(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フッ素樹脂含有微粒子と、前記フッ素樹脂含有微粒子を担持し、かつ、総体積が前記フッ素樹脂含有微粒子の総体積よりも小さい結着剤とを含む水系スラリーを帯状多孔質膜の表面に塗工し、乾燥する工程を含み、
前記結着剤はポリオレフィン樹脂を含むことを特徴とする、非水電解質二次電池用電極巻回素子の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記の方法によってPVDFの多孔質膜が表面に形成されたセパレータは、未形成のセパレータに比べて滑り性が悪く、静電気も発生しやすいので、製造工程上で取り扱いにくいという問題があった。具体的には、当該セパレータを巻回素子のセパレータとした場合に、帯状の正極、負極、セパレータを重ねたときの相互の滑り性が悪いため、巻回素子が歪んでしまうという問題があった。巻回素子が歪んだ場合、巻回素子をケースに収納しにくくなるといった問題が生じうる。また、この歪みの影響によりこの巻回素子を使用した非水電解質二次電池は、サイクル(cycle)寿命が十分でないという問題もあった。
【0006】
一方、例えば特許文献1〜4に開示されているように、フッ素樹脂の粒子またはセラミック(ceramic)粒子を使用した技術が知られている。特許文献1に開示された技術では、セパレータである多孔質フィルムからフッ素樹脂からなる粒子の一部を突出させる。特許文献2に開示された技術では、セパレータ内にセラミック粒子を含有させる。特許文献3に開示された技術では、不織布内の細孔の一部をフッ素樹脂の粒子で充填する。特許文献4に開示された技術では、フッ素樹脂と含酸素官能基を有する高分子との複合化高分子が分散した水系スラリーを用いて負極を作製する。しかし、これらの技術では上記の問題を何ら解決することができなかった。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、製造工程上で取り扱いやすいセパレータを用いて作製され、巻回素子の歪みを抑制し、かつ、非水電解質二次電池のサイクル寿命を向上させることが可能な、新規かつ改良された非水電解質二次電池用電極巻回素子、それを用いた非水電解質二次電池、及び非水電解質二次電池用電極巻回素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、帯状正極と、帯状負極と、帯状正極及び帯状負極の間に配置された帯状多孔質膜と、フッ素樹脂含有微粒子と、フッ素樹脂含有微粒子を担持し、かつ、総体積がフッ素樹脂含有微粒子の総体積よりも小さい結着剤とを含み、帯状多孔質膜の表面に形成される接着層と、を備えることを特徴とする、非水電解質二次電池用電極巻回素子が提供される。
【0009】
この巻回素子は、後述する実施例で示されるとおり、歪みが小さい。また、接着層によって各電極とセパレータとの界面が安定化するので、サイクル寿命が向上する。また、帯状セパレータ、すなわち接着層が形成された多孔質膜は、滑り性にも優れる。したがって、帯状セパレータは、取り扱い性も良好である。
【0010】
ここで、帯状負極は、負極活物質と、フッ素樹脂含有微粒子とを含む負極活物質層を備え、接着層は、負極活物質層に結着していてもよく、この場合、帯状負極とセパレータとの界面がさらに安定化する。したがって、サイクル寿命がさらに向上する。
【0011】
また、フッ素樹脂含有微粒子は、球状粒子であってもよく、この場合、サイクル寿命がさらに向上する。
【0012】
また、フッ素樹脂は、ポリフッ化ビニリデンを含んでいてもよく、この場合、サイクル寿命がさらに向上する。
【0013】
また、結着剤はポリオレフィン樹脂を含んでいてもよく、この場合、サイクル寿命がさらに向上する。
【0014】
また、接着層は、無機粒子を含んでいてもよく、この場合、サイクル寿命がさらに向上する。
【0015】
本発明の他の観点によれば、上記の非水電解質二次電池用電極巻回素子を備えることを特徴とする、非水電解質二次電池が提供される。
【0016】
この非水電解質二次電池に含まれる巻回素子は歪みが小さい。また、非水電解質二次電池のサイクル寿命は良好である。また、非水電解質二次電池に含まれる帯状セパレータ、すなわち接着層が形成された多孔質膜は、滑り性にも優れる。したがって、帯状セパレータは、取り扱い性も良好である。
【0017】
本発明の他の観点によれば、フッ素樹脂含有微粒子と、フッ素樹脂含有微粒子を担持し、かつ、総体積がフッ素樹脂含有微粒子の総体積よりも小さい結着剤とを含む水系スラリーを帯状多孔質膜の表面に塗工し、乾燥する工程を含むことを特徴とする、非水電解質二次電池用電極巻回素子の製造方法が提供される。
【0018】
この観点によれば、取り扱い性に優れた帯状セパレータが作製される。また、この帯状セパレータを用いて作製された巻回素子は、歪みが小さい。また、この巻回素子では、各電極とセパレータとの界面が安定化するので、この巻回素子を用いて作製された非水電解質二次電池は、サイクル寿命が向上する。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように本発明による巻回素子は、製造工程上で取り扱いやすいセパレータを用いて作製される。また、巻回素子は、その歪みを抑制し、かつ、非水電解質二次電池のサイクル寿命を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0022】
<1.リチウムイオン二次電池の構成>
(リチウムイオン二次電池の全体構成)
まず、
図1及び
図2を参照して、本発明の実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構成について説明する。
図1は、巻回素子100の平面図と、巻回素子100の領域Aを拡大した拡大図とを示す。
図2は、正極、負極および2枚のセパレータが積層された電極積層体100aの平面図と、電極積層体100aの領域Aを拡大した拡大図とを示す。
【0023】
リチウムイオン二次電池は、巻回素子100と、非水電解質溶液と、外装材とを備える。巻回素子100は、帯状負極10、帯状セパレータ20、帯状正極30、及び帯状セパレータ20がこの順で積層された電極積層体100aを長手方向に巻回し、矢印B方向に圧縮したものである。
【0024】
(負極の構成)
帯状負極10は、負極集電体10bと、負極集電体10bの両面に形成された負極活物質層10aとを含む。帯状負極10は、いわゆる水系負極である。
【0025】
具体的には、負極活物質層10aは、負極活物質と、増粘剤と、結着剤とを含む。負極活物質層10aを構成する負極活物質としては、リチウムとの合金化、又は、リチウム(Li)の可逆的な吸蔵及び放出が可能な物質であれば特に限定されず、例えば、リチウム、インジウム(In)、スズ(Sn)、アルミ(Al)、ケイ素(Si)等の金属及びこれらの合金や酸化物、Li
4/3Ti
5/3O
4、SnO等の遷移金属酸化物や、人造黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛と天然黒鉛との混合物、人造黒鉛を被覆した天然黒鉛、難黒鉛化性炭素、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス(coke)、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール(furfuryl alcohol)樹脂焼成炭素、ポリアセン(polyacene)、ピッチ(pitch)系炭素繊維等の炭素材料などが挙げられる。これらの負極活物質は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。中でも、黒鉛系材料を主材料として用いるのが好ましい。
【0026】
増粘剤は、負極合剤スラリーを塗工に適した粘度に調整するとともに、負極活物質層10a内で結着剤として機能するものである。増粘剤としては水溶性高分子が好適に用いられ、例えばセルロース系高分子、ポリアクリル酸(Polyacrylic acid)系高分子、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol)、ポリエチレンオキシド(polyethylene oxide)等が挙げられる。セルロース系高分子としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)の金属塩またはアンモニウム塩、メチルセルロース(methylcellulose)、エチルセルロース(ethyl cellulose)、ヒドロキシアルキルセルロース(hydroxy alkyl cellulose)などのセルロース(Cellulose)誘導体等が挙げられる。他の例としては、ポリビニルピロリドン(PVP)、スターチ(starch)、リン酸スターチ、カゼイン(casein)、各種変性デンプン(starch)、キチン(chitin)、キトサン(chitosan)誘導体などが挙げられる。これらの増粘剤は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。中でも、セルロース系ポリマーが好ましく、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩が特に好ましい。
【0027】
結着剤は、負極活物質同士を結着するものである。結着剤の好ましい例としては、フッ素樹脂含有微粒子が挙げられる。フッ素樹脂含有微粒子は、フッ素樹脂を含む微粒子であり、負極活物質層10aの結着剤となるものである。フッ素樹脂含有微粒子は、好ましくはフッ素樹脂で構成される。
【0028】
フッ素樹脂含有微粒子を構成するフッ素樹脂の好ましい例としては、PVDF及びPVDFを含む共重合体等が挙げられる。PVDFを含む共重合体としては、フッ化ビニリデン(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)との共重合体、フッ化ビニリデン(VDF)とテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体等が挙げられる。
【0029】
フッ素樹脂含有微粒子の粒径(フッ素系微粒子を球体とみなした時の直径)は特に制限されず、負極活物質層10a内に分散できる粒径であればどのような値であってもよい。例えば、フッ素樹脂含有微粒子の平均粒子径(粒径の算術平均値)は、80−500nm程度であればよい。フッ素樹脂含有微粒子の平均粒子径は、例えばレーザ回折法(laser diffractometry)によって測定される。具体的には、レーザ回折法によってフッ素系微粒子の粒度分布を測定し、この粒度分布に基づいて粒径の算術平均値を算出すればよい。
【0030】
なお、フッ素樹脂含有微粒子は、本実施形態の効果を損なわない範囲内で各種の加工、例えば他の樹脂によって複合化されていてもよい。例えば、フッ素樹脂含有微粒子は、アクリル樹脂と複合化されていてもよい。このフッ素樹脂含有微粒子は、IPN(Inter−penetrating network polymer)状の構造をしている。
【0031】
フッ素樹脂含有微粒子は、例えばフッ素樹脂を構成するモノマー(monomer)(例えばVDF)を乳化重合することにより作製(合成)される。フッ素系微粒子は、フッ素樹脂を構成するモノマーを懸濁重合させ、これによって得られた粗粒子を粉砕することで作製されてもよい。
【0032】
本実施形態では、フッ素樹脂を微粒子としたので、フッ素樹脂含有微粒子は、水中で分散してラテックスを形成する。したがって、負極活物質層10aを形成するためのスラリーの溶媒として水を使用することができる。
【0033】
本実施形態のフッ素樹脂含有微粒子は、球状粒子であることが特に好ましい。球状のフッ素樹脂含有微粒子は、例えば上述した乳化重合法により作製可能である。また、フッ素樹脂含有微粒子の形状(及び上述した構造)は、例えばSEM(走査型電子顕微鏡)によって確認できる。
【0034】
負極活物質層10aは、結着剤として、さらにエラストマー系高分子の微粒子を含んでもよい。エラストマー系高分子としては、SBR(スチレンブタジエンゴム)、BR(ブタジエンゴム)、NBR(ニトリルブタジエンゴム)、NR(天然ゴム)、IR(イソプレンゴム)、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体)、CR(クロロプレンゴム)、CSM(クロロスルホン化ポリエチレン)、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルの共重合体、および、これらの部分水素化物、あるいは完全水素化物、アクリル酸エステル系共重合体等が挙げられる。これらは結着性向上のため、カルボン酸やスルホン酸、リン酸、水酸基等の極性官能基をもつ単量体により変性されていてもよい。
【0035】
増粘剤及び結着剤の負極活物質層内の含有比は特に制限されず、リチウムイオン二次電池の負極活物質層に適用可能な含有比であればよい。
【0036】
負極集電体10bは、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、銅、ステンレス鋼、及びニッケルメッキ鋼等で構成される。負極集電体10bには、負極端子が接続される。
【0037】
帯状負極10は、例えば、以下の方法により作製される。すなわち、負極活物質層の材料を水に分散させることで負極合剤スラリー(水系スラリー)を形成し、この負極合剤スラリーを集電体上に塗工する。これにより、塗工層を形成する。ついで、塗工層を乾燥する。負極合剤スラリー中では、フッ素樹脂微粒子及びエラストマー系高分子の微粒子が負極活物質層10a内に分散している。ついで、乾燥した塗工層を負極集電体10bとともに圧延する。これにより、帯状負極10が作製される。
【0038】
帯状セパレータ20は、帯状多孔質膜20cと、帯状多孔質膜20cの両面に形成された接着層20aとを含む。
【0039】
帯状多孔質膜20cは、特に制限されず、リチウムイオン二次電池のセパレータとして使用されるものであれば、どのようなものであってもよい。帯状多孔質膜20cとしては、優れた高率放電性能を示す多孔質膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。帯状多孔質膜20cを構成する樹脂としては、例えばポリエチレン(polyethylene),ポリプロピレン(polypropylene)等に代表されるポリオレフィン(polyolefin)系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(Polyethylene terephthalate),ポリブチレンテレフタレート(polybutylene terephthalate)等に代表されるポリエステル(Polyester)系樹脂、PVDF、フッ化ビニリデン(VDF)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル(par fluorovinyl ether)共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン(trifluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン−フルオロエチレン(fluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン(hexafluoroacetone)共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン(ethylene)共重合体、フッ化ビニリデン−プロピレン(propylene)共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン(trifluoro propylene)共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)−ヘキサフルオロプロピレン(hexafluoropropylene)共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン(ethylene)−テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)共重合体等を挙げることができる。
【0040】
接着層20aは、上述したフッ素樹脂含有微粒子20b−1と、結着剤20b−2とを含み、帯状セパレータ20と帯状負極10及び帯状正極30とを結着する。
図1では、接着層20aは、帯状セパレータ20の両面に形成されているが、少なくとも一方の表面に形成されていてもよい。
【0041】
フッ素樹脂含有微粒子20b−1は、負極活物質層10aに含まれるものと同様である。結着剤20b−2は、接着層20a内でフッ素樹脂含有微粒子20b−1を担持するものである。接着層20a内に占める結着剤20b−2の総体積は、接着層20a内に占めるフッ素樹脂含有微粒子20b−1の総体積よりも小さい。具体的には、(フッ素樹脂含有微粒子20b−1の総体積)/(結着剤20b−2の総体積)は、2〜20程度であることが好ましい。
【0042】
結着剤20b−2は、好ましくはポリオレフィン樹脂を含む。より好ましくは、結着剤20b−2は、ポリオレフィン樹脂で構成される。ポリオレフィン樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、及びそれらのアイオノマー等が挙げられる。なお、結着剤20b−2は、上述したエラストマー系高分子で構成されていてもよいが、ポリオレフィン樹脂を含む結着剤であることが好ましい。
【0043】
接着層20aは、上述した塗工に適した粘度付与のため、増粘剤を更に含んでいてもよい。また、接着層20aは、多孔質度調整や熱安定性のため無機粒子を更に含んでいてもよい。無機粒子は、具体的にはセラミック粒子であり、より具体的には、金属酸化物粒子である。金属酸化物粒子としては、例えばアルミナ、ベーマイト、チタニア、ジルコニア、マグネシア、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の微粒子が挙げられる。無機粒子の平均粒子径は、接着層の厚みの1/2以下が好ましい。無機粒子の平均粒子径は、例えば、レーザ回折法等によって測定される体積累積50%(D50)である。無機粒子の含有率は本実施形態の効果が得られる範囲内であれば特に制限されないが、例えば接着層20aの総質量に対して70質量%以下であれば良い。
【0044】
接着層20aは、以下の方法により作製される。すなわち、接着層20aの材料を水に分散、溶解させることで接着層合剤スラリー(水系スラリー)を作成する。ついで、この接着層合剤スラリーを帯状多孔質膜20cの両面のうち、少なくとも一方の表面に塗工することで塗工層を形成する。ついで、この塗工層を乾燥する。これにより、接着層20aが形成される。
【0045】
帯状正極30は、正極集電体30bと、正極集電体30bの両面に形成された正極活物質層30aとを有する。正極活物質層30aは、少なくとも正極活物質を含み、導電剤と、結着剤とをさらに含んでいてもよい。正極活物質は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することが可能な物質であれば特に限定されず、例えば、コバルト酸リチウム(LCO)、ニッケル酸リチウム、ニッケルコバルト酸リチウム、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(以下、「NCA」と称する場合もある。)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(以下、「NCM」と称する場合もある。)、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウム、硫化ニッケル、硫化銅、硫黄、酸化鉄、酸化バナジウム等が挙げられる。これらの正極活物質は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0046】
正極活物質は、上記に挙げた正極活物質の例のうち、特に、層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩であることが好ましい。このような層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩としては、例えば、Li
1−x−y−zNi
xCo
yAl
zO
2(NCA)またはLi
1−x−y−zNi
xCo
yMn
zO
2(NCM)(0<x<1、0<y<1、0<z<1、かつx+y+z<1)で表される3元系の遷移金属酸化物のリチウム塩が挙げられる。
【0047】
導電剤は、例えばケッチェンブラック(Ketjenblack)、アセチレンブラック(acetylene black)等のカーボンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛等であるが、正極の導電性を高めるためのものであれば特に制限されない。
【0048】
結着剤は、正極活物質同士を結合すると共に、正極活物質と正極集電体30bとを結合する。結着剤の種類は特に限定されず、従来のリチウムイオン二次電池の正極活物質層に使用された結着剤であればどのようなものであっても使用できる。例えばポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、フッ化ビニリデン(VDF)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル(par fluorovinyl ether)共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン(trifluoroethylene)共重合体、エチレンプロピレンジエン(ethylene−propylene−diene)三元共重合体、スチレンブタジエンゴム(Styrene−butadiene rubber)、アクリロニトリルブタジエンゴム(acrylonitrile−butadiene rubber)、フッ素ゴム(fluororubber)、ポリ酢酸ビニル(polyvinyl acetate)、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)、ポリエチレン(polyethylene)、ニトロセルロース(cellulose nitrate)等であるが、正極活物質及び導電剤を集電体21上に結着させることができるものであれば、特に制限されない。
【0049】
正極集電体30bは、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、及びニッケルメッキ鋼等で構成される。正極集電体30bには、正極端子が接続される。
【0050】
帯状正極30は、例えば、以下の方法により作製される。すなわち、正極活物質層の材料を有機溶剤または水に分散させることで正極合剤スラリーを形成し、この正極合剤スラリーを集電体上に塗工する。これにより、塗工層が形成される。ついで、塗工層を乾燥する。ついで、乾燥した塗工層を正極集電体30bとともに圧延する。これにより、帯状正極30が作製される。
【0051】
電極積層体100aは、帯状負極10、帯状セパレータ20、帯状正極30、及び帯状セパレータ20をこの順で積層することで製造される。したがって、電極積層体100aの一方の面(表面)には帯状セパレータ20が配置され、裏面には帯状負極10が配置されるので、電極積層体100aを巻回すると、電極積層体100aのある部分の表面(すなわち帯状セパレータ20)に電極積層体100aの他の部分の裏面(すなわち帯状負極10)が接触する。
【0052】
非水電解質溶液は、電解質を有機溶媒に溶解させた溶液である。電解質は特に限定されず、例えば、本実施形態では、リチウム塩を使用することができる。リチウム塩としては、例えば、LiClO
4、LiBF
4、LiAsF
6、LiPF
6,LiPF
6−x(C
nF
2n+1)
x(但し、1<x<6,n=1or2),LiSCN,LiBr,LiI,Li
2SO
4,Li
2B
10Cl
10,NaClO
4,NaI,NaSCN,NaBr,KClO
4,KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCF
3SO
3,LiN(CF
3SO
2)
2,LiN(C
2F
5SO
2)
2,LiN(CF
3SO
2)(C
4F
9SO
2),LiC(CF
3SO
2)
3,LiC(C
2F
5SO
2)
3,(CH
3)
4NBF
4,(CH
3)
4NBr,(C
2H
5)
4NClO
4,(C
2H
5)
4NI,(C
3H
7)
4NBr,(n−C
4H
9)
4NClO
4,(n−C
4H
9)
4NI,(C
2H
5)
4N−maleate,(C
2H
5)
4N−benzoate,(C
2H
5)
4N−phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム(stearyl sulfonic acid lithium)、オクチルスルホン酸リチウム(octyl sulfonic acid)、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム(dodecyl benzene sulphonic acid)等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。なお、電解質塩の濃度は、従来のリチウム二次電池で使用される非水電解液と同様でよく、特に制限はない。本実施形態では、適当なリチウム化合物(電解質塩)を0.8〜1.5mol/L程度の濃度で含有させた非水電解液を使用することができる。
【0053】
また、有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート(propylene carbonate)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate)、ブチレンカーボネート(ethylene carbonate)、クロロエチレンカーボネート(chloroethylene carbonate)、ビニレンカーボネート(vinylene carbonate)等の環状炭酸エステル(ester)類;γ−ブチロラクトン(butyrolactone)、γ−バレロラクトン(valerolactone)等の環状エステル類;ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate)、ジエチルカーボネート(diethyl carbonate)、エチルメチルカーボネート(ethyl methyl carbonate)等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル(methyl formate)、酢酸メチル(methyl acetate)、酪酸メチル(butyric acid methyl)、酢酸エチル(ethyl acetate)、プロピオン酸エチル(ethyl propionate)等の鎖状エステル類;テトラヒドロフラン(Tetrahydrofuran)またはその誘導体;1,3−ジオキサン(dioxane)、1,4−ジオキサン(dioxane)、1,2−ジメトキシエタン(dimethoxyethane)、1,4−ジブトキシエタン(dibutoxyethane)、メチルジグライム(methyl diglyme)等のエーテル(ether)類;アセトニトリル(acetonitrile)、ベンゾニトリル(benzonitrile)等のニトリル(nitrile)類;ジオキソラン(Dioxolane)またはその誘導体;エチレンスルフィド(ethylene sulfide)、スルホラン(sulfolane)、スルトン(sultone)またはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。非水電解質溶液は、帯状セパレータ20に含浸される。なお、上記の各電極には、公知の導電助剤、添加剤等を適宜加えてもよい。外装材は、例えばアルミラミネートである。
【0054】
<2.非水電解質リチウムイオン二次電池の製造方法>
次に、非水電解質リチウムイオン二次電池の製造方法について説明する。
(帯状正極の製造方法)
帯状正極30は、例えば、以下の方法により作製される。すなわち、正極活物質層の材料を有機溶媒や水に分散させることで正極合剤スラリーを形成し、この正極合剤スラリーを集電体上に塗工する。これにより、塗工層が形成される。ついで、塗工層を乾燥する。ついで、乾燥した塗工層を正極集電体30bとともに圧延する。これにより、帯状正極30が作製される。
【0055】
(帯状負極の製造方法)
帯状負極10は、例えば、以下の方法により作製される。すなわち、負極活物質層の材料を水に分散させることで負極合剤スラリーを形成し、この負極合剤スラリーを集電体上に塗工する。これにより、塗工層を形成する。ついで、塗工層を乾燥する。負極合剤スラリー中では、フッ素樹脂微粒子及びエラストマー系高分子の微粒子が負極活物質層10a内に分散している。ついで、乾燥した塗工層を負極集電体10bとともに圧延する。これにより、帯状負極10が作製される。
【0057】
帯状セパレータ20は、以下の方法により作製される。すなわち、接着層20aの材料を水に分散、溶解させることで接着層合剤スラリーを作成する。ついで、この接着層合剤スラリーを帯状多孔質膜20cの両面のうち、少なくとも一方の表面に塗工することで塗工層を形成する。ついで、この塗工層を乾燥する。これにより、接着層20aが形成される。すなわち、帯状セパレータ20が作製される。
【0058】
(巻回素子及び電池の製造方法)
ついで、帯状負極10、帯状セパレータ20、帯状正極30、及び帯状セパレータ20をこの順で積層することで電極積層体100aを作製する。ついで、電極積層体100aを巻回する。これにより、電極積層体100aのある部分の表面(すなわち帯状セパレータ20)に電極積層体100aの他の部分の裏面(すなわち帯状負極10)が接触する。これにより、巻回素子100が作製される。ついで、巻回素子100を押しつぶすことで扁平状の巻回素子100を作製する。ついで、扁平状の巻回素子100を非水電解液とともに外装体(例えばラミネートフィルム)に挿入し、外装体を封止することで、リチウムイオン二次電池を作製する。なお、外装体を封止する際には、各集電体に導通する端子を外装体の外部に突出させる。
【実施例】
【0059】
(実施例1)
(正極の作製)
コバルト酸リチウム、カーボンブラック、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を固形分の質量比96:2:2でN−メチルピロリドン中に溶解分散させることで正極合剤スラリーを作製した。ついで、正極合剤スラリーを厚さ12μmのアルミ箔集電体の両面に塗布後、乾燥した。乾燥後の塗工層を圧延することで正極活物質層を作製した。集電体及び正極活物質層の総厚は120μmであった。ついで、アルミリード線を電極端部に溶接することで帯状正極を得た。
【0060】
(負極の作製)
黒鉛、変性SBR微粒子の水分散体、PVDF水分散体中でアクリル樹脂を重合させて複合化したフッ素樹脂含有高分子微粒子の水分散体、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を固形分の質量比97:1:1:1で水溶媒中に溶解分散させることで、負極合剤スラリーを作製した。ついで、この負極合剤スラリーを厚さ10μmの銅箔集電体の両面に塗布後、乾燥した。乾燥後の塗工層を圧延することで負極活物質層を得た。集電体及び負極活物質層の総厚は120μmであった。その後、ニッケルリード線を端部に溶接することで帯状負極を得た。なお、本実施例で使用したフッ素樹脂含有微粒子の平均粒子径をレーザ回折法で測定したところ、300nm程度であった。また、フッ素樹脂含有微粒子をSEMで観察したところ、球状粒子であった。
【0061】
(セパレータの作製)
PVDF水分散体中でアクリル樹脂を重合させて複合化したフッ素樹脂含有高分子微粒子の水分散体とカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩と結着剤のポリエチレンアイオノマー微粒子の水分散体を固形分95:1:4で水溶媒中に溶解分散させることで接着層合剤スラリーを作製した。ついで、この接着層合剤スラリーを厚さ12μmの多孔質ポリエチレンセパレータフィルムの両面に塗布、乾燥することで、両面に厚さ3μmの接着層が形成されたセパレータを得た。このときのフッ素樹脂含有高分子微粒子と結着剤であるポリエチレンアイオノマー微粒子との体積比は、約18:1であった。
【0062】
(巻回素子の作製)
負極、セパレータ、正極、セパレータをこの順に積層し、直径3cmの巻き芯を用いて、この積層体を長手方向に巻きつけた。端部をテープにて固定した後、巻き芯を取り除き、厚さ3cmの2枚の金属プレートの間に円筒状電極巻回素子を挟み、3秒間保持することで、扁平状の電極巻回素子を得た。
【0063】
(厚み増加率の評価)
この電極巻回素子を48時間放置前後の素子の厚み増加率を計測し、形状安定性とした。厚み増加率が小さいほど形状安定性が良好なので(すなわち、巻回素子の歪みが小さいので)好ましい。厚み増加率は、48時間放置前後の素子の厚み増加量を放置前の素子の厚みで除算することで得られる。
【0064】
(電池の作製)
上記電極巻回素子をポリプロピレン/アルミ/ナイロンの3層からなるラミネートフィルムに、2本のリード線が外に出るように電解液とともに減圧封止することで、電池を作製した。電解液には、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネートを3対7(体積比)で混合した溶媒に1MのLiPF
6を溶解させたものを使用した。この電池を80℃に加熱した厚さ3cmの2枚の金属プレートの間に挟み、5分間保持した。この電池を設計容量の1/10CA(1CAは1時間放電率)で4.4Vまで定電流充電行い、引き続き4.4Vで1/20CAになるまで定電圧充電を行った。その後1/2CAで3.0Vまで定電流放電を行った。このときの容量を初期放電容量とし、寿命評価用電池を作製した。
【0065】
(寿命試験)
作製した電池を0.5CA、4.4Vの定電流充電、0.05CAまでの定電圧充電、の充電工程と、0.5CA、3.0Vの定電流放電の放電工程を繰り返すサイクル試験を行い、100サイクル後の初期放電容量に対する放電容量の減少率(維持率)を計測し、寿命性能評価とした。放電容量の減少率が小さいほど寿命特性に優れているおり、好ましい。維持率は、100サイクル後の放電容量を初期放電容量で除算することで得られる。
【0066】
(実施例2)
負極の製造において、黒鉛、変性SBR微粒子の水分散体、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を固形分の質量比97:2:1で水溶媒中に溶解分散させることで負極合剤スラリーを作製したこと、セパレータの製造において、PVDF水分散体中でアクリル樹脂を重合させて複合化したフッ素樹脂含有高分子微粒子の水分散体、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩、結着剤のポリエチレンアイオノマー微粒子の水分散体を固形分の質量比89:1:10で水溶媒中に溶解分散させることで接着層合剤スラリーを作製したこと以外は実施例1と同様の処理を行った。なお、実施例2におけるフッ素樹脂含有高分子微粒子と結着剤であるポリエチレンアイオノマー微粒子の体積比は、約7:1であった。
【0067】
(実施例3)
セパレータの製造において、平均粒子径0.5μmのアルミナ粉末、PVDF水分散体中でアクリル樹脂を重合させて複合化したフッ素樹脂含有高分子微粒子の水分散体、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩、結着剤のポリエチレンアイオノマー微粒子の水分散体を固形分の質量比62:27:1:10で水溶媒中に溶解分散させることで接着層合剤スラリーを作製したこと以外は実施例1と同様の処理を行った。実施例3におけるフッ素樹脂含有高分子微粒子と結着剤であるポリエチレンアイオノマー微粒子の体積比は、約2:1であった。なお、アルミナ粉末の平均粒子径は、レーザ回折法によって測定された体積累積50%(D50)である。
【0068】
(比較例1)
セパレータ製造において、PVDFをN−メチルピロリドンに溶解させた溶液を、厚さ12μmの多孔質ポリエチレンフィルムの両面に塗布し、溶液が塗布されたフィルムを水中に浸漬させた後乾燥することで、フィルムの両面に網目状に多孔質化した接着層を形成した。接着層の厚さは3μmであった。比較例1は、このフィルムをセパレータとしたことは実施例1と同様の処理を行った。
【0069】
(比較例2)
セパレータの製造において、平均粒子径0.5μmのアルミナ粉末、PVDF水分散体中でアクリル樹脂を重合させて複合化したフッ素樹脂含有高分子微粒子の水分散体、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩、結着剤のポリエチレンアイオノマー微粒子の水分散体を固形分の質量比63:18:1:18で水溶媒中に溶解分散させることで接着層合剤スラリーを作製したこと以外は実施例1と同様の処理を行った。比較例2におけるフッ素樹脂含有高分子微粒子と結着剤であるポリエチレンアイオノマー微粒子の体積比は、約0.8:1であった。
【0070】
(比較例3)
セパレータの製造において、PVDF水分散体中でアクリル樹脂を重合させて複合化したフッ素樹脂含有高分子微粒子の水分散体に代えて架橋ポリスチレン微粒子を用いたこと以外は実施例2と同様の処理を行った。
【0071】
(評価)
評価結果を表1にまとめて示す。
【0072】
【表1】
【0073】
実施例1〜3では、いずれも厚み増加率が小さく、サイクル寿命も良好であった。とくに、無機粒子を含有する実施例3では、サイクル寿命が向上した。一方、比較例1は、フッ素樹脂含有高分子が粒子状ではなく網目状構造をしているため扁平型巻回素子の製造後の形状安定性が劣っていた。すなわち、比較例1の巻回素子は実施例の巻回素子よりも大きく歪んでいた。さらに、比較例1では、サイクル寿命も劣化しているが、この理由は扁平型巻回素子の歪みにあると考えられる。すなわち、比較例1の帯状セパレータは、実施例1〜3の帯状セパレータよりも滑り性が悪く、巻回素子を扁平状にする際に電極積層体同士の接触部分がうまく滑らなかった。この結果、巻回素子が歪んだ。そして、比較例1では、歪んだ巻回素子を用いて電池を作製している。このため、電池内で電極間距離が安定せず、サイクル寿命が低下したと考えられる。比較例2は、フッ素樹脂含有高分子よりも多い体積の結着剤を含有しており、サイクル容量維持率が実施例に比べて劣っている。フッ素樹脂含有高分子の代わりに粒子状架橋ポリスチレンを含有した比較例3は、同じくサイクル寿命特性に劣っている。
【0074】
以上により、本実施形態に係る巻回素子は、製造工程上で取り扱いやすいセパレータを用いて作製される。また、巻回素子は、その歪みを抑制し、かつ、非水電解質二次電池のサイクル寿命を向上させることができる。
【0075】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。