(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Bi−Cu合金とBi−Ge合金とを、Bi−Cu合金およびBi−Ge合金の合計に対してBi−Cu合金を30〜70重量%の割合で用いて第1合金とし、該第1合金とBi−Ag合金とを、第1合金およびBi−Ag合金の合計に対してBi−Ag合金を5〜80重量%の割合で用いて得られる第2合金をはんだ合金として含むはんだ材料であって、
前記Bi−Cu合金は0.2〜0.8重量%のCuと残部のBiとから成り、
前記Bi−Ge合金は0.7〜1.3重量%のGeと残部のBiとから成り、
前記Bi−Ag合金は2.2〜20.3重量%のAgと残部のBiとから成り、
第2合金がGeを0.06重量%以上含み、
はんだ合金において、Bi−Cu合金およびBi−Ge合金が部分的に凝集している、はんだ材料。
前記はんだ合金として、前記第2合金に代えて、該第2合金とNiおよびPの少なくとも一方とを、第2合金ならびにNiおよびPの少なくとも一方の合計に対してNiおよびPの少なくとも一方を0.05〜2.0重量%の割合で用いて得られる第3合金を含む、請求項1または2に記載のはんだ材料。
前記はんだ合金中に、平均粒径1〜40μmのCu粒子およびNi粒子の少なくとも一方を、前記はんだ合金ならびに該Cu粒子およびNi粒子の少なくとも一方の合計に対して1〜20重量%で更に含む、請求項1〜3のいずれかに記載のはんだ材料。
前記はんだ合金が、粒子の形態であり、該粒子の表面が、該はんだ合金の固相線温度より高い融点を有する材料で被覆されている、請求項1〜5のいずれかに記載のはんだ材料。
前記2つの部材の少なくとも一方の被接合部が、Biめっき、Niめっき、Auめっき、およびNi下地Auフラッシュめっきからなる群より選択されるいずれかのめっきを有する、請求項7または8に記載の接合構造体。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳述する。
【0024】
(実施形態1)
本実施形態は、はんだ材料に含まれるはんだ合金として第2合金(
図1を参照のこと)を用いる態様に関する。
【0025】
図1を参照して、まず、(a)Bi−Cu合金と、(b)Bi−Ge合金とを準備し、これらを用いて、(c)第1合金を調製する。
【0026】
(a)Bi−Cu合金には、その共晶組成であるBi−0.5Cuを用いることが最も望ましいが、実用上はBi−(0.2〜0.8)Cuを用いてよく、好ましくはBi−(0.3〜0.7)Cu、より好ましくはBi−(0.4〜0.6)Cuを用い得る。
【0027】
他方、(b)Bi−Ge合金には、その共晶組成であるBi−1.0Geを用いることが最も望ましいが、実用上はBi−(0.7〜1.3)Geを用いてよく、好ましくはBi−(0.8〜1.2)Ge、より好ましくはBi−(0.9〜1.1)Geを用い得る。
【0028】
これら(a)Bi−Cu合金と、(b)Bi−Ge合金とを、これらの合計に対してBi−Ge合金を30〜70重量%、例えば40〜60重量%の割合で用いて(換言すれば、これらを70:30〜30:70、例えば60:40〜40:60の重量比で用いて)、(c)第1合金とする。第1合金の調製方法は、一般的な合金調製方法を用いてよく、代表的には溶解混合が適用され得る。
【0029】
Bi−Cu合金の共晶組成はBi−0.5Cuであり、270℃の共晶点を有する。Bi−Ge合金の共晶組成はBi−1.0Geであり、271℃の共晶点を有する。これら2種の2元系合金の双方を、上記のように各共晶組成ないしそれに近い組成で用いて合金を調製すると、これらから得られる第1合金において極端な融点降下をもたらすことを防止できる。本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、かかる効果は、2元系Bi−Cu共晶(または準共晶)合金と、2元系Bi−Ge共晶(または準共晶)合金とから得られた3元系Bi−Cu−Ge合金においては、Bi−CuおよびBi−Geがそれぞれ安定した状態で存在すると考えられ(二元共晶溶融モデル)、これによって、極端な融点降下を防止することができる。そして、両者の共晶点は極めて近いことから、これらから得られる第1合金(すなわち、Bi−Cu−Ge合金)は、約270℃の融点(代表的には固相線温度)を有するものとなり得る。
【0030】
次に、
図1を再び参照して、上記で調製した(c)第1合金と、別途準備した(d)Bi−Ag合金とを用いて、(e)第2合金を調製する。
【0031】
(d)Bi−Ag合金には、その共晶組成であるBi−2.5AgまたはそれよりもAg含量が多く、20重量%程度以下のもの(すなわち、Bi−(2.5〜20)Ag)を用いることが望ましいが、実用上はBi−(2.2〜20.3)Agを用いてよく、好ましくはBi−(2.3〜20.2)Ag、より好ましくはBi−(2.4〜20.1)Agを用い得る。
【0032】
上記で調製した(c)第1合金と、この(d)Bi−Ag合金とを、これらの合計に対してBi−Ag合金を5〜80重量%、例えば5〜40重量%の割合で用いて(換言すれば、これらを95:5〜20:80、例えば95:5〜60:40の重量比で用いて)、(e)第2合金とする。第2合金の調製方法も、一般的な合金調製方法を用いてよく、代表的には溶解混合が適用され得る。
【0033】
Bi−Ag合金の共晶組成はBi−2.5Agであり、262℃の共晶点を有し、これは、Bi−Cu合金およびBi−Ge合金の共晶点より低い。Bi−Ag合金を共晶組成ないしそれに近い組成、例えばBi−(2.2〜2.8)Ag、好ましくはBi−(2.3〜2.7)Ag、より好ましくはBi−(2.4〜2.6)Ag、最も望ましくはBi−2.5Agで用いて、上記第1合金と合わせて第2合金を調製すると、安定な金属組成を有し、よって、優れた機械的性質を与えることができると考えられる。そして、Bi−Ag合金のAg含量が共晶組成ないしこれに近い組成よりも多くなるにつれて液相線温度が高くなり、例えばBi−11Agでは固相線温度は262℃であり、液相線温度は約360℃となる。上記で調製した第1合金とBi−(2.2〜20.3)Agと用いて得られる第2合金は、例えば250〜350℃、代表的には260〜320℃の固相線温度を有し、極端な融点降下は認められない。
【0034】
本実施形態においては、以上のようにして調製された第2合金をはんだ合金として用い、少なくとも該はんだ合金を含むはんだ材料が得られる。
【0035】
本発明において、はんだ材料は、少なくともはんだ合金を含むものであればよい。より詳細には、はんだ合金は、そのままはんだ材料として用いてよく、例えば溶融状態にてフローはんだ付けに利用可能であり、また、糸はんだの形態に成形してもよい。あるいは、第2合金を他の材料と合わせてはんだ材料を得てもよい。例えば、第2合金を粒子状にし、これを任意の適切なフラックスと混合して、いわゆるはんだペーストを得てよく、これはリフローはんだ付けなどに利用可能である。また、第2合金をフラックスと共に成形してヤニ入り糸はんだの形態としてもよい。ヤニ入り糸はんだは、任意の適切な方法で得てよいが、例えば、液状もしくはペースト状のフラックスを芯材に用いて、かかる1つまたは2つ以上の芯材が内部で延在するように、粒状の第2合金を用いて、全体として糸状に成形することにより得ることができる。
【0036】
本発明のはんだ材料は、任意の適切な2つの部材を、該2つの部材の各々の被接合部間において接合(はんだ付け)して接合構造体を得るために利用され得、これにより、2つの部材間を電気的および物理的に接合することができる。例えば、電子部品と基板とを、電子部品の電極と基板のランドとの間において接合(またははんだ付け、本発明において同様)したり、半導体素子(または半導体チップ)とリードフレームとを、半導体素子の下面電極とリードフレームのダイパッドとの間において接合したりして、所望の電子機器を得るために利用可能である。
【0037】
かかる2つの部材の各々の被接合部は、少なくともその表面部分を構成する材料中、Sn含量が0.5重量%未満であることが好ましく、より好ましくは0.4重量%以下、更に好ましくは0.3重量%以下であり、Snを実質的に含有しないことが最も好ましい。例えば、これら被接合部の一方または双方がめっきを有していてよく、かかるめっきは、Biめっき、Niめっき、Auめっき、およびNi下地Auフラッシュめっきからなる群より選択されるいずれかであってよい。このような被接合部材料では、はんだ接合部にSnが有意な量で混入せず、よって、低融点合金であるSn−58%Bi共晶合金(共晶点 138℃)が発生せず、または十分抑制され得るので、耐熱信頼性を保つことができる。
【0038】
特に、接合対象である部材の被接合部がCuから構成されている(例えばCu電極である)場合には、本発明のはんだ材料のはんだ合金中に存在するCuとなじみ易く、良好な接合強度を得ることができる。
【0039】
より具体的な例として、大容量パワーエレクトロニクス装置について
図2を用いて説明する。パワーエレクトロニクス装置は、リードフレーム2、半導体素子(パワーデバイス)3、半導体素子3の上面電極(電極パッド)とリードフレーム2のリードとを電気的に接合するボンディングワイヤ4、リードフレーム2のダイパッドと半導体素子3の下面電極とを電気的に接合するはんだ接合部1、半導体素子3を封入する封止樹脂5、およびこれらが搭載されるマザー基板6を含んで成り得る(なお、マザー基板6は必須でない)。かかるパワーエレクトロニクス装置は、例えば次のようにして作製され得る。まず、リードフレーム2を準備する。リードフレーム2は、例えばFeコア材にNiめっきを施したものであってよいが、これに限定されない。リードフレーム2のダイパッド(被接合部)に、本実施形態にて上述したはんだ材料を、一般的にははんだペーストの形態で塗布する。次いで、SiCないしSiから構成され得る半導体素子3を、その下面に形成された電極(被接合部)がはんだペーストに接するように載置し、加熱することによりはんだ付けし(
図3参照)、これにより、実質的にはんだ合金のみの形態となったはんだ材料から成るはんだ接合部1を形成し、半導体素子3とリードフレーム2とを電気的および機械的に接合する。その後、半導体素子の上面に形成された電極(電極パッド)と、リードフレーム2のリード(外部端子)との間を、例えばAu線を用いるワイヤボンディングによりボンディングワイヤ4を形成して接合している。その後、封止樹脂5により、図示するように、半導体素子3とその接合部の全体を封入する。封止樹脂5には、例えばガラス繊維で強化されたエポキシ樹脂やシリコーン樹脂などが用いられ得る。
【0040】
はんだ材料のはんだ合金は、はんだ付けの際に、接合対象である部材を損傷させないことが求められる。また、特にパワーエレクトロニクス装置では、大電流が流れたり高電圧が印加されたりすることにより、半導体素子の温度が上昇しても、はんだ接合部1のはんだ材料(より詳細にははんだ合金)が溶融変形せず、半導体素子とダイパッドとの高い接合強度を確保できることが求められる。
【0041】
本発明のはんだ材料においては、Biをベースとするはんだ合金を用いている。はんだ付けの際に、接合対象である部材の損傷を防止または抑制するためには、はんだ合金が凝固するときに発生する応力を緩和させることが有効である。本発明においては、はんだ合金の主成分として、凝固時に体積膨張する金属であるBiを選択し、これにより、はんだ合金凝固時の応力を緩和させ得ると考えられる。なお、Geも凝固時に体積膨張する金属であるが、BiはGeより安価であり、コスト面で有利である。
【0042】
しかしながら、Biは脆いという機械的性質を有するので、これを改善するために、本発明者らは、CuおよびGeを添加することを検討した。加えて、Geを添加することにより、はんだ合金の酸化を抑制することができるという効果も奏し得る。本発明者らは、二元共晶溶融モデルに基づいて、構造的に安定な2種の共晶合金を原料に用いるという着想を得た。本発明においては、Bi−Cu合金およびBi−Ge合金を、上述したようにそれぞれ共晶組成ないしそれに近い組成(Bi−(0.2〜0.8)CuおよびBi−(0.7〜1.3)Ge)で用いており、これにより、極端な融点降下をもたらすことを防止できる。そして、これらBi−Cu合金およびBi−Ge合金の共晶点(それぞれ270℃および271℃)は極めて近いことから、それぞれの成分が同じ270℃程度で溶融するものと考えられる。
【0043】
更に、本発明者らは、融点および作業性等を考慮して、Agを添加することを検討した。本発明においては、Bi−Ag合金を、上述したように共晶組成ないしそれに近い組成から、所定量までのAg含量(Bi−(2.2〜20.3)Ag)で用いており、これにより、極端な融点降下をもたらすことを防止しつつ、溶融温度と機械的特性(例えば伸び)の両方を向上させることができる。
【0044】
図3を参照して、Bi−0.5CuとBi−1.0Geとから得られた第1合金に、Bi−2.5Agを合わせて得た第2合金をはんだ合金として含むはんだ材料を昇温させた場合について、その溶融過程を検討する。
図3(a)に示す常温時の状態から昇温させて、262℃になると、
図3(b)に示すように、まずBi−2.5Ag(図中、1cにて模式的に示す)が溶解し始める。このとき、はんだ合金中に存在するBi−0.5Cu(共晶点270℃)およびBi−1.0Ge(共晶点271℃)(図中、それぞれ1aおよび1bにて模式的に示す)は、262℃では溶解せず固体状態にあり、その後、
図3(c)に示すように270〜271℃に昇温されるに至って、それぞれ溶解し始める。このため、262℃から270〜271℃の間において固液共存領域が存在し、はんだ合金の凝固時に応力(例えば膨張応力)が一度に作用することを緩和させることができる。
【0045】
参考として、
図4および
図5に、Bi−0.5CuとBi−2.5Agの2種類の共晶合金を溶融混合させて得たはんだ合金のSEM(Scanning Electron Microscope)写真と、EDX(Energy Dispersive X-ray analyzer)マッピングによる各金属元素(Bi、Ag、Cu)の分布図をそれぞれ示す。これらから、BiCuおよびBiAgは、それぞれ凝集した状態で分布していることが理解される。
【0046】
更に、本発明において、上述のようにして得られる第2合金においては、極端な融点降下をもたらすことを防止できる。他方、特許文献1から3に記載されるようなBiをベースとする従来の鉛フリーはんだ合金において、Biの脆さを改善するために、他の金属元素を安易に添加すると、添加する金属元素の種類や添加率のばらつき等によって、極端に共晶点が低い共晶合金が発生して、Biをベースとした合金の融点(代表点には固相線温度)が低下し、この結果、はんだ接合部の耐熱信頼性が低下して、はんだ流れ不良、ボイド、接合劣化による半導体素子のカケ/割れの発生などの問題が生じることが懸念される。本発明によれば、かかる懸念は払拭され得る。
【0047】
以上から理解されるように、本発明のはんだ材料は、250〜350℃の高温域での固相線温度を有し、かつ、優れた機械的特性を示し、例えば300℃程度の温度雰囲気に曝しても安定した機械特性を有し、ひいては耐熱信頼性の高い接合部を形成することができる。加えて、本発明のはんだ材料は、高温状況下で特に問題になるはんだ合金の酸化を効果的に防止することができる。従って、接合対象である部材の被接合部との接合密着性ないし接合安定性に優れた鉛フリーの高温用のはんだ材料を実現することができる。かかるはんだ材料を用いて得られる接合構造体は、接合部の伸びが向上し、接合強度に優れたものとなり、大きな温度差(例えば電子部品や半導体素子のオン/オフに起因したり、自動車のエンジンルーム内におけるような温度差)に繰り返し曝されたり、接合界面に応力(はんだ合金の凝固時や、車載用ないし携帯用の電子機器において発生するような外部からの振動により発生する応力)が加わっても、高い接合強度を維持することができ、耐熱疲労特性および耐衝撃性に優れたものとなる。
【0048】
(実施形態2)
本実施形態は、はんだ材料に含まれるはんだ合金として第3合金(
図6を参照のこと)を用いる態様に関する。
【0049】
図6を参照して、実施形態1と同様にして(e)第2合金を調製する。そして、この(e)第2合金と、別途準備した(f)Niおよび/またはPとを用いて、(g)第3合金を調製する。
【0050】
Niおよび/またはPは、はんだ合金への添加金属元素であり、NiおよびPのいずれか一方を用いても、これら双方を用いてもよい。Niおよび/またはPは、第2合金ならびにNiおよび/またはPの合計に対してNiおよび/またはPを0.05〜2.0重量%、例えば0.1〜1.5重量%の割合で用いて、(g)第3合金とする。第3合金の調製方法は、一般的な合金調製方法を用いてよく、代表的には溶解混合が適用され得る。
【0051】
以上により得られる第3合金は、添加金属元素としてNiのみを用いた場合にはBi−Cu−Ge−Ag−Ni合金となり、添加金属元素としてPのみを用いた場合にはBi−Cu−Ge−Ag−P合金となり、添加金属元素としてNiおよびPを用いた場合には、Bi−Cu−Ge−Ag−Ni−P合金となる。このようにして得られる第3合金は、例えば250〜350℃、代表的には270〜320℃の固相線温度を有する。
【0052】
本実施形態においては、以上のようにして調製された第3合金をはんだ合金として用い、少なくとも該はんだ合金を含むはんだ材料が得られる。
【0053】
その他、本実施形態においても、実施形態1にて上述したものと同様の説明が当て嵌まり、実施形態1と同様の効果を奏し得る。更に加えて、本実施形態においては、Niおよび/またはPを所定量添加した第3合金をはんだ合金としており、これにより、はんだ接合部の機械的特性、特に伸びを向上させることができ、例えば1%以上、具体的には1〜15%、代表的には1〜10%の伸びを得ることができる。
【0054】
(実施形態3)
本実施形態は、はんだ材料に含まれるはんだ合金として粒子分散第2合金(
図7を参照のこと)を用いる態様に関する。
【0055】
図7を参照して、実施形態1と同様にして(e)第2合金を調製する。そして、この(e)第2合金と、別途準備した(h)Cu粒子および/またはNi粒子とを用いて、(i)粒子分散第2合金を調製する。
【0056】
Cu粒子および/またはNi粒子は、はんだ合金中に含まれることとなる添加金属粒子であり、Cu粒子および/またはNi粒子のいずれか一方を用いても、これら双方を用いてもよい。Cu粒子および/またはNi粒子には、約1〜40μm、例えば約10〜40μm、代表的には約20〜30μmの平均粒径(数平均粒径)を有するものとし、はんだ合金ならびに使用したCu粒子および/またはNi粒子の合計に対して約1〜20重量%、例えば約1〜17重量%の割合で用いる。
【0057】
以上により得られるはんだ合金は、概略的には、第2合金(Bi−Cu−Ge−Ag合金)をマトリクスとし、この中にCu粒子および/またはNi粒子が分散した状態で存在するものとなる。このようにして得られる粒子分散第2合金は、例えば250〜350℃、代表的には270〜320℃の固相線温度を有する。
【0058】
本実施形態においては、以上のようにして調製された粒子分散第2合金をはんだ合金として用い、少なくとも該はんだ合金を含むはんだ材料が得られる。
【0059】
その他、本実施形態においても、実施形態1にて上述したものと同様の説明が当て嵌まり、実施形態1と同様の効果を奏し得る。更に加えて、本実施形態においては、Cu粒子および/またはNi粒子を所定量添加した第2合金をはんだ合金としており、これら粒子は250℃から350℃で溶融しないので、はんだ合金の融点(代表的には固相線温度)を一層高めることができる。
【0060】
(実施形態4)
本実施形態は、はんだ材料に含まれるはんだ合金として粒子分散第3合金(
図8を参照のこと)を用いる態様に関する。
【0061】
図8を参照して、実施形態2と同様にして(g)第3合金を調製する。そして、この(g)第3合金と、別途準備した(h)Cu粒子および/またはNi粒子とを用いて、(j)粒子分散第3合金を調製する。
【0062】
Cu粒子および/またはNi粒子は、はんだ合金中に含まれることとなる添加金属粒子であり、Cu粒子および/またはNi粒子のいずれか一方を用いても、これら双方を用いてもよい。Cu粒子および/またはNi粒子には、約1〜40μm、例えば約10〜40μm、代表的には約20〜30μmの平均粒径(数平均粒径)を有するものとし、はんだ合金ならびに使用したCu粒子および/またはNi粒子の合計に対して約1〜20重量%、例えば約1〜17重量%の割合で用いる。
【0063】
以上により得られるはんだ合金は、概略的には、第3合金(添加金属元素としてNiのみを用いた場合にはBi−Cu−Ge−Ag−Ni合金であり、添加金属元素としてPのみを用いた場合にはBi−Cu−Ge−Ag−P合金であり、添加金属元素としてNiおよびPを用いた場合には、Bi−Cu−Ge−Ag−Ni−P合金である)をマトリクスとし、この中にCu粒子および/またはNi粒子が分散した状態で存在するものとなる。このようにして得られる粒子分散第3合金は、例えば250〜350℃、代表的には270〜320℃の固相線温度を有する。
【0064】
本実施形態においては、以上のようにして調製された粒子分散第3合金をはんだ合金として用い、少なくとも該はんだ合金を含むはんだ材料が得られる。
【0065】
その他、本実施形態においても、実施形態1にて上述したものと同様の説明が当て嵌まり、実施形態1と同様の効果を奏し得る。更に加えて、本実施形態においては、Cu粒子および/またはNi粒子を所定量添加した第3合金をはんだ合金としており、これにより、実施形態2と同様にはんだ接合部の機械的特性、特に伸びを向上させることができ、また、実施形態3と同様にはんだ合金の融点(代表的には固相線温度)を一層高めることができる。
【0066】
(実施形態5)
本実施形態は、はんだ材料に含まれるはんだ合金が粒子の形態であり、この粒子の表面が、はんだ合金の固相線温度より高い融点を有する材料で被覆されている態様に関する。
【0067】
まず、はんだ粒子31(
図9参照)を準備する。はんだ粒子は、はんだ合金から成り、粒子形状を有するものであればよい。はんだ粒子の平均粒径(数平均粒径)は、はんだ材料の用途等に応じて適宜選択し得るが、例えば約10〜100μm、特に20〜75μmの範囲内にあり得る。
【0068】
はんだ粒子は、はんだ合金を、任意の適切な方法で粒子状にすることによって得ることができる。例えば、実施形態1にて上述した第2合金および/または実施形態2にて上述した第3合金を粒子状にすることにより調整され得る。また例えば、実施形態3にて上述した粒子分散第2合金および/または実施形態4にて上述した粒子分散第3合金を粒子状にすることにより調整してもよい。粒子分散第2合金および/または粒子分散第3合金を用いる場合、Cu粒子および/またはNi粒子(図示せず)は、はんだ粒子31中で分散し得るように、所望されるはんだ粒子の平均粒径より小さい平均粒径を有し得、好ましくははんだ粒子の平均粒径の3/4以下、より好ましくは1/2以下、更に好ましくは1/4以下の平均粒径を有し得る。
【0069】
次に、
図9に模式的に示すように、はんだ粒子31の表面を、はんだ合金の固相線温度より高い融点を有する材料で被覆して、被膜33を形成する。以下、かかる材料を、単に「高融点材料」とも言い、高融点材料から成る被膜を、単に「高融点膜」とも言う。
【0070】
高融点材料は、その融点が、はんだ粒子に用いたはんだ合金の固相線温度より高いものであればよい。高融点材料は、使用するはんだ合金にもよるが、例えば280℃以上の融点を有し得る。高融点材料は、はんだ合金と金属間化合物または固溶体を形成し得、少なくとも1種の金属間化合物または固溶体がはんだ合金の固相線温度より高い温度、例えば280〜350℃、好ましくは300〜350℃で溶融するものであってよく、あるいは、高融点材料そのものが、はんだ合金の固相線温度より高い温度、例えば280〜350℃、好ましくは300〜350℃で溶融するものであってよい。高融点材料には、Ni、Ag、セラミック(例えばチタニア(TiO
2)、アルミナ/チタニア(Al
2O
3/TiO
2)、硫化亜鉛、シリカ)などを使用することができる。高融点材料には、Snは含まれない点に留意されたい。
【0071】
被覆方法は、特に限定されない。例えば、無電解めっき法、蒸着法、スパッタリング法、テンプレート法(分子鋳型法)、コーティング法などにより、はんだ粒子を高融点材料で被覆することができる。無電解めっきは、析出によりめっきを形成したままの状態では非晶質であるが、熱処理により結晶質とすることが可能であるので、高融点膜を非晶質および結晶質のいずれとするかは、はんだ材料の用途等に応じて適宜選択し得る。
【0072】
高融点膜33の厚さは、使用する高融点材料、はんだ合金の材料および寸法ならびにはんだ付け条件等に応じて適宜選択され得、はんだ合金の固相線温度より高い温度にて少なくとも部分的に分解および/または溶融すればよい。高融点膜の厚さは、被覆条件を異ならせることで調整可能で、約1nm〜1000μmの範囲において適宜選択可能であり、例えば、約1〜30μmの範囲内であってよい。はんだ粒子は、その表面の全部が高融点材料で被覆されていることが理想的であるが、このことは必須ではなく、はんだ粒子の表面の一部が露出していてもよい。
【0073】
以上により、はんだ粒子31の表面が高融点膜33で被覆された粒子(以下、「被覆粒子」とも言う)30が得られる。かかる被覆粒子30は、粒状材料(粒子の
集合体)を成し、代表的には、これを任意の適切なフラックス等と混合して、いわゆるはんだペーストを得ることができる。
【0074】
すなわち、本実施形態のはんだ材料は、被覆粒子30を含んで成り、これに加えて、任意の適切な他の材料、例えばフラックス等を含み得る。かかるはんだ材料を用いてはんだ付け(例えばリフローはんだ付け)を実施する場合、加熱により温度を上昇させていくと、はんだ合金の固相線温度では、被覆粒子30は高融点膜33で被覆されているため、実質的に分解/溶融せず、更に高い温度、例えば280℃以上、特に300℃以上、好ましくは350℃以下の温度にて、被覆粒子30が分解/溶融して、その内部のはんだ粒子31を構成するはんだ合金が溶け出して、その後は、溶融したはんだ合金によりはんだ付けが行われて、加熱が終了される。
【0075】
参考として、
図10に、Bi−2.5Agの合金から成る粒子をNiで被覆した粒子材料を示差熱分析(DTA)に付して得られるグラフを示す。横軸は、加熱時の温度(℃)を示し、縦軸「DTA」は、熱電対起電力差(μV)を示し、これは温度差さらに反応熱量に対応する。
【0076】
このNi被覆Bi−2.5Ag粒子は、次のようにして調整した。まず、Bi−2.5Agのはんだ粒子(平均粒径 約30μm)を準備し、アセトン中で超音波洗浄することにより、はんだ粒子表面の脱脂を行った。得られたはんだ粒子を、無電解めっき浴中へ浸漬し、はんだ粒子の表面にNiめっきを施して高融点膜を形成した。無電解めっき浴の組成は、NiSO
4・6H
2O−30g/l;NaH
2PO
2・H
2O−20g/l;CH
3COONa・3H
2O−20g/lとした。高融点膜(Niめっき)の厚さは、約5〜10μmとした。その後、熱処理は特段行わず、高融点膜(Niめっき)は非晶質のままとした。なお、本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、高融点膜(Niめっき)とはんだ粒子表面との界面において、高融点膜を形成しているNiとはんだ粒子の主成分であるBiとが相互拡散し、Ni濃度の勾配が生じているものと考えられる。
【0077】
図10を再び参照して、Ni被覆Bi−2.5Ag粒子をDTA分析に付して加熱していくと、点A(248.6℃)にて最初のピークを示し、これは初晶溶融により液相が出現したことによるものと考えられる。その後、点線Bにて囲んだ曲線部分では、種々の金属間化合物または固溶体が次第に溶融し、各組成の液相線に沿って液化しているものと考えられ、これには、NiBi
3の液化も含まれると考えられる。そして、点Cのピーク(470℃)において、NiBi
3の液化が終了し、NiとBiとの金属間化合物としてはNiBiのみが固相で残るものと考えられる。やがて、点D(655℃)において、NiBiの液化が終了するものと考えられる。
【0078】
以上の結果から、Ni被覆Bi−2.5Ag粒子は、Bi−2.5Agはんだ合金の融点(共晶点 262℃)では溶融せず、より高い温度になって高融点膜(特に、はんだ合金の融点よりも高融点であるが、NiとBiとの金属間化合物のうちでは低融点であるNiBi
3)が分解/溶融してはじめて、高融点膜内部のはんだ合金が溶け出して、はんだ接合を形成することができるものと考えられる。このことは、DTA分析を行った参考例のNi被覆Bi−2.5Ag粒子に限られるものでなく、本実施形態のはんだ材料にも同様に当て嵌まるものと理解される。なお、高融点材料としてセラミック(チタニア、アルミナ/チタニア、シリカ等)を使用した場合、セラミックの高融点膜(セラミックシェル)は、熱膨張によりシェル(高融点膜)が変形/損傷することにより分解/溶解し、これによりはじめて、シェル内部のはんだ合金が溶け出して、はんだ接合を形成することができるものと考えられる。
【0079】
よって、本実施形態のはんだ材料は、被覆粒子30を含んでなり、高融点膜で被覆されていないはんだ粒子を含んで成るはんだ材料に比べて、分解/溶融する温度がより高いはんだ材料を実現することができる。更に、かかるはんだ材料を用いて形成されたはんだ接合部には、はんだ合金の融点より高い温度で分解/溶解する高融点膜に由来する物質、より詳細には、はんだ合金より融点の高い金属間化合物または固溶体、あるいははんだ合金の融点より高い温度で変形/損傷するシェル材料が存在し得、よって、それらの複合材料から成るはんだ接合部は、その平均融点が、はんだ合金のみの場合に比べて高くなるので、耐熱信頼性のより高いはんだ接合部を形成することができる。その他、本実施形態においても、使用するはんだ合金に応じて、実施形態1〜4にて上述したものと同様の説明が当て嵌まる。
【0080】
以上の実施形態1〜5におけるはんだ材料を用いて種々の接合構造体を得ることができ、実施形態1にて
図2を参照して例示したようにパワーエレクトロニクス装置を得ることができるほか、以下の応用例に示すような様々な接合構造体を得るために利用可能である。
【0081】
(接合構造体の応用例1)
図11(a)および(b)に示すように、電子部品7とモジュール基板9とを、電子部品7の電極8とモジュール基板9の電極ランド12(
図11(b)参照)との間において、実施形態1〜5にて詳述したような本発明のはんだ材料を用いてはんだ接合部10を形成してモジュール部品11を得てもよい。換言すれば、モジュール部品のはんだ接合部10は、本発明のはんだ材料、例えば実施形態1〜5にて詳述したようなはんだ材料のはんだ合金から実質的に成り得る。なお、はんだ合金がCu粒子および/またはNi粒子を含む場合には、
図12を参照のこと。このようにして構成されたモジュール部品11は、マザー基板19に実装して組み立てられて、電気・電子機器とされ得る。特に、モジュール部品では、はんだ接合部10のはんだ材料(より詳細にははんだ合金)が溶融せず、高周波特性を保持することが求められる。かかる応用例においても、実施形態1〜5にて上述したものと同様の説明が当て嵌まり、実施形態1〜5と同様の効果を奏し得る。
【0082】
本応用例において、電子部品7の電極8および/またはモジュール基板9の電極ランド12はめっき(図示せず)を有していてよい。
【0083】
より詳細には、電子部品7の電極8および/またはモジュール基板9の電極ランド12は、Sn含量が0.5重量%未満のめっきが施され得る。例えば、電子部品7の電極8にNi下地Auフラッシュめっきを施したものを用い(Sn含有率が不可避の不純物を除いて0.5重量%未満である)、モジュール基板9の電極ランド12にCu電極ランド(Sn含有率が不可避の不純物を除いて0.5重量%未満である)を用いて、モジュール部品11を作製してよい。この場合、はんだ接合部10におけるはんだ合金に存在し得る金属元素は、被接合部から混入し得る金属元素を考慮して、Bi、Cu、Ge、Ag、Ni(およびはんだ合金にPを添加した場合にはP、また、場合により高融点材料)となり、Snは有意な量で混入しない。
【0084】
また例えば、電子部品7の電極8にBiめっきを施した場合には、接合後の高温はんだ材料の構成元素は、はんだ接合部におけるはんだ合金に存在し得る金属元素は、被接合部から混入し得る金属元素を考慮して、Bi、Cu、Ge、Ag、(ならびにはんだ合金にPを添加した場合にはP、はんだ合金にNiを添加した場合および/または
図12に示すようにはんだ合金中にNi粒子を含ませた場合にはNi、また、場合により高融点材料)となり、Snは有意な量で混入せず、Ni下地Auフラッシュめっきを施した場合と同様に良好な耐熱信頼性を保持できる。
【0085】
(接合構造体の応用例2)
図13に示すように、パワートランジスタ等の大電流が流れたり高電圧が印加されたりすることにより大きな発熱を伴う半導体実装部品の内部において、フラットリード15と金属箔17とを、これらの間において、実施形態1〜5にて詳述したような本発明のはんだ材料16を用いて接合してパワートランジスタ(半導体実装部品)18を得てもよい。このようにして構成されたパワートランジスタ18は、マザー基板19に実装して組み立てられて、電気・電子機器とされ得る。特に、パワートランジスタでは、はんだ接合部16のはんだ材料(より詳細にははんだ合金)が溶融せず、電気的接合が破断しないことが求められる。かかる応用例においても、実施形態1〜5にて上述したものと同様の説明が当て嵌まり、実施形態1〜5と同様の効果を奏し得る。
【0086】
本応用例において、フラットリード15はめっき(図示せず)を有していてよい。
【0087】
(接合構造体の応用例3)
図14に示すように、パワートランジスタ等の半導体実装部品ないし電子部品と、マザー基板19とを、半導体実装部品ないし電子部品のフラットリード15とマザー基板19の電極ランド20との間において、実施形態1〜5にて詳述したような本発明のはんだ材料21を用いて接合してもよい。なお、はんだ合金がCu粒子および/またはNi粒子を含む場合には、
図15を参照のこと。かかる応用例においても、実施形態1〜5にて上述したものと同様の説明が当て嵌まり、実施形態1〜5と同様の効果を奏し得る。
【0088】
本応用例において、半導体実装部品ないし電子部品のフラットリード15および/またはマザー基板19の電極ランド20はめっき(図示せず)を有していてよい。
【0089】
より詳細には、フラットリード15および/またはモジュール基板9の電極ランド12は、Sn含量が0.5重量%未満のめっきが施され得る。例えば、フラットリード15にNi下地Auフラッシュめっきを施したものを用い(Sn含有率が不可避の不純物を除いて0.5重量%未満である)、マザー基板19の電極ランド20にCu電極ランド(Sn含有率が不可避の不純物を除いて0.5重量%未満である)を用いて、電子部品実装基板を作製してよい。この場合、はんだ接合部21におけるはんだ合金に存在し得る金属元素は、被接合部から混入し得る金属元素を考慮して、Bi、Cu、Ge、Ag、Ni(およびはんだ合金にPを添加した場合にはP、また、場合により高融点材料)となり、Snは有意な量で混入しない。
【0090】
また例えば、電子部品7の電極8にBiめっきを施した場合には、接合後の高温はんだ材料の構成元素は、はんだ接合部におけるはんだ合金に存在し得る金属元素は、被接合部から混入し得る金属元素を考慮して、Bi、Cu、Ge、Ag、(ならびにはんだ合金にPを添加した場合にはP、はんだ合金にNiを添加した場合および/または
図15に示すようにはんだ合金中にNi粒子を含ませた場合にはNi、また、場合により高融点材料)となり、Snは有意な量で混入せず、Ni下地Auフラッシュめっきを施した場合と同様に良好な耐熱信頼性を保持できる。
【0091】
以上、本発明の実施形態およびその応用例について詳述した。しかし、本発明のはんだ材料およびこれを用いた接合構造体は、上述したはんだ合金を少なくとも含むはんだ材料およびこれを用いて任意の2つの部材が接合された接合構造体を指向したものであるから、上述の実施形態およびその応用例に限定されることなく、表面に被接合部(導体)を有する基板、素子、デバイスの形状、材室、導体の個数等は上述の実施形態に限定されず、広範に種々の変更、置換、拡張等がなされ得る。
【実施例】
【0092】
以下、本発明の実施例および比較例について詳述する。
【0093】
(実験例1)
本実験例は、
図1を参照して説明した実施形態1に関するものである。
【0094】
下記の表1〜3に示すように、実施例1〜30および比較例1〜10として、(a)Bi−0.5Cu共晶合金と、(
b)Bi−1.0Ge共晶合金とを、表に示す混合割合で用いて、(c)第1合金を調製し、次いで、この(c)第1合金と、(d)Bi−2.5Ag共晶合金とを、表に示す混合割合で用いて、(
e)第2合金を調製した。調製した第1合金および第2合金(はんだ合金)の合金組成を、表中に各々併せて示す。
【0095】
はんだ合金を調製するにおいて、伸びやブリッジ、クラックなどの実装品質に最も大きく影響するのは、機械的性質を向上させるBi−Ag合金である。よって、比較例においては、Bi−Ag合金の混合割合を、本発明の範囲から極わずかに外れる4.9重量%および80.1重量%とした。
【0096】
各実施例および比較例のはんだ合金を含むはんだ材料について、以下の各試験方法に従って、融点としての固相線温度および液相線温度(単に固相温度および液相温度とも表記する)、機械的特性である伸び、上述した応用例1と同様にして作製したモジュール部品(但し、電子部品7の電極8にNi下地Auフラッシュめっきを施し、モジュール基板9の電極ランド12にCu電極ランドを用いた)のブリッジ発生率およびヒートサイクル試験での実装不良率について評価した。結果を表1〜3に併せて示す。
【0097】
・融点
はんだ合金を、
グリセリン中に滴下して急冷凝固させた後、30mg程度にカットしたサンプルを円柱管に保持し、熱流速DSC(Differential Scanning Calorimetry)法に基づいて実施した。ここでDSC評価条件は、測定温度範囲は常温から500℃、窒素雰囲気でレファレンスとしてAl
2O
3を用い、サンプリング間隔は1秒とした。昇温速度は5℃/分とした。こうして得られた熱分析温度プロファイルをもとに、吸熱反応開始点を固相(線)温度(℃)、吸熱反応完了点を液相(線)温度(℃)とした。
【0098】
・伸び(%)
1.5kgのはんだ合金を使用して、溶融温度350℃、金型温度50℃にて3個のインゴットを鋳造し、各インゴットからJIS Z2201:2011に従った4号試験片を機械加工によって3本作製した。この試験片を、室温で歪速度30%/分の条件で引張り試験を行って、降伏伸び(%)を測定した。
【0099】
・ブリッジおよびヒートサイクル
はんだ合金の粒子とフラックスからはんだペーストを得、このはんだペーストを試験基板の電極ランドに塗布し、その上にチップ抵抗部品(2012)を載置し、リフローはんだ付けを行った。リフロ−ピーク温度は、はんだ合金の融点(液相温度)+20℃とした。得られたチップ抵抗部品実装基板において、はんだ合金が電極間にまたがって延在するブリッジの発生率を調べた。また、チップ抵抗実装基板の耐熱疲労強度を調べるために、−40℃〜+125℃のヒートサイクル試験に付した。−40℃および+125℃の温度にて30分間保持し、1500サイクルまで試験を行った。チップ抵抗部品は電極とともに樹脂に埋め込み、研磨して断面のはんだ接合部を観察して、はんだ中の亀裂(クラック)の有無を観察して、実装不良率を求めた。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
【表3】
【0103】
この結果から、実施例1〜30では、250〜350℃、具体的には260℃以上の固相線温度が得られ、かつ、かつ、伸びが1〜15%の十分な機械的特性を有するとともに、ブリッジも、ヒートサイクルによるクラックも発生せず、良好な耐熱信頼性を示すことが確認された。これに対して、Bi−Ag合金の混合割合を4.9重量%とした比較例1、2、5、7、8では、ヒ―トサイクルによるクラックを発生することがわかった。Bi−Ag合金の混合割合を80.1重量%とした比較例3、4、6、9、10では、融点の低下が起こるとともに、はんだ合金の溶融時にダレが生じてブリッジが発生することがわかった。
【0104】
(実験例2)
本実験例は、
図6を参照して説明した実施形態2に関するものである。
【0105】
下記の表4〜5に示すように、実施例6のはんだ合金を基準とし、実施例31〜44および比較例11〜16として、(e)第2合金としてBi−007Cu−0.06Ge−2.0Ag合金と、(f)Niおよび/またはPの添加金属元素とを、表に示す混合割合で用いて、(g)第3合金を調製した。調製した第3合金(はんだ合金)の合金組成を、表中に併せて示す。
【0106】
比較例においては、Niおよび/またはPの混合割合(双方を添加する場合はこれらの合計)を、本発明の範囲から極わずかに外れる約0.04重量%および約2.06重量%とした。
【0107】
各実施例および比較例のはんだ合金を含むはんだ材料について、実験例1と同様にして評価した。結果を表4〜5に併せて示す。
【0108】
【表4】
【0109】
【表5】
【0110】
この結果から、実施例31〜44では、270℃以上の固相線温度が得られ、かつ、伸びが1〜15%の十分な機械的特性を有するとともに、ブリッジも、ヒートサイクルによるクラックも発生せず、良好な耐熱信頼性を示すことが確認された。これに対して、Niおよび/またはPの混合割合(双方を添加する場合はこれらの合計)を約0.04重量%とした比較例11、13、15、ならびび約2.06重量%とした比較例12、14、16では、ヒ―トサイクルによるクラックやブリッジが発生することがわかった。より詳細には、Niおよび/またはPの混合割合を0.05〜2.0重量%とすると伸びが増大したのに対し、0.05重量%以下では伸びが低下し、2.0重量%以上ではヒートサイクルでの信頼性に不良がでた。
【0111】
(実験例3)
本実験例は、
図7を参照して説明した実施形態3に関するものである。
【0112】
下記の表6に示すように、実施例6のはんだ合金を基準とし、実施例45〜54として、(e)第2合金としてBi−007Cu−0.06Ge−2.0Ag合金と、(h)平均粒径23μmのCu粒子および/またはNi粒子の添加粒子とを、表に示す混合割合で用いて、(i)粒子分散第2合金を調製した。調製した粒子分散第2合金(はんだ合金)のうち、マトリックスを成す第2合金の合金組成と、はんだ合金中の粒子含量とを表中に併せて示す。
【0113】
各実施例のはんだ合金を含むはんだ材料について、実験例1と同様にして評価した。結果を表6に併せて示す。
【0114】
【表6】
【0115】
この結果から、実施例45〜54では、270℃以上の固相線温度が得られ、かつ、伸びが1〜15%の十分な機械的特性を有するとともに、ブリッジも、ヒートサイクルによるクラックも発生せず、良好な耐熱信頼性を示すことが確認された。
【0116】
(実験例4)
本実験例は、
図8を参照して説明した実施形態4に関するものである。
【0117】
下記の表7〜8に示すように、実施例6のはんだ合金を基準とし、実施例55〜70として、(e)第2合金としてBi−007Cu−0.06Ge−2.0Ag合金と、(f)Niおよび/またはPの添加金属元素とを、表に示す混合割合で用いて、(g)第3合金を調製し、更に、この(g)第3合金と、(h)平均粒径26μmのCu粒子および/またはNi粒子の添加粒子とを、表に示す混合割合で用いて、(j)粒子分散第3合金を調製した。調製した粒子分散第3合金(はんだ合金)のうち、マトリックスを成す第3合金組成と、はんだ合金中の粒子含量とを表中に併せて示す。
【0118】
各実施例のはんだ合金を含むはんだ材料について、実験例1と同様にして評価した。結果を表7〜8に併せて示す。
【0119】
【表7】
【0120】
【表8】
【0121】
この結果から、実施例55〜70では、270℃以上の固相線温度が得られ、かつ、伸びが1〜15%の十分な機械的特性を有するとともに、ブリッジも、ヒートサイクルによるクラックも発生せず、良好な耐熱信頼性を示すことが確認された。
【0122】
(実験例5)
上述した応用例3において、実施例6のはんだ合金を含むはんだペースト(実験例1のヒートサイクルの評価で調製したものと同様のもの)を用いて、
図14に示す電子部品のフラットリード15にBiめっき、Niめっき、Auめっき、Ni下地Auフラッシュめっきをそれぞれ施したものを、マザー基板19のCu電極ランド20に接合し、得られた電子部品実装基板のヒートサイクル試験の実装不良率について、実験例1と同様にして評価した。結果を表9に示す。
【0123】
【表9】
【0124】
この結果、Biめっきを施した場合に最も優れた耐熱信頼性が得られた。
【0125】
(実験例6)
上述した接合構造体の応用例1(
図11参照)に従って、電子部品7の電極8にNi下地Auフラッシュめっきを施したものを用い(Sn含有率が不可避の不純物を除いて0.5重量%未満である)、モジュール基板9の電極ランド12にCu電極ランド(Sn含有率が不可避の不純物を除いて0.5重量%未満である)を用いて、モジュール部品11を作製した。はんだ材料には、実施例64のはんだ合金を含むはんだ材料を用いた。得られたモジュール部品を、150℃で500時間の高温保持試験に付したところ、試験後の接合強度の測定値は、試験前の接合強度(初期値)の84%となり、基準値である80%以上を上回っていた。この結果から、はんだ接合部に低融点合金であるSn−58%Bi共晶合金(共晶点 138℃)が発生せず、または十分抑制され得、よって、耐熱信頼性を保持できることが確認された。
また、比較のために、電子部品の電極8のNi下地Auフラッシュめっき中のSn含有率またはモジュール基板9の電極12のCu電極ランド中のSn含有率を、不可避の不純物を除いて0.5重量%および1.0重量%にしたこと以外は上記と同様にしてモジュール部品を作製し、同様の試験に付したところ、試験後の接合強度測定値は、試験前の接合強度(初期値)の76%および71%となり、基準値の80%を下回った。この結果から、耐熱信頼性に与える影響が大きく、製品としての使用に適さないと考えられる。
【0126】
(実験例7)
上述した接合構造体の応用例3(
図14参照)に従って、フラットリード15にNi下地Auフラッシュめっきを施したものを用い(Sn含有率が不可避の不純物を除いて0.5重量%未満である)、マザー基板19の電極ランド20にCu電極ランド(Sn含有率が不可避の不純物を除いて0.5重量%未満である)を用いて、電子部品実装基板を作製した。はんだ材料には、実施例68のはんだ合金を含むはんだ材料を用いた。得られた電子部品実装基板を、150℃で500時間の高温保持試験に付したところ、試験後の接合強度の測定値は、試験前の接合強度(初期値)の82%となり、基準値である80%以上を上回っていた。この結果から、はんだ接合部に低融点合金であるSn−58%Bi共晶合金(共晶点 138℃)が発生せず、または十分抑制され得、よって、耐熱信頼性を保持できることが確認された。