(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記水浄化装置が、発光波長260〜320nmの深紫外光源を1つ以上有し、該深紫外光源から発せられた深紫外光を、前記水浄化装置を通過する水に照射することにより、前記水浄化装置を通過する水を殺菌する、
請求項5に記載の乗客コンベアのハンドレール殺菌装置。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の上記した作用および利得は、以下に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明はこれらの形態に限定されるものではない。なお、図では、一部の符号を省略することがある。
【0021】
図1は、本発明の一の実施形態に係るハンドレール殺菌装置40が適用される乗客コンベア100の概略構成図である。乗客コンベア100は、上層階と下層階との間で乗客を輸送するエスカレータである。乗客コンベア100は、乗客コンベア全体を下方から支持する、例えば金属板製の支持構造部11を備える。支持構造部11は、上層階の乗降口12aに配設される上部支持構造部11a、下層階の乗降口12bに配設される下部支持構造部11b、及び、上部支持構造部11aと下部支持構造部11bとの間を傾斜した状態で連結する傾斜支持構造部11cとを有している。
【0022】
支持構造部11内には、連なった状態で上層階と下層階との間を移動する多数のステップ13、13、…(以下において単に「ステップ13」ということがある。)が配設されている。ステップ13は、乗客を載せて移動する部材であり、乗客がその上に乗る踏板面を有している。ステップ13が上方に露出する往路領域では、各ステップ13は階段状をなして移動する。他方、支持構造部11内に位置する下方の復路領域では、各ステップ13の踏板面がそれぞれ略同一面をなした状態で移動する。
【0023】
上部支持構造部11a内には、モータ及び減速機等を含む駆動ユニット(不図示)が配設されている。駆動ユニットには、ステップ13の幅方向(
図1の紙面垂直方向)両側に、一対の駆動スプロケット14、14が連結されており、一対の駆動スプロケット14、14は駆動ユニットに駆動されることにより回転する。また、上部支持構造部11a内には、駆動ユニットを含む乗客コンベア全体を制御する乗客コンベア制御盤20が配置されている。
【0024】
他方、下部支持構造部11b内には、ステップ13の幅方向両側に一対の従動スプロケット15、15が配設されている。そして、上部支持構造部11a内の一対の駆動スプロケット14、14と、下部支持構造部11b内の一対の従動スプロケット15、15とに、一対の無端状のステップチェーン16、16が巻き掛けられている。これら一対のステップチェーン16、16に、各ステップ13の幅方向両側端部がそれぞれ連結されている。駆動ユニットが一対の駆動スプロケット14、14を駆動することにより、ステップ13、13、…は階段状をなしながら上層階と下層階との間を下り移動または上り移動する。なお、以下においては、乗客コンベア100が下り運転されている場合、すなわち階段状をなすステップ13、13、…が矢印Aの方向に移動している場合を想定して説明する。
【0025】
支持構造部11の上には、ステップ13の両側に、一対の側壁17、17が立設されている。一対の側壁17、17は、金属板または樹脂板によって形成されている。一対の欄幹部17、17の該周縁部にはガイドレール(不図示)が設けられており、このガイドレールに沿って無端状のハンドレール30が、ステップ13、13、…の移動と同期して周回移動する。乗客はハンドレール30を手でつかんだ状態でステップ13に立って乗客コンベア100を利用することが、安全面から望ましい。
【0026】
ハンドレール30は、上部支持構造部11aの上部に形成された上部ハンドレール入り込み口18aから支持構造部11外に出て、上層階の乗降口12aにおいてUターンして側壁17の上縁部に沿って矢印A方向に移動し、下層階の乗降口12bにおいて再びUターンして、下部支持構造部11bの上部に形成された下部ハンドレール入り込み口18bから支持構造部11内に進入し、支持構造部11内を通って上層階の乗降口12aの上部ハンドレール入り込み口18aへと移動する。
【0027】
上部支持構造部11a内であって上部ハンドレール入り込み口18aの近傍には、ハンドレール殺菌装置40が配設されている。また、下部支持構造部11b内であって下部ハンドレール入り込み口18bの近傍にも、ハンドレール殺菌装置40が配設されている。
【0028】
上層階の乗降口12aおよび下層階の乗降口12bには、乗客が乗降口に来たことを検知する人感センサ19a、19bが配設されている。人感センサ19a、19bはそれぞれ、乗降口12a、12bを挟んだ両側に配設された一対の支柱を有してなり、該一対の支柱の一方には発光器が、他方には受光器が、それぞれ配設されている。受光器は発光器から発せられる光信号を受信可能に配置されている。人感センサ19a、19bは、発光器から受光器に向けて発せられた光信号が遮られたときに、乗客が乗降口に来たことを検知する。
【0029】
図2は、乗客コンベア100が備えるハンドレール30の、ハンドレール30の移動方向に対して垂直方向の断面の模式図である。
図2に示すように、ハンドレール30は、側壁17の周縁部に配設されたガイドレール31に沿って移動する無端状のハンドレール基材32と、ハンドレール基材32の表面に形成されたバリアコート層33と、バリアコート層33の表面に形成された光触媒コート層34とを有する。ハンドレール基材32は、ハンドレール30の形状を維持する十分な強度と可撓性を有する樹脂によって形成されている。バリアコート層33は、高圧水洗浄手段41から受ける機械的な力および光触媒コート層34の酸化作用からハンドレール基材31を保護する層であり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、パーフルオロアルコキシフッ素樹脂等のフッ素樹脂により形成されている。光触媒コート層34は、光触媒を含有する被膜層であって、光照射を受けることにより有機物を酸化分解する機能を有する。光触媒コート層34に含有させる光触媒としては、安全性の観点から酸化チタンを好ましく用いることができる。酸化チタンはルチル型およびアナターゼ型のいずれでもよいが、一般に光触媒活性が高いことからアナターゼ型を好ましく採用できる。ハンドレール30の表面に光触媒コート層34を形成する方法は特に制限されるものではなく、例えば、光触媒酸化チタン及びバインダーを含むコーティング剤をバリアコート層33の表面に塗布した後、該コーティング剤を硬化させることにより形成することができる。バインダーとしては、例えばケイ酸塩系バインダー、リン酸塩系バインダー、無機コロイド、金属アルコキシド、フッ素樹脂等の、ハンドレール基材32を劣化させない温度での硬化が可能な公知のバインダーを特に制限なく用いることができる。ただし、耐水性、取扱い性、及び強度の観点からは、フッ素樹脂系バインダーを好ましく採用できる。
【0030】
図3は、乗客コンベア100の下層階の乗降口12b近傍に配設されたハンドレール殺菌装置40を模式的に説明する図である。
図3に示すように、ハンドレール殺菌装置40は、ハンドレールの表面に加圧された水(高圧水)を噴射することによりハンドレール30の表面を洗浄する高圧水洗浄手段41と、ハンドレール30の表面に波長360〜400nmの紫外光を照射することにより光触媒を励起させる光触媒励起手段42と、水切り手段43と、深紫外光照射手段44と、水受け器45と、水浄化装置46と、
図3には表れていない制御手段50(後述)を有している。水浄化装置46は、水濾過装置47と、水殺菌手段48とを有している。水受け器45に受け容れられた水は配管49aを通じて水濾過装置47に導かれ、水濾過装置47を経た水は配管49bを通じて、水殺菌手段を兼ねる貯水槽48に導かれ、貯水槽(兼水殺菌手段)48から水が配管49cを通じて高圧水洗浄手段41に再供給される。下層階の乗降口12b近傍に配設されたハンドレール殺菌装置40においては、
図1の矢印Aの方向に周回移動するハンドレール30が、高圧水洗浄手段41と、光触媒励起手段42と、水切り手段43とをこの順に通過するように、高圧水洗浄手段41、光触媒励起手段42、水切り手段43、及び深紫外光照射手段44が配置されている。
【0031】
高圧水洗浄手段41は、ハンドレール30の表面に加圧された水(高圧水)を噴射することによりハンドレール30の表面を洗浄する。
図4は、高圧水洗浄手段41を模式的に説明する図である。なお
図4には、高圧水洗浄手段41とともに、後述する水受け器45の底部45aおよび一対の側壁45d、45eも表れている。
図4において、紙面奥行き方向がハンドレール30の移動方向である。
図4に示すように、高圧水洗浄手段41は、不図示のモータによって駆動されるポンプ411と、ポンプ411に接続されたノズル412a、412b、412cとを有する。貯水槽(兼水殺菌手段)48から高圧水洗浄手段41に供給される水は、ポンプ411によって加圧されて高圧水となり、その高圧水が配管414を通じてノズル412a、412b、412cに導かれ、ノズル412a、412b、412cの開口部からハンドレール30の表面に向けて吐出される。高圧水がノズル412a、412b、412cの開口部から高圧水流413a、413b、413cとして扇形状(平面的放射状)に広がるように吐出されることにより、ハンドレール30の表面のうち乗客の手に触れる露出部分が洗浄される。ノズル412a、412b、412cは、その各々から扇形状に広がるように吐出される高圧水流413a、413b、413cの間の相互干渉を抑制するために、
図4の紙面奥行き方向の位置を相互にずらして配置されている。なおポンプ411からノズル412a、412b、412cに至る配管414の途中にはバルブ415が設けられており、ハンドレール殺菌装置40の動作が停止しているときには配管414を遮断する。高圧水洗浄手段41のポンプ411及びノズル412a、412b、412cとしては、高圧水洗浄装置に用いられるものとして公知の構成のポンプ及びノズルを特に制限なく採用することができる。
【0032】
光触媒励起手段42は、発光波長360〜400nmの紫外発光ダイオードを1つ以上備え、該紫外発光ダイオードから発せられた波長360〜400nmの紫外光をハンドレール30の表面に紫外光を照射することにより、光触媒コート層34に含まれる光触媒を励起させる。
図5は、光触媒励起手段42を模式的に説明する断面図である。
図5において、紙面に垂直な方向がハンドレール30の移動方向である。
図5に示すように、光触媒励起手段42は、ハンドレール30の表面を取り囲むように、光軸をハンドレール30の表面に向けて並べて配置された、発光波長360〜400nmの紫外発光ダイオード421、421、…と、該紫外発光ダイオード421、421、…を支持する紫外LED支持部材422とを有する。紫外発光ダイオード421、421、…は不図示の電源に接続されており、紫外発光ダイオード421、421、…から発せられた紫外光がハンドレール30の表面に照射されることにより、ハンドレール30の光触媒コート層34に含まれる光触媒が励起される。紫外発光ダイオード421、421、…としては、発光波長が360〜400nmである公知の紫外LEDを特に制限なく採用できる。
【0033】
酸化チタン等の光触媒は、励起光の照射を受けることにより、水や酸素等からヒドロキシラジカル(・OH)やスーパーオキサイドアニオン(・O
2−)等の活性酸素種を生じる。これらの中でも水から生じるヒドロキシラジカルは酸化力が大であり、ハンドレール30に付着する汚れの主成分である有機化合物の分子中の結合を容易に切断するので、光触媒による分解機能および防汚機能への寄与は大きいと考えられる。ハンドレール30が高圧水洗浄手段41を経た後、ハンドレール30表面、すなわち光触媒コート層34の表面に水が残留している状態で光触媒励起手段42からの励起光の照射を受けることにより、分解機能および防汚機能に大きく寄与するヒドロキシラジカルが効率的に生成するので、光触媒コート層34の分解機能および防汚機能をより効果的に発揮させることが可能になる。
【0034】
水切り手段43は、高圧水洗浄手段41から噴射された後、ハンドレール30の表面に残留している水を、ハンドレール30の表面から除去する。
図6は、水切り手段43を、高圧水洗浄手段41、光触媒励起手段42、水受け器45、水浄化装置46とともに模式的に説明する断面図である。
図6において、紙面左右方向がハンドレール30の移動方向であり、
図1及び
図3の矢印Aの向きにハンドレール30が移動しているとき、
図6においてハンドレール30は紙面右側から紙面左側へ移動している。
【0035】
水受け器45は、高圧水洗浄手段41から噴射された水を受け容れて回収する容器であり、底部45aと、高圧水洗浄手段41のノズル412a、412b、412cから噴射された水の外部への飛散を防ぐように底部45aから立設された前方壁45bと、底部45の前方壁45bとは反対側の端部に立設された後方壁45cと、ガイドレール30の幅方向への水の漏出を防ぐように底部45aから立設された一対の側壁45d、45e(
図6には表れていない)とを有してなる。
図7は
図6のB−B矢視図であり、水受け器45の前方壁45bの形状が表れている。
図8は
図6のC−C矢視図であり、水受け器45の後方壁45cの形状が表れている。水受け器45の底部45aには、底部45aの他の箇所より窪んだ集水部45fが設けられており、底部45aの内面は集水部45fに水を集めるため、集水部45fに向けて傾斜している。集水部45fの底部には配管49aの一方の端部が開口しており、集水部45fに集められた水は配管49aを通じて水濾過装置46に導かれる。
【0036】
図9は
図6のD−D矢視図であり、水受け器45の一対の側壁45d、45e、後方壁45c、底部45a、及び水切り手段43が表れている。水切り手段43は、先端がガイドレール30の表面に接触するように設けられたスクレイパーであり、水受け器45の一対の側壁45d、45eに固定されている。スクレイパーである水切り手段43の、ガイドレール30と接触する先端部は、ガイドレール30の表面を傷つけないように、例えばシリコーン樹脂等の軟質の樹脂によって構成されている。高圧水洗浄手段41から噴射された後にハンドレール30の表面に残留している水は、スクレイパーである水切り手段43により掃き取られてハンドレール30の表面から除去され、スクレイパー表面を流れ落ちて水受け器45の集水部45fに集められる。このとき、水切り手段43のスクレイパー先端と接触する前に、ハンドレール30の表面は高圧水洗浄手段41と光触媒励起手段42をこの順に通過しているので、高圧水洗浄手段41によって取りきれなかった汚れも、励起した光触媒の分解作用を受けて付着力が低下することにより、スクレイパーによって水と同時にハンドレール30表面から掃き落とされることが期待される。
【0037】
深紫外光照射手段44は、発光波長260〜320nmの深紫外発光ダイオードを1つ以上備えており、該深紫外発光ダイオードから発せられた波長260〜320nmの深紫外光をハンドレール30の表面に照射することによりハンドレール30の表面を殺菌する。
図10は、深紫外光照射手段44を模式的に説明する断面図である。
図10において、紙面に垂直な方向がハンドレール30の移動方向である。
図10に示すように、深紫外光照射手段44は、ハンドレール30の表面を取り囲むように、光軸をハンドレール30の表面に向けて並べて配置された、発光波長260〜320nmの深紫外発光ダイオード441、441、…と、該深紫外発光ダイオード441、441、…を支持する深紫外LED支持部材442とを有する。深紫外発光ダイオード441、441、…は不図示の電源に接続されており、深紫外発光ダイオード441、441、…から発せられた深紫外光がハンドレール30の表面に照射されることにより、ハンドレール30の表面が殺菌される。深紫外発光ダイオード441、441、…としては、発光波長が260〜320nmである公知の深紫外LEDを特に制限なく採用することができる。放射照度が0.5mW/cm
2以上の深紫外LEDを採用すれば、次節で述べる深紫外光照射手段44’を用いる態様は不要とすることができるので、好ましい。
【0038】
深紫外LED支持部材442の、ハンドレール30と対向している表面、すなわち、深紫外発光ダイオード441、441、…が配置されている深紫外LED配置面442aには、深紫外発光ダイオード441、441、…が発する深紫外光を反射する深紫外光反射材が設けられており、ハンドレール30の表面で吸収されずに一度反射された光が深紫外LED配置面442aで再度反射されることにより、深紫外光の利用効率が高められる。深紫外LED配置面442aに設ける深紫外光反射材としては、クロム、白金、ロジウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、及びアルミニウムから選ばれる1種以上を好ましく採用できる。これらの中でも、メッキ法や蒸着法などの表面処理により高い反射率の表面を形成できる点で、ロジウム、白金、もしくはアルミニウム、またはこれらの組み合わせを特に好ましく用いることができる。なお、深紫外光反射材に金属材料を採用する場合には、表面の酸化等による反射率の低下を防止する観点から、石英、サファイア、ポリテトラフルオロエチレン膜などの紫外線透過性材料で表面を被覆することが好ましい。
【0039】
深紫外光照射手段44において、深紫外光の光源として紫外線殺菌ランプではなく深紫外LEDを用いることにより、消費電力を低減できるだけでなく、光源寿命が長いことにより運用コストも低減できる。さらに、紫外線殺菌ランプは電源投入から紫外光の強度が十分な値に安定するまで概ね15分程度のウォーミングアップ運転が必要であるのに対し、深紫外LEDは電源投入から直ちに強度の安定した深紫外光を照射できるので、後述する人感センサ19a、19bとの組み合わせによる乗客コンベアの運転および停止の制御に十分に追従することができる。
【0040】
図3、
図4及び
図6を再度参照する。水浄化装置46は、受け器45に回収された水を少なくとも濾過により浄化する装置である。水浄化装置46は、浄化された水を再度高圧水洗浄手段41に供給する。これにより、水浄化装置46を経た水が、再び高圧水噴射手段41のノズル412a、412b、412cから高圧水413a、413b、413cとしてハンドレール30の表面に噴射される。水浄化装置46は、水濾過装置47と、水殺菌手段48とを有している。水受け器45に受け容れられた水は配管49aを通じて水濾過装置47に導かれ、水濾過装置47を経た水は配管49bを通じて、水殺菌手段を兼ねる貯水槽48に導かれ、貯水槽(兼水殺菌手段)48から水が配管49cを通じて高圧水洗浄手段41に再供給される。
【0041】
水濾過装置47としては、モータ等により駆動されるポンプと、フィルタとを有する公知の濾過機構を特に制限なく採用できる。
【0042】
貯水槽兼水殺菌手段48は、水濾過装置47において濾過された後の水を受け容れて貯めつつ、貯めた水に対して深紫外光による殺菌を行う装置である。貯水槽兼水殺菌手段48は、高圧水洗浄手段41に水を安定して供給できる程度に十分な体積の水を貯めることができる着脱可能な容器と、該着脱可能な容器内に貯められた水に波長260〜320nmの深紫外光を照射する深紫外光源とを有する。水を貯める容器が着脱可能であることにより、定期的に水を交換することができるので、ハンドレール30の洗浄に供される水を衛生的に維持することがより容易になる。貯水槽兼水殺菌手段48の深紫外光源は、ハンドレール殺菌装置40によるハンドレールの殺菌が行われているか否かに関わらず常時稼働させることが好ましいので、紫外線殺菌ランプ及び深紫外発光ダイオードのいずれでもよいが、消費電力および光源寿命の観点からは深紫外発光ダイオードであることが好ましい。
【0043】
図11及び
図12を参照して、ハンドレール殺菌装置40の運転制御について説明する。
図11は、
図6において、深紫外光照射手段44及び制御部50を省略せずに表した図である。制御部50は、乗客コンベア制御盤20の一部であり、例えば、制御プログラムを実行する中央演算装置(CPU)、制御プログラム等を記憶するメモリ等を含むマイクロコンピュータにより好ましく構成することができる。制御部50は、乗客コンベア制御盤20の一部として、乗客コンベア100の運転状態に関する情報や、人感センサ19a、19bによる検出結果等を取得することができ、かつ、乗客コンベア100の運転開始指令および運転停止指令を発信することができる。また制御部50はタイマの機能を備えている。また、制御部50は、高圧水洗浄手段41のポンプ411及びバルブ415、光触媒励起手段42、深紫外光照射手段44、水濾過装置47、並びに貯水槽兼水殺菌手段48と電気的に接続されており、これらの動作を制御する指令を送信することができる。なお、制御部50は、乗客コンベア制御盤20とは別個の要素として構成されていてもよい。
【0044】
図12は、ハンドレール殺菌装置40の運転を制御する処理ルーチンS10を説明するフローチャートである。処理ルーチンS10は、制御手段50において所定時間毎にメモリから読み出されてCPUにより実行される。
図12に示すように、処理ルーチンS10はステップS11〜S16を有している。
【0045】
まず、上層階の乗降口12a(
図1参照。)に乗客が来たか否かが判断される(ステップS11)。この判定は、人感センサ19bの検出信号に基づいて行われる。ステップS11において否定判断がなされた場合、すなわち上層階の乗降口12aに乗客が来ていない場合には、そのまま処理を終了する。ステップS11において肯定判断がなされた場合、すなわち上層階の乗降口12aに乗客が来ている場合には、運転休止状態にあった乗客コンベア100の下り運転動作を開始させ(ステップS12)、次いでハンドレール殺菌装置40によるハンドレール30の殺菌を行う(ステップS13)。具体的には、高圧水洗浄手段41のバルブ415を開き、ポンプ411を作動させて高圧水をノズル412a、412b、412cからハンドレール30表面へ噴出させ;光触媒励起手段42の紫外発光ダイオード421、421、…、及び深紫外光照射手段44の深紫外発光ダイオード441、441、…を点灯させ;水浄化装置46の水濾過装置47のポンプを作動させて、水受け器45の集水部45fに集められた水の濾過を開始する。なお、貯水槽兼水殺菌手段48の深紫外光源は、乗客コンベア100が運転されているか否かに関わらず常に点灯されている。
【0046】
続くステップS14において、最後の乗客検知から所定時間が経過したか否かが判断される。この判断は、制御部50に含まれるタイマのカウント値に基づいて行われる。制御部50に含まれるタイマは、上層階の乗降口12aにおいて人感センサ19aにより新たな乗客が検知される度にカウント値を初期化してカウントを開始する。これにより制御部50に含まれるタイマのカウント値は、最後の乗客検知から経過した時間を表している。ステップS14における所定時間とは、無端状のハンドレール30が少なくとも1周分周回移動するのに要する時間に設定されており、このような一周分の周回移動に要する時間は乗客コンベア100について既知の情報として制御部50のメモリにあらかじめ記憶されている。ただし、ステップS14における所定時間は、ハンドレール30が1周分以上周回移動する時間であってもよい。
【0047】
上記ステップS14において最後の乗客検知から所定時間が経過するまでハンドレール殺菌装置40の動作を継続するので、無端状のハンドレール30の全周の表面がハンドレール殺菌装置40により殺菌される。そしてステップS16において最後の乗客検知から所定の時間が経過したという肯定判断がなされると、ハンドレール殺菌装置40によるハンドレール30の殺菌が停止される。具体的には、高圧水洗浄手段41のポンプ411を停止して、バルブ415を閉じ;光触媒励起手段42の紫外発光ダイオード421、421、…、及び深紫外光照射手段44の深紫外発光ダイオード441、441、…を消灯させ;水浄化装置46の水濾過装置47のポンプを停止させて、水受け器45の集水部45fに集められた水の濾過を停止する。なお、貯水槽兼水殺菌手段48の深紫外光源は点灯を継続される。そして乗客コンベア100の駆動ユニットの作動が停止されて運転休止状態に入る(ステップS16)。
【0048】
上記説明した処理ルーチンS10においては、乗客コンベア100の運転が必要とされる時のみに乗客コンベア100を運転し、同時にハンドレール30の殺菌を行う。このとき、ハンドレール殺菌装置40は深紫外LEDを用いているので、ステップS13におけるハンドレール殺菌開始の指令に直ちに追従して、安定した強度の深紫外光をハンドレール30の表面に照射することができる。
【0049】
本発明に関する上記説明では、ハンドレール30の表面を取り囲むように、光軸をハンドレール30の表面に向けて多数並べて配置された深紫外発光ダイオード441、441、…を有する深紫外発光手段44を備える形態のハンドレール殺菌装置40を例示して説明したが、本発明は当該形態に限定されない。例えば、上記例示した深紫外発光手段44に代えて、以下に
図13〜15を参照して説明する深紫外光照射手段44’を採用することも可能である。深紫外光照射手段44’は、深紫外線を出射する光源と、該光源から出射された深紫外線を集光する集光装置とを有し、該光源は、円筒状または多角柱状の基体111と、複数の深紫外発光ダイオード112、112、…とを有する棒状光源110であって、該複数の深紫外発光ダイオード112、112、…が、各深紫外発光ダイオード112の光軸115が基体111の中心軸114を通るように基体111の側面に配置されていることにより、該中心軸114に対して放射状に深紫外線を出射する形態の深紫外光照射手段である。このような紫外光照射装置は、特許第5591305号公報(特許文献6)に記載されており、その内容はここに参照をもって組み入れられる。
【0050】
図13には、棒状光源(棒状紫外線発光モジュール)110の(X−X´面で切断したときの)横断面図および縦断面図を示している。
図13に示されるように、棒状光源110は円筒状基体111の表面上に複数の深紫外発光ダイオード112、112、…(以下において単に「深紫外LED112」ということがある。)が整列配置されており、該円筒状基体の内部には冷却媒体用流路113が形成されている。また、深紫外LED112が搭載された円筒状基体111は、石英などの紫外線透過性材料から形成されるカバー116で覆われている。該カバー116は封止剤やパッキン、O−リング等のシール部材117を用いて気密又は水密に円筒状基体111に装着され、その内部には深紫外LED112の耐久性を高めるために不活性ガスまたは乾燥空気が封入されている。
【0051】
深紫外LED112、112、…は、素子がサブマウントに搭載された状態またはパッケージに収容された状態で配置され、一定方向に向かって紫外線を出射する。なお、図示しないが、サブマウント又はパッケージには、外部から深紫外LED112に電力を供給するための配線や深紫外LED112を正常に作動させるための回路等が形成されており、該配線や回路への電力の供給は円筒状基体111の表面又は内部に形成された配線を介して行われる。
【0052】
円筒状基体111は、深紫外LED112を固定および保持するための支持体として機能するほか、ヒートシンクとしての機能も有し、内部の冷却媒体用流路113に冷却水や冷却用エアーなどの冷却媒体118を流通することにより深紫外LED112が発する熱による温度上昇を防止して、素子の安定作動を助け、素子寿命を延ばすことが可能となる。
【0053】
深紫外LED112で発生した熱を効率よく除去するため、円筒状基体111は、主として銅、アルミニウムなどの熱導電性の高い金属やセラミックスなどで構成されていることが好ましく、また、冷却媒体118の熱交換面積を増大させるために冷却媒体用流路113の内壁面には溝加工を施すことが好ましい。さらに、円筒状基体111を金属材料で構成する場合には、外部電源から深紫外LED112に電力を供給するための銅線または回路との絶縁を図るための絶縁層が形成されていることが好ましい。
【0054】
円筒状基体111の側面には、その周方向に沿って、複数の深紫外LED112、112、…が、各深紫外LED112の光軸115が該基体111の中心軸114を通るように配置されている。その結果、深紫外LED112から出射される深紫外線は、該中心軸114に対して放射状に出射されることになる。なお、深紫外LED112の光軸115とは、深紫外LED112から出射される光芒の中心軸を意味し、該光芒の進行方向とほぼ同義である。また、ここで、「光軸115が該基体111の中心軸114を通るように配置する」とは、なるべくこのような状態を実現するように配置するという意味であり、その状態から僅かに傾いていても問題はない。
【0055】
図13には、基体111の周方向に4個の深紫外LEDを配置した例を示しているが、当該形態に限定されるものではなく、深紫外LED112の配置数は円筒状基体111の外径に応じて適宜変更できる。周方向に配置する深紫外LED112の数は、通常3〜20個、好ましくは4〜12個の範囲であるが、周方向に配置する深紫外LED112の数が多いほど深紫外光照射手段44’から出射される深紫外線の強度(光量子束密度)は高くなるので、より高強度の深紫外光が必要な場合には、円筒状基体111の径を大きくし、周方向に配置する紫外線発光素子の数を、上記範囲を超えて多くすることができる。
【0056】
深紫外LED112、112、…は、
図1の縦断面図に示すように円筒状基体111の長手方向に列を形成するように配置することが好ましい。このとき、深紫外LED112、112、…は、ハンドレール30表面の深紫外光照射領域における強度が均一になるように、円筒状基体111側面に密に規則正しく配列するように配置することが好ましい。
【0057】
図14及び
図15には、棒状光源110を有する深紫外光照射手段44’の横断面図及び側面図を示した。深紫外光照射手段44’は、内面が長楕円反射ミラーからなる出射側反射ミラー120となっている出射側筐体125と、内面が長楕円反射ミラーからなる集光側反射ミラー123となっていると共に深紫外光出射用開口部130が形成されている集光側筐体126と、深紫外光出射用開口部130に配置されたコリメート光学系140からなる本体150を有し、該本体150の内部に棒状光源110が配置されている。本体150において出射側筐体125と集光側筐体筐体126とは互いに着脱可能に又はヒンジ等を用いて開閉可能とされていることが好ましい。また、本体150の
図14及び
図15における上下両端開口部には、紫外線が外部に漏れ出ることを防止するためのカバー(不図示)が設けられている。
【0058】
図14及び
図15に示す態様では、出射側反射ミラー120と集光側反射ミラー123とは実質的に同形状の長楕円反射ミラーであるので、本体150において、出射側筐体125と集光側筐体126とが結合されて形成される内部空間の形状は、出射側反射ミラーの焦点軸121及び出射側反射ミラーの集光軸122の2軸をそれぞれ焦点軸とする楕円形の断面(ただし、開口部130に相当する部分が欠損している。)を有する柱状体となる。出射側反射ミラー120および集光側反射ミラー123の表面は、深紫外光に対する反射率が大きい材質、たとえばRu、Rh、Pd、Os、Ir、Pt等の白金族金属、Al、Ag、Ti、これらの金属の少なくとも一種を含む合金、又は酸化マグネシウムで構成されることが好ましく、反射率が特に高いという理由から、Al、白金族金属又は白金族金属を含む合金、又は酸化マグネシウムで形成されていることが特に好ましい。
【0059】
集光側反射ミラー123及び集光側筐体126には、スリット状に深紫外光出射用開口部130が設けられ、該開口部130には、集光された紫外線を平行若しくは略平行な光束に変換するコリメート光学系140が配置されている。コリメート光学系140は合成又は天然石英、サファイア、紫外線透過性樹脂等の紫外線透過性の高い材質で構成されることが好ましい。該コリメート光学系140は深紫外線出射用開口部130に脱着可能に取り付けられていることが好ましい。
【0060】
深紫外光照射手段44’において、棒状光源110は、その中心軸114が出射側反射ミラーの焦点軸121と一致するように配置される。このような位置に棒状光源110が配置されるので、該棒状光源110から放射状に出射される深紫外光は出射側反射ミラー120および集光側反射ミラー123で反射されて集光側反射ミラーの焦点軸124(すなわち出射側反射ミラーの集光軸122)上に収斂するように集光され、集光された深紫外光は深紫外光出射用開口部130からハンドレール30の表面に向けて出射される。
【0061】
このように、深紫外光照射手段44’では、原理的には、棒状光源110から放射状に出射される深紫外光の全てを集光側反射ミラー123の焦点軸124上に集光でき、深紫外光出射用開口部130方向に向かわない方向(たとえば反対方向や横方法)に出射された紫外線をも有効に利用することができる。すなわち、棒状光源110において、光軸115が深紫外光出射用開口部130方向に向かうように深紫外LED112、112、…の全てを同一平面上に配置する必要はなく、横方向や反対方向に向けて配置することも可能となる。したがって、棒状光源110では、単位空間当たりに配置する紫外線発光素子の数を大幅に増やすことができ、深紫外光照射手段44’では、より強い強度の紫外線を出射することができる。また、深紫外光照射手段44’では大口径のフィールドレンズを使用する必要もない。更に深紫外光照射手段44’では、照射領域は狭いスポット状ではなく長辺が長い長方形領域に均一な強度の紫外線を照射することができるので、ハンドレール30の表面を深紫外光により均一に殺菌することが可能である。さらにまた、深紫外光をコリメートされた平行な光束として出射することができるので、ハンドレール30表面との距離が長い場合であっても、深紫外光の強度が低下しにくい。
【0062】
本発明に関する上記説明では、高圧水洗浄手段41が三つのノズル412a、412b、412cを有する形態のハンドレール殺菌装置40を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。高圧水洗浄手段が有するノズル(吐出口)の数および配置は、ハンドレールの形状や大きさに応じて適宜選択することが可能である。
【0063】
本発明に関する上記説明では、表面にバリアコート層33及び光触媒コート層34が形成されたハンドレール30を備える乗客コンベア100にハンドレール殺菌装置40が適用される形態を例示して説明したが、本発明は当該形態に限定されない。例えば
図2において光触媒コート層34を有しない形態や、
図2において光触媒コート層34及びバリアコート層33の両方を有しない形態のハンドレールを備える乗客コンベアに対して本発明のハンドレール殺菌装置を適用することも可能である。ただしその場合には、本発明のハンドレール殺菌装置が光触媒励起手段を備える必要はない。また例えば、
図2において光触媒コート層34を有するがバリアコート層33は有しない形態のハンドレールを備える乗客コンベアに対して本発明のハンドレール殺菌装置を適用することも可能である。
【0064】
本発明に関する上記説明では、スクレイパーである水切り手段43を備える形態のハンドレール殺菌装置40を例示して説明したが、本発明は当該形態に限定されない。例えば、スクレイパーに代えて、圧縮空気を吹き付けることによってハンドレール表面の水を吹き飛ばして除去する形態の水切り手段を採用することも可能である。また、圧縮空気の吹き付けとスクレイパーによる掃き取りを組み合わせて用いることも可能である。また、高圧水洗浄装置によればハンドレールの表面に残る水はごく少ないので、水の除去は下部ハンドレール入り込み口近傍に設けられたハンドレール殺菌装置を経た後、上部ハンドレール入り込み口から出てくるまでの時間を利用した自然乾燥に任せ、水切り手段は備えない形態のハンドレール殺菌装置とすることも可能である。
【0065】
本発明に関する上記説明では、ハンドレール30が高圧水洗浄手段41、光触媒励起手段42、水切り手段43、及び深紫外光照射手段44をこの順に経る形態のハンドレール殺菌装置40を例示して説明したが、本発明は当該形態に限定されない。深紫外光照射手段を配置する位置は特に制限されるものではなく、例えば、ハンドレールが高圧水洗浄手段、深紫外光照射手段、光触媒励起手段、及び水切り手段をこの順に経る形態のハンドレール殺菌装置とすることも可能である。また、ハンドレールが深紫外光照射手段、高圧水洗浄手段、光触媒励起手段、及び水切り手段をこの順に経る形態のハンドレール殺菌装置とすることも可能である。
【0066】
本発明に関する上記説明では、水受け器45によって回収された水を浄化して再び高圧水洗浄手段41に供給する水浄化装置46を有する形態のハンドレール殺菌装置40を例示して説明したが、本発明は当該形態に限定されない。当該形態のハンドレール殺菌装置40によれば、水道水の利用が難しい場所に設置された乗客コンベアのハンドレールに対しても高圧水洗浄手段による洗浄を衛生的に行うことが可能であるが、乗客コンベアが水道水を利用できる場所に設置されている場合には、水浄化装置を省略して、上水道から高圧水洗浄手段に直接水を供給し、水受け器に回収された水はそのまま排水として下水道に排出する形態のハンドレール殺菌装置とすることも可能である。
【0067】
本発明に関する上記説明では、乗降口を挟んで設けられた一対の支柱と、該一対の支柱の一方に設けられた発光器と、他方に設けられた受光器とを有する人感センサ19a、19bを備える実施形態を例示して説明したが、本発明は当該形態に限定されるものではない。本発明のハンドレール殺菌装置および乗客コンベアにおいては、人感センサとして、例えば天井等に設けられた赤外線センサを採用することも可能であり、また、撮像カメラを用いて画像解析により利用者を検知する装置を用いることも可能である。
【0068】
本発明に関する上記説明では、上層階側と下層階側の両方にハンドレール殺菌装置40がそれぞれ設置された形態の乗客コンベア100を例示して説明したが、乗客コンベアの運転方向が一方向のみ、例えば下り運転に限定されている場合には、上層階側および下層階側のいずれか一方のみにハンドレール殺菌装置が設置されていてもよい。
【0069】
本発明に関する上記説明では、上層階と下層階とを結ぶエスカレータである乗客コンベア100、及び該乗客コンベア100に設置されるハンドレール殺菌装置40を例示して説明したが、本発明は当該形態に限定されない。本発明のハンドレール殺菌装置は、エスカレータ以外の乗客コンベア(例えば、乗客を水平方向に移動させるいわゆる動く歩道等。)にも適用可能であり、本発明の乗客コンベアは、エスカレータ以外の乗客コンベアであってもよい。