特許第6282735号(P6282735)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アルバックの特許一覧

<>
  • 特許6282735-PZT薄膜積層体の製造方法 図000003
  • 特許6282735-PZT薄膜積層体の製造方法 図000004
  • 特許6282735-PZT薄膜積層体の製造方法 図000005
  • 特許6282735-PZT薄膜積層体の製造方法 図000006
  • 特許6282735-PZT薄膜積層体の製造方法 図000007
  • 特許6282735-PZT薄膜積層体の製造方法 図000008
  • 特許6282735-PZT薄膜積層体の製造方法 図000009
  • 特許6282735-PZT薄膜積層体の製造方法 図000010
  • 特許6282735-PZT薄膜積層体の製造方法 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6282735
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】PZT薄膜積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/316 20130101AFI20180208BHJP
   H01L 41/29 20130101ALI20180208BHJP
   H01L 41/319 20130101ALI20180208BHJP
【FI】
   H01L41/316
   H01L41/29
   H01L41/319
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-529290(P2016-529290)
(86)(22)【出願日】2015年6月11日
(86)【国際出願番号】JP2015066847
(87)【国際公開番号】WO2015198882
(87)【国際公開日】20151230
【審査請求日】2016年11月24日
(31)【優先権主張番号】特願2014-128856(P2014-128856)
(32)【優先日】2014年6月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100106666
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100102875
【弁理士】
【氏名又は名称】石島 茂男
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 光隆
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】逸見 充則
(72)【発明者】
【氏名】塚越 和也
(72)【発明者】
【氏名】露木 達郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 勲
(72)【発明者】
【氏名】鄒 弘綱
【審査官】 上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−225546(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/160972(WO,A1)
【文献】 特開2003−174211(JP,A)
【文献】 特開2003−086586(JP,A)
【文献】 特開2005−203761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/047,41/29,41/316,41/319
C23C 14/08,14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PZT薄膜積層体を製造する方法であって、
チタン酸化物からなる白金密着層を介して白金電極層が設けられた半導体基体を用意し、
真空中において、スパッタリングによって、前記半導体基体上の前記白金電極層上にチタン薄膜層を1nm以上3nm未満の厚さで形成する第1の工程と、
真空中において、PZTターゲットを用いたスパッタリングによって、前記白金電極層上に、前記チタン薄膜層とPb及びOの反応層であるPTO層と、当該PTO層上にPZT薄膜層を形成する第2の工程とを有し、
前記第1の工程と前記第2の工程との間において、前記チタン薄膜層が形成された当該半導体基体を真空雰囲気下に配置するPZT薄膜積層体の製造方法。
【請求項2】
PZT薄膜積層体を製造する方法であって、
チタンからなる白金密着層を介して白金電極層が設けられた半導体基体を用意し、
真空中において、PZTターゲットを用いたスパッタリングによって、前記白金電極層上に、前記チタンとPb及びOの反応層であるPTO層と、当該PTO層上にPZT薄膜層を形成する工程を有するPZT薄膜積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いたPZT薄膜積層体を製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
優れた圧電性,強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)即ちPZTからなる薄膜は、その強誘電性を生かし、不揮発性メモリ(FeRAM)用途として使用されている。
さらには近年、MEMS技術との融合により、MEMS圧電素子が実用化されつつある。主要デバイスとして、インクジェットヘッド(アクチュエータ)や角速度センサ,ジャイロセンサなど応用が広がっている。
【0003】
様々な特性をもつPZT薄膜であるが、その特性に大きく影響を及ぼすものとして、結晶配向性がある。
PZT薄膜は、その配向方向により物理定数が異なることが知られており、特に正方晶系においては、分極軸に平行なc軸(001)配向を得ることで高い圧電性・強誘電性を示す。
【0004】
さらに強誘電性を示す内部領域(ドメイン)の回転が圧電性に大きく寄与するため、分極軸に対し直交したa軸(100)が高電界下で90°回転し、c軸単一配向よりも高い圧電性を有することが、近年明らかになってきている。
このようにPZT薄膜の特性には、結晶の配向性が大きく影響し、その制御が重要な課題となっている。
【0005】
本発明者は、従来、φ8インチSi基板へ成膜したPZT膜の配向制御を目的として、PZT薄膜の成膜条件やシード層の最適化を検討し、配向制御に成功している。
しかし、PZT薄膜の配向メカニズムに依然として不明な点が多く、その解明が急務となっている。
【0006】
もう一点、PZT成膜を困難にしている要因として、PZT成膜の際に、不純物相であるパイロクロア(pyrochlore)相が生成される点がある。
すなわち、パイロクロア相は常誘電体であるため、PZT薄膜の誘電率や圧電特性の悪化が起こる。
したがって、如何にペロブスカイト単相のPZT薄膜を得るかということも薄膜形成において重要な技術となる。
【0007】
その一方、ペロブスカイト酸化物をシード層として用いた実験では、パイロクロア相の生成は確認されず、また、シード層の配向とPZT配向が一致するエピタキシーとなっている。
この場合、シード層(バッファ層)の導入により配向させることは可能であるが、種々の課題がある。
例えば、シード層を導入する場合には、シード層自体の単一配向が必要となるが、単一配向は難しく、若干の(110)面などが混合した配向となってしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2012/046705号
【特許文献2】国際公開第2012/046706号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような従来の技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、スパッタリングによってPZT薄膜を形成する際に、従来のシード層を用いることなく、不純物相であるパイロクロア相の生成を抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためになされた本発明は、PZT薄膜積層体を製造する方法であって、チタン酸化物からなる白金密着層を介して白金電極層が設けられた半導体基体を用意し、真空中において、スパッタリングによって、前記半導体基体上の前記白金電極層上にチタン薄膜層を1nm以上3nm未満の厚さで形成する第1の工程と、真空中において、PZTターゲットを用いたスパッタリングによって、前記白金電極層上に、前記チタン薄膜層とPb及びOの反応層であるPTO層と、当該PTO層上にPZT薄膜層を形成する第2の工程とを有し、前記第1の工程と前記第2の工程との間において、前記チタン薄膜層が形成された当該半導体基体を真空雰囲気下に配置するPZT薄膜積層体の製造方法である。
また、本発明は、PZT薄膜積層体を製造する方法であって、チタンからなる白金密着層を介して白金電極層が設けられた半導体基体を用意し、真空中において、PZTターゲットを用いたスパッタリングによって、前記白金電極層上に、前記チタンとPb及びOの反応層であるPTO層と、当該PTO層上にPZT薄膜層を形成する工程を有するPZT薄膜積層体の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
以上述べた本発明によれば、スパッタリングによってPZT薄膜を形成する際に、従来のシード層を用いることなく、不純物相であるパイロクロア相の生成を抑制することができる。
また、本発明によれば、PZT薄膜積層体の生産効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係るPZT薄膜積層体の実施の形態の構成を示す断面図
図2】本発明に係るPZT薄膜積層体の他の実施の形態の構成を示す断面図
図3】(a)〜(c):実施例1、2及び比較例1によって形成されたPZT薄膜層に対し、X線回折法を用いて結晶配向性を評価した結果を示す図
図4】(a)〜(b):実施例1A、1B、実施例2A、2Bによって形成されたPZT薄膜層に対し、X線回折法を用いて結晶配向性を評価した結果を示す図
図5】Pt電極層上に膜厚1nmのTi薄膜層を形成した実施例1のPZT薄膜上に、上部電極層としてPtを用いたMIM構造を形成し、電気的特性、圧電特性の評価を行った結果を示す図
図6】(a)〜(c):実施例3及び比較例2、3によって形成されたPZT薄膜層に対し、X線回折法を用いて結晶配向性を評価した結果を示す図
図7】(a)〜(f):実施例3及び比較例2、3によって形成されたPZT薄膜層に対し、SEM観察によって微構造解析を行った結果を示す図
図8】実施例3及び比較例2、3のPZT薄膜層上に、上部電極としてPtを用いたMIM構造を形成し、電気的特性、圧電特性の評価を行った結果を示す図
図9】Ptナノファセット上のPTOの形成を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係るPZT薄膜積層体の実施の形態の構成を示す断面図である。
図1に示すように、本実施の形態のPZT薄膜積層体1は、例えばSi基板(半導体基体)10上に設けられるものである。
【0014】
このPZT薄膜積層体1は、Si基板10上に形成された酸化珪素(SiO2)層(以下、「SiO2層」という。)3上に、白金(Pt)密着層であるチタン酸化物(TiOX)層(以下、「TiOX層」という。)4と、白金(Pt)からなる電極層(以下「Pt電極層」という。)5と、チタン(Ti)からなる薄膜層(以下、「Ti薄膜層」という。)6と、PZT薄膜層7とが、この順序で形成されている。
なお、Pt電極層5は、デバイスが構成された場合に下部電極層として機能するもので、その場合には、PZT薄膜層7上に上部電極層8が設けられる。
【0015】
本実施の形態においては、従来のシード層の代わりに、Pt電極層5とPZT薄膜層7との間にTi薄膜層6が形成されている。
このTi薄膜層6は、1nm以上10nm以下の厚さに形成することが好ましい。
【0016】
Ti薄膜層6の厚さが1nm未満であると、パイロクロア相の生成を抑制することが困難であるとともに、PZT薄膜の(001)/(100)配向を十分に行うことが困難である。
一方、Ti薄膜層6の厚さが10nmを超えると、PZTの結晶性が悪化するという不都合がある。
【0017】
本発明の場合、Ti薄膜層6を形成する方法は特に限定されることはないが、生産効率を向上させ、膜厚及び膜質の均一性を確保する観点からは、スパッタリング法を用いることがより好ましい。
この場合、Tiの結晶性を確保し酸化物を形成させない観点からは、低圧力スパッタ(<1Pa)および高真空(<1E−4Pa)排気が可能な成膜装置を用いることがより好ましい。
【0018】
さらに、PZT薄膜層7は、RFスパッタリング法によって形成することができる。
この場合、スパッタリングの際の基板の温度を600℃に加熱する。
【0019】
また、Ti薄膜層6を形成した後、PZT薄膜層7を形成する場合には、Ti薄膜層6が形成された当該Si基板10を、真空雰囲気下に配置することが好ましい。
これにより、Ti薄膜層6の酸化を阻止し、PZT薄膜層7の結晶配向性の劣化を防止することができる。
【0020】
図2は、本発明に係るPZT薄膜積層体の他の実施の形態の構成を示す断面図であり、上記実施の形態と共通する部分には同一の符合を付しその詳細な説明を省略する。
図2に示すように、本実施の形態のPZT薄膜積層体2は、例えばSi基板10上に設けられるもので、Si基板10上に、SiO2層3と、チタン(Ti)薄膜からなる白金密着層(以下、「Ti薄膜密着層」という。)9と、Pt電極層5と、PZT薄膜層7とが、この順序で形成されている。
【0021】
本実施の形態においては、図1に示すTiOX層4の代わりに、白金密着層としてTi薄膜密着層9が形成され、Pt電極層5上にPZT薄膜層7が直接形成されている。
このTi薄膜密着層9は、5nm以上18nm以下の厚さに形成することが好ましい。
【0022】
Ti薄膜密着層9の厚さが5nm未満であると、パイロクロア相の生成を抑制することが困難であるとともに、PZT薄膜の(001)/(100)配向を十分に行うことが困難である。
一方、Ti薄膜密着層9の厚さが18nmを超えると、PZTの結晶性が悪化するという不都合がある。
【0023】
本発明の場合、Ti薄膜密着層9を形成する方法は特に限定されることはないが、生産効率を向上させ、膜厚及び膜質の均一性を確保する観点からは、スパッタリング法を用いることがより好ましい。
この場合、Tiの結晶性を確保する観点からは、低圧力スパッタ(<1Pa)で行うことがより好ましい。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例を比較例とともに説明する。
〔実施例1〕
<Ti薄膜層の形成>
直径8インチのSi基板上に、厚さ0.1μmのSiO2層と、白金密着層である厚さ0.03μmのTiOx層と、厚さ0.1μmのPt電極層がこの順序で形成された第1の評価用基板を用いた。
この第1の評価用基板を用い、DCスパッタリング法により、Pt電極層上に、膜厚1nmのTi薄膜層を形成した。
この場合、スパッタリングターゲットとしてTiターゲットを用い、スパッタガスとしてアルゴンガスを用いて圧力0.16Paとし、また、基板温度は25℃とした。
【0025】
<PZT薄膜層の形成>
Pt電極層上に膜厚1nmのTi薄膜層を形成した後、この基板を真空雰囲気中に配置しておき、RFマグネトロンスパッタリング法により、Ti薄膜層上に、膜厚2μmのPZT薄膜層を形成した。
【0026】
この場合、スパッタリングターゲットとして、アルバック社のアルバックマテリアル事業部製のPb30%過剰ターゲット(Pb1.3Zr0.52Ti0.48O3)を用い、また、スパッタリング装置(アルバック社製 SME−200,SME−200E)の誘電体用モジュールを用いた。
また、PZT薄膜層の成膜条件は、スパッタガスとしてアルゴンガスを用いて圧力0.5Paとし、また、基板温度は600℃とした。
【0027】
〔実施例2〕
評価用基板として、上記第1の評価用基板の白金密着層であるTiOx層の代わりに厚さ5nmのTi薄膜密着層を形成した第2の評価用基板を用い、実施例1と同一の成膜条件によって、Pt電極層上に直接膜厚2μmのPZT薄膜を形成した。
Ti薄膜密着層は、DCスパッタリング法により形成した。
この場合、スパッタリングターゲットとしてTiターゲットを用い、スパッタガスとしてアルゴンガスを用いて圧力0.16Paとし、また、基板温度は25℃とした。
【0028】
〔比較例1〕
上記第1の評価用基板を用い、RFマグネトロンスパッタリング法により、Pt電極層上に直接膜厚2μmのPZT薄膜層を形成した。
この場合、成膜条件は実施例1と同一とした。
【0029】
<PZT薄膜層の結晶配向性の評価結果>
実施例1、2及び比較例1によって形成されたPZT薄膜層に対し、X線回折法を用いて結晶配向性を評価した。その結果を図3(a)〜(c)に示す。
【0030】
図3(c)に示すように、Pt電極層上に膜厚1nmのTi薄膜層を形成し、このTi薄膜層上に膜厚2μmのPZT薄膜層を形成した実施例1の場合は、目的とする(001)/(100)配向が得られていることが分かる。
また、不純物相であるパイロクロア相も発生していない。
【0031】
また、図3(b)に示すように、白金密着層であるTiOx層の代わりに厚さ5nmのTi薄膜密着層を設けた実施例2の場合も、目的とする(001)/(100)配向が得られており、また、不純物相であるパイロクロア相も発生していないことが分かる。
【0032】
これに対し、図3(a)に示すように、Pt電極層上に直接膜厚2μmのPZT薄膜層を形成した比較例1の場合は、PZT(111)配向を示し、また不純物相であるパイロクロア相もみられている。
【0033】
このパイロクロア相は常誘電体であり、PZT薄膜層中に存在することで圧電性が減少する要因となる。
この現象は、次のように考察することができる。
【0034】
すなわち、Pt電極層上にPZT薄膜層を直接成膜した場合、PbOの再蒸発及びPt電極層中へのPbの拡散により、スパッタ初期層でPbが欠損し、パイロクロア相が生成されたと考えられる。
また、PtPbx合金は低温でも形成されることが知られており、PZT薄膜層の成膜温度である600℃では容易に形成されることが予想される。
【0035】
今回は、成膜中におけるPbOの再蒸発を見込んでPb30%過剰ターゲットを用いているが、Pt電極層界面では拡散も起こるため、Pb欠損となっていると考えられる。
なお、これ以上ターゲットのPb仕込み量を増やしてしまうと、PZT薄膜層中のPbが過剰となり、リーク電流量の増加や絶縁耐圧の低下を招く恐れがある。
【0036】
これに対し、Pt電極層上にTi薄膜層が存在する実施例1の場合、PbがPt電極層中へ拡散するよりも先に、スパッタされたPb,O粒子とPt電極層上のTi原子が反応し、このTi原子を核としてPTOが形成され、パイロクロア相の生成を抑制したと考えられる。
【0037】
一方、実施例2では、Pt中をTi原子が拡散しやすいことを利用している。すなわち、Pt電極層の成膜中あるいは、PZT薄膜層の成膜前の基板加熱時に、Pt電極層の下地のTi薄膜密着層中のTi原子がPt電極層を介して表面に拡散し、このTi原子がスパッタされたPb,O粒子との反応に寄与すると考えられる。
【0038】
なお、Takaharaらは、Pt電極上にSrTiO3を5nm成膜することにより、Pt電極中へのPb拡散を抑制できるとの報告をしている(Thin Solid Films, 516 (2008) 8393参照)。
【0039】
<PZT薄膜層の結晶配向性の厚さ依存性>
〔実施例1A〕
Pt電極層上のTi薄膜層の厚さを5nmとした以外は実施例1と同一の条件でPZT薄膜層を形成した。
【0040】
〔実施例1B〕
Pt電極層上のTi薄膜層の厚さを10nmとした以外は実施例1と同一の条件でPZT薄膜層を形成した。
【0041】
〔実施例2A〕
Ti薄膜密着層の厚さを10nmとした以外は実施例2と同一の条件でPZT薄膜層を形成した。
【0042】
〔実施例2B〕
Ti薄膜密着層の厚さを18nmとした以外は実施例2と同一の条件でPZT薄膜層を形成した。
【0043】
<評価結果>
実施例1A、1B、実施例2A、2Bによって形成されたPZT薄膜層に対し、X線回折法を用いて結晶配向性を評価した。その結果を図4(a)(b)に示す。
【0044】
図4(a)(b)に示すように、実施例1、2に対し、実施例1A、1B並びに実施例2A、2Bのように膜厚を増加させた場合であっても、全ての場合においてPZT(001)/(100)配向となっており、パイロクロア相の生成もみられない。
【0045】
その結果、本発明では、Pt電極層上にTi薄膜層を形成した場合において、このTi薄膜層の厚さを、1nm以上10nm以下とすることができることが確認された。
この場合、Ti薄膜層の最適な膜厚に関しては、Pt電極層上のTi薄膜層の厚さを1nmとした実施例1が最も結晶配向性が良いことが確認された。
一方、本発明では、Ti薄膜密着層を形成した場合において、このTi薄膜密着層の厚さを、5nm以上18nm以下とすることができることが確認された。
【0046】
<PZT薄膜層の電気的特性、圧電特性の評価>
〔実施例1−1〕
Pt電極層上に膜厚1nmのTi薄膜層を形成した実施例1のPZT薄膜上に、上部電極層としてPtを用いたMIM(metal-insulator-metal)構造を形成し、電気的特性、圧電特性の評価を行った。その結果を図5に示す。
【0047】
〔実施例2−1〕
白金密着層として厚さ5nmのTi薄膜密着層を設けた実施例2のPZT薄膜上に、上部電極としてPtを用いたMIM構造を形成し、電気的特性、圧電特性の評価を行った。その結果を図5に示す。
【0048】
図5に示すように、白金密着層であるTi薄膜密着層の厚さを5nmと最も薄くした実施例2−1と比較して、Pt電極層上のTi薄膜層の厚さを1nmと最も薄くした実施例1−1は、圧電定数が大きくなった。
これにより、白金密着層としてTi薄膜密着層を形成する場合より、Pt電極層上にTi薄膜層を形成した方が圧電特性が向上することが確認された。
【0049】
<Ti薄膜層の酸化状態とPZT薄膜層の結晶配向性との関係>
生産技術を向上させる観点より、Pt電極層上に成膜したTi薄膜層の酸化状態を変えて実験を行った。
これは、Ti薄膜層を形成する成膜チャンバとPZT薄膜層を形成する成膜チャンバ間に真空連続搬送が必要か否かといった、装置構成にかかわるデータ取得を目的とするものである。
【0050】
〔実施例3〕
第1の真空槽内において、実施例1と同一の条件で、Pt電極層上に膜厚1nmのTi薄膜層を形成した後、直ちに真空雰囲気中で基板を搬送し、第2の真空槽内において、実施例1と同一の条件で、Ti薄膜層上に膜厚2μmのPZT薄膜層を形成した。
【0051】
〔比較例2〕
真空中において、実施例1と同一の条件で、Pt電極層上に膜厚1nmのTi薄膜層を形成した後、この基板を1時間大気に開放した。
その後、真空中において、実施例1と同一の条件で、Ti薄膜層上に膜厚2μmのPZT薄膜層を形成した。
【0052】
〔比較例3〕
真空中において、実施例1と同一の条件で、Pt電極層上に膜厚1nmのTi薄膜層を形成した後、温度750℃、酸素雰囲気化で1分間アニールを行った。
その後、真空中において、実施例1と同一の条件で、Ti薄膜層上に膜厚2μmのPZT薄膜層を形成した。
【0053】
<結晶配向性の評価結果>
実施例3及び比較例2、3によって形成されたPZT薄膜層に対し、X線回折法を用いて結晶配向性を評価した。その結果を図6(a)〜(c)に示す。
また、実施例3及び比較例2、3によって形成されたPZT薄膜層に対し、SEM観察によって微構造解析を行った。その結果を図7(a)〜(f)に示す。
【0054】
図6(a)に示すように、Pt電極層上へのTi薄膜層の形成及びTi薄膜層上へのPZT薄膜層の形成を、いずれも真空中で連続的に行った実施例3は、上述した実施例1と同様にPZT薄膜層の良好な結晶配向性が確認された。
【0055】
一方、図6(b)に示すように、真空中においてPt電極層上にTi薄膜層を形成した後、基板を1時間大気に開放した比較例2は、(001)/(100)配向の強度が低下していることがみてとれる。
【0056】
これは、一般に5nm以下のTi薄膜は表面積が大きく、反応性が高いため、大気中で自然酸化され、その結果、PZT薄膜の結晶配向性が悪化していると考えられる。
【0057】
さらに、図6(c)に示すように、真空中においてPt電極層上にTi薄膜層を形成した後、温度750℃、酸素雰囲気化で1分間アニールを行った比較例3は、パイロクロア相が生成されるとともに、PZT(111)配向となっていることが確認された。
これは、Pt電極層上に直接PZT薄膜層を形成した比較例1と同様の傾向を示す結果である(図3(a)参照)。
【0058】
これは、Pt電極層界面でPbが欠損した場合、パイロクロア相とともにTiOxが界面に生成する。その結果、PZT(111)配向になったと考えられる(Journal of Applied Physics, 100 (2006) 051605参照)。
【0059】
一方、図7(e)に示すように、Pt電極層上へのTi薄膜層形成後に大気開放した比較例2では、PZT薄膜層の表面にクラックの発生が観察されている。
これは、PZT薄膜の形成時にH2O分圧が高い場合、水素(H)の影響により膜剥がれを起こすことがあるが、大気開放した際にTi薄膜層表面に水酸化物が生成されることで、同様の現象が生じたのではないかと推察される。
【0060】
さらに、図7(c)(f)に示すように、Pt電極層上にTi薄膜層を形成した後にアニールを行った比較例3の場合は、実施例3と結晶性及び配向性が全く異なることが、微構造にも表れている。
この点に関し、パイロクロア相が生成した場合や(111)配向の場合に柱状構造が大きくなることは我々の以前の実験からも明らかになっている。
【0061】
<Ti薄膜層の酸化状態とPZT薄膜層の電気的特性、圧電特性との関係>
〔実施例3−1、比較例2−1、比較例3−1〕
実施例3及び比較例2、3のPZT薄膜層上に、上部電極としてPtを用いたMIM構造を形成し、電気的特性、圧電特性の評価を行った。その結果を図8に示す。
【0062】
図8に示すように、Ti薄膜層上へのPZT薄膜の形成を真空中で行った実施例3−1よりTi薄膜層形成後に大気開放した比較例2−1の方が圧電定数−e31が大きくなっているが、これは、膜にクラックが生じたことにより、機械的な剛性が減少し、変形しやすくなったことが原因ではないかと考えられる。
しかし、クラックがある膜は、機械的安定性に問題がある場合や電極からのPZT膜剥がれを生じるため、好ましくないものである。
【0063】
以上述べたように、本発明によれば、PZT薄膜のスパッタ成膜で問題となる、パイロクロア相の抑制と結晶配向制御が可能になることが確認できた。
そして、特に実施例1及び実施例3の結果から明らかなように、Ti薄膜層をPt電極層上に1nm成膜することにより、パイロクロア相の抑制と(001)/(100)単一配向のPZT薄膜層を得ることが可能となった。
【0064】
これは、真空中で、Pt電極層上にTi薄膜層とPZT薄膜層の連続成膜を行うことにより、Pt電極層の界面において、PTOが生成したからであると考えられる。
【0065】
この点に関し、Muraltらは、PZTの初期核形成では、臨界半径の小さいPTOが形成され、続いてPZOがPTOと固溶することでPZTが形成されると指摘している(Journal of Applied Physics, 100 (2006) 051605参照)。
この考えに基づくならば、今回の実施例で得られたPZT薄膜では、Pt電極層とPZTの界面にPTOは検出されないことになる。
【0066】
ここで1つ疑問が残る。PTOが真空連続成膜で生成された場合、何故(001)/(100)配向の膜が得られるのかという点である。
この点に関し、Muraltらは、Pt電極層上におけるPTOの核発生頻度を計算しており(表1参照)、PTO(111)と比較したPTO(100)では、臨界半径,核形成のエネルギー障壁ともに優位であることが分かる。
【0067】
【表1】
【0068】
ここで、最も注目すべき点は、核発生頻度である。
表1においては、PTOにおける(100)面の核発生頻度は(111)面に対し、約300倍大きいとの結果が得られている。
また、MatsuoらはPt表面のナノファセットに注目し、PTOの結晶配向について論じている(図9参照)。
【0069】
Ptは、通常の場合、表面エネルギーの小さい(111)に自己配向することが知られている。本発明者が成膜したPt電極層も(111)単一配向である。
Pt電極層表面にはナノファセットが多数存在し、基板のout−of−planeに(111)配向した膜のナノファセットは(100)面となる(図9中(a)で示す部分参照。(b)で示す部分は対比のために記載した。)。
【0070】
このナノファセットにPTOが(100)配向するというものであって、本発明はこのような配向メカニズムによるものであると考えられる。
そして、このような本発明によれば、真空中で、Pt電極層上にTi薄膜層とPZT薄膜層の連続成膜を行うことができるので、PZT薄膜積層体の生産効率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0071】
1…PZT薄膜積層体
2…PZT薄膜積層体
3…SiO2
4…TiOX
5…Pt電極層
6…Ti薄膜層
7…PZT薄膜層
9…Ti薄膜密着層
10…Si基板(半導体基体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9