特許第6282408号(P6282408)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6282408
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】水硬性組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/02 20060101AFI20180208BHJP
   C04B 7/24 20060101ALI20180208BHJP
   C04B 7/14 20060101ALI20180208BHJP
   C04B 14/28 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   C04B7/02
   C04B7/24
   C04B7/14
   C04B14/28
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-100842(P2013-100842)
(22)【出願日】2013年5月13日
(65)【公開番号】特開2014-97918(P2014-97918A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2016年3月17日
(31)【優先権主張番号】特願2012-227619(P2012-227619)
(32)【優先日】2012年10月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】茶林 敬司
(72)【発明者】
【氏名】永田 宏志
(72)【発明者】
【氏名】中村 明則
(72)【発明者】
【氏名】加藤 弘義
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−117724(JP,A)
【文献】 特開2011−132111(JP,A)
【文献】 特開2004−352515(JP,A)
【文献】 特開2004−352516(JP,A)
【文献】 特開2009−256205(JP,A)
【文献】 特開2012−091992(JP,A)
【文献】 特開昭50−084625(JP,A)
【文献】 特開2012−224504(JP,A)
【文献】 特開2015−034129(JP,A)
【文献】 特開2010−235381(JP,A)
【文献】 「石灰石微粉末の特性とコンクリートへの利用に関するシンポジウム」委員会報告書,社団法人日本コンクリート工学協会,1998年,第6-11頁
【文献】 佐川 孝広 他,高炉セメントの水和反応に及ばす石灰石微粉末の影響,コンクリートエ学年次論文集,2007年,Vo1. 29, No. l,第93-98頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボーグ式により算出されたCAおよびCAFの合計量が24%以上、CS量が63%以上であり、かつ鉄率(I.M.)が1.14〜1.27であるセメントクリンカーと、石膏と高炉スラグと石灰石とを含んでなり、該高炉スラグと石灰石との合計が、全組成物当たり5質量%以下である水硬性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントクリンカーと、石膏と、全組成物当たり5質量%以下の石灰石を含んでなる水硬性組成物に関する。詳しくは従来よりも低温で焼成したセメントクリンカーを含んだ場合において良好な物性を示す水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント産業は、大量生産・大量消費型産業であり、省資源・省エネルギーは、それまでも、そしてこれからも最重要課題であり続けると考えられる。例えば、最も大量に製造されているポルトランドセメントを製造するためには、所定の化学組成に調製された原料を、1450℃〜1550℃もの高温で焼成してクリンカーとする必要があり、この温度を得るためのエネルギーコストは膨大なものとなる。
【0003】
一方、近年の地球環境問題と関連して、廃棄物、副産物等の有効利用は重要な課題となっている。セメント産業、セメント製造設備の特徴を生かし、セメント製造時に原料や燃料として廃棄物を有効利用あるいは処理を行うことは、安全かつ大量処分が可能という観点から有効とされている。
【0004】
廃棄物、副産物等の中で、都市ごみ焼却灰、高炉水砕スラグ、高炉徐冷スラグ等、特に石炭灰等は、通常のセメントクリンカー組成に比べ、Al含有量が多く、Al含有量が多い廃棄物、副産物等の使用量を増加させた場合、セメントクリンカー成分のうち3CaO・Al(以下、CA)含有量が増加することになる。
【0005】
当該CAは、4CaO・Al・Fe(以下、CAF)と並び間隙相と呼ばれ、その量が多くなるとクリンカーの焼成温度を低くできるという利点があるが、一方で、セメントの強度に対して重要なクリンカーを構成する他の鉱物(3CaO・SiO(CS)、2CaO・SiO(CS))の量に影響を与え、セメント物性に影響が生じる。
【0006】
本発明者等は、上記間隙相の含有割合を多くして低温焼成を可能にしつつ、かつ強度等の物性も良好なセメントクリンカーとして、CAおよびCAFの合計量が22%以上、CS量が60%以上であり、かつ鉄率(I.M.)が1.3以下であるセメントクリンカー(以下、低IMクリンカーともいう)を既に提案している(特願2011-093396)。
【0007】
一方、従来の普通ポルトランドセメントには一般的に5質量%以下の混合材が使用されており、配合する混合材によっては、流動性の改善効果やクロムの溶出抑制効果が得られることが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記低IMクリンカーを用いれば、従来のセメントに比べ、廃棄物使用量を増やすことが可能であり、しかも、製造する際の焼成温度を低減することが可能であるが、よりいっそう良好な強さ発現を示す水硬性組成物も求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討を進め、低IMクリンカーに対してさらに混合材として石灰石を添加することで、混合材を使用しない場合よりも良好な強さ発現を示すことを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
即ち本発明は、ボーグ式により算出されたCAおよびCAFの合計量が24%以上、CS量が63%以上であり、かつ鉄率(I.M.)が1.14〜1.27であるセメントクリンカーと、石膏と高炉スラグと石灰石とを含んでなり、該高炉スラグと石灰石との合計が、全組成物当たり5質量%以下である水硬性組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来のセメントクリンカーよりも廃棄物使用量を増量することが可能となり、かつ焼成温度を1300〜1450℃程度まで低減することが可能であり、かつ極めて良好な強さ発現性を有する水硬性組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明におけるCA、CAFおよびCS量は、ボーグ(Bogue)式によって求められるものである。
【0013】
ボーグ式は、係数・諸比率とならんで利用され、主要化学成分値を用いておよその主要化合物組成を算出する計算式であり、当業者には周知の式であるが、念のため、以下にボーグ式によるクリンカー中の各鉱物量の求め方を記しておく。
【0014】
S量 = (4.07×CaO)−(7.60×SiO2)−(6.72×Al2O3)−(1.43×Fe2O3)
S量 = (2.87×SiO2)−(0.754×C3S)
A量 = (2.65×Al2O3)−(1.69×Fe2O3)
AF量= 3.04×Fe2O3 また鉄率(I.M.)は、水硬率(H.M.)、ケイ酸率(S.M.)、活動係数(A.I.)および石灰飽和度(L.S.D.)とならんで、主要化学成分値を用いて求められ、クリンカー製造管理のための特性値として、係数・諸比率の一つとして利用されており、当業者には周知の係数であるが、念のため、以下に当該鉄率の計算方法を他の係数値と併せて記しておく。
【0015】
水硬率(H.M.) =CaO/(SiO2+Al2O3+Fe2O3
ケイ酸率(S.M.) =SiO2/(Al2O3+Fe2O3
活動係数(A.I.) =SiO2/Al2O3
鉄率(I.M.) =Al2O3/Fe2O3
石灰飽和度(L.S.D.)=CaO/(2.8×SiO2+1.18×Al2O3+0.65×Fe2O3
なお、上記式中の「CaO」「SiO2」「Al2O3」および「Fe2O3」は、それぞれJI R5202「ポルトランドセメントの化学分析法」やJI R5204「セメントの蛍光X線分析法」などに準拠した方法により測定できる。
【0016】
上述の通り、本発明で使用するセメントクリンカーにおいては、CA、CAFの量はその合計が24%以上でなくてはならない。これらの量が24%を下回ると強度発現性などの物性の良好なセメントクリンカーを1300〜1400℃の温度で焼成して得ることが困難になる。なお、後述するように高い強度発現性を得るためにはCSが63%以上必要である。よって、CAおよびCAFの合計量は37%が上限となる。好ましくは35%以下、より好ましくは32%以下、特に好ましくは28%以下である。またこの両成分のうち、CAFは、低温でも十分に焼結させることができ、かつクリンカー中のf−CaO量を少なくできる点で、単独で15%以上存在することが好ましい。
【0017】
S量は本発明のセメント組成物(以下、単に「セメント」)の強度発現性に対して極めて重要である。この量が63%を下回るとCAおよびCAFの合計量および後述する鉄率を所定の範囲にしても良好な強度発現性を得られない。なお上述したCAおよびCAFの合計量は少なくとも24%であるから、CS量の上限は76%となる。凝結の開始から終結までの時間をある程度確保するために、70%以下が好ましく、65%以下がより好ましい。
【0018】
本発明で使用するセメントクリンカーにはさらにCSが含まれていてもよい。その量は15%以下であり、3%以上であることが好ましい。長期強度を得るという観点から、特に好ましくはCS量との合計量が69%以上となる量である。
【0019】
本発明で使用するセメントクリンカーにおいて最も重要なことは鉄率(I.M.)を1.14〜1.27とすることにある。鉄率が1.3を超えると、本発明で使用するセメントクリンカーにおける他の要件を満足していても十分な強度発現性(より具体的には、例えばモルタル強さ発現)を得ることができない。さらに鉄率が1.3を超える場合、凝結開始から終結までの時間が長くなりすぎる傾向にあり、この点からも鉄率は1.3以下とする。本発明においては1.14〜1.27とする。
【0020】
水硬率及びケイ酸率は特に限定されるものではないが、各種物性のバランスに優れたものとするために、水硬率は好ましくは1.8〜2.2、特に好ましくは1.9〜2.1であり、またケイ酸率は好ましくは1.0〜2.0、特に好ましくは1.1〜1.7である。
【0021】
本発明で使用する上記セメントクリンカーを製造する方法は特に限定されることがなく、公知のセメント(クリンカー)原料を、上記各鉱物比率及び係数となるように所定の割合で調製混合し、公知の方法(例えば、SPキルンやNSPキルン等)で焼成することにより容易に得ることができる。
【0022】
当該セメント原料の調製混合方法も公知の方法を適宜採用すればよい。例えば、事前に廃棄物、副産物およびその他の原料(石灰石、生石灰、消石灰等のCaO源、珪石等のSiO源、粘土等のAl源、鉄源等のFe源など)の組成を測定し、これら原料中の各成分割合から上記範囲になるように各原料の調合割合を計算し、その割合で原料を調合すればよい。
【0023】
なお、本発明で使用するセメントクリンカーの製造に用いる原料は、従来セメントクリンカーの製造において使用される原料と同様なものが特に制限なく使用される。廃棄物、副産物等を利用することも、無論可能である。
【0024】
本発明で使用するセメントクリンカーの製造において、廃棄物、副産物等から一種以上を使用することは、廃棄物、副産物等の有効利用を促進する観点から好ましいことである。使用可能な廃棄物・副産物をより具体的に例示すると、高炉スラグ、製鋼スラグ、非鉄鉱滓、石炭灰、下水汚泥、浄水汚泥、製紙スラッジ、建設発生土、鋳物砂、ばいじん、焼却飛灰、溶融飛灰、塩素バイパスダスト、木屑、廃白土、ボタ、廃タイヤ、貝殻、都市ごみやその焼却灰等が挙げられる(なお、これらの中には、セメント原料になるとともに熱エネルギー源となるものもある)。
【0025】
特に本発明で使用するセメントクリンカーは、CAおよびCAFというアルミニウムをその構成元素とする鉱物を多く含む。そのため、従来のセメントクリンカーに比べて、アルミニウム分の多い廃棄物・副産物をより多く使用して製造できるという利点を有する。
【0026】
本発明の水硬性組成物は、上記セメントクリンカーに加えて、石膏と石灰石と高炉スラグを必須成分として含む。
【0027】
使用する石膏については、二水セッコウ、半水セッコウ、無水セッコウ等のセメント製造原料として公知のセッコウが特に制限なく使用できる。石膏の添加量は、水硬性組成物中のSO量が1.5〜5.0質量%となるように添加することが好ましく、1.8〜3質量%となるような添加量がより好ましい。
【0028】
本発明の水硬性組成物に用いる石灰石は、セメント混合材として公知の石灰石を用いることができる。例えば天然の石灰石や合成の炭酸カルシウムを使用することができる。石灰石を配合することにより、配合しない場合に比べて良好な強さ発現を示す。これは従来汎用されてきたCAとCAFの合計量が18〜20%程度のクリンカーでは、石灰石の配合により強度低下する傾向があったことに比べて、全く逆の傾向であり驚くべきことである。
【0029】
石灰石の使用量の上限はJIS規格に基づき全組成物中有5質量%以下とする。本発明の効果をより良好に発現させるために、石灰石の含有量は1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましい。
【0030】
本発明の水硬性組成物は、上記石灰石及び下記高炉スラグに加えて、フライアッシュ及び/又はシリカ質混合材を含んでいてもよい。この場合、石灰石及び高炉スラグと、フライアッシュ及び/又はシリカ質混合材との合計量は、JIS規格を満たすために、全組成物中5質量%以下とする。
【0031】
本発明の組成物においてはさらに高炉スラグを含む。石灰石に加えて高炉スラグを含むことにより、石灰石のみ、或いは高炉スラグのみを含む場合に比べ、その配合量が同等であれば、より良好な流動性を得ることができる。石灰石と高炉スラグとの合計量は、全組成物中5質量%以下とする。
【0032】
上記セメントクリンカー、石膏、石灰石及びその他の混合材は、粉末度が、ブレーン比表面積で2800〜4500cm/gとなるように調整されていることが好ましい。
【0033】
当該粉末度に調製するための粉砕方法については、公知の技術が特に制限なく使用でき、各成分を個別に粉砕後、混合しても良いし、混合後に粉砕してもよい。粉砕機としてはボールミル、竪型ミル等が使用できる。
【0034】
本発明の水硬性組成物はポルトランドセメント、特にJIS規格に合致したポルトランドセメントとして使用できる。当該ポルトランドセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメントが挙げられる。またポルトランドセメントとする以外にも、各種混合セメントや、土壌固化材等の固化材の構成成分として使用することも可能である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
石灰石、石炭灰及び建設発生土等の廃棄物を含む工業原料を用いて、ボーグ式による鉱物組成および係数値が表1に示される組成のクリンカーA及びBを得た。クリンカーAは本発明において使用されるクリンカーであり、比較的低温の1350℃で焼成したものである。クリンカーBは従来汎用されてきた組成のクリンカーであり、1450℃で焼成したものである。なおいずれも電気炉で90分間焼成して、各々のセメントクリンカーを得た。
【0037】
このセメントクリンカーにSO換算で2±0.2%となるように石膏の添加および所定の混合材を添加し、Blaine法による比表面積が3200±50cm/gとなるように混合粉砕し、各セメントを製造した。得られたセメントのモルタル圧縮強さ、凝結時間、セメントペーストフローを測定した。各実施例の混合材添加量、モルタル圧縮強さ、凝結時間およびペーストフローの結果を表2に示す。
【0038】
なお、各種測定方法は以下の方法による。
(1)原料およびセメントクリンカーの化学組成の測定:JIS R 5204に準拠する蛍光X線分析法により測定した。
(2)モルタル圧縮強さの測定:JIS R 5201に準拠する方法により測定した。
(3)凝結時間の測定:JIS R 5201に準拠する方法により測定した。
(4)セメントペーストフローの測定:JASS 15 M−103に準拠して測定し、練り混ぜ時間を3分、水/セメント比0.50、混和剤添加なし
試験温度を20℃とし、錬り上がり直後のフローを測定した。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
灰石と高炉スラグを合計で5%含む実施例の組成物のペーストフローは、石灰石のみを5%含む比較例2および高炉スラグのみを5%含む比較例3に比べて良好な値を示している。
【0042】
実施例は石灰石1%および高炉スラグ3%を含む例であるが、高炉スラグ3%のみを添加した参考例6と比べると、やはり材齢7日のモルタル圧縮強さ及びペーストフローが良好である。
【0043】
参考例6、比較例3は混合材として石灰石を使用せず、高炉スラグのみを添加した例である。表2に示すように比較例1と比較しても材齢7日のモルタル圧縮強さが低い数値を示している。
【0044】
参考例1は従来の汎用的なポルトランドセメントクリンカーと同等組成となるように1450℃で焼成したクリンカーを使用した例である。この結果と参考例2〜4とを対比すれば理解されるように、従来汎用の組成のクリンカーでは、石灰石およびスラグを添加した場合、無添加の場合と比較して材齢7日のモルタル圧縮強さが低くなり、本発明とは逆の傾向を示している。