特許第6282647号(P6282647)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アルバックの特許一覧

<>
  • 特許6282647-素子構造体及びその製造方法 図000002
  • 特許6282647-素子構造体及びその製造方法 図000003
  • 特許6282647-素子構造体及びその製造方法 図000004
  • 特許6282647-素子構造体及びその製造方法 図000005
  • 特許6282647-素子構造体及びその製造方法 図000006
  • 特許6282647-素子構造体及びその製造方法 図000007
  • 特許6282647-素子構造体及びその製造方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6282647
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】素子構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/04 20060101AFI20180208BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20180208BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   H05B33/04
   H05B33/14 A
   H05B33/10
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-521279(P2015-521279)
(86)(22)【出願日】2014年5月21日
(86)【国際出願番号】JP2014002661
(87)【国際公開番号】WO2014196137
(87)【国際公開日】20141211
【審査請求日】2015年12月2日
(31)【優先権主張番号】特願2013-120814(P2013-120814)
(32)【優先日】2013年6月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100170346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 望
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】岡 正
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕子
(72)【発明者】
【氏名】矢島 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】松本 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】金井 庄太
(72)【発明者】
【氏名】村田 康明
【審査官】 小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−222070(JP,A)
【文献】 特開2005−100685(JP,A)
【文献】 特開2007−311219(JP,A)
【文献】 特開2006−222071(JP,A)
【文献】 特開2007−287660(JP,A)
【文献】 特開2013−016372(JP,A)
【文献】 特開2004−079291(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0158108(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50 − 51/56
H01L 27/32
H05B 33/00 − 33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面と、前記第1の面とは反対側の第2の面とを有する基体と、
前記第1及び第2の面のうち少なくとも前記第1の面に配置されるデバイス層と、
前記第1の面に形成され、前記デバイス層を被覆する第1の無機材料層で構成される凸部と、
前記凸部の周囲に偏在する第1の樹脂材と
を具備し、
前記第1の樹脂材は、前記凸部の側面と前記第1の面との境界部である第1の境界部に形成された間隙を充填する有機材料で構成される
素子構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の素子構造体であって、
記第1の樹脂材と前記第1の無機材料層とを被覆する第2の無機材料層をさらに具備する
素子構造体。
【請求項3】
請求項2に記載の素子構造体であって、
前記第1の無機材料層と前記第2の無機材料層との間に介在し、前記第1の樹脂材とは独立して前記凸部の表面に偏在する第2の樹脂材をさらに具備する
素子構造体。
【請求項4】
請求項2に記載の素子構造体であって、
前記凸部の表面と前記凸部の表面に付着したパーティクルとの境界部である第2の境界部を充填する第2の樹脂材をさらに具備する
素子構造体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の素子構造体であって、
前記第1の樹脂材は、前記第1の境界部に沿って連続的に設けられる
素子構造体。
【請求項6】
請求項5に記載の素子構造体であって、
前記第1の境界部における前記凸部の側面と前記第1の面とのなす角は90°未満であり、
前記第1の境界部は、前記第1の樹脂材で充填される
素子構造体。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の素子構造体であって、
前記第1の無機材料層は、シリコン化合物で構成される
素子構造体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の素子構造体であって、
前記第1の樹脂材は、アクリル樹脂及びポリウレア樹脂のいずれかで構成される
素子構造体。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の素子構造体であって、
前記デバイス層は、有機発光層を含む
素子構造体。
【請求項10】
基板の表面に設けられたデバイス層を被覆する第1の無機材料層で構成された凸部を形成し、
前記基板の表面に液状の有機材料を供給し、前記凸部の側面と前記基板の表面との境界部に前記有機材料を凝集させ、
前記基板の表面に、前記凸部及び前記有機材料を被覆する第2の無機材料層を形成する
素子構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素、水分等からデバイス等を保護する積層構造を有する素子構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水分あるいは酸素等により劣化しやすい性質を有する化合物を含む素子として、例えば有機EL(Electro Luminescence)素子等が知られている。このような素子については、当該化合物を含む層を被覆する保護層との積層構造を形成することによって、素子内への水分等の侵入を抑制する試みがなされている。例えば下記特許文献1には、上部電極層の上に、無機膜と有機膜との積層膜で構成された保護膜を有する発光素子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−73880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、水蒸気等のバリア性を有する無機膜のカバレッジ性は比較的低く、デバイス層を有する基板表面に凹凸があると、当該凹凸を十分に被覆することができず、例えば凹凸の境界部に被覆不良が生じるおそれがある。無機膜の被覆不良が発生すると、そこからの水分の侵入を阻止することができなくなるため、十分なバリア性を確保することが困難となる。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、水蒸気等のバリア性を高めることができる素子構造体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る素子構造体は、基体と、デバイス層と、凸部と、第1の樹脂材とを具備する。
上記基体は、第1の面と、上記第1の面とは反対側の第2の面とを有する。
上記デバイス層は、上記第1及び第2の面のうち少なくとも上記第1の面に配置される。
上記凸部は、上記第1の面に形成される。
上記第1の樹脂材は、上記凸部の周囲に偏在する。
【0007】
本発明の一形態に係る素子構造体の製造方法は、基板の表面に設けられたデバイス層を被覆する第1の無機材料層で構成された凸部を形成することを含む。
上記基板の表面に液状の有機材料が供給され、上記凸部の側面と上記基板の表面との境界部に前記有機材料が凝集させられる。
上記基板の表面に、上記凸部及び上記有機材料を被覆する第2の無機材料層が形成される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1の実施形態に係る素子構造体を示す概略断面図である。
図2】上記素子構造体の平面図である。
図3】上記素子構造体の要部の拡大断面図である。
図4】上記素子構造体における第1の樹脂材の形成方法を説明する工程図である。
図5】上記素子構造体の構成の変形例を示す概略断面図である。
図6】本発明の第2の実施形態に係る素子構造体を示す概略断面図である。
図7】上記第1の実施形態に係る素子構造体の構成の変形例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態に係る素子構造体は、基体と、デバイス層と、凸部と、第1の樹脂材とを具備する。
上記基体は、第1の面と、上記第1の面とは反対側の第2の面とを有する。
上記デバイス層は、上記第1及び第2の面のうち少なくとも上記第1の面に配置される。
上記凸部は、上記第1の面に形成される。
上記第1の樹脂材は、上記凸部の周囲に偏在する。
【0010】
上記素子構造体においては、デバイス層が配置される基体表面(第1の面)に形成された凸部の周囲に第1の樹脂材が偏在しているため、凸部の周囲からの水分等の侵入を抑制することができる。また、第1の樹脂材が凸部の周囲に偏在しているため、凸部によるデバイス層側面の被覆不良が生じているような場合でも当該被覆不良部を第1の樹脂材で被覆することが可能となる。
【0011】
上記基体の材料や形態は特に限定されず、ガラスや半導体等で構成された基板でもよいし、プラスチックや金属等で構成されたフィルムでもよい。上記凸部は、デバイス層を含んでもよいし、デバイス層を被覆するように形成されてもよい。凸部がデバイス層を含む構成には、凸部がデバイス層を含む積層体や、デバイス層の一部が凸部の表面に露出する構造体等が含まれる。凸部は、デバイス層の側面を被覆するように形成されてもよいし、デバイス層の上面に複数形成されてもよい。
【0012】
上記凸部は、上記デバイス層を被覆する第1の無機材料層で構成されてもよい。そして上記素子構造体は、上記第1の樹脂材と上記第1の無機材料層とを被覆する第2の無機材料層をさらに具備してもよい。
【0013】
第1の無機材料層は、デバイス層の表面及び側面を被覆するように基体の表面(第1の面)に設けられる。第1の無機材料層は、典型的には、シリコン窒化物、シリコン酸化物、シリコン酸窒化物、酸化アルミニウム等のような水蒸気バリア性を有する無機材料で構成される。第1の無機材料層は、典型的には、スパッタリング法やALD法、CVD法等で成膜されるが、そのカバレッジ性は比較的低いため、例えばデバイス層の側面と基体の表面との境界部を適正に被覆することができない場合がある。しかし本実施形態においては、凸部の周囲、すなわちデバイス層側面と基体表面との境界部に第1の樹脂材が偏在しているため、当該境界部を第1の樹脂材によって適正に被覆することができる。
【0014】
第2の無機材料層は、典型的には、シリコン窒化物、シリコン酸化物、シリコン酸窒化物、酸化アルミニウム等のような水蒸気バリア性を有する無機材料で構成される。第2の無機材料層は、典型的には、スパッタリング法やALD法、CVD法等で成膜される。このとき第2の無機材料層は、上記境界部に偏在した第1の樹脂材の上に堆積することになるため、凸部に対する第2の無機材料層の被覆性が高められる。これにより素子内部への酸素、水分等の侵入を抑制することができる素子構造体を構成することが可能となる。

【0015】
第1の樹脂材の形成方法は特に限定されず、典型的には、噴霧法、スピンコート法、蒸着法等の適宜のコーティング法によって液状、ガス状又はミスト状の有機材料が基体表面に塗布される。塗布直後の有機材料は、毛細管現象により微細な隙間に入り込み、あるいは、それ自身の表面張力によって滴状化あるいは凝集化することで、凸部側面と基体表面との境界部に偏在する。その後、当該有機材料を硬化させることによって、凸部の周囲すなわち上記境界部に上記第1の樹脂材を形成することができる。
【0016】
第1の樹脂材を構成する有機材料は特に限定されず、典型的には、それ自身の表面張力によって基体上で滴状化し、凝集し、基体上を移動して凸部の周囲に偏在し得る材料が用いられる。例えば、有機材料としては例えばアクリル樹脂、ポリウレア樹脂等が用いられる。また紫外線等のエネルギー線の照射により硬化する有機材料を用いることで、樹脂の硬化処理を容易に行うことができる。有機材料の塗布条件も特に限定されないが、有機材料の滴状化を妨げないように、あるいは有機材料の膜が形成されないように塗布量を制限することが好ましい。また必要に応じて、凸部周囲への有機材料の移動を促進するため、基体を傾けたり、基体に振動等を加えたりしてもよい。
【0017】
上記素子構造体は、第2の樹脂材をさらに具備してもよい。上記第2の樹脂材は、上記第1の無機材料層と上記第2の無機材料層との間に介在し、上記第1の樹脂材とは独立して上記凸部の表面に偏在する。
第1の無機材料層の表面は必ずしも平坦ではなく、例えば成膜時においてパーティクル等が膜中に混入することで凹凸が形成される場合がある。第1の無機材料層にパーティクルが混入すると、デバイス層に対する第1の無機材料層のカバレッジ性が低下し所期のバリア特性が得られなくなるおそれがある。
そのため上記素子構造体は、パーティクルの混入等により生じた第1の無機材料層の被覆不良部に第2の樹脂材が充填された構造を有する。典型的には、第1の樹脂材は、第1の無機材料層の表面とパーティクルの周面との境界部に偏在する。これにより、デバイス層の被覆性が高まるとともに、第2の樹脂材が下地として機能することで第2の無機材料層の適正な成膜が可能となる。
【0018】
第2の樹脂材は、第1の樹脂材と同様な方法で形成される。第2の樹脂材は、第1の樹脂材と同一の有機材料で構成されてもよい。この場合、第1の樹脂材と第2の樹脂材とを同一工程において同時に形成することができる。この場合、凸部側面と基体表面との境界部に偏在する有機材料が第1の樹脂材を構成し、凸部の表面に偏在する有機材料が第2の樹脂材を構成する。
【0019】
本発明の一実施形態に係る素子構造体の製造方法は、基板の表面に設けられたデバイス層を被覆する第1の無機材料層で構成された凸部を形成することを含む。
上記基板の表面に液状の有機材料が供給され、上記凸部の側面と上記基板の表面との境界部に前記有機材料が凝集させられる。
上記基板の表面に、上記凸部及び上記有機材料を被覆する第2の無機材料層が形成される。
【0020】
上記製造方法において、基板表面に塗布された有機材料は、毛細管現象により微細な隙間に入り込み、更にはそれ自身の表面張力によって滴状化あるいは凝集化することで、凸部周面と基板表面との境界部に偏在する。その後、当該有機材料を硬化させることによって上記境界部に有機材料の凝集体(樹脂材)を形成することができる。したがって第2の無機材料層は、上記境界部に偏在した樹脂材の上に堆積することになるため、凸部に対する第2の無機材料層の被覆性が高められる。これにより素子内部への酸素、水分等の侵入を抑制することができる素子構造体を製造することが可能となる。
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0022】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の一実施形態に係る素子構造体を示す概略断面図であり、図2はその平面図である。各図においてX軸、Y軸及びZ軸方向は相互に直交する3軸方向を示しており、本実施形態ではX軸及びY軸方向は相互に直交する水平方向、Z軸方向は鉛直方向を示している。
【0023】
本実施形態の素子構造体10は、デバイス層3を含む基板2(基体)と、基板2の表面2aに形成される第1の無機材料層41(凸部)と、第1の無機材料層41を被覆する第2の無機材料層42とを備える。本実施形態において素子構造体10は、有機EL発光層を有する発光素子で構成される。
【0024】
基板2は、表面2a(第1の面)と裏面2c(第2の面)とを有し、例えばガラス基板、プラスチック基板等で構成される。基板2の形状は特に限定されず、本実施形態では矩形状に形成される。基板2の大きさ、厚み等は特に限定されず、素子サイズの大きさに応じて適宜の大きさ、厚みのものが用いられる。本実施形態では、一枚の大型基板上に作製された同一素子の集合体から複数の素子構造体10が作製される。
【0025】
デバイス層3は、上部電極及び下部電極を含む有機EL発光層で構成される。これ以外にも、デバイス層3は、液晶素子における液晶層や発電素子における発電層等のような、水分、酸素等により劣化しやすい性質の材料を含む種々の機能素子で構成されてもよい。
【0026】
デバイス層3は、基板2の表面2aの所定領域に成膜される。デバイス層3の平面形状は特に限定されず、本実施形態では略矩形状に形成されるが、これ以外にも、円形状、線形状等で形成されてもよい。デバイス層3は、基板2の表面2aに配置される例に限られず、基板2の表面2a及び裏面2cのうち少なくとも一方の面に配置されていればよい。
【0027】
第1の無機材料層41は、デバイス層3が配置される基板2の面(本実施形態では表面2a)に設けられ、デバイス層3の表面3a及び側面3sを被覆する凸部を構成する。第1の無機材料層41は、基板2の表面2aから図中上方へ突出する立体構造を有する。
【0028】
第1の無機材料層41は、水分や酸素からデバイス層3を保護することが可能な無機材料で構成される。本実施形態において第1の無機材料層41は、水蒸気バリア特性に優れたシリコン窒化物(SiNx)で構成されるが、これに限られず、シリコン酸化物やシリコン酸窒化物等の他のシリコン化合物、あるいは酸化アルミニウム等の水蒸気バリア性を有する他の無機材料で構成されてもよい。
【0029】
第1の無機材料層41は、例えば適宜のマスクを用いて基板2の表面2aに成膜される。本実施形態では、デバイス層3を収容できる大きさの矩形開口部を有するマスクを用いて第1の無機材料層41が成膜される。成膜方法は特に限定されず、CVD(Chemical Vapor Deposition)法やスパッタリング法、ALD(Atomic Layer Deposition)法等が適用可能である。第1の無機材料層41の厚みは特に限定されず、例えば200nm〜2μmである。
【0030】
第2の無機材料層42は、第1の無機材料層41と同様に、水分や酸素からデバイス層3を保護することが可能な無機材料で構成され、第1の無機材料層41の表面41a及び側面41sを被覆するように基板2の表面2aに設けられる。本実施形態において第2の無機材料層42は、水蒸気バリア特性に優れたシリコン窒化物(SiNx)で構成されるが、これに限られず、シリコン酸化物やシリコン酸窒化物等の他のシリコン化合物、あるいは酸化アルミニウム等の水蒸気バリア性を有する他の無機材料で構成されてもよい。
【0031】
第2の無機材料層42は、例えば適宜のマスクを用いて基板2の表面2aに成膜される。本実施形態では、第1の無機材料層41を収容できる大きさの矩形開口部を有するマスクを用いて第2の無機材料層42が成膜される。成膜方法は特に限定されず、CVD(Chemical Vapor Deposition)法やスパッタリング法、ALD(Atomic Layer Deposition)法等が適用可能である。第2の無機材料層42の厚みは特に限定されず、例えば300nm〜1μmである。
【0032】
本実施形態の素子構造体10は、第1の樹脂材51をさらに有する。第1の樹脂材51は、第1の無機材料層41(凸部)の周囲に偏在する。本実施形態において第1の樹脂材51は、第1の無機材料層41と第2の無機材料層42との間に介在し、第1の無機材料層41の側面41sと基板2の表面2aとの境界部2bに偏在する。第1の樹脂材51は、境界部2b付近に形成された第1の無機材料層41と基板表面2aとの間の間隙G(図3)を充填する機能を有する。
【0033】
図3は、境界部2bの周辺構造を示す素子構造体10の要部拡大断面図である。第1の無機材料層41は、無機材料のCVD膜あるいはスパッタ膜で形成されるため、デバイス層3を含む基板2の凹凸構造面に対するカバレッジ性が比較的低い。その結果、図3に示すようにデバイス層3の側面3sを被覆する第1の無機材料層41は、基板表面2a付近でカバレッジ性が低下し、被覆膜厚が極度に小さいか、被覆膜が存在しない状態になるおそれがある。
【0034】
そこで本実施形態では、上述のような第1の無機材料層41周辺の被覆不良領域に第1の樹脂材51を偏在させることで、当該領域からデバイス層3内部への水分や酸素の侵入を抑制するようにしている。また第2の無機材料層42の成膜時には、第1の樹脂材51が第2の無機材料層42の下地層として機能することで、第2の無機材料層42の適正な成膜を可能とし、第1の無機材料層41の側面41sを所期の膜厚で適切に被覆することが可能となる。
【0035】
第1の樹脂材51の形成方法は特に限定されず、典型的には、噴霧法、スピンコート法、蒸着法等の適宜のコーティング法によって液状、ガス状又はミスト状の有機材料が基板表面2aに塗布される。図4A〜Cに第1の樹脂材51の形成方法を模式的に示す。
【0036】
まず図4Aに示すように例えば加熱気化させたミスト状の有機材料5aを基板2の表面2aに供給する。このとき基板2は例えば室温以下の温度に維持される。これによりミスト状の有機材料5aは、図4Bに示すように基板表面2aで滴状の有機材料5bに凝縮する。なお、有機材料の滴状化を妨げないように有機材料5aの供給量を制限することが好ましい。
【0037】
滴状化した有機材料5bは、毛細管現象により微細な隙間に入り込み、又は、それ自身の表面張力によって滴状化あるいは凝集しながら基板2上を移動し、図4Cに示すように第1の無機材料層41の側面41sと基板2の表面2aとの境界部2bに偏在する。その後、当該有機材料を硬化させることによって境界部2bに第1の樹脂材51が形成される。
【0038】
第1の樹脂材51は、境界部2bに沿って第1の無機材料層41の周囲に連続的に設けられてもよいし、第1の無機材料層41の周囲に間欠的に設けられてもよい。第1の樹脂材51が境界部2bに沿って連続的に設けられることで、デバイス層3に対する被覆性を高めることができる。
【0039】
本実施形態によれば、滴状の有機材料5bから第1の樹脂材51を形成するようにしているため、境界部2bにおける第1の無機材料層41の側面41sと基板2の表面2aとのなす角が90°未満である狭い間隙G(図3)内へも容易に樹脂材が浸透する。これにより境界部2bの間隙Gが第1の樹脂材51で充填され、デバイス層3に対する高い水蒸気バリア性を得ることができる。
【0040】
第1の樹脂材51を構成する有機材料は特に限定されず、典型的には、それ自身の表面張力によって基板2上で滴状化し、凝集し、基板上を移動して第1の無機材料層41の周囲に偏在し得る材料が用いられる。本実施形態ではアクリル樹脂が用いられ、更に詳しくは、アクリル系の紫外線硬化樹脂が用いられる。これにより境界部2bに偏在した有機材料を容易に硬化させることができる。
【0041】
第1の樹脂材51の形成後、基板2の表面2aに、第1の無機材料層41の表面41a及び側面41sを被覆する第2の無機材料層42が成膜される。第2の無機材料層42は、第1の無機材料層41の表面41aにおいては当該表面41a上に積層され、境界部2bにおいては第1の樹脂材51及び第1の無機材料層41の側面41s上に積層される。本実施形態によれば、第1の無機材料層41は、第2の無機材料層42と同一の材料で構成され、かつ第2の無機材料層42に接するため、第2の無機材料層42との密着性が高められる。
【0042】
硬化後の有機材料(樹脂材)は、境界部2bに偏在するものだけに限られず、例えば、境界部2b以外の基板表面2aや第1の無機材料層41の表面41a等に当該有機材料が残留していてもよい。この場合は、第2の無機材料層42は、図5に示すように第2の樹脂材52を介して第1の無機材料層41の上に積層される領域を有することになる。第2の樹脂材52は、第1の無機材料層41と第2の無機材料層42との間に介在し、第1の樹脂材51とは独立して第1の無機材料層41の表面41aに偏在する。この場合においても第1の無機材料層41と第2の無機材料層42との密着性を維持できるため、素子構造体10のバリア特性が損なわれることはない。
【0043】
以上のように本実施形態の素子構造体10によれば、デバイス層3の側面が第1の無機材料層41及び第2の無機材料層42により被覆されているため、デバイス層3への水分や酸素の侵入を防止することができる。
【0044】
また本実施形態によれば、境界部2bに第1の樹脂材51が偏在しているため、第1の無機材料層41あるいは第2の無機材料層42のカバレッジ不良に伴うバリア特性の低下を防止でき、長期にわたって安定した素子特性を維持することができる。
【0045】
<第2の実施形態>
図6は、本発明の第2の実施形態に係る素子構造体の構成を模式的に示す断面図である。以下、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、上述の実施形態と同様の構成については同様の符号を付しその説明を省略または簡略化する。
【0046】
本実施形態の素子構造体20は、第1の無機材料層41と第2の無機材料層42との間に介在する第2の樹脂材52をさらに有する。第2の樹脂材52は、第1の樹脂材51とは独立して第1の無機材料層41の表面に偏在する。
【0047】
第1の無機材料層41の表面は必ずしも平坦ではなく、例えば図6に示すように、成膜前(基板搬送時あるいは成膜装置への投入前)あるいは成膜時等においてパーティクルPが膜中に混入することで凹凸が形成される場合がある。第1の無機材料層41にパーティクルが混入すると、デバイス層3に対する第1の無機材料層41のカバレッジ性が低下し所期のバリア特性が得られなくなるおそれがある。
【0048】
そこで本実施形態に係る素子構造体20は、パーティクルPの混入等により生じた第1の無機材料層41の被覆不良部に第2の樹脂材52が充填された構造を有する。典型的には、第2の樹脂材52は、第1の無機材料層41の表面とパーティクルPの周面との境界部32bに偏在する。これにより、デバイス層3の被覆性が高まるとともに、第2の樹脂材52が下地として機能することで第2の無機材料層42の適正な成膜が可能となる。
【0049】
第2の樹脂材52は、第1の樹脂材51と同様な方法で形成される。第2の樹脂材52は、第1の樹脂材51と同一の有機材料で構成されてもよい。この場合、第1の樹脂材51と第2の樹脂材52とを同一工程において同時に形成することができる。このとき、滴状の有機材料が境界部2bに凝集することで第1の樹脂材51が形成され、同じく滴状の有機材料が境界部32bに凝集することで第2の樹脂材52が形成される。
【0050】
本実施形態においても上述の第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。また本実施形態によれば、パーティクルPの混入による膜質の低下を第2の樹脂材52によって補うことができるため、所期のバリア特性を確保しつつ生産性の向上を図ることができる。
【0051】
<第3の実施形態>
図7は、第3の実施形態に係る素子構造体を示す概略断面図である。以下、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、上述の実施形態と同様の構成については同様の符号を付しその説明を省略または簡略化する。
【0052】
本実施形態の素子構造体30は、デバイス層3を有する基板21と、デバイス層3の側面3sを被覆する凸部40と、凸部40及びデバイス層3を被覆するように基板21の表面に形成された第1の無機材料層41及び第2の無機材料層42を有する。
【0053】
凸部40は、基板21の表面21aに形成され、中央部にデバイス層3を収容する凹部40aを有する。本実施形態では、凹部40aの底面が基板21の表面21aよりも高い位置に形成されているが、表面21aと同一の高さ位置に形成されてもよいし、表面21aよりも低い位置に形成されてもよい。
【0054】
素子構造体30は、第1の無機材料層41と第2の無機材料層42との間に介在する樹脂材53(第1の樹脂材)をさらに有する。樹脂材53は、凸部40の外側面と基板21の表面21aとの境界部21bと、凸部40の内側面とデバイス層3との境界部22bとにそれぞれ偏在している。これにより凸部40及びデバイス層3の表面3aに対する第1及び第2の無機材料層41,42の被覆不良を抑制でき、バリア特性の向上を図ることができる。樹脂材53は、上述の第1、第2の樹脂材51,52と同様な方法で形成され、滴状の有機材料の表面張力を利用してそれぞれ上述の部位に樹脂材53を偏在させることができる。
【0055】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0056】
例えば以上の実施形態では、第1の無機材料層41を被覆する第2の無機材料層42は単一層で構成されたが、第2の無機材料層42は多層膜で構成されてもよい。この場合、各層の成膜毎に有機材料を基板上に供給して基板の凹凸部に偏在する樹脂材を形成してもよく、これによりバリア性の更なる向上を図ることができる。
【0057】
さらに以上の実施形態では、第1の無機材料層41の形成後に第1の樹脂材51を当該無機材料層41の周囲に偏在させたが、第1の無機材料層41の形成前に、デバイス層3の周囲に第1の樹脂材51を偏在させてもよい。これにより第1の無機材料層41によるデバイス層3の被覆効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0058】
2,21…基板
2b,21b,22b,32b…境界部
3…デバイス層
10,20,30…素子構造体
40…凸部
41…第1の無機材料層
42…第2の無機材料層
51,53…第1の樹脂材
52…第2の樹脂材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7