特許第6282218号(P6282218)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6282218
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】眼科デバイス製造用モノマー
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/08 20060101AFI20180208BHJP
   C08F 230/08 20060101ALI20180208BHJP
   G02C 7/04 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   C07F7/08 KCSP
   C08F230/08
   G02C7/04
【請求項の数】15
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2014-241539(P2014-241539)
(22)【出願日】2014年11月28日
(65)【公開番号】特開2016-102158(P2016-102158A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2016年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(72)【発明者】
【氏名】工藤 宗夫
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−102089(JP,A)
【文献】 特表2013−525512(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0237766(US,A1)
【文献】 特開2011−246704(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0323590(US,A1)
【文献】 特開2013−216901(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0004401(US,A1)
【文献】 特開平11−293198(JP,A)
【文献】 特開2008−202060(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0299022(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 30/08
C08F 130/08
C08F 230/08
C07F 7/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される化合物:
【化1】
(式(I)において、mは2〜10の整数であり、Rは炭素数2〜7のアルキレン基であり、炭素原子に結合する水素原子の1以上が、非置換または置換の炭素数1〜6の1価炭化水素基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基で置換されていてもよく、Rは互いに独立に炭素数1〜6のアルキル基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、X、X、及びXのうちいずれか1が下記(II)で表される(メタ)アクリル基であり、X、X、及びXのうち残りの2つは水素原子であり、
【化2】
式(II)においてRは水素原子又はメチル基であ)。
【請求項2】
上記請求項1記載の式(I)で表され、上記(II)で表される基の結合位置のみが異なる2つ又は3つの構造異性体の混合物、すなわち、Xが上記(II)で表される基であり且つX及びXが水素原子である上記請求項1記載の化合物と、Xが上記(II)で表される基であり且つX及びXが水素原子である上記請求項1記載の化合物と、Xが上記(II)で表される基であり且つX及びXが水素原子である上記請求項1記載の化合物とから選ばれる2つ又は3つの混合物。
【請求項3】
上記式(I)において各特定の一のm、R、R、R、及びRを有する特定の一の構造を有する1種化合物の質量全体のうち90質量%超を成す、請求項記載の化合物。
【請求項4】
上記式(I)において各特定の一のm、R、R、R、及びRを有し上記(II)で表される基の結合位置のみが異なる2つ又は3つの構造異性体が、前記混合物の質量全体のうち90質量%超を成す、請求項2記載の混合物。
【請求項5】
mが3である、請求項1〜4のいずれか1項記載の化合物又は混合物
【請求項6】
請求項1、3及び5のいずれか1項記載の化合物と、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジメタクリレート、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3―ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−アクリロイルモルホリン、N−メチル(メタ)アクリルアミド、クロトン酸、桂皮酸、ビニル安息香酸、及び(メタ)アクリル基を有するシリコーンモノマーから選ばれる1種以上とを重合して得られる、重合体。
【請求項7】
請求項記載の重合体を用いてなる眼科デバイス。
【請求項8】
下記式(I)で表される化合物の製造方法であって
【化3】
(式(I)において、mは2〜10の整数であり、Rは炭素数2〜7のアルキレン基であり、炭素原子に結合する水素原子の1以上が、非置換または置換の炭素数1〜6の1価炭化水素基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基で置換されていてもよく、Rは互いに独立に炭素数1〜6のアルキル基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、X、X、及びXのうちいずれか1が下記(II)で表される(メタ)アクリル基であり、X、X、及びXのうち残りの2つは水素原子であり、
【化4】
式(II)においてRは水素原子又はメチル基であ
下記式(4)で表されるシリコーン化合物と
【化5】
(式(4)において、m、R、R及びRは上述のとおりである)
下記式(5)で表される(メタ)アクリル酸ハライドとを
【化6】
(式(5)において、XはCl、Br、又はIであり、Rは上述のとおりである)
反応させる工程を含む、製造方法。
【請求項9】
前記反応を酸捕捉剤の存在下で行う、請求項記載の製造方法。
【請求項10】
酸捕捉剤がトリエチルアミンである、請求項記載の製造方法。
【請求項11】
下記式(6)で表されるポリオルガノハイドロジェンシロキサンと、
【化7】
(m、R、R及びRは上述のとおりである)
下記式(7)で表される化合物とを、
【化8】
(Rは炭素数2〜7のアルケニル基であり、炭素原子に結合する水素原子の1以上が、非置換または置換の炭素数1〜6の1価炭化水素基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基で置換されていてもよい)
付加反応させて上記式(4)で表されるシリコーン化合物を製造する工程を含む、請求項8〜10のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項12】
上記式(4)において特定の一のmを有し特定の一の構造を有する1種が、化合物の質量全体のうち95質量%超を成す、請求項11記載の製造方法。
【請求項13】
下記式(I)で表される化合物の製造方法であって
【化9】
(式(I)において、mは2〜10の整数であり、Rは炭素数2〜7のアルキレン基であり、炭素原子に結合する水素原子の1以上が、非置換または置換の炭素数1〜6の1価炭化水素基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基で置換されていてもよく、Rは互いに独立に炭素数1〜6のアルキル基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、X、X、及びXのうちいずれか1が下記(II)で表される(メタ)アクリル基であり、X、X、及びXのうち残りの2つは水素原子であり、
【化10】
式(II)においてRは水素原子又はメチル基であ
下記式(6)で表されるポリオルガノハイドロジェンシロキサンと、
【化11】
(m、R、R及びRは上述のとおりである)
下記式(III)で表される化合物とを、
【化12】
(Rは炭素数2〜7のアルケニル基であり、炭素原子に結合する水素原子の1以上が、非置換または置換の炭素数1〜6の1価炭化水素基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基で置換されていてもよく、X、X、及びXのうちいずれか1が上記(II)で表される(メタ)アクリル基であり、X、X、及びXのうち残りの2つは水素原子であ
付加反応させる工程を含む、製造方法。
【請求項14】
上記式(I)において各特定の一のm、R、R、R、及びRを有する特定の一の構造を有する化合物の量が、前記製造方法により得られる化合物の質量全体のうち90質量%超を成す(但し、該特定の一の構造を有する化合物とは上記(II)で表される基の結合位置のみが異なる構造異性体を含んでいてよい)、請求項8〜13のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項15】
mが3である、請求項8〜14のいずれか1項記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は眼科デバイス、例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜を製造するための化合物(以下、「眼用モノマー」ともいう)及びその製造方法に関する。詳細には、(メタ)アクリル系モノマー等の他の重合性モノマーと共重合されて、透明度及び酸素透過率が高く、親水性、防汚性、且つ機械的強度の耐久性に優れた、眼に適用するのに好適な重合体を与える化合物、及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼用モノマーとして、下記のシリコーン化合物が知られている
【化1】
【化2】
【0003】
上記TRIS(3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルメタクリレート)は、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)のような親水性モノマーとの相溶性に劣り、これらの親水性モノマーと共重合した場合、透明ポリマーが得られないという欠点がある。一方、上記SiGMAはHEMAのような親水性モノマーとの相溶性に優れ、その共重合ポリマーは、比較的高酸素透過性で高親水性であるという特徴を有する。しかしながら、近年眼用ポリマーには、長時間の連続装用を可能にすべく、より高い酸素透過性が要求されるようになり、SiGMAから得られるポリマーでは、酸素透過性が不十分だった。
【0004】
この問題を解決すべく、特許文献1には、下記式(a)で表される化合物が記載されている。
【化3】
SiGMAにおいてビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル部分をSi部分とし、全体に占めるSi部分の質量割合を求めると52%となる。一方、上記式(a)において、トリス(トリメチルシロキシ)シリル部分をSi部分とし、全体に占めるSi部分の質量割合を求めると60%となる。即ち、上記式(a)の化合物は、Si部分の質量割合が多い。その為、得られる眼科デバイスに高い酸素透過性をもたらすことができる。
【0005】
しかし、酸素透過率を上げるためにSi部分の質量割合を増やすと、重合性基あたりの分子量が大きくなるため共重合ポリマーの機械的強度が低下するという問題があった。また、特許文献2には、上記式(a)で示される化合物はエポキシ前駆体にメタクリル酸を反応させて調製されると記載しているが、該反応は、副反応が多く、得られる共重合ポリマーの物性のブレが大きいという問題もあった。
【0006】
特許文献3には、下記式(b)で表されるシロキサニル化合物を含有する組成物、及び該化合物を重合成分として含むポリマーを用いてなる眼用レンズが記載されている。
【化4】
(ここで、R〜Rはそれぞれ独立して水素、炭素数1〜18のアルキル又はフェニルを表し;nは0以上の整数を表し;前記整数の最頻値は約2〜約9であり;nが2〜9である化合物の原料全体に占めるモル比率は少なくとも約90%であり;Yはヒドロキシル若しくは加水分解性の置換ヒドロキシルであり、Zはアルキルアクリロイロキシである;又はZはヒドロキシル若しくは加水分解可性の置換ヒドロキシルであり、Yはアルキルアクリロイロキシである;又はYおよびZはOでありエポキシ環を形成する。)
【0007】
特許文献4には、下記式(c)で表されるシリコーン(メタ)アクリルアミドモノマーが記載されている。
【化5】
(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Rは水素原子、またはヒドロキシ、酸、エステル、エ−テル、チオールおよびこれらの組合せで置換されていてもよい1〜20個の炭素原子を有するアルキル基もしくはアリール基を表し、Rはヒドロキシ、酸、エステル、エーテル、チオールおよびこれらの組合せで置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキレン基またはアリーレン基を表し、RまたはRの少なくとも1つは水酸基を有し、R〜Rはそれぞれ独立に、いずれもフッ素、ヒドロキシ、酸、エステル、エーテル、チオールおよびこれらの組合せで置換されていてもよい、1〜20個の炭素原子を有するアルキル基またはアリール基を表し、nは1〜10の範囲の整数である。)
【0008】
上記SiGMA、式(a)で表される化合物、及び式(b)で表される化合物の何れも親水性構造部分((メタ)アクリル構造とシロキサン構造をつなぐ部位)に水酸基を一つのみ有する。これらの化合物はいずれも、他の親水性モノマーとの相溶性に劣り、共重合して得られる重合体は、透明にならず、また機械的強度が不十分なことがあった。式(c)で表される化合物は水酸基を1個以上有するが、水酸基を有する基が(メタ)アクリルアミドの窒素原子に結合している。該化合物も、他の親水性モノマーとの相溶性に劣り、共重合して得られる重合体は、透明にならず、また機械的強度が不十分なことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−186709号公報
【特許文献2】特開2007−1918号公報
【特許文献3】特表2009−542850号公報
【特許文献4】特表2013−525512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、眼用モノマーとして好適であり、他の(メタ)アクリル系モノマーに対する相溶性が良好であり、親水性、防汚性、且つ機械的強度の耐久性に優れた重合体を与える化合物、特には、特定の一の構造を有する1種(構造異性体を含む)が高い割合を成す化合物を提供すること、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記式(I)で表される、(メタ)アクリル構造とシロキサン構造をつなぐ部位に水酸基を2つ有するアルキレン構造を有するシリコーン化合物が、他の(メタ)アクリル系モノマーに対する相溶性が良好であり、無色透明であり、親水性、防汚性、且つ機械的強度の耐久性に優れた重合体を与えることを見出し、本発明を成すに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記式(I)で表される化合物及び該化合物の製造方法を提供する。
【化6】
(式(I)において、mは2〜10の整数であり、Rは炭素数2〜7のアルキレン基であり、炭素原子に結合する水素原子の1以上が、非置換または置換の炭素数1〜6の1価炭化水素基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基で置換されていてもよく、Rは互いに独立に炭素数1〜6のアルキル基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、X、X、及びXのうちいずれか1が下記(II)で表される(メタ)アクリル基であり、X、X、及びXのうち残りの2つは水素原子であり、
【化7】
式(II)においてRは水素原子又はメチル基であ。または、上記(II)で表される基の結合位置のみが異なる2以上の構造異性体の混合物であってよい
さらに本発明は、上記化合物からなる眼科デバイス用モノマーおよび前記モノマーを重合成分としてなる重合体を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のシリコーン化合物は、酸素透過性が高く、併用する他の(メタ)アクリル系モノマーとの相溶性が高い。そのため無色透明な重合体を与える。また、本発明の製造方法は、水酸基を有するシリコーン化合物と酸クロライドとの反応、あるいはヒドロシリル基を有するシリコーン化合物と末端不飽和炭化水素基を有する(メタ)アクリル化合物との付加反応を使用する。該製造方法によれば、特定の一の構造を有する1種(構造異性体を含む)が高い割合を成すシリコーン化合物を与えることができる。従って、本発明のシリコーン化合物及び該化合物の製造方法は眼科デバイス製造用として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のシリコーン化合物は上記式(I)で表され、所定個数のシロキサン単位を有すること、該シロキサン単位構造と(メタ)アクリル基構造とを結合する部分に水酸基を二つ有するアルキレン構造を有することを特徴とする。当該構造を有することにより、本発明のシリコーン化合物は他の重合性モノマーとの相溶性に優れ、無色透明であり、酸素透過性が高く、親水性、防汚性且つ機械的強度の耐久性が向上した重合体を与えることができる。
【0015】
上記式(I)において、mは2〜10の整数、好ましくは3〜7の整数、最も好ましくは3である。mが前記下限値未満では酸素透過率が低くなる。また、mが前記上限値を超えては、親水性が低くなる。
【0016】
上記式(I)において、Rは、置換基を有しても良い、炭素数2〜7のアルキレン基である。炭素数2〜7のアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基が挙げられ、これらの炭素原子に結合する水素原子の1以上が、非置換または置換の炭素数1〜6の1価炭化水素基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基で置換されていてもよい。炭素数1〜6の1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、及びヘキシル基等のアルキル基が挙げられ、これらの炭素原子に結合する水素原子の1以上がハロゲン原子、又はシアノ基で置換されていてもよい。炭素数1〜6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素原子などが挙げられる。好ましくは置換されていないアルキレン基であり、中でもペンチレン基が好ましい。
【0017】
上記式(I)において、Rは互いに独立に、炭素数1〜6のアルキル基である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、及びヘキシル基が挙げられる。好ましくはメチル基である。
【0018】
上記式(I)において、Rは炭素数1〜4のアルキル基である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、及びブチル基が挙げられる。好ましくはブチル基である。
【0019】
上記式(I)において、X、X、及びXのうちいずれか1が下記(II)で表される(メタ)アクリル基であり、X、X、及びXのうち残りの2つは水素原子である。
【化8】
式(II)においてRは水素原子又はメチル基である。本発明のシリコーン化合物は上記(I)で表され、上記(II)で表される基の結合位置のみが異なる2以上の構造異性体の混合物であってよい。
【0020】
上記(II)で表される基の結合位置のみが異なる構造異性体は、下記式(1)、(2)、及び(3)で表される。
【化9】
(式(1)、(2)、(3)において、m、R、R、R、及びRは上記の通りであり、式(1)、(2)、及び(3)においてmの値及びR、R、R、及びRの構造は同じである)。
【0021】
本発明は、後述する方法により、上記式(I)において各特定の一のm、R、R、R、及びRを有する1種が高い割合を成す化合物を提供することができる。高い割合とは、化合物の質量全体のうち90質量%超を成すことを意味する。本発明のシリコーン化合物は上記の通り2以上の構造異性体の混合物であってよい。上記特定構造を有する1種とは構造異性体を含む。すなわち、本発明の製造方法は、上記式(I)において各特定の一のm、R、R、R、及びRを有し、上記(II)で表される基の結合位置のみが異なる2以上の構造異性体、特には3つの構造異性体が、化合物の質量全体のうち90質量%超を成す化合物を提供することができる。本発明において上記特定構造を有する1種の含有割合はガスクロマトグラフィー(以下「GC」とする)分析により求められる。詳細な条件は後述する。化合物が特定構造を有する1種(構造異性体を含む)を高い割合で有することにより、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の非シリコーン系モノマーと混合したときに、濁りを生じず透明な重合体を得ることができる。特定構造を有する1種の割合が90質量%未満の場合、本発明の化合物を非シリコーン系モノマーと混合したときに濁りを生じ、透明なポリマーが得られない場合がある。
【0022】
式(I)において、mが3であり、Rがメチル基であり、Rがペンチレン基であり、Rがメチル基であり、Rがブチル基であるとき、該化合物の分子量は640であり、化合物全体の質量に対するシロキサンの質量割合は約55%である。即ち、該化合物はSi含量が高いため、得られる共重合体は高い酸素透過性を有する。
【0023】
本発明はさらに、上記式(I)で表されるシリコーン化合物の製造方法を提供する。上記式(I)で表されるシリコーン化合物は、下記第一の製造方法または第二の製造方法により製造することができる。
【0024】
本発明の第一の製造方法は、下記式(4)で表されるシリコーン化合物と
【化10】
(式(4)において、m、R、R及びRは上述のとおりである)
下記式(5)で表される(メタ)アクリル酸ハライドとを
【化11】
(式(5)において、XはCl、Br、又はIであり、Rは上述のとおりである)
反応させる工程を含む。上記の通り、当該反応により得られるシリコーン化合物は上記(II)の結合位置のみが異なる2以上の構造異性体の混合物であってよい。
【0025】
該反応は、上記式(4)で表されるポリオルガノシロキサンの、トルエンまたはヘキサン等の溶液中に、上記式(5)で表される酸ハライド、好ましくは酸クロライドを、徐々に添加して、水浴等で冷却しながら0〜50℃の温度で行なうことが好ましい。
【0026】
式(5)で表される酸ハライドの量は、式(4)で表されるポリオルガノシロキサン1molに対して、1〜3mol、好ましくは、1.05〜2molである。上記下限値未満では式(4)のポリオルガノシロキサンが未反応物として残存し、特定構造を有する1種(構造異性体を含む)の化合物が高い割合を成すことができない。また上記上限値を超えると経済的に不利である。
【0027】
上記反応は好ましくは酸捕捉剤の存在下で行うのがよい。酸捕捉剤の存在下で反応させるとより収率が高くなる。該酸捕捉剤としては、各種アミン、例えばトリエチルアミン、ピリジンが挙げられ、好ましくはトリエチルアミンである。酸補足剤の量は、上記式(5)で表される(メタ)アクリル酸ハライド1モルに対して1モル〜2モル程度であればよい。
【0028】
(メタ)アクリル酸ハライドの純度は得られるシリコーン化合物の純度(特定構造を有する1種(構造異性体を含む)の化合物の含有率)に影響する。そのため、(メタ)アクリル酸ハライドは高純度品であることが好ましい。特に好ましくは、市販されている純度99%以上の(メタ)アクリル酸クロライドを使用することが好ましい。酸クロライドを使用した反応では、副反応はほぼ認められない。
【0029】
本発明の方法の好ましい態様は、反応中、GC測定により残存シリコーン化合物(式(4))の有無をモニタリングし、そのピーク消失を確認した後に、反応物に水を投入して攪拌する。その後、静置させて有機層と水層に分離する。有機層を数回水洗した後、有機層中の溶剤をストリップする。該方法により、GC測定における純度90質量%超の目的物を得ることができる。純度は、GCのピーク面積の割合に基づく。水素炎イオン化型検出器(FID)を用いた場合、ピーク面積は炭素数に比例するので、その割合は生成物中の質量%にほぼ等しい。
【0030】
上記式(4)で表されるシリコーン化合物は、下記式(6)で表されるポリオルガノハイドロジェンシロキサンと、
【化12】
(m、R、R及びRは上述のとおりである)
下記式(7)で表される化合物(以下、アルケニルトリオール化合物という)を付加反応させて製造することができる。
【化13】
(Rは炭素数2〜7のアルケニル基であり、炭素原子に結合する水素原子の1以上が、非置換または置換の炭素数1〜6の1価炭化水素基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基で置換されていてもよい)
【0031】
該付加反応は従来公知の方法に従えばよい。例えば、白金族化合物等の付加反応触媒の存在下で行う。その際、溶剤を使用してもよく、例えばヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン等の脂肪族、芳香族系溶剤、エタノール、IPA等のアルコール系溶剤が好適に使用出来る。配合比率は従来公知の方法に従えばよく、ポリオルガノハイドロジェンシロキサン1モルに対しアルケニルトリオール化合物を1.2モル以上、好ましくは1.5モル以上使用するのがよい。上限は特に制限されないが、通常5モル以下、特には3モル以下である。
【0032】
上記式(7)においてRは、置換基を有していてもよい、炭素数2〜7、好ましくは炭素数3〜7のアルケニル基である。例えば、下記式で表される。
【化14】
式中、dは1〜5の整数であり、Rは水素原子であり、該水素原子の1以上が、非置換または置換の炭素数1〜6の1価炭化水素基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、またはシアノ基で置換されていてもよい。炭素数1〜6の1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、及びヘキシル基等のアルキル基が挙げられ、これらの炭素原子に結合する水素原子の1以上がハロゲン原子、又はシアノ基で置換されていてもよい。炭素数1〜6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素原子などが挙げられる。
【0033】
上記式(7)で表されるアルケニルトリオール化合物としては、好ましくは、下記式(11)、式(12)及び式(13)で表される化合物が挙げられる。
【化15】
【0034】
好ましい態様としては、例えば、アルケニルトリオール化合物を必要に応じて溶剤で希釈し、そこへ白金系ヒドロシリル化触媒を添加する。白金系ヒドロシリル化触媒の種類は特に制限されず、従来公知のものが使用できる。さらに、室温もしくはそれ以上の温度でポリオルガノハイドロジェンシロキサンを滴下して反応させる。滴下終了後、加温下で熟成した後、原料ポリオルガノハイドロジェンシロキサンの有無を、例えばGC測定においてピークが消失したことで確認する。反応終点をGC測定により確認することにより、ポリオルガノハイドロジェンシロキサンが生成物中に残存しないため高純度のシリコーン化合物を得ることができる。尚、上記反応は一括で行っても良い。
【0035】
付加反応終了後に、反応液から過剰のアルケニルトリオール化合物を除去する。該方法としては、減圧下ストリップ、または、イオン交換水もしくはぼう硝水で反応物を水洗してアルケニルトリオール化合物を水層へ抽出し除去する方法が挙げられる。この際、良好な2層分離を得る為に、トルエン、ヘキサン等の溶剤を適当量使用するのが好ましい。特には、有機層から溶剤を減圧ストリップすることで、上記式(4)のシリコーン化合物を、90質量%以上、好ましくは95質量%超の高純度で得ることができる。より純度を高めるために、蒸留を複数回行なってもよい。高純度とは、式(4)において特定の一のmを有する特定の一の構造を有する1種類が、化合物の質量全体のうち90質量%以上、好ましくは95質量%超を成すことである。特定の一の構造を有する1種類とは、特には、特定の一のR、R、R、及びRを有する1種類の化合物である。
【0036】
上記式(6)で示されるポリオルガノハイドロジェンシロキサンは、公知の方法で作ることができる。例えば、式(6)においてmが3であり、Rがメチル基であり、Rがブチル基であるものは以下のように製造できる。先ず、BuLiを使用してBuMeSiOLiを合成し、これを開始剤として、ヘキサメチルシクロトリシロキサンを開環し、ジメチルクロロシランで反応停止させる。これによりm=2〜5を有する化合物の混合物が得られる。これを蒸留精製することにより、沸点110℃/2mmHgで、mが3の化合物を純度98%以上で得られる。混合物のまま式(7)で表されるアルケニルトリオール化合物と付加反応した後に蒸留してもよいが、付加反応生成物はより高沸点になるので、付加反応させる前の段階で蒸留して純度を高めることにより、上記式(4)のシリコーン化合物を高純度で得ることができる。
【0037】
また、アルケニルトリオール化合物中の水酸基をヘキサメチルジシラザン等のシリル化剤によりシリルエステルにし、上記付加反応後にシリルエステルを加水分解して、式(4)のシリコーン化合物を得ても良い。
【0038】
本発明の第二の製造方法は、下記式(6)で表されるポリオルガノハイドロジェンシロキサンと、
【化16】
(m、R、R及びRは上述のとおりである)
下記式(III)で表される化合物とを、
【化17】
(Rは炭素数2〜7のアルケニル基であり、炭素原子に結合する水素原子の1以上が、非置換または置換の炭素数1〜6の1価炭化水素基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基で置換されていてもよく、X、X、及びXのうちいずれか1が上記(II)で表される基であり、X、X、及びXのうち残りの2つは水素原子であり、該化合物は上記(II)で表される基の結合位置のみが異なる2以上の化合物の混合物であってよい)
付加反応させる工程を含む。
【0039】
該付加反応は従来公知の方法に従えばよい。例えば、白金族化合物等の付加反応触媒の存在下で行う。その際、溶剤を使用してもよく、例えばヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン等の脂肪族、芳香族系溶剤、エタノール、IPA等のアルコール系溶剤が好適に使用出来る。ポリオルガノハイドロジェンシロキサン1モルに対し上記式(III)で表される化合物(アルケニル(メタ)アクリレート化合物)を1.2モル以上、好ましくは1.5モル以上使用するのがよい。上限は特に制限されないが、通常5モル以下、特には3モル以下である。
【0040】
上記式(III)で表される化合物において、X、X、及びXのうちいずれか1が上記(II)で表される基であり、X、X、及びXのうち残りの2つは水素原子である。該化合物は上記(II)で表される基の結合位置のみが異なる2以上の構造異性体の混合物であってよい。上記式(III)で表される化合物が構造異性体の混合物の場合、上記配合比率は、ポリオルガノハイドロジェンシロキサン1モルに対し構造異性体の混合物として1.2モル以上、好ましくは1.5モル以上使用するのがよい。上記式(III)で表される化合物におけるRは上述の通りである。
【0041】
上記式(III)で表される化合物としては、下記式(8)、(9)、及び(10)で表される化合物(以下、アルケニル(メタ)アクリレート化合物という)が挙げられる。式(8)、(9)、及び(10)で表される化合物においてR及びRが同じであるとき、これらは構造異性体である。上記式(III)で表される化合物はこれら2以上の構造異性体の混合物であってよい。
【化18】
(R及びRは上述のとおりである)
【0042】
上記式(8)、(9)、(10)で表される化合物としては、好ましくは、下記式(14)〜(22)で表される化合物が挙げられる。
【化19】
上記式(14)、(15)、及び(16)は構造異性体である。これらは単独で上記付加反応に使用してもよいし、2以上の構造異性体の混合物を上記式(III)で表される化合物として上記付加反応に使用してもよい。
【0043】
【化20】
上記式(17)、(18)、及び(19)は構造異性体である。これらは単独で上記付加反応に使用してもよいし、2以上の構造異性体の混合物を上記式(III)で表される化合物として上記付加反応に使用してもよい。
【0044】
【化21】
上記式(20)、(21)、及び(22)は構造異性体である。これらは単独で上記付加反応に使用してもよいし、2以上の構造異性体の混合物を上記式(III)で表される化合物として上記付加反応に使用してもよい。
【0045】
上記付加反応の好ましい態様としては、例えば、アルケニル(メタ)アクリレート化合物を必要に応じて溶剤で希釈し、そこへ白金系ヒドロシリル化触媒を添加する。白金系ヒドロシリル化触媒の種類は特に制限されず、従来公知のものが使用できる。さらに、室温もしくはそれ以上の温度でポリオルガノハイドロジェンシロキサンを滴下して反応させる。滴下終了後、加温下で熟成した後、原料ポリオルガノハイドロジェンシロキサンの有無を、例えばGC測定においてピークが消失したことで確認する。反応終点をGC測定により確認することにより、ポリオルガノハイドロジェンシロキサンが生成物中に残存しないため、特定の構造を有する1種(構造異性体を含む)を高い割合で有するシリコーン化合物を得ることができる。尚、上記反応は一括で行っても良い。
【0046】
付加反応終了後に、反応液から過剰のアルケニル(メタ)アクリレート化合物を除去する。該方法としては、減圧下ストリップ、または、イオン交換水もしくはぼう硝水で反応物を水洗してアルケニル(メタ)アクリレート化合物を水層へ抽出し除去する方法が挙げられる。この際、良好な2層分離を得る為に、トルエン、ヘキサン等の溶剤を適当量使用するのが好ましい。特には、反応物からアルケニル(メタ)アクリレート化合物を減圧ストリップすることで、上記式(I)で表され特定の構造を有する1種(構造異性体を含む)を高い割合で有するシリコーン化合物を得ることができる。
【0047】
また、アルケニル(メタ)アクリレート化合物中の水酸基をヘキサメチルジシラザン等のシリル化剤によりシリルエステルにし、上記付加反応後にシリルエステルを加水分解して、式(I)で表される化合物を得ても良い。
【0048】
また、上記の何れの反応においても必要に応じて重合禁止剤を添加してもよい。該重合禁止剤は(メタ)アクリル化合物に従来使用されているものであればよい。例えば、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、2−t−ブチルヒドロキノン、4−メトキシフェノール、及び2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)などのフェノール系重合禁止剤が挙げられる。これらの重合禁止剤は、1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。重合禁止剤の量は特に制限されるものでないが、得られる化合物の質量に対して5〜500ppmとなる量が好ましく、より好ましくは10〜100ppmとなる量である。
【0049】
本発明の化合物は、(メタ)アクリル基など、上記シリコーン化合物と重合する基を有する他の化合物(以下、重合性モノマーという)との相溶性が良好である。そのため、重合性モノマーと共重合することにより無色透明の重合体を与えることができる。さらには、耐汚染性を付与するフッ素置換基含有(メタ)アクリル系モノマーに対する相溶性も良好であるため、耐汚染性(防汚性)を向上した重合体を与えることができる。本発明の化合物は上記の通り構造異性体の混合物であってよく、構造異性体の混合物のまま他の重合性モノマーと良好に相溶し、無色透明の重合体を与えることができる。他の重合体と共重合させる比率は特に制限されるものでない。
【0050】
重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジメタクリレート、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3―ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のアクリル系モノマー;N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−アクリロイルモルホリン、N−メチル(メタ)アクリルアミド等のアクリル酸誘導体;その他の不飽和脂肪族もしくは芳香族化合物、例えばクロトン酸、桂皮酸、ビニル安息香酸;及び(メタ)アクリル基などの重合性基を有するシリコーンモノマーが挙げられる。これらは1種単独でも、2種以上を併用してもよい。
【0051】
本発明の化合物と上記他の重合性モノマーとの共重合は従来公知の方法により行えばよい。例えば、熱重合開始剤や光重合開始剤など既知の重合開始剤を使用して行うことができる。該重合開始剤としては、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどがあげられる。これら重合開始剤は単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。重合開始剤の配合量は、重合成分の合計100質量部に対して0.001〜2質量部、好ましくは0.01〜1質量部であるのがよい。
【0052】
本発明の化合物を重合成分として含む重合体は、酸素透過性、親水性、防汚性、機械的強度の耐久性に優れる。従って、眼科デバイス、例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜を製造するのに好適である。該重合体を用いた眼科デバイスの製造方法は特に制限されるものでなく、従来公知の眼科デバイスの製造方法に従えばよい。例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズなどレンズの形状に成形する際には、切削加工法や鋳型(モールド)法などを使用できる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。下記実施例において、H−NMR分析は、JNM−ECP500(日本電子社製)を用い、測定溶媒として重クロロホルムを使用して実施した。
【0054】
また、ガスクロマトグラフィー(GC)測定は以下の条件により行った。
ガスクロマトグラフィー(GC)測定条件
ガスクロマトグラフ:Agilent社製
検出器:FID、温度300℃
キャピラリーカラム:J&W社 HP−5MS(0.25mm×30m×0.25μm)
昇温プログラム:50℃(5分)→10℃/分→250℃(保持)
注入口温度:250℃
キャリアガス:ヘリウム(1.0ml/分)
スプリット比: 50:1
注入量:1μl
【0055】
[実施例1]
下記式(23)で表される6,7,8−トリヒドロキシ−1−オクテン12.0g(0.075mol)、
【化22】
トルエン20gを、マグネチックスターラー、ジムロート、温度計、及び滴下ロートを付けた200ミリリットルフラスコに仕込み、70℃まで昇温した。塩化白金酸アルカリ中和物ビニルシロキサン錯体触媒トルエン溶液(白金含有量0.5%)0.075gを前記フラスコ中に添加した後、滴下ロートを用いて、下記式(24)の化合物(1−ブチル−9−ヒドロ−1,1,3,3,5,5,7,7,9,9−デカメチルペンタシロキサン)20.6g(0.05mol)を0.5時間かけて前記フラスコ中へ滴下した。100℃で1時間熟成後に反応物をGCで分析したところ、式(24)の化合物のピークが消失し、反応が完結したことを示した。反応物に20gのイオン交換水を加え、攪拌しながら水洗し、静置して相分離させ、過剰の式(23)の化合物を含む水層を除去した。同様にして、20gイオン交換水で2回水洗し、有機層のトルエンを減圧ストリップして、無色透明液体であり下記式(25)で表されるシリコーン化合物26.9g(0.047mol、収率94%)を得た。GC測定による該シリコーン化合物の純度は96.3質量%であった。
【化23】
【化24】
【0056】
上記式(25)のシリコーン化合物22.9g(0.04mol)、脱塩酸剤トリエチルアミン5.1g(0.05mol)、ヘキサン50gを、マグネチックスターラー、ジムロート、温度計、滴下ロートを付けた、1リットルフラスコに仕込み、フラスコを水浴中で冷却しながら、メタクリル酸クロライド4.8g(0.046mol)とヘキサン5gの混合物を0.5時間かけて滴下した。内温は20℃から30℃まで上昇した。水浴をはずし、上記式(25)のシリコーン化合物のピークをGCでモニターしながら室温で熟成した。10時間後に、上記式(25)のシリコーン化合物のピークが、GCでの検出限界以下になったので、反応液にイオン交換水50g加え水洗した。静置分離して水層をカットした後、さらに2回水洗した。有機層から溶媒のヘキサン等を減圧ストリップすることにより、無色透明液体の生成物23.7gを得た。
【0057】
H−NMR分析した結果、上記生成物は下記式(26)で表され、3つの構造異性体の混合物、すなわち、Xがメタクリル基であり且つX及びXが水素原子である化合物と、Xがメタクリル基であり且つX及びXが水素原子である化合物と、Xがメタクリル基であり且つX及びXが水素原子である化合物の混合物であった(以下、シリコーン化合物1という)(0.037mol、収率93%)。GC測定による下記式(26)で表される構造を有するシリコーン化合物の含有率は、構造異性体の混合物として、化合物全体の質量のうち94.2質量%であった。
【化25】
H−NMRスペクトルデータを以下に示す。
0.1ppm(30H)、0.5ppm(4H)、0.8ppm(3H)、1.3ppm(10H)、1.5ppm(2H)、2.5ppm(2H)、2.9ppm(3H)、3.5〜4.3ppm(4H)、5.5ppm(1H)、6.1ppm(1H)。
【0058】
[実施例2]
上記式(23)で表される6,7,8−トリヒドロキシ−1−オクテン6.4g(0.04mol)、脱塩酸剤トリエチルアミン5.1g(0.05mol)、ヘキサン50gを、マグネチックスターラー、ジムロート、温度計、滴下ロートを付けた、200ミリリットルフラスコに仕込み、フラスコを水浴中で冷却しながら、メタクリル酸クロライド4.8g(0.046mol)とヘキサン5gの混合物を0.5時間かけて滴下した。内温は20℃から30℃まで上昇した。水浴をはずし、上記式(23)で表される化合物のピークをGCでモニターしながら室温で熟成した。10時間後に、上記式(23)で表される化合物のピークが、GCでの検出限界以下になったので、反応液にイオン交換水50g加え水洗した。静置分離して水層をカットした後、さらに2回水洗した。有機層から溶媒のヘキサン等を減圧ストリップすることにより、無色透明液体の生成物8.7g(0.038mol、収率96%)を得た。H−NMR分析により、下記式(27)で表され、3つの構造異性体の混合物、すなわち、Xがメタクリル基であり且つX及びXが水素原子である化合物と、Xがメタクリル基であり且つX及びXが水素原子である化合物と、Xがメタクリル基であり且つX及びXが水素原子である化合物の混合物であることが確認された。GC測定による下記式(27)で表される構造を有するシリコーン化合物の含有率は、構造異性体の混合物として、化合物全体の質量のうち96.6質量%であった。
【化26】
【0059】
上記式(27)の化合物を構造異性体の混合物として7.3g(0.032mol)、メチルシクロヘキサン10gを、マグネチックスターラー、ジムロート、温度計、及び滴下ロートを付けた100ミリリットルフラスコに仕込み、70℃まで昇温した。塩化白金酸アルカリ中和物ビニルシロキサン錯体触媒トルエン溶液(白金含有量0.5%)0.015gを前記フラスコ中に添加した後、滴下ロートを用いて、上記式(24)の化合物8.2g(0.02mol)を0.5時間かけて前記フラスコ中へ滴下した。100℃で1時間熟成後に反応物をGCで分析したところ、原料の式(24)のピークが消失し、反応が完結したことを示した。メチルシクロヘキサンを減圧ストリップして、無色透明液体の生成物12.2gを得た。
H−NMR分析で、上記(26)で表され、3つの構造異性体の混合物、すなわち、Xがメタクリル基であり且つX及びXが水素原子である化合物と、Xがメタクリル基であり且つX及びXが水素原子である化合物と、Xがメタクリル基であり且つX及びXが水素原子である化合物の混合物であることが確認された(0.019mol、収率95%)。GC測定による上記式(26)で表される構造を有するシリコーン化合物の含有率は、構造異性体の混合物として、化合物全体の質量のうち94.8質量%であった。
【0060】
[合成例1]
特開2007−186709号公報(特許文献1)の実施例1に記載の方法に従い、シリコーン化合物を合成した。H−NMR分析で、下記式(28)及び式(29)で表される構造異性体の混合物であった(以下、シリコーン化合物2という)。GC測定による下記式(28)及び式(29)で表される構造を有するシリコーン化合物の含有率は、構造異性体の混合物として、化合物全体の質量のうち89.4質量%であった。
【化27】
【0061】
[合成例2]
特表2009−542850号公報(特許文献3)の実施例2に記載の方法に従い、シリコーン化合物を合成した。H−NMR分析で、下記式(30)及び(31)で表される化合物の混合物であった(以下、シリコーン化合物3という)。GC測定による下記式(30)及び(31)で表される構造を有するシリコーン化合物の含有率は、混合物として、化合物全体の質量のうち95.6質量%であった。
【化28】
【0062】
[合成例3]
特表2013−525512号公報(特許文献4)の合成例5〜8及び実施例2に記載の方法に従い、下記式(32)で表される化合物を合成した(以下、シリコーン化合物4という)。該シリコーン化合物のGCによる純度は94.3質量%であった。
【化29】
【0063】
[合成例4]
特表2013−525512号公報(特許文献4)の合成例16〜18に記載の方法に従い、下記式(33)で表される化合物を合成した(以下、シリコーン化合物5という)。該シリコーン化合物のGCによる純度は94.2質量%であった。
【化30】
【0064】
モノマー混合物の調製
[実施例3]
実施例1で得たシリコーン化合物1(6質量部)、N,N−ジメチルアクリルアミド(3.0質量部)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(0.5質量部)、トリエチレングリコールジメタクリレート(1質量部)、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート(0.5質量部)、及びダロキュア1173(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製、0.05質量部)を撹拌混合し、モノマー混合物1を得た。
【0065】
[比較例1〜4]
比較例1〜4では、シリコーン化合物1を、合成例1〜4で得たシリコーン化合物2〜5に各々替えた他は実施例3と同じ組成及び方法にてモノマー混合物を調製した(シリコーン化合物2、3、4、5の順にモノマー混合物2、3、4、5と称す)。
【0066】
[比較例5]
比較例5では、シリコーン化合物1を、下記式(34)及び式(35)で表される化合物の混合物(SiGMA、Gelest社製、式(34)及び式(35)で表される化合物の合計として純度96.2質量%)に替えた他は実施例3と同じ組成及び方法にてモノマー混合物を調製した(モノマー混合物6と称す)。
【化31】
【0067】
[評価試験]
(1)他の重合性モノマーとの相溶性
上記で得た各モノマー混合物の外観を目視により観察した。シリコーン化合物と他の(メタ)アクリル化合物との相溶性が良好である混合物は無色透明になるが、相溶性が悪い混合物は濁りを生じる。結果を下記表1に示す。
【0068】
(2)フィルム(重合体)の外観
上記で得た各モノマー混合物をアルゴン雰囲気下で脱気した。該混合液を、石英ガラス板2枚をはさんだ鋳型に流し込み、超高圧水銀ランプで1時間照射して厚さ約0.3mmのフィルムを得た。該フィルムの外観を目視観察した。結果を下記表1に示す。
【0069】
(3)フィルム(重合体)の水濡れ性(表面親水性)
上記(2)で製造したフィルムに対して、接触角計CA−D型(協和界面科学株式会社製)を用い、液適法にて水接触角(°)の測定を行った。結果を下記表1に示す。
【0070】
(4)フィルム(重合体)の耐汚染性
上記(2)で製造したフィルムを37℃リン酸緩衝液(PBS(−))に24時間浸漬した。PBS(一)浸漬前および24時間浸漬した後の各フィルムを、公知の人工脂質液中にて、37℃±2℃にて8時間インキュベートした。その後、PBS(−)にて濯ぎ洗いをし、0.1%スダンブラック−胡麻油溶液に浸漬した。浸漬前後で染色状態に差異が確認されない場合を○、確認された場合を×とした。結果を下記表1に示す。
【0071】
(5)機械的強度の耐久性
上記(2)に従いフィルムを2枚作製し、その内の1枚の表面水分を拭き取った後に37℃リン酸緩衝液(PBS(一))に24時間浸漬した。PBS(一)に浸漬していないフィルムおよび24時間浸漬後のフィルム各々を幅2.0mmのダンベル形状にカットし、試験サンプルの上下端を冶具で挟み、一定速度で引張続けた際の破断強度および破断伸度を、破断試験機AGS−50NJ(株式会社島津製作所製)を用いて測定した。PBS(一)に浸漬していないフィルムと浸漬したフィルムにおいて、破断強度と破断伸度の変化が夫々10%以内の場合は○とし、いずれか一方に10%を超える減少が認められる場合は×とした。結果を下記表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
比較例1〜5のシリコーン化合物は、他の(メタ)アクリル系モノマー化合物あるいはフッ素置換基含有(メタ)アクリル系モノマーとの相溶性が悪く無色透明な重合体を得られない。特に、比較例1、2及び5のモノマー混合物から得られた重合体は水濡れ性(表面親水性)、耐汚染性に劣る。また、比較例1、3、4のモノマー混合物から得られた重合体はリン酸緩衝液に浸漬することで機械的強度が低下する。これに対し、本発明のシリコーン化合物は、他の(メタ)アクリル系モノマーとの相溶性が良好であり、無色透明な重合体を提供する。また、フッ素置換基含有(メタ)アクリル系モノマーとも良好に相溶する。そのため、親水性及び耐汚染性に優れる重合体を与える。さらに、得られる重合体はリン酸緩衝液に浸漬しても機械的強度が低下しない。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のシリコーン化合物は、無色透明であり、親水性、耐汚染性、及び機械的強度の耐久性に優れる重合体を与える。また、本発明の製造方法によれば、特定の構造を有する1種(構造異性体を含む)が高い割合を成す化合物を提供することができる。従って、本発明の化合物及び製造方法は、コンタクトレンズ材料、眼内レンズ材料、及び人工角膜材料など、眼科デバイスの製造のために有用である。