%で比較すると、フォトニック結晶スラブの場合には、
図54(b)に示すように、帯域幅は約19GHzであるのに対して、第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3の場合には、
図54(c)に示すように、帯域幅は約50GHzとなる。さらにフォトニック結晶スラブの場合には、
図54(b)に示すように、最大吸収率は約96%である。また、90%帯域は中心周波数の約6.3%である。これに対して、第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3の場合には、
図54(c)に示すように、最大吸収率は約99.9%である。90%帯域も中心周波数の約16.7%と拡大している。すなわち、フォトニック結晶と反射鏡をともに備える第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3の場合が、吸収率も高く、帯域も広い。
【0182】
第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体によれば、フォトニック結晶スラブの裏面に反射鏡を導入し、反射鏡とフォトニック結晶との距離を調整することにより、吸収率および吸収帯域の増大が可能である。
【0183】
(実験結果3:近接無線通信システム)
比較例としての送信器100Aと受信器200A間の近接無線通信システム4Aの模式的鳥瞰構成は、
図55(a)に示すように表され、第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3を適用した送信器100と受信器200間の近接無線通信システム4の模式的鳥瞰構成は、
図55(b)に示すように表される。
【0184】
また、第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体を適用した送信器100と受信器200間の近接無線通信システム4の模式的ブロック構成は、
図56に示すように表される。2次元フォトニック結晶スラブ12D(1)・12D(2)には、共振状態形成用格子点12Aが配置されている。送信用アンテナ106Aを介して送信される電磁波I(T)は、受信用アンテナ108Aを介して電磁波I(R)として受信される。
【0185】
比較例としての送信器100Aは、
図55(a)に示すように、金属板30Aと、金属板30Aの中央部を貫通して配置された送信用アンテナ106Aとを備える。また、比較例としての受信器200Aは、
図55(a)に示すように、金属板30Bと、金属板30Bの中央部を貫通して配置された受信用アンテナ108Aとを備える。
【0186】
ここで、送信用アンテナ106A、受信用アンテナ108Aとしては、実験の都合上、ホーンアンテナを使用したが、ホーンアンテナ以外にも平面アンテナを含む一般のアンテナも適用可能である。例えば、スロットアンテナ、パッチアンテナ、ダイポールアンテナ、モノポールアンテナ、ボータイアンテナ、八木宇田アンテナ、スパイラルアンテナ、ループアンテナ、アレイアンテナ、フェーズドアレイアンテナ、パラボラアンテナ、レンズアンテナ等が適用可能である。
【0187】
比較例としての送信器100Aと受信器200A間の近接無線通信システム4Aにおいては、
図55(a)に示すように、送信器100Aと受信器200Aの間に定在波STWが発生する。例えば、受信器200Aの位置が定在波STWの節に来ると、受信パワーが弱くなることで品質の良い通信ができなくなってしまう。
【0188】
第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体を適用した送信器100は、
図55(b)および
図56に示すように、第1フォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3
1と、第1フォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3
1を貫通して配置された送信用アンテナ106とを備える。ここで、第1フォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3
1は、半導体材料からなる2次元フォトニック結晶スラブ12D(1)と、2次元フォトニック結晶スラブ12D(1)内に周期的に配置され、2次元フォトニック結晶スラブ12D(1)のフォトニックバンド構造のバンド端における電磁波を、2次元フォトニック結晶スラブ12D(1)の面内で共振させることで、外部から入射された電磁波を捕獲可能な共振状態形成用格子点12Aと、2次元フォトニック結晶スラブ12D(1)の裏面に平行に配置され、2次元フォトニック結晶スラブ12D(1)を透過した電磁波を反射する反射鏡30
1とを備える。ここで、2次元フォトニック結晶スラブ12D(1)は、不純物ドーピングされ、捕獲された電磁波をバンド端の共振周波数において吸収可能である。また、反射された電磁波は、2次元フォトニック結晶スラブ12D(1)の裏面に入射可能である。
【0189】
第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体を適用した受信器200は、
図55(b)および
図56に示すように、第2フォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3
2と、第2フォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3
2を貫通して配置された受信用アンテナ108とを備える。ここで、第2フォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3
2は、半導体材料からなる2次元フォトニック結晶スラブ12D(2)と、2次元フォトニック結晶スラブ12D(2)内に周期的に配置され、2次元フォトニック結晶スラブ12D(2)のフォトニックバンド構造のバンド端における電磁波を、2次元フォトニック結晶スラブ12D(2)の面内で共振させることで、外部から入射された電磁波を捕獲可能な共振状態形成用格子点12Aと、2次元フォトニック結晶スラブ12D(2)の裏面に平行に配置され、2次元フォトニック結晶スラブ12D(2)を透過した電磁波を反射する反射鏡30
2とを備える。ここで、2次元フォトニック結晶スラブ12D(2)は、不純物ドーピングされ、捕獲された電磁波をバンド端の共振周波数において吸収可能である。また、反射された電磁波は、2次元フォトニック結晶スラブ12Dの裏面(2)に入射可能である。
【0190】
第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3を適用した送信器100と受信器200間の近接無線通信システム4においては、
図55(b)および
図56に示すように、送信器100と受信器200の間に定在波の発生する現象は観測されない。
【0191】
第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体を適用した近接無線通信システム4においては、送信用アンテナ106Aを介して送信される電磁波I(T)は、定在波の影響を殆んど受けることなく、受信用アンテナ108Aを介して電磁波I(R)として受信可能である。
【0192】
本実験では、送信器100Aおよび受信器200A表面が金属の筐体(金属板30A・30B)となる場合を模擬した比較例(
図55(a))と、第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3を金属表面に付加した場合を比較することで、吸収体の効果で定在波が低減され、結果として、通信が安定することを実験系(
図56)で実証した。
【0193】
第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体を適用した送信器100と受信器200間の近接無線通信システム4においては、
図56に示すように、送信器100と受信器200は、互いに対向して配置される。送信器100と受信器200との間のアンテナ間隔SANは、例えば、約30mm〜約33mmの範囲で可変である。
【0194】
また、第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体を適用した近接無線通信システム4は、
図56に示すように、信号発生器42と、パルスパターン発生器40と、信号発生器42およびパルスパターン発生器40の出力を混合するミキサ38と、ミキサ38の出力信号を増幅する増幅器36と、増幅器36の出力信号を逓倍する9逓倍器34を備えていても良い。ここで、9逓倍器34の出力信号は、電磁波I(T)として、送信用アンテナ106を介して送信される。
【0195】
また、第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体を適用した近接無線通信システム4は、受信用アンテナ108を介して受信された電磁波I(R)を検波するショットキーバリアダイオード検出器44と、ショットキーバリアダイオード検出器44に接続され、受信信号を増幅する信号増幅器44と、信号増幅器44に接続され、信号増幅器44において増幅された受信信号を制限する波形整形増幅器48と、波形整形増幅器48に接続され、ビット誤り率を測定するビット誤り計測器52とを備えていても良い。
【0196】
第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3を適用した近接無線通信システム4において、送信器100と受信器200との間のアンテナ間隔SANに対するビット誤り率の関係は、
図57に示すように表される。ここで、曲線Aは、
図55(a)に対応する比較例として送信用アンテナ106・受信用アンテナ108と金属の筐体(反射鏡30
1・30
2)のみの場合である。一方、曲線Bは、
図55(b)および
図56に対応する第2の実施の形態として送信用アンテナ106・受信用アンテナ108と金属の筐体(反射鏡30
1・30
2)+2次元フォトニック結晶スラブ12D(1)・12D(2)の構成の場合である。
【0197】
比較例として金属筐体を模擬した場合には、
図57に示すように、アンテナ間隔SANが、0.5mm、すなわち半波長ごとにビット誤り率が大きくなっている。これは定在波の影響を表している。一方、2次元フォトニック結晶スラブ12D(1)・12D(2)を導入した場合には、アンテナ間隔SANを変化させてもビット誤り率の変化は見られず、吸収体の効果で定在波が低減されている。すなわち、第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3の有効性が、実システムで示された。
【0198】
第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3も、第1の実施の形態と同様に、高周波金属配線回路2に適用可能である。第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3を高周波金属配線回路2の基板に用いることで、回路中で発生する不要モード(放射)の抑制が可能である。
【0199】
第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3も、第1の実施の形態と同様に、様々な電子部品に適用可能である。第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3は、例えば、薄型・平面型のテラヘルツ波電磁波吸収体、フレキシブルに設計可能なテラヘルツ波フィルタ、テラヘルツ波変調器、テラヘルツ波遅延線、テラヘルツ波集積回路への入出力インタフェース、高感度テラヘルツ波検出器などに適用可能である。
【0200】
第2の実施の形態に係るフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体3に適用可能な2次元フォトニック結晶スラブ12Dの共振状態形成用格子点12Aの周期構造は、第1の実施の形態と同様に表される。すなわち、正方格子・三角格子・長方格子・菱型格子(面心長方格子)の配置例は、
図45(a)・
図46(a)・
図47(a)・
図48(a)と同様に表され、対応する2次元フォトニック結晶スラブ12のバンド構造は、
図45(b)・
図46(b)・
図47(b)・
図48(b)と同様に表される。
【0201】
共振状態形成用格子点12Aは、正方格子、長方格子、面心長方格子、若しくは三角格子のいずれかに配置されていても良い。
【0202】
また、共振状態形成用格子点12Aは、正方格子若しくは長方格子に配置され、かつフォトニック結晶スラブ12のフォトニックバンド構造におけるΓ点、X点、若しくはM点における電磁波をフォトニック結晶スラブ面内で共振可能である。
【0203】
また、共振状態形成用格子点12Aは、面心長方格子若しくは三角格子に配置され、かつフォトニック結晶スラブ12のフォトニックバンド構造におけるΓ点、X点、若しくはJ点における電磁波をフォトニック結晶スラブ面内で共振可能である。
【0204】
また、共振状態形成用格子点12Aは、多角形、円形、楕円形若しくは長円形のいずれかの孔形状を備えていても良い。
【0205】
以上説明したように、本発明によれば、捕獲・吸収効果の高く、加工が容易な薄型・平面型のフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体およびそのフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体を適用した高周波金属配線回路、電子部品を提供することができる。
【0206】
また、本発明によれば、フォトニック結晶スラブ電磁波吸収体に反射鏡を導入し、反射鏡とフォトニック結晶との距離を調整することにより、吸収率および吸収帯域の増大が可能なフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体を提供することができる。
【0207】
また、本発明によれば、反射鏡を導入したフォトニック結晶スラブ電磁波吸収体を適用した送信器、受信器および近接無線通信システムを提供することができる。
【0208】
[その他の実施の形態]
上記のように、本発明は実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0209】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態などを含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。