【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
[実施例1:新規インテグリンα9β1リガンドの同定]
〔実験方法〕
(1)cDNAクローニングおよび発現ベクターの構築
FLAGタグおよび6×HisタグをコードするDNA断片をPCRで増幅した。この断片をpcDNA3.1(+)ベクターまたはpSecTag2Bベクター(いずれもInvitrogen)のNotI/ApaIサイトに挿入し、pcDNA−FLAG、pSec−FLAGおよびpSec−Hisを得た。N末端にFLAGタグの付いたタンパク質の発現ベクターを構築するために、FLAG配列をコードするDNA断片をpSec−HisベクターのHindIII/BamHIサイトに挿入し、pSec−NFLAG−Hisを得た。マウスSVEP1(以下、実施例において「polydom」と記す)をコードするcDNAは、マウス7日胚から抽出したRNA(Clontech)を用いてRT−PCRにより取得し、pBluescript KS(+)(Strategene)にサブクローニングした。塩基配列確認後、エラーのないcDNA断片をpcDNA−FLAG、pSec−FLAG、pSec−HisまたはpSec−NFLAG−HisのBamHI/NotIサイトに挿入した。切断型polydom用の発現ベクターも、PCRで増幅したcDNAをpSec−HisのBamHI/NotIサイトまたはHindIII/NotIサイトにサブクローニングすることにより構築した。
【0042】
(2)組み換えpolydomの発現および精製
組み換えpolydomおよびそのフラグメントは、FreeStyle
TM293 Expression System(Invitrogen)を用いて作製した。N末端polydomフラグメント(以下「pol−N」と記す、
図1参照)は、配列番号2の第18位〜第789位のアミノ酸配列を有し、C末端にHisタグが付加されたフラグメントである。C末端polydomフラグメント(以下「pol−C」と記す、
図1参照)は、配列番号2の第1192位〜第3567位のアミノ酸配列を有し、C末端にHisタグが付加されたフラグメントである。293fectin(Invitrogen)を用いて、FreeStyle
TM293−F細胞に発現ベクターをトランスフェクションし、無血清FreeStyle
TM293発現培地で72時間培養した。馴化培地を回収し、遠心分離により浄化した。発現確認のために、細胞をTBS(1 % (w/v) Nonidet P-40、1 mM phenylmethylsulfonyl fluoride, 5 μg/ml aprotinin、5 μg/ml leupeptin および5μg /ml pepstatin を含む)で溶解した。馴化培地および細胞溶解液を、Ni−NTAアガロース(キアゲン)または抗FLAG M2アガロース(シグマ)でプルダウンし、免疫ブロットに供した。FLAGタグ付加タンパク質を精製するために、馴化培地を抗FLAG M2アガロースカラムにアプライし、結合したタンパク質を100μg/mlのFLAGペプチドを含むPBSで溶出した。Hisタグ付加タンパク質を精製するために、馴化培地をNi−NTAアガロースを用いたアフィニティークロマトグラフィーに供した。カラムをPBSで洗浄し、結合したタンパク質を200mMイミダゾールを含むPBSで溶出した。溶出タンパク質をPBSに対して透析した。精製タンパク質の濃度は、ウシ血清アルブミン(BSA)をスタンダードに用いるブラッドフォード法で定量した。
【0043】
(3)polydom抗体
polydomに対する抗体は、FLAGタグ付加全長polydomを免疫原として用いてウサギで作製した。抗体は、N末端polydomフラグメントまたはC末端polydomフラグメントのどちらかを含むカラムを用いてアフィニティー精製した。カラムを0.5MのNaClを含む10mM Tris−HCl(pH7.5)で洗浄し、続いて0.1Mグリシン−HCl(pH2.8)を用いて結合した抗体を溶出した。溶出画分を直ちに1M Tris−HCl(pH9.0)で中和し、PBSに対して透析した。Alexa Fluor
TM555標識抗polydom(pol−N)抗体は、APEX
TM Alexa Fluor抗体標識キット(Invitrogen)を用いて作製した。
【0044】
(4)細胞接着アッセイ
細胞接着アッセイは文献(Sato, Y., Uemura, T., Morimitsu, K., Sato-Nishiuchi, R., Manabe, R., Takagi, J., Yamada, M., and Sekiguchi, K. (2009) J. Biol. Chem. 284, 14524-14536)の記載に従って実施した。阻止抗体に関するアッセイのために、RD細胞(ヒト横紋筋肉腫由来)を目的のモノクローナル抗体と室温で15分間プレインキュベーションし、組み換えpolydomタンパク質またはフィブロネクチンをコートした96穴プレートに播種した。細胞を30分間インキュベートし、洗浄し、3.7%ホルムアルデヒドで固定し、0.5%トルイジンブルーで染色した。
【0045】
(5)フローサイトメトリー
A549細胞(ヒト肺腺癌由来)、HT1080細胞(ヒト線維肉腫由来)およびRD細胞表面のインテグリンα9β1発現レベルは、抗インテグリンα9β1モノクローナル抗体Y9A2を用いたフローサイトメトリーにより確認した。コントロールとしてマウス正常IgGを用いた。
【0046】
(6)組み換えインテグリンの発現および精製
ヒトインテグリンα9の細胞外領域をコードするcDNAは、RD細胞から抽出したトータルRNAを用いたRT−PCRにより増幅し、pBluescript KS(+)にクローニングした。塩基配列確認後、エラーのないcDNA断片をpcDNA−ACID−FLAG(Nishiuchi, R., Takagi, J., Hayashi, M., Ido, H., Yagi, Y., Sanzen, N., Tsuji, T., Yamada, M., and Sekiguchi, K. (2006) Matrix Biol. 25, 189-197)に挿入した。インテグリンβ1の細胞外領域用発現ベクターは高木淳一博士から分与を受けた(Takagi, J., Erickson, H. P., and Springer, T. A. (2001) Nat. Struct. Biol. 8, 412-416)。組み換えインテグリンは、FreeStyle
TM293 Expression System(Invitrogen)を用いて作製し、前記 Matrix Biol. 25, 189-197, (2006) に記載の方法で精製した。
【0047】
(7)SDS−PAGE、ウエスタンブロッティングおよびアミノ酸配列解析
SDS−PAGEはLaemmli法で行った。銀染色、CBB染色またはニトロセルロース膜(免疫ブロッティング用)もしくはフッ化ポリビニリデン膜(アミノ酸配列解析用)にトランスファーすることにより、分離したタンパク質を可視化した。免疫ブロッティングのために、膜を抗体でプローブし、続いてECL検出キット(GE Healthcare)を用いて可視化した。アミノ酸配列解析のために、膜上のタンパク質バンドをCBB染色で可視化し、タンパク質バンドを膜から切り出した。N末端のアミノ酸をProcise 491 cLC protein sequencer(Applied Biosystems)を用いてエドマン法で分析した。
【0048】
(8)インテグリン結合アッセイ
インテグリン結合アッセイは、前記 Matrix Biol. 25, 189-197, (2006) に記載の方法で実施した。いくつかの実験を行い、インテグリンと合成ペプチドとを種々の濃度でプレインキュベーションすることにより合成ペプチドの阻害活性を評価した。見かけの解離常数を文献(Nishiuchi, R., Murayama, O., Fujiwara, H., Gu, J., Kawakami, T., Aimoto, S., Wada, Y., and Sekiguchi, K. (2003) J. Biochem. 134, 497-504)に従い決定した。
【0049】
(9)GST融合polydom、テネイシンCおよびオステオポンチンフラグメントの発現および精製
CCP21またはその欠失変異体をコードするcDNAをPCRで増幅し、pGEX4T−1(GE Healthcare)のEcoRI/SalIサイトにサブクローニングした。CCP21および当該ドメインのGlu2628−Ser2664が欠失した断片(以下、「ΔD2628−S2664」と記す)は、C末端にHisタグが付加されている。GST融合タンパク質は、0.1mM IPTGを添加して25℃で2時間インキュベートすることにより大腸菌BL21中に誘導した。菌をソニケーションにより溶解し、上清をグルタチオンセファロース4Bカラム(GE Healthcare)に通した。結合したタンパク質を10mMグルタチオンを含む50mM Tris−HCl(pH8.0)で溶出した。GST融合CCP21の正常体および変異体を、さらにNi−NTAアガロースカラムで精製した。精製タンパク質を130mM NaClを含む20mM HEPESバッファー(pH8.0)に対して透析し、ブラッドフォード法で定量した。
【0050】
ヒトテネイシンCの第3番フィブロネクチンタイプIIIドメイン(以下、「Tnfn3」と記す)をコードするcDNAは、HT1080細胞から抽出したRNAを用いたRT−PCRにより取得し、pBluescript KS(+)にサブクローニングした。ヒトオステオポンチンをコードするcDNAは、NIH Mammalian Gene Collection(Invitrogen)から購入した。オステオポンチンのN末端フラグメント(以下、「OPN−Nhalf」と記す)をコードするcDNAは、PCRで増幅した。インテグリンα9β1との特異的結合のために、Tnfn3およびOPN−Nhalf内のRGDモチーフをRAAに変異させた(以下、それぞれ「Tnfn3−RAA」および「OPN−Nhalf−RAA」と記す)。塩基配列確認後、cDNA断片はpGEX4T−1のEcoRI/SalIサイトに挿入した。どちらのタンパク質も、上述のとおり発現させ、精製した。
【0051】
(10)免疫組織化学
マウス胚をO.C.T.コンパウンド(サクラファインテック)で包埋し、凍結切片を作製した。3.7%ホルムアルデヒド(polydom染色用)または氷冷アセトン(polydomとインテグリンα9のダブル染色用)で切片を固定した。その後、切片をコンドロイチナーゼABC(5U/ml、生化学工業)およびヒアルロニダーゼ(1U/mlシグマ)を含むPBSで37℃30分間前処理し、続いて0.3%H
2O
2で内因性ペルオキシダーゼを失活させ、1%BSAを含むPBSでブロッキングした。4℃で一夜、切片を抗体で標識し、PBSで洗浄した。結合した抗体をHRPポリマー標識抗ウサギIgGおよびDAB(Dako)またはAlexa Fluor
TM標識二次抗体で可視化した。マイヤー・ヘマトキシリン(DAB染色)またはHoechst33342(免疫蛍光染色)で切片を対比染色し、マウントクイック(大道産業)またはFluorescent Mounting Medium(Dako)で切片をマウントした。
【0052】
(11)In situインテグリン結合アッセイ
マウス胚の凍結切片を氷冷アセトンで15分間固定し、TBSで洗浄し、1%BSAを含むTBSでブロッキングした。TBSで3回洗浄した後、1%BSAおよび1mM MnCl
2を含むTBSで溶解した組み換えインテグリンα9β1(3μg/ml)を用いて4℃で一夜、切片を標識した。1mM MnCl
2を含むTBS(TBS/Mn)で洗浄した後、1%BSAを含むTBS/Mn(TBS/Mn/BSA)に溶解した抗Velcro抗体(0.5μg/ml)で、室温で2時間、切片をインキュベートした。TBS/Mnで洗浄した後、TBS/Mn/BSAに溶解したAlexa Fluor
TM488標識抗ウサギIgGヤギ抗体で、室温で2時間、切片をインキュベートした。洗浄後、TBS/Mn/BSAに溶解した100μg/mlの正常ウサギIgG(Dako)で、室温で1時間、切片をインキュベートし、二次抗体か結合していない領域をブロッキングした。130mM NaClおよび1mM MnCl
2を含む20mM HEPESバッファー(pH7.5)で切片を洗浄し、130mM NaClおよび1mM MnCl
2を含む20mM HEPESバッファー(pH7.5)に溶解した3.7%ホルムアルデヒドで、10分間再固定した。TBSで洗浄後、1%BSAを含むTBSに溶解したAlexa Fluor
TM555標識抗polydom抗体で、4℃で一夜、切片をインキュベートした。TBSで洗浄後、Fluorescent Mounting Medium(Dako)で切片をマウントした。
【0053】
(12)使用抗体
抗ヒトインテグリンα3マウスモノクローナル抗体(3G8)および抗ヒトインテグリンα3マウスモノクローナル抗体(8F1)は、それぞれ文献(Kikkawa, Y., Sanzen, N., Fujiwara, H., Sonnenberg, A., and Sekiguchi, K. (2000) J. Cell Sci. 113, 869-876 および Manabe, R., Ohe, N., Maeda, T., Fukuda, T., and Sekiguchi, K. (1997) J. Cell Biol. 139, 295-307)に記載の方法で自作した。抗インテグリンサブユニットα6モノクローナル抗体(AMCI7−4)は、片山政彦博士(エーザイ筑波研究所)から分与を受けた(Katayama, M., Sanzen, N., Funakoshi, A., and Sekiguchi, K. (2003) Cancer Res. 63, 222-229)。抗ヒトインテグリンβ1マウスモノクローナル抗体(AIIB2)は、Developmental Studies Hybridoma Bank (アイオワ)から入手した。抗ヒトインテグリンα2サブユニットマウスモノクローナル抗体(P1E6)、抗ヒトインテグリンα9β1マウスモノクローナル抗体(Y9A2)、およびマウスノーマルIgGは、Santa Cruz Biotechnologyから購入した。抗マウスインテグリンα9ヤギポリクローナル抗体は、R&D Systemsから入手した。HRP標識抗FLAG M2抗体および抗penta−His抗体は、それぞれシグマおよびキアゲンから入手した。抗Velcro抗体は、文献(Takagi, J., Erickson, H. P., and Springer, T. A. (2001) Nat. Struct. Biol. 8, 412-416)の記載に従い、コイルドコイル酸性および塩基性ペプチドをウサギに免疫することにより作製した。
【0054】
〔実験結果〕
(1)組み換えpolydomの確認
マウス免疫グロブリンκ鎖のシグナル配列を有する組み換えpolydom発現用の細胞を培養した培地を抗FLAGモノクローナル抗体を用いてアフィニティー精製し、得られたpolydomを非還元または還元条件で6%SDS−PAGEに供した。
【0055】
結果を
図2に示した。
図2から明らかなように、非還元条件(NR)で220kDaおよび100kDaの2つの主要なバンドを検出した。還元条件(R)でも同様のバンドパターンが得られたが、非還元条件より移動速度が少し遅かった(270kDaおよび115kDa)。この結果から、両者はいずれもペプチド内ジスルフィド結合に富んでいることが示唆された。両タンパク質バンドのN末端のアミノ酸配列を決定したところ、115kDaのバンドはDAAQから始まっており、マウス免疫グロブリンκ鎖のシグナル配列を除いたN末端の配列と推定された。一方、270kDaのバンドはVAPGから始まっており、これは配列番号2の第1177位〜第1180位と一致し、N末端は第1番EGFドメインに位置した。これらの結果から、polydomは分泌後または分泌前にタンパク質分解処理されて2つのパート、すなわちN末端側の115kDaフラグメントとC末端側の270kDaフラグメントに分かれるが、タンパク質分解的切断後も結合が維持されることが示唆された。
【0056】
次に、N末端にFLAGタグ、C末端にHisタグを有する組み換えpolydomを293−F細胞を用いて発現させ、抗FLAG抗体ビーズまたはNi−NTAビーズを用いて培地および細胞溶解液から組み換えpolydomを沈殿させた。沈殿物を還元条件で5%SDS−PAGEに供し、抗His抗体および抗FLAG抗体を用いて免疫ブロッティングを行った。陰性コントロールとして、遺伝子を導入していない293−F細胞を用いて同様の手順で行った。
【0057】
結果を
図3(A)および(B)に示した。(A)は抗His抗体による免疫ブロッティングの結果であり、(B)は抗FLAG抗体による免疫ブロッティングの結果である。
図3中medは培地、cellは細胞溶解液を表し、HisはNi−NTAビーズによる沈殿物、FLAGは抗FLAG抗体ビーズによる沈殿物を表す。レーン1は陰性コントロール、レーン2は組み換えpolydomである。使用したビーズの種類に関わらず、培地由来の沈殿物から270kDaおよび115kDaの2つのフラグメントが回収され、これらのフラグメントが結合したままであることが確認された。明らかに300kDaの移動度を越える高分子量のバンドが、細胞溶解液由来の両方のビーズによる沈殿物から検出された(
図3(A)および(B)のアローヘッド)。この結果から、N末端115kDaおよびC末端270kDaの各フラグメントへのタンパク質分解処理は、分泌後に生じていると考えられた。
【0058】
(2)polydomはα9β1インテグリン依存性細胞接着を媒介する
ヒト肺腺癌由来A549細胞、ヒト線維肉腫由来HT1080細胞およびヒト横紋筋肉腫由来RD細胞の3種類のヒト細胞株を用いて、polydomが細胞接着を促進するか否かについて検討した。全長polydom、pol−N、pol−Cまたは血漿フィブロネクチン(FN)を段階希釈した濃度でコーティングした96穴プレートに細胞を播種して37℃で30分間インキュベートした。洗浄により非接着細胞を除いた後、接着細胞を固定してトルイジンブルーで染色した。接着細胞を顕微鏡でカウントした。実験はトリプリケートで行った。
【0059】
RD細胞の結果を
図4に示した。
図4から明らかなように、RD細胞は濃度依存的に全長polydomに接着し、コーティング濃度3μg/mlでマキシマムに達した。pol−Nまたはpol−Cをコーティングした場合は、pol−Cのみが細胞接着を促進でき、全長polydomとほぼ同等の能力であった。示していないが、A549細胞およびHT1080細胞はpolydomに接着しなかった。
【0060】
図5は、RD細胞と全長polydom、pol−Cまたはフィブロネクチンとの接着の状態を顕微鏡で観察した結果である。
図5からわかるように、全長polydomまたはpol−Cと接着している細胞は、伸展した形態をとっているが、フィブロネクチンに接着している細胞より伸展の程度は少なかった。
これらの結果から、polydomは細胞の接着およびそれに続く細胞の伸展を媒介できること、細胞接着促成活性は、CCPドメインが多数並んで構成されるC末端領域に存在することが示された。
【0061】
次に、RD細胞のpolydomへの接着が、ECMタンパク質の主要な細胞表面受容体であるインテグリンに依存するかどうかを調べた。96穴プレートに全長polydom(3μg/ml)、pol−C(3μg/ml)または血漿フィブロネクチン(1μg/ml)をコートした。RD細胞を、7種類の機能阻害モノクローナル抗体(10μg/ml)と室温で10分間プレインキュベーションした後、ウェルに添加した。7種類の機能阻害モノクローナル抗体は、コントロールマウスIgG(IgG)、抗インテグリンβ1モノクローナル抗体AIIB2(β1)、抗インテグリンα2モノクローナル抗体P1E6(α2)、抗インテグリンα3モノクローナル抗体3G8(α3)、抗インテグリンα5モノクローナル抗体8F1(α5)、抗インテグリンα6モノクローナル抗体GoH3(α6)および抗インテグリンα9β1モノクローナル抗体Y9A2(α9)である。37℃で30分間インキュベーションした後、非結合細胞を洗い流した。続いて、接着細胞を固定し、トルイジンブルーで染色した。
【0062】
結果を
図6に示した。図中、接着細胞数はコントロールマウスIgG処理における接着細胞数(100%)に対するパーセンテージとして表した。
図6から明らかなように、インテグリンβ1サブユニットに対するモノクローナル抗体は、RD細胞のpolydomへの接着を強く阻害した。α2、α3、α5およびα6サブユニットに対するモノクローナル抗体は、RD細胞のpolydomへの接着を阻害しなかったが、α9β1に対するモノクローナル抗体は、RD細胞のpolydomへの接着を強く阻害した。この結果は、A549細胞およびHT1080細胞がpolydomに接着しなかったことと一致する。RD細胞にはインテグリンα9β1が発現しており、A549細胞およびHT1080細胞には発現していないからである。したがって、polydomへの接着は、インテグリンα9β1によって一次的に仲介されると考えられた。
【0063】
(3)polydomはインテグリンα9β1の好ましいリガンドである
polydomの接着受容体としてのインテグリンα9β1の役割を確認するために、組み換えインテグリンα9β1を用いて直接インテグリン結合アッセイを行った。すなわち、全長polydom、pol−N、pol−C、血漿フィブロネクチン(pFN)および細胞フィブロネクチン(cFN)をコートしたプレートに、1mM MnCl
2または10mM EDTA存在下で組み換えインテグリンα9β1を接着させた。陰性対照にBSAを用いた。結合したインテグリンは、ビオチン化した抗Velcro抗体およびHRP標識ストレプトアビジンを用いて定量した。
【0064】
結果を
図7に示した。
図7から明らかなように、組み換えインテグリンα9β1は、全長polydomおよびpol−Cと結合したが、pol−Nとは結合しなかった。組み換えインテグリンα9β1のpolydomへの結合がEDTAの存在により完全に消失したことから、インテグリン結合アッセイの特異性が確認された。EIIIAドメインを含む細胞フィブロネクチンは、インテグリンα9β1の推定のリガンドであるが、組み換えインテグリンα9β1はこれに対してわずかな結合活性を示したに過ぎなかった。これらの結果は細胞接着アッセイの結果と一致し、インテグリンα9β1が直接に結合すること、インテグリン結合部位はpolydomのC末端側270kDaの領域に存在することが確認された。
【0065】
インテグリンα9β1は、テネイシンCの第3フィブロネクチンタイプIIIドメイン(TNfn3)およびオステオポンチンのN末端側半分(OPN−Nhalf)と結合することが知られている。そこで、インテグリンα9β1リガンドをGST融合タンパク質として組み換え発現させ、精製した。その中の細胞接着モチーフRGDを、RGD結合インテグリン(例えば、αvサブユニットを含むもの)と相互作用する能力を完全に消失させるためにRAAに置き換えた。pol−C(10nM)、GST−TNfn3RAA(100nM)、GST−OPN−NhalfRAA(100nM)をコートしたマイクロプレートに1mM MnCl
2存在下でインテグリンα9β1を結合させた。
【0066】
結果を
図8に示した。
図8から明らかなように、TNfn3RAAおよびOPN−NhalfRAAはインテグリンα9β1との結合能を有したが、インテグリンα9β1への親和性はpol−Cと比較して有意に低かった。インテグリンの最高濃度においても結合の飽和が不十分であったため、これらのインテグリンα9β1リガンドの見掛けの解離常数を求めることができなかったが、インテグリンα9β1とpol−Cとの間の解離常数は、独立した3回の測定結果から32.4±2.7nMと見積もられた。
【0067】
(4)インテグリンα9β1はCCP21に結合する
polydom内のインテグリンα9β1結合部位を見つけるために、5種類のpolydomN末端欠失変異体シリーズを作製した(pol−C、ΔEGF6、ΔPTX、ΔCCP20およびΔCCP21、
図9参照)。これらの組み換えタンパク質(10nM)をマイクロタイタープレートにコートし、1mM MnCl
2または10mM EDTA存在下で、インテグリンα9β1に対する結合活性を評価した。
【0068】
結果を
図10に示した。
図10から明らかなように、CCP21より上流を欠失してもpol−Cのインテグリン結合活性は低下しなかったが、CCP21の欠失は、インテグリン結合活性を劇的に低下させたことから、CCP21がインテグリン結合活性の重要な役割を果たしていることが明らかとなった。CCP21がインテグリンα9β1結合部位を有することを確認するために、GST融合タンパク質として組み換えCCP21を作製し、インテグリンα9β1結合活性を調べた。
図10に示したように、CCP21のみでも十分なインテグリンα9β1結合活性を有しており、CCP21がインテグリン結合活性に重要な役割を果たしていることを確認した。
【0069】
図11は、クラスタルWを用いてアライメントした第20番、第21番、第22番CCPドメインのアミノ酸配列を示した図である。polydomに含まれる合計34個のCCPドメインのなかで、CCP21は他のCCPドメインと比較して、約40個の余分なアミノ酸が含まれる点でユニークである。そこで、CCP21内の余分な部分(以下、「エクストラセグメント」という)がインテグリンα9β1との結合に関与することを確認するための実験を行った。すなわち、GST融合CCP21、GST融合CCP21のD2628−S2664欠失変異体(CCP21ΔD2628−S2664)、D2628−S2664のみ(
図11参照)、pol−CまたはGSTのみをマイクロタイタープレートにコートし、1mM MnCl
2または10mM EDTA存在下で、インテグリンα9β1を結合させた。
【0070】
結果を
図12に示した。
図12から明らかなように、CCP21ΔD2628−S2664はインテグリンα9β1と結合することができず、D2628−S2664はインテグリンα9β1との結合活性を維持していた。この結果から、polydomのインテグリンα9β1結合部位は、CCP21のエクストラセグメントの37アミノ酸(D2628−S2664)部分に存在することが明らかとなった。
【0071】
(5)インテグリンα9β1は配列EDDMMEVPY配列を認識する
インテグリンα9β1との結合に対応する領域をさらに狭めるために、CCP21のエクストラセグメントの37アミノ酸部分をさらに小さな部分に分割し、GST融合タンパク質として作製した。CCP21、pol−C、GSTのみを含む8種類の断片を、それぞれマイクロタイタープレートにコートし、1mM MnCl
2または10mM EDTA存在下で、インテグリンα9β1を結合させた。
【0072】
結果を
図13に示した。
図13から明らかなように、インテグリンα9β1はD2628−S2664のN末端側の、D2628−L2645およびD2634−L2645とのみ結合した。この結果から、インテグリンα9β1結合部位は、CCP21のエクストラセグメント内の12アミノ酸部分(D2634−L2645)にマップできることが明らかとなった。
【0073】
インテグリンα9β1との結合に関与するアミノ酸残基を特定するために、D2634−L2645のアラニンスキャニング変異体およびN末端またはC末端の欠失変異体をGST融合タンパク質として作製した。各断片をそれぞれマイクロタイタープレートにコートし、インテグリンα9β1を結合させた。
【0074】
アラニンスキャニング変異体を
図14に示した。
図14から明らかなように、グルタミン酸2641をアラニンに代えた変異体(E2641A)は、インテグリン結合活性をほぼ完全に失った。グルタミン酸2636〜チロシン2644のアラニン変異体は、それぞれ異なる程度でインテグリン結合活性の一部低下を引き起こした。この結果から、インテグリンα9β1は配列EDDMMEVPYを認識し、その中のグルタミン酸2641が、インテグリンα9β1のリガンド認識に決定的に関与する酸性残基であることが明らかとなった。
【0075】
さらに、インテグリンα9β1の認識配列としてのEDDMMEVPYの役割を確認するために、EDDMMEVPYまたはその一部の配列からなる合成ペプチドを用いて、インテグリンα9β1のpol−Cへの結合阻害アッセイを行った。pol−C(10nM)をコートしたマイクロタイタープレートに1mM MnCl
2および各濃度の合成ペプチド存在下で、インテグリンα9β1(10nM)をインキュベーションした。ペプチドの沈殿を防止するために、10%DMSOの存在下で実験を行った。pol−Cへのインテグリンα9β1の結合量を100%として、相対結合率を求めた。
【0076】
結果を
図15に示した。
図15から明らかなように、EDDMMEVPYペプチドは、pol−Cとインテグリンα9β1との結合を濃度依存的に阻害し、そのIC50は0.18μMであった。より小さいDMMEVPYペプチドは、EDDMMEVPYペプチドに近いインテグリンα9β1結合阻害能を有していた。この結果は、N末端のグルタミン酸−アスパラギン酸のインテグリンα9β1結合への貢献が相対的に小さいことと一致した。さらに、DMMEVPYペプチドからC末端のチロシンを欠失したペプチドは、阻害能が減少したことから、インテグリンα9β1によるCCP21の認識におけるチロシン2644の関与を支持した。DMMEVPYペプチドのグルタミン酸2641のアラニン置換体は、阻害能の顕著な減少を示し、インテグリンα9β1によるCCP21の認識におけるグルタミン酸2641の重要性と一致した。
【0077】
さらに、テネイシンCおよびフィブロネクチンEIIIAドメインにおけるインテグリンα9β1認識配列として知られているAEIDGIELペプチドおよびTYSSPEDGIHEペプチドの結合阻害活性を、EDDMMEVPYペプチドの結合阻害活性と比較し、
図15に示した。
図15から明らかなように、AEIDGIELペプチドはインテグリンα9β1のpol−Cへの結合を阻害できたが、その能力はEDDMMEVPYペプチドより一桁小さく、IC50は7.8μMであった。TYSSPEDGIHEペプチドは、インテグリンα9β1のpol−Cへの結合をほとんど阻害しなかった。この結果は、インテグリンα9β1が、テネイシンCおよび他の公知のリガンドより有意に高い親和性でpolydomに結合するとの結論を支持し、EDDMMEVPYがインテグリンα9β1によるリガンド認識の好ましい配列であるとの結論を支持する。
【0078】
(6)polydomは組織においてインテグリンα9と一部一緒に局在する
polydomのインテグリンα9β1に対する相対的に高い結合親和性は、polydomがインテグリンα9β1の生理的リガンドとして機能することを暗示する。この可能性を確認するために、マウス胚の組織を抗polydom抗体および抗インテグリンα9抗体を用いて免疫蛍光染色を行った。
【0079】
結果を
図16に示した。polydomは、胃および腸の粘膜下間葉にインテグリンα9と共局在した(
図16のA〜F)。インテグリンα9は、胃および腸の平滑筋層に発現し、そこにはpolydomはほとんど発現していない。polydomおよびインテグリンα9は肝臓の類洞で共局在し(
図16のG〜I)、腎臓では、ボーマン嚢および尿細管の間の間葉領域で共局在した(
図16のJ〜L)。肺では、polydomは間葉に検出され、そこにはインテグリンα9が部分的にだけ共局在した(
図16のM〜O)。インテグリンα9は、肺の平滑筋層に強く発現したが、そこではpolydomは検出されなかった。これらの結果から、polydomは、インテグリンα9が強く発現した平滑筋層を除く種々の臓器の胚間葉でインテグリンα9と共局在することが証明され、polydomがインテグリンα9の生理的リガンドの1つとしての役割を果たす可能性と一致した。
【0080】
インテグリンα9β1に対する生理的リガンドとしてのpolydomの役割をさらに確認するために、組織全体のインテグリンα9β1リガンドを可視化するin situインテグリン結合アッセイを行った。
結果を
図17に示した。
図17のA、EおよびIに示したように、マウス胚の凍結切片とインテグリンα9β1とをMn
2+存在下でインキュベーションした場合、インテグリンα9β1のリガンドは間葉、ならびに胃、腸および肺の平滑筋層に検出された。
図17のD、HおよびLに示したように、EDTA存在下でインキュベーションした場合は、何も検出されず、in situインテグリン結合アッセイの特異性が確認された。
図17のB、FおよびJに示したように、Alexa Fluor
TM555標識抗polydom抗体を用いた免疫蛍光染色によりpolydomを検出したところ、
図17のC、GおよびKに示したように、polydomの検出部位は、胃、腸および肺の間葉領域におけるインテグリンα9β1の結合部位と重複した。この結果は、polydomがこれらの臓器における間葉ECMの生理的インテグリンα9β1リガンドとして役に立っているとの結論を支持するものである。
【0081】
[実施例2:新規インテグリンα9β1リガンドと造血幹細胞との相互作用]
6〜7週齢マウス(C57BL/6J)3匹の大腿骨および頸骨からフラッシュ操作により骨髄細胞を回収し、回収した骨髄細胞を22Gの注射針を用いて分離分散させた。ビオチン標識lineage抗体を30分反応させた後、抗ビオチン抗体標識磁気ビーズを反応させ、自動磁気細胞分離装置autoMACS(Miltenyi Biotec)を用いてlineage陽性細胞を除いた。さらに、PE−CD3、PE−Mac1、PE−Gr1、PE−Ter119、PE−B220、FITC−Sca1およびAPC−c−Kitで染色し、FACSAriaを用いてlineage(−)Sca1(+)c−Kit(high)細胞分画を選別し、以下の実験に使用した。
【0082】
(1)造血幹細胞の増殖および分化に関する検討
組み換えpolydomタンパク質またはフィブロネクチンをコートした48穴プレートに上記細胞を播種した。コントロールとして何もコートしていないプレートを用いた。培地は10%ウシ胎児血清、thrombopoietin(30 ng/mL)、flt3 ligand(100 ng/mL)を含むRPMIを用いた。増殖検討には、細胞を1000個/ウェルで各コートにつき2ウェル播種して培養を開始し、培養開始時、2日目および3日目に細胞数をカウントした。残りの細胞は全てを3等分して各コートのウェルに播種し、培養開始から3日目にFACS解析を行った。FACS解析は、PE−CD3、PE−Mac1、PE−Gr1、PE−Ter119、PE−B220、FITC−Sca1およびAPC−c−Kitの抗体カクテルで染色し、FACSContを用いて行った。
【0083】
増殖検討の結果を
図18に示した。
図18から明らかなように、フィブロネクチンコート上の細胞は、コントロールと同様に増殖したが、polydomコート上の細胞は、増殖が著しく抑制されていた。
FACS解析の結果を
図19に示した。
図19中、縦軸はc−Kitの発現量を示し、横軸はSca1の発現量を示す。
図19から明らかなように、polydomコート上の細胞は、Sca1の発現を維持しているが、増殖因子受容体であるc−Kitの発現が低下していた。一方、フィブロネクチンコート上の細胞は、c−Kitの発現が上昇していた。
以上の結果から、造血幹細胞はpolydomと相互作用することにより増殖が抑制され、未分化能が維持されると考えられた。
【0084】
(2)造血幹細胞とpolydomタンパク質との相互作用に対するEDDMMEVPYペプチドの影響に関する検討
上記細胞を3群に分け、5000個/ウェルで48穴プレートに播種した。培地は10%ウシ胎児血清、thrombopoietin(30 ng/mL)、flt3 ligand(100 ng/mL)を含むRPMIを用いた。EDDMMEVPYペプチド添加群には濃度が50μMとなるようにペプチドを2μl添加し、他の2群についてはPBSを2μl添加して37℃で2時間培養を行った。続いて、組み換えpolydomタンパク質またはフィブロネクチンをコートした48穴プレートに細胞を移した。ペプチドを添加した細胞は組み換えpolydomタンパク質をコートしたプレートに、他の2群はそれぞれ組み換えpolydomタンパク質をコートしたプレートおよびフィブロネクチンをコートしたプレートに移した。3日間培養を続け、2日目、3日目および4日目に細胞数をカウントした。
【0085】
結果を
図20に示した。
図18と同様に、フィブロネクチンコート上の細胞(図中、Fibronectin)は増殖したが、polydomコート上の細胞(図中、Polydom)は増殖が抑制された。一方、EDDMMEVPYペプチドで処理した後にpolydomコート上で培養した細胞(図中、Polydom + peptide 50μM)は、フィブロネクチンコート上の細胞より速度は遅いものの増殖することが確認された。この結果は、EDDMMEVPYペプチドが造血幹細胞のインテグリンα9β1と結合したことにより、造血幹細胞のインテグリンα9β1とプレート上のpolydomとの相互作用が阻害されたことに起因するものと考えられた。
【0086】
[実施例3:新規インテグリンα9β1リガンドと心臓幹細胞との相互作用]
(1)心臓幹細胞の分離
組織幹細胞は一般的に細胞周期の間隔が非常に長いため、DNAや細胞内に取り込まれた標識化合物が細胞分裂に伴う減衰を起こさず、長期間安定に保持されることが知られている。この性質を利用し、臭素化デオキシウリジン(BrdU)のようなヌクレオチド類縁体、あるいは緑色蛍光蛋白質(green fluorescent protein、以下「GFP」と記す)と核タンパク質ヒストンの融合タンパク質を用いて細胞を短期間標識し、これら標識を長期間保持する細胞(標識保持細胞)として組織幹細胞を同定・分離することが可能である。本実験では、ROSA26プロモーターとテトラサイクリン誘導発現系を組み合わせ、GFPとヒストンH2Bの融合タンパク質(H2B−GFP)をマウスの出生前1週間から2週間にわたり心臓で発現させ、6週間後に心臓からGFP標識保持細胞として心臓幹細胞を分離した。
【0087】
(2)心臓のGFP標識保持細胞におけるインテグリンα9の発現解析
GFP標識保持細胞は、H2B−GFPを出生前後2週間にわたり強制発現させたのち、6週間チェイスしたマウスの心臓より調製した。心臓の細胞は0.1%コラゲナーゼB(Roche)、2.4U/mlディスパーゼ(Life Technologies)を含むハンクス平衡塩溶液(以下「HBSS」と記す)を用い37℃で30分間処理することにより分散させた後、BD Falconセルストレイナーに通して、単一細胞とした。得られた細胞をGFPの蛍光を指標としてセルソーターFACS Aria(BD社製)を用いて分画し、GFP陽性細胞を分離した(
図21参照)。10
6個のGFP陽性細胞とGFP非陽性細胞を、抗マウスインテグリンα9抗体(R&D社)1μgと1%BSAを含むHBSS 100μlに浮遊させ、氷中で30分反応させた。1%BSAを含むHBSS 500μlで洗浄した後、allophycocyanin標識抗ヤギIgG抗体(R&D社、20倍希釈で使用)と1%BSAを含むHBSS 100μlに細胞を懸濁し、氷中で20分反応させ、細胞表面のインテグリンα9を蛍光標識した。1%BSAを含むHBSS 500μlで洗浄後、1%BSAを含むHBSS 500μlに再懸濁し、セルソーターFACS Ariaによりインテグリンα9の発現を解析した。
図22に示すように、GFP陽性細胞にはインテグリンα9を高発現する細胞が濃縮されることがわかった。
【0088】
(3)インテグリンα9の免疫組織染色
心臓幹細胞がインテグリンα9を高発現していることを確認するため、GFP標識保持細胞とインテグリンα9発現細胞を二重免疫蛍光染色により解析した。H2B−GFPで心臓幹細胞を標識したマウス心臓の凍結切片を8μmの厚さで作成し、3.7%ホルマリンで10分間固定した。3%BSAを含むPBSにより室温で30分間ブロッキングした後、抗マウスインテグリンα9抗体(5μg/ml)で4℃で一晩反応させ、さらにAlexa Fluor
TM546標識抗ヤギIgG抗体を用いて結合した抗体を蛍光標識した。蛍光標識されたインテグリンα9は共焦点顕微鏡により観察した。心臓幹細胞はGFP標識保持細胞として同定した。
結果を
図23に示した。左がGFP、右がインテグリンα9の染色像であり、図中矢頭はGFP標識保持細胞の位置を示す。
図23より、GFP標識保持細胞は心外膜に主に局在しており、インテグリンα9発現細胞と局在部位が重なることが確認された。
【0089】
(4)polydomの免疫組織染色
上記(3)と同様にして、インテグリンα9のリガンドであるpolydomが心臓幹細胞の周囲に発現しているかを二重免疫蛍光染色により検索した。抗polydom抗体は2μg/mlの濃度で用い、結合した抗polydom抗体はAlexa Fluor
TM546標識抗ウサギIgG抗体を用いて可視化した。
結果を
図24に示した。左がGFP、右がpolydomの染色像であり、図中矢頭はGFP標識保持細胞の位置を示す。
図24より、polydomは心外膜のGFP標識保持細胞の周囲に限局して発現していた。この結果はpolydomが心臓幹細胞が発現するインテグリンα9β1のリガンドとして機能している可能性を支持している。
【0090】
(5)GFP標識保持細胞を用いた細胞接着アッセイ
polydomがインテグリンα9β1を発現する心臓幹細胞の足場として働くことを確認するために、心臓幹細胞をGFP標識保持細胞として分離し、細胞接着アッセイを行った。100nMのpolydomまたはフィブロネクチンを96穴イムノプレート(Nunc Maxisorp)に50μl/wellずつ添加して4℃で一晩コーティングした。FACS Ariaにより回収したGFP標識保持細胞を無血清イスコフ改変ダルベッコ培地(以下「IMDM」と記す)に1×10
6細胞/mlで懸濁後、100μl/wellずつ加え、37℃、5%CO
2のインキュベーターで12時間培養した。PBSで3回洗浄した後、3.7%ホルマリンを100μl/wellで加え、細胞を15分間固定した。その後、0.5%トルイジンブルー(150μl/well)を加えて10分間インキュベートし、MilliQ水で洗浄した。乾燥後、顕微鏡下で接着した細胞数を数えた。
【0091】
結果を
図25に示した。上段は接着した細胞の顕微鏡写真であり、下段は細胞接着活性(1平方ミリメートル当たりの接着細胞数)を示すグラフである。
図25から明らかなように、何もコーティングしていないプレートには細胞はほとんど接着しなかったが、フィブロネクチンおよびpolydomをコーティングしたプレート上では多数の細胞が接着していた。polydomはフィブロネクチンと同等あるいはそれ以上の細胞接着活性を心臓幹細胞に対して有していた。
【0092】
(6)GFP標識保持細胞を用いたコロニー形成能の測定
polydomをコーティングしたプレート上で心臓幹細胞が増殖するか、コロニー形成を指標として測定した。100nMのpolydomまたはフィブロネクチンをFalcon6ウェルプレートに800μl/wellずつ添加して4℃で一晩コーティングした。FACS Ariaにより回収したGFP標識保持細胞を10%ウシ胎児血清を含むIMDMに懸濁後、1×10
4細胞/wellで播種して、37℃、5%CO
2のインキュベーターで培養した。培地交換は3日ごとに行い、2週間培養した。1mM CaCl
2入りHBSSで洗浄後、ギムザ染色液(Merck)を1ml/well加え、30分後水道水で洗浄した。乾燥後、顕微鏡下でコロニー数を数えた。
【0093】
結果を
図26に示した。(A)はコロニー形成率を示すグラフであり、(B)は代表的なコロニーの形態を示す図である。コロニー形成能は播種した細胞に対する生じたコロニー数の百分率で示した。
図26から明らかなように、何もコーティングしていないプレート上ではコロニー形成率が0.2%以下であるのに対し、polydomをコーティングしたプレート上では約0.8%のコロニー形成率が観測された。フィブロネクチンをコーティングしたプレート上でのコロニー形成率は約0.4%であった。すなわち、polydom上ではフィブロネクチン上よりも心臓幹細胞がコロニーを形成し易いことが示された。
【0094】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。