【実施例】
【0120】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。しかしながら、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は物質量基準である。なお、物質量とは、純粋な化合物の質量を分子量で除した数である。
【0121】
<実施例1>
(実施例1−1)−触媒前駆体の合成−
下記手法に従い、一般式(1)で表される触媒前駆体を合成した。
【0122】
〔(1−1−1)ビシクロ[3.3.1]ノナジエン(配位子)の原料であるジケトンの合成と速度論的分割〕
1−1−1a)Meerwein's esterの合成
以下に示す反応により、Meerwein's Esterを合成した。
【0123】
【化17】
【0124】
この合成は、C. J. Wallentin, E. Orentas, E. Butkus, and K. Warnmark,Synthesis, 2009, 5, 864.に従って行った。以下、詳細を説明する。
【0125】
2Lのナスフラスコに、マロン酸ジメチル460.0ml〔4.025mol〕、ベンゼン700ml、パラホルムアルデヒド96.9g(95%)〔3.07mol〕、ピペリジン8.0mlを加え、撹拌し、dean−sterk管およびジムロート冷却管を取り付け、マントルヒーターで加熱、22時間還流を行い、反応させた。水は約53mlトラップされた(理論値54.4ml,97%)。
【0126】
反応後、エバポレーターによりベンゼンを留去したところ、淡黄色のオイルが約600ml得られた。
2Lナスフラスコにメタノール800mlを入れ、金属ナトリウム65.4gを加えて、ナトリウムメトキシド−メタノール溶液を調製した。ここからメタノール300mlを分けとり、この溶液に先の淡黄色のオイルを加えた。加えて暫く後、溶液全体が固化したため、固体を砕きながら還流を開始した。固体は30分ほどで完全に溶解した。
7時間還流後、2時間氷冷し、エーテル400mlを加え、室温で一晩放置した。
その後、吸引ろ過を行い、固体をメタノール/エーテル1:1(体積比)を用いて洗浄したところ、白色〜淡黄色の固体が得られた。得られた固体を風乾した後、得られた淡黄色固体を2Lナスフラスコに入れ、蒸留水1280mlを加え、撹拌した。ナスフラスコに塩酸を添加して、混合物をpH4〜5にした。目的物が白色沈殿として沈殿したため、吸引ろ過を行い、白色固体として目的物であるMeerwein's Esterを187g(収率48%)得た。生成物の同定はNMR測定結果を文献値と比較することにより行った。
【0127】
1−1−1b)Bicyclo[3.3.1]nona-2,6-dioneの合成
【0128】
【化18】
【0129】
ジムロート冷却管および滴下ろうとを装着した2Lナスフラスコに、Meerwein’s ester181.4g〔0.4720mol〕、氷酢酸500ml、蒸留水120ml、および濃塩酸170mlを入れ、加熱、撹拌してMeerwein's esterを溶解させた。24時間の還流を行った。
エバポレーターを用いて溶媒を留去したところ、橙色のオイルが約100ml得られた。得られたオイルに塩化メチレン250ml、飽和炭酸水素ナトリウム水100mlを加え、分液した。さらに有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水100mlで洗浄、後に飽和食塩水100mlで洗浄し、分液した後得られた有機層を、硫酸マグネシウムを用いて脱水し、ろ過後濃縮した。得られた黄色の固体を、熱エタノール60mlに溶解し、再結晶操作を行った。得られた結晶をエタノールで2回洗浄し、真空乾燥を行ったところ、白色の結晶として、Bicyclo[3.3.1]nona-2,6-dioneを25.4300g〔0.167094mol〕、収率35%で得た。
【0130】
1−1−1c)Bicyclo[3.3.1]nona-2,6-dioneの速度論的光学分割(その1)
【0131】
【化19】
【0132】
1Lナスフラスコに、Bicyclo[3.3.1]nona-2,6-dioneを22.3377g、H
2Oを700ml、それぞれ入れ、50℃に加熱し溶解させた。その後、スクロース100.8gを加え、溶液の温度を30℃付近まで下げた後、生イースト52.5gを加え、一日反応させた。
反応により得られた生成物について、遠心分離を行った後、残渣は酢酸エチルで、上澄みはクロロホルムで、それぞれ抽出を行い、有機層を濃縮することにより、淡黄色の半固体として未精製の反応物を取り出した。
【0133】
反応で得られた淡黄色の半固体約22gを、シリカゲルカラム(展開溶媒ヘキサン/酢酸エチル=2/1)を用いて分取した。
目的とするBicyclo[3.3.1]nona-2,6-dioneのフラクションを濃縮後、エタノールから再結晶を行ったところ、白色微針状晶として6.4400g〔42.316mmol〕(収率29%)の(+)-(1S,5S)-Bicyclo[3.3.1]nona-2,6-dione(75.6%ee)が得られた。
以下、「(+)-(1S,5S)-Bicyclo[3.3.1]nona-2,6-dione」を、「(S,S)-Bicyclo[3.3.1]nona-2,6-dione」ともいう。
【0134】
生成物はGCおよびNMRにより同定した。
生成物の光学純度は、ダイセル(株)のLCカラム(CHIRALPAK IC)を用いて測定した(75.6%ee)。
その他反応生成物として、ケトールが8.7287g〔56.603 mmol〕(収率39%)、ジオールが0.5875g〔3.7607mmol〕(収率3%)得られた。
【0135】
1−1−1d)Bicyclo[3.3.1]nona-2,6-dioneの速度論的光学分割(その2)
500mlナスフラスコにH
2Oを200ml、スクロースを49.3g、ドライイーストを7.96g、それぞれ入れ、32℃で1時間撹拌した。その後、(S,S)-Bicyclo[3.3.1]nona-2,6-dione(75.6%ee)5.6583gを加え、25時間反応させた。反応溶液にセライトを加え、吸引ろ過し、固体を酢酸エチルで抽出(20ml×5)、水層を酢酸エチルで抽出(50ml×10)し、濃縮したところ、淡黄色の半固体が得られた。シリカゲルカラム〔展開溶媒;ヘキサン:酢酸エチル=2:1(体積比)〕により目的物を分取し、濃縮したところ、白色の半固体が4.96g得られた。これをエタノールから再結晶を行い、白色微針状晶として(S,S)-Bicyclo[3.3.1]nona-2,6-dioneを2.9313g(収率52%)得た。得られた生成物を、液体クロマトグラフィ(以下、LCともいう)により分析したところ、98.4%eeであった。
二次晶は678.8mg(収率12%)(98.2%ee)得られた。
【0136】
〔(1−1−2)無置換ビシクロ[3.3.1]ノナジエン(配位子)の合成〕
下記反応により、無置換ビシクロ[3.3.1]ノナジエン(配位子)である、(S,S)-Bicyclo[3.3.1]nona-2,6-dieneを合成した。
【0137】
【化20】
【0138】
この合成は、M. Mayr, C. J. R. Bataille, S. Gosiewska, J. A. Raskatov, and J. M. Brown, Tetrahedron: Asymmetry, 2008, 19, 1328.に従って行った。以下、詳細を説明する。
【0139】
1−1−2a)(S,S)-Bicyclo[3.3.1]nona-2,6-dioneのヒドラゾン化
50mlナスフラスコに、TsNHNH
2を1.7237g〔9.2558mmol〕入れ、EtOH(エタノール)を7ml加え、撹拌し、懸濁させた。そこに(S,S)-Bicyclo[3.3.1]nona-2,6-dione(75.6%ee)を700.3mg〔4.601mmol〕加え、撹拌した後、その懸濁液を2時間還流した。還流後、−20℃に冷却し、しばらく放置した後、ろ過し、得られた白色固体を冷エタノールで洗浄し、真空乾燥を行った。
白色粉末として、4-Methyl-N’-((2E,6Z)-6-{[(4-methylphenyl)sulfonyl]hydrazono}(S,S)-bicyclo[3.3.1]-nona-2-ylidene)benzenesulfonohydrazide(以下、「(S,S)-bis-tosylhydrazone」ともいう)を、1.3748g〔2.8136mmol〕(61%yield)で得た。同定は
1HNMRおよび
13CNMRにより行った。
なお、J. Org. Chem., 1981, 46(17), 3483にNMRデータが載っているが、一部値が異なる。文献は、水のピークを誤ってNHのピークとして同定していたようであった。
【0140】
1H NMR(400MHz,r.t.,DMSO−d
6):
δ1.42 (m, 2H), 1.65 (m, 2H), 1.70 (br.s, 2H), 1.93 (m, 2H), 2.37 (s, 6H, -Me), 2.69 (dd, J = 17.4, 6.9 Hz, 2H), 7.37 (d, J = 8.0 Hz, 4H, aromatic), 7.70 (d, J = 8.0 Hz, 4H, aromatic), 10.0 (s, 2H, -NH-).
【0141】
13C{
1H} NMR(100.5MHz,r.t.,DMSO−d
6):
δ20.9, 23.9, 29.0, 32.1, 36.7, 127.4, 129.3, 136.4, 143.0, 162.5.
【0142】
1−1−2b)(S,S)-Bicyclo[3.3.1]nona-2,6-dieneの合成
200mlシュレンク管に
iPr
2NHを3ml、TMEDAを11ml、それぞれ入れ、0℃に冷却した後、BuLi/ヘキサン溶液(ca.3M)を5.5ml(ca.16.5mmol)加えた。溶液を撹拌した後、(S,S)-bis-tosylhydrazoneを1.3748g〔2.8136mmol〕加え、暫く撹拌した後、室温まで昇温し、一晩反応させた。
【0143】
反応溶液は、(S,S)-bis-tosylhydrazoneの添加直後に黄色の沈殿を生じ、その後反応の進行に伴い、気体を発生しながら沈殿は溶解した。一晩反応させると、白色のLi塩の沈殿を生じ、溶液は薄い茶色になった。
反応後、0℃に冷却し、水を注意深くLi塩が溶解するまで加えた。反応溶液は淡黄色の水層と無色の有機層に分かれた。溶液を分液し、水層をペンタンで抽出した(5ml×2)。合わせた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後、エバポレーターで濃縮したところ、淡黄色のオイルが927.0mg得られた。淡黄色のオイルをシリカゲル/ペンタンを用いてシリカゲルカラムにより精製したところ、無色のオイルとして、(S,S)-Bicyclo[3.3.1]nona-2,6-dieneを133.5mg(77wt%/ペンタン、0.86mmol、収率30%、75.6%ee(原料より推定))得た。生成物の同定は、GCおよびNMRにより行った。
【0144】
〔(1−1−3)モノメチル置換ビシクロ[3.3.1]ノナジエン(配位子)の合成〕
下記反応により、(S,S)-Bicyclo[3.3.1]nona-2,6-dioneを出発物質として、モノメチル置換ビシクロ[3.3.1]ノナジエン(配位子)である、(S,S)-2-methyl bicyclo[3.3.1]nona-2,6-dieneを合成した。以下、詳細を説明する。
【0145】
【化21】
【0146】
【化22】
【0147】
1−1−3a)(S,S)-6-methyl bicyclo[3.3.1]nona-6-en-2-oneの合成
MeMgBr(Et
2O,3.0M)2.0ml〔6.0mmol〕を25mlシュレンク管に入れ、THF6mlを加え希釈した。得られた希釈液を、(S,S)-Bicyclo[3.3.1]nona-2,6-dione(98.4%ee)610.9mg,4.0139mmol/THF10mlに対し0℃に冷却し、滴下して加えた。0℃で10分撹拌した後、2時間室温で撹拌、さらに2時間還流を行い反応させた。還流後、0℃に冷却し、飽和NH
4Claq.を5ml、蒸留水を2ml加え、反応溶液をクエンチした。その後、酢酸エチルを用いて抽出操作を行い(5ml×3)、合わせた有機層を、MgSO
4を用いて乾燥し、エバポレーターで濃縮したところ、白色の半固体が得られた。得られた生成物を、塩化メチレン10mlに溶かし、0℃に冷却した後、BF
3・OEt
2を5ml滴下して加え、室温で16時間反応させた。その後、飽和NaHCO
3aq.を30ml加え、反応溶液をクエンチし、塩化メチレンで抽出した(10ml×3)。合わせた有機層を、MgSO
4を用いて乾燥した。有機層をろ過後濃縮し、得られた淡黄色のオイルをシリカゲル/ペンタンカラムにより精製した。(S,S)-6-methyl bicyclo[3.3.1]nona-6-en-2-oneを427.9mg(92.3wt%)〔2.629mmol〕(収率66%)得た。
【0148】
(S,S)-6-methyl bicyclo[3.3.1]nona-6-en-2-one
GC−MS(EI):m/z=150(M
+),135(M
+−Me)
1H NMR(400MHz,r.t.,CDCl
3):
δ1.72 (s, 3H, -Me), 1.82(tt, J = 13.3, 4.6 Hz, 1H, -CH
2-), 1.89(br.s, 2H, -CH
2-), 1.93-1.98(m, 2H, -CH
2-), 2.21-2.26(m, 2H, -CH
2-, -CH-), 2.29-2.40 (m, 2H, -CH
2-), 2.64 (br.s, 1H, -CH-), 5.48 (s, 1H, =CH-).
【0149】
13C{
1H}NMR(100.5MHz,r.t.,CDCl
3):
δ22.21, 29.18, 29.63, 31.54, 33.26, 36.33, 44.07, 120.13, 136.28, 215.23.
【0150】
1−1−3b)(S,S)-6-methyl bicyclo[3.3.1]nona-6-en-2-oneのヒドラゾン化
30mlナスフラスコに、TsNHNH
2を497.2mg〔2.670mmol〕入れ、エタノールを2ml加え懸濁させた。引き続き、6-methyl bicyclo[3.3.1]nona-6-en-2-oneを427.9mg(92.3wt%)〔2.629mmol〕取り、これをエタノール3mlで希釈し、反応系に加えた。撹拌後、4時間還流し、反応させた。反応後、溶液を濃縮したところ淡黄色のオイルが得られた。このオイルをシリカゲルカラム〔展開溶媒;ヘキサン:酢酸エチル=5:2(体積比)〕で精製し、真空乾燥を行ったところ、淡黄色の粉末として目的物である(S,S)-6-methyl bicyclo[3.3.1]nona-6-en-2-one 4-Methylbenzenesulfonhydrazoneを、681.4mg,95.6wt%〔2.046mmol〕78%の収率で得た。
【0151】
(S,S)-6-methyl bicyclo[3.3.1]nona-6-en-2-one 4-Methylbenzenesulfonhydrazone
1H NMR(400MHz,r.t.,DMSO−d
6):
δ1.4-1.8 (m, 7H), 1.63 (s, 3H), 2.10 (br.s, 1H), 2.29 (m, 1H), 2.36 (s, 3H, -Me), 2.63 (dd, J = 15.1, 5.6 Hz, 1H), 5.39 (s, 1H, =CH-), 7.37 (d, J = 8.0 Hz, 2H, aromatic), 7.70 (d, J = 8.0 Hz, 2H, aromatic), 10.0 (s, 1H, -NH-).
【0152】
1−1−3c)(S,S)-2-methyl bicyclo[3.3.1]nona-2,6-dieneの合成
50mlシュレンク管に
iPr
2NHを2ml、TMEDAを8ml、それぞれ入れ、0℃に冷却した後BuLi/ヘキサン溶液(ca.3M)を2.3ml(ca.6.0mmol)加え、撹拌した。その後、(S,S)-6-methyl bicyclo[3.3.1]nona-6-en-2-one 4-Methylbenzenesulfonhydrazone(95.6wt%)675.9mg〔2.029mmol〕をTMEDA 2mlの溶液に対し、0℃で加え、暫く撹拌した後室温まで昇温し、一晩反応させた(14h)。
【0153】
反応後、0℃に冷却し、NH
4Claq.5ml、H
2O 5mlを加えた。溶液を分液し、水層をペンタンで抽出した(10ml×3)。有機層を濃縮したところ、淡黄色のオイルが2.2354g得られた。淡黄色のオイルをシリカゲル/ペンタンカラムにより精製したところ、無色のオイルとして、(S,S)-2-methyl bicyclo[3.3.1]nona-2,6-dieneを169.6mg(96.9wt%,1.224mmol,収率60%)得た。生成物の同定は、GC、NMRにより行った。
【0154】
(S,S)-2-methyl bicyclo[3.3.1]nona-2,6-diene
GC−MS(EI):m/z=134(M
+),119(M
+−Me)
1H NMR(400MHz,r.t.,CDCl
3):
δ1.61 (m, 1H), 1.67 (s, 3H, -Me), 1.68 (m, 1H), 1.81 (m, 1H), 1.92 (m, 1H), 2.18 (m, 2H), 2.21 (m, 1H), 2.39 (m, 1H), 5.31 (d, J = 4.6 Hz, 1H), 5.62 (dd, J = 9.6, 4.6 Hz, 1H), 5.69 (dd, J = 10.1, 5.5 Hz, 1H)
【0155】
13C{
1H}NMR(100.5MHz,r.t.,CDCl
3):
δ22.56, 27.57, 29.06, 29.27, 31.80, 32.93, 118.90, 125.15, 131.37, 137.49
[α]
23D -88.1 (c = 1.00, CHCl
3)
【0156】
〔(1−1−4)ジメチル置換ビシクロ[3.3.1]ノナジエン(配位子)の合成〕
以下の反応により、ジメチル置換ビシクロ[3.3.1]ノナジエン(配位子)である、(S,S)-2,6-dimethyl-Bicyclo[3.3.1]nona-2,6-dieneを合成した。
【0157】
【化23】
【0158】
この合成は、ラセミ体合成の文献(B. Graetz, S. Rychnovsky, W.-H. Leu, P. Farmer and R. Lin, Tetrahedron: Asymmetry, 2005, 16, 3584.)に従って行った。以下、詳細を説明する。
【0159】
MeMgBr(Et
2O,3M)2.7ml〔8.1mmol〕を25mlシュレンク管に入れ、0℃に冷却した後、そこに(S,S)-Bicyclo[3.3.1]nona-2,6-dione(98.4%ee)307.5mg,0.2020mmol/THF10mlを滴下して加えた。0℃で5分間撹拌後、12時間還流を行った。還流後、0℃に冷却し、飽和NH
4Claq.を5ml、蒸留水を3ml加え、反応溶液をクエンチした。その後、酢酸エチルを用いて水槽から抽出し(5ml×4)、合わせた有機層を、MgSO
4を用いて乾燥し、エバポレーターで濃縮したところ、白色の半固体が得られた。
得られた生成物を、塩化メチレン7mlに溶かし、0℃に冷却した後、BF
3・OEt
2を1ml滴下して加え、0℃で5分撹拌後、室温で1時間反応させた。飽和NaHCO
3aq.を8ml加え、反応溶液をクエンチし、塩化メチレンで抽出した(5ml×3)。合わせた有機層を、MgSO
4を用いて乾燥し、エバポレーターで濃縮したところ、無色のオイルを得た。
【0160】
粗生成物を原点カラム(シリカゲル/ペンタン)で精製し、エバポレーターで濃縮した。無色のオイルとして目的物(S,S)-2,6-dimethyl-Bicyclo[3.3.1]nona-2,6-diene/ヘキサンを190.2mg(78wt%,1.001mmol,収率50%,98.4%ee(原料より推定))であった。同定はGCおよび
1H NMRにより行った。
【0161】
〔(1−1−5)無置換ビシクロ[3.3.1]ノナジエンをもつアセチルアセトナトルテニウム(II)錯体の合成〕
以下の反応により、無置換ビシクロ[3.3.1]ノナジエンをもつアセチルアセトナトルテニウム(II)錯体である、Ru(acac)
2((S,S)-bicyclo[3.3.1]nona-2,6-diene)を合成した。以下、詳細を説明する。
なお、「acac」および「bnd」は、それぞれ、acetylacetonatoおよびbicyclo[3.3.1]nona-2,6-dieneを指す(以下、同様である)。
【0162】
【化24】
【0163】
25mlシュレンク管に、THFを5ml、(S,S)-bicyclo[3.3.1]nona-2,6-dieneを85.5mg(ca.80wt%,75.6%ee(原料より推定),ca.0.57mmol)、それぞれ入れ、凍結脱気した後、H
2Oを3滴、Ru(acac)
3を212.5mg〔0.5333mmol〕、亜鉛粉末を529.1mg、それぞれ加え、一晩撹拌した後、4時間還流し、反応させた。溶液は、初め赤黒い懸濁液であったが、還流後30分程度で黄色(+亜鉛の沈殿)になった。反応後、溶液を室温まで放冷し、亜鉛をろ別した。ろ液を、エバポレーターを用いて濃縮し、粗生成物を得た。粗生成物を1.5mlのアセトンに溶かし、ろ過、黄色粉末と橙色のろ液に分けた。黄色粉末は、THF/ヘキサン系で再結晶を行い、黄色の微結晶(Λ−Ru(acac)
2((S,S)-bnd))を41.1mg〔0.0980mmol〕、収率18.4%で得た。
【0164】
橙色のろ液は、ヘキサンを5ml加え、茶色のZn種を沈殿させた後、濃縮し、ヘキサンから再結晶を行い、橙色の結晶としてRu(acac)
2((S,S)-bnd))(Δ,Λ mixture)を74.9mg〔0.1786mmol〕、収率33.5%で得た。生成物の同定は、NMRによって行った。
【0165】
rac-Λ-Ru(acac)
2((S,S)-bicyclo[3.3.1]nona-2,6-diene)
1H NMR(400MHz,r.t.,CDCl
3):
δ1.55 (s, 2H, bnd bridge -CH
2-), 1.91 (s, 6H, acac -Me), 2.08 (s, 6H, acac -Me), 2.15 (d, J = 14.2 Hz, 2H, bnd -CH
2-), 2.26 (br.s, 2H, bnd bridgehead), 2.73 (dt, J = 14.2, 3.9 Hz, 2H, bnd -CH
2-), 3.43 (dd, J = 7.8, 6.0 Hz, 2H, bnd =CH-), 4.34 (dt, J = 7.8, 3.2 Hz, 2H, bnd =CH-), 5.20 (s, 2H, acac γ-CH-)
【0166】
13C{
1H}NMR(100.5MHz,r.t.,CDCl
3):
δ27.28(acac, -Me), 28.42(acac, -Me), 30.43(bnd, bridgehead >CH-), 35.52(bnd, bridge -CH
2-), 36.04(bnd, -CH
2-), 86.99(bnd, =CH-), 87.94(bnd, =CH-), 98.59(acac, γ-CH-), 185.93(acac, >C=O), 186.87(acac, >C=O)
【0167】
IR(KBr,cm
−1):
3082(w), 3028(w), 2967(m), 2906(s), 2861(m), 1584(vs), 1515(vs), 1397(vs), 1270(s), 1196(m), 1017(s), 957(m), 933(m), 761(s), 611(m), 601(m), 435(m).
E.A. calcd for RuC
19H
26O
4 :C, 54.40; H, 6.25% Found : C, 54.55; H,6.04%
【0168】
rac-△-Ru(acac)
2((S,S)-bicyclo[3.3.1]nona-2,6-diene)
1H NMR(400MHz,r.t.,CDCl
3):
δ1.53 (s, 2H, bnd bridge -CH
2-), 1.92 (s, 6H, acac -Me), 2.04-2.12 (overwrapped with acac-Me, 4H, bnd -CH
2-), 2.11 (s, 6H, acac -Me), 2.43 (br.s, 2H, bnd bridgehead), 3.84 (dd, J = 7.3, 5.5 Hz, 2H, bnd =CH-), 4.31 (m, 2H, bnd =CH-), 5.44 (s, 2H, acac γ-CH-)
【0169】
13C{
1H}NMR(100.5MHz,r.t.,CDCl
3):
δ27.45(acac, -Me), 28.54(acac, -Me), 30.21(bnd, bridgehead >CH-), 35.28(bnd, bridge -CH
2-), 37.42(bnd, -CH
2-), 85.64(bnd, =CH-), 91.81(bnd, =CH-), 98.85(acac, γ-CH-), 185.41(acac, >C=O), 186.57(acac, >C=O)
【0170】
IR(KBr,cm
−1):
3078(w), 3030(w), 3029(m), 3000(m), 2962(m), 2919(s), 2844(m), 1582(vs), 1515(vs), 1397(vs), 1333(s), 1270(s), 1197(m), 1018(s), 959(m), 933(m), 765(s), 617(m), 605(m), 437(m).
【0171】
〔(1−1−6)モノメチル置換ビシクロ[3.3.1]ノナジエンをもつアセチルアセトナトルテニウム(II)錯体の合成〕
以下の反応により、モノメチル置換ビシクロ[3.3.1]ノナジエンをもつアセチルアセトナトルテニウム(II)錯体である、Ru(acac)
2{(S,S)-2-methyl bicyclo[3.3.1]nona-2,6-diene}を合成した。以下、詳細を説明する。
【0172】
【化25】
【0173】
25mlシュレンク管に、(S,S)-2-methyl bicyclo[3.3.1]nona-2,6-dieneを198.8mg〔1.437mmol〕、THFを3ml、それぞれ入れ、凍結脱気した後、THFを更に7ml、Ru(acac)
3を542.1mg〔1.361mmol〕、亜鉛粉末を1.0181g、H
2Oを6滴、それぞれ加えた。溶液を一晩撹拌した後、4時間還流し、反応させた。
反応後、溶液を室温まで放冷し、亜鉛をろ別した。ろ液を2ml程度まで濃縮し、Zn種を取り除くためアルミナカラムをかけた。再度、溶液を濃縮し、粗生成物として橙色のオイルを得た。得られたオイルをヘキサン1mlで希釈し、室温で静置した。橙色の針状晶が生成していたため、ろ別後ヘキサンで洗浄、真空乾燥を行った。結果、橙色の針状晶として、Ru(acac)
2{(S,S)-2-methyl bicyclo[3.3.1]nona-2,6-diene}を202.5mg〔0.4671mmol〕、収率33%で得た。ろ過後の母液および洗液はまとめて濃縮し、ヘキサンで希釈後−20℃のフリーザーで静置する事により、二次晶(黄色粉末)を143.8mg(23%)得た。
【0174】
1H NMR(400MHz,r.t.,CDCl
3):
major diastereomer of Ru(acac)
2(2-methyl bicyclo[3.3.1]nona-2,6-diene)
δ1.14 (s, 3H), (1.4-2.3 (bnd methylene and methyne , 6 H), 1.85 (s, 3H, acac-Me), 1.89 (s, 3H, acac-Me), 2.10 (s, 3H, acac-Me), 2.17 (s, 3H, acac-Me), 2.37 (br s, 1H), 2.86 (m, 1H), 3.75 (s, 1H, =CH), 3.90 (dd, J = 7.8, 5.5 Hz, 1H, =CH), 4.19 (m, 1H, =CH), 5.37 (s, 1H, acac γ-CH), 5.43 (s, 1H, acac γ-CH)
【0175】
minor diastereomer of Ru(acac)
2(2-methyl bicyclo[3.3.1]nona-2,6-diene)
δ0.83 (s, 3H), (1.4-2.3 (bnd methylene and methyne , 7 H), 1.85 (s, 3H, acac-Me), 1.87 (s, 3H, acac-Me), 2.07 (s, 3H, acac-Me), 2.13 (s, 3H, acac-Me), 2.87 (m, 1H), 3.43 (dd, J = 7.4, 6.0 Hz, 1H, =CH), 4.10 (s, 1H, =CH), 4.19 (m, 1H, =CH), 5.14 (s, 1H, acac γ-CH), 5.24 (s, 1H, acac γ-CH)
【0176】
13C{
1H}NMR(100.5MHz,r.t.,CDCl
3):
(mixture of 2 diastereomers)
δ24.13, 24.36, 26.97, 27.07, 27.18, 27.37, 28.31, 28.46, 28.75, 28.81, 29.37, 29.51, 35.28, 35.34, 35.51, 36.36, 36.72, 36.90, 38.09, 82.83, 84.35, 85.43, 86.27, 88.12, 90.76, 96.87, 97.71, 98.17, 98.41, 98.66, 98.81, 184.70, 185.64, 186.00, 186.09, 186.17, 186.20, 186.74
【0177】
IR(KBr,cm
−1):
3076(w), 3032(w), 2971(m), 2897(s), 2840(m), 1582(vs), 1515(vs), 1398(vs), 1364(s), 1270(s), 1196(m), 1018(m), 930(m), 763(s), 612(m), 600(m), 436(m).
E. A. calcd for RuC
20H
28O
4 C, 55.41; H, 6.51% Found : C, 54,46; H, 6.46%
【0178】
〔(1−1−7)ジメチル置換ビシクロ[3.3.1]ノナジエンをもつアセチルアセトナトルテニウム(II)錯体の合成〕
以下の反応により、ジメチル置換ビシクロ[3.3.1]ノナジエンをもつアセチルアセトナトルテニウム(II)錯体である、Ru(acac)
2{(S,S)-2,6-dimethyl bicyclo[3.3.1]nona-2,6-diene}を合成した。以下、詳細を説明する。
【0179】
【化26】
【0180】
25mlシュレンク管に、(S,S)-2,6-dimethyl bicyclo[3.3.1]nona-2,6-dieneを190.2mg(78%)〔1.001mmol〕、THFを7mlそれぞれ入れ、凍結脱気した。その後、Ru(acac)
3を381.3mg〔0.9571mmol〕、亜鉛粉末を660.2mg、H
2Oを5滴、それぞれ加えた。
溶液を一晩撹拌した後、4時間還流し、反応させた。反応後、アルミナカラムで淡黄色のフラクションを分取した。再度、溶液を濃縮し、粗生成物として黄色のオイルを得た。生成物の再結晶を行うため、ヘキサン1mlでオイルを希釈し、ろ過後−20℃のフリーザーに静置した。橙色の針状晶が生成していたため、ろ別後ヘキサンで洗浄、真空乾燥を行った。結果、橙色の針状晶として、Δ-Ru(acac)
2{(S,S)-2,6-dimethyl bicyclo[3.3.1]nona-2,6-diene}を135.0mg〔0.3017mmol〕、収率32%で得た。
【0181】
1H NMR(400MHz,r.t.,C
6D
6):
δ1.41 (br.s, 2H, diene -CH
2-), 1.55 (s, 6H, diene -Me), 1.74 (s, 6H, acac -Me),1.98 (br.s, 2H, diene bridge head), 2.02 (s, 6H, acac -Me), 2.19 (br.d, J = 13.5 Hz, 2H, diene exo-CH
2-), 2.45 (br.d, J = 13.5 Hz, 2H, diene endo-CH
2-), 3.97 (br.s, 2H, diene =CH-), 5.34 (s, 2H,acac γ-CH)
【0182】
13C{
1H}NMR(100.5MHz,r.t.,C
6D
6):
δ24.6 (diene, -Me), 27.1(acac, -Me), 28.8 (acac, -Me), 35.6 (bridge-CH
2-), 36.6 (bridgehead-CH
-), 37.9 (-CH
2-), 83.0 (diene, =CH-), 96.6 (=C<), 98.9 (acac, =CH-), 185.2 (-CO-), 186.2 (-CO-)
【0183】
IR(KBr,cm
−1):
3082(w), 2966(m), 2895(s), 2834(m), 1579(vs), 1517(vs), 1401(vs), 1363(s),
1269(m), 1196(m), 1031(s), 1008(m), 934(m), 756(s), 615(m), 601(m), 437(w).
E. A. calcd for RuC
21H
30O
4 : C, 56.36; H, 6.76% Found : C, 55.92; H, 6.72%
【0184】
〔(1−1−8)無置換ビシクロ[3.3.1]ノナジエンをもつナフタレンルテニウム(0)の合成〕
以下の反応により、無置換ビシクロ[3.3.1]ノナジエンをもつナフタレンルテニウム(0)である、Ru(naphthalene)((S,S)-bicyclo[3.3.1]nona-2,6-diene)(下記触媒前駆体2a)を合成した。以下、詳細を説明する。
【0185】
【化27】
【0186】
25mlシュレンク管にRu(acac)
2((S,S)-bicyclo[3.3.1]nona-2,6-diene)を125.8mg〔0.2999mmol〕入れ、THFを3ml加え、撹拌した。その後、−78℃に冷却し、ナトリウムナフタレン〔ナフタレン(117.5mg、0.9167mmol)、Na(85.6mg)、およびTHF(4ml)を、窒素下で3時間撹拌し、作製したもの〕を加え、−78℃で2時間反応させた後、室温で13時間反応させた。溶液をアルミナカラムによりろ過し、濃縮したところ、暗橙色の固体が得られた。濃縮後、真空乾燥し、ナフタレンの除去を行った。得られた茶色の固体を、THF 0.5ml、ヘキサン 3.5mlに溶かし、ろ過後フリーザーに入れ、再結晶操作を行った。再結晶操作によって得られた茶色粉末を、ろ別し、真空乾燥を行い、茶色の粉末として、Ru(naphthalene)((S,S)-bicyclo[3.3.1]nona-2,6-diene)(75.6%ee(原料より推定))を61.3mg〔0.175mmol〕、収率58.5%で得た。生成物の同定はNMRによって行った。
得られたRu(naphthalene)((S,S)-bicyclo[3.3.1]nona-2,6-diene)、即ち触媒前駆体2aは、既述の一般式(1−11)において、2つのRが共に水素原子であるものである。
【0187】
1H NMR(400MHz,r.t.,C
6D
6):
δ1.14 (s, 2H, bnd bridge -CH
2-), 1.88-1.93(m, 2H, bnd -CH
2-), 1.98 (br.s, 2H, bnd bridgehead), 2.52 (d, J = 12.4 Hz, 2H, bnd -CH
2-), 3.51 (t, J = 6.4 Hz, 2H, bnd =CH-), 3.86 (br.d, J = 7.3 Hz, 2H, bnd =CH-), 4.17 (d, J = 5.5 Hz, 1H, coord naphthalene), 4.31 (d, J = 6.0 Hz, 1H, coord naphthalene), 5.47 (t, J = 5.5 Hz, 1H, coord naphthalene), 5.54 (t, J = 5.5 Hz, 1H, coord naphthalene), 7.0-7.2 (m, 4H, uncoord naphthalene)
【0188】
13C{
1H}NMR(100.5MHz,r.t.,C
6D
6):
δ29.10(bnd, bridgehead >CH-), 34.88(bnd, bridge -CH
2-), 45.59(bnd, -CH
2-), 61.92(bnd, =CH-), 64.39(bnd, =CH-), 73.96, 74.30, 89.59, 89.94, 104.79, 105.22, 125.52, 126.20, 126.35, 126.70
【0189】
IR(KBr,cm
−1):
3040(w), 2978(m), 2901(s), 2871(s), 2807(s), 1481(w), 1448(w), 1364(w), 1322(w), 1228(w), 1048(w), 874(w), 832(w), 815(w), 803(m), 741(s)
E.A. calcd for RuC
19H
20:C, 65.21; H, 5.77% Found : C, 65.27; H, 6.36%
【0190】
〔(1−1−9)モノメチル置換ビシクロ[3.3.1]ノナジエンをもつナフタレンルテニウム(0)の合成〕
以下の反応により、モノメチル置換ビシクロ[3.3.1]ノナジエンをもつナフタレンルテニウム(0)である、Ru(naphthalene){(S,S)-2-methyl bicyclo[3.3.1]nona-2,6-diene}(下記触媒前駆体2b)を合成した。以下、詳細を説明する。
【0191】
【化28】
【0192】
50mlシュレンク管にRu(acac)
2{(S,S)-2-methyl bicyclo[3.3.1]nona-2,6-diene}を342.2mg〔0.7894mmol〕入れ、THFを8ml加え、撹拌した。その後、−78℃に冷却し、ナトリウムナフタレン〔ナフタレン(300.0mg、2.340mmol)、Na(182.5mg)、およびTHF(10ml)を、窒素下で3時間撹拌し、作製したもの〕をゆっくり滴下して加え、−78℃で4時間反応させた後、室温で16時間反応させた。溶液をアルミナカラムにより、ろ過し、濃縮したところ、暗橙色のオイルが得られた。濃縮後、真空乾燥し、ナフタレンの除去を行った。暗橙色オイルを、ヘキサン2ml、THF 0.5mlで希釈し、ろ過後、−60℃フリーザーに入れ、静置した。さらに、ろ過後、真空乾燥を行ったところ、暗茶色の粉末として、Ru(naphthalene){(S,S)-2-methylbicyclo[3.3.1]nona-2,6-diene}(98.4%ee(原料より推定))が124.5mg〔0.3425mmol〕(収率43%)得られた。生成物の同定はNMRにより行った。
得られたRu(naphthalene){(S,S)-2-methylbicyclo[3.3.1]nona-2,6-diene}、即ち触媒前駆体2bは、既述の一般式(1−11)において、2つのRのうち一方が水素原子で、他方がメチル基のものである。
後述の実施例2−1では、「Ru(naphthalene){(S,S)-2-methylbicyclo[3.3.1]nona-2,6-diene}」(触媒前駆体2b)を、「Ru(naphthalene)((S,S)-Me-bnd)」と略称することがある。
また、後述の実施例2−1および比較例1では、触媒前駆体2bを、「触媒前駆体(S,S)−2b」ともいう。
【0193】
1H NMR(400MHz,r.t.,C
6D
6):
δ1.08 (dd, J = 11.9, 6.0 Hz, 1H, Me-bnd bridge -CH
2-), 1.15 (dd, J = 11.9, 6.0 Hz, 1H, Me-bnd bridge -CH
2-), 1.44 (s, 3H, Me-bnd -Me), 1.60 (m, 1H, Me-bnd 1-bridgehead), 1.88 (d, J = 12.4 Hz, 1H, Me-bnd 4-CH
2-), 1.96 (m, 1H, Me-bnd 5-bridgehead), 2.09 (d, J = 12.8 Hz, 1H, Me-bnd 8-CH
2-), 2.46 (d, J = 12.4 Hz, 1H, Me-bnd 4-CH
2-), 2.55 (d, J = 12.8 Hz, 1H, Me-bnd 8-CH
2-), 3.45 (t, J = 6.9 Hz, 1H, Me-bnd 6-=CH-), 3.80 (br.s, 2H, bnd 3,7-=CH-), 4.23 (d, J = 5.5 Hz, 1H, coord naphthalene), 4.35 (d, J = 5.5 Hz, 1H, coord naphthalene), 5.36 (t, J = 5.5 Hz, 1H, coord naphthalene), 5.57 (t, J = 5.5 Hz, 1H, coord naphthalene), 6.98 (d, J = 8.2 Hz, 1H, uncoord naphthalene) 7.12 (m, 2H, uncoord naphthalene) 7.0-7.2 (m, 4H, uncoord naphthalene)
【0194】
13C{
1H}NMR(100.5MHz,r.t.,C
6D
6):
δ8.46, 30.14, 34.22, 35.71, 43.15, 46.17, 61.68, 62.05, 67.38, 74.10, 74.63, 76.02, 90.29, 91.48, 104.67, 105.90, 125.45, 126.11, 126.97
E.A: Anal. Calc: C, 66.09; H, 6.10, Found: C, 65.74; H, 6.75, C, 66.42; H, 6.71
【0195】
〔(1−1−10)ジメチル置換ビシクロ[3.3.1]ノナジエンをもつナフタレンルテニウム(0)の合成〕
以下の反応により、ジメチル置換ビシクロ[3.3.1]ノナジエンをもつナフタレンルテニウム(0)である、Ru(naphthalene){(S,S)-2,6-dimethyl bicyclo[3.3.1]nona-2,6- diene}(下記触媒前駆体2c)を合成した。以下、詳細を説明する。
【0196】
【化29】
【0197】
50mlシュレンク管に、Ru(acac)
2{(S,S)-2,6-dimethyl bicyclo[3.3.1]nona-2,6-diene}を266.3mg〔0.5950mmol〕入れ、THFを7ml加え、撹拌した。その後、−78℃に冷却し、ナトリウムナフタレン〔ナフタレン(242.2mg、1.890mmol)、Na(170mg)、およびTHF(10ml)を、窒素下で3時間撹拌し、作製したもの)を加え、−78℃で3.5時間反応させた後、室温で一晩反応させた。溶液をアルミナカラムによりろ過し、濃縮したところ、暗橙色のオイルが得られた。濃縮後、真空乾燥し、ナフタレンの除去を行った。THF(2ml)とヘキサン(5ml)との混合溶媒から再結晶を行ったところ、暗赤色の結晶が39.4mg得られた。生成物をNMRにより確認したところ、Ru(naphthalene){(S,S)-2,6-dimethyl bicyclo[3.3.1]nona-2,6-diene}とRu(naphthalene){(S,S)-2,6-dimethyl bicyclo[3.3.1]nona-2,6-diene}
2との混合物〔1:0.8(物質量比)〕(98.4%ee(原料より推定))であった。
得られたRu(naphthalene){(S,S)-2,6-dimethyl bicyclo[3.3.1]nona-2,6-diene}、即ち触媒前駆体2cは、既述の一般式(1−11)において、2つのRがともにメチル基のものである。
後述の実施例3では、「Ru(naphthalene){(S,S)-2,6-dimethyl bicyclo[3.3.1]nona-2,6-diene}」(触媒前駆体2c)を、「Ru(naphthalene)((S,S)-Me
2-bnd)」と略称することがある。
【0198】
Ru(naphthalene){(S,S)-2,6-dimethyl bicyclo[3.3.1]nona-2,6-diene}
1H NMR(400MHz,r.t.,C
6D
6):
δ1.08 (br.m, 2H, diene -CH
2-), 1.40 (s, 6H, diene -Me), 1.57 (br.m, 2H, diene bridgehead), 2.19 (br.d, J = 11.9 Hz, 2H, diene exo-CH
2-), 2.49 (d, J = 12.8 Hz, 2H, diene endo-CH
2-), 3.75 (s, 2H, diene =CH-), 4.39 (d, J = 5.5 Hz, 1H,coord naphthalene), 4.42 (d, J = 6.0 Hz, 1H,coord naphthalene), 5.17 (t, J = 5.5 Hz, 1H,coord naphthalene), 5.67 (dt, J = 0.9, 5.5 Hz, 1H,coord naphthalene), 6.93 (d, J = 7.8 Hz, 1H,uncoord naphthalene), 7.07 (dt, J = 1.8, 6.0 Hz, 1H,uncoord naphthalene), 7.1-7.2(overwrapped with C
6D
6, 2H,uncoord naphthalene),
【0199】
13C{
1H}NMR(100.5MHz,r.t.,C
6D
6):
δ30.1 (Me-bnd, -Me), 33.5 (Me-bnd, bridge-CH
2-), 35.1 (Me-bnd, bridgehead-CH-), 43.7 (Me-bnd, -CH
2-), 62.5 (Me-bnd, =CH-), 73.9 (coord naphthalene), 75.1 (coord naphthalene), 75.8 (Me-bnd, =C<), 90.6 (coord naphthalene), 94.2 (coord naphthalene), 104.7 (naphthalene, ring junction), 106.7 (naphthalene, ring junction), 125.4 (uncoord naphthalene), 125.9 (uncoord naphthalene), 126.0 (uncoord naphthalene), 127.2 (uncoord naphthalene)
【0200】
IR(KBr,cm
−1):
3057(w), 2950(m), 2877(s), 2803(s), 1482(w), 1444(m), 1360(m), 1334(w), 1173(w), 1026(s), 1001(w), 818(s), 740(s), 674(w), 413(w)
E.A: Anal. Calc: C, 66.82; H, 6.41, Found: C, 66.72; H, 6.87
【0201】
〔(1−1−11)X線による合成した触媒前駆体の分子構造確認〕
以上のようにして、得られた触媒前駆体2a〜触媒前駆体2cについて、X線構造解析を行い、得られた分子構造を、
図1〜
図3に示す。
なお、X線構造解析に当たっては、理学電機社製のAFC7R-Mercury IIを用いた。
【0202】
(実施例1−2)−触媒前駆体の合成−
下記手法に従い、一般式(4)で表される触媒前駆体を合成した。
【0203】
〔(1−2−1)カルボン由来のビシクロ[2.2.2]オクタジエンのトリフルオロメタンスルホン酸エステル化物(配位子前駆体)の合成〕
まず、配位子前駆体として、カルボン由来のビシクロ[2.2.2]オクタジエンのトリフルオロメタンスルホン酸エステル化物である、Trifluolomethansulfonic acid 8-methoxy-1,8-dimethylbicyclo[2.2.2]octa-2,5-dien-2-yl esterの合成を行った。以下、詳細を説明する。
【0204】
1−2−1a)(R)-(-)カルボンの臭素化反応
【0205】
【化30】
【0206】
A. Srikrishna , G. V. R. Sharma , S. Danieldoss and P.y Hemamalini, J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1, 1996, 1305-1311. に従って、上記反応式に示す、(R)-(-)カルボンの臭素化反応を行った。以下、詳細を説明する。
なお、上記反応式中、NBSは、N-ブロモスクシンイミド(N-Bromosuccinic imide)を表す。
200mlのシュレンク管に、MeOH〔30ml〕、CH
2Cl
2〔45ml〕、(−)−carvone〔7.5ml(48mmol)〕を入れ、0℃に冷却した。その後、NBS(前日にMeOHで再結晶したもの)を10.1697g(57.140mmol)を1.5時間かけて加えた。全て加え終わった後、室温まで昇温し、22時間攪拌し、暗所下で反応させた。反応後、CH
2Cl
2〔80ml〕を加え、0.5MのNaOHaq〔100ml〕およびbrine〔100ml〕により洗浄した。また、有機層をNa
2SO
4により乾燥し、エバポレーターにより濃縮した。得られた黄色のオイルをシリカゲルカラム(ヘキサン:酢酸エチル=10:1〔体積比〕)により精製し、淡黄色のオイルとして目的物であるbromocarvoneを8.6504g(96wt%/solv)(31.798mmol)得た。収率は66%であった。
【0207】
1−2−1b)臭素化した(R)-(-)カルボンの環化反応
【0208】
【化31】
【0209】
500mlのシュレンク管に、上記で得られたbromocarvoneを10.2624g〔(95.8wt%),37.641mmol〕、
tBuOHを100ml、THFを120ml、それぞれ入れ、0℃に冷却した後、
tBuOKを5.0022g〔44.6mmol(1.2eq)〕加えた。
tBuOKを全量加え終わった後、0℃で10分間撹拌し、その後、室温まで昇温して18時間反応させた。反応後、酸性食塩水(飽和食塩水:1M HCl=1:1〔体積比〕)50mlを加え、溶液をクエンチし、Et
2O〔50ml〕を加えた後に分液した。
有機層を酸性食塩水(飽和食塩水:1M HCl=1:1〔体積比〕)50mlで2回洗浄し、その後、Na
2SO
4で乾燥し、濃縮したところ黄色のオイルとして粗生成物を得た。このオイルをシリカゲルカラム(ヘキサン:酢酸エチル=5:1〔体積比〕)で精製し、無色のオイルとして、(1S
*,4S
*,8R
*)-1,8-dimethyl-8-methoxybicyclo[2.2.2]oct-5-en-2-oneを、2.6470g〔14.084mmol〕、収率37%で、(1S
*,4S
*,8S
*)-1,8-dimethyl-8-methoxybicyclo[2.2.2]oct-5-en-2-oneを、2.3882g〔10.388mmol〕、収率28%で、分割しきれなかった混合物を683.6mg、それぞれ得た。
【0210】
1−2−1c)Trifluolomethansulfonic acid 8-methoxy-1,8-dimethylbicyclo[2.2.2]octa-2,5-dien-2-yl esterの合成〕
【0211】
【化32】
【0212】
C. Fischer, C. Defieber, T. Suzuki, and E. M. Carreira, J. Am. Chem. Soc., 2004, 126, 1628-1629. の方法に従って、上記反応式により、Trifluolomethansulfonic acid 8-methoxy-1,8-dimethylbicyclo[2.2.2]octa-2,5-dien-2-yl esterの合成を行った。以下、詳細を説明する。
50mlのシュレンク管に、THFを20ml、
iPrNHを0.65ml〔4.6mmol〕を入れ、−78℃に冷却した後、nBuLi/ヘキサン(2.6M)を2ml加えた。20分間撹拌した後、THF2mlで希釈した(1S
*,4S
*,8R
*)-1,8-dimethyl-8-methoxybicyclo[2.2.2]oct-5-en-2-oneを637.9mg(96wt%/solv.、3.4mmol加えた。反応溶液を−78℃で1時間加熱した後、PhNTf
2を1.7878g,5.0043mmol加え、その後室温まで昇温し、12時間(終夜)反応させた。反応後、反応物を0℃に冷却し、蒸留水10mlを加え、反応溶液をクエンチし、エバポレーターでTHFを留去し、生成物が分散懸濁している水溶液とした。この水溶液にCH
2Cl
2を加えて可溶成分を抽出(10ml×4)し、有機層をまとめて、食塩水で洗浄した。洗浄した有機層を、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過した後に、濃縮したところ粗生成物として、黄色のオイルを1.5g得た。
得られたオイルを、シリカゲルカラム(ヘキサン/酢酸エチル=10/1〔体積比〕)で精製し、淡黄色のオイルとして目的物であるTrifluolomethansulfonic acid 8-methoxy-1,8-dimethylbicyclo[2.2.2]octa-2,5-dien-2-yl esterを、811.3mg(96.6wt%)、2.509mmol、収率73.9%で得た。生成物の同定は
1H NMRにより、文献値と比較して行った。
【0213】
〔(1−2−2) 2−フェニル置換ビシクロ[2.2.2]オクタジエン(配位子)の合成〕
【0214】
【化33】
【0215】
Angew.Chem.Int.Ed.2008,7669.に従って、上記反応式により、2−フェニル置換ビシクロ[2.2.2]オクタジエン(配位子)である、(-)-8-methoxy-1,8-dimethyl-2-phenyl bicyclo[2.2.2]octa-2,5-dieneの合成を行った。以下、詳細を説明する。
25mlシュレンク管Aに、Trifluolomethansulfonic acid 8-methoxy-1,8-dimethylbicyclo[2.2.2]octa-2,5-dien-2-yl ester(97wt%)を808.3mg(2.510mmol)、K
2CO
3を1.0562g、PhB(OH)
2を611.4mg(5.015mmol)、DMFを2.5mlそれぞれ入れ、撹拌した。その後、別途、25mlシュレンク管B中に、Pd(OAc)
2を30.6mg(0.125mmol)、dppfを68.1mg(0.125mmol)、DMFを2.5mlそれぞれ入れ、10分間撹拌して得た触媒溶液を、チューブ移動によって、シュレンク管A内に加えた。なお、dppfとは、1,1'-bis(diphenylphosphino)ferroceneである。
シュレンク管A内の反応溶液を100℃に加熱し、1時間反応させた。反応後、溶液を室温まで冷まし、ろ過した。その後トルエン40mlを複数回に分けて加え、エバポレーターによってDMFを共沸留去した。得られた茶色のオイルをシリカゲルカラム(ヘキサン:酢酸エチル=10:1〔体積比〕)を用いて精製し、淡黄色のオイルとして、(-)-8-methoxy-1,8-dimethyl-2-phenyl bicyclo[2.2.2]octa-2,5-dieneを、325.2mg(94.9wt%)、1.284mmol、収率51.2%で得た。
生成物の同定は、
1H NMRにより、文献値と比較して行った。
【0216】
〔(1−2−3)2−フェニル置換ビシクロ[2.2.2]オクタジエンをもつナフタレンルテニウム(0)錯体の合成〕
1−2−3a)Ru(acac)
2((-)-8-methoxy-1,8-dimethyl-2-phenyl bicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)の合成
下記反応式により、2−フェニル置換ビシクロ[2.2.2]オクタジエンをもつアセチルアセトナトルテニウム(II)錯体である、Ru(acac)
2((-)-8-methoxy-1,8-dimethyl-2-phenyl bicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)の合成を行った。以下、詳細を説明する。
【0217】
【化34】
【0218】
25mlのシュレンク管に、(-)-8-methoxy-1,8-dimethyl-2-phenyl bicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene(95wt%)を317.8mg〔1.255mmol〕、THFを3ml入れ、凍結脱気した後、THFを更に7ml、Ru(acac)
3を481.5mg〔1.209mmol〕、亜鉛粉末を787.0mg、H
2Oを5滴、それぞれ加えて溶液とした。溶液を一晩撹拌した後、2時間還流し、反応させた。溶液は、初め赤茶色であったが、還流後30分程度で黄色になった。反応後、溶液を室温まで放冷し、亜鉛をろ別した。その他、Zn種、Ru種、および有機物を取り除くため、溶液をシリカゲルショートカラムに通し、固相抽出の要領で、ヘキサンを流した後アセトンで抽出した。
エバポレーターで、目的物を含む溶液を濃縮し、粗生成物として橙色のオイルを得た。生成物の再結晶を行うため、ペンタン2mlでオイルを希釈し、ろ過後、−20℃で一晩静置した。生成した黄色の粉末をろ別し、ペンタンで洗浄した。得られた固体を真空乾燥し、黄色の粉末として、Λ-Ru(acac)
2((-)-8-methoxy-1,8-dimethyl-2-phenyl bicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)を301.5mg〔0.5587mmol〕、収率46%で得た。得られた黄色の粉末について、
1H NMR測定を行ったところ、Λ/△=95/5であった。比率は
1H NMRから算出した。
また、再結晶の際のろ液を自然濃縮させたところ、橙色の結晶が生成し、二次晶として橙色結晶を95.8mg〔0.1175mmol〕、収率15%で得た。この結晶を単結晶X線構造解析により同定を行ったところ、△-Ru(acac)
2((-)-8-methoxy-1,8-dimethyl-2-phenyl bicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)であった。化学式を下記に示す。
【0219】
【化35】
【0220】
この結晶の
1H NMRを測定したところ、ほぼ純粋な△体であった(Λ/△=5/95、比率は
1H NMRから算出)。
本反応においては、Ru中心に対する△およびΛの配位形式があることからから、2種のジアステレオマーが生成することが予測される。
【0221】
得られた△-Ru(acac)
2((-)-8-methoxy-1,8-dimethyl-2-phenyl bicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)の
1H NMRスペクトルを
図4に示した。
1H NMR(400MHz,r.t.,CDCl
3):
δ1.00 (d, J = 13.8 Hz, 1H, -CH
2-), 1.19 (s, 3H,-Me), 1.43 (d, J = 13.8 Hz, 1H, -CH
2-), 1.67 (s, 3H,-Me), 1.69 (s, 3H, acac-Me), 1.84 (s, 3H, acac-Me), 2.18 (s, 3H, acac-Me), 2.19 (s, 3H, acac-Me), 3.22 (s, 3H, -OMe), 3.79 (t, J = 4.0 Hz, 1H, >CH-), 4.09 (dd, J = 1.1, 6.3 Hz, 1H, =CH-), 4.13 (t, J = 5.7 Hz, 1H, =CH-), 4.48 (d, J = 5.7 Hz, 1H, =CH-), 5.26 (s, 1H,acac-γ), 5.30 (s, 1H, acac-γ), 7.02-7.11 (m, 3H, -Ph), 7.19-7.22 (m, 2H,-Ph)
【0222】
また、△-Ru(acac)
2((-)-8-methoxy-1,8-dimethyl-2-phenyl bicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)のX線構造解析により得られた分子構造を、
図5に示す。また、結晶学的データ概要を表1に示す。
【0223】
【表1】
【0224】
1−2−3b)Ru(naphthalene)((-)-8-methoxy-1,8-dimethyl-2-phenyl bicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)の合成
下記反応式により、2−フェニル置換ビシクロ[2.2.2]オクタジエンをもつナフタレンルテニウム(0)錯体である、Ru(naphthalene)((-)-8-methoxy-1,8-dimethyl-2-phenyl bicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)の合成を行った。以下、詳細を説明する。
【0225】
【化36】
【0226】
200mlシュレンク管に、△-Ru(acac)
2((-)-8-methoxy-1,8-dimethyl-2-phenyl bicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)を325.6mg〔0.6039mmol〕入れ、THFを7ml加え、撹拌した。その後、混合物を−78℃に冷却し、ナトリウムナフタレン〔ナフタレン(233.2mg、1.819mmol)、Na(142mg)、およびTHF(10ml)を、窒素下で3時間撹拌し、作製したもの〕を加え、−78℃で3時間反応させた。その後、さらに室温で15時間反応させた。得られた溶液をアルミナカラムによりろ過し、濃縮したところ、橙色の粉末が得られた。さらに溶液を濃縮した後、粉末を真空乾燥し、ナフタレンの除去を行った。得られた橙色の粉末を、ヘキサン1mlと、THF2mlに溶解させ、ろ過した後、さらにヘキサン5mlを加え、−72℃で再結晶をおこなった。得られた固体を冷ヘキサンで洗浄し、固体を真空乾燥したところ、橙色の粉末として、下記構造のRu(naphthalene)((-)-8-methoxy-1,8-dimethyl-2-phenyl bicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)〔主生成物〕が、97.8mg〔0.8923mmol〕、収率33%で得られた。
なお、Ru(naphthalene)((-)-8-methoxy-1,8-dimethyl-2-phenyl bicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)〔主生成物〕の生成に際し、一部ナフタレンに対し、Ru種が2分子配位したRu(naphthalene)((-)-8-methoxy-1,8-dimethyl-2-phenyl bicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)
2〔副生成物〕が、主生成物:副生成物=81:19(物質量比)の割合で得られた。
【0227】
【化37】
【0228】
生成物の同定は、NMRにより行った。主生成物の同定結果を下記に示す。
1H NMR(400MHz,r.t.,C
6D
6):
δ0.60 (d, J = 13.2 Hz, 1H, -CH
2-), 0.97 (s, 3H,-Me), 1.14 (s, 3H,-Me), 1.29 (d, J = 13.8 Hz, 1H, -CH
2-), 2.53 (d, J = 5.2 Hz, 1H, >CH-), 2.61 (t, J = 5.7 Hz, 1H, =CH-), 2.96 (t, J = 6.3 Hz, 1H, =CH-), 3.03 (d, J = 6.3 Hz, 1H, overwrapped, =CH-), 3.04 (s, 3H, -OMe), 4.21 (d, J = 5.7 Hz, 1H, coord. naphthalene), 4.37 (d, J = 5.2 Hz, 1H, coord. naphthalene), 5.53 (t, J = 6.3 Hz, 1H, coord. naphthalene), 5.73 (t, J = 6.3 Hz, 1H, coord. naphthalene), 7.0-7.2 (m, 7H, uncoord. naphthalene and −Ph(m,p)), 7.53-7.57 (m, 2H,-Ph(o))
【0229】
13CNMR(100.5MHz,r.t.,C
6D
6):
δ21.37(1°, -Me), 23.79(1°, -Me), 32.11(3°), 32.57(3°), 42.08(3°), 46.61(4°, >C<), 48.20(3°), 48.81(2°, -CH
2-), 48.97(1°, -OMe), 56.13(4°, >C<), 72.50(3°, =CH-), 73.23(3°, =CH-), 80.17(4°, =C<), 89.22(3°, =CH-), 90.00(3°, =CH-), 104.24(4°, =C<), 104.55(4°, =C<), 125.53(3°, =CH-), 125.71(3°, =CH-),125.97(3°, =CH-), 127.13(3°, 2C, -Ph(o or m)), 127.47(3°,from dept135 =CH-), 128.28(3°,from dept135 -Ph(p)), 132.77(3°, 2C, -Ph(m or o)), 144.72(4°, -Ph(i))
【0230】
〔(1−2−4) 2−フェニル置換ビシクロ[2.2.2]オクタジエンをもつナフタレンルテニウム(0)錯体の元素分析〕
元素分析により得られた△-Ru(acac)
2((-)-8-methoxy-1,8-dimethyl-2-phenyl bicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)の元素分析の分析結果は次のとおりである。
calcd for C
27H
34O
5Ru
C, 60.10; H, 6.35; O, 14.82; Ru, 18.73%
Found : C, 59.62; H, 6.44%
【0231】
〔(1−2−5) 2位に水素を持つビシクロ[2.2.2]オクタジエンをもつナフタレンルテニウム(0)錯体の合成〕(キラルビシクロオクタジエン錯体の合成)
ビシクロ[2.2.2]オクタジエンを用い、錯体を合成した。
【0232】
配位子の合成は、E. M. Carreira et al. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 1628. およびS. Darses et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 7669.の方法を用いた。この系においては、交差二量化反応は、進行はしたものの収率、選択性共に低い結果となった。
【0233】
この結果を受け、二重結合上のPh基の立体障害が強すぎるため、反応が進行しなくなっているのではないかと考え、二重結合上に置換基を持たない配位子を合成した。
【0234】
1−2−5a)(R)-(-)カルボンの臭素化反応
J. Chem. Soc. Perkin. Trans. I 1996. 1305.に従って合成した。
200mlシュレンク管にMeOH 30 ml, CH
2Cl
245 ml, (-)-carvone 7.5 ml, 48 mmolを入れ、0℃に冷却した後、N-ブロモスクシンイミドを10.1697 g, 57.140 mmol を加えた。全て加え終わった後、室温まで昇温し、22時間反応させた。反応後、CH
2Cl
280 mlを加え、0.5M NaOHaq 100 mlおよび食塩水100 mlにより洗浄、有機層をNa
2SO
4により乾燥し、エバポレーターにより濃縮した。得られた黄色のオイルをシリカゲルカラム(ヘキサン:酢酸エチル=10:1)により精製し、淡黄色のオイルとして目的物を9.8302g、37.641mmol、78%の収率で得た。
【0235】
1−2−5b)臭素化した(R)-(-)カルボンの環化反応
500mlシュレンク管に、bromocarvoneを9.8343g(37.641mmol)、
tBuOHを100ml、THFを120ml入れ、0℃に冷却した後、
tBuOK 5.0022g(44.6mmol〔1.2eq〕)を少しずつ加えた。
tBuOKを全量加え終わった後、0℃で10分間撹拌し、その後室温まで昇温して18時間反応させた。反応後、酸性食塩水(飽和食塩水:1M HCl=1:1)50mlを加え、溶液をクエンチし、Et
2Oを50ml加えた後に分液した。有機層を酸性食塩水(食塩水:1M HCl=1:1)50mlで2回洗浄し、その後NaSO
4で乾燥し、濃縮したところ黄色のオイルとして粗生成物を得た。このオイルをシリカゲルカラム(ヘキサン:酢酸エチル=5:1)で精製し、無色のオイルとして、(1S
*,4S
*,8R
*)-1,8-dimethyl-8-methoxybicyclo[2.2.2]oct-5-en-2-oneを2.5384g(14.084mmol)、収率37%で、(1S
*,4S
*,8S
*)-1,8-dimethyl-8-methoxybicyclo[2.2.2]oct-5-en-2-oneを1.8723g(10.388mmol)、収率28%で、それぞれ得た。
【0236】
1H NMR(400MHz,r.t.,DMSO−d
6):
δ1.08(s, 6H, -Me×2), 1.29(d, J = 13.2 Hz, 1H, -CH
2-), 1.39 (d, J = 13.2 Hz, 1H, -CH
2-), 1.79(dd, J = 17.8, 2.9 Hz, 1H, -CH
2-), 2.37 (s, 3H, -Me), 2.42(dd, J = 17.8, 2.3 Hz, 1H, -CH
2-), 2.82(m, bridgehead), 3.04(s, 3H, -OMe), 5.86(d, J = 7.5 Hz, 1H, =CH-), 6.30(d, J = 6.9 Hz, 1H, =CH-), 7.38(d, J = 8.6 Hz, 1H, Ts), 7.71(d, J = 8.0 Hz, 1H, Ts), 9.73 (s, 1H, -NH-)
【0237】
1−2−5c)−キラル触媒前駆体の合成−
1−2−5c−1)(1S,4S,8R)-1,8-dimethyl-8-methylbicyclo[2.2.2]octa-5-ene-2-oneのヒドラゾン化
【0238】
【化38】
【0239】
25mlシュレンク管に、(1S,4S,8R)-1,8-dimethyl-8-methoxybicyclo[2.2.2]oct-5-en-2-oneを189.3mg(1.050mmol)、EtOHを3ml、TsNHNH
2を208.2mg(1.118mmol)入れ、4時間加熱還流し、反応させた。反応後、室温まで冷却し、1ml程度まで濃縮、シリカゲルカラムによって精製した(ヘキサン/酢酸エチル=5/1〜1/1)。生成物のフラクションを集め、濃縮、真空乾燥したところ、無色のオイル〜白色の半固体として、目的生成物を343.9mg(0.9838mmol)、94%の収率で得た。生成物の同定はNMRにより行った。
【0240】
1H NMR(400MHz,r.t.,DMSO−d
6):
δ1.08(s, 6H, -Me×2), 1.29(d, J = 13.2 Hz, 1H, -CH
2-), 1.39 (d, J = 13.2 Hz, 1H, -CH
2-), 1.79(dd, J = 17.8, 2.9 Hz, 1H, -CH
2-), 2.37 (s, 3H, -Me), 2.42(dd, J = 17.8, 2.3 Hz, 1H, -CH
2-), 2.82(m, bridgehead), 3.04(s, 3H, -OMe), 5.86(d, J = 7.5 Hz, 1H, =CH-), 6.30(d, J = 6.9 Hz, 1H, =CH-), 7.38(d, J = 8.6 Hz, 1H, Ts), 7.71(d, J = 8.0 Hz, 1H, Ts), 9.73 (s, 1H, -NH-)
【0241】
1−2−5c−2)(8R)-1,8-dimethyl-8-methylbicyclo[2.2.2]octa-2,5-dieneの合成
【0242】
【化39】
【0243】
25mlシュレンク管に
iPr
2NHを1ml、およびTMEDAを6ml入れ、0℃に冷却した後、BuLi/ヘキサン溶液(ca.2.6M)を1.2ml(ca.3.1mmol)ゆっくりと加え、撹拌した。その後、先に合成したヒドラゾン〔332.9mg(0.9554mmol)〕を少しずつ加え、暫く撹拌した後、室温まで昇温し、一晩反応させた。
反応後、0℃に冷却し、反応物に、NH
4Claq(3ml)と、H
2O(3ml)を注意深く加えクエンチした。反応溶液は淡黄色の水層と無色の有機層に分かれた。溶液を分液し、水層をペンタンで抽出した(5ml×3)。合わせた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後、エバポレーターで濃縮したところ、淡黄色のオイルが859.4mg得られた。淡黄色のオイルをシリカゲル/ペンタンカラムにより精製したところ、無色のオイルとして、(1S,4S,8R)-1,8-dimethyl-8-methylbicyclo[2.2.2]octa-2,5-dieneを86.8mg(0.5259mmol)、収率55%で得た。生成物の同定は、GCおよびNMRにより行った。
【0244】
1H NMR(400MHz,r.t.,CDCl
3):
δ1.21(overlapped with -Me, 1H, -CH
2-), 1.21(s, 3H, -Me), 1.37(d, J = 11.5 Hz, 1H, -CH
2-), 1.43(s, 3H, -Me), 3.16(s, 3H, -OMe), 3.58(tt, J = 5.7, 1.7 Hz, 1H, bridgehead >CH-), 6.05(d, J = 6.9 Hz, 1H, =CH-), 6.18(dd, J = 6.8, 1.1 Hz, 1H, =CH-), 6.24(t, J = 6.8 Hz, 1H, =CH-), 6.33(dd, J = 7.4, 5.7 Hz, 1H, =CH-)
【0245】
1−2−5c−3)Ru(acac)
2((8R)-1,8-dimethyl-8-methylbicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)の合成
【0246】
【化40】
【0247】
25mlシュレンク管に、THFを5ml、(8R)-1,8-dimethyl-8-methylbicyclo[2.2.2]octa-2,5-dieneを104.3mg(79wt%/ペンタン)(0.4991mmol)、それぞれ入れ、凍結脱気した。その後、H
2O(3滴)、Ru(acac)
3(190.8mg、0.4789mmol)、および亜鉛粉末309.4mgを加え、一晩撹拌した後、4時間還流し、反応させた。反応後、溶液を室温まで放冷し、亜鉛をろ別し、さらにアルミナカラムを通した後、ろ液を、エバポレーターを用いて濃縮し、黄色のオイルとして粗生成物を305.7mg得た。粗生成物をシリカゲルカラム(ヘキサン/酢酸エチル=10/1〜1/1)により精製し、濃縮した後、真空乾燥を行った。橙色のオイルとして、目的物Ru(acac)
2((8R)-1,8-dimethyl-8-methoxybicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)を216.0mg(0.4660mmol)、粗収率97%で得た。
【0248】
1−2−5c−4)Ru(naphthalene)((8R)-1,8-dimethyl-8-methoxybicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)の合成
【0249】
【化41】
【0250】
25mlシュレンク管に、Ru(acac)
2((8R)-1,8-dimethyl-8-methoxybicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)を208.7mg(0.4503mmol)入れ、THFを5ml加え、撹拌した。その後、混合物を−78℃に冷却し、ナトリウムナフタレン〔ナフタレン(181.9mg,1.419mmol)、Na(122mg)、およびTHF(10ml)を、窒素下で3時間撹拌し、作製したもの〕をゆっくり滴下して加えた。さらに、−78℃で2時間反応させた後、室温で17時間反応させた。溶液をアルミナカラムによりろ過し、濃縮したところ、茶色の粉末が得られた。真空乾燥後、得られた茶色の粉末をTHF(1ml)に溶解させ、ろ過後ヘキサン5mlを加え、−72℃で再結晶をおこなった。析出した固体をろ別し、ヘキサンで洗浄し(1ml×3)、真空乾燥を行ったところ、茶色粉末として、Ru(naphthalene)((8R)-1,8-dimethyl-8-methoxybicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)を、53.8mg(0.137mmol)、30%の収率で得た。
【0251】
得られたRu(naphthalene)((8R)-1,8-dimethyl-8-methoxybicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)をNMRで同定した。同定結果は次の通りである。
【0252】
1H NMR(400MHz,r.t.,C
6D
6):
δ0.79(d, J = 13.5 Hz, 1H, -CH
2-), 0.98(s, 3H, -Me), 1.00(s, 3H, -Me), 1.27(d, J = 13.5 Hz, 1H, -CH
2-), 2.17(d, J = 5.2 Hz, 1H, =CH-), 2.41(d, J = 4.6 Hz, 1H, =CH-), 2.64(t, J = 5.2 Hz, 1H, =CH-), 2.9-3.0(m, 2H, =CH-, >CH-), 3.02(s, 3H, -OMe), 4.32(m, 2H, coord. naphthalene), 5.65(m, 2H, coord. naphthalene), 7.07-7.12(m, 2H, uncoord. naphthalene), 7.13-7.18(m, 2H, uncoord. naphthalene),
【0253】
13C NMR(100MHz,r.t.,C
6D
6):
δ21.70, 23.62, 30.46, 32.76, 39.52, 40.67, 42.54, 47.58, 49.00, 50.75, 72.06, 72.23, 80.22, 87.66, 87.79, 103.06, 103.13, 125.37, 125.42, 126.58, 126.67
【0254】
(実施例1−3)
実施例1−1および実施例1−2と同様に、環状ジエン配位子とアセチルアセトナト配位子とを有する各種のルテニウム錯体を合成した。
以下、詳細を説明する。
【0255】
1−3−1) Ru(acac)
2(bicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)の合成
【0256】
【化42】
【0257】
25mlシュレンク管に、bicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene 91.4mg〔0.8797mmol〕、THF 8ml、Ru(acac)
3 331.1mg〔0.8311mmol〕、亜鉛粉末 522.4mg、および、H
2O 4滴を加えた。溶液を終夜撹拌した後、4時間還流したところ、溶液は、初め赤茶色であったが、還流後1時間程度で黄色になった。反応後、溶液を室温まで放冷し、亜鉛をアルミナショートカラムでろ別した。ろ液をエバポレーターを用いて濃縮し、真空乾燥したところ、粗生成物として橙色の粉末を291.1mg得た。得られた粉末に40℃程度のアセトンを3.5ml加え、良く撹拌した後、ろ過し、液体を−20℃のフリーザーに入れ静置したところ、黄色の針状晶として、Ru(acac)
2(bod)が237.1mg(0.5848mmol)、70%の収率で得られた。生成物の同定はNMRを用いて行った。
二次晶は、30.0mg(0.0740mmol)、収率9%で得られた。
【0258】
1H NMR (400 MHz, r.t., CDCl
3): δ1.24(m, 4H, -CH
2-), 1.87(s, 6H, acac-Me), 2.18(s, 6H, acac-Me), 3.62(m, 2H, bridgehead), 4.02(t, J = 6.3 Hz, 2H, =CH-), 4.21(t, J = 6.3 Hz, 2H, =CH-), 5.31(br.s, J = 8.6 Hz, 4H, Ar), 5.32(br.s, 2H, acac-γ)
【0259】
1−3−2) Ru(acac)
2(2-methylbicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)の合成
【0260】
【化43】
【0261】
同様にして、2-methylbicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene 100.0mg〔0.8320mmol〕と、Ru(acac)
3 315.6mg〔0.7922mmol〕と、の反応により、黄色の粉末として、Ru(acac)
2(Me-bod)が、112.9mg〔0.2691mmol〕、34%の収率で得られた。この錯体は、NMR、元素分析、および単結晶X線構造解析により同定した。
【0262】
1H NMR (400 MHz, r.t., CDCl
3): δ1.20(m, 4H, -CH
2-), 1.43(s, 3H, bod-Me), 1.84(s, 3H, acac-Me), 1.86(s, 3H, acac-Me), 2.17(s, 3H, acac-Me), 2.18(s, 3H, acac-Me), 3.34(d, J = 5.2 Hz, 1H, =CH-), 3.57(m, 2H, >CH-(bod bridgehead)), 3.96(t, J = 6.9 Hz, 1H, =CH-), 4.19(m, 1H, =CH-), 5.31(br.s, 2H, acac-γ-H).
E.A. calcd for RuC
19H
26O
4 :C, 54.40; H, 6.25% Found : C, 54.82; H,6.34%.
【0263】
1−3−3) Ru(acac)
2(dbcot)の合成(参考例)
【0264】
【化44】
【0265】
同様にして、上記のdbcot 428.8mg〔2.099mmol(1.05eq.)〕と、Ru(acac)
3 796.8mg〔2.000mmol〕と、の反応により、黄色の針状晶としてRu(acac)
2(dbcot)を、547.5mg〔1.269mmol〕、63%の収率で得た。二次晶は、183.8mg、収率21%で得られた。生成物の同定はNMRおよび元素分析により行った。
【0266】
1H NMR (400 MHz, r.t., CDCl
3): δ1.87(s, 6H, acac-Me), 1.96(s, 6H, acac-Me), 4.93(d, J = 9.2 Hz, 2H, =CH-), 5.11(d, J = 9.2 Hz, 2H, =CH-), 5.35(br.s, 2H, acac-γ), 6.86-6.92(m, 6H,aromatics), 7.01(m, 2H, aromatics).
13C NMR (100.5 MHz, r.t., CDCl
3): δ27.45(-Me), 28.16(-Me), 91.03(=CH-), 94.99(=CH-), 98.59(acac-γ), 125.48, 125.54, 126.80, 128.08, 143.98, 144.08, 186.57(>C=O), 187.01(>C=O).
E.A. calcd for RuC
26H
26O
4 :C, 62.02; H, 5.20% Found : C, 61.89; H,5.19%.
【0267】
なお、dbcotは、不斉炭素を持たないため、キラルな配位子ではない。このため、上記のRu(acac)
2(dbcot)は、本発明の触媒前駆体には該当しない。よって、上記のRu(acac)
2(dbcot)の合成は、「参考例」である。
しかし、dbcot中の8員環に含まれる4つの水素原子のうちの少なくとも1つが、置換基(アルキル基、アリール基など)によって置換された化合物(以下、「配位子X」とする)は、不斉炭素を有する。この場合、置換基と結合している炭素が不斉炭素である。かかる配位子Xは、公知の手法によって合成できる。
従って、上述したRu(acac)
2(dbcot)の合成において、dbcotを配位子Xに置き換えることにより、本発明の触媒前駆体に該当するキラル触媒前駆体を合成できることが期待される。
即ち、Ru(acac)
2(dbcot)中のdbcotを、上述した配位子Xに置き換えたキラル触媒前駆体は、本発明の触媒前駆体に該当する。
【0268】
1−3−4) Ru(acac)
2(tropp
Ph)の合成
【0269】
【化45】
【0270】
同様にして、上記のtropp
Ph 1.1854g〔3.1491mmol(1.05eq.〕と、Ru(acac)
3 1.2087g〔3.0340mmol〕と、の反応により、黄色の板状晶としてRu(acac)
2(tropp
Ph)を、1.6503g〔2.4423mmol〕、80%の収率で得た。同定はNMRおよび元素分析により行った。
【0271】
1H NMR (400 MHz, r.t., CDCl
3): δ1.59(s, 3H, -Me), 1.60(s, 3H, -Me), 1.76(s, 3H, -Me), 2.02(s, 3H, -Me), 4.76(s, 1H, acac-γ-H), 4.94(d, J = 10.3 Hz, 1H, =CH-), 5.04(d, JP-H = 13.8 Hz, 1H, >CH-PPh
2), 5.31(s, 1H, acac-γ-H), 5.44(d, J = 10.3 Hz, 1H, =CH-), 6.08(t, J = 8.0 Hz, 2H, aromatics), 6.80(m, 2H, aromatics), 6.93(m, 2H, aromatics), 7.01(m, 1H, aromatics), 7.07(m, 3H, aromatics), 7.13(m, 1H, aromatics), 7.2-7.3(m, 4H, aromatics), 7.65(d, J = 7.5 Hz, 1H, aromatics), 7.83(m, 2H, aromatics).
31P{
1H} NMR (161.8 MHz, r.t., CDCl
3): δ89.52.
E.A. calcd for RuC
37H
35O
4P :C, 65.77; H, 5.22% Found : C, 65.78; H,5.27%.
【0272】
1−3−5) Ru(acac)
2(2,5-dimethyl-7,8-(tetrafluorobenzo)bicyclo[2.2.2]octatriene)の合成
【0273】
【化46】
【0274】
同様にして、2,5-dimethyl-7,8-(tetrafluorobenzo)bicyclo[2.2.2]octatriene 275.8mg〔1.085mmol〕と、Ru(acac)
3 410.4mg〔1.030mmol〕と、の反応により、黄色の針状晶としてRu(acac)
2(2,3-(tetrafluorobenzo)bicyclo[2.2.2]octatriene)が、448.0mg〔0.8094mmol〕、79%の収率で得られた。生成物はジアステレオマーの混合物であり、(major : minor = 85 : 15)であった。生成物の同定はNMRおよび元素分析によって行った。
【0275】
−ジアステレオマーの主生成物−
1H NMR (400 MHz, r.t., CDCl
3), major diastereomer: δ1.48(s, 6H, -Me), 1.86(s, 6H, acac-Me), 2.25(s, 6H, acac-Me), 3.69(d, J = 6.9 Hz, 2H, =CH-), 4.79(d, J = 5.8 Hz, 2H, >CH-(bridgehead)), 5.35(s, 2H, acac-γ-H).
13C NMR (100 MHz, r.t., CDCl
3), major diastereomer:: δ17.47(-Me), 27.14(acac-Me), 28.36(acac-Me), 47.51(bridgehead), 69.24(=CH-), 84.13(=C<), 99.30(acac-γ), 127.1-127.4(m, aromatic C), 186.57(acac- >C=O), 187.10(acac- >C=O).
【0276】
−ジアステレオマーのマイナー生成物−
1H NMR (400 MHz, r.t., CDCl
3), minor diastereomer: δ1.21(s, 6H, -Me), 1.88(s, 6H, acac-Me), 2.28(s, 6H, acac-Me), 4.13(d, J = 5.2 Hz, 2H, =CH-), 4.97(d, J = 5.2 Hz, 2H, >CH-(bridgehead)), 5.34(s, 2H, acac-γ-H) .
13C NMR (100 MHz, r.t., CDCl3), minor diastereomer:: δ18.35(-Me), 27.18(acac-Me), 28.30(acac-Me), 47.39(bridgehead), 71.59(=CH-), 85.18(=C<), 98.74(acac-γ), 127.1-127.4(m, aromatic C), 186.40(acac- >C=O), 187.41(acac- >C=O).
【0277】
E.A. calcd for RuC
24H
24F
4O
4 :C, 52.08; H, 4.37% Found : C, 51.81; H, 4.54%.
【0278】
(実施例1−4)
実施例1−1および実施例1−2と同様に、環状ジエン配位子とナフタレン配位子とを有する各種のルテニウム錯体を合成した。
ここで、環状ジエン配位子とナフタレン配位子とを有する各種のルテニウム錯体は、実施例1−3で合成した、環状ジエン配位子とアセチルアセトナト配位子とを有する各種のルテニウム錯体を用いて合成した。
以下、詳細を説明する。
【0279】
1−4−1) Ru(naphthalene)(bicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)の合成
【0280】
【化47】
【0281】
50mlシュレンク管に、実施例1−3で合成したRu(acac)
2(bicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene) 230.5mg〔0.5685mmol〕を入れ、THF 5mlを加えて撹拌した後、−78℃に冷却し、ナトリウムナフタレン〔ナフタレン(232.7mg,1.815mmol)、Na(170mg)、およびTHF(10ml)を、窒素下で3時間撹拌し、作製したもの〕を約10分間かけて滴下し、−78℃で2時間反応させた後、室温で2時間反応させた。溶液をアルミナカラムによりろ過し、濃縮したところ、暗橙色の固体が得られた。濃縮後、真空乾燥し、オイル拡散ポンプによってナフタレンの除去を行った。その後、THF/ヘキサン系での再結晶を試みたが、うまくいかなかったため、溶媒留去後、ヘキサン 5mlに溶解させ、ろ過後−63℃(deep freezer)で再結晶を行った。得られた固形物をろ別、真空乾燥したところ、黒茶色の粉末として、Ru(naphthalene)(bicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)を、80.9mg〔0.241mmol〕、42%の収率で得た。生成物の同定はNMR、元素分析および単結晶X線構造解析により行った。
【0282】
1H NMR (400 MHz, r.t., C
6D
6): δ1.08(m, 4H, -CH
2-), 2.80(dd, J = 2.3, 4.6 Hz, 4H, =CH-), 2.89(m, 2H, >CH-(bod bridgehead)), 4.34(dd(AA’BB‘), J = 2.3, 4.0 Hz, 2H, coord. naphthalene), 5.68(dd(AA’BB‘), J = 2.3, 4.6 Hz, 2H, coord. naphthalene), 7.10-7.14(m, 2H, uncoord. naphthalene), 7.16-7.20(m, 2H, uncoord. naphthalene).
E.A. calcd for RuC
18H
18 :C, 64.46; H, 5.97% Found : C, 63.93; H,5.62%.
【0283】
1−4−2) Ru(naphthalene)(2-mehtyl bicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)の合成
【0284】
【化48】
【0285】
同様にして、実施例1−3で合成したRu(acac)
2(2-methylbicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene) 199.8mg〔0.4763mmol〕と、ナトリウムナフタレン〔ナフタレン(184.4mg,1.439mmol)、Na(130mg)、およびTHF(10ml)を、窒素下で3時間撹拌し、作製したもの)と、の反応により、茶色の粉末として、Ru(naphthalene)(2-mehtyl bicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)を、78.1mg〔0.224mmol(収率47%)〕得た。錯体の同定は、NMRおよび元素分析によって行った。
【0286】
1H NMR (400 MHz, r.t., C
6D
6): δ1.0-1.2(m, 4H, bridge −CH
2-), 1.50(s, 3H, bod-Me), 2.64(d, J = 5.8 Hz, 1H, =CH-), 2.74(m, 1H, bridgehead), 2.78(t, J = 5.2 Hz, 1H, =CH-), 2.83(t, J = 5.2 Hz, 1H, =CH-), 2.90(m, 1H, bridgehead), 4.34(d, J = 5.2 Hz, 1H, coord. naphthalene), 4.39(d, J = 5.2 Hz, 1H, coord. naphthalene), 5.50(t, J = 5.7 Hz, 1H, coord. naphthalene), 5.78(t, J = 5.7 Hz, 1H, coord. naphthalene), 7.08-7.18(m, 3H, uncoord. naohthalene), 7.21(d, J = 8.0 Hz, 1H, uncoord. naphthalene).
13C NMR (100 MHz, r.t., C
6D
6): δ22.79, 25.85, 28.86, 33.19, 33.66, 37.82, 39.65, 43.85, 48.61, 71.20, 71.54, 87.96, 89.19, 103.71, 104.37, 125.19, 125.34, 126.41, 126.67.
E.A. calcd for RuC
19H
20 :C, 65.31; H, 5.77% Found : C, 63.49; H,5.85%.
【0287】
1−4−3) Ru(naphthalene)(dbcot)の合成(参考例)
【0288】
【化49】
【0289】
同様にして、実施例1−3で合成したRu(acac)
2(dbcot) 974.2mg〔1.935mmol〕と、ナトリウムナフタレン〔ナフタレン(1.0006g,7.8062mmol)、Na(503mg)、およびTHF(10ml)を、窒素下で3時間撹拌し、作製したもの)と、の反応により、黄土色の柱状晶としてRu(naphthalene)(dbcot)・0.25THFが237.4mg〔0.4695mmol〕、24%の収率で得られた。化合物の同定はNMRおよび元素分析により行った。
なお、上述したとおり、Ru(naphthalene)(dbcot)中のdbcotを、上述した配位子X(即ち、dbcot中の8員環に含まれる4つの水素原子のうちの少なくとも1つが、置換基(アルキル基、アリール基など)によって置換された化合物)に置き換えた触媒前駆体は、キラル触媒前駆体であり、本発明の触媒前駆体に該当する。
【0290】
1H NMR (400 MHz, r.t., C
6D
6): δ4.30(s, 4H, =CH-), 4.37(m(AA’BB‘), 2H, coord. naphthalene), 5.60(m(AA’BB‘), 2H, coord. naphthalene), 6.70(m(AA’BB‘), 4H, ligand), 6.88(m(AA’BB‘), 2H, uncoord. naphthalene), 6.91(m(AA’BB‘), 4H, ligand), 7.04(m(AA’BB‘), 2H, uncoord. naphthalene).
13C NMR (100.5 MHz, r.t., C
6D
6): δ66.57(=CH-), 77.53(coord. naphthalene), 93.85(coord. naphthalene), 107.03(naphthalene, 4°), 124.98(ligand), 126.75(ligand), 127.16(uncoord. naphthalene), 128.00(uncoord. naphthalene), 148.93(ligand, 4°).
E.A. calcd for RuC
26H
20(C
4H
8O)
0.25:C, 71.82; H, 4.91% Found : C, 71.53; H,5.22%.
【0291】
1−4−4) Ru(naphthalene)(tropp
Ph)の合成
【0292】
【化50】
【0293】
同様にして、実施例1−3で合成したRu(acac)
2(tropp
Ph) 1.5824g〔2.3418mmol〕と、ナトリウムナフタレン〔ナフタレン(917.1mg,7.155mmol)、Na(546.3mg)、およびTHF(10ml)を、窒素下で3時間撹拌し、作製したもの)と、の反応により暗茶色の粉末として、Ru(naphthalene)(tropp
Ph)・0.25THFを、251.9mg〔0.4039mmol〕、17%の収率で得た。化合物の同定はNMRおよび元素分析により行った。
【0294】
1H NMR (400 MHz, r.t., C
6D
6): δ4.10(s, 2H, =CH-), 4.44(d, JP-H = 13.2 Hz, 1H, >CH-PPh
2), 4.63(m, 2H, coord. naphthalene), 5.44(m, 2H, coord. naphthalene), 6.61(d, J = 6.9 Hz, 2H, aromatics), 6.72(t, J = 7.5 Hz, 2H, aromatics), 6.78(m, 2H, aromatics), 6.88(m, 2H, aromatics), 6.92-7.06(m, 12H, aromatics), 7.31(d, J = 7.5 Hz, 2H, aromatics).
31P NMR (161.8 MHz, r.t., C
6D
6): δ105.64.
E.A. calcd for RuC
37H
29P(C
4H
8O)
0.25:C, 73.18; H, 5.01% Found : C, 74.43; H,5.56%.
【0295】
<実施例2>(不斉鎖状化合物の合成)
(実施例2−1)
〔(2−1−1)モノメチルビシクロ[3.3.1]ノナジエンをもつナフタレンルテニウム(0)錯体によるメタクリル酸メチルとジヒドロフランとの不斉鎖状交差二量化〕
2−1−1a)Ru(naphthalene)((S,S)-Me-bnd)によるMMAと2,5-dihydrofuranとの交差二量化反応
実施例1−1において速度論的分割を経由して合成されたキラル触媒前駆体である、触媒前駆体2b(以下、「触媒前駆体(S,S)−2b」ともいう)(即ち、Ru(naphthalene)((S,S)-Me-bnd))を用い、次の合成スキーム2のようにして、不斉鎖状化合物を合成した。以下、詳細を説明する。
【0296】
【化51】
【0297】
25mlシュレンク管に、Ru(naphthalene)((S,S)-Me-bnd)(98.4%ee)37.7mg〔0.1037 mmol〕とMMA(メタクリル酸メチル)を110μl〔1.04 mmol〕、および2,5-dihydrofuranを780μl〔10.3mmol〕(10eq.)を加えた。室温で数分撹拌し、触媒前駆体2bを溶解させた後、20℃の恒温槽を用いて7日間反応させて、不斉鎖状二量化を行った。反応後、内部基準としてビフェニルを220 mg加え、良く撹拌したのちGCにより収率を求めた。主生成物の収率は74%であり、鎖状交差二量体の合計収率は83%であった。
【0298】
反応溶液を濃縮後、シリカゲルカラムにより精製した。この際の展開溶媒は、ヘキサン:酢酸エチル=5:1(体積比)の混合溶媒を用いた。
カラム精製により無色のオイルとして、交差二量体E体のaを純度97%で95.3mg得た。この単離収率は54%であった。
【0299】
得られた交差二量体E体(a)のオイルを、ヘキサン/IPA=80/20〔体積比〕を用いて、5mL/Lに薄め、液体クロマトグラフィ(LC)〔CHIRALPAK IC〕を用いて光学純度を測定した。主生成物であるE−aの光学純度は80%eeであった。(bのピークの光学純度は84%eeであった。)
【0300】
2−1−1b)液体クロマトグラフィによる分析結果
液体クロマトグラフィにより分析した結果を、
図6に示す。
図6は、(S,S)体のキラル触媒前駆体2bを用いて生成物を得たときの、生成物の分析結果である。
なお、測定条件は、次のとおりである。
Column: CHIRALPAK IC
Eluent: Hex / IPA = 90/10 [v/v]
Flow Rate: 1 mL/min
Temp: 32 °C
Det.: 254 nm(UV)
Injection: 5μl (5g/L in Hex / IPA = 80/20)
【0301】
単離したキラルなE体の化合物aの旋光度を測定したところ[α]
20D =−13.7°(C=0.59、80%ee、CHCl
3)であった。
【0302】
【化52】
【0303】
20mlナスフラスコに単離したキラルなE体の化合物a(53.4mg,0.30mmol)をメタノール2mlに溶解し、水1mlに溶解した水酸化リチウム(41.6mg,0.991mmol)を加え、50℃で5時間反応させた。その後、塩酸により酸性溶液とし、塩化メチレンにより抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥した後に溶媒を留去し、無色のオイルを53.8mg得た。このオイルを塩化メチレン4mlに溶解し、2−ナフトール(40.5mg,0.281mmol)および4−ジメチルアミノピリジン(1.7mg、0.014mmol)を加え、0℃でN,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(52.5μl、0.335mmol)を加え、室温で5時間反応させた。反応溶液を濃縮し、ヘキサン:酢酸エチル(5:1(体積比))の混合溶媒を用いてシリカゲルカラム精製を行った。得られた留分を溶媒留去後、エーテル200μlとヘキサン1.2mlを用いて再結晶したところ白色針状結晶として純粋なナフチルエステルを36.6mg,0.130mmol、単離収率43%で得た。
【0304】
1H NMR (400MHz,r.t.,CDCl
3):
δ1.82 (dq, J = 12.0, 8.0, 1H, -CH
2-), 2.02(s, 3H, -Me), 2.23(ddt, J = 12.6, 4.6, 7.5 Hz, 1H, -CH
2-), 3.25(dquintet, J = 8.0, 7.5 Hz, 1H, -CH<), 3.55(dd, J = 8.0, 7.5 Hz, 1H, -OCH
2-), 3.86(q, J = 8.6 Hz, 1H, -OCH
2-), 3.97(dt, J = 4.6, 8.6 Hz, 1H, -OCH
2-), 4.01(dd, J = 8.6, 7.5 Hz, 1H, -OCH
2-), 6.97(dq, J = 9.7, 1.7 Hz, 1H, -CH=), 7.23(dd, J = 8.6, 2.3 Hz, 1H), 7.46(m, 2H), 7.56(d, J = 2.3 Hz, 1H), 7.76-7.86(m, 3H).
【0305】
この分光学的に純粋なナフチルエステルをメタノール/塩化メチレン溶液中でオゾン分解により分解し、methyl tetrahydro-3-furoateに誘導した。化合物の同定はJ.Org.Chem.,1997,62,4285との比較により行った。
【0306】
得られたmethyl tetrahydro-3-furoateを用いてメタノール中で旋光度を測定したところ、[α]
18D=−20.3°(c=0.12,MeOH)であった。
【0307】
J. Org. Chem., 1997, 62, 4285には、R体のmethyl tetrahydro-3-furoateが(+)の旋光度[α]
22D=+14.1°(c=1.12,63%ee、MeOH)を示すと記載されている。今回合成されたmethyl tetrahydro-3-furoateは、(−)の旋光度を持つことからS体である。従って、(S,S)体のキラル触媒前駆体2bにより不斉合成されたキラルなE体の化合物aの絶対構造はR体であると判明した。
【0308】
(実施例2−2)
〔(2−2−1)2-フェニル置換ビシクロ[2.2.2]オクタジエンをもつナフタレンルテニウム(0)錯体によるメタクリル酸メチルとジヒドロフランの不斉鎖状交差二量化〕
2−2−1a)Ru(naphthalene)((-)-8-methoxy-1,8-dimethyl-2-phenyl bicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)によるMMAと2,5-dihydrofuranの交差二量化反応
【0309】
【化53】
【0310】
25mlシュレンク管に、Ru(naphthalene)((-)-8-methoxy-1,8-dimethyl-2-phenyl bicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene) (mixture of Ru(naphthalene)(diene) Ru
2(naphthalene)(diene)
2) 12.2 mg, 0.0272 mmol(based on Ru)を入れた。シュレンク管に、さらに、MMA〔55μl、0.52mmol〕および2,5−dihydrofuran〔390μl、5.16mmol〕を、凍結脱気後、trap−to−trapで加えた。混合物を良く撹拌した後、30℃で1日反応させた。反応後、biphenyl〔11.9mg〕を加え、良く撹拌した後、GCにより収率の測定を行った。また、2,5−ジヒドロフランは、1日経過した時点でほぼすべて2,3−ジヒドロフランに異性化していた。
【0311】
2−2−1b)Ru(naphthalene)((-)-8-methoxy-1,8-dimethyl-2-phenyl bicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)、MMA、2,5-dihydrofuran、およびMeCNの化学量論反応
【0312】
【化54】
【0313】
NMR管に、Ru(naphthalene)((-)-8-methoxy-1,8-dimethyl-2-phenyl bicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene) (mixture of Ru(naphthalene)(diene) Ru
2(naphthalene)(diene)
2) 6.3 mg, 0.014 mmol(based on Ru)、および、重ベンゼン500μlを入れた。さらに、マイクロシリンジを用いて、NMR管に、MeCN〔0.8μl、0.015mmol〕、MMA〔1.6μl、0.015mmol〕、および、2,5−dihydrofuran〔2.0μl、0.026mmol〕を加えた。基質を加えた後、NMRで、混合物を測定し、試薬が概ね予定した量入っているのを確認した後、混合物を、30℃で加熱し、反応させた。反応を開始してから2時間後と、39時間後の反応物について、それぞれNMRで測定し、どのような反応が進行しているかを確認した。
【0314】
反応は、基質投入直後に、Ru
2(naphthalene)(diene)
2のピークが消失し、わずかに新しいピークが見られた。反応後2時間では、約30%程度が反応しており、反応後39時間では、ほぼ完全に原料錯体は消失し、新しい錯体らしきピークが見られた。また、アセトニトリルを表すピークがやや高磁場側にシフトした他は、あまり変わらなかった。具体的には、MMAを表すピークはほぼそのまま残っており、2,5−ジヒドロフランを表すピークは消失したもののほぼ定量的に2,3−ジヒドロフランを表すピークが見られた。
錯体自体は、配位しているとみられるキラルジエンのピークのみがみられ、それが1種しかないことから、MeCNの配位の可能性はあるものの、想定される種の空の配位座との量論比からみて重ベンゼンが配位しているのではないかと推測される。
【0315】
<比較例1>(ラセミ触媒前駆体を用いた合成)
実施例1−1の触媒前駆体2b(即ち、キラル触媒前駆体である「触媒前駆体(S,S)−2b」)の合成において、キラル体である(S,S)-2-methyl bicyclo[3.3.1]nona-2,6-dioneを、ラセミ体である2-methyl bicyclo[3.3.1]nona-2,6-dioneに変更したこと以外は触媒前駆体2bの合成と同様にして、ラセミ触媒前駆体(後述する、(S,S)−2b:(R,R)−2b=1:1である混合物)を合成した。
次に、実施例2−1において、キラル触媒前駆体の代わりに、上記で得られたラセミ触媒前駆体を用いた他は同様にして、不斉鎖状化合物の合成を試みた。
得られた生成物について、実施例2−1と同様にして、液体クロマトグラフィにより分析した。結果を、
図7に示す。
図7は、ラセミ触媒前駆体を用いて生成物を得たときの、生成物の分析結果である。なお、液体クロマトグラフィによる測定条件は、実施例2−1と同様である。
【0316】
なお、実施例2−1で用いたキラル触媒前駆体〔(S,S)−2b〕と、比較例1で用いたラセミ触媒前駆体〔(S,S)−2b:(R,R)−2b=1:1である混合物〕の化学式を以下に示す。
【0317】
【化55】
【0318】
図6および
図7の分析結果に示されるように、本発明のキラル触媒前駆体を用いることにより合成反応の反応系で生じたキラル触媒を使用することで、片方の立体生成物が優先的に生成していることがわかる。
合成スキーム2に示されるように、化合物aは、二重結合に対してE体と、Z体の2種類の混合物として得られ、その割合は93:7である。すなわち、化合物aはほぼE体である。
反応生成物をキラルカラムで分離すると、このE体の化合物aのR体とS体に分離することができる。このため、
図6および
図7に示されるように、E体は2本のピーク(E−a)が現れる。
【0319】
また、
図6からわかるように、キラル触媒前駆体(S,S)−2bを使って合成反応を行った実施例2−1では、R体のピーク面積比率が大きくなり、R体が優先的に生成したことが分かる。
図6に示されるように、14.86分のS体のピークと、19.38分のR体のピークとが、両方とも化合物aのE体のピークであり、19.38分のR体のピークが大きくでている。このように、実施例2−1では、不斉合成ができたことを表す。
なお、14.86分のピークと、19.38分のピークとの面積比から、不斉収率を求めた。
図6および
図7において、各ピークの面積は、各図の下方の一覧に表示した。
【0320】
一方、
図7は、比較例1においてラセミ触媒前駆体を用いて合成反応を行った系の測定結果である。
図7に示される14.83分のピークおよび19.35分のピークは、化合物aのE体のそれぞれS体およびR体のピークであるが、各ピークの面積(エリア)は、図の下方の一覧からわかるように、ほとんど同じである。これは、すなわち、ラセミ触媒前駆体では、不斉誘導は行えないことを示している。
【0321】
実施例2−1および比較例1からわかるように、合成反応でキラル触媒を用いれば、14.8分のピークと19.3分のピークのうち、19.3分のエナンチオマーを優先的に合成することができる。
【0322】
したがって、本発明の触媒前駆体を用いれば、共役アルケンと非共役アルケンとから、容易に両者が二量化した不斉鎖状化合物が合成される。また、既述の非特許文献に記載される方法では、カップリングパートナーはエチレンのみで他の置換アルケンを用いることができない。
このように、本発明によれば、テルペノイド、アルカロイド、アミノ酸、幼若ホルモンなどの中間体を容易に合成することができるため、医薬品や生活活性物質の合成への適用が期待される。
【0323】
<実施例3>
実施例1−1〜1−3で合成したナフタレンルテニウム錯体(触媒前駆体)のうち、Ru(naphthalene)((S,S)-Me
2-bnd)、Ru(naphthalene)(tropp
Ph)、Ru(naphthalene)((8R)-1,8-dimethyl-8-methoxybicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)、Ru(naphthalene)(dbcot)、および、Ru(naphthalene)((-)-8-methoxy-1,8-dimethyl-2-phenyl bicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)をそれぞれ用い、下記の各種の二量化反応を行った。
以下に示すように、これらの触媒前駆体から生じた触媒も、交差二量化反応等の二量化反応に活性を有することが確認された。
なお、以下では、触媒前駆体を「cat.」と略称することがある。
【0324】
〔(3−1) Ru(naphthalene)((S,S)-Me
2-bnd)による、E-1,3-pentadieneとMAとの交差二量化反応〕
【0325】
【化56】
【0326】
25mlシュレンク管に、Ru(naphthalene)((S,S)-Me
2-bnd)を8.5mg〔0.025mmol〕、内部基準としてビフェニル10.2mgを入れ、toluene 1ml、1,3-pentadiene 50μl〔0.50mmol〕、MA 50μl〔0.56mmol〕を加えた。良く撹拌した後、70℃に加熱し8時間反応させた。反応後、GCを測定したところ、主生成物はmethyl 4-methyl-2,5-heptadienoateであり、収率は43%であった。キラルGCにより分析を行ったところ、生成物は4%eeであった。
なお、「MA」は、アクリル酸メチル(methyl acrylate)を指す。
【0327】
〔(3−2) Ru(naphthalene)(tropp
Ph)による、MMAと2,5-dihydrofuranとの交差二量化反応〕
【0328】
【化57】
【0329】
25mlシュレンク管に、Ru(naphthalene)(tropp
Ph)を32.2mg〔0.0516mmol〕入れ、内部基準としてビフェニル19.1mgを加え、そこに、MMA 110μl〔1.04mmol〕および2,5-dihydrofuran 380μl〔5.03mmol〕を、trap−to−trapで加えた。撹拌した後、50℃で4時間反応させた。GCにより解析を行ったところ、交差二量体が収率9%(a:b:c = 56:44:0)得られた。
【0330】
〔(3−3) Ru(naphthalene)((8R)-1,8-dimethyl-8-methoxybicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene) による、MMAの二量化反応〕
【0331】
【化58】
【0332】
25mlシュレンク管に、Ru(naphthalene)((8R)-1,8-dimethyl-8-methoxybicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene) 20.0mg〔0.0508mmol〕を入れ、内部基準としてビフェニルを40.6mg加え、そこに、MMA 540μl〔5.09mmol〕を、凍結脱気後trap−to−trapで加えた。撹拌した後、30℃で1時間反応させた。1時間反応させた時点で二量体の収率は50%(a:E−b:Z−b = 91:7:2)、三量体の収率は20%であった。さらに7時間(計8時間)反応させると、二量体の収率は38%(a:E−b:Z−b = 73:22:6)、三量体の収率は34%となった転化率は92%であった。転化率と収率の差からみて、4量体も生成しているものと推測される。
【0333】
〔(3−4) Ru(naphthalene)(dbcot)による、1,3-pentadieneとMAとの交差二量化反応〕(参考例)
【0334】
【化59】
【0335】
25mlシュレンク管に、Ru(naphthalene)(dbcot)を5.1mg〔0.010mmol〕、内部基準としてビフェニル15.5mgを入れ、toluene 1ml、1,3-pentadiene 100μl〔1.00mmol〕、MA 95μl〔1.05mmol〕を加えた。良く撹拌したのち、50℃で1時間反応させ、生成物の収率をGCにより求めた。収率は、100%(a/b/c/d = 6/71/14/9)であった。
このように、Ru(naphthalene)(dbcot)は、ジエンとアルケンとのカップリング反応に対し、極めて高い活性を示すことが確認された。
従って、この(3−4)項の例(参考例)において、Ru(naphthalene)(dbcot)中の配位子dbcotを、前述の配位子X(即ち、dbcot中の8員環に含まれる4つの水素原子のうちの少なくとも1つが、置換基(アルキル基、アリール基など)によって置換された化合物)に置き換えることにより、高い収率で、しかも、エナンチオ選択性に優れた不斉鎖状二量化を行えることが期待される。
【0336】
〔(3−5) Ru(naphthalene)((-)-8-methoxy-1,8-dimethyl-2-phenyl bicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)による、2,3-dimethyl-1,3-pentadieneとMAとの交差二量化反応〕
【0337】
【化60】
【0338】
25mlシュレンク管に、Ru(naphthalene)((-)-8-methoxy-1,8-dimethyl-2-phenyl bicyclo[2.2.2]octa-2,5-diene)(ナフタレン架橋の2核錯体を含む)を11.3mg〔0.0252mmol〕(Ru(diene)種ベース)、および内部基準としてビフェニル10.7mgを入れ、そこに、toluene 1ml、2,3-dimethyl-1,3-pentadiene(36wt%) 190μl(133mg; 2,3-dimethyl-1,3-pentadieneの量として47.9mg〔0.498mmol〕相当)、MA 50μl〔0.55mmol〕を加えた。良く撹拌したのち、50℃に加熱し1時間反応させ、生成物の収率をGCにより求めた。収率は、69(74)%(a:b:c = 32:27:41)(注:カッコなしの収率は通常のGCから、カッコ内はキラルGCから求めた収率。 通常GCでは、基準の位置にブロードに配位子のピークが重なるため、値がやや低く出る様だったので併記)であった。この溶液をChiralGCで分析したところ、化合物aは22.7%eeであった。さらに3時間、計4時間反応させたところ、収率は、60(79)%(a:b:c = 34:25:41)、化合物aは29.0%eeであった。
【0339】
−化合物aの同定−
1H NMR (400 MHz, r.t., CDCl
3): δ1.08(d, J = 6.9 Hz, 3H, -Me), 1.47(br.s, 3H, -Me), 1.63(s(overwrapped with a), 3H, -Me), 1.66(br.s, 3H, -Me), 3.52(ddq., J = 1.7, 6.3, 6.9 Hz, 1H, >CH-), 3.69(s(overwrapped with a), 3H, -OMe), 5.71(dd, J = 15.5, 1.7 Hz, 1H, =CH-), 6.90(dt, J = 15.5, 6.3 Hz, 1H, =CH-).
13C NMR (100.5 MHz, r.t., CDCl
3): δ13.38(-Me), 16.77(-Me), 19.95(-Me), 20.94(-Me), 38.36(>CH-), 51.37(-OMe), 119.06(=CH-), 126.05(=C<), 127.72(=C<), 152.90(=CH-), 167.45(>C=O).
【0340】
−化合物bの同定−
1H NMR (400 MHz, r.t., CDCl
3): δ0.92(t, J = 7.5 Hz, 3H, -Me), 1.59(s, 3H, -Me), 1.63(s(overwrapped with a), 3H, -Me), 1.98(q, J = 7.5 Hz, 2H, -CH
2Me), 2.88(d, J = 6.3 Hz, 2H, -CH2-), 3.69(s(overwrapped with a), 3H, -OMe), 5.76(dt, J = 15.5, 1.7 Hz, 1H, =CH-), 6.89(dt, J = 15.5, 6.3 Hz, 1H, =CH-).
13C NMR (100.5 MHz, r.t., CDCl3): δ13.00(-Me), 17.90(-Me), 18.60(-Me), 27.24(-CH
2-), 36.92(-CH
2-), 51.37(-OMe), 120.75(=CH-), 122.70(=C<), 133.19(=C<), 147.82(=CH-), 167.23(>C=O).
【0341】
−化合物cの同定−
1H NMR (400 MHz, r.t., CDCl
3): δ0.95(t, J = 7.5 Hz, 3H, -Me), 1.73(s, 2H, -Me), 2.16(q, J = 7.5 Hz, 2H, -CH
2Me), 3.13(d, J = 7.5 Hz, 2H, -CH
2-), 3.66(s, 3H, -OMe), 5.62(dt, J = 15.5, 8.0 Hz, 1H, =CH-), 6.56(d, J = 15.5 Hz, 1H, =CH-).
【0342】
2013年2月18日に出願された日本国特許出願2013−028947の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。