【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成24年度経済産業省「エネルギー使用合理化技術開発等(次世代自動車向け高効率モーター用磁性材料技術開発)(国庫債務負担行為に係るもの)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定の回転軸(P)の周りで回転し、前記回転軸に対する周方向において永久磁石(31)と軟磁性体(32)とが交互に配列され、前記回転軸の一方側において前記永久磁石の全てが第1の極性の磁極面を呈し、前記回転軸の他方側において前記永久磁石の全てが前記第1の極性とは異なる第2の極性の磁極面を呈する回転子(3)と、
前記回転軸の前記一方側から前記回転子に対向し、第1電機子巻線(13)と、前記第1電機子巻線が巻回されて前記周方向に配列される第1ティース(11)の複数と、前記回転子とは反対側で前記第1ティース同士を磁気的に短絡させる第1バックヨーク(12)とを有し、前記第1電機子巻線に交流電流が流れて前記回転子に対して第1回転磁界を供給する第1固定子(1)と、
前記回転軸の前記他方側から前記回転子に対向し、第2電機子巻線(23)と、前記第2電機子巻線が巻回されて前記周方向に配列される第2ティース(21)の複数と、前記回転子とは反対側で前記第2ティース同士を磁気的に短絡させる第2バックヨーク(22)とを有し、前記第2電機子巻線に交流電流が流れて前記回転子に対して第2回転磁界を供給する第2固定子(2)と、
前記回転軸の周りに配置され、前記回転軸に沿って磁界を発生させる界磁巻線(40,41,42)と
を備え、
前記第1固定子(1)はその内縁に第1短絡用環(14)を更に有し、
前記第2固定子(2)はその内縁に第2短絡用環(24)を更に有し、
前記第1短絡用環と前記第2短絡用環とは、前記界磁巻線の径方向内側で磁気的に短絡し、
前記第1バックヨークと前記第2バックヨークとは磁気的に短絡される、アキシャルギャップ形モータ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
他方、モータの用途によっては、例えばインホイールモータとして、その回転軸方向に扁平なモータが望まれる場合がある。かかる観点では、固定子たる電機子と、回転子たる界磁子とが回転軸方向において対向する、アキシャルギャップ形モータが適している。
【0007】
永久磁石の性能を維持して主界磁磁束を多く得るためには、永久磁石の磁極面を広く採ることが必要となる。しかしアキシャルギャップ形モータで磁極面を広く採ることは径方向の寸法の制限がある場合には困難であり、かかる制限はしばしば要求される。
【0008】
かかる事情からも、アキシャルギャップ形モータにおいて副界磁磁束を得るための界磁巻線を設けることが望ましい。そして上述のように、アキシャルギャップ形モータにおいて界磁巻線を設けるとき、ラジアルギャップ形モータと比較して、副界磁磁束が主界磁磁束に対する強め界磁として機能することが期待される。
【0009】
しかしながら、従来採用されていたアキシャルギャップ形モータの構成において、単に界磁巻線を設けるだけでは、固定子が有する電機子コアが形成する磁気回路が容易に飽和する。つまり従来の構成は、界磁巻線を設けることによる広範囲な運転領域には適していなかった。
【0010】
そこでこの発明は、界磁巻線を用いたアキシャルギャップ形モータにおいて、広範囲な運転領域に適した固定子(電機子)や回転子(界磁子)の形態を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明にかかるアキシャルギャップ形モータは、第1固定子(1)と、第2固定子(2)と、回転子(3)と、界磁巻線(40,41,42)とを備える。
【0012】
そし
て前記回転子は、所定の回転軸(P)の周りで回転し、前記回転軸に対する周方向において永久磁石(31)と軟磁性体(32)とが交互に配列され、前記回転軸の一方側において前記永久磁石の全てが第1の極性の磁極面を呈し、前記回転軸の他方側において前記永久磁石の全てが前記第1の極性とは異なる第2の極性の磁極面を呈する。
【0013】
そして前記第1固定子は、前記回転軸の前記一方側から前記回転子に対向し、第1電機子巻線(13)と、前記第1電機子巻線が巻回されて前記周方向に配列される第1ティース(11)の複数と、前記回転子とは反対側で前記第1ティース同士を磁気的に短絡させる第1バックヨーク(12)とを有し、前記第1電機子巻線に交流電流が流れて前記回転子に対して第1回転磁界を供給する。
【0014】
そして前記第2固定子は、前記回転軸の前記他方側から前記回転子に対向し、第2電機子巻線(23)と、前記第2電機子巻線が巻回されて前記周方向に配列される第2ティース(21)の複数と、前記回転子とは反対側で前記第2ティース同士を磁気的に短絡させる第2バックヨーク(22)とを有し、前記第2電機子巻線に交流電流が流れて前記回転子に対して第2回転磁界を供給する。
【0015】
そして前記界磁巻線は、前記回転軸の周りに配置され、前記回転軸に沿って磁界を発生させる。
前記第1バックヨークと前記第2バックヨークとは磁気的に短絡される。
【0016】
そしてその第1の態様では、前記第1固定子(1)はその内縁に第1短絡用環(14)を更に有し、前記第2固定子(2)はその内縁に第2短絡用環(24)を更に有する。前記第1短絡用と前記環第2短絡用環とは、前記界磁巻線の径方向内側で磁気的に短絡する。
【0017】
この発明にかかるアキシャルギャップ形モータの第2の態様
では、前記第1固定子(1)はその外縁に第1短絡用環(14)を更に有し、前記第2固定子(2)はその外縁に第2短絡用環(24)を更に有する。
【0018】
そして前記第1短絡用環と前記第2短絡用環とは、前記界磁巻線の径方向外側で磁気的に短絡する。
前記第1短絡用環(14)及び前記第2短絡用環(24)は電磁鋼板を巻回した鉄心である。
【0019】
この発明にかかるアキシャルギャップ形モータの第3の態様
では、前記第1固定子(1)はその内縁に第1短絡用環(14)を更に有し、前記第2固定子(2)はその内縁に第2短絡用環(24)を更に有する。
【0020】
そして前記第1短絡用
環と前記第2短絡用環とは、前記界磁巻線の径方向内側で磁気的に短絡する。
【0021】
そして、前記第1短絡用環(14)及び前記第2短絡用環(24)は電磁鋼板を巻回した鉄心である。
【発明の効果】
【0022】
アキシャルギャップ形モータにおいて界磁巻線によって発生した磁界によって運転領域を拡げることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
第1の実施の形態.
図1は第1の実施の形態にかかるアキシャルギャップ形モータの構成を示す斜視図である。構造の理解を容易にするため、回転電機を回転軸Pに沿って分解して示している。但し、モータの分野の通常の技術知識を有する者であれば、当該アキシャルギャップ形モータの構造を
図1から認識することができる。
【0025】
当該アキシャルギャップ形モータは固定子たる電機子1,2と、回転子たる界磁子3と、界磁巻線41,42を備える。電機子1,2が供給する回転磁界と、主界磁磁束と、副界磁磁束とによって界磁子3は回転軸Pの周りで回転する。
【0026】
電機子1は回転軸Pの一方側(
図1では上側)から界磁子3に、電機子2は回転軸Pの他方側(
図1では下側)から界磁子3に、それぞれいわゆるエアギャップと称される空隙を空けて対向する。
【0027】
界磁子3は保持体30と、永久磁石31と、軟磁性体32とを有する。永久磁石31は、減磁を考慮しなければ大きさが一定となる、主界磁磁束を供給する。
【0028】
永久磁石31と軟磁性体32とは、回転軸Pに対する周方向において交互に配列される。本実施の形態では永久磁石31と軟磁性体32とはそれぞれ10個設けられる場合を例示する。
【0029】
保持体30は非磁性であり、外環33、内環34、隔壁35を有している。隔壁35は永久磁石31と軟磁性体32との間に位置してこれらを周方向で保持する。外環33は回転軸Pの径方向の外側から、内環34は回転軸Pの径方向の内側から、それぞれ永久磁石31と軟磁性体32を保持する。
【0030】
図2は界磁子3の構成の一部を示す斜視図である。ここでは当該構成を視認し易くするため、周方向において192°で拡がる部分を除去して示した。これにより、図面左側には永久磁石31の断面が、図面右側には軟磁性体32の断面が、それぞれ現れている。
【0031】
図3は当該アキシャルギャップ形モータの構成を例示する断面図である。当該断面は回転軸Pを含み、回転軸Pに平行な面であり、かつ永久磁石31が現れる位置にある。
【0032】
回転軸Pの一方側において永久磁石31の全てが第1の極性の磁極面を呈する。回転軸Pの他方側において永久磁石31の全てが第1の極性とは異なる第2の極性の磁極面を呈する。例えば第1の極性及び第2の極性は、それぞれN極とS極である。
【0033】
外環33には丸い形状が周方向に並んで示されている。これは保持体30が、その厚み方向(
図1に即して言えば回転軸Pに沿った方向)に積層された電磁鋼板で構成されるときの、締結部位を例示する。
【0034】
内環34には回転シャフトが挿入され、かつ固定される。
図1、
図2、
図3では回転シャフトは省略される。当該回転シャフトは界磁子3の回転と共に回転する。
【0035】
電機子1は、ティース11と、バックヨーク12と、電機子巻線13とを備える。ティース11は環状に複数設けられる。ティース11には電機子巻線13が巻回される。バックヨーク12は界磁子3とは反対側でティース11を磁気的に短絡させる。
【0036】
例えばティース11はバックヨーク12に対して貫通する底部を有しており、
図1ではその底部が現れている。
【0037】
バックヨーク12は回転軸Pにおいて内環34と対向する位置に孔10が空いている。回転シャフト(不図示)が孔10において回転可能に挿入される。電機子巻線13には交流電流が流れ、界磁子3に対して回転磁界を供給する。
【0038】
電機子2は、ティース21と、バックヨーク22と、電機子巻線23とを備える。ティース21は環状に複数設けられる。ティース21には電機子巻線23が巻回される。バックヨーク22は界磁子3とは反対側でティース21を磁気的に短絡させる。バックヨーク22は回転軸Pにおいて内環34と対向する位置に孔20が空いている。回転シャフト(不図示)が孔20において回転可能に挿入される。電機子巻線23には交流電流が流れ、界磁子3に対して回転磁界を供給する。
【0039】
本実施の形態ではティース11,21のいずれもが24個設けられる場合を例示する。
【0040】
電機子1はその外縁に短絡用環14を、電機子2はその外縁に短絡用環24を、それぞれ更に備える。短絡用環14,24は
図1では回転軸Pに沿って離れて示されるが、実際のアキシャルギャップ形モータでは両者は接触して短絡する。
【0041】
短絡用環14,24はバックヨーク12,22同士を磁気的に短絡させるためのものであるので、必ずしも両者の接触を前提とはしない。
【0042】
また当該アキシャルギャップ形モータのケースがバックヨーク12,22をその径方向外側から保持する場合、当該ケースによって両者を磁気的に短絡してもよい。この場合、短絡用環14,24は省略可能である。
【0043】
本実施の形態において、界磁巻線41は周方向に配置された一群の電機子巻線13よりも径方向外側に設けられ、短絡用環14よりも回転軸P寄りに配置される。界磁巻線42は周方向に配置された一群の電機子巻線23よりも径方向外側に設けられ、短絡用環24よりも回転軸P寄りに配置される。換言すれば短絡用環14,24は界磁巻線41,42の径方向外側で磁気的に短絡する。
【0044】
界磁巻線41,42に電流が流れることにより、回転軸Pに沿って磁界を発生させる。当該磁界によって副界磁磁束が得られるので、以下では簡単に、界磁巻線41,42によって副界磁磁束が発生する、との表現を採用する。
【0045】
但し、界磁巻線41,42によって発生する副界磁磁束は、回転軸Pに沿った方向において同じ向きである。よって界磁巻線41,42は一対設ける必要はない。
図4では本実施の形態の変形として、界磁巻線41,42に代えて一つの界磁巻線40を設けたときの断面図を示す。
【0046】
なお、電機子巻線13,23及び界磁巻線40,41,42は、これを構成する導線の一本一本を指すのではなく、導線が一纏まりに巻回された態様を指す。これは図面においても同様である。また、巻き始め及び巻き終わりの引き出し線、及びそれらの結線も図面においては省略した。
【0047】
図5は界磁子3の、隔壁35が存在する径方向の位置での周方向の断面を展開した図であり、電機子巻線13,23が省略される。
【0048】
図3、
図4及び
図5では主界磁磁束φmの流れと、副界磁磁束φaの流れとを、模式的に示している。
【0049】
主界磁磁束φmは、ティース11,21、バックヨーク12,22を介して、永久磁石31と軟磁性体32との間を流れる。これにより軟磁性体32は主界磁磁束φmによって着磁される。
【0050】
他方、副界磁磁束φaの大部分は、ティース11,21、バックヨーク12,22及び短絡用環14,24を介して、軟磁性体32を流れる。これにより、軟磁性体32は副界磁磁束φaの大部分によっても着磁される。
【0051】
即ち、軟磁性体32は、主界磁磁束φmと副界磁磁束φaの大部分とによって着磁され、誘発された磁極(以下「軟磁性極」と仮称)として機能する。よって副界磁磁束φaの大きさや向きを変えることにより、軟磁性極の強さは増減する。副界磁磁束φaは短絡用環14,24に流れる電流によって制御されるので、当該電流によって界磁子3に対して弱め界磁、あるいは強め界磁を施すことができる。
【0052】
図3、
図4,
図5で示された態様では、軟磁性体32に流れる主界磁磁束φmと副界磁磁束φaとは、向きが反対なので、弱め界磁が施されている場合に対応する。
【0053】
従来のアキシャルギャップ形モータの構造は、短絡用環14,24や軟磁性体32が設けられず、永久磁石31がその極性を交互に反転して周方向に配置される。よって、ティース11は主界磁磁束φmによって飽和しやすくなっており、副界磁磁束φaによる磁界が界磁子3を通りにくくなっている。つまり副界磁磁束φaによる強め磁束には適していない。
【0054】
これに対して、本実施の形態の構造では、短絡用環14,24や軟磁性体32が設けられており、副界磁磁束φaがこれらの間を流れやすい。よって副界磁磁束φaによる強め磁束にも適している。
【0055】
なお、
図3に示されるように、永久磁石31には副界磁磁束φaが流れ得る。しかしながら永久磁石31は硬磁性体で形成され、その透磁率が小さい。よって、副界磁磁束φaの大部分は、磁気抵抗が小さい軟磁性体32を経由する。これにより、永久磁石31に流れる副界磁磁束φaは小さい。よって強め界磁であっても弱め界磁であっても、永久磁石31近傍におけるティース11が受ける影響は小さい。
【0056】
また強め界磁が施される場合においても、永久磁石31に印加される逆方向の磁界は小さい。しかも、通常、界磁子3に採用される永久磁石31の保磁力は大きい。よって永久磁石31における減磁の程度は低い。
【0057】
よって本実施の形態にかかる構成によれば、アキシャルギャップ形モータにおいて界磁巻線41,42(あるいは界磁巻線40)を用いた副界磁磁束φ
aによって運転領域を拡げることができる。
【0058】
第2の実施の形態.
図6は第2の実施の形態にかかるアキシャルギャップ形モータの構成を示す斜視図である。
図1と同様に、構造の理解を容易にするため、回転電機を回転軸Pに沿って分解して示している。また回転シャフト5をも図示した。
【0059】
本実施の形態では、短絡用環14は電機子1の内縁に備えられ、短絡用環24は電機子2の内縁に備えられる。
【0060】
界磁巻線41は周方向に配置された一群の電機子巻線13よりも径方向内側に設けられ、短絡用環14は界磁巻線41よりも回転軸P側に配置される。界磁巻線42は周方向に配置された一群の電機子巻線23よりも径方向内側に設けられ、短絡用環24は界磁巻線42よりも回転軸P側に配置される。換言すれば短絡用環14,24は界磁巻線41,42の径方向内側で磁気的に短絡する。
【0061】
回転シャフト5は内環34に挿入され、かつ固定される。回転シャフト5は孔10,20のみならず短絡用環14,24において回転可能に挿入される。
【0062】
図7は当該アキシャルギャップ形モータの構成を例示する断面図である。当該断面は回転軸Pを含み、回転軸Pに平行な面であり、かつ永久磁石31が現れる位置にある。
【0063】
第1の実施の形態と同様にして主界磁磁束φmが流れ、副界磁磁束φaが短絡用環14,24を流れて軟磁性体32を着磁する。よって第1の実施の形態と同様にして強め界磁、弱め界磁を実現しやすく、界磁巻線41,42を用いた副界磁磁束φ
aによって運転領域を拡げることができる。
【0064】
変形1.
上記いずれの実施の形態においても、短絡用環14,24としては、電磁鋼板を巻回した鉄心を採用することができる。かかる鉄心は軸方向において磁気抵抗が小さいためバックヨーク12,22同士の磁気的な短絡に適している。
【0065】
変形2.
実施の形態2において、回転シャフト5として軟磁性体を採用することにより、短絡用環14,24を省略することができる。回転シャフト5がバックヨーク12,22同士の磁気的な短絡経路として機能するからである。
【0066】
適用.
上述の実施の形態、変形はアキシャルギャップ形モータにおいて構成される。よってこれらは、例えばインホイールモータなど、自動車用モータに適用することができる。