(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6281906
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】空気極、金属空気電池、並びに窒素がドープされたカーボンナノチューブ及び空気極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 12/08 20060101AFI20180208BHJP
H01M 12/06 20060101ALI20180208BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20180208BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20180208BHJP
C01B 32/158 20170101ALI20180208BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20180208BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20180208BHJP
【FI】
H01M12/08 K
H01M12/06 F
H01M4/90 Y
H01M4/88 C
H01M4/90 X
C01B32/158
B82Y40/00
B82Y30/00
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-101706(P2014-101706)
(22)【出願日】2014年5月15日
(65)【公開番号】特開2015-220036(P2015-220036A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年1月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(72)【発明者】
【氏名】川崎 晋司
(72)【発明者】
【氏名】野田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】山田 直仁
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 賢信
【審査官】
神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2014/0023939(US,A1)
【文献】
特表2012−502427(JP,A)
【文献】
特開2007−179867(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/021257(WO,A1)
【文献】
特表2012−512328(JP,A)
【文献】
特開2006−206568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 12/06、12/08、4/88、4/90
B82Y 30/00、40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素がドープされたカーボンナノチューブを空気極触媒として含み、他の空気極触媒を含まない空気極であって、金属負極として亜鉛極を用いた亜鉛空気電池の構成で評価された場合に、開回路電圧(OCV)が1.30V以上となる、空気極。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブが0.5〜3.0nmの直径を有する、請求項1に記載の空気極。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブが単層のカーボンナノチューブである、請求項1又は2に記載の空気極。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブが1〜50のラマンG/D比を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の空気極。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブが窒素を0.5at%以上含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の空気極。
【請求項6】
前記空気極が0.01mm以上の厚さを有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の空気極。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の空気極と、金属負極と、前記空気極及び前記負極の間に介在する電解質とを含む、金属空気電池。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の空気極の製造方法であって、
窒素がドープされたカーボンナノチューブを製造する工程と、
前記窒素がドープされたカーボンナノチューブを用いて空気極を作製する工程と、
を含み、
前記窒素がドープされたカーボンナノチューブを製造する工程が、
カーボンナノチューブを用意する工程と、
前記カーボンナノチューブを、シアナミド、ジシアンジアミド、グアニジン、並びにそれらの誘導体及び塩からなる群から選択される少なくとも一種の窒素含有化合物を用いて処理して、前記カーボンナノチューブに窒素を導入させる工程と、
を含む、方法。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブが0.5〜3.0nmの直径を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記カーボンナノチューブが単層のカーボンナノチューブである、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記カーボンナノチューブが1〜50のラマンG/D比を有する、請求項8〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記窒素含有化合物がシアナミドである、請求項8〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記窒素含有化合物で処理する工程が、前記カーボンナノチューブ、前記窒素含有化合物及び溶媒を含む分散液を40〜200℃で加熱して溶媒を除去することにより行われる、請求項8〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記加熱後、前記カーボンナノチューブを不活性雰囲気中、500〜3000℃でアニールする工程をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気極、金属空気電池、並びに窒素がドープされたカーボンナノチューブ及び空気極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
革新電池候補の一つとして、亜鉛空気電池やリチウム空気電池等の金属空気電池が挙げられる。金属空気電池は、正極活物質である酸素が空気中から供給されるため、電池容器内のスペースを負極活物質の充填に最大限利用することができ、それにより原理的に高いエネルギー密度を実現することができる。このような金属空気電池の空気極として、白金等の触媒金属粒子及びカーボン等の導電粒子で構成される空気極が一般的に使用されている。
【0003】
しかしながら、白金等の貴金属触媒は高価なものであるため、製造コストの増大につながる。そこで、そのような貴金属触媒を含まない空気極が提案されている。例えば、特許文献1(特開2012−182050号公報)には、金属フリーのグラフェンを触媒として用いた空気極が開示されており、金属フリーのグラフェンにアンモニアを用いて窒素ドープ処理を行うことでリチウム−空気電池の電圧特性が改善されることが記載されている。また、非特許文献1(Khaled Parvez et al., ACS Nano, Vol.6, No.11, 2012, p.9541-9550)には、窒素源としてシアナミドを用いてグラフェンに窒素ドープ処理を行い、白金の代替となる金属フリー触媒を得たことが開示されている。
【0004】
ところで、グラフェン以外の有望な炭素材料として、カーボンナノチューブ(以下、CNTともいう)が挙げられ、窒素がドープされたCNTも知られている。例えば、特許文献2(特許第3837573号公報)には、酸化鉄と酸化モリブテンが保持されたアルミナ基板を加熱炉に設置し、この炉中にN,N−ジメチルホルムアミド蒸気とアンモニアガスを導入し、500℃以上の温度で加熱することにより、窒素原子が結合したCNTを製造することが開示されている。また、特許文献3(特開2007−182375号公報)には、触媒金属層が形成された基板が装着された反応チャンバ内にH
2Oプラズマの雰囲気を形成し、反応チャンバ内に炭素前駆体及び窒素前駆体を供給して化学反応させることにより、触媒金属層上に窒素ドープされたCNTを成長させる方法が開示されており、窒素前駆体の例としてNH
3、NH
2NH
2、C
5H
5N、C
4H
5N及びCH
3CNが挙げられている。これらの特許文献2及び3は窒素ドープされたCNTを直接合成する手法に関するものであるが、既に合成されたCNTに窒素をドープするという、より簡素な手法も提案されている。例えば、特許文献4(特開2008−179531号公報)には、直径10〜350nmのCNT(実施例では多層CNT)を窒素含有化合物の存在下で加熱して窒素化処理を施すことが開示されており、窒素含有化合物として、窒素ガス、アンモニアガス、アンモニア化合物である塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム等を用いることが開示されている。しかしながら、これらの特許文献2〜4は窒素ドープCNTの空気極への応用を何ら提案するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−182050号公報
【特許文献2】特許第3837573号公報
【特許文献3】特開2007−182375号公報
【特許文献4】特開2008−179531号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Khaled Parvez et al., ACS Nano,Vol.6, No.11, 2012, p.9541-9550
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、今般、シアナミド等のある種の窒素含有化合物を用いることでカーボンナノチューブに窒素を効果的にドープできること、そして、そのように窒素がドープされたカーボンナノチューブを含んでなる空気極を用いることで、白金等の貴金属触媒を用いることなく金属空気電池において予想外に高い開回路電圧(OCV)をもたらしうることを知見した。
【0008】
したがって、本発明の目的は、カーボンナノチューブに窒素を効果的にドープ可能な製造方法を提供するとともに、白金等の貴金属触媒を用いることなく金属空気電池において有意に高い開回路電圧(OCV)をもたらすことが可能な空気極を提供することにある。
【0009】
本発明の一態様によれば、窒素がドープされたカーボンナノチューブを含んでなる空気極であって、金属負極として亜鉛極を用いた亜鉛空気電池の構成で評価された場合に、開回路電圧(OCV)が1.30V以上となる、空気極が提供される。
【0010】
本発明の他の態様によれば、窒素がドープされたカーボンナノチューブの製造方法であって、
カーボンナノチューブを用意する工程と、
前記カーボンナノチューブを、シアナミド、ジシアンジアミド、グアニジン、並びにそれらの誘導体及び塩からなる群から選択される少なくとも一種の窒素含有化合物を用いて処理して、前記カーボンナノチューブに窒素を導入させる工程と、
を含む、方法が提供される。
【0011】
本発明の更に別の態様によれば、本発明の空気極と、金属負極と、前記空気極及び前記負極の間に介在する電解質とを含む、金属空気電池が提供される。
【0012】
本発明の更に別の態様によれば、本発明の製造方法に従い、窒素がドープされたカーボンナノチューブを製造する工程と、
前記窒素がドープされたカーボンナノチューブを用いて空気極を作製する工程と、
を含む、空気極の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】例1において測定されたラマン分光スペクトルである。
【
図2】例1において撮影された未処理のカーボンナノチューブのSEM写真である。
【
図3】例1において撮影された窒素ドープされたカーボンナノチューブのSEM写真である。
【
図4】例2において測定された放電電圧特性である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
空気極
本発明による空気極は、窒素がドープされたカーボンナノチューブ(以下、NドープCNTという)を含んでなる。本発明の空気極においてNドープCNTは触媒機能を有するため、空気極は白金等の貴金属触媒を不要にすることができる。すなわち、本発明の空気極は実質的に貴金属、特に白金等の貴金属触媒を含まないのが好ましい。そして、この空気極は、金属負極として亜鉛極を用いた亜鉛空気電池の構成で評価された場合に、開回路電圧(以下、OCVという)が1.30V以上、好ましくは1.30Vを超える、より好ましくは1.31V以上、さらに好ましくは1.32V以上、最も好ましくは1.33V以上となることで特性付けられたものである。本発明の空気極における上記のような高いOCVは、炭素材料としてCNTを選択し、それに窒素をドープすることによって特異的に実現されるものである。様々な炭素材料に対して窒素をドープすることは知られているが、本発明者らはCNTに着目し、これに上手く窒素をドープすることで、白金等の貴金属触媒を用いることなく有意に高いOCVを金属空気電池において実現可能としたのである。そして、このように高いOCVを有する空気極を用いて金属空気電池を構成することで、金属空気電池の放電特性(特に放電電圧)を有意に向上することができる。
【0015】
本発明の空気極は、金属負極として亜鉛極を用いた亜鉛空気電池の構成で評価された場合に、開回路電圧(OCV)が1.30V以上、好ましくは1.30Vを超える、より好ましくは1.31V以上、さらに好ましくは1.32V以上、最も好ましくは1.33V以上となる。OCVの上限は特に限定されないが、典型的には1.65V以下であり、より典型的には1.50V以下である。OCVは、空気極と、電解液と、金属負極としての亜鉛極を用いて亜鉛空気電池の構成とし、市販の充放電評価装置(例えば、東洋システム株式会社製TOSCAT−3200)により測定することができる。もっとも、金属負極として亜鉛極を用いるのはOCVの基準電位とするためにすぎず、実際に本発明の空気極を用いて金属空気電池を構成する場合に、金属負極として亜鉛極以外の金属負極を使用可能であることはいうまでもない。
【0016】
本発明の空気極は、NドープCNTを空気極触媒として含んでなる。したがって、本発明の空気極は他の空気極触媒を不要にすることができる。すなわち、従来、白金等の高価な貴金属触媒が空気極触媒として使用されてきたが、そのような貴金属触媒を不要として製造コストの低減を図ることができる。その上、NドープCNTはそれ自体が導電性を有するので、従来使用されてきたカーボン等の導電助剤もまた不要にすることができる。したがって、本発明の空気極はその他の空気極触媒(特に貴金属触媒)及び導電助剤を実質的に又は完全に含まないのが好ましいが、本発明の趣旨を損なわない範囲内においてその他の空気極触媒及び/又は導電助剤を含んでいてもよい。
【0017】
本発明の空気極におけるCNTは、単層のCNT(SWCNT)、二層のCNT(DWCNT)及び多層のCNT(MWCNT)のいずれであってもよいが、単層のCNT(SWCNT)が、窒素がCNTの全体にわたって万遍なくドープされやすい点で特に好ましい。また、本発明の空気極におけるCNTは0.5〜3.0nmの直径を有するのが好ましく、より好ましくは0.6〜2.5nmであり、さらに好ましくは0.7〜2.0nmであり、特に好ましくは0.8〜1.8nmであり、最も好ましくは0.8〜1.4nmである。このような範囲内であると窒素がドープされやすい。
【0018】
本発明の空気極におけるCNT中の窒素含有量は0.5at%以上が好ましく、より好ましくは1.0at%以上、さらに好ましくは1.5at%以上、特に好ましくは2.0at%以上である。なお、CNT中の窒素含有量は、XPS分析装置によって測定することができる。このような量で窒素を含むことでOCVの向上及びそれによる放電特性の向上に寄与する。
【0019】
本発明の空気極におけるCNTは1〜50のラマンG/D比を有するのが好ましく、より好ましくは1〜40、さらに好ましくは1〜30、特に好ましくは1〜20、最も好ましくは2〜10である。このラマンG/D比は、ラマン分光測定によりCNT試料に対して得られたラマン分光スペクトルにおいて、1590cm
−1の辺りに見られるGバンドのピーク強度の、1330cm
−1の辺りに見られるDバンドのピーク強度に対する比として定義され、この値が上記範囲内であるとCNT内に適度に欠陥が存在することになるため、窒素がドープされやすくなるのではないかと推察される。なお、空気極を構成するCNTは既に窒素がドープされたものであるが、このラマンG/D比が上記範囲内であることはそのような窒素ドープが良好に行われたことの前提となりうる。このようなラマンG/D比は、本発明者らの調べたかぎり、CVD法により作製されたCNTが好ましく有しており、例えばアーク法により作製されたCNTは上記よりも高いラマンG/D比(例えば約100)を有している。換言すれば、CVD法により作製されたCNTは、アーク法により作製されたCNTよりも窒素がドープされやすく、それ故好ましいといえる。
【0020】
本発明の空気極はバインダーをさらに含んでいてもよい。バインダーは、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂であってよく特に限定されないが、好ましい例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、及びこれらの任意の混合物が挙げられる。
【0021】
本発明の空気極の厚さは、適用される金属空気電池の仕様に応じて適宜設定すればよく、典型的には0.01mm以上であり、より典型的には0.01〜10mm、さらに典型的には0.02〜5mm、特に典型的には0.03〜2mmである。
【0022】
金属空気電池
本発明による金属空気電池は、本発明の空気極と、金属負極と、空気極及び負極の間に介在する電解質とを含む。本発明による空気極を用いて金属空気電池、例えば金属空気二次電池を作製することができる。電解質は典型的には電解液である。金属負極は、亜鉛、リチウム、アルミニウム、マグネシウム等の公知の金属又はその合金であってよい。電解液は、使用する負極に適した公知の組成を適宜選択すればよく、例えば亜鉛空気電池の場合、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ金属水酸化物水溶液等であってよい。
【0023】
NドープCNTの製造方法
本発明によるNドープCNTの製造方法においては、先ず、CNTを用意する。このCNTは市販品であってよいし、必要に応じて別途作製してもよい。次いで、このCNTを、窒素含有化合物を用いて処理して、CNTに窒素を導入させる。その際、窒素含有化合物として、シアナミド、ジシアンジアミド、グアニジン、並びにそれらの誘導体及び塩からなる群から選択される少なくとも一種を用いる。こうすることで、CNT本来の構造を損なうことなく、CNTに窒素を効率的にドープさせることができる。
【0024】
このように本発明によるNドープCNTの製造は、(1)CNTを用意し、(2)CNTを窒素含有化合物で処理し(すなわち窒素ドープ処理を施し)てCNTに窒素を導入させることにより行うことができる。以下、各工程について説明する。
【0025】
(1)CNTの用意
本発明の方法においては、先ず、CNTを用意する。すなわち、本発明の方法はCNT合成時に窒素をドープするのではなく、予め作製されたCNTを用いることができる。このため、本発明の方法は、CNTとして市販されるものを適宜使用することができる点で、簡便かつ低コストで実施可能な手法であるということができる。
【0026】
本発明の方法に用いるCNTは、単層のCNT(SWCNT)、二層のCNT(DWCNT)及び多層のCNT(MWCNT)のいずれであってもよいが、単層のCNT(SWCNT)が、窒素がCNTの全体にわたって万遍なくドープされやすい点で特に好ましい。また、CNTは0.5〜3.0nmの直径を有するのが好ましく、より好ましくは0.6〜2.5nmであり、さらに好ましくは0.7〜2.0nmであり、特に好ましくは0.8〜1.8nmであり、最も好ましくは0.8〜1.4nmである。このような範囲内であると窒素がドープされやすい。
【0027】
本発明の方法に用いるCNTは1〜50のラマンG/D比を有するのが好ましく、より好ましくは1〜40、さらに好ましくは1〜30、特に好ましくは1〜20、最も好ましくは2〜10である。このラマンG/D比は、ラマン分光測定によりCNT試料に対して得られたラマン分光スペクトルにおいて、1590cm
−1の辺りに見られるGバンドのピーク強度の、1330cm
−1の辺りに見られるDバンドのピーク強度に対する比として定義され、この値が上記範囲内であると窒素が格段にドープされやすくなる。その理由は必ずしも定かではないが、CNT内に適度に欠陥が存在することになるため、窒素がドープされやすくなるのではないかと推察される。このようなラマンG/D比は、本発明者らの調べたかぎり、CVD法により作製されたCNTが好ましく有しており、例えばアーク法により作製されたCNTは上記よりも高いラマンG/D比(例えば約100)を有している。換言すれば、CVD法により作製されたCNTは、アーク法により作製されたCNTよりも窒素がドープされやすく、それ故好ましいといえる。
【0028】
所望により、後続の窒素ドープ処理に先立ち、CNTを精製してもよい。CNTはその製造に起因して金属ナノ粒子触媒等の不純物や付着物を含有しうるため、それらを除去することで窒素ドープをより効率的に行えるとともに空気極の性能向上に寄与し得る。CNTの精製方法は特に限定されないが、例えば酸(例えば塩酸、硝酸、硫酸、過酸化水素等)を用いた洗浄であってよい。なお、洗浄後のCNTには高温(例えば1000〜3000℃)でアニールを施してもよく、このアニールは真空下で行われるのが好ましい。
【0029】
(2)窒素ドープ処理
CNTを窒素含有化合物で処理してCNTに窒素を導入させる。本発明に用いる窒素含有化合物は、シアナミド、ジシアンジアミド、グアニジン、並びにそれらの誘導体及び塩からなる群から選択される少なくとも一種であり、特に好ましくはシアナミドである。これらの窒素含有化合物を用いることでCNTに窒素を効果的にドープさせることができる。これは、これらの窒素含有化合物は炭素−窒素二重結合及び/又は炭素−窒素三重結合を含むものであるため、反応性が高いことによるものではないかと考えられる。窒素含有化合物による処理は、最終的にCNTに窒素をドープさせることができるのであれば如何なる手法によって行われてもよい。
【0030】
窒素含有化合物で処理する工程は、CNT、窒素含有化合物及び溶媒を含む分散液を40〜200℃で加熱して溶媒を除去することにより行われるのが好ましい。溶媒の好ましい例としては水、アルコール、エステル、ケトン、芳香族等が挙げられるが、より好ましくは水である。分散液は、CNTを溶媒に所望の濃度(好ましくは0.05〜20mg/ml、より好ましくは0.1〜10mg/ml)で分散させて均質化させた後、窒素含有化合物を添加させるのが好ましい。また、分散液には界面活性剤(例えばドデシル硫酸ナトリウム)を添加して分散性を向上するのが好ましい。分散液にはさらに超音波処理を所望の時間(例えば10〜600秒間)施して分散液を均質化してもよい。窒素含有化合物の添加は、窒素含有化合物を含有する溶液(例えば水溶液)を添加することにより行うのが好ましい。窒素含有化合物を含有する溶液の濃度は特に限定されないが、例えば1〜80重量%である。溶媒を除去するための加熱温度は好ましくは40〜200℃であり、より好ましくは60〜120℃である。
【0031】
加熱後、CNTを不活性雰囲気中、500〜3000℃でアニールするのが好ましい。こうすることで、窒素をより確実にCNTにドープさせることができる。また、高温域の温度(例えば1000〜3000℃)でアニールすれば結晶性の向上をも同時に行うことができる。好ましいアニール温度は500〜3000℃であり、より好ましくは500〜2000℃、さらに好ましくは550〜1500℃、特に好ましくは550〜1500℃、最も好ましくは600〜1000℃である。アニールは2段階で行われてもよく、例えば、CNTを500〜700℃で1〜50時間保持した後、700〜1000℃でさらに1〜50時間保持してもよい。こうすることで、1段階目のアニールでCNTに付着している不純物を除去するとともに、2段階目のアニールで窒素を確実にCNTにドープすることができる。
【0032】
空気極の製造方法
こうして得られたNドープCNTを用いて空気極を作製することができる。空気極の作製は公知の手法に基づいて行えばよい。例えば、NドープCNT、バインダー、及び所望により溶媒を混合してシート状の固形物を得、このシート状固形物を圧延し、得られた圧延シートを(例えば50〜100℃で)乾燥させることにより、空気極を作製すればよい。バインダーは、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂であってよく特に限定されないが、好ましい例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、及びこれらの任意の混合物が挙げられる。
【実施例】
【0033】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0034】
例1:NドープCNTの作製及び評価
(1)CNTの用意
ノンドープのCNTとして、単層のCNT(Sigma−Aldrich Co.LLC.製、SWeNT SG−65)(以下、SWCNTという)を用意した。このSWCNTはCVD法により作製された市販品であり、約0.8〜約1.4nmの直径を有する。このSWCNTを5Mの塩酸に20分浸漬処理することにより精製して、付着していた金属ナノ粒子触媒を除去した。
【0035】
(2)窒素ドープ処理
こうして前処理されたSWCNTを水に分散させて1mg/mlの水系分散液を調製した。この水系分散液にドデシル硫酸ナトリウムを添加し、30秒間超音波処理して分散液を均質化した。得られた分散液に、シアナミド水溶液(水中に50重量%のシアナミドを含有する溶液)を攪拌しながら滴下した。得られた混合液を継続的に混合し、100℃に昇温して水を除去した。こうして得られた固形物試料をアルゴン雰囲気下において以下の手順でアニールした。すなわち、この試料を2℃/分の速度で550℃に加熱し、この温度で4時間保持した後、2℃/分の速度で800℃にさらに加熱し、この温度でさらに1時間保持した。その後、試料を2.5℃/分の速度で室温にまで冷却した。こうして窒素ドープされたSWCNTを得た。
【0036】
(3)XPS測定
この窒素ドープされたSWCNTを、XPS分析装置(ULVAC製、PHI−5000)を用いて評価したところ、窒素が2.2at%の含有量でSWCNT中にドープされていることが確認された。
【0037】
(4)ラマン分光測定
窒素ドープ処理に起因するSWCNTの構造的変化を評価すべく、顕微レーザラマン分光装置(JASCO製、NRS−3300)による測定を行った。この測定は、未処理のSWCNT(すなわちノンドープの市販品)と、窒素ドープ後のSWCNTと、さらには窒素ドープ後に空気極として金属空気電池に組み込んで放電及び充電試験を1サイクル行った後のSWCNT(以下、充電後のSWCNTという)のそれぞれについて行った。その結果、
図1に示されるラマン分光スペクトルが得られ、窒素ドープの前後でSWCNTの構造に大きな変化は見られなかった。ラマン分光スペクトルにおける、1590cm
−1の辺りに見られるGバンドのピーク強度の、1330cm
−1の辺りに見られるDバンドのピーク強度に対する比、すなわちラマンG/D比を算出したところ、未処理SWCNTは7.3、窒素ドープ後のSWCNTは4.6、充電後のSWCNTは2.1であり、いずれも2〜10の範囲内であった。
【0038】
(5)外観の観察
未処理のSWCNT(すなわちノンドープの市販品)と、窒素ドープ後のSWCNTとについてSEM(JEOL製、JSM−7001FF)で観察したところ、それぞれ
図2及び3に示される画像が得られた。
図2及び3から分かるように、窒素ドープの前後でSWCNTの外観に大きな変化は見られなかった。また、窒素ドープされたSWCNTの直径をTEM(JEOL製、JEM−z2500)により観察したところ、約0.8〜約1.4nmであった。
【0039】
例2:各種炭素材料を用いた空気極の作製及び評価
(1)各種炭素材料の用意
各種炭素材料として以下に示される試料1〜4を用意した。
‐試料1:例1において用いた未処理のSWCNT(Sigma−Aldrich Co.LLC.製、SWeNT SG−65))(すなわちノンドープの市販品)
‐試料2:未処理のグラフェン(XG Sciences,Inc.製、xGnP)(すなわちノンドープの市販品)
‐試料3:例1で作製された、窒素ドープされたSWCNT
‐試料4:SWCNTの代わりに試料2のグラフェンを用いたこと以外は例1と同様の手法により得られた、窒素ドープされたグラフェン
‐試料5:例1において用いたSWCNTの代わりにラマンG/D比が100のSWCNT(名城ナノカーボン社製、SO)を用いたこと以外は例1と同様の手法により得られた、窒素ドープされたSWCNT
【0040】
(2)空気極の作製
試料1〜4の各々(以下、炭素試料という)を用いて空気極を以下のようにして作製した。先ず、所定量の炭素試料を秤量した。乳鉢に炭素試料を入れ、PTFE(25wt%分)を加えて少し混ぜ、試料全体が僅かに湿る程度にエタノールを加えて、試料を混合した。このPTFE及びエタノールの添加/混合工程を、混合された試料が一枚のシート状に固まるようになるまで繰り返した。得られたシート状試料を薬包紙に挟み、ロールプレス機で少しずつ薄く延ばした。この試料をポンチ(直径10mm)でくり抜いた。くり抜いた試料を60〜70℃の乾燥機中で一晩乾燥させた。こうして炭素試料1〜4をそれぞれ含む、厚さ0.2mmの空気極試料1〜4を得た。なお、試料5では、窒素ドープ処理後のSWCNTの窒素含有量が0.1at%未満であったことから、空気極試料の作製は行わなかった。
【0041】
(3)開回路電圧(OCV)の測定
得られた空気極と、1MのKOH水溶液(電解液)と、亜鉛金属負極とを用いて、酸素ガス雰囲気下で、亜鉛空気電池の構成における開回路電圧(OCV)を充放電評価装置(東洋システム株式会社製、TOSCAT−3200)により測定した。結果は表1に示されるとおりであった。
【表1】
【0042】
表1に示される結果から、Nドープの効果はグラフェンよりもCNTのほうが大きいことが分かる。すなわち、グラフェンにおけるNドープによるOCV上昇量は0.03V(=1.30−1.27)であり、これは2.4%の上昇率にすぎないのに対し、CNTにおけるNドープによるOCV上昇量は0.06V(=1.33−1.27)であり、これは4.7%もの高い上昇率に相当するからである。このように、グラフェンに窒素ドープした場合であってもOCVはある程度上昇するものの、CNTに窒素ドープした場合にはグラフェンの場合と比較して予想外にも約2倍のOCV上昇効果が得られた。
【0043】
(4)放電電圧の測定
そこで、窒素ドープによるOCV上昇の顕著な効果が見られたCNT(すなわち試料1及び3)について、放電電圧の測定をさらに行った。この測定は疑似3極電気化学セルを用いて行った。この電気化学セルは、未処理CNT(試料1)又はNドープCNT(試料3)を含む作用電極を、1MのKOH水溶液(電解液)中に浸漬された亜鉛金属対極と、ガラス繊維を介して隔離させるように設け、さらに白金ワイヤーを疑似参照電極として設けたものである。そして、電解液に浸漬された作用電極の裏側に乾燥空気を20ccmの流量で流しながら、定電流でクロノポテンショメトリー測定(充放電測定)を行った。その結果、
図4に示されるような放電電圧特性が測定された。
図4に示されるように、NドープCNT(試料3)は未処理CNT(試料1)に対して放電電圧が顕著に高いことが分かった。また、放電レート特性についても、NドープCNT(試料3)は未処理CNT(試料1)と同様ないし幾分に良好な結果が得られた。