(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、多極子を用いた収差補正器を搭載するSEMを使用した例を用いて説明する。簡略化のため説明に必要な部分のみ図示し、検出器やアライナ、レンズ電源など詳細な構成は省略してある。なお、使用装置としては収差補正器を備えたSEM、STEMならびにTEMをはじめとする荷電粒子線装置全般に適用可能である。
【0018】
本発明により、収差補正器を搭載する荷電粒子線装置において、装置全体のサイズを大きくすることなく、少ない電流にて高周波まで外部磁場ノイズ抑えて鮮明な画像が得られる。また、外部ノイズが進入する箇所とキャンセルする箇所が同じであるため、補正器内の軌道変化が打ち消されるため、軌道が変化することで生じる収差を抑制でき、補正コイル等に流れるノイズの影響を低下できる。
【0019】
これにより、電源ノイズの負荷を減らして発振や出力変動を抑えることができ、装置の安定性を向上できる。さらに、外部磁場センサを極子の軸上で極子の軸方向の外部磁場を測ることで必要十分な外部磁場検出を行い、極子と一定のギャップを設けることで、収差補正動作を妨げない外部磁場打消しを可能にする。
【0020】
また、収差補正器が作動する時に収差調整時に補正コイルに流れる磁場強度を変えるが、単純に外部磁場センサを極子近傍に配置するわけではなく、補正コイルの磁場変動をセンサが検出して本来流したい磁場を打ち消すことを防止することも可能である。
【実施例1】
【0021】
本実施例では、
図1から
図4を用いて外部磁場の打ち消しのための構成例を説明する。
図1は電子線装置の構成要素の模式図である。電子銃1から放出された1次電子線は、コンデンサレンズ2で収束作用をうけて、収差補正器3を通過し、対物レンズ5で試料6上に収束される。試料6で収束されるスポットは、走査コイル4で偏向作用を受けて、試料上を走査される。また収差補正器3は、例えば4段の12極子を用いて軸上の色収差ならびに球面収差を補正する。
【0022】
収差補正器3は電源21に接続される。そして電源21から出力される電圧および電流によって収差補正器3内で多極子場が励起される。電源21はさらに収差補正器ないしはシステム全体の制御を行うコンピュータ30(制御部)と接続され、コンピュータ30の命令を受けて、収差補正器3への出力値が変更されるよう可能である。収差補正器3の外側には外部磁場センサ7、収差補正器3の極子にはキャンセルコイル8が配置され、条件判定回路22および出力制御回路23と接続されている。
【0023】
条件判定回路22はコンピュータ30と接続され、外部磁場センサ7で検出された外部磁場の信号およびコンピュータ30からの命令に基づき、出力制御回路23にてキャンセルコイル8に与える電流を制御する。このとき、出力制御回路23にて与えられる電流は、外部磁場を打ち消すよう動作するが、動作の詳細な説明は実施例2にて後述する。また、条件判定回路22と出力制御回路23はコンピュータ30上の回路として統合されていてもよい。
【0024】
図2は収差補正器3を装置上部である電子銃1側から見た構成図(断面図)で、
図3は収差補正器3を横から見た構成図である。このように収差補正器3は
図2の構造が
図3のように4段重なった構成になっている。収差補正器3では中心軸を対称に極子9が12個配置され、各極子9の周りには磁路リング11が連結され、これらを覆うようにシールド41が配置されている。磁路リング11は極子9をそれぞれ磁気的に連結させるために設けられている。シールド41は外部磁場を減衰させる目的でパーマロイなどの透磁率の高い材料で作られている。
【0025】
なお、通常はほとんどの装置でシールドを備えているため、
図2および
図3ではシールド41を備えたものを示したが、本構成の外部磁場の打ち消し自体に必須な要素ではない。また装置の真空保持のため、真空容器40を備えている。ここでは真空容器40を極子9の中央付近に配置しているが、電子線ならびに極子9で励起される電場および磁場を妨げない限り、極子9よりも内側や外側などどこに配置しても良い。
【0026】
次に、
図4Aおよび
図4Bに示すように、極子9には補正コイル10および補正コイル10よりも応答速度が速いキャンセルコイル8が巻かれており、極子9の中心軸50の軸の延長線上に外部磁場センサ7が配置される。外部磁場センサ7は中心軸50の軸方向の磁場を検出するようになっており、一軸センサを想定する。外部磁場センサ7としては、ホール効果を用いて測定するものや、フラックスゲートを用いたものや、コイルを用いたものなどがあり、実用的な周波数として1Hz〜数百Hzの帯域で変化する磁場の変動(中心軸50方向の単位時間あたりの磁場強度の変化量)が検出できれば種類や検出軸数を特に問わない。上述した構成は、特にコスト面で優位である。
【0027】
動作としては、外部磁場センサ7で検出された外部磁場の信号を出力制御回路23へフィードバックし、中心軸50上の外部センサ7と同一軸上に配置されるキャンセルコイル8にて外部磁場と逆位相となる打ち消し磁場を発生させ、多極子中心の電子線への影響を打ち消す。
【0028】
組み合わせとしては、外部磁場センサ7とキャンセルコイル8は同一極子上のセンサとキャンセルコイルを一組として働き、それぞれの極子毎に単独で外部磁場の打ち消しを行い、異なる極子に配置された外部磁場センサとキャンセルコイル間のフィードバックは行わない。これは局所的な磁場変動に対応するためである。
【0029】
また、
図4A、
図4Bで示すように外部磁場センサ7は、極子9および磁路リング11とは距離を置いて配置される。その際、軸あわせのために
図4aのようにセンサ支持部13aを極子に固定する場合や、
図4Bのようにセンサ支持部13bをシールド41上に固定する場合がある。いずれの場合でも、センサ支持部13aおよび13bは透磁率の低い絶縁体である材料で作られる。これは、収差調整時には補正コイル10で励起する磁場を変動するが、この磁場変動がセンサ支持部13aを経由して外部磁場センサ7に直接伝わることを防ぐためである。また、センサ支持部13bについては、シールド41からの磁場の呼び込みを防止するためである。
【0030】
図4Aでは、キャンセルコイル8と補正コイル10は独立したコイルで示したが、補正コイル10はキャンセルコイル8を兼ね、補正電流に加えてキャンセル用の電流を重畳する構成としてもよい。このとき高周波ノイズに対応するためには補正コイル10がキャンセルコイル8と同程度に高速に応答する必要が生じるが、キャンセルコイル8を設ける必要がなく、安価な構成とすることができる。
【0031】
また、キャンセルコイルを用いる際は、外部磁場で励起する磁場強度が補正コイルで励起される磁場強度よりも弱くなるように、キャンセルコイル8は補正コイル10よりも巻き数を少なくするようにする。これにより、補正用電源や極子の安定性を向上させることができる。もしくはキャンセルコイル8を駆動する電源の出力は補正コイル10で流す電流量より低く抑えると全体のノイズを減らすことが可能になる。
【0032】
さらに極子9が電極を兼ねている場合、キャンセコイル8の代わりに電極へ印加する補正電圧に重畳してキャンセル電場を印加することもできる。ただし、所謂フレミングの左手の法則にあるように磁場と電場では電子線に作用する向きが異なるため、キャンセル電場は外部磁場センサ7と同一極子上ではなく、90度回転した極子に印加される。そのため打ち消し場の形状が異なるなど、理想的な打消しからずれることを考慮して補正電圧を印加するようにする。キャンセルコイルを用いるならば、補正コイル10にキャンセル電流を重畳する場合と比べてさらに補正電圧電源の安定性を向上させることができる。
【0033】
また、補正コイル10について本実施例では、1つのコイルを示したが、多極子場の重畳に合わせて複数のコイルで構成されていても良い。その際、励磁強度が他の補正コイルよりも比較的に弱い補正コイルがあれば、その補正コイルがキャンセルコイル8を兼ねても良い。
【0034】
上記例では省略したが、極子9と真空容器40、磁路リング11、補正コイル10、キャンセルコイル8などそれぞれの間は絶縁される。また、収差補正器3では4段全てに磁路リング11、補正コイル10を配置した磁極型の収差補正器を図示したが、1段目と4段目は電極型で構成され、2段目と3段目のみ
図2で示す磁極形の構成となっていても良い。
【0035】
また実施例1では、4段かつ1段当たりの極子が12本の構成を例示したが、補正する収差の種類や精度によって段数や極子の数が変わる。したがって、
図2や
図3にて例示した段数や極子の数に限定されるものではない。また、補正コイル(またはキャンセルコイル)は全ての極子に設けられても、そのうちの一つの極子に設けられてもよい。すなわち装置のコストを低減するため、特定の極子に設けることも、間引いて(任意の極子数ごとに)設けることも可能である。これは次以降に述べる実施例でも同様である。
【実施例2】
【0036】
本実施例では、外部磁場の打ち消しフロー、および打消しに用いられるテーブルデータの作成フローを説明する。構成は実施例1に準じ、同一符号、同一機能について説明を省略する。ここではひとつの極子について、一組のキャンセルコイルと外部磁場センサについて記すが、外部磁場センサとキャンセルコイルを持つ他の極子についてもそれぞれ同様に動作しているものとする。
【0037】
まず、基本的な外部磁場の打ち消しフローとして
図5のステップ(S10)〜ステップ(S13)で説明する。
【0038】
ステップ(S10)
外部磁場センサ7にて極子9の軸方向へ進入する外部磁場の検出を行う。外部磁場は電気信号として検出され、単位時間あたりの信号強度の変化量が求められる。単位時間はサンプリング間隔に依存し、キャンセルを行いたい周波数の倍以上の周波数でサンプリングを行うことが望ましい。
【0039】
ステップ(S11)
ステップ(S10)で得られた信号の変化量に対し、キャンセルコイル8に与えるキャンセル電流量をコンピュータ30等において計算する。外部磁場センサ7で検出された量に対して、キャンセルコイル8へ流すキャンセル電流波形はあらかじめテーブルデータで保存されており、テーブルデータを参照して計算される。このとき、設定により検出される磁場に対するキャンセル量の割合を変えることもできる。また、波形はキャンセルコイル8までの遅延時間も考慮する。なお、外部磁場として検出される信号には閾値を設けておき、閾値以下であればキャンセル電流を生成しないこともできる。また、キャンセルコイル8を用いず補正コイル10により行う場合には、補正コイル10に印加する値をここで定める。
【0040】
ステップ(S12)
ステップ(S11)で計算された値とキャンセルコイル8(または補正コイル10)に現在流れている値を合算し、最終的に出力する電流量をコンピュータ30等において計算する。
【0041】
ステップ(S13)
ステップ(S12)で計算された電流量に基づき、出力制御回路23よりキャンセルコイル8(または補正コイル10)でキャンセル電流を出力する。
【0042】
以上で基本的な打ち消しフローの一例を示したが、ステップ(S10)〜ステップ(S12)は条件判定回路22や出力制御回路23、あるいは独立した回路上で実現しても良い。
【0043】
次に、
図6を用いて応用的な外部磁場の打ち消しフローをステップ(S20)〜ステップ(S27)にて説明する。ここでは
図5のフローに、収差補正調整時の動作を加えている。
【0044】
ステップ(S20)
ステップ(S10)に準じ、外部磁場センサ7にて極子9の軸方向へ進入する外部磁場の検出を行う。
【0045】
ステップ(S21)
ステップ(S11)に準じ、ステップ(S20)で得られた信号の変化量に対し、キャンセルコイル8に(または補正コイル10)与えるキャンセル電流量をコンピュータ30等において計算する。
【0046】
ステップ(S22)
条件判定回路22において、補正値(補正コイル10の電流)が変更中であるかを判断する。変更中であればステップ(S23)へ進み、変更中でなければステップ(S26)へ進む。変更中であるかは、コンピュータ30は補正電源21に変更命令を出すと同時に条件判定回路22に変更中であることを通知することで判断される。
【0047】
ステップ(S23)
調整信号の有無により微調整中かを判断する。調整信号が有る場合はステップ(S25)へ、無い場合はステップ(S24)へ進む。調整信号はステップ(S22)と同じくコンピュータ30より条件判定回路22に通知される。調整信号は、コンピュータ30にて補正値(補正コイル10の電流)の変化量が閾値より小さい場合に微調整中と判断して出力される。
【0048】
ステップ(S24)
ステップ(S21)で算出されたキャンセル電流量をゼロに置き換え、一時的に外部磁場の打ち消しを停止する。このとき、キャンセル電流の置き換えだけでなく、現在キャンセルコイル8を流れている電流をゼロにしても良い。これは、キャンセル電流のオフセット分をリセットして外部磁場の打ち消し範囲を再確保するためである。
【0049】
ステップ(S25)
ステップ(S23)の調整信号に基づく調整電流を、ステップ(S21)で算出されたキャンセル電流量に加える。調整電流は、補正値変更時に補正コイル10の電流量の変化に対して外部磁場センサ7で検出される分を差し引くために流される。補正コイル10の電流変更量と調整電流との関係はあらかじめ求めテーブルデータを作成しておき、これを参照することで調整電流は算出される。
【0050】
ステップ(S26)
ステップ(S12)に準じ、ステップ(S21)またはステップ(S24)またはステップ(S25)で計算された値とキャンセルコイル8で現在流れている値を合算し、最終的に出力する電流量をコンピュータ30等において計算する。
【0051】
ステップ(S27)
ステップ(S13)に準じ、ステップ(S26)で計算された電流量に基づき、出力制御回路23よりキャンセルコイル8(または補正コイル10)でキャンセル電流を出力する。
【0052】
以上で補正量変更時の外部磁場打消しフローを説明した。ステップ(S24)では一旦ゼロに置き換える処理を行ったが、ローパスフィルタ処理を行い高周波のみ検出するなど全停止しない処理でもよい。また、ステップ(S25)ではキャンセル電流量に加える処理の例を示したが、キャンセル電流算出前にステップ(S20)で検出される信号から差し引いても良い。
【0053】
なお、ステップ(S24)で行ったオフセット分のリセットについては、キャンセルコイル8で時間変動せず流れ続ける成分と同じ励磁強度となる電流を補正コイル10へ流し、キャンセルコイル8を流れる電流成分を相対的に無くして外部磁場打消し範囲を再確保することもできる。その際、フレームとフレームの間やステージ移動中など、観察者が画像を確認しない状況にて行うことが望ましい。
【0054】
図7はノイズキャンセル値の関係を求めるフローである。ステップ(S11)、(S21)で用いた、外部磁場センサの検出値に対するキャンセル電流量の計算について、
図7にてテーブルデータの作成例を説明する。ここでは特定の極子について人工的に外部磁場を加え、外部磁場センサ7で検出される信号とキャンセルコイル8へ流す打ち消し電流を求めテーブルデータを作成する。
【0055】
人工的な外部磁場は、極子と同程度のサイズのコイルにて中心軸50方向に印加する。打ち消しはSEM画像にて確認し、外部磁場の揺れがなくなるように調整する。人工的に加える外部磁場の波形は、例えば三角波を生成し、極子一つについて三角波の周期と三角波の振幅を変えて測定する。打ち消しは外部磁場と同期するように、位相や遅延などの時間ずれも校正する。
【0056】
また、事前準備としてあらかじめ、いくつかの周波数で、人口的な外部磁場印加したときのSEM画像の変化量と、外部磁場を流さないときのキャンセル電流印加時のSEM画像の変化量をそれぞれ測定しておく。以下ステップ(S30)〜ステップ(S40)の各手順について説明する。
【0057】
ステップ(S30)
測定条件を設定する。外部磁場センサ7で検出される外部磁場と1次電子線に与える影響の関係を求めることが必要であるため、補正器OFFや観察条件と異なる光学条件でも良く、光学の縮小を拡大側へ設定してノイズ感度が大きくなる条件で確認することもできる。
【0058】
ステップ(S31)
測定したい極子に人工的な外部磁場を印加する。
【0059】
ステップ(S32)
外部磁場センサ7にて信号を確認、記録する。その際、センサの測定可能範囲内にあること注意する。
【0060】
ステップ(S33)
キャンセルコイル8(または補正コイル10)へキャンセル電流を印加する。ここでは事前準備しておいた、ステップ(S31)で加えた人工的な外部磁場と同程度の変化を与えるキャンセル電流を初期値とする。位相の初期値は外部センサ7で検出される信号をトリガとする。
【0061】
ステップ(S34)
SEM画像の変化量を測定する。なお、外部磁場の周期が1画面の走査周期よりも長い場合は、SEM画像の位置ズレを検出し、1画面よりも短い場合は例えばラインパターン等のエッジの揺れを元に判断する。変化量のリファレンスとしては、人工的な外部磁場とキャンセル磁場をON、OFFした画像を取得しそれぞれを比較してもよい。
【0062】
ステップ(S35)
ステップ(S34)で求めた変化量が、あらかじめ設定された閾値以下であれば、ステップ(S37)へ進み、閾値以上であればステップ(S36)へ進む。なお、閾値の例としては、人工的な外部磁場の変化量がキャンセル時に10分の1といった指標を用いる。
【0063】
ステップ(S36)
キャンセル電流の調整を行いステップ(S34)へ戻る。調整項目としては、出力タイミング(位相)、振幅(または単位時間の変化量)、波形(三角波、正弦波、線形近似、シグモイド曲線)などあらかじめパラメータとして設定した項目についてそれぞれ調整する。一項目の調整で最小化された後、次の項目へと進む。
【0064】
ステップ(S37)
ステップ(S32)で記録した外部磁場センサ7の信号と、ステップ(S35)で加えたキャンセル電流の各種パラメータとの関係を保存する。
【0065】
ステップ(S38)
ステップ(S37)で求めた外部磁場とキャンセル電流の関係について、所定数を取得済みか判断し、取得済みの場合はステップ(S40)へ、それ以外はステップ(S39)へ進む。所定数は、テーブルデータの精度を確保するために数点〜数10点取得していることが望ましい。
【0066】
ステップ(S39)
人工的な外部磁場の振幅を変え、ステップ(S32)に戻る。
【0067】
ステップ(S40)
ステップ(S37)で求めた所定数の外部磁場とキャンセル電流の関係から、特定の極子についてのテーブルデータを作成する。テーブルデータは各々の極子に紐付けされて管理される。
【0068】
以上で外部磁場センサの検出値に対するキャンセル電流量の計算について、テーブルデータの作成例を示した。別の例として、外部磁場として決まった周波数で発生するノイズを想定する場合は、外部磁場センサで検出される値について一定時間取得してFFTなどで周波数分離を行い、各々の周波数対応するキャンセル電流を生成しても良い。このとき、人工的な外部磁場としては正弦波を加え、周波数を変えながら周波数毎に分類されたテーブルデータを作成する。
【実施例3】
【0069】
本実施例では、外部磁場の打ち消しについて実施例1で示した別の形態を示す。基本要素は実施例1に準じ、収差補正器3の外部磁場センサ7とキャンセルコイルの配置が異なる。
【0070】
図8は収差補正器3を装置上部である電子銃1側から見た構成図である。基本的には
図2と同じ構成であるが、外部磁場センサ7が全ての極子でなく、4方向のみに限定してある。このとき、外部磁場センサ7aに対して、キャンセルコイル8a、8b、8cが一組として働く。励磁強度はキャンセルコイル8bの電流量に対して、両脇のキャンセルコイル8a、8cが半分の電流量となる。
【0071】
この構成をとる理由は、局所的な磁場であっても隣接する極子に影響し外部磁場の向きも近いことから、センサ数を3分の1に減らしても外部磁場のノイズを半分程度に抑えられるためである。
図8の構成では、完全に理想的な外部磁場の打ち消しはできないものの、従来技術よりも理想的な打消しに近い妥協的な構成として、コストと効果のバランス次第で有効な手段となりうる。
【0072】
さらに別の例として
図9Aから
図9Cに、ノイズ感度が大きい位置に外部磁場センサとキャンセルコイルを配置する構成を示す。
図9Aは収差補正器3を装置上部である電子銃1側から見た構成図であり、
図9B、
図9Cは収差補正器3をそれぞれ直交する側面から見た構成図である。
【0073】
ここでは外部磁場センサ7とキャンセルコイル8は4段で構成される収差補正器3のうち2、3段目の特定の極子にのみ配置する。具体的には
図9Aで示すように軸51上の極子とそれに隣接する極子にのみ外部磁場センサ7とキャンセルコイル8を配置する。
図9Bは2段目の軸51が水平となる方向から見た方向であり、
図9Cは3段目の軸51と直交する方向から見たものであり、2段目と3段目ではそれぞれの軸51が直交関係にある。
【0074】
これは、収差補正器において電子線53は収差補正器内で
図9B、Cで示すようにあらかじめ決まった一方向に広がった軌道を形成しており、電子線53が広がる方向に軸51を一致させるためである。電子線53が広がった方向ではノイズ感度が高く、クロスを結んだ位置ではノイズ感度が低くなるため、ノイズ感度が高い位置にあわせて外部磁場センサとキャンセルコイルの位置を配置することができる。
【0075】
したがって、効果を最大限維持した状態で理想的な外部磁場の打消しを行いながら、センサの数などを減らすことができ、コスト削減が可能になる。なお、ここでは4段の収差補正器における外部磁場センサとキャンセルコイルの配置の例を示したが、多極子を用いる多段の収差補正器では荷電粒子線は収差補正器内で一方向に広がった軌道を形成するため、広がった方向に外部磁場センサとキャンセルコイルを配置することが重要である。したがって、センサを設ける方向の数や段数は実施例3で例示した値に限定されるものではない。
【実施例4】
【0076】
本実施例では、荷電粒子線装置のカラムに流れる鏡体電流によって生じるノイズの打ちし消し構成を示す。従来のアクティブ型の磁場ノイズ除去装置において、鏡体電流に関しては十分に検討されてない。例えば、カラム電流に対する鏡体電流の対策は特許文献2で提案されているものの、対策法は偏向器へのフィードバックでビーム揺れをなくす構成であり、ノイズ進入の抑制はできず外部磁場対策と同様に収差補正器の軌道ズレで発生する収差に対応できないものである。
【0077】
構成要素は実施例1に準じ、鏡体電流測定用の電流センサが追加される。ここでの鏡体電流は、磁路リングを流れる電流を対象とし、磁路リングで流れる電流が発生する磁場となり電子線を揺れさせるものとする。なお、シールド41上に流れる鏡体電流は極子に対しては外部磁場として作用するため、実施例1などで示した構成で打ち消す。
【0078】
図10は収差補正器3を電子銃1側から見た構成図(断面図)である。ここでは磁路リング11上に電流センサ14が配置され、磁路リング11を流れる電流15を測定し、電流15の波形に基づいて極子上のキャンセルコイル8(または補正コイル10)にて鏡体電流を打ち消す磁場を発生させる。ここで磁路リング11が4本の磁路リング支持部12で支えられており、磁路リング支持部12は磁路リング11とカラム(ここでは真空容器40)が同電位になるように導体で作られている。そのためカラムと磁路リング間の電流経路は磁路リング支持部12となるため、電流センサ14を支持部の間に4つ配置し支持部間に流れる電流を測定する。
【0079】
キャンセルコイルについては、電流センサ14aとキャンセルコイルd、e、fが一組といった具合に、支持部間の電流センサとキャンセルコイル群を一組にして動作させる。なお、キャンセルコイル群の各々で励磁するキャンセル場の強度は同一で、各々のキャンセルコイル(または補正コイル10)での出力タイミングは同期させるとよい。キャンセル動作そのものは、外部磁場の打ち消しと同様のフローに準じる。鏡体電流の打ち消しを外部磁場打消しと同時に動作させる場合は、外部磁場の打消し電流と鏡体電流の打消し電流を各々のキャンセルコイルに重畳させればよい。
【0080】
上記例では鏡体電流の経路として磁路リング支持部12を4つ配置したが、磁路リング支持部12を絶縁材料で作製することもできる。その場合にも磁路リング11とカラムは同電位にする必要があり、両者はGND線などで接続されるため、GND経路の数だけ電流センサを設置すればよい。具体的には、磁路リング支持部12を一つだけ導体にして残りは絶縁体とすれば、電流センサ一つと12極全てのキャンセルコイル8を一組として動作させることもできる。
【0081】
また、
図11に示すように電流センサ14は、磁路リング支持部12上に設置しても良い。ここでは、磁路リング支持部12が導体であるものとする。この場合は、鏡体電流センサ14a、14b間の差分電流とキャンセルコイルd、e、fとを一組として働くといった具合に、隣接する支持部間の電流センサの差分信号とキャンセルコイル群とを一組にして動作させる。
【0082】
鏡体電流ノイズの打ち消し条件テーブルの作成は実施例2のフローに準じるが、人工的な外部磁場の変わりに人工的な鏡体電流を流す。具体的には一組の電流センサとキャンセルコイル群を挟んでリングに直接電流を印加することになる。
【0083】
鏡体電流の打ち消しに極子上のキャンセルコイルを用いない別の形態を
図12に示す。ここでは鏡体電流によるノイズの打ち消し専用のコイルとして磁路リング11上にキャンセルコイル16を配置する。具体的にはキャンセルコイル16磁場変動のうち磁路リング11を伝わって極子へ漏れる分を、鏡体電流による極子の磁場変動と相殺させる。
【0084】
なお、磁路リング支持部12を導体とした場合、鏡体電流は磁路リング支持部12間で分岐し減衰するのに対し、キャンセルコイル16で励起してリングに流す磁場は、磁路リング支持部12に限らず磁路リング11上を流れる。したがって、磁路リング11とカラムの電流経路(GND線など)を一箇所に限定した場合に本形態が有効である。